説明

放射線検出器

【課題】光伝播の異方性を有する相分離構造体をタイリングしてシンチレータ層を形成したフラットパネルディテクタにおいて、隣接する相分離構造体間の隙間が撮影画像に与える影響を抑制することを可能とした放射線検出器を提供することを目的とする。
【解決手段】多数の画素から成る二次元受光素子と、該二次元受光素子の受光面上に複数のシンチレータ結晶体を二次元状に配置したシンチレータ層とから構成される放射線検出器であって、該シンチレータ結晶体が該二次元受光素子の受光面に対して垂直方向に延びる多数の柱状晶をなす屈折率n1の材料から成る第一の結晶相と、該柱状晶間に存在する屈折率n2の材料から成る第二の結晶相の2相から構成されており、隣接する該シンチレータ結晶体間にn1≦n3≦n2或いはn2≦n3≦n1を満たす屈折率n3の材料が配置されていることを特徴とする放射線検出器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシンチレータを用いた放射線検出器に関するものであり、特にフラットパネルディテクタと呼ばれる二次元放射線検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被写体に放射線を照射し、透過した放射線を検出することで像を得る放射線撮影において、検出した放射線を電気信号に変換して像を得るデジタルラジオグラフィ(DR)が普及している。一般にDRでは、二次元状に配列した画素から成る受光素子と、受光素子面上に配置されたシンチレータ層から構成されるフラットパネルディテクタ(FPD)が使用されている。用途にもよるが、多くの場合FPDには数10cm四方以上の広い撮像エリアが求められるため、シンチレータ層は大面積に形成する必要がある。このため大面積に形成可能な真空蒸着法や、シンチレータ粒子を分散させたバインダー剤を塗布する塗布法を用いてシンチレータ層は形成される。特にヨウ化セシウムを蒸着することで形成したシンチレータ層は、ヨウ化セシウムを針状結晶として成長させることで、針状結晶内でのライトガイド効果により所謂クロストークが抑制されるため、高い位置分解能が得られる利点を有している。しかし実際には所々で隣接する針状結晶が癒着しているため、更に高い位置分解能を得るためには屈折率の異なる2つの結晶相が完全に分離した構造体をシンチレータ層とすることで、光伝播により大きな異方性を持たせることが有効である。
【0003】
屈折率の異なる2つの結晶相が完全に分離した構造体(相分離構造体)から成るシンチレータ層を作製するには、シンチレータ結晶を微細加工する手法、共晶組成の2相を一軸方向に相分離して成長させる手法などが考えられる。しかしこれらの手法で数10cm四方の大きな面積を有する相分離構造体を得ることは技術的に困難であり、FPDのシンチレータ層として利用するには定形状に加工した複数の相分離構造体を受光素子面上に敷き詰める(タイリングする)ことで広い撮像エリアを確保する必要がある。この際、加工精度の限界から隣接する相分離構造体間に生じる僅かな隙間が撮影画像に与える影響が無視できないという課題が新たに見出された。即ち、相分離構造体間に生じる隙間の媒質は典型的には空気(屈折率1.0)であるため、相分離構造体との界面(タイリング界面)で生じる全反射の影響によって、相分離構造体で発生したシンチレーション光の伝播特性が局所的に大きく変化してしまう。この結果、隣接する相分離構造体の隙間に対応する画素はシンチレーション光の入射光量が著しく低下するため、隣接する相分離構造体の隙間が欠陥となって撮影画像に現れてしまう。このような欠陥は、タイリング界面に近い位置で多くのシンチレーション光が発生した場合に顕著になる。逆にタイリング界面から遠い位置で多くのシンチレーション光が発生した場合では、相分離構造体の大きな光伝播の異方性によってタイリング界面に到達するシンチレーション光が少ないため、欠陥も顕著にはならない。つまり、実際に被写体を撮像した場合は被写体毎に明部・暗部の場所が異なるため、欠陥の撮影画像に与える影響度が異なることとなり、このような欠陥を画像補正によって較正するには被写体毎に高度な補正技術が要求されると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の課題を鑑みて、光伝播の異方性を有する相分離構造体をタイリングしてシンチレータ層を形成したFPDにおいて、隣接する相分離構造体間の隙間が撮影画像に与える影響を、高度な画像補正を行わずに抑制することを可能とした放射線検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段は、多数の画素から成る二次元受光素子と、該二次元受光素子の受光面上に複数のシンチレータ結晶体を二次元状に配置したシンチレータ層とから構成される放射線検出器であって、該シンチレータ結晶体が該二次元受光素子の受光面に対して垂直方向に延びる多数の柱状晶をなす屈折率n1の材料から成る第一の結晶相と、該柱状晶間に存在する屈折率n2の材料から成る第二の結晶相の2相から構成されており、隣接する該シンチレータ結晶体間にn1≦n3≦n2或いはn2≦n3≦n1を満たす屈折率n3の材料が配置されていることを特徴とする放射線検出器である。
【0006】
また、前記第一の結晶相と前記第二の結晶相の2相から成るシンチレータ結晶体において、屈折率の高い材料から成る結晶相がシンチレータとして機能することを特徴とする放射線検出器である。
【0007】
また、前記第一の結晶相がNaClを主成分とする結晶相であり、前記第二の結晶相がCsIを主成分とする結晶相であることを特徴とする放射線検出器である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、大きな光伝播の異方性を有する相分離構造体をタイリングしてシンチレータ層を形成したFPDにおいて、隣接する相分離構造体間の隙間が撮影画像に与える影響を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の放射線検出器の模式図
【図2】相分離構造を有するシンチレータ結晶体の一例を示す模式図
【図3】NaCl-CsI相分離シンチレータ結晶体の模式図
【図4】幾何光学シミュレーションのモデル図
【図5】幾何光学シミュレーションから算出したライン照度分布
【図6】受光面の模式図
【図7】伝播損失の屈折率n3による変化
【図8】本発明の放射線検出器の概要を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を用いて本発明を実施するための形態を説明する。尚、本発明を実施するための形態としては、様々な形態(様々な構成や、様々な材料)があるが、全ての実施形態に共通することは、2つの結晶相を有し、一方の結晶相と、一方の結晶相よりも屈折率が大きい他方の結晶相との2相を備える相分離構造を有するシンチレータ結晶体が、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とに他方の結晶相が露出する部分を有し、 他方の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることである。これによって、高屈折率の結晶相内の光は、高屈折率相の周りに位置する低屈折率の結晶相によって全反射され、結果、高屈折率結晶内を導波されながら進む。その際、高屈折率の結晶相は、第一の主面と第二の主面とに露出するとともに、この露出部がつながっているため、導波(光ガイディング)は、第一の主面または第二の主面に向けて行われる。これらは換言すると、シンチレータ結晶体内で生じた光は、より屈折率の大きい他方の結晶相内に閉じ込められながら(つまり光が広がることなく)、第一の主面または第二の主面に向けて進行するといえる。このようにして、本発明の全ての実施形態は、シンチレータ結晶体自体が、導波機能(光ガイディング機能)を有する。尚、ここで、図8に示すように、例えば第一の主面81とは、基板83に設けられた光検出器84に対向する面であり、第二の主面82とは、X線等の放射線が入射する面である。これによって、シンチレータ結晶体85で発生した光を光検出器に向けて導波(光ガイディング)することが可能となり、光の利用効率の優れたシンチレータ結晶体の提供と、これを用いた、高輝度、高解像度の放射線検出器の提供が可能となる。
【0011】
尚、以下に説明する各実施形態においては、低屈折率相である一方の結晶相も、第一の主面と第二の主面とに露出する部分を有し、これら露出部がつながっている構成が好ましい。これによって、高屈折率相である他方の結晶相内の光を、より確実に、第一の主面または第二の主面に、広がることなく導波(光ガイディング)することが可能となる。
【0012】
また、低屈折率相である一方の結晶相が、高屈折率相である他方の結晶相中に位置している構成が好ましい。これによって、シンチレータ結晶体における低屈折率相である一方の結晶相が占める割合を抑えながら、十分な導波機能(光ガイディング機能)を得ることができる。
【0013】
以下に本発明の実施の形態について述べる。本発明の放射線検出器は図1のように多数の画素から成る二次元受光素子11の受光面上に相分離構造を有する複数のシンチレータ結晶体12を二次元状に配置してタイリングすることでシンチレータ層を形成している。
【0014】
本発明に関わる相分離構造を有するシンチレータ結晶体の一例を図2に示す。図2は一方向性を有する多数の柱状晶からなる屈折率n1である第一の結晶相(シリンダー)21を、屈折率n2である第二の結晶相(マトリックス)22の中に有する相分離構造を有するシンチレータ結晶体である。また第一の結晶相及び第二の結晶相の何れか一方の屈折率の高い結晶相が放射線励起によって発光するシンチレータ材料から成っている。従ってn1>n2である場合には、シリンダー部分からシンチレーション光が発生し、シリンダーとマトリックス界面における全反射によりシリンダー内に光が閉じ込められて伝播するため、シリンダー方向に対して光伝播の大きな異方性が発現する。一方n1<n2である場合には、マトリックス部分からシンチレーション光が発生し、マトリックスとシリンダー界面における全反射が生じる。この結果、垂直方向に延びる多数のシリンダーによってマトリックス内で光の横方向への広がりが抑制されて伝播するため、シリンダー内に光が閉じ込められる場合には及ばないが光伝播の異方性が発現する。
【0015】
図2のような相分離構造を有するシンチレータ結晶体を作製するには、シンチレータ結晶を微細加工する手法、共晶組成の2相を一軸方向に相分離して成長させる手法などがあるが、何れの手法も大面積のシンチレータ結晶体を得ることは技術的に困難である。このため、本発明の放射線検出器では定形状に加工したシンチレータ結晶体を図1のようにタイリングすることで広い撮像エリアを確保している。この際、隣接するシンチレータ結晶体12間に屈折率n3の樹脂13を介在させてタイリングすることで、隣接するシンチレータ結晶体間12に生じる僅かな隙間を屈折率n3の樹脂13で充填している。ここで、隣接するシンチレータ結晶体12間に介在させる媒質としては、屈折率n3が第一の結晶相の屈折率n1及び第二の結晶相の屈折率n2の間の値であって、シンチレーション光を吸収しない媒質であれば樹脂以外のものであっても構わない。シンチレーション光を吸収しない媒質とは、具体的には第一の結晶相及び第二の結晶相のうちシンチレータとして機能する結晶相の媒質と同程度の透過率を有する媒質を意味する。
【0016】
図1のように隣接するシンチレータ結晶体12間に屈折率n3の樹脂13が介在することで、樹脂を介在させない場合に比べてタイリング界面における屈折率差が少なくなる。この結果、タイリング界面で生じる全反射が減少してシンチレーション光の伝播特性が局所的に大きく変化することが抑制される。即ちタイリングすることによる撮影画像への影響を抑制することが可能となる。
【実施例1】
【0017】
本実施例は、相分離構造を有するシンチレータ結晶体をタイリングさせた場合において、隣接するシンチレータ結晶体間の隙間が撮影画像に与える影響を幾何光学的なシミュレーションから見積もったことに関するものである。
【0018】
本実施例では、第一の結晶相がNaCl(屈折率n1=1.55)であり第二の結晶相がCsI(屈折率1.78)である2つの結晶相から構成されるNaCl-CsI相分離シンチレータ結晶体について計算を行った。具体的には、シンチレータ結晶体の構造はNaCl31部分の直径を2um、周期32を4umの三角格子配列とした図3のような構造とし、マトリックス部分のCsI33からシンチレーション光が発生することとした。更に図4で示すように、W×D×H=500um×1000um×500umの2つのシンチレータ結晶体41を40umの隙間42を介して配置し、シンチレータ結晶体41の上面43から放射線が入射し、下面44に配置した受光面45でシンチレーション光を検出するとした。また、上面43にはシンチレーション光を反射する反射面46を設け、シンチレーション光はシンチレータ結晶体41から等方的に発生するとした。また、シンチレーション光の光束には、放射線の吸収を考慮して上面から下面に向かって指数関数的に減衰するように強度分布を持たせた。隙間42の屈折率を1.0とした場合の受光面における照度分布を幾何光学に基づいて算出した結果を図5に示す。図5は1040um×1000umの受光面45に対して、図6で示すように受光面中心を原点61としてX軸とY軸をとった際の、Y=0(-150um≦X≦150um)におけるライン照度分布である。ここではY=0上において10um×10umの領域毎に照度を算出してプロットしており、最大照度に対してデータの規格化を行っている。図5より隙間42の周辺領域の照度はほぼ一定であるが、隙間42に対応した領域の照度が大きく低下しており、タイリング界面で生じる全反射の影響によってシンチレーション光の入射光量が低下していることが確認できる。また、図5において最も低い照度をαとした際の(1−α)がシンチレータ結晶体間の隙間が撮影画像に与える影響の目安(伝播損失)と考えられる。図5の場合、1―α=0.525=52.5%となることから、隙間に対応した領域は隙間の無い領域に比べて52.5%の伝播損失を引き起こすことになる。
【0019】
次に、図4において隙間42の媒質の屈折率n3を変化させて上記と同様の計算を行った。図7は伝播損失の屈折率n3による変化である。図7より、隙間42の媒質の屈折率n3によって伝播損失は大きく変化するが、概ね1.55≦n3≦1.78において伝播損失は20%以下に抑制されると同時に、伝播損失に大きな変化が生じない領域となることが確認できる。即ち、隣接するNaCl-CsI相分離シンチレータ結晶体間に1.55≦n3≦1.78を満たす屈折率n3の媒質を介在させてタイリングすることで、タイリングすることによる撮影画像への影響を抑制することが可能となる。
【0020】
屈折率n3の媒質としては、例えばエポキシ樹脂(屈折率1.55〜1.61)、メラミン樹脂(屈折率1.6)、ポリスチレン(屈折率1.6)、塩化ビニリテン樹脂(屈折率1.61)、ポリカーボネート(屈折率1.59)などを用いることが可能である。
【0021】
また、本実施例ではNaCl-CsI相分離シンチレータ結晶体について計算を行ったが、本発明は本実施例に限定されるものではない。具体的には屈折率n3の媒質と、屈折率n1の第一の結晶相及び屈折率n2の第二の結晶相が、n1≦n3≦n2或いはn2≦n3≦n1を満たせばNaCl-CsI相分離シンチレータ以外の相分離構造体を用いても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0022】
本実施例は、本発明の放射線検出器を用いた撮像に関するものである。
まず、NaClを主成分とする第一の結晶相とCsIを主成分とする第二の結晶相から成り、第一の結晶相が直径2um、平均的な周期が4umである柱状晶を成しており、第二の結晶相が柱状晶間に存在するNaCl-CsI相分離シンチレータを作製する。具体的にはNaClとCsIを共晶点における組成で混合し、500℃で加熱熔融した後に一方向性を持って凝固するように冷却して作製する。得られたNaCl-CsI相分離シンチレータをカットし、ラッピングシートを用いて研磨することでW×D×H =5mm×5mm×500umのNaCl-CsI相分離シンチレータ結晶体を2枚用意する。次にこれらを画素ピッチが20umのCCDセンサ上に並べて配置し、CCDセンサに接する面と対向する面側にはアルミ箔を配置し、アルミ箔上からX線を照射して、CCDセンサから取得される画像を評価する。具体的には、CCDセンサ上に2枚のNaCl-CsI相分離シンチレータ結晶体を並べて配置する際、屈折率1.6のエポキシ樹脂をシンチレータ結晶体間に介在させる場合と、介在させない場合について撮影画像を比較する。
両者の撮影画像を比較すると、エポキシ樹脂を介在させない場合の撮影画像には、2枚のシンチレータ結晶体間に相当する領域にライン状に輝度が大きく低下している領域が確認される。つまり、シンチレータ結晶体を並べて配置した際に生じるシンチレータ結晶体間の隙間が撮影画像に影響を与えていると考えられる。一方でエポキシ樹脂を介在させた場合では、ライン状に輝度が低下している領域が目立たなくなっている。つまり、シンチレータ結晶体間の隙間がエポキシ樹脂によって充填されることで、撮影画像への影響が緩和されていると考えられる。
【符号の説明】
【0023】
11 二次元受光素子
12 シンチレータ結晶体
13 樹脂
21 第一の結晶相
22 第二の結晶相
31 NaCl
32 周期
33 CsI
41 シンチレータ結晶体
42 隙間
43 上面
44 下面
45 受光面
46 反射面
61 原点
81 第一の主面
82 第二の主面
83 基板
84 光検出器
85 シンチレータ結晶体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の画素から成る二次元受光素子と、該二次元受光素子の受光面上に複数のシンチレータ結晶体を二次元状に配置したシンチレータ層とから構成される放射線検出器であって、該シンチレータ結晶体が該二次元受光素子の受光面に対して垂直方向に延びる多数の柱状晶をなす屈折率n1の材料から成る第一の結晶相と、該柱状晶間に存在する屈折率n2の材料から成る第二の結晶相の2相から構成されており、隣接する該シンチレータ結晶体間にn1≦n3≦n2或いはn2≦n3≦n1を満たす屈折率n3の材料が配置されていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記第一の結晶相と前記第二の結晶相の2相から成るシンチレータ結晶体において、該2相のうちの屈折率の高い材料から成る結晶相がシンチレータとして機能することを特徴とする請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記第一の結晶相がNaClを主成分とする結晶相であり、前記第二の結晶相がCsIを主成分とする結晶相であることを特徴とする請求項2に記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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