説明

放射線治療装置制御装置および放射線照射方法

【課題】被検体の所定部位を除く部分に照射される治療用放射線の線量をより低減すること。
【解決手段】被検体43を透過する放射線35、36により透過画像を撮影するステップと、その透過画像を用いて被検体43の所定部位の存在確率が所定確率より大きい領域を算出するステップと、その所定部位に所定線量が照射されるように、被検体43に対して固定された治療用放射線23を領域に照射するステップとを備えている。このとき、被検体43が治療用放射線23に照射される期間は、所定部位の一部が治療用放射線23に照射される期間と、その一部が治療用放射線23に照射されない期間とを含んでいる。このような放射線照射方法は、所定部位が配置され得る領域の全部に治療用放射線23を照射することより、その所定部位を除く部分に照射される治療用放射線23の線量をより低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置制御装置および放射線照射方法に関し、特に、患部に放射線を照射することにより患者を治療するときに利用される放射線治療装置制御装置および放射線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患部(腫瘍)に治療用放射線を照射することにより患者を治療する放射線治療が知られている。その患部が移動するときに適用される放射線治療としては、ゲイテッドイラディエイション、動体追尾照射、患部の移動分を考慮してその患部の大きさより広い範囲を照射することが知られている。そのゲイテッドイラディエイションは、観測される患者の運動に基づいて治療用放射線を照射したり照射を停止したりする手法である。このようなゲイテッドイラディエイションは、たとえば、呼吸位相がある状態のときにしか照射しないときに、治療時間が長くなってしまうという欠点があり、患者に負担をかけると共に、医療の効率でも改善が求められている。その動体追尾照射は、患部の位置を観測し、その位置に治療用放射線を照射する手法である。
【0003】
その移動分を考慮してその患部の大きさより広い範囲を照射する放射線治療では、まず、照射すべき部位、すなわち、標的体積(ターゲット)が決定される。その標的体積の決定には、病巣の進展範囲の把握がもっとも重要で、視診、触診はもとより、CT、MRI、消化管造影検査などの各種画像診断、さらには内視鏡所見なども参考にされる。
【0004】
図11は、その標的体積である肉眼的腫瘍体積(GTV;gross tumor volume)と臨床標的体積(CTV;clinical target volume)と内的標的体積(ITV;internal target volume)と計画標的体積(PTV;planning target volume)とを示している。その肉眼的腫瘍体積101は、画像診断、触診、視診により腫瘍が存在すると判断される領域を示している。その腫瘍としては、原発巣、リンパ節転移あるいは、遠隔転移巣が例示される。その臨床的標的体積102は、肉眼的腫瘍体積101と微小部分とを含む領域を示している。その微小部分は、肉眼的腫瘍体積101の周辺の顕微鏡的な進展範囲を示し、または、腫瘍が所属するリンパ節を含んだ領域を示している。その内的標的体積103は、臨床的標的体積102とインターナルマージン(IM;internal margin)とを含む領域を示している。そのインターナルマージンは、臨床的標的体積102の周辺の領域を示し、呼吸、嚥下、心拍動、蠕動などの体内臓器の動きにより、臨床的標的体積102が移動する領域を示している。その計画標的体積104は、内的標的体積103と設定誤差(SM;set−up margin)とを含む領域を示している。その設定誤差は、内的標的体積103の周辺の領域を示し、毎回の照射における領域を示している。このとき、肉眼的腫瘍体積101の体積GTVと臨床標的体積102の体積CTVと内的標的体積103の体積ITVと計画標的体積104の体積PTVとは、根治的な照射で、次不等式:
GTV≦CTV≦ITV<PTV
が常に成立する。
【0005】
放射線治療計画では、リスク臓器(OR;organ at risk)に関しても、患部臓器と同様にして、インターナルマージンと設定誤差とを算出する必要があり、そのリスク臓器にこれらのマージンを付加した計画リスク臓器体積(PRV;planning organ at risk volume)が算出される。実際の治療計画では、計画標的体積104とその計画リスク臓器体積とがオーバーラップすることが起こり、このとき、正常臓器に照射される放射線の線量が耐容線量以下にすることが不可欠である。
【0006】
放射線治療では、患部の細胞に照射される治療用放射線の線量に比較して、正常な臓器(リスク臓器)に照射される治療用放射線の線量をより小さくすることが望まれている。
【0007】
特開2002−186678号公報には、病変部が呼吸性移動によりその位置、あるいは大きさを変更する場合にも、そのような病変部の位置・形状等を正確に反映した放射線治療計画の策定を行うことが可能であり、もってより正確な放射線治療を実施することが可能な放射線治療システムが開示されている。その放射線治療計画システムは、X線シミュレータ、該X線シミュレータにより取得されたX線透視像に基づいて放射線治療計画を策定することの可能な放射線治療計画策定装置、及び放射線治療装置から少なくとも構成される放射線治療システムにおいて、前記X線シミュレータにより所定の時間間隔の間に取得された複数の透視像を記憶する記憶手段と、前記複数の透視像を重ね合わせ表示する画像表示手段と、前記重ね合わせ表示上における目標部位に関し前記放射線治療装置による放射線照射領域を規定するターゲット形状を設定・入力する入力手段と、を有することを特徴としている。
【0008】
特表平08−511452号公報には、ガントリ平面内だけでビームを生じさせる拘束された角度を持った自由度を有する放射線治療装置が開示されている。その放射治療装置は、高エネルギー放射線で患者を治療する放射治療装置であって:ガントリ平面内で回転するガントリ;ガントリの回転内で位置決めされている並進の軸線に沿って配置されていて、患者を支持するため、および並進の軸線に沿って患者を移動させるためのテーブル;ガントリ平面に実質的に平行であるファンビーム平面内の放射線ビームを生じるようにガントリに配置された放射線給源であり、前記ビームが、1つの中央光線の周りでビーム平面内で広がる複数の光線を含み、前記中央光線がガントリ平面に沿ってさまざまなガントリ角度から患者に向けられている放射線給源;および放射線給源と患者との間に配置されていて、ガントリ角度の関数として各光線の強度を独立的に制御する減衰手段を具備している。
【0009】
特開2001−327514号公報には、被検体の呼吸、心拍等に応じて変化する病変部の位置・形状等を正確に反映した設定を行うことができ、もってより緻密かつ正確な放射線治療を実施することが可能な放射線治療計画装置が開示されている。その放射線治療計画装置は、被検体にX線を曝射することにより取得される画像に基づいて放射線治療の計画を策定する放射線治療計画装置において、前記被検体に関する位相データの相違に応じた複数の画像を生成する画像生成手段と、前記画像に対し、当該画像上に存在する目標部位に対するターゲット形状を設定・入力する入力手段と、前記位相データの相違に応じた複数の画像及び前記ターゲット形状を重畳表示する画像表示手段とを有していることを特徴としている。
【0010】
特開平08−089589号公報には、放射線照射領域について動きのある被検体の複数の状態を考慮して治療計画を立てることが可能な放射線治療計画に用いる表示方法が開示されている。その放射線治療計画に用いる表示方法は、複数の異なる状態のそれぞれで得た一連のCT画像を読み込んで放射線照射領域と放射線非照射領域並びに放射線治療パラメータを設定し、放射線照射領域と放射線非照射領域とについて、放射線照射と同じ幾何学条件を用いて照射野面上に投影して、複数の異なる状態における投影形状を生成し、複数の異なる状態毎に生成した放射線照射領域についての投影形状を各照射角度毎に重ね合わせ、各照射角度毎に重ね合わされた放射線照射領域と設定された放射線治療パラメータとにより各照射角度毎の照射野形状を生成し、重ね合わされた放射線照射領域と生成された照射野形状とを各照射角度毎に重ね合わせて表示することを特徴としている。
【0011】
特開平10−146395号公報には、組織領域等のマージンの確定が容易な放射線照射システムが開示されている。その放射線照射システムは、入力された画像データに対して、設定された照射条件や組織領域に基づいて、線量分布の計算を行い照射計画を策定する照射計画装置と、この照射計画装置によって策定された照射計画に基づいて、放射線を照射する放射線照射装置とを有する放射線照射システムにおいて、上記照射計画装置は、上記組織領域の再設定を行う入力手段と、この入力手段から入力された組織領域に基づいて、線量分布の計算を行う演算処理手段と、組織領域の再設定の前に設定された組織領域に対して、上記演算処理手段によって計算された線量分布と、組織領域の再設定の後の組織領域に対して、上記演算処理手段によって計算された線量分布とを並列的に表示する表示手段とから構成されることを特徴としている。
【0012】
特許3810431号公報には、患者の特定のターゲット領域、特に、典型的には球状の形をしたターゲット領域とは対照的に不規則な形をしたターゲット領域上に、定位的放射線手術(または放射線治療)を実行するための装置が開示されている。その装置は、特定のターゲット領域に定位的放射線手術を行う装置であって、前記ターゲット領域は、ターゲットを含み、且つ各々が近傍の基準点を含む周辺領域に対する位置が示されており、(a)搬送機構を備えた放射線ビーム発生器と、(b)ターゲット位置決めビームを生成する手段と、(c)ビーム経路に沿って前記ターゲット領域内に、放射線手術用の放射線ビームを断続的に指向させる第1の手段と、(d)前記ターゲット領域および前記基準点を含む前記周辺領域に複数のターゲット位置決め用放射線ビームを断続的に指向させ、そして、これにより、前記ターゲット位置決めビームが、前記周辺領域を通過した後に、前記周辺領域内での前記基準点の位置を示す位置決めデータが得られるようにする第2の手段と、(e)(i)前記ターゲット位置決めビームから位置決めデータを得て、(ii)このようにして得た位置決めデータを、前回得た基準データと断続的に比較し、(iii)該断続的比較の各々から、このような比較の各々の結果として、前記基準点に対する前記ターゲット領域の位置を決定するように、前記断続的に指向されたターゲット位置決めビームに応答する第3の手段と、(f)(i)断続的な治療期間中に前記放射線手術ビームを前記ターゲット領域に指向させ、断続的なターゲット位置決め期間中に前記ターゲット位置決めビームを前記周辺領域を通して指向させ、(ii)各ターゲット位置決め期間中に、前記位置決めビームから得られた最新の位置決めデータを、その期間中に使用して、前記位置決めデータを基準データと比較し、前記基準点の位置に対する前記ターゲットの位置を決定するように、前記第1の手段、第2の手段および第3の手段を、互いにして協働して作動させる第4の手段と、(g)前記ターゲット位置決め期間内に作動可能であり、該期間内に前記第3の手段によって決定された前記ターゲット領域の位置に応答して、前記放射線手術ビームが、前記ターゲット領域に正確に指向されていることを確実にする第5の手段とを備え、前記第1の手段が、前記ビーム経路を横断する所定経路に沿って前記放射線手術ビームを移動させ、同時に、前記放射線手術ビームを前記ターゲット領域に指向させる手段を含み、これによって、前記所定経路に沿った前記放射線手術ビームの動きの結果として、前記放射線手術ビームを健全な組織の異なった部分を通過させ、さらに、非環状、非直線の前記所定経路を与える手段を備え、これによって、非環状、非線形の経路に沿った前記放射線手術ビームの動きが、非球状ターゲット領域を構成し、前記非環状、非直線の横断経路に沿って前記放射線手術ビームを移動させる手段が、前記放射線ビーム発生器の搬送機構を支持するロボットアームを備え、前記放射線手術ビームが前記横断移動経路から偏向したときに、前記放射線手術ビームの全て動きを停止させ且つ前記放射線手術ビームをオフにする、前記第1の手段とは別の、前記第1の手段から独立した非常停止手段を備え、前記非常停止手段が、前記ロボットアーム以外の固定面に取付けられ信号を送受信する固定取付け信号送信/受信手段と、異なる回毎に異なる位置を有する前記ロボットアームにこれと共に動くように取付けられ前記固定取付け信号送信/受信手段と信号を送受信できる移動可能信号送信/受信手段と、前記固定取付け送信/受信手段と協働し所定時間における前記ロボットアームおよび前記放射線ビーム発生器の搬送機構の位置を連続的に監視する手段と、を含んでおり、前記固定取付け信号送信/受信手段が複数の第1装置を備え、該第1装置の各々が、コード化赤外線信号を送信する手段と、コード化超音波信号を受信する手段とを備え、前記移動可能信号送信/受信手段が、複数の第2装置を備え、該第2装置の各々が、コード化超音波信号を送信する手段と、コード化赤外線信号を受信する手段とを備えている、ことを特徴としている。
【0013】
【特許文献1】特開2002−186678号公報
【特許文献2】特表平08−511452号公報
【特許文献3】特開2001−327514号公報
【特許文献4】特開平08−089589号公報
【特許文献5】特開平10−146395号公報
【特許文献6】特許3810431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、被検体に対して固定された治療用放射線を所定部位に所定線量だけ照射するときに、被検体のうちの所定部位を除く部分に照射される治療用放射線の線量をより低減する放射線治療装置制御装置および放射線照射方法を提供することにある。
本発明の他の課題は、被検体に対して固定された治療用放射線を所定部位に所定線量だけ照射するときに、被検体のうちの所定部位を除く部分に照射される治療用放射線の線量を低減する照射野をより容易に算出する放射線治療装置制御装置および放射線照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以下に、発明を実施するための最良の形態・実施例で使用される符号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を記載する。この符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための最良の形態・実施例の記載との対応を明らかにするために付加されたものであり、特許請求の範囲に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0016】
本発明による放射線治療装置制御装置(2)は、被検体(43)を透過する放射線(35、36)により透過画像を撮影する撮像部(73)と、透過画像を用いて被検体(43)の所定部位の存在確率が所定確率より大きい領域を算出する照射範囲算出部(74)と、所定部位に所定線量が照射されるように、被検体(43)に対して固定された治療用放射線(23)を領域に照射する照射部(75)とを備えている。このとき、被検体(43)が治療用放射線(23)に照射される期間は、所定部位の一部が治療用放射線(23)に照射される期間と、一部が治療用放射線(23)に照射されない期間とを含んでいる。すなわち、その領域は、被検体(43)が治療用放射線(23)に照射される期間が、所定部位の一部が治療用放射線(23)に照射される期間と、その一部が治療用放射線(23)に照射されない期間とを含むように、算出される。所定部位(患部)は、一般に、被検体(43)の運動とともに、移動し、変形する。このとき、放射線治療装置制御装置(2)は、所定部位が配置され得る領域の全部に治療用放射線(23)を照射することより、被検体(43)のうちの所定部位を除く部分に照射される治療用放射線(23)の線量をより低減することができる。
【0017】
透過画像は、被検体(43)が運動する運動周期以上の時間で露光されて撮影される。領域は、透過画像のうちの患部が所定輝度範囲で映し出される部分に基づいて算出される。長時間露光により撮像された透過画像は、患部が映し出される部分の輝度が存在確率に対応する。このとき、放射線治療装置制御装置(2)は、所定部位の存在確率が所定確率より大きい領域は、より容易に算出されることができる。
【0018】
本発明による放射線治療装置制御装置(2)は、被検体(43)を透過する放射線(35、36)により透過画像を撮影する撮像部(73)と、透過画像を用いて被検体(43)の第1部位の存在確率が第1確率より大きい第1領域を算出し、透過画像を用いて被検体(43)の第2部位の存在確率が第2確率より大きい第2領域を算出する照射範囲算出部(74)と、第1部位に所定線量が照射されるように、被検体(43)に対して固定された治療用放射線(23)を第1領域のうちの第2領域を除く領域に照射する照射部(75)とを備えている。被検体(43)が治療用放射線(23)に照射される期間は、第1部位の一部が治療用放射線(23)に照射される期間と、一部が治療用放射線(23)に照射されない期間とを含んでいる。このとき、放射線治療装置制御装置(2)は、第1部位が配置され得る領域の全部に治療用放射線(23)を照射することより、被検体(43)のうちの第1部位を除く部分に照射される治療用放射線(23)の線量をより低減することができ、かつ、第2部位に照射される治療用放射線(23)の線量を所定線量以下にすることができる。
【0019】
本発明による放射線照射方法は、被検体(43)を透過する放射線(35、36)により透過画像を撮影するステップと、透過画像を用いて被検体(43)の所定部位の存在確率が所定確率より大きい領域を算出するステップと、所定部位に所定線量が照射されるように、被検体(43)に対して固定された治療用放射線(23)を領域に照射するステップとを備えている。このとき、被検体(43)が治療用放射線(23)に照射される期間は、所定部位の一部が治療用放射線(23)に照射される期間と、一部が治療用放射線(23)に照射されない期間とを含んでいる。すなわち、その領域は、被検体(43)が治療用放射線(23)に照射される期間が、所定部位の一部が治療用放射線(23)に照射される期間と、その一部が治療用放射線(23)に照射されない期間とを含むように、算出される。所定部位(患部)は、一般に、被検体(43)の運動とともに、移動し、変形する。このような放射線照射方法によれば、所定部位が配置され得る領域の全部に治療用放射線(23)を照射することより、被検体(43)のうちの所定部位を除く部分に照射される治療用放射線(23)の線量をより低減することができる。
【0020】
透過画像は、被検体(43)が運動する運動周期以上の時間で露光されて撮影される。領域は、透過画像のうちの患部が所定輝度範囲で映し出される部分に基づいて算出される。長時間露光により撮像された透過画像は、患部が映し出される部分の輝度が存在確率に対応する。このため、このような放射線照射方法によれば、所定部位の存在確率が所定確率より大きい領域は、より容易に算出されることができる。
【0021】
本発明による放射線照射方法は、被検体(43)を透過する放射線(35、36)により透過画像を撮影するステップと、透過画像を用いて被検体(43)の第1部位の存在確率が第1確率より大きい第1領域を算出するステップと、透過画像を用いて被検体(43)の第2部位の存在確率が第2確率より大きい第2領域を算出するステップと、第1部位に所定線量が照射されるように、被検体(43)に対して固定された治療用放射線(23)を第1領域のうちの第2領域を除く領域に照射するステップとを備えている。このとき、被検体(43)が治療用放射線(23)に照射される期間は、第1部位の一部が治療用放射線(23)に照射される期間と、一部が治療用放射線(23)に照射されない期間とを含んでいる。このような放射線照射方法によれば、第1部位が配置され得る領域の全部に治療用放射線(23)を照射することより、被検体(43)のうちの第1部位を除く部分に照射される治療用放射線(23)の線量をより低減することができ、かつ、第2部位に照射される治療用放射線(23)の線量を所定線量以下にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明による放射線治療装置制御装置および放射線照射方法は、被検体に対して固定された治療用放射線を所定部位に所定線量だけ照射するときに、被検体のうちの所定部位を除く部分に照射される治療用放射線の線量をより低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図面を参照して、本発明による放射線治療システムの実施の形態を記載する。その放射線治療システム1は、図1に示されているように、放射線治療装置制御装置2と放射線治療装置3と呼吸計4とコンピュータ断層撮影装置(CT)5とを備えている。放射線治療装置制御装置2は、パーソナルコンピュータに例示されるコンピュータである。放射線治療装置制御装置2は、双方向に情報を伝送することができるように放射線治療装置3に接続され、双方向に情報を伝送することができるように呼吸計4とコンピュータ断層撮影装置5とに接続されている。
【0024】
呼吸計4は、患者の呼吸量を測定し、その呼吸量を放射線治療装置制御装置2に出力する。その呼吸量は、患者が呼吸することにより変化する量を示し、たとえば、患者の肺に貯められる空気の量を示している。
【0025】
コンピュータ断層撮影装置5は、各方向からX線を人体に透過させて複数の透過画像を撮影し、その複数の透過画像をコンピュータで画像処理してその人体の断面の画像を生成し、その複数の透過画像をコンピュータで画像処理してその人体の内部の状態を示す3次元データを生成する。なお、コンピュータ断層撮影装置5は、人体の内部の3次元の状態を測定する他の装置に置換することでき、たとえば、MRI装置に置換することができる。そのMRI装置は、核磁気共鳴を利用して人体の細胞が有する磁気を検出し、その磁気をコンピュータにより画像化し、その人体の内部の状態を示す3次元データを生成する。
【0026】
図2は、放射線治療装置3を示している。放射線治療装置3は、旋回駆動装置11とOリング12と走行ガントリ14と首振り機構15と治療用放射線照射装置16とを備えている。旋回駆動装置11は、回転軸17を中心に回転可能にOリング12を土台に支持し、放射線治療装置制御装置2により制御されて回転軸17を中心にOリング12を回転させる。回転軸17は、鉛直方向に平行である。Oリング12は、回転軸18を中心とするリング状に形成され、回転軸18を中心に回転可能に走行ガントリ14を支持している。回転軸18は、鉛直方向に垂直であり、回転軸17に含まれるアイソセンタ19を通る。回転軸18は、さらに、Oリング12に対して固定され、すなわち、Oリング12とともに回転軸17を中心に回転する。走行ガントリ14は、回転軸18を中心とするリング状に形成され、Oリング12のリングと同心円になるように配置されている。放射線治療装置3は、さらに、図示されていない走行駆動装置を備えている。その走行駆動装置は、放射線治療装置制御装置2により制御されて回転軸18を中心に走行ガントリ14を回転させる。
【0027】
首振り機構15は、走行ガントリ14のリングの内側に固定され、治療用放射線照射装置16が走行ガントリ14の内側に配置されるように、治療用放射線照射装置16を走行ガントリ14に支持している。首振り機構15は、パン軸21およびチルト軸22を有している。チルト軸22は、走行ガントリ14に対して固定され、回転軸18に交差しないで回転軸18に平行である。パン軸21は、チルト軸22に直交している。首振り機構15は、放射線治療装置制御装置2により制御されて、パン軸21を中心に治療用放射線照射装置16を回転させ、チルト軸22を中心に治療用放射線照射装置16を回転させる。
【0028】
治療用放射線照射装置16は、放射線治療装置制御装置2により制御されて、治療用放射線23を放射する。治療用放射線23は、パン軸21とチルト軸22とが交差する交点を通る直線に概ね沿って放射される。治療用放射線23は、一様強度分布を持つように形成されている。治療用放射線23は、さらに、一部が遮蔽されて治療用放射線23が患者に照射されるときの照射野の形状が制御されている。
【0029】
治療用放射線23は、このように治療用放射線照射装置16が走行ガントリ14に支持されることにより、首振り機構15で治療用放射線照射装置16がアイソセンタ19に向かうように一旦調整されると、旋回駆動装置11によりOリング12が回転し、または、その走行駆動装置により走行ガントリ14が回転しても、常に概ねアイソセンタ19を通る。即ち、走行・旋回を行うことで任意方向からアイソセンタ19に向けて治療用放射線23の照射が可能になる。
【0030】
放射線治療装置3は、さらに、複数のイメージャシステムを備えている。すなわち、放射線治療装置3は、診断用X線源24、25とセンサアレイ32、33とを備えている。診断用X線源24は、走行ガントリ14に支持されている。診断用X線源24は、走行ガントリ14のリングの内側に配置され、アイソセンタ19から診断用X線源24を結ぶ線分とアイソセンタ19から治療用放射線照射装置16を結ぶ線分とがなす角が鋭角になるような位置に配置されている。診断用X線源24は、放射線治療装置制御装置2により制御されてアイソセンタ19に向けて診断用X線35を放射する。診断用X線35は、診断用X線源24が有する1点から放射され、その1点を頂点とする円錐状のコーンビームである。診断用X線源25は、走行ガントリ14に支持されている。診断用X線源25は、走行ガントリ14のリングの内側に配置され、アイソセンタ19から診断用X線源25を結ぶ線分とアイソセンタ19から治療用放射線照射装置16を結ぶ線分とがなす角が鋭角になるような位置に配置されている。診断用X線源25は、放射線治療装置制御装置2により制御されてアイソセンタ19に向けて診断用X線36を放射する。診断用X線36は、診断用X線源25が有する1点から放射され、その1点を頂点とする円錐状のコーンビームである。
【0031】
センサアレイ32は、走行ガントリ14に支持されている。センサアレイ32は、診断用X線源24により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した診断用X線35を受光して、その被写体の透過画像を生成する。センサアレイ33は、走行ガントリ14に支持されている。センサアレイ33は、診断用X線源25により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した診断用X線36を受光して、その被写体の透過画像を生成する。センサアレイ32、33としては、FPD(Flat Panel Detector)、X線II(Image Intensifier)が例示される。
【0032】
このようなイメージャシステムによれば、センサアレイ32、33により得た画像信号に基づき、アイソセンタ19を中心とする透過画像を生成することができる。
【0033】
放射線治療装置3は、さらに、センサアレイ31を備えている。センサアレイ31は、センサアレイ31と治療用放射線照射装置16とを結ぶ線分がアイソセンタ19を通るように配置されて、走行ガントリ14のリングの内側に固定されている。センサアレイ31は、治療用放射線照射装置16により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した治療用放射線23を受光して、その被写体の透過画像を生成する。センサアレイ31としては、FPD(Flat Panel Detector)、X線II(Image Intensifier)が例示される。
【0034】
放射線治療装置3は、さらに、カウチ41とカウチ駆動装置42とを備えている。カウチ41は、放射線治療システム1により治療される患者43が横臥することに利用される。カウチ41は、図示されていない固定具を備えている。その固定具は、その患者が動かないように、その患者をカウチ41に固定する。カウチ駆動装置42は、カウチ41を土台に支持し、放射線治療装置制御装置2により制御されてカウチ41を移動させる。
【0035】
図3は、治療用放射線照射装置16を示している。治療用放射線照射装置16は、電子ビーム加速装置51とX線ターゲット52と1次コリメータ53とフラットニングフィルタ54と線量計61と2次コリメータ55とマルチリーフコリメータ56とを備えている。電子ビーム加速装置51は、電子を加速して生成される電子ビーム57をX線ターゲット52に照射する。X線ターゲット52は、高原子番号材(タングステン、タングステン合金等)から形成され、電子ビーム57が照射された際の制動放射により生成される放射線59を放出する。放射線59は、X線ターゲット52が内部に有する点である仮想的点線源58を通る直線に概ね沿って放射される。1次コリメータ53は、高原子番号材(鉛、タングステン等)から形成され、所望の部位以外に放射線59が照射されないように放射線59を遮蔽する。フラットニングフィルタ54は、アルミニウム等から形成され、概ね円錐形の突起が形成される板に形成されている。フラットニングフィルタ54は、その突起がX線ターゲット側に面するように配置される。フラットニングフィルタ形状は、本フラットニングフィルタを通過した後に、その放射方向に垂直である平面の所定領域における線量が概ね一様に分布するように形成される。2次コリメータ55は、高原子番号材(鉛、タングステン等)から形成され、放射線60が所望の部位以外に照射されないように放射線60を遮蔽する。このようにして形成された一様強度分布を持つ放射線60は、放射線治療装置制御装置2により制御を受けたマルチリーフコリメータ56により、一部が遮蔽されて、別途構築した治療計画に基づく性状である治療用放射線23を生成することになる。すなわち、マルチリーフコリメータ56は、放射線治療装置制御装置2により制御されて、放射線60の一部を遮蔽して治療用放射線23が患者に照射されるときの照射野の形状を制御する。
【0036】
線量計61は、透過する放射線の強度を測定する透過型電離箱であり、放射線60が透過するように、1次コリメータ53と2次コリメータ55との間に配置されている。線量計61は、透過する放射線60の線量を測定し、その線量を放射線治療装置制御装置2に出力する。このような線量計61は、非破壊的検証可能である点で好ましい。なお、線量計61は、透過型電離箱と異なる他のX線強度検出器を適用することもできる。そのX線強度検出器としては、半導体検出器、シンチレーション検出器が例示される。半導体検出器またはシンチレーション検出器は、透過型電離箱のように放射線軌道上に代替設置することが困難であるためにその軌道外に配置することが好ましく、たとえば、アイソセンタ19を隔てて治療用放射線照射装置16に対向する位置に配置されるように走行ガントリ14に固定される。電離箱は、一般に、時定数が数秒程度であり、応答性が悪い。半導体検出器またはシンチレーション検出器は、軌道外に配置されるときに電離箱より信号強度が低いという欠点があるが、電離箱より応答性がよくなり、好ましい。
【0037】
電子ビーム加速装置51は、電子線発生部63と加速管64とを備えている。電子線発生部63は、カソード66とグリッド67とを備えている。加速管64は、円筒形に形成され、その円筒の内部に適切な間隔で並ぶ複数の電極68を備えている。
【0038】
放射線治療装置3は、さらに、図示されていないカソード電源とグリッド電源とクライストロンとを備えている。そのカソード電源は、放射線治療装置制御装置2により制御されて、カソード66が加熱されてカソード66から所定の量の電子が放出されるように(すなわち、カソード66が所定の温度で維持されるように)、カソード66に電力を供給する。そのグリッド電源は、放射線治療装置制御装置2により制御されて、電子線発生部63から所定の量の電子だけが放出されるように、グリッド67とカソード66との間に所定の電圧を印加する。そのクライストロンは、導波管を介して加速管64に接続されている。そのクライストロンは、放射線治療装置制御装置2により制御されて、加速管64が電子線発生部63から放出される電子を所定のエネルギーを有するまで加速するように、その導波管を介して加速管64にマイクロ波を入射する。
【0039】
図4は、放射線治療装置制御装置2を示している。放射線治療装置制御装置2は、コンピュータであり、図示されていないCPUと記憶装置と入力装置と出力装置とインターフェースとを備えている。そのCPUは、放射線治療装置制御装置2にインストールされるコンピュータプログラムを実行して、その記憶装置と入力装置と出力装置とインターフェースとを制御する。その記憶装置は、そのコンピュータプログラムを記録し、そのCPUに利用される情報を記録し、そのCPUにより生成される情報を記録する。その入力装置は、ユーザに操作されることにより生成される情報をそのCPUに出力する。その入力装置としては、キーボード、マウスが例示される。その出力装置は、そのCPUにより生成された情報をユーザに認識可能に出力する。その出力装置としては、そのCPUにより生成された画面を表示するディスプレイが例示される。そのインターフェースは、放射線治療装置制御装置2に接続される外部機器により生成される情報をそのCPUに出力し、そのCPUにより生成された情報をその外部機器に出力する。その外部機器は、放射線治療装置3と呼吸計4とコンピュータ断層撮影装置5とを含んでいる。
【0040】
放射線治療装置制御装置2は、コンピュータプログラムである治療計画部71と照射位置制御部72と撮像部73と照射範囲算出部74と照射部75とを備えている。
【0041】
治療計画部71は、コンピュータ断層撮影装置5により生成された患者43の患部とその患部の周辺の臓器(危険部位を含む)と位置関係を示す3次元データをユーザにより閲覧可能に出力装置に表示する。治療計画部71は、さらに、その3次元データと入力装置を用いて入力される情報とに基づいて、治療計画を作成する。その治療計画は、患者43の患部の3次元データを示し、照射角度と線量との組み合わせを示している。その照射角度は、患者43の患部に治療用放射線23を照射する方向(すなわち、患者43と治療用放射線照射装置16の仮想的点線源58との相対位置)を示し、走行角と旋回角とを示している。その走行角は、走行ガントリ14が走行駆動装置により回転されたときの走行ガントリ14の向きを示している。その旋回角は、Oリング12が旋回駆動装置11により回転されたときのOリング12の向きを示している。その線量は、その各照射角度から患部に照射される治療用放射線23の線量を示している。
【0042】
照射位置制御部72は、患者43と治療用放射線照射装置16の仮想的点線源58との相対位置が治療計画部71により作成された治療計画が示す照射角度に対応するように、カウチ駆動装置42を用いてカウチ41を移動させ、旋回駆動装置11または走行駆動装置を用いて治療用放射線照射装置16を移動させる。
【0043】
撮像部73は、呼吸計4から呼吸量を収集し、その呼吸量に基づいて、患者43が呼吸する呼吸周期を算出する。撮像部73は、放射線治療装置3のイメージャシステムを用いて、患者43の患部の周辺の透過画像を撮像する。その透過画像は、患者43に対して異なる複数の位置から撮像された複数の透過画像を含み、患者43を透過した診断用X線源24、25をその呼吸周期に等しい露光時間で露光して撮像される。なお、露光時間は、その呼吸周期と異なる時間が適用されることもできる。その露光時間としては、その呼吸周期の自然数倍の時間、その呼吸周期より十分に長い時間が例示される。
【0044】
照射範囲算出部74は、撮像部73により撮像された透過画像に基づいて照射範囲を算出する。その照射範囲は、治療計画部71により作成された治療計画が示す照射角度から患者43に治療用放射線23を照射するときの、治療用放射線23の照射野の位置とその照射野の形状とを示している。
【0045】
照射部75は、照射範囲算出部74により算出された照射範囲を治療用放射線23が透過するように、首振り機構15を用いて治療用放射線照射装置16を移動させる。照射部75は、さらに、照射範囲算出部74により算出された照射範囲が示す照射野の形状に治療用放射線23の断面形状が一致するように、マルチリーフコリメータ56を制御する。照射部75は、さらに、治療計画部71により作成された治療計画が示す線量だけ、治療用放射線照射装置16を用いて治療用放射線23を患者43に照射する。
【0046】
図5は、呼吸計4により計測される呼吸量の変化を示している。その変化77は、その呼吸量が呼吸周期78ごとに周期的に変化することを示している。すなわち、撮像部73は、呼吸周期に比較して十分に短い時間ごとに呼吸計4から収集された呼吸量に基づいて変化77を算出し、変化77に基づいて呼吸周期78を算出する。
【0047】
放射線治療装置3のイメージャシステムにより撮像される透過画像は、その透過画像の大きさに比較して十分に小さい複数の画素から形成されている。その画素は、その透過画像にマトリクス状に配置され、それぞれ、撮像した透過画像の濃淡に応じた輝度を示している。図6は、呼吸周期78に比較して十分に短い露光時間で撮像した肺がんの患部の透過画像が示す輝度の輝度分布を示している。その輝度分布81は、その透過画像のうちのその患部が映し出される領域を横切る直線上に配置される画素が示す輝度を示している。輝度分布81は、いわゆるトップフラットの形状を示し、透過画像のうちの患部が映し出される領域の輝度が大きく、透過画像のうちのその領域を除く領域の輝度が小さいことを示している。
【0048】
図7は、呼吸周期78以上の露光時間で撮像した肺がんの患部の透過画像が示す輝度の輝度分布を示している。その輝度分布82は、その透過画像のうちのその患部が映し出される領域を横切る直線上に配置される画素が示す輝度を示している。輝度分布82は、いわゆるトップフラットの形状を示し、透過画像のうちの患部の存在確率が大きい領域の輝度が大きく、透過画像のうちのその領域を除く領域の輝度が小さいことを示している。ある微小領域の患部の存在確率は、呼吸周期78に対して、その患部がその微小領域に存在する時間の割合を示している。輝度分布82は、さらに、輝度分布81より輝度のシャープさが鈍っていることを示し、短時間露光により撮像された透過画像に映し出される患部の輪郭に比較して長時間露光により撮像された透過画像に映し出される患部の輪郭がぼけることを示している。このことは、1つの呼吸周期78の間に、その輪郭の付近に患部が存在したりしていなかったりしていることを示し、輝度が大きいほど患部の存在確率が大きいことを示している。
【0049】
図8は、呼吸周期78に比較して十分に短い露光時間で撮像した一般臓器のガンの患部の透過画像が示す輝度の輝度分布を示している。その輝度分布85は、その透過画像のうちのその患部が映し出される領域を横切る直線上に配置される画素が示す輝度を示している。その一般臓器としては、肝臓、胆嚢、膵臓が例示される。輝度分布85は、透過画像のうちの患部が映し出される領域の輝度が大きく、透過画像のうちのその領域を除く領域の輝度が小さいことを示し、位置に対する輝度の変化が輝度分布81よりなだらかであることを示している。
【0050】
図9は、呼吸周期78以上の露光時間で撮像した一般臓器のガンの患部の透過画像が示す輝度の輝度分布を示している。その輝度分布86は、その透過画像のうちのその患部が映し出される領域を横切る直線上に配置される画素が示す輝度を示している。輝度分布86は、透過画像のうちの患部の存在確率が大きい領域の輝度が大きく、透過画像のうちのその領域を除く領域の輝度が小さいことを示している。輝度分布86は、さらに、輝度分布85より輝度のシャープさが鈍っていることを示し、短時間露光により撮像された透過画像に映し出される患部の輪郭に比較して長時間露光により撮像された透過画像に映し出される患部の輪郭がぼけることを示している。このことは、1つの呼吸周期78の間に、その輪郭の付近に患部が存在したりしていなかったりしていることを示し、輝度が大きいほど患部の存在確率が大きいことを示している。
【0051】
ここで、照射範囲算出部74は、撮像部73により撮像された透過画像をディスプレイに表示し、入力装置がユーザにより操作されることにより入力される情報に基づいて閾値を設定する。照射範囲算出部74は、透過画像のうちの輝度がその閾値より大きい領域を算出する。その領域は、輝度分布82の定義域のうちの輝度が閾値83より大きい範囲84に対応し、輝度分布86の定義域のうちの輝度が閾値87より大きい範囲88に対応する。照射範囲算出部74は、放射線治療装置3のイメージャシステムを用いて、患者43に対して異なる複数の位置から撮像された複数の透過画像に映し出されるその領域の位置と形状とに基づいて、患部の存在確率が所定の確率(たとえば、0.9)より大きい3次元領域を算出する。照射範囲算出部74は、その3次元領域に基づいて照射野を算出し、すなわち、その照射野の位置と形状とを算出する。
【0052】
なお、照射範囲算出部74は、閾値より大きい輝度範囲と異なる輝度範囲で、その領域を透過画像のうちから算出することもできる。一般に、透過画像は、ポジまたはネガの何れを用いるかで濃淡が反転する。たとえば、照射範囲算出部74は、透過画像のうちの患部が映し出される領域の輝度が小さく、透過画像のうちのその領域を除く領域の輝度が大きいときに、ユーザに入力された閾値より輝度が小さい領域をその透過画像のうちから算出して、その照射野の位置と形状とを算出する。このとき、照射範囲算出部74は、その閾値より大きい輝度範囲を用いるときと同様にして、その照射野の位置と形状とを算出することができる。すなわち、その輝度範囲は、透過画像の表現に応じて適宜に設定されることができる。
【0053】
照射範囲算出部74は、さらに、治療用放射線23に照射されるべきでないリスク臓器が患部の近傍に存在するときに、患部と同様にして、そのリスク臓器の存在確率が所定の確率より大きい3次元リスク領域を算出し、その3次元リスク領域に治療用放射線23が照射されないように、その照射野を算出する。
【0054】
図10は、公知の標的体積と照射範囲算出部74により算出される3次元領域との関係を示している。図10の領域91は、公知のITVまたはPTVに相当する。すなわち、領域91は、呼吸(または、嚥下、心拍動、蠕動などの体内臓器の動き)により患部とその周辺領域とが移動する領域に対応し、すなわち、長時間露光により撮像された透過画像に患部が映し出される領域に対応している。領域92は、GTVまたはCTVに相当する。すなわち、領域92は、患部または患部とその周辺領域とに対応し、すなわち、短時間露光により撮像された透過画像に患部が映し出される領域に対応している。すなわち、図10は、領域92が領域91の内部に含まれていることを示している。
【0055】
領域93は、患部の存在確率が所定の確率より大きい3次元領域に対応し、すなわち、長時間露光により撮像された透過画像のうちの輝度が所定の閾値より大きい領域に対応している。領域94は、リスク臓器の存在確率が所定の確率より大きい3次元領域に対応している。領域95は、照射範囲算出部74により算出される照射野に対応している。図10は、その照射野が領域91より小さくなるように、かつ、その照射野が領域94に重なりがないように、かつ、その照射野が領域93をより多く含むように、その照射野が算出されることを示している。
【0056】
本発明による放射線照射方法の実施の形態は、放射線治療システム1を用いて実行され、治療計画を作成する動作と、照射野を同定する動作と、放射線治療する動作とを備えている。
【0057】
その治療計画を作成する動作では、まず、ユーザは、コンピュータ断層撮影装置5を用いて患者43の患部とその患部の周辺の部位との3次元データを採取する。放射線治療装置制御装置2は、コンピュータ断層撮影装置5により生成された3次元データに基づいて、患者43の患部とその患部の周辺の臓器とを示す画像を生成する。ユーザは、放射線治療装置制御装置2を用いてその画像を閲覧し、その患部の位置を特定する。ユーザは、さらに、その画像に基づいて治療計画部71を活用して治療計画を作成し、その治療計画を放射線治療装置制御装置2に入力する。その治療計画は、患者43の患部に治療用放射線23を照射する照射角度と、その各照射角度から照射する治療用放射線23の線量および性状とを示している。その治療計画は、さらに、治療用放射線23を各照射角度から照射するときに、診断用X線35、36を照射する撮像角度を示している。
【0058】
その照射野を同定する動作は、放射線治療する動作の直前に実行される。ユーザは、まず、コンピュータ断層撮影装置5により3次元データを採取したときと同様の姿勢に放射線治療装置3のカウチ41に患者43を固定する。放射線治療装置制御装置2は、その治療計画により示される照射角度で治療用放射線23が患者43に照射されるように、旋回駆動装置11と走行駆動装置とカウチ駆動装置42とを用いて、治療用放射線照射装置16と患者43とを位置合わせする。
【0059】
放射線治療装置制御装置2は、呼吸計4から呼吸量を収集し、その呼吸量に基づいて、患者43が呼吸する呼吸周期を算出する。放射線治療装置制御装置2は、診断用X線源24を用いて診断用X線35を患者43に照射し、センサアレイ32を用いて患者43の患部の透過画像を撮像する。放射線治療装置制御装置2は、さらに、診断用X線源25を用いて診断用X線36を放射し、センサアレイ33を用いて患者43の患部の透過画像を撮像する。その透過画像は、患者43を透過した診断用X線源24、25を所定の露光時間だけ露光して撮像される。
その露光時間は、その呼吸周期の自然数倍の時間に等しく、または、その呼吸周期に比較して十分に長い。なお、放射線治療装置制御装置2は、呼吸計4から呼吸量を収集しながら、その透過画像を撮像することもできる。このとき、放射線治療装置制御装置2は、呼吸計4から収集された呼吸量が所定の確率を示したときに露光を開始し、その呼吸量の変化に基づいて所定の回数(たとえば、1回)だけ呼吸周期を繰り返したことが判断された時に露光を終了して、その透過画像を撮像する。
【0060】
放射線治療装置制御装置2は、その透過画像をディスプレイに表示する。ユーザは、そのディスプレイに表示された透過画像を閲覧して、入力装置を用いて輝度の閾値を入力する。放射線治療装置制御装置2は、その透過画像のうちの輝度がその閾値より大きい領域を算出する。放射線治療装置制御装置2は、その複数の透過画像に映し出されるその領域の位置と形状とに基づいて、その透過画像のうちのその領域に映し出される患者43の内部の3次元領域の位置と形状とを算出する。その透過画像のある位置に映し出される輝度は、患者43のその位置に対応する領域における患部の存在確率に対応しているために、その3次元領域は、患部の存在確率が所定の確率より大きい領域に対応している。すなわち、放射線治療装置制御装置2は、ユーザが閾値を適切に設定することにより、患部の存在確率が所定の確率より大きい領域を算出することができる。
【0061】
放射線治療装置制御装置2は、その3次元領域に基づいて照射野を算出し、すなわち、その照射野の位置と形状とを算出する。放射線治療装置制御装置2は、さらに、治療用放射線23に照射されるべきでないリスク臓器が患部の近傍に存在するときに、患部と同様にして、そのリスク臓器の存在確率が所定の確率より大きい3次元リスク領域を算出し、その3次元リスク領域に治療用放射線23が照射されないように、その照射野を算出する。
【0062】
その放射線治療する動作では、放射線治療装置制御装置2が、その算出された照射野に治療用放射線23が照射されるように、首振り機構15を用いて治療用放射線照射装置16を移動させる。放射線治療装置制御装置2は、さらに、その算出された照射野の形状に治療用放射線23の断面形状が一致するように、マルチリーフコリメータ56を制御する。放射線治療装置制御装置2は、さらに、治療計画部71により作成された治療計画が示す線量だけ、治療用放射線照射装置16を用いて治療用放射線23を患者43に照射する。
【0063】
このような放射線照射方法によれば、患者43が治療用放射線23に照射される期間は、患部の一部が治療用放射線23に照射される期間と、その一部が治療用放射線23に照射されない期間とを含んでいる。すなわち、このような放射線照射方法によれば、放射線治療システム1は、患者43の運動(呼吸)により患部が移動する場合で、患者43に対して移動しない治療用放射線23を患者43に一気に照射するときに、治療用放射線23をその患部の一部に微小な期間だけ照射しないようにして、その患部に治療用放射線23を所定の線量だけ照射することができる。このため、このような放射線照射方法によれば、放射線治療システム1は、従来のように計画標的体積に治療用放射線23を照射することより、その患部以外の臓器への治療用放射線23の線量を低減することができる。さらに、放射線治療システム1は、このような放射線照射方法に適用されるときに、ゲイテッドイラディエイションまたは動体追尾照射に必要である装置を備える必要がなく、低コストで生産することができる。
【0064】
なお、呼吸計4は、人体を透過する放射線を用いないでその人体の運動を検出する他の装置に置換することができる。その装置としては、心電図計と脈拍計と血圧計とカメラとが例示される。その心電図計は、患者の心電図を作成する装置であり、患者の心臓の活動量を測定する。その脈拍計は、患者の脈拍を測定する。その血圧計は、患者の血圧を測定する。そのカメラは、患者を映像に撮像する。このとき、放射線治療システム1は、患者43の呼吸以外の運動(たとえば、心拍動、嚥下など)に連動して運動する患部に関して、既述の実施の形態と同様にして、その患部を放射線治療するときに、その患部以外の臓器への治療用放射線23の線量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明による放射線治療システムの実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図2は、放射線治療装置を示す斜視図である。
【図3】図3は、治療用放射線照射装置を示す断面図である。
【図4】図4は、放射線治療装置制御装置を示すブロック図である。
【図5】図5は、呼吸計により計測される呼吸量の変化を示すグラフである。
【図6】図6は、短時間露光により撮像された肺がんの患部の透過画像の輝度の分布を示すグラフである。
【図7】図7は、長時間露光により撮像された肺がんの患部の透過画像の輝度の分布を示すグラフである。
【図8】図8は、短時間露光により撮像された一般臓器のがんの患部の透過画像の輝度の分布を示すグラフである。
【図9】図9は、長時間露光により撮像された一般臓器のがんの患部の透過画像の輝度の分布を示すグラフである。
【図10】図10は、長時間露光により撮像された透過画像を示す平面図である。
【図11】図11は、肉眼的腫瘍体積と臨床標的体積と内的標的体積と計画標的体積との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 :放射線治療システム
2 :放射線治療装置制御装置
3 :放射線治療装置
4 :呼吸計
5 :コンピュータ断層撮影装置
11:旋回駆動装置
12:Oリング
14:走行ガントリ
15:首振り機構
16:治療用放射線照射装置
17:回転軸
18:回転軸
19:アイソセンタ
21:パン軸
22:チルト軸
23:治療用放射線
24:診断用X線源
25:診断用X線源
31:センサアレイ
32:センサアレイ
33:センサアレイ
35:診断用X線
36:診断用X線
41:カウチ
42:カウチ駆動装置
43:患者
51:電子ビーム加速装置
52:X線ターゲット
53:1次コリメータ
54:フラットニングフィルタ
55:2次コリメータ
56:マルチリーフコリメータ
57:電子ビーム
58:仮想的点線源
59:放射線
60:放射線
61:線量計
63:電子線発生部
64:加速管
66:カソード
67:グリッド
68:複数の電極
71:治療計画部
72:照射位置制御部
73:撮像部
74:照射範囲算出部
75:照射部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を透過する放射線により透過画像を撮影する撮像部と、
前記透過画像を用いて前記被検体の所定部位の存在確率が所定確率より大きい領域を算出する照射範囲算出部と、
前記所定部位に所定線量が照射されるように、前記被検体に対して固定された治療用放射線を前記領域に照射する照射部とを具備し、
前記被検体が前記治療用放射線に照射される期間は、
前記所定部位の一部が前記治療用放射線に照射される期間と、
前記一部が前記治療用放射線に照射されない期間とを含む
放射線治療装置制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記透過画像は、前記被検体が運動する運動周期以上の時間で露光されて撮影され、
前記領域は、前記透過画像のうちの患部が所定輝度範囲で映し出される部分に基づいて算出される
放射線治療装置制御装置。
【請求項3】
被検体を透過する放射線により透過画像を撮影する撮像部と、
前記透過画像を用いて前記被検体の第1部位の存在確率が第1確率より大きい第1領域を算出し、前記透過画像を用いて前記被検体の第2部位の存在確率が第2確率より大きい第2領域を算出する照射範囲算出部と、
前記第1部位に所定線量が照射されるように、前記被検体に対して固定された治療用放射線を前記第1領域のうちの前記第2領域を除く領域に照射する照射部とを具備し、
前記被検体が前記治療用放射線に照射される期間は、
前記第1部位の一部が前記治療用放射線に照射される期間と、
前記一部が前記治療用放射線に照射されない期間とを含む
放射線治療装置制御装置。
【請求項4】
被検体を透過する放射線により透過画像を撮影するステップと、
前記透過画像を用いて前記被検体の所定部位の存在確率が所定確率より大きい領域を算出するステップと、
前記所定部位に所定線量が照射されるように、前記被検体に対して固定された治療用放射線を前記領域に照射するステップとを具備し、
前記被検体が前記治療用放射線に照射される期間は、
前記所定部位の一部が前記治療用放射線に照射される期間と、
前記一部が前記治療用放射線に照射されない期間とを含む
放射線照射方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記透過画像は、前記被検体が運動する運動周期以上の時間で露光されて撮影され、
前記領域は、前記透過画像のうちの患部が所定輝度範囲で映し出される部分に基づいて算出される
放射線照射方法。
【請求項6】
被検体を透過する放射線により透過画像を撮影するステップと、
前記透過画像を用いて前記被検体の第1部位の存在確率が第1確率より大きい第1領域を算出するステップと、
前記透過画像を用いて前記被検体の第2部位の存在確率が第2確率より大きい第2領域を算出するステップと、
前記第1部位に所定線量が照射されるように、前記被検体に対して固定された治療用放射線を前記第1領域のうちの前記第2領域を除く領域に照射するステップとを具備し、
前記被検体が前記治療用放射線に照射される期間は、
前記第1部位の一部が前記治療用放射線に照射される期間と、
前記一部が前記治療用放射線に照射されない期間とを含む
放射線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−188368(P2008−188368A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28712(P2007−28712)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】