放射線又は遺伝毒性物質曝露の測定及び定量方法
本発明は、遺伝毒性物質に対する生体対象の曝露を検出し、遺伝毒性物質に対する感受性を試験し、薬剤への曝露によって引き起こされるDNA損傷を測定する方法であって、前記対象から収集した試料のFANCD2含有病巣の存在を検出することを含む方法を開示する。濃縮された病巣の存在はDNA損傷を示し、病巣形成の程度は曝露の程度と相関する。診断試薬は、検出可能な標識を結合させたヒトFANCD2に結合するリガンドを含有し、生物学的試料のDNA損傷を検出するキットは、このような試薬及びシグナル検出成分を含有する。本発明はさらに、FANCD2含有病巣を形成する能力を変更する薬剤の同定方法を開示する。特に、このような薬剤は潜在的に有用な化学増感剤であるか、または遺伝毒性物質によって引き起こされる損傷に対して防御を付与することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線及び環境毒物などの遺伝毒性物質に対する生体対象の曝露の検出に関する。癌の治療、遺伝毒性物質に対する防御のための治療化合物の同定を促進する方法もまた、提供される。
【背景技術】
【0002】
多くの疾患において、化学療法及び放射線治療は一般的な処置となっている。このような治療方法は癌などの疾患の治療に有効に使用され得るが、生物学的に多量の放射線に曝露するとまた、遺伝毒性ストレスの原因となり得る。同様に、(原子力の生成などの)多くの工業的工程及び(核兵器などの)軍事的用途では、個体を危険濃度の遺伝毒性物質に曝露する可能性がある。このような曝露は、細胞周期停止から変異、悪性腫瘍への変換、又は細胞死までの様々な細胞応答を引き起こす可能性がある。
【0003】
個々の遺伝的性質によって、DNA修復機構が欠損しており、その結果として染色体に不安定さが生じている人々もいる。このような染色体の不安定さによる結果は、主に3つある。これらの個体は、(1)発育が異常で(先天性欠損)、(2)癌の素因があり、(3)放射線照射及び化学療法に対して組織が過敏でありうる。
【0004】
重篤な症例では、このような個体は明らかな遺伝子疾患(すなわち、ファンコニ貧血症)を伴って生まれてくる可能性がある。このような疾患は、特定のDNA修復遺伝子の両対立遺伝子の完全ノックアウトによって生じる。やや重篤な症例及びより普通の症例では、個体はDNA修復遺伝子又は経路が部分的に崩壊している可能性がある。このような崩壊は、DNA修復遺伝子「変種」、たとえば、ファンコニ貧血症(FA)遺伝子の一塩基多型の遺伝から生じる可能性がある。これらの個体の発育は正常である(すなわち、先天性欠損の症状はない)が、遺伝的欠点の唯一の臨床的後遺症は、癌の早期発症又は放射線若しくは薬剤に対する過敏性である。癌が発症する前、又は放射線/薬剤曝露による致死毒性が生じる前に、このような個体を確認することは臨床医学における重要かつ未解決の問題である。
【0005】
放射線/化学療法の毒性を予測することは困難で、現在のところ、状況証拠に頼っている。第1に、希少な癌が早期発症する個体、または癌の強い家族歴のある個体は、常染色体の優勢または劣勢遺伝を伴うことが明らかで、潜在的に遺伝的欠損を有している可能性がある。このような場合、犯人となる癌感受性遺伝子(BRCA1、BRCA2、p53)を配列決定して、欠損を確認するか、または除外することができる。第2に、臨床所見がはっきりせず、既成の遺伝的疾患(すなわち、皮膚のカフェオレ斑または低身長)を想起させる個体は、DNA修復疾患が根底にある可能性がある。
【0006】
どの癌患者にDNA修復疾患が潜んでいるかを予測するための努力は、ほとんどが無駄に終わった。FA患者及びブルーム症候群の患者は明らかに染色体切断に(無視できない)欠陥を有しているが、DNA修復疾患がより曖昧な患者は、一般的な染色体切断研究では陽性に判定されない。特定の種類及び位置の腫瘍に応じて、すべての癌患者に標準量の放射線/化学療法が施される。これらの患者の約2%は、裏に潜むDNA修復疾患の第1の証拠として、予期せぬ重篤な毒性反応を示す可能性がある。
【0007】
生体試料において、遺伝毒性物質に対する曝露を検出する方法(すなわち、いわゆる生物学的線量計)が当技術分野で必要とされている。遺伝毒性物質に対する個体の感受性を試験する方法もまた、当技術分野で必要とされている。遺伝毒性物質に曝露することによって個体に引き起こされる障害を測定する方法もまた、当技術分野で必要とされている。遺伝毒性物質に対する細胞の応答を変更する活性を備えた薬剤の同定方法もまた、当技術分野で必要とされている。放射線及び遺伝毒性発癌物質などの遺伝毒性物質に曝露する可能性から個体を防御する活性のある化合物を入手することもまた、非常に必要とされている。
【0008】
発明の概要
本発明は、遺伝毒性物質に対する生体対象の曝露を検出するのに有用な方法及び組成物を開示する。これらの方法及び組成物は、FANCD2及びその他のタンパク質が遺伝毒性物質に曝露した細胞において核内病巣を形成するという所見に基づいている。本発明はまた、病巣形成のモジュレーターの同定に有用な組成物及び方法を包含する。
【0009】
一つの態様では、本発明は、以下の段階:対象から試料を収集する段階、及び試料中のFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、生体対象における遺伝毒性物質に対する曝露の検出方法を提供する。病巣の存在は、遺伝毒性物質に対する曝露の指標である。対象はヒトであることができる。試料は、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚管擦過物からなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、試料は末梢血である。あるいは、本方法はさらに対照試料を含むことができ、対照試料に対する試料中の病巣形成の程度が遺伝毒性物質に対する対象の曝露の程度の指標である。
【0010】
一つの実施形態では、本方法はさらに、試料と配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドとを接触させることを含む。リガンドは、検出可能なシグナルをもたらす標識と結合している。一つの実施形態では、リガンドは抗体である。検出可能な標識を抗体に結合させることができる。あるいは、標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している。第2のリガンドは抗体であることができる。検出可能な標識は、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、標識は蛍光色素である。一つの実施形態では、検出には蛍光顕微鏡法が含まれる。
【0011】
本発明はまた、以下の段階:患者を低用量の遺伝毒性物質に曝露する段階、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、遺伝毒性物質に対する患者の感受性を試験する方法を特徴とする。対照試料に対する病巣形成の存在は、遺伝毒性物質に対する患者の感受性の違いを示す指標である。対照試料に対する病巣形成の程度は、遺伝毒性物質に対する患者の感受性の指標である。試料は、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物からなる群から選択することができる。
【0012】
一つの実施形態では、本方法はさらに、試料と配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドとを接触させることを含む。リガンドは、検出可能なシグナルをもたらす標識と結合している。一つの実施形態では、リガンドは抗体である。検出可能な標識を抗体に結合させることができる。あるいは、標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している。第2のリガンドは抗体であることができる。検出可能な標識は、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、標識は蛍光色素である。一つの実施形態では、検出には蛍光顕微鏡法が含まれる。
【0013】
別の態様では、本発明は、以下の段階:曝露後の患者から試料を収集する段階、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、遺伝毒性物質に対する患者の曝露によって引き起こされるDNA損傷の程度を測定する方法を提供する。対照試料に対する病巣形成の違いは、曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は曝露に応答したDNA損傷の異なる程度を示す。試料は、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物からなる群から選択することができる。
【0014】
別の態様では、本発明は、以下の段階:患者から試料を収集する段階、遺伝毒性物質に対して試料又は組織を曝露する段階、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、遺伝毒性物質に対する試料の感受性を測定する方法を提供する。対照試料に対する病巣形成の違いは、曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は薬剤に対する組織の感受性の違いを示す。試料は、生体対象から収集された腫瘍試料であることができる。一つの実施形態では、遺伝毒性物質は、電離放射線又はシスプラチンからなる群から選択することができる。別の実施形態では、試料は生体対象から様々な時点で採取し、遺伝毒性物質に対する試料の感受性の変化をモニターする。
【0015】
一つの実施形態では、方法はさらに、試料と配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドとを接触させることを含む。リガンドは、検出可能なシグナルをもたらす標識と結合している。一つの実施形態では、リガンドは抗体である。検出可能な標識を抗体に結合させることができる。あるいは、標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している。第2のリガンドは抗体であることができる。検出可能な標識は、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、標識は蛍光色素である。一つの実施形態では、検出には蛍光顕微鏡法が含まれる。
【0016】
本発明の別の態様では、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供される。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したFANCD2タンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。
【0017】
別の態様では、本発明は、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を提供する。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したFANCD2タンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞を提供する。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したFANCD2タンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。
【0019】
別の態様では、本発明は第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする核酸は、ヒストン2AX、BRCA1、及びNBS1を含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を提供する。病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする核酸は、ヒストン2AX、BRCA1、及びNBS1を含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードするDNAを含む単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞を提供する。病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする核酸は、ヒストン2AX、BRCA1、及びNBS1を含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。
【0022】
一つの実施形態では、本発明は、第一の蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチドDNA配列と、第2の蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2と結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドとを発現する細胞を提供する。第2の蛍光タンパク質は、第1の蛍光タンパク質とは異なることが好ましい。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。好ましい実施形態では、蛍光タンパク質はeCFP及びeYFPである。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、以下の段階:生物学的試料を試験化合物と接触させる段階、及び対照試料に対するFANCD2含有病巣におけるFANCD2の存在を検出する段階を含む、FANCD2含有病巣の形成を変更する試験薬剤をスクリーニングする方法を提供する。対照試料に対する病巣形成の程度の違いは、病巣形成に活性のある薬剤を示す指標である。本方法はさらに、遺伝毒性物質に生物学的試料を曝露することを含むことができる。
【0024】
一つの実施形態では、本方法はさらに、生物学的試料とFANCD2に結合するリガンドとを接触させることを含む。リガンドは、検出可能なシグナルをもたらす標識と結合している。一つの実施形態では、リガンドは抗体である。検出可能な標識を抗体に結合させることができる。あるいは、標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している。第2のリガンドは抗体であることができる。検出可能な標識は、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、標識は蛍光色素である。一つの実施形態では、検出には蛍光顕微鏡法が含まれる。
【0025】
別の態様では、本方法はさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞を使用して、病巣形成を検出することを含む。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したFANCD2タンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。一つの実施形態では、病巣は蛍光顕微鏡を使用して検出される。
【0026】
さらに別の実施形態では、本方法は、第一の蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチドDNA配列と、第2の蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2と結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドとを発現する細胞を使用して病巣形成を検出することを含む。第2の蛍光タンパク質は、第1の蛍光タンパク質と異なることが好ましい。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。好ましい実施形態では、蛍光タンパク質はeCFP及びeYFPである。別の実施形態では、病巣は蛍光共鳴エネルギー移動を測定して検出される。
【0027】
別の態様では、本発明は、遺伝毒性物質によって引き起こされる障害から生体対象を防御する方法を提供し、本方法は、参照又は対照と比較したときに生体対象においてFANCD2含有病巣の形成が促進されるように、生体対象に治療有効量のFANCD2含有病巣形成促進物質を投与することを含む。一つの実施形態では、促進物質にはデスフェリオキサミンが含まれる。
【0028】
さらに別の態様では、本発明は、FANCD2ポリペプチドのモノユビキチン化形態に結合する抗体を提供する。好ましくは、抗体はFANCD2ポリペプチドのモノユビキチン化形態には結合するが、非ユビキチン化形態には結合しない。抗体はポリクローナルであってよい。あるいは、抗体はモノクローナルであってよい。
【0029】
別の態様では、本発明は、FANCD2のモノユビキチン化形態に結合する抗体及びパッケージング材料を含む、生体対象の試料中のFANCD2含有病巣の有無を検出するためのキットを提供する。キットはさらに蛍光標識された第2の抗体を含み、第2の抗体は第1の抗体に結合する。
【0030】
本発明のその他の態様及び利点は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明でさらに説明される。
【0031】
詳細な説明
本発明は、遺伝毒性物質に対する曝露に応答してFANCD2含有病巣が細胞内に形成されるという観察に基づいている。したがって、生体対象の試料におけるFANCD2含有病巣の検出は、このような遺伝毒性物質に対する対象の曝露を測定するために使用することができる。
【0032】
特許請求の範囲に記載する発明の主題をより明らかに、かつより簡潔に説明し、指摘するために、以下に記載した説明及び添付のクレームで使用した特定の用語について以下の定義が与えられる。
【0033】
定義
「遺伝毒性物質」または「遺伝子毒物」とは、細胞に適用したときDNA損傷を引き起こす任意の化合物または処理方法のことである。このような薬剤は、化学物質または放射性物質であってよい。遺伝毒性物質とは、第1の生物学的活性がDNAにおいてコードされた情報の変更である化学物質(または代謝物)である。遺伝毒性物質は、その作用機構が様々であり、エチルメタンスルホン酸(EMS)、ニトロソグアニン、及び塩化ビニルなどのアルキル化剤;ベンゾ(a)ピレン及びアフラトキシンB1などのかさ高い付加生成物;スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルなどの活性酸素種;5−ブロモウラシルなどの塩基類縁体;アクリジンオレンジ及び臭化エチジウムなどの挿入剤を含むことができる。「化学療法剤」とも呼ばれる様々な化合物は、DNA損傷を引き起こす作用を持つ。使用を企図する化学療法剤には、たとえば、アドリアマイシン、5−フルオロウラシル(5FU)、エトポシド(VP−16)、カンプトテシン、アクチノマイシン−D、マイトマイシンC、シスプラチン(CDDP)、及び過酸化水素もまた含まれる。「遺伝毒性物質」にはまた、γ線照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子照射などのDNA損傷を引き起こす放射線及び波が含まれる。さらに間接的遺伝毒性物質と呼ばれることがあるある種の化学物質は、通常の代謝酵素によって遺伝毒性物質に変換されうる。本明細書では、遺伝毒性物質とは、直接的及び間接的遺伝毒性物質のことである。遺伝毒性物質はDNAに変異を引き起こし、癌の原因となり得る。「遺伝毒性物質」という用語はまた、放射線ベースにせよ、実際の化合物にせよ、1種又は複数のDNA損傷剤の組合せの使用を包含する。
【0034】
遺伝毒性物質は種々多様なので、遺伝毒性物質への曝露は非常に様々な形態になる。化学的遺伝毒性物質に対する曝露機構には、直接的な接触、または対象による吸入が含まれうる。放射線の場合は、曝露は電離放射線源に近接することによって発生しうる。これらの遺伝毒性物質に対する曝露の性質はまた、様々でありうる。化学療法及び放射線療法の場合のように、曝露は計画的に行うことができるが、偶発的に行われる可能性もある。偶発的な曝露の例には、実験室、工場若しくは農場での化学物質に対する職業的な曝露、又は原子力発電所、診療所、研究室で、若しくは頻繁な空路移動による電離放射線に対する職業的な曝露が含まれうる。
【0035】
本明細書では、「DNA損傷」とは、メチル化、アルキル化による2本鎖切断、架橋結合、紫外線によって生じるチミジン2量体、及びDNA塩基に結合する酸素ラジカルによって形成される酸化的損傷を含む、細胞内のDNAの化学的及び/又は物理的改変のことである。
【0036】
タンパク質の「リガンド」には、基質、及びタンパク質に結合するその他の化合物が含まれる。一つの実施形態では、「リガンド」はFANCD2に結合する抗体である。本明細書では、「FANCD2に対する抗体」または「FANCD2に結合する抗体」とは、FANCD2に特異的に結合することができる免疫グロブリン分子のことである。抗体は、天然材料若しくは組換え材料から得られる完全な免疫グロブリン、又は完全な免疫グロブリンの免疫反応部分でありうる。抗体は一般的に、免疫グロブリン分子の4量体である。本発明における抗体は、たとえば、高親和性ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、人工抗体、キメラ抗体、組換え抗体、及びヒト化抗体を含む様々な形態で存在する。このような抗体は、免疫グロブリンの種類、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEから生じる。抗体という用語にはまた、組換えDNA技術を使用して作製された人工抗体、たとえば、バクテリオファージによって発現される抗体が含まれる。一つの実施形態では、望ましいリガンドは、たとえば実施例1に詳細に説明したように、モノユビキチン化FANCD2に結合するモノクローナル抗体である。その他のこのような抗体には、Fab、Fab’若しくはF(ab’)2、又はFANCD2に結合するそれらのFe抗体断片が含まれる。本発明はまた、FANCD2に結合する1本鎖Fv抗体断片であるリガンドを提供する。
【0037】
他の有用な「リガンド」は、抗体の相補性決定領域を含む組換え構造物、人工抗体、又はFANCD2に結合する抗体の機能的に同等な結合特性を保持するために十分なCDRを共有するキメラ抗体構造物である。
【0038】
「抗体」という用語には、抗体をコードするDNA分子の合成によって生成した抗体が含まれ、このDNA分子は抗体タンパク質または抗体を特定するアミノ酸配列を発現し、DNAまたはアミノ酸配列は、当技術分野において利用可能でよく知られている合成DNAまたはアミノ酸配列技術を使用して得られた。
【0039】
本明細書では、「免疫学的方法」とは、限定はしないが、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、FACS分析、免疫蛍光顕微鏡法、免疫組織化学、及び直接競合ELISA、及びRIA技術(Harlowら、1989、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、New York;Ausubelら、1995、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons、Inc.、New York;Sambroookら、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press)を含む、当技術分野でよく知られた抗体をベースとした検出技術を含む任意の測定法を意味する。
【0040】
本明細書では、「対象」とは、ヒト、ウシ、マウス、ラット、ブタ、及びヒツジを含む哺乳類を含む動物を意味する。対象は、任意の年齢又は発達段階であってよい。さらに、対象は、健康であるか、病気であるか、またはゲノム内に変異を含んでいてよい。対象はまた、遺伝毒性物質、治療薬、または試験薬に対して既に曝露されていてよい。さらに、非ヒト対象はさらに、トランスジェニック動物を含みうる。特に、対象は、生物の遺伝毒性物質に対する感受性を変更する導入遺伝子または変異を有しうる。
【0041】
「試料」とは、任意の細胞若しくは組織、又は細胞若しくは組織を含有する組成物、又は対象から得られる単離物を意味する。試料は、心臓、脳、胎盤、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、子宮、小腸、または結腸から得ることができる。遺伝毒性物質、たとえば、放射線、化学物質などに曝露した対象におけるDNA損傷の有無の検出に使用するための別の種類の生物学的試料は、白血球細胞を含有する調製物、たとえば、末梢血、喀痰、唾液、尿などであってよい。
【0042】
本発明の第1の態様で使用されるように、「対照試料」とは、対照試料が遺伝毒性物質に対して曝露されていないこと以外は、比較する試料と同様の方法で単離された試料のことである。
【0043】
本明細書では、「参照試料」とは、既知の量の同じ遺伝毒性物質に曝露され、比較する試料と同様の方法で単離された、試験対象とは異なる対象から得られた試料のことである。参照試料の対象は、試験対象と遺伝的に同一であるか、又は異なっていてよい。さらに、参照試料は既知の量の同じ遺伝毒性物質に曝露された、いくつかの対象から得ることができる。
【0044】
「病巣形成の違い」とは、試験試料を対象試料または参照試料と比較したときの、FANCD2含有病巣の数、大きさ、若しくは残存率の増加または減少を意味する。違いには、対照または参照試料と比較して、2倍以上または2倍以下の、たとえば、5、10、20、100、1000倍以上の増加または減少が含まれる。違いにはまた、対照または参照試料と比較して、5%以上または5%以下の、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、100%以上の増加または減少が含まれる。
【0045】
本明細書では、「低濃度」の遺伝毒性物質に対する曝露とは、生物学的試料においてFANCD2含有病巣の最大数のわずか20%を引き起こす特定の遺伝毒性物質の用量に対する曝露を意味する。試料を曝露することができる遺伝毒性物質は多数あり、このような遺伝毒性物質に対する種々の試料の感受性は様々なので、特定の遺伝毒性物質の絶対用量よりも、FANCD2含有病巣の形成に対する用量で表現した方が好ましい。
【0046】
本明細書では、「FANCD2含有病巣」とは、電離放射線またはアルキル化剤などの遺伝毒性物質に対して曝露したときに細胞の核内に形成されるFANCD2を含むタンパク質複合体である。FANCD2含有病巣はまた、ヒストン2AX、BRCA1、RAD51、BRCA2、及びNBS1を含むその他のいくつかのDNA損傷応答タンパク質を含みうる。最近の研究では、電離放射線によって誘導される病巣では、ヒストン2AXタンパク質がはじめに病巣に入り、次にBRCA1及びNBS1、次いでFANCD2が入ることが示唆されている。病巣形成の相対速度、病巣の残存期間、及び病巣の構成(すなわち、どのタンパク質がFANCD2と相互作用するか)は、様々な種類の遺伝毒性ストレス(すなわち、IR対アルキル化剤対架橋結合ストレス)と相関関係にある可能性がある。
【0047】
本明細書では、「FANCD2含有病巣と結合するタンパク質」とは、FANCD2含有病巣の形成時に特異的にFANCD2と結合するタンパク質のことである。これらのタンパク質は、BRCA1及びNBS1タンパク質を含み、FANCD2含有病巣においてFANCD2と相互作用し、DNA損傷時に形成される。現時点では、これらのタンパク質間の結合相互作用の性質についてはほとんどわかっていない。これらのタンパク質の多くは、媒介タンパク質及び翻訳後修飾によって、間接的に結合することができる。
【0048】
「FANCD2含有病巣の検出」とは、FANCD2を含有する病巣内のFANCD2の検出を意味する。FANCD2は、病巣内で結合する前にモノユビキチン化される。したがって、FANCD2に結合するリガンドを使用して病巣を免疫蛍光法によって検出することを含む免疫学的方法に加えて、「FANCD2含有病巣の検出」には、免疫学的方法を使用して、モノユビキチン化形態のFANCD2に特異的に結合するが、非ユビキチン化形態には結合しないリガンドを使用して、試料の抽出物中のモノユビキチン化FANCD2を検出することが含まれる。最後に、FANCD2含有病巣の検出はまた、検出可能な標識と結合したFANCD2タンパク質、たとえば、蛍光タンパク質と融合したFANCD2を使用して、FANCD2含有病巣内のFANCD2を検出することを含みうる。FANCD2含有病巣は、遺伝毒性ストレスに曝露して30分後という早期に検出することができる。しかし、FANCD2病巣は、曝露後8時間と24時間との間で最大に達するようである。
【0049】
本明細書では、対象の遺伝毒性物質に対する「感受性」とは、定義された用量の遺伝毒性物質に対する個々の対象の応答を意味する。特定の期間中、正常な対象と比較して、対象のDNAが損傷に対して少なくとも50%を上回る、たとえば、55%、60%、75%、100%の感受性であるとき、又は特定の期間中、損傷に対して2倍以上、たとえば、5倍、10倍、25倍、50倍、100倍、若しくは1000倍を上回る感受性であるとき、対象は遺伝毒性物質に対して感受性であると考えられる。DNA損傷は、変異、2本鎖切断の数に関して、又はその他の当技術分野で既知の手段によって測定することができる。
【0050】
「病巣形成の程度」とは、試料中のFANCD2含有病巣の形成の総数または速度を意味する。病巣形成の程度は、1つの試料から別の試料へと、たとえば、細胞総数、完全な核の総数、試料の全量、又は試料の総質量に正規化することができる。本明細書では、核内における明瞭な病巣が5個より多ければ、細胞核は、「FANCD2含有病巣について陽性」と考えられる。
【0051】
本明細書では、FANCD2含有病巣の形成を「変更する」とは、生物学的試料中のFANCD2含有病巣の形成の変化または変更を意味する。変更は、生物学的試料中の病巣の数、大きさ、若しくは残存率の増加または減少であってよく、対照または参照試料と比較して、2倍以上または2倍以下の、たとえば、5、10、20、100、1000倍以上の増加または減少が含まれる。変更はまた、対照または参照試料と比較して、5%以上または5%以下の、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、100%以上の増加または減少であってよい。
【0052】
「モジュレーター」とは、生体高分子(たとえば、核酸、タンパク質、非ペプチド、若しくは有機分子)などの(天然または非天然の)化合物、又は細菌、植物、真菌、若しくは動物(特に哺乳類)細胞若しくは組織などの生物学的材料から生じた抽出物、又は無機元素若しくは分子のことである。モジュレーターは、本明細書で説明したスクリーニング測定法に含めることによって、生物学的プロセスまたはプロセス群の(直接的または間接的)阻害剤若しくは活性化剤(たとえば、作動薬、部分的拮抗薬、部分的作動薬、拮抗薬、抗悪性腫瘍薬、細胞毒性剤、新生物転移若しくは細胞増殖の阻害剤、細胞増殖促進剤など)としての潜在的活性について評価される。モジュレーターの活性は、既知であるか、未知であるか、又は部分的に既知であってよい。このようなモジュレーターは、本明細書で説明した方法を使用してスクリーニングすることができる。
【0053】
「モジュレーター候補」という用語は、本発明の1種又は複数のスクリーニング法によって推定モジュレーターとして試験される化合物のことである。通常、以下により完全に説明するように、0.01μM、0.1μM、1.0μM、及び10.0μMなどの様々なあらかじめ決定された濃度がスクリーニングのために使用される。試験化合物対照は、試験化合物なしでのシグナルの測定、又は標的を変更することが知られている化合物に対する比較を含みうる。
【0054】
本明細書では、FANCD2含有病巣形成の「促進剤」とは、生体対象または生物学的試料中におけるFANCD2含有病巣の形成の増加を引き起こす化合物のことである。促進は、FANCD2含有病巣の数、大きさ、または残存率の増加であってよく、対照または参照と比較して、2倍以上、たとえば、2、5、10、20、100、1000倍以上の増加を含む。促進はまた、対照または参照と比較して、5%以上、たとえば、5%、10%、20%、30%、50%、75%、100%以上の増加であってよい。
【0055】
本明細書では、FANCD2含有病巣形成の「阻害剤」とは、生体対象または生物学的試料中におけるFANCD2含有病巣の形成の減少を引き起こす化合物のことである。阻害は、FANCD2含有病巣の数、大きさ、または残存率の減少であってよく、対照または参照と比較して、2倍以上、たとえば、2、5、10、20、100、1000倍以上の減少を含む。阻害はまた、対照または参照と比較して、5%以上、たとえば、5%、10%、20%、30%、50%、75%、または100%までの減少であってよい。
【0056】
「融合タンパク質」は、少なくとも2つのポリペプチド領域、及び、場合によって、1つの連続したポリペプチドに2つのポリペプチドを操作可能に結合させる結合ペプチドを含有するタンパク質である。融合タンパク質中の少なくとも2つのポリペプチド領域は異なる材料から得られ、したがって、融合タンパク質は通常天然では結合しない2つのポリペプチド領域を含む。この少なくとも2つのポリペプチドは、いかなる順番でも結合することができる。
【0057】
「結合配列(または結合ペプチド)」は、ペプチド結合を介して結合した1つ又は複数のアミノ酸残基を含有する。結合配列は、融合タンパク質において、結合配列とポリペプチド領域のそれぞれとの間のペプチド結合を介して異なる材料からの2つのポリペプチド領域を結合するために役立つ。好ましくは、結合配列の長さは、アミノ酸の長さが1個と20個との間、より好ましくはアミノ酸の長さが3個と10個との間である。
【0058】
一般的に、融合タンパク質は、融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含有する組換え宿主細胞において連続したポリペプチドとして合成され、融合タンパク質の異なる領域がリンカーペプチドのコード配列のいずれかの側でフレームに融合している。(融合タンパク質をコードする)キメラコード配列は、組換え宿主細胞において機能する(一般的に発現ベクターによってもたらされる)発現制御配列に操作可能に結合している。
【0059】
「ベクター」または「発現ベクター」という用語は、適切な宿主においてDNAの発現を実施することができる適切な制御配列に操作可能に結合したDNA配列を含有するDNA構築物のことである。このような制御配列は、転写を実施するプロモーター、このような転写を制御する任意選択のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び翻訳の終止を制御する配列を含む。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、または単に潜在的ゲノム挿入物であってよい。一旦適切な宿主に形質転換されると、ベクターは複製し、宿主ゲノムと独立して機能することができるか、又は、場合によっては、ゲノム自体に組み込まれうる。プラスミドは現在最も一般的に使用されるベクターの形態であるので、本明細書では「プラスミド」及び「ベクター」は、時々同義に使用される。しかし、本発明には、同等の機能を果たし、当技術分野で既知の、または既知になるその他の形態の発現ベクターが含まれるものとする。
【0060】
「操作可能に結合した」とは、連結されるコード配列及び非コード配列の発現を実施するために必要なポリヌクレオチド配列のことである。このような制御配列の性質は宿主生物に応じて異なり、原核生物では、このような制御配列は一般的にプロモーター、リボソーム結合部位、及び転写終結配列を含み、真核生物では、一般的にこのような制御配列はプロモーター及び転写終結配列を含む。「制御配列」という用語は、その存在が発現に影響を及ぼすことができる成分を最小限含み、また、存在すると有利な他の成分、たとえば、リーダー配列及び融合相手の配列を含みうるものとする。
【0061】
本明細書では、「医薬組成物」には薬理学的有効量のFANCD2含有病巣形成のモジュレーター及び医薬上許容される担体が含まれる。本明細書では、「薬理学的有効量」、「治療有効量」、または単に「有効量」とは、企図した薬理学的、治療的、または予防的結果を生じるために有効なFANCD2含有病巣形成モジュレーターの量を意味する。たとえば、所与の臨床治療が病巣形成において少なくとも25%の促進があるときに有効と考えられるならば、治療有効量とはパラメーターにおいて少なくとも25%の減少をもたらすために必要な量である。
【0062】
「医薬上許容されうる担体」という用語は、治療薬を投与するための担体のことである。このような担体には、限定はしないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びそれらの組合せが含まれる。この用語は、細胞培養培地を明確に除外する。経口的に薬剤を投与する場合、医薬上許容されうる担体には、限定はしないが、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、甘味剤、矯味剤、着色剤、及び保存剤などの医薬上許容されうる添加剤が含まれる。適切な不活性希釈剤には、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カルシウム、並びにラクトースが含まれ、一方、コーンスターチ及びアルギン酸は適切な崩壊剤である。結合剤には、デンプン及びゼラチンが含まれ、一方、潤沢剤は(存在するならば)一般的にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、又はタルクである。所望するならば、錠剤は、胃腸管での吸収を送らせるためにモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの物質でコーティングすることができる。
【0063】
「医薬上許容されうる塩」とは、酸付加塩及び塩基付加塩の両方のことである。これらの塩の性質は、医薬上許容されうるならば重要ではない。酸付加塩の例には、限定はしないが、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルタミン酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、マレイン酸、エンボニン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、パントテン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルファニル酸、メシル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルゲン酸、β−ヒドロキシ酪酸、マロン酸、ガラクタル酸、ガラクツロン酸などが含まれる。適切な医薬上許容されうる塩基付加塩には、限定はしないが、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、及び亜鉛から生成される金属塩、またはN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミン、リジン、プロカインなどから生成される有機塩が含まれる。医薬上許容されうる塩の他の例は、Journal of Pharmaceutial Sciences(1977)66:2に挙げられている。これらの塩はすべて、従来の手段によって、化合物を適切な酸または塩基で処理することによってFANCD2含有病巣のモジュレーターから調製することができる。
【0064】
FANCD2病巣
DNA損傷に対する細胞応答は、細胞周期のチェックポイント、DNA修復、及びアポトーシスを媒介する経路が複雑に相互作用するネットワークである。これらの経路を調べるためのモデル障害は、迅速に細胞周期のチェックポイントを誘導し、いくつかの異なる経路によって修復されるDNA2本鎖切断であった。哺乳動物細胞では、相同組換え及び非相同組換え経路の両方が利用される。哺乳動物細胞における詳細な研究によって、DNA修復及び細胞周期チェックポイントタンパク質の複合体が電離放射線によって誘導された2本鎖切断部位に迅速に局在化することが示された。これらのタンパク質は、免疫蛍光分析によって検出できる病巣を生じる。
【0065】
ファンコニ貧血症相補群D2(FANCD2)は、染色体の安定性及び修復に関与するタンパク質複合体の成分である。ファンコニ貧血症(FA)は、一部には、様々な癌の個人的な危険性を増大させるDNA修復機構欠損を特徴とする遺伝性疾患である。DNA損傷に応答して、FA複合体はFANCD2を活性化し、次にBRCA1と結合する。FANCD2の活性化は、セリン222残基のATMキナーゼによるリン酸化によって生じる。さらに、FA経路による活性化は、FANCD2のリジン561のモノユビキチン化によって生じる。非修飾型では、FANCD2は核全体に拡散して存在する。ユビキチン化されると、FANCD2は核内に点または病巣を形成する。FANCD2のユビキチン化及びその後の核病巣の形成は、DNA損傷に応答して生じる。共免疫沈降によって、Nakanishiら(2002)は、FANCD2とNBS1との間に構造的な相互関係を発見し、これらのタンパク質がS期チェックポイント及びマイトマイシンC誘導性染色体損傷に対する耐性を媒介するために2種類の異なる集合体で相互作用する証拠を提供した。
【0066】
少なくとも2種類の電離放射線誘導性病巣が認められ、1つはRad51、BRCA1及びBRCA2タンパク質を含有し、もう1つはMre11−Rad50−NBS1複合体を含有する。Rad51病巣は、腫瘍抑制タンパク質BRCA1及びBRCA2を含有し、DNA損傷の外因的誘導がなくてもS期中に出現する。
【0067】
Mre11−Rad50−NBS1病巣は、照射後10分という早期に検出することができ、DNA修復の進行中、DNA切断部位に明らかに存在する。これらの病巣はまた、おそらくヒトRad50(hRad50)と物理的に相互作用することによって、それらの形成に必要であることが示されたBRCA1タンパク質と一緒に局在する。さらに、BRCA1と共に実施した共免疫沈降実験によって、この複合体(BRCA1結合監視複合体と呼ばれる)には多数の他のタンパク質が存在することが示された。これらは、ミスマッチ修復タンパク質Msh2、Msh6、及びMlh1、チェックポイントキナーゼATM、ブルーム症候群遺伝子の産物BLM、及び複製因子Cを含む。BRCA1、NBS1、及びhMre11はいずれも、ATMキナーゼの基質であり、DNA切断の存在に応答してリン酸化されるようになることが示された。
【0068】
本発明は、遺伝毒性物質型に曝露した細胞はFANCD2含有病巣を形成するという発見に関連する。DNA損傷に応答して核病巣(IRIF(電離放射線誘導性病巣)とも呼ばれる)を形成する多数のDNA損傷応答タンパク質が現在同定されている。
【0069】
遺伝毒性物質に応答した用量及び時間依存性病巣形成
in vitroでの研究によって、(0.5から5Gyの範囲の)電離放射線に対する細胞の曝露はFANCD2モノユビキチン化及び病巣形成の用量依存的増加を生じることが示される。病巣は、IR曝露後30分という早期に検出することができ、病巣のピークは曝露後8時間と24時間との間で認められる。病巣形成は、シスプラチン及びマイトマイシンC(MMC)などの毒物に対する細胞曝露後では(このIR応答と比較して)遅くなる。この遅延はおそらく、これらの薬剤の取り込みが遅いこと、及びDNAが実際に損傷を受ける前に代謝活性化が必要であることの反映であろう。重要なのは、これらの研究がin vitroで行われたことである。
【0070】
本発明によるリガンド
本発明に有用なリガンドには、FANCD2に結合する抗体が含まれる。FANCD2に結合する抗体は記載されている(米国特許出願公開番号第20030093819A1、Garcia−Higueraら、2001、Mol.Cell.7:249〜62)。あるいは、FANCD2に結合する抗体は、本発明の抗原として、単離された、組換え、若しくは変更FANCD2、又はそれらの断片を使用して、従来の方法によって生成することができる。たとえば、ポリクローナル抗体は、選択された動物またはヒトの免疫系をFANCD2抗原で従来の方法を用いて刺激し、免疫系がそれに対する天然抗体を産生することを可能にし、動物又はヒトの血液若しくはその他の生体液からこれらの抗体を収集することによって生成される。好ましくは、組換え型FANCD2を免疫原として使用する。FANCD2に対するモノクローナル抗体(MAb)はまた、従来の方法を用いて生成される。所望するMAbを発現するハイブリドーマ細胞系は、よく知られた従来技術、たとえば、Kohler and Milstein及びその多くの既知の変法によって生成される。同様に所望される高力価抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルに既知の組換え技術を適用することによって生成される。(たとえば、PCT特許出願番号PCT/GB85/00392;イギリス特許出願公開番号GB218863 8A;Amitら、1986 Science、233:747〜753;Queenら、1989 Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA、86:10029〜10033;PCT特許出願番号PCT/W09007861;及びRiechmannら、Nature、332:323〜327(1988);Huseら、1988a Science、246:1275〜1281を参照のこと)。
【0071】
本明細書に含まれる開示を考えれば、当業者は当技術分野で既知の技術、たとえば、本発明の抗原に対する動物またはヒトの抗体の相補的な決定領域を操作することによって、FANCD2に対するリガンドまたは抗体を作製する。たとえば、E.Mark and Padlin、「Humanization of Monoclonal Antibodies」、4章、The Handbook of Experimental Pharmacology、113巻、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、Springer−Verlag(1994年6月);Harlowら、1999、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY;Harlowら、1989、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、New York;Houstonら、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879〜5883;及びBirdら、1988、Science 242:423〜426を参照のこと。
【0072】
あるいは、FANCD2抗原を多抗原複合体として集合させ(たとえば、1989年11月2日に公開された欧州特許出願0339695を参照のこと)、FANCD2に結合することができる高力価抗体を誘導するために使用する。本発明はまた、抗イディオタイプ抗体(Ab2)及び抗抗イディオタイプ抗体(Ab3)を提供する。Ab2は、本発明の抗FANCD2抗体が結合する標的に特異的で、結合特異性及び生物学的活性がFANCD2抗体と同様である(たとえば、Idiotypic Network and Diseases、J.Cerny and J.Hiernaux編、1990 J4177.Soc.Microbiol.、Washington DC:pp.203〜229のM.Wettendorffら、「Modulation of anti−tumor immunity by anti−idiotypic antibodies.」を参照のこと)。これらの抗イディオタイプ抗体及び抗抗イディオタイプ抗体は、当業者によく知られた技術を使用して生成される。このような抗イディオタイプ抗体(Ab2)は、FANCD2の内部状態(internal image)を有することができ、したがって、FANCD2と同様の目的のために有用である。
【0073】
一般的に、ポリクローナル抗血清、モノクローナル抗体、及び抗原としてのFANCD2に結合するその他の抗体(Ab1)は、(たとえば、クロマトグラフィーカラムなどにおいて)生体組織の妨害物質からFANCD2及びその類縁体を分離するため、並びに、一般的に研究手段として、及び前述のその他の種類の抗体を開発するために必須の出発物質として、FANCD2のエピトープを同定するために有用である。抗イディオタイプ抗体(Ab2)は、同一の標的に結合するために有用で、したがってFANCD2の有用なリガンドを誘発するためにFANCD2の代わりに使用される。Ab3抗体は、Ab1が有用であるのと同じ理由で有用である。研究手段として、および、たとえばその他の妨害物質からFANCD2を分離するための成分としてのその他の用途もまた、前述の抗体について企図される。
【0074】
モノユビキチン化FANCD2に特異的に結合する抗体
FANCD2タンパク質の細胞全体の濃度は、DNA損傷に応答して有意には変化しない。むしろ、DNA損傷によってFANCD2のモノユビキチン化並びにFANCD2含有病巣の漸増が引き起こされる。FANCD2含有病巣の存在を測定する代わりに、FANCD2のモノユビキチン化形態には特異的に結合するが、非ユビキチン化形態には結合しないリガンドを使用することは、当業者であれば理解するだろう。モノユビキチン化FANCD2の存在を検出するために、リガンドを前述の検出可能な標識と結合させることが好ましい。このようなリガンドを使用する主な利点は、当業者には理解されるように、損傷を受けていないDNAを有する細胞におけるモノユビキチン化FANCD2の基準濃度は一般的に低いため、FANCD2含有病巣の濃度は、代理マーカーとしてモノユビキチン化FANCD2の濃度を使用して、免疫蛍光顕微鏡法に追加的手段を加えて、生体対象から採取した試料において測定することができる。FANCD2のモノユビキチン化形態(FANCD2−L)を特異的に認識する抗体は、迅速な診断薬としてかなり有用である。たとえば、この抗体は以下のために使用できる。
【0075】
1)免疫組織化学(IH)。この抗体は、固形腫瘍(たとえば、乳癌、卵巣癌、肺癌)から調製した組織切片を調べるために使用することができる。IHによる陽性シグナルは、この腫瘍がシスプラチン及び関連薬剤に耐性であることを予測するだろう。
【0076】
2)FACS分析。末梢血リンパ球(PBL)は、この抗体でスクリーニングすることができる。陽性シグナルは、個体が最近IRまたは毒素に曝露したことと一致する活性化FANCD2の存在を示す。したがって、この抗体は、本明細書で説明した放射線線量計測定法の有用な応用範囲である。
【0077】
3)精製FA複合体の阻害剤(モノユビキチンリガーゼ)をスクリーニングするためのハイスループット測定法。これらの阻害剤は、in vitroにおいてFANCD2をモノユビキチン化するFA複合体の能力を阻止する。新規モノクローナル抗体は、最終生成物検出に有用な試薬である。モノユビキチン化FANCD2を特異的に認識するリガンドを使用したFANCD2含有病巣の他の測定方法には、生体対象から収集した試料の抽出物を使用したイムノブロット分析または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、またはFACS分析(Harlowら、1999、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY)が含まれる。
【0078】
IR曝露の高感度の基準となるのは、FANCD2のモノユビキチン化の増加である。損傷を受けていない細胞において、FANCD2−S(非ユビキチン化アイソフォーム)に対するFANCD2−L(モノユビキチン化アイソフォーム)の比(L/S)は、約0.5〜0.6である。この比は、ウェスタンブロットで、Sバンドに対するLバンドの濃度を比較することによって容易に計算される。FANCD2モノユビキチン化の増加及びIR曝露の高感度の指標となるのは、L/S比の1.0以上への変換である。
【0079】
本発明に有用な検出可能な標識
本発明による有用な検出可能な標識は、放射活性、酵素、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択される。この態様の好ましい実施形態では、検出可能な標識は蛍光化合物である。特に好ましい実施形態では、検出可能な標識は、フルオレセイン、ローダミン、ボディピー(bodipy)、シアニン、アレキサ、ナフトフルオレセイン、オレゴングリーン、クマリン、ダンシル、テキサスレッド、ピレン、カスケードブルー、及びアレキサ350、並びにそれらの誘導体からなる群から選択される。ある実施形態では、蛍光タンパク質を使用することができる。たとえば、バイオルミネセンスにおいてエネルギー移動受容体として作用する刺胞動物の緑色蛍光タンパク質(GFP)を本発明で使用することができる。本明細書では、緑色蛍光タンパク質は、緑色の蛍光を放つタンパク質であり、青色蛍光タンパク質は、青色の蛍光を放つタンパク質である。GFPは、米太平洋岸北西地区のクラゲ、Aequorea victoria、ウミシイタケ、Renilla renjformis、及びPhialidium gregariumから単離された(Wardら、1982、Photochem.Photobiol.35:803〜808;Levineら、1982、Comp.Biochem.Physiol.72B:77〜85)。
【0080】
好ましい蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)又は改変GFPである。野生型GFPは、当技術分野で長く使用されてきた。緑色蛍光タンパク質を出発物質として、野生型GFPと比較してスペクトル特性が改変または増強された多くの改変種が得られた。たとえば、米国特許第5625048号、国際公開番号WO97/28261、国際公開番号WO96/23810を参照のこと。Aurora Biosciences Corp.、San Diego、CAから市販されている改変GFP W1B及びTOPAZが有用である。W1Bは、野生型GFP配列から以下の変更、F64L、S65T、Y66W7 N1461、M153T、及びV163A(Ann.Rev.Biochem.67:509〜544、1998、Tsienの519ページ、表1を参照のこと)を含む。TOPAZは、野生型GFP配列から以下の変更、S65G、V68L、S72A、及びT203Y(Ann.Rev.Biochem.67:509〜544、1998、Tsienの519ページ、表1を参照のこと)を含む。GFPの野生型ヌクレオチド及びアミノ酸配列は、国際公開番号WO97/28261の図1及び配列番号1、Ann.Rev.Biochem.67:509〜544、1998、Tsienの図1、及びPrasherら、1992、Gene 111:229に示されている。FRETをベースにしたスクリーニング測定法で蛍光タンパク質を使用するにあたり特に興味深いのは、Cyan FP(CFP、供与体(D))及びYellow FP(YFP、受容体(A))として既知のA.Victoria GFPの変種である。一例として、YFP変種は、FANCD2ポリペプチドとの融合タンパク質として生成されうる。融合物(Clontech)並びにフルオロフォア標識化合物(Molecular Probes)としてのGFP変種を発現するためのベクターは、当技術分野で既知である。哺乳動物細胞でGFPを発現するときには、哺乳動物細胞によって好まれる20個のコドンに一致する改変コドンを有するGFPの変種を構築すると有利である(Zolotukhinら、J.Virol.1996、70:4646〜46754;Yangら、1996、Nucl.Acids.Res.24:4592〜4593)。哺乳動物細胞においてGFP発現を改善する別の方法は、開始メチオニンの直後にさらなるコドンを使用することによって最適なリボソーム結合部位を提供することである(Crarneliら、1996、Nature Biotechnology 14:315〜319)。
【0081】
本発明による診断方法
本発明の診断方法には、生体対象から採取した試料を、好ましくは顕微鏡スライドなどの表面に固定するかまたは定着させて、ヒトFANCD2に結合するリガンドと接触させることが含まれる。このようなリガンドは前記に詳細に述べられており、シグナルをもたらす検出可能な標識と結合していることが好ましい。次に、試料の細胞内でFANCD2の核内病巣内に濃縮されたシグナルの存在を調べる。次に、免疫蛍光顕微鏡を使用して、試料中のFANCD2含有病巣の存在を検出する。一つの実施形態では、FANCD2含有病巣は、FANCD2に結合する一次抗体上の標識を検出することによって検出される。別の実施形態では、FANCD2含有病巣は、FANCD2に結合する一次抗体に結合する2次抗体または試薬上の標識を検出することによって検出される。試料中にFANCD2含有病巣が存在すれば、対象が遺伝毒性物質に曝露したことが示され、一方、拡散したシグナルが存在すれば、試料中にDNA損傷がないことが示される。さらに、対照試料と比較した試料内のFANCD2含有病巣の数、大きさ、及び残存率は、細胞が保持するDNA損傷の量と正比例する。毒素または放射線曝露を定量する最良の方法は、5個以上の明瞭な病巣を有する細胞の割合の増加を測定することである。したがって、(曝露されていない)成人ヒト対照の末梢血リンパ球の集団において病巣陽性細胞(すなわち、1細胞当たりのFANCD2病巣が5個を上回る細胞)はわずか1〜2%である。放射線曝露後、用量及びX線曝露部位に応じて病巣陽性細胞の割合が増加する(細胞集団の10%を上回るまで)。
【0082】
病巣形成は、時間依存的であることが知られている。対象を潜在的遺伝毒性物質で曝露した後又は曝露が疑われた後、比較的短時間内に試料を収集することが好ましい。具体的な実施形態では、試料は接触曝露後7日間しないうちに収集される。たとえば、試料は、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、18時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、及び144時間後、及び168時間後に収集される。特に好ましい実施形態では、試料は曝露後72時間以内に収集される。最も好ましい実施形態では、試料は曝露後6時間と48時間との間に収集される。
【0083】
対照試料の存在は、遺伝毒性物質に対する曝露の定量に他の用途を提供することを当業者は理解するだろう。したがって、本発明の態様の好ましい実施形態では、本発明の診断方法にはさらに、生体対象から採取した試料を、好ましくは顕微鏡スライドなどの表面に固定するかまたは定着させて、ヒトFANCD2に結合するリガンドと接触させることが含まれる。次に、試料の細胞内でFANCD2の核内病巣内に濃縮されたシグナルの存在を調べる。調べる段階は、限定はしないが、免疫蛍光顕微鏡法又は免疫組織化学分析を含む任意の適切な測定段階である。対照試料と比較して試験試料中にFANCD2含有病巣が存在すれば、対象が遺伝毒性物質に曝露したことが示され、一方、拡散したシグナルが存在すれば、試料中のDNA損傷がないことが示される。さらに、対照試料に対する試料内のFANCD2含有病巣の数、大きさ、及び残存率の違いは、遺伝毒性物質に対する曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、参照試料に対する病巣形成の程度は曝露に応答したDNA損傷の異なる程度を示す。
【0084】
治療前後の診断方法
本発明はさらに、放射線療法及び化学療法に対する患者の感受性を測定するための方法を提供する。一つの実施形態では、本診断方法は、化学療法または放射線療法の前に、対象または対象から取り出したリンパ球を低用量の遺伝毒性物質に対して曝露すること、好ましくは顕微鏡スライドなどの表面に固定するかまたは定着させた生体対象から採取した試料をヒトFANCD2に結合するリガンドと接触させることを含む。このようなリガンドは前記に詳細に述べられており、前述したようにまた、シグナルをもたらす検出可能な標識と結合していることが好ましい。次に、試料の細胞内のFANCD2の核内病巣内に濃縮されたシグナルの存在を調べる。調べる段階は、限定はしないが、免疫蛍光顕微鏡法又は免疫組織化学分析を含む任意の適切な測定段階である。対照と比較してFANCD2含有病巣の形成が減少していることは、放射線耐性または化学物質耐性を示す。対照的に、病巣形成が増大していることは、相対的な放射線感受性または化学物質感受性を示しうる。あるいは、試料はモノユビキチン化FANCD2に特異的に結合するリガンドと接触させることができる。したがって、本発明のこの態様の別の実施形態では、本発明の診断方法は、患者を低用量の遺伝毒性物質に曝露すること、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出することを含み、対照試料に対する病巣形成の存在は患者の遺伝毒性物質に対する感受性の違いを示す。
【0085】
さらに、この方法は、ガンマ放射線照射またはその他の化学療法剤、特にDNA損傷を引き起こすことが知られているもので治療した患者におけるDNA損傷の迅速かつ容易な評価のために使用することができる。したがって、本発明の他の実施形態は、曝露後の患者から試料を収集すること、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出することを含む、治療薬に対する患者の曝露によって引き起こされるDNA損傷の程度を測定する診断方法である。対照試料に対する病巣形成の違いは、曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は曝露に応答したDNA損傷の程度の違いを示す。
【0086】
対象から収集した試料を使用した診断方法
癌を有する患者に放射線療法または化学療法を施す前に、電離放射線またはシスプラチンなどの治療薬に対する感受性を確認するために腫瘍試料を予備試験することができると有利である。このような予備試験によって、特定の癌のために最良の治療様式が使用されることを確実にする。したがって、本発明の一態様では、以下の段階:すなわち患者から試料を収集する段階、試料または組織を遺伝毒性物質に曝露する段階、及び対照試料と比較してFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、試料の遺伝毒性物質に対する感受性の測定方法を提供する。試料は、生体対象から採取された腫瘍生検を含みうる。対照試料に対する病巣形成の違いは、曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は薬剤に対する組織の感受性の違いを示す。遺伝毒性ストレスを引き起こすことが知られているいかなる治療薬も、この方法で試験することができる。このような遺伝毒性物質の例には、電離放射線またはシスプラチンが含まれる。
【0087】
ある状況においては、しばらくの間対象の腫瘍試料の進行をモニターすることが重要であり得る。たとえば、対象が腫瘍の化学療法を受けている場合、腫瘍が治療薬に対して耐性を生じたかどうかを決定することが重要であろう。したがって、別の実施形態では、本方法はさらに、様々な時点で対象の複数の試料を収集することを含む。これらの収集された試料は、同一の遺伝毒性物質に曝露され、好ましくは同濃度の遺伝毒性物質に曝露される。次に、FANCD2含有病巣は、既に説明した方法のいずれかを使用してこれらの試料で検出される。これらの試料のFANCD2含有病巣を対照試料と比較することによって、さらに、これらの試料のFANCD2含有病巣の変化を経時的にモニターすることによって、特定の遺伝毒性物質に対する組織の感受性が変化したかどうかを確認することができる。たとえば、時間と共にFANCD2含有病巣が減少すると、その特定の遺伝毒性物質に対する試料の感受性が欠如していることを示す。
【0088】
本発明の薬剤スクリーニング方法
ハイスループットスクリーニングは、特定の分子又は細胞プロセスを標的とする化合物の同定のために産業界及び学術業界において使用される一般的な第1段階である。以下に説明するように、in vitro及びin vivoにおいて、試料中のFANCD2病巣をモニターすることは、新規薬剤発見の有用なスクリーニング手段となる。本発明は、放射線防護薬のスクリーニング方法を提供する。
【0089】
1)放射線防護薬自体は、末梢血リンパ球のFANCD2病巣の増加を引き起こす。FANCD2病巣の基準濃度を高めることによって、放射線防護薬は、低(基準)濃度のDNA修復を活性化することができる。個体を放射線防護薬で処理し、その後遺伝毒性物質に曝露する場合、個体のDNA修復応答が増加し(刺激され)、したがって放射線損傷に対する防御の促進が引き起こされうる。
【0090】
2)別の実施形態では、推定放射線防護薬はFANCD2病巣を増加させずにDNA修復を促進することができる。低用量の遺伝毒性物質に対して曝露した後、FANCD2含有病巣をモニターすることによって、研究者は推定薬剤の相対的防御効果を評価することが可能である。たとえば、この場合、新規薬剤による放射線防御によって、遺伝毒性物質で曝露した後にFANCD2の減少が生じる。
【0091】
試験化合物のスクリーニング方法は、FANCD2含有病巣形成において活性を有する組成物を同定するのに有用であることが記載されている。このような組成物は、遺伝毒性物質に対する防御剤として、または化学増感剤として有用であり得る。これらの方法は、生物学的試料を試験化合物と接触すること、及び対照試料に対してFANCD2病巣形成の存在を検出することを含む。対照試料に対する病巣形成の程度の違いは、病巣形成に活性のある薬剤を示す指標である。
【0092】
この方法の一つの実施形態はさらに、FANCD2含有病巣を検出するために検出可能な標識と結合したFANCD2リガンドを使用することを含む。この実施形態では、FANCD2含有病巣の形成を阻害する薬剤を同定するために、このようなスクリーニング方法を使用する。この方法では、たとえば遺伝毒性物質と接触させることによってFANCD2含有病巣の形成を通常もたらす条件下で、選択された生物学的試料を試験化合物(すなわち、「試験試料」)並びに試験化合物を含まない同一試料(すなわち、「対照試料」)と接触させる。この態様では、遺伝毒性物質の濃度は、比較的多数の病巣が対照試料で再現性よく形成されるように選択される。次に、試験試料及び対照試料を、検出可能な標識と結合させたFANCD2リガンドと接触させる。あるいは、試料は、モノユビキチン化FANCD2を特異的に認識するリガンドと接触させることができる。試験試料及び対照試料はその後、免疫蛍光顕微鏡法などの方法を使用してFANCD2含有病巣の存在、数、及び大きさを調べて比較する。対照試料に対する試験試料中のFANCD2含有病巣の減少または欠如は、試験化合物がこの測定法においてFANCD2含有病巣の形成を阻害することができることを示している。病巣の存在及び/又は数は、リガンド上の標識によって生じるシグナルの濃度または強度によって示される。シグナル(または発現濃度または強度)は、FANCD2含有病巣の存在及び数を示す。試験試料の標識によって生じたシグナルを(もしあるならば)対照試料の標識によって生じたシグナルと比較するとき、試験細胞の検出可能なシグナルが少なければ、試験化合物が細胞中でFANCD2含有病巣の形成を阻害したことを示す。たとえば、対照試料と比較したときに少なくとも10%未満、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、または100%未満までのFANCD2含有病巣を示す試験試料は、細胞内でFANCD2含有病巣形成を阻害する活性がある薬剤であることを示す。
【0093】
この実施形態の別の態様では、FANCD2含有病巣の形成を促進する薬剤を同定するために、このようなスクリーニング方法を使用する。このような方法には、選択した生物学的試料を試験化合物(すなわち、「試験試料」)並びに試験化合物を含まない同一試料(すなわち、「対照試料」)と接触させることを含む。試験試料及び対照試料は、場合によって低濃度の遺伝毒性物質に曝露してよい。試験試料及び対照試料はその後、前述の方法を使用してFANCD2含有病巣の存在及び数を調べて比較する。対照試料に対して試験試料中のFANCD2含有病巣が少なくとも10%、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、100%、200%、または500%増加していれば、試験化合物がこの測定法においてFANCD2含有病巣の形成を誘導できることを示す。
【0094】
FANCD2病巣誘発化合物の突然変異誘発力試験
FANCD2含有病巣の形成において活性を有する化合物の同定では、化合物が遺伝毒性活性を有するかどうか、または遺伝毒性を持たずにFANCD2含有病巣を単に誘導するだけかどうかを決定することが必要である。遺伝毒性が多くの十分に確立された測定法の1つを使用して測定できることは当業者には理解されよう。このような方法の包括的なリストは、電子形態でも入手できるToxicological Principles for the Safety Assessment of Direct Food Additives and Color Additives Used in Food.Draft Redbook II.Washington、DC:CFSAN、Food and Drug Administration(ワールドワイドウェブwww.cfsan.fda.gov/〜redbook/red−toca.html)に見いだすことができる。一般的な方法には、突然変異誘発力のエイムス試験(Ames、B.N.、McCann、J.&Yamasaki、E.(1975)Methods for detecting carcinogens and mutagens with Salmonella/mammalian−microsome mutagenicity test.Mutation Res.31、347〜364)、染色体異常試験(Galloway、S.M.、Aardema、M.J.、Ishidate Jr.、M.、Ivett、J.L.、Kirkland、D.J.、Morita、T.、Mosesso、P.、およびSofuni、T.(1994).Report from working group on in vitro tests for chromosomal aberrations.Mutation Research 312、241〜261)が含まれ、これらの全体を参照により援用する。
【0095】
簡単に言うと、エイムス試験は以下の方法を使用して実施される。この測定法の目的は、肝臓代謝系の非存在下及び存在下で、ヒスチジンを必要とする1種又は複数のサルモネラ チフィムリウム種に対する影響を研究することによって、試験化学物質の突然変異誘発能力を評価することである。培養物を変異誘発物質に曝露すると、いくつかの細菌は化学物質相互作用によって遺伝的な変化を受け、非ヒスチジン要求状態への細菌の復帰突然変異が生じる。復帰した細菌は外部からのヒスチジンがなくても増殖し、したがって突然変異を引き起こす化学物質の能力が示される。異なる化合物種(又は異なる化合物種(類))によって様々な菌株が突然変異するので、多数の試験菌株が必要である。たとえばトリプトファンを必要とする大腸菌(Escherichia coli)の菌株などのその他の種類の細菌を使用することもまたできる。試験の基本は非常に類似しており、唯一の違いは細菌が異なるアミノ酸を必要とすることである。栄養培地に適切なサルモネラ菌株(TA98、TA100、TA1535、TA1537、TA102)を接種し、一晩インキュベートする。試験化合物の用量範囲測定は、菌株TA100のみを使用して広範な用量範囲で実施する。細菌培養物、試験化学物質、及びS9ミックス(または補因子溶液)を軟寒天と共に混合して、その後最小寒天プレートに添加する。プレートをインキュベーションし、暗所で48〜72時間上下を逆転させる。その後、復帰突然変異コロニーの数を計数する。範囲測定に基づいて選択した用量で、さらに2種類の突然変異実験を実施する。両実験からコロニーの数を計数し、実験したそれぞれの用量について、個々のプレートの計数の平均を算出する。計数の統計学的分析を実施し、突然変異誘発力の結果を評価する。試験した化合物は変異誘発物質に曝露しなかった対照試料と比較したとき、化合物1μMで復帰突然変異体を10倍未満、たとえば、10倍、8倍、5倍、2倍、1倍形成することが理想的である。
【0096】
GFP−FANCD2をベースとしたスクリーニング方法
さらに別の実施形態では、スクリーニング方法は、レポーター蛍光タンパク質に融合させたFANCD2を発現する遺伝子構築物を発現させて、蛍光顕微鏡を使用して細胞内のFANCD2含有病巣を検出することを含む。本発明に特に有用な組換え核酸構築物には、ヒトFANCD2をコードする配列またはそれらの断片及び蛍光タンパク質のインフレーム融合物を含むものが含まれる。このような核酸分子は、蛍光タンパク質標識に融合させ、遺伝子制御配列に操作可能に結合させたFANCD2を含むポリペプチドをコードする。
【0097】
本スクリーニング方法のこの実施形態はさらに、レポータータンパク質に融合させたヒトFANCD2タンパク質をコードする組換え核酸構築物で形質導入された細胞を含む。本スクリーニング方法のこの実施形態は、検出方法の前記の実施形態とは異なる。この実施形態では、FANCD2含有病巣は、FANCD2に結合するリガンドを必要とせずに検出される。代わりに、FANCD2に融合したレポータータンパク質を検出することによってFANCD2含有病巣を直接検出する。
【0098】
実施例4及び5で教示されるように、本発明による好ましい遺伝子構築物は、完全長ヒトFANCD2のN末端メチオニンに融合させた増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)を使用する。この遺伝子構築物を発現するPD20細胞は、遺伝毒性物質に細胞を曝露するとモノユビキチン化される融合タンパク質を発現する。さらに、GFP−FANCD2構築物は、マイトマイシンC(MMC)などの遺伝毒性物質に対するこれらの細胞の過敏性を修正する。eGFP蛍光を検出することによって視覚化されるように、これらの細胞を遺伝毒性物質に曝露するとFANCD2含有病巣の形成が生じ、FANCD2またはモノユビキチン化FANCD2に結合するリガンドは必要ではなくなる。
【0099】
FRETをベースとしたスクリーニング方法
さらに別の実施形態では、少なくとも1種の構築物は第1のレポーター蛍光タンパク質に融合させたFANCD2を発現し、第2の構築物は第2のレポーター蛍光タンパク質に融合させたFANCD2含有病巣に結合した第2のタンパク質を発現する2種類の遺伝子構築物を発現する細胞内でFANCD2含有病巣は検出され、FANCD2含有病巣は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって検出される。FANCD2含有病巣に結合したタンパク質の好ましい例は、NBS1(Nakanishiら、2002.Nat Cell Biol.4:913〜20)及びBRCA1(Gracia−Higueraら、2001.Mol Cell.7:249〜62)を含む。この実施形態では、受容体及び供与体フルオロフォアとして働く2種類の蛍光レポータータンパク質を選択する。細胞を遺伝毒性物質に曝露したとき、FANCD2−蛍光レポーター融合タンパク質、及びNBS1−蛍光レポーター融合タンパク質またはBRCA1−蛍光レポーター融合タンパク質の一方はFANCD2含有病巣に結合する。一つの実施形態では、構築物が生じ、そのうちの1つはGFPのシアン変種(CFP)などの供与体蛍光タンパク質と融合したFANCD2をコードする。NBS1、ヒストン2AX、及びBRCA1からなる群から選択された病巣結合タンパク質と融合した、供与体蛍光タンパク質、好ましくはGFPの黄色変種(YEP)をコードする他の構築物が生じる。これらの構築物は、既に記載したように、または当技術分野でよく知られた方法によって、ベクターのプロモーター配列及びターミネーター配列と操作可能に結合する。これらの2種類の蛍光タンパク質融合構築物は、別々のベクターまたは同一のベクターに配置することができる。次に、両構築物が発現するように、宿主細胞を形質転換する。両構築物の発現は、当技術分野で既知の方法を使用して(たとえば、適切な波長での蛍光顕微鏡法によって)遺伝毒性物質に対する曝露の存在下または非存在下で、CFP及びYFPの蛍光を検出することによって試験することができる。
【0100】
2種類の蛍光タンパク質が物理的に近接していることによって、蛍光共鳴エネルギー移動の増加が生じ、FRET顕微鏡、レシオイメージング、またはレシオメトリック(ratiometric)蛍光計を含む蛍光法を使用して検出することができる。FLIPR(商標)などの装置は、約1秒の循環時間で2種類の異なる波長で読み取ったシグナル間を行き来できるように設定することができ、したがって、ハイスループットでの試料の測定に極めて有用である。
【0101】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、光子を関与させずに、蛍光供与体分子のエネルギーを受容体分子に移動させる無放射遷移である。供与体分子の励起によって、より長い波長の受容体分子の蛍光放射(すなわち、感作受容体の放射)が強まる。供与体蛍光放射の量子収量は付随して減少する。エネルギー移動効率は供与体分子と受容体分子との間の距離に強く逆比例するので、FRETは顕微鏡に有用な手段となった。したがって、FRETの出現は、2種類の分子の接近を示す非常に明確な指標である。これによって、分子の距離を測定するために「分光分析定規」としてFRET効率を使用することになった。
【0102】
最近使用できるようになった励起放射スペクトルを改変した緑色蛍光タンパク質(GFP)変異体によって、GFPタグを細胞内マーカーとして使用することによるタンパク質−タンパク質相互作用の測定が実現された。GFPタグ付加タンパク質キメラは細胞内で発現し、蛍光になるためにいかなる化学的処理も必要としない。FRETはまた、青色を放射するGFP変種と緑色を放射するGFP変種との融合の間で生じうる。
【0103】
前述したように、供与体蛍光タンパク質標識は、光子を吸収し、エネルギーをもう1つの蛍光標識に移動させることができる。受容体蛍光タンパク質標識は、エネルギーを吸収し、光子を放出することができる。必要であれば、リンカーは結合ドメイン、配列又はポリペプチドを、直接または間接的に、中間結合によって、供与体及び受容体蛍光タンパク質または蛍光標識の一方または両方と、場合によって、非FRET測定法を実施する場合には消光物質と連結する。ポリペプチド分子上の結合ドメイン、配列またはポリペプチドまたはその結合相手の相対的な順番、及びポリペプチド分子上の供与体及び受容体蛍光タンパク質標識にかかわらず、結合ドメイン、配列またはポリペプチド及びその結合相手が結合しなければFRETは生じないことを確かめるために、リンカー及び/又は結合ドメイン、配列、核酸またはポリペプチド及び対応する結合相手によって蛍光標識の供与体及び受容体と対応する消光物質との間に十分な距離を置くことが必要である。WO97/28261により詳細に記載されているように、受容体蛍光タンパク質標識の励起スペクトルと重複する発光スペクトルを有する供与体蛍光タンパク質標識を選択することが望ましい。本発明のいくつかの実施形態では、発光スペクトルと励起スペクトルの重複によってFRETが促進される。本発明で使用する蛍光タンパク質には、本来蛍光特性を備えたタンパク質に加えて、分子内転位または蛍光を促進する補因子の添加によって蛍光を放つタンパク質が含まれる。
【0104】
たとえば、バイオルミネセンスにおいてエネルギー移動受容体として作用する刺胞動物の緑色蛍光タンパク質(GFP)を本発明で使用することができる。本明細書では、緑色蛍光タンパク質は、緑色の蛍光を放つタンパク質で、青色蛍光タンパク質は、青色の蛍光を放つタンパク質である。GFPは、米太平洋岸北西地区のクラゲ、Aequorea victoria、ウミシイタケ、Renilla renjformis、及びPhialidium gregariumから単離された。(Wardら、1982、Photochem.Photobiol.35:803〜808;Levineら、1982、Comp.Biochem.Physiol.72B:77〜85)。有用な励起スペクトル及び発光スペクトルを有する様々なオワンクラゲ(Aequorea)関連GFPは、Aequorea victoriaから天然に生じるGFPのアミノ酸配列を変更することによって操作した(Prasherら、1992、Gene 111:229〜233、Heimら、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:12501〜12504、PCTUS95/14692)。本明細書では、蛍光タンパク質のアミノ酸150個の任意の隣接した配列が、野生型オワンクラゲ緑色蛍光タンパク質(SwissProt受け入れ番号P42212)の、隣接しているかまたは隣接していないアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有するならば、その蛍光タンパク質はオワンクラゲ関連蛍光タンパク質である。同様に、この蛍光タンパク質は、同様の標準物質を使用してRenillaまたはPhialidium野生型蛍光タンパク質と関連することができる。オワンクラゲ関連蛍光タンパク質には、たとえば、ヌクレオチド及び推定アミノ酸配列がGenBank受け入れ番号L29345、M62654、M62653に示されている野生型(天然型)Aequorea victoria GFP、及びいくつかを下に挙げた緑色蛍光タンパク質のオワンクラゲ関連遺伝子操作変種が含まれる。これらのうちいくつか、すなわち、P4、P4−3、W7及びW2は、野生型よりも明らかに短い波長で蛍光を発する。
【0105】
本発明に有用な操作された結合ドメイン、配列若しくはポリペプチド又はそれらの結合相手を含む単一の、または直列の蛍光タンパク質/ポリペプチドをコードする組換え核酸分子は、コードされた生成物に対する修飾酵素の活性のin vivo測定法のために発現させることができる。
【0106】
異なるリガンド、異なる検出技術などを使用した同様の測定法は、一般的に当技術分野で提供される情報を使用して当業者によって容易に設計される。
【0107】
本発明に有用なベクター
本発明の個別に発現する核酸分子を発現させるために有用で、当技術分野で既知かつ利用可能なベクターは幅広く存在する。特定のベクターの選択は、個別に発現する核酸によってコードされるポリペプチドの企図した使用に明らかに左右される。たとえば、選択したベクターは、細胞の種類が原核細胞であっても真核細胞であっても、所望する細胞種においてポリペプチドを発現させることができなければならない。多くのベクターは、原核細胞ベクターの複製と操作可能に結合した遺伝子配列の真核細胞での発現との両方を可能にする配列を含む。
【0108】
本発明で有用なベクターは、自己複製することが可能で、すなわち、ベクター、たとえばプラスミドは染色体外に存在し、その複製は宿主細胞ゲノムの複製に必ずしも直接関連していない。あるいは、ベクターの複製は、宿主染色体DNAの複製に関連させることが可能で、たとえば、ベクターはレトロウイルスベクターによって実現されるように、宿主細胞の染色体に組み込むことが可能である。
【0109】
本発明に有用なベクターは、配列の転写および翻訳を可能にする個別発現した配列に操作可能に結合した配列を含むことが好ましい。結合した個別発現配列の転写を可能にする配列はプロモーターを含み、場合によってはまた、結合配列の強力な発現を可能にするエンハンサー要素または要素類を含む。「転写制御配列」という用語は、プロモーターと、操作可能に結合した核酸配列に所望する発現特性(たとえば、高濃度発現、誘導発現、組織または細胞種特異的発現)を付与する任意のさらなる配列との組合せを意味する。
【0110】
選択されたプロモーターは、選択された宿主細胞において転写活性を表す任意のDNA配列であってよく、宿主細胞で通常発現する遺伝子又はその他の細胞若しくは生物において通常発現する遺伝子から得ることができる。プロモーターの例には、限定はしないが、以下のものが含まれる:A)原核細胞プロモーター−E.coli lac、tac、またはtrpプロモーター、ラムダファージPRまたはPLプロモーター、バクテリオファージT7、T3、Sp6プロモーター、B.subtilisアルカリプロテアーゼプロモーター、及びB.stearothermophilusマルトジェニックアミラーゼプロモーターなど、B)真核細胞プロモーター−GAL1、GAL4及びその他の糖分解遺伝子プロモーターなどの酵母プロモーター(たとえば、Hitzemanら、1980、J.Biol.Chem.255、12073〜12080;Alber&Kawasaki、1982、J.Mol.Appl.Gen.1:419〜434)、LEU2プロモーター(Martinez−Garciaら、1989、Mol Gen Genet.217:464〜470)、アルコール脱水素酵素遺伝子プロモーター(Youngら、1982、Genetic Enginieering of Microorganisms for Chemicals、Hollaenderら編、Plenum Press、NY)、またはTPI1プロモーター(米国特許第4599311号);多角体プロモーター(米国特許第4745051号;Vasuvedanら、1992、FEBS Lett.311:7〜11)、P10プロモーター(Vlakら、1988、J.Gen.Virol.69:765〜776)、Autographa californica多角体病ウイルスの塩基性タンパク質プロモーター(EP397485)、バキュロウイルス前初期遺伝子プロモーター遺伝子1プロモーター(米国特許5155037及び5162222)、バキュロウイルス39K後初期遺伝子プロモーター(これも米国特許5155037及び5162222)、及びOpMNPV前初期プロモーター2などの昆虫プロモーター;哺乳類プロモーター−SV40プロモーター(Subramaniら、1981、Mol.Cell.Biol.1:854〜864)、メタロチオネインプロモーター(MT−1、Palmiterら、1983、Science 222:809〜814)、アデノウイルス2主要後期プロモーター(Yuら、1984、Nucl.Acids Res.12:9309〜21)、サイトメガロウイルス(CMV)、またはその他のウイルスプロモーター(Tongら、1998、Anticancer Res.18:719〜725)、さらには特定の細胞種の対象となる遺伝子の内在性プロモーター。
【0111】
選択されたプロモーターはまた、誘導性または組織特異性にさせる配列に結合させることができる。たとえば、選択されたプロモーターの上流に組織特異的エンハンサー要素を付加すると、プロモーターを所与の組織若しくは細胞種においてより活性化させることができる。あるいは、またはさらに、誘導性発現は、たとえば、熱変化(温度感受性)、化学処理(たとえば、金属イオン若しくはIPTG誘導性)、または抗生物質の添加(たとえば、テトラサイクリン)による誘発を可能にするいくつかの配列要素のいずれかにプロモーターを結合することによって実現することができる。
【0112】
調節可能な発現は、たとえば、薬剤誘導性(たとえば、テトラサイクリン、ラパマイシン、またはホルモン誘導性)の発現系を使用して実現される。哺乳動物細胞で使用するのに特に適した薬剤制御可能なプロモーターには、テトラサイクリン制御プロモーター、ならびにグルココルチコイドステロイド、性ホルモンステロイド、エクジソン、リポ多糖(LPS)、及びイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)調節プロモーターが含まれる。哺乳動物細胞で使用するための制御可能な発現系は、必ずしもそうでなくてもよいが、制御する薬剤に応答して非哺乳動物DNAモチーフに結合する(または結合できない)転写調節因子、及びこの転写調節因子にのみ応答する制御配列を含むことが理想的である。
【0113】
組織特異的プロモーターはまた、本発明の個別に発現する配列をコードする構築物において有利に使用することができる。多種多様な組織特異的プロモーターが知られている。本明細書では、「組織特異的」という用語は、所与のプロモーターが生物のすべてには満たない細胞または組織で転写的活性がある(すなわち、プロモーターのポリペプチド生成物の検出を可能にするために十分な結合配列の発現を目的とする)ということである。組織特異的プロモーターは、1種類の細胞種においてのみ活性があることが好ましいが、たとえば、特定の種類または細胞種系統(たとえば、造血細胞)において活性があってもよい。本発明に有用な組織特異的プロモーターには、天然のプロモーターに結合した遺伝子の発現方法または様式と本質的に同様な方法または様式で操作可能に結合した核酸配列の発現に必要十分な配列が含まれる。以下は、それぞれの組織においてプロモーターの発現特性を実現するために必要な配列を含有する組織特異的プロモーター及び参照文献の包括的リストであり、これらの参照文献の全内容は参照により本明細書に援用する。本発明に有用な組織特異的プロモーターの例は以下の通りである。
【0114】
Bowmanら、1995 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92、12115〜12119は、脳特異的トランスフェリンプロモーターについて記載している;シナプシンIプロモーターはニューロン特異的である(Schochら、1996、J.Biol.Chem.271、3317〜3323);ネスチンプロモーターは有糸分裂後ニューロン特異的である(Uetsukiら、1996 J.Biol.Chem.271、918〜924);神経フィラメント軽鎖プロモーターはニューロン特異的である(Charronら、1995 J.Biol.Chem.270、30604〜30610);アセチルコリン受容体プロモーターはニューロン特異的である(Woodら、1995 J.Biol.Chem.270、30933〜03940);及びカリウムチャンネルプロモーターは高頻度発火ニューロン特異的である(Ganら、1996 J.Biol.Chem.271、5859〜5865)。当技術分野で既知のいかなる組織特異的転写制御配列も、疼痛を与えた動物から得られた個別に発現する核酸配列をコードするベクターを用いて有利に使用することができる。
【0115】
プロモーター/エンハンサー要素に加えて、本発明で有用なベクターはさらに適切なターミネーターを含んでいてよい。このようなターミネーターには、たとえば、ヒト成長ホルモンターミネーター(Palmiterら、1983、前述)、または酵母若しくは真菌宿主用のTPI1(Alber & Kawasaki、1982、前述)、またはADH3ターミネーター(McKnightら、1985、EMBO J.4:2093〜2099)が含まれる。
【0116】
本発明に有用なベクターはまた、ポリアデニル化配列(たとえば、SV40またはAd5E1bポリ(A)配列)、及び翻訳促進配列(たとえば、アデノウイルスVA RNA由来のもの)を含みうる。さらに、本発明に有用なベクターは、特定の細胞区画に組換えポリペプチドを指向させるシグナル配列をコードすることができ、あるいは、組換えポリペプチドの分泌を対象とするシグナルをコードすることができる。
【0117】
a.プラスミドベクター
個別発現する本発明のコード配列の選択された宿主細胞種における発現を可能にする任意のプラスミドベクターは、本発明での使用に許容される。本発明で有用なプラスミドベクターは、本発明で有用なベクターの前記の特徴のいずれかまたはすべてを備えていてよい。本発明に有用なプラスミドベクターの例には、限定はしないが、以下の例が含まれる:細菌−pQE70、pQE60、pQE−9(Qiagen)pBs、ファージスクリプト(phagescript)、psiX174、pブルースクリプトSK、pBsKS、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a(Stratagene);pTrc99A、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、及びpRIT5(Pharmacia);真核−pWLneo、pSV2cat、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVL(Pharmacia)。しかし、複製可能で、宿主内で生存可能であれば、任意のその他のプラスミドまたはベクターを使用することができる。
【0118】
b.バクテリオファージベクター
本発明で有用なよく知られたバクテリオファージ由来ベクターがいくつかある。これらの中で主要なのは、挿入によってコードされるポリペプチドの誘導性発現を可能にする、ラムダZapIIまたはラムダ−Zap発現ベクター(Stratagene)などのラムダをベースとしたベクターである。その他には、M13をベースとしたベクターファミリーなどの繊維状バクテリオファージが含まれる。
【0119】
c.ウイルスベクター
いくつかの様々なウイルスベクターが本発明では有用であり、細胞内において1種又は複数の本発明の個別発現ポリヌクレオチドの導入及び発現を可能にする任意のウイルスベクターは、本発明の方法で使用するために許容される。細胞内に外来核酸を輸送するために使用できるウイルスベクターには、限定はしないが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、及びセムリキ森林熱ウイルス(アルファウイルス)ベクターが含まれる。欠損レトロウイルスは、遺伝子導入で使用するためによく特徴付けられている(総説はMiller、A.D.(1990)Blood 76:271を参照のこと)。組換えレトロウイルスを作製するための、及びこのようなウイルスを用いてin vitroまたはin vivoで細胞を感染させるための方法は、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel、F.M.ら(編)Greene Publishing Associates、(1989)、Sections 9.10〜9.14、及びその他の研究室用標準マニュアルに見いだすことができる。
【0120】
レトロウイルスベクターに加えて、アデノウイルスは、対象となる遺伝子産物をコードし、発現するが、通常の溶菌ウイルス生活環において複製する能力に関して不活性化されているように操作することができる(たとえば、Berknerら、1988、BioTechniques 6:616、Rosenfeldら、1991、Science 252:431〜434、及びRosenfeldら、1992、Cell 68:143〜155を参照のこと)。アデノウイルス株Ad5型dl324またはその他のアデノウイルス株(たとえば、Ad2、Ad3、Ad7など)から得られた適切なアデノウイルスベクターは、当業者にはよく知られている。アデノ関連ウイルス(AAV)は、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスなどの他のウイルスを効率の良い複製及び増殖性生活環のためのヘルパーウイルスとして必要とする天然の欠損ウイルスである(総説は、Muzyczkaら、1992、Curr.Topics in Micro.and Immunol.158:97〜129を参照のこと)。Traschinらが記載したもの(1985、Mol.Cell.Biol.5:3251〜3260)などのAAVベクターは、核酸を細胞に導入するために使用することができる。様々な核酸は、AAVベクターを使用して異なる細胞種に導入された(たとえば、Hermonatら、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466〜6470、及びTraschinら、1985、Mol.Cell.Biol.4.:2072〜2081)。
【0121】
宿主細胞
疼痛を受けた動物で個別に発現する核酸配列をコードする遺伝子を有する組換えベクターが導入されうる細胞であって、ベクターが個別に発現する配列によってコードされるペプチドの発現を可能にする任意の細胞は、本発明で有用である。本発明の個別に発現する分子を発現させ、好ましくは検出することが可能な任意の細胞は、適切な宿主であり、宿主細胞は好ましくは哺乳動物細胞で、より好ましくはヒト細胞である。個別に発現する核酸配列を原核生物及び真核生物の両方の様々な異なる生物から得られた宿主細胞に導入するために適したベクターは、本明細書に前述されているか、又は当業者には既知である。
【0122】
宿主細胞は、いくつかの細菌株のいずれかなどの原核細胞であってよく、又は酵母若しくはその他の真菌細胞などの真核細胞、昆虫細胞又は両生類細胞、又は、たとえば、齧歯類、サル、若しくはヒト細胞を含む哺乳動物細胞であってよい。細胞は、初代培養細胞、たとえば、初代ヒト繊維芽細胞若しくはケラチン生成細胞であってよく、又は確立された細胞系、たとえば、NIH3T3、293T若しくはCHO細胞であってよい。さらに、本発明に有用な哺乳動物細胞は、表現型が正常であるか、又は発癌性が形質転換されていてよい。当業者であれば、選択された宿主細胞種を培養で容易に確立し、維持することができると考えられる。
【0123】
宿主細胞へのベクターの導入
本発明に有用なベクターは、当業者に既知のいくつかの適切な方法のいずれかによって、選択された宿主細胞に導入することができる。たとえば、ベクター構築物は、ラムダ若しくはM13などのE.coliバクテリオファージベクター粒子の場合は感染によって、または、プラスミドベクター若しくはバクテリオファージDNAではいくつかの形質転換法のいずれかによって、適切な細菌細胞に導入することができる。たとえば、標準的な塩化カルシウムによる細菌形質転換は、細菌に裸DNAを導入するために未だに一般的に使用されているが(Sambrookら、1989、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)、エレクトロポレーションもまた使用することができる(Ausubelら、1988、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons、Inc.、NY、NY))。
【0124】
ベクター構築物を酵母またはその他の真菌細胞に導入するために、(たとえば、Roseら、1990、Methods in yeast Genetics、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYに記載されているように)化学的形質転換法が一般的に使用される。S.cerevisiaeの形質転換では、たとえば、細胞を酢酸リチウムで処理して、約104コロニー形成単位(形質転換細胞)/DNA(μg)の形質転換効率を実現する。次に、形質転換細胞を、使用した選択可能なマーカーに適切な選択培地で単離する。あるいは、またはさらに、プレートまたはプレートから取り出したフィルターをGFP蛍光で調べて、形質転換クローンを確認する。
【0125】
個別に発現する配列を含むベクターを哺乳動物細胞に導入するために、使用する方法はベクターの形態に左右される。プラスミドベクターは、たとえば、脂質媒介形質導入(「リポフェクション」)、DEAE−デキストラン−媒介形質導入、エレクトロポレーション、またはリン酸カルシウム沈殿法を含むいくつかの形質導入法のいずれかによって導入することができる。これらの方法は、たとえば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、1988、John Wiley & Sons、Inc.、NY、NY)に詳述されている。
【0126】
様々な種類の形質転換細胞及び非形質転換細胞または初代細胞の一時的な形質導入に適したリポフェクション試薬及び方法は広く使用されており、リポフェクションは構築物を真核細胞、特に培養中の哺乳動物細胞に導入する魅力的な方法となっている。たとえば、Lipofectamine(商標)(Life Technologies)またはLipoTaxi(商標)(Stratagene)キットは入手可能である。リポフェクションのための試薬及び方法を提供するその他の会社には、Biorad Laboratories、CLONTECH、Glen Research、InVitrogen、JBL Scientific、MBI Fermentas、Pan Vera、Promega、Quantum Biotechnologies、Sigma−Aldrich、及びWako Chemicals USAが含まれる。
【0127】
本発明のベクターで形質導入した後、構築物をうまく(染色体内または染色体外に)組み込んだ真核(たとえば、ヒト)細胞は、前述のように、耐性遺伝子がベクターによってコードされている抗生物質などの選択物質で形質導入集団の処理をするか、又は、たとえば、細胞集団のFACS若しくは接着培養物の蛍光走査を使用した直接スクリーニングによって、選択することができる。しばしば、両種のスクリーニングを使用することが可能で、それぞれ、ネガティブ選択を使用して、構築物を取り込んだ細胞を濃縮し、FACSまたは蛍光走査を使用して個別に発現するポリヌクレオチドを発現する細胞をさらに濃縮するか、又は細胞の特定のクローンを同定する。たとえば、ネオマイシン類縁体G418(Life Technologies、Inc.)によるネガティブ選択を使用して、ベクターを受け入れた細胞を同定し、蛍光走査を使用して最大範囲でベクター構築物を発現する細胞または細胞のクローンを同定することができる。
【0128】
本発明による試験化合物
in vitro系にせよin vivo系にせよ、本発明はFANCD2含有病巣の形成を促進するかまたは阻害することができる組成物をスクリーニングする方法を包含する。合成または天然の化合物の大きなライブラリーから候補モジュレーター化合物をスクリーニングすることができる。糖類、ペプチド、及び核酸をベースとした化合物の無作為合成または直接合成には、現在数多くの手段が使用されている。合成化合物ライブラリーは、Maybridge Chemical Co.(Trevillet、Cornwall、UK)、Comgenex(Princeton、NJ)、Brandon Associates(Merrimack、NH)、及びMicrosource(New Milord、CT)を含むいくつかの会社から市販されている。希少な化学ライブラリーは、Aldrich(Milwaukee、WI)から入手できる。コンビナトリアルライブラリーは入手することも調製することもできる。あるいは、細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリーは、たとえば、Pan Laboratories(Bothell、WA)またはMycoSearch(NC)から入手することができるか、又は当技術分野でよく知られた方法によって容易に生成することができる。さらに、天然及び合成的に作製されたライブラリー及び化合物は、従来の化学的、物理的、及び生物化学的手段によって容易に改変される。
【0129】
有用な化合物は、一般的には低分子有機化合物を含む有機化合物であるが、多数の化学種内に見いだすことができる。低分子有機化合物の分子量は、50ダルトンより大きく、さらに約2500ダルトン未満、好ましくは約750ダルトン未満、より好ましくは約350ダルトン未満である。種類の例としては、複素環、ペプチド、糖類、ステロイドなどが含まれる。化合物は、効率、安定性、薬剤適合性などを高めるために改変することができる。薬剤の構造的同定を使用して、他の薬剤を同定、生成、またはスクリーニングすることができる。たとえば、ペプチド剤を同定する場合、非天然型アミノ酸、たとえばD−アミノ酸、具体的にはD−アラニンを使用して、アミノ末端またはカルボキシル末端を官能化することによって、たとえば、アミノ基はアシル化またはアルキル化して、カルボキシル基はエステル化またはアミド化するなどして、安定性を増強する様々な方法でそれらを改変することができる。
【0130】
本発明の方法によってスクリーニングすることができる候補モジュレーターには、受容体、酵素、リガンド、制御因子、及び構造タンパク質が含まれる。候補モジュレーターにはまた、核タンパク質、細胞質タンパク質、ミトコンドリアタンパク質、分泌タンパク質、細胞膜関連タンパク質、血清タンパク質、ウイルス抗原、細菌抗原、原生動物抗原、及び寄生生物抗原が含まれる。候補モジュレーターにはさらに、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、リンタンパク質、及び核酸(たとえば、リボザイムなどのRNAまたはアンチセンス核酸)が含まれる。本発明の方法を使用してスクリーニングできるタンパク質またはポリペプチドには、ホルモン、成長因子、神経伝達物質、酵素、凝固因子、アポリポタンパク質、受容体、薬剤、癌遺伝子、腫瘍抗原、腫瘍抑制因子、構造タンパク質、ウイルス抗原、寄生生物抗原、細菌抗原、及び抗体(以下参照)が含まれる。
【0131】
本発明によってスクリーニングすることができる候補モジュレーターにはまた、試験細胞若しくは生物が欠損している物質、または正常な濃度より高い濃度で臨床的に効果的な物質、並びに所望しないタンパク質の翻訳を排除するように設計された物質が含まれる。本発明で使用する核酸は、前述の候補モジュレーターをコードするだけでなく、有害なタンパク質を排除する生成物を排除するかまたはコードすることができる。このような核酸配列は、アンチセンスRNA及びリボザイム、並びにそれらをコードするDNA発現構築物である。以下に説明するように、アンチセンスRNA分子、リボザイム、またはそれらをコードする遺伝子を当技術分野で既知の核酸輸送方法によって試験細胞または生物に投与することができることに注意されたい。核酸配列を不活性化することにより、標的mRNAに特異的なリボザイムまたはアンチセンスRNAをコードすることができる。ハンマーヘッド型リボザイムは知られている最小のものであり、それら自体をin vitro産生させたり、細胞に輸送させたりする(Sullivan、1994、J.Invest.Dermatol.103:85S〜98S、Usmanら、1996、Curr.Opin.Struct.Biol.、6:527〜533にまとめられている)。
【0132】
本発明による治療組成物
FANCD2含有病巣形成のモジュレーターは、有用な治療薬でありうる。たとえば、FANCD2含有病巣形成の促進剤は、遺伝毒性物質の有無にかかわらず、遺伝毒性物質に対して対象を防御するために有用でありうる。本発明のスクリーニングにおいて、またはFANCD2含有病巣の形成を促進するその他の手段によって同定された化合物がそれ自体遺伝毒性物質でない場合、このような化合物は防御剤として有用でありうる。デスフェリオキサミン(DFO)[1−アミノ−6,17−ジヒドロキシ−7,10,18,21−テトラオキソ−27−(n−アセチルヒドロキシルアミノ)−6,11,17,22−テトラアザヘプタエイコサン、CAS登録番号70−51−9]は、FA/BRCA経路の作動薬として同定された。DFOは、FANCD2モノユビキチン化及び病巣集合の有力な活性化剤である。DFOは、既知の鉄のキレート剤であり、細胞内酸素ラジカルを減少させると考えられている(Breuerら、(2001)Blood、97、792〜798)。DFOがFA/BRCA経路の作動薬として同定されたことは、重要な意味を有している。DFOは、臨床使用では安全な薬剤であるが、FA/BRCA DNA修復経路を刺激するようにも作用しうる。それ自体、有用で安全な遺伝毒性物質に対する防御薬でありうる。現在、既知の防御剤はほとんどない。たとえば、アミフォスチンは、放射線防御のために承認されている(Choi、(2003)Semin Oncol.30、10〜17)。したがって、治療量のDFOは、遺伝毒性物質から対象を防御するために対象に投与することができる。それ自体が遺伝毒性作用を持たすにFANCD2含有病巣の形成を促進するこのような薬剤には、戦争中の放射能曝露、放射能漏れの後、または火星への宇宙旅行中などの多くの用途が明らかである。
【0133】
同様に、FANCD2含有病巣の形成を減少させるモジュレーターには、多くの用途がある。FA/BRCA DNA修復経路を阻害する薬剤の明らかな用途は、化学療法中の化学増感剤としての用途である。いかなる腫瘍も化学療法に対して耐性を生じることは当技術分野で既知のことである。抗癌治療薬及び化学増感剤を含む併用治療は、これらの腫瘍の抗癌剤に対する耐性を大幅に減少させることができる。耐性が問題になることが示されない場合であっても、抗癌剤の投与量を減少させることができるならば、又はこのような治療が抗癌剤の副作用全体を減少させることができるならば、このような併用治療を行うことは有利であり得る。本発明で説明したスクリーニング方法を使用して、ウォルトマニン及びトリコスタチンAはFANCD2含有病巣の形成の阻害剤として同定された。したがって、これらの化合物は、化学増感剤として有用でありうる。
【0134】
FANCD2含有病巣形成のモジュレーターを含む医薬組成物
別の実施形態では、本発明は、前項で説明したような、以下で説明するような医薬上許容できる担体を含む医薬組成物に関する。FANCD2含有病巣形成のモジュレーターを含む医薬組成物は、癌を含む様々な疾患及び障害の治療に有用で、遺伝毒性物質に対する防御薬として有用でありうる。
【0135】
本発明の化合物またはそれらの医薬上許容される塩は、疾患の治療的処理または予防的処理のために、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、または非経口投与用に調製することができる。経口または非経口投与のためには、本発明の化合物は従来の医薬担体及び医薬品添加物と混合して、錠剤、カプセル、エリキシル、懸濁剤、シロップ、カシェ剤などの形態で使用することができる。本発明の化合物を含む組成物は、活性化合物を約0.1重量%から約99.9重量%、約1重量%から約98重量%、約5重量%から約95重量%、約10重量%から約80重量%、または約15重量%から約60重量%で含有する。
【0136】
本明細書で開示した医薬品調製物は、標準的操作によって調製され、癌を減少、予防、または排除するために、又は電離放射線などの遺伝毒性物質に対する防御効果をもたらすために選択された用量で投与される(たとえば、ヒトを治療するために様々な抗菌剤を投与する方法の一般的説明については、その内容を本明細書に参照により援用した、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PA;ならびにGoodmanおよびGilman、Pharmaceutical Basis of Therapeutics、Pergamon Press、New York、N.Y.を参照のこと)。本発明の組成物は制御放出送達システム(たとえば、カプセル)または持続放出送達システム(たとえば、生体分解性マトリックス)を使用して送達することができる。本発明の組成物の投与に適した薬物送達のための例示的な遅延型放出送達システムは、米国特許第4452775号(Kent)、第5239660号(Leonard)、第3854480号(Zaffaroni)に記載されている。
【0137】
本発明の医薬上許容されうる組成物は、本明細書で集合的に「担体」物質と称される、1種又は複数の非毒性の、医薬上許容されうる担体及び/又は希釈剤及び/又は補助剤及び/又は医薬品添加物、ならびに所望するならばその他の活性成分と結合した本発明の1種又は複数の化合物を含む。組成物は、トウモロコシデンプンまたはゼラチン、ラクトース、スクロース、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、塩化ナトリウム、及びアルギン酸などの通常の担体及び医薬品添加物を含有することができる。組成物は、クロスカルメロースナトリウム、微結晶性セルロース、グリコール酸デンプンナトリウム、及びアルギン酸を含有することができる。
【0138】
含めることができる錠剤結合剤は、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(プロビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプン、及びエチルセルロースである。
【0139】
含めることができる潤沢剤には、ステアリン酸マグネシウムまたはその他のステアリン酸金属、ステアリン酸、シリコン液、タルク、ワックス、油、及びコロイドシリカが含まれる。
【0140】
ペパーミント、冬緑油、サクラフレーバーなどの矯味剤もまた、使用することができる。好ましくは、投与形態の外観により美感を与えるために、又は本発明の化合物を含む生成物の同定を助けるために着色剤を添加してもよい。
【0141】
経口で使用するために、錠剤及びカプセルなどの固形製剤は特に有用である。持続放出型製剤または腸溶コーティング製剤も考案することができる。小児及び老人に適用するために、懸濁液、シロップ、及びチュアブル錠は特に適切である。経口で投与するために、医薬組成物は、たとえば、錠剤、カプセル、懸濁液、または液剤の形態である。医薬組成物は、治療有効量の活性成分を含有する単位用量の形態で調製されることが好ましい。このような投与単位の例は、錠剤及びカプセルである。治療目的のために、錠剤及びカプセルは、活性成分に加えて、結合剤、たとえば、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ソルビトール、若しくはトラガカント、;充填剤、たとえば、リン酸カルシウム、グリシン、ラクトース、トウモロコシデンプン、ソルビトール、若しくはスクロース;潤沢剤、たとえば、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、シリカ、若しくはタルク;崩壊剤、たとえば、バレイショデンプン;矯味剤、または着色剤、または許容されうる湿潤剤などの従来の担体を含有することができる。経口液体調製物は一般的に、水性若しくは油性溶液、懸濁液、乳剤、シロップ、またはエリキシルの形態であり、懸濁化剤、乳化剤、非水性剤、保存剤、着色剤、及び矯味剤などの従来の添加物を含有することができる。液体調製物用添加物の例には、アラビアゴム、アーモンド油、エチルアルコール、ヤシ油(分留)、ゼラチン、グルコースシロップ、グリセリン、硬化食用油脂、レシチン、メチルセルロース、メチル若しくはプロピル パラ−ヒドロキシベンゾエート、プロピレングリコール、ソルビトール、又はソルビン酸が含まれる。
【0142】
静脈内(iv)への使用では、本発明の化合物は通常使用される静脈注射液のいずれかで溶解させるか又は懸濁させて注入によって投与することができる。静脈注射液には、限定はしないが、生理食塩水またはリンゲル液を含めることができる。
【0143】
非経口投与用の製剤は、水性若しくは非水性等張滅菌注射溶液又は懸濁液の形態でありうる。これらの溶液または懸濁液は、経口投与用製剤で使用することが記載された1種又は複数の担体を有する滅菌した粉末または顆粒から調製することができる。化合物は、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、トウモロコシ油、ベンジルアルコール、塩化ナトリウム、及び/又は様々な緩衝液に溶解させることができる。
【0144】
筋肉内製剤では、本発明の化合物または化合物を形成する適切な可溶性の塩の滅菌調製物を注射用水(WFI)、生理食塩水、または5%グルコースなどの医薬希釈剤に溶解して投与することができる。化合物の適切な不溶性形態は、水性ベースまたは医薬上許容されうる油性ベース(たとえば、オレイン酸エチルなどの長鎖脂肪酸のエステル)中の懸濁物として調製して投与することができる。
【0145】
局所使用のために、本発明の化合物はまた、皮膚、または鼻及び喉の粘膜に適用するために適切な形態で調製することができ、クリーム、軟膏、液体スプレー、または吸入剤、トローチ剤、または喉塗布剤の形態をとることができる。このような局所製剤はさらに、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの化合物を含有させることができ、これにより活性成分の表面透過を促進することができる。
【0146】
眼または耳に適用するために、本発明の化合物は、軟膏、クリーム、ローション、塗布剤、または粉末のような疎水性ベースまたは親水性ベースで調製した液体または半液体の形態で提供されうる。
【0147】
直腸投与のためには、本発明の化合物は、カカオ脂、ワックス、またはその他のグリセリドなどの従来の担体と混合した坐剤の形態で投与することができる。
【0148】
あるいは、本発明の化合物は、送達時に適切な医薬上許容されうる担体で再構成するための粉末形態であってよい。別の実施形態では、化合物の単位投与形態は、滅菌された、密閉アンプル内で適切な希釈剤に入れた化合物またはその塩の溶液でありうる。
【0149】
単位投与物中の本発明の化合物の量は、受容対象、投与経路、及び投与頻度に応じて変化しうる治療有効量の本発明の少なくとも1種の活性化合物を含む。受容対象とは、植物、細胞培養物、またはヒツジなどの動物若しくはヒトを含む哺乳類を意味する。
【0150】
本発明のこの態様では、本明細書で開示した新規組成物は、医薬上許容されうる担体中に入れられ、既知の薬剤輸送方法によって(ヒト対象を含む)受容対象に輸送される。一般的に、in vivoで本発明の組成物を輸送するための本発明の方法は、当技術分野で認識されている方法において薬剤を本発明の化合物に置換するという点のみを実質的に変更して、当技術分野で認識されている薬物輸送方法を使用する。
【0151】
本発明の化合物は、前癌状態若しくは癌状態を治療するための、又は遺伝毒性物質に対する防御薬として使用するための方法を提供する。本明細書では、「単位用量」という用語は、所望する治療応答を誘導する治療有効量の本発明の化合物の量を意味する。「治療」という用語は、前癌状態若しくは癌状態の発生を予防するために、又は前癌状態若しくは癌状態を制御若しくは排除するために、対象に、治療有効量の少なくとも1種の本発明の化合物を投与することと定義される。「所望する治療応答」という用語は、受容対象の前癌状態または癌状態を逆戻りさせ、阻止し、または予防するように、本発明の化合物で受容対象を治療することを意味する。
【0152】
本発明の化合物は、1日に単回用量として、または1日当たり複数回投与するように投与することができる。治療計画は、長期間、たとえば、数日間または2週間から4週間投与することを必要としうる。投与用量当たりの量または全投与量は、疾患状態の特性及び重症度、受容対象の年齢及び一般的健康状態、受容対象の化合物に対する耐性、及び癌の種類、治療薬に対する癌の感受性、並びに使用するならば、その他の治療薬の併用、使用した治療薬の用量及び種類などの要素に左右される。
【0153】
本発明の化合物はまた、患者若しくは動物の食事または飼料に投与することができる。動物用の飼料は、化合物を添加することができるかまたはプレミックスに添加することができる通常の食品でありうる。
【0154】
本発明の化合物は、このような治療を必要とする受容対象を治療するために既知の臨床的に認可された任意の薬剤と組み合わせて、一緒に、又は別個に摂取されうる。
【0155】
本発明によるキット
便宜上、免疫組織化学的分析若しくは免疫蛍光顕微鏡法又は本発明によるその他の診断測定法のための一般的な試薬は、キットの形態で提供される。このようなキットは、生体対象の試料におけるFANCD2含有病巣の有無を測定し、計数するために有用である。したがって、このようなキットは、対象が最近遺伝毒性物質に曝露したかどうか、対象が遺伝毒性物質に曝露した程度、及び遺伝毒性物質に対する対象の感受性を測定する診断測定法を実施するために有用である。このような診断キットは、FANCD2リガンド(たとえば、FANCD2に結合することができる抗体)または本発明のモノユビキチン化FANCD2を含む。キットはまた、測定法を実施するための指示書、組織または細胞を固定するための顕微鏡スライド、固定剤、適切な株、様々な希釈剤及び緩衝液、特異的に結合した組成物を検出するための標識複合体、及びその他のシグナル発生試薬、たとえば、蛍光化合物及び色素、酵素基質、補因子、及び色素原を含みうる。他の構成要素は、蛍光または比色用の指示薬の図表、使い捨て手袋、汚染除去指示書、塗布棒または容器、及び試料調製用コップを含みうる。このようなキットは、本発明による細胞または組織のDNA損傷の有無を診断するための便利で効率的な臨床研究用手段を提供する。本発明によるキットには、適切なパッケージング手段、たとえば、試験管、組織培養プレート及びマルチウェルプレートが含まれる。リガンドは、溶液又は凍結乾燥状態で提供されうる。
【0156】
本発明は、以下の実施例を参照することによって説明されるが、これらは例示のために提供され、いかなる方法によっても本発明を限定するものではない。当技術分野でよく知られている標準的技術または以下に具体的に説明する技術を使用した。本明細書で引用した参考文献はすべて、参照により援用する。
【実施例】
【0157】
実施例1 FANCD2のモノユビキチン化アイソフォームを特異的に認識する抗体の作製
FANCD2に対する(モノクローナル及びポリクローナル)抗体は、FANCD2のアミノ末端領域に対して生じた。これらの抗体は、FANCD2の両アイソフォーム(FANCD2−S及びFANCD2−L)を認識する。抗FANCD2−L抗体を作製するために、ユビキチン(Ub)のカルボキシル末端に共有結合させたFANCD2領域を含有する特異的抗原(図10)を作製した。この抗原をマウスに注射し、モノクローナル抗体(図11)を作製した。これらの抗体について、前述したように、特異的な診断価値をここで分析する。
【0158】
実施例2 試料を採取するための臨床方法
in vitroデータに基づくとそれが病巣形成のピーク時であるので、曝露の申し立てから24時間から48時間して血液を採取した。再度、異なる抗血清(FANCD2、BRCA1、及びヒストン2AX)は、in vivoでは実際の病巣のピーク時及び病巣の期間が著しく異なる可能性がある。末梢血リンパ球(PBL)は、標準的フィコール勾配を使用して単離する。次に、細胞をヒストン2AX、BRCA1、及びFANCD2に対する特異的な抗血清で染色し、IRIFを有する細胞の割合及び細胞当たりのIRIFの数を測定する。放射線曝露の申し立てから経過した時間の量に基づいた標準曲線を使用して、曝露したと考えられる遺伝毒性物質の用量を測定する。この用量に基づいて、遺伝毒性防御薬を必要であれば投与する。
【0159】
I.臨床方法
腫瘍のために放射線または遺伝毒性化学療法薬を投与されている癌患者(たとえば、頭部及び首の扁平上皮癌患者)を参加させる。放射線曝露後、曝露後の様々な時間で(すなわち、曝露後1時間、3時間、8時間、及び24時間してから)末梢血試料を採取し、末梢血リンパ球内の病巣の数を測定する。放射線治療を受けた患者の試料の場合、照射領域には腫瘍領域のみを含むが、この領域を通過する血液(及びリンパ球)はまた、放射線曝露を受けるだろう。したがって、患者から得られた末梢血試料は、少なくとも、この領域で照射された循環リンパ球の画分の試料である。病巣の数(x軸)と曝露(y軸)が相関した標準曲線が作製される。その後、多くの個々の血液試料の放射線曝露を測定するためのハイスループット自動装置が開発されている。この装置は、生物学的試料の放射線または遺伝毒性物質に対する曝露を測定するための以前の測定法で使用されたのと同様の原理で作動すると考えられ、病巣に見いだされるタンパク質(FANCD2、ヒストン2AX、BRCA1)に対する抗体と生物学的試料を接触させ、ハイスループット自動顕微鏡を使用して試料の病巣形成を調べることを含む。
【0160】
実施例3 FANCD2モノユビキチン化の用量依存的生成
DNA損傷はFANCD2モノユビキチン化を活性化すること、及びFANCD2モノユビキチン化はFANCD2核病巣形成と相関することを既に示した(Garcia−Higueraら、Mol Cell 7:249〜262、2001)。図13に示したように、いくつかの種類の遺伝毒性ストレス(MMC、IR、紫外線)は、FANCD2モノユビキチン化を活性化するか(パネルA、B、C)、又はFANCD2病巣形成を活性化することができる(パネルD)。興味深いことに、FANCD2の活性化は時間経過依存性及び用量依存性である。この分析において、FANCD2病巣はIR後わずか4時間で認められ、5GyのIRの後で認められた(パネルD)。HeLa細胞でも実施したより厳密な研究(図12)では、0〜5Gyの範囲(すなわち、低放射線曝露)の放射線であってもFANCD2モノユビキチン化の用量依存的増加が示され、FANCD2病巣形成が放射線曝露の非常に高感度な指標でありうることがさらに示唆される。予備研究によって、正常なヒト成人対照の初代末梢血リンパ球をin vitroで照射すると、同様の時間経過及び用量に依存したFANCD2核病巣の生成が生じる(データは示さず)。
【0161】
実施例4 スクリーニング(化学物質を使用した予備スクリーニング)
I)ファンコニ貧血症/BRCA経路の阻害剤(または作動薬)のハイスループット測定法
測定法は、FA/BRCA経路の下流にある重要な事象、FANCD2病巣の集合のために開発された。この目的のために、完全長FANCD2タンパク質のアミノ末端に融合したGFP(緑色蛍光タンパク質)をコードする融合cDNA(図1)を作製した。
【0162】
最初に、内在性FANCD2タンパク質を発現しないPD20(FA−D2繊維芽細胞)にこのcDNAを形質導入した(図2)。GFP−FANCD2タンパク質は、(予測通り)FANCD2より大きく、DNA損傷誘導性モノユビキチン化を受ける(レーン6〜9)。
【0163】
GFP−FANCD2タンパク質がFA−A(ファンコニ貧血症サブタイプA)繊維芽細胞系で発現したときは、細胞が電離放射線に曝露したときでさえもモノユビキチン化されなかった(図2、レーン11〜14)。これらのことを考え合わせると、これらの結果は、GFP−FANCD2が野生型(タグのついていない)FANCD2タンパク質と同様の作用をすることを示唆している。
【0164】
次に、GFP−FANCD2がPD20F細胞のMMC過敏性を修正できるかどうかを測定した(図3)。実際に、野生型FANCD2のように、GFP−FANCD2の発現によって正常なMMC耐性が回復する。
【0165】
GFP−FANCD2を発現するPD20F細胞を播種し、個々のサブクローンを単離した。1個のサブクローン(クローン7)が核内にGFP−FANCD2タンパク質を拡散して発現した(図4)。細胞をIRに曝露した後、これらの細胞は、核内に明瞭な緑色の病巣を形成した。したがって、これらの細胞はFA/BRCA経路の拮抗薬及び作動薬のハイスループットスクリーニングのための理想的な手段である。
【0166】
II.FA/BRCA経路の低分子生物活性制御因子を同定するためのGFP−FANCD2発現繊維芽細胞の使用
ICCB(Institute for Chemistry and Chemical Biology)と呼ばれるHarvard Medical Schoolの主要施設でスクリーニング試験は確立された。このスクリーニング測定法の一般的原理を図5に示す。
【0167】
低分子輸送ロボットは384個の細胞組織培養プレートに播種したクローン7繊維芽細胞に化合物を輸送する。200,000個を上回る低分子を含むいくつかの市販のライブラリーが有用である。FA/BRCA経路の阻害剤は、GFP−FANCD2病巣形成を阻止することが予測され、経路の作動薬は病巣形成を促進する。
【0168】
測定法の具体的な詳細は図6に説明する。示したように、播種した細胞は、電離放射線で刺激する前に化合物と予備インキュベーションする(濃度約40マイクロモルで12時間)。この方法の重要な特徴は、2次スクリーニングの使用である(図6、ポイント番号8)。FANCD2病巣形成を阻害または活性化する(すなわち、相乗作用する)ことが最初に発見された化合物は、その後低用量範囲(1〜20マイクロモルの範囲)でスクリーニングされ、2種類の測定法、(1)FANCD2病巣の形成及び(2)FANCD2モノユビキチン化の活性化でスクリーニングされる(ウェスタンブロットスクリーニング)。この2次スクリーンニングを経た化合物は次に、シスプラチンの細胞毒性作用に対してHeLa細胞を化学物質感受性にするその能力について調べる(Taniguchiら、(2003)Nat.Med 9:568〜574)。
【0169】
III.FANCD2経路を阻害または活性化する特異的化合物の同定
スクリーニング測定法による個々の細胞の顕微鏡写真を図7に示す。最初に、約1000個の既知の生物活性化合物をスクリーニングした。電離放射線(IR)などの遺伝毒性物質に対する曝露によって形成される病巣の数及び大きさを少なくとも10%、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、または100%まで減少させる薬剤は、FANCD2含有病巣の形成を阻害する薬剤であることが示される。他のスクリーニングにおいて、遺伝毒性物質に対する曝露がない場合に、曝露していない対照細胞に対してFANCD2含有病巣の形成について少なくとも10%、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、100%、200%、または500%の増加を引き起こす薬剤は、FANCD2含有病巣の形成を活性化する薬剤として示される。これらの化合物の非常に多くは、クローン7細胞がIR曝露後にGFP−FANCD2病巣を形成する能力に対して影響を及ぼさなかった。少なくとも3個の関連化合物が最初のスクリーニングで得られ、2個はこの経路の阻害剤として機能し、1個はこの経路の活性化剤として機能した。
【0170】
A)FA/BRCA経路の阻害剤
FA/BRCA経路の1つの阻害剤は、化合物ウォルトマニンであった。ウォルトマニンは、DNA損傷応答キナーゼ、ATM及びATRの既知の阻害剤である。ATRキナーゼは、FA/BRCA経路の上流成分で、この経路の分子センサー装置の一部として機能することが示された(以下の図8参照)。新規キナーゼ阻害剤が豊富な、化合物のより選択的なライブラリーを、これらの化合物のいずれかがFA/BRCA経路の阻害剤として特異的に作用するかどうかを決定するためにスクリーニングした。
【0171】
同定されたFA/BRCA経路の他の阻害剤は、トリコスタチン−Aであった。トリコスタチン−Aは、HDAC(ヒストンデアセチラーゼ)として既知の広範な種類の酵素の既知の阻害剤である。ヒト細胞には少なくとも8種類の異なるHDAC酵素がある。重要なことは、トリコスタチン−A(Beppuら、(1990)J Biol Chem.265、17174〜9)及びSAHA(Richonら、Proc Natl Acad Sci USA.(1998)95、3003〜7)などのHDAC阻害剤は、in vitro及びin vivoで強力な抗腫瘍活性を有し、この種類の薬剤は現在、ヒト抗新生物薬の新たな種類として熱心に研究されている。
【0172】
FA/BRCA経路の阻害剤としてのトリコスタチン−Aの同定(及び確認)には、重要な意味がある。たとえば:
1)そのいくつかは癌患者において臨床試験がなされている、その他のHDAC阻害剤は、現在、FA/BRCA経路を阻害する能力について直接試験することができる。実際、クローン7細胞におけるFA/BRCA経路は新規HDAC阻害剤の有効性についての有用なバイオマーカーを提供しうる。
【0173】
2)HDAC阻害剤は、細胞機能に対して広い影響を及ぼすが(DNA修復、転写、及び有糸分裂誘発に影響を及ぼす)、実際にFA/BRCA経路の崩壊は、所与のHDAC阻害誘導体化合物の能力の評価において関連性のある「指標」となりうる。
【0174】
3)HDAC阻害剤は実際に、FA/BRCA経路によるDNA修復を阻害することによって、癌細胞の放射能増感剤及び化学増感剤として機能することができる。したがって、HDAC阻害剤は、放射線または細胞毒性DNA損傷薬(すなわち、シスプラチン)と組み合わせて最も効果的に輸送することができる。
【0175】
B)FA/BRCA経路の作動薬
デスフェリオキサミン(DFO)は、FA/BRCA経路の作動薬として同定された。DFOは、FANCD2モノユビキチン化及び病巣集合の強力な活性化剤である。DFOは、既知の鉄のキレート剤であり、細胞内の酸素ラジカルを減少させると考えられているが、FANCD2モノユビキチン化及び病巣形成の活性化におけるその役割はまだ示されていない。
【0176】
実施例5 FA/BRCA経路の分子センサー装置の決定
ATM及びATRキナーゼの既知の阻害剤、ウォルトマニンは、FANCD2モノユビキチン化及び病巣形成を阻止することが示された。したがって、この結果は、ATM(またはATR)がFA/BRCA経路の上流で機能できることを示している。この仮説を試験するために、siRNAによる方法を使用した(図8、A、B)。ATR、CHK1、及びRPA1に特異的な阻害性RNA分子(RPA1は、ATRの既知の活性化剤であり、CHK1はATRの既知の基質である)。興味深いことに、HeLa細胞をこれらのsiRNA分子で一時的に形質導入すると、(1)MMC誘導性及びIR誘導性のFANCD2のモノユビキチン化が減少し(図8)、(2)FANCD2病巣形成が減少し(示さず)、HeLa細胞がMMCに感作される(示さず)。この測定法(図8)の重要な特徴は、「L/S比」の算出である。この比は、FANCD2−Sバンドの濃度によって除したFANCD2−Lバンドの濃度として算出される。これらのバンドの強度は、オートラジオグラフから直接測定される。たとえば、(図8A)、MMC活性化はL/S比を1.17に増加させ、ATRのsiRNAによるノックアウトはL/S比を0.46(無単位値)に減少させる。
【0177】
これらの重要な観察に基づいて、タンパク質のATR/RPA1/CHKIネットワークはFA/BRCA経路の上流で作用することが明らかである(図9)。薬理学的操作によるこの経路の上流段階のいずれかの破壊は、その他の従来の抗新生物薬に対して癌細胞を潜在的に放射能感受性または化学物質感受性にすることができる。
【0178】
用途
本発明は、電離放射線などの遺伝毒性物質に対する生体対象の曝露の検出に有用である。さらに、本発明は、このような薬剤、たとえば、放射線治療に曝露する前に遺伝毒性物質に対する生体対象の感受性を測定するのに有用であり、感作した患者の過剰曝露の危険性を抑えるより個別化された治療を提供するのに有用である。本発明はまた、病巣形成の程度を変更する薬剤を同定するのに有用である。これらの薬剤は、遺伝毒性物質によって誘導されるDNA損傷に対する防御薬として有用であり、あるいは、化学療法薬と併用して使用する化学増感剤として有用でありうる。
【0179】
その他の実施形態
上記の明細書で記載した発行物はすべて、参照により本明細書に援用する。本発明で説明した方法及び系の様々な変更及び改変は、本発明の範囲及び精神を逸脱することなく、当業者に明らかであろう。本発明は具体的な好ましい実施形態に関連させて説明したが、特許請求した本発明はこのような具体的な実施形態に不当に制限されるべきではない。実際に、分子生物学または関連分野の当業者に明らかな、本発明を実施するために説明した様式の様々な変更は、以下のクレームの範囲内にあるものとする。
【0180】
この項についての参考文献
DiTullio, R. A. , Jr. , Mochan, T. A. , Venere, M., Bartkova, J. , Sehested, M. , Bartek, J. , およびHalazonetis, T. D. (2002).53BP1 functions in an ATM-dependent checkpoint pathway that is constitutively activated in human cancer. Nat Cell Biol 4, 998-1002.
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【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】図1は、FANCD2に対するGFP(緑色蛍光タンパク質)の融合の概略モデルを示した図である。FANCD2のアミノ末端メチオニン(MET)にGFPが直接融合したものをコードするcDNAを生成した。哺乳動物細胞にこのcDNAを形質導入すると、レポーター測定法で機能を果たす融合タンパク質の発現が生じる。
【図2】図2は、GFP−FANCD2融合タンパク質は、形質導入したFA−D2ヒト繊維芽細胞でモノユビキチン化することによって発現し活性化されることを示す。FANCD2欠損ヒト繊維芽細胞(PD20F)は、示したように、形質導入されなかったか(レーン1)、野生型FANCD2 cDNAで形質導入されたか(レーン2〜5)、又はGFP−FANCD2融合タンパク質をコードするcDNAで形質導入された(レーン6〜9)。あるいは、FA−A繊維芽細胞(GM6914、レーン11〜14)又はHeLa細胞(レーン16〜19)は融合タンパク質をコードするcDNAで形質導入された。示したように、細胞は未処理であるか、または遺伝毒性ストレス(電離放射線)に曝露した。全細胞溶解物をSDS−PAGEによって分析し、細胞タンパク質をFANCD2に対する抗血清でイムノブロッティングした。結論:DNA損傷は、完全長(野生型)FANCD2タンパク質又はGFP−FANCD2融合タンパク質のモノユビキチン化の増加を、調整された細胞では活性化するが、FA細胞では活性化しない。
【図3】図3は、GFP−FANCD2融合タンパク質は、FANCD2欠損ヒト繊維芽細胞のマイトマイシンC過敏性を機能的に補うことを示した図である。GFP−FANCD2タンパク質を安定して発現する形質導入PD20F細胞の、様々な濃度のMMCにおける生存について分析した。結論:GFP−FANCD2は機能的であり、PD20F細胞のMMC過敏性を修正する。したがって、アミノ末端のGFP部分は、細胞においてその機能を妨害しない。
【図4】図4は、生理学的濃度のGFP−FANCD2タンパク質を発現し、ハイスループット薬剤スクリーニングに適したPD20F繊維芽細胞クローンの単離を示した図である。GFP−FANCD2タンパク質を発現するサブクローン(クローン7)は、限界希釈によって単離された。電離放射線(IR)でこのクローンを活性化すると、明瞭な緑色の病巣の集合が生じ、細胞核の蛍光背景中で確認することができる。
【図5】図5は、ファンコニ貧血症/BRCA経路の阻害剤及び作動薬の一般的なスクリーニング方法を示した図である。安定してGFP−FANCD2タンパク質を発現するヒト繊維芽細胞(クローン7)を、384ウェルプレートで、強力な低分子阻害剤又は作動薬化合物に曝露する。これらの化合物を予備処理した後、プレートを照射してGFP−FANCD2のモノユビキチン化及び病巣形成を活性化する。GFP−FANCD2は、FA−A繊維芽細胞において安定して発現するとき、IR誘導性病巣を形成することができない。FA酵素複合体を迂回する低分子作動薬は、FA細胞において病巣形成を活性化する。このような薬剤は、FAの適切な処置であり得る。したがって、GFP−FANCD2融合タンパク質を使用してこの経路の阻害剤又は作動薬をスクリーニングする。
【図6】図6は、FA/BRCA経路の低分子阻害剤及び作動薬の同定方法の概略を示した図である。安定してGFP−FANCD2を発現するヒト繊維芽細胞を384ウェルプレートに播種して、化学物質ライブラリーで予備処理し、電離放射線に曝露する。GFP病巣を計算し、この経路の阻害剤又は作動薬の同定を行う。
【図7】図7は、FA/BRCA経路の阻害剤としてのウォルトマニン及びトリコスタチン−Aの同定を示した図である。図6で概略を示した方法を使用して、1000個を上回る独立した化合物を含有する化学物質ライブラリーをスクリーニングした。大部分の化合物は、IR誘導性GFP−FANCD2病巣の形成に影響を及ぼさなかった。2種類の化合物(トリコスタチンA、既知のHDAC阻害剤、及びウォルトマニン、既知のATRキナーゼ阻害剤)は、効果的に病巣形成を阻止した。これらの結果をもとにして、細胞性HDAC活性(すなわち、ヒストンデアセチラーゼ活性)及びATRキナーゼ活性は、FA/BRCA経路の上流に必要であることが示唆される。トリコスタチン−A及びウォルトマニンが病巣形成を阻害する能力は、その後、用量反応及び経時変化の研究(データを示さず)で確認された。このようなin vitro測定におけるこれらの薬剤の活性から、これらの薬剤はin vivoにおいて放射線及び化学療法に対して腫瘍を化学物質感受性にすることが示唆される。
【図8】図8は、細胞情報伝達タンパク質ATR、RPA1、及びCHK1は、FA/BRCA情報伝達経路の上流に必要である。ウォルトマニンによってGFP−FANCD2病巣集合が阻害されることによって、RPA1/ATR/CHK1経路はこの経路の上流にあるセンサーとして機能できることが示唆された。RPA1/ATR/CHK1経路を遮断するために、siRNA阻害が使用された。RPA1、ATR、またはCHK1をsiRNAで一時的に形質導入すると、対応する細胞性タンパク質の発現の欠如が生じた。興味深いことに、FANCD2−L/FANCD2−S比の減少によって判断されるように、これらの処理細胞では、FANCD2のMMC(A)及びIR(B)誘導性モノユビキチン化が減少していた。FANCA遺伝子に特異的なsiRNAで細胞を形質導入した(レーン9、10)。FANCAに対してsiRNAがFANCA発現を減少させ(示さず)、FANCD2−L/FANCD2−S比を減少させたことは、FANCAがFA経路の上流で作用することをさらに示している。
【図9】図9は、FA/BRCA経路モデルの概略を示した図で、上流のRPA1/ATR/CHK1センサー装置を示す。FA/BRCA経路のその他の上流タンパク質を同定するために、siRNA阻害による一般的な取り組みを使用する。これらの上流標的のいずれかを阻害(たとえば、ウォルトマニンによってATRを阻害)することは、この経路の潜在的なノックアウト機構であり、シスプラチンまたはIRに対してヒト腫瘍細胞を感作する。
【図10】図10は、FANCD2のモノユビキチン化(活性化)アイソフォームに特異的なモノクローナル抗体の作製を示した図である。ヒトFANCD2(アミノ酸554〜566)の内部領域に対応する13個のアミノ酸ペプチドを作製した。このペプチドは、モノユビキチン化部位であるリジン561を含有する。ガンマペプチド結合を介して、ユビキチンのカルボキシル末端に対応する7個のアミノ酸ペプチド(GGRLRLC)(配列番号3)をK561に結合させた。次に、この抗原をKLHに結合させ、マウスの免疫化に使用した。結合抗原に対して血清反応を生じたマウスを殺処分し、モノクローナル抗体の作製のために脾細胞融合を実施した。
【図11】図11は、モノユビキチン化FANCD2に特異的なモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマの作製を示した図である。脾細胞融合の後、マウスハイブリドーマをサブクローニングして、ウェスタンブロット分析によって、モノユビキチン化FANCD2を認識する能力について上清を分析した。イムノブロットによって、モノユビキチン化FANCD2を特異的に認識するが、改変していないFANCD2は認識しない6個のハイブリドーマを同定した。モノユビキチン化FANCD2に対する抗体は、放射線曝露によって活性化された末梢血リンパ球(PBL)の迅速なFACS(蛍光標示式細胞分取器)スクリーニングを提供する。
【図12】図12は、IR後のFANCD2モノユビキチン化の用量依存的生成を示した図である。対数増殖HeLa細胞は、未処理か、又は表示したIR線量に曝露した。4時間後、抗FANCD2ウェスタンブロッティングによって細胞を処理した。FANCD2のモノユビキチン化のある程度の活性化が低線量範囲(0〜5Gy範囲の照射)のIRで認めることができることに注意されたい。
【図13】図13は、遺伝毒性ストレス後のFANCD2モノユビキチン化及びFANCD2病巣形成の用量依存的及び時間経過依存的生成を示した図である。対数増殖するHeLa細胞を未処理か、又は表示した遺伝毒性物質(マイトマイシンC、ガンマ放射線、または紫外線)に曝露し、ウェスタンブロッティングによって処理するか(パネルA、B、C)、又は抗FANCD2ポリクローナル抗体(E35)で免疫蛍光法(パネルD)によって処理した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線及び環境毒物などの遺伝毒性物質に対する生体対象の曝露の検出に関する。癌の治療、遺伝毒性物質に対する防御のための治療化合物の同定を促進する方法もまた、提供される。
【背景技術】
【0002】
多くの疾患において、化学療法及び放射線治療は一般的な処置となっている。このような治療方法は癌などの疾患の治療に有効に使用され得るが、生物学的に多量の放射線に曝露するとまた、遺伝毒性ストレスの原因となり得る。同様に、(原子力の生成などの)多くの工業的工程及び(核兵器などの)軍事的用途では、個体を危険濃度の遺伝毒性物質に曝露する可能性がある。このような曝露は、細胞周期停止から変異、悪性腫瘍への変換、又は細胞死までの様々な細胞応答を引き起こす可能性がある。
【0003】
個々の遺伝的性質によって、DNA修復機構が欠損しており、その結果として染色体に不安定さが生じている人々もいる。このような染色体の不安定さによる結果は、主に3つある。これらの個体は、(1)発育が異常で(先天性欠損)、(2)癌の素因があり、(3)放射線照射及び化学療法に対して組織が過敏でありうる。
【0004】
重篤な症例では、このような個体は明らかな遺伝子疾患(すなわち、ファンコニ貧血症)を伴って生まれてくる可能性がある。このような疾患は、特定のDNA修復遺伝子の両対立遺伝子の完全ノックアウトによって生じる。やや重篤な症例及びより普通の症例では、個体はDNA修復遺伝子又は経路が部分的に崩壊している可能性がある。このような崩壊は、DNA修復遺伝子「変種」、たとえば、ファンコニ貧血症(FA)遺伝子の一塩基多型の遺伝から生じる可能性がある。これらの個体の発育は正常である(すなわち、先天性欠損の症状はない)が、遺伝的欠点の唯一の臨床的後遺症は、癌の早期発症又は放射線若しくは薬剤に対する過敏性である。癌が発症する前、又は放射線/薬剤曝露による致死毒性が生じる前に、このような個体を確認することは臨床医学における重要かつ未解決の問題である。
【0005】
放射線/化学療法の毒性を予測することは困難で、現在のところ、状況証拠に頼っている。第1に、希少な癌が早期発症する個体、または癌の強い家族歴のある個体は、常染色体の優勢または劣勢遺伝を伴うことが明らかで、潜在的に遺伝的欠損を有している可能性がある。このような場合、犯人となる癌感受性遺伝子(BRCA1、BRCA2、p53)を配列決定して、欠損を確認するか、または除外することができる。第2に、臨床所見がはっきりせず、既成の遺伝的疾患(すなわち、皮膚のカフェオレ斑または低身長)を想起させる個体は、DNA修復疾患が根底にある可能性がある。
【0006】
どの癌患者にDNA修復疾患が潜んでいるかを予測するための努力は、ほとんどが無駄に終わった。FA患者及びブルーム症候群の患者は明らかに染色体切断に(無視できない)欠陥を有しているが、DNA修復疾患がより曖昧な患者は、一般的な染色体切断研究では陽性に判定されない。特定の種類及び位置の腫瘍に応じて、すべての癌患者に標準量の放射線/化学療法が施される。これらの患者の約2%は、裏に潜むDNA修復疾患の第1の証拠として、予期せぬ重篤な毒性反応を示す可能性がある。
【0007】
生体試料において、遺伝毒性物質に対する曝露を検出する方法(すなわち、いわゆる生物学的線量計)が当技術分野で必要とされている。遺伝毒性物質に対する個体の感受性を試験する方法もまた、当技術分野で必要とされている。遺伝毒性物質に曝露することによって個体に引き起こされる障害を測定する方法もまた、当技術分野で必要とされている。遺伝毒性物質に対する細胞の応答を変更する活性を備えた薬剤の同定方法もまた、当技術分野で必要とされている。放射線及び遺伝毒性発癌物質などの遺伝毒性物質に曝露する可能性から個体を防御する活性のある化合物を入手することもまた、非常に必要とされている。
【0008】
発明の概要
本発明は、遺伝毒性物質に対する生体対象の曝露を検出するのに有用な方法及び組成物を開示する。これらの方法及び組成物は、FANCD2及びその他のタンパク質が遺伝毒性物質に曝露した細胞において核内病巣を形成するという所見に基づいている。本発明はまた、病巣形成のモジュレーターの同定に有用な組成物及び方法を包含する。
【0009】
一つの態様では、本発明は、以下の段階:対象から試料を収集する段階、及び試料中のFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、生体対象における遺伝毒性物質に対する曝露の検出方法を提供する。病巣の存在は、遺伝毒性物質に対する曝露の指標である。対象はヒトであることができる。試料は、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚管擦過物からなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、試料は末梢血である。あるいは、本方法はさらに対照試料を含むことができ、対照試料に対する試料中の病巣形成の程度が遺伝毒性物質に対する対象の曝露の程度の指標である。
【0010】
一つの実施形態では、本方法はさらに、試料と配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドとを接触させることを含む。リガンドは、検出可能なシグナルをもたらす標識と結合している。一つの実施形態では、リガンドは抗体である。検出可能な標識を抗体に結合させることができる。あるいは、標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している。第2のリガンドは抗体であることができる。検出可能な標識は、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、標識は蛍光色素である。一つの実施形態では、検出には蛍光顕微鏡法が含まれる。
【0011】
本発明はまた、以下の段階:患者を低用量の遺伝毒性物質に曝露する段階、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、遺伝毒性物質に対する患者の感受性を試験する方法を特徴とする。対照試料に対する病巣形成の存在は、遺伝毒性物質に対する患者の感受性の違いを示す指標である。対照試料に対する病巣形成の程度は、遺伝毒性物質に対する患者の感受性の指標である。試料は、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物からなる群から選択することができる。
【0012】
一つの実施形態では、本方法はさらに、試料と配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドとを接触させることを含む。リガンドは、検出可能なシグナルをもたらす標識と結合している。一つの実施形態では、リガンドは抗体である。検出可能な標識を抗体に結合させることができる。あるいは、標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している。第2のリガンドは抗体であることができる。検出可能な標識は、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、標識は蛍光色素である。一つの実施形態では、検出には蛍光顕微鏡法が含まれる。
【0013】
別の態様では、本発明は、以下の段階:曝露後の患者から試料を収集する段階、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、遺伝毒性物質に対する患者の曝露によって引き起こされるDNA損傷の程度を測定する方法を提供する。対照試料に対する病巣形成の違いは、曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は曝露に応答したDNA損傷の異なる程度を示す。試料は、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物からなる群から選択することができる。
【0014】
別の態様では、本発明は、以下の段階:患者から試料を収集する段階、遺伝毒性物質に対して試料又は組織を曝露する段階、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、遺伝毒性物質に対する試料の感受性を測定する方法を提供する。対照試料に対する病巣形成の違いは、曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は薬剤に対する組織の感受性の違いを示す。試料は、生体対象から収集された腫瘍試料であることができる。一つの実施形態では、遺伝毒性物質は、電離放射線又はシスプラチンからなる群から選択することができる。別の実施形態では、試料は生体対象から様々な時点で採取し、遺伝毒性物質に対する試料の感受性の変化をモニターする。
【0015】
一つの実施形態では、方法はさらに、試料と配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドとを接触させることを含む。リガンドは、検出可能なシグナルをもたらす標識と結合している。一つの実施形態では、リガンドは抗体である。検出可能な標識を抗体に結合させることができる。あるいは、標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している。第2のリガンドは抗体であることができる。検出可能な標識は、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、標識は蛍光色素である。一つの実施形態では、検出には蛍光顕微鏡法が含まれる。
【0016】
本発明の別の態様では、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供される。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したFANCD2タンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。
【0017】
別の態様では、本発明は、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を提供する。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したFANCD2タンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞を提供する。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したFANCD2タンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。
【0019】
別の態様では、本発明は第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする核酸は、ヒストン2AX、BRCA1、及びNBS1を含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を提供する。病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする核酸は、ヒストン2AX、BRCA1、及びNBS1を含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードするDNAを含む単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞を提供する。病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする核酸は、ヒストン2AX、BRCA1、及びNBS1を含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2に結合するタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。
【0022】
一つの実施形態では、本発明は、第一の蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチドDNA配列と、第2の蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2と結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドとを発現する細胞を提供する。第2の蛍光タンパク質は、第1の蛍光タンパク質とは異なることが好ましい。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。好ましい実施形態では、蛍光タンパク質はeCFP及びeYFPである。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、以下の段階:生物学的試料を試験化合物と接触させる段階、及び対照試料に対するFANCD2含有病巣におけるFANCD2の存在を検出する段階を含む、FANCD2含有病巣の形成を変更する試験薬剤をスクリーニングする方法を提供する。対照試料に対する病巣形成の程度の違いは、病巣形成に活性のある薬剤を示す指標である。本方法はさらに、遺伝毒性物質に生物学的試料を曝露することを含むことができる。
【0024】
一つの実施形態では、本方法はさらに、生物学的試料とFANCD2に結合するリガンドとを接触させることを含む。リガンドは、検出可能なシグナルをもたらす標識と結合している。一つの実施形態では、リガンドは抗体である。検出可能な標識を抗体に結合させることができる。あるいは、標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している。第2のリガンドは抗体であることができる。検出可能な標識は、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましい実施形態では、標識は蛍光色素である。一つの実施形態では、検出には蛍光顕微鏡法が含まれる。
【0025】
別の態様では、本方法はさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞を使用して、病巣形成を検出することを含む。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したFANCD2タンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。一つの実施形態では、病巣は蛍光顕微鏡を使用して検出される。
【0026】
さらに別の実施形態では、本方法は、第一の蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した配列番号1のヒトFACD2タンパク質をコードする単離ポリヌクレオチドDNA配列と、第2の蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合した、病巣形成のときにFANCD2と結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチドとを発現する細胞を使用して病巣形成を検出することを含む。第2の蛍光タンパク質は、第1の蛍光タンパク質と異なることが好ましい。ポリヌクレオチドはさらに、タンパク質リンカー配列をコードする配列を含むことができる。ポリヌクレオチドはさらに、蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合したタンパク質をコードする配列に操作可能に結合した発現制御配列を含むことができる。蛍光タンパク質は、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択することができる。好ましい実施形態では、蛍光タンパク質はeCFP及びeYFPである。別の実施形態では、病巣は蛍光共鳴エネルギー移動を測定して検出される。
【0027】
別の態様では、本発明は、遺伝毒性物質によって引き起こされる障害から生体対象を防御する方法を提供し、本方法は、参照又は対照と比較したときに生体対象においてFANCD2含有病巣の形成が促進されるように、生体対象に治療有効量のFANCD2含有病巣形成促進物質を投与することを含む。一つの実施形態では、促進物質にはデスフェリオキサミンが含まれる。
【0028】
さらに別の態様では、本発明は、FANCD2ポリペプチドのモノユビキチン化形態に結合する抗体を提供する。好ましくは、抗体はFANCD2ポリペプチドのモノユビキチン化形態には結合するが、非ユビキチン化形態には結合しない。抗体はポリクローナルであってよい。あるいは、抗体はモノクローナルであってよい。
【0029】
別の態様では、本発明は、FANCD2のモノユビキチン化形態に結合する抗体及びパッケージング材料を含む、生体対象の試料中のFANCD2含有病巣の有無を検出するためのキットを提供する。キットはさらに蛍光標識された第2の抗体を含み、第2の抗体は第1の抗体に結合する。
【0030】
本発明のその他の態様及び利点は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明でさらに説明される。
【0031】
詳細な説明
本発明は、遺伝毒性物質に対する曝露に応答してFANCD2含有病巣が細胞内に形成されるという観察に基づいている。したがって、生体対象の試料におけるFANCD2含有病巣の検出は、このような遺伝毒性物質に対する対象の曝露を測定するために使用することができる。
【0032】
特許請求の範囲に記載する発明の主題をより明らかに、かつより簡潔に説明し、指摘するために、以下に記載した説明及び添付のクレームで使用した特定の用語について以下の定義が与えられる。
【0033】
定義
「遺伝毒性物質」または「遺伝子毒物」とは、細胞に適用したときDNA損傷を引き起こす任意の化合物または処理方法のことである。このような薬剤は、化学物質または放射性物質であってよい。遺伝毒性物質とは、第1の生物学的活性がDNAにおいてコードされた情報の変更である化学物質(または代謝物)である。遺伝毒性物質は、その作用機構が様々であり、エチルメタンスルホン酸(EMS)、ニトロソグアニン、及び塩化ビニルなどのアルキル化剤;ベンゾ(a)ピレン及びアフラトキシンB1などのかさ高い付加生成物;スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルなどの活性酸素種;5−ブロモウラシルなどの塩基類縁体;アクリジンオレンジ及び臭化エチジウムなどの挿入剤を含むことができる。「化学療法剤」とも呼ばれる様々な化合物は、DNA損傷を引き起こす作用を持つ。使用を企図する化学療法剤には、たとえば、アドリアマイシン、5−フルオロウラシル(5FU)、エトポシド(VP−16)、カンプトテシン、アクチノマイシン−D、マイトマイシンC、シスプラチン(CDDP)、及び過酸化水素もまた含まれる。「遺伝毒性物質」にはまた、γ線照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子照射などのDNA損傷を引き起こす放射線及び波が含まれる。さらに間接的遺伝毒性物質と呼ばれることがあるある種の化学物質は、通常の代謝酵素によって遺伝毒性物質に変換されうる。本明細書では、遺伝毒性物質とは、直接的及び間接的遺伝毒性物質のことである。遺伝毒性物質はDNAに変異を引き起こし、癌の原因となり得る。「遺伝毒性物質」という用語はまた、放射線ベースにせよ、実際の化合物にせよ、1種又は複数のDNA損傷剤の組合せの使用を包含する。
【0034】
遺伝毒性物質は種々多様なので、遺伝毒性物質への曝露は非常に様々な形態になる。化学的遺伝毒性物質に対する曝露機構には、直接的な接触、または対象による吸入が含まれうる。放射線の場合は、曝露は電離放射線源に近接することによって発生しうる。これらの遺伝毒性物質に対する曝露の性質はまた、様々でありうる。化学療法及び放射線療法の場合のように、曝露は計画的に行うことができるが、偶発的に行われる可能性もある。偶発的な曝露の例には、実験室、工場若しくは農場での化学物質に対する職業的な曝露、又は原子力発電所、診療所、研究室で、若しくは頻繁な空路移動による電離放射線に対する職業的な曝露が含まれうる。
【0035】
本明細書では、「DNA損傷」とは、メチル化、アルキル化による2本鎖切断、架橋結合、紫外線によって生じるチミジン2量体、及びDNA塩基に結合する酸素ラジカルによって形成される酸化的損傷を含む、細胞内のDNAの化学的及び/又は物理的改変のことである。
【0036】
タンパク質の「リガンド」には、基質、及びタンパク質に結合するその他の化合物が含まれる。一つの実施形態では、「リガンド」はFANCD2に結合する抗体である。本明細書では、「FANCD2に対する抗体」または「FANCD2に結合する抗体」とは、FANCD2に特異的に結合することができる免疫グロブリン分子のことである。抗体は、天然材料若しくは組換え材料から得られる完全な免疫グロブリン、又は完全な免疫グロブリンの免疫反応部分でありうる。抗体は一般的に、免疫グロブリン分子の4量体である。本発明における抗体は、たとえば、高親和性ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、人工抗体、キメラ抗体、組換え抗体、及びヒト化抗体を含む様々な形態で存在する。このような抗体は、免疫グロブリンの種類、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEから生じる。抗体という用語にはまた、組換えDNA技術を使用して作製された人工抗体、たとえば、バクテリオファージによって発現される抗体が含まれる。一つの実施形態では、望ましいリガンドは、たとえば実施例1に詳細に説明したように、モノユビキチン化FANCD2に結合するモノクローナル抗体である。その他のこのような抗体には、Fab、Fab’若しくはF(ab’)2、又はFANCD2に結合するそれらのFe抗体断片が含まれる。本発明はまた、FANCD2に結合する1本鎖Fv抗体断片であるリガンドを提供する。
【0037】
他の有用な「リガンド」は、抗体の相補性決定領域を含む組換え構造物、人工抗体、又はFANCD2に結合する抗体の機能的に同等な結合特性を保持するために十分なCDRを共有するキメラ抗体構造物である。
【0038】
「抗体」という用語には、抗体をコードするDNA分子の合成によって生成した抗体が含まれ、このDNA分子は抗体タンパク質または抗体を特定するアミノ酸配列を発現し、DNAまたはアミノ酸配列は、当技術分野において利用可能でよく知られている合成DNAまたはアミノ酸配列技術を使用して得られた。
【0039】
本明細書では、「免疫学的方法」とは、限定はしないが、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、FACS分析、免疫蛍光顕微鏡法、免疫組織化学、及び直接競合ELISA、及びRIA技術(Harlowら、1989、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、New York;Ausubelら、1995、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons、Inc.、New York;Sambroookら、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press)を含む、当技術分野でよく知られた抗体をベースとした検出技術を含む任意の測定法を意味する。
【0040】
本明細書では、「対象」とは、ヒト、ウシ、マウス、ラット、ブタ、及びヒツジを含む哺乳類を含む動物を意味する。対象は、任意の年齢又は発達段階であってよい。さらに、対象は、健康であるか、病気であるか、またはゲノム内に変異を含んでいてよい。対象はまた、遺伝毒性物質、治療薬、または試験薬に対して既に曝露されていてよい。さらに、非ヒト対象はさらに、トランスジェニック動物を含みうる。特に、対象は、生物の遺伝毒性物質に対する感受性を変更する導入遺伝子または変異を有しうる。
【0041】
「試料」とは、任意の細胞若しくは組織、又は細胞若しくは組織を含有する組成物、又は対象から得られる単離物を意味する。試料は、心臓、脳、胎盤、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、子宮、小腸、または結腸から得ることができる。遺伝毒性物質、たとえば、放射線、化学物質などに曝露した対象におけるDNA損傷の有無の検出に使用するための別の種類の生物学的試料は、白血球細胞を含有する調製物、たとえば、末梢血、喀痰、唾液、尿などであってよい。
【0042】
本発明の第1の態様で使用されるように、「対照試料」とは、対照試料が遺伝毒性物質に対して曝露されていないこと以外は、比較する試料と同様の方法で単離された試料のことである。
【0043】
本明細書では、「参照試料」とは、既知の量の同じ遺伝毒性物質に曝露され、比較する試料と同様の方法で単離された、試験対象とは異なる対象から得られた試料のことである。参照試料の対象は、試験対象と遺伝的に同一であるか、又は異なっていてよい。さらに、参照試料は既知の量の同じ遺伝毒性物質に曝露された、いくつかの対象から得ることができる。
【0044】
「病巣形成の違い」とは、試験試料を対象試料または参照試料と比較したときの、FANCD2含有病巣の数、大きさ、若しくは残存率の増加または減少を意味する。違いには、対照または参照試料と比較して、2倍以上または2倍以下の、たとえば、5、10、20、100、1000倍以上の増加または減少が含まれる。違いにはまた、対照または参照試料と比較して、5%以上または5%以下の、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、100%以上の増加または減少が含まれる。
【0045】
本明細書では、「低濃度」の遺伝毒性物質に対する曝露とは、生物学的試料においてFANCD2含有病巣の最大数のわずか20%を引き起こす特定の遺伝毒性物質の用量に対する曝露を意味する。試料を曝露することができる遺伝毒性物質は多数あり、このような遺伝毒性物質に対する種々の試料の感受性は様々なので、特定の遺伝毒性物質の絶対用量よりも、FANCD2含有病巣の形成に対する用量で表現した方が好ましい。
【0046】
本明細書では、「FANCD2含有病巣」とは、電離放射線またはアルキル化剤などの遺伝毒性物質に対して曝露したときに細胞の核内に形成されるFANCD2を含むタンパク質複合体である。FANCD2含有病巣はまた、ヒストン2AX、BRCA1、RAD51、BRCA2、及びNBS1を含むその他のいくつかのDNA損傷応答タンパク質を含みうる。最近の研究では、電離放射線によって誘導される病巣では、ヒストン2AXタンパク質がはじめに病巣に入り、次にBRCA1及びNBS1、次いでFANCD2が入ることが示唆されている。病巣形成の相対速度、病巣の残存期間、及び病巣の構成(すなわち、どのタンパク質がFANCD2と相互作用するか)は、様々な種類の遺伝毒性ストレス(すなわち、IR対アルキル化剤対架橋結合ストレス)と相関関係にある可能性がある。
【0047】
本明細書では、「FANCD2含有病巣と結合するタンパク質」とは、FANCD2含有病巣の形成時に特異的にFANCD2と結合するタンパク質のことである。これらのタンパク質は、BRCA1及びNBS1タンパク質を含み、FANCD2含有病巣においてFANCD2と相互作用し、DNA損傷時に形成される。現時点では、これらのタンパク質間の結合相互作用の性質についてはほとんどわかっていない。これらのタンパク質の多くは、媒介タンパク質及び翻訳後修飾によって、間接的に結合することができる。
【0048】
「FANCD2含有病巣の検出」とは、FANCD2を含有する病巣内のFANCD2の検出を意味する。FANCD2は、病巣内で結合する前にモノユビキチン化される。したがって、FANCD2に結合するリガンドを使用して病巣を免疫蛍光法によって検出することを含む免疫学的方法に加えて、「FANCD2含有病巣の検出」には、免疫学的方法を使用して、モノユビキチン化形態のFANCD2に特異的に結合するが、非ユビキチン化形態には結合しないリガンドを使用して、試料の抽出物中のモノユビキチン化FANCD2を検出することが含まれる。最後に、FANCD2含有病巣の検出はまた、検出可能な標識と結合したFANCD2タンパク質、たとえば、蛍光タンパク質と融合したFANCD2を使用して、FANCD2含有病巣内のFANCD2を検出することを含みうる。FANCD2含有病巣は、遺伝毒性ストレスに曝露して30分後という早期に検出することができる。しかし、FANCD2病巣は、曝露後8時間と24時間との間で最大に達するようである。
【0049】
本明細書では、対象の遺伝毒性物質に対する「感受性」とは、定義された用量の遺伝毒性物質に対する個々の対象の応答を意味する。特定の期間中、正常な対象と比較して、対象のDNAが損傷に対して少なくとも50%を上回る、たとえば、55%、60%、75%、100%の感受性であるとき、又は特定の期間中、損傷に対して2倍以上、たとえば、5倍、10倍、25倍、50倍、100倍、若しくは1000倍を上回る感受性であるとき、対象は遺伝毒性物質に対して感受性であると考えられる。DNA損傷は、変異、2本鎖切断の数に関して、又はその他の当技術分野で既知の手段によって測定することができる。
【0050】
「病巣形成の程度」とは、試料中のFANCD2含有病巣の形成の総数または速度を意味する。病巣形成の程度は、1つの試料から別の試料へと、たとえば、細胞総数、完全な核の総数、試料の全量、又は試料の総質量に正規化することができる。本明細書では、核内における明瞭な病巣が5個より多ければ、細胞核は、「FANCD2含有病巣について陽性」と考えられる。
【0051】
本明細書では、FANCD2含有病巣の形成を「変更する」とは、生物学的試料中のFANCD2含有病巣の形成の変化または変更を意味する。変更は、生物学的試料中の病巣の数、大きさ、若しくは残存率の増加または減少であってよく、対照または参照試料と比較して、2倍以上または2倍以下の、たとえば、5、10、20、100、1000倍以上の増加または減少が含まれる。変更はまた、対照または参照試料と比較して、5%以上または5%以下の、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、100%以上の増加または減少であってよい。
【0052】
「モジュレーター」とは、生体高分子(たとえば、核酸、タンパク質、非ペプチド、若しくは有機分子)などの(天然または非天然の)化合物、又は細菌、植物、真菌、若しくは動物(特に哺乳類)細胞若しくは組織などの生物学的材料から生じた抽出物、又は無機元素若しくは分子のことである。モジュレーターは、本明細書で説明したスクリーニング測定法に含めることによって、生物学的プロセスまたはプロセス群の(直接的または間接的)阻害剤若しくは活性化剤(たとえば、作動薬、部分的拮抗薬、部分的作動薬、拮抗薬、抗悪性腫瘍薬、細胞毒性剤、新生物転移若しくは細胞増殖の阻害剤、細胞増殖促進剤など)としての潜在的活性について評価される。モジュレーターの活性は、既知であるか、未知であるか、又は部分的に既知であってよい。このようなモジュレーターは、本明細書で説明した方法を使用してスクリーニングすることができる。
【0053】
「モジュレーター候補」という用語は、本発明の1種又は複数のスクリーニング法によって推定モジュレーターとして試験される化合物のことである。通常、以下により完全に説明するように、0.01μM、0.1μM、1.0μM、及び10.0μMなどの様々なあらかじめ決定された濃度がスクリーニングのために使用される。試験化合物対照は、試験化合物なしでのシグナルの測定、又は標的を変更することが知られている化合物に対する比較を含みうる。
【0054】
本明細書では、FANCD2含有病巣形成の「促進剤」とは、生体対象または生物学的試料中におけるFANCD2含有病巣の形成の増加を引き起こす化合物のことである。促進は、FANCD2含有病巣の数、大きさ、または残存率の増加であってよく、対照または参照と比較して、2倍以上、たとえば、2、5、10、20、100、1000倍以上の増加を含む。促進はまた、対照または参照と比較して、5%以上、たとえば、5%、10%、20%、30%、50%、75%、100%以上の増加であってよい。
【0055】
本明細書では、FANCD2含有病巣形成の「阻害剤」とは、生体対象または生物学的試料中におけるFANCD2含有病巣の形成の減少を引き起こす化合物のことである。阻害は、FANCD2含有病巣の数、大きさ、または残存率の減少であってよく、対照または参照と比較して、2倍以上、たとえば、2、5、10、20、100、1000倍以上の減少を含む。阻害はまた、対照または参照と比較して、5%以上、たとえば、5%、10%、20%、30%、50%、75%、または100%までの減少であってよい。
【0056】
「融合タンパク質」は、少なくとも2つのポリペプチド領域、及び、場合によって、1つの連続したポリペプチドに2つのポリペプチドを操作可能に結合させる結合ペプチドを含有するタンパク質である。融合タンパク質中の少なくとも2つのポリペプチド領域は異なる材料から得られ、したがって、融合タンパク質は通常天然では結合しない2つのポリペプチド領域を含む。この少なくとも2つのポリペプチドは、いかなる順番でも結合することができる。
【0057】
「結合配列(または結合ペプチド)」は、ペプチド結合を介して結合した1つ又は複数のアミノ酸残基を含有する。結合配列は、融合タンパク質において、結合配列とポリペプチド領域のそれぞれとの間のペプチド結合を介して異なる材料からの2つのポリペプチド領域を結合するために役立つ。好ましくは、結合配列の長さは、アミノ酸の長さが1個と20個との間、より好ましくはアミノ酸の長さが3個と10個との間である。
【0058】
一般的に、融合タンパク質は、融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含有する組換え宿主細胞において連続したポリペプチドとして合成され、融合タンパク質の異なる領域がリンカーペプチドのコード配列のいずれかの側でフレームに融合している。(融合タンパク質をコードする)キメラコード配列は、組換え宿主細胞において機能する(一般的に発現ベクターによってもたらされる)発現制御配列に操作可能に結合している。
【0059】
「ベクター」または「発現ベクター」という用語は、適切な宿主においてDNAの発現を実施することができる適切な制御配列に操作可能に結合したDNA配列を含有するDNA構築物のことである。このような制御配列は、転写を実施するプロモーター、このような転写を制御する任意選択のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び翻訳の終止を制御する配列を含む。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、または単に潜在的ゲノム挿入物であってよい。一旦適切な宿主に形質転換されると、ベクターは複製し、宿主ゲノムと独立して機能することができるか、又は、場合によっては、ゲノム自体に組み込まれうる。プラスミドは現在最も一般的に使用されるベクターの形態であるので、本明細書では「プラスミド」及び「ベクター」は、時々同義に使用される。しかし、本発明には、同等の機能を果たし、当技術分野で既知の、または既知になるその他の形態の発現ベクターが含まれるものとする。
【0060】
「操作可能に結合した」とは、連結されるコード配列及び非コード配列の発現を実施するために必要なポリヌクレオチド配列のことである。このような制御配列の性質は宿主生物に応じて異なり、原核生物では、このような制御配列は一般的にプロモーター、リボソーム結合部位、及び転写終結配列を含み、真核生物では、一般的にこのような制御配列はプロモーター及び転写終結配列を含む。「制御配列」という用語は、その存在が発現に影響を及ぼすことができる成分を最小限含み、また、存在すると有利な他の成分、たとえば、リーダー配列及び融合相手の配列を含みうるものとする。
【0061】
本明細書では、「医薬組成物」には薬理学的有効量のFANCD2含有病巣形成のモジュレーター及び医薬上許容される担体が含まれる。本明細書では、「薬理学的有効量」、「治療有効量」、または単に「有効量」とは、企図した薬理学的、治療的、または予防的結果を生じるために有効なFANCD2含有病巣形成モジュレーターの量を意味する。たとえば、所与の臨床治療が病巣形成において少なくとも25%の促進があるときに有効と考えられるならば、治療有効量とはパラメーターにおいて少なくとも25%の減少をもたらすために必要な量である。
【0062】
「医薬上許容されうる担体」という用語は、治療薬を投与するための担体のことである。このような担体には、限定はしないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びそれらの組合せが含まれる。この用語は、細胞培養培地を明確に除外する。経口的に薬剤を投与する場合、医薬上許容されうる担体には、限定はしないが、不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、潤沢剤、甘味剤、矯味剤、着色剤、及び保存剤などの医薬上許容されうる添加剤が含まれる。適切な不活性希釈剤には、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カルシウム、並びにラクトースが含まれ、一方、コーンスターチ及びアルギン酸は適切な崩壊剤である。結合剤には、デンプン及びゼラチンが含まれ、一方、潤沢剤は(存在するならば)一般的にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、又はタルクである。所望するならば、錠剤は、胃腸管での吸収を送らせるためにモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの物質でコーティングすることができる。
【0063】
「医薬上許容されうる塩」とは、酸付加塩及び塩基付加塩の両方のことである。これらの塩の性質は、医薬上許容されうるならば重要ではない。酸付加塩の例には、限定はしないが、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、リン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルタミン酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、マレイン酸、エンボニン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、パントテン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルファニル酸、メシル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルゲン酸、β−ヒドロキシ酪酸、マロン酸、ガラクタル酸、ガラクツロン酸などが含まれる。適切な医薬上許容されうる塩基付加塩には、限定はしないが、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、及び亜鉛から生成される金属塩、またはN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミン、リジン、プロカインなどから生成される有機塩が含まれる。医薬上許容されうる塩の他の例は、Journal of Pharmaceutial Sciences(1977)66:2に挙げられている。これらの塩はすべて、従来の手段によって、化合物を適切な酸または塩基で処理することによってFANCD2含有病巣のモジュレーターから調製することができる。
【0064】
FANCD2病巣
DNA損傷に対する細胞応答は、細胞周期のチェックポイント、DNA修復、及びアポトーシスを媒介する経路が複雑に相互作用するネットワークである。これらの経路を調べるためのモデル障害は、迅速に細胞周期のチェックポイントを誘導し、いくつかの異なる経路によって修復されるDNA2本鎖切断であった。哺乳動物細胞では、相同組換え及び非相同組換え経路の両方が利用される。哺乳動物細胞における詳細な研究によって、DNA修復及び細胞周期チェックポイントタンパク質の複合体が電離放射線によって誘導された2本鎖切断部位に迅速に局在化することが示された。これらのタンパク質は、免疫蛍光分析によって検出できる病巣を生じる。
【0065】
ファンコニ貧血症相補群D2(FANCD2)は、染色体の安定性及び修復に関与するタンパク質複合体の成分である。ファンコニ貧血症(FA)は、一部には、様々な癌の個人的な危険性を増大させるDNA修復機構欠損を特徴とする遺伝性疾患である。DNA損傷に応答して、FA複合体はFANCD2を活性化し、次にBRCA1と結合する。FANCD2の活性化は、セリン222残基のATMキナーゼによるリン酸化によって生じる。さらに、FA経路による活性化は、FANCD2のリジン561のモノユビキチン化によって生じる。非修飾型では、FANCD2は核全体に拡散して存在する。ユビキチン化されると、FANCD2は核内に点または病巣を形成する。FANCD2のユビキチン化及びその後の核病巣の形成は、DNA損傷に応答して生じる。共免疫沈降によって、Nakanishiら(2002)は、FANCD2とNBS1との間に構造的な相互関係を発見し、これらのタンパク質がS期チェックポイント及びマイトマイシンC誘導性染色体損傷に対する耐性を媒介するために2種類の異なる集合体で相互作用する証拠を提供した。
【0066】
少なくとも2種類の電離放射線誘導性病巣が認められ、1つはRad51、BRCA1及びBRCA2タンパク質を含有し、もう1つはMre11−Rad50−NBS1複合体を含有する。Rad51病巣は、腫瘍抑制タンパク質BRCA1及びBRCA2を含有し、DNA損傷の外因的誘導がなくてもS期中に出現する。
【0067】
Mre11−Rad50−NBS1病巣は、照射後10分という早期に検出することができ、DNA修復の進行中、DNA切断部位に明らかに存在する。これらの病巣はまた、おそらくヒトRad50(hRad50)と物理的に相互作用することによって、それらの形成に必要であることが示されたBRCA1タンパク質と一緒に局在する。さらに、BRCA1と共に実施した共免疫沈降実験によって、この複合体(BRCA1結合監視複合体と呼ばれる)には多数の他のタンパク質が存在することが示された。これらは、ミスマッチ修復タンパク質Msh2、Msh6、及びMlh1、チェックポイントキナーゼATM、ブルーム症候群遺伝子の産物BLM、及び複製因子Cを含む。BRCA1、NBS1、及びhMre11はいずれも、ATMキナーゼの基質であり、DNA切断の存在に応答してリン酸化されるようになることが示された。
【0068】
本発明は、遺伝毒性物質型に曝露した細胞はFANCD2含有病巣を形成するという発見に関連する。DNA損傷に応答して核病巣(IRIF(電離放射線誘導性病巣)とも呼ばれる)を形成する多数のDNA損傷応答タンパク質が現在同定されている。
【0069】
遺伝毒性物質に応答した用量及び時間依存性病巣形成
in vitroでの研究によって、(0.5から5Gyの範囲の)電離放射線に対する細胞の曝露はFANCD2モノユビキチン化及び病巣形成の用量依存的増加を生じることが示される。病巣は、IR曝露後30分という早期に検出することができ、病巣のピークは曝露後8時間と24時間との間で認められる。病巣形成は、シスプラチン及びマイトマイシンC(MMC)などの毒物に対する細胞曝露後では(このIR応答と比較して)遅くなる。この遅延はおそらく、これらの薬剤の取り込みが遅いこと、及びDNAが実際に損傷を受ける前に代謝活性化が必要であることの反映であろう。重要なのは、これらの研究がin vitroで行われたことである。
【0070】
本発明によるリガンド
本発明に有用なリガンドには、FANCD2に結合する抗体が含まれる。FANCD2に結合する抗体は記載されている(米国特許出願公開番号第20030093819A1、Garcia−Higueraら、2001、Mol.Cell.7:249〜62)。あるいは、FANCD2に結合する抗体は、本発明の抗原として、単離された、組換え、若しくは変更FANCD2、又はそれらの断片を使用して、従来の方法によって生成することができる。たとえば、ポリクローナル抗体は、選択された動物またはヒトの免疫系をFANCD2抗原で従来の方法を用いて刺激し、免疫系がそれに対する天然抗体を産生することを可能にし、動物又はヒトの血液若しくはその他の生体液からこれらの抗体を収集することによって生成される。好ましくは、組換え型FANCD2を免疫原として使用する。FANCD2に対するモノクローナル抗体(MAb)はまた、従来の方法を用いて生成される。所望するMAbを発現するハイブリドーマ細胞系は、よく知られた従来技術、たとえば、Kohler and Milstein及びその多くの既知の変法によって生成される。同様に所望される高力価抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルに既知の組換え技術を適用することによって生成される。(たとえば、PCT特許出願番号PCT/GB85/00392;イギリス特許出願公開番号GB218863 8A;Amitら、1986 Science、233:747〜753;Queenら、1989 Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA、86:10029〜10033;PCT特許出願番号PCT/W09007861;及びRiechmannら、Nature、332:323〜327(1988);Huseら、1988a Science、246:1275〜1281を参照のこと)。
【0071】
本明細書に含まれる開示を考えれば、当業者は当技術分野で既知の技術、たとえば、本発明の抗原に対する動物またはヒトの抗体の相補的な決定領域を操作することによって、FANCD2に対するリガンドまたは抗体を作製する。たとえば、E.Mark and Padlin、「Humanization of Monoclonal Antibodies」、4章、The Handbook of Experimental Pharmacology、113巻、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、Springer−Verlag(1994年6月);Harlowら、1999、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY;Harlowら、1989、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、New York;Houstonら、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879〜5883;及びBirdら、1988、Science 242:423〜426を参照のこと。
【0072】
あるいは、FANCD2抗原を多抗原複合体として集合させ(たとえば、1989年11月2日に公開された欧州特許出願0339695を参照のこと)、FANCD2に結合することができる高力価抗体を誘導するために使用する。本発明はまた、抗イディオタイプ抗体(Ab2)及び抗抗イディオタイプ抗体(Ab3)を提供する。Ab2は、本発明の抗FANCD2抗体が結合する標的に特異的で、結合特異性及び生物学的活性がFANCD2抗体と同様である(たとえば、Idiotypic Network and Diseases、J.Cerny and J.Hiernaux編、1990 J4177.Soc.Microbiol.、Washington DC:pp.203〜229のM.Wettendorffら、「Modulation of anti−tumor immunity by anti−idiotypic antibodies.」を参照のこと)。これらの抗イディオタイプ抗体及び抗抗イディオタイプ抗体は、当業者によく知られた技術を使用して生成される。このような抗イディオタイプ抗体(Ab2)は、FANCD2の内部状態(internal image)を有することができ、したがって、FANCD2と同様の目的のために有用である。
【0073】
一般的に、ポリクローナル抗血清、モノクローナル抗体、及び抗原としてのFANCD2に結合するその他の抗体(Ab1)は、(たとえば、クロマトグラフィーカラムなどにおいて)生体組織の妨害物質からFANCD2及びその類縁体を分離するため、並びに、一般的に研究手段として、及び前述のその他の種類の抗体を開発するために必須の出発物質として、FANCD2のエピトープを同定するために有用である。抗イディオタイプ抗体(Ab2)は、同一の標的に結合するために有用で、したがってFANCD2の有用なリガンドを誘発するためにFANCD2の代わりに使用される。Ab3抗体は、Ab1が有用であるのと同じ理由で有用である。研究手段として、および、たとえばその他の妨害物質からFANCD2を分離するための成分としてのその他の用途もまた、前述の抗体について企図される。
【0074】
モノユビキチン化FANCD2に特異的に結合する抗体
FANCD2タンパク質の細胞全体の濃度は、DNA損傷に応答して有意には変化しない。むしろ、DNA損傷によってFANCD2のモノユビキチン化並びにFANCD2含有病巣の漸増が引き起こされる。FANCD2含有病巣の存在を測定する代わりに、FANCD2のモノユビキチン化形態には特異的に結合するが、非ユビキチン化形態には結合しないリガンドを使用することは、当業者であれば理解するだろう。モノユビキチン化FANCD2の存在を検出するために、リガンドを前述の検出可能な標識と結合させることが好ましい。このようなリガンドを使用する主な利点は、当業者には理解されるように、損傷を受けていないDNAを有する細胞におけるモノユビキチン化FANCD2の基準濃度は一般的に低いため、FANCD2含有病巣の濃度は、代理マーカーとしてモノユビキチン化FANCD2の濃度を使用して、免疫蛍光顕微鏡法に追加的手段を加えて、生体対象から採取した試料において測定することができる。FANCD2のモノユビキチン化形態(FANCD2−L)を特異的に認識する抗体は、迅速な診断薬としてかなり有用である。たとえば、この抗体は以下のために使用できる。
【0075】
1)免疫組織化学(IH)。この抗体は、固形腫瘍(たとえば、乳癌、卵巣癌、肺癌)から調製した組織切片を調べるために使用することができる。IHによる陽性シグナルは、この腫瘍がシスプラチン及び関連薬剤に耐性であることを予測するだろう。
【0076】
2)FACS分析。末梢血リンパ球(PBL)は、この抗体でスクリーニングすることができる。陽性シグナルは、個体が最近IRまたは毒素に曝露したことと一致する活性化FANCD2の存在を示す。したがって、この抗体は、本明細書で説明した放射線線量計測定法の有用な応用範囲である。
【0077】
3)精製FA複合体の阻害剤(モノユビキチンリガーゼ)をスクリーニングするためのハイスループット測定法。これらの阻害剤は、in vitroにおいてFANCD2をモノユビキチン化するFA複合体の能力を阻止する。新規モノクローナル抗体は、最終生成物検出に有用な試薬である。モノユビキチン化FANCD2を特異的に認識するリガンドを使用したFANCD2含有病巣の他の測定方法には、生体対象から収集した試料の抽出物を使用したイムノブロット分析または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、またはFACS分析(Harlowら、1999、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY)が含まれる。
【0078】
IR曝露の高感度の基準となるのは、FANCD2のモノユビキチン化の増加である。損傷を受けていない細胞において、FANCD2−S(非ユビキチン化アイソフォーム)に対するFANCD2−L(モノユビキチン化アイソフォーム)の比(L/S)は、約0.5〜0.6である。この比は、ウェスタンブロットで、Sバンドに対するLバンドの濃度を比較することによって容易に計算される。FANCD2モノユビキチン化の増加及びIR曝露の高感度の指標となるのは、L/S比の1.0以上への変換である。
【0079】
本発明に有用な検出可能な標識
本発明による有用な検出可能な標識は、放射活性、酵素、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択される。この態様の好ましい実施形態では、検出可能な標識は蛍光化合物である。特に好ましい実施形態では、検出可能な標識は、フルオレセイン、ローダミン、ボディピー(bodipy)、シアニン、アレキサ、ナフトフルオレセイン、オレゴングリーン、クマリン、ダンシル、テキサスレッド、ピレン、カスケードブルー、及びアレキサ350、並びにそれらの誘導体からなる群から選択される。ある実施形態では、蛍光タンパク質を使用することができる。たとえば、バイオルミネセンスにおいてエネルギー移動受容体として作用する刺胞動物の緑色蛍光タンパク質(GFP)を本発明で使用することができる。本明細書では、緑色蛍光タンパク質は、緑色の蛍光を放つタンパク質であり、青色蛍光タンパク質は、青色の蛍光を放つタンパク質である。GFPは、米太平洋岸北西地区のクラゲ、Aequorea victoria、ウミシイタケ、Renilla renjformis、及びPhialidium gregariumから単離された(Wardら、1982、Photochem.Photobiol.35:803〜808;Levineら、1982、Comp.Biochem.Physiol.72B:77〜85)。
【0080】
好ましい蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)又は改変GFPである。野生型GFPは、当技術分野で長く使用されてきた。緑色蛍光タンパク質を出発物質として、野生型GFPと比較してスペクトル特性が改変または増強された多くの改変種が得られた。たとえば、米国特許第5625048号、国際公開番号WO97/28261、国際公開番号WO96/23810を参照のこと。Aurora Biosciences Corp.、San Diego、CAから市販されている改変GFP W1B及びTOPAZが有用である。W1Bは、野生型GFP配列から以下の変更、F64L、S65T、Y66W7 N1461、M153T、及びV163A(Ann.Rev.Biochem.67:509〜544、1998、Tsienの519ページ、表1を参照のこと)を含む。TOPAZは、野生型GFP配列から以下の変更、S65G、V68L、S72A、及びT203Y(Ann.Rev.Biochem.67:509〜544、1998、Tsienの519ページ、表1を参照のこと)を含む。GFPの野生型ヌクレオチド及びアミノ酸配列は、国際公開番号WO97/28261の図1及び配列番号1、Ann.Rev.Biochem.67:509〜544、1998、Tsienの図1、及びPrasherら、1992、Gene 111:229に示されている。FRETをベースにしたスクリーニング測定法で蛍光タンパク質を使用するにあたり特に興味深いのは、Cyan FP(CFP、供与体(D))及びYellow FP(YFP、受容体(A))として既知のA.Victoria GFPの変種である。一例として、YFP変種は、FANCD2ポリペプチドとの融合タンパク質として生成されうる。融合物(Clontech)並びにフルオロフォア標識化合物(Molecular Probes)としてのGFP変種を発現するためのベクターは、当技術分野で既知である。哺乳動物細胞でGFPを発現するときには、哺乳動物細胞によって好まれる20個のコドンに一致する改変コドンを有するGFPの変種を構築すると有利である(Zolotukhinら、J.Virol.1996、70:4646〜46754;Yangら、1996、Nucl.Acids.Res.24:4592〜4593)。哺乳動物細胞においてGFP発現を改善する別の方法は、開始メチオニンの直後にさらなるコドンを使用することによって最適なリボソーム結合部位を提供することである(Crarneliら、1996、Nature Biotechnology 14:315〜319)。
【0081】
本発明による診断方法
本発明の診断方法には、生体対象から採取した試料を、好ましくは顕微鏡スライドなどの表面に固定するかまたは定着させて、ヒトFANCD2に結合するリガンドと接触させることが含まれる。このようなリガンドは前記に詳細に述べられており、シグナルをもたらす検出可能な標識と結合していることが好ましい。次に、試料の細胞内でFANCD2の核内病巣内に濃縮されたシグナルの存在を調べる。次に、免疫蛍光顕微鏡を使用して、試料中のFANCD2含有病巣の存在を検出する。一つの実施形態では、FANCD2含有病巣は、FANCD2に結合する一次抗体上の標識を検出することによって検出される。別の実施形態では、FANCD2含有病巣は、FANCD2に結合する一次抗体に結合する2次抗体または試薬上の標識を検出することによって検出される。試料中にFANCD2含有病巣が存在すれば、対象が遺伝毒性物質に曝露したことが示され、一方、拡散したシグナルが存在すれば、試料中にDNA損傷がないことが示される。さらに、対照試料と比較した試料内のFANCD2含有病巣の数、大きさ、及び残存率は、細胞が保持するDNA損傷の量と正比例する。毒素または放射線曝露を定量する最良の方法は、5個以上の明瞭な病巣を有する細胞の割合の増加を測定することである。したがって、(曝露されていない)成人ヒト対照の末梢血リンパ球の集団において病巣陽性細胞(すなわち、1細胞当たりのFANCD2病巣が5個を上回る細胞)はわずか1〜2%である。放射線曝露後、用量及びX線曝露部位に応じて病巣陽性細胞の割合が増加する(細胞集団の10%を上回るまで)。
【0082】
病巣形成は、時間依存的であることが知られている。対象を潜在的遺伝毒性物質で曝露した後又は曝露が疑われた後、比較的短時間内に試料を収集することが好ましい。具体的な実施形態では、試料は接触曝露後7日間しないうちに収集される。たとえば、試料は、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、18時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、及び144時間後、及び168時間後に収集される。特に好ましい実施形態では、試料は曝露後72時間以内に収集される。最も好ましい実施形態では、試料は曝露後6時間と48時間との間に収集される。
【0083】
対照試料の存在は、遺伝毒性物質に対する曝露の定量に他の用途を提供することを当業者は理解するだろう。したがって、本発明の態様の好ましい実施形態では、本発明の診断方法にはさらに、生体対象から採取した試料を、好ましくは顕微鏡スライドなどの表面に固定するかまたは定着させて、ヒトFANCD2に結合するリガンドと接触させることが含まれる。次に、試料の細胞内でFANCD2の核内病巣内に濃縮されたシグナルの存在を調べる。調べる段階は、限定はしないが、免疫蛍光顕微鏡法又は免疫組織化学分析を含む任意の適切な測定段階である。対照試料と比較して試験試料中にFANCD2含有病巣が存在すれば、対象が遺伝毒性物質に曝露したことが示され、一方、拡散したシグナルが存在すれば、試料中のDNA損傷がないことが示される。さらに、対照試料に対する試料内のFANCD2含有病巣の数、大きさ、及び残存率の違いは、遺伝毒性物質に対する曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、参照試料に対する病巣形成の程度は曝露に応答したDNA損傷の異なる程度を示す。
【0084】
治療前後の診断方法
本発明はさらに、放射線療法及び化学療法に対する患者の感受性を測定するための方法を提供する。一つの実施形態では、本診断方法は、化学療法または放射線療法の前に、対象または対象から取り出したリンパ球を低用量の遺伝毒性物質に対して曝露すること、好ましくは顕微鏡スライドなどの表面に固定するかまたは定着させた生体対象から採取した試料をヒトFANCD2に結合するリガンドと接触させることを含む。このようなリガンドは前記に詳細に述べられており、前述したようにまた、シグナルをもたらす検出可能な標識と結合していることが好ましい。次に、試料の細胞内のFANCD2の核内病巣内に濃縮されたシグナルの存在を調べる。調べる段階は、限定はしないが、免疫蛍光顕微鏡法又は免疫組織化学分析を含む任意の適切な測定段階である。対照と比較してFANCD2含有病巣の形成が減少していることは、放射線耐性または化学物質耐性を示す。対照的に、病巣形成が増大していることは、相対的な放射線感受性または化学物質感受性を示しうる。あるいは、試料はモノユビキチン化FANCD2に特異的に結合するリガンドと接触させることができる。したがって、本発明のこの態様の別の実施形態では、本発明の診断方法は、患者を低用量の遺伝毒性物質に曝露すること、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出することを含み、対照試料に対する病巣形成の存在は患者の遺伝毒性物質に対する感受性の違いを示す。
【0085】
さらに、この方法は、ガンマ放射線照射またはその他の化学療法剤、特にDNA損傷を引き起こすことが知られているもので治療した患者におけるDNA損傷の迅速かつ容易な評価のために使用することができる。したがって、本発明の他の実施形態は、曝露後の患者から試料を収集すること、及び対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出することを含む、治療薬に対する患者の曝露によって引き起こされるDNA損傷の程度を測定する診断方法である。対照試料に対する病巣形成の違いは、曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は曝露に応答したDNA損傷の程度の違いを示す。
【0086】
対象から収集した試料を使用した診断方法
癌を有する患者に放射線療法または化学療法を施す前に、電離放射線またはシスプラチンなどの治療薬に対する感受性を確認するために腫瘍試料を予備試験することができると有利である。このような予備試験によって、特定の癌のために最良の治療様式が使用されることを確実にする。したがって、本発明の一態様では、以下の段階:すなわち患者から試料を収集する段階、試料または組織を遺伝毒性物質に曝露する段階、及び対照試料と比較してFANCD2含有病巣の存在を検出する段階を含む、試料の遺伝毒性物質に対する感受性の測定方法を提供する。試料は、生体対象から採取された腫瘍生検を含みうる。対照試料に対する病巣形成の違いは、曝露に応答したDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は薬剤に対する組織の感受性の違いを示す。遺伝毒性ストレスを引き起こすことが知られているいかなる治療薬も、この方法で試験することができる。このような遺伝毒性物質の例には、電離放射線またはシスプラチンが含まれる。
【0087】
ある状況においては、しばらくの間対象の腫瘍試料の進行をモニターすることが重要であり得る。たとえば、対象が腫瘍の化学療法を受けている場合、腫瘍が治療薬に対して耐性を生じたかどうかを決定することが重要であろう。したがって、別の実施形態では、本方法はさらに、様々な時点で対象の複数の試料を収集することを含む。これらの収集された試料は、同一の遺伝毒性物質に曝露され、好ましくは同濃度の遺伝毒性物質に曝露される。次に、FANCD2含有病巣は、既に説明した方法のいずれかを使用してこれらの試料で検出される。これらの試料のFANCD2含有病巣を対照試料と比較することによって、さらに、これらの試料のFANCD2含有病巣の変化を経時的にモニターすることによって、特定の遺伝毒性物質に対する組織の感受性が変化したかどうかを確認することができる。たとえば、時間と共にFANCD2含有病巣が減少すると、その特定の遺伝毒性物質に対する試料の感受性が欠如していることを示す。
【0088】
本発明の薬剤スクリーニング方法
ハイスループットスクリーニングは、特定の分子又は細胞プロセスを標的とする化合物の同定のために産業界及び学術業界において使用される一般的な第1段階である。以下に説明するように、in vitro及びin vivoにおいて、試料中のFANCD2病巣をモニターすることは、新規薬剤発見の有用なスクリーニング手段となる。本発明は、放射線防護薬のスクリーニング方法を提供する。
【0089】
1)放射線防護薬自体は、末梢血リンパ球のFANCD2病巣の増加を引き起こす。FANCD2病巣の基準濃度を高めることによって、放射線防護薬は、低(基準)濃度のDNA修復を活性化することができる。個体を放射線防護薬で処理し、その後遺伝毒性物質に曝露する場合、個体のDNA修復応答が増加し(刺激され)、したがって放射線損傷に対する防御の促進が引き起こされうる。
【0090】
2)別の実施形態では、推定放射線防護薬はFANCD2病巣を増加させずにDNA修復を促進することができる。低用量の遺伝毒性物質に対して曝露した後、FANCD2含有病巣をモニターすることによって、研究者は推定薬剤の相対的防御効果を評価することが可能である。たとえば、この場合、新規薬剤による放射線防御によって、遺伝毒性物質で曝露した後にFANCD2の減少が生じる。
【0091】
試験化合物のスクリーニング方法は、FANCD2含有病巣形成において活性を有する組成物を同定するのに有用であることが記載されている。このような組成物は、遺伝毒性物質に対する防御剤として、または化学増感剤として有用であり得る。これらの方法は、生物学的試料を試験化合物と接触すること、及び対照試料に対してFANCD2病巣形成の存在を検出することを含む。対照試料に対する病巣形成の程度の違いは、病巣形成に活性のある薬剤を示す指標である。
【0092】
この方法の一つの実施形態はさらに、FANCD2含有病巣を検出するために検出可能な標識と結合したFANCD2リガンドを使用することを含む。この実施形態では、FANCD2含有病巣の形成を阻害する薬剤を同定するために、このようなスクリーニング方法を使用する。この方法では、たとえば遺伝毒性物質と接触させることによってFANCD2含有病巣の形成を通常もたらす条件下で、選択された生物学的試料を試験化合物(すなわち、「試験試料」)並びに試験化合物を含まない同一試料(すなわち、「対照試料」)と接触させる。この態様では、遺伝毒性物質の濃度は、比較的多数の病巣が対照試料で再現性よく形成されるように選択される。次に、試験試料及び対照試料を、検出可能な標識と結合させたFANCD2リガンドと接触させる。あるいは、試料は、モノユビキチン化FANCD2を特異的に認識するリガンドと接触させることができる。試験試料及び対照試料はその後、免疫蛍光顕微鏡法などの方法を使用してFANCD2含有病巣の存在、数、及び大きさを調べて比較する。対照試料に対する試験試料中のFANCD2含有病巣の減少または欠如は、試験化合物がこの測定法においてFANCD2含有病巣の形成を阻害することができることを示している。病巣の存在及び/又は数は、リガンド上の標識によって生じるシグナルの濃度または強度によって示される。シグナル(または発現濃度または強度)は、FANCD2含有病巣の存在及び数を示す。試験試料の標識によって生じたシグナルを(もしあるならば)対照試料の標識によって生じたシグナルと比較するとき、試験細胞の検出可能なシグナルが少なければ、試験化合物が細胞中でFANCD2含有病巣の形成を阻害したことを示す。たとえば、対照試料と比較したときに少なくとも10%未満、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、または100%未満までのFANCD2含有病巣を示す試験試料は、細胞内でFANCD2含有病巣形成を阻害する活性がある薬剤であることを示す。
【0093】
この実施形態の別の態様では、FANCD2含有病巣の形成を促進する薬剤を同定するために、このようなスクリーニング方法を使用する。このような方法には、選択した生物学的試料を試験化合物(すなわち、「試験試料」)並びに試験化合物を含まない同一試料(すなわち、「対照試料」)と接触させることを含む。試験試料及び対照試料は、場合によって低濃度の遺伝毒性物質に曝露してよい。試験試料及び対照試料はその後、前述の方法を使用してFANCD2含有病巣の存在及び数を調べて比較する。対照試料に対して試験試料中のFANCD2含有病巣が少なくとも10%、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、100%、200%、または500%増加していれば、試験化合物がこの測定法においてFANCD2含有病巣の形成を誘導できることを示す。
【0094】
FANCD2病巣誘発化合物の突然変異誘発力試験
FANCD2含有病巣の形成において活性を有する化合物の同定では、化合物が遺伝毒性活性を有するかどうか、または遺伝毒性を持たずにFANCD2含有病巣を単に誘導するだけかどうかを決定することが必要である。遺伝毒性が多くの十分に確立された測定法の1つを使用して測定できることは当業者には理解されよう。このような方法の包括的なリストは、電子形態でも入手できるToxicological Principles for the Safety Assessment of Direct Food Additives and Color Additives Used in Food.Draft Redbook II.Washington、DC:CFSAN、Food and Drug Administration(ワールドワイドウェブwww.cfsan.fda.gov/〜redbook/red−toca.html)に見いだすことができる。一般的な方法には、突然変異誘発力のエイムス試験(Ames、B.N.、McCann、J.&Yamasaki、E.(1975)Methods for detecting carcinogens and mutagens with Salmonella/mammalian−microsome mutagenicity test.Mutation Res.31、347〜364)、染色体異常試験(Galloway、S.M.、Aardema、M.J.、Ishidate Jr.、M.、Ivett、J.L.、Kirkland、D.J.、Morita、T.、Mosesso、P.、およびSofuni、T.(1994).Report from working group on in vitro tests for chromosomal aberrations.Mutation Research 312、241〜261)が含まれ、これらの全体を参照により援用する。
【0095】
簡単に言うと、エイムス試験は以下の方法を使用して実施される。この測定法の目的は、肝臓代謝系の非存在下及び存在下で、ヒスチジンを必要とする1種又は複数のサルモネラ チフィムリウム種に対する影響を研究することによって、試験化学物質の突然変異誘発能力を評価することである。培養物を変異誘発物質に曝露すると、いくつかの細菌は化学物質相互作用によって遺伝的な変化を受け、非ヒスチジン要求状態への細菌の復帰突然変異が生じる。復帰した細菌は外部からのヒスチジンがなくても増殖し、したがって突然変異を引き起こす化学物質の能力が示される。異なる化合物種(又は異なる化合物種(類))によって様々な菌株が突然変異するので、多数の試験菌株が必要である。たとえばトリプトファンを必要とする大腸菌(Escherichia coli)の菌株などのその他の種類の細菌を使用することもまたできる。試験の基本は非常に類似しており、唯一の違いは細菌が異なるアミノ酸を必要とすることである。栄養培地に適切なサルモネラ菌株(TA98、TA100、TA1535、TA1537、TA102)を接種し、一晩インキュベートする。試験化合物の用量範囲測定は、菌株TA100のみを使用して広範な用量範囲で実施する。細菌培養物、試験化学物質、及びS9ミックス(または補因子溶液)を軟寒天と共に混合して、その後最小寒天プレートに添加する。プレートをインキュベーションし、暗所で48〜72時間上下を逆転させる。その後、復帰突然変異コロニーの数を計数する。範囲測定に基づいて選択した用量で、さらに2種類の突然変異実験を実施する。両実験からコロニーの数を計数し、実験したそれぞれの用量について、個々のプレートの計数の平均を算出する。計数の統計学的分析を実施し、突然変異誘発力の結果を評価する。試験した化合物は変異誘発物質に曝露しなかった対照試料と比較したとき、化合物1μMで復帰突然変異体を10倍未満、たとえば、10倍、8倍、5倍、2倍、1倍形成することが理想的である。
【0096】
GFP−FANCD2をベースとしたスクリーニング方法
さらに別の実施形態では、スクリーニング方法は、レポーター蛍光タンパク質に融合させたFANCD2を発現する遺伝子構築物を発現させて、蛍光顕微鏡を使用して細胞内のFANCD2含有病巣を検出することを含む。本発明に特に有用な組換え核酸構築物には、ヒトFANCD2をコードする配列またはそれらの断片及び蛍光タンパク質のインフレーム融合物を含むものが含まれる。このような核酸分子は、蛍光タンパク質標識に融合させ、遺伝子制御配列に操作可能に結合させたFANCD2を含むポリペプチドをコードする。
【0097】
本スクリーニング方法のこの実施形態はさらに、レポータータンパク質に融合させたヒトFANCD2タンパク質をコードする組換え核酸構築物で形質導入された細胞を含む。本スクリーニング方法のこの実施形態は、検出方法の前記の実施形態とは異なる。この実施形態では、FANCD2含有病巣は、FANCD2に結合するリガンドを必要とせずに検出される。代わりに、FANCD2に融合したレポータータンパク質を検出することによってFANCD2含有病巣を直接検出する。
【0098】
実施例4及び5で教示されるように、本発明による好ましい遺伝子構築物は、完全長ヒトFANCD2のN末端メチオニンに融合させた増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)を使用する。この遺伝子構築物を発現するPD20細胞は、遺伝毒性物質に細胞を曝露するとモノユビキチン化される融合タンパク質を発現する。さらに、GFP−FANCD2構築物は、マイトマイシンC(MMC)などの遺伝毒性物質に対するこれらの細胞の過敏性を修正する。eGFP蛍光を検出することによって視覚化されるように、これらの細胞を遺伝毒性物質に曝露するとFANCD2含有病巣の形成が生じ、FANCD2またはモノユビキチン化FANCD2に結合するリガンドは必要ではなくなる。
【0099】
FRETをベースとしたスクリーニング方法
さらに別の実施形態では、少なくとも1種の構築物は第1のレポーター蛍光タンパク質に融合させたFANCD2を発現し、第2の構築物は第2のレポーター蛍光タンパク質に融合させたFANCD2含有病巣に結合した第2のタンパク質を発現する2種類の遺伝子構築物を発現する細胞内でFANCD2含有病巣は検出され、FANCD2含有病巣は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって検出される。FANCD2含有病巣に結合したタンパク質の好ましい例は、NBS1(Nakanishiら、2002.Nat Cell Biol.4:913〜20)及びBRCA1(Gracia−Higueraら、2001.Mol Cell.7:249〜62)を含む。この実施形態では、受容体及び供与体フルオロフォアとして働く2種類の蛍光レポータータンパク質を選択する。細胞を遺伝毒性物質に曝露したとき、FANCD2−蛍光レポーター融合タンパク質、及びNBS1−蛍光レポーター融合タンパク質またはBRCA1−蛍光レポーター融合タンパク質の一方はFANCD2含有病巣に結合する。一つの実施形態では、構築物が生じ、そのうちの1つはGFPのシアン変種(CFP)などの供与体蛍光タンパク質と融合したFANCD2をコードする。NBS1、ヒストン2AX、及びBRCA1からなる群から選択された病巣結合タンパク質と融合した、供与体蛍光タンパク質、好ましくはGFPの黄色変種(YEP)をコードする他の構築物が生じる。これらの構築物は、既に記載したように、または当技術分野でよく知られた方法によって、ベクターのプロモーター配列及びターミネーター配列と操作可能に結合する。これらの2種類の蛍光タンパク質融合構築物は、別々のベクターまたは同一のベクターに配置することができる。次に、両構築物が発現するように、宿主細胞を形質転換する。両構築物の発現は、当技術分野で既知の方法を使用して(たとえば、適切な波長での蛍光顕微鏡法によって)遺伝毒性物質に対する曝露の存在下または非存在下で、CFP及びYFPの蛍光を検出することによって試験することができる。
【0100】
2種類の蛍光タンパク質が物理的に近接していることによって、蛍光共鳴エネルギー移動の増加が生じ、FRET顕微鏡、レシオイメージング、またはレシオメトリック(ratiometric)蛍光計を含む蛍光法を使用して検出することができる。FLIPR(商標)などの装置は、約1秒の循環時間で2種類の異なる波長で読み取ったシグナル間を行き来できるように設定することができ、したがって、ハイスループットでの試料の測定に極めて有用である。
【0101】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、光子を関与させずに、蛍光供与体分子のエネルギーを受容体分子に移動させる無放射遷移である。供与体分子の励起によって、より長い波長の受容体分子の蛍光放射(すなわち、感作受容体の放射)が強まる。供与体蛍光放射の量子収量は付随して減少する。エネルギー移動効率は供与体分子と受容体分子との間の距離に強く逆比例するので、FRETは顕微鏡に有用な手段となった。したがって、FRETの出現は、2種類の分子の接近を示す非常に明確な指標である。これによって、分子の距離を測定するために「分光分析定規」としてFRET効率を使用することになった。
【0102】
最近使用できるようになった励起放射スペクトルを改変した緑色蛍光タンパク質(GFP)変異体によって、GFPタグを細胞内マーカーとして使用することによるタンパク質−タンパク質相互作用の測定が実現された。GFPタグ付加タンパク質キメラは細胞内で発現し、蛍光になるためにいかなる化学的処理も必要としない。FRETはまた、青色を放射するGFP変種と緑色を放射するGFP変種との融合の間で生じうる。
【0103】
前述したように、供与体蛍光タンパク質標識は、光子を吸収し、エネルギーをもう1つの蛍光標識に移動させることができる。受容体蛍光タンパク質標識は、エネルギーを吸収し、光子を放出することができる。必要であれば、リンカーは結合ドメイン、配列又はポリペプチドを、直接または間接的に、中間結合によって、供与体及び受容体蛍光タンパク質または蛍光標識の一方または両方と、場合によって、非FRET測定法を実施する場合には消光物質と連結する。ポリペプチド分子上の結合ドメイン、配列またはポリペプチドまたはその結合相手の相対的な順番、及びポリペプチド分子上の供与体及び受容体蛍光タンパク質標識にかかわらず、結合ドメイン、配列またはポリペプチド及びその結合相手が結合しなければFRETは生じないことを確かめるために、リンカー及び/又は結合ドメイン、配列、核酸またはポリペプチド及び対応する結合相手によって蛍光標識の供与体及び受容体と対応する消光物質との間に十分な距離を置くことが必要である。WO97/28261により詳細に記載されているように、受容体蛍光タンパク質標識の励起スペクトルと重複する発光スペクトルを有する供与体蛍光タンパク質標識を選択することが望ましい。本発明のいくつかの実施形態では、発光スペクトルと励起スペクトルの重複によってFRETが促進される。本発明で使用する蛍光タンパク質には、本来蛍光特性を備えたタンパク質に加えて、分子内転位または蛍光を促進する補因子の添加によって蛍光を放つタンパク質が含まれる。
【0104】
たとえば、バイオルミネセンスにおいてエネルギー移動受容体として作用する刺胞動物の緑色蛍光タンパク質(GFP)を本発明で使用することができる。本明細書では、緑色蛍光タンパク質は、緑色の蛍光を放つタンパク質で、青色蛍光タンパク質は、青色の蛍光を放つタンパク質である。GFPは、米太平洋岸北西地区のクラゲ、Aequorea victoria、ウミシイタケ、Renilla renjformis、及びPhialidium gregariumから単離された。(Wardら、1982、Photochem.Photobiol.35:803〜808;Levineら、1982、Comp.Biochem.Physiol.72B:77〜85)。有用な励起スペクトル及び発光スペクトルを有する様々なオワンクラゲ(Aequorea)関連GFPは、Aequorea victoriaから天然に生じるGFPのアミノ酸配列を変更することによって操作した(Prasherら、1992、Gene 111:229〜233、Heimら、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:12501〜12504、PCTUS95/14692)。本明細書では、蛍光タンパク質のアミノ酸150個の任意の隣接した配列が、野生型オワンクラゲ緑色蛍光タンパク質(SwissProt受け入れ番号P42212)の、隣接しているかまたは隣接していないアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有するならば、その蛍光タンパク質はオワンクラゲ関連蛍光タンパク質である。同様に、この蛍光タンパク質は、同様の標準物質を使用してRenillaまたはPhialidium野生型蛍光タンパク質と関連することができる。オワンクラゲ関連蛍光タンパク質には、たとえば、ヌクレオチド及び推定アミノ酸配列がGenBank受け入れ番号L29345、M62654、M62653に示されている野生型(天然型)Aequorea victoria GFP、及びいくつかを下に挙げた緑色蛍光タンパク質のオワンクラゲ関連遺伝子操作変種が含まれる。これらのうちいくつか、すなわち、P4、P4−3、W7及びW2は、野生型よりも明らかに短い波長で蛍光を発する。
【0105】
本発明に有用な操作された結合ドメイン、配列若しくはポリペプチド又はそれらの結合相手を含む単一の、または直列の蛍光タンパク質/ポリペプチドをコードする組換え核酸分子は、コードされた生成物に対する修飾酵素の活性のin vivo測定法のために発現させることができる。
【0106】
異なるリガンド、異なる検出技術などを使用した同様の測定法は、一般的に当技術分野で提供される情報を使用して当業者によって容易に設計される。
【0107】
本発明に有用なベクター
本発明の個別に発現する核酸分子を発現させるために有用で、当技術分野で既知かつ利用可能なベクターは幅広く存在する。特定のベクターの選択は、個別に発現する核酸によってコードされるポリペプチドの企図した使用に明らかに左右される。たとえば、選択したベクターは、細胞の種類が原核細胞であっても真核細胞であっても、所望する細胞種においてポリペプチドを発現させることができなければならない。多くのベクターは、原核細胞ベクターの複製と操作可能に結合した遺伝子配列の真核細胞での発現との両方を可能にする配列を含む。
【0108】
本発明で有用なベクターは、自己複製することが可能で、すなわち、ベクター、たとえばプラスミドは染色体外に存在し、その複製は宿主細胞ゲノムの複製に必ずしも直接関連していない。あるいは、ベクターの複製は、宿主染色体DNAの複製に関連させることが可能で、たとえば、ベクターはレトロウイルスベクターによって実現されるように、宿主細胞の染色体に組み込むことが可能である。
【0109】
本発明に有用なベクターは、配列の転写および翻訳を可能にする個別発現した配列に操作可能に結合した配列を含むことが好ましい。結合した個別発現配列の転写を可能にする配列はプロモーターを含み、場合によってはまた、結合配列の強力な発現を可能にするエンハンサー要素または要素類を含む。「転写制御配列」という用語は、プロモーターと、操作可能に結合した核酸配列に所望する発現特性(たとえば、高濃度発現、誘導発現、組織または細胞種特異的発現)を付与する任意のさらなる配列との組合せを意味する。
【0110】
選択されたプロモーターは、選択された宿主細胞において転写活性を表す任意のDNA配列であってよく、宿主細胞で通常発現する遺伝子又はその他の細胞若しくは生物において通常発現する遺伝子から得ることができる。プロモーターの例には、限定はしないが、以下のものが含まれる:A)原核細胞プロモーター−E.coli lac、tac、またはtrpプロモーター、ラムダファージPRまたはPLプロモーター、バクテリオファージT7、T3、Sp6プロモーター、B.subtilisアルカリプロテアーゼプロモーター、及びB.stearothermophilusマルトジェニックアミラーゼプロモーターなど、B)真核細胞プロモーター−GAL1、GAL4及びその他の糖分解遺伝子プロモーターなどの酵母プロモーター(たとえば、Hitzemanら、1980、J.Biol.Chem.255、12073〜12080;Alber&Kawasaki、1982、J.Mol.Appl.Gen.1:419〜434)、LEU2プロモーター(Martinez−Garciaら、1989、Mol Gen Genet.217:464〜470)、アルコール脱水素酵素遺伝子プロモーター(Youngら、1982、Genetic Enginieering of Microorganisms for Chemicals、Hollaenderら編、Plenum Press、NY)、またはTPI1プロモーター(米国特許第4599311号);多角体プロモーター(米国特許第4745051号;Vasuvedanら、1992、FEBS Lett.311:7〜11)、P10プロモーター(Vlakら、1988、J.Gen.Virol.69:765〜776)、Autographa californica多角体病ウイルスの塩基性タンパク質プロモーター(EP397485)、バキュロウイルス前初期遺伝子プロモーター遺伝子1プロモーター(米国特許5155037及び5162222)、バキュロウイルス39K後初期遺伝子プロモーター(これも米国特許5155037及び5162222)、及びOpMNPV前初期プロモーター2などの昆虫プロモーター;哺乳類プロモーター−SV40プロモーター(Subramaniら、1981、Mol.Cell.Biol.1:854〜864)、メタロチオネインプロモーター(MT−1、Palmiterら、1983、Science 222:809〜814)、アデノウイルス2主要後期プロモーター(Yuら、1984、Nucl.Acids Res.12:9309〜21)、サイトメガロウイルス(CMV)、またはその他のウイルスプロモーター(Tongら、1998、Anticancer Res.18:719〜725)、さらには特定の細胞種の対象となる遺伝子の内在性プロモーター。
【0111】
選択されたプロモーターはまた、誘導性または組織特異性にさせる配列に結合させることができる。たとえば、選択されたプロモーターの上流に組織特異的エンハンサー要素を付加すると、プロモーターを所与の組織若しくは細胞種においてより活性化させることができる。あるいは、またはさらに、誘導性発現は、たとえば、熱変化(温度感受性)、化学処理(たとえば、金属イオン若しくはIPTG誘導性)、または抗生物質の添加(たとえば、テトラサイクリン)による誘発を可能にするいくつかの配列要素のいずれかにプロモーターを結合することによって実現することができる。
【0112】
調節可能な発現は、たとえば、薬剤誘導性(たとえば、テトラサイクリン、ラパマイシン、またはホルモン誘導性)の発現系を使用して実現される。哺乳動物細胞で使用するのに特に適した薬剤制御可能なプロモーターには、テトラサイクリン制御プロモーター、ならびにグルココルチコイドステロイド、性ホルモンステロイド、エクジソン、リポ多糖(LPS)、及びイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)調節プロモーターが含まれる。哺乳動物細胞で使用するための制御可能な発現系は、必ずしもそうでなくてもよいが、制御する薬剤に応答して非哺乳動物DNAモチーフに結合する(または結合できない)転写調節因子、及びこの転写調節因子にのみ応答する制御配列を含むことが理想的である。
【0113】
組織特異的プロモーターはまた、本発明の個別に発現する配列をコードする構築物において有利に使用することができる。多種多様な組織特異的プロモーターが知られている。本明細書では、「組織特異的」という用語は、所与のプロモーターが生物のすべてには満たない細胞または組織で転写的活性がある(すなわち、プロモーターのポリペプチド生成物の検出を可能にするために十分な結合配列の発現を目的とする)ということである。組織特異的プロモーターは、1種類の細胞種においてのみ活性があることが好ましいが、たとえば、特定の種類または細胞種系統(たとえば、造血細胞)において活性があってもよい。本発明に有用な組織特異的プロモーターには、天然のプロモーターに結合した遺伝子の発現方法または様式と本質的に同様な方法または様式で操作可能に結合した核酸配列の発現に必要十分な配列が含まれる。以下は、それぞれの組織においてプロモーターの発現特性を実現するために必要な配列を含有する組織特異的プロモーター及び参照文献の包括的リストであり、これらの参照文献の全内容は参照により本明細書に援用する。本発明に有用な組織特異的プロモーターの例は以下の通りである。
【0114】
Bowmanら、1995 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92、12115〜12119は、脳特異的トランスフェリンプロモーターについて記載している;シナプシンIプロモーターはニューロン特異的である(Schochら、1996、J.Biol.Chem.271、3317〜3323);ネスチンプロモーターは有糸分裂後ニューロン特異的である(Uetsukiら、1996 J.Biol.Chem.271、918〜924);神経フィラメント軽鎖プロモーターはニューロン特異的である(Charronら、1995 J.Biol.Chem.270、30604〜30610);アセチルコリン受容体プロモーターはニューロン特異的である(Woodら、1995 J.Biol.Chem.270、30933〜03940);及びカリウムチャンネルプロモーターは高頻度発火ニューロン特異的である(Ganら、1996 J.Biol.Chem.271、5859〜5865)。当技術分野で既知のいかなる組織特異的転写制御配列も、疼痛を与えた動物から得られた個別に発現する核酸配列をコードするベクターを用いて有利に使用することができる。
【0115】
プロモーター/エンハンサー要素に加えて、本発明で有用なベクターはさらに適切なターミネーターを含んでいてよい。このようなターミネーターには、たとえば、ヒト成長ホルモンターミネーター(Palmiterら、1983、前述)、または酵母若しくは真菌宿主用のTPI1(Alber & Kawasaki、1982、前述)、またはADH3ターミネーター(McKnightら、1985、EMBO J.4:2093〜2099)が含まれる。
【0116】
本発明に有用なベクターはまた、ポリアデニル化配列(たとえば、SV40またはAd5E1bポリ(A)配列)、及び翻訳促進配列(たとえば、アデノウイルスVA RNA由来のもの)を含みうる。さらに、本発明に有用なベクターは、特定の細胞区画に組換えポリペプチドを指向させるシグナル配列をコードすることができ、あるいは、組換えポリペプチドの分泌を対象とするシグナルをコードすることができる。
【0117】
a.プラスミドベクター
個別発現する本発明のコード配列の選択された宿主細胞種における発現を可能にする任意のプラスミドベクターは、本発明での使用に許容される。本発明で有用なプラスミドベクターは、本発明で有用なベクターの前記の特徴のいずれかまたはすべてを備えていてよい。本発明に有用なプラスミドベクターの例には、限定はしないが、以下の例が含まれる:細菌−pQE70、pQE60、pQE−9(Qiagen)pBs、ファージスクリプト(phagescript)、psiX174、pブルースクリプトSK、pBsKS、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a(Stratagene);pTrc99A、pKK223−3、pKK233−3、pDR540、及びpRIT5(Pharmacia);真核−pWLneo、pSV2cat、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVL(Pharmacia)。しかし、複製可能で、宿主内で生存可能であれば、任意のその他のプラスミドまたはベクターを使用することができる。
【0118】
b.バクテリオファージベクター
本発明で有用なよく知られたバクテリオファージ由来ベクターがいくつかある。これらの中で主要なのは、挿入によってコードされるポリペプチドの誘導性発現を可能にする、ラムダZapIIまたはラムダ−Zap発現ベクター(Stratagene)などのラムダをベースとしたベクターである。その他には、M13をベースとしたベクターファミリーなどの繊維状バクテリオファージが含まれる。
【0119】
c.ウイルスベクター
いくつかの様々なウイルスベクターが本発明では有用であり、細胞内において1種又は複数の本発明の個別発現ポリヌクレオチドの導入及び発現を可能にする任意のウイルスベクターは、本発明の方法で使用するために許容される。細胞内に外来核酸を輸送するために使用できるウイルスベクターには、限定はしないが、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、及びセムリキ森林熱ウイルス(アルファウイルス)ベクターが含まれる。欠損レトロウイルスは、遺伝子導入で使用するためによく特徴付けられている(総説はMiller、A.D.(1990)Blood 76:271を参照のこと)。組換えレトロウイルスを作製するための、及びこのようなウイルスを用いてin vitroまたはin vivoで細胞を感染させるための方法は、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel、F.M.ら(編)Greene Publishing Associates、(1989)、Sections 9.10〜9.14、及びその他の研究室用標準マニュアルに見いだすことができる。
【0120】
レトロウイルスベクターに加えて、アデノウイルスは、対象となる遺伝子産物をコードし、発現するが、通常の溶菌ウイルス生活環において複製する能力に関して不活性化されているように操作することができる(たとえば、Berknerら、1988、BioTechniques 6:616、Rosenfeldら、1991、Science 252:431〜434、及びRosenfeldら、1992、Cell 68:143〜155を参照のこと)。アデノウイルス株Ad5型dl324またはその他のアデノウイルス株(たとえば、Ad2、Ad3、Ad7など)から得られた適切なアデノウイルスベクターは、当業者にはよく知られている。アデノ関連ウイルス(AAV)は、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスなどの他のウイルスを効率の良い複製及び増殖性生活環のためのヘルパーウイルスとして必要とする天然の欠損ウイルスである(総説は、Muzyczkaら、1992、Curr.Topics in Micro.and Immunol.158:97〜129を参照のこと)。Traschinらが記載したもの(1985、Mol.Cell.Biol.5:3251〜3260)などのAAVベクターは、核酸を細胞に導入するために使用することができる。様々な核酸は、AAVベクターを使用して異なる細胞種に導入された(たとえば、Hermonatら、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466〜6470、及びTraschinら、1985、Mol.Cell.Biol.4.:2072〜2081)。
【0121】
宿主細胞
疼痛を受けた動物で個別に発現する核酸配列をコードする遺伝子を有する組換えベクターが導入されうる細胞であって、ベクターが個別に発現する配列によってコードされるペプチドの発現を可能にする任意の細胞は、本発明で有用である。本発明の個別に発現する分子を発現させ、好ましくは検出することが可能な任意の細胞は、適切な宿主であり、宿主細胞は好ましくは哺乳動物細胞で、より好ましくはヒト細胞である。個別に発現する核酸配列を原核生物及び真核生物の両方の様々な異なる生物から得られた宿主細胞に導入するために適したベクターは、本明細書に前述されているか、又は当業者には既知である。
【0122】
宿主細胞は、いくつかの細菌株のいずれかなどの原核細胞であってよく、又は酵母若しくはその他の真菌細胞などの真核細胞、昆虫細胞又は両生類細胞、又は、たとえば、齧歯類、サル、若しくはヒト細胞を含む哺乳動物細胞であってよい。細胞は、初代培養細胞、たとえば、初代ヒト繊維芽細胞若しくはケラチン生成細胞であってよく、又は確立された細胞系、たとえば、NIH3T3、293T若しくはCHO細胞であってよい。さらに、本発明に有用な哺乳動物細胞は、表現型が正常であるか、又は発癌性が形質転換されていてよい。当業者であれば、選択された宿主細胞種を培養で容易に確立し、維持することができると考えられる。
【0123】
宿主細胞へのベクターの導入
本発明に有用なベクターは、当業者に既知のいくつかの適切な方法のいずれかによって、選択された宿主細胞に導入することができる。たとえば、ベクター構築物は、ラムダ若しくはM13などのE.coliバクテリオファージベクター粒子の場合は感染によって、または、プラスミドベクター若しくはバクテリオファージDNAではいくつかの形質転換法のいずれかによって、適切な細菌細胞に導入することができる。たとえば、標準的な塩化カルシウムによる細菌形質転換は、細菌に裸DNAを導入するために未だに一般的に使用されているが(Sambrookら、1989、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)、エレクトロポレーションもまた使用することができる(Ausubelら、1988、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons、Inc.、NY、NY))。
【0124】
ベクター構築物を酵母またはその他の真菌細胞に導入するために、(たとえば、Roseら、1990、Methods in yeast Genetics、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYに記載されているように)化学的形質転換法が一般的に使用される。S.cerevisiaeの形質転換では、たとえば、細胞を酢酸リチウムで処理して、約104コロニー形成単位(形質転換細胞)/DNA(μg)の形質転換効率を実現する。次に、形質転換細胞を、使用した選択可能なマーカーに適切な選択培地で単離する。あるいは、またはさらに、プレートまたはプレートから取り出したフィルターをGFP蛍光で調べて、形質転換クローンを確認する。
【0125】
個別に発現する配列を含むベクターを哺乳動物細胞に導入するために、使用する方法はベクターの形態に左右される。プラスミドベクターは、たとえば、脂質媒介形質導入(「リポフェクション」)、DEAE−デキストラン−媒介形質導入、エレクトロポレーション、またはリン酸カルシウム沈殿法を含むいくつかの形質導入法のいずれかによって導入することができる。これらの方法は、たとえば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、1988、John Wiley & Sons、Inc.、NY、NY)に詳述されている。
【0126】
様々な種類の形質転換細胞及び非形質転換細胞または初代細胞の一時的な形質導入に適したリポフェクション試薬及び方法は広く使用されており、リポフェクションは構築物を真核細胞、特に培養中の哺乳動物細胞に導入する魅力的な方法となっている。たとえば、Lipofectamine(商標)(Life Technologies)またはLipoTaxi(商標)(Stratagene)キットは入手可能である。リポフェクションのための試薬及び方法を提供するその他の会社には、Biorad Laboratories、CLONTECH、Glen Research、InVitrogen、JBL Scientific、MBI Fermentas、Pan Vera、Promega、Quantum Biotechnologies、Sigma−Aldrich、及びWako Chemicals USAが含まれる。
【0127】
本発明のベクターで形質導入した後、構築物をうまく(染色体内または染色体外に)組み込んだ真核(たとえば、ヒト)細胞は、前述のように、耐性遺伝子がベクターによってコードされている抗生物質などの選択物質で形質導入集団の処理をするか、又は、たとえば、細胞集団のFACS若しくは接着培養物の蛍光走査を使用した直接スクリーニングによって、選択することができる。しばしば、両種のスクリーニングを使用することが可能で、それぞれ、ネガティブ選択を使用して、構築物を取り込んだ細胞を濃縮し、FACSまたは蛍光走査を使用して個別に発現するポリヌクレオチドを発現する細胞をさらに濃縮するか、又は細胞の特定のクローンを同定する。たとえば、ネオマイシン類縁体G418(Life Technologies、Inc.)によるネガティブ選択を使用して、ベクターを受け入れた細胞を同定し、蛍光走査を使用して最大範囲でベクター構築物を発現する細胞または細胞のクローンを同定することができる。
【0128】
本発明による試験化合物
in vitro系にせよin vivo系にせよ、本発明はFANCD2含有病巣の形成を促進するかまたは阻害することができる組成物をスクリーニングする方法を包含する。合成または天然の化合物の大きなライブラリーから候補モジュレーター化合物をスクリーニングすることができる。糖類、ペプチド、及び核酸をベースとした化合物の無作為合成または直接合成には、現在数多くの手段が使用されている。合成化合物ライブラリーは、Maybridge Chemical Co.(Trevillet、Cornwall、UK)、Comgenex(Princeton、NJ)、Brandon Associates(Merrimack、NH)、及びMicrosource(New Milord、CT)を含むいくつかの会社から市販されている。希少な化学ライブラリーは、Aldrich(Milwaukee、WI)から入手できる。コンビナトリアルライブラリーは入手することも調製することもできる。あるいは、細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリーは、たとえば、Pan Laboratories(Bothell、WA)またはMycoSearch(NC)から入手することができるか、又は当技術分野でよく知られた方法によって容易に生成することができる。さらに、天然及び合成的に作製されたライブラリー及び化合物は、従来の化学的、物理的、及び生物化学的手段によって容易に改変される。
【0129】
有用な化合物は、一般的には低分子有機化合物を含む有機化合物であるが、多数の化学種内に見いだすことができる。低分子有機化合物の分子量は、50ダルトンより大きく、さらに約2500ダルトン未満、好ましくは約750ダルトン未満、より好ましくは約350ダルトン未満である。種類の例としては、複素環、ペプチド、糖類、ステロイドなどが含まれる。化合物は、効率、安定性、薬剤適合性などを高めるために改変することができる。薬剤の構造的同定を使用して、他の薬剤を同定、生成、またはスクリーニングすることができる。たとえば、ペプチド剤を同定する場合、非天然型アミノ酸、たとえばD−アミノ酸、具体的にはD−アラニンを使用して、アミノ末端またはカルボキシル末端を官能化することによって、たとえば、アミノ基はアシル化またはアルキル化して、カルボキシル基はエステル化またはアミド化するなどして、安定性を増強する様々な方法でそれらを改変することができる。
【0130】
本発明の方法によってスクリーニングすることができる候補モジュレーターには、受容体、酵素、リガンド、制御因子、及び構造タンパク質が含まれる。候補モジュレーターにはまた、核タンパク質、細胞質タンパク質、ミトコンドリアタンパク質、分泌タンパク質、細胞膜関連タンパク質、血清タンパク質、ウイルス抗原、細菌抗原、原生動物抗原、及び寄生生物抗原が含まれる。候補モジュレーターにはさらに、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、リンタンパク質、及び核酸(たとえば、リボザイムなどのRNAまたはアンチセンス核酸)が含まれる。本発明の方法を使用してスクリーニングできるタンパク質またはポリペプチドには、ホルモン、成長因子、神経伝達物質、酵素、凝固因子、アポリポタンパク質、受容体、薬剤、癌遺伝子、腫瘍抗原、腫瘍抑制因子、構造タンパク質、ウイルス抗原、寄生生物抗原、細菌抗原、及び抗体(以下参照)が含まれる。
【0131】
本発明によってスクリーニングすることができる候補モジュレーターにはまた、試験細胞若しくは生物が欠損している物質、または正常な濃度より高い濃度で臨床的に効果的な物質、並びに所望しないタンパク質の翻訳を排除するように設計された物質が含まれる。本発明で使用する核酸は、前述の候補モジュレーターをコードするだけでなく、有害なタンパク質を排除する生成物を排除するかまたはコードすることができる。このような核酸配列は、アンチセンスRNA及びリボザイム、並びにそれらをコードするDNA発現構築物である。以下に説明するように、アンチセンスRNA分子、リボザイム、またはそれらをコードする遺伝子を当技術分野で既知の核酸輸送方法によって試験細胞または生物に投与することができることに注意されたい。核酸配列を不活性化することにより、標的mRNAに特異的なリボザイムまたはアンチセンスRNAをコードすることができる。ハンマーヘッド型リボザイムは知られている最小のものであり、それら自体をin vitro産生させたり、細胞に輸送させたりする(Sullivan、1994、J.Invest.Dermatol.103:85S〜98S、Usmanら、1996、Curr.Opin.Struct.Biol.、6:527〜533にまとめられている)。
【0132】
本発明による治療組成物
FANCD2含有病巣形成のモジュレーターは、有用な治療薬でありうる。たとえば、FANCD2含有病巣形成の促進剤は、遺伝毒性物質の有無にかかわらず、遺伝毒性物質に対して対象を防御するために有用でありうる。本発明のスクリーニングにおいて、またはFANCD2含有病巣の形成を促進するその他の手段によって同定された化合物がそれ自体遺伝毒性物質でない場合、このような化合物は防御剤として有用でありうる。デスフェリオキサミン(DFO)[1−アミノ−6,17−ジヒドロキシ−7,10,18,21−テトラオキソ−27−(n−アセチルヒドロキシルアミノ)−6,11,17,22−テトラアザヘプタエイコサン、CAS登録番号70−51−9]は、FA/BRCA経路の作動薬として同定された。DFOは、FANCD2モノユビキチン化及び病巣集合の有力な活性化剤である。DFOは、既知の鉄のキレート剤であり、細胞内酸素ラジカルを減少させると考えられている(Breuerら、(2001)Blood、97、792〜798)。DFOがFA/BRCA経路の作動薬として同定されたことは、重要な意味を有している。DFOは、臨床使用では安全な薬剤であるが、FA/BRCA DNA修復経路を刺激するようにも作用しうる。それ自体、有用で安全な遺伝毒性物質に対する防御薬でありうる。現在、既知の防御剤はほとんどない。たとえば、アミフォスチンは、放射線防御のために承認されている(Choi、(2003)Semin Oncol.30、10〜17)。したがって、治療量のDFOは、遺伝毒性物質から対象を防御するために対象に投与することができる。それ自体が遺伝毒性作用を持たすにFANCD2含有病巣の形成を促進するこのような薬剤には、戦争中の放射能曝露、放射能漏れの後、または火星への宇宙旅行中などの多くの用途が明らかである。
【0133】
同様に、FANCD2含有病巣の形成を減少させるモジュレーターには、多くの用途がある。FA/BRCA DNA修復経路を阻害する薬剤の明らかな用途は、化学療法中の化学増感剤としての用途である。いかなる腫瘍も化学療法に対して耐性を生じることは当技術分野で既知のことである。抗癌治療薬及び化学増感剤を含む併用治療は、これらの腫瘍の抗癌剤に対する耐性を大幅に減少させることができる。耐性が問題になることが示されない場合であっても、抗癌剤の投与量を減少させることができるならば、又はこのような治療が抗癌剤の副作用全体を減少させることができるならば、このような併用治療を行うことは有利であり得る。本発明で説明したスクリーニング方法を使用して、ウォルトマニン及びトリコスタチンAはFANCD2含有病巣の形成の阻害剤として同定された。したがって、これらの化合物は、化学増感剤として有用でありうる。
【0134】
FANCD2含有病巣形成のモジュレーターを含む医薬組成物
別の実施形態では、本発明は、前項で説明したような、以下で説明するような医薬上許容できる担体を含む医薬組成物に関する。FANCD2含有病巣形成のモジュレーターを含む医薬組成物は、癌を含む様々な疾患及び障害の治療に有用で、遺伝毒性物質に対する防御薬として有用でありうる。
【0135】
本発明の化合物またはそれらの医薬上許容される塩は、疾患の治療的処理または予防的処理のために、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、または非経口投与用に調製することができる。経口または非経口投与のためには、本発明の化合物は従来の医薬担体及び医薬品添加物と混合して、錠剤、カプセル、エリキシル、懸濁剤、シロップ、カシェ剤などの形態で使用することができる。本発明の化合物を含む組成物は、活性化合物を約0.1重量%から約99.9重量%、約1重量%から約98重量%、約5重量%から約95重量%、約10重量%から約80重量%、または約15重量%から約60重量%で含有する。
【0136】
本明細書で開示した医薬品調製物は、標準的操作によって調製され、癌を減少、予防、または排除するために、又は電離放射線などの遺伝毒性物質に対する防御効果をもたらすために選択された用量で投与される(たとえば、ヒトを治療するために様々な抗菌剤を投与する方法の一般的説明については、その内容を本明細書に参照により援用した、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PA;ならびにGoodmanおよびGilman、Pharmaceutical Basis of Therapeutics、Pergamon Press、New York、N.Y.を参照のこと)。本発明の組成物は制御放出送達システム(たとえば、カプセル)または持続放出送達システム(たとえば、生体分解性マトリックス)を使用して送達することができる。本発明の組成物の投与に適した薬物送達のための例示的な遅延型放出送達システムは、米国特許第4452775号(Kent)、第5239660号(Leonard)、第3854480号(Zaffaroni)に記載されている。
【0137】
本発明の医薬上許容されうる組成物は、本明細書で集合的に「担体」物質と称される、1種又は複数の非毒性の、医薬上許容されうる担体及び/又は希釈剤及び/又は補助剤及び/又は医薬品添加物、ならびに所望するならばその他の活性成分と結合した本発明の1種又は複数の化合物を含む。組成物は、トウモロコシデンプンまたはゼラチン、ラクトース、スクロース、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、塩化ナトリウム、及びアルギン酸などの通常の担体及び医薬品添加物を含有することができる。組成物は、クロスカルメロースナトリウム、微結晶性セルロース、グリコール酸デンプンナトリウム、及びアルギン酸を含有することができる。
【0138】
含めることができる錠剤結合剤は、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(プロビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプン、及びエチルセルロースである。
【0139】
含めることができる潤沢剤には、ステアリン酸マグネシウムまたはその他のステアリン酸金属、ステアリン酸、シリコン液、タルク、ワックス、油、及びコロイドシリカが含まれる。
【0140】
ペパーミント、冬緑油、サクラフレーバーなどの矯味剤もまた、使用することができる。好ましくは、投与形態の外観により美感を与えるために、又は本発明の化合物を含む生成物の同定を助けるために着色剤を添加してもよい。
【0141】
経口で使用するために、錠剤及びカプセルなどの固形製剤は特に有用である。持続放出型製剤または腸溶コーティング製剤も考案することができる。小児及び老人に適用するために、懸濁液、シロップ、及びチュアブル錠は特に適切である。経口で投与するために、医薬組成物は、たとえば、錠剤、カプセル、懸濁液、または液剤の形態である。医薬組成物は、治療有効量の活性成分を含有する単位用量の形態で調製されることが好ましい。このような投与単位の例は、錠剤及びカプセルである。治療目的のために、錠剤及びカプセルは、活性成分に加えて、結合剤、たとえば、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ソルビトール、若しくはトラガカント、;充填剤、たとえば、リン酸カルシウム、グリシン、ラクトース、トウモロコシデンプン、ソルビトール、若しくはスクロース;潤沢剤、たとえば、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、シリカ、若しくはタルク;崩壊剤、たとえば、バレイショデンプン;矯味剤、または着色剤、または許容されうる湿潤剤などの従来の担体を含有することができる。経口液体調製物は一般的に、水性若しくは油性溶液、懸濁液、乳剤、シロップ、またはエリキシルの形態であり、懸濁化剤、乳化剤、非水性剤、保存剤、着色剤、及び矯味剤などの従来の添加物を含有することができる。液体調製物用添加物の例には、アラビアゴム、アーモンド油、エチルアルコール、ヤシ油(分留)、ゼラチン、グルコースシロップ、グリセリン、硬化食用油脂、レシチン、メチルセルロース、メチル若しくはプロピル パラ−ヒドロキシベンゾエート、プロピレングリコール、ソルビトール、又はソルビン酸が含まれる。
【0142】
静脈内(iv)への使用では、本発明の化合物は通常使用される静脈注射液のいずれかで溶解させるか又は懸濁させて注入によって投与することができる。静脈注射液には、限定はしないが、生理食塩水またはリンゲル液を含めることができる。
【0143】
非経口投与用の製剤は、水性若しくは非水性等張滅菌注射溶液又は懸濁液の形態でありうる。これらの溶液または懸濁液は、経口投与用製剤で使用することが記載された1種又は複数の担体を有する滅菌した粉末または顆粒から調製することができる。化合物は、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、トウモロコシ油、ベンジルアルコール、塩化ナトリウム、及び/又は様々な緩衝液に溶解させることができる。
【0144】
筋肉内製剤では、本発明の化合物または化合物を形成する適切な可溶性の塩の滅菌調製物を注射用水(WFI)、生理食塩水、または5%グルコースなどの医薬希釈剤に溶解して投与することができる。化合物の適切な不溶性形態は、水性ベースまたは医薬上許容されうる油性ベース(たとえば、オレイン酸エチルなどの長鎖脂肪酸のエステル)中の懸濁物として調製して投与することができる。
【0145】
局所使用のために、本発明の化合物はまた、皮膚、または鼻及び喉の粘膜に適用するために適切な形態で調製することができ、クリーム、軟膏、液体スプレー、または吸入剤、トローチ剤、または喉塗布剤の形態をとることができる。このような局所製剤はさらに、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの化合物を含有させることができ、これにより活性成分の表面透過を促進することができる。
【0146】
眼または耳に適用するために、本発明の化合物は、軟膏、クリーム、ローション、塗布剤、または粉末のような疎水性ベースまたは親水性ベースで調製した液体または半液体の形態で提供されうる。
【0147】
直腸投与のためには、本発明の化合物は、カカオ脂、ワックス、またはその他のグリセリドなどの従来の担体と混合した坐剤の形態で投与することができる。
【0148】
あるいは、本発明の化合物は、送達時に適切な医薬上許容されうる担体で再構成するための粉末形態であってよい。別の実施形態では、化合物の単位投与形態は、滅菌された、密閉アンプル内で適切な希釈剤に入れた化合物またはその塩の溶液でありうる。
【0149】
単位投与物中の本発明の化合物の量は、受容対象、投与経路、及び投与頻度に応じて変化しうる治療有効量の本発明の少なくとも1種の活性化合物を含む。受容対象とは、植物、細胞培養物、またはヒツジなどの動物若しくはヒトを含む哺乳類を意味する。
【0150】
本発明のこの態様では、本明細書で開示した新規組成物は、医薬上許容されうる担体中に入れられ、既知の薬剤輸送方法によって(ヒト対象を含む)受容対象に輸送される。一般的に、in vivoで本発明の組成物を輸送するための本発明の方法は、当技術分野で認識されている方法において薬剤を本発明の化合物に置換するという点のみを実質的に変更して、当技術分野で認識されている薬物輸送方法を使用する。
【0151】
本発明の化合物は、前癌状態若しくは癌状態を治療するための、又は遺伝毒性物質に対する防御薬として使用するための方法を提供する。本明細書では、「単位用量」という用語は、所望する治療応答を誘導する治療有効量の本発明の化合物の量を意味する。「治療」という用語は、前癌状態若しくは癌状態の発生を予防するために、又は前癌状態若しくは癌状態を制御若しくは排除するために、対象に、治療有効量の少なくとも1種の本発明の化合物を投与することと定義される。「所望する治療応答」という用語は、受容対象の前癌状態または癌状態を逆戻りさせ、阻止し、または予防するように、本発明の化合物で受容対象を治療することを意味する。
【0152】
本発明の化合物は、1日に単回用量として、または1日当たり複数回投与するように投与することができる。治療計画は、長期間、たとえば、数日間または2週間から4週間投与することを必要としうる。投与用量当たりの量または全投与量は、疾患状態の特性及び重症度、受容対象の年齢及び一般的健康状態、受容対象の化合物に対する耐性、及び癌の種類、治療薬に対する癌の感受性、並びに使用するならば、その他の治療薬の併用、使用した治療薬の用量及び種類などの要素に左右される。
【0153】
本発明の化合物はまた、患者若しくは動物の食事または飼料に投与することができる。動物用の飼料は、化合物を添加することができるかまたはプレミックスに添加することができる通常の食品でありうる。
【0154】
本発明の化合物は、このような治療を必要とする受容対象を治療するために既知の臨床的に認可された任意の薬剤と組み合わせて、一緒に、又は別個に摂取されうる。
【0155】
本発明によるキット
便宜上、免疫組織化学的分析若しくは免疫蛍光顕微鏡法又は本発明によるその他の診断測定法のための一般的な試薬は、キットの形態で提供される。このようなキットは、生体対象の試料におけるFANCD2含有病巣の有無を測定し、計数するために有用である。したがって、このようなキットは、対象が最近遺伝毒性物質に曝露したかどうか、対象が遺伝毒性物質に曝露した程度、及び遺伝毒性物質に対する対象の感受性を測定する診断測定法を実施するために有用である。このような診断キットは、FANCD2リガンド(たとえば、FANCD2に結合することができる抗体)または本発明のモノユビキチン化FANCD2を含む。キットはまた、測定法を実施するための指示書、組織または細胞を固定するための顕微鏡スライド、固定剤、適切な株、様々な希釈剤及び緩衝液、特異的に結合した組成物を検出するための標識複合体、及びその他のシグナル発生試薬、たとえば、蛍光化合物及び色素、酵素基質、補因子、及び色素原を含みうる。他の構成要素は、蛍光または比色用の指示薬の図表、使い捨て手袋、汚染除去指示書、塗布棒または容器、及び試料調製用コップを含みうる。このようなキットは、本発明による細胞または組織のDNA損傷の有無を診断するための便利で効率的な臨床研究用手段を提供する。本発明によるキットには、適切なパッケージング手段、たとえば、試験管、組織培養プレート及びマルチウェルプレートが含まれる。リガンドは、溶液又は凍結乾燥状態で提供されうる。
【0156】
本発明は、以下の実施例を参照することによって説明されるが、これらは例示のために提供され、いかなる方法によっても本発明を限定するものではない。当技術分野でよく知られている標準的技術または以下に具体的に説明する技術を使用した。本明細書で引用した参考文献はすべて、参照により援用する。
【実施例】
【0157】
実施例1 FANCD2のモノユビキチン化アイソフォームを特異的に認識する抗体の作製
FANCD2に対する(モノクローナル及びポリクローナル)抗体は、FANCD2のアミノ末端領域に対して生じた。これらの抗体は、FANCD2の両アイソフォーム(FANCD2−S及びFANCD2−L)を認識する。抗FANCD2−L抗体を作製するために、ユビキチン(Ub)のカルボキシル末端に共有結合させたFANCD2領域を含有する特異的抗原(図10)を作製した。この抗原をマウスに注射し、モノクローナル抗体(図11)を作製した。これらの抗体について、前述したように、特異的な診断価値をここで分析する。
【0158】
実施例2 試料を採取するための臨床方法
in vitroデータに基づくとそれが病巣形成のピーク時であるので、曝露の申し立てから24時間から48時間して血液を採取した。再度、異なる抗血清(FANCD2、BRCA1、及びヒストン2AX)は、in vivoでは実際の病巣のピーク時及び病巣の期間が著しく異なる可能性がある。末梢血リンパ球(PBL)は、標準的フィコール勾配を使用して単離する。次に、細胞をヒストン2AX、BRCA1、及びFANCD2に対する特異的な抗血清で染色し、IRIFを有する細胞の割合及び細胞当たりのIRIFの数を測定する。放射線曝露の申し立てから経過した時間の量に基づいた標準曲線を使用して、曝露したと考えられる遺伝毒性物質の用量を測定する。この用量に基づいて、遺伝毒性防御薬を必要であれば投与する。
【0159】
I.臨床方法
腫瘍のために放射線または遺伝毒性化学療法薬を投与されている癌患者(たとえば、頭部及び首の扁平上皮癌患者)を参加させる。放射線曝露後、曝露後の様々な時間で(すなわち、曝露後1時間、3時間、8時間、及び24時間してから)末梢血試料を採取し、末梢血リンパ球内の病巣の数を測定する。放射線治療を受けた患者の試料の場合、照射領域には腫瘍領域のみを含むが、この領域を通過する血液(及びリンパ球)はまた、放射線曝露を受けるだろう。したがって、患者から得られた末梢血試料は、少なくとも、この領域で照射された循環リンパ球の画分の試料である。病巣の数(x軸)と曝露(y軸)が相関した標準曲線が作製される。その後、多くの個々の血液試料の放射線曝露を測定するためのハイスループット自動装置が開発されている。この装置は、生物学的試料の放射線または遺伝毒性物質に対する曝露を測定するための以前の測定法で使用されたのと同様の原理で作動すると考えられ、病巣に見いだされるタンパク質(FANCD2、ヒストン2AX、BRCA1)に対する抗体と生物学的試料を接触させ、ハイスループット自動顕微鏡を使用して試料の病巣形成を調べることを含む。
【0160】
実施例3 FANCD2モノユビキチン化の用量依存的生成
DNA損傷はFANCD2モノユビキチン化を活性化すること、及びFANCD2モノユビキチン化はFANCD2核病巣形成と相関することを既に示した(Garcia−Higueraら、Mol Cell 7:249〜262、2001)。図13に示したように、いくつかの種類の遺伝毒性ストレス(MMC、IR、紫外線)は、FANCD2モノユビキチン化を活性化するか(パネルA、B、C)、又はFANCD2病巣形成を活性化することができる(パネルD)。興味深いことに、FANCD2の活性化は時間経過依存性及び用量依存性である。この分析において、FANCD2病巣はIR後わずか4時間で認められ、5GyのIRの後で認められた(パネルD)。HeLa細胞でも実施したより厳密な研究(図12)では、0〜5Gyの範囲(すなわち、低放射線曝露)の放射線であってもFANCD2モノユビキチン化の用量依存的増加が示され、FANCD2病巣形成が放射線曝露の非常に高感度な指標でありうることがさらに示唆される。予備研究によって、正常なヒト成人対照の初代末梢血リンパ球をin vitroで照射すると、同様の時間経過及び用量に依存したFANCD2核病巣の生成が生じる(データは示さず)。
【0161】
実施例4 スクリーニング(化学物質を使用した予備スクリーニング)
I)ファンコニ貧血症/BRCA経路の阻害剤(または作動薬)のハイスループット測定法
測定法は、FA/BRCA経路の下流にある重要な事象、FANCD2病巣の集合のために開発された。この目的のために、完全長FANCD2タンパク質のアミノ末端に融合したGFP(緑色蛍光タンパク質)をコードする融合cDNA(図1)を作製した。
【0162】
最初に、内在性FANCD2タンパク質を発現しないPD20(FA−D2繊維芽細胞)にこのcDNAを形質導入した(図2)。GFP−FANCD2タンパク質は、(予測通り)FANCD2より大きく、DNA損傷誘導性モノユビキチン化を受ける(レーン6〜9)。
【0163】
GFP−FANCD2タンパク質がFA−A(ファンコニ貧血症サブタイプA)繊維芽細胞系で発現したときは、細胞が電離放射線に曝露したときでさえもモノユビキチン化されなかった(図2、レーン11〜14)。これらのことを考え合わせると、これらの結果は、GFP−FANCD2が野生型(タグのついていない)FANCD2タンパク質と同様の作用をすることを示唆している。
【0164】
次に、GFP−FANCD2がPD20F細胞のMMC過敏性を修正できるかどうかを測定した(図3)。実際に、野生型FANCD2のように、GFP−FANCD2の発現によって正常なMMC耐性が回復する。
【0165】
GFP−FANCD2を発現するPD20F細胞を播種し、個々のサブクローンを単離した。1個のサブクローン(クローン7)が核内にGFP−FANCD2タンパク質を拡散して発現した(図4)。細胞をIRに曝露した後、これらの細胞は、核内に明瞭な緑色の病巣を形成した。したがって、これらの細胞はFA/BRCA経路の拮抗薬及び作動薬のハイスループットスクリーニングのための理想的な手段である。
【0166】
II.FA/BRCA経路の低分子生物活性制御因子を同定するためのGFP−FANCD2発現繊維芽細胞の使用
ICCB(Institute for Chemistry and Chemical Biology)と呼ばれるHarvard Medical Schoolの主要施設でスクリーニング試験は確立された。このスクリーニング測定法の一般的原理を図5に示す。
【0167】
低分子輸送ロボットは384個の細胞組織培養プレートに播種したクローン7繊維芽細胞に化合物を輸送する。200,000個を上回る低分子を含むいくつかの市販のライブラリーが有用である。FA/BRCA経路の阻害剤は、GFP−FANCD2病巣形成を阻止することが予測され、経路の作動薬は病巣形成を促進する。
【0168】
測定法の具体的な詳細は図6に説明する。示したように、播種した細胞は、電離放射線で刺激する前に化合物と予備インキュベーションする(濃度約40マイクロモルで12時間)。この方法の重要な特徴は、2次スクリーニングの使用である(図6、ポイント番号8)。FANCD2病巣形成を阻害または活性化する(すなわち、相乗作用する)ことが最初に発見された化合物は、その後低用量範囲(1〜20マイクロモルの範囲)でスクリーニングされ、2種類の測定法、(1)FANCD2病巣の形成及び(2)FANCD2モノユビキチン化の活性化でスクリーニングされる(ウェスタンブロットスクリーニング)。この2次スクリーンニングを経た化合物は次に、シスプラチンの細胞毒性作用に対してHeLa細胞を化学物質感受性にするその能力について調べる(Taniguchiら、(2003)Nat.Med 9:568〜574)。
【0169】
III.FANCD2経路を阻害または活性化する特異的化合物の同定
スクリーニング測定法による個々の細胞の顕微鏡写真を図7に示す。最初に、約1000個の既知の生物活性化合物をスクリーニングした。電離放射線(IR)などの遺伝毒性物質に対する曝露によって形成される病巣の数及び大きさを少なくとも10%、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、または100%まで減少させる薬剤は、FANCD2含有病巣の形成を阻害する薬剤であることが示される。他のスクリーニングにおいて、遺伝毒性物質に対する曝露がない場合に、曝露していない対照細胞に対してFANCD2含有病巣の形成について少なくとも10%、たとえば、10%、20%、30%、50%、75%、100%、200%、または500%の増加を引き起こす薬剤は、FANCD2含有病巣の形成を活性化する薬剤として示される。これらの化合物の非常に多くは、クローン7細胞がIR曝露後にGFP−FANCD2病巣を形成する能力に対して影響を及ぼさなかった。少なくとも3個の関連化合物が最初のスクリーニングで得られ、2個はこの経路の阻害剤として機能し、1個はこの経路の活性化剤として機能した。
【0170】
A)FA/BRCA経路の阻害剤
FA/BRCA経路の1つの阻害剤は、化合物ウォルトマニンであった。ウォルトマニンは、DNA損傷応答キナーゼ、ATM及びATRの既知の阻害剤である。ATRキナーゼは、FA/BRCA経路の上流成分で、この経路の分子センサー装置の一部として機能することが示された(以下の図8参照)。新規キナーゼ阻害剤が豊富な、化合物のより選択的なライブラリーを、これらの化合物のいずれかがFA/BRCA経路の阻害剤として特異的に作用するかどうかを決定するためにスクリーニングした。
【0171】
同定されたFA/BRCA経路の他の阻害剤は、トリコスタチン−Aであった。トリコスタチン−Aは、HDAC(ヒストンデアセチラーゼ)として既知の広範な種類の酵素の既知の阻害剤である。ヒト細胞には少なくとも8種類の異なるHDAC酵素がある。重要なことは、トリコスタチン−A(Beppuら、(1990)J Biol Chem.265、17174〜9)及びSAHA(Richonら、Proc Natl Acad Sci USA.(1998)95、3003〜7)などのHDAC阻害剤は、in vitro及びin vivoで強力な抗腫瘍活性を有し、この種類の薬剤は現在、ヒト抗新生物薬の新たな種類として熱心に研究されている。
【0172】
FA/BRCA経路の阻害剤としてのトリコスタチン−Aの同定(及び確認)には、重要な意味がある。たとえば:
1)そのいくつかは癌患者において臨床試験がなされている、その他のHDAC阻害剤は、現在、FA/BRCA経路を阻害する能力について直接試験することができる。実際、クローン7細胞におけるFA/BRCA経路は新規HDAC阻害剤の有効性についての有用なバイオマーカーを提供しうる。
【0173】
2)HDAC阻害剤は、細胞機能に対して広い影響を及ぼすが(DNA修復、転写、及び有糸分裂誘発に影響を及ぼす)、実際にFA/BRCA経路の崩壊は、所与のHDAC阻害誘導体化合物の能力の評価において関連性のある「指標」となりうる。
【0174】
3)HDAC阻害剤は実際に、FA/BRCA経路によるDNA修復を阻害することによって、癌細胞の放射能増感剤及び化学増感剤として機能することができる。したがって、HDAC阻害剤は、放射線または細胞毒性DNA損傷薬(すなわち、シスプラチン)と組み合わせて最も効果的に輸送することができる。
【0175】
B)FA/BRCA経路の作動薬
デスフェリオキサミン(DFO)は、FA/BRCA経路の作動薬として同定された。DFOは、FANCD2モノユビキチン化及び病巣集合の強力な活性化剤である。DFOは、既知の鉄のキレート剤であり、細胞内の酸素ラジカルを減少させると考えられているが、FANCD2モノユビキチン化及び病巣形成の活性化におけるその役割はまだ示されていない。
【0176】
実施例5 FA/BRCA経路の分子センサー装置の決定
ATM及びATRキナーゼの既知の阻害剤、ウォルトマニンは、FANCD2モノユビキチン化及び病巣形成を阻止することが示された。したがって、この結果は、ATM(またはATR)がFA/BRCA経路の上流で機能できることを示している。この仮説を試験するために、siRNAによる方法を使用した(図8、A、B)。ATR、CHK1、及びRPA1に特異的な阻害性RNA分子(RPA1は、ATRの既知の活性化剤であり、CHK1はATRの既知の基質である)。興味深いことに、HeLa細胞をこれらのsiRNA分子で一時的に形質導入すると、(1)MMC誘導性及びIR誘導性のFANCD2のモノユビキチン化が減少し(図8)、(2)FANCD2病巣形成が減少し(示さず)、HeLa細胞がMMCに感作される(示さず)。この測定法(図8)の重要な特徴は、「L/S比」の算出である。この比は、FANCD2−Sバンドの濃度によって除したFANCD2−Lバンドの濃度として算出される。これらのバンドの強度は、オートラジオグラフから直接測定される。たとえば、(図8A)、MMC活性化はL/S比を1.17に増加させ、ATRのsiRNAによるノックアウトはL/S比を0.46(無単位値)に減少させる。
【0177】
これらの重要な観察に基づいて、タンパク質のATR/RPA1/CHKIネットワークはFA/BRCA経路の上流で作用することが明らかである(図9)。薬理学的操作によるこの経路の上流段階のいずれかの破壊は、その他の従来の抗新生物薬に対して癌細胞を潜在的に放射能感受性または化学物質感受性にすることができる。
【0178】
用途
本発明は、電離放射線などの遺伝毒性物質に対する生体対象の曝露の検出に有用である。さらに、本発明は、このような薬剤、たとえば、放射線治療に曝露する前に遺伝毒性物質に対する生体対象の感受性を測定するのに有用であり、感作した患者の過剰曝露の危険性を抑えるより個別化された治療を提供するのに有用である。本発明はまた、病巣形成の程度を変更する薬剤を同定するのに有用である。これらの薬剤は、遺伝毒性物質によって誘導されるDNA損傷に対する防御薬として有用であり、あるいは、化学療法薬と併用して使用する化学増感剤として有用でありうる。
【0179】
その他の実施形態
上記の明細書で記載した発行物はすべて、参照により本明細書に援用する。本発明で説明した方法及び系の様々な変更及び改変は、本発明の範囲及び精神を逸脱することなく、当業者に明らかであろう。本発明は具体的な好ましい実施形態に関連させて説明したが、特許請求した本発明はこのような具体的な実施形態に不当に制限されるべきではない。実際に、分子生物学または関連分野の当業者に明らかな、本発明を実施するために説明した様式の様々な変更は、以下のクレームの範囲内にあるものとする。
【0180】
この項についての参考文献
DiTullio, R. A. , Jr. , Mochan, T. A. , Venere, M., Bartkova, J. , Sehested, M. , Bartek, J. , およびHalazonetis, T. D. (2002).53BP1 functions in an ATM-dependent checkpoint pathway that is constitutively activated in human cancer. Nat Cell Biol 4, 998-1002.
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【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】図1は、FANCD2に対するGFP(緑色蛍光タンパク質)の融合の概略モデルを示した図である。FANCD2のアミノ末端メチオニン(MET)にGFPが直接融合したものをコードするcDNAを生成した。哺乳動物細胞にこのcDNAを形質導入すると、レポーター測定法で機能を果たす融合タンパク質の発現が生じる。
【図2】図2は、GFP−FANCD2融合タンパク質は、形質導入したFA−D2ヒト繊維芽細胞でモノユビキチン化することによって発現し活性化されることを示す。FANCD2欠損ヒト繊維芽細胞(PD20F)は、示したように、形質導入されなかったか(レーン1)、野生型FANCD2 cDNAで形質導入されたか(レーン2〜5)、又はGFP−FANCD2融合タンパク質をコードするcDNAで形質導入された(レーン6〜9)。あるいは、FA−A繊維芽細胞(GM6914、レーン11〜14)又はHeLa細胞(レーン16〜19)は融合タンパク質をコードするcDNAで形質導入された。示したように、細胞は未処理であるか、または遺伝毒性ストレス(電離放射線)に曝露した。全細胞溶解物をSDS−PAGEによって分析し、細胞タンパク質をFANCD2に対する抗血清でイムノブロッティングした。結論:DNA損傷は、完全長(野生型)FANCD2タンパク質又はGFP−FANCD2融合タンパク質のモノユビキチン化の増加を、調整された細胞では活性化するが、FA細胞では活性化しない。
【図3】図3は、GFP−FANCD2融合タンパク質は、FANCD2欠損ヒト繊維芽細胞のマイトマイシンC過敏性を機能的に補うことを示した図である。GFP−FANCD2タンパク質を安定して発現する形質導入PD20F細胞の、様々な濃度のMMCにおける生存について分析した。結論:GFP−FANCD2は機能的であり、PD20F細胞のMMC過敏性を修正する。したがって、アミノ末端のGFP部分は、細胞においてその機能を妨害しない。
【図4】図4は、生理学的濃度のGFP−FANCD2タンパク質を発現し、ハイスループット薬剤スクリーニングに適したPD20F繊維芽細胞クローンの単離を示した図である。GFP−FANCD2タンパク質を発現するサブクローン(クローン7)は、限界希釈によって単離された。電離放射線(IR)でこのクローンを活性化すると、明瞭な緑色の病巣の集合が生じ、細胞核の蛍光背景中で確認することができる。
【図5】図5は、ファンコニ貧血症/BRCA経路の阻害剤及び作動薬の一般的なスクリーニング方法を示した図である。安定してGFP−FANCD2タンパク質を発現するヒト繊維芽細胞(クローン7)を、384ウェルプレートで、強力な低分子阻害剤又は作動薬化合物に曝露する。これらの化合物を予備処理した後、プレートを照射してGFP−FANCD2のモノユビキチン化及び病巣形成を活性化する。GFP−FANCD2は、FA−A繊維芽細胞において安定して発現するとき、IR誘導性病巣を形成することができない。FA酵素複合体を迂回する低分子作動薬は、FA細胞において病巣形成を活性化する。このような薬剤は、FAの適切な処置であり得る。したがって、GFP−FANCD2融合タンパク質を使用してこの経路の阻害剤又は作動薬をスクリーニングする。
【図6】図6は、FA/BRCA経路の低分子阻害剤及び作動薬の同定方法の概略を示した図である。安定してGFP−FANCD2を発現するヒト繊維芽細胞を384ウェルプレートに播種して、化学物質ライブラリーで予備処理し、電離放射線に曝露する。GFP病巣を計算し、この経路の阻害剤又は作動薬の同定を行う。
【図7】図7は、FA/BRCA経路の阻害剤としてのウォルトマニン及びトリコスタチン−Aの同定を示した図である。図6で概略を示した方法を使用して、1000個を上回る独立した化合物を含有する化学物質ライブラリーをスクリーニングした。大部分の化合物は、IR誘導性GFP−FANCD2病巣の形成に影響を及ぼさなかった。2種類の化合物(トリコスタチンA、既知のHDAC阻害剤、及びウォルトマニン、既知のATRキナーゼ阻害剤)は、効果的に病巣形成を阻止した。これらの結果をもとにして、細胞性HDAC活性(すなわち、ヒストンデアセチラーゼ活性)及びATRキナーゼ活性は、FA/BRCA経路の上流に必要であることが示唆される。トリコスタチン−A及びウォルトマニンが病巣形成を阻害する能力は、その後、用量反応及び経時変化の研究(データを示さず)で確認された。このようなin vitro測定におけるこれらの薬剤の活性から、これらの薬剤はin vivoにおいて放射線及び化学療法に対して腫瘍を化学物質感受性にすることが示唆される。
【図8】図8は、細胞情報伝達タンパク質ATR、RPA1、及びCHK1は、FA/BRCA情報伝達経路の上流に必要である。ウォルトマニンによってGFP−FANCD2病巣集合が阻害されることによって、RPA1/ATR/CHK1経路はこの経路の上流にあるセンサーとして機能できることが示唆された。RPA1/ATR/CHK1経路を遮断するために、siRNA阻害が使用された。RPA1、ATR、またはCHK1をsiRNAで一時的に形質導入すると、対応する細胞性タンパク質の発現の欠如が生じた。興味深いことに、FANCD2−L/FANCD2−S比の減少によって判断されるように、これらの処理細胞では、FANCD2のMMC(A)及びIR(B)誘導性モノユビキチン化が減少していた。FANCA遺伝子に特異的なsiRNAで細胞を形質導入した(レーン9、10)。FANCAに対してsiRNAがFANCA発現を減少させ(示さず)、FANCD2−L/FANCD2−S比を減少させたことは、FANCAがFA経路の上流で作用することをさらに示している。
【図9】図9は、FA/BRCA経路モデルの概略を示した図で、上流のRPA1/ATR/CHK1センサー装置を示す。FA/BRCA経路のその他の上流タンパク質を同定するために、siRNA阻害による一般的な取り組みを使用する。これらの上流標的のいずれかを阻害(たとえば、ウォルトマニンによってATRを阻害)することは、この経路の潜在的なノックアウト機構であり、シスプラチンまたはIRに対してヒト腫瘍細胞を感作する。
【図10】図10は、FANCD2のモノユビキチン化(活性化)アイソフォームに特異的なモノクローナル抗体の作製を示した図である。ヒトFANCD2(アミノ酸554〜566)の内部領域に対応する13個のアミノ酸ペプチドを作製した。このペプチドは、モノユビキチン化部位であるリジン561を含有する。ガンマペプチド結合を介して、ユビキチンのカルボキシル末端に対応する7個のアミノ酸ペプチド(GGRLRLC)(配列番号3)をK561に結合させた。次に、この抗原をKLHに結合させ、マウスの免疫化に使用した。結合抗原に対して血清反応を生じたマウスを殺処分し、モノクローナル抗体の作製のために脾細胞融合を実施した。
【図11】図11は、モノユビキチン化FANCD2に特異的なモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマの作製を示した図である。脾細胞融合の後、マウスハイブリドーマをサブクローニングして、ウェスタンブロット分析によって、モノユビキチン化FANCD2を認識する能力について上清を分析した。イムノブロットによって、モノユビキチン化FANCD2を特異的に認識するが、改変していないFANCD2は認識しない6個のハイブリドーマを同定した。モノユビキチン化FANCD2に対する抗体は、放射線曝露によって活性化された末梢血リンパ球(PBL)の迅速なFACS(蛍光標示式細胞分取器)スクリーニングを提供する。
【図12】図12は、IR後のFANCD2モノユビキチン化の用量依存的生成を示した図である。対数増殖HeLa細胞は、未処理か、又は表示したIR線量に曝露した。4時間後、抗FANCD2ウェスタンブロッティングによって細胞を処理した。FANCD2のモノユビキチン化のある程度の活性化が低線量範囲(0〜5Gy範囲の照射)のIRで認めることができることに注意されたい。
【図13】図13は、遺伝毒性ストレス後のFANCD2モノユビキチン化及びFANCD2病巣形成の用量依存的及び時間経過依存的生成を示した図である。対数増殖するHeLa細胞を未処理か、又は表示した遺伝毒性物質(マイトマイシンC、ガンマ放射線、または紫外線)に曝露し、ウェスタンブロッティングによって処理するか(パネルA、B、C)、又は抗FANCD2ポリクローナル抗体(E35)で免疫蛍光法(パネルD)によって処理した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体対象における遺伝毒性物質への曝露の検出方法であって、
前記対象から試料を収集すること、及び
前記試料におけるFANCD2含有病巣の存在を検出すること
を含み、ここで病巣の存在が遺伝毒性物質に対する曝露を示す方法。
【請求項2】
前記対象がヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が末梢血である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
対照試料をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
対照試料に対する病巣形成の程度が、遺伝毒性物質に対する曝露の程度を示す請求項5に記載の方法。
【請求項7】
配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドと試料とを接触させることをさらに含み、前記リガンドが検出可能なシグナルを提供する標識と結合している請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リガンドが抗体である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記標識が前記抗体に結合している請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記標識が、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のリガンドが抗体である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記標識が、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記標識が蛍光色素である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記検出が蛍光顕微鏡法を含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
患者を低用量の遺伝毒性物質に曝露すること、及び
対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出すること
を含み、ここで、対照試料に対する病巣形成の存在が前記患者の遺伝毒性物質に対する感受性の違いを示す、遺伝毒性物質に対する患者の感受性の試験方法。
【請求項16】
前記試料が、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物からなる群から選択される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記試料が末梢血である請求項15に記載の方法。
【請求項18】
対照試料に対する病巣形成の程度が、遺伝毒性物質に対する前記患者の感受性を示す請求項15に記載の方法。
【請求項19】
試料と配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドとを接触させることをさらに含み、前記リガンドが検出可能なシグナルを提供する標識と結合している請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記リガンドが抗体である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記標識が前記抗体に結合している請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記標識が、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のリガンドが抗体である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記標識が、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記標識が蛍光色素である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記検出が蛍光顕微鏡法を含む請求項15に記載の方法。
【請求項27】
遺伝毒性物質に対して対象を曝露することによって引き起こされるDNA損傷の程度を測定する方法であって、
前記曝露後に前記患者の試料を収集すること、及び
対照試料に対するFANCD2含有病巣の存在を検出することを含み、ここで、前記対照試料に対する病巣形成の違いは前記曝露に応答するDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は前記曝露に応答したDNA損傷の異なる程度を示す方法。
【請求項28】
前記試料が、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物からなる群から選択される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記試料が末梢血である請求項27に記載の方法。
【請求項30】
配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドと試料とを接触させることをさらに含み、前記リガンドが検出可能なシグナルを提供する標識と結合している請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記リガンドが抗体である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記標識が前記抗体に結合している請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記第2のリガンドが抗体である請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記標識が、化学ルミネセンス化合物、蛍光色素、色素原、電気化学的タグ、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記標識が蛍光色素である請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記検出は蛍光顕微鏡法を含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合させた配列番号1のヒトFANCD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項39】
蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合させた前記FANCD2タンパク質をコードする前記配列に操作可能に結合した発現制御配列をさらに含む請求項38に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項40】
前記蛍光タンパク質が、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択される請求項38に記載の遺伝子構築物。
【請求項41】
請求項38に記載の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
【請求項42】
請求項38に記載の単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞。
【請求項43】
第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合させた、病巣形成のときFANCD2と結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項44】
蛍光タンパク質をコードするDNA配列のフレームに融合させた前記FANCD2タンパク質をコードするDNA配列に操作可能に結合した発現制御配列をさらに含む請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項45】
前記蛍光タンパク質が、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択される請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項46】
タンパク質リンカー配列をさらに含む請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項47】
請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
【請求項48】
請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞。
【請求項49】
請求項38及び43に記載の単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞。
【請求項50】
FANCD2含有病巣の形成を変更する試験薬剤のスクリーニング方法であって、
生物学的試料を試験化合物と接触させること、及び
対照試料に対してFANCD2含有病巣中のFANCD2の存在を検出することを含み、ここで対照試料に対する病巣形成の程度の違いが病巣形成において活性のある薬剤であることを示す方法。
【請求項51】
遺伝毒性物質に生物学的試料を曝露することをさらに含む請求項50に記載の方法。
【請求項52】
FANCD2に結合するリガンドと前記生物学的試料とを接触させることをさらに含み、前記リガンドが検出可能なシグナルを提供する標識と結合している請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記リガンドが抗体である請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記標識が、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記第2のリガンドが抗体である請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記標識が、化学ルミネセンス化合物、蛍光色素、色素原、電気化学的タグ、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項52に記載の方法。
【請求項57】
前記標識が蛍光色素である請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記生物学的試料が請求項42に記載の細胞である請求項50に記載の方法。
【請求項59】
前記生物学的試料が請求項48に記載の細胞である請求項50に記載の方法。
【請求項60】
前記生物学的試料が請求項49に記載の細胞である請求項50に記載の方法。
【請求項61】
前記検出が蛍光顕微鏡法を含む請求項50に記載の方法。
【請求項62】
前記検出が蛍光共鳴エネルギー移動を測定することを含む請求項50に記載の方法。
【請求項63】
FANCD2ポリペプチドのモノユビキチン化形態及びユビキチンに結合する抗体。
【請求項64】
前記抗体がポリクローナルである請求項63に記載の抗体。
【請求項65】
前記抗体がモノクローナルである請求項63に記載の抗体。
【請求項66】
請求項63に記載の抗体及びパッケージング材料を含む、生体対象の試料中のFANCD2含有病巣の有無を検出するためのキット。
【請求項67】
蛍光標識した第2の抗体をさらに含み、前記第2の抗体は前記第1の抗体に結合する請求項66に記載のキット。
【請求項68】
請求項38及び43に記載の単離されたポリヌクレオチドをさらに含む請求項66に記載のキット。
【請求項1】
生体対象における遺伝毒性物質への曝露の検出方法であって、
前記対象から試料を収集すること、及び
前記試料におけるFANCD2含有病巣の存在を検出すること
を含み、ここで病巣の存在が遺伝毒性物質に対する曝露を示す方法。
【請求項2】
前記対象がヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が末梢血である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
対照試料をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
対照試料に対する病巣形成の程度が、遺伝毒性物質に対する曝露の程度を示す請求項5に記載の方法。
【請求項7】
配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドと試料とを接触させることをさらに含み、前記リガンドが検出可能なシグナルを提供する標識と結合している請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リガンドが抗体である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記標識が前記抗体に結合している請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記標識が、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のリガンドが抗体である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記標識が、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記標識が蛍光色素である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記検出が蛍光顕微鏡法を含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
患者を低用量の遺伝毒性物質に曝露すること、及び
対照試料に対してFANCD2含有病巣の存在を検出すること
を含み、ここで、対照試料に対する病巣形成の存在が前記患者の遺伝毒性物質に対する感受性の違いを示す、遺伝毒性物質に対する患者の感受性の試験方法。
【請求項16】
前記試料が、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物からなる群から選択される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記試料が末梢血である請求項15に記載の方法。
【請求項18】
対照試料に対する病巣形成の程度が、遺伝毒性物質に対する前記患者の感受性を示す請求項15に記載の方法。
【請求項19】
試料と配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドとを接触させることをさらに含み、前記リガンドが検出可能なシグナルを提供する標識と結合している請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記リガンドが抗体である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記標識が前記抗体に結合している請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記標識が、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のリガンドが抗体である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記標識が、比色、化学ルミネセンス、蛍光、電気化学的標識、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記標識が蛍光色素である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記検出が蛍光顕微鏡法を含む請求項15に記載の方法。
【請求項27】
遺伝毒性物質に対して対象を曝露することによって引き起こされるDNA損傷の程度を測定する方法であって、
前記曝露後に前記患者の試料を収集すること、及び
対照試料に対するFANCD2含有病巣の存在を検出することを含み、ここで、前記対照試料に対する病巣形成の違いは前記曝露に応答するDNA損傷の違いを示し、対照試料に対する病巣形成の程度は前記曝露に応答したDNA損傷の異なる程度を示す方法。
【請求項28】
前記試料が、末梢血、唾液、尿、擦過細胞、滲出物、口腔試料、喀痰、及び頚部擦過物からなる群から選択される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記試料が末梢血である請求項27に記載の方法。
【請求項30】
配列番号1のヒトFANCD2に結合するリガンドと試料とを接触させることをさらに含み、前記リガンドが検出可能なシグナルを提供する標識と結合している請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記リガンドが抗体である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記標識が前記抗体に結合している請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記標識は、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記第2のリガンドが抗体である請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記標識が、化学ルミネセンス化合物、蛍光色素、色素原、電気化学的タグ、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記標識が蛍光色素である請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記検出は蛍光顕微鏡法を含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合させた配列番号1のヒトFANCD2タンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項39】
蛍光タンパク質をコードするDNA配列を有するフレームに融合させた前記FANCD2タンパク質をコードする前記配列に操作可能に結合した発現制御配列をさらに含む請求項38に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項40】
前記蛍光タンパク質が、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択される請求項38に記載の遺伝子構築物。
【請求項41】
請求項38に記載の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
【請求項42】
請求項38に記載の単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞。
【請求項43】
第2のフルオロフォアをコードするDNA配列を有するフレームに融合させた、病巣形成のときFANCD2と結合するタンパク質をコードするDNA配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項44】
蛍光タンパク質をコードするDNA配列のフレームに融合させた前記FANCD2タンパク質をコードするDNA配列に操作可能に結合した発現制御配列をさらに含む請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項45】
前記蛍光タンパク質が、GFP、YFP、CFP、eGFP、eYFP、eCFP、RFPを含む群から選択される請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項46】
タンパク質リンカー配列をさらに含む請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項47】
請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質。
【請求項48】
請求項43に記載の単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞。
【請求項49】
請求項38及び43に記載の単離されたポリヌクレオチドを発現する細胞。
【請求項50】
FANCD2含有病巣の形成を変更する試験薬剤のスクリーニング方法であって、
生物学的試料を試験化合物と接触させること、及び
対照試料に対してFANCD2含有病巣中のFANCD2の存在を検出することを含み、ここで対照試料に対する病巣形成の程度の違いが病巣形成において活性のある薬剤であることを示す方法。
【請求項51】
遺伝毒性物質に生物学的試料を曝露することをさらに含む請求項50に記載の方法。
【請求項52】
FANCD2に結合するリガンドと前記生物学的試料とを接触させることをさらに含み、前記リガンドが検出可能なシグナルを提供する標識と結合している請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記リガンドが抗体である請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記標識が、第1のリガンドに結合する第2のリガンドに結合している請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記第2のリガンドが抗体である請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記標識が、化学ルミネセンス化合物、蛍光色素、色素原、電気化学的タグ、及びそれらの組合せからなる群から選択される請求項52に記載の方法。
【請求項57】
前記標識が蛍光色素である請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記生物学的試料が請求項42に記載の細胞である請求項50に記載の方法。
【請求項59】
前記生物学的試料が請求項48に記載の細胞である請求項50に記載の方法。
【請求項60】
前記生物学的試料が請求項49に記載の細胞である請求項50に記載の方法。
【請求項61】
前記検出が蛍光顕微鏡法を含む請求項50に記載の方法。
【請求項62】
前記検出が蛍光共鳴エネルギー移動を測定することを含む請求項50に記載の方法。
【請求項63】
FANCD2ポリペプチドのモノユビキチン化形態及びユビキチンに結合する抗体。
【請求項64】
前記抗体がポリクローナルである請求項63に記載の抗体。
【請求項65】
前記抗体がモノクローナルである請求項63に記載の抗体。
【請求項66】
請求項63に記載の抗体及びパッケージング材料を含む、生体対象の試料中のFANCD2含有病巣の有無を検出するためのキット。
【請求項67】
蛍光標識した第2の抗体をさらに含み、前記第2の抗体は前記第1の抗体に結合する請求項66に記載のキット。
【請求項68】
請求項38及び43に記載の単離されたポリヌクレオチドをさらに含む請求項66に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2007−521811(P2007−521811A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551609(P2006−551609)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/003344
【国際公開番号】WO2005/081783
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(592090692)ダナ ファーバー キャンサー インスティテュート (20)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/003344
【国際公開番号】WO2005/081783
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(592090692)ダナ ファーバー キャンサー インスティテュート (20)
【Fターム(参考)】
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