説明

放射線測定装置および携帯端末装置

【課題】作業性が向上する放射線測定装置および携帯端末装置を提供する。
【解決手段】線源20から放射される放射線を測定する放射線測定部2,11を備える放射線測定装置1であって、作業可能か否かを判定する作業可否判定部12と、作業可否判定部12の判定結果を出力する出力部5と、を更に備え、作業可否判定部12は、放射線測定部11で測定された線量率Dacが所定の目標線量率Dob以下である場合、作業許可と判定し、放射線測定部で測定された線量率Dacが目標線量率Dobより大きい場合、作業不可と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を測定する放射線測定装置および携帯端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の放射線のある場所にて定期点検等の作業を行う際には、作業者の被ばく線量を低減するために様々な対策が実施される。例えば、作業エリアに設置された放射線を放出する機器等に対する遮へい対策には、鉛毛マットや遮へいコンクリートブロック等の仮設遮へい体の設置がある。これら仮設遮へい体の設置は、作業者の被ばく線量が法令の線量限度を超えないことは当然として、可能な限り作業者の被ばく線量の低減を図ることが目的である。これは、ALARA(As Low As Reasonably Achievable:合理的に達成できる限り低く)という被ばくの低減の考え方に基づいた作業である。
【0003】
なお、特許文献1には、遮へい壁としてのコンクリート壁に貫通孔を形成し、その孔内に複数のコンクリートディスクを配設した放射線遮断コンクリート壁の検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−124494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
仮設遮へい体の設置後、線量率を測定し、線量率が所定の目標線量率以下となったことを確認してから作業を開始する。しかし、仮設遮へい体の設置後に測定した線量率が所定の目標線量率以下となっていない場合、追加の仮設遮へい体を設置する作業が発生し、作業効率を向上させることができなかった。
遮へい体による線量率の低減効果が遮へい体の物質や放射線エネルギ等の条件に依存するため、適切な仮設遮へい体厚を、作業エリアにおいて簡便かつ迅速に、作業者が把握できるようにすることが望まれる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された放射線遮断コンクリート壁の検査装置を用いた遮断壁の放射線遮断性能の検査方法は、コンクリートディスクの数を増減させながら順次検査し、必要な遮断壁の壁厚が得られるまでコンクリートディスクの数の増減と検査とを繰り返すtrial and errorの手法で行われており、効率的な作業を実現することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、作業性が向上する放射線測定装置および携帯端末装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明は、線源から放射される放射線を測定する放射線測定部を備える放射線測定装置であって、作業可能か否かを判定する作業可否判定部と、前記作業可否判定部の判定結果を出力する出力部と、を更に備え、前記作業可否判定部は、前記放射線測定部で測定された線量率が所定の目標線量率以下である場合、作業許可と判定し、前記放射線測定部で測定された線量率が前記目標線量率より大きい場合、作業不可と判定することを特徴とする放射線測定装置である。
【0009】
また、本発明は、線源から放射される放射線を測定する放射線測定装置で測定された実測線量率および所定の目標線量率を入力可能な入力部と、作業可能か否かを判定する作業可否判定部と、前記作業可否判定部の判定結果を出力する判断結果出力部と、を備え、前記作業可否判定部は、前記実測線量率が前記目標線量率以下である場合、作業許可と判定し、前記実測線量率が前記目標線量率より大きい場合、作業不可と判定することを特徴とする携帯端末装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業性が向上する放射線測定装置および携帯端末装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係る放射線測定装置の使用例を示す図である。
【図2】本実施形態に係る放射線測定装置の機能図である。
【図3】ECUが実行する放射線測定装置の動作処理を示すフローチャートである。
【図4】遮へい体厚さ算出部が実行する遮へい体の厚さの算出処理を示すフローチャートである。
【図5】記憶部に記憶されるマップデータの例であり、(a)は線源核種と放射線エネルギとの関係であり、(b)は遮へい体物質ごとの放射線エネルギと換算係数との関係である。
【図6】記憶部に記憶されるマップデータの例であり、線源核種および遮へい体物質と換算係数との関係である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る放射線測定装置1の使用例を示す図である。
作業エリアAは、作業者Pが所定の作業を行うエリアである。この作業エリアAに近接して、放射線(γ線)を放射する線源核種X(例えば60Co、137Cs、131I等)の放射線源(γ線源)を有する線源機器20が配置されている。
【0014】
作業者Pは、携帯型の放射線測定装置1を用いて、作業エリアAのうち線源機器20と最近接する作業エリア境界Bにおいて、作業エリアAの線量率(実測線量率Dac)を測定する。
作業エリアAの線量率(実測線量率Dac)が所定値(目標線量率Dob)以下である場合、「作業可能」であるとして、作業者Pは作業エリアAにおいて所定の作業を開始する。
一方、作業エリアAの線量率(実測線量率Dac)が所定値(目標線量率Dob)よりも大きい場合、このままでは「作業不可」であるとして、作業者Pは、高い放射線遮へい能力を有する遮へい体物質Y(例えば、鉛、タングステン等)からなる仮設の遮へい体30(例えば、鉛毛マット、タングステンマット等)を用いて線源機器20を覆い、作業エリアAの線量率(実測線量率Dac)が所定の所定値(目標線量率Dob)以下となったら、作業者Pは作業エリアAにおいて所定の作業を開始する。
【0015】
≪放射線測定装置1≫
本実施形態に係る放射線測定装置1は、携帯可能に構成されており、線量率を測定して、作業の可否を判定し、その判定結果(作業可能/作業不可)を作業者Pに通知することができるようになっている。これにより、作業者Pは、放射線測定装置1を用いて容易に作業可否を判断することができるようになっている。
また、放射線測定装置1は、「作業不可」と判定した場合、即ち、線源機器20を遮へい体30で覆う必要がある場合、線源機器20を覆う遮へい体30の厚さを算出し、作業者Pに通知することができるようになっている。これにより、作業者Pは、放射線測定装置1から通知された厚さに基づいて線源機器20を遮へい体30で覆うことができるようになっている。
【0016】
本実施形態に係る放射線測定装置1の機能について、図2を用いて更に説明する。図2は、本実施形態に係る放射線測定装置1の機能図である。
放射線測定装置1は、放射線検出部2と、入力部3と、ECU4(Electronic Control Unit:電子制御装置)と、出力部5と、を備えている。また、ECU4は、線量率計測部11と、作業可否判定部12と、遮へい体厚さ算出部13と、記憶部14と、を備えている。
【0017】
放射線検出部2は、放射線(γ線)を検出する機能を有し、その検出信号をECU4の線量率計測部11に送信するようになっている。
ECU4の線量率計測部11は、所定時間における放射線検出部2からの検出信号に基づいて、線量率(実測線量率Dac)を計測する機能を有している。線量率計測部11で計測された実測線量率Dacは、線量率計測部11から出力部5に送信され、出力部5に表示されるようになっている。また、実測線量率Dacは、線量率計測部11から記憶部14に送信され、記憶部14に記憶されるようになっている。
【0018】
このように、放射線検出部2と、ECU4の線量率計測部11と、出力部5とで、放射線(γ線)のサーベイメータとして機能するようになっている。
なお、放射線検出部2における放射線(γ線)の検出方式は、GM管式サーベイメータであってもよく、電離箱式サーベイメータであってもよく、シンチレーション式サーベイメータであってもよく、その他の方式のサーベイメータであってもよい。
【0019】
入力部3は、作業者P(図1参照)によって情報を入力可能に構成された入力端末である。具体的には、線源核種X、遮へい体物質Yおよび目標線量率Dobが入力可能に構成されている。
入力部3で入力された情報(線源核種X、遮へい体物質Y、目標線量率Dob)は、入力部3からECU4の記憶部14に送信され、記憶部14に記憶されるようになっている。
【0020】
ECU4の作業可否判定部12は、作業の可否を判定する機能を有している。
具体的には、記憶部14に記憶された実測線量率Dacおよび目標線量率Dobに基づいて、判別式ΔDを式(1)のように定義する。
【0021】
【数1】

【0022】
そして、実測線量率Dacが目標線量率Dob以下の場合、即ち、「判別式ΔD≧0」の場合、「作業可能」と判定する。一方、実測線量率Dacが目標線量率Dobより大きい場合、即ち、「判別式ΔD<0」の場合、「作業不可」と判定する。
作業可否判定部12で判定された作業可否の判定結果(作業可能/作業不可)は、作業可否判定部12から出力部5に送信され、出力部5に表示されるようになっている。
【0023】
ECU4の遮へい体厚さ算出部13は、「作業不可」と判定した場合、即ち、放射線測定装置1を用いて線量率を測定した作業エリアAにおいて所定の作業を行うために線源機器20を遮へい体30で覆う必要がある場合、実測線量率Dacを目標線量率Dob以下とするための遮へい体30の厚さtを算出する機能を有している。なお、厚さtの算出方法については後述する。
遮へい体厚さ算出部13で算出された厚さtは、遮へい体厚さ算出部13から出力部5に送信され、出力部5に表示されるようになっている。
【0024】
ECU4の記憶部14は、入力部3で入力された線源核種X、遮へい体物質Y、目標線量率Dobおよび線量率計測部11で計測した実測線量率Dacを記憶する機能を有している。
また、記憶部14には、遮へい体厚さ算出部13が用いるマップデータ141,142,143(図5、図6参照)が記憶されている。なお、マップデータ141,142,143(図5、図6参照)の詳細については後述する。
【0025】
出力部5は、線量率計測部11で計測された実測線量率Dacと、作業可否判定部12で判定された作業可否の判定結果(作業可能/作業不可)と、遮へい体厚さ算出部13で算出された線源機器20を覆う遮へい体30の厚さtとを、作業者P(図1参照)に通知する機能を有している。
【0026】
例えば、出力部5は、アナログメータ、7セグメントLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)、LCD(Liquid Crystal Display:液晶表示装置)等を備え、実測線量率Dacを表示することにより作業者Pに通知するようになっている。また、出力部5は作業可否の判定結果を、7セグメントLED、LCD等に表示することにより作業者Pに通知したり、作業可能/作業不可に対応する表示灯を設けてその点灯/消灯により作業者Pに通知したり、アラームにより作業可能/作業不可を作業者Pに通知したりするようになっている。また、出力部5は厚さtを、7セグメントLED、LCD等に表示することにより作業者Pに通知したりするようになっている。
【0027】
また、出力部5は、入力部3で入力された線源核種X、遮へい体物質Yおよび目標線量率Dobを表示する機能を有していてもよい。
【0028】
≪放射線測定装置1の動作≫
次に、図3を用いて、ECU4が実行する放射線測定装置1の動作処理について説明する。図3に示す動作処理は、例えば、放射線測定装置1の電源が投入されることにより開始する。
【0029】
ステップS101において、ECU4は、作業情報の入力を受け付ける。
ここで、作業者Pは放射線測定装置1の入力部3を操作して、作業情報として、線源核種X、遮へい体物質Yおよび目標線量率Dobを入力する。なお、入力された線源核種X、遮へい体物質Yおよび目標線量率Dobは、記憶部14に記憶されるようになっている。
【0030】
ステップS102において、ECU4は、作業情報の入力が完了したか否かを判定する。
作業情報の入力が完了した場合(S102・Yes)、ECU4の処理はステップS103に進む。一方、作業情報の入力が完了していない場合(S102・No)、ECU4の処理はステップS101に戻り、入力が完了するまでステップS101を繰り返す。
【0031】
ステップS103において、ECU4は、実測線量率Dacを計測する。
即ち、ECU4の線量率計測部11は、所定時間における放射線検出部2からの検出信号に基づいて、実測線量率Dacを計測する。
なお、計測された実測線量率Dacは、出力部5に表示され、記憶部14に記憶されるようになっている。
【0032】
ステップS104において、ECU4は、作業可否を判定する。
即ち、ECU4の作業可否判定部12は、ステップS101で入力された目標線量率DobおよびステップS103で計測された実測線量率Dacに基づいて、式(1)に示す判別式ΔDが「ΔD≧0」であるか否かを判定する。
ΔD≧0である場合(S104・Yes)、ECU4の処理はステップS105に進む。一方、ΔD≧0でない場合(S104・No)、ECU4の処理はステップS106に進む。
【0033】
ステップS105において、ECU4は、「作業可能」であることを作業者Pに通知する。
即ち、ECU4の作業可否判定部12は、ステップS104の作業可否判定の判定結果である「作業可能」を出力部5に送信し、出力部5に「作業可能」である旨を表示させることにより、作業者Pに通知する。
そして、ECU4の処理を終了する。
【0034】
ステップS106において、ECU4は、「作業不可」であることを作業者Pに通知する。
即ち、ECU4の作業可否判定部12は、ステップS104の作業可否判定の判定結果である「作業不可」を出力部5に送信し、出力部5に「作業不可」である旨を表示させることにより、作業者Pに通知する。
そして、ECU4の処理はステップS107に進む。
【0035】
ステップS107において、ECU4は、線源機器20を覆う遮へい体30の厚さtを算出する。
具体的には、ECU4の遮へい体厚さ算出部13は、ステップS101で入力され記憶部14に記憶されている線源核種X、遮へい体物質Yおよび目標線量率Dobと、ステップS103で計測され記憶部14に記憶されている実測線量率Dacと、記憶部14に記憶されているマップデータ141,142,143(図5、図6参照)と、に基づいて、線源機器20を覆う遮へい体30の厚さtを算出する。なお、遮へい体厚さ算出部13が実行する線源機器20を覆う遮へい体30の厚さtの算出処理は、図4を用いて後述する。
【0036】
ステップS108において、ECU4は、追加すべき遮へい体30の「厚さt」を作業者Pに通知する。
即ち、ECU4の遮へい体厚さ算出部13は、ステップS107で算出した「厚さt」を出力部5に送信し、出力部5に「厚さt」を表示することにより、作業者Pに通知する。
そして、ECU4の処理は、ステップS103に戻る。
【0037】
≪線源機器20を覆う遮へい体30の厚さtの算出処理≫
ステップS107(図3参照)の線源機器20を覆う遮へい体30の厚さtの算出に関して、遮へい体30の厚さtの算出の原理を説明した後、ステップS107でECU4の遮へい体厚さ算出部13が実行する遮へい体30の厚さtの算出処理について説明する。
【0038】
<厚さtの算出原理>
まず、遮へい体30の厚さtの算出の原理について説明する。
放射線が遮へい体(吸収体)を透過する際、入射放射線強度Iinと透過放射線強度Itrとの関係は、式(2)のようになる。なお、μは遮へい体の線減衰係数であり、遮へい体の遮へい体物質Yと、遮へい体に入射する放射線エネルギExと、に依存する。また、tは遮へい体の厚さである。
【0039】
【数2】

【0040】
そして、式(2)をtについて変形し、遮へい体に入射する放射線の線量率Dinと遮へい体を透過した放射線の線量率Dtrとの比は、入射放射線強度Iinと透過放射線強度Itrとを用いて、Din/Dtr=Iin/Itrの関係が成立するので、式(3)を得る。
【0041】
【数3】

【0042】
ここで、遮へい体に入射する放射線の線量率Dinは、遮へい体を設置する前の線量率に相当する。また、遮へい体を透過した放射線の線量率Dtrは、遮へい体を設置した後の線量率に相当する。即ち、線量率Dinは実測線量率Dacに、線量率Dtrは目標線量率Dobに相当する。
また、遮へい体の透過による減衰を示す線減衰係数μを、ビルドアップ効果を考慮した換算係数μcoとする。なお、ビルドアップ効果とは、遮へい体を透過した放射線以外の周囲からの散乱成分による検出位置での線量率増加効果をいう。
よって、式(3)を(4)の関係を用いて置換することより、式(5)を得る。
【0043】
【数4】

【0044】
【数5】

【0045】
式(5)に示すように、換算係数μco、目標線量率Dob、実測線量率Dacを用いて、実測線量率Dacを目標線量率Dobとするために線源機器20に追加すべき遮へい体30の厚さtを算出することができる。
【0046】
<遮へい体30の厚さtの算出処理>
次に、図4を用いて、ステップS107でECU4の遮へい体厚さ算出部13が実行する遮へい体30の厚さtの算出処理について説明する。
【0047】
ステップS201において、ECU4の遮へい体厚さ算出部13は、線源核種Xおよび遮へい体物質Yに基づいて、換算係数μcoを決定する。
具体的には、換算係数μcoは、ステップS101(図3参照)で入力され、記憶部14に(図2参照)記憶されている線源核種Xおよび遮へい体物質Yに基づいて、記憶部14に記憶されているマップデータ141,142(図5参照)を参照して、決定される。
【0048】
図5(a)に示すように、マップデータ141には、線源核種Xと線源核種Xの放射線エネルギExとの関係が記録されている。
なお、線源核種Xが複数の放射線エネルギExのγ線を放出する場合は、放射線エネルギExの最大値1つを代表させる。
【0049】
図5(b)に示すように、マップデータ142には、遮へい体物質Yごとに放射線エネルギExと換算係数μcoとの関係が記録されている。
ここで、換算係数μcoは、線減衰係数μにビルドアップ効果を考慮したものであり、線減衰係数μは遮へい体物質Yと、放射線エネルギExと、に依存する。
このため、遮へい体物質Yごとに放射線エネルギExと換算係数μcoとの関係をあらかじめ実験的に求め、マップデータ142に記録されている。
【0050】
遮へい体厚さ算出部13は、ステップS101(図3参照)で入力された線源核種Xからマップデータ141を参照して線源核種Xの放射線エネルギExを求める。そして、求めた放射線エネルギExから、ステップS101(図3参照)で入力された遮へい体物質Yごとのマップデータ142を参照して換算係数μcoを決定する。
【0051】
なお、記憶部14(図2参照)に記憶されているマップデータは、マップデータ141,142(図5参照)の形式に限られるものではなく、例えば、図6に示すマップデータ143のように、線源核種Xおよび遮へい体物質Yに基づいて、換算係数μcoを決定できるようにあらかじめ整理されていてもよい。
この場合、遮へい体厚さ算出部13は、ステップS101(図3参照)で入力された線源核種Xおよび遮へい体物質Yからマップデータ143を参照して換算係数μcoを決定する。
【0052】
ステップS202において、ECU4の遮へい体厚さ算出部13は、目標線量率Dob、実測線量率Dacおよび換算係数μcoに基づいて、遮へい体30の厚さtを算出する。
具体的には、ECU4の遮へい体厚さ算出部13は、ステップS101(図3参照)で入力され記憶部14に記憶されている目標線量率Dobと、ステップS103(図3参照)で計測され記憶部14に記憶されている実測線量率Dacと、ステップS201で決定した換算係数μcoと、に基づいて、式(5)を用いて、線源機器20に追加すべき遮へい体30の厚さtを算出する。
そして、ECUの処理は、ステップS108(図3参照)に戻る。
【0053】
≪放射線測定装置1の効果≫
本実施形態に係る放射線測定装置1は、携帯可能に構成されており、測定位置(図1に示す作業エリア境界B)において、線源核種Xの放射線源を有する線源機器20から放射された放射線(γ線)の線量率を測定する。
放射線測定装置1は、測定された実測線量率Dacと、あらかじめ入力された目標線量率Dobと、に基づいて、作業可否を判定し、その判定結果を出力部5に表示することにより、作業者Pに通知することができるようになっている。
【0054】
これにより、本実施形態に係る放射線測定装置1を作業者Pが使用することで、作業エリアA(図1参照)が作業可能であるか否か、即ち、仮設の遮へい体30を設置する必要があるか否かを容易に判断することができる。
【0055】
また、放射線測定装置1は、入力された線源核種X、遮へい体物質Yおよび目標線量率Dobと、測定された実測線量率Dacと、に基づいて、線源機器20を覆う遮へい体30の厚さtを算出し、その判定結果を出力部5に表示することにより、作業者Pに通知することができるようになっている。
【0056】
これにより、本実施形態に係る放射線測定装置1を作業者Pが使用することで、仮設の遮へい体30の設置に関して、定量的な判断が現場(作業エリアA)において可能となり、これにより、仮設の遮へい体30を設置した後、さらに仮設の遮へい体30を追加設置するというような後戻り作業の発生を減少させ、仮設の遮へい体30の設置に係る作業効率を向上させることができる。
【0057】
例えば、「原子力災害対策特別措置法」第15条に相当する事象等において実施される場合のある、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」第33条第1項および「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則」第29条1項各号に定める緊急作業のような、突発的な作業時においても、本実施形態に係る放射線測定装置1の利用の効果が期待できる。これは、前述のとおり、仮設の遮へい体30の厚さ関する正確な判断が現場(作業エリアA)において可能となるためである。
突発的な作業では、現場(作業エリアA)での判断が何よりも重要であるが、本実施形態に係る放射線測定装置1を使用することにより適切な初期対策が可能となる。
【0058】
≪変形例≫
なお、本実施形態に係る放射線測定装置1は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【0059】
例えば、放射線測定装置1に線源核種Xを入力して、入力された線源核種Xに基づいて遮へい体30の厚さtを算出する構成として説明したが、これに限られるものではなく、線源核種Xを60Coとして遮へい体30の厚さtを算出する構成であってもよい。
【0060】
他の線源核種Xの放射線エネルギExと比較して、60Coの放射線エネルギExは高い。このため、線源核種Xを60Coとして遮へい体30の厚さtを算出することにより、ほぼ全ての線源核種Xについて保守的とすることができる。
また、線源核種Xの入力を不要とすることができるので、作業性が向上するとともに、線源核種Xが不明な放射線源を有する線源機器20においても対応することができる。
また、記憶部14に記憶されるマップデータは、遮へい体物質Yと換算係数μcoとの関係で足りるため、記憶部14の記憶容量を削減することができる。
【0061】
また、本実施形態に係る放射線測定装置1に作業の可否を判定する機能および遮へい体30の厚さtを算出する機能を備える構成として説明したが、これに限られるものではなく、線量率を測定する放射線測定装置(サーベイメータ)と、作業の可否を判定する機能および遮へい体30の厚さtを算出する機能を備える携帯端末装置(図示せず)とで、構成されていてもよい。
測定前に、あらかじめ線源核種X、遮へい体物質Yおよび目標線量率Dobを携帯端末装置に入力しておき、放射線測定装置(サーベイメータ)で測定した実測線量率Dacを作業者Pが携帯端末装置に入力することにより、作業可否の判定および線源機器20を覆う遮へい体30の厚さtの算出を行い、作業者Pに通知する構成であってもよい。
【0062】
また、本実施形態に係る放射線測定装置1は、遮へい体30の厚さtを算出する処理において、ビルドアップ効果を考慮した換算係数μcoを決定してから式(5)を用いて厚さtを算出する構成として説明したが、これに限られるものではなく、記憶部14に線源核種Xおよび遮へい体物質Yに基づいて線減衰係数μを決定するマップデータ(図示せず)を記憶しておき、入力された線源核種Xおよび遮へい体物質Yに基づいて線減衰係数μを決定し、ビルドアップ効果を考慮した遮へい体30の厚さtを算出する構成であってもよい。
【0063】
式(2)で示した入射放射線強度Iinと透過放射線強度Itrとの関係は、ビルドアップ効果を考慮すると、式(6)で表すことができる。なお、Bはビルドアップ効果を表すビルドアップ係数である。
【0064】
【数6】

【0065】
式(6)について、実測線量率Dacおよび目標線量率Dobを用いて表現すると、式(7)で表すことができる。
【0066】
【数7】

【0067】
ここで、放射線検出部2が広域の放射線エネルギExを検出可能な場合、ビルドアップ係数Bは線減衰係数μおよび厚さtに依存し、経験的にB=μtで表すことができることが知られている。
このように、線減衰係数μ、実測線量率Dacおよび目標線量率Dobに基づいて、式(7)およびビルドアップ係数Bを用いて、線源機器20に追加すべき遮へい体30の厚さtを算出する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 放射線測定装置
2 放射線検出部(放射線測定部)
3 入力部
4 ECU
5 出力部(判断結果出力部、遮へい体厚さ出力部)
11 線量率計測部(放射線測定部)
12 作業可否判定部
13 遮へい体厚さ算出部
14 記憶部
141,142,143 マップデータ
20 線源機器(線源)
30 遮へい体
A 作業エリア
B 作業エリア境界
P 作業者
X 線源核種
Ex 放射線エネルギ
Y 遮へい体物質
ob 目標線量率
ac 実測線量率
ΔD 判別式
μ 線減衰係数
μco 換算係数
t 厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線源から放射される放射線を測定する放射線測定部を備える放射線測定装置であって、
作業可能か否かを判定する作業可否判定部と、
前記作業可否判定部の判定結果を出力する判断結果出力部と、を更に備え、
前記作業可否判定部は、
前記放射線測定部で測定された線量率が所定の目標線量率以下である場合、作業許可と判定し、
前記放射線測定部で測定された線量率が前記目標線量率より大きい場合、作業不可と判定する
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
前記放射線測定部で測定された線量率を前記目標線量率以下とするために、前記線源との間に配置して放射線を減衰させる遮へい体の厚さを算出する遮へい体厚さ算出部と、
前記遮へい体厚さ算出部で算出した遮へい体の厚さを出力する遮へい体厚さ出力部と、を更に備える
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線測定装置。
【請求項3】
前記目標線量率、前記線源の線源核種および前記遮へい体の遮へい体物質を入力可能な入力部を更に備え、
前記遮へい体厚さ算出部は、
前記線源核種、前記遮へい体物質、前記目標線量率および前記放射線測定部で測定された線量率に基づいて、遮へい体の厚さを算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の放射線測定装置。
【請求項4】
前記目標線量率および前記遮へい体の遮へい体物質を入力可能な入力部を更に備え、
前記遮へい体厚さ算出部は、
60Coの放射線エネルギ、前記遮へい体物質、前記目標線量率および前記放射線測定部で測定された線量率に基づいて、遮へい体の厚さを算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の放射線測定装置。
【請求項5】
線源から放射される放射線を測定する放射線測定装置で測定された実測線量率および所定の目標線量率を入力可能な入力部と、
作業可能か否かを判定する作業可否判定部と、
前記作業可否判定部の判定結果を出力する判断結果出力部と、を備え、
前記作業可否判定部は、
前記実測線量率が前記目標線量率以下である場合、作業許可と判定し、
前記実測線量率が前記目標線量率より大きい場合、作業不可と判定する
ことを特徴とする携帯端末装置。
【請求項6】
前記実測線量率を前記目標線量率以下とするために、前記線源と前記放射線測定装置との間に配置して放射線を減衰させる遮へい体の厚さを算出する遮へい体厚さ算出部と、
前記遮へい体厚さ算出部で算出した遮へい体の厚さを出力する遮へい体厚さ出力部と、を更に備える
ことを特徴とする請求項5に記載の携帯端末装置。
【請求項7】
前記入力部は、
更に前記線源の線源核種および前記遮へい体の遮へい体物質を入力可能に構成され、
前記遮へい体厚さ算出部は、
前記線源核種、前記遮へい体物質、前記目標線量率および前記実測線量率に基づいて、遮へい体の厚さを算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の携帯端末装置。
【請求項8】
前記入力部は、
更に前記遮へい体の遮へい体物質を入力可能に構成され、
前記遮へい体厚さ算出部は、
60Coの放射線エネルギ、前記遮へい体物質、前記目標線量率および前記実測線量率に基づいて、遮へい体の厚さを算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の携帯端末装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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