説明

放射線治療計画装置及び放射線治療計画方法

【課題】位置決めによる誤差の影響を小さくするためのマージンを簡便に設定することができる。
【解決手段】放射線を照射する標的となる患部領域を指定し、指定された患部領域に対応する照射パラメータを設定し、患部領域の位置ずれ量を入力し、患部領域、及び患部領域の位置を入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算し、計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出し、抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線治療に用いる治療計画装置及び治療計画方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞を、各種放射線を照射することで壊死させることを目的とする放射線治療は、近年広く行われつつある。用いられる放射線としては最も広く利用されているX線だけでなく、陽子線をはじめとする粒子線を使った治療も行われている。
【0003】
こうした高エネルギーの放射線による治療技術が発展する中、患者の負担を軽減しながら治療の効果を向上させるために、効率よい治療計画と、それを実行するための患部への精度よい照射がより一層求められるようになっている。
【0004】
ここで放射線治療の実施における、治療計画から実際の治療までの一般的な流れを以下に説明する。
はじめに治療すべき腫瘍の状況を把握する必要があり、通常X線CT(Computerized Tomography)による断面像が用いられる。事前に撮影された複数枚のCT断面像から、腫瘍および他の臓器の状態を検査する。PET(Positron Emission Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)といった他の撮像装置による画像も利用しながら、放射線を照射すべき患部領域の位置と形状を指定する。
【0005】
医師は標的形状から治療計画装置を用いて放射線の線種、方向、照射回数などを入力する。治療計画装置は、入力された情報に基づき照射する放射線の体内線量分布を数値計算によりシミュレートする。ここで照射条件を満たすために、放射線エネルギーなどの照射パラメータが決定される。
【0006】
次に計画から治療へと移る。すなわち先の治療計画に沿って、放射線を患者へと照射する。ここで患者を照射用ベッドに配置する際に、照射装置と患者の位置関係が治療計画の場合のそれと一致していることが、計画で定められた位置への正確な照射を行うためには不可欠である。
【0007】
しかし現実には、誤差を無くし完全に計画通り標的に照射することは難しい。ここでの誤差としては種々の要因が想定されるが、主なものには位置決めそのものに起因するものと、臓器の変動によるものがあげられる。
【0008】
これらの誤差に伴う照射位置の変動による標的腫瘍部位への線量低下を防止する目的で、医学的な見地から照射が必要と判断された患部領域に加え、照射時の誤差を考慮に入れたマージンを予め付加し、これを照射領域として照射することが従来より行われている。このマージンの決定方法については、以下のような方法が提案されている。
【0009】
例えば特許文献1に記載のように、マージンを変更しつつ患部領域の設定を繰り返し行い、それぞれの患部領域について線量分布を算出し、それら線量分布を比較表示することにより、医師等が最も適当なマージンを決定する方法がある(特許文献1参照。)。
【0010】
また、特に後者の臓器の変動に起因する誤差について、例えば特許文献2に記載のように、治療計画時に複数の異なる体動状態についてCT撮像を行い、それぞれのCT画像において患部領域の設定を行い、それら複数の体動状態における患部領域の投影形状を全て包含するようにマージンを付加して照射野形状を設定する方法がある(特許文献2参照。)。
【0011】
【特許文献1】特開平10−146395号公報
【特許文献2】特開平8−89589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、治療計画時と照射時との位置ずれの原因としては、主に位置決めそのものに起因するものと臓器の変動によるものとが考えられる。後者による変動量は、例えば照射中に呼吸同期(特許2596292号公報参照)を行うことにより小さくすることができる。これに対し、前者は照射前に解決すべき課題であり、本願はこの課題に対処するものである。
【0013】
ここで、一般にCT画像上で患部領域を設定する際には、医師等がCT画像を見ながらマウス等の入力装置を用いて手動により輪郭を描いて領域の位置や形状を設定する。また、例えば画像濃度の閾値を用いる方法等により半自動的に患部領域の設定を行う場合もあるが、患部領域は一概に画像濃度等で決定できずに医学的見識を有する医師等の判断を要することも多く、その場合には自動設定された輪郭線を手動により修正して患部領域を設定する。したがって、上記特許文献1記載の従来技術では、マージンを変更しながら患部領域の設定を繰り返し行うことから、医師等はその都度患部領域の設定作業を行う必要があり、適切なマージンの決定に手間がかかるという問題があった。
【0014】
また、上記特許文献2記載の従来技術は体動による臓器の変動を起因とする誤差の影響を考慮した照射領域の設定方法であるが、例えば治療計画時に意図的に患者の位置をずらして複数の位置ずれ状態についてそれぞれCT撮像を行うことにより、位置決めに起因する誤差を考慮したマージンの設定が可能となる。しかしながら、この場合においても、複数の位置ずれ状態のCT画像について医師等はそれぞれ患部領域の設定を行う必要があり、適切なマージンの決定に手間がかかるという問題があった。
【0015】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、位置決めによる誤差の影響を小さくするためのマージンを簡便に設定することができる放射線治療計画装置及び放射線治療計画方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)上記目的を達成するために、本発明の放射線治療計画装置は、放射線を照射する標的となる患部領域を指定する患部領域指定手段と、前記指定された患部領域に対応する照射パラメータを設定するパラメータ設定手段と、前記患部領域の位置ずれ量を入力する位置ずれ入力手段と、前記患部領域、及び前記患部領域の位置を前記位置ずれ入力手段で入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を前記パラメータ設定手段により設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算する線量分布演算手段と、前記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出する領域抽出手段と、前記抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定する照射領域設定手段とを備えるものとする。
【0017】
本発明の放射線治療計画装置においては、オペレータ(又は医師等)が患部領域指定手段を用いて放射線の照射標的となる患部領域を指定し、位置ずれ入力手段を用いて実際の治療照射の際に想定される患部領域の位置ずれ量を入力すると、パラメータ設定手段により指定された患部領域に対応する照射パラメータが設定され、線量分布演算手段により患部領域、及び患部領域の位置を位置ずれ入力手段で入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布がパラメータ演算手段により設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算され、領域抽出手段により上記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域が抽出され、照射領域設定手段により上記抽出された複数の領域を包含するように照射領域が設定される。
【0018】
このように、本発明によれば、オペレータ(又は医師等)が最初に1回だけ患部領域を指定さえすれば、その後は位置ずれ量を入力するのみで位置決め誤差を考慮に入れたマージンを設定することができる。したがって、位置決めによる誤差の影響を小さくするためのマージンを簡便に設定することができる。
【0019】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記位置ずれ入力手段は、位置ずれの方向及び大きさを入力可能であるものとする。
これにより、オペレータは実際の治療照射の際に想定される患部領域の位置ずれ量を効率よく入力することが可能となる。
【0020】
(3)上記(1)又は(2)において、また好ましくは、少なくとも前記線量分布演算手段による演算結果、及び前記領域抽出手段による抽出結果を表示する表示手段を備えるものとする。
【0021】
(4)上記(3)において、さらに好ましくは、前記表示手段は、前記線量分布演算手段によって計算された前記患部領域及び第2患部領域に照射した場合の線量分布を、個別に、又は並べて、或いは重ねて表示可能であるものとする。
【0022】
このように、表示手段により、線量分布演算手段で計算された患部領域及び第2患部領域に照射した場合の線量分布を、個別に、又は並べて、或いは重ねて表示することで、オペレータ(又は医師等)が実際の治療照射の際に起こりうる位置決め誤差に対応した線量分布の変化を正確に把握でき、照射領域(マージン)が妥当であるかどうかを確認することが容易となる。
【0023】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかにおいて、また好ましくは、前記パラメータ設定手段は、前記照射領域設定手段により設定された照射領域に対応する照射パラメータを改めて設定するものとする。
【0024】
(6)上記目的を達成するために、本発明の放射線治療計画方法は、放射線を照射する標的となる患部領域を指定し、前記指定された患部領域に対応する照射パラメータを設定し、前記患部領域の位置ずれ量を入力し、前記患部領域、及び前記患部領域の位置を入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を前記設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算し、前記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出し、前記抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定する方法とする。
【0025】
(7)上記目的を達成するために、本発明の放射線治療計画ソフトウェアは、放射線を照射する標的となる患部領域を指定する手順と、前記指定された患部領域に対応する照射パラメータを設定する手順と、前記患部領域の位置ずれ量を入力する手順と、前記患部領域、及び前記患部領域の位置を前記入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を前記設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算する手順と、前記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出する手順と、前記抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定する手順とを、コンピュータに実行させるものとする。
【0026】
(8)上記目的を達成するために、本発明の放射線治療計画ソフトウェアを記録した記録媒体は、放射線を照射する標的となる患部領域を指定する手順と、前記指定された患部領域に対応する照射パラメータを設定する手順と、前記指定された患部領域の位置ずれ量を入力する手順と、前記患部領域、及び前記患部領域の位置を前記入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を前記設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算する手順と、前記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出する手順と、前記抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定する手順とを、コンピュータに実行させるための放射線治療計画ソフトウェアを記録するものとする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、位置決めによる誤差の影響を小さくするためのマージンを簡便に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の放射線治療計画装置の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の放射線治療計画装置の一実施の形態の全体構成を表す図である。この図1に示すように、治療計画装置は画像を表示するためのディスプレイ(表示手段)1と、入力手段としてのキーボード(患部領域指定手段、位置ずれ入力手段)2及びマウス(患部領域指定手段、位置ずれ入力手段)3と、これらディスプレイ1、キーボード2及びマウス3が接続され、入力されたデータを処理し放射線照射に必要な照射パラメータを算出するための線量計算等を行う計算機(パラメータ設定手段、線量分布演算手段、領域抽出手段、照射領域設定手段)4とを備えている。
【0029】
以下、本治療計画装置を用いたマージンの設定方法について説明する。
治療計画を立てるために、オペレータ(又は医師等)はCT装置等で患者を撮像し得られた画像を用いて患部の情報を得る。撮影画像はサーバ5に保存されている。治療計画を立てる場合には画像を保管しているサーバ5から読み出して、ディスプレイ1に表示する。
【0030】
オペレータは治療計画装置において、CT装置などで撮影された画像から得られる患者体内の情報に基づき放射線の照射が必要と考えられる患部領域をキーボード2やマウス3等の入力手段を用いて指定する。この時、患部の状態を確認するにはCT画像だけでなく、PETやMRIなどの情報を参考にすることもできる。以下、この患部領域をCTV(Clinical Target Volume)と呼び、本実施形態においては位置決め以外に由来する誤差のためのマージンはここに含まれているものとする。放射線治療の目的はこのCTVの治療に必要とされる放射線を照射することにあり、オペレータは先に指定したCTVの位置、形状に基づき、放射線を照射するためのパラメータを決定する。
【0031】
しかしながら、ここで放射線を照射する標的領域として治療計画装置に登録する領域としてはCTVそのものでは不十分で、CTVに加えて位置決めの際に生じる誤差による計画段階とのずれを考慮に入れた上での適切なマージンが必要である。これは例えば、CTVそのものを標的領域として計画を立てると、患者の位置決め時にずれが生じた場合に照射すべき患部に十分な量の線量が付加できない可能性が考えられるためである。そのため、このマージンを適切に決定することが治療計画上重要となる。以下、このマージンを加えた照射領域を、PTV(Planning Target Volume)と呼ぶ。
【0032】
そこでマージンを適切に決定するには、CT画像等から得られる患者体内の情報を参照することが望ましい。PTVを構成するために必要となるマージンはいくつかの要因に由来するが、本実施の形態ではその主な要因の一つである位置決め時におけるずれに対処するためのマージン(セットアップマージン)を、自動で設定する方法について述べる。この方法においては、CT画像から得られる線量計算結果を基に標的臓器及び周辺臓器への放射線による影響を考慮に入れ、位置決めに起因するずれを吸収できるマージンを自動的に決定することができる。以下に図2に示すフローチャートを用いてその手順を述べる。
【0033】
初めに先に説明したとおり、CT画像をサーバ5から読み出し、放射線を照射すべき患部領域(CTV)をキーボード2やマウス3等の入力手段を用いて指定する。その後、この決められた領域に治療に十分と判断される量の放射線を照射するためのパラメータを計算機4で計算する(ステップ11〜ステップ13)。
【0034】
照射パラメータが決定した後、その条件で照射した場合の体内線量分布を計算機4で計算し、CT画像等に重ねてディスプレイ1に表示する(ステップ14)。ここまでは通常の治療計画装置での流れと同一である。
【0035】
本実施形態における治療計画装置の最大の特徴は、以上の機能に加え、計画段階とは異なる位置に患者が設置された状態を想定し、先に設定された同じ照射パラメータを用いて放射線が照射された場合の体内線量分布を再計算し、結果を表示させることが可能な点である。つまり患者の位置と放射線の照射位置が任意方向にずれたと仮定した場合にも、想定したずれの大きさを入力することで、その状態での線量分布を計算、および表示することができる。この再計算機能を用いて、位置決めのずれに対応したマージンを加えた照射領域(PTV)を以下のように自動で設定できる。
【0036】
まず、計算された体内線量分布結果を用い、ある閾値以上の放射線が照射される領域を線量計算結果から求め、表示する(ステップ15)。閾値としては、例えば線量90%以上の領域を抽出する。ずれが生じない場合では、CTVに対しては計画された量の放射線が一様に照射される状態になっているはずであり、適切な閾値を設定すれば、その領域はCTVとほぼ一致する。
【0037】
次に想定されるずれの方向について、指定した距離だけ患者を移動させる(ステップ16〜ステップ17)。この患者の移動量は、キーボード2やマウス3を用いて入力インターフェース(位置ずれ入力手段)18を介して入力する。図3にこの入力インターフェース18の一例を示す。
【0038】
図3に示すように、入力インターフェース18は例えばディスプレイ1上に表示される入力画面であり、オペレータがキーボード2やマウス3を用いて想定される患者のずれに相当する移動方向や大きさを画面上で自由に設定できる。ここでは、患者のベッド上で定義されたX,Y,Z軸に沿った移動量を、入力インターフェース18が有するウィンドウ18a,18b,18cにそれぞれ入力することで指定する。この値は何度でも変更することができる。なお、位置ずれ量の入力形式としては、この例で挙げた平行移動以外にも、回転移動等の自由度を加えてもよい。また、ここではキーボード2やマウス3を用いて入力インターフェース18を介して位置ずれ量を入力するようにしたが、ディスプレイ1や計算機4とは別に単体の入力装置を設けてもよい。
【0039】
なお、この移動距離及び方向はオペレータが毎回入力インターフェース18を用いて入力してもよいが、各方向についての大きさが毎回の治療計画ごとに同程度であれば、その値を前もって装置に登録しておき、そのデータを用いるように設定してもよい。このとき、想定する様々な距離・方向にずれた場合での計算において、照射パラメータは常に一定であり当初の段階で決定されたものを用いる。
【0040】
このようにして、指定した距離だけ患者を移動させた状態で、線量分布を計算し、ディスプレイ1にCT画像等に重ねて表示する(ステップ14)。図4はこのときのディスプレイ1による表示の一例である。この図4において、20は照射標的であるCTV、21は患者の体内を示し、図中の矢印の方向から放射線を照射する状況を想定している。図4(a)はCTV20に対してパラメータを設定し照射した場合の線量分布表示例である。線量分布の様子が22で表されている。図4(b)はそこから指定方向(図中左方向)に患者を(つまりCT画像を)移動させた新たな位置での線量分布を再計算し、表示している例である。CT画像を移動して表示してもよいが、ここでは図4(a)及び図4(b)を比較すればわかるように患者CT画像をディスプレイ1に固定し、照射される放射線の方をずらして表示させている。こうした表示画面に基づき照射状況を把握することで、オペレータは起こりうる位置誤差に対応した線量分布の変化を正確に判断し、マージン以外にも治療計画で設定された放射線の照射状況の妥当性等も含め、治療計画が妥当であるかを確認できる。
【0041】
なお、計算結果は移動方向やその大きさに伴い複数個存在することもあり、図4ではそれらを個別に表示する例を示したが、それらを全て、あるいはそれらの一部を比較できるように並べて表示してもよいし、或いは重ねて表示してもよい。図5は重ねて表示した場合の一例である。ここでは、上記した図4(a)及び図4(b)の状態を重ねて表示している。
【0042】
これら患者をずらした各々の場合の線量分布に対して、再び決められた閾値以上の放射線が照射されている領域を抽出し、ディスプレイ1に表示する(ステップ15)。
【0043】
このようにして、必要と思われる位置ずれ状態についてステップ14〜17を繰り返した後、得られた複数の領域を包含するように共通領域を取り、それをPTVとする(ステップ18)。このPTV領域を決定する過程を図6を用いて説明する。
【0044】
図6(a)の24で表されるCTVに対し、上記のステップ11〜ステップ15を行い、ある値以上の線量の照射される領域25を決定する。次に患者が左右にずれた場合での領域25に対応する領域、すなわち図6(b)における26,27が上記のステップ14〜ステップ17においてそれぞれ算出され、最後にステップ18において領域25,26,27の共通領域である図6(c)に示す照射領域28をPTVとして決定する。
【0045】
そして、このPTVを照射計画における最終的な標的として設定し直し、計算機4により改めて放射線照射のためのパラメータを計算する(ステップ19)。以上で本実施形態の治療計画装置によるマージンの決定手順は終了である。
【0046】
以上説明した本実施形態の治療計画装置によれば、以下の効果が得られる。
まず、実際の治療時に患者の位置ずれが生じた場合においても、位置決めによる誤差の影響を小さくできるため、標的となる患部領域(CTV)に不足なく放射線を照射することができる。このことを、医師等により指定された患部領域(CTV)に対して一様な幅のマージンを加えて照射領域(PTV)とする場合である比較例を用いて以下に説明する。
【0047】
この比較例では、患者体内の情報が反映されない。治療計画装置はCT画像から得られる体内の電子密度情報から線量分布を算出するが、体内の電子密度は骨の有無や臓器の種類により異なる。そのため、位置決めの誤差が生じた場合に体内の線量分布形状は変化する可能性がある。したがって、本比較例のように単に一様なマージンを付加しただけでは、腫瘍部の線量低下や重要臓器の過剰な被爆を引き起こしてしまうことが考えられる。この状況の一例を図7を用いて説明する。
【0048】
図7は医師等の指定したCTVに対して一様な幅のマージンを加えてPTVとする場合の比較例を模式的に説明する図である。この図7において、30が放射線を照射したい領域(すなわち患部領域(CTV))、31は患者の体内である。図中にあるように、CTV30を標的として上方から放射線を照射する。実際には複数方向からの照射も行われるが、ここでは説明を簡単にするために一方向からの照射のみで標的部分に所望の線量を付加できるものとする。
【0049】
患者(CTV30及び体内31)が図7において左右にずれる可能性があるものとし、その位置ずれに対応したマージンを設定することを考える。この比較例では一様な幅のマージン付けを行うので、図7(a)の点線32で示すように、CTV30の左右に想定するずれの大きさのマージンをつける。つまり、治療計画装置は点線で囲まれるPTV32に所定の線量が付加されるような照射パラメータを設定し、照射することとなる。
【0050】
図7(a)で計画した通りの状態であれば、照射された放射線はCTV30の領域内に一様な線量を与えるであろうが、位置決め誤差により例えばCTV30が図7(b)のように図中右側にずれてしまった場合を考える。マージンの役割からすると、ずれが生じた場合には33のマージン部に照射されている放射線が、CTV30を照射することが期待されている。しかしこの場合、図7(a)から分かるように、33の領域では放射線が通過する体内の距離が短い。そして、その状況に合わせて照射パラメータ(放射線のエネルギー等)が設定されているので、当初計画した量の線量が付加される領域は、図7(b)の点線で囲まれる領域34になってしまい、35の部分は放射線の照射が必要な領域に十分な照射ができない状態となる。さらに36の領域では、想定した部分の外に照射が行われてしまう。すなわち、放射線を照射したかった患部領域(CTV)をすべてカバーすることができない上に、計画段階では予期していなかった部位への照射が起きてしまうことになる。
【0051】
こうしたことから、線量分布の体内の部位による違いを考慮に入れた上で、誤差に対処できるマージン設定を施すことが望ましい。また、標的部位によってはわずかな誤差でも線量分布が大きく変動する場合が考えられるので、実際に誤差が生じた場合に線量分布がどのように変化するのかをシミュレートした上で、その結果が容易に画面上で確認できる機能も有用である。
【0052】
そこで、本実施形態によるマージンの決定方法を、上記比較例との差異を明確にするために図7に対応させて図8に示す。図8(a)の37,38はそれぞれ患部領域(CTV)及び患者の体内を表す。患部の位置決め誤差がない場合には、前述した図2のステップ15において抽出される領域である領域39は図に示すようにCTV37とほぼ一致する。
【0053】
ここでは、上記の図7と同様に左右のずれのみを考える。前述の図2のステップ16〜ステップ17→ステップ14〜ステップ15において、左右にずれた状態における閾値以上の線量が照射される領域を算出する。その結果、図8(b)に示すように、患者が図中左にずれた場合が破線で囲まれる領域40、図中右にずれた場合が点線で囲まれる領域41となる。この例からも分かるように体内の構造は一様ではないため、この領域の形は移動する方向によっては必ずしも同じ形をしていない。
【0054】
次に、前述の図2のステップ18において、領域39,40,41を包含する共通領域として照射領域(PTV)42が設定される。そして、ステップ19において、このPTV42を治療計画における最終的な照射目標として設定し直し、改めて放射線照射のための照射パラメータが計算される。
【0055】
この方法により決定した照射パラメータを用いれば、実際の治療時に患者の位置ずれが生じた場合においても、標的となるCTV37に不足なく放射線を照射することができる。これは、例えば領域40(又は領域41。以下、この段落において対応関係同じ。)は、領域39(≒CTV37)に照射されていた放射線がずれた場合の線量分布から形成されているので、逆に考えれば領域40(又は領域41)を標的として照射された放射線は、患者の位置が図中右に(又は図中左に)移動すればその線量分布が領域39(≒CTV37)に一致することとなり、ずれが生じた場合にCTV37をカバーできる放射線照射ができていることになるからである。
【0056】
以上のことから、本実施形態の治療計画方法に従って得られたPTV42は、上述した比較例のPTV32に比べ患者の位置ずれに対応できる照射領域となっていることがわかる。
【0057】
さらに、本実施形態の治療計画装置によれば、以上述べた位置決め誤差を小さくできるマージン設定を簡便に行うことができる。この効果について、以下に説明する。
【0058】
一般にCT画像上で患部領域(CTV)を設定する際には、医師等がCT画像を見ながらマウスやキーボード等の入力装置を用いて手動により輪郭を描いて領域の位置や形状を設定する。また、例えば画像濃度の閾値を用いる方法等により半自動的にCTVの設定を行う場合もあるが、CTVは一概に画像濃度等で決定できずに医学的見識を有する医師等の判断を要することも多く、その場合には自動設定された輪郭線を手動により修正してCTVを設定する。したがって、前述の特許文献1記載の従来技術のように、マージンを変更しつつCTVの設定を繰り返し行い、それぞれのCTVについて線量分布を算出し、それら線量分布を比較表示することにより、医師等が最も適当なマージンを決定する方法では、繰り返しCTVの設定作業を行う必要があるため、適切なマージンの決定に手間がかかるという問題があった。
【0059】
また、前述の特許文献2記載の従来技術を位置決め誤差の影響を小さくするように適用した場合においても、複数の位置ずれ状態のCT画像について医師等はそれぞれCTVの設定を行う必要があり、適切なマージンの決定に手間がかかるという問題があった。
【0060】
これに対し、本実施の形態においては、オペレータ(又は医師等)が図2に示すステップ12において1回だけCTVの設定を行いさえすれば、その後はステップ17において位置ずれ量を入力するのみで、治療計画装置により自動的に位置決め誤差を考慮に入れたマージンを決定することができる。したがって、本実施形態によれば、位置決めによる誤差の影響を小さくするためのマージンを簡便に設定することができる。
【0061】
なお、本実施形態では特に記載しなかったが、治療計画装置にCTV内のDVH(Dose Volume Histogram)の構成や重要臓器の位置登録機能を持たせ、位置ずれが生じた場合の線量分布情報から、患部への照射の不足の有無や重要臓器の被爆の可能性を装置が予め登録された条件に従って判定し、結果を表示するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の放射線治療計画装置の一実施形態の全体構成を表す図である。
【図2】本発明の放射線治療計画装置の一実施形態によるマージンの決定手順を表すフローチャートである。
【図3】位置ずれ量を入力する入力装置の一例を示す図である。
【図4】患者を移動させる前及び移動させた後の状態における線量分布をCT画像上に重ねて表示した場合のディスプレイによる表示の一例を示す図である。
【図5】図4に示す2つの線量分布表示を重ねて示した場合の表示の一例を示す図である。
【図6】PTV領域を決定する過程を説明するための図である。
【図7】CTVに対して一様な幅のマージンを加えてPTVとする場合の比較例を模式的に説明する図である。
【図8】本実施形態によるマージンの決定方法を図7に対応させて示した図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ディスプレイ(表示手段)
2 キーボード(患部領域指定手段、位置ずれ入力手段)
3 マウス(患部領域指定手段、位置ずれ入力手段)
4 計算機(パラメータ設定手段、線量分布演算手段、領域抽出手段、照射領域設定手段)
18 入力インターフェース(位置ずれ入力手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する標的となる患部領域を指定する患部領域指定手段と、
前記指定された患部領域に対応する照射パラメータを設定するパラメータ設定手段と、
前記患部領域の位置ずれ量を入力する位置ずれ入力手段と、
前記患部領域、及び前記患部領域の位置を前記位置ずれ入力手段で入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を前記パラメータ設定手段により設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算する線量分布演算手段と、
前記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出する領域抽出手段と、
前記抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定する照射領域設定手段とを備えたことを特徴とする放射線治療計画装置。
【請求項2】
前記位置ずれ入力手段は、位置ずれの方向及び大きさを入力可能であることを特徴とする請求項1記載の放射線治療計画装置。
【請求項3】
少なくとも前記線量分布演算手段による計算結果、及び前記領域抽出手段による抽出結果を表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の放射線治療計画装置。
【請求項4】
前記表示手段は、前記線量分布演算手段によって計算された前記患部領域及び第2患部領域に照射した場合の線量分布を、個別に、又は並べて、或いは重ねて表示可能であることを特徴とする請求項3記載の放射線治療計画装置。
【請求項5】
前記パラメータ設定手段は、前記照射領域設定手段により設定された照射領域に対応する照射パラメータを改めて設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の放射線治療計画装置。
【請求項6】
放射線を照射する標的となる患部領域を指定し、
前記指定された患部領域に対応する照射パラメータを設定し、
前記患部領域の位置ずれ量を入力し、
前記患部領域、及び前記患部領域の位置を入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を前記設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算し、
前記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出し、
前記抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定することを特徴とする放射線治療計画方法。
【請求項7】
放射線を照射する標的となる患部領域を指定する手順と、
前記指定された患部領域に対応する照射パラメータを設定する手順と、
前記患部領域の位置ずれ量を入力する手順と、
前記患部領域、及び前記患部領域の位置を前記入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を前記設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算する手順と、
前記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出する手順と、
前記抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定する手順とを、コンピュータに実行させるための放射線治療計画ソフトウェア。
【請求項8】
放射線を照射する標的となる患部領域を指定する手順と、
前記入力された患部領域に対応する照射パラメータを設定する手順と、
前記指定された患部領域の位置ずれ量を入力する手順と、
前記患部領域、及び前記患部領域の位置を前記入力された位置ずれ量だけずらした第2患部領域に照射した場合の線量分布を前記設定されたパラメータを用いてそれぞれ計算する手順と、
前記計算された線量分布から所定の線量以上が照射される複数の領域を抽出する手順と、
前記抽出された複数の領域を包含するように照射領域を設定する手順とを、コンピュータに実行させるための放射線治療計画ソフトウェアを記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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