説明

放射温度計

【課題】 測温作業が効率化された放射温度計を提供することである。
【解決手段】 本体部100Bの記憶部95は、複数のバンクB1〜B3を含む。バンクB1に第1の放射率および第1のしきい値が記憶され、バンクB2に第2の放射率および第2のしきい値が記憶され、バンクB3に第3の放射率および第3のしきい値が記憶されている。使用者が操作設定部96を操作してバンクを選択することによりCPU93に与えられる放射率およびしきい値が決定される。CPU93は、与えられた放射率およびしきい値に基づいて、アナログ信号AO、デジタル信号DOおよび検出信号DETを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体から放射される赤外線エネルギーを検出することによりその物体の温度を測定する放射温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
放射温度計は、測定対象物から放射される赤外線エネルギーを検出し、その赤外線エネルギーを測定対象物の放射率で補正することにより測定対象物の実際の温度を測定するものである(例えば、特許文献1参照)。このような放射温度計は、測定対象物と非接触で測温を行うことができるので、熱伝導率の悪い物体や熱容量の小さい物体でも正確に温度を測定することができる。また、移動物体や回転体の温度も高速かつ高精度に測定することができる。したがって、放射温度計は、例えばファクトリーオートメーション(FA)において、種々の物体の温度管理に用いられている。
【特許文献1】特開平8−278203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、放射率は物体により異なるので、測定対象物ごとに放射率を設定する必要がある。したがって、作業者は、測定対象物の放射率を覚えておくか、あるいは測温の際に放射率表を常に携行しなければならない。そのため、測温に手間がかかり、作業効率が低下する。
【0004】
本発明の目的は、測温作業が効率化された放射温度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明に係る放射温度計は、測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、物体の放射率をそれぞれ記憶する複数の記憶領域を含む記憶手段と、記憶手段の複数の記憶領域のいずれかを選択する選択手段と、赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび選択手段により選択された記憶領域に記憶される放射率に基づいて測定対象物の温度を算出する算出手段と、測定対象物の検出のためのしきい値を設定する設定手段と、算出手段により算出された測定対象物の温度と設定手段により設定されたしきい値とを比較することにより測定対象物の検出状態を判定する判定手段と、算出手段により算出された温度を出力する温度出力部と、判定手段の判定結果を出力する判定結果出力部とを備えたものである。
【0006】
本発明に係る放射温度計においては、測定対象物からの赤外線エネルギーが赤外線検出手段により検出される。記憶手段の複数の記憶領域に物体の放射率がそれぞれ記憶される。選択手段により複数の記憶領域のいずれかが選択される。設定手段により測定対象物の検出のためのしきい値が設定される。算出手段により、赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび選択手段により選択された記憶領域に記憶される放射率に基づいて測定対象物の温度が算出される。算出された温度は温度出力部により出力される。また、判定手段により、算出手段により算出された温度と設定手段により設定されたしきい値とが比較され、測定対象物の検出状態が判定される。判定結果は判定結果出力部により出力される。
【0007】
この場合、使用者が測定対象物に応じて記憶領域のいずれかを選択することにより、その記憶領域に記憶された放射率に基づいて測定対象物の温度が算出される。そのため、使用者は、種々の物体の放射率を覚えておく必要がなく、また測温の際に放射率表等を携帯する必要もない。その結果、測温作業が効率化される。
【0008】
また、算出された温度と設定されたしきい値とを比較することにより測定対象物の検出状態が判定されるので、放射温度計を物体の有無または変化を検出する検出装置としても利用することができる。
【0009】
さらに、測定された温度および判定結果が温度出力部および判定結果出力部により出力されるので、使用者は測定温度および判定結果を容易に認識することができる。
【0010】
複数の記憶領域は、さらに設定手段により設定されたしきい値をそれぞれ記憶し、判定手段は、算出手段により算出された測定対象物の温度と選択手段により選択された記憶領域に記憶されたしきい値とを比較することにより測定対象物の検出状態を判定してもよい。
【0011】
この場合、使用者は、記憶領域のいずれかを選択することにより、測定対象物に応じた放射率としきい値とを同時に決定することができる。それにより、作業効率がより向上する。
【0012】
第2の発明に係る放射温度計は、測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、物体の放射率をそれぞれ記憶する複数の記憶領域を含む記憶手段と、赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび複数の記憶領域にそれぞれ記憶された放射率に基づいて測定対象物の温度をそれぞれ算出する算出手段と、算出手段により算出された複数の温度をそれぞれ出力する複数の温度出力部とを備えたものである。
【0013】
本発明に係る放射温度計においては、測定対象物からの赤外線エネルギーが赤外線検出手段により検出される。記憶手段の複数の記憶領域に物体の放射率がそれぞれ記憶される。選択手段により複数の記憶領域のいずれかが選択される。算出手段により、赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび複数の記憶領域にそれぞれ記憶される放射率に基づいて測定対象物の温度がそれぞれ算出される。算出された複数の温度は複数の温度出力部により出力される。
【0014】
この場合、複数の温度出力部により複数の放射率に基づいた複数の温度が出力されるので、使用者は複数の温度のうち測定対象物に応じた適切な温度を利用することができる。したがって、測定対象物が変わっても、使用者が放射率を変更することなく測定対象物の正確な温度を得ることができる。また、使用者は、種々の物体の放射率を覚えておく必要がなく、また測温の際に放射率表等を携帯する必要もない。これらの結果、測温作業が効率化される。
【0015】
複数の記憶領域は、さらに測定対象物の検出のためのしきい値をそれぞれ記憶し、算出手段により算出された複数の温度と複数の記憶領域にそれぞれ記憶されたしきい値とを比較することにより測定対象物の検出状態をそれぞれ判定する判定手段と、判定手段による複数の判定結果をそれぞれ出力する複数の判定結果出力部とをさらに備えてもよい。
【0016】
この場合、算出された複数の温度と複数の記憶領域にそれぞれ記憶されたしきい値とを比較することにより測定対象物の検出状態が判定されるので、放射温度計を物体の有無または変化を検出する検出装置としても利用することができる。また、複数の判定結果出力部により複数のしきい値を用いた複数の判定結果が出力されるので、使用者は複数の判定結果のうち測定対象物に応じた適切な判定結果を利用することができる。したがって、測定対象物が変わっても、使用者がしきい値を変更することなく測定対象物の正確な検出状態を得ることができる。それにより、作業効率がさらに向上する。
【0017】
第3の発明に係る放射温度計は、測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、複数の記憶領域を含みかつ各記憶領域が複数の物体の放射率を記憶する記憶手段と、複数の記憶領域のいずれかを選択する選択手段と、赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび選択手段により選択された記憶領域に記憶された複数の放射率に基づいて測定対象物の温度をそれぞれ算出する算出手段と、算出手段により算出された複数の温度をそれぞれ出力する複数の温度出力部とを備えたものである。
【0018】
本発明に係る放射温度計においては、測定対象物からの赤外線エネルギーが赤外線検出手段により検出される。記憶手段の複数の各記憶領域に複数の物体の放射率が記憶される。選択手段により複数の記憶領域のいずれかが選択される。算出手段により、赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび選択手段により選択された記憶領域に記憶される複数の放射率に基づいて測定対象物の温度がそれぞれ算出される。算出された複数の温度は複数の温度出力部により出力される。
【0019】
この場合、複数の温度出力部により複数の放射率に基づいた複数の温度が出力されるので、使用者は複数の温度のうち測定対象物に応じた適切な温度を利用することができる。したがって、測定対象物が変わっても、使用者が放射率を変更することなく測定対象物の正確な温度を得ることができる。また、使用者は、種々の物体の放射率を覚えておく必要がなく、また測温の際に放射率表等を携帯する必要もない。これらの結果、測温作業が効率化される。
【0020】
また、記憶領域を選択することができるので、さらに多くの測定対象物の測温が可能になる。
【0021】
記憶手段の各記憶領域は、測定対象物の検出のために複数の放射率と対応付けられた複数のしきい値をさらに記憶し、算出手段により算出された複数の温度の各々と選択手段により選択された記憶領域に記憶された対応するしきい値とを比較することにより測定対象物の検出状態をそれぞれ判定する判定手段と、判定手段による複数の判定結果をそれぞれ出力する複数の判定結果出力部とをさらに備えてもよい。
【0022】
この場合、複数の判定結果出力部により複数のしきい値を用いた複数の判定結果が出力されるので、使用者は複数の判定結果のうち測定対象物に応じた適切な判定結果を利用することができる。したがって、測定対象物が変わっても、使用者がしきい値を変更することなく測定対象物の正確な検出状態を得ることができる。それにより、作業効率がさらに向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、使用者は、種々の物体の放射率を覚えておく必要がなく、また測温の際に放射率表等を携帯する必要もない。それにより、測温作業が効率化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係る放射温度計について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る放射温度計のブロック図である。図1に示すように、本実施の形態に係る放射温度計100は、ヘッド部100Aおよび本体部100Bを備える。
【0026】
ヘッド部100Aおよび本体部100Bは互いにケーブル80により接続されている。
【0027】
図2は、図1のヘッド部100Aの外観斜視図である。
【0028】
ヘッド部100Aの各構成部は略直方体形状のヘッドケーシングKに内蔵される。ヘッドケーシングKは、上面KU、下面KD、前面KF、背面KBおよび側面KS1,KS2を有する。
【0029】
図2の説明においては、側面KS1,KS2に垂直な方向をX方向と呼び、前面KFおよび背面KBに垂直な方向をY方向と呼び、上面KUおよび下面KDに垂直な方向をZ方向と呼ぶ。
【0030】
図2において、ヘッドケーシングKの前面KFに赤外線集光部KHおよびレーザ出射部K60,K70が設けられ、上面KUに発光ダイオードからなる表示灯36a,36b,36cが設けられ、背面KBにケーブル接続部KJが設けられている。表示灯36a,36b,36cが上面KUに設けられることにより、使用者は表示灯36a,36b,36cの点灯および点滅状況を容易に認識することができる。レーザ出力部K60,K70にはそれぞれ後述するレーザダイオード60,70が設けられる。
【0031】
赤外線集光部KHにおいては、測定対象物から放射される赤外線が取り込まれる。レーザダイオード60,70により発生されたレーザ光が、レーザ出射部K60,K70から測定箇所へ向けて出射される。それにより、使用者は測定対象物の測定箇所を容易に認識することができる。
【0032】
ケーブル接続部KJには、ケーブル80が接続される。このケーブル80は、上述のように本体部100Bに接続される。
【0033】
図3は図1のヘッド部100Aのブロック図であり、図4は図1の本体部100Bのブロック図である。
【0034】
図3に示すように、ヘッド部100Aは、サーモパイル10、プリアンプ基板20、メイン基板30、電源基板40および2つのレーザダイオード60,70を備える。
【0035】
サーモパイル10は、赤外線受光部11およびサーミスタ12を備える。プリアンプ基板20には、第1の信号増幅部21および第2の信号増幅部22が実装される。メイン基板30には、第3の信号増幅部31、アナログデジタル変換回路(以下、AD変換回路と略記する。)32,33、CPU(中央演算処理装置)34、記憶部35、表示灯36a,36b,36cおよびレーザ駆動回路37が実装される。
【0036】
電源基板40には、電源回路41、通信回路42およびレーザ駆動回路43が実装される。電源基板40には、電源線および信号線を含むケーブル80が接続されている。
【0037】
サーモパイル10において、赤外線受光部11は測定対象物から放射される赤外線エネルギーを検出する。サーミスタ12はサーモパイル10の内部温度を検出する。
【0038】
プリアンプ基板20において、第1の信号増幅部21は赤外線受光部11の出力信号を増幅する。第2の信号増幅部22はサーミスタ12の出力信号を増幅する。
【0039】
メイン基板30において、第3の信号増幅部31は第1の信号増幅部21の出力信号を増幅する。AD変換回路32は、第1の信号増幅部21の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を測定対象物の検出温度値としてCPU34へ与える。
【0040】
AD変換回路33は、第2の信号増幅部22の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号をサーモパイル10の内部温度値としてCPU34へ与える。
【0041】
記憶部35には、サーモパイル10に関する情報等が記憶されている。サーモパイル10に関する情報とは、例えば、赤外線受光部11のゲインおよびオフセット値、サーミスタ12のゲインおよびオフセット値、ならびにサーモパイルの測定温度範囲および温度スケール等である。
【0042】
CPU34には、AD変換回路32から与えられる検出温度値およびAD変換回路33から与えられる内部温度値が与えられる。そして、CPU34はこれらの検出温度値および内部温度値を通信回路42およびケーブル80を通じて本体部100Bに与える。
【0043】
また、CPU34は、AD変換回路32の出力信号のレベルに基づいて第3の信号増幅部31のゲインをフィードバック制御する。
【0044】
さらに、CPU34は、表示灯36a,36b,36c、レーザ駆動回路37および電源基板40のレーザ駆動回路43の動作を制御する。
【0045】
表示灯36a,36b,36cは、CPU34の制御により後述するバンクB1〜B3に対応する検出信号のオン状態またはオフ状態を点灯または消灯により表示する。それにより、使用者は、検出信号の状態を容易に確認することができる。また、レーザ駆動回路37は、CPU34の制御によりレーザダイオード60を駆動する。
【0046】
電源基板40において、電源回路41は本体部100Bからケーブル80を通じて与えられる電力をヘッド部100Aの各構成部に供給する。
【0047】
通信回路42およびレーザ駆動回路43は、ともに中継基板50を介してメイン基板30のCPU34と接続されている。
【0048】
通信回路42は、上述のように、ケーブル80を介してCPU34と本体部100Bとの間で通信を行う。レーザ駆動回路43は、CPU34の制御によりレーザダイオード70を駆動する。レーザダイオード60,70から出射されるレーザ光は測定対象物の測定箇所に照射される。
【0049】
図4に示すように、本体部100Bは、電源回路91、通信回路92、CPU93、表示部94、記憶部95、操作設定部96および外部入出力回路97を備える。
【0050】
電源回路91および通信回路92にはケーブル80が接続されている。電源回路91は、電池等の電力供給源を備え、その電力を本体部100Bの各構成部およびヘッド部100Aに供給する。通信回路92は、ケーブル80を介してCPU93とヘッド部100Aとの間で通信を行う。
【0051】
記憶部95には、CPU93が測定対象物の温度を算出するための演算式等が記憶されている。
【0052】
また、記憶部95は、複数の記憶領域(以下、バンクと呼ぶ)B1,B2,B3を含む。記憶部95の各バンクB1〜B3には、放射率およびしきい値が記憶されている。本実施の形態においては、バンクB1に第1の放射率および第1のしきい値が記憶され、バンクB2に第2の放射率および第2のしきい値が記憶され、バンクB3に第3の放射率および第3のしきい値が記憶されている。使用者は、操作設定部96を操作することによりこれらの放射率およびしきい値を設定および変更することができる。設定された放射率およびしきい値は、記憶部95の選択されたバンクに記憶される。
【0053】
CPU93は、本体部100Bの各構成部の動作を制御する。また、CPU93は、ヘッド部100Aから与えられる検出温度値および内部温度値ならびに記憶部95から与えられる放射率に基づいて測定対象物の温度値を算出する。ここで、記憶部95からCPU93に与えられる放射率は、測定対象物に応じて使用者が操作設定部96を操作してバンクを選択することにより決定される。それにより、CPU93は測定対象物の実際の温度(以下、実温度値と呼ぶ)を測定することができる。なお、バンクの選択は、外部入出力回路97を介して外部から入力されるデジタル信号DIにより行ってもよい。
【0054】
また、CPU93は、算出された実温度値を数値として表示部94に表示するとともに外部入出力回路97からアナログ信号AOおよびデジタル信号DOとして出力端子Pa,Pbを介して外部に出力する。この場合、使用者は、表示部94により容易に測定対象物の温度を確認することができる。
【0055】
また、CPU93は、算出された実温度値と上記選択されたバンクに記憶されているしきい値とを比較し、比較結果を外部入出力回路97から検出信号DETとして出力端子Pcを介して外部に出力するとともに、検出信号DETの状態を表示部94に表示する。さらに、CPU93は、検出信号DETを図3のCPU34に与える。CPU34は、与えられた検出信号DETに基づいて、表示灯36a,36b,36cの点灯または消灯を制御する。使用者は、表示部94および表示灯36a,36b,36cにより、検出信号DETの状態を容易に認識することができる。
【0056】
検出信号は、例えば、実温度値がしきい値よりも高い場合にオン状態(例えば、ハイレベル)となり、実温度値がしきい値以下の場合にオフ状態(例えば、ローレベル)となる。
【0057】
このようにして、本実施の形態に係る放射温度計100は、測定対象物の実温度値を表示および出力するとともに、実温度値がしきい値よりも高いか否かの判定結果(オン状態またはオフ状態)を表示および出力することができる。
【0058】
以上のように、本実施の形態においては、測温の際に、使用者が測定対象物に応じてバンクを選択することにより、そのバンクに記憶された放射率に基づいて測定対象物の温度が測定される。そのため、使用者は、種々の物体の放射率を覚えておく必要がなく、また測温の際に放射率表を携帯する必要もない。それにより、測温作業が効率化される。
【0059】
また、各バンクには、放射率とともにしきい値が記憶されており、そのしきい値に基づいて検出信号DETが出力される。したがって、本実施の形態に係る放射温度計は、物体の有無または変化を検出する検出装置としても利用することができる。
【0060】
また、各バンクに記憶される放射率およびしきい値は、使用者により任意に変更することができるので、任意の物体の測温および検出が可能になる。
【0061】
なお、記憶部95には、放射率およびしきい値以外に、調整感度、応答時間、センサゲイン、表示単位および出力範囲等の他のパラメータを測定対象物に応じて記憶させてもよい。それにより、測温作業がさらに効率化される。
【0062】
また、放射率としきい値とを別のバンクに記憶させておいてもよい。この場合、放射率としきい値とを任意に選択し組み合わせることができる。例えば、測温中にしきい値のみを変更したい場合、使用者は、しきい値が記憶されているバンクのみを切り替えればよいので、測温作業がさらに効率化される。
【0063】
また、本実施の形態においては、バンクB1〜B3にそれぞれ放射率およびしきい値を記憶させているが、放射率およびしきい値を記憶させるバンクの数は3つに限られず、2つまたは4つ以上のバンクにそれぞれ放射率およびしきい値を記憶させてもよい。
【0064】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る放射温度計が第1の実施の形態に係る放射温度計と異なるのは以下の点である。
【0065】
図5は、第2の実施の形態に係る放射温度計の本体部100Bのブロック図である。
【0066】
第2の実施の形態に係る放射温度計においては、CPU93は、図3のヘッド部100Aから与えられる検出温度値および内部温度値ならびに記憶部95に記憶されている第1〜第3の放射率に基づいて第1〜第3の温度値を算出する。さらに、CPU93は、外部入出力回路97から、第1の温度値を第1のアナログ信号AO1および第1のデジタル信号DO1として出力端子P1,P4を介して外部に出力し、第2の温度値を第2のアナログ信号AO2および第2のデジタル信号DO2として出力端子P2,P5を介して外部に出力し、第3の温度値を第3のアナログ信号AO3および第3のデジタル信号DO3として出力端子P3,P6を介して外部に出力する。
【0067】
また、CPU93は、第1の温度値と第1のしきい値とを比較し、第2の温度値と第2のしきい値とを比較し、第3の温度値と第3のしきい値とを比較し、それぞれの比較結果を外部入出力回路97から第1の検出信号DET1、第2の検出信号DET2および第3の検出信号DET3として出力端子P7〜P9を介して外部に出力する。
【0068】
以上のように、本実施の形態においては、複数の出力端子P1〜P6により複数の放射率に基づいた複数のアナログ信号AO1〜AO3および複数のデジタル信号DO1〜DO3が出力されるので、使用者は複数の出力信号のうち測定対象物に応じた適切な出力信号を利用することができる。したがって、測定対象物が変わっても、使用者が放射率を変更することなく測定対象物の正確な温度を得ることができる。
【0069】
また、複数の出力端子P7〜P9により複数のしきい値を用いた複数の検出信号DET1〜DET3が出力されるので、使用者は複数の検出信号DET1〜DET3のうち測定対象物に応じた適切な検出信号を利用することができる。したがって、測定対象物が変わっても、使用者がしきい値を変更することなく測定対象物の正確な検出状態を得ることができる。
【0070】
これらの結果、測温作業が効率化される。
【0071】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係る放射温度計が第2の実施の形態にかかる放射温度計と異なるのは以下の点である。
【0072】
図6は、第3の実施の形態に係る放射温度計の記憶部95の概略を説明するための図である。
【0073】
第3の実施の形態に係る放射温度計においては、記憶部95は複数のバンクB4,B5,B6を含み、バンクB4に第1〜第3の放射率および第1〜第3のしきい値が記憶され、バンクB5に第4〜第6の放射率および第4〜第6のしきい値が記憶され、バンクB6に第7〜第9の放射率および第7〜第9のしきい値が記憶される。
【0074】
CPU93に与えられる放射率およびしきい値は、使用者がバンクを選択することにより決定される。例えば、使用者がバンクB4を選択した場合には、CPU93には、第1〜第3の放射率および第1〜第3のしきい値が与えられる。
【0075】
また、第1、第4または第7の放射率ならびに第1、第4または第7のしきい値に基づいて、第1のアナログ信号AO1、第1のデジタル信号DO1および第1の検出信号DET1が出力され、第2、第5または第8の放射率ならびに第2、第5または第8のしきい値に基づいて、第2のアナログ信号AO2、第2のデジタル信号DO2および第2の検出信号DET2が出力され、第3、第6または第9の放射率ならびに第3、第6または第9のしきい値に基づいて、第3のアナログ信号AO3、第3のデジタル信号DO3および第3の検出信号DET3が出力される。
【0076】
以上のように、本実施の形態においては、使用者がバンクを切り替えることにより、各出力信号に対応する放射率およびしきい値を変更することができるので、より多くの物体の測温が可能になる。
(請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応)
上記実施の形態においては、サーモパイル10が赤外線検出手段に相当し、記憶部95が記憶手段に相当し、バンクB1〜B6が記憶領域に相当し、操作設定部96またはデジタル信号DIが選択手段に相当し、CPU93が判定手段に相当し、表示灯36a,36b,36c、表示部94および出力端子Pc,P7〜P9が判定結果出力部に相当し、表示部94および出力端子Pa,Pb,P1〜P6が温度出力部に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、物体から放射される赤外線エネルギーに基づいて物体の温度変化等を検出することに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る放射温度計のブロック図である。
【図2】図1のヘッド部の外観斜視図である。
【図3】図1のヘッド部のブロック図である。
【図4】図1の本体部のブロック図である。
【図5】第2の実施の形態に係る放射温度計の本体部のブロック図である。
【図6】第3の実施の形態に係る放射温度計の記憶部の概略を説明するための図である。
【符号の説明】
【0079】
10 サーモパイル
11 赤外線受光部11
12 サーミスタ
34,93 CPU
35,95 記憶部
36a,36b,36c 表示灯
94 表示部
96 操作設定部
97 外部入出力回路
100 放射温度計
100A ヘッド部
100B 本体部
AO,AO1〜AO3 アナログ信号
B1〜B6 バンク
DO,DO1〜DO3,DI デジタル信号
DET,DET1〜DET3 検出信号
Pa,Pb,Pc,P1〜P9 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、
物体の放射率をそれぞれ記憶する複数の記憶領域を含む記憶手段と、
前記記憶手段の前記複数の記憶領域のいずれかを選択する選択手段と、
前記赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび前記選択手段により選択された前記記憶領域に記憶される放射率に基づいて前記測定対象物の温度を算出する算出手段と、
前記測定対象物の検出のためのしきい値を設定する設定手段と、
前記算出手段により算出された前記測定対象物の温度と前記設定手段により設定された前記しきい値とを比較することにより前記測定対象物の検出状態を判定する判定手段と、
前記算出手段により算出された温度を出力する温度出力部と、
前記判定手段の判定結果を出力する判定結果出力部とを備えたことを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
前記複数の記憶領域は、さらに前記設定手段により設定されたしきい値をそれぞれ記憶し、
前記判定手段は、前記算出手段により算出された前記測定対象物の温度と前記選択手段により選択された前記記憶領域に記憶されたしきい値とを比較することにより前記測定対象物の検出状態を判定することを特徴とする請求項1記載の放射温度計。
【請求項3】
測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、
物体の放射率をそれぞれ記憶する複数の記憶領域を含む記憶手段と、
前記赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび前記複数の記憶領域にそれぞれ記憶された放射率に基づいて前記測定対象物の温度をそれぞれ算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された複数の温度をそれぞれ出力する複数の温度出力部とを備えたことを特徴とする放射温度計。
【請求項4】
前記複数の記憶領域は、さらに前記測定対象物の検出のためのしきい値をそれぞれ記憶し、
前記算出手段により算出された複数の温度と前記複数の記憶領域にそれぞれ記憶されたしきい値とを比較することにより前記測定対象物の検出状態をそれぞれ判定する判定手段と、
前記判定手段による複数の判定結果をそれぞれ出力する複数の判定結果出力部とをさらに備えたことを特徴とする請求項3記載の放射温度計。
【請求項5】
測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、
複数の記憶領域を含みかつ各記憶領域が複数の物体の放射率を記憶する記憶手段と、
前記複数の記憶領域のいずれかを選択する選択手段と、
前記赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび前記選択手段により選択された記憶領域に記憶された複数の放射率に基づいて前記測定対象物の温度をそれぞれ算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された複数の温度をそれぞれ出力する複数の温度出力部とを備えたことを特徴とする放射温度計。
【請求項6】
前記記憶手段の各記憶領域は、前記測定対象物の検出のために前記複数の放射率と対応付けられた複数のしきい値をさらに記憶し、
前記算出手段により算出された複数の温度の各々と前記選択手段により選択された記憶領域に記憶された対応するしきい値とを比較することにより前記測定対象物の検出状態をそれぞれ判定する判定手段と、
前記判定手段による複数の判定結果をそれぞれ出力する複数の判定結果出力部とをさらに備えたことを特徴とする請求項5記載の放射温度計。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate