説明

放出ピン部材及びそれを用いた静電霧化装置

【課題】機能性成分を含むミストを外部に放出する静電霧化装置において、必要以上の高電圧を印加することなく、多量のミストを外部に放出することが可能な放出ピン部材及びそれを用いた静電霧化装置に関する。
【解決手段】機能性成分を含むミストを外部に放出する静電霧化装置において、放出ピン部材本体と、導電性材料とを有し、前記放出ピン部材本体は、多孔質体又は繊維成型体からなり、前記導電性材料は、導電性グラファイト配合材からなり、前記放出ピン部材本体に前記導電性材料を担持させることを特徴とする放出ピン部材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性成分を含むミストを外部に放出する静電霧化装置において、必要以上の高電圧を印加することなく、多量のミストを外部に放出することが可能な放出ピン部材及びそれを用いた静電霧化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高電圧を印加することで不揮発性機能性成分を含む水を霧化させ、ミストとして放出する静電霧化装置が知られている。不揮発性機能性成分としては、例えば、ビタミンC・アミノ酸等の機能性成分が入った水、アロマオイル、消臭材等が使用されている。一般的に静電霧化装置は、貯水部から水を放出ピン部材の先端部まで毛細管現象で搬送し、先端部が多孔質体から形成される放出ピン部材まで水が引き上げられ、該放出ピン部材に高電圧を印加することにより、先端部からミストを放出する。しかしながら、従来の静電霧化装置においては、水タンクに補給する水が、水道水のようなCa、Mg等のミネラル成分を含む水であった場合には、このミネラル成分が空気中のCOと反応して吸水体の霧化部にCaCOやMgO等を析出付着させ、ミストの発生を妨げることがあった。この問題点に対し、特許文献1では、水搬送経路中にミネラル成分を除去するためのイオン交換部を設けることで、尖った霧化部において空気中のCOとの反応によりCaCOやMgO等の析出付着が防止され、定期的なメンテナンスを行わずとも継続的に使用することが可能な静電霧化装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−255091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の高電圧を印加しミストを発生させる霧化部を有する静電霧化装置においては、その構成において、放出ピン部材先端部を構成する多孔質体が空気に触れ、酸化反応を起こすことで酸化物が付着し、多孔質体を目詰まりさせるという別の問題があった。このように多孔質体が目詰まりすると、毛細管現象による水の搬送を阻害し、静電霧化が起こりにくくなるという現象が起こるため、放出ピン部材先端部に析出付着して目詰まりしている酸化物等を除去するメンテナンスを行ったり、ミスト放出のために必要以上に高電圧を印加する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために、ミスト放出のための放出ピン部材に着目し鋭意検討を行った結果、放出ピン部材本体に導電性材料を担持させることで、必要以上の高電圧を印加することなく多量のミストを放出することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明に係る放出ピン部材は、
機能性成分を含むミストを外部に放出する静電霧化装置において、
放出ピン部材本体と、導電性材料とを有し、
前記放出ピン部材本体は、
多孔質体又は繊維成型体からなり、
前記導電性材料は、
導電性グラファイト配合材からなり、
前記放出ピン部材本体に前記導電性材料を担持させることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の放出ピン部材は、
前記放出ピン部材本体において、導電性材料を表面に塗布することにより導電性材料を担持させることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の放出ピン部材は、
前記放出ピン部材本体において、導電性材料を内部に含有させることにより導電性材料を担持させることを特徴とする。
【0009】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の放出ピン部材は、
前記多孔質体又は繊維成型体がセラミック材料、金属材料、合成樹脂材料、天然樹脂材料の1種類または2種類以上を複合化して形成されたことを特徴とする
【0010】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の放出ピン部材は、
前記導電性グラファイト配合材の導電性グラファイト配合率が10〜30重量%であることを特徴とする。
【0011】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の放出ピン部材を用いた静電霧化装置は、
貯水部と、
貯水部から吸水し水を保持する保水部と、
保水部に突設されたミストを外部に放出する放出ピン部材と、
放出ピン部材に高電圧を印加する印加電極と
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放出ピン部材に導電性材料を担持させることで、必要以上の高電圧を印加することなく多量のミストを放出することが可能となり、併せて機能性成分を含むミストによる除菌効果が向上するという効果を奏する。同時に、多孔質体が目詰まりすることがないため、長期間にわたってメンテナンスをすることなく安定的に静電霧化が行えるという利点がある。放出ピン部材本体に導電性材料を担持させるには、導電性材料を放出ピン部材本体表面に塗布すること、又は導電性材料を内部に含有させることにより達成し得る。
【0013】
また、本発明によれば、前記多孔質体又は繊維成型体がセラミック材料、金属材料、合成樹脂材料、天然樹脂材料の1種類または2種類以上を複合化して形成されたことを特徴とするため、放出ピン部材の最終的な用途に応じて最適な材料を選択することができる。
【0014】
また、本発明によれば、本発明に係る放出ピン部材は、前記導電性材料は導電性グラファイト配合率が10〜30重量%であることを特徴とするため、放出ピン部材の抵抗値を抑え必要以上の高電圧を印加することなくミストを外部に放出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る静電霧化装置の実施の一形態を示す概略図である。
【図2】多孔質体又は繊維成型体からなる放出ピン部材本体の断面図である。
【図3】導電性材料を放出ピン部材本体へ塗布する工程を示す説明図である。
【図4】導電性材料を放出ピン部材本体へ塗布する工程を示す説明図である。
【図5】放出ピン部材の形状の種類を示す説明図である。
【図6】導電性グラファイト配合率による放出ピン部材の電気抵抗値の変化を示す説明図である。
【図7】ミスト発生量測定における設備の説明図である。
【図8】ミスト発生量測定の結果を示すグラフである。
【図9】除菌効果測定における設備の説明図である。
【図10】除菌効果測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態により、本発明を説明するが、以下の実施例は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施例を通じて説明される特徴が本発明を限定するものでもない。
【0017】
本発明に係る放出ピン部材は、機能性成分を含むミストを外部に放出する静電霧化装置において、放出ピン部材本体と、導電性材料とを有し、前記放出ピン部材本体は、多孔質体又は繊維成型体からなり、前記導電性材料は、導電性グラファイト配合材からなり、前記放出ピン部材本体に前記導電性材料を担持させることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る静電霧化装置とは、高電圧を印加することで機能性成分を含む水を霧化させ、ミストとして放出するものである。静電霧化装置は、貯水部と、貯水部から吸水し水を保持する保水部と、保水部に突設されたミストを外部に放出する放出ピン部材と、放出ピン部材に高電圧を印加する印加電極とを備えることを特徴とする。このうち、放出ピン部材は、保水部に突設され、保水部に保持された機能性成分を含む水を吸い上げ、その先端部からミストを外部に放出する役割を果たす。従って、放出ピン部材は高い吸水力及び保水力を備えることが必要となる。これは、機能性成分を含む水を保水部に留まらせることなく効率的に放出ピン部材に吸い上げ、ミストを外部に放出させるためである。
【0019】
放出ピン部材は、多孔質体又は繊維成型体から形成される放出ピン部材本体に導電性材料を担持させることからなる。多孔質体又は繊維成型体は、セラミック材料、金属材料、合成樹脂材料、天然樹脂材料の1種類または2種類以上を複合化して形成される。
【0020】
多孔質体とは、内部に無数の微小な空孔をもつ材料のことを指し、該多孔質体は独立した微細泡の集合体であるよりも、無数の微細孔が連続しているものを使用する方が、機能性成分を含む水を吸い上げる上で好ましい。例えば、セラミック粒子や金属粒子を棒状体として焼結させた多孔体や、ウレタン樹脂やスチレン樹脂等の発泡体を棒状体として形成したものが挙げられる。繊維成型体とは、多数の繊維状物を収束して自己融着もしくは接着剤等により部分的もしくは全体的に接着して一体化し、その網目状空隙を機能性成分を含む水の流路として形成される材料のことを指す。例えば、セラミックス繊維(セラミックスファイバー、ガラス繊維等)、有機繊維(ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維等)、金属繊維(ステンレス繊維、銅繊維、チタン繊維等)又はこれらを混合したものを棒状体として形成したものが挙げられる。
【0021】
セラミック材料とは、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニアのような単一酸化物、または、ムライト、ゼオライト、ベントナイト、セビオライト、アタパルジャイト、シリマナイト、カオリン、セリサイト、珪藻土、長石、蛙目粘度、珪酸塩化合物(パーライト、バナミキュライト、セリサイト等)等のいずれか、又は前記のものの少なくともひとつを含む組合せからなるものを指すが、これに限定されるものではない。金属材料とは、ステンレス、銅、チタン、スズ、プラチナ、金、銀等が挙げられるが、これに限定されるものではない。合成樹脂材料とは、ポリエステル、ナイロンやレーヨン、ウレタン(ポリウレタンを含む)、アクリル、ポリプロピレン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。天然樹脂材料とは、パルプ繊維、綿、ウール繊維、麻繊維等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0022】
さらに、繊維成型体は中空繊維を複数本、集束固定化して形成してもよい。中空繊維とは内部に空洞を有するストロー状の繊維をいい、極細管、キャピラリー、中空糸等と同義に使用される。中空繊維の外径は、0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下であり、内径は10μm以上50μm以下が好ましい。中空繊維に使用する原材料は、中空繊維に加工可能なものであれば、有機材料、無機材料のいずれでも良く、例えば、ナイロン6(登録商標)、ナイロン66(登録商標)、芳香族ポリアミド等のポリアミド系の各種繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカーボネート等のポリエステル系の各種繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル系の各種繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系の各種繊維、ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリレート系の各種繊維、ポリビニルアルコール系の各種繊維、ポリ塩化ビニリデン系の各種繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン系の各種繊維、フェノール系繊維、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等からなるフッ素系繊維、カーボンナノチューブ等の炭素系繊維等の材料が挙げられる。
【0023】
放出ピン部材の形状は、セラミック材料等を棒状体として形成したものが挙げられるが、形状はこれに限定されるものではなく、楕円柱形状、円錐形状、角柱形状等でもよい。また、放出ピン部材先端部は、平面状よりも丸みを帯びた曲面形状であることが好ましい。鋭利に尖った形状であると、放出ピン部材先端部まで電流が行き渡らず、機能性成分を含む水を十分に保持できず好ましくないためであり、放出ピン部材先端部が適度な丸みを有する形状であればよい。
【0024】
前記多孔質体又は繊維成型体の材質及び構造により水の吸水特性が異なるため、時間当たりの水の吸い上げ量を測定することで、該多孔質体又は繊維成型体の放出性能が決定される。放出性能は、多孔質体又は繊維成型体の有する時間当たりの吸水率で性能が決定され、いずれの素材においてもその吸水率は30〜100%程度が適しているが、特に材質別にみれば、セラミック材料では30〜80%が好ましく、金属材料では10〜60%が好ましく、合成樹脂材料及び天然樹脂材料では70〜110%が好ましい。なお、吸水率とは、飽水状態の多孔質体又は繊維成型体に含まれている全水量の、絶対乾燥状態の多孔質体又は繊維成型体質量に対する百分率のことを指す。
【0025】
本発明の導電性材料は、導電性を有する任意の物質が使用できる。例えば、金属、金属酸化物、金属微粉末又は炭素等の導電性物質の分散物、導電性ポリマー、金属繊維及び炭素繊維等の導電性物質が使用できる。放出ピン部材本体に担持される導電性材料は、例えば導電性グラファイト配合材が挙げられる。本発明の導電性グラファイト配合材とは、導電性グラファイトを含む導電性材料のことを指す。導電性材料はこれに限定されず、ポリアニリン、ポリアセチレン等の導電性材料を被覆してもよく、また、金属等の導電性材料を多孔質体又は繊維質体からなる放出ピン部材本体に含有させてもよい。さらに、導電性を有する金属繊維を放出ピン部材本体に織り込むことで導電性材料を放出ピン部材本体に担持させてもよい。
【0026】
放出ピン部材本体への導電性グラファイト配合材の塗布は、次の手順により行う。まず、導電性グラファイト配合材として導電性グラファイト調整液を、グラファイトペースト、アクリル系エマルジョンであるバインダーZ850、界面活性剤である希釈液の3種類の溶液を配合し作製する。グラファイトペーストは導電性グラファイト微粒子を、界面活性剤であるEDTAを保護膜として分散させたペースト状の溶液のことを指す。界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら3種類の溶液を混合させることで導電性グラファイト調整液を作製する。
【0027】
上述のように作製された導電性グラファイト調整液に、放出ピン部材本体を1分間程度浸漬させ、室温で約1時間乾燥させた後に80℃に設定した乾燥機で3時間以上乾燥を行い、放出ピン部材を得る。また、導電性グラファイト調整液を放出ピン部材本体に吹き付けることにより導電性グラファイト配合材の塗布を行ってもよい。ここで、保水部に突設された放出ピン部材の下面部からは毛細管現象により吸水が行われるため、導電性グラファイト配合材は剥離させておく必要がある。剥離方法は特に限定されるものではないが、下面部をマスキングテープ等で予め覆っておくことで容易に剥離させることができる。
【0028】
導電性グラファイト配合材が被覆された放出ピン部材は、被覆しないものと比較し、電気抵抗値が大幅に低下することで、必要以上の高電圧を印加することなく、多量のミストを外部に放出することが可能となる。また、導電性グラファイト配合材表面においては酸化反応が起こらないため、酸化物による放出ピン部材の目詰まりがなく、長期間にわたってメンテナンスをすることなく安定的に静電霧化が行える。電気抵抗値とミスト発生量の関係については後述の実施例にて詳述する。
【0029】
なお、放出ピン部材本体に導電性材料を担持させるために、放出ピン部材本体の形成時にその材料内に導電性グラファイト配合材を担持させ、放出ピン部材本体へ導電性グラファイト配合材を含有させてもよい。
【0030】
完成した放出ピン部材を突設する保水部は、放出ピン部材本体と同様、セラミック材料、金属材料、合成樹脂材料、天然樹脂材料の1種類または2種類以上を複合化して形成される多孔質体又は繊維成型体からなり、形状は特に限定されるものではない。また、多孔質体もしくは繊維成型体以外でも、優れた吸水力及び保水力を有する構造であれば、ハニカム構造やコルゲート構造、またパイプ状、シート状、プリーツ状等も挙げられる。なお、保水部は放出ピン部材と比較し低い吸水力及び保水力を有するため、保水材に吸水した水を保水材に留まらせることなく、放出ピン部材へと吸い上げさせ、外部にミストを放出させることができる。
【0031】
放出ピン部材に高電圧を印加する印加電極は、例えば、4〜10kV程度のDCマイナス電圧を発生させる電源であり、その負極が導線を介して保水材に接続され、水または機能性成分を含む水溶液を保持する保水材を負に帯電させている。印加電極の負極を保水材に接続することにより、電流は最も放電し易い場所を求めて流れ、通常、先端が尖っている場所や金属等通電性に優れた場所に集まる性質を利用して、放出ピン部材へと集まることになる。このように放出ピン部材に高電圧を印加することで、自然放電現象により放出ピン部材から外部へミストを放出させることができる。なお、印加電極の正極を保水材に接続し、正電荷を付与してもよい。
【0032】
貯水部は、機能性成分を含む機能性水溶液を収容するとともに、毛細管現象等を利用して、常時、保水材に機能性成分を含む水溶液を供給する。貯水部の容量や形状等は特に限定されるものではないが、必要ミスト放出量に従って適宜選択することが好ましい。
【0033】
貯水部に収容される機能性水溶液の機能性成分としては、ビタミンC(L−アスコルビン酸)、ビタミンCエステル((L−アスコルビン酸リン酸マグネシウム、L−アスコルビン酸リン酸ナトリウム、リン酸アスコルビンマグネシウム等)、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンD、ビタミンDα−リボ酸、アミノ酸、茶菓抽出物(カテキン、タンニン、サポニン、テアニン、カフェイン等)、ヒアルロン酸、コラーゲン、アロマ精油(ラベンダー、ローズマリー、レモングラス、ティートリー、セージ、クローブ、オレンジ、グレープフルーツ、シナモン、ジャスミン等)、コーヒー豆、茶菓、ワサビ、ヒノキチオール、キチン、キトサン、プロポリス等のような有機系可溶性成分が挙げられ、その他、無機物(無機系可溶性成分)では、銀または食塩が挙げられる。また、白金ナノ粒子、パラジウムナノ粒子等も使用することができる。
【0034】
ここで、「機能性」とは、生活環境を快適にして、健康に改善できる性質をいい、消臭性(脱臭、分解等)、抗微生物性(抗菌性、殺菌性、静菌性、抗カビ性、抗ウイルス性等)、リラクゼーション性、保湿性、抗酸化性、有害小生物忌避性、静電気抑制性、防塵性等のうち、少なくとも一種類の性質を有することを意味する。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の放出ピン部材に係る実施例について、図面を参照して詳述する。
【0036】
図1は本発明に係る静電霧化装置10の実施の一形態を示す概略図である。図において、静電霧化装置10は、貯水部12と、貯水部12から吸水し水を保持する保水部13と、保水部13に突設されたミストを外部に放出する放出ピン部材11と、放出ピン部材11に高電圧を印加する印加電極14とを備えることを特徴とする。このうち、放出ピン部材11は、保水部13に突設され、印加電極14から負極15が接続され、保水部13に保持された機能性成分を含む水16を吸い上げ、その先端部11aからミスト17を外部に放出する役割を果たす。
【0037】
図2は、多孔質体18又は繊維成型体19からなる放出ピン部材本体20の断面図である。図2(a)、(b)に示すように多孔質体18又は繊維成型体19は、セラミック材料、金属材料、合成樹脂材料、天然樹脂材料の1種類または2種類以上を複合化して形成される。
【0038】
図3及び図4は、導電性材料21を放出ピン部材本体20へ塗布する工程を示す説明図である。放出ピン部材11は、多孔質体18又は繊維成型体19から形成される放出ピン部材本体20に導電性材料21を担持させることからなる。導電性材料21として、導電性グラファイト微粒子を用いてグラファイトペーストを作製する。グラファイトペーストは、導電性グラファイト微粒子を界面活性剤を保護膜として分散させた黒色粘性ペースト水溶液であり、鱗片状グラファイト微粒子、EDTA(界面活性剤)、蒸留水を、20.0重量%:1.9重量%:78.1重量%の割合で配合する。作製したグラファイトペーストをアクリル系エマルジョンであるバインダーZ850、界面活性剤である希釈液と共に配合させ導電性グラファイト調整液を作製する。作製された導電性グラファイト調整液に、放出ピン部材本体20を1分間程度浸漬させ、室温で約1時間乾燥させた後に80℃に設定した乾燥機で3時間以上乾燥を行い、放出ピン部材11を得る。また、導電性グラファイト調整液を放出ピン部材本体20に吹き付けることにより導電性グラファイト配合材の塗布を行ってもよい。ここで、保水部13に突設された放出ピン部材11の下面部からは毛細管現象により吸水が行われるため、導電性グラファイト配合材は剥離させておく必要がある。剥離方法は特に限定されるものではないが、下面部をマスキングテープ等で予め覆っておくことで容易に剥離させることができる。
【0039】
図5には放出ピン部材11の形状を示す。放出ピン部材11の形状は、セラミック材料等を棒状体として形成したものが挙げられるが、放出ピン部材先端部11aは、(a)に示すように鋭角尖端状、(b)に示すように平面状よりも、(c)に示すように、丸みを帯びた曲面形状であることが好ましい。鋭利に尖った形状であると、放出ピン部材先端部11aまで電流が行き渡らず、また機能性成分を含む水16を十分に保持できず好ましくないためであり、放出ピン部材先端部11aが適度な丸みを有する形状であればよい。
【0040】
形成された放出ピン部材11を用いて下記の通り電気抵抗値、吸水率、ミスト発生量、除菌効果の測定を行った。なお、放出ピン部材11はポリエステル繊維からなる繊維成型体19から形成され、最大直径が4.5mm、長さが30mmのものを使用した。また印加電圧は6kVとした。
【0041】
(電気抵抗値測定)
表1には導電性グラファイト配合率(以下「配合率」と称し、単位は重量%とする)を変えた導電性材料21の詳細、表2及び図6には、配合率による放出ピン部材11の電気抵抗値の変化を示す。なお、電気抵抗値の測定においては、簡易テスターを使用して行った。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
配合率が高いほど導電性が増すため電気抵抗値が低下することが示された。
【0045】
(吸水率測定)
容器に少量の水を入れ、予め孔を開けた吸水シートに水を含ませ、その上に放出ピン部材11を突設させた後に放出ピン部材先端部11aまで水が到達する時間を測定した。表3に配合率による放出ピン部材11の吸い上げ時間の結果を示す。
【0046】
【表3】

【0047】
配合率が高いほど吸水率が低下する傾向にあることが示されたが、配合率5%と25%では大きな差異は見られないことが確認できた。
【0048】
(ミスト発生量測定)
電気抵抗値の異なる放出ピン部材11を用意し、放出ピン部材11から発生するミスト量を、イオンカウンター22を用いて測定した。図7に示す通り、密閉空間内に加湿器23を設置し、放出ピン部材11に印加電極14を接続し、放出ピン部材11から約10mm程度離れたイオンカウンター22により放出ピン部材11から発生するミスト放出量(マイナスイオン量)を測定した。測定条件は下記の通りである。
測定環境 気温25±2℃、湿度55±5%
測定時間 1時間
イオンカウンター KST−900(神戸イオン商会)
【0049】
【表4】

【0050】
表4及び図8に示す通り、電気抵抗値を10kΩ以上とすると急激にミスト放出量が減少することが確認された。従って、放出ピン部材11は電気抵抗値が10kΩを超えないものとして作製することが好ましい。
【0051】
(除菌効果測定)
放出ピン部材本体20に導電性材料21を担持させることで、必要以上の高電圧を印加することなく多量のミストを放出することが可能となったことから、放出ピン部材11から放出されるミストの除菌効果を測定した。図9に示す通り、加湿器23及び空気清浄機25を備えた実験室において、シャーレに一般細菌用寒天培地24を作製し、シャーレの蓋を解放した状態で菌体を含む菌液を0.2ml滴下させ、培地を汚染させた後にミストを培地24上に所定時間放出したものを静置し、その後シャーレの蓋をした培地24を培養装置内にて4日間30℃で培養し、菌の繁殖状態を、コロニー数を目視で測定することにより確認した。使用した放出ピン部材11の詳細及び測定条件は下記の通りである。また、使用した5種類の放出ピン部材11の仕様を表5に、本測定の結果を表6、表7、図10に示す。なお、各条件において測定数は3とした。
放出ピン部材(材料+配合率)
1 Blank ポリエステル繊維+導電性材料なし
2 CNT-0.01% カーボンナノチューブ+導電性グラファイト0.01%
3 CNT-0.10% カーボンナノチューブ+導電性グラファイト0.10%
4 CNT-1.00% カーボンナノチューブ+導電性グラファイト1.00%
5 CNT-10.0% カーボンナノチューブ+導電性グラファイト10.0%
測定環境(培養前) 気温25±2℃、湿度60±5%
静置時間(培養前) 1時間、4時間
培養装置設定温度 30℃
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
上記の測定結果から、高濃度の導電性材料21を担持させた放出ピン部材11からは多量のミストが放出されることにより除菌効果が向上することが示された。
【0056】
以上の説明が、本発明に係る実施の形態であるが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、上記実施の形態に、多種多様な技術的変更または改良を加えることによる実施の形態もまた、本発明の技術的範囲に属することは当業者に明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、機能性成分を含むミストを外部に放出する静電霧化装置において、必要以上の高電圧を印加することなく、多量のミストを外部に放出することが可能な放出ピン部材及びそれを用いた静電霧化装置を提供する。本発明によれば、放出ピン部材本体に導電性材料を担持させることで、必要以上の高電圧を印加することなく多量のミストを放出することが可能となり、併せて機能性成分を含むミストによる除菌効果が向上するため、産業上の利用可能性は非常に高い。
【符号の説明】
【0058】
10 静電霧化装置
11 放出ピン部材
11a 先端部
12 貯水部
13 保水部
14 印加電極
15 負極
16 水
17 ミスト
18 多孔質体
19 繊維成型体
20 放出ピン部材本体
21 導電性材料
22 イオンカウンター
23 加湿器
24 培地
25 空気清浄機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性成分を含むミストを外部に放出する静電霧化装置において、
放出ピン部材本体と、導電性材料とを有し、
前記放出ピン部材本体は、
多孔質体又は繊維成型体からなり、
前記導電性材料は、
導電性グラファイト配合材からなり、
前記放出ピン部材本体に前記導電性材料を担持させること
を特徴とする放出ピン部材。
【請求項2】
前記放出ピン部材本体において、
導電性材料を表面に塗布することにより導電性材料を担持させることを特徴とする請求項1に記載の放出ピン部材。
【請求項3】
前記放出ピン部材本体において、
導電性材料を内部に含有させることにより導電性を担持させることを特徴とする請求項1に記載の放出ピン部材。
【請求項4】
前記多孔質体又は繊維成型体がセラミック材料、金属材料、合成樹脂材料、天然樹脂材料の1種類または2種類以上を複合化して形成されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の放出ピン部材。
【請求項5】
前記導電性グラファイト配合材は、導電性グラファイト配合率が10〜30重量%であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の放出ピン部材。
【請求項6】
貯水部と、
貯水部から吸水し水を保持する保水部と、
保水部に突設されたミストを外部に放出する放出ピン部材と、
放出ピン部材に高電圧を印加する印加電極と
を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の放出ピン部材を用いた静電霧化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−183318(P2011−183318A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52156(P2010−52156)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【特許番号】特許第4768864号(P4768864)
【特許公報発行日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(501021678)株式会社セラフト (17)
【Fターム(参考)】