説明

放射線測定装置

【課題】 装置毎に特性のバラツキを補償するための調整をする必要がなく、温度特性のバラツキも自動補償することができ、信頼性の高い放射線測定装置を提供する。
【解決手段】 放射線検出器1に結合コンデンサ2を介してベースラインレストアラ回路3とパルス計数回路4とを接続し、上記放射線検出器1から出力される信号パルスを上記パルス計数回路4で計数して放射線のレベルを測定する放射線測定装置において、上記ベースラインレストアラ回路3は、上記結合コンデンサ2に中和電流を分流させ、上記結合コンデンサ2の電荷を中和する中和電流発生回路15、16と、上記中和電流の上記結合コンデンサ2への分流量を制御する制御増幅器17、18と、上記パルス計数回路4の入力電圧を監視して上記制御増幅器の動作基準点を設定し、上記分流量を調整し得るようにされた演算増幅器22とで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射線検出器より出力される信号パルスを計数して放射線のレベルを測定する放射線測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来の放射線測定装置の構成を示すブロック図である。この図に示すように、放射線測定装置は、放射線検出器1と、結合コンデンサ2と、ベースラインレストアラ回路3と、パルス計数回路4とで構成されている。
【0003】
放射線検出器1の出力には、放射線が入射した時に出力するパルス状の信号パルスとDC成分が重畳されており、このDC成分によるパルス計数回路4の誤動作および破損、焼損を防ぐために結合コンデンサ2が使用されている。
【0004】
図5は、放射線測定装置において、放射線検出器1が正極性パルスを出力する場合に、ベースラインレストアラ回路3を設ける場合と、設けない場合とを比較してその効果を説明するための動作波形図であリ、同図(a)はベースラインレストアラ回路3を設けない場合のものである。正極性パルスE1によって結合コンデンサ2が充電され、パルス計数回路4の出力波形E2は正極性パルスの平均値相当分だけ動作基準点が負側にシフトする。
パルス計数回路4は入力パルスの波高値を弁別して計数するため動作基準点が負側にシフトすると計数誤差が発生する。
【0005】
図5(b)はベースラインレストアラ回路3を設けた場合のものである。ベースラインレストアラ回路3は結合コンデンサ2の電荷を中和するように作用する。従って、直前のパルスによって結合コンデンサ2が充電される結果、パルスが終了した時点で一時的に基準点が破線E2で示すように、負側にシフトするが次のパルスの開始前にゼロ電位に回復させてパルス計数回路4の誤差発生を抑制するものである。
【0006】
図6は、従来のベースラインレストアラ回路の構成を示す図である。
図に示すように、ベースラインレストアラ回路3は結合コンデンサ2とパルス計数回路4とを接続する入力信号線PINと回路電源+VSとの間に、固定抵抗11及び並列接続されたダイオード15、16をダイオードのカソードが入力信号線側となるように接続して結合コンデンサ2への中和電流発生回路を構成すると共に、回路電源−VSと入力信号線PINとの間に接続され、ベース電極に可変抵抗14が接続されたトランジスタ17と、回路電源−VSと回路電源+VSとの間に接続され、ベース電極が固定抵抗12を介して入力信号線PINに接続されたトランジスタ18とからなる中和電流制御用の制御増幅器として作用する差動増幅器を備えている。
【0007】
以下、ベースラインレストアラ回路3の動作について説明する。
放射線検出器1からの信号パルスがない無信号状態ではパルス計数回路4の入力信号線PINの電位は可変抵抗14によって0Vに調整される。
【0008】
放射線検出器1から正極性の信号パルスが出力されていると、ダイオード15は逆バイアスされるためOFF、トランジスタ17、18で構成される差動増幅器はトランジスタ18のベースに信号パルスが入力されて正方向に駆動されるためトランジスタ18はON、17はOFFの方向にそれぞれ動作する。放射線検出器1から正極性の信号パルスが出力されている期間、結合コンデンサ2は充電されて電荷を蓄積する。
【0009】
信号パルスが消滅すると、入力信号線PINの電位は結合コンデンサ2の電荷相当分だけ負側に低下する。トランジスタ17、18で構成する差動増幅器はトランジスタ18のベースが負方向に駆動されるためトランジスタ18はOFF、17は0Nの方向にそれぞれ動作する。
【0010】
トランジスタ17がONするとダイオード15もONして、ダイオード15の順方向電流の一部が結合コンデンサ2に分流し先の信号パルスで充電された電荷を中和する動作を行なう。この動作はトランジスタ17、18で構成される差動増幅器によって入力信号線PINの電位が0Vに回復するまで制御される。可変抵抗14はトランジスタ17、18のベース〜エミッタ特性のバラツキを調整するためのものである。(例えば特許文献1参照)。
【0011】
【特許文献1】特開2004−201297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の放射線測定装置は以上のように構成されており、トランジスタのベース〜エミッタ特性のバラツキ等を補償するために可変抵抗を使用していたが、この可変抵抗は装置毎に調整する必要があり、かつ調整は特定の温度で行なうので温度特性のバラツキは補償出来なかった。また可変抵抗は可変接触子の接触不良、断線等の要因により部品故障率が比較的高いため、放射線測定装置の信頼性を低下させる恐れがある等の問題点があった。
【0013】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであり、装置個別の調整が省略できると共に、温度特性のバラツキも自動補償することができ、信頼性の高い放射線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る放射線測定装置は、放射線検出器に結合コンデンサを介してベースラインレストアラ回路とパルス計数回路とを接続し、上記放射線検出器から出力される信号パルスを上記パルス計数回路で計数して放射線のレベルを測定する放射線測定装置において、上記ベースラインレストアラ回路は、上記結合コンデンサに中和電流を分流させ、上記結合コンデンサの電荷を中和する中和電流発生回路と、上記中和電流の上記結合コンデンサへの分流量を制御する制御増幅器と、上記パルス計数回路の入力電圧を監視して上記制御増幅器の動作基準点を設定し、上記分流量を調整し得るようにされた演算増幅器とで構成されたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、放射線測定装置のベースラインレストアラ回路の動作基準点を自動的に調整して、無信号時のパルス計数回路の入力電圧を自動的に0Vに制御するように構成されているため、装置個別の調整が省略できると共に、温度特性のバラツキも自動補償することができ、信頼性の高い放射線測定装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図にもとづいて説明する。図1は、実施の形態1の構成を示す回路図である。
【0017】
図に示すように、ベースラインレストアラ回路3は結合コンデンサ2とパルス計数回路4とを接続する入力信号線PINと回路電源+VSとの間に、固定抵抗11及び並列的に接続されたダイオード15、16をダイオードのカソードが入力信号線側となるように接続して結合コンデンサ2への中和電流発生回路を構成すると共に、回路電源−VSと入力信号線PINとの間に接続されたトランジスタ17と、回路電源−VSと回路電源+VSとの間に接続され、ベース電極が固定抵抗12を介して入力信号線PINに接続されたトランジスタ18とからなる中和電流制御用の制御増幅器として作用する差動増幅器を備えている。
【0018】
また、上記差動増幅器の動作基準点を設定すると共に、結合コンデンサ2に分流する中和電流の分流量を調整するための演算増幅器22を備えている。
演算増幅器22の入力端子は固定抵抗19を介して入力信号線PINに接続され、出力端子は固定抵抗12、20を介して入力信号線PINに接続されると共に、固定抵抗12及び20の接続点がトランジスタ18のベース電極に接続されている。また、演算増幅器22の入出力端子間にはコンデンサ21が接続されている。
【0019】
次に実施の形態1の動作について説明する。
放射線検出器1からの信号パルスがない無信号状態ではパルス計数回路4の入力信号線PINの電位は抵抗19を介して演算増幅器22に入力され0Vと比較される。入力信号線PINの電位が正の場合には、演算増幅器22の出力は負となる。演算増幅器22の出力は固定抵抗20を介してトランジスタ18のベースを負方向に駆動する。
【0020】
この結果、トランジスタ17、18で構成される差動増幅器のトランジスタ18がOFF、17が0Nの方向に動作する。トランジスタ17のコレクタ電流が増加するとダイオード15の電圧降下が増加して入力信号線PINの電位を下げ0Vになった時点で上述した閉ループの動作が停止する。
【0021】
入力信号線PINの電位が負の場合には、演算増幅器22の出力は正となるため、固定抵抗20を介してトランジスタ18のベースを正方向に駆動する。この結果、トランジスタ17、18で構成される差動増幅器のトランジスタ18がON、トランジスタ17がOFFの方向に動作する。トランジスタ17がOFFとなることによりダイオード15が通常の電圧降下となって入力信号線PINの電位を上昇させ0Vに調整する。
【0022】
演算増幅器22の演算速度は固定抵抗19とコンデンサ21の積で表される時定数で決められる。この時定数は信号パルスが入力されて入力信号線PINの電位が瞬間的に変動しても上述した閉ループがそれに応答しないように適宜の値に選定される。例えば、信号パルスのパルス幅数μS以下に対して時定数は100ms程度に選定される。
上述した閉ループはトランジスタ17、18のベース〜エミッタ特性の初期及び温度変化に伴うバラツキを補償するものであるから、応答速度100ms程度でも実用上問題はない。
【0023】
実施の形態1は上述のように、演算増幅器22で構成する閉ループによりトランジスタ17、18のベース〜エミッタ特性のバラツキを自動的に調整するようにしているため、可変抵抗による調整作業が省略でき、信頼性の高い放射線測定装置を得ることができる。
【0024】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2を図にもとづいて説明する。図2は、実施の形態2の構成を示す回路図である。
【0025】
上述した実施の形態1では、トランジスタ17、18、ダイオード15、16で結合コンデンサ2の電荷を中和する構成に対して、演算増幅器22によりトランジスタ17、18のバラツキを調整するようにしていたが、実施の形態2は結合コンデンサ2の電荷の中和を演算増幅器で行なうようにして、放射線検出器1からの正極性信号パルスを測定するようにした点に特徴がある。
【0026】
先ず、実施の形態2の構成について説明する。図2に示すように、放射線検出器1と結合コンデンサ2とを入力信号線PINを介してパルス計数回路4と接続する構成は実施の形態1と同様である。
【0027】
実施の形態2では、演算増幅器28の入力端子は固定抵抗25を介して入力信号線PINに接続され、出力端子はアノードが演算増幅器28の出力端子に接続された第1のダイオード26と固定抵抗23を介して入力信号線PINに接続されている。また、演算増幅器28の入出力端子間にはアノードを入力端子側、カソードを出力端子側にした第2のダイオード27と固定抵抗24とが並列接続されている。
【0028】
放射線検出器1からの信号パルスがない無信号状態ではパルス計数回路4の入力信号線PINの電位は、実用上0Vである。放射線検出器1からの正極性の信号パルスが固定抵抗25を介して演算増幅器28に入力されると、演算増幅器28の出力は負電圧となりダイオード26を逆方向にバイアスしてOFFとする。ダイオード26がOFFになると演算増幅器28は入力信号線PINから切り離されるので信号パルスに対して影響しない。
【0029】
放射線検出器1からの信号パルスが消滅すると、入力信号線PINの電位は結合コンデンサ2の電荷により負電圧となる。この負電圧は固定抵抗25を介して演算増幅器28に入力されるため、演算増幅器28は正電位の出力を発生する。演算増幅器28の出力はダイオード26、固定抵抗23を介して結合コンデンサ2の電荷を中和し、入力信号線PINの電位を0Vに制御する。
【0030】
実施の形態2によれば、無信号時の入力信号線PINの0V、コンデンサ2の電荷の中和を同一の演算増幅器28で制御するため回路が簡素化され、信頼性を高めることができる。
【0031】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3を図にもとづいて説明する。図3は、実施の形態3の構成を示す回路図である。図3において、図2と同一または相当部分には同一符号を付している。図2と異なる点は、第1のダイオード26及び第2のダイオード27の向きを逆にして放射線検出器1からの負極性信号パルスを測定するようにした点である。
【0032】
放射線検出器1からの信号パルスがない無信号状態ではパルス計数回路4の入力信号線PINの電位は、実用上0Vである。放射線検出器1からの負極性の信号パルスが固定抵抗25を介して演算増幅器28に入力されると、演算増幅器28の出力は正電圧となりダイオード26を逆方向にバイアスしてOFFとする。ダイオード26がOFFになると演算増幅器28は入力信号線PINから切り離されるので信号パルスに対して影響しない。
【0033】
放射線検出器1からの信号パルスが消滅すると、入力信号線PINの電位は結合コンデンサ2の電荷により正電圧となる。この正電圧は固定抵抗25を介して演算増幅器28に入力されるため、演算増幅器28は負電位の出力を発生する。演算増幅器28の出力はダイオード26、固定抵抗23を介して結合コンデンサ2の電荷を中和し、入力信号線PINの電位を0Vに制御する。
【0034】
実施の形態3によれば、無信号時の入力信号線PINの0V、コンデンサ2の電荷の中和を同一の演算増幅器28で制御するため回路が簡素化され、信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施の形態1の構成を示す回路図である。
【図2】この発明の実施の形態2の構成を示す回路図である。
【図3】この発明の実施の形態3の構成を示す回路図である。
【図4】従来の放射線測定装置の構成を示すブロック図である。
【図5】従来の放射線測定装置におけるベースラインレストアラ回路の効果を説明するための波形図である。
【図6】従来の放射線測定装置におけるベースラインレストアラ回路の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0036】
1 放射線検出器、 2 結合コンデンサ、 3 ベースラインレストアラ回路、
4 パルス計数回路、
11、12、13、19、20、23、24、25 固定抵抗、
15、16、26、27 ダイオード、 17、18 トランジスタ、
21 コンデンサ、 22、28 演算増幅器、 PIN 入力信号線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出器に結合コンデンサを介してベースラインレストアラ回路とパルス計数回路とを接続し、上記放射線検出器から出力される信号パルスを上記パルス計数回路で計数して放射線のレベルを測定する放射線測定装置において、上記ベースラインレストアラ回路は、上記結合コンデンサに中和電流を分流させ、上記結合コンデンサの電荷を中和する中和電流発生回路と、上記中和電流の上記結合コンデンサへの分流量を制御する制御増幅器と、上記パルス計数回路の入力電圧を監視して上記制御増幅器の動作基準点を設定し、上記分流量を調整し得るようにされた演算増幅器とを備えたことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
上記中和電流発生回路は、上記結合コンデンサと上記パルス計数回路とを接続する入力信号線と電源との間に接続されたダイオードを有し、上記制御増幅器は上記入力信号線と電源間に接続され、上記ダイオードの電流を制御する差動増幅器を有し、上記演算増幅器は入力側が上記入力信号線に接続され、出力側が上記差動増幅器の制御端子に接続されたことを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項3】
放射線検出器に結合コンデンサを介してベースラインレストアラ回路とパルス計数回路とを接続し、上記放射線検出器から出力される信号パルスを上記パルス計数回路で計数して放射線のレベルを測定する放射線測定装置において、上記ベースラインレストアラ回路は、上記結合コンデンサと上記パルス計数回路とを接続する入力信号線に入力側が接続された演算増幅器と、上記演算増幅器の出力側にアノードが接続され、カソードが上記入力信号線に接続された第1のダイオードと、アノードが上記演算増幅器の入力側に接続され、カソードが上記演算増幅器の出力側に接続された第2のダイオードとを備え、上記結合コンデンサに流入させる中和電流を上記演算増幅器によって制御することを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
放射線検出器に結合コンデンサを介してベースラインレストアラ回路とパルス計数回路とを接続し、上記放射線検出器から出力される信号パルスを上記パルス計数回路で計数して放射線のレベルを測定する放射線測定装置において、上記ベースラインレストアラ回路は、上記結合コンデンサと上記パルス計数回路とを接続する入力信号線に入力側が接続された演算増幅器と、上記演算増幅器の出力側にカソードが接続され、アノードが上記入力信号線に接続された第1のダイオードと、カソードが上記演算増幅器の入力側に接続され、アノードが上記演算増幅器の出力側に接続された第2のダイオードとを備え、上記結合コンデンサに流入させる中和電流を上記演算増幅器によって制御することを特徴とする放射線測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−71760(P2007−71760A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260641(P2005−260641)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】