説明

放射線吸収性物質

本発明は、ポリマーマトリックスと、その中に含まれる単一の吸収剤物質または複数の吸収剤物質の混合物とからなる放射線吸収性、プラスチックベースの物質であって、前記単一の吸収剤物質または複数の吸収剤物質の混合物が、銅(Cu)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)および/または鉄(Fe)のリン酸塩、縮合リン酸塩、ホスホン酸塩、亜リン酸塩、および混合水酸化物−リン酸塩−オキソアニオンから選択され、前記ポリマーマトリックスの中に、微細に分布されるか、分散されるか、または溶解されて存在している物質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のポリマーマトリックスと、その中に含まれる単一の吸収剤物質または複数の吸収剤物質の混合物とからなる、放射線吸収性のプラスチックベースの物質に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のタイプ、たとえば食料品の商品のための、包装材は多くの場合、完全にまたは部分的にポリマー物質(プラスチック)からなっている。多くの場合、個々の製品または、複数の異なった製品または、製品パーツの複数の部品が、包装材によって結わえられたり、まとめられたりしている。液状の食料品たとえば、飲料、オイル、スープ、液体を含む缶入りのフルーツおよび野菜のみならず、さらには、食料品ではない液状物たとえば、家庭用洗浄剤および介護製品(care products)、医療用製品、機械油ならびにその他多くのものが、たとえばボトル、キャニスター、および缶のようなプラスチック容器の中に、保存され、市場に出回っている。製品を保存するということに加えて、包装材を使用するさらなる基本的な理由は、製品を塵埃、損傷などから保護することにある。包装材は、その中に含まれている製品が見えるように部分的または全面的に透明である場合が多い。
【0003】
製品包装材は多くの場合、人工光線または日光、そして多くの場合さらに強力な太陽放射線に曝露される。その結果、製品のみならず包装材も、損傷を受ける可能性がある。光線および太陽放射線は、包装されている製品の加熱をもたらし、特に食料品の場合には、その貯蔵寿命を顕著に損なうことが多い。加熱によって、細菌、カビおよび酵母の成長が促進される可能性があるし、また放射線は、酸化過程の結果として、食料品に変化を起こさせる可能性もある。食料品が食べられるかどうかに加えて、光および熱による汚染が増大することによって、製品の外観や稠度に悪影響が生じることも多い。
【0004】
さらに、光線および太陽放射線はさらに、食料品ではない製品の場合には、包装材そのものおよびその中に含まれている製品に悪影響をおよぼすことも多い。したがって、放射線は、時間の経過とともに、プラスチックの変色を起こさせたり、プラスチックを脆く、壊れやすく、あるいは硬くしたりする可能性もある。ポリマー物質は、たとえば長期間直射日光に曝露させた場合には、光で誘起される酸化によって劣化する可能性がある。この劣化が、たとえば、架橋、脆化、脱色、場合によってはそれらに伴う機械的性質の損失などをもたらす可能性がある。プラスチック物質は、放射線の作用の下で、より急速に老化する。
【0005】
包装材および/または包装されている製品に対して特に有害な放射線は、スペクトルの主として紫外線領域中および赤外線領域中の放射線、すなわち、高エネルギーUV放射線および/またはIR熱放射線である。
【0006】
プラスチック製の窓、屋根、騒音防止壁なども、多くの場合、UV放射線に対してある程度影響を受けやすい物質、たとえばポリカーボネートまたはPMMAからなる透明な構成要素が含まれていて、そのために、UV安定剤によって保護してやらねばならない。特に屋根および窓は、多くの場合、部屋を熱伝達から遮断する、すなわち熱放射線が貫通しないようにする必要がある。このためには、現在でもすでに、IR吸収剤および反射剤がポリマーマトリックスの中に組み込まれている。さらに、屋根は特に、緑藻の成長やカビによる攻撃からも保護してやらねばならない。
【0007】
したがって、たとえば包装材を製造するために使用されるポリマー物質を仕上げ加工または改質してUV放射線および/またはIR放射線のほとんどを遮断するのが有利であろう。その結果、その物質そのものおよび/またはその物質の背後にある製品に対する放射線による損傷が低減される。
【0008】
それと同時に、ポリマー物質の仕上げ加工または改質は、包装材として広く使用されているような透明な(半透明な)ポリマー物質が製造されるように、その製品を外から見ることができるよう(高透明性)に、スペクトルの可視光線領域からの光は、ほんのわずかしか遮断しないか、または可能であればまったく遮断しないようにするべきである。
【0009】
さらに、そのポリマー物質を仕上げ加工または改質することが、そのポリマー物質自体の望ましくない着色または曇りに極力寄与しないような結果になるようにするべきである。そのポリマー物質の加工性および物性が、ほんのわずかしか悪影響を受けないか、または可能であればまったく悪影響を受けないようにするべきである。さらに、その仕上げ加工したり、改質したりしたポリマー物質が、特に食料品産業において使用されるものならば、健康に危害があったり、または風味に影響をおよぼしたりするいかなる物質も放出してはならない。このことはさらに、特に、たとえば、ヒトおよび動物、特に乳幼児が接触するような物品、たとえば玩具にもあてはまる。
【0010】
特許文献1には、ポリマー物質の中に組み入れるための、リン酸セリウムとリン酸チタンとの混合物をベースとする、UV放射線を吸収するための薬剤が記載されている。
【0011】
特許文献2には、視覚的に透明なメタライジングまたはメタルスパッタリングしたポリエステルフィルムから作った、赤外放射線吸収性太陽光線保護フィルムが記載されている。その金属コーティングが、入射する太陽光線エネルギーを反射させ、ハイコントラストで、減衰された光線を通過させることが可能となっている。
【0012】
特許文献3には、赤外(IR)光線および近赤外(NIR)光線の領域に吸収性を有する、多層複合ガラス材料の記載がある。その複合ガラスには、二酸化チタン、二酸化ケイ素、コロイド状二酸化ケイ素、硫化金、ポリメタクリル酸メチル、およびポリスチレンの群からの誘電性コア(dielectric core)が含まれている。
【0013】
特許文献4には、遷移金属およびランタニドのホウ化物から選択されるIR−吸収性添加剤を含む熱可塑性ポリマーの最内層を有する、多層物品が記載されている。
【0014】
特許文献5には、光線を吸収するためにその中に分散された超微粉の機能性金属酸化物粒子を含む、PVBまたはエチルビニルアセテートコポリマーの中間層を有する複合ガラスの記載がる。
【0015】
特許文献6には、IR放射線を吸収するための、ランタニドホウ化物と、少なくとも酸化スズまたは酸化アンチモンスズとの有効量を含む、PVBフィルムが記載されている。
【0016】
特許文献7には、可視光線領域中の2%以下しか反射しない金属から作られた少なくとも1層の反射層を有する、太陽光線保護複合ガラスが記載されている。それに隣接する層には、Cr、Ta、W、Zn、Al、In、およびTi、さらにはZnSの酸化物から選択される誘電材料が含まれている。
【0017】
特許文献8には、太陽放射線に対して強いフィルター作用を有する層状構造物の製造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2003/033582号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 666 927号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0277709号明細書
【特許文献4】米国特許第7,258,923号明細書
【特許文献5】米国特許第5,830,568号明細書
【特許文献6】米国特許第6,620,872号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第0371949号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1640348号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
有機吸収剤系の場合とは異なって、関連する波長領域において十分な吸収効果を得ようとしてUV放射線のための無機吸収剤物質を大量に使用すると、その大量ということが十分な透明性をもはや与えないということを意味していて、その結果、その吸収剤物質を含むマトリックスが通常、強く着色したり、曇ったりするという問題が起きることが多い。
【0020】
有機吸収剤物質は、それらが熱的に不安定であり、通常200℃を超える温度での溶融状態または加熱軟化状態で実施されることが多い、ポリマー物質への組み込みまたはさらなる加工の際に、分解されるという欠点を有していることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、以下に列記するような放射線吸収性、プラスチックベースの物質を提供することであった:
− 商品、特に食料品または化粧品のための包装材料として、特に適している、
− UV放射線および/またはIR放射線をかなりの程度で遮断または吸収する、
− それと同時に、スペクトルの可視光線領域の光線を、ほんのわずかしか遮断または吸収しないか、または可能であればまったく遮断または吸収しない、
− その吸収剤物質が原因での、そのポリマー物質自体の望ましくない着色または曇りに対する寄与を可能なかぎり小さくする、
− 良好な加工性および良好な物性を有する、そして
− その吸収剤物質が原因の、健康に有害な物質を放出しない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この目的は、ポリマーマトリックスと、その中に含まれる単一の吸収剤物質または複数の吸収剤物質の混合物とからなる放射線吸収性、プラスチックベースの物質によって達成されるが、ここでその単一の吸収剤物質または複数の吸収剤物質の混合物は、銅(Cu)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)および/または鉄(Fe)のリン酸塩、縮合リン酸塩、ホスホン酸塩、亜リン酸塩、および混合水酸化物−リン酸塩−オキソアニオンから選択され、そのポリマーマトリックスの中に、微細に分布されるか、分散されるか、または溶解されて存在している。
【0023】
本発明におけるプラスチックベースの物質は、UV放射線および/またはIR放射線を極めてよく吸収する。それと同時に、それらのポリマー物質の中に組み込まれた吸収剤物質が、スペクトルの可視光線領域においてはそのポリマー物質の透明性を損なうことは実質的にない。
【0024】
したがって、本発明における吸収剤物質を含むポリマー物質は、たとえば包装材料、たとえば包装材フィルム、ブリスターパック、プラスチック缶、飲料ボトルたとえばPETボトルなどを製造するのには特に適している。
【0025】
しかしながら、本発明による物質は、光線および太陽放射線が原因のUV放射線および/またはIR放射線を遮断しなければならず、そして必要であれば、それと同時に、高い透明性(半透明性)を保証しなければならないといったような、他の目的において使用することも可能である。それらの用途の例としては以下のものが挙げられる:車のグレージング、温室、プラスチックまたはガラス製の光学的要素、たとえばUV放射線の有害な影響からその眼鏡の着用者の眼を保護しなければならない場合の眼鏡レンズ。用途のさらなる例は、日光によってもたらされる強いUV放射線から保護するための衣服および髪覆い(head covering)である。この場合有利には、本発明による物質の層を、織物に適用するか、または織物と組み合わせた複合材料が形成されるように配することができる。それらの織物を、本発明による物質のポリマー繊維から製造することもまた可能である。
【0026】
本発明による物質のさらなる用途は、強いUVおよび/またはIR放射線に耐えねばならないプラスチック製品、たとえば、屋外で毎日毎日太陽放射線に恒久的に曝露される物品である。そのような物品の場合、恒久的なUVおよび/またはIR太陽放射線が、その物質の脆化、酸化、脱色、そして究極的には急速な摩耗または急速な老化をもたらす。本発明による物質を用いると、UVおよび/またはIR線は、そのほとんどが表面に近いところで既に吸収されているために、その物質の内部深くにまで浸透して、そこでそれらの破壊的な影響を発揮することができない。本発明による物質から、医療用製品またはプラスチックパイプも有利に製造することができる。
【0027】
本発明の一つの実施態様においては、その吸収剤物質が、リン酸三スズ(CAS 15578−32−3)、二リン酸三銅(CAS 7798−23−4)、二リン酸銅(CAS 10102−90−6)、リン酸水酸化銅(CAS 12158−74−6)およびそれらの混合物から選択される。
【0028】
本発明においては、その吸収剤物質が、リン酸三銅、二リン酸銅もしくはリン酸水酸化銅のような銅化合物、または少なくとも1種の銅化合物を含む混合物であるのが特に好ましい。その吸収剤物質が、リン酸水酸化銅、または少なくともリン酸水酸化銅を含む混合物であるのが極めて特に好ましい。
【0029】
上述のリン酸銅化合物が、UVおよび/またはIR放射線のための特に良好な吸収物質であることが明らかとなった。リン酸水酸化銅が、極めて特に有効である。それは、IR放射線を極めて良好に吸収する。この点に関しては、リン酸水酸化銅が、本願発明者らが検討した金属リン酸塩化合物の中でも、吸収剤物質としてはベストであることが明らかとなった。結局のところ、多くの無機吸収剤物質の中で、これより優れている唯一のものはITO(インジウムスズ酸化物)であるものの、本発明においてはそれを考慮の対象外としたが、その理由は、インジウムのために、高価であり、かつ健康面でのリスクを伴うからである。
【0030】
包装材料またはその他の商品として、ポリマー物質の中に本発明によるリン酸銅化合物を組み入れることには、UVおよび/またはIR放射線に対する吸収効果に加えて、さらなる実質的な利点がある。包装材料、特に食料品を包装するためのポリマーフィルムは通常、使用前に過酸化水素を用いて滅菌される。一般的には、次いで過酸化水素がそれ自体で分解するが、それには多少の時間が必要であるので、その結果、その物質をたとえば食料品を包装するために使用する際に、それが完全に分解していないということがよく起きる。そうなると、残存している過酸化水素が、包装された食料品に対して、その酸化性能を発揮して極めて不都合なこととなりうる。このことは多くの場合、プラスチック包装材を用いて意図していたこと、すなわち、とりわけ食料品が空気と接触することを防止して、それにより大気中の酸素の酸化作用から保護するということとは、正に逆のことである。
【0031】
驚くべきことには、本発明において吸収性物質として使用された化合物、特に銅化合物、極めて特定すればリン酸水酸化銅が、たとえば過酸化水素のような過酸化物の分解(degradationまたはdecomposition)に対して、加速効果または触媒効果を有しているということが判った。本発明による銅化合物を含む本発明におけるタイプの包装材料を、食料品を包装するのに使用し、あらかじめ過酸化水素を用いて滅菌するならば、本発明による物質が、包装材料を使用する前、すなわち包装材料が包装するべき製品と接触するより前に、過酸化水素を迅速に、そして一般的には完全に分解させることを促進する。
【0032】
包装材料としてのプラスチックベースの物質またはその他の商品に、本発明によるリン酸銅化合物を組み入れることは、上述のUVおよび/またはIR放射線に対する吸収性効果、ならびに過酸化水素の分解に及ぼすさらに驚くべき効果に加えて、さらに有利な効果も有している。本発明によるリン酸銅化合物を組み入れた本発明による物質は概して、静菌性および/または滅菌性効果もまた有している。このことは、特に食料品のための包装材料として使用する場合には、従来からのプラスチックベースの物質に比較して、実質的なメリットを有している。たとえば、食料品が早々に腐敗してしまう可能性を抑制することができる。本発明による物質はさらに、静菌性および/または滅菌性効果の観点から、汚染されることが特に望ましくない医療用製品またはプラスチックチューブを製造するのにも好適である。
【0033】
本発明によるリン酸銅化合物を組み入れた本発明におけるプラスチックベースの物質で静菌性および/または滅菌性効果が見出されたのは、驚くべきことでもあった。なぜならば、ポリマーマトリックス中のリン酸銅化合物は、極めてほとんど、すなわち材料の最外表面にまで、ポリマー物質によって包み込まれており、そのために、製品またはその上の微生物からは隔離されているからである。したがって、見かけ上、それらの銅化合物のほんのわずかな活性部分だけしか、表面のすぐ近傍には位置していない。そのため、ここで見出された効果は予想もされなかった。
【0034】
ここで見出された、本発明によるリン酸銅化合物を組み入れた本発明におけるポリマー物質の静菌性および/または滅菌性効果の実質的な利点としてはさらに、それらのリン酸銅化合物が、それらの静菌性および/または滅菌性効果のために、同じ目的のために使用されていた銀化合物をほとんど置き換えることが可能となったことが挙げられる。この点に関しては、銀化合物が極めて効果的ではあるものの、それらがますます高価になってきたこと、および体内に摂取されたときに残留性がある、すなわち体内に留まって、分解または排出が極めて遅いかまたはまったくなされないという欠点を有している。それとは対照的に、摂取された銅は残留性がなく、胆汁(liver/gall)を経由して体外へ排出される。
【0035】
金属銅の静菌性および/または滅菌性効果は公知である。しかしながら、驚くべきことには、ポリマーマトリックスの中に組み入れて相応の静菌効果を達成させる目的では、必要とされる本発明によるリン酸銅化合物が、金属銅を使用する場合よりも、はるかに少量(much smaller quantity or dose)であるということが見出された。本明細書に記載された本発明の用途に関しては、本発明によるリン酸銅化合物、特にリン酸水酸化銅は、ポリマーマトリックスの中に組み入れたときに無色または透明であるというさらなる利点を有しているが、それに対して、金属銅は赤色であって、そのためにポリマー物質が変色することになるであろう。
【0036】
本発明のさらなる実施態様においては、ポリマーマトリックスの中に吸収剤物質を0.0005〜10重量%の量で存在させる。別な方法としては、ポリマーマトリックスの中に吸収剤物質を0.05〜5重量%、または0.5〜3重量%、または1〜2重量%の量で存在させる。吸収剤物質がポリマーマトリックスの中に微細に分布されるか、分散されるか、または溶解されているのが好都合である。特に、特別に高い効果を達成する目的で、大量の吸収剤物質を使用した場合には、物質がポリマーマトリックスの中に、より微細に、そしてより微粒子状で分散されているほど、吸収剤物質が原因でポリマー物質が曇ったりまたは変色したりする危険性が小さくなる。ポリマーマトリックスの中の吸収剤物質の量が、その物質の、とりわけ吸光度に影響する。使用した量に依存して、UV領域および/またはIR領域における光のほぼ完全な吸収を達成することができる。
【0037】
本発明のさらなる実施態様においては、そのポリマーマトリックスが、好ましくはデンプン、セルロース、その他の多糖類、ポリ乳酸もしくはポリヒドロキシ脂肪酸を含むバイオポリマーであるか、または、好ましくは以下のものからなる群より選択される熱可塑性ポリマーである:ポリビニルブチラール(PVB)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、アクリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルエステル(ASA)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ならびに/または、それらのコポリマーおよび/もしくはそれらの混合物。
【0038】
本発明のさらなる実施態様においては、その吸収剤物質が、20μm未満の平均粒径(d50)を有している。平均粒径(d50)は、好ましくは10μm未満、特に好ましくは200nm未満、極めて特に好ましくは60nm未満もしくは50nm未満もしくは40nm未満である。粒径が小さいほど、その吸収剤物質が原因の、ポリマー物質の曇りまたは変色が起きる危険性が少ない。それと同時に、吸収剤物質の粒子が微細なほど、その比表面積が大きくなり、その結果、利用可能な活性表面積、したがって一般的には効果が大きくなる。
【0039】
本発明のさらなる実施態様においては、そのポリマー物質が、その厚みが、1μm〜20mmの範囲、または50μm〜10mmの範囲、または100μm〜5mmの範囲、または200μm〜1mmの範囲である、フィルム、層、または薄手シートとして存在している。その層またはシートの厚みは、主として、そのプラスチックベースの物質の所望される機械的および光学的性質、さらには必要とされるバリヤー性、および必要とされる安定性に依存する。
【0040】
本発明のさらなる実施態様においては、少なくとも2種の吸収剤物質の混合物が、ポリマーマトリックスの中に存在している。その結果として、たとえば、本発明による個々の吸収剤物質の効果を、相加的または相乗的に組み合わせることができる。たとえば、異なった吸収剤物質はスペクトルの異なった領域において異なったレベルで吸収することが可能であり、その結果、複数の吸収剤物質を連携して組み合わせることによって、スペクトルの特定の領域にわたった吸収をより良好に達成することが可能となる。
【0041】
本発明のさらなる実施態様においては、本発明による放射線吸収性ポリマー物質は、200〜380nm、好ましくは200〜400nmの波長範囲における紫外放射線(UV)については、0.60以下、好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.30以下の透過度I/Iを有しているが、ここで、Iは、入射放射線の強度に等しく、Iは透過放射線の強度に等しい。
【0042】
本発明のさらなる実施態様においては、本発明による放射線吸収性ポリマー物質は、900〜1500nmの波長範囲における赤外放射線(IR/NIR)については、0.50以下、好ましくは0.30以下、特に好ましくは0.25以下の透過度I/Iを有しているが、ここで、Iは、入射放射線の強度に等しく、Iは透過放射線の強度に等しい。
【0043】
本発明のさらなる実施態様においては、本発明による放射線吸収性ポリマー物質は、400〜900nmの波長範囲における可視光線(VIS)については、0.60を超える、好ましくは0.70を超える、特に好ましくは0.80を超える透過度I/Iを有しているが、ここで、Iは、入射放射線の強度に等しく、Iは透過放射線の強度に等しい。
【0044】
本発明のさらなる実施態様においては、本発明による放射線吸収性、プラスチックベースの物質は、1μm〜3mmの範囲の厚みを有するフィルム、層、または薄手シートとして成形され、多層構造の中で少なくとも1層のさらなる層と共に存在しているが、その少なくとも1層のさらなる層は、フィルムタイプまたは層タイプの、吸収剤物質が共存または不在のポリマーマトリックス、アルミニウム層、および/または紙もしくは板紙層から選択される。
【0045】
本発明にはさらに、商品のための包装材料、好ましくは食料品、化粧品もしくは医療用製品のための包装材料を製造するため、または医療用製品、プラスチックチューブ、屋根、窓、もしくは騒音防止要素を製造するための、本発明による放射線吸収性ポリマー物質の使用も含まれる。
【0046】
本発明による吸収剤物質は、有機のUVおよびIR吸収剤に比較して、熱的にはるかに安定であり、そのために、それらが組み込まれるポリマー物質の製造温度および加工温度で分解されることがないという、利点を有している。
【0047】
本発明における放射線吸収性、プラスチックベースの物質は、それらがIR放射線の吸収能力も有しているために、相当するIR光源またはIR発光体を用いて目標を絞った方式(targeted manner)で加熱することが可能であり、それによって、成形性および加工性が改良されるという特別な可能性が得られるようになるというさらなる利点も有している。中でも特に、ポリマー物質を、極めて迅速かつエネルギー効率よく加熱、成形することが可能である。このことは、製造の際およびさらなる加工の際いずれにおいても、有利となりうる。
【0048】
放射線吸収、すなわちUV吸収、IR吸収、ならびに可視光波長領域における吸収または透過の測定は、バリアン(Varian)UV−Vis−NIR分光光度計、ケイリー(Cary)5000モデルを用いて、特定の波長または関連する全波長領域について実施するのが有利である。
【0049】
ポリマーマトリックスの透明性または透過度は、一方では吸収剤物質の選択により、他方ではその使用した吸収剤物質の使用量または使用濃度、および粒径によって、決まったり、影響を受けたりする。一般論として明確な理想的濃度を与えることは不可能であるが、その理由は、使用したそれぞれのポリマー物質によって、透明性もまた各種各様の影響を受ける可能性があるからである。しかしながら、選択された吸収剤物質の最適濃度の設定は、当分野における平均的な技術者の技量の範囲内であって、適当な回数の試験を行うことによって、所望される透明性に合わせるように実施されるべきである。
【0050】
吸収剤物質の濃度の選択は、得られるポリマーマトリックスにおいて、スペクトルのIR領域および/またはUV領域において可能な限り高い吸収が起こり、しかも同時に可視光線領域においては少なくとも0.50の高い透過度が得られるようにするべきである。
【0051】
以下において、いくつかの非限定的な実施態様例を参考にしながら本発明をさらに説明する。
【0052】
実施例1:
PPの粒状化物質に、1重量%のリン酸水酸化銅(CHP)(平均粒径d50=2.27μm)を添加した。その混合物を、加熱可能なニーダー(ブラベンダー・プラストグラフ(Brabender Plastograph))の中に導入した。それによって、その吸収剤物質が溶融したポリマー物質の中に均質に分布された、すなわちその物質に組み入れられた。
【0053】
そのようにして得られたプラスチックベースの物質を成形して、500μmの厚みを有する薄手シートを形成させた。そのシートの放射線吸収を、分光光度計(バリアン(Varian)ケイリー(Cary)5000)を用いて測定した。380nm未満のUV領域においては、完全な放射線吸収が測定された。さらに、800nm以上の領域(近赤外線領域)においても、透過度が0.03未満であった、すなわちこの場合にもまたほぼ完全な吸収が測定された。可視光線の波長の領域においては、その透過度が0.50よりも高く、したがってその吸収剤物質による有害作用は実質的になかった。
【0054】
実施例2:
PEの粒状化物質に、1重量%のピロリン酸銅および1重量%のオルトリン酸銅を添加した。それらのリン酸銅化合物は、押出成形の手段によってプラスチックの中に組み入れられ、均質に分布された。
【0055】
そのようにして得られたポリマー物質を成形して、600μmの厚みを有する薄手シートを形成させた。そのシートの放射線吸収を、分光光度計(バリアン(Varian)ケイリー(Cary)5000)を用いて測定した。400nm未満のUV領域においては、リン酸銅を添加したシートでは、極めて高い放射線吸収(透過度、0.10未満)が測定された。
【0056】
850nm以上の領域(近赤外線領域)においてもまた、その透過度は0.1未満であった。可視光波長の領域では、期待していたとおりに、その透明性が高い(透過度、約0.8)。
【0057】
実施例3:
PETの粒状化物質に、1重量%のCHP(リン酸水酸化銅)を添加した。それらのリン酸水酸化銅は、押出成形の手段によってプラスチックの中に組み入れられ、均質に分布された。
【0058】
そのようにして得られたポリマー物質を成形して、600μmの厚みを有する薄手シートを形成させた。そのシートの放射線吸収を、分光光度計(バリアン(Varian)ケイリー(Cary)5000)を用いて測定した。400nm未満のUV領域においては、90%を超える極めて高い放射線吸収が測定された。850nm以上の領域(近赤外線領域)においてもまた、その透過度は0.1未満であった。
【0059】
可視光波長の領域では、期待していたとおりに、その透明性が高い(透過度、0.8より大)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックスと、その中に含まれる単一の吸収剤物質または複数の吸収剤物質の混合物とからなる放射線吸収性、プラスチックベースの物質であって、前記単一の吸収剤物質または複数の吸収剤物質の混合物が、銅(Cu)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)および/または鉄(Fe)のリン酸塩、縮合リン酸塩、ホスホン酸塩、亜リン酸塩、および混合水酸化物−リン酸塩−オキソアニオンから選択され、前記ポリマーマトリックスの中に、微細に分布されるか、分散されるか、または溶解されて存在していることを特徴とする、物質。
【請求項2】
前記吸収剤物質が、リン酸三スズ(CAS 15578−32−3)、二リン酸三銅(CAS 7798−23−4)、二リン酸銅(CAS 10102−90−6)、リン酸水酸化銅(CAS 12158−74−6)およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の物質。
【請求項3】
前記吸収剤物質が、0.0005〜10重量%、または0.05〜5重量%、または0.5〜3重量%、または1〜2重量%の量で、前記ポリマーマトリックスの中に微細に分布されるか、分散されるか、または溶解されて存在していることを特徴とする、請求項1または2に記載の物質。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスが、好ましくはデンプン、セルロース、その他の多糖類、ポリ乳酸もしくはポリヒドロキシ脂肪酸を含むバイオポリマーであるか、または、好ましくはポリビニルブチラール(PVB)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド、ポリアセタール、ポリメタクリレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、アクリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルエステル(ASA)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリウレタン、ならびに/または、それらのコポリマーおよび/もしくはそれらの混合物からなる群より選択される熱可塑性ポリマーであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の物質。
【請求項5】
前記吸収剤物質が、20μm未満、好ましくは10μm未満、特に好ましくは200nm未満、極めて特に好ましくは60nmもしくは50nmもしくは40nm未満の平均粒径(d50)を有することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の物質。
【請求項6】
それが、1μm〜20mmの範囲、または50μm〜10mmの範囲、または100μm〜5mmの範囲、または200μm〜1mmの範囲の厚みを有する、フィルム、層、または薄手シートとして存在していることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の物質。
【請求項7】
前記ポリマーマトリックスの中に、少なくとも2種の吸収剤物質の混合物が存在していることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の物質。
【請求項8】
前記単一の吸収剤物質または複数の吸収剤物質の混合物が、静菌性および/または滅菌性効果を有することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の物質。
【請求項9】
前記ポリマーマトリックスの中に、さらに少なくとも1種の静菌性および/または滅菌性薬剤が、微細に分布されるか、分散されるか、または溶解されて存在していることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の物質。
【請求項10】
それが、200〜380nm、好ましくは200〜400nmの波長範囲における紫外放射線(UV)について、0.60以下、好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.30以下の透過度I/Iを有する(ここで、Iは、入射放射線の強度に等しく、Iは透過放射線の強度に等しい)ことを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の物質。
【請求項11】
それが、900〜1500nmの波長範囲における赤外放射線(IR/NIR)について、0.50以下、好ましくは0.30以下、特に好ましくは0.25未満の透過度I/Iを有する(ここで、Iは、入射放射線の強度に等しく、Iは透過放射線の強度に等しい)ことを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の物質。
【請求項12】
それが、400〜900nmの波長範囲における可視光線(VIS)について、0.60を超える、好ましくは0.70を超える、特に好ましくは0.80を超える透過度I/Iを有する(ここで、Iは、入射放射線の強度に等しく、Iは透過放射線の強度に等しい)ことを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の物質。
【請求項13】
それが、1μm〜3mmの範囲の厚みを有するフィルム、層、または薄手シートとして成形され、多層構造の中において少なくとも1層のさらなる層と共に存在しているが、前記少なくとも1層のさらなる層が、フィルムタイプまたは層タイプの、吸収剤物質が共存または不在のポリマーマトリックス、アルミニウム層、および/または紙もしくは板紙層から選択されることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の物質。
【請求項14】
商品のための包装材料、好ましくは食料品、化粧品、もしくは医療用製品のための包装材料を製造するため、または、医療用製品、プラスチックチューブ、屋根、窓、もしくは騒音防止要素を製造するための、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の物質の使用。

【公表番号】特表2012−519230(P2012−519230A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552420(P2011−552420)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052628
【国際公開番号】WO2010/100153
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(596009652)
【Fターム(参考)】