説明

改質石炭の製造方法

【課題】軟化溶融特性が任意に調整された改質石炭の製造方法の提供。
【解決手段】石炭粒子と非水素供与性溶剤とを混合し、石炭粒子の可溶成分を非水素供与性溶剤中に抽出する抽出工程と、この抽出工程後の抽出残分の一部と抽出液との混合物から溶剤を除去する溶剤除去工程と、を有する改質石炭の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの原料炭等に使用される改質石炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス用原料には、高品位の粘結炭が主に使用されているが、この粘結炭は、高価であり、産出量も限られている。そのため、低品位の石炭を用いる方法が提案されている。例えば、非水素供与性溶剤を用いて石炭から石炭成分を加熱抽出し、灰分濃度を0.1重量%以下にした抽出炭をコークス原料に使用することが提案されている(例えば特許文献1参照)。このような抽出炭を配合炭原料に使用し、配合炭中における低粘結性石炭あるいは非粘結性石炭の割合を増やすことができる。
【0003】
ところで、コークスの製造では、数種類の原料石炭からなる配合炭を高温に加熱してコークス化させる工程を伴う。強度が高い良質なコークスを製造するためには、原料石炭の軟化溶融特性を最適化する必要がある。そのため、限定された石炭種から適した軟化溶融特性の石炭を選択することになるが、その選択した石炭が必ずしも最適な軟化溶融特性を有しているとは限らない。このような背景のもと、石炭の軟化溶融特性を最適化できる技術が求められる。
【特許文献1】特開2005−120185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記事情に鑑み、本発明は、軟化溶融特性が任意に調整された改質石炭の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、石炭粒子と非水素供与性溶剤とを混合し、前記石炭の可溶成分を前記溶剤中に抽出する抽出工程と、前記抽出工程後の抽出残分の一部と抽出液との混合物から溶剤を除去する溶剤除去工程と、を有することを特徴とする改質石炭の製造方法である。
【0006】
また、本発明は、石炭粒子と非水素供与性溶剤とを混合し、前記石炭の可溶成分を前記溶剤中に抽出する抽出工程と、前記抽出工程後の抽出残分と抽出液とを分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で分離した抽出残分の一部と前記固液分離工程で分離した抽出液とを混合する混合工程と、前記混合工程後の混合物の溶剤を除去する溶剤除去工程と、
を有することを特徴とする改質石炭の製造方法である。この方法での固液分離工程において分離される抽出残分には、石炭粒子が濃縮されている溶剤も含まれる。
【0007】
また、本発明は、石炭粒子と非水素供与性溶剤とを混合し、前記石炭の可溶成分を前記溶剤中に抽出する抽出工程と、前記抽出工程後の抽出残分の一部と抽出液との混合物を抜き出す混合物分離工程と、前記混合物の溶剤を除去する溶剤除去工程と、を有することを特徴とする改質石炭の製造方法である。
【0008】
上記各製造方法は、コークス用改質石炭の製造方法として好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法では、抽出残分の一部と抽出液との混合物から非水素供与性溶剤の除去を行うので、混合物中の抽出残分の量を適宜変更することが可能となり、軟化溶融等の特性が任意に調整された改質石炭を製造できる。また、本発明の方法で製造された改質石炭は、その成分が均一に分布し、均質で安定した品質となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施形態に基づき以下に説明する。本実施形態の改質石炭の製造方法は、石炭と抽出溶剤とを混合し、抽出溶剤に可溶な石炭成分(以下、抽出炭)を抽出溶剤に抽出する抽出工程と、抽出炭を含有する抽出溶剤(以下、抽出液)と抽出後の石炭(以下、抽出残分)との混合物から抽出溶剤を除去する溶剤除去工程と、を順次経る方法である。なお、本発明の方法において、抽出残分と抽出液とからなる混合物を調製する方法は、特に限定されない。
【0011】
第一実施形態係る方法においては、抽出工程と溶剤除去工程との間に、抽出工程後の抽出残分と抽出液とを分離する固液分離工程と、固液分離工程後の抽出残分の一部と抽出液とを混合する混合工程と、が更に設けられている。
【0012】
図1は、本発明の第一実施形態に係る方法で使用される装置の構成図である。以下、この図1を参照しつつ説明する。図示の装置は、抽出溶剤を供給する溶剤供給槽1と、石炭を供給する石炭供給槽2と、溶剤供給槽1と石炭供給槽2とからの供給物を受けるスラリー調製槽3と、スラリー調製槽3で調製された抽出溶剤と石炭との混合物を受ける抽出槽4と、抽出槽4の混合物を抽出液と抽出残分濃縮スラリーとに分離する沈降槽5と、沈降槽5の下部から排出された抽出残分濃縮スラリーを受ける抽出残分受器6と、抽出残分受器6内の抽出残分濃縮スラリーから抽出溶剤を蒸発分離する残分溶剤回収装置8と、沈降槽5の上部から排出された抽出液を受ける抽出液受器7と、抽出液受器7の抽出液から溶剤を蒸発分離する抽出液溶剤回収装置9と、を備えている。この装置においては、抽出残分受器6と抽出残分溶剤回収装置8との間に抽出残分を抽出液受器7に導入するための導入管10aが設けられている。そして、この装置は、適宜に開閉する不図示の弁を適宜に備えている。
【0013】
先ず、抽出工程について説明する。この工程では、溶剤供給槽1と石炭供給槽2とからスラリー調製槽3に石炭および抽出溶剤が供給され、スラリー調製槽3の石炭および抽出溶剤の混合物が抽出槽4に供給される。
【0014】
溶剤供給槽1からスラリー調製槽3に供給される抽出溶剤には、非水素供与性溶剤が使用される。一般的に溶剤として使用されるベンゼン、トルエン、キシレンなどの一環芳香族化合物は、石炭成分の抽出率が小さく、抽出温度を高く設定するときには、その設定にするための圧力が高くなる。また、N-メチルピロリドンやピリジンなどの極性溶剤を用いた場合には、石炭成分の抽出率は高いが、溶剤が石炭と強力に結合し、石炭から溶剤を除去することが困難となる。また、アントラセンなどの三環以上の芳香族化合物では、沸点が高すぎるために石炭と溶剤との分離が困難となる。更に、石炭の液化方法等で用いられるテトラリンなどの水素供与性溶剤は、石炭を可溶化または液化して高い抽出率を示すが、溶剤中の水素が石炭分子に移動するため、溶剤回収を行っても直ちに再使用することができない。以上の理由から、本実施形態では、抽出溶剤に非水素供与性溶剤を使用する。
【0015】
この非水素供与性溶剤には、石炭の乾留処理や石油系重質油の接触分解処理で得られる沸点が200〜250℃程度の2環芳香族を主成分とする溶剤、例えば、メチルナフタレン、ナフタレン、およびタール軽油から選択される一種または二種以上を主成分とする溶剤が好適に使用される。
【0016】
石炭供給槽2からスラリー調製槽3に供給される石炭は、高品位炭および低品位炭のいずれであってもよく、限定されるものではない。即ち、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭等が該当する。この石炭は、抽出炭の抽出効率および製造する改質石炭における抽出炭の均一分布を高めるために、5mm以下の粒子に粉砕されていることが適当である。
【0017】
スラリー調製槽3では、供給された石炭と抽出溶剤との混合が行われ、石炭と抽出溶剤とがスラリー状混合物とされる。
【0018】
抽出槽4では、所定の抽出温度で石炭から抽出炭を抽出溶剤に抽出する。このときの抽出温度は、300〜420℃が好ましい。300℃より低い温度である場合、石炭構成分子間の結合力を弱めることが不十分となって、抽出炭の抽出率が低くなってしまう。一方の420℃を超える温度である場合も、石炭の熱分解反応で生成したラジカルの再結合が起こるため、抽出炭の抽出率が低くなる。なお、抽出温度においても溶剤が沸点に達することがないように圧力が調整されることになり、通常、0.8〜2.5MPaの範囲に調整することが好ましい。また、不活性ガス(例えば、窒素)の存在の下、抽出を行う。
【0019】
次に、固液分離工程について説明する。
【0020】
本実施形態における固液分離工程は、沈降槽5で行われる。この沈降槽5は、重力沈降法によるものであり、ここでは、抽出工程で抽出溶剤に不溶であった抽出残分と抽出液との分離が行われる。このとき、溶剤温度および圧力を抽出工程と同じ温度および圧力範囲に設定することが好ましい。
【0021】
沈降槽5の上部から排出される抽出液は、抽出液受器7に導入される。一方で、沈降槽5の下部から排出される抽出残分は、抽出残分が濃縮されたスラリーとして抽出残分受器6に排出される。
【0022】
なお、後述の如く、抽出残分の一部は、混合工程で使用されるが、残りの抽出残分は、抽出残分溶剤回収装置8において蒸発乾固やスプレードライ等の方法で溶剤を除去することで、固形の抽出残分として回収される。また、除去した溶剤を再び抽出溶剤と使用しても良い。
【0023】
次に、混合工程について説明する。
【0024】
混合工程では、本実施形態において、抽出残分受器6の抽出残分の一部を導入管10aを通じて抽出液受器7に供給し、抽出液受器7内で抽出残分と抽出液との混合が行われる。抽出炭の改質石炭内における均一分布を高めるためには、抽出液と抽出残分とのスラリー状混合物を抽出液に混合することが好ましい。
【0025】
抽出残分の混合量は、その量により軟化溶融性等の改質石炭の性状が変化することから、所望の性状を有する改質石炭を得るための任意量を混合する。従って、分離した抽出残分の一部を混合する。例えば、改質石炭における抽出残分と抽出炭の比率が、抽出残分:抽出炭=1:0.1〜10000の比率となるように混合すると良い。改質石炭をコークス用に使用する場合は、抽出残分と抽出炭の性状によっても異なるが、概ね、抽出残分:抽出炭=1:0.1〜1000に調整することが好適である。
【0026】
次に溶剤除去工程を説明する。
【0027】
混合工程の後に抽出溶剤の除去が行われる。この除去は、抽出残分と抽出液との混合物を抽出液受器7から抽出液溶剤回収装置9に導入し、蒸留法やスプレードライ法等で実行される。抽出溶剤が除去されると、改質石炭が得られる。なお、除去した抽出溶剤を回収することにより、抽出工程の抽出溶剤として再利用しても良い。
【0028】
以上の工程を経て得られる改質石炭は、抽出残分と抽出炭の混合比率が制御されているので、所望の特性の改質石炭となる。また、本方法では、抽出残分比率を任意にできるので、ある種の石炭から様々な性状の石炭が得られる。更に、改質石炭中における抽出残分と抽出炭の分布が均一になり易いので、軟化溶融性等の性質の局在化が抑えられた均質で品質の安定した改質石炭が得られる。
【0029】
次に、本発明の第二実施形態を、図を参照しつつ説明する。図2は、第二実施形態に係る方法で使用される装置の構成図である。本実施形態は、上述の第一実施形態と類似するものであり、第一実施形態と異なる点のみを説明する。
【0030】
この第二実施形態では、図2に示す如く、抽出残分受器6と抽出残分溶剤回収装置8との間に設けられた導入管10bが、抽出液受器7ではなく、抽出液溶剤回収装置9に接続されている。つまり、第二実施形態では、抽出残分が溶剤を除去する抽出溶剤回収装置9に直接導入される。すなわち、抽出液および抽出残分濃縮スラリーの混合と、溶剤の蒸発分離とが、同時に抽出液溶剤回収装置9内で同時に行われる。
【0031】
以上の通り本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、様々な変更が可能である。例えば、上記実施形態では、固液分離工程を沈降槽を使用して行うとしたが、濾過による固液分離も当然可能である。また、上記実施形態では、沈降槽から抽出残分受器を経由した後に抽出残分を抽出液と混合するものであるが、沈降槽の適宜な位置から直接スラリーを排出することで、任意の抽出残分が混合された抽出液を取り出すことも可能である。また、混合工程で抽出液と混合する抽出残分は、溶剤が除去された後の残分であっても良い。
【0032】
また、上記実施形態では、抽出残分の一部と抽出液との混合物の調製を、抽出残分を分離した後に行うとしているが、抽出工程後において抽出残分の一部を含む抽出液を抜き出すことも混合物の調製となる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0034】
抽出溶剤(メチルナフタレン)と粉砕した瀝青炭(石炭A)または褐炭(石炭B)とを80:20の重量比にしたスラリー状の混合物を調製した。次に、このスラリー状の混合物を温度が370℃、圧力が2MPaの条件で1時間抽出処理を行った。そして、重力沈降槽を使用し、その沈降槽の上部から抽出液を取り出し、下部から抽出液および抽出残分からなるスラリー状混合物を取り出した。その後、重力沈降槽の上部から取り出した抽出液と下部から取り出したスラリー状混合物との比率を変化させて混合物を調製した。次に、蒸発乾固により抽出溶剤を除去して、改質石炭を得た。
【0035】
得られた改質石炭の工業分析値(JIS M 8812に基づいて測定)、およびギーセラープラストメータ測定(JISM 8801に基づく)により軟化溶融特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から、抽出残分の含有率により、灰分や揮発分の含有率が変化し、軟化開始温度などの軟化溶融特性が変化したことを確認できる。また、石炭の種類により、その効果が異なることが分かる。
【0038】
上記工業分析値およびギーセラープラストメータ測定とは別に、改質石炭を樹脂に埋め込み、断面を削りだしてデジタルマイクロスコープで観察した。代表例として、実施例6の観察結果を図3に示す。図3は改質石炭の断面を750倍率で撮影した断面の拡大写真である。
【0039】
図3において、黒色部分が抽出炭の部分であり、数μm程度の大きさの灰色の粒状部分が抽出残分である。このように,抽出炭の内部に抽出残分の微粒子が均一に分散していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第一実施形態に係る方法で使用される装置の構成図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る方法で使用される装置の構成図である。
【図3】実施例6の改質石炭の断面写真(750倍率)である。
【符号の説明】
【0041】
1 溶剤供給槽
2 石炭供給槽
3 スラリー調製槽
4 抽出槽
5 沈降槽
6 抽出残分受器
7 抽出液受器
8 抽出残分溶剤回収装置
9 抽出液溶剤回収装置
10a、10b 導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭粒子と非水素供与性溶剤とを混合し、前記石炭の可溶成分を前記溶剤中に抽出する抽出工程と、
前記抽出工程後の抽出残分の一部と抽出液との混合物から溶剤を除去する溶剤除去工程と、
を有することを特徴とする改質石炭の製造方法。
【請求項2】
石炭粒子と非水素供与性溶剤とを混合し、前記石炭の可溶成分を前記溶剤中に抽出する抽出工程と、
前記抽出工程後の抽出残分と抽出液とを分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程で分離した抽出残分の一部と前記固液分離工程で分離した抽出液とを混合する混合工程と、
前記混合工程後の混合物の溶剤を除去する溶剤除去工程と、
を有することを特徴とする改質石炭の製造方法。
【請求項3】
石炭粒子と非水素供与性溶剤とを混合し、前記石炭の可溶成分を前記溶剤中に抽出する抽出工程と、
前記抽出工程後の抽出残分の一部と抽出液との混合物を抜き出す混合物分離工程と、
前記混合物の溶剤を除去する溶剤除去工程と、
を有することを特徴とする改質石炭の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のコークス用改質石炭の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−161955(P2007−161955A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363276(P2005−363276)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【特許番号】特許第3920899号(P3920899)
【特許公報発行日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省新エネルギー・産業技術総合開発機構「石炭利用技術振興事業 石炭利用次世代技術開発調査 ハイパーコール利用高効率燃焼技術の開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】