説明

改質木材の製造方法

【課題】 難燃性、防炎性及び防煙性に優れた改質木材を簡便に得られる改質木材の製造方法を提供する。
【解決手段】 本方法は、珪酸化合物を含む珪酸化合物液を木材1に含浸する珪酸化合物含浸工程と、珪酸化合物を酸無水物ガスで珪酸化合物ゲルにするゲル化工程と、ゲル化工程を経た木材にリン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤を含む燃焼抑制剤液を含浸する燃焼抑制剤含浸工程と、を備える。また、珪酸化合物含浸工程前に、浸透孔を木材に形成する浸透孔形成工程を備えることができる。更に、珪酸化合物含浸工程前に、木材を乾燥させる珪酸化合物含浸前乾燥工程を備えることができる。ゲル化工程後且つ燃焼抑制剤含浸工程前に乾燥工程を備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質木材の製造方法に関する。更に詳しくは、難燃性、防炎性及び防煙性に優れた改質木材、を簡便な方法により得ることができる改質木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の改質木材の製造方法として、例えば、下記特許文献1には、木材にアルキルシリケート化合物の溶液を含浸させた後に、このアルキルシリケート化合物を加熱硬化させて改質木材を得る方法が開示されている。
また、下記特許文献2には、リン酸化合物系の難燃剤溶液とシリカ溶液とを木材に順次含浸させた後に、加熱加圧処理をして改質木材を得る方法が開示されている。
更に、下記特許文献3には、(1)二酸化珪素、酸化アルミニウム等の不燃性無機物の超微粒子を飽水処理木材中に拡散させるか或いは(2)混合により不燃性無機物(リン酸塩、硼酸塩等)を生じさせる複数の液体を木材に順次含浸させた後、この不燃性無機物の脱落を防ぐためにシリカゾル、珪酸リチウム等の固定化剤を含浸させて硬化させる加工木材の製造方法が開示されている。
また、下記特許文献4には、木材内部の空気を二酸化炭素で置換し、この木材に、二酸化炭素と反応して不燃性無機化合物を生じる無機化合物の水溶液を含浸させる加工木材の製造方法が開示されている。
更に、下記特許文献5及び6は、珪酸化合物を含浸定着させる改質木材の製造方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特公平4−4122号公報
【特許文献2】特開平8−25314号公報
【特許文献3】特開昭62−144902号公報
【特許文献4】特開平3−51104号公報
【特許文献5】特開2001−1306号公報
【特許文献6】特開2002−120204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、アルキルシリケート化合物をその沸点近傍まで加熱して硬化させる方法が開示されている。しかし、木材中に含浸させた溶液が漏れ出し、原料アルキルシリケート化合物の無駄が多いという問題がある。また、アルキルシリケート化合物を加水分解して硬化させる方法も開示されている。即ち、アルキルシリケートの加水分解液を木材に含浸させるものと考えられるが、この加水分解液は時間経過に伴いゲル化するため可使時間の制約をうけ、作業性及び経済性が十分に得られないという問題がある。
【0005】
上記特許文献2及び上記特許文献3では、二種以上の液体を木材に順次含浸させる工程を備える。このため二液目以降の含浸液は、前工程で既に木材に含浸された液により液戻り汚染され、二液目以降の含浸液の寿命が短く、実質上二液目以降の含浸液を再利用できないという問題がある。また、いずれにおいても二液目以降の含浸液の拡散は液−液拡散に頼っており、拡散に時間がかかり、木材の深部までの拡散が困難である。
上記特許文献4では、木材中にある二酸化炭素の量に限りがあり、十分な難燃性を付与するだけの不燃性無機化合物の生成が困難であるという問題がある。また、この方法では木材が白化する場合がある。
【0006】
上記特許文献5及び特許文献6は、本発明者によるものである。この改質木材の製造方法は、酸無水物ガスを用いることで液−気拡散を用いる。このため、酸無水物ガスの拡散が早く且つ木材の深部までゲル化でき、優れた方法である。しかし、燃焼抑制剤を含有する改質木材ではない。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、簡単な工程で、作業性及び経済性よく、より優れた難燃性を付与できる改質木材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、以前にアルカリ珪酸塩、コロイダルシリカ等の珪酸化合物を木材に含ませ、これらを酸無水物ガスによってゲル化させる方法によれば、上記問題が解決されることを見出した(特開2001−1306号公報)。そして、引き続き改質木材の製造方法について検討した結果、レーザー加工により木材に浸透孔を設けることにより、珪酸化合物の浸透性を向上させられることを見出した(特開2002−120204号公報)。更に、ゲル化した後に、例えば、脱水炭化剤等の燃焼抑制剤を含ませることにより、簡便により優れた難燃性が付与され、更には発煙及び火焔が十分に抑制された改質木材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下に示す通りである。
(1)珪酸化合物を含む珪酸化合物液を木材に含浸する珪酸化合物含浸工程と、
上記珪酸化合物含浸工程で該木材中に含浸された該珪酸化合物を、酸無水物ガスを用いて珪酸化合物ゲルにするゲル化工程と、
上記ゲル化工程を経た木材に、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤を含む燃焼抑制剤液を含浸する燃焼抑制剤含浸工程と、を備えることを特徴とする改質木材の製造方法。
(2)上記珪酸化合物液が上記木材に浸透することを補助する浸透孔を該木材に形成する浸透孔形成工程を備え、該浸透孔形成工程は上記珪酸化合物含浸工程の前に行う上記(1)に記載の改質木材の製造方法。
(3)上記珪酸化合物含浸工程を経る前の木材を乾燥させる珪酸化合物含浸前乾燥工程を備え、該珪酸化合物含浸前乾燥工程は該珪酸化合物含浸工程の前に行う上記(1)又は(2)に記載の改質木材の製造方法。
(4)上記ゲル化工程を経る前の木材を乾燥させるゲル化前乾燥工程を備え、該ゲル化前乾燥工程は上記珪酸化合物含浸工程後且つ該ゲル化工程前に行う上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の改質木材の製造方法。
(5)上記燃焼抑制剤含浸工程を経る前の木材を乾燥させる燃焼抑制剤含浸前乾燥工程を備え、該燃焼抑制剤含浸前乾燥工程は上記ゲル化工程後且つ上記燃焼抑制剤含浸工程前に行う上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の改質木材の製造方法。
(6)上記燃焼抑制剤含浸工程後に、該燃焼抑制剤含浸工程を経た木材を乾燥させる燃焼抑制剤含浸後乾燥工程を備え、
該燃焼抑制剤含浸後乾燥工程を経た木材に、シランカップリング剤及び反応性樹脂化合物の少なくとも一方の下地処理剤を含む下地処理液を浸透させる下地処理工程を備える上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の改質木材の製造方法。
(7)上記珪酸化合物はアルカリ珪酸塩である上記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の改質木材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の改質木材の製造方法によれば、簡単な工程で、作業性及び経済性よく、より優れた難燃性を付与できる。特に珪酸化合物ゲルのみの場合に比べて、優れた防炎性及び防煙性を付与できる。更に、珪酸化合物ゲルが形成された後、燃焼抑制剤液を浸透するために、多孔性であり吸着性に優れた珪酸化合物ゲルが強固に燃焼抑制剤を保持され、湿度や雨水等により影響され難い安定な難燃性が付与できる。また、珪酸化合物ゲルが形成された後、燃焼抑制剤液を浸透するために、珪酸化合物液と燃焼抑制剤液との混合を生じず、両液を循環使用する等、再利用することができる。
【0011】
浸透孔形成工程を備える場合は、浸透孔が形成されるために、珪酸化合物液の浸透性が向上され、短時間で木材のより深部まで珪酸化合物を浸透させることができる。
珪酸化合物含浸前乾燥工程を備える場合は、珪酸化合物液の浸透性が向上され、短時間で木材のより深部まで珪酸化合物を浸透させることができる。
ゲル化前乾燥工程を備える場合は、木材内部に空洞が形成され、酸無水物ガスの拡散・浸透が特にスムーズであり、木材のより深部においても珪酸化合物をゲル化させられる。従って、燃焼抑制剤もより深部にまで確実に保持され、特に優れた難燃性を付与することができる。
燃焼抑制剤含浸前乾燥工程を備える場合は、燃焼抑制剤液の浸透性が向上され、短時間で木材のより深部まで燃焼抑制剤を浸透させることができる。
下地処理工程を備える場合は、更に長期にわたって改質木材に優れた寸法安定性を付与できる。
珪酸化合物がアルカリ珪酸塩である場合は、より短時間で木材の深部まで珪酸化合物が浸透され、特に優れた難燃性を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、珪酸化合物含浸工程と、ゲル化工程と、燃焼抑制剤含浸工程と、を備えることを特徴とする(図1参照)。
【0013】
[1]珪酸化合物含浸工程について
上記「珪酸化合物含浸工程」は、珪酸化合物を含む珪酸化合物液を木材に含浸する工程である。
(1)木材について
上記「木材」は限定されず、全ての天然木材及び加工木材に適用できる。また、木材の形態も限定されず、例えば、柱材、板材等の他、合板、繊維板、パーティクルボード、フローリング、集成材及び積層材等を用いることができる。
更に、木材は、そのまま用いてもよいが、上記珪酸化合物含浸工程を行う前に十分に乾燥させて用いることが好ましい。乾燥させることで収縮、反りなどの狂いが取り除かれ、強度が十分に向上される。また、乾燥の程度は限定されないが、例えば、木材の水分率は、一般に屋外保存では平衡水分率で約15質量%、室内保存では8〜15質量%、平均では12質量%程度である。上記珪酸化合物含浸工程前の木材は水分率0〜7質量%にまで乾燥させることが好ましい。これにより組織内の導管や細胞壁などの強度を向上され、珪酸化合物液の含浸圧等に耐え得る木材組織にできる。また、生材では水分率が50〜100質量%程度と多いため、上記乾燥には高周波加熱加工、過熱蒸気加熱加工、熱板加熱加工等を用いて急速乾燥できる。これにより、脂が除去され、細胞壁孔を貫通されて、珪酸化合物液等の木材への浸透性が向上される。上記生材では、上記各種急速乾燥を行った後に、更に通常の乾燥を行うことができる。
【0014】
(2)珪酸化合物液について
上記「珪酸化合物液」は、珪酸化合物を媒体に溶解させた液体、珪酸化合物を媒体に分散させた液体、及びこれらの混合液のうちのいずれかの液体である。即ち、例えば、珪酸化合物を媒体に溶解させた液としては、アルカリ珪酸塩溶液が挙げられる。また、珪酸化合物を媒体に分散させた液体としては、コロイダルシリカが挙げられる。
また、珪酸化合物液を構成する媒体は特に限定されない。水を用いてもよく、有機溶媒を用いてもよく、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。特に水と炭素数1又は2のアルコール(特にメタノールが好ましい)との混合溶媒を用いると浸透性を向上させることができる。
上記「珪酸化合物」は、酸無水物ガスによりゲル化させることができる珪酸系の化合物である。この珪酸化合物としては、アルカリ珪酸塩、コロイダルシリカ中に含有されるシリカ等が挙げられる。
【0015】
(i)アルカリ珪酸塩溶液
上記「アルカリ珪酸塩」は、一般式MeO・nSiO〔nは0.5〜10であり、MeはNa、K、Li、RN又はRN(Rは水素原子又はコリン、モノメチルトリエタノールアンモニウム等の有機基)である。〕で示される珪酸化合物であって、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、第3級アミン珪酸塩、第4級アンモニウム珪酸塩等が例示される。このうち、珪酸ナトリウム、珪酸リチウム及び珪酸カリウムが好ましく、更には珪酸ナトリウムと珪酸リチウムが好ましく、特に珪酸ナトリウムと珪酸リチウムとの併用が好ましい。これらを併用した珪酸化合物液は粘度が低く木材への浸透性に優れるからである。また、得られる改質木材の変色を抑制する目的においては、珪酸リチウム、第3級アミン珪酸塩及び第4級アンモニウム珪酸塩が好ましい。これらのアルカリ珪酸塩は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
また、アルカリ珪酸塩を用いる場合、珪酸塩化合物液中に含有されるアルカリ珪酸塩の量は特に限定されないが10〜50質量%(より好ましくは15〜30質量%)であることが好ましい。この範囲では、珪酸系化合物液に十分な珪酸塩化合物が含有される濃度でありながら、適度な粘度となり木材への浸透性に優れる。また、上記濃度範囲において加温により粘度を低下させ、更に浸透性を向上させることもできる。即ち、1回の処理でより多くの珪酸化合物を木材内へ注入することができる。尚、注入量(含浸量)を大きくするために加圧・減圧を繰り返し行うこともできる。アルカリ珪酸塩として珪酸ナトリウムを用い、媒体として水を用いる場合は、上記のように珪酸リチウムを併用することが好ましい。特に、アルカリ金属元素に対してより多くのケイ素を含有し、効率よくケイ素を木材中に注入できるためアルカリ珪酸塩としてはJIS3号又はJIS4号の珪酸ナトリウムを用いることが好ましい。但し、これらの珪酸ナトリウムのみで上記アルカリ珪酸塩濃度の珪酸塩化合物液(珪酸塩化合物水溶液)を得ようとすると高粘度となる。このため、水溶媒中において低粘度である珪酸リチウムを併用して、珪酸化合物液全体の粘度を低下させることができる。この場合、珪酸化合物液の粘度は、例えば、5〜250cps/25℃(更には10〜150cps/25℃)とすることができる。
【0017】
(ii)コロイダルシリカ
上記「コロイダルシリカ」は、一般式MeO・nSiO〔nは50〜300であり、MeはNa、RN又はRN(Rは水素原子又はコリン、モノメチルトリエタノールアンモニウム等の有機基)である。〕で示される粒径50μm以下(好ましくは20μm以下、通常5nm以上)のシリカ(上記アルカリ珪酸塩とは異なり、SiOのモル比が50〜300と大きい)が分散したコロイドである。SiO濃度20〜50質量%(より好ましくは20〜40質量%)のものを用いることができ、水分散系のコロイダルシリカ(以下、単に「水性コロイダルシリカ」という)と有機溶媒分散系のコロイダルシリカ(以下、単に「オルガノコロイダルシリカ」という)ものとがある。これらはいずれ一方のみを用いてもよく、併用してもよい。
【0018】
水性コロイダルシリカを使用する場合には、SiO濃度20〜50質量%(より好ましくは20〜40質量%、更に好ましくは20〜35質量%)、シリカの粒径20μm以下(より好ましくは15μm以下)の低粘度品を用いることが好ましい。尚、上記一般式におけるMeがRNである水性コロイダルシリカ(アンモニウムシリケート)は、他の化合物に比べて、溶液中のSiO濃度が比較的高い(例えば40質量%程度)場合にも低粘度であり、且つ結合力が強いなどの特長を有することから、本発明において好適に用いられ、良好な結果を示す。
オルガノコロイダルシリカを使用する場合には、SiO濃度20〜40質量%(より好ましくは20〜30質量%)、シリカの粒径20μm以下(より好ましくは15μm以下)の低粘度品を用いることが好ましい。溶媒がメタノール、イソプロパノール又はキシレン−ブタノール混合系である場合には、低粘度でSiO濃度の高いものとすることができ、いずれも本発明において良好な結果を示す。
【0019】
これらコロイダルシリカの種類に関係なく、コロイダルシリカを木材に含浸させる際には、低粘度(好ましくは1〜50cps/25℃、より好ましくは1〜30cps/25℃)であることが好ましい。木材への浸透性に優れるからである。更に、コロイダルシリカ中に分散されたシリカは小粒径であることが好ましい。即ち、例えば、上記20μm以下であることが好ましい。この範囲であれば木材の細胞壁孔と同程度に微細であり、木材の細胞壁の内部等にまで含浸させられる。更には、改質効果の点からSiO含有量の高いコロイダルシリカが好ましい。
【0020】
また、珪酸化合物液中に、アルカリ珪酸塩が含有され、このアルカリ珪酸塩が変色しやすいものである場合には、コロイダルシリカを併用することが好ましい。これにより、アルカリ金属による変色を著しく抑制できる。アルカリ珪酸塩とコロイダルシリカとを併用する場合、珪酸化合物の合計量に占めるアルカリ珪酸塩の割合(固形分比)は50質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることが更に好ましい。
【0021】
更に、この珪酸化合物液は、アルカリ性であってもよく、中性であってもよく、酸性であってもよいが、アルカリ性であることが好ましい。
珪酸化合物液が、アルカリ珪酸塩及び水を用いた珪酸化合物液である場合には、通常、アルカリ珪酸塩の溶解によりアルカリ性となるため、このまま使用できる。
一方、珪酸化合物液が、アルカリ珪酸塩を用いずコロイダルシリカを用いた珪酸化合物液である場合には、珪酸化合物液に塩基性化合物を添加する等してアルカリ性にすることが好ましい。これにより、ゲル化工程におけるゲル化速度をより大きくすることができる。アルカリ性の程度は特に限定されないが、pH8.0〜11.0(より好ましくはpH8.5〜10.0)が好ましい。この範囲であればゲル化速度を大きくでき、且つゲル化開始までの時間も少なく抑える(ゲル化が開始されるまでの酸無水物ガスによる中和時間が短い)ことができる。上記塩基性化合物としては、アンモニア、トリメチルアミン等の各種アミン類、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ金属類等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(3)含浸条件について
上記珪酸化合物液を木材に含浸する場合、その含浸条件は特に限定されない。即ち、例えば、加圧しながら含浸を行う加圧含浸を行ってもよく、加圧を行うことなく含浸する常圧含浸を行ってもよい。このうち加圧含浸が好ましい。加圧を行うことにより、木材の組織内(導管や細胞壁等の内部)にまでより多く珪酸化合物を含浸させることができる。また、加熱を行ってもよく、加熱を行わなくてもよい。このうち加熱を行うことが好ましい。加熱を行うことにより、浸透速度を上げることができる。特に低圧力においても大きな浸透速度を得ることができる。
【0023】
上記加圧を行う場合、加圧方法は限定されない。即ち、例えば、気体を反応容器内に注入して加圧してもよく、加熱により加圧してもよく、これらを組み合わせて加圧してもよい。上記加圧を行う場合の加圧条件は限定されない。加圧条件は、例えば、木材の水分率、真空度、木材の種類、木目の状態及び種類、木材の大きさ及び形状、等により適宜選択できる。但し、通常、加圧圧力は10MPa以下(好ましくは8MPa以下、より好ましくは6MPa以下、通常0.2MPa以上)である。特に年輪が認められない木材においては、軟質系の木材及び硬質系の木材のいずれにおいても10MPaまで加圧できる。年輪が認められる軟質系の木材では3MPa以下(通常0.5MPa以上)とすることが好ましい。また、年輪が認められる硬質系の木材では5MPa以下(通常1.5MPa以上)とすることが好ましい。これにより木材の種類及び形状等に影響されることなく、反り、変形及び割れなどを効果的に防止できる。
尚、軟質系の木材とは、JIS Z 2101に従った温度25℃且つ含水率7%以下における密度が0.56未満である木材をいうものとする。例えば、杉、檜及びラワン等の針葉樹の木材が挙げられる。
【0024】
上記加熱を行う場合、珪酸化合物液を加熱してもよく、含浸工程を行う処理容器全体を加熱してもよく、木材を加熱してもよく、これらの少なくとも2種以上の加熱を行ってもよい。珪酸化合物液を加熱するとは、例えば、珪酸化合物液を含浸させる処理容器とは別の加熱容器を備え、この加熱容器内で珪酸化合物液を加熱することができる。また、処理容器と加熱容器との間で珪酸化合物液を循環させることができる。
更に、この加熱によって得られる珪酸化合物液の液温は限定されないが180℃未満(より好ましくは20〜150℃、更に好ましくは40〜120℃)が好ましい。この範囲の加熱でれば、十分な浸透速度の向上効果が得られつつ、木材の損傷、溶液の変質等を防止できる。液温を上昇させることにより、25℃で用いる場合に比べて浸透速度を2〜5倍向上させることができ、珪酸化合物含浸工程に要する時間を大幅に短縮できる。
【0025】
(4)含浸させる珪酸化合物の量について
この工程による含浸量は特に限定されないが、十分な難燃効果を得るために、珪酸化合物含浸工程を行う前の木材の質量に対して200質量%以上(より好ましくは250質量%以上、更に好ましくは300質量%以上)の珪酸化合物液を含浸させることが好ましい(即ち、珪酸化合物液の含浸量)。特に、珪酸化合物換算で、珪酸化合物含浸工程を行う前の木材の質量に対して40〜200質量%(より好ましくは50〜180質量%、更に好ましくは100〜150質量%)を含有されることが好ましい(即ち、含浸された珪酸化合物液のうちの固形分量)。尚、木材の種類及び処理条件等によって、上記木材の質量に対して200質量%を超える珪酸化合物換算含有量を得ることができる。この場合にも優れた難燃性が得られる。
尚、珪酸化合物換算による含有量とは、アルカリ珪酸塩のみを含む(コロイダルシリカを含まない)珪酸化合物液では珪酸化合物液100質量%中に含有されるアルカリ珪酸塩の質量割合を表し、コロイダルシリカのみを含む(アルカリ珪酸塩を含まない)珪酸化合物液では珪酸化合物液100質量%中に含有されるコロイダルシリカの質量割合を表す。更に、アルカリ珪酸塩とコロイダルシリカとの両方を含有する珪酸化合物液では珪酸化合物液100質量%中に含有されるアルカリ珪酸塩とコロイダルシリカとの合計質量割合を表す。
【0026】
[2]珪酸化合物含浸工程以前に行う他の工程
本発明の製造方法では、珪酸化合物含浸工程を行う前に他の工程を備えることができる。他の工程としては、浸透孔形成工程及び乾燥工程が挙げられる。
【0027】
(1)浸透孔形成工程
上記「浸透孔形成工程」は、珪酸化合物液が木材に浸透することを補助する浸透孔を木材に形成する工程である。
この浸透孔を木材に形成する際の孔設方法は特に限定されない。例えば、レーザーにより孔設してもよく、ドリル等の木工加工機により孔設してもよく、その他の方法で孔設してもよく、これらを併用してもよい。このうちレーザー加工を行う場合、用いるレーザーの種類は限定されないが、炭酸ガスレーザーが好ましい。また、用いるレーザーの波長、出力等については限定されず、木材の性質、浸透孔の形状、深さ等により選択することが好ましい。レーザー加工を用いた場合は、その他の木工加工機を用いる場合に比べて、より簡単に高い精度の穿孔を行うことができる。
【0028】
上記「浸透孔」は、木材に形成された孔である。この浸透孔は木材に対して貫通しているものであってもよく、貫通されていないものであってもよい。また、その断面形状、開口形状等の浸透孔の形状は限定されない。即ち、例えば、開口形状が略円状(図2参照)のスポット穿孔(柱状孔、内部へ向かって窄まる錐状孔等)、開口形状が四角状等のスポット穿孔(柱状孔、内部へ向かって窄まる錐状孔等)、開口形状が直線状(図3参照)、折線状、曲線状等の割れ目カット(スリット状孔)等の形態が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
更に、浸透孔の方向は限定されない。即ち、例えば、木目に対して交差する孔(例えば、略垂直孔)であってもよく、略平行孔であってもよく、これらの併用であってもよい。これらのなかでは、木目に対して交差する孔を含むことが好ましい。即ち、例えば、上記スポット穿孔の場合、図4に示すように、板目面に対して上から下へ木目と交差するように穿孔することが好ましい。また、直線状の割れ目カットの場合、図4に示すように、板目面に対して垂直方向にカットすることが好ましい。
【0030】
また、浸透孔の大きさは限定されないが、例えば、スポット穿孔による開口形状が略円状の浸透孔の場合、開口径(直径)は0.5〜1mmが好ましい。この浸透孔は1つの孔により、通常、その周囲25〜75mmの範囲に珪酸化合物液を浸透させることができる。更に、割れ目カットの場合、図3に示すように、横方向全体に渡って長い1本の割れ目カットとすることができる。また、木材の強度保持のため、図5に示すように、中央部分に未カット部を残して割れ目カットを施すこともできる。直線状の割れ目カットを入れた場合は、珪酸化合物液の浸透速度が特に大きく、浸透孔を形成しない場合に比べて1/20〜1/50程度に処理時間を短縮できる。
【0031】
その他、浸透孔を設ける箇所、孔数及び孔密度等は限定されない。これらの浸透孔に関する種々の形態は、木材の性質、使用用途等により選択することが好ましい。例えば、木材の裏面や木端等の目立たない箇所に必要数だけ浸透孔を設ければ、木材の変形や強度の低下なく、外観についてもほとんど変化させることなく、容易に珪酸化合物液を木材に浸透させることができる。浸透孔を設ける場合、木の硬度、木目(年輪)の密度、板目、正目等の状況を見て、浸透孔の形態等を適宜選択することが好ましい。
【0032】
浸透孔を形成することにより、珪酸化合物液の浸透性が向上され、厚み、長さ又は面積のある大きな木材や、木目の詰まった堅い木材等のように、加圧や加熱を行っても、珪酸化合物液を木材内部深くまで浸透させ難い木材であっても、木材表面部のみならず、上記浸透孔からも珪酸化合物液が浸透され、木材内部にまで珪酸化合物液を容易に(例えば低圧力、短時間で)浸透できる。
【0033】
(2)乾燥工程
上記「乾燥工程」は、珪酸化合物含浸工程を行う前に、木材を乾燥させる工程である。珪酸化合物含浸工程を行う前に木材を乾燥させることにより、珪酸化合物液の浸透性を向上させることができる。
乾燥させる方法は特に限定されず、吸引減圧乾燥を用いてもよく、加熱乾燥を用いてもよく、自然乾燥を用いてもよく、その他の方法を用いてもよく、これらのうちの2種以上を組み合わせた方法を用いてもよい。このうち少なくとも吸引減圧乾燥を用いることが好ましい。
乾燥工程における乾燥程度は限定されないが、木材の質量に対して水分を0〜7質量%とすることが好ましい。
【0034】
更に、吸引減圧乾燥を用いた場合には、木材中の空気の一部又は全部(通常、一部)を除去できる。即ち、水分と空気とを実質的に除去できる。このため、加熱乾燥のみ又は自然乾燥のみを用いる場合に比べると、水分に加えて空気(木材内に含有される気体)をも除去できる。このため木材内の導管や組織細胞内等により多くの空隙を形成できる。従って、浸透性が向上(浸透される深さが深い)され且つ浸透速度も大きくできる。吸引減圧乾燥を行う場合は、木材を収容した耐圧容器内の圧力を140Pa以下(より好ましくは70Pa以下、通常1×10−6Pa以上)の真空度とすることが好ましい。
【0035】
[3]ゲル化工程について
上記「ゲル化工程」は、珪酸化合物含浸工程で木材中に含浸された珪酸化合物を、酸無水物ガスを用いて珪酸化合物ゲルにする工程である。
上記「酸無水物ガス」は、使用温度(通常は常温)において気体であり、珪酸化合物液等に溶解されて酸性を呈し、且つ木材に含浸された珪酸化合物をゲル化させることができる化合物である。酸無水物ガスが珪酸化合物液に溶解されると、酸無水物ガスの溶解量に比例して珪酸化合物液のpHが低下されてゲル化される。この際のpHは限定されないがpH6.5以下(より好ましくはpH6.5〜3.0、更に好ましくはpH6.0〜3.0)が好ましい。pH8.0〜7.0程度でミクロゲルが生成され、pH6.5程度で全体がゲル化されるため、上記範囲であれば特に珪酸化合物のゲル化が良好となるからである。
酸無水物ガスとしては、燃焼ガス、CO等の炭素酸化物ガス、SO等の硫黄酸化物ガス、NO等の窒素酸化物ガス、HCl等のハロゲン化水素ガス、OF等の弗化酸素ガスが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
このうち、燃焼ガス、二酸化炭素(CO)及び二酸化硫黄(SO)が好ましく、特に経済性、作業性及び安全性に優れ、更にはゲル化による副生成物が木材中に残存されても影響がない等の点から燃焼ガス、二酸化炭素(CO)が好ましい。
【0036】
ゲル化工程は、加圧環境で行ってもよく、常圧環境で行ってもよい。このうち、珪酸化合物液への酸無水物ガスの溶解を促進させられるため、加圧環境が好ましい。加圧の程度は限定されないが、10MPa以下(より好ましくは0.5〜7MPa、更に好ましくは1〜5MPa、通常0.2MPa以上)が好ましい。特に酸無水物ガスとして炭酸ガスを用いる場合は、3MPa以下(より好ましくは0.5〜3MPa、更に好ましくは1〜2MPa、通常0.2MPa以上)とすることが好ましい。これらの範囲であれば、木材の反り、変形、割れ等を十分に防止できる。更に、この加圧環境の保持時間は限定されないが、例えば、0.5〜10時間とすることができる。
特に酸無水物ガスが燃焼ガス又は純粋な二酸化炭素である場合、例えば1〜3MPaの圧力に1〜10時間(より好ましくは2〜6時間)維持することが好ましい。また、酸無水物ガスが塩化水素ガスである場合には、例えば0.2〜0.5MPaの圧力に0.5〜3時間(より好ましくは1〜2時間)維持することが好ましい。これにより各々珪酸化合物のゲル化をより確実に進行させることができる。
更に、ゲル化工程では、加熱を行ってもよく、加熱を行わなくてもよい。更に、冷却をしてもよく、冷却をしなくてもよい。
【0037】
本発明におけるゲル化工程は、酸無水物ガスを用いるものである。従来、炭酸水を用いてゲル化する方法は知られているが、炭酸水を用いる場合に比べて酸無水物ガスは遥かに優れた拡散性を有し、特に加圧環境におくことで炭酸水を用いる場合に比べて大幅に木材の深部までゲル化することができる。
更に、多くアルカリ性である珪酸化合物液の中和により形成される不要塩類(炭酸ナトリウム等)は木材内に残存されると、木材の腐食の原因となる。しかし、本発明の製造方法では、ゲル化を液体内で行う必要がなく、特に液体内で行わないことにより、ゲル化中に木材内部から離漿水として不要塩類をゲル化と同時に排出させることができる。このため、木材の耐腐食性が著しく向上される。
また、従来、ゲル化工程を経ることなく、珪酸化合物液含浸工程の後に乾燥させ、そのまま木材を利用されている。空気中の炭酸ガスにより自然とゲル化が進むと考えられているからであるが、この場合、次第に白化が進行し、木材の表面に珪酸化合物ゲルが析出するという問題がある。しかし、本発明の製造方法によるとこのような不具合も防止できる。
【0038】
[4]ゲル化工程以前に行う他の工程
本発明の製造方法では、ゲル化工程を行う前に他の工程を備えることができる。他の工程としては、ゲル化工程を経る前の木材を乾燥させるゲル化前乾燥工程が挙げられる。
上記「ゲル化前乾燥工程」は、ゲル化工程を行う前に、珪酸化合物含浸工程を経る前の木材を乾燥させる工程である。ゲル化工程を行う前に木材を乾燥させることにより、珪酸化合物液が収縮されて木材内部に空隙を生じるため、ゲル化工程において酸無水物ガスを著しくスムーズに木材の深部まで導入することができる。これにより、木材の深部までより確実にゲル化させることができる。但し、本工程における乾燥とは、木材に含有される媒体(水分等)の全部を除去する乾燥を除く意味である。媒体が残存されていることにより酸無水物ガスがこの媒体に溶解されてゲル化が進行されるためである。
【0039】
上記乾燥させる方法は特に限定されず、加熱乾燥を用いてもよく、自然乾燥を用いてもよく、吸引減圧乾燥を用いてもよく、その他の方法を用いてもよく、これらのうちの2種以上を組み合わせた方法を用いてもよい。このうち加熱乾燥又は自然乾燥が好ましく、加熱乾燥がより好ましい。加熱乾燥を行う場合、木材に含有される珪酸化合物液の沸点を超えない温度で行うことが好ましい。また、予め緩やか(例えば、95℃程度)に加熱して表面を乾燥させた後、加熱温度を上げる(例えば、100〜110℃程度)ことができる。これにより、木材に表面に珪酸化合物液が発泡流出することなく、スムーズに乾燥を行うことができる。
このゲル化前乾燥工程における乾燥程度は、木材に含有される水分全体を100質量%とした場合に1〜20質量%(より好ましくは1〜10質量%)とすることが好ましい。
【0040】
[5]燃焼抑制剤含浸工程について
本発明の改質木材の製造方法では、燃焼抑制剤液を珪酸化合物ゲルが含まれた木材に含ませる燃焼抑制剤含浸工程を備える。
(1)燃焼抑制剤
上記「燃焼抑制剤液」は、燃焼抑制剤を媒体に溶解させた液体、燃焼抑制剤を媒体に分散させた液体、及びこれらの混合液のうちのいずれかの液体である。この燃焼抑制剤液を構成する媒体は特に限定されない。水を用いてもよく、有機溶媒を用いてもよく、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。水と炭素数1又は2のアルコール(特にメタノールが好ましい)との混合溶媒を用いると浸透性を向上させることができる。水溶媒、水とメタノールの混合溶媒が好ましい。
【0041】
上記「燃焼抑制剤」は、木材の燃焼を抑制する効果を発揮できる化合物等である。また、この燃焼抑制剤は、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種を含有する。更に、この燃焼抑制剤は、溶液化できるものである。この溶液化する際の溶媒の種類は特に限定されず、水であってもよく、有機溶媒であってもよく、これらの混合溶媒であってもよいが、水が好ましい。即ち、燃焼抑制剤は水溶性(水溶性燃焼抑制剤)であることが好ましい。
【0042】
上記「リン系燃焼抑制剤」は、リン元素を含有する化合物のみからなるか、リン元素を含有する化合物と他の化合物(特に窒素系燃焼抑制助剤等)との混合物からなる。このリン系燃焼抑制剤は、通常、脱水炭化作用を発揮することにより燃焼抑制効果が発揮される。脱水炭化作用とは、加熱されて木材を構成するセルロースを脱水し、HOとCとに分解する作用である。このリン系燃焼抑制剤としては、リン酸及びリン酸塩等が挙げられる。リン酸は、メタリン酸であってもよく、ポリリン酸であってもよい。リン酸化合物としては、リン酸アンモニウム、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素、リン酸メラミン、
リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等が挙げられる。リン系燃焼抑制剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、合成品であってもよく、天然品であってもよく、加工天然品であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0043】
上記の窒素系燃焼抑制助剤は、窒素を含有する化合物からなる。この窒素系燃焼抑制剤としては、硝酸アンモニウム、尿素、グアニジン、シジアンジアミド、塩化アンモニウム等の窒素元素を含有する各種化合物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、合成品であってもよく、天然品であってもよく、加工天然品であってもよく、これらの混合物であってもよい。窒素系燃焼抑制剤は、単独で用いてもよいが、リン系燃焼抑制剤と併用することが好ましい。これにより、燃焼抑制効果がより効果的に発揮される。
【0044】
上記「ホウ素系燃焼抑制剤」は、ホウ素元素を含有する化合物のみからなるか、ホウ素元素を含有する化合物と他の化合物との混合物からなる。このホウ素系燃焼抑制剤は、通常、加熱により脱水分解された後、溶融されてガラス状となって木材表面を覆うことにより燃焼を抑制できる。ホウ素系燃焼抑制剤としては、ホウ酸及びホウ酸塩等が挙げられる。ホウ酸塩としては、ホウ酸ナトリウム(ホウ酸ソーダ、ホウ砂)等が挙げられる。ホウ素系燃焼抑制剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、合成品であってもよく、天然品であってもよく、加工天然品であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0045】
上記「ハロゲン系燃焼抑制剤」は、ハロゲン元素を含有する化合物のみからなるか、ハロゲン元素を含有する化合物と他の化合物との混合物からなる。ハロゲン元素のなかでも、特に臭素元素及び塩素元素が好ましい。このハロゲン系燃焼抑制剤は、通常、木材の熱分解時に、分解成分と結合して不燃性成分又は難燃性成分を形成する。ハロゲン系燃焼抑制剤としては、各種ハロゲン化物が挙げられる。即ち、例えば、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化アンチモン及び塩化パラフィン等が挙げられる。ハロゲン系燃焼抑制剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、合成品であってもよく、天然品であってもよく、加工天然品であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0046】
(2)含浸条件について
上記燃焼抑制剤を、ゲル化工程を経た木材に含浸する場合、その含浸条件は特に限定されない。即ち、例えば、加圧しながら含浸を行う加圧含浸を行ってもよく、加圧を行うことなく含浸する常圧含浸を行ってもよい。このうち加圧含浸が好ましい。加圧を行うことにより、木材の組織内(導管や細胞壁等の内部)、ゲル化工程で形成された木材の内部に固定された珪酸化合物ゲル内にまでより多く燃焼抑制剤を浸透させることができる。
また、この工程では加熱を行ってもよく、加熱を行わなくてもよい。このうち加熱を行うことが好ましい。加熱を行うことにより、浸透速度を上げることができる。特に低圧力においても大きな浸透速度を得ることができる。
【0047】
上記加圧を行う場合の加圧条件は限定されない。加圧条件は、例えば、木材の水分率、真空度、木材の種類、木目の状態及び種類、木材の大きさ及び形状、等により適宜選択できる。加圧条件については、前記珪酸化合物液含浸工程における加圧圧力をそのまま適用できる。
【0048】
上記加熱を行う場合、燃焼抑制剤液を加熱してもよく、含浸工程を行う処理容器全体を加熱してもよく、木材を加熱してもよく、これらの少なくとも2種以上の加熱を行ってもよい。燃焼抑制剤液を加熱するとは、例えば、燃焼抑制剤液を含浸させる処理容器とは別の加熱容器を備え、この加熱容器内で燃焼抑制剤液を加熱することができる。また、処理容器と加熱容器との間で燃焼抑制剤液を循環させることができる。
更に、この加熱によって得られる燃焼抑制剤液の液温は限定されないが180℃未満(より好ましくは20〜150℃、更に好ましくは40〜120℃)が好ましい。この範囲の加熱であれば、十分な浸透速度の向上効果が得られつつ、木材の損傷、溶液の変質等を防止できる。液温を上昇させることにより、25℃で用いる場合に比べて浸透速度を2〜5倍向上させることができ、燃焼抑制剤含浸工程に要する時間を大幅に短縮できる。
【0049】
(3)含浸させる燃焼抑制剤の量について
この工程による含浸量は特に限定されないが、十分な燃焼抑制効果を得るために、燃焼抑制剤含浸工程を行う前の木材に含有される珪酸化合物ゲルの含有量を100質量%とした場合に、燃焼抑制剤は1〜97質量%含有させることが好ましい。例えば、木材に含有される珪酸化合物ゲルが、木材のみの質量に対して100質量%以上である場合、含有される珪酸化合物ゲルを100質量%とした場合に、燃焼抑制剤は10〜150質量%(より好ましくは30〜100質量%)含有させることが好ましい。また、木材に含有される珪酸化合物ゲルが、木材のみの質量に対して50質量%以下である場合、含有される珪酸化合物ゲルを100質量%とした場合に、燃焼抑制剤は20〜300質量%(より好ましくは35〜210質量%)含有させることが好ましい。
【0050】
燃焼抑制剤は、従来から水溶性のものが多用されているが、木材に直接含浸させた場合には、木材の使用時の乾湿サイクルや雨水等により、木材の表面に析出することがあった。しかし、本製造方法では、吸着性に優れた珪酸化合物ゲルが燃焼抑制剤を木材内に確実に固定できる。このため、より確実に防煙防炎効果を発揮させることができる。
更に、従来の製造方法のように、木材に含有された珪酸化合物液に対してリン酸化合物水溶液を直接作用させる方法では、後から接触させるリン酸化合物水溶液は、木材に中に既に含有されていた珪酸化合物液が混入(液戻りによる)されるため、循環使用等により再利用することが困難である。これに対して、本発明の製造方法では、本製造方法で用いる珪酸化合物液と燃焼抑制剤とは直接接して使用されないため、各々を循環使用することができ、経済性に優れる。
【0051】
[6]燃焼抑制剤含浸工程以前に行う他の工程
本発明の製造方法では、燃焼抑制剤含浸工程を行う前に他の工程を備えることができる。他の工程としては、燃焼抑制剤含浸前乾燥工程が挙げられる。
上記「燃焼抑制剤含浸前乾燥工程」は、燃焼抑制剤含浸工程を行う前に、燃焼抑制剤含浸工程を経る前の木材を乾燥させる工程である。燃焼抑制剤含浸工程を行う前に木材を乾燥させることにより、珪酸化合物液が収縮されて木材内部に空隙を生じるため、燃焼抑制剤液の浸透性を向上させることができる。
【0052】
乾燥させる方法は特に限定されず、吸引減圧乾燥を用いてもよく、加熱乾燥を用いてもよく、自然乾燥を用いてもよく、その他の方法を用いてもよく、これらのうちの2種以上を組み合わせた方法を用いてもよい。このうち吸引減圧乾燥を行う場合、その条件については珪酸化合物含浸工程以前に行う他の乾燥工程における吸引減圧乾燥の条件をそのまま適用できる。また、加熱乾燥を行う場合、加熱温度は特に限定されないが40℃以上に加熱することが好ましい。また、この乾燥工程では、燃焼抑制剤液を構成する媒体の沸点を超える温度にまでこの媒体を加熱してもよい。
乾燥工程における乾燥程度は限定されないが、木材の質量(珪酸化合物を除く)に対して水分が15質量%以下(より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは7質量%以下、0質量%であってもよい)とすることが好ましい。
【0053】
[7]下地処理工程について
ゲル化工程を経た木材は、適当に(例えば水分率1〜40質量%程度に)乾燥させることにより不燃性の加工木材として使用可能である。この下地処理工程前に行う燃焼抑制剤含浸後乾燥工程は、前記珪酸化合物含浸前乾燥工程及び前記燃焼抑制含浸前乾燥工程等と同様に、吸引減圧により行うことができる。
【0054】
この木材は多くの水酸基を有し、珪酸化合物ゲル(シリカゲル等)も多くのシラノール基を持っている。そこで、木材内部で生成したシリカゲルのシラノール基や木材(セルロース等)の水酸基と、反応性樹脂化合物(エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂及びその前駆体等)及び/又はシランカップリング剤とを反応固化させる下地処理を行い、シリカゲルと木材とを化学的に結合させることができる。これにより、木材中における水分移動が抑制されて狂いが防止されるので、難燃性及び寸法安定性に一層優れた加工木材となる。また、後述のように加工木材の表面を塗装する場合には、この下地処理を行うことにより塗料の接着性が向上する。
【0055】
(1)シランカップリング剤
シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、3−メタリロキシプロピルトリメトキシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等の代表的なシランカップリング剤、又はシラン縮合物等を使用することができる。このシラン縮合物としては、エポキシシランとアミノシランとの縮合反応によるシラン縮合物、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーやエポキシ樹脂等の反応性基含有プレポリマーとシランとの縮合反応によるシラン縮合物等が挙げられる。
【0056】
本発明において特に好ましく用いられるシランカップリング剤の市販品としては、アミノシラン系シランカップリング剤である商品名「KBP−43」、「KBP−41」、「KBP−40」、及び、イソシアネート基を有するシランカップリング剤である商品名「X−12−413」(以上、いずれも信越化学工業株式会社製)を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、短時間で硬化し、接着性が高く、また得られた加工木材の耐水性及び耐候性に優れ、適応性も良いという良好な結果を示す。
【0057】
(2)反応性樹脂化合物
本発明において使用できる反応性樹脂化合物としては、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリルウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、レゾルシノール系樹脂等が挙げられる。このうち、ポリエーテル、ポリエステル、アクリルポリオール、ブタジエンポリオールアルキッド、エポキシ、ひまし油及び飽和ポリエステル等を、ポリイソシアネートと反応させて得られる「ポリイソシアネートオリゴマー」が特に有用である。
【0058】
(3)処理方法
上記シランカップリング剤及び反応性樹脂化合物は、いずれか一方を使用してもよい。例えば、シランカップリング剤を溶媒等で希釈して木材に浸透させることにより、木材中のシリカゲル表面を改質して、木材組織、反応性樹脂化合物、塗料等の有機材料との接着性を著しく向上させることができる。また、シランカップリング剤及び反応性樹脂化合物の両方を同時にあるいは順次に使用する下地処理を行うことにより良好な結果が得られる。例えば、まずシランカップリング剤を溶媒等で希釈した下地処理剤を木材に浸透させてシリカゲル表面を改質し、次いで反応性樹脂化合物を溶媒等で希釈した下地処理剤を浸透させて表面改質されたシリカゲルや木材組織と反応固化させる。あるいは、シランカップリング剤と反応性樹脂化合物とを予め混合した下地処理剤、更にはこれらを必要に応じて適宜反応させたオリゴマーからなる下地処理剤を使用してもよい。
【0059】
尚、この下地処理を行うにあたっては、ゲル化後の木材を適度に乾燥させておくことが好ましい。この乾燥の程度としては、シリカゲル含有木材の水分率が1〜50質量%(より好ましくは2〜40質量%)となる範囲が好ましい。下地処理剤としてエポキシ樹脂ベースの水分散型及び水溶型樹脂を使用する場合には残存水分率が比較的高くてもよいが(例えば20〜40質量%)、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリルウレタン系樹脂等のように水分に敏感でゲル化しやすい化合物を下地処理剤に用いる場合には、過剰水分によるイソシアネート基の加水分解を抑えるために、木材の水分率を5〜30質量%の範囲に調整することが好ましい。このように水分を多く残す理由は、シリカゲル中の水分による吸熱作用(2244J/g)を利用し、難燃効果を補助するためである。
【0060】
[8]表面塗装について
本発明の改質木材の製造方法により製造された改質木材は、ウレタン系、アクリル系、フッ素系、シリコーン系、アミノアルキッド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系等の従来公知の塗料から選択される一種又は二種以上を用いて、従来公知の各種方法により表面塗装することができる。本発明の改質木材の製造方法において、下地処理工程及び塗装工程は必須ではないが、これらの工程を実施した場合には、下地処理材及び塗料によって木材の内部や表面を完全に覆うことにより、木材内の水分移動による狂いを防ぎ、長期にわたってこの木材に寸法安定性及び難燃性を付与することができる。一方、例えば敷物とする木材チップの不燃化加工等においてはこれらの工程を行うことなく最終製品とすることができる。
【0061】
[9]改質木材の用途について
本発明の改質木材の製造方法により製造された改質木材は、難燃性及び寸法安定性に優れ、また防腐性、防虫性、高強度をも備えることから、例えば以下の用途に好ましく使用される。
【0062】
(1)建築用内装部材
建築材料のうち、天井材、間仕切材、壁材、床材等の内装部材として使用することができる。これらの部材は、薄物の板材が主体であるため珪酸化合物液を含浸させやすく、目的に合わせてJIS A 1321やJIS A 5801等に合格するよう含浸量を調整して加工することができる。珪酸化合物液の含浸量としては、乾燥木材に対して230〜320質量%(珪酸化合物換算で40〜160質量%)とすることが好ましい。
【0063】
(2)建築用構造部材
建築材料のうち、柱、梁、床、壁等の構造部材として使用することができる。これらの用途向けの木材としては、水分率を下げて木材組織の強度を上げる前処理、及び脱脂により細胞壁孔を貫通させて珪酸化合物液の浸透性を改善する前処理を施した木材を使用することが好ましい。目的に合わせて、JIS A 1301に合格するよう含浸量を調整して加工することができる。珪酸化合物液の含浸量としては、乾燥木材に対して230〜320質量%(珪酸化合物換算で40〜160質量%)とすることが好ましい。尚、大型の部材に関しては、経済性を考慮して、部材の表面から所定の深さまでの範囲に珪酸化合物液を含浸させてもよい。この場合にも十分な難燃性を付与することができる。
【0064】
(3)建築用開口部材
建築材料のうち、戸、窓、階段等の開口部材としても使用することができる。これらの部材は、柱状、板状等、様々な形状のものがある。防火戸、防火戸木枠、木製サッシ、階段等の部材については、JIS A 1301やJIS A 1311の試験に合格するように珪酸化合物液を木材に十分含浸させることが必要となる。具体的には、乾燥木材に対して250〜330質量%(珪酸化合物換算で50〜170質量%)含浸させることが好ましい。また、アルミサッシ内部の中空部分に、珪酸化合物液を十分に含浸させて製造した加工木材を充填することにより、アルミサッシの強度及び耐熱性を向上させる、という使用方法も有用である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の改質木材の製造方法につき、実施例を挙げて説明する。尚、以下における「部」及び「%」は、特に記載のない場合は質量基準である。
【0066】
[1]実施例1及び比較例1の改質木材の製造
{実施例1(燃焼抑制剤−含有)及び比較例1(燃焼抑制剤−非含有)}
(1)浸透孔形成工程
実験例1及び比較例1の出発木材として、各々含水率が約3%にまで乾燥されたタイプII合板(厚さ15t×長さ220×幅220mm)を用いた。
これら実施例1及び比較例1の各々合板の一面に、炭酸ガスレーザー加工機「ML3020D」(三菱電機株式会社製)を用いて、長さ180mm×幅0.8mm×深さ12mmの直線状の割れ目カット(浸透孔)を合板の長さ方向へ55mm間隔で合計3ヶ所形成した(図3参照)。但し、幅方向へは合板の両端20mmは補強のために未カット部分として残している。
【0067】
(2)珪酸化合物含浸前乾燥工程
上記(1)を経た各木材(図1の1)を、耐圧容器(図1の4)に収容し、耐圧容器内を減圧して約2.7kPa(20Torr)にして40分間保持し、木材中の水分及び空気を吸引除去した。この珪酸化合物含浸前乾燥工程により、木材全体を100質量%とした場合の水の含有量を約2.8%程度にした。
【0068】
(3)珪酸化合物液含浸工程
上記(2)の後に、耐圧容器(図1の4)内に50℃に保温されたJIS3号珪酸ナトリウム90部と水10部との混合物からなる珪酸化合物液(図1の5)を投入した。次いで、窒素ガスを用いて耐圧容器内の圧力を約5MPa(50kg/cm)まで加圧した。この状態を20時間保持した。その後、耐圧容器内の圧力を開放し、次いで、耐圧容器内の珪酸化合物液を排出し、珪酸化合物液用のベッセルタンクに回収した。この回収した珪酸化合物液は再利用が可能な状態であった。
【0069】
(4)ゲル化前乾燥工程
上記(3)の後に、上記耐圧容器(図1の4)内から各木材(図1の1)を取り出し、表面に付着した珪酸化合物液を拭き取った後、珪酸化合物液が含浸された木材をオートクレーブ(図1の7)内に収容し、オートクレーブの設定度を98℃に設定し、60分間乾燥させて、次のゲル化工程において炭酸ガスがより浸透し易いように木材組織内に空隙を形成させた。
【0070】
(5)ゲル化工程
上記(4)の後を経た木材(図1の1)を、再び耐圧容器(図1の4)へ収容し、耐圧容器内を減圧して約2.7kPa(20Torr)にした後、炭酸ガスを注入して加圧し、耐圧容器内を温度30℃且つ圧力約3MPa(30kg/cm)にした。この状態を4時間保持した後、圧力開放を行った。
その後、珪酸化合物液の含浸率を測定するために、耐圧容器内から各木材(実施例1及び比較例1)を取り出し、表面に付着した珪酸化合物液を拭き取った後、質量測定を行った。その結果、上記(2)の珪酸化合物含浸前乾燥工程の後に測定した木材の質量を100%とすると、本(5)のゲル化工程後の木材の質量(ゲル化された珪酸化合物等を含む)は410%{このうち147.6%は固形分(シリカゲル)である}であった。
尚、改質木材を得る目的においてはこの測定は必要なく、引き続き次の工程を行うことができる。
【0071】
(6)燃焼抑制剤含浸前乾燥工程
その後、上記(5)を経た実施例1の木材(図1の1)のみをオートクレーブ(図1の7)内に収容し、オートクレーブの設定度を98℃に設定し、30分間乾燥させて、次の燃焼抑制剤液含浸工程において燃焼抑制剤がより浸透し易いように木材組織内に空隙を形成させた。
【0072】
(7)燃焼抑制剤液含浸工程
上記(6)を経た実施例1の木材(図1の1)を耐圧容器(図1の4)内に収容し、耐圧容器内を減圧して約2.7kPa(20Torr)にした後、リン酸系燃焼抑制剤(リン酸・窒素系燃焼抑制剤、太平化学産業株式会社製、品名「タイエンGN」)を燃焼抑制剤液全体に対して40%となるように水に溶解して得られた燃焼抑制剤液(図1の6)を、耐圧容器(図1の4)内に注入した。その後、窒素ガスを注入して耐圧容器内を圧力約5MPa(50kg/cm)にした。この状態を15時間保持した。その後、耐圧容器内の圧力を開放し、次いで、耐圧容器内の燃焼抑制剤液を排出し、燃焼抑制剤液用のベッセルタンクに回収した。この回収した燃焼抑制剤液は再利用が可能な状態であった。
その後、燃焼抑制剤液の含浸率を測定するために、耐圧容器内から実施例1の木材を取り出し、表面に付着した燃焼抑制剤液を拭き取った後、質量測定を行った。その結果、実施例1の上記(6)の燃焼抑制剤含浸前乾燥工程の後に測定した木材の質量(ゲル化された珪酸化合物等を含む)を100%とすると、本(7)の燃焼抑制剤液含浸工程後の木材に含有されるリン酸系燃焼抑制剤等は34.6%であった。
尚、改質木材を得る目的においてはこの測定は必要なく、引き続き次の工程を行うことができる。
【0073】
(8)燃焼抑制剤含浸後乾燥工程
上記(7)を経た実施例1の木材、及び上記(5)を経た比較例1の木材、の各々をオートクレーブ内に収容し、設定温度98℃で30分間保持した。
【0074】
(9)下地処理工程
イソシアネート基を有するシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、品名「X−12−413」)2部(有姿)を、反応性樹脂化合物(ポリイソシアネートオリゴマー変性品:Bayer社製、品名「ディスモジュールTT」)98部(有姿)に添加して、これらを反応させたオリゴマーからなる下地処理剤を調製した。上記(8)を経た各木材に上記下地処理剤をスプレー塗布(300g/m)したのち十分に浸透させた。その後、約60分間自然乾燥させタックフリーの状態にした。
【0075】
(10)塗装工程
上記(9)を経た実施例1及び比較例1の各木材に、下記表1に示す塗料及び条件で、下塗り、着色、上塗りからなる塗装を行った。塗装はスプレーを用いていずれも40〜60g/mの目付けで行った。尚、表1に示す使用材料は、いずれも玄々化学株式会社製の品名である。
【0076】
【表1】

【0077】
[2]実施例1、比較例1及び比較例2の改質木材の評価
建築基準法施行令第1条5号に規定される準不燃材料に該当するか否かのコーンカロリーメーター試験を実施例1の改質木材、比較例1の改質木材、及び比較例2の未処理木材に対して各々行った。この試験においては、各改質木材に50kW/mの熱源から熱を加え、スパーク点火器を用いて、各改質木材から発生したガスに着火試験も併せて行った。この結果を表2に示す。
但し、表2の発熱量評価における「○」は総発熱量が8MJ/m以下であることを示す。「×」は総発熱量が8MJ/mを超えることを示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2の結果より、比較例2の未処理木材(前記全ての各工程を行っていない上記タイプII合板の未塗装品)は、加熱を開始してから10秒で発生ガスに着火した。また、コーンカロリーメーター試験では5分後には既に総発熱量が23MJ/mであり、10分後には60MJ/mであり、8MJ/mを大幅に超える結果となった。また、比較例1の改質木材は、加熱してから32秒で発生ガスに着火した。しかし、コーンカロリーメーター試験では5分後の総発熱量は8MJ/mであった。その後、加熱を続けると10分後の総発熱量は12MJ/mであり、僅かに8MJ/mを超える結果となった。
これに対して、実施例1の改質木材は、加熱してから10分の間にわたって発生ガスに着火しなかった。また、コーンカロリーメーター試験では5分後及び10分後のいずれにおいても総発熱量は8MJ/m以下であった。
【0080】
[3]実施例2及び比較例3の改質木材の製造
{実施例2(燃焼抑制剤−含有)及び比較例3(燃焼抑制剤−非含有)}
(1)浸透孔形成工程
実験例2及び比較例3の出発木材として、各々含水率が約4.5%にまで乾燥された杉板(板目、厚さ35t×長さ220×幅220mm)を用いた。
これら実施例2及び比較例3の各々杉板の一面に、炭酸ガスレーザー加工機「ML3020D」(三菱電機株式会社製)を用いて、開口径φ0.7mm×深さ30mmの円柱形状の浸透孔を15mm間隔の格子点に合計約220ヶ所形成した(図2参照)。
【0081】
(2)珪酸化合物含浸前乾燥工程
上記(1)を経た各木材(図1の1)を、耐圧容器(図1の4)に収容し、耐圧容器内を減圧して約2.7kPa(20Torr)にして40分間保持し、木材中の水分及び空気を吸引除去した。この珪酸化合物含浸前乾燥工程により、木材全体を100質量%とした場合の水の含有量を約3%程度にした。
【0082】
(3)珪酸化合物液含浸工程
上記(2)の後に、常温(30℃)で耐圧容器(図1の4)内に珪酸ナトリウム(JIS3号)65部と珪酸リチウム(珪酸リチウム35)35部と混合物からなる珪酸化合物液(図1の5)を投入した。次いで、窒素ガスを用いて耐圧容器内の圧力を5MPa(50kg/cm)まで加圧した。この状態を20時間保持した。尚、この間に浸透効率を向上させるために減圧し次いで5MPaまで加圧する作業を2サイクル繰り返している。その後、耐圧容器内の圧力を開放し、次いで、耐圧容器内の珪酸化合物液を排出回収した。次いで、耐圧容器内から各木材を取り出し、表面に付着した珪酸化合物液を拭き取り、軽く乾燥させた。
【0083】
(4)ゲル化前乾燥工程
上記(3)の後に、前記[1](4)と同様にゲル化前乾燥工程を行った。
【0084】
(5)ゲル化工程
上記(4)の後に、前記[1](5)と同様にゲル化工程を行った。
その結果、上記(2)の珪酸化合物含浸前乾燥工程の後に測定した木材の質量を100%とすると、本(5)のゲル化工程後の木材の質量(ゲル化された珪酸化合物等を含む)は445%{このうち151.4%は固形分(シリカゲル)である}であった。
尚、改質木材を得る目的においてはこの測定は必要なく、引き続き次の工程を行うことができる。
【0085】
(6)燃焼抑制剤含浸前乾燥工程
その後、上記(5)を経た実施例2の木材(図1の1)のみをオートクレーブ(図1の7)内に収容し、オートクレーブの設定度を98℃に設定し、40分間乾燥させて、次の燃焼抑制剤液含浸工程において燃焼抑制剤がより浸透し易いように木材組織内に空隙を形成させた。
【0086】
(7)燃焼抑制剤液含浸工程
上記(6)の後に、前記[1](7)と同様に燃焼抑制剤液含浸工程を行った。但し、前記[1](7)におけるリン酸・窒素系燃焼抑制剤に換えて、リン・ホウ素系燃焼抑制剤(太平化学産業株式会社製、品名「タイエンD4」)を用いた。
その後、燃焼抑制剤液の含浸率を測定するために、耐圧容器内から実施例2の木材を取り出し、表面に付着した燃焼抑制剤液を拭き取った後、質量測定を行った。その結果、実施例2の上記(6)の燃焼抑制剤含浸前乾燥工程の後に測定した木材の質量(ゲル化された珪酸化合物等を含む)を100%とすると、本(7)の燃焼抑制剤液含浸工程後の木材に含有されるリン酸系燃焼抑制剤等は36.8%であった。
尚、改質木材を得る目的においてはこの測定は必要なく、引き続き次の工程を行うことができる。
【0087】
(8)燃焼抑制剤含浸後乾燥工程
上記(7)を経た実施例2の木材、及び上記(5)を経た比較例3の木材、の各々をオートクレーブ内に収容し、設定温度98℃で30分間保持した。
【0088】
(9)下地処理工程及び塗装工程
前記実施例1及び比較例3における[1](9)と同様に下地処理工程を行い、その後、更に[1](10)と同様に塗装工程を行った。
【0089】
[4]実施例2、比較例3及び比較例4の改質木材の評価
建築基準法施行令第1条5号に規定される準不燃材料に該当するか否かのコーンカロリーメーター試験を実施例2の改質木材、比較例3及び比較例4の未処理木材に対して各々行った。この試験においては、各改質木材に50kW/mの熱源から熱を加え、スパーク点火器を用いて、各改質木材から発生したガスに着火試験も併せて行った。この結果を表3に示す。
但し、表3の発熱量評価における「○」は総発熱量が8MJ/m以下であることを示す。「×」は総発熱量が8MJ/mを超えることを示す。
【0090】
【表3】

【0091】
表3の結果より、前記比較例4の未処理木材(前記全ての各工程を行っていない上記杉板の未塗装品)は、加熱を開始してから10秒で発生ガスに着火した。また、コーンカロリーメーター試験では5分後には既に総発熱量が23MJ/mであり、10分後には60MJ/mであり、8MJ/mを大幅に超える結果となった。また、比較例3の改質木材は、加熱してから49秒で発生ガスに着火した。しかし、コーンカロリーメーター試験では5分後の総発熱量は8MJ/mであった。その後、加熱を続けると10分後の総発熱量は9MJ/mであり、極僅かに8MJ/mを超える結果となった。
これに対して、実施例2の改質木材は、加熱してから10分の間にわたって発生ガスに着火しなかった。また、コーンカロリーメーター試験では5分後及び10分後のいずれにおいても総発熱量は8MJ/m以下であった。
【0092】
尚、本発明においては、上記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の改質木材の製造方法は木材加工分野に広く利用される。例えば、各種建築用木材が挙げられる。建築用木材としては、建築用内装材(天井材、間仕切材、壁材、床材等)、建築用構造部材(柱、梁、床、壁等の構造部材)、及び建築用開口部材(戸、窓、階段等の開口部材)等が挙げられる。その他、防火戸、防火戸木枠、木製サッシ、階段等としても利用される。更に、建築用木材に限られず、電柱、ベンチ、木冊、庭園橋、ガードレール等の木質材料として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の製造工程の一例を説明する工程図である。
【図2】浸透孔の一例を説明する模式的な、斜視図(A)及びa−a’断面図(B)である。
【図3】浸透孔の他例を説明する模試的な、斜視図(A)及びa−a’断面図(B)である。
【図4】浸透孔の方向を説明する模式的な斜視図である。
【図5】浸透孔の更に他例を説明する模試的な、斜視図(A)及びa−a’断面図(B)である。
【符号の説明】
【0095】
1:木材、2:浸透孔、3:木目、4;耐圧容器、5;珪酸化合物液、6;燃焼抑制剤液、7;オートクレーブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸化合物を含む珪酸化合物液を木材に含浸する珪酸化合物含浸工程と、
上記珪酸化合物含浸工程で該木材中に含浸された該珪酸化合物を、酸無水物ガスを用いて珪酸化合物ゲルにするゲル化工程と、
上記ゲル化工程を経た木材に、リン系燃焼抑制剤、ホウ素系燃焼抑制剤及びハロゲン系燃焼抑制剤のうちの少なくとも1種の燃焼抑制剤を含む燃焼抑制剤液を含浸する燃焼抑制剤含浸工程と、を備えることを特徴とする改質木材の製造方法。
【請求項2】
上記珪酸化合物液が上記木材に浸透することを補助する浸透孔を該木材に形成する浸透孔形成工程を備え、該浸透孔形成工程は上記珪酸化合物含浸工程の前に行う請求項1に記載の改質木材の製造方法。
【請求項3】
上記珪酸化合物含浸工程を経る前の木材を乾燥させる珪酸化合物含浸前乾燥工程を備え、該珪酸化合物含浸前乾燥工程は該珪酸化合物含浸工程の前に行う請求項1又は2に記載の改質木材の製造方法。
【請求項4】
上記ゲル化工程を経る前の木材を乾燥させるゲル化前乾燥工程を備え、該ゲル化前乾燥工程は上記珪酸化合物含浸工程後且つ該ゲル化工程前に行う請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の改質木材の製造方法。
【請求項5】
上記燃焼抑制剤含浸工程を経る前の木材を乾燥させる燃焼抑制剤含浸前乾燥工程を備え、該燃焼抑制剤含浸前乾燥工程は上記ゲル化工程後且つ上記燃焼抑制剤含浸工程前に行う請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の改質木材の製造方法。
【請求項6】
上記燃焼抑制剤含浸工程後に、該燃焼抑制剤含浸工程を経た木材を乾燥させる燃焼抑制剤含浸後乾燥工程を備え、
該燃焼抑制剤含浸後乾燥工程を経た木材に、シランカップリング剤及び反応性樹脂化合物の少なくとも一方の下地処理剤を含む下地処理液を浸透させる下地処理工程を備える請求項1乃至5のいずれかに記載の改質木材の製造方法。
【請求項7】
上記珪酸化合物はアルカリ珪酸塩である請求項1乃至6のうちのいずれかに記載の改質木材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate