説明

放射線検査装置及び校正方法

【課題】補正データ収集の時間の短縮を図る。
【解決手段】放射線のエネルギーを測定する測定装置を有し、測定装置は、放射線を測定しない場合の出力値をエネルギーの零点として出力させるトリガ発生装置を備え、測定装置は、零点とエネルギーの判明した線源からの放射線のエネルギーの測定点からの補間により、校正される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線検出装置に関するものであり、特にガンマカメラ,SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography),PET(Positron Emission Tomography)等、多チャンネルの放射線検出器を有する放射線検査装置に対するゲイン,オフセットの補正収集の高速化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の装置では、ガンマカメラの検出器にガンマ線を光に変換するNaI(ヨウ化ナトリウム)と光を電気信号に変換する光電子増倍管を組み合わせたものを使用していた。装置では複数の光電子増倍管を用い、光の発生場所、すなわちガンマ線の入射位置を光電子増倍管の出力信号から計算により求める。校正方法は、一般的にはエネルギーの異なる2つの線源を用いて補正用のデータ収集を行うが、測定にかかる時間と手間が増える問題があった。X線測定装置の効率的な校正方法については、US3519821に、放射線源を用いて1つのX線測定装置を校正し、校正した条件を記憶させて、他のX線測定装置で先の記憶させた条件を用いて校正することが記載されている。
【0003】
【特許文献1】US3519821
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回路規模が小さく、フロントエンド回路の数が少ない場合は、個別部品を用いて回路が形成されており、回路の零点のずれは小さく、補正の必要は小さかった。回路規模が大きくなり、多チャンネルのフロントエンド回路が要求されるようになるとASICが使われるようになったが、ASICを用いるとチャンネル間の特性のばらつきが大きくなる。このため、チャネル毎の特性を予め測定し、補正を行うことが必要である。チャネル数が多くなるにつれ長時間の補正データ収集が必要になる。一般的にはエネルギーの異なる2つの線源を用いて補正用のデータ収集を行うが、測定にかかる時間と手間が増える問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、データ収集回路に擬似的なトリガを掛けることで、オフセットのデータ収集を行い、エネルギーの判明した1つの線源の測定結果を組み合わせて校正を行う。
【発明の効果】
【0006】
補正データ収集の時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施例を適宜図面を用いて説明する。なお、実施例はガンマカメラを主体に説明しているが、PETなどでも同様の形態をとることが可能である。
(実施例1)
放射線の利用分野の1つとしてPET,ガンマカメラ,SPECT,X線透視撮影,X線CTなどの画像診断がある。これらの画像診断技術は目的に応じて使い分けられており、たとえばPET装置はがん検診に広く用いられている。
【0008】
ガンマカメラは被験者に放射性薬剤を投与し、それから放出されるガンマ線を計測することで血流量や代謝量などを測定するものである。ガンマカメラの検査に用いられる薬剤は99mTcを含むものが広く用いられているが、その他にも201Tl,123I,67Gaなどを含む薬剤が用いられる。この薬剤の種類により、集積の部位や薬剤の動態が変わるため、さまざまな種類の情報を取得することができる。
【0009】
ガンマカメラはこれらの薬剤から放出されたガンマ線をコリメータを通して撮像する。コリメータは六角柱や四角柱の穴を多数開けた鉛板やピンホールなどを用いて特定の方向のガンマ線のみを透過させるものである。これにより検出器で撮像されたガンマ線が被験者のどの部位から放出されたものであるかを特定する。SPECTはガンマカメラを用いて被験者をさまざまな方向から撮像し、コンピュータで画像再構成することで、断層像を撮像する方法である。
【0010】
従来の装置では、ガンマカメラの検出器にガンマ線を光に変換するNaI(ヨウ化ナトリウム)と光を電気信号に変換する光電子増倍管を組み合わせたものを使用していた。装置では複数の光電子増倍管を用い、光の発生場所、すなわちガンマ線の入射位置を光電子増倍管の出力信号から計算により求める。しかし、ノイズによる誤差の影響のため位置分解能が上がらない問題があった。このため、近年、個別ピクセルを用いたガンマカメラが開発され、位置分解能の向上をもたらした。
【0011】
個別ピクセルを用いたガンマカメラでは、ピクセルごとに読み出し用のフロント回路が必要になり、回路規模が増大する。このため、マトリクス読み出しを行うなど、回路規模を縮小するなどの工夫がなされるが、従来の装置に比べると2〜3桁程度回路規模が増加する。
【0012】
図1に本発明を用いたガンマカメラの一実施例を示す。装置は大きく分けてガンマカメラヘッド1,DAQ7(データ収集装置),制御・表示用PC8からなり、ガンマカメラヘッド1で撮像されたデータはDAQ7を経由して制御・表示用PC8に送られる。ガンマカメラヘッド1からは検出された放射線のイベントごとに位置,検出時間,検出エネルギーを含むデータパケットを生成する。DAQ7はそのデータパケットに対しエネルギーや均一性の補正を行い、データを制御・表示用PC8に転送する。制御・表示用PC8はデータパケット内の検出エネルギーが所定の範囲内であるデータを用いてある位置における放射線のイベントの発生数を求め、画像化する。制御・表示用PC8は初期設定や収集モードにあわせた設定をDAQ7およびガンマカメラヘッド1に対して行う。実施例ではDAQ7とガンマカメラヘッド1を明示的に分離したが、ガンマカメラヘッド1内部にDAQ7を取り込むこともできる。またDAQ7で行う処理の一部を制御・表示用PCにて行うことも可能である。
【0013】
ガンマカメラヘッド1はコリメータ2,検出器搭載基板4,検出器搭載基板4に搭載された放射線検出器3、同じく検出器搭載基板4に搭載されたフロントエンドASIC5,制御用FPGA6で構成される。またガンマカメラヘッド1はコリメータ2および検出器搭載基板4を固定し、また外部からの不要な放射線を遮蔽する筐体(図示せず)を含む。放射線検出器3はSi,CdTe,CZTなどの半導体検出器のほか、シンチレータにフォトダイオードを組み合わせたものが使用できる。
【0014】
図2は検出器搭載基板上に形成された回路の概略である。複数の放射線検出器3がマトリクス上に並んでおり、放射線検出器3の2つの端子のうち、一方を横方向に走る低圧側読み出し線23に、もう一方を高圧側読み出し線24に接続する。低圧側読み出し線23,高圧側読み出し線24とも複数存在し、その組み合わせにより放射線に反応した検出器3を特定する。低圧側読み出し線23は高い抵抗値を持った接地抵抗11を介してグランドに接続される。高圧側読み出し線24は同じく接地抵抗11を介して高圧電源のラインに接続される。放射線検出器3に半導体検出器を用いた場合、検出器は逆バイアスで用いられるため、本実施例では高圧電源のラインは負の電圧となるが、低圧側読み出し線を正の高圧電源に、高圧側読み出し線をグランドに接地してもよい。
【0015】
図3は放射線が検出器に入射した際に読み出し線に発生する信号を示したものである。放射線が放射線検出器3のうちの1つである3aに入射すると、放射線検出器3aは放射線の強さに応じた電気信号を発生する。発生した信号は放射線検出器3aに接続された低圧側読み出し線23bおよび高圧側読み出し線24bで計測され、それ以外の読み出し線は反応しない。信号が検出された読み出し線に共通でつながっている検出器を特定することで信号の入射位置を特定する。エネルギーは2つの読み出し線の信号出力の平均を用いるが、加重平均など別の手法を用いても良い。
【0016】
図2において、低圧側読み出し線23,高圧側読み出し線24ともそれぞれDCカットコンデンサ10を介してフロントエンドASIC5内のフロントエンド回路20に接続される。フロントエンド回路20からは、トリガ信号、および波高値信号が出ており、トリガ信号はトリガ統合回路21にてフロントエンドASIC5内の複数のフロントエンド回路20からの信号をまとめて出力される。また波高値信号はアナログマルチプレクサ22につながっており、フロントエンドASIC5内の複数のフロントエンド回路20からの信号のうち一つが外部からの制御信号により選択され、出力される。
【0017】
トリガ統合回路21から出力された信号は制御用FPGA6内のトリガ検出回路30にて検出される。トリガ検出回路30はフロントエンドASIC5内の複数のトリガ統合回路21,他の複数のASICのトリガ統合回路からの信号を受け取り、優先順位に基づき制御・パケット生成回路32に伝える。制御・パケット生成回路32ではトリガが検出されたチャンネルを特定し、フロントエンドASIC5内のアナログマルチプレクサ22を制御することで所定のチャンネルの波高値信号を出力させ、その波高値信号をADC9にてデジタル値に変換する。その後、チャンネル位置,エネルギーおよび制御用FPGA6が持つタイマーに基づいた検出時刻を含む1つのパケットデータを生成し、後段のDAQ7に転送する。読み出しが終了したチャンネルにはリセット信号を送り、次の信号検出が可能になるようにする。
【0018】
図4はフロントエンド回路の詳細図である。フロントエンド回路20は放射線検出器3に接続されるチャージアンプ40,チャージアンプ40に接続された極性アンプ41,極性アンプ41に接続されたシェーピングアンプ42、および、シェーピングアンプ42に接続されたトリガ回路43,ピークホールド回路44からなる。
【0019】
チャージアンプ40は検出器で発生した電荷信号を電圧信号に変換する。コンデンサによりフィードバックがかかったアンプにより、電荷をコンデンサに蓄積し、それに対応する電圧信号を出力する。アンプを連続して動作させるため、信号に対し十分に長い時間(たとえば100usecから1msec程度)で蓄積した電荷を放電するための抵抗をコンデンサに並列に接続するほか、強制的に電荷を放電させることにより、放射線の入射レートが高い場合においてもアンプを安定させるチャージアンプリセット用スイッチを持つ。
【0020】
極性アンプ41はチャージアンプ40の電圧信号を増幅するほか、低圧側読み出し線23につながったフロントエンド回路20では信号の向きが負になっているため、信号を反転する。
【0021】
シェーピングアンプ42では信号の周波数帯域を制限することで信号のS/Nを向上させる。本実施例ではCR−RCによるバンドパスフィルタの図を示しているが、ガウス型フィルタや台形フィルタといったフィルタ回路を用いても良い。なお、シェーピングアンプ42に関してもチャージアンプ40と同様、放射線の入射レートが高い際にアンプを強制的にリセットし、速やかに定常状態に戻すためのシェーピングアンプリセット用スイッチ46をもつ。
【0022】
トリガ回路43はある基準電圧とシェーピングアンプ42の電圧を比較し、シェーピングアンプ42の電圧のほうが高くなった際に、信号が到達したと判断し、デジタル信号であるトリガを発生する。
【0023】
ピークホールド回路44はシェーピングアンプVref42から出力された電圧のピーク値を読み出しが行われるまで保持する。読み出し後、リセットがかかると、ピークホールド回路リセット用スイッチ47がONされ、保持していた電圧が0に戻り、次の信号のピーク値を保持できるようになる。
【0024】
図5は補正データ収集の手順を示している。補正データの収集では、はじめにエネルギーの分かった基準線源を用いてデータの収集を行う(Step1)。ガンマカメラの場合、線源には実際に検査に使用する99mTcや57Coを使用する。制御・表示用PC8では図6の基準線源のデータ収集に示すように、計測されたデータを用いて、全検出器のチャネルごとのエネルギースペクトルを求める(Step2)。チャネルごとのスペクトルからそれぞれフォトピークの位置を求める(Step3)。
【0025】
次に回路のオフセットを収集する(Step4)。オフセット収集の前にフロントエンド回路20の内、チャージアンプ40のみをリセット状態にする。これにより、回路のノイズが減少し、オフセットの測定が正確に行えるようになる。なお本実施例ではチャージアンプをリセットするが、フロントエンドASICのDC特性に影響を与えない回路、たとえばシェーピングアンプの一部をリセットするようにしても良い。
【0026】
オフセットの収集ではトリガ検出回路に制御・パケット生成回路から擬似的にトリガを入れて強制的に読み出しを行う。この擬似的トリガによる強制的な読み出しは、放射線を測定しない場合の出力値をエネルギーの零点として出力させるトリガ発生装置により行われる。スペクトルの求め方は、トリガを多数発生させ、出力された複数の信号からヒストグラムを作成して求める。この際、読み出し線のうち1本のみからの信号をDAQ7を介して制御・表示用PC8に転送する。次に制御・表示用PC8において、収集されたデータから図7に示すような各読み出しラインのエネルギースペクトルを計算する(Step5)。その後、スペクトルの中心位置を求め(Step6)、検出器毎の各読み出し線のオフセット量を求める(Step7)。線源のエネルギーとして2つの読み出し線の信号の平均を用いている場合、ある検出器のオフセット量として、同じく関係する2つの読み出し線の信号の平均を用いる。エネルギーの計算に別の手法を用いる場合にはそれに応じた計算を行う。このようにマトリクス型の放射線検出器を用いる場合、各検出器の零点は、その点に関与する読み出し線の零点を用いて計算される。
【0027】
求められたフォトピークの位置およびオフセットの位置からチャネルに対する補正データを作成する。図8に示すように、エネルギー0に対応するADC変換値の値であるオフセットと、エネルギーが判明した基準線源のフォトピークのADC変換値が判明すれば補間によりすべてのエネルギーを計算することができる。図では直線での補間を示しているが、線形の線が確保できていない場合は、精度が落ちるものの、非線形の曲線を用いて補間を行うこともできる。
【0028】
求められたフォトピークの位置およびオフセットの位置、もしくは生成された補正データが装置の動作範囲であることを確認し、もし、動作範囲外であれば装置の故障として操作者に通知する。正常な動作範囲は、予め定めた所定の範囲である。正常な動作範囲であれば生成した保管データを制御・表示用PC8に保存し、その後のデータ収集の際に用いる。
【0029】
尚、上述した例では、基準線源を用いたデータ収集をオフセットのデータ収集より前に実行したが、逆の順序でも良い。
【0030】
上述した例では、検出器からの信号読み出し線をマトリクス型の配線としたが、個別の信号読み出し線を設けた個別読み出しとしても良い。
【0031】
放射線のエネルギーを測定する測定装置が、放射線を測定しない場合の出力値をエネルギーの零点として出力するトリガを発生させ、零点とエネルギーの判明した線源からの放射線のエネルギーの測定点からの補間により、校正される校正方法により、補正データ収集の時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態における装置の構成。
【図2】ガンマカメラヘッド部の回路図。
【図3】放射線検出時の信号を示した図。
【図4】フロントエンド回路の詳細図。
【図5】補正データ収集手順。
【図6】基準線源のデータ収集を示す図。
【図7】オフセットのデータ収集を示す図。
【図8】補正の方法。
【符号の説明】
【0033】
1 ガンマカメラヘッド
2 コリメータ
3 放射線検出器
4 検出器搭載基板
5 フロントエンドASIC
6 制御用FPGA
7 DAQ
8 制御・表示用PC
9 ADC
10 DCカットコンデンサ
11 接地抵抗
20 フロントエンド回路
21 トリガ統合回路
22 アナログマルチプレクサ
23 低圧側読み出し線
24 高圧側読み出し線
30 トリガ検出回路
31 ADC制御回路
32 制御・パケット生成回路
40 チャージアンプ
41 極性アンプ
42 シェーピングアンプ
43 トリガ回路
44 ピークホールド回路
45 チャージアンプリセット用スイッチ
46 シェーピングアンプリセット用スイッチ
47 ピークホールド回路リセット用スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線のエネルギーを測定する測定装置を有し、
前記測定装置は、放射線を測定しない場合の出力値をエネルギーの零点として出力させるトリガ発生装置を備え、
前記測定装置は、前記零点とエネルギーの判明した線源からの放射線のエネルギーの測定点からの補間により、校正されることを特徴とする放射線検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置であって、マトリクス型の放射線検出器を用いるものであり、各検出器の零点はその点に関与する読み出し線の零点を用いて計算されることを特徴とする放射線検査装置。
【請求項3】
零点を測定する前に、放射線検出器に接続されるフロントエンド回路の一部をリセット状態にすることを特徴とする請求項1もしくは2記載の放射線検査装置。
【請求項4】
零点を決定する際に、チャネルごとのエネルギースペクトルを計算し、そのピークを補正用の零点とする請求項1もしくは2記載の放射線検査装置。
【請求項5】
出力された零点の位置を確認することにより装置の故障を判定する機構を備えた請求項1ないし2の放射線検査装置。
【請求項6】
放射線のエネルギーを測定する測定装置と、マトリクス型の放射線検出器と、放射線を測定しない場合の出力値をエネルギーの零点として出力させるトリ発生装置を備え、前記測定装置は、各検出器の零点をその点に関与する読み出し線の零点を用いて計算し、前記零点とエネルギーの判明した線源による測定点からの補間により、測定値とエネルギーの関係を校正するガンマカメラ装置。
【請求項7】
請求項1に記載の放射線検査装置は、PET装置であることを特徴とするPET装置。
【請求項8】
放射線のエネルギーを測定する測定装置の校正方法において、
前記測定装置は、放射線を測定しない場合の出力値をエネルギーの零点として出力するためのトリガを入力し、前記零点とエネルギーの判明した線源からの放射線のエネルギーの測定点からの補間により、校正されることを特徴とする校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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