説明

改質木材の製造方法,木材内部の脱酸素方法および耐朽性木材

【課題】寸法安定性,耐朽性および高い曲げ強度を付与し,製品歩留りの向上を図ることができる改質木材の製造方法,その製造方法に適した木材内部の脱酸素方法ならびにその製造方法により製造される耐朽性木材を提供する。
【解決手段】水中に木材を入れ,不活性ガスでバブリングを行った後,水から木材を取り出し,燃焼温度より低い温度で加熱処理する。バブリングは,各供試材料Aを容器1に入れ,重し5を載せて水に浸漬させ,気泡発生装置4で24時間行う。不活性ガスには窒素ガスを用いることが好ましい。バブリングは,水中の溶存酸素濃度が5ppm以下となるよう不活性ガスの送気量を調節し,若干の隙間のある蓋をした容器中で行うことが好ましい。加熱処理の温度は140℃乃至240℃である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,寸法安定性,耐朽性および高い曲げ強度を有する改質木材の製造方法,木材内部の脱酸素方法ならびに耐朽性木材に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱処理木材は,着色では得られない色調を醸成することから,広く普及している。
従来,木質に熱可塑性と埋木状の性状を与えるため,含浸が容易となるよう脱空気した木材に特定の有機含浸材を含浸させ,加水分解させたうえで,この含浸処理した木材に不燃性ガス雰囲気中で高温加熱処理を行ない,温度と湿度とを操作因子として木材等に割れが生じないように雰囲気制御しながら高温加熱処理を行なう方法がある(例えば,特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第2717713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,特許文献1の従来技術では,以下の課題があった。
(1)加熱時における木材表面と内部との物性相違に基づく歪みが発生し,製品の高歩留りが得られない。
(2)十分な耐朽性が得られない。
(3)十分な曲げ強度が得られない。
【0005】
本発明は,このような従来の課題に着目してなされたもので,寸法安定性,耐朽性および高い曲げ強度を付与し,製品歩留りの向上を図ることができる改質木材の製造方法,その製造方法に適した木材内部の脱酸素方法ならびにその製造方法により製造される耐朽性木材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため,本発明に係る改質木材の製造方法は,木材の内部を予め十分に脱酸素処理した後,脱酸素後の木材にそのまま加熱処理を行うことを特徴とする。
本発明に係る改質木材の製造方法では,前記加熱処理を140℃乃至240℃で4時間乃至12時間行うことが好ましく,特に,前記加熱処理を140℃乃至180℃で4時間乃至12時間行うことがより好ましい。
【0007】
本発明に係る改質木材の製造方法では,加熱処理の前に,予め木材の内部を室温換算で5体積%以下まで脱酸素処理するのが好ましい。
【0008】
また,本発明に係る改質木材の製造方法では,前記加熱処理を空気,不活性ガスまたは空気と不活性ガスとの混合ガスの雰囲気ガス中で行うことが好ましい。用いる不活性ガスとしては,窒素ガスまたは炭酸ガスが好ましい。
本発明に係る改質木材の製造方法では,前処理として十分な脱酸素処理を施すことで,次工程である木材の加熱処理の雰囲気条件を不活性ガス雰囲気下だけでなく,空気存在下まで広げることができる。
【0009】
本発明により,木材表面のみならず内部まで脱酸素され,その後の加熱処理操作によって木材の表面,内部一様にセルロース分子鎖間,ヘミセルロース分子鎖間などの架橋結合が形成され,吸湿性が低下し,菌の生育に必要な生理水分が不足して,土壌微生物による分解が抑止され,結果として耐朽性が向上する。
また,本発明により,木材表面のみならず内部まで脱酸素されることで酸化・燃焼が押さえられ,加熱処理木材の欠点である曲げ強度低下が抑制される。
さらに,本発明により,木材表面のみならず内部まで加熱炭化の均質化が図られ,結果として製品品質歩留りが向上する。
【0010】
このように,本発明では,木材の内部を予め脱酸素処理した後,脱酸素後の木材にそのまま加熱処理を行うことにより,寸法安定性,耐朽性および高い曲げ強度を得ることができる。なお,本発明では,脱酸素後の木材に対しそのまま加熱処理を行い,加熱処理の前に樹脂の含浸処理などの他の処理を行わない。含浸処理などの他の処理により木質そのものがもつ性質が変化するのを防ぐためである。
本発明に係る耐朽性木材は,前述の本発明に係る改質木材の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0011】
第1の本発明に係る木材内部の脱酸素方法は,木材を水中に浸漬した後,水中に溶存酸素濃度が25℃の場合5ppm以下となるまで窒素ガスを送気することを特徴とする。
第2の本発明に係る木材内部の脱酸素方法は,木材を密閉容器の中に封入した後,容器内を100mmHg以下で10分間以上減圧することを特徴とする。
第3の本発明に係る木材内部の脱酸素方法は,木材を密閉容器の中に封入した後,容器内に110℃以上の水蒸気を10分間以上流通させることを特徴とする。
本発明に係る改質木材の製造方法は,木材内部の脱酸素処理を前述の第1,第2または第3の本発明に係る木材内部の脱酸素方法により行うことが好ましい。
【0012】
また,本発明に係る改質木材の製造方法は,水中に木材を入れ,不活性ガスでバブリングを行った後,水から木材を取り出し,燃焼温度より低い温度で加熱処理することが好ましい。
【0013】
この場合,不活性ガスには,窒素ガスを用いることが好ましい。バブリングは,水中の溶存酸素濃度が25℃の場合5ppm以下となるよう行うことが好ましい。また,バブリングは,不活性ガスの放出量を抑えるため,蓋をした容器中で行うことが好ましい。
耐朽性能を高めるために,加熱処理の温度は140℃乃至240℃であることが好ましく,特に180℃乃至220℃であることがより好ましく,220℃乃至240℃であることがさらに好ましく,240℃が最適である。
曲げ強度および曲げヤング係数を高めるために,加熱処理の温度は140℃乃至180℃であることが好ましく,特に140℃が最適である。
【0014】
この本発明に係る改質木材の製造方法では,水中に木材を入れ,不活性ガスでバブリングを行うことにより,木材の内部に含まれる空気が排出される。それにより,寸法安定性,耐朽性および高い曲げ強度を得ることができる。
【0015】
本発明に係る改質木材の製造方法は,木材を110℃以上の水蒸気雰囲気下において脱酸素した後,180℃乃至220℃の温度で加熱処理してもよい。
この場合,木材を110℃以上の水蒸気雰囲気下において脱酸素することにより,木材の内部に含まれる空気が排出され,寸法安定性,耐朽性および高い曲げ強度を得ることができる。
【0016】
本発明による波及効果として,以下の効果が挙げられる。
(1)寸法安定性,色調に特長を有する加熱処理木材に,さらに耐朽性を付与し,機械的強度を維持する技術を提案できるため,木材産業の競争力維持に貢献できる。
(2)加熱処理木材生産の歩留り向上に寄与できる。
(3)化学的な試薬を用いない木材の耐朽性向上技術の普及を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,寸法安定性,耐朽性および高い曲げ強度を付与し,製品歩留りの向上を図ることができる改質木材の製造方法,その製造方法に適した木材内部の脱酸素方法ならびにその製造方法により製造される優れた特性の耐朽性木材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下,本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の効果を確認するため,以下の実験を行った。
[1][脱酸素処理と高温加圧処理条件による木材の耐朽性能試験]
[供試材料]
スギ丸太の辺材部分から,長さ15cm×2cm角の試験杭を採取した。
試験杭に対して,以下に示すように,窒素雰囲気中で熱処理をしたもの(N),脱酸素処理後に窒素雰囲気中で熱処理したもの(ND),脱酸素処理をしたもの(D),無処理のもの(M)を準備し,供試材料とした。
【0019】
(1)窒素雰囲気中で熱処理をしたもの(N)
供試材料をオートクレーブにて,2気圧の窒素ガス中で加熱した。加熱温度は140℃,180℃,220℃,240℃の4つの条件に分け,加熱時間はそれぞれ20時間とした。
(2)脱酸素処理後に窒素雰囲気中で熱処理したもの(ND)
供試材料に対し,以下に示す条件で脱酸素処理を行った後,窒素雰囲気中で熱処理をしたもの(N)と同様に,オートクレーブにて2気圧の窒素ガス中で加熱した。加熱温度は140℃,180℃,220℃,240℃の4つの条件に分け,加熱時間はそれぞれ20時間とした。
(3)脱酸素処理をしたもの(D)
供試材料に対し,以下に示す条件で脱酸素処理を行った。
(4)無処理のもの(M)
温度60℃,相対湿度70%で168時間保った。
【0020】
[脱酸素処理条件]
長さ700mm×幅430mm×高さ300mmのポリプロピレン(PP)製の容器1に,蒸留水を40リットル入れ,気泡発生装置(ポリテトラフロロエチレン(PTFE)製)2を容器1の底へセットし,ガスボンベ3の純度99%の窒素ガスをその気泡発生装置2に流し込んで,容器内蒸留水の溶存酸素濃度が1ppmになるようバブリング調整した。容器1には,窒素の放出量を抑えるためにフタを設けた。
図1に示すように,各供試材料Aを容器1に入れ,重し4を載せて蒸留水に浸漬させ,気泡発生装置2でバブリングを24時間行った。各供試材料Aの間にはそれぞれ接触しないように桟を設けた。
【0021】
[試験方法]
ファンガスセラー(JIS K 1571に準ずる腐朽槽内試験)により耐朽性試験を行った。
宮城県林業試験場内栗園から森林土壌を採取し,ふるいにかけて粒状を揃えた壌土と市販の腐葉土,鹿沼土,バーミキュライトを用意し,4:2:2:2の容積比割合で混合し腐朽土壌を作製した。ポリプロピレン(PP)製の容器 (420×300×120mm)に直径10mmの穴を5箇所開けたものを準備し,深さ10mmまで砂利を敷いた上に,作製した腐朽土壌を90mm厚で敷き詰めた。
場内スギ林から白色腐朽菌が蔓延している直径8〜10cmのスギ小丸太を採取し,4つ割りした上,長さ10cm程度に揃え,PP容器に各2個ずつ入れて腐朽菌を導入した。
この容器を恒温恒湿機(いすず製作所製「μ-2001」)に入れて雰囲気温度26℃,相対湿度80%に設定した。また,土壌水分はPFメータ(大起理化製「DIK-8342」)を用い,PF値が1.0〜2.0になるよう水分状況を管理した。
1ヶ月経過後,前記の供試材料を80mmの深さまで土壌に埋設した。
試験体は番号を付け,対応する番号が隣接するようにした。設置後,概ね1ヶ月ごとに腐朽状況を目視により0〜5の6段階で評価した。
その評価項目を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
[試験評価基準]
耐用の目安とされる被害度は2.5。無処理材は120日目で被害度2.5に達した。脱酸素処理だけのものは140日目で被害度2.5に達する。スギ無処理材を土中に埋設した場合,その耐用年数は3年であり,仮にこの試験で240日目で2.5に到達したものは耐用年数が6年と評価される。
【0024】
その結果を図2乃至図5に示す。
図2乃至図5に示すように,140℃乃至240℃の熱処理温度で,脱酸素処理後に窒素雰囲気中で熱処理したもの(ND)が最も耐朽性能が高く,次に,窒素雰囲気中で熱処理をしたもの(N),脱酸素処理をしたもの(D),無処理のもの(M)の順であった。脱酸素処理後に窒素雰囲気中で熱処理したもの(ND)では,140℃の熱処理温度で,6ヶ月経過後でも,被害度2.0以下であった。特に,220℃以上の熱処理温度では,6ヶ月経過後でも,被害度0.0であった。
【0025】
[2][脱酸素処理と高温加圧処理条件による木材の曲げ強度試験]
[1]と同一の供試材料について,曲げ強度を測定した。
その結果を図6に示す。
図6に示すように,脱酸素処理後に窒素雰囲気中で熱処理したもの(ND)では,140℃の熱処理温度の場合,無処理のものより曲げ強度が大きく,180℃の熱処理温度の場合,無処理のものと同等の曲げ強度であった。
【0026】
[3][脱酸素処理と高温加圧処理条件による木材の曲げヤング係数試験]
[1]と同一の供試材料について,曲げヤング係数を測定した。
その結果を図7に示す。
図7に示すように,脱酸素処理後に窒素雰囲気中で熱処理したもの(ND)では,140℃の熱処理温度の場合,無処理のものより曲げヤング係数が大きく,180℃の熱処理温度の場合,無処理のものに次いで曲げヤング係数が大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本考案の実施の形態の改質木材の製造方法による改質木材の脱酸素処理条件を示す説明図である。
【図2】本考案の実施の形態の改質木材の製造方法による改質木材の熱処理温度140℃の場合の耐朽性能試験結果を示すグラフである。
【図3】本考案の実施の形態の改質木材の製造方法による改質木材の熱処理温度180℃の場合の耐朽性能試験結果を示すグラフである。
【図4】本考案の実施の形態の改質木材の製造方法による改質木材の熱処理温度220℃の場合の耐朽性能試験結果を示すグラフである。
【図5】本考案の実施の形態の改質木材の製造方法による改質木材の熱処理温度240℃の場合の耐朽性能試験結果を示すグラフである。
【図6】本考案の実施の形態の改質木材の製造方法による改質木材の曲げ強度試験結果を示すグラフである。
【図7】本考案の実施の形態の改質木材の製造方法による改質木材の曲げヤング係数試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 容器
2 気泡発生装置
3 ガスボンベ
4 重し


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の内部を予め脱酸素処理した後,脱酸素後の木材にそのまま加熱処理を行うことを特徴とする改質木材の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理を140℃乃至240℃で4時間乃至12時間行うことを特徴とする請求項1記載の改質木材の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理を140℃乃至180℃で4時間乃至12時間行うことを特徴とする請求項1記載の改質木材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理を空気,不活性ガスまたは空気と不活性ガスとの混合ガスの雰囲気ガス中で行うことを特徴とする請求項1,2または3記載の改質木材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の改質木材の製造方法により製造されたことを特徴とする耐朽性木材。
【請求項6】
木材を水中に浸漬した後,水中に窒素ガスを送気することを特徴とする木材内部の脱酸素方法。
【請求項7】
木材を密閉容器の中に封入した後,容器内を減圧することを特徴とする木材内部の脱酸素方法。
【請求項8】
木材を密閉容器の中に封入した後,容器内に110℃以上の水蒸気を流通させることを特徴とする木材内部の脱酸素方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate