説明

放出制御医薬製剤

本発明では、多くて1日に1回投与するために使用する、自由に水に溶解する低用量活性物質を放出制御する新規医薬製剤を開示する。該活性物質は、医薬製剤が曝露する生理学的pH値に依存せずに、少なくとも24時間にわたって血中において適切な治療濃度で維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤技術の分野に属し、多くても1日1回投与するために使用する放出制御医薬製剤に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は水に自由に溶解する活性物質を低用量で核に含み、場合によって被覆された放出制御錠剤の医薬製剤に関する。核からの活性物質の放出は制御され、核が位置する環境の生理学的pH値に依存しない。
【背景技術】
【0003】
多くても1日1回投与するために適した、活性物質を制御して放出でき、安全であると同時に便利に投与できる医薬製剤が常に必要とされている。
【0004】
活性物質を非常に低い容量で投与するとき、水に自由に溶解し、したがって迅速に吸収され得るので、したがって、このような活性物質の持続放出を実現することが治療的な血漿濃度を維持するための鍵となる。
【0005】
pH依存系の放出制御医薬製剤は、従来技術で公知である。このような系では、医薬製剤に関わりなく、個人個人の活性物質血漿濃度の変動は、(胃内容排出の違い、胃腸管でのpH値の変化など)個人差によるところが大きい。
【0006】
自由に水に溶解する活性物質を低用量で放出制御する方法は、Cowen J.A.、Griffin A.、Hayward M.A.and Grattan T.J.、15th Pharmaceutical Technology Conference、Oxford UK、1996による記事に記載されている。まず、活性物質(10重量%)を天然糖−澱粉核に適用し、次に放出制御機能を備えたコーティングを塗布することによって錠剤を調製した。
【0007】
所望する特性を備えた活性物質の一例は、一般的に極めて低濃度(たとえば、製剤の約0.2重量%)で投与されるタムスロシンである。タムスロシンは、α1A及びα1Dアドレナリン受容体の選択的拮抗剤である。良性前立腺肥大症の治療に必要である。αシナプス後受容体に選択的かつ競合的に結合することによって、前立腺及び膀胱頚部の平滑筋を弛緩させ、それによって尿流を増大させ、排尿を容易にし、良性前立腺肥大のその他の徴候を改善する。
【0008】
空の胃に経口投与したタムスロシンの生物学的利用率は、ほぼ100%である。食事中に摂取したとき、その生物学的利用率並びにCmaxは減少する。
【0009】
製剤からすぐに放出されるタムスロシンは、迅速に吸収されて血漿濃度が迅速に増加する。放出を変更した医薬製剤を開発することによって、活性物質の活性の耐性を改善し持続させる重要な段階と成り得る。放出を制御した製剤では、血管拡張及び関連した心臓血管副作用を引き起こす可能性がなくなる。
【0010】
しかし、市販のタムスロシン放出制御製剤を単回、又は多数回投与すると、血漿濃度の変動にかなりの個人差が認められる(Lyseng−Willamson K.A.、Jarvis B.、Wagstaff A.J;Drug、2002、vol.62、no.1、pp.135〜167(33)Adis International)。
【0011】
タムスロシン放出制御用医薬製剤は以下の特許文書に開示されている。
米国特許第4772475号では、放出制御するための未コーティング顆粒製剤が開示されており、胃耐性コーティング塗布の困難さについて言及している。
【0012】
WO03/039530及びWO03/039531は、タムスロシンを含む乾燥圧縮錠剤を開示しており、後者では、放出の変更されたマトリックス錠剤が開示されている。
【0013】
DE20219293では、乾燥錠剤核をベースにして計算したコーティング量が2.5〜15%、好ましくは8〜12%であるタムスロシンを含む錠剤が開示されている。
【0014】
錠剤は、顆粒化、乾燥、0.3〜0.9mmの大きさへの篩い分け、被覆及び再乾燥によって調製される。タムスロシンは、pH依存様式で放出される。pH環境に依存しない様式で活性物質を放出する薬剤を使用すると、錠剤核コーティングが体液と接触した後の活性物質の放出が妨げられるであろうと報告されている。HMPCは、このような薬剤の一例として引用される。
【0015】
したがって、この分野の特許及び関連文献では、タムスロシン及び/又は同様の特性を備えた活性物質のpHに依存しない様式での放出制御を可能にする医薬製剤(特に錠剤型)を提供する問題を解決するために、参考になるものを見いだすことはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、水に自由に溶解し、それによって多くても1日に1回投与して24時間血中の活性物質治療濃度の維持を可能にする、非常に低用量のタムスロシンなどの活性物質を放出制御するためのpHに依存しない系の調製を目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の要旨
第1の態様において、本発明は、水に自由に溶解する低用量の活性物質をpHに依存しない制御様式で放出させることができ、それによって生物学的変動の低下をもたらす錠剤核を含む放出制御医薬製剤に関する。
【0018】
他の態様において、本発明は、少なくとも1種の不溶性透過性ポリマー及び少なくとも1種の界面活性剤及び、場合によって、その他の賦形剤を含む錠剤核を含む放出制御医薬製剤に関する。
【0019】
他の態様では、本発明は、核用成分のブレンドの調製、顆粒化、押し出し及び球状化、乾燥並びに、場合によって、コーティングを含むこのような医薬製剤の調製方法に関する。
【0020】
他の態様では、本発明は、良性前立腺肥大を治療するための薬剤を調製するために、タムスロシン又はそれらの薬剤として許容される塩を有するこのような医薬製剤の使用に関する。
【0021】
発明の詳細な説明
驚くべきことに、様々な不溶性、透過性ポリマーを使用することによって、低用量で投与された水溶性薬剤のpHに依存しない放出を実現できることを発見した。
【0022】
放出を制御することによって、少なくとも24時間、場合によってさらに長くにわたって、治療濃度を維持し、投与の頻度を1日1回か、又はより少なくすることが可能である。
【0023】
本発明の製剤の錠剤核に取り込まれた活性物質は一般的に低用量で投与され、したがって自由に水に溶解し、迅速に体内に吸収される。これらの特性を備えた活性物質の一例は、タムスロシン又はそれら薬剤として許容される塩である。本発明の文脈では、「低用量」とは、水に自由に溶解する活性物質が低濃度であることを意味する。
【0024】
活性物質に加えて、本発明の製剤の錠剤核は、微結晶性セルロース、少なくとも1種の不溶性透過性ポリマー、及び、場合によって界面活性剤及びその他の賦形剤を含む。
【0025】
微結晶性セルロースは、市販されている形態、並びに、ケイ酸化微結晶性セルロースなどであってよい。錠剤核中の微結晶性セルロースの量は、約60%から約95%、好ましくは約75〜90%、より好ましくは約85%であることができる。
【0026】
放出制御のため、ペレット核は、粉末、顆粒、又は水分散剤の形態の、活性成分のpHに依存しない放出を可能にする様々な不溶性透過性ポリマーを含むことができる。驚くべきことに、この目的のために、場合によっては官能基を有するアクリル酸若しくはメタクリル酸又はアクリル酸若しくはメタクリル酸のエステルのポリマー若しくはコポリマー、とりわけ、トリメチルアンモニオエチル若しくはアンモニオエチル若しくは同様の官能基を有するメタクリル酸エステルのコポリマー、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルのコポリマー、メタクリル酸エステルのコポリマー、さらに他の種類のアルキルセルロース、たとえば、エチルセルロース若しくはメチルセルロース又はそれらの様々な組み合わせなどの選択されたアクリル酸ポリマーが特に適していることを発見した。特に適しているのは、30%水懸濁液の形態の、アクリル酸エチル及びメタクリル酸エチルの2:1比の水不溶性コポリマーである。錠剤核中のこのようなポリマーの割合は、約7%から約27%、好ましくは約10〜20%、より好ましくは約14〜15%である。
【0027】
界面活性剤は、イオン性又は非イオン性であってよい。適切な例は、オレイン酸ソルビタン、ラウリル酸ソルビタン、ラウリル硫酸ナトリウム、Polysorbate(登録商標)などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル又はそれらの組み合わせである。界面活性剤の割合は、約0.10から約0.20%、好ましくは約0.15%である。
【0028】
錠剤核の直径は、通常約0.5から約2.00mm、好ましくは約0.5から約1.25mmである。
【0029】
コーティングは、核に適用する。場合によって、このようなコーティングは、高pH値、すなわち、約5.5より高いpHで可溶性の少なくとも1種のポリマー及びpHに依存しない溶解性の少なくとも1種のポリマーを含む。このようなコーティングは、活性物質の放出制御をさらに確かなものとし、それによって、消化後最初の2時間で放出される活性物質は10%未満にすることができる。
【0030】
乾燥物質を約15〜20%含む分散液は、コーティングのために好ましいことが発見された。
【0031】
ポリマーに加えて、該コーティングはタルクを含むことができる。タルクに対するポルマーの重量比は、約2:1である。脱塩水を溶媒として使用する。
【0032】
高pH値で溶解可能なポリマーは、メタクリル酸及びアクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エチル若しくはヒドロキシアルキルセルロースのエステルのコポリマーから選択される。
【0033】
pHに依存しない溶解性を有するポリマーは、ペレット核についてのポリマーの群と同じ群から選択される。
【0034】
適用するコーティングの量は、乾燥錠剤核の重量に対して約5から約25重量%、好ましくは5〜10重量%、より好ましくは約5〜8重量%、最も好ましくは約7重量%であることができる。
【0035】
該錠剤核は、製剤技術で一般的な方法によって調製される。たとえば、タムスロシン、微結晶性セルロース、界面活性剤、放出持続ポリマー及び脱塩水のブレンドを均一に混合することができる。次に、顆粒を押し出して、該押し出し物を球状化することができる。得られた核を流動床乾燥機で乾燥させることができる。
【0036】
流動床装置、たとえば、Wurster chamber、Huettlin Kugelcoasterなどで分散液を噴霧することによって該コーティングを適用ことが好ましい。コーティングパラメータは、装置毎によって異なる。生成物の温度は30℃未満に維持すべきである。このような方法で調製した錠剤は、次に台の上に広げ、約40〜60℃で約2時間から24時間乾燥すべきである。
【0037】
錠剤は、適切な大きさのカプセル若しくはサシェに充填するか、又は錠剤に圧縮することができる。
【0038】
タムスロシン若しくはその薬剤として許容される塩を含む本発明による医薬製剤は、良性前立腺肥大又はタムスロシンで治療できるその他の疾患若しくは障害の治療のために、単独若しくはその他の活性成分と組み合わせて使用することができる。
【0039】
(実施例)
本発明は、以下の実施例によって例示されるが、決して限定はされない。
【実施例1】
【0040】
【表1】

【0041】
調製方法:
タムスロシン塩酸塩及び微結晶性セルロースを一緒にして、混合する。ラウリル硫酸ナトリウム(Texapon K12(登録商標))を水に溶解して、該溶液を基礎となるブレンドに添加する。Eudragit NE30D(登録商標)の分散液及び脱塩水を添加し、混合する。均一なブレンドから、押し出し法及び球状化法を使用して錠剤核を形成する。調製された核は、実施例4及び5で説明したようなコーティングで被覆することができる。
【実施例2】
【0042】
【表2】

【0043】
調製方法:
タムスロシン塩酸塩及び微結晶性セルロースを一緒にして、混合する。ポリソルベート80(登録商標)を水に溶解して、該溶液を基礎となるブレンドに添加する。Eudragit NE30D(登録商標)の分散液及び脱塩水を添加し、混合する。均一なブレンドから、押し出し法及び球状化法を使用して錠剤核を形成する。調製された核は、実施例4及び5で説明したようなコーティングで被覆することができる。
【実施例3】
【0044】
【表3】

【0045】
調製方法:
タムスロシン塩酸塩及び微結晶性セルロースを一緒にして、混合する。ポリソルベート80(登録商標)を水に溶解して、該溶液を基礎となるブレンドに添加する。Eudragit NE30D(登録商標)の分散液及び脱塩水を添加し、混合する。均一なブレンドから、押し出し法及び球状化法を使用して錠剤核を形成する。調製された核は、実施例4及び5で説明したようなコーティングで被覆することができる。
【実施例4】
【0046】
【表4】

【0047】
調製方法:
乾燥錠剤核は、3段階で調製されたコーティング分散液でコーティングされる。まず、両方のポリマー分散液を脱塩水で希釈し、混合する。脱塩水に入れたタルクの懸濁液を別に調製する。次に、該タルク懸濁液を希釈したEudragit L30 D−55(登録商標)分散液に添加し、混合する。次に、希釈したEudragit NE(登録商標)分散液を添加し、再度混合する。得られた分散液を流動床装置で錠剤核を被覆するために使用する。
【実施例5】
【0048】
【表5】

【0049】
調製方法:
乾燥錠剤核は、3段階で調製されたコーティング分散液でコーティングされる。まず、両方のポリマー分散液を脱塩水で希釈し、混合する。脱塩水に入れたタルクの懸濁液を別に調製する。次に、該タルク懸濁液を希釈したEudragit L30 D−55(登録商標)分散液に添加し、混合する。次に、希釈したEudragit NE(登録商標)分散液を添加し、再度混合する。得られた分散液を流動床装置で錠剤核を被覆するために使用する。
【実施例6】
【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
調製方法:
タムスロシン塩酸塩及び微結晶性セルロースを一緒にして、混合する。エチルセルロース、水性ポリソルベート(登録商標)及び脱塩水を添加し、混合する。均一なブレンドから、押し出し法及び球状化法を使用して錠剤核を形成する。
【0053】
乾燥錠剤核は、3段階で調製されたコーティング分散液でコーティングされる。まず、両方のポリマー分散液を脱塩水で希釈し、混合する。脱塩水に入れたタルクの懸濁液を別に調製する。次に、該タルク懸濁液を希釈したEudragit L30 D−55(登録商標)分散液に添加し、混合する。次に、希釈したEudragit NE(登録商標)分散液を添加し、再度混合する。得られた分散液を流動床装置で錠剤核を被覆するために使用する。
【実施例7】
【0054】
【表8】

【0055】
調製方法:
タムスロシン塩酸塩及び微結晶性セルロースを一緒にして、混合する。ラウリル硫酸ナトリウム(Texapon K12)を水に溶解して、該溶液を基礎となるブレンドに添加する。Eudragit NE30D(登録商標)の分散液及び脱塩水を添加し、混合する。均一なブレンドから、押し出し法及び球状化法を使用して錠剤核を形成する。調製された核は、実施例4及び5で説明したようなコーティングで被覆することができる。
【0056】
実施例全てのコーティング分散液は、乾燥物質を20%含有する。タルク重量に対するポリマーの比は2:1で、Eudragit NE 30D(登録商標)についてはポリマーの比は3:1である。
【0057】
ポリマーはいずれも、30%水性分散液の形態である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に自由に溶解する低用量の活性物質の、pHに依存しない制御様式での錠剤核からの放出を可能にし、それによって生物学的変動の低下をもたらす錠剤核を含むことを特徴とする放出制御医薬製剤。
【請求項2】
少なくとも1種の不溶性透過性ポリマー及び少なくとも1種の界面活性剤及び、場合によって、その他の賦形剤を含む錠剤核を含むことを特徴とする、放出制御医薬製剤。
【請求項3】
前記不溶性透過性ポリマーが、アクリル酸ポリマー又はアルキルセルロース又はヒドロキシアルキルセルロース又はそれらの組み合わせの群から選択される、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記不溶性透過性ポリマーが、場合によって30%水性分散液の形態であるアクリル酸エチル及びメタクリル酸エチルが2:1の比のコポリマーである、請求項3に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記錠剤核の直径が、約0.5から約1.25mmである、請求項1から4までに記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記錠剤核が、胃耐性コーティング及び/又は放出制御コーティングで被覆されている、請求項1から5までに記載の医薬製剤。
【請求項7】
適用したコーティングの質量が、乾燥錠剤核の質量に対して約5から約10%ある、請求項6に記載の医薬製剤。
【請求項8】
適用コーティングの質量が、乾燥錠剤核の質量に対して約5から約8%ある、請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記コーティングが、約5.5よりも高いpH値で溶解可能な少なくとも1種のポリマー及びpHに依存しない溶解性を備えた少なくとも1種のポリマーを含む、請求項6から8までに記載の医薬製剤。
【請求項10】
高いpH値で溶解可能な前記ポリマーが、メタクリル酸及びアクリル酸エチルのアニオン性コポリマーであり、pHに依存しない溶解性を備えた前記ポリマーが、アクリル酸エチル及びメタクリル酸メチルのコポリマーである、請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
前記錠剤が、カプセル又はサシェに充填されるか、錠剤に圧縮される、請求項1から10までに記載の医薬製剤。
【請求項12】
前記錠剤核が、押し出し及び球状化の方法を使用して調製される、請求項1から11までに記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記自由に溶解する低用量活性物質が、タムスロシン又はその薬剤として許容される塩である、前記請求項のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項14】
以下の段階、核用成分のブレンドの調製、顆粒化、押し出し及び球状化、乾燥並びに場合によってコーティングを含むことを特徴とする、請求項1から13までに記載の医薬製剤の調製方法。
【請求項15】
良性前立腺肥大を治療するための薬剤を調製するための、請求項13に記載の医薬製剤の使用。

【公表番号】特表2007−516282(P2007−516282A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546934(P2006−546934)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/SI2004/000044
【国際公開番号】WO2005/060939
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(504359293)レツク・フアーマシユーテイカルズ・デー・デー (60)
【Fターム(参考)】