説明

放射性標識ペプチド系化合物及びその使用

本発明は、新規放射性標識ペプチド系化合物並びに陽電子放射断層撮影(PET)を用いた画像診断法におけるそれらの使用に関する。そこで、かかる化合物は、例えば悪性疾患、心疾患、子宮内膜症、炎症関連疾患、関節リウマチ及びカポジ肉腫の診断又は治療に使用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規放射性標識ペプチド系化合物並びに陽電子放射断層撮影(PET)を用いた画像診断法におけるそれらの使用に関する。そこで、かかる化合物は、例えば悪性疾患、心疾患、子宮内膜症、炎症関連疾患、関節リウマチ及びカポジ肉腫の診断又は治療に使用し得る。
【背景技術】
【0002】
画像診断への放射性標識生理活性ペプチドの応用は、核医学において重要性を増しつつある。特定の細胞型と選択的に相互作用する生物活性分子は標的組織に放射能を送達するのに有用である。例えば、放射性標識ペプチドは、画像診断及び放射線治療のため腫瘍、梗塞巣及び感染組織に放射性核種を送達するのに多大な潜在的可能性を有している。半減期が約110分の18Fは、多くの受容体画像観察に好ましい陽電子放出核種である。従って、18F標識した生理活性ペプチドは、様々な疾患の検出及び評価のためのPETへの有用性から、臨床での多大な潜在的用途を有している。
【0003】
新しい血管は脈管形成と血管新生という2つの異なる機序で形成される。血管新生は既存の血管からの枝分れによる新しい血管の形成である。このプロセスに対する主な刺激として、組織内の細胞への栄養及び酸素の不十分な供給(低酸素)がある。細胞は血管新生因子の分泌によって応答することがある。血管新生因子は多数存在するが、しばしば言及されるその一例は血管内皮増殖因子(VEGF)である。これらの因子は、基底膜のタンパク質を分解するタンパク分解酵素の分泌だけでなく、かかる潜在的に有害な酵素の作用を制限する阻害剤の分泌も惹起する。血管新生因子のもう一つの顕著な作用は内皮細胞を遊走させ分裂させることである。血管の反管腔側に連続層をなす基底膜に付着した内皮細胞は有糸分裂を起こさない。付着の喪失と血管新生因子受容体からのシグナルとの複合作用によって、内皮細胞の移動、増殖及び再配列が起こり、最終的には新血管周囲に基底膜が合成される。
【0004】
血管新生は創傷治癒及び炎症過程を始めとする組織の増殖及びリモデリングに重要である。腫瘍は、ミリメートル大に達すると、その増殖速度を保つため血管新生を惹起しなければならない。血管新生は内皮細胞とそれらの周囲の環境に特徴的な変化を伴う。これらの細胞の表面は遊走に備えてリモデリングされ、基底膜が分解されて、タンパク分解の誘発と制御に関与する各種タンパク質に加えて、隠れた構造が露出される。腫瘍の場合、形成される血管ネットワークは通常はまとまりがなく、鋭いねじれや動静脈シャントの形成を伴う。血管新生の阻害も抗腫瘍療法の有望な方策であると考えられる。血管新生に伴う形質転換も診断に極めて有望であり、その一例は悪性疾患であるが、この方策は、炎症及びアテローム性動脈硬化症を始めとする様々な炎症関連疾患にも極めて有望であり、初期アテローム性動脈硬化病変のマクロファージは血管新生因子の潜在的発生源である。
【0005】
国際公開第2003/006491号には、血管新生に関連したインテグリン受容体を標的とするペプチド系化合物が記載されている。PCT/GB2004/001052には、生物活性ベクターを18Fで標識するのに適した方法が記載されている。しかし、PETのような画像診断に有用な他のペプチド系化合物に対するニーズが存在する。
【0006】
本明細書での文献の考察又は引用は、それらが本発明の先行技術であることを認めるものとして解すべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/006491号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/080492号パンフレット
【特許文献3】国際公開第98/47541号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Atherton, E. and Sheppard, R.C.; "Solid Phase Synthesis"; IRL Press: Oxford, 1989
【非特許文献2】INDREVOLL B et al: "NC-100717: A versatile RGD peptide scaffold for angiogenesis imaging, "BIOORGANIC & MEDICINAL CHEMISTRY LETTERS, PERGAMON, ELSEVIER SCIENCE, GB, vol. 16, no. 24, 26 September 2006, pages 6190-6193
【非特許文献3】GRIERSON J R et al: "A RADIOSYNTHESIS OF FLUORINE-18 FLUOROMISONIDAZOLE" JOURNAL OF NUCLEAR MEDICINE, SOCIETY OF NUCLEAR MEDICINE, RESTON, VA, US, vol. 30, no. 3, 1 March 1989, pages 343-350
【非特許文献4】COENEN H H: "Fluorine-18 labeling methods: Features and possibilities of basic reactions" ERNST SCHERING RESEARCH FOUNDATION WORKSHOP, SPRINGER, BERLIN, DE, vol. 62, 7 December 2005, pages 15-50
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、新規ペプチド系化合物並びにPETを用いた画像診断のための用途に関する。本明細書で説明する新規18Fペプチド系化合物は、従前開発され比較的成功した薬剤のいずれと比較しても約15%高い生体内分布を呈する(肝臓その他の器官での結合が低い。)。
【0010】
本発明の一実施形態は、次の式(1)の化合物に関する。
【0011】
【化1】

式中、Xは炭素又は窒素である。
【0012】
本発明のさらに別の実施形態は、式2の化合物に関する。
【0013】
【化2】

式中、Yは炭素又は酸素であり、Xは窒素又は炭素である。
【0014】
PET造影剤。式(1)及び(2)の化合物は、ペプチド合成の常法、例えばAtherton,E. and Sheppard,R.C.; “Solid Phase Synthesis”; IRL Press: Oxford, 1989に記載の固相ペプチド合成法などによって調製される。式(I)の化合物へのアミノオキシ基の導入は、ペプチドアミン官能基と活性化酸との反応によって形成された安定なアミド結合の形成によって達成でき、ペプチドの合成時又は合成後に導入される。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態は、有効量の式1又は2の化合物を、1種以上の薬学的に許容される補助剤、賦形剤又は希釈剤と共に含んでなる放射性医薬組成物に関する。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態は、医療用、特に血管新生に関連した疾患又は病態の例えばPETによるインビボ診断又はイメージングに使用するための式1又は2の化合物に関する。
【0017】
「血管新生に関連した疾患及び病態」という用語には、以下に挙げる疾患及び病態が補含される。これに関しては国際公開第98/47541号も参照できる。
【0018】
血管新生に関連した疾患及び病態としては、様々な形態の癌及び転移、例えば乳癌、皮膚癌、直腸結腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌又は卵巣癌が挙げられる。
【0019】
血管新生に関連したその他の疾患及び病態は、炎症(例えば慢性)、アテローム性動脈硬化症、関節リウマチ及び歯肉炎である。
【0020】
血管新生に関連したさらに別の疾患及び病態は、動静脈奇形、星細胞腫、絨毛癌、グリア芽細胞種、神経膠腫、血管腫(小児性、毛細血管性)、肝細胞腫、過形成性子宮内膜症、虚血性心筋症、子宮内膜症、カポジ肉腫、黄斑変性症、黒色腫、神経芽細胞腫、閉塞性末梢動脈疾患、骨関節炎、乾癬、網膜症(糖尿病性、増殖性)、強皮症、精上皮腫及び潰瘍性大腸炎である。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態は、インビボイメージング法に用いられる放射性医薬品の製造における式1又は2の化合物の使用に関する。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態は、ヒト又は動物の身体の画像を生成する方法であって、請求項1又は2記載の化合物を身体に投与して上記化合物が分配された身体の少なくとも一部分の画像をPETを用いて生成させることを含んでなる方法に関する。
【0023】
本発明の別の実施形態は、癌(好ましくは血管新生)に関連した病態に対処するための薬剤によるヒト又は動物の身体の治療効果をモニターする方法であって、式1又は2の化合物を身体に投与し、細胞受容体による上記化合物の取込みを検出し、上記投与と検出を、任意ではあるが好ましくは、上記薬剤による治療の前後途中に繰り返すことを含んでなる方法に関する。
【実施例】
【0024】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これらの実施例は本発明の技術的範囲を限定すものではない。
【0025】
以下の実施例によって本発明を例示するが、実施例では以下の略語を用いる。
【0026】
NMR:核磁気共鳴
TFA:トリフルオロ酢酸
Boc:t−ブトキシカルボニル。
【0027】
新規18Fペプチド系化合物の前駆体は、A(Bachem社から入手)とBの合成からの副生物(モノアルキル化副生物)との反応により作製される。以下のスキーム1を参照されたい。
【0028】
【化3】

本明細書に開示するZが炭素である新規18Fペプチド系化合物(4)は、上記の前駆体(3)と18Fエピフルオロヒドリン又は1−フルオロ−3−クロロ−プロパン−2−オールとの反応によって作られる。以下のスキーム2を参照されたい。
【0029】
【化4】

出発材料が公知で容易に入手できることは、開発時間の短縮及びコストの削減に役立つ。本発明は、新規な血管新生18Fペプチド系化合物が他の化合物に比べて優れた生物学的特性/性質を有することも示す。本明細書で説明する新規18Fペプチド系化合物は、従前開発され比較的成功した薬剤のいずれと比較しても約15%高い生体内分布を呈する(肝臓その他の器官での結合が低い。)。
【0030】
室温での3−クロロ−2−ヒドロキシ−1−18フルオリドの生成は、19F−NMR及び400MHzのH−NMR分光計によって証明された。18Fフルオリドを有機分子に導入するための上記のスキーム2に示すエポキシドを用いた実験室試験は、室温において水中で実施し、相対量30%の目標有機フルオリド分子を得た。この量は、脱離基としてトシル(又はトリフレート、メシレートのような類似の脱離基)を用いる18F標識に比べ、目標有機フルオリド分子の回収量が約2〜3倍高い。
【0031】
具体的実施形態、文献の援用
本発明の技術的範囲は、本明細書に記載した特定の実施形態によって限定されるものではない。実際、本明細書及び図面の記載から、本明細書に記載したもの以外に本発明の様々な変更が当業者には明らかである。かかる変更も特許請求の範囲に属する。
【0032】
本明細書では様々な刊行物及び特許文献を引用したが、それらの開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)の化合物
【化1】

式中、Xは炭素又は窒素である。
【請求項2】
次の式(2)の化合物
【化2】

式中、Yは炭素又は酸素であり、Xは窒素又は炭素である。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の化合物の有効量を、1種以上の薬学的に許容される補助剤、賦形剤又は希釈剤と共に含んでなる放射性医薬組成物。
【請求項4】
医療用、特に血管新生に関連した疾患又は病態の例えばPETによるインビボ診断又はイメージングに使用するための請求項1又は請求項2記載の化合物。
【請求項5】
インビボイメージング方法で使用するための放射性医薬品を製造するための請求項1又は請求項2記載の化合物の使用。
【請求項6】
ヒト又は動物の身体の画像を生成する方法であって、請求項1又は請求項2記載の化合物を身体に投与して、上記化合物が分配された身体の少なくとも一部分の画像をPETを用いて生成させることを含んでなる方法。
【請求項7】
癌(好ましくは血管新生)に関連した病態に対処するための薬剤によるヒト又は動物の身体の治療効果をモニターする方法であって、請求項1又は請求項2記載の化合物を身体に投与し、細胞受容体による上記化合物の取込みを検出し、任意ではあるが好ましくは、上記投与と検出を、上記薬剤による治療の前後途中に繰り返すことを含んでなる方法。

【公表番号】特表2010−512310(P2010−512310A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540191(P2009−540191)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/NO2007/000434
【国際公開番号】WO2008/072973
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(396019387)ジーイー・ヘルスケア・アクスイェ・セルスカプ (82)
【Fターム(参考)】