説明

放射線照射食品の検査方法と検査装置

【課題】 放射線を照射された食品に対して迅速かつ簡便に被照射放射線量の推定最大値を決定する検査方法と検査装置を得る。
【解決手段】 食品に照射された放射線量を評価するための電子スピン共鳴測定において、測定対象とする食品に対して予め同一種類の食品を準備し電子スピン共鳴信号を測定した後に所定量の放射線を照射し再び電子スピン共鳴信号を測定する。所定量の放射線照射後の信号から照射前の信号を差し引くことで、対象とした食品が放射線を浴びることで特徴的に出現する電子スピン共鳴信号を決定する。この信号を与える測定磁場をもって検査磁場とすると共に測定に用いる検査マイクロ波強度を決定し、この測定条件において照射放射線量が既知の対象食品を測定し放射線量に対応した電子スピン共鳴信号強度を検量線とする。放射線照射量が未知の対象食品に対して、検査磁場と検査マイクロ波強度で測定を実施し、この検量線を用いて放射線照射推定最大量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌などの目的で放射線を照射された食品を対象として、食品を測定することで照射された放射線量を推定する検査方法と検査装置に関するものである。放射線照射によって食品中に生成し安定に存在するラジカル分子を、電子スピン共鳴(以下「ESR」と略記)装置によって定量的に測定し、測定結果から既に食品に照射された放射線量を評価するものである。
【技術背景】
【0002】
放射線照射による殺菌は、食品の保存性を向上させる技術として開発され実用化されてきた。その安全性に関しては既に多くの研究データが存在し、1988年にはWHOによって『10kGyまでの放射線照射は安全』と発表されている。これを受けて、諸外国で多品目の食品に対して放射線照射処理がなされている。日本では、ジャガイモの発芽を止めるための処理のみにおいて食品への放射線照射が許可されているが、近年の諸外国での食品への積極的な放射線使用の現状を鑑みて、使用枠の拡大その他についての検討が始まっている。
【0003】
放射線を食品に対して用いる場合に必要となるのは、食品の被照射量を定量化するための検査方法であり、これまで学術研究によって様々な方法が提案されている。ESR測定はその内の有効な方法の一つであり、放射線照射によって食品中に生成し安定に存在するラジカル分子を測定するものである。ヨーロッパ(EU)では、乾燥野菜・乾燥果実・骨付き肉の被照射放射線量を測る標準法として定められている。
しかしながら、従来のESR装置を使用する検査方法は、学術研究に用いる大型で高価な汎用型ESR装置を用いることを前提とした方法であり、食品輸入の前線や食品加工の現場で簡便に検査を行うことは困難である。
【非特許文献】食品照射専門部会(平成17年12月14日 第一回)資料
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、放射線照射食品を対象として、被放射線量が基準を超えているか否かを迅速に判定する検査方法とその検査に用いる装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
食品に照射された放射線量を評価するための電子スピン共鳴測定において、測定対象とする食品に対して放射線を照射する前後で電子スピン共鳴信号を測定し、照射後の信号から照射前の信号を差し引くことで、対象とした食品が放射線を浴びることで特徴的に出現する電子スピン共鳴信号を決定し、この信号を与える測定磁場をもって検査磁場とするとともに、信号強度を最大限界放射線照射量とする。
【0006】
上記の検査方法で、測定時のマイクロ波強度を50%変化させた時にこの信号強度が10%以上変化しないマイクロ波強度を決定し、この測定マイクロ波強度をもって検査マイクロ波強度とする。
【0007】
上記の検査方法を実施するための検量線の作成方法で、対象とする食品で予め照射された放射線量が分かっているものを検査磁場と検査マイクロ波強度で測定し、放射線量と電子スピン共鳴信号強度の相関を検量線とする。
【0008】
上記の検査方法を実現するための装置で、主磁場を与える永久磁石と磁場を掃引するコイル、および測定磁場を校正するための標準ラジカル物質を用いたラジカル信号源を有する。標準ラジカル物質としては、例えばMnOやDPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)などがある。
【0009】
上記の検査方法を上記の装置で実施するために用いる試料管で、石英管と上下端を塞ぐテフロンキャップからなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明を用いることで、ESR測定によって食品の被放射線量を迅速かつ簡便に推定することが可能となる。予め測定対象となる食品において決定した検査磁場強度と検査マイクロ波強度を用いるために、ESR装置自体は小型で安価なものとなる。本発明を実施することで食品の加工現場や消費者レベルでの検査が実現すれば、社会全体として安全で信頼性の高い食品を供給・消費することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に本発明の提案する検査方法の流れを示した。まず、検査準備として
1)測定対象となる食品と同一種類の食品を準備し、ESR信号(A)を測定する。
2)所定量の放射線を照射した後に、再びESR信号(B)を測定する。
3)放射線照射後の信号から照射前の信号を差し引く(B−A)ことで、放射線照射によって出現するESR信号を得て、検査に用いる磁場強度を決定(検査磁場)する。
4)測定時のマイクロ波強度を変化させ、1)〜3)を行い、照射によって出現する信号について、測定時のマイクロ波強度を50%変化させた時に信号強度が10%以上変化しないマイクロ波強度を決定(検査マイクロ波強度)する。
5)上記で決定した検査磁場と検査マイクロ波強度において、少なくとも3段階以上の照射線量の異なる放射線を照射した食品のESR信号を測定し、測定対象となる食品に関して照射線量とESR信号強度の相関を得て検量線を作成する。
【0012】
次に、実際の検査として、
6)試料を検査用試料管に充填する。
7)測定対象の食品種に対して決定した検査磁場と検査マイクロ波強度においてESR信号を測定する。
8)測定対象の食品種に対して作成した検量線を用いて、ESR信号強度から放射線照射推定最大量を決定する。
【実施例】
【0013】
図2にコショウ粉末に0〜50kGyのガンマ線を照射した場合のESR信号を示した。図中の334〜336mTの測定磁場において観察されるESR信号が、コショウ粉末において放射線照射によって増大する特徴的なESR信号である。ポリフェノールやビタミンなどの有機物が放射線照射によってラジカル化されたことに起因すると推察される。この信号は放射線を照射していないコショウ粉末においてもある程度の強度で観察されるが、これは熱などによって同様のラジカルが生じたためと考えられる。放射線未照射試料において観察される信号強度が、後述する未知試料における放射線照射量の決定において不確定要素となり、このために本発明で決定することが出来るのは『過去に照射された放射線強度の最大値(放射線照射推定最大量)』となる。
【0014】
コショウ粉末を対象食品とした本発明の実施では、検査磁場を334〜336mTとし、測定に用いるマイクロ波強度を変化させてESR信号を測定し、放射線照射によって増大する信号の測定強度が測定に用いるマイクロ波強度を50%変化させても信号強度が10%以上変化しないマイクロ波の強度範囲8〜50mWを決定した。検査マイクロ波強度を16mWとして、放射線を照射したコショウ粉末のESR測定を行った。図3にコショウ粉末に関して検量線として用いる照射線量とESR信号強度の相関を示した。
コショウ粉末の未知試料を検査する場合には、上記で決定した検査磁場・検査マイクロ波強度においてESR信号を測定し、得られた信号強度を図3中に示したように検量線に適用することで、放射線照射推定最大量を決定することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】検査の流れを示すフローチャートである。
【図2】コショウ粉末において放射線照射量とESR信号の関係を示す図である。
【図3】コショウ粉末における放射線量に対応した電子スピン共鳴信号強度を表した検量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品に照射された放射線量を評価するための電子スピン共鳴測定において、測定対象とする食品に対して予め同一種類の食品を準備し電子スピン共鳴信号を測定した後に所定量の放射線を照射し再び電子スピン共鳴信号を測定する。所定量の放射線照射後の信号から照射前の信号を差し引くことで、対象とした食品が放射線を浴びることで特徴的に出現する電子スピン共鳴信号を決定し、この信号を与える測定磁場をもって検査磁場とすることを特徴とする照射放射線検査方法。
【請求項2】
〔請求項1〕の検査方法で、検査磁場においてマイクロ波強度を50%変化させた時にこの信号強度が10%以上変化しないマイクロ波強度を決定し、この測定マイクロ波強度をもって検査マイクロ波強度とすることを特徴とする照射放射線検査方法。
【請求項3】
〔請求項1〕の検査方法を実施するための検量線の作成方法で、対象とする食品で予め照射された放射線量が分かっている少なくとも照射量がそれぞれ異なる3点以上のものを〔請求項1〕の検査磁場と〔請求項2〕の検査マイクロ波強度で測定し、放射線量に対応した電子スピン共鳴信号強度を検量線とすることを特徴とする照射放射線検査方法。
【請求項4】
〔請求項1〕および、または〔請求項2〕および、または〔請求項3〕の検査方法を実現するための装置で、主磁場を与える永久磁石と磁場を掃引するコイル、および測定磁場を校正するための標準ラジカル物質を用いたラジカル信号源を有することを特徴とする電子スピン共鳴装置。
【請求項5】
〔請求項1〕および、または〔請求項2〕および、または〔請求項3〕の検査方法を〔請求項4〕の装置で実施するための、石英管と上下端を塞ぐテフロンキャップからなることを特徴とする試料管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−187641(P2007−187641A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31621(P2006−31621)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(502383889)キーコム株式会社 (28)
【Fターム(参考)】