説明

放射揺動加工方法

【課題】指令加工位置に到達するまでの間、角柱状電極の各角部の消耗の偏りを減らし、加工形状の角転写精度を均一にする放射揺動加工方法を得ること。
【解決手段】複数の角部を有する角穴をワークに仕上加工するために、前記角穴の減寸電極を、放射揺動中心から前記複数の角部の底へ向けて角錐の稜線に沿うように電極とワークの間隙制御を行いながら相対移動させ、放電加工を行なう放射揺動加工方法において、指令加工深さ及び指令放射揺動量より小さい所定の加工進行量に至るまで前記複数の角部の夫々を所定の順番に周回揺動加工する小周回揺動加工ステップと、前記小周回揺動加工ステップを、前記指令加工深さ及び指令放射揺動量に到達するか又は指令加工時間が来るまで複数回繰り返すステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御放電加工機により、複数の角部を有する角穴をワークに仕上加工するために、角穴と相似形の減寸電極を、放射揺動中心から複数の角部の底へ向けて角錐の稜線に沿うように電極とワークの間隙制御を行いながら相対移動させ、放電加工を行なう放射揺動加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、揺動加工機能を有する数値制御放電加工機において、一定の揺動面内において所定速度での周回運動又は放射運動を行なう揺動手段と、前記揺動面内において前記周回運動又は放射運動と独立に、電極と被加工物の間の間隙制御を行なう揺動間隙制御手段とを具備したものがある。
【0003】
この数値制御放電加工機は、揺動最終目標形状を複数に分割する揺動形状分割手段と、各分割形状毎に最終目標形状に到達したか否かを判定する個別到達判定手段と、前記各分割形状全てが前記最終目標形状に到達したと判定されたときに揺動を終了する揺動判定手段とを具備している。
【0004】
上記の放電加工機による揺動加工方法は、荒加工電極での定速揺動+深さ方向への間隙制御送りの後、仕上電極で円錐台状の揺動を行なうようにすることにより、攪拌によるスラッジの排出の促進、集中放電の防止、側面の面粗度の向上がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−166224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術によれば、仕上加工において、指令加工位置に到達してからの加工終了判定時に、分割した揺動領域ごとの終了判定や、次の分割形状に移るかの判定を行なっているが、指令加工位置に到達するまでの間に電極の各角部や各側面の消耗を均一にするような処理がなされていない。そのため、同じ揺動を繰り返すことにより、角部に電極消耗の偏りが生じ、最終加工形状に電極消耗の偏りが転写され、最終加工形状の角部の形状精度が悪化する、という問題がある。また、面粗度を確保するための時間切加工においても同様の問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、指令加工位置に到達するまでの間、角柱状電極の各角部の消耗の偏りを減らし、加工形状の角転写精度を均一にする放射揺動加工方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、複数の角部を有する角穴をワークに仕上加工するために、前記角穴の減寸電極を、放射揺動中心から前記複数の角部の底へ向けて角錐の稜線に沿うように電極とワークの間隙制御を行いながら相対移動させ、放電加工を行なう放射揺動加工方法において、指令加工深さ及び指令放射揺動量より小さい所定の加工進行量に至るまで前記複数の角部の夫々を所定の順番に周回揺動加工する小周回揺動加工ステップと、前記小周回揺動加工ステップを、前記指令加工深さ及び指令放射揺動量に到達するか又は指令加工時間が来るまで複数回繰り返すステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、指令加工位置に到達するまでの間、角柱状電極の各角部の消耗の偏りを減らし、加工形状の角転写精度を均一にすることができる、という効果を奏する。また、加工進行中の任意の時間における各角部の消耗の偏りを減らし、且つ、加工進み量を均一にすることができるため、面粗度を確保するための時間切加工においても角転写精度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる放射揺動加工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
図1−1は、本発明にかかる放射揺動加工方法により、四角柱状の減寸電極でワークに四角穴を仕上加工している途中の状態を示す横断面図であり、図1−2は、図1−1と同様の状態を示す縦断面図であり、図2は、本発明にかかる放射揺動加工方法を概念的に示す斜視図であり、図3−1は、四角穴の各角部の小放射揺動加工の周回順序を指示するテーブルであり、図3−2〜図3−5は、夫々1周目〜4(0)周目の小放射揺動加工順序を示す図であり、図4は、本発明にかかる放射揺動加工方法を実施する実施の形態1の数値制御放電加工機の機能ブロック図であり、図5は、実施の形態1の数値制御放電加工機の小放射揺動制御動作を示すフローチャートである。
【0012】
本発明の放射揺動加工方法は、図1−1及び図1−2に示すように、複数の角部11、12、13、14を有する角穴(本実施の形態では、四角穴)15をワーク10に仕上加工するために、角穴15と相似形の角柱(四角柱)状の減寸電極20を、放射揺動中心25から複数の角部11〜14の底(指令加工深さの底)11A〜14Aへ向けて、図2に示す角錐(四角錐)30の夫々の稜線31〜34に沿うように相対移動させ、放電加工を行なう加工方法である。
【0013】
この場合、本発明の特徴的な加工方法として、減寸電極20を、放射揺動中心25から夫々の角部11〜14の底11A〜14Aへ向けて四角錐の稜線に沿うように相対移動させて底11A〜14Aへ到達させ、合計4回の連続的放電加工で四角穴の仕上加工を行なうのではなく、夫々の角部11〜14の底11A〜14Aへ向けての加工を、複数回に分けて行なう。
【0014】
また、仕上加工代1Aを除去する仕上加工を行なうための、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A、32A、33A、34Aの各合成ベクトルより小さい所定の加工進行量(ベクトル値)に至るまで複数の角部11〜14の夫々を所定の順番に周回加工する(小周回揺動加工ステップ)。
【0015】
すなわち、図2及び図3−1〜図3−5に示すように、1周目の小周回揺動加工ステップでは、放射方向1→放射方向3→放射方向2→放射方向4の順番で、夫々加工進行量に至るまで周回加工する。1周目の小周回揺動加工ステップでは、放射方向2及び4の加工は、放射方向1及び3の加工により、角部12、14の近傍以外は既に除去された面の加工となるので、放射方向1及び3よりも加工進み量が大きくなる傾向がある。
【0016】
次に、2周目の小周回揺動加工ステップでは、放射方向2→放射方向4→放射方向3→放射方向1の順番で、夫々加工進行量に至るまで周回加工する。2周目の小周回揺動加工ステップでは、放射方向3及び1の加工は、放射方向2及び4の加工により、角部11、13の近傍以外は既に除去された面の加工となるので、放射方向2及び4よりも加工進み量が大きくなる傾向があり、1周目の小周回揺動加工ステップで発生した加工進み量のアンバランスを2週目の小周回揺動加工ステップで解消することができる。また、角柱状減寸電極20の各角部の消耗の偏りをなくし、加工形状の角転写精度を均一にすることができる。3周目、4周目以降も、図3−1、図3−4、図3−5に示す順番で周回加工を行ない、小周回揺動加工ステップを、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A、32A、33A、34Aに到達するか又は指令加工時間が来るまで複数回繰り返す。
【0017】
このように、本発明の放射揺動加工方法は、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A〜34Aより小さい所定の加工進行量に至るまで角穴15の複数の角部11〜14の夫々を所定の順番に周回揺動加工する小周回揺動加工ステップと、この小周回揺動加工ステップを、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A〜34Aに到達するか又は指令加工時間が来るまで複数回繰り返すステップと、を含むので、指令加工位置36、31A〜34Aに到達するまでの間、角柱状減寸電極20の各角部の消耗の偏りをなくし、加工形状の角転写精度を均一にすることができる。
【0018】
次に、図4を参照して、本発明にかかる放射揺動加工方法を実施する実施の形態1の数値制御放電加工機について説明する。図4に示すように、NCプログラム解釈部41は、加工に用いるNCプログラムが格納されたNCプログラムメモリを備えている。NCプログラム解釈部41は、NCプログラムメモリからNCプログラムを読込んで解釈し、放射揺動パターンメモリ42からオペレータが選択して指令した、三角穴、四角穴、六角穴等の放射揺動パターン、及び、加工指令位置メモリ43からオペレータが選択して指令した指令加工深さ36及び各放射方向の指令放射揺動量31A、32A、33A、34A等を補間処理部44に送出し、更に、放射揺動パターン及び揺動速度等を揺動制御部51に送出し、加工条件を放電制御部46に送出する。
【0019】
また、NCプログラム解釈部11は、放射揺動パターン、指令加工深さ36及び各放射方向の指令放射揺動量31A、32A、33A、34Aとともに、オペレータにより選択入力されたワーク10の材質及び電極20の材質等を加工進行量管理部52に送出する。
【0020】
放電制御部46は、NCプログラム解釈部41から送出された加工条件に基づいて、電極20とワーク10との間の放電間隙に放電電圧を印加して放電を発生させるように、図示しない放電電源に指令を出す。
【0021】
加工進行量管理部52は、角穴15の夫々の角部11〜14の、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A、32A、33A、34Aより小さい小周回揺動加工の加工進行量パラメータを格納している。この加工進行量パラメータとしては、各角部11〜14の底11A〜14Aへ向かう各放射方向における加工進み量(ベクトル量)、加工時間(加工進み量を略達成できる時間)、有効放電パルス数(加工進み量を略達成できる有効放電パルス数)のいずれかをオペレータが選択して用いる。
【0022】
この加工進行量パラメータは、放電加工機のメーカー側で、様々な加工条件、ワーク及び電極の材質、電極形状、加工面積等で加工試験を行なって決定した、電極の消耗量の偏りが略無視できる加工進行量となっている。例えば、加工時間パラメータとしては、上述の条件に応じて、1秒〜3分程度の適切な複数の加工進行量がパラメータテーブルに格納されている。NCプログラム解釈部11から送られた加工情報に基づいて、適切な加工進行量(例えば、時間1分)が選択決定され、放射方向切替判定部54に送出される。
【0023】
加工進行量モニタ部53は、電極による実際の加工進行量をモニタし、モニタした加工進行量(例えば、経過した加工時間)を放射方向切替判定部54に送出する。放射方向切替判定部54は、加工進行量管理部52から送出された適切な加工進行量と加工進行量モニタ部53から送出された実際の加工進行量とを比較し、実際の加工進行量が適切な加工進行量に到達すると、到達判定信号を次放射方向決定部56に送出する。
【0024】
加工進行量モニタ部53は、加工進行量が、加工進み量であれば加工進み量をモニタし、加工時間であれば加工時間をモニタし、有効放電パルス数であればパルス数をモニタする。通常は、加工時間が、加工進行量として用いられる。
【0025】
放射順管理部55は、図3−1に示すような、角穴の各小周回揺動加工における放射揺動方向順の管理テーブルを格納している。一例として示す四角穴の小周回揺動加工では、1周目では、図3−2に示すように、各角部の底に向けて対角を突くように、1、3、2、4の順で放射揺動加工を行なうように指令する。2周目〜4周目では、図3−3〜図3−5に示す順番で放射揺動加工を行なうように指令する。
【0026】
次放射方向決定部56は、上述の到達判定信号が入力されると、放射順管理部55から、小周回揺動加工における次の放射揺動方向を読出し、次の放射揺動方向を決定して揺動制御部51に送出する。揺動制御部51は、次放射方向決定部56からの放射揺動方向信号と、加工進行量管理部52からの加工進行量信号とに基づいて所定の小放射揺動指令をサーボ制御部15に送出する。
【0027】
補間処理部44は、NCプログラム解釈部41からの指令加工深さ36及び各放射方向の指令放射揺動量31A、32A、33A、34Aと、加工進行量管理部52からの加工進行量信号とに基づいて所定の小加工深さ指令をサーボ制御部45に送出する。
【0028】
サーボ制御部45は、揺動制御部51からの小放射揺動指令と、補間処理部44からの小加工深さ指令とに基づいて図示しないX、Y、Z軸のサーボモータを制御し、角穴15と相似形の減寸電極20を、放射揺動中心25から角穴15の一つの角部の底へ向けて角錐の稜線に沿うように所定の加工進行量に至るまで放電仕上加工を行ない、加工進行量に至ると、電極を放射揺動中心25に戻す。
【0029】
加工進行量モニタ部53が、上述の加工進行量をモニタしていて、モニタした加工進行量を放射方向切替判定部54に送出していて、放射方向切替判定部54が、加工進行量管理部52から送出された適切な加工進行量と加工進行量モニタ部53から送出された実際の加工進行量とを比較し、実際の加工進行量が適切な加工進行量に到達しているので、到達判定信号を次放射方向決定部56に送出し、次放射方向決定部56は、到達判定信号が入力されると、放射順管理部55から、小周回揺動加工における次の放射揺動方向を読出し、次の放射揺動方向を決定して揺動制御部51に送出する。このようにして、小周回揺動加工ステップを、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A〜34Aに到達するまで繰り返す。
【0030】
一方、オペレータが加工時間管理部57から指令加工時間(例えば、10分間)を選択して入力すると、時間切判定部58が加工スタート時からの加工時間をカウントし、指令加工時間が経過すると、揺動制御部51に停止指令を送出し、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A〜34Aに到達していなくても放電加工を停止させる。なお、このとき、一つの小周回揺動加工ステップの途中であるときは、一つの小周回ステップが完了してから停止するようにすれば、加工残の偏りの少ない角穴が得られる。
【0031】
揺動制御部51、加工進行量管理部52、加工進行量モニタ部53、放射方向切替判定部54、放射順管理部55、次放射方向決定部56、加工時間管理部57及び時間切判定部58は、小周回揺動制御部50を構成している。
【0032】
次に、図5を参照して、小周回揺動制御部50による小周回揺動制御動作を説明する。放射揺動加工をスタートさせると、ステップS11で、電極の消耗量の偏りが略無視できる加工進行量(例えば、加工時間1分間)を決定する。次に、ステップS12に進み、放射揺動方向n=1を設定する。
【0033】
次に、ステップS13に進み、今回の小周回揺動加工における放射揺動方向順を決定する。次に、ステップS14に進み、今回小周回揺動加工のn番目の放射揺動方向への放電加工を行なう。次に、ステップS15に進み、現在加工している放射揺動方向で指令加工位置に到達したか否かを判定する。ステップS15が肯定されると、加工を停止し、ステップS17に進み、放射揺動方向n=n+1を設定し、ステップS14に戻り、今回小周回揺動加工のn+1番目の放射揺動方向への放電加工を行なう。
【0034】
ステップS15が否定されると、ステップS16に進み、現在加工している放射方向で所定の加工進行量を加工したか否かを判定する。否であれば、ステップS14に戻り放電加工を継続する。
【0035】
ステップS16が肯定されると、ステップS18に進み、今回小周回揺動加工の全ての放射揺動方向で所定の加工進行量の加工が終了したか否かを判定する。否であれば、ステップS17に進み、放射揺動方向n=n+1を設定し、ステップS14に戻り、今回小周回揺動加工のn+1番目の放射揺動方向への放電加工を行なう。
【0036】
ステップS14〜S18を繰り返し、今回小周回揺動加工の全ての放射揺動方向で所定の加工進行量の加工が終了し、ステップS18が肯定されると、ステップS19に進み、指令加工時間が経過したか否かを判定する。
【0037】
ステップS19が肯定されると加工を終了する。ステップS19が否定されると、ステップS20に進み、全ての放射揺動方向で指令加工位置に到達したか否かを判定する。否であれば、ステップS21に進み、小周回数+1を設定してステップS12に戻り、次の小周回揺動加工ステップに進む。
【0038】
ステップS12〜S21を繰り返し、全ての放射揺動方向で指令加工位置に到達し、ステップS20が肯定されると、加工を終了する。
【0039】
以上、説明したように、実施の形態1の放射揺動加工方法は、複数の角部11〜14を有する三角形、四角形、六角形等の角穴15をワーク10に仕上加工するために、角穴15と相似形の角柱状の減寸電極20を、放射揺動中心25から角穴15の複数の角部11〜14の底11A〜14Aへ向けて角錐30の稜線31〜34に沿うように相対移動させ、放電加工を行なう放射揺動加工方法において、最終仕上指令加工深さ36及び最終仕上指令放射揺動量31A〜34Aより小さい所定の加工進行量に至るまで複数の角部11〜14の夫々を所定の順番に周回揺動加工する小周回揺動加工ステップと、この小周回揺動加工ステップを、最終仕上指令加工深さ36及び最終仕上指令放射揺動量31A〜34Aに到達するか又は指令加工時間が来るまで複数回繰り返すステップと、を含むことを特徴とする。
【0040】
上述の放射揺動加工方法によれば、角穴15の角部11〜14の形状精度を高めるための放射揺動加工において、放射揺動方向を所定の加工進行量毎に切替えながら、決められた順番で小周回揺動加工を進めていくことにより、同一小周回において、角柱状電極20の各角部の消耗量を最小かつ均一にすることができる。それ故、仕上加工される角穴15に複数存在する角部11〜14の転写精度を均一にすることができる。
【0041】
また、角穴15仕上加工中の任意の時間に加工を停止させた場合でも、各放射揺動方向の角柱状電極20の各角部の消耗量が均一となっているので、特に、電極消耗量の大きい仕上加工における面粗度を確保するための時間切加工において、面粗度と角部の形状精度の両方を確保することができる。
【0042】
実施の形態2.
図6は、本発明にかかる放射揺動加工方法を実施する実施の形態2の数値制御放電加工機の機能ブロック図であり、図7は、実施の形態2の数値制御放電加工機の小放射揺動制御動作を示すフローチャートであり、図8は、実施の形態2の放射揺動加工方法により、三角柱状の減寸電極でワークに三角穴を仕上加工している途中の状態を示す横断面図であり、図9は、三角穴の小周回揺動加工ステップにおける各放射揺動方向の加工進み量を示す図である。
【0043】
図6を参照して、本発明にかかる放射揺動加工方法を実施する実施の形態2の数値制御放電加工機について説明する。図6に示すように、NCプログラム解釈部41は、加工に用いるNCプログラムが格納されたNCプログラムメモリを備えている。NCプログラム解釈部41は、NCプログラムメモリからNCプログラムを読込んで解釈し、放射揺動パターンメモリ42からオペレータが選択して指令した、図8に示す三角穴の放射揺動パターン、及び、加工指令位置メモリ43からオペレータが選択して指令した指令加工深さ36及び各放射方向の指令放射揺動量31A、32A、33A等を補間処理部44に送出し、更に、放射揺動パターン及び揺動速度等を揺動制御部51に送出し、加工条件を放電制御部46に送出する。
【0044】
また、NCプログラム解釈部11は、放射揺動パターン、指令加工深さ36及び各放射方向の指令放射揺動量31A、32A、33Aとともに、オペレータにより選択入力されたワーク10の材質、電極20の材質及び放電加工条件の電極消耗量等を加工進行量演算部52Aに送出する。
【0045】
放電制御部46は、NCプログラム解釈部41から送出された加工条件に基づいて、電極20とワーク10との間の放電間隙に放電電圧を印加して放電を発生させるように、図示しない放電電源に指令を出す。
【0046】
加工進行量演算部52Aは、角穴15の夫々の角部11〜13の、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A、32A、33Aより小さい小周回揺動加工の加工進行量パラメータを格納している。この加工進行量パラメータとしては、各角部11〜13の底11A〜13Aへ向かう各放射方向における加工時間、有効放電パルス数のいずれかをオペレータが選択して用いる。
【0047】
この加工進行量パラメータは、放電加工機のメーカー側で、様々な加工条件、ワーク及び電極の材質、電極形状、加工面積等で加工試験を行なって決定した、電極の消耗量の偏りが略無視できる加工進行量となっている。例えば、加工時間パラメータとしては、上述の条件に応じて、1秒〜3分程度の適切な複数の加工進行量がパラメータテーブルに格納されている。NCプログラム解釈部11から送られた加工情報に基づいて、適切な加工進行量(例えば、時間1分)が選択決定され、放射方向切替判定部54に送出される。
【0048】
加工進行量モニタ部53は、電極による実際の加工進行量をモニタし、モニタした加工進行量を放射方向切替判定部54に送出する。放射方向切替判定部54は、加工進行量演算部52Aから送出された適切な加工進行量と加工進行量モニタ部53から送出された実際の加工進行量とを比較し、実際の加工進行量が適切な加工進行量に到達すると、到達判定信号を次放射方向決定部56に送出する。
【0049】
加工進行量モニタ部53は、加工進行量が、加工時間であれば加工時間をモニタし、有効放電パルス数であればパルス数をモニタし、併せて、加工進み量もモニタしている。通常、加工時間が、加工進行量として用いられる。
【0050】
放射順演算部55Aは、図3−1に示すような、角穴の各小周回揺動加工における放射揺動方向順の管理テーブルを格納している。三角穴の小周回揺動加工では、1周目では、例えば、図8に示す角部11、13、12の順で放射揺動加工を行なうように指令する。2周目では、図8に示す角部12、13、11の順で放射揺動加工を行なうように指令する。3周目、4周目では、夫々1周目、2周目と同じ順番で放射揺動加工を行なうように指令する。
【0051】
次放射方向決定部56は、上述の到達判定信号が入力されると、放射順演算部55Aから、小周回揺動加工における次の放射揺動方向を読出し、次の放射揺動方向を決定して揺動制御部51に送出する。揺動制御部51は、次放射方向決定部56からの放射揺動方向信号と、加工進行量演算部52Aからの加工進行量信号とに基づいて所定の小放射揺動指令をサーボ制御部15に送出する。
【0052】
補間処理部44は、NCプログラム解釈部41からの指令加工深さ36及び各放射方向の指令放射揺動量31A、32A、33Aと、加工進行量演算部52からの加工進行量信号とに基づいて所定の小加工深さ指令をサーボ制御部45に送出する。
【0053】
サーボ制御部45は、揺動制御部51からの小放射揺動指令と、補間処理部44からの小加工深さ指令とに基づいて図示しないX、Y、Z軸のサーボモータを制御し、角穴15と相似形の減寸電極20を、放射揺動中心25から三角穴15の一つの角部の底へ向けて角錐の稜線に沿うように所定の加工進行量に至るまで放電仕上加工を行ない、加工進行量に至ると、電極を放射揺動中心25に戻す。
【0054】
加工進行量モニタ部53が、上述の加工進行量をモニタしていて、モニタした加工進行量を放射方向切替判定部54に送出し、放射方向切替判定部54が、加工進行量演算部52Aから送出された適切な加工進行量と加工進行量モニタ部53から送出された実際の加工進行量とを比較し、実際の加工進行量が適切な加工進行量に到達しているので、到達判定信号を次放射方向決定部56に送出し、次放射方向決定部56は、到達判定信号が入力されると、放射順序演算部55Aから、小周回揺動加工における次の放射揺動方向を読出し、次の放射揺動方向を決定して揺動制御部51に送出する。
【0055】
このようにして、今回の小周回揺動加工ステップが終了し、全ての放射揺動方向の加工が終わると、図9に誇張して示すように、各角部11〜13の夫々で加工進み量が異なっている。実施の形態2の不等辺三角形の加工における加工進み量の差は、主に、不等辺三角形の各放射方向の放射揺動量及び加工進み量当りのワークの加工量(取り量)の差によるものである。すなわち、鋭角となっている角部11は、放射揺動量及び加工進み量当りのワークの加工量(取り量)が大きいので、加工進み量が小さくなる。
【0056】
加工進行量モニタ部53は、上述の加工進行量をモニタするとともに加工進み量をもモニタしていて、今回の小周回揺動加工ステップが終了した時点で、各放射方向の加工進み量を、放射方向切替時の加工進み量記憶部59に送出し、各放射方向の加工進み量を記憶させる。
【0057】
次の小周回揺動加工ステップに進むとき、加工進み量記憶部59は、記憶した各放射方向の加工進み量を、放射順序演算部55A及び加工進行量演算部52Aに送出し、放射順序演算部55Aでは、各放射方向の加工進み量の差に基づいて、放射揺動方向順序を決定する。すなわち、次の小周回揺動加工ステップでは、加工進み量の多い放射方向から先に加工を行うようにする(これは、実施の形態1と同じ理由による。)。電極の形状により各放射方向の加工進み量当たりの加工量が異なる等の理由により、加工進行中に加工進み量に不均一が生じた場合に、放射揺動方向順序を適切に切り替えることにより、加工進み量を均一にすることができる。
【0058】
また、加工進行量演算部52Aでも、各放射方向の加工進み量の差に基づいて、各放射方向の加工進行量を決定する。すなわち、次の小周回揺動加工ステップでは、加工進み量の少ない放射方向の加工進行量を多くするようにする。加工進行中に加工進み量に不均一が生じた場合に、各放射揺動方向の加工進行量を適切に増減させることにより、加工進み量を均一にすることができる。このようにして、小周回揺動加工ステップを、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A〜34Aに到達するまで繰り返す。
【0059】
一方、オペレータが加工時間管理部57から指令加工時間(例えば、10分間)を選択して入力すると、時間切判定部58が加工スタート時からの加工時間をカウントし、指令加工時間が経過すると、揺動制御部51に停止指令を送出し、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A〜34Aに到達していなくても放電加工を停止させる。なお、このとき、一つの小周回揺動加工ステップの途中であるときは、一つの小周回ステップが完了してから停止するようにすれば、加工残の偏りの少ない角穴が得られる。
【0060】
揺動制御部51、加工進行量演算部52A、加工進行量モニタ部53、放射方向切替判定部54、放射順序演算部55A、次放射方向決定部56、加工時間管理部57及び時間切判定部58は、実施の形態2の小周回揺動制御部50Aを構成している。
【0061】
次に、図7を参照して、実施の形態2の小周回揺動制御部50Aによる小周回揺動制御動作を説明する。放射揺動加工をスタートさせると、まず、ステップS31で放射揺動方向n=1を設定する。次に、ステップS32に進み、今回の小周回揺動加工における放射揺動方向順を決定する。
【0062】
次に、ステップS33に進み、今回の小周回揺動加工における、電極の消耗量の偏りが無視できる、各放射方向の加工進行量(例えば、各放射方向とも、加工時間1分間)を決定する。次に、ステップS34に進み、今回の小周回揺動加工のn番目の放射揺動方向への放電加工を行なう。
【0063】
次に、ステップS35に進み、現在加工している放射揺動方向で指令加工位置に到達したか否かを判定する。ステップS35が肯定されると、加工を停止し、ステップS37に進み、放射揺動方向n=n+1を設定し、ステップS34に戻り、今回の小周回揺動加工のn+1番目の放射揺動方向への放電加工を行なう。
【0064】
ステップS35が否定されると、ステップS36に進み、現在加工している放射方向で所定の加工進行量(加工時間1分間)を加工したか否かを判定する。否であれば、ステップS34に戻り放電加工を継続する。
【0065】
ステップS36が肯定されると、ステップS38に進み、今回の小周回揺動加工の全ての放射揺動方向で所定の加工進行量の加工が終了したか否かを判定する。否であれば、ステップS37に進み、放射揺動方向n=n+1を設定し、ステップS34に戻り、今回の小周回揺動加工のn+1番目の放射揺動方向への放電加工を行なう。
【0066】
ステップS34〜S38を繰り返し、今回の小周回揺動加工の全ての放射揺動方向で所定の加工進行量の加工が終了し、ステップS38が肯定されると、ステップS39に進み、今回の小周回揺動加工の各放射揺動方向の加工進み量(実際の加工距離)を記憶する。次に、ステップS40に進み、指令加工時間が経過したか否かを判定する。
【0067】
ステップS40が肯定されると加工を終了する。ステップS40が否定されると、ステップS41に進み、全ての放射揺動方向で指令加工位置に到達したか否かを判定する。否であれば、ステップS42に進み、小周回数+1を設定してステップS31に戻り、次の小周回揺動加工ステップに進む。
【0068】
ステップS31で放射揺動方向n=1を設定する。次に、ステップS32に進み、今回の小周回揺動加工における放射揺動方向順を決定する。放射揺動方向順序は、加工進み量(加工距離)の多い放射方向から先に加工を行うようにする。加工進行中に加工進み量に不均一が生じた場合に、放射揺動加工順序を適切に切り替えることにより、加工進み量を均一にすることができる。
【0069】
次に、ステップS33に進み、今回の小周回揺動加工における、各放射揺動方向の加工進行量を決定する。この加工進行量としては、前回の小周回揺動加工における、各放射方向の加工進み量(加工距離)の差に基づいて、今回の各放射揺動方向の加工進行量を決定する。すなわち、今回の小周回揺動加工ステップでは、前回の小周回揺動加工において加工進み量の少ない放射揺動方向の加工進行量を多くするようにする。加工進行中に加工進み量に不均一が生じた場合に、各放射揺動方向の加工進行量を適切に増減させることにより、加工進み量を均一にすることができる。
【0070】
ステップS34以降のステップは、前回の小周回揺動加工ステップと同様である。このようにして、ステップS31〜S42の小周回揺動加工ステップを、指令加工深さ36及び指令放射揺動量31A〜33Aに到達するまで繰り返す。
【0071】
以上、説明したように、実施の形態2の放射揺動加工方法は、小周回揺動加工ステップにおける複数の角部の夫々の加工進み量(加工距離)を記憶し、次回の小周回揺動加工ステップ時に、夫々の角部の加工進み量の差に基づいて、夫々の角部の小周回揺動加工順を変更するので、夫々の角部の加工進み量を均一にすることができる。
【0072】
また、小周回揺動加工ステップにおける複数の角部の夫々の加工進み量を記憶し、次回の小周回揺動加工ステップ時に、夫々の角部の加工進み量の差に基づいて、夫々の角部の加工進行量を変更するので、夫々の角部の加工進み量を均一にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明にかかる放射揺動加工方法は、複数の角部を有する角穴をワークに仕上加工するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1−1】本発明にかかる放射揺動加工方法により四角柱状の減寸電極でワークに四角穴を仕上加工している途中の状態を示す横断面図である。
【図1−2】図1−1と同様の状態を示す縦断面図である。
【図2】本発明にかかる放射揺動加工方法を概念的に示す斜視図である。
【図3−1】四角穴の各角部の小放射揺動加工の周回順序を指示するテーブルである。
【図3−2】1周目の小放射揺動加工順序を示す図である。
【図3−3】2周目の小放射揺動加工順序を示す図である。
【図3−4】3周目の小放射揺動加工順序を示す図である。
【図3−5】4(0)周目の小放射揺動加工順序を示す図である。
【図4】本発明にかかる放射揺動加工方法を実施する実施の形態1の数値制御放電加工機の機能ブロック図である。
【図5】実施の形態1の数値制御放電加工機の小放射揺動制御動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明にかかる放射揺動加工方法を実施する実施の形態2の数値制御放電加工機の機能ブロック図である。
【図7】実施の形態2の数値制御放電加工機の小放射揺動制御動作を示すフローチャートである。
【図8】実施の形態2の放射揺動加工方法により、三角柱状の減寸電極でワークに三角穴を仕上加工している途中の状態を示す横断面図である。
【図9】三角穴の小周回揺動加工ステップにおける各放射揺動方向の加工進み量を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1A 仕上加工代
10 ワーク
11,12,13,14 角部
11A,12A,13A,14A 角部の底(指令加工深さの底)
15 角穴(四角穴)
20 減寸電極
25 放射揺動中心
30 角錐(四角錐)
31,32,33,34 稜線
31A,32A,33A,34A 指令放射揺動量
36 指令加工深さ
41 NCプログラム解釈部
42 放射揺動パターンメモリ
43 加工指令位置メモリ
44 補間処理部
45 サーボ制御部
46 放電制御部
50,50A 小周回揺動制御部
51 揺動制御部
52 加工進行量管理部
52A 加工進行量演算部
53 加工進行量モニタ部
54 放射方向切替判定部
55 放射順管理部
55A 放射順序演算部
56 次放射方向決定部
57 加工時間管理部
58 時間切判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の角部を有する角穴をワークに仕上加工するために、前記角穴の減寸電極を、放射揺動中心から前記複数の角部の底へ向けて角錐の稜線に沿うように電極とワークの間隙制御を行いながら相対移動させ、放電加工を行なう放射揺動加工方法において、
指令加工深さ及び指令放射揺動量より小さい所定の加工進行量に至るまで前記複数の角部の夫々を所定の順番に周回揺動加工する小周回揺動加工ステップと、
前記小周回揺動加工ステップを、前記指令加工深さ及び指令放射揺動量に到達するか又は指令加工時間が来るまで複数回繰り返すステップと、
を含むことを特徴とする放射揺動加工方法。
【請求項2】
前記加工進行量は、前記各角部の底へ向かう各放射方向における加工進み量、加工時間又は有効放電パルス数のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の放射揺動加工方法。
【請求項3】
前記小周回揺動加工ステップにおける前記複数の角部の夫々の加工進み量を記憶し、次回の小周回揺動加工ステップ時に、前記夫々の角部の加工進み量の差に基づいて、該夫々の角部の小周回揺動加工順を変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射揺動加工方法。
【請求項4】
前記小周回揺動加工ステップにおける前記複数の角部の夫々の加工進み量を記憶し、次回の小周回揺動加工ステップ時に、前記夫々の角部の加工進み量の差に基づいて、該夫々の角部の加工進行量を変更することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の放射揺動加工方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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