説明

放射性薬剤製造システム

【課題】施工が容易で且つコストの低減を図ることが可能な放射性薬剤製造システムを提供する。
【解決手段】放射性薬剤製造システム10は、粒子加速器22を第1の放射線遮蔽体24により被覆した自己シールド型粒子加速器20と、自己シールド型粒子加速器20に隣接して設けられており、第2の放射線遮蔽体32により被覆され、粒子加速器22で製造された放射性同位元素を用いて放射性薬剤を合成する合成装置30と、第1の放射線遮蔽体24と第2の放射線遮蔽体32とが対面する範囲内で第1の放射線遮蔽体24内と第2の放射線遮蔽体32内とを接続し、粒子加速器22から合成装置30へ放射性同位元素を移送する原料移送管60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性薬剤製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポジトロン断層撮影(PET;Positron Emission Tomography)に用いる放射性同位元素で標識された放射性薬剤の製造においては、サイクロトロン等の粒子加速器が使用される。粒子加速器は加速器室に設置されており、この加速器室内で、RI(Radioisotope)原料が製造される。製造されたRI原料は、別途設けられた製剤室に送られ、製剤室内に設置された合成装置により、FDGやメチオニンといった放射性薬剤が合成される。
【0003】
このように、従来の放射性薬剤製造システムでは、放射線遮蔽壁で仕切られた加速器室と製剤室とにおいて、それぞれRI原料の製造と放射性薬剤の製造とが行われていた。そして、RI原料や使用ガス及び排ガスの移送には、放射線の漏洩を防ぐために、地下ピット内に敷設された配管を通して行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−353875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の放射性薬剤製造システムでは、地下ピットを設ける必要があったため、施工が面倒であるばかりか、このピットに放射線遮蔽能を持たせるため鉛の使用量が多くなり、製造コストが高くなっていた。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みて為されたものであり、施工が容易で且つコストの低減を図ることが可能な放射性薬剤製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る放射性薬剤製造システムは、粒子加速器を第1の放射線遮蔽体により被覆した自己シールド型粒子加速器と、自己シールド型粒子加速器に隣接して設けられており、第2の放射線遮蔽体により被覆され、粒子加速器で製造された放射性同位元素を用いて放射性薬剤を合成する合成装置と、第1の放射線遮蔽体と第2の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で第1の放射線遮蔽体内と第2の放射線遮蔽体内とを接続し、粒子加速器から合成装置へ放射性同位元素を移送する原料移送管と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この放射性薬剤製造システムでは、粒子加速器が放射線の漏洩が抑えられた自己シールド型粒子加速器であり、第2の放射線遮蔽体により被覆された合成装置がこの自己シールド型粒子加速器に隣接して設けられている。そして、粒子加速器から合成装置へ放射性同位元素を移送する原料移送管が、第1の放射線遮蔽体と第2の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で第1の放射線遮蔽体内と第2の放射線遮蔽体内とを接続している。従って、放射性同位元素の移送のために地下ピットを設ける必要がなくなり、施工が容易で且つコストの低減を図ることが可能となる。また、合成装置と自己シールド型粒子加速器とを隣接して設けることで、システムのコンパクト化を図ることができる。
【0008】
放射性薬剤製造システムは、自己シールド型粒子加速器に隣接して設けられており、第3の放射線遮蔽体により被覆され、合成装置で生じた廃ガスを貯留する廃ガス貯留装置と、合成装置から廃ガス貯留装置へと廃ガスを移送する廃ガス移送管と、を備えると好ましい。廃ガス移送管は、第1の放射線遮蔽体と第2の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で第1の放射線遮蔽体内と第2の放射線遮蔽体内とを接続し、第1の放射線遮蔽体内を通って、第1の放射線遮蔽体と第3の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で第1の放射線遮蔽体内と第3の放射線遮蔽体内とを接続すると好ましい。このようにすれば、第1の放射線遮蔽体内を有効利用することで、廃ガスの移送のためにも地下ピットを設ける必要がなくなり、施工が容易で且つコストの低減を一層図ることが可能となる。また、廃ガス貯留装置と自己シールド型粒子加速器とを隣接して設けることで、システムのコンパクト化を一層図ることができる。
【0009】
放射性薬剤製造システムは、自己シールド型粒子加速器に隣接して設けられており、第3の放射線遮蔽体により被覆され、合成装置で生じた廃ガスを貯留する廃ガス貯留装置と、合成装置から廃ガス貯留装置へと廃ガスを移送する廃ガス移送管と、を備えると好ましい。廃ガス移送管は、第2の放射線遮蔽体と第3の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で第2の放射線遮蔽体内と第3の放射線遮蔽体内とを接続すると好ましい。このようにすれば、廃ガスの移送のためにも地下ピットを設ける必要がなくなり、施工が容易で且つコストの低減を一層図ることが可能となる。また、廃ガス貯留装置と自己シールド型粒子加速器とを隣接して設けることで、システムのコンパクト化を一層図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、施工が容易で且つコストの低減を図ることが可能な放射性薬剤製造システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る放射性薬剤製造システムの構成を示す平面図である。放射性薬剤製造システム10は、自己シールド型サイクロトロン(自己シールド型粒子加速器)20と、ホットセル(第2の放射線遮蔽体)32に収容された合成装置30と、放射線遮蔽体(第3の放射線遮蔽体)42に被覆された廃ガス貯留装置40と、を備えている。これら自己シールド型サイクロトロン20、合成装置30、及び廃ガス貯留装置40は、放射線遮蔽壁50で囲まれた一つの部屋に収容されている。
【0013】
自己シールド型サイクロトロン20は、サイクロトロン22を床上に設置された放射線遮蔽体(第1の放射線遮蔽体)24により被覆してなる。このように、「自己シールド型」とは、サイクロトロン22が設置される建屋の壁とは別に、サイクロトロン22それ自体を遮蔽するために設けられた壁体によりサイクロトロン22を遮蔽する形式をいう。
【0014】
合成装置30は、床上に設置されたホットセル32に収容され、サイクロトロン22で製造された放射性同位元素を用いて放射性薬剤を合成する。例えば、18O(p,n)18Fで表される核反応によりサイクロトロン22で製造された18で表される放射性同位元素を用いて、放射性薬剤としての18F−FDG(フルオロデオキシグルコース)を合成する。
【0015】
合成装置30は、自己シールド型サイクロトロン20に隣接して設けられている。ここで、図1に示す形態では、国内法令を遵守する上で耐火構造を有するパーティション52が、自己シールド型サイクロトロン20と合成装置30を収容するホットセル32との間に介在している。パーティション52の厚みは、15cm以下で例えば10cmであり、部屋を画成する放射線遮蔽壁50と比べると放射線遮蔽能が無いに等しい。なお、このパーティション52は、法令が許すときには省略して、両者を直接接触するように配置することができる。
【0016】
廃ガス貯留装置40は、パーティション52により仕切られた自己シールド型サイクロトロン20側で、自己シールド型サイクロトロン20に隣接して、ここでは自己シールド型サイクロトロン20に接触して設けられている。この廃ガス貯留装置40は、合成装置30で生じた廃ガスを一時的に貯留するものであり、床上に設置された放射線遮蔽体42に被覆されている。
【0017】
また、放射性薬剤製造システム10は、サイクロトロン22から合成装置30へ放射性同位元素を移送する原料移送管60と、合成装置30から廃ガス貯留装置40へと廃ガスを移送する廃ガス移送管70と、を備えている。
【0018】
原料移送管60は、サイクロトロン22を被覆する放射線遮蔽体24とホットセル32とが対面する範囲内で、放射線遮蔽体24内とホットセル32内とを接続し、サイクロトロン22から合成装置30へ放射性同位元素を移送する。ここで、「サイクロトロン22を被覆する放射線遮蔽体24とホットセル32とが対面する範囲内」とは、図2に示すように、放射線遮蔽体24側のホットセル32と対向する面と、ホットセル32側の放射線遮蔽体24と対向する面とが重なり合う範囲Rをいう。そして、この範囲R内で「放射線遮蔽体24内とホットセル32内とを接続し」とは、遮蔽体外部において原料移送管60が幅方向及び高さ方向のいずれにもこの範囲Rから逸脱しないように接続することをいう。
【0019】
また廃ガス移送管70は、放射線遮蔽体24とホットセル32とが対面する範囲内で、放射線遮蔽体24内とホットセル32内とを接続する。そして、廃ガス移送管70は、放射線遮蔽体24内を通って、放射線遮蔽体24と廃ガス貯留装置40を被覆する放射線遮蔽体42とが対面する範囲内で、放射線遮蔽体24内と放射線遮蔽体42内とを接続する。なお、「放射線遮蔽体24と廃ガス貯留装置40を被覆する放射線遮蔽体42とが対面する範囲内」、及びこの範囲内で「放射線遮蔽体24内と放射線遮蔽体42内とを接続」は、上記したのと同様に定義される。
【0020】
ここで、原料移送管60及び廃ガス移送管70のパーティション52を通る部分は、放射線の漏洩を防止するために鉛などの遮蔽体で被覆すると好ましい。
【0021】
なお、パーティション52により仕切られた合成装置30側で、合成装置30のホットセル32に隣接するように、品質管理装置80が設けられている。この品質管理装置80は、放射性薬液として製造された18F−FDGの品質を管理する装置であり、pH試験、純度試験などを行う。また、パーティション52により仕切られた合成装置30側には、実験台82や流し台84が設けられている。この合成装置30には、エアシャワーを有する出入部86を通してアクセスすることができる。
【0022】
また、パーティション52により仕切られた自己シールド型サイクロトロン20側には、廃棄物保管庫88が設けられている。この自己シールド型サイクロトロン20には、インターロックを有する扉90を通してアクセスすることができる。
【0023】
次に、本実施形態に係る放射性薬剤製造システム10の作用及び効果について説明する。
【0024】
この放射性薬剤製造システム10では、サイクロトロン22においてターゲット水(H18O)から18で表される放射性同位元素が製造される。製造された放射性同位元素は、原料移送管60を通して合成装置30に移送される。合成装置30では、18で表される放射性同位元素を用いて、放射性薬剤としての18F−FDG(フルオロデオキシグルコース)が合成される。合成された放射性薬剤の一部は、品質管理装置80に送られ、品質の検定が行われる。そして、所定の条件をクリアすることで、放射性薬剤が被験者への投与に供される。
【0025】
合成装置30における放射性薬剤の合成時に発生した放射化された廃ガスは、廃ガス移送管70を通して廃ガス貯留装置40に移送される。そして、放射能が十分に減衰した後に、廃ガス貯留装置40から大気に放出される。
【0026】
このように本実施形態に係る放射性薬剤製造システム10では、サイクロトロン22が放射線の漏洩が抑えられた自己シールド型サイクロトロン10であり、ホットセル32に収容された合成装置30が、この自己シールド型サイクロトロン10に隣接して設けられている。そして、サイクロトロン22から合成装置30へ放射性同位元素を移送する原料移送管60が、放射線遮蔽体24とホットセル32とが対面する範囲内で放射線遮蔽体24内とホットセル32内とを接続している。従って、放射性同位元素の移送のために地下ピットを設ける必要がなくなり、施工が容易で且つコストの低減を図ることが可能となる。また、合成装置30と自己シールド型サイクロトロン20とを隣接して設けることで、システムのコンパクト化を図ることができる。
【0027】
このように、従来は別々の部屋で合成装置とサイクロトロンとを収容し、地下ピットを通して原料としての放射性同位元素を移送するのが常識であったところ、本実施形態では発想の転換を図り、サイクロトロンを放射線の漏洩を著しく低減した自己シールド型のものとし、サイクロトロン自体も小型化することで、サイクロトロンと合成装置との一体化を図って、一つの放射線遮蔽室に収容して、コンパクト化を図っている。そして、サイクロトロンと合成装置とを原料移送管で接続することで、地下ピットの施工を不要としているのである。
【0028】
また、放射性薬剤製造システム10は、自己シールド型サイクロトロン20に隣接して設けられており、放射線遮蔽体42により被覆され、合成装置30で生じた廃ガスを貯留する廃ガス貯留装置40と、合成装置30から廃ガス貯留装置40へと廃ガスを移送する廃ガス移送管70と、を備えている。そして、廃ガス移送管70は、放射線遮蔽体24とホットセル32とが対面する範囲内で放射線遮蔽体24内とホットセル32内とを接続し、放射線遮蔽体24内を通って、放射線遮蔽体24と放射線遮蔽体42とが対面する範囲内で、放射線遮蔽体24内と放射線遮蔽体42内とを接続している。従って、放射線遮蔽体24内を有効利用することで、廃ガスの移送のためにも地下ピットを設ける必要がなくなり、施工が容易で且つコストの低減を一層図ることが可能となる。また、廃ガス貯留装置40と自己シールド型サイクロトロン20とを隣接して設けることで、システムのコンパクト化を一層図ることができる。
【0029】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、上記した実施形態では、放射性薬剤として18F−FDGを合成する場合について説明したが、放射性薬剤はこれに限らず、13N−アンモニアや11C−メチオニンなどを合成してもよい。
【0030】
また、上記した実施形態では、廃ガス移送管70は、放射線遮蔽体24とホットセル32とが対面する範囲内で放射線遮蔽体24内とホットセル32内とを接続し、放射線遮蔽体24内を通って、放射線遮蔽体24と放射線遮蔽体42とが対面する範囲内で、放射線遮蔽体24内と放射線遮蔽体42内とを接続していた。これに限られず、図3に示すように、廃ガス移送管70は、ホットセル32と放射線遮蔽体42とが対面する範囲内で、ホットセル32内と放射線遮蔽体42内とを接続してもよい。
【0031】
また、粒子加速器としてサイクロトロンについて説明したが、サイクロトロン以外にもシンクロトロンなど他の粒子加速器であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施形態に係る放射性薬剤製造システムの構成を示す平面図である。
【図2】自己シールド型サイクロトロンとホットセルに収容された合成装置との配置関係を示す図である。
【図3】放射性薬剤製造システムの構成の変形例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0033】
10…放射性薬剤製造システム、20…自己シールド型サイクロトロン、22…サイクロトロン、24…放射線遮蔽体、30…合成装置、32…ホットセル、40…廃ガス貯留装置、42…放射線遮蔽体、60…原料移送管、70…廃ガス移送管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子加速器を第1の放射線遮蔽体により被覆した自己シールド型粒子加速器と、
前記自己シールド型粒子加速器に隣接して設けられており、第2の放射線遮蔽体により被覆され、前記粒子加速器で製造された放射性同位元素を用いて放射性薬剤を合成する合成装置と、
前記第1の放射線遮蔽体と前記第2の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で該第1の放射線遮蔽体内と該第2の放射線遮蔽体内とを接続し、前記粒子加速器から前記合成装置へ放射性同位元素を移送する原料移送管と、
を備えることを特徴とする放射性薬剤製造システム。
【請求項2】
前記自己シールド型粒子加速器に隣接して設けられており、第3の放射線遮蔽体により被覆され、前記合成装置で生じた廃ガスを貯留する廃ガス貯留装置と、
前記合成装置から前記廃ガス貯留装置へと廃ガスを移送する廃ガス移送管と、を備え、
前記廃ガス移送管は、前記第1の放射線遮蔽体と前記第2の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で該第1の放射線遮蔽体内と該第2の放射線遮蔽体内とを接続し、該第1の放射線遮蔽体内を通って、前記第1の放射線遮蔽体と前記第3の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で該第1の放射線遮蔽体内と該第3の放射線遮蔽体内とを接続する、ことを特徴とする請求項1に記載の放射性薬剤製造システム。
【請求項3】
前記自己シールド型粒子加速器に隣接して設けられており、第3の放射線遮蔽体により被覆され、前記合成装置で生じた廃ガスを貯留する廃ガス貯留装置と、
前記合成装置から前記廃ガス貯留装置へと廃ガスを移送する廃ガス移送管と、を備え、
前記廃ガス移送管は、前記第2の放射線遮蔽体と前記第3の放射線遮蔽体とが対面する範囲内で該第2の放射線遮蔽体内と該第3の放射線遮蔽体内とを接続する、ことを特徴とする請求項1に記載の放射性薬剤製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−248309(P2007−248309A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73259(P2006−73259)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】