説明

改質繊維布帛およびその製造方法

本発明の改質繊維布帛は、繊維布帛上で、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン若しくは2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンから選択されるホスホリルコリン類似基含有単量体および/又はその重合体である成分(X)、下記一般式(1)で示される2官能性単量体である成分(A)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基のうちいずれかの基を含む単量体である成分(B)、および少なくとも1個のアジリジン基を含む単量体である成分(C)を重合させてなることを特徴とする。


本発明の改質繊維布帛は、柔軟性やドレープ性等の風合いを確保しつつ、吸水性・吸湿性に優れ、耐久性に優れ、高いスキンケア効果も有するものである。本発明の改質繊維布帛は、特に肌に直接的に且つ継続的に接触する用途、例えば、肌着、衣服、手袋、靴下、寝具等の用途に好適に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、肌に直接触れる用途に用いて好適な改質繊維布帛およびその製造方法に関するものである。特に、柔軟性やドレープ性等の風合いを確保しつつ、高い吸水性・吸湿性を有し、汗等の吸収性に優れ、耐久性に優れ、スキンケア効果(肌に対する保湿効果等)も有する低刺激の改質繊維布帛およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
繊維布帛の表面に各種界面活性剤を付着させて吸水性・吸湿性を高め、汗等による不快感を回避すると共に、防汚加工を施す技術が多数提案されている。例えば、特開昭63−6166号公報には、繊維布帛に脂肪族エステル型ノニオン系界面活性剤を付着させる処理が開示されており、特開平10−8380号公報には、繊維布帛にソルビタンアルキル脂肪酸エステルを付着させる処理が開示されている。
しかしながら、これらの処理を施した繊維布帛はいずれも、洗濯等によって界面活性剤が脱落しやすい。そのため、長期に渡って吸水性・吸湿性を維持することができず、耐久性が不十分である。加えて、界面活性剤は肌との親和性が低く、肌に対する刺激についての配慮も十分ではない。
そこで、繊維布帛に耐久性のある吸水性処理を施す手段として、ビニルモノマーをはじめとする各種のモノマーを繊維布帛上で重合させる技術が開示されている(例えば、特開昭58−169569号公報、特開平08−48735号公報、特開平08−209540号公報等)。また、架橋されたビニルスルホン酸ポリマーと変性オルガノシリケート等の薬剤を用いて繊維布帛上で重合させることにより、耐久性のある吸水性処理を施すと同時に、防汚(黒ずみ防止)加工を施すことができることが開示されている(特開平11−61647号公報)。
これらの処理は主にアクリル系モノマーを繊維布帛上で重合させることによって、繊維布帛に吸水性・吸湿性を付与することを企図したものである。しかしながら、かかる処理では、顕著な吸水性・吸湿性の付与はできない。加えて、スキンケア効果(肌に対する保湿効果等)は期待できない。
一方、ホスホリルコリン類似基含有化合物である2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンや2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンは、生体膜の主成分であるリン脂質(ホスファチジルコリン)と類似した構造を有し、生体適合性(血液適合性、生体物質非吸着性等)に優れることが知られている(特公昭60−21599号公報等)。また、これら化合物は、防汚性や保湿性を有することも知られている。
例えば、化粧品の分野では、肌荒れを防止するなどを目的として、各種化粧剤中に、生体高分子、ヒアルロン酸ナトリウム等の保湿剤や、動植物油等の油分を配合することが行われているが、上記のホスホリルコリン類似基含有化合物がスキンケア効果を有し、保湿剤として利用できることが報告されている(例えば、特開平09−315935号公報、特開平09−315949号公報)。
かかる背景下、繊維布帛にスキンケア効果を付与することを目的として、上記のホスホリルコリン類似基含有化合物を繊維布帛に接触させる処理が提案されている(特開2001−200480号公報、特開2002−146676号公報)。
しかしながら、かかる処理では、若干の吸水性・吸湿性の向上は認められるものの、ホスホリルコリン類似基含有化合物は繊維布帛の表面にのみ付着するため、高い吸水性・吸湿性は得られない。特に、疎水性の合成繊維布帛に対して顕著な吸水性・吸湿性を付与することはできない。また、吸水性・吸湿性を向上させるべく、ホスホリルコリン類似基化合物の濃度を大きくし、その付着量を増やすと、いわゆる糊付け状態となり、柔軟性やドレープ性等の風合いに支障を来たす。また、耐久性(耐洗濯性等)についてはこれまで全く検証されていないが、ホスホリルコリン類似基含有化合物を繊維布帛の表面に付着させただけでは、耐久性は期待できない。
【発明の開示】
本発明は、柔軟性やドレープ性等の風合いを確保しつつ、吸水性・吸湿性に優れ、耐久性(耐洗濯性等)に優れ、スキンケア効果も有する低刺激の改質繊維布帛およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者はかかる目的を達成するべく鋭意検討した結果、特定の繊維処理液を用いて繊維布帛上で重合させることにより、ホスホリルコリン類似基含有化合物を繊維の表面のみならず内部にも導入することができることを見出し、本発明を完成した。なお、用いる繊維処理液も新規なものである。
本発明の改質繊維布帛は、繊維布帛上で、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン若しくは2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンから選択されるホスホリルコリン類似基含有単量体および/又はその重合体である成分(X)、下記一般式(1)で示される2官能性単量体である成分(A)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基のうちいずれかの基を含む単量体である成分(B)、および少なくとも1個のアジリジン基を含む単量体である成分(C)を重合させてなることを特徴とする。

(但し、式(1)中、Rは

−C2n−(ここで、nは1〜6の整数を示す。)のうちいずれかを表す。Zは水素原子又はメチル基を表す。aおよびbはa+bが0〜50の範囲にある正の整数を表し、xおよびyはx+yが0〜30の範囲にある0又は正の整数を表す。また、a+b+x+yは10以上である。)
本発明によれば、成分(X)および成分(A)〜(C)が繊維の表面および内部に導入された改質繊維布帛を提供することができる。また、本発明によれば、繊維布帛に、成分(X)および成分(A)〜(C)がグラフト重合された改質繊維布帛を提供することができる。ここで、成分(X)が繊維の表面および内部に導入された改質繊維布帛や、繊維布帛に成分(X)がグラフト重合された改質繊維布帛も新規なものであり、これらの改質繊維布帛も本発明に含まれる。
本発明の繊維処理液は、成分(X)および成分(A)〜(C)を含むことを特徴とする。
本発明の第1の改質繊維布帛の製造方法は、前記の本発明の繊維処理液を繊維布帛に接触させる接液工程と、繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合させる重合工程とを有することを特徴とする。
また、本発明の第2の改質繊維布帛の製造方法は、成分(A)〜(C)を含む繊維処理液を繊維布帛に接触させる第1の接液工程と、繊維布帛上で成分(A)〜(C)を重合させる第1の重合工程と、成分(A)〜(C)を重合させた繊維布帛に、成分(X)の溶液を接触させる第2の接液工程と、繊維布帛上で成分(X)を重合させる第2の重合工程とを有することを特徴とする。
これらの製造方法によって、成分(X)および成分(A)〜(C)が重合された上記の本発明の改質繊維布帛を製造することができる。なお、第1の製造方法では、成分(X)と成分(A)〜(C)とを同時に重合させるのに対し、第2の製造方法では、成分(A)〜(C)を重合させた後、成分(X)を重合させることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係る実施例1および比較例1、2の評価結果を示す図である。
図2は、本発明に係る実施例1および比較例1、2の評価結果を示す図である。
図3は、本発明に係る実施例2および比較例3の評価結果を示す図である。
図4は、本発明に係る実施例2および比較例3の評価結果を示す図である。
図5は、本発明に係る実施例3および比較例4、5の評価結果を示す図である。
図6は、本発明に係る実施例3および比較例4、5の評価結果を示す図である。
図7は、本発明に係る実施例4および比較例6の評価結果を示す図である。
図8は、本発明に係る実施例4および比較例6の評価結果を示す図である。
図9は、本発明に係る実施例5および比較例7、8の評価結果を示す図である。
図10は、本発明に係る実施例5および比較例7、8の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳述する。
[改質繊維布帛]
本発明の改質繊維布帛は、繊維布帛上で、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン若しくは2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンから選択されるホスホリルコリン類似基含有単量体および/又はその重合体である成分(X)、下記一般式(1)で示される2官能性単量体である成分(A)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基のうちいずれかの基を含む単量体である成分(B)、および少なくとも1個のアジリジン基を含む単量体である成分(C)を重合させてなることを特徴とするものである。

(但し、式(1)中、Rは

−C2n−(ここで、nは1〜6の整数を示す。)のうちいずれかを表す。Zは水素原子又はメチル基を表す。aおよびbはa+bが0〜50の範囲にある正の整数を表し、xおよびyはx+yが0〜30の範囲にある0又は正の整数を表す。また、a+b+x+yは10以上である。)
なお、「ホスホリルコリン類似基含有単量体の重合体」とは、ホスホリルコリン類似基含有単量体のホモポリマーの他、ホスホリルコリン類似基含有単量体と他の単量体とのコポリマーを含むものとする。
本発明の改質繊維布帛には、(i)繊維布帛に成分(X)および成分(A)〜(C)がグラフト重合されたものと、(ii)繊維布帛上で、成分(X)および成分(A)〜(C)のホモポリマーおよび/又はこれらの複数種が共重合したコポリマーが生成されたものと、(iii)一部の成分が繊維布帛にグラフト重合し、残りの成分が繊維布帛上でホモポリマーおよび/又はコポリマーを生成したものが含まれる。これらの中でも特に、(i)繊維布帛に成分(X)および成分(A)〜(C)がグラフト重合されたものが好ましい。
基材となる繊維布帛の構成繊維としては特に限定されないが、綿、羊毛、絹、麻等の天然繊維や、ナイロン、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリトリメチレンテレフタレート等の合成繊維、あるいはこれらから選択される複数種からなる混紡繊維や複合繊維等が挙げられる。本発明は、ナイロン等のポリアミド繊維やポリエステル繊維、あるいはこれらの繊維を含む混紡繊維(例えば、ポリエステル/綿からなる混紡繊維など)や複合繊維からなる布帛に対して、特に顕著な効果を奏する。これらの布帛は疎水性が高く、通常の処理では吸水性・吸湿性の付与が困難であるが、本発明はこれらの布帛に対しても効果的に吸水性・吸湿性を付与することができる。
繊維布帛の形態も特に限定されず、織物、編物、不織布等が挙げられる。また、精練、染色、抗菌加工、SR加工、防炎加工、帯電防止加工などが施されたものであっても良い。また、衣類等の製品に加工したものであっても良いし、加工する前のものであっても良い。
本発明に用いる成分(X)は既知の化合物であり、化粧品、各種医療用材料、コンタクトレンズ等に利用されている。成分(X)は、分子内にアニオン基とカチオン基の双方を有する両性イオン化合物である。そのため、非常に親水性が強く、高い保水性能を有し、水溶液に添加した場合、水溶液の表面張力を著しく低下させる特性を有している。さらに、分子内に不対電子対を有する元素PおよびNを複数有するため、繊維布帛の種類に関係なく、繊維布帛に定着し易く、一旦その表面に定着・固着した場合には非常に脱離し難いという特性を有している。
加えて、成分(X)は生体膜の主成分であるリン脂質(ホスファチジルコリン)の極性基と同様の構造を有しており、生体との親和性に優れている。ここで、ホスファチジルコリンは、生体内細胞の構成成分であって、動植物界に広く分布しており、水中でリポソームを形成したとき、ラメラ層においてホスファチジルコリン1分子当たり約10個の水分子と結合することが知られている。また、レシチンに代表されるリン脂質は、細胞膜と類似の成分であり、肌に対する親和性が高く、化粧品の分野では肌荒れの緩和や肌の柔軟化等の目的で配合されている。
次に、成分(X)と併用する他の成分について説明する。
成分(A)は上記一般式(1)で示される2官能性単量体であれば特に限定されないが、その具体例としては、下記一般式(2)〜(5)で表される化合物等が挙げられる。


成分(B)は水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基のうちいずれかの基を含む単量体であれば特に限定されないが、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、マレイン酸、イタコン酸、クルトン酸、ビニルスルホン酸、2−アリロキシ2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、下記一般式(6)〜(8)で表される化合物等が挙げられる。

(但し、式(6)中、cおよびdは、c+dが5以上となる0又は正の整数を示す。)

(但し、式(7)中、eは5以上の整数を示す。)

成分(C)は1個のアジリジン基を含む単量体もしくは2個以上のアジリジン基を含む多官能性単量体であれば特に限定されない。その具体例としては、下記一般式(9)〜(13)で表される化合物等が挙げられる。


本発明の改質繊維布帛は、成分(X)を導入したものであるので、成分(X)の特性、すなわち、吸水性・吸湿性を有し、スキンケア効果に優れるという特性を有する。
さらに、本発明者は、成分(X)と成分(A)〜(C)とを併用することにより、成分(X)の重合反応を促進することができ、成分(X)を繊維の表面のみならず内部にも効果的に導入することができることを見出した。そして、成分(X)が繊維の表面のみならず内部に導入された改質繊維布帛は、成分(X)が繊維の表面にのみ付着したものに比して、いわゆる糊付け状態となることがなく、柔軟性やドレープ性等の風合いを確保しつつ、吸水性・吸湿性に著しく優れると共に、成分(X)が水中に溶出したり脱離することがほとんどなく、耐久性にも著しく優れる。特に、成分(X)が繊維布帛にグラフト重合されたものは、成分(X)が繊維布帛と強固に結合するため、成分(X)が繊維の内部に導入されることと相俟って、より一層高い耐久性が実現できる。なお、成分(X)が繊維の表面および内部に導入された改質繊維布帛や、繊維布帛に成分(X)がグラフト重合された改質繊維布帛も新規なものである。
加えて、成分(X)と併用する成分(A)〜(C)も吸水性・吸湿性に優れた成分であり、しかもこれらの成分は繊維内部に容易に拡散して重合する。したがって、成分(A)〜(C)を重合することにより、繊維の表面のみならず内部にも吸水性・吸湿性に優れた成分(A)〜(C)を導入することができる。そのため、成分(X)を単独で用いる場合に比して、より高い吸水性・吸湿性が得られる。また、繊維の内部に導入された成分(A)〜(C)は脱離し難く、耐久性にも優れる。特に、これらの成分がグラフト重合されたものは、繊維布帛と強固に結合するため、繊維の内部に導入されることと相俟って、より一層高い耐久性が実現できる。
したがって、繊維布帛上で成分(X)と成分(A)〜(C)とを重合した本発明の改質繊維布帛は、風合いを確保しつつ、繊維の表面から内部に渡って吸水化・吸湿化処理が施されたものであり、吸水性・吸湿性に極めて優れると共に、耐久性に極めて優れ、しかも高いスキンケア効果を有するものとなる。
そして、本発明の改質繊維布帛によれば、スポーツ中や夏季等の発汗の多い時期、就寝中などにも汗等を速やかに吸収して、使用者に爽快感を与えることができる。また、肌が過敏な使用者にも肌刺激が少なく、肌を保湿したり、肌荒れの自然治癒を促す等のスキンケア効果を与えることも可能である。
[改質繊維布帛の製造方法]
次に、上記の本発明の改質繊維布帛の製造方法について説明する。
(第1の製造方法)
本発明の第1の製造方法は、繊維布帛上で、成分(X)と成分(A)〜(C)とを同時に重合させることを特徴とする。すなわち、成分(X)および成分(A)〜(C)を含む繊維処理液を繊維布帛に接触させる接液工程と、繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合させる重合工程とを有することを特徴とするものである。なお、本発明の第1の製造方法で用いる繊維処理液も新規なものであり、これを用いることにより、上記の本発明の改質繊維布帛を簡易に製造することができる。
繊維処理液中の成分(X)の濃度は特に限定されず、用いる繊維布帛等に応じて適宜設定されるが、0.01〜10.0質量%程度が好適である。成分(X)の濃度が0.01質量%未満では、繊維布帛に成分(X)を定着(重合)させるのに長時間を要する。成分(X)の濃度が10.0質量%超では、繊維処理液の粘性が増大し、繊維布帛への成分(X)の定着(重合)が不均一になる恐れがあると共に、未反応化合物が残留し、風合いに支障を来たす恐れもある。
繊維処理液中の成分(A)の濃度は特に限定されないが、1〜20質量%程度が好ましい。また、成分(A)、(B)、(C)の配合比も特に限定されないが、1:0.01〜1:0.01〜1が好ましい。
繊維処理液に用いる溶媒としては特に限定されないが、水や有機溶媒(アルコール類、ジメチルホルムアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド等)が使用できる。なお、溶媒は1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用することもできる。中でも、肌への刺激が小さく生体への影響が小さいことから、溶媒として、水性溶媒を用いることが好ましく、特に水および/又は炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールを用いることが好ましい。炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
また、繊維処理液には、成分(X)、(A)〜(C)および溶媒の他、各種添加剤を添加しても良い。例えば、メラミン系樹脂、グリオキサール系樹脂、エポキシ系樹脂等の反応性樹脂やイミン系架橋剤等の架橋剤を添加し、成分(X)および成分(A)〜(C)の重合に際し、これらを架橋させても良い。また、過酸化カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、ベンゾイルパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、ターシャリーブチルパーオキシド等の重合開始剤を添加しても良い。また、より高い保湿効果を発現させるために、セリシン、絹フィブロイン、コラーゲン、プロティン等の天然高分子を添加しても良い。
繊維処理液は、例えば、成分(X)を水性溶媒(例えば、水および/又は炭素数1〜3の脂肪族低級アルコール)に溶解した水性溶液に、成分(A)〜(C)と必要に応じて各種添加剤を添加することにより調製することができる。
繊維布帛に繊維処理液を接触させる方法としては特に限定されないが、浸漬処理法やパディング法等が挙げられる。例えば、パディング法では、繊維布帛に繊維処理液を接触させた後、必要に応じて繊維布帛を絞り、繊維処理液の付着量を調整する。さらに、必要に応じて50〜130℃程度で加熱乾燥(乾熱処理)する。なお、乾熱処理だけでは重合反応は進行しにくい。
以上の処理を行った後、重合を行う。成分(X)及び成分(A)〜(C)の重合は、繊維処理液が付着した繊維布帛に対して、湿熱処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、マイクロ波照射処理等の処理を施すことによって行うことができる。湿熱処理を採用する場合には、例えば、水蒸気を満たした90〜140℃程度の雰囲気中にて1〜90分間程度処理すれば良い。また、電子線照射処理、紫外線照射処理、マイクロ波照射処理を採用する場合には、接液工程の前にあらかじめ電子線、紫外線、マイクロ波を照射しておいても良いし、接液工程の後に照射を行っても良い。また、電子線照射処理、紫外線照射処理、マイクロ波照射処理を採用する場合には、重合反応の際に周囲の雰囲気を窒素等により置換すると、発生したラジカルの消失を防ぎ、重合成分の有効利用率の向上を図ることができるので好ましい。
本発明では、この工程において、繊維の表面のみならず、繊維の内部でも重合反応が進行する。なお、本発明の製造方法では、(i)繊維布帛に成分(X)および成分(A)〜(C)がグラフト重合される場合と、(ii)繊維布帛上で、成分(X)および成分(A)〜(C)のホモポリマーおよび/又はこれらの複数種が共重合したコポリマーが生成される場合と、(iii)一部の成分が繊維布帛にグラフト重合し、残りの成分が繊維布帛上でホモポリマーおよび/又はコポリマーを生成する場合が含まれる。但し、(i)繊維布帛に成分(X)および成分(A)〜(C)をグラフト重合することが好ましい。
重合反応終了後、繊維布帛に付着している未反応化合物を除去するため、洗浄を行うことが好ましい。
また、本発明の製造方法では、接液工程の前、あるいは重合工程の後に、繊維布帛に対して公知の抗菌剤、SR剤、防炎剤、帯電防止剤等を付与することも可能である。
(第2の製造方法)
本発明の第2の製造方法は、繊維布帛上で、成分(A)〜(C)を重合させた後、成分(X)を重合させることを特徴とする。すなわち、成分(A)〜(C)を含む繊維処理液を繊維布帛に接触させる第1の接液工程と、繊維布帛上で成分(A)〜(C)を重合させる第1の重合工程と、成分(A)〜(C)を重合させた繊維布帛に、成分(X)の溶液を接触させる第2の接液工程と、繊維布帛上で成分(X)を重合させる第2の重合工程とを有することを特徴とするものである。
ここで、成分(A)〜(C)を含む繊維処理液や、成分(X)の溶液に用いる溶媒としては、上記の本発明の第1の製造方法で用いる繊維処理液と同様の溶媒を用いることができる。
また、成分(A)〜(C)を含む繊維処理液の調製方法、繊維布帛に繊維処理液を接触させる方法、成分(A)〜(C)の重合方法は、成分(X)を用いないことを除けば、上記の第1の製造方法と同様である。また、繊維布帛に成分(X)の溶液を接触させる方法や、繊維布帛上で成分(X)を重合させる方法は、繊維布帛に成分(A)〜(C)を含む繊維処理液を接触させる方法や、成分(A)〜(C)の重合方法と同様である。
本発明の第1、第2の製造方法によれば、風合いを確保しつつ、吸水性・吸湿性に極めて優れ、耐久性に極めて優れ、高いスキンケア効果も有する上記の本発明の改質繊維布帛を簡易に製造することができる。
なお、繊維布帛上で、成分(A)〜(C)を重合させた後、成分(X)を重合させる第2の製造方法によっても、成分(X)の重合促進効果が得られ、成分(X)を繊維の表面のみならず繊維の内部にも導入することができる。但し、繊維布帛上で、成分(X)と成分(A)〜(C)とを同時に重合させる第1の製造方法の方が、成分(X)の重合促進効果が高く、吸水性・吸湿性や耐久性により優れた改質繊維布帛を製造することができる。また、工程数が少ない点からも、第1の製造方法は好適である。
【実施例】
次に、本発明に係る実施例および比較例について説明する。各例において改質繊維布帛を含む繊維布帛を作製し、評価を行った。
(評価項目および評価方法)
評価項目および評価方法は以下の通りとした。
<リン脂質成分量>
作製した繊維布帛を1cm×1cmに切断し、アセトンで脱脂処理を行った後、X線光電子分光装置(ESCA3300、株式会社島津製作所製)により表面分析を行い、繊維布帛に導入されたリン脂質成分量の評価として、P/C原子数比を測定した。用いた装置の検出限界は0.03%であった。
<スキンケア効果>
アセトンとエーテルの混合溶媒で弱い肌荒れを発生させ、肌荒れを発生させた箇所に作製した繊維布帛を接触させた。肌荒れ直前、肌荒れ直後、繊維布帛を接触させてから3時間後について各々肌からの水分蒸散量(TEWL:Trans Epidermal Water Loss)を測定し、下記式により定義するスキンケア指数を求めた。TEWLは、Tewameter TM210(Courage Khazaka社製)を用いて測定した。
スキンケア指数=(試験布帛接触3時間後のTEWL−肌荒れ直前のTEWL)/(肌荒れ直後のTEWL−肌荒れ直前のTEWL)×100(%)
<吸湿性>
衣料素材の熱・水分移動特性測定装置(T−Hパーミヤビリティテスタ、株式会社東洋精機製作所製)にて、20℃、65%RHの環境下とし、作製した繊維布帛内の湿度変化を測定した。この試験においては湿度の減少率や減少速度が大きい程、繊維布帛の吸湿性が高いことを示す。
<耐久性>
上記のリン脂質成分量、スキンケア効果、吸湿性の評価を、初期(洗濯前)と20回洗濯後の計2回行い、耐久性を評価した。
洗濯は、洗濯試験JIS L−0217 103法に基づいて以下のようにして行った。
試験装置の水槽の標準水量を示す水位線まで液温40℃の水を入れ、これに標準使用量となる割合で洗濯用合成洗剤を添加して溶解し、洗濯液とする。この洗濯液に浴比が、1対30になるように試料を投入して運転を開始する。5分間処理した後、運転を止め、試料を脱水機で脱水し、次に洗濯液を30℃以下の新しい水に替えて、同一の浴比で2分間すすぎ洗いを行う。2分間のすすぎ洗いを行った後、運転を止め、試料を脱水し、再び2分間すすぎ洗いを行い、脱水し、直接日光の影響を受けない状態でつり干し又は平干しする。その後、必要に応じて素材繊維の適正温度でドライアイロン仕上げを行う。
【実施例1】
生地質量が110g/mのポリエステル仮撚加工糸を用いたポンジ織物に対して、常法にてリラックス、精練、プレセット、アルカリ減量加工、染色を順次行った。この繊維布帛を基材として用い、改質処理を行った。
表1に示す組成の繊維処理液を調製し、これをパディング法にて繊維布帛に付与した。絞り率は60質量%とした。その後、110℃98%RHのスチームで5分間処理する湿熱処理を施し、重合を行った。重合反応終了後、洗浄、仕上げセットを行った。得られた改質繊維布帛について評価を行った。

(比較例1)
実施例1と同じポリエステルポンジ織物を用い、常法にてリラックス、精練、プレセット、アルカリ減量加工、染色、仕上げセットを順次行い、ポリエステル100%のタフタ織物を得た。得られた繊維布帛について評価を行った。
(比較例2)
表2に示す組成の繊維処理液を調製した以外は実施例1と同様にして、改質繊維布帛を得た。得られた改質繊維布帛について評価を行った。

(実施例1および比較例1、2の評価結果)
実施例1および比較例1、2で得られた繊維布帛のP/C原子数比、スキンケア指数、吸湿性試験結果をそれぞれ表3、図1、図2に示す。
繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合して改質した実施例1では、表3に示すように、得られた改質繊維布帛の初期のP/C原子数比が0.58%であり、リン脂質である成分(X)が導入されていることが確認された。また、20回洗濯後もP/C原子数比の減少は小さく、成分(X)は脱離し難い状態で定着していることが確認された。これは成分(X)が繊維の表面のみならず内部にも導入されたためである。この改質繊維布帛は、柔軟性やドレープ性等の風合いも良好であった。また、図1、図2に示すように、この改質繊維布帛は、初期および20回洗濯後の双方において、高いスキンケア効果および高い吸湿性を示した。また、実施例1で得られた改質繊維布帛は、初期および20回洗濯後の双方において、大きな特性変化はなく、耐久性に優れるものであった。
これに対して、親水化処理を行わなかった比較例1では、得られた繊維布帛は、スキンケア効果、吸湿性がいずれも実施例1に比較して著しく劣るものであった。
また、繊維布帛上で成分(X)のみを重合して改質した比較例2では、得られた改質繊維布帛の初期のP/C原子数比が0.50%であり、リン脂質である成分(X)が導入されていることが確認された。しかしながら、20回洗濯後にはP/C原子数比が著しく減少し、洗濯によってほとんどの成分(X)は脱離した。これは成分(X)が繊維の表面にのみ導入されたためである。また、成分(X)が繊維の表面にのみ導入されたため、初期の吸湿性も実施例1に比較して著しく劣るものであった。また、この改質繊維布帛は、初期には高いスキンケア効果が得られたが、20回洗濯後には、成分(X)の脱離に伴ってスキンケア効果が大きく低下した。このように、比較例2で得られた繊維布帛は、吸湿性、耐久性が不十分であった。

【実施例2】
生地質量が150g/mのポリエステル仮撚加工糸を用い、28ゲージのインターロック編物を作製した。このポリエステル編物に対して、常法にてリラックス、精練、プレセット、染色を順次行った。この繊維布帛を基材として用い、改質処理を行った。
実施例1と同じ繊維処理液をパディング法にて繊維布帛に付与した。絞り率は80質量%とした。次いで、120℃で3分間乾燥後、105℃97%RHのスチームで60分間処理する湿熱処理を施し、重合を行った。重合反応終了後、仕上げセットを行った。得られた改質繊維布帛について評価を行った。
(比較例3)
実施例2と同じポリエステル編物(ポリエステル仮撚加工糸を用いた28ゲージのインターロック編物)を用い、常法にてリラックス、精練、プレセット、染色、仕上げセットを順次行い、ポリエステル100%のニット編物を得た。得られた繊維布帛について評価を行った。
(実施例2および比較例3の評価結果)
実施例2および比較例3で得られた繊維布帛のP/C原子数比、スキンケア指数、吸湿性試験結果をそれぞれ表4、図3、図4に示す。
繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合して改質した実施例2では、実施例1と同様、得られた改質繊維布帛は、成分(X)が脱離し難い状態で定着しており、風合いが良好であり、初期および20回洗濯後の双方において、高いスキンケア効果および高い吸湿性を示し、耐久性に優れるものであった。
これに対して、親水化処理を行わなかった比較例3では、得られた繊維布帛は、スキンケア効果、吸湿性がいずれも実施例2に比較して著しく劣るものであった。

【実施例3】
生地質量が100g/mのナイロンタフタに対して、常法にて精練、プレセット、染色を順次行った。この繊維布帛を基材として用い、改質処理を行った。
表5に示す組成の繊維処理液を調製し、パディング法にて繊維布帛に付与した。絞り率は50質量%とした。その後、105℃98%RHのスチームで5分間処理する湿熱処理を施し、重合を行った。重合反応終了後、洗浄、乾燥、仕上げセットを行った。得られた改質繊維布帛について評価を行った。

(比較例4)
実施例3と同じナイロンタフタを用い、常法にて精練、プレセット、染色、乾燥、仕上げセットを順次行い、ナイロン100%のタフタ織物を得た。得られた繊維布帛について評価を行った。
(比較例5)
表6に示す組成の繊維処理液を調製した以外は実施例3と同様にして、改質繊維布帛を得た。得られた改質繊維布帛について評価を行った。

(実施例3および比較例4、5の評価結果)
実施例3および比較例4、5で得られた繊維布帛のP/C原子数比、スキンケア指数、吸湿性試験結果をそれぞれ表7、図5、図6に示す。
繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合して改質した実施例3では、実施例1と同様、得られた改質繊維布帛は、成分(X)が脱離し難い状態で定着しており、風合いが良好であり、初期および20回洗濯後の双方において、高いスキンケア効果および高い吸湿性を示し、耐久性に優れるものであった。
これに対して、親水化処理を行わなかった比較例4では、得られた繊維布帛は、スキンケア効果、吸湿性がいずれも実施例3に比較して著しく劣るものであった。
また、繊維布帛上で成分(X)のみを重合して改質した比較例5では、比較例2と同様、得られた繊維布帛には成分(X)が導入されていたものの、繊維の表面にのみ付着していたため、吸湿性が不十分であった。また、成分(X)が脱離しやすく、耐久性も不十分であった。

【実施例4】
生地質量が120g/mのナイロントリコット編物に対して、常法にて精練、プレセット、染色を順次行った。この繊維布帛を基材として用い、改質処理を行った。
実施例3と同じ繊維処理液を用い、パディング法にて繊維布帛に付与した。絞り率は80質量%とした。次いで、120℃で5分間乾燥後、115℃97%RHのスチームで30分間処理する湿熱処理を施し、重合を行った。重合反応終了後、仕上げセットを行った。得られた改質繊維布帛について評価を行った。
(比較例6)
実施例4と同じナイロントリコット編物に対して、常法にてプレセット、染色、乾燥、仕上げセットを順次行い、ナイロン100%のトリコット編物を得た。得られた繊維布帛について評価を行った。
(実施例4および比較例6の評価結果)
実施例4および比較例6で得られた繊維布帛のP/C原子数比、スキンケア指数、吸湿性試験結果をそれぞれ表8、図7、図8に示す。
繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合して改質した実施例4では、実施例1と同様、得られた改質繊維布帛は、成分(X)が脱離し難い状態で定着しており、風合いが良好であり、初期および20回洗濯後の双方において、高いスキンケア効果および高い吸湿性を示し、耐久性に優れるものであった。
これに対して、親水化処理を行わなかった比較例6では、得られた繊維布帛は、スキンケア効果、吸湿性がいずれも実施例4に比較して著しく劣るものであった。

【実施例5】
生地質量が150g/mのブロード織物(経糸:ポリエステル100%、緯糸:ポリエステル65%および綿35%の紡績糸)に対して、常法にてリラックス、精練、プレセット、アルカリ減量加工、染色を順次行った。この繊維布帛を基材として用い、改質処理を行った。
表9に示す組成の繊維処理液を調製し、パディング法にて繊維布帛に付与した。絞り率は70質量%とした。その後、110℃98%RHのスチームで5分間処理する湿熱処理を施し、重合を行った。重合反応終了後、洗浄、仕上げセットを行った。得られた改質繊維布帛について評価を行った。

(比較例7)
実施例5と同じブロード織物に対して、常法にてリラックス、精練、プレセット、アルカリ減量加工、染色、仕上げセットを順次行った。得られた繊維布帛について評価を行った。
(比較例8)
実施例5と同じブロード織物に対して、実施例5と同様に、リラックス、精練、プレセット、アルカリ減量加工、染色を順次行った。この繊維布帛を基材として用い、改質処理を行った。
表10に示す組成の繊維処理液を調製し、パディング法にて繊維布帛に付与した。絞り率は70質量%とした。その後、120℃で3分乾燥後、170℃で1分加熱する仕上げセットを行った。得られた繊維布帛について評価を行った。
なお、このように、繊維処理液を付与した後、乾熱処理を行っただけでは、重合反応は進行しない。

(実施例5および比較例7、8の評価結果)
実施例5および比較例7、8で得られた繊維布帛のP/C原子数比、スキンケア指数、吸湿性試験結果をそれぞれ表11、図9、図10に示す。
繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合して改質した実施例5では、実施例1と同様、得られた改質繊維布帛は、成分(X)が脱離し難い状態で定着しており、風合いが良好であり、初期および20回洗濯後の双方において、高いスキンケア効果および高い吸湿性を示し、耐久性に優れるものであった。
これに対して、親水化処理を行わなかった比較例7では、得られた繊維布帛は、スキンケア効果、吸湿性がいずれも実施例5に比較して著しく劣るものであった。
また、繊維布帛に成分(X)を含む溶液を接触させたが、その後乾熱処理のみを行い、重合を行わなかった比較例8では、成分(X)が導入されていることが確認された。しかしながら、20回洗濯後にはP/C原子数比が著しく減少し、洗濯によってほとんどの成分(X)は脱離した。これは成分(X)が単量体のまま、繊維の表面にのみ付着したためである。また、成分(X)が繊維の表面にのみ導入されたため、初期の吸湿性も実施例5に比較して著しく劣るものであった。また、この改質繊維布帛は、初期には高いスキンケア効果が得られたが、20回洗濯後には、成分(X)の脱離に伴ってスキンケア効果が大きく低下した。このように、比較例8で得られた繊維布帛は、吸湿性、耐久性が不十分であった。

以上の実施例、比較例から、繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合することにより、成分(X)を繊維の表面のみならず内部にも定着させることができ、吸湿性に優れると共に、耐久性に優れ、高いスキンケア効果を有する改質繊維布帛が得られることが判明した。なお、以上の実施例では、成分(X)として、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン又はその重合体を用いた場合についてのみ説明したが、本発明者は、成分(X)として2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンや2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン、あるいはこれらの重合体を用いても同様の結果が得られることを確認している。また、以上の実施例では、繊維布帛上で成分(X)と成分(A)〜(C)とを同時に重合する場合についてのみ説明したが、本発明者は、成分(A)〜(C)を重合してから成分(X)を重合しても同様の結果が得られることを確認している。
【産業上の利用可能性】
特定の重合反応を採用した本発明によれば、柔軟性やドレープ性等の風合いを確保しつつ、吸水性・吸湿性に優れ、耐久性に優れ、高いスキンケア効果も有する低刺激の改質繊維布帛およびその製造方法を提供することができる。
本発明の改質繊維布帛は、特に肌に直接的に且つ継続的に接触する用途、例えば、肌着、衣服、衣服等の裏地、手袋、靴、靴下、スポーツ衣料、寝具(シーツ、カバー、布団側等)、タオル等の用途に好適に利用することができる。これらの用途に利用すれば、柔軟性やドレープ性等の風合いを確保しながら、汗等を速やかに吸収して使用者に爽快感を与えると共に、肌刺激が少なく、好適である。また、使用者に対して、肌を保湿したり、肌荒れの自然治癒を促す等のスキンケア効果を与えることも可能である。
なお、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。また、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛上で、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン若しくは2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンから選択されるホスホリルコリン類似基含有単量体および/又はその重合体である成分(X)、下記一般式(1)で示される2官能性単量体である成分(A)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基のうちいずれかの基を含む単量体である成分(B)、および少なくとも1個のアジリジン基を含む単量体である成分(C)を重合させてなることを特徴とする改質繊維布帛。

(但し、式(1)中、Rは

−C2n−(ここで、nは1〜6の整数を示す。)のうちいずれかを表す。Zは水素原子又はメチル基を表す。aおよびbはa+bが0〜50の範囲にある正の整数を表し、xおよびyはx+yが0〜30の範囲にある0又は正の整数を表す。また、a+b+x+yは10以上である。)
【請求項2】
成分(X)および成分(A)〜(C)が繊維の表面および内部に導入されていることを特徴とする請求項1に記載の改質繊維布帛。
【請求項3】
繊維布帛に、成分(X)および成分(A)〜(C)がグラフト重合されたものであることを特徴とする請求項1に記載の改質繊維布帛。
【請求項4】
繊維布帛上で、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン若しくは2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンから選択されるホスホリルコリン類似基含有単量体および/又はその重合体である成分(X)を重合させてなり、成分(X)が繊維の表面および内部に導入されていることを特徴とする改質繊維布帛。
【請求項5】
繊維布帛に、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン若しくは2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンから選択されるホスホリルコリン類似基含有単量体および/又はその重合体である成分(X)をグラフト重合させてなることを特徴とする改質繊維布帛。
【請求項6】
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン若しくは2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンから選択されるホスホリルコリン類似基含有単量体および/又はその重合体である成分(X)、下記一般式(1)で示される2官能性単量体である成分(A)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基のうちいずれかの基を含む単量体である成分(B)、および少なくとも1個のアジリジン基を含む単量体である成分(C)を含むことを特徴とする繊維処理液。

(但し、式(1)中、Rは

−C2n−(ここで、nは1〜6の整数を示す。)のうちいずれかを表す。Zは水素原子又はメチル基を表す。aおよびbはa+bが0〜50の範囲にある正の整数を表し、xおよびyはx+yが0〜30の範囲にある0又は正の整数を表す。また、a+b+x+yは10以上である。)
【請求項7】
溶媒として、水および/又は炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールを含有することを特徴とする請求項6に記載の繊維処理液。
【請求項8】
請求項6に記載の繊維処理液を繊維布帛に接触させる接液工程と、
繊維布帛上で成分(X)および成分(A)〜(C)を重合させる重合工程とを有することを特徴とする改質繊維布帛の製造方法。
【請求項9】
前記重合工程において、繊維布帛に成分(X)および成分(A)〜(C)をグラフト重合させることを特徴とする請求項8に記載の改質繊維布帛の製造方法。
【請求項10】
下記一般式(1)で示される2官能性単量体である成分(A)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基のうちいずれかの基を含む単量体である成分(B)、および少なくとも1個のアジリジン基を含む単量体である成分(C)を含む繊維処理液を繊維布帛に接触させる第1の接液工程と、
繊維布帛上で成分(A)〜(C)を重合させる第1の重合工程と、
成分(A)〜(C)を重合させた繊維布帛に、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン若しくは2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリンから選択されるホスホリルコリン類似基含有単量体および/又はその重合体である成分(X)の溶液を接触させる第2の接液工程と、
繊維布帛上で成分(X)を重合させる第2の重合工程とを有することを特徴とする改質繊維布帛の製造方法。

(但し、式(1)中、Rは

−C2n−(ここで、nは1〜6の整数を示す。)のうちいずれかを表す。Zは水素原子又はメチル基を表す。aおよびbはa+bが0〜50の範囲にある正の整数を表し、xおよびyはx+yが0〜30の範囲にある0又は正の整数を表す。また、a+b+x+yは10以上である。)
【請求項11】
前記繊維処理液および成分(X)の溶液は、溶媒として、水および/又は炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールを含むことを特徴とする請求項10に記載の改質繊維布帛の製造方法。
【請求項12】
前記第1の重合工程において、繊維布帛に成分(A)〜(C)をグラフト重合させると共に、前記第2の重合工程において、繊維布帛に成分(X)をグラフト重合させることを特徴とする請求項10に記載の改質繊維布帛の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/025016
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535851(P2004−535851)
【国際出願番号】PCT/JP2002/009431
【国際出願日】平成14年9月13日(2002.9.13)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【Fターム(参考)】