放射線検出パネルおよび放射線画像検出器
【課題】シンチレータの蛍光体内で発光した光が面方向に反射される度合を低減させて、高感度で鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能な放射線検出パネルを提供する。
【解決手段】放射線検出パネル3は、一方の面4aに二次元状に配列された複数の光電変換素子15上に平坦化層21が形成された素子基板4と、蛍光体6aの柱状結晶で形成されており、放射線を光に変換して光電変換素子15に照射するシンチレータ6が一方の面5aに形成されたシンチレータ基板5とを備え、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが平坦化層21の方向を向く状態で素子基板4とシンチレータ基板5とが貼り合わされ、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と平坦化層21との間に、蛍光体6aの屈折率n6aと平坦化層21の屈折率n21のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率n23を有する光学補償層23が形成されている。
【解決手段】放射線検出パネル3は、一方の面4aに二次元状に配列された複数の光電変換素子15上に平坦化層21が形成された素子基板4と、蛍光体6aの柱状結晶で形成されており、放射線を光に変換して光電変換素子15に照射するシンチレータ6が一方の面5aに形成されたシンチレータ基板5とを備え、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが平坦化層21の方向を向く状態で素子基板4とシンチレータ基板5とが貼り合わされ、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と平坦化層21との間に、蛍光体6aの屈折率n6aと平坦化層21の屈折率n21のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率n23を有する光学補償層23が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出パネルおよび放射線画像検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、入射した放射線をシンチレータで可視光等の光に変換し、変換された光を、基板上に二次元状に配列されたフォトダイオード等の複数の光電変換素子で検出する放射線検出パネルを用いた放射線画像検出器(Flat Panel Detector(FPD)ともいう。)が開発されている。そして、光電変換素子で入射した光を電荷に変換し、発生した電荷を取り出すことで、被写体を介して照射された放射線に担持された情報を電気信号として検出するように構成される。
【0003】
そして、放射線画像検出器では、例えばガラス基板上に複数の光電変換素子を二次元状に配列させて素子基板を形成し、その上方にシンチレータを配置して放射線検出パネルが形成される場合がある(例えば特許文献2、3等参照)。
【0004】
具体的には、例えば、図20に示すように、複数の光電変換素子101が配列された素子基板102の上方から、蛍光体103aの柱状結晶からなるシンチレータ103が一面側に形成されたシンチレータ基板104を貼り合わせる等して、放射線検出パネル100が形成される場合がある。
【0005】
なお、図20では、シンチレータ103の蛍光体103aの柱状結晶の先端Paが、光電変換素子101を被覆するたとえば樹脂製の平坦化層105の表面に当接する状態になるようにシンチレータ103を配置し、シンチレータ103や光電変換素子101の外側の周囲の部分に配置された接着剤106によって素子基板102とシンチレータ基板104とが貼り合わされた状態が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−219538号公報
【特許文献2】米国特許第6172371号明細書
【特許文献3】特開2010−43887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、放射線検出パネル100を図20に示したように形成する場合、シンチレータ103の蛍光体103aの柱状結晶の先端Paが素子基板102の平坦化層105の表面に当接する部分を拡大すると、図21に示すような状態になっている。そして、蛍光体103aの柱状結晶の先端Paの部分は略円錐状になっている。
【0008】
そして、蛍光体103aの柱状結晶の略円錐状の先端Paが平坦化層105の表面に当接する状態になっており、蛍光体103aの柱状結晶と平坦化層105との間には、空気Ai(或いは低真空)の層が介在する状態になっている。
【0009】
このような状態の放射線検出パネル100や放射線画像検出器に放射線が照射されると、照射された放射線がシンチレータ103に到達し、シンチレータ103の蛍光体103a内で放射線が光Lに変換されて発光する。そして、光Lは、蛍光体103aの柱状結晶内を、平坦化層105や光電変換素子101の方向に伝播する。
【0010】
しかし、この場合、蛍光体103a内を伝播した光Lの一部L1が、蛍光体103aの柱状結晶の先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1で蛍光体103a内に反射される。また、蛍光体103aから空気Ai内に進入した光Lは、今度は、その一部L2が、平坦化層105の表面で反射される。
【0011】
そして、蛍光体103a内で発光した光Lが蛍光体103aの先端Pa部分の壁面Pa1や平坦化層105の表面等で反射されると、光Lの一部L1、L2が蛍光体103aの柱状結晶の延在方向に直交する方向(図20や図21では左右方向。以下、素子基板102やシンチレータ基板104が延在する方向という意味で面方向という。)にも伝播する状態になる。
【0012】
放射線画像検出器や放射線検出パネル100では、本来、蛍光体103a内で発光した光Lがその直下(図20や図21では当該蛍光体103aの下方)の光電変換素子101に入射することで鮮鋭性が高い放射線画像が得られる。
【0013】
しかし、上記のように、蛍光体103a内で発光した光Lが反射されて面方向に伝播する度合が増すと、当該蛍光体103aの直下の光電変換素子101で受光されるべき光Lの一部が他の光電変換素子101で受光される状態になる。そのため、得られる放射線画像が必ずしも鮮鋭性が十分に高くならない可能性があった。
【0014】
また、上記のように蛍光体103aの柱状結晶の先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1で反射した光L1や、平坦化層105の表面で反射された光L2は、さらにその先で蛍光体103aの壁面等に反射される。そして、このようにして多重反射が繰り返されることになる。
【0015】
このように多重反射が繰り返されると、反射された光のうち蛍光体103a等で吸収される分量が多くなる。そのため、結局、最初に蛍光体103a内で発光した光Lのうち、光電変換素子101に到達する光量に損失が生じてしまい、画像取得の感度が低下するという現象が生じてしまうといった問題もあった。
【0016】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、シンチレータの蛍光体内で発光した光が面方向に反射される度合を低減させて、高感度でかつ鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能な放射線検出パネルおよび放射線画像検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の問題を解決するために、本発明の放射線検出パネルは、
一方の面に複数の光電変換素子が二次元状に配列され、前記複数の光電変換素子上に平坦化層が形成された素子基板と、
蛍光体の柱状結晶で形成されており、放射線を光に変換して前記光電変換素子に照射するシンチレータが一方の面に形成されたシンチレータ基板と、
を備え、
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端が前記平坦化層の方向を向く状態で、前記素子基板と前記シンチレータ基板とが貼り合わされて形成され、
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分と前記平坦化層との間に、前記蛍光体の屈折率と前記平坦化層の屈折率のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率を有する光学補償層が形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の放射線画像検出器は、上記の本発明の放射線検出パネルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のような方式の放射線検出パネルおよび放射線画像検出器によれば、シンチレータの蛍光体の柱状結晶と光学補償層との屈折率の差、および光学補償層と平坦化層との屈折率の差が小さくなり、照射された放射線により蛍光体内で発光した光が蛍光体の柱状結晶と光学補償層との境界面や光学補償層と平坦化層との境界面で反射される度合が小さくなる。
【0020】
そのため、シンチレータの蛍光体内で発光した光が面方向に反射される度合が低減されるため、当該蛍光体の直下の光電変換素子以外の光電変換素子で受光されることが抑制される。また、反射光が蛍光体等で吸収されることも的確に防止される。そのため、当該蛍光体の直下の光電変換素子に光のほとんどの量が的確に入射される状態になり、高感度でかつ鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る放射線画像検出器の外観を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】素子基板上の構成を示す平面図である。
【図4】放射線検出パネルの各入出力端子にフレキシブル回路基板が圧着され、素子基板の下面側に引き回されてPCB基板と圧着されて接続された状態を示す図である。
【図5】シンチレータの蛍光体の柱状結晶の構成およびシンチレータの支持体への貼付を説明する模式図である。
【図6】図2における放射線検出パネルの拡大断面図である。
【図7】外力による素子基板とシンチレータ基板との接近に抗して両方の基板の間隔を確保するスペーサの機能を説明する図である。
【図8】図6等の拡大図であり、シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分と平坦化層との間に光学補償層が形成されていることを説明する図である。
【図9】放射線検出パネルの製造方法を示すフローチャートである。
【図10】接着剤が開口部を有する状態で各光電変換素子の周囲の部分に配置された状態で素子基板とシンチレータ基板とが仮貼り合わせされた状態を表す図である。
【図11】放射線検出パネルの製造に用いられるチャンバの構成例を説明する図である。
【図12】チャンバ基台とフィルムとの間の空間が減圧され基板と支持体とが貼り合わされる状態を説明する図である。
【図13】接着剤が水平方向に押し広げられて開口部が封止される状態を表す図である。
【図14】放射線画像検出器の製造方法を示すフローチャートである。
【図15】図8においてシンチレータの蛍光体の柱状結晶と光学補償層との境界面や光学補償層と平坦化層との境界面で反射される光等を説明する図である。
【図16】シンチレータの蛍光体の柱状結晶同士の間に隙間が形成されていることを表す図である。
【図17】光学補償層を形成する樹脂が毛細管現象によりシンチレータの蛍光体の柱状結晶同士の隙間に入り込んだ状態と表す図である。
【図18】シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分を被覆するコート層を表す図である。
【図19】コート層により樹脂が毛細管現象によってシンチレータの蛍光体の柱状結晶同士の隙間に入り込むことが防止された状態を表す図である。
【図20】放射線検出パネルの従来の構成例を表す拡大断面図である。
【図21】図20の拡大図であり、シンチレータの蛍光体内で発光した光が面方向に反射されることを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る放射線検出パネルおよび放射線画像検出器の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
なお、以下では、放射線画像検出器が持ち運び可能な可搬型に形成されている場合について説明するが、本発明は、例えば支持台等と一体的に形成された、いわゆる専用機型の放射線画像検出器およびそれに用いられる放射線検出パネルに対しても適用することが可能である。
【0024】
また、以下では、放射線検出パネル3や放射線画像検出器1における各部材の相対的な位置関係、特に相対的な上下関係について、後述する図1や図2等に示すように、放射線画像検出器1の筐体2の放射線入射面X側を上側に向け、筐体2における放射線入射面Xとは反対側の面Y側を下側に向けて配置した場合の位置関係に基づいて説明する。
【0025】
[放射線検出パネルや放射線画像検出器の構成等について]
図1は、本実施形態に係る放射線画像検出器の外観を示す斜視図であり、図2は、図1のA−A線に沿う断面図である。図1や図2に示すように、放射線画像検出器1では、筐体2内に放射線検出パネル3が収納されて構成されている。
【0026】
筐体2は、カーボン板やプラスチック等の材料で形成されている。なお、図1や図2では、筐体2がフレーム板51とバック板52とで形成された、いわば弁当箱型である場合が示されているが、筐体2を一体的に形成するいわゆるモノコック型とすることも可能である。また、筐体2の側面部分には、LED等で構成されたインジケータ53や蓋54、外部の装置と接続される端子55、電源スイッチ56等が配置されている。
【0027】
筐体2の内部には、図2に示すように、放射線検出パネル3が内蔵されている。放射線検出パネル3は、ガラス基板で形成された素子基板4と、ガラス基板の下面にシンチレータ6が形成されたシンチレータ基板5とが接着剤22を介して貼り合わされ、それらが図示しない鉛の薄板等を介して基台7の上面側に配置され、基台7の下面側に、電子部品8等が配設されたPCB基板9やバッテリ10等が取り付けられて形成されている。
【0028】
図3は、素子基板4上の構成を示す平面図である。素子基板4の上面(すなわちシンチレータ6側の面)4a上には、複数の配線、すなわち複数の走査線11と複数の信号線12とが互いに交差するように配設されている。また、複数のバイアス線13が、複数の信号線12と平行に配置されていて、各光電変換素子15に接続されている。そして、本実施形態では、各バイアス線13は、素子基板4上の一方側の端部で1本の結線14により結束されている。
【0029】
素子基板4の上面4a上の走査線11と信号線12により区画された各小領域Rには、光電変換素子15がそれぞれ設けられており、各光電変換素子15が素子基板4の上面4a上に二次元状に配列されている。また、各光電変換素子15には、バイアス線13を介して逆バイアス電圧が印加されるようになっている。
【0030】
本実施形態では、光電変換素子15としてフォトダイオードが用いられている。また、図3に示すように、各光電変換素子15にはそれぞれスイッチ手段として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor。以下TFTという。)16が設けられている。
【0031】
また、各走査線11や各信号線12、バイアス線13の結線14は、素子基板4の上面4a上の各光電変換素子の外側の部分までそれぞれ延設されており、各走査線11や各信号線12、バイアス線13の結線14には、各光電変換素子14の周囲の部分に入出力端子(パッド等ともいう。)18がそれぞれ設けられている。
【0032】
各入出力端子18には、図4に示すように、フレキシブル回路基板(Chip On Film等ともいう。)19が異方性導電接着フィルム(Anisotropic Conductive Film)や異方性導電ペースト(Anisotropic Conductive Paste)等の異方性導電性接着材料20を介して圧着されている。また、フレキシブル回路基板19は、素子基板4の下面4b側に引き回されており、下面4b側でPCB基板9とフレキシブル回路基板19とが圧着されて接続されるようになっている。
【0033】
また、図4に示すように、複数の光電変換素子15等の部分には、それらによる表面の凹凸を平坦化するための平坦化層21が、透明な樹脂等が塗布されて形成されている。平坦化層21は、例えば透明な、すなわちシンチレータ6の蛍光体6aから出力される光を透過するアクリル樹脂等で形成される。なお、図4では、シンチレータ6のほか、電子部品8等(図2参照)の図示が省略されている。
【0034】
シンチレータ6(図2参照)は、放射線入射面X側から入射した放射線を光に変換して各光電変換素子15に照射するものであり、蛍光体を主たる成分とする。本実施形態では、シンチレータ6として、入射したX線等の放射線を、波長が300nm〜800nmの光に変換するものが用いられるようになっている。蛍光体としては、例えばCsI:Tl等の母体材料内に発光中心物質が付活されたものが好ましく用いられる。
【0035】
シンチレータ6は、本実施形態では、図5に示すように、各種高分子材料により形成された支持体6bの上に、例えば気相成長法により蛍光体6aを成長させて形成されたものであり、蛍光体6aの柱状結晶からなっている。気相成長法としては、蒸着法やスパッタ法等が好ましく用いられる。
【0036】
そして、蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが下側、すなわち素子基板4の複数の光電変換素子15や平坦化層21の方向を向くように、支持体6bがガラス基板の下面5a側に貼付されるようになっている。本実施形態では、このようにしてシンチレータ基板5が形成されている。
【0037】
一方、本実施形態では、放射線検出パネル3は、図6に示すように、シンチレータ基板5が、シンチレータ6の蛍光体6aの鋭角状の先端Paが複数の光電変換素子15や平坦化層21に対向するように素子基板4の上方から素子基板4に載置されて形成されている。
【0038】
なお、図6において、放射線検出パネル3の各部材の相対的な大きさや厚さ、部材間の間隔等は、必ずしも現実の放射線検出パネル3の構造を反映するものではない。また、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paを含む部分と平坦化層21との間に、光学補償層23が形成されているが、この点については後で詳しく説明する。
【0039】
本実施形態では、素子基板4とシンチレータ基板5との間隙部分であって、各光電変換素子15やシンチレータ6等の周囲の部分に、接着剤22が配置されており、この接着剤22によって、素子基板4とシンチレータ基板5とが貼り合わされるようになっている。
【0040】
接着剤22は、各光電変換素子15やシンチレータ6の周囲の全周にわたって配置されており、素子基板4とシンチレータ基板5と接着剤22とで、外部から区画された内部空間Cが形成されている。そして、本実施形態では、内部空間Cの内部圧力が大気圧より低くなるように、内部空間Cが減圧されている。
【0041】
このように内部空間Cの内部が減圧されるように構成することで、図7に示すように、素子基板4やシンチレータ基板5が外部の気圧すなわち大気圧により外側から内部空間C側に向けて常時押圧された状態となる。そのため、本実施形態では、大気圧により押圧されることで、素子基板4とシンチレータ基板5が離間することが抑制されるようになっている。
【0042】
また、大気圧により押圧された素子基板4とシンチレータ基板5の端部同士が接近し過ぎないようにするために、本実施形態では、図7に示すように、接着剤22の中に、例えば球形状のスペーサSが含まれるようになっている。
【0043】
[光学補償層について]
図6や図8等に示すように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paを含む部分(以下、先端Pa部分という。)と平坦化層21との間には、光学補償層23が形成されている。
【0044】
本実施形態では、光学補償層23は、図8に示すように、少なくとも蛍光体6aの柱状結晶の各先端Paを含む柱状結晶の各先端Pa部分における略円錐状の各壁面Pa1部分と、平坦化層21の表面とに、それぞれ接触するように形成されている。その際、光学補償層23は、各壁面Pa1部分や平坦化層21に、空気(或いは低真空)が介在しない状態で接触する状態、すなわち密接する状態とされている。
【0045】
光学補償層23は、放射線の照射によりシンチレータ6の蛍光体6aで発光した光が光学補償層23や平坦化層21を介して光電変換素子15に到達するようにするために透明であり、光の透過率が90%以上の高透過率であることが好ましい。
【0046】
また、本実施形態では、素子基板4(図6参照)には光電変換素子15等が形成されており、シンチレータ基板5にはシンチレータ6の発光が放射線入射面X側(図1や図2参照。図6では図中上側)に漏出しないようにするために図示しない反射層が設けられている。そのため、本実施形態では、光学補償層23を、例えば紫外線硬化型の樹脂で形成すると、光電変換素子15や反射層等のために樹脂に紫外線を照射することが難しくなり、樹脂を硬化させることが困難になる。
【0047】
そこで、本実施形態では、光学補償層23は、熱硬化性の樹脂で形成されている。熱硬化性の樹脂としては、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が好ましく用いられる。
【0048】
なお、熱硬化性の樹脂を硬化させて光学補償層23を形成することについては、後述する放射線検出パネル3等の製造方法の中で説明する。また、光学補償層23を、硬化させた樹脂等の固体で形成する代わりに、透明な液体やゲル状物質で形成することも可能である。この場合も、液体やゲル状物質からなる光学補償層23が、図8に示すように少なくともシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の各先端Pa部分と平坦化層21の表面とにそれぞれ密接する状態に形成される。
【0049】
一方、光学補償層23は、その屈折率n23が、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6aと平坦化層21の屈折率n21のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率となるように形成されている。
【0050】
本実施形態では、前述したようにシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶としてCsI:Tlが用いられており、その屈折率n6aは約1.8である。また、平坦化層21を形成するアクリル樹脂の屈折率n21は約1.5である。そこで、本実施形態では、光学補償層23は、その屈折率n23が1.5〜1.8の範囲になるように形成されている。
【0051】
なお、光学補償層23をこのように形成することによる作用等については、放射線検出パネル3や放射線画像検出器1の製造方法を説明した後で説明する。また、図8等では、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが平坦化層21に当接するように記載されているが、蛍光体6aの先端Paと平坦化層21とが許容される距離の範囲内で離れていてもよい。そして、その場合にはそれらの間隙部分が光学補償層23で満たされる状態とされる。
【0052】
[放射線検出パネルや放射線画像検出器の製造方法について]
ここで、放射線検出パネル3や放射線画像検出器1の製造方法について説明する。
【0053】
放射線検出パネル3は、例えば図9に示すフローチャートに従って製造することができる。すなわち、放射線検出パネル3の製造方法では、まず、上記のように、素子基板4の上面4aに二次元状に配列された各光電変換素子15上に形成された平坦化層21上に、光学補償層23となる透明な熱硬化性の樹脂を塗布する樹脂塗布工程(ステップS1)が行われる。
【0054】
なお、素子基板4の平坦化層21上に樹脂を塗布する代わりに、シンチレータ基板5上に形成されたシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分に透明な熱硬化性の樹脂を塗布してもよい。
【0055】
そして、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが素子基板4の各光電変換素子15に対向する状態で、素子基板4上にシンチレータ基板5を配置して、シンチレータ6を各光電変換素子15上に配置するシンチレータ配置工程(ステップS2)が行われる。その際、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが、まだ軟らかい樹脂に差し込まれる状態になり、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と平坦化層21との間に、光学補償層23となる樹脂が充填される。
【0056】
この状態で、放射線検出パネル3を適度な温度に加熱して、熱硬化性の樹脂を硬化させる。このようにして、蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と平坦化層21との間に光学補償層23が形成される。なお、この熱硬化性の樹脂の硬化は、後述する減圧貼り合わせ工程(ステップS4)の後等に行ってもよい。また、その場合、このシンチレータ配置工程(ステップS2)では、熱硬化性の樹脂を適度に硬化させる仮硬化処理を行うように構成することも可能である。
【0057】
そして、この状態の放射線検出パネル3に対して、図6や図7に示したように、素子基板4とシンチレータ基板5との間隙部分の、各光電変換素子15やシンチレータ6等の周囲の部分に、接着剤22やスペーサSを含む接着剤22を挿入して、素子基板4とシンチレータ基板5とを接着剤22を介して仮貼り合わせする仮貼り合わせ工程(ステップS3)が行われる。
【0058】
その際、接着剤22を、各光電変換素子15やシンチレータ6の周囲の全周にわたって配置するのではなく、例えば図10に示すように、内部空間Cとその外側の空間とを連通する開口部24が接着剤22部分に単数或いは複数形成されるように配置することが好ましい。
【0059】
続いて、前述したように、素子基板4とシンチレータ基板5と接着剤22とで形成される内部空間Cを減圧した状態で素子基板4とシンチレータ基板5とを貼り合わせる減圧貼り合わせ工程(ステップS4)が行われるが、ここで、減圧貼り合わせ工程等に用いられるチャンバ30の構成等について説明する。なお、減圧貼り合わせ工程等の工程については、本願出願人が先に提出した前記特許文献3等に詳しく記載されており、詳しくは当該公報等を参照されたい。
【0060】
この場合、接着剤22としては、例えば紫外線等の光が照射されると硬化する光硬化型の樹脂で形成された接着剤が用いられる。本実施形態では、紫外線硬化型の接着剤を用いる場合について説明するが、他の波長の光で硬化する接着剤を用いることも可能である。また、接着剤22として熱硬化性の樹脂等を用いることも可能である。
【0061】
図11に示すように、チャンバ30は、底部が平面状に形成された載置台31や、フィルム32や、蓋部材33等で構成されている。そして、載置台31と蓋部材33の各側面にはOリング状のシール部材34a、34bがそれぞれ配設されており、蓋部材33が設置されると各シール部材34a、34bで上下からフィルム32を挟持した状態で、チャンバ30内が密閉されるようになっている。フィルム32は、紫外線を透過し、伸縮性を有する素材で形成されている。
【0062】
載置台31の底部には、図示しない開口部を介して減圧用ポンプ35が取り付けられている。また、蓋部材33の内部には紫外線照射装置36が取り付けられており、蓋部材33には図示しない開口部を介してポンプ37が取り付けられている。なお、ポンプ37は必ずしも設けられなくてもよく、単なる開口とすることも可能である。
【0063】
減圧貼り合わせ工程(ステップS4)では、上記のようにして接着剤22を介して仮貼り合わせされた素子基板4とシンチレータ基板5とをチャンバ30の載置台31上に載置し、その上方からフィルム32を載置して蓋部材33を設置する。
【0064】
なお、図11では素子基板4がシンチレータ基板5の下側に配置されるように載置する場合が示されているが、それらの上下関係は逆でもよい。また、前述したように、内部空間C内の空気が湿気を含んでいると、湿気によりシンチレータ6の蛍光体6aに含まれる成分が潮解して溶け出すため、この時点で、例えば、チャンバ30内の空気、或いは少なくとも放射線検出パネル3を含むチャンバ30の載置台31とフィルム32との間の空間(以下、下方空間R1という。図11参照)内の空気をドライエアや不活性ガスで置換することが好ましい。
【0065】
続いて、この状態で、減圧用ポンプ35を作動させて、放射線検出パネル3を含むチャンバ30内の下方空間R1を減圧する。この場合、例えば、下方空間R1内の圧力(すなわち放射線検出パネル3の内部空間C内の圧力)が大気圧より低い、例えば0.2気圧〜0.5気圧になるように減圧される。
【0066】
この場合、チャンバ30内部のフィルム32の上側の空間(以下、上方空間R2という。図11参照)は大気圧のままである。或いは、ポンプ37を作動させて、上方空間R2の圧力を調整するように構成してもよい。その場合、上方空間R2の圧力が下方空間R1の圧力よりも高くなるように調整される。
【0067】
そして、チャンバ30の下方空間R1を減圧していくと、図11に示した状態から、図12に示すように放射線検出パネル3のシンチレータ基板5の上方からフィルム32が張り付くように変わり、放射線検出パネル3は、フィルム32を介して上方から上方空間R2の圧力で押圧されて、素子基板4とシンチレータ基板5とが貼り合わされる。
【0068】
その際、上記の仮貼り合わせ工程(ステップS3)で図10に示したように接着剤22を開口部24が形成された状態に配置しておくと、上記の過程で、放射線検出パネル3の内部空間Cの内部の気体が接着剤22の開口部24から引き出され、内部空間Cの内部の圧力が減圧される。
【0069】
また、予め開口部24の開口の大きさを適切な大きさに形成しておくと、図13に示すように、上方空間R2からの圧力によってシンチレータ基板5と素子基板4とが互いに接近する際に、接着剤22が水平方向に押し広げられて、いわば自動的に開口部24が封止される。なお、開口部24が自動的に封止されない場合には、改めて開口部24に接着剤22等を塗布して封止してもよい。
【0070】
そして、この状態で(図12参照)、チャンバ30内の紫外線照射装置36から紫外線を照射し、接着剤22を硬化させて、素子基板4とシンチレータ基板5とを貼り合わせる。そして、開口部24が封止されるため、内部空間Cが大気圧より減圧された状態で密閉される。
【0071】
なお、接着剤22の硬化をより確実にするために、上記の紫外線の照射後に、さらに放射線検出パネル3を加熱して、接着剤22を焼成させる等の処理を行うように構成することも可能である。その際、熱硬化性の樹脂を硬化させて形成した光学補償層23が、接着剤22の焼成の際にガラス転移しないようにするために、光学補償層23を形成する熱硬化性の樹脂は、接着剤22のガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料で形成されていることが好ましい。
【0072】
次に、放射線画像検出器1は、上記のようにして製造された放射線検出パネル3を用いて、例えば図14に示すフローチャートに従って製造される。
【0073】
すなわち、上記の製造方法(ステップS1〜S4)を用いて製造された放射線検出パネル3の素子基板4の入出力端子18(図4参照)に、前述したように異方性導電接着フィルムを貼付したり異方性導電ペーストを塗布する等してフレキシブル回路基板19を圧着するフレキシブル回路基板圧着工程(ステップS5)が行われる。
【0074】
そして、入出力端子18にフレキシブル回路基板19を圧着すると、入出力端子18とフレキシブル回路基板19との通電を検査する検査工程等が行われ、素子基板4やシンチレータ基板5の不要な部分を切り落とす等の処理が行われる。そして、図4等に示したように、基台7の上面に素子基板4の下面4bを接着する等して放射線検出パネル3が基台7に固定され、また、基台7の下面側に、電子部品8等が配設されたPCB基板9が取り付けられる。
【0075】
そして、フレキシブル回路基板19が素子基板4の下面4b側に引き回されて、下面4b側でPCB基板9上の端子に圧着されて接続される(ステップS6:モジュール形成工程)。そして、フレキシブル回路基板19を介してPCB基板9上の各電子部品と素子基板4上の各光電変換素子15やTFT16とが接続されているか否かや、放射線検出パネル3が的確に動作するか否か等の検査等が行われる。
【0076】
そして、上記のようにしてモジュール化された放射線検出パネル3が、図2等に示したように筐体2内に収納されて(ステップS7:モジュール収納工程)、放射線画像検出器1が製造される。
【0077】
[光学補償層の作用等について]
次に、本実施形態に係る放射線検出パネル3や放射線画像検出器1の作用について説明する。
【0078】
本実施形態では、上記のように、シンチレータ基板5に設けられたシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と、素子基板4に設けられた平坦化層21との間に、光学補償層23が形成されている。そして、光学補償層23の屈折率n23が、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6aと平坦化層21の屈折率n21のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率とされている。
【0079】
具体的には、本実施形態では、光学補償層23の屈折率n23が、平坦化層21を形成するアクリル樹脂の屈折率n21(約1.5)以上で、CsI:Tlで形成されているシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6a(約1.8)以下、すなわち1.5〜1.8の範囲の屈折率とされている。
【0080】
このように構成することで、光学補償層23が以下のように作用するようになる。
【0081】
前述した図21に示した従来の放射線検出パネル100やそれを備える放射線画像検出器のように、シンチレータ103の蛍光体103aの柱状結晶の先端Paと平坦化層105との間の間隙部分が空気や低真空の層Aiである場合、空気や低真空の層Ai(以下、単に空気層Aiという。)の屈折率nAiは約1.0である。そして、よく知られているように、光は、2層の各屈折率の違いが大きいほど、それらの境界面で大きく反射される。すなわち、反射される光の量が大きくなる。
【0082】
従来の放射線検出パネル100等の場合、放射線画像検出器に照射された放射線がシンチレータ103の蛍光体103aに到達して、蛍光体103a内で放射線が光Lに変換されて発光し、発光した光Lが蛍光体103aの柱状結晶内を光電変換素子101の方向に伝播する。そして、光Lは、まず、蛍光体103aの柱状結晶と空気層Aiとの境界面(すなわち先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1)に到達する。
【0083】
すると、蛍光体103aの柱状結晶では屈折率n103aが約1.8であるのに対し、空気層Aiの屈折率nAiは約1.0であり、屈折率が大きく変わる。そのため、蛍光体103a内を伝播した光Lの一部L1がこれらの境界面で反射される。
【0084】
そして、その残りの光Lが空気層Aiに進入して、平坦化層105に到達する。しかし、ここでも、空気層Aiの屈折率nAiが約1.0であるのに対し、平坦化層105の屈折率n105は約1.5であり、屈折率が比較的大きく変わる。そのため、平坦化層105に到達した光Lのうち、一部の光L2がこれらの境界面(すなわち平坦化層105の表面)で反射される。
【0085】
このように、従来の放射線検出パネル100等では、シンチレータ103の蛍光体103a内で発光した光Lが、蛍光体103aの柱状結晶と空気層Aiとの境界面や、空気層Aiと平坦化層105との境界面で反射される。そして、それらの反射光が、素子基板102やシンチレータ基板104の延在方向すなわち面方向に伝播するため、蛍光体103aの直下の光電変換素子101に入射すべき光Lのうち、他の光電変換素子101で受光される反射光が多くなる可能性があった。そのため、得られる放射線画像が必ずしも十分に鮮鋭性が高くならなくなる可能性が生じていた。
【0086】
また、上記のように蛍光体103aの柱状結晶の先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1で反射した光L1や、平坦化層105の表面で反射された光L2は、さらにその先で蛍光体103aの壁面等に反射され、多重反射が繰り返される。そして、光は蛍光体103a内や平坦化層105内等を進行するうちに、蛍光体6aや平坦化層105等によって吸収される。
【0087】
そのため、上記のように多重反射を繰り返して、光が反射されながら蛍光体103a内や平坦化層105内等を進行する距離が長くなることにより、反射された光のうち蛍光体103a等で吸収される分量が多くなる。そのため、結局、最初に蛍光体103a内で発光した光Lのうち、光電変換素子101に到達する光量に損失が生じてしまい、画像取得の感度が低下するという現象が生じてしまうといった問題もあった。
【0088】
それに対し、本実施形態では、図8等に示したように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と平坦化層21との間に、上記のような光学補償層23を形成する。この場合、光学補償層23の屈折率n23を仮に1.6として説明する。
【0089】
すると、本実施形態では、シンチレータ6の蛍光体6aの屈折率n6a(約1.8)と光学補償層23の屈折率n23(1.6)との間にあまり差がない。そのため、図15に示すように、蛍光体6a内で発光して伝播した光Lが光学補償層23との境界面(すなわち先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1)に到達すると、光Lのうちの一部L1が境界面で反射されるが、反射される割合は、上記の従来の放射線検出パネル100等の場合に比べて非常に小さくなる。
【0090】
そして、残りの大きい割合の光Lが光学補償層23に進入して、平坦化層21に到達するが、光学補償層23の屈折率n23(1.6)と平坦化層21の屈折率n21(約1.5)との間にはほとんど差がない。そのため、平坦化層21に到達した光Lのうち、一部の光L2がこれらの境界面(すなわち平坦化層21の表面)で反射されるとしても、反射される割合は、上記の従来の放射線検出パネル100等の場合に比べて格段に小さくなる。
【0091】
このように、本実施形態に係る放射線検出パネル3や放射線画像検出器1では、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光Lが、蛍光体6aの柱状結晶と光学補償層23との境界面や、光学補償層23と平坦化層21との境界面で反射される割合が低減される。
【0092】
そのため、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光Lが面方向に反射される度合が低減され、当該蛍光体6aの直下の光電変換素子15に入射すべき光Lのうちのほとんどが当該光電変換素子15に入射される状態になる。そのため、鮮鋭性が高く放射線画像を得ることが可能となる。
【0093】
また、本実施形態に係る放射線検出パネル3や放射線画像検出器1では、このように反射される反射光L1、L2の割合が減り、最初に蛍光体6a内で発光した光Lのうちの多くの割合が、多重反射されずに図15に示したような経路をたどって最短距離で光電変換素子15に到達する状態になる。そのため、光電変換素子15に到達する光量にほとんど損失が生じない状態とすることが可能となり、画像取得の感度を向上させることが可能となる。
【0094】
以上のように、本実施形態に係る放射線検出パネル3および放射線画像検出器1によれば、シンチレータ基板5に設けられたシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と、素子基板4上に設けた平坦化層21との間に、光学補償層23を形成し、さらに、光学補償層23の屈折率n23が、蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6aと平坦化層21の屈折率n21のうち、小さい方の屈折率以上であり、かつ、大きい方の屈折率以下となるように構成した。
【0095】
そのため、蛍光体6aの柱状結晶と光学補償層23との屈折率の差や、光学補償層23と平坦化層21との屈折率の差が小さくなり、照射された放射線により蛍光体6a内で発光した光Lが蛍光体6aの柱状結晶と光学補償層23との境界面や、光学補償層23と平坦化層21との境界面で反射される度合が小さくなる。
【0096】
そのため、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光Lが面方向に反射される度合が低減される。そのため、当該蛍光体6aの直下の光電変換素子15以外の光電変換素子15で受光されることが抑制され、当該蛍光体6aの直下の光電変換素子15に光Lのほとんどの量が的確に入射される状態になる。
【0097】
そのため、本実施形態に係る放射線検出パネル3や放射線画像検出器1を用いて放射線画像を行うことにより、高感度でかつ鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能となる。
【0098】
なお、光学補償層23を形成する樹脂が、例えば、硬化する際に収縮し易いものであったり、温度が高くなると膨張し易いものであるような場合、光学補償層23が収縮したり膨張したりする際に、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶に対して面方向に力が加わる状態になる。そして、その力によって柱状結晶が破壊されてしまう可能性が生じる。
【0099】
そこで、光学補償層23を形成する樹脂としては、硬化収縮率や線膨張係数が低いものを用いることが好ましい。
【0100】
[蛍光体にコート層を形成する変形例について]
また、図8や図15等では、シンチレータ6の蛍光体6aの各柱状結晶が、隣接する柱状結晶と隙間なく形成されているように記載されているが、実際には、図16に示すように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶同士の間には隙間が形成されている。
【0101】
そして、柱状結晶の屈折率と隙間(すなわち空気や低真空)の屈折率とに差があるため、蛍光体6aの柱状結晶内で発光した光が、柱状結晶の側壁6a1で反射されるようになり、柱状結晶の外に漏れ出しにくくなるといった効果がある。
【0102】
しかし、例えば、上記のように、素子基板4上に形成された平坦化層21上に光学補償層23となる樹脂を塗布し(図9のステップS1)、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが平坦化層21の方向を向く状態でシンチレータ6を配置する場合(ステップS2)、図17に示すように、樹脂が、毛細管現象によって柱状結晶同士の隙間に入り込んでしまう場合がある。
【0103】
そして、この状態で樹脂を硬化させて光学補償層23を形成すると、上記のように光学補償層23には境界面で反射される光の割合を低減させる効果があるため、柱状結晶の側壁6a1で反射される光の割合が低減されてしまい、光が柱状結晶の外に漏れ出し易くなってしまう。そして、光が柱状結晶から漏れ出すと、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光Lが面方向に拡散してしまい、結局、得られる放射線画像が鮮鋭性が高くならなくなる可能性が高くなるという問題が生じる。
【0104】
そこで、例えば、光学補償層23となる樹脂を塗布する際に、或いは塗布した後で、樹脂を増粘させたり、或いは、毛細管現象によって蛍光体6aの柱状結晶同士の隙間に入り込まない程度の粘度を有する樹脂を用いるようにすることが可能である。
【0105】
また、例えば図18に示すように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分を被覆する薄膜のコート層25を形成しておき、その状態で、図19に示すように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが平坦化層21の方向を向く状態でシンチレータ6を配置するように構成することも可能である。
【0106】
このように構成すれば、図19に示すように、光学補償層23を形成する樹脂が、毛細管現象によって蛍光体6aの柱状結晶同士の隙間に入り込むことがコート層25により防止される。そのため、上記のように、蛍光体6aの柱状結晶内で発光した光が柱状結晶から漏れ出て面方向に拡散して放射線画像の高鮮鋭化が阻害されることを的確に防止することが可能となる。
【0107】
また、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分にコート層25を設ける場合、コート層25の屈折率n25が、蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6aと光学補償層23の屈折率n23のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下とされることが好ましい。
【0108】
このように構成すれば、蛍光体6aの柱状結晶とコート層25との屈折率の差や、コート層25と光学補償層23との屈折率の差が小さくなり、蛍光体6a内で発光した光が蛍光体6aの柱状結晶とコート層25との境界面や、コート層25と光学補償層23との境界面で反射される度合が小さくなる。
【0109】
そのため、上記の本実施形態と同様に、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光が面方向に反射される度合が低減される。そのため、鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能となる。また、シンチレータ5の蛍光体6a内で発光した光Lのうちの多くの割合が、多重反射されずに最短距離で光電変換素子15に到達する状態になる。そのため、光電変換素子15に到達する光量にほとんど損失が生じない状態とすることが可能となり、画像取得の感度を向上させることが可能となる。
【0110】
また、コート層25を形成する場合、コート層25をポリパラキシリレンで形成することが好ましい。ポリパラキシリレンの屈折率nは約1.6であるため、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶をCsI:Tl(屈折率n6aは約1.8)で形成し、光学補償層23を例えばアクリル樹脂(屈折率n21は約1.5)で形成する場合、屈折率に関する上記の条件を満たされる。
【0111】
なお、上記の実施形態や変形例では、光学補償層23を1層として形成する場合について説明したが、光学補償層23をより多くの層で形成することも可能である。
【0112】
また、その他、本発明の有益な効果がさらに効果的に発揮されるようにするために種々の改良を加えることは適宜行われる。
【符号の説明】
【0113】
1 放射線画像検出器
3 放射線検出パネル
4 素子基板
4a 上面(一方の面)
5 シンチレータ基板
5a 下面(一方の面)
6 シンチレータ
6a 蛍光体
15 光電変換素子
21 平坦化層
22 接着剤
23 光学補償層
25 コート層
C 内部空間
L 光
n6a 蛍光体の柱状結晶の屈折率
n21 平坦化層の屈折率
n23 光学補償層の屈折率
n25 コート層の屈折率
Pa 先端
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出パネルおよび放射線画像検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、入射した放射線をシンチレータで可視光等の光に変換し、変換された光を、基板上に二次元状に配列されたフォトダイオード等の複数の光電変換素子で検出する放射線検出パネルを用いた放射線画像検出器(Flat Panel Detector(FPD)ともいう。)が開発されている。そして、光電変換素子で入射した光を電荷に変換し、発生した電荷を取り出すことで、被写体を介して照射された放射線に担持された情報を電気信号として検出するように構成される。
【0003】
そして、放射線画像検出器では、例えばガラス基板上に複数の光電変換素子を二次元状に配列させて素子基板を形成し、その上方にシンチレータを配置して放射線検出パネルが形成される場合がある(例えば特許文献2、3等参照)。
【0004】
具体的には、例えば、図20に示すように、複数の光電変換素子101が配列された素子基板102の上方から、蛍光体103aの柱状結晶からなるシンチレータ103が一面側に形成されたシンチレータ基板104を貼り合わせる等して、放射線検出パネル100が形成される場合がある。
【0005】
なお、図20では、シンチレータ103の蛍光体103aの柱状結晶の先端Paが、光電変換素子101を被覆するたとえば樹脂製の平坦化層105の表面に当接する状態になるようにシンチレータ103を配置し、シンチレータ103や光電変換素子101の外側の周囲の部分に配置された接着剤106によって素子基板102とシンチレータ基板104とが貼り合わされた状態が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−219538号公報
【特許文献2】米国特許第6172371号明細書
【特許文献3】特開2010−43887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、放射線検出パネル100を図20に示したように形成する場合、シンチレータ103の蛍光体103aの柱状結晶の先端Paが素子基板102の平坦化層105の表面に当接する部分を拡大すると、図21に示すような状態になっている。そして、蛍光体103aの柱状結晶の先端Paの部分は略円錐状になっている。
【0008】
そして、蛍光体103aの柱状結晶の略円錐状の先端Paが平坦化層105の表面に当接する状態になっており、蛍光体103aの柱状結晶と平坦化層105との間には、空気Ai(或いは低真空)の層が介在する状態になっている。
【0009】
このような状態の放射線検出パネル100や放射線画像検出器に放射線が照射されると、照射された放射線がシンチレータ103に到達し、シンチレータ103の蛍光体103a内で放射線が光Lに変換されて発光する。そして、光Lは、蛍光体103aの柱状結晶内を、平坦化層105や光電変換素子101の方向に伝播する。
【0010】
しかし、この場合、蛍光体103a内を伝播した光Lの一部L1が、蛍光体103aの柱状結晶の先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1で蛍光体103a内に反射される。また、蛍光体103aから空気Ai内に進入した光Lは、今度は、その一部L2が、平坦化層105の表面で反射される。
【0011】
そして、蛍光体103a内で発光した光Lが蛍光体103aの先端Pa部分の壁面Pa1や平坦化層105の表面等で反射されると、光Lの一部L1、L2が蛍光体103aの柱状結晶の延在方向に直交する方向(図20や図21では左右方向。以下、素子基板102やシンチレータ基板104が延在する方向という意味で面方向という。)にも伝播する状態になる。
【0012】
放射線画像検出器や放射線検出パネル100では、本来、蛍光体103a内で発光した光Lがその直下(図20や図21では当該蛍光体103aの下方)の光電変換素子101に入射することで鮮鋭性が高い放射線画像が得られる。
【0013】
しかし、上記のように、蛍光体103a内で発光した光Lが反射されて面方向に伝播する度合が増すと、当該蛍光体103aの直下の光電変換素子101で受光されるべき光Lの一部が他の光電変換素子101で受光される状態になる。そのため、得られる放射線画像が必ずしも鮮鋭性が十分に高くならない可能性があった。
【0014】
また、上記のように蛍光体103aの柱状結晶の先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1で反射した光L1や、平坦化層105の表面で反射された光L2は、さらにその先で蛍光体103aの壁面等に反射される。そして、このようにして多重反射が繰り返されることになる。
【0015】
このように多重反射が繰り返されると、反射された光のうち蛍光体103a等で吸収される分量が多くなる。そのため、結局、最初に蛍光体103a内で発光した光Lのうち、光電変換素子101に到達する光量に損失が生じてしまい、画像取得の感度が低下するという現象が生じてしまうといった問題もあった。
【0016】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、シンチレータの蛍光体内で発光した光が面方向に反射される度合を低減させて、高感度でかつ鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能な放射線検出パネルおよび放射線画像検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の問題を解決するために、本発明の放射線検出パネルは、
一方の面に複数の光電変換素子が二次元状に配列され、前記複数の光電変換素子上に平坦化層が形成された素子基板と、
蛍光体の柱状結晶で形成されており、放射線を光に変換して前記光電変換素子に照射するシンチレータが一方の面に形成されたシンチレータ基板と、
を備え、
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端が前記平坦化層の方向を向く状態で、前記素子基板と前記シンチレータ基板とが貼り合わされて形成され、
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分と前記平坦化層との間に、前記蛍光体の屈折率と前記平坦化層の屈折率のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率を有する光学補償層が形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の放射線画像検出器は、上記の本発明の放射線検出パネルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のような方式の放射線検出パネルおよび放射線画像検出器によれば、シンチレータの蛍光体の柱状結晶と光学補償層との屈折率の差、および光学補償層と平坦化層との屈折率の差が小さくなり、照射された放射線により蛍光体内で発光した光が蛍光体の柱状結晶と光学補償層との境界面や光学補償層と平坦化層との境界面で反射される度合が小さくなる。
【0020】
そのため、シンチレータの蛍光体内で発光した光が面方向に反射される度合が低減されるため、当該蛍光体の直下の光電変換素子以外の光電変換素子で受光されることが抑制される。また、反射光が蛍光体等で吸収されることも的確に防止される。そのため、当該蛍光体の直下の光電変換素子に光のほとんどの量が的確に入射される状態になり、高感度でかつ鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る放射線画像検出器の外観を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】素子基板上の構成を示す平面図である。
【図4】放射線検出パネルの各入出力端子にフレキシブル回路基板が圧着され、素子基板の下面側に引き回されてPCB基板と圧着されて接続された状態を示す図である。
【図5】シンチレータの蛍光体の柱状結晶の構成およびシンチレータの支持体への貼付を説明する模式図である。
【図6】図2における放射線検出パネルの拡大断面図である。
【図7】外力による素子基板とシンチレータ基板との接近に抗して両方の基板の間隔を確保するスペーサの機能を説明する図である。
【図8】図6等の拡大図であり、シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分と平坦化層との間に光学補償層が形成されていることを説明する図である。
【図9】放射線検出パネルの製造方法を示すフローチャートである。
【図10】接着剤が開口部を有する状態で各光電変換素子の周囲の部分に配置された状態で素子基板とシンチレータ基板とが仮貼り合わせされた状態を表す図である。
【図11】放射線検出パネルの製造に用いられるチャンバの構成例を説明する図である。
【図12】チャンバ基台とフィルムとの間の空間が減圧され基板と支持体とが貼り合わされる状態を説明する図である。
【図13】接着剤が水平方向に押し広げられて開口部が封止される状態を表す図である。
【図14】放射線画像検出器の製造方法を示すフローチャートである。
【図15】図8においてシンチレータの蛍光体の柱状結晶と光学補償層との境界面や光学補償層と平坦化層との境界面で反射される光等を説明する図である。
【図16】シンチレータの蛍光体の柱状結晶同士の間に隙間が形成されていることを表す図である。
【図17】光学補償層を形成する樹脂が毛細管現象によりシンチレータの蛍光体の柱状結晶同士の隙間に入り込んだ状態と表す図である。
【図18】シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分を被覆するコート層を表す図である。
【図19】コート層により樹脂が毛細管現象によってシンチレータの蛍光体の柱状結晶同士の隙間に入り込むことが防止された状態を表す図である。
【図20】放射線検出パネルの従来の構成例を表す拡大断面図である。
【図21】図20の拡大図であり、シンチレータの蛍光体内で発光した光が面方向に反射されることを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る放射線検出パネルおよび放射線画像検出器の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
なお、以下では、放射線画像検出器が持ち運び可能な可搬型に形成されている場合について説明するが、本発明は、例えば支持台等と一体的に形成された、いわゆる専用機型の放射線画像検出器およびそれに用いられる放射線検出パネルに対しても適用することが可能である。
【0024】
また、以下では、放射線検出パネル3や放射線画像検出器1における各部材の相対的な位置関係、特に相対的な上下関係について、後述する図1や図2等に示すように、放射線画像検出器1の筐体2の放射線入射面X側を上側に向け、筐体2における放射線入射面Xとは反対側の面Y側を下側に向けて配置した場合の位置関係に基づいて説明する。
【0025】
[放射線検出パネルや放射線画像検出器の構成等について]
図1は、本実施形態に係る放射線画像検出器の外観を示す斜視図であり、図2は、図1のA−A線に沿う断面図である。図1や図2に示すように、放射線画像検出器1では、筐体2内に放射線検出パネル3が収納されて構成されている。
【0026】
筐体2は、カーボン板やプラスチック等の材料で形成されている。なお、図1や図2では、筐体2がフレーム板51とバック板52とで形成された、いわば弁当箱型である場合が示されているが、筐体2を一体的に形成するいわゆるモノコック型とすることも可能である。また、筐体2の側面部分には、LED等で構成されたインジケータ53や蓋54、外部の装置と接続される端子55、電源スイッチ56等が配置されている。
【0027】
筐体2の内部には、図2に示すように、放射線検出パネル3が内蔵されている。放射線検出パネル3は、ガラス基板で形成された素子基板4と、ガラス基板の下面にシンチレータ6が形成されたシンチレータ基板5とが接着剤22を介して貼り合わされ、それらが図示しない鉛の薄板等を介して基台7の上面側に配置され、基台7の下面側に、電子部品8等が配設されたPCB基板9やバッテリ10等が取り付けられて形成されている。
【0028】
図3は、素子基板4上の構成を示す平面図である。素子基板4の上面(すなわちシンチレータ6側の面)4a上には、複数の配線、すなわち複数の走査線11と複数の信号線12とが互いに交差するように配設されている。また、複数のバイアス線13が、複数の信号線12と平行に配置されていて、各光電変換素子15に接続されている。そして、本実施形態では、各バイアス線13は、素子基板4上の一方側の端部で1本の結線14により結束されている。
【0029】
素子基板4の上面4a上の走査線11と信号線12により区画された各小領域Rには、光電変換素子15がそれぞれ設けられており、各光電変換素子15が素子基板4の上面4a上に二次元状に配列されている。また、各光電変換素子15には、バイアス線13を介して逆バイアス電圧が印加されるようになっている。
【0030】
本実施形態では、光電変換素子15としてフォトダイオードが用いられている。また、図3に示すように、各光電変換素子15にはそれぞれスイッチ手段として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor。以下TFTという。)16が設けられている。
【0031】
また、各走査線11や各信号線12、バイアス線13の結線14は、素子基板4の上面4a上の各光電変換素子の外側の部分までそれぞれ延設されており、各走査線11や各信号線12、バイアス線13の結線14には、各光電変換素子14の周囲の部分に入出力端子(パッド等ともいう。)18がそれぞれ設けられている。
【0032】
各入出力端子18には、図4に示すように、フレキシブル回路基板(Chip On Film等ともいう。)19が異方性導電接着フィルム(Anisotropic Conductive Film)や異方性導電ペースト(Anisotropic Conductive Paste)等の異方性導電性接着材料20を介して圧着されている。また、フレキシブル回路基板19は、素子基板4の下面4b側に引き回されており、下面4b側でPCB基板9とフレキシブル回路基板19とが圧着されて接続されるようになっている。
【0033】
また、図4に示すように、複数の光電変換素子15等の部分には、それらによる表面の凹凸を平坦化するための平坦化層21が、透明な樹脂等が塗布されて形成されている。平坦化層21は、例えば透明な、すなわちシンチレータ6の蛍光体6aから出力される光を透過するアクリル樹脂等で形成される。なお、図4では、シンチレータ6のほか、電子部品8等(図2参照)の図示が省略されている。
【0034】
シンチレータ6(図2参照)は、放射線入射面X側から入射した放射線を光に変換して各光電変換素子15に照射するものであり、蛍光体を主たる成分とする。本実施形態では、シンチレータ6として、入射したX線等の放射線を、波長が300nm〜800nmの光に変換するものが用いられるようになっている。蛍光体としては、例えばCsI:Tl等の母体材料内に発光中心物質が付活されたものが好ましく用いられる。
【0035】
シンチレータ6は、本実施形態では、図5に示すように、各種高分子材料により形成された支持体6bの上に、例えば気相成長法により蛍光体6aを成長させて形成されたものであり、蛍光体6aの柱状結晶からなっている。気相成長法としては、蒸着法やスパッタ法等が好ましく用いられる。
【0036】
そして、蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが下側、すなわち素子基板4の複数の光電変換素子15や平坦化層21の方向を向くように、支持体6bがガラス基板の下面5a側に貼付されるようになっている。本実施形態では、このようにしてシンチレータ基板5が形成されている。
【0037】
一方、本実施形態では、放射線検出パネル3は、図6に示すように、シンチレータ基板5が、シンチレータ6の蛍光体6aの鋭角状の先端Paが複数の光電変換素子15や平坦化層21に対向するように素子基板4の上方から素子基板4に載置されて形成されている。
【0038】
なお、図6において、放射線検出パネル3の各部材の相対的な大きさや厚さ、部材間の間隔等は、必ずしも現実の放射線検出パネル3の構造を反映するものではない。また、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paを含む部分と平坦化層21との間に、光学補償層23が形成されているが、この点については後で詳しく説明する。
【0039】
本実施形態では、素子基板4とシンチレータ基板5との間隙部分であって、各光電変換素子15やシンチレータ6等の周囲の部分に、接着剤22が配置されており、この接着剤22によって、素子基板4とシンチレータ基板5とが貼り合わされるようになっている。
【0040】
接着剤22は、各光電変換素子15やシンチレータ6の周囲の全周にわたって配置されており、素子基板4とシンチレータ基板5と接着剤22とで、外部から区画された内部空間Cが形成されている。そして、本実施形態では、内部空間Cの内部圧力が大気圧より低くなるように、内部空間Cが減圧されている。
【0041】
このように内部空間Cの内部が減圧されるように構成することで、図7に示すように、素子基板4やシンチレータ基板5が外部の気圧すなわち大気圧により外側から内部空間C側に向けて常時押圧された状態となる。そのため、本実施形態では、大気圧により押圧されることで、素子基板4とシンチレータ基板5が離間することが抑制されるようになっている。
【0042】
また、大気圧により押圧された素子基板4とシンチレータ基板5の端部同士が接近し過ぎないようにするために、本実施形態では、図7に示すように、接着剤22の中に、例えば球形状のスペーサSが含まれるようになっている。
【0043】
[光学補償層について]
図6や図8等に示すように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paを含む部分(以下、先端Pa部分という。)と平坦化層21との間には、光学補償層23が形成されている。
【0044】
本実施形態では、光学補償層23は、図8に示すように、少なくとも蛍光体6aの柱状結晶の各先端Paを含む柱状結晶の各先端Pa部分における略円錐状の各壁面Pa1部分と、平坦化層21の表面とに、それぞれ接触するように形成されている。その際、光学補償層23は、各壁面Pa1部分や平坦化層21に、空気(或いは低真空)が介在しない状態で接触する状態、すなわち密接する状態とされている。
【0045】
光学補償層23は、放射線の照射によりシンチレータ6の蛍光体6aで発光した光が光学補償層23や平坦化層21を介して光電変換素子15に到達するようにするために透明であり、光の透過率が90%以上の高透過率であることが好ましい。
【0046】
また、本実施形態では、素子基板4(図6参照)には光電変換素子15等が形成されており、シンチレータ基板5にはシンチレータ6の発光が放射線入射面X側(図1や図2参照。図6では図中上側)に漏出しないようにするために図示しない反射層が設けられている。そのため、本実施形態では、光学補償層23を、例えば紫外線硬化型の樹脂で形成すると、光電変換素子15や反射層等のために樹脂に紫外線を照射することが難しくなり、樹脂を硬化させることが困難になる。
【0047】
そこで、本実施形態では、光学補償層23は、熱硬化性の樹脂で形成されている。熱硬化性の樹脂としては、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が好ましく用いられる。
【0048】
なお、熱硬化性の樹脂を硬化させて光学補償層23を形成することについては、後述する放射線検出パネル3等の製造方法の中で説明する。また、光学補償層23を、硬化させた樹脂等の固体で形成する代わりに、透明な液体やゲル状物質で形成することも可能である。この場合も、液体やゲル状物質からなる光学補償層23が、図8に示すように少なくともシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の各先端Pa部分と平坦化層21の表面とにそれぞれ密接する状態に形成される。
【0049】
一方、光学補償層23は、その屈折率n23が、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6aと平坦化層21の屈折率n21のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率となるように形成されている。
【0050】
本実施形態では、前述したようにシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶としてCsI:Tlが用いられており、その屈折率n6aは約1.8である。また、平坦化層21を形成するアクリル樹脂の屈折率n21は約1.5である。そこで、本実施形態では、光学補償層23は、その屈折率n23が1.5〜1.8の範囲になるように形成されている。
【0051】
なお、光学補償層23をこのように形成することによる作用等については、放射線検出パネル3や放射線画像検出器1の製造方法を説明した後で説明する。また、図8等では、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが平坦化層21に当接するように記載されているが、蛍光体6aの先端Paと平坦化層21とが許容される距離の範囲内で離れていてもよい。そして、その場合にはそれらの間隙部分が光学補償層23で満たされる状態とされる。
【0052】
[放射線検出パネルや放射線画像検出器の製造方法について]
ここで、放射線検出パネル3や放射線画像検出器1の製造方法について説明する。
【0053】
放射線検出パネル3は、例えば図9に示すフローチャートに従って製造することができる。すなわち、放射線検出パネル3の製造方法では、まず、上記のように、素子基板4の上面4aに二次元状に配列された各光電変換素子15上に形成された平坦化層21上に、光学補償層23となる透明な熱硬化性の樹脂を塗布する樹脂塗布工程(ステップS1)が行われる。
【0054】
なお、素子基板4の平坦化層21上に樹脂を塗布する代わりに、シンチレータ基板5上に形成されたシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分に透明な熱硬化性の樹脂を塗布してもよい。
【0055】
そして、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが素子基板4の各光電変換素子15に対向する状態で、素子基板4上にシンチレータ基板5を配置して、シンチレータ6を各光電変換素子15上に配置するシンチレータ配置工程(ステップS2)が行われる。その際、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが、まだ軟らかい樹脂に差し込まれる状態になり、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と平坦化層21との間に、光学補償層23となる樹脂が充填される。
【0056】
この状態で、放射線検出パネル3を適度な温度に加熱して、熱硬化性の樹脂を硬化させる。このようにして、蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と平坦化層21との間に光学補償層23が形成される。なお、この熱硬化性の樹脂の硬化は、後述する減圧貼り合わせ工程(ステップS4)の後等に行ってもよい。また、その場合、このシンチレータ配置工程(ステップS2)では、熱硬化性の樹脂を適度に硬化させる仮硬化処理を行うように構成することも可能である。
【0057】
そして、この状態の放射線検出パネル3に対して、図6や図7に示したように、素子基板4とシンチレータ基板5との間隙部分の、各光電変換素子15やシンチレータ6等の周囲の部分に、接着剤22やスペーサSを含む接着剤22を挿入して、素子基板4とシンチレータ基板5とを接着剤22を介して仮貼り合わせする仮貼り合わせ工程(ステップS3)が行われる。
【0058】
その際、接着剤22を、各光電変換素子15やシンチレータ6の周囲の全周にわたって配置するのではなく、例えば図10に示すように、内部空間Cとその外側の空間とを連通する開口部24が接着剤22部分に単数或いは複数形成されるように配置することが好ましい。
【0059】
続いて、前述したように、素子基板4とシンチレータ基板5と接着剤22とで形成される内部空間Cを減圧した状態で素子基板4とシンチレータ基板5とを貼り合わせる減圧貼り合わせ工程(ステップS4)が行われるが、ここで、減圧貼り合わせ工程等に用いられるチャンバ30の構成等について説明する。なお、減圧貼り合わせ工程等の工程については、本願出願人が先に提出した前記特許文献3等に詳しく記載されており、詳しくは当該公報等を参照されたい。
【0060】
この場合、接着剤22としては、例えば紫外線等の光が照射されると硬化する光硬化型の樹脂で形成された接着剤が用いられる。本実施形態では、紫外線硬化型の接着剤を用いる場合について説明するが、他の波長の光で硬化する接着剤を用いることも可能である。また、接着剤22として熱硬化性の樹脂等を用いることも可能である。
【0061】
図11に示すように、チャンバ30は、底部が平面状に形成された載置台31や、フィルム32や、蓋部材33等で構成されている。そして、載置台31と蓋部材33の各側面にはOリング状のシール部材34a、34bがそれぞれ配設されており、蓋部材33が設置されると各シール部材34a、34bで上下からフィルム32を挟持した状態で、チャンバ30内が密閉されるようになっている。フィルム32は、紫外線を透過し、伸縮性を有する素材で形成されている。
【0062】
載置台31の底部には、図示しない開口部を介して減圧用ポンプ35が取り付けられている。また、蓋部材33の内部には紫外線照射装置36が取り付けられており、蓋部材33には図示しない開口部を介してポンプ37が取り付けられている。なお、ポンプ37は必ずしも設けられなくてもよく、単なる開口とすることも可能である。
【0063】
減圧貼り合わせ工程(ステップS4)では、上記のようにして接着剤22を介して仮貼り合わせされた素子基板4とシンチレータ基板5とをチャンバ30の載置台31上に載置し、その上方からフィルム32を載置して蓋部材33を設置する。
【0064】
なお、図11では素子基板4がシンチレータ基板5の下側に配置されるように載置する場合が示されているが、それらの上下関係は逆でもよい。また、前述したように、内部空間C内の空気が湿気を含んでいると、湿気によりシンチレータ6の蛍光体6aに含まれる成分が潮解して溶け出すため、この時点で、例えば、チャンバ30内の空気、或いは少なくとも放射線検出パネル3を含むチャンバ30の載置台31とフィルム32との間の空間(以下、下方空間R1という。図11参照)内の空気をドライエアや不活性ガスで置換することが好ましい。
【0065】
続いて、この状態で、減圧用ポンプ35を作動させて、放射線検出パネル3を含むチャンバ30内の下方空間R1を減圧する。この場合、例えば、下方空間R1内の圧力(すなわち放射線検出パネル3の内部空間C内の圧力)が大気圧より低い、例えば0.2気圧〜0.5気圧になるように減圧される。
【0066】
この場合、チャンバ30内部のフィルム32の上側の空間(以下、上方空間R2という。図11参照)は大気圧のままである。或いは、ポンプ37を作動させて、上方空間R2の圧力を調整するように構成してもよい。その場合、上方空間R2の圧力が下方空間R1の圧力よりも高くなるように調整される。
【0067】
そして、チャンバ30の下方空間R1を減圧していくと、図11に示した状態から、図12に示すように放射線検出パネル3のシンチレータ基板5の上方からフィルム32が張り付くように変わり、放射線検出パネル3は、フィルム32を介して上方から上方空間R2の圧力で押圧されて、素子基板4とシンチレータ基板5とが貼り合わされる。
【0068】
その際、上記の仮貼り合わせ工程(ステップS3)で図10に示したように接着剤22を開口部24が形成された状態に配置しておくと、上記の過程で、放射線検出パネル3の内部空間Cの内部の気体が接着剤22の開口部24から引き出され、内部空間Cの内部の圧力が減圧される。
【0069】
また、予め開口部24の開口の大きさを適切な大きさに形成しておくと、図13に示すように、上方空間R2からの圧力によってシンチレータ基板5と素子基板4とが互いに接近する際に、接着剤22が水平方向に押し広げられて、いわば自動的に開口部24が封止される。なお、開口部24が自動的に封止されない場合には、改めて開口部24に接着剤22等を塗布して封止してもよい。
【0070】
そして、この状態で(図12参照)、チャンバ30内の紫外線照射装置36から紫外線を照射し、接着剤22を硬化させて、素子基板4とシンチレータ基板5とを貼り合わせる。そして、開口部24が封止されるため、内部空間Cが大気圧より減圧された状態で密閉される。
【0071】
なお、接着剤22の硬化をより確実にするために、上記の紫外線の照射後に、さらに放射線検出パネル3を加熱して、接着剤22を焼成させる等の処理を行うように構成することも可能である。その際、熱硬化性の樹脂を硬化させて形成した光学補償層23が、接着剤22の焼成の際にガラス転移しないようにするために、光学補償層23を形成する熱硬化性の樹脂は、接着剤22のガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する材料で形成されていることが好ましい。
【0072】
次に、放射線画像検出器1は、上記のようにして製造された放射線検出パネル3を用いて、例えば図14に示すフローチャートに従って製造される。
【0073】
すなわち、上記の製造方法(ステップS1〜S4)を用いて製造された放射線検出パネル3の素子基板4の入出力端子18(図4参照)に、前述したように異方性導電接着フィルムを貼付したり異方性導電ペーストを塗布する等してフレキシブル回路基板19を圧着するフレキシブル回路基板圧着工程(ステップS5)が行われる。
【0074】
そして、入出力端子18にフレキシブル回路基板19を圧着すると、入出力端子18とフレキシブル回路基板19との通電を検査する検査工程等が行われ、素子基板4やシンチレータ基板5の不要な部分を切り落とす等の処理が行われる。そして、図4等に示したように、基台7の上面に素子基板4の下面4bを接着する等して放射線検出パネル3が基台7に固定され、また、基台7の下面側に、電子部品8等が配設されたPCB基板9が取り付けられる。
【0075】
そして、フレキシブル回路基板19が素子基板4の下面4b側に引き回されて、下面4b側でPCB基板9上の端子に圧着されて接続される(ステップS6:モジュール形成工程)。そして、フレキシブル回路基板19を介してPCB基板9上の各電子部品と素子基板4上の各光電変換素子15やTFT16とが接続されているか否かや、放射線検出パネル3が的確に動作するか否か等の検査等が行われる。
【0076】
そして、上記のようにしてモジュール化された放射線検出パネル3が、図2等に示したように筐体2内に収納されて(ステップS7:モジュール収納工程)、放射線画像検出器1が製造される。
【0077】
[光学補償層の作用等について]
次に、本実施形態に係る放射線検出パネル3や放射線画像検出器1の作用について説明する。
【0078】
本実施形態では、上記のように、シンチレータ基板5に設けられたシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と、素子基板4に設けられた平坦化層21との間に、光学補償層23が形成されている。そして、光学補償層23の屈折率n23が、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6aと平坦化層21の屈折率n21のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率とされている。
【0079】
具体的には、本実施形態では、光学補償層23の屈折率n23が、平坦化層21を形成するアクリル樹脂の屈折率n21(約1.5)以上で、CsI:Tlで形成されているシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6a(約1.8)以下、すなわち1.5〜1.8の範囲の屈折率とされている。
【0080】
このように構成することで、光学補償層23が以下のように作用するようになる。
【0081】
前述した図21に示した従来の放射線検出パネル100やそれを備える放射線画像検出器のように、シンチレータ103の蛍光体103aの柱状結晶の先端Paと平坦化層105との間の間隙部分が空気や低真空の層Aiである場合、空気や低真空の層Ai(以下、単に空気層Aiという。)の屈折率nAiは約1.0である。そして、よく知られているように、光は、2層の各屈折率の違いが大きいほど、それらの境界面で大きく反射される。すなわち、反射される光の量が大きくなる。
【0082】
従来の放射線検出パネル100等の場合、放射線画像検出器に照射された放射線がシンチレータ103の蛍光体103aに到達して、蛍光体103a内で放射線が光Lに変換されて発光し、発光した光Lが蛍光体103aの柱状結晶内を光電変換素子101の方向に伝播する。そして、光Lは、まず、蛍光体103aの柱状結晶と空気層Aiとの境界面(すなわち先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1)に到達する。
【0083】
すると、蛍光体103aの柱状結晶では屈折率n103aが約1.8であるのに対し、空気層Aiの屈折率nAiは約1.0であり、屈折率が大きく変わる。そのため、蛍光体103a内を伝播した光Lの一部L1がこれらの境界面で反射される。
【0084】
そして、その残りの光Lが空気層Aiに進入して、平坦化層105に到達する。しかし、ここでも、空気層Aiの屈折率nAiが約1.0であるのに対し、平坦化層105の屈折率n105は約1.5であり、屈折率が比較的大きく変わる。そのため、平坦化層105に到達した光Lのうち、一部の光L2がこれらの境界面(すなわち平坦化層105の表面)で反射される。
【0085】
このように、従来の放射線検出パネル100等では、シンチレータ103の蛍光体103a内で発光した光Lが、蛍光体103aの柱状結晶と空気層Aiとの境界面や、空気層Aiと平坦化層105との境界面で反射される。そして、それらの反射光が、素子基板102やシンチレータ基板104の延在方向すなわち面方向に伝播するため、蛍光体103aの直下の光電変換素子101に入射すべき光Lのうち、他の光電変換素子101で受光される反射光が多くなる可能性があった。そのため、得られる放射線画像が必ずしも十分に鮮鋭性が高くならなくなる可能性が生じていた。
【0086】
また、上記のように蛍光体103aの柱状結晶の先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1で反射した光L1や、平坦化層105の表面で反射された光L2は、さらにその先で蛍光体103aの壁面等に反射され、多重反射が繰り返される。そして、光は蛍光体103a内や平坦化層105内等を進行するうちに、蛍光体6aや平坦化層105等によって吸収される。
【0087】
そのため、上記のように多重反射を繰り返して、光が反射されながら蛍光体103a内や平坦化層105内等を進行する距離が長くなることにより、反射された光のうち蛍光体103a等で吸収される分量が多くなる。そのため、結局、最初に蛍光体103a内で発光した光Lのうち、光電変換素子101に到達する光量に損失が生じてしまい、画像取得の感度が低下するという現象が生じてしまうといった問題もあった。
【0088】
それに対し、本実施形態では、図8等に示したように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と平坦化層21との間に、上記のような光学補償層23を形成する。この場合、光学補償層23の屈折率n23を仮に1.6として説明する。
【0089】
すると、本実施形態では、シンチレータ6の蛍光体6aの屈折率n6a(約1.8)と光学補償層23の屈折率n23(1.6)との間にあまり差がない。そのため、図15に示すように、蛍光体6a内で発光して伝播した光Lが光学補償層23との境界面(すなわち先端Pa部分の略円錐状の壁面Pa1)に到達すると、光Lのうちの一部L1が境界面で反射されるが、反射される割合は、上記の従来の放射線検出パネル100等の場合に比べて非常に小さくなる。
【0090】
そして、残りの大きい割合の光Lが光学補償層23に進入して、平坦化層21に到達するが、光学補償層23の屈折率n23(1.6)と平坦化層21の屈折率n21(約1.5)との間にはほとんど差がない。そのため、平坦化層21に到達した光Lのうち、一部の光L2がこれらの境界面(すなわち平坦化層21の表面)で反射されるとしても、反射される割合は、上記の従来の放射線検出パネル100等の場合に比べて格段に小さくなる。
【0091】
このように、本実施形態に係る放射線検出パネル3や放射線画像検出器1では、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光Lが、蛍光体6aの柱状結晶と光学補償層23との境界面や、光学補償層23と平坦化層21との境界面で反射される割合が低減される。
【0092】
そのため、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光Lが面方向に反射される度合が低減され、当該蛍光体6aの直下の光電変換素子15に入射すべき光Lのうちのほとんどが当該光電変換素子15に入射される状態になる。そのため、鮮鋭性が高く放射線画像を得ることが可能となる。
【0093】
また、本実施形態に係る放射線検出パネル3や放射線画像検出器1では、このように反射される反射光L1、L2の割合が減り、最初に蛍光体6a内で発光した光Lのうちの多くの割合が、多重反射されずに図15に示したような経路をたどって最短距離で光電変換素子15に到達する状態になる。そのため、光電変換素子15に到達する光量にほとんど損失が生じない状態とすることが可能となり、画像取得の感度を向上させることが可能となる。
【0094】
以上のように、本実施形態に係る放射線検出パネル3および放射線画像検出器1によれば、シンチレータ基板5に設けられたシンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分と、素子基板4上に設けた平坦化層21との間に、光学補償層23を形成し、さらに、光学補償層23の屈折率n23が、蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6aと平坦化層21の屈折率n21のうち、小さい方の屈折率以上であり、かつ、大きい方の屈折率以下となるように構成した。
【0095】
そのため、蛍光体6aの柱状結晶と光学補償層23との屈折率の差や、光学補償層23と平坦化層21との屈折率の差が小さくなり、照射された放射線により蛍光体6a内で発光した光Lが蛍光体6aの柱状結晶と光学補償層23との境界面や、光学補償層23と平坦化層21との境界面で反射される度合が小さくなる。
【0096】
そのため、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光Lが面方向に反射される度合が低減される。そのため、当該蛍光体6aの直下の光電変換素子15以外の光電変換素子15で受光されることが抑制され、当該蛍光体6aの直下の光電変換素子15に光Lのほとんどの量が的確に入射される状態になる。
【0097】
そのため、本実施形態に係る放射線検出パネル3や放射線画像検出器1を用いて放射線画像を行うことにより、高感度でかつ鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能となる。
【0098】
なお、光学補償層23を形成する樹脂が、例えば、硬化する際に収縮し易いものであったり、温度が高くなると膨張し易いものであるような場合、光学補償層23が収縮したり膨張したりする際に、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶に対して面方向に力が加わる状態になる。そして、その力によって柱状結晶が破壊されてしまう可能性が生じる。
【0099】
そこで、光学補償層23を形成する樹脂としては、硬化収縮率や線膨張係数が低いものを用いることが好ましい。
【0100】
[蛍光体にコート層を形成する変形例について]
また、図8や図15等では、シンチレータ6の蛍光体6aの各柱状結晶が、隣接する柱状結晶と隙間なく形成されているように記載されているが、実際には、図16に示すように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶同士の間には隙間が形成されている。
【0101】
そして、柱状結晶の屈折率と隙間(すなわち空気や低真空)の屈折率とに差があるため、蛍光体6aの柱状結晶内で発光した光が、柱状結晶の側壁6a1で反射されるようになり、柱状結晶の外に漏れ出しにくくなるといった効果がある。
【0102】
しかし、例えば、上記のように、素子基板4上に形成された平坦化層21上に光学補償層23となる樹脂を塗布し(図9のステップS1)、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが平坦化層21の方向を向く状態でシンチレータ6を配置する場合(ステップS2)、図17に示すように、樹脂が、毛細管現象によって柱状結晶同士の隙間に入り込んでしまう場合がある。
【0103】
そして、この状態で樹脂を硬化させて光学補償層23を形成すると、上記のように光学補償層23には境界面で反射される光の割合を低減させる効果があるため、柱状結晶の側壁6a1で反射される光の割合が低減されてしまい、光が柱状結晶の外に漏れ出し易くなってしまう。そして、光が柱状結晶から漏れ出すと、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光Lが面方向に拡散してしまい、結局、得られる放射線画像が鮮鋭性が高くならなくなる可能性が高くなるという問題が生じる。
【0104】
そこで、例えば、光学補償層23となる樹脂を塗布する際に、或いは塗布した後で、樹脂を増粘させたり、或いは、毛細管現象によって蛍光体6aの柱状結晶同士の隙間に入り込まない程度の粘度を有する樹脂を用いるようにすることが可能である。
【0105】
また、例えば図18に示すように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分を被覆する薄膜のコート層25を形成しておき、その状態で、図19に示すように、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Paが平坦化層21の方向を向く状態でシンチレータ6を配置するように構成することも可能である。
【0106】
このように構成すれば、図19に示すように、光学補償層23を形成する樹脂が、毛細管現象によって蛍光体6aの柱状結晶同士の隙間に入り込むことがコート層25により防止される。そのため、上記のように、蛍光体6aの柱状結晶内で発光した光が柱状結晶から漏れ出て面方向に拡散して放射線画像の高鮮鋭化が阻害されることを的確に防止することが可能となる。
【0107】
また、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶の先端Pa部分にコート層25を設ける場合、コート層25の屈折率n25が、蛍光体6aの柱状結晶の屈折率n6aと光学補償層23の屈折率n23のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下とされることが好ましい。
【0108】
このように構成すれば、蛍光体6aの柱状結晶とコート層25との屈折率の差や、コート層25と光学補償層23との屈折率の差が小さくなり、蛍光体6a内で発光した光が蛍光体6aの柱状結晶とコート層25との境界面や、コート層25と光学補償層23との境界面で反射される度合が小さくなる。
【0109】
そのため、上記の本実施形態と同様に、シンチレータ6の蛍光体6a内で発光した光が面方向に反射される度合が低減される。そのため、鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能となる。また、シンチレータ5の蛍光体6a内で発光した光Lのうちの多くの割合が、多重反射されずに最短距離で光電変換素子15に到達する状態になる。そのため、光電変換素子15に到達する光量にほとんど損失が生じない状態とすることが可能となり、画像取得の感度を向上させることが可能となる。
【0110】
また、コート層25を形成する場合、コート層25をポリパラキシリレンで形成することが好ましい。ポリパラキシリレンの屈折率nは約1.6であるため、シンチレータ6の蛍光体6aの柱状結晶をCsI:Tl(屈折率n6aは約1.8)で形成し、光学補償層23を例えばアクリル樹脂(屈折率n21は約1.5)で形成する場合、屈折率に関する上記の条件を満たされる。
【0111】
なお、上記の実施形態や変形例では、光学補償層23を1層として形成する場合について説明したが、光学補償層23をより多くの層で形成することも可能である。
【0112】
また、その他、本発明の有益な効果がさらに効果的に発揮されるようにするために種々の改良を加えることは適宜行われる。
【符号の説明】
【0113】
1 放射線画像検出器
3 放射線検出パネル
4 素子基板
4a 上面(一方の面)
5 シンチレータ基板
5a 下面(一方の面)
6 シンチレータ
6a 蛍光体
15 光電変換素子
21 平坦化層
22 接着剤
23 光学補償層
25 コート層
C 内部空間
L 光
n6a 蛍光体の柱状結晶の屈折率
n21 平坦化層の屈折率
n23 光学補償層の屈折率
n25 コート層の屈折率
Pa 先端
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に複数の光電変換素子が二次元状に配列され、前記複数の光電変換素子上に平坦化層が形成された素子基板と、
蛍光体の柱状結晶で形成されており、放射線を光に変換して前記光電変換素子に照射するシンチレータが一方の面に形成されたシンチレータ基板と、
を備え、
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端が前記平坦化層の方向を向く状態で、前記素子基板と前記シンチレータ基板とが貼り合わされて形成され、
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分と前記平坦化層との間に、前記蛍光体の屈折率と前記平坦化層の屈折率のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率を有する光学補償層が形成されていることを特徴とする放射線検出パネル。
【請求項2】
前記光学補償層は、透明な熱硬化性の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出パネル。
【請求項3】
前記素子基板と前記シンチレータ基板とは、前記素子基板と前記シンチレータ基板の間隙部分であって、かつ、前記各光電変換素子および前記シンチレータの周囲の部分に配置された接着剤により貼り合わされており、
前記光学補償層は、前記接着剤のガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する熱硬化性の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の放射線検出パネル。
【請求項4】
前記光学補償層は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の放射線検出パネル。
【請求項5】
前記光学補償層は、透明な液体またはゲル状物質で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出パネル。
【請求項6】
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分を被覆するコート層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の放射線検出パネル。
【請求項7】
前記コート層と前記平坦化層との間に前記光学補償層が形成されており、
前記コート層の屈折率が、蛍光体の柱状結晶の屈折率と前記光学補償層の屈折率のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下とされていることを特徴とする請求項6に記載の放射線検出パネル。
【請求項8】
前記コート層は、ポリパラキシリレンで形成されていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の放射線検出パネル。
【請求項9】
前記素子基板と前記シンチレータ基板とは、前記素子基板と前記シンチレータ基板の間隙部分であって、かつ、前記各光電変換素子および前記シンチレータの周囲の部分に配置された接着剤により貼り合わされており、
前記素子基板、前記シンチレータ基板および前記接着剤により外部から区画された内部空間の内部圧力が、大気圧より低くなるように減圧されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の放射線検出パネル。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の放射線検出パネルを備えることを特徴とする放射線画像検出器。
【請求項1】
一方の面に複数の光電変換素子が二次元状に配列され、前記複数の光電変換素子上に平坦化層が形成された素子基板と、
蛍光体の柱状結晶で形成されており、放射線を光に変換して前記光電変換素子に照射するシンチレータが一方の面に形成されたシンチレータ基板と、
を備え、
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端が前記平坦化層の方向を向く状態で、前記素子基板と前記シンチレータ基板とが貼り合わされて形成され、
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分と前記平坦化層との間に、前記蛍光体の屈折率と前記平坦化層の屈折率のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下の屈折率を有する光学補償層が形成されていることを特徴とする放射線検出パネル。
【請求項2】
前記光学補償層は、透明な熱硬化性の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出パネル。
【請求項3】
前記素子基板と前記シンチレータ基板とは、前記素子基板と前記シンチレータ基板の間隙部分であって、かつ、前記各光電変換素子および前記シンチレータの周囲の部分に配置された接着剤により貼り合わされており、
前記光学補償層は、前記接着剤のガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する熱硬化性の樹脂で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の放射線検出パネル。
【請求項4】
前記光学補償層は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の放射線検出パネル。
【請求項5】
前記光学補償層は、透明な液体またはゲル状物質で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出パネル。
【請求項6】
前記シンチレータの蛍光体の柱状結晶の先端部分を被覆するコート層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の放射線検出パネル。
【請求項7】
前記コート層と前記平坦化層との間に前記光学補償層が形成されており、
前記コート層の屈折率が、蛍光体の柱状結晶の屈折率と前記光学補償層の屈折率のうち、小さい方の屈折率以上で大きい方の屈折率以下とされていることを特徴とする請求項6に記載の放射線検出パネル。
【請求項8】
前記コート層は、ポリパラキシリレンで形成されていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の放射線検出パネル。
【請求項9】
前記素子基板と前記シンチレータ基板とは、前記素子基板と前記シンチレータ基板の間隙部分であって、かつ、前記各光電変換素子および前記シンチレータの周囲の部分に配置された接着剤により貼り合わされており、
前記素子基板、前記シンチレータ基板および前記接着剤により外部から区画された内部空間の内部圧力が、大気圧より低くなるように減圧されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の放射線検出パネル。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の放射線検出パネルを備えることを特徴とする放射線画像検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−237562(P2012−237562A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104869(P2011−104869)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
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