説明

放射線画像撮影用グリッド及びその製造方法、並びに放射線画像撮影システム

【課題】X線吸収部内にボイド等の欠陥が無いグリッドを提供する。
【解決手段】タングステンやモリブデン等のX線吸収性を有する金属によりグリッド基板20を形成し、グリッド基板20に領域を設定することにより複数のX線吸収部24を形成する。X線吸収部24は、グリッド基板20からなるので、ボイド等の欠陥が生じることがなく、高いX線吸収性が得られる。グリッド基板20のX線吸収部24以外の領域には、陽極酸化を用いて多数の微細な穴27を形成することにより、複数のX線透過部25を構成する。X線透過部25は、複数の貫通された穴27からなり、酸化されているので、高いX線透過性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像の撮影に用いられるグリッド及びその製造方法と、このグリッドを用いた放射線画像撮影システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、物体に入射したときの相互作用により強度と位相とが変化し、位相の変化が強度の変化よりも高い相互作用を示すことが知られている。このX線の性質を利用し、被検体によるX線の位相変化(角度変化)に基づいて、X線吸収能が低い被検体から高コントラストの画像(以下、位相コントラスト画像と称する)を得るX線位相イメージングの研究が盛んに行われている。
【0003】
2枚の透過型の回折格子(グリッド)によるタルボ干渉効果を用いて、X線位相イメージングを行なうX線画像撮影システムが考案されている(例えば、非特許文献1参照)。このX線画像撮影システムは、X線源から見て、被検体の背後に第1のグリッドを配置し、第1のグリッドからタルボ干渉距離だけ下流に第2のグリッドを配置している。第2のグリッドの背後には、X線を検出して画像を生成するX線画像検出器(FPD:Flat Panel Detector)が配置されている。第1のグリッド及び第2のグリッドは、一方向に延伸されたX線吸収部及びX線透過部を、延伸方向に直交する配列方向に沿って交互に配列した縞状の一次元グリッドである。タルボ干渉距離とは、第1のグリッドを通過したX線が、タルボ干渉効果によって自己像(縞画像)を形成する距離である。
【0004】
上記X線画像撮影システムでは、第1のグリッドの自己像と第2のグリッドとの重ね合わせ(強度変調)により生じる縞画像を、縞走査法により検出し、被検体による縞画像の変化から被検体の位相情報を取得する。縞走査法とは、第1のグリッドに対して第2のグリッドを、第1のグリッドの面にほぼ平行で、かつ第1のグリッドの格子方向(条帯方向)にほぼ垂直な方向に、格子ピッチを等分割した走査ピッチで並進移動させながら複数回の撮影を行い、X線画像検出器で得られる各画素値の変化から、被検体で屈折したX線の角度分布(位相シフトの微分像)を取得する方法であり、この角度分布に基づいて被検体の位相コントラスト画像を得る。この縞走査法は、レーザ光を利用した撮影装置においても用いられている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
第1及び第2のグリッドは、X線吸収部の幅及びピッチが数μmという微細な構造を要する。また、第1及び第2のグリッドのX線吸収部は、高いX線吸収性が求められる。特に第2のグリッドは、縞画像を確実に強度変調させるため、第1のグリッドよりも高いX線吸収性を必要とする。そのため、第1及び第2のグリッドのX線吸収部は、原子量の重い金(Au)で形成され、第2のグリッドのX線吸収部は、X線の進行方向に対して比較的大きな厚みを有すること、いわゆるアスペクト比(X線を吸収する部分における厚みを幅で除算した値)が高いことが必要とされている。
【0006】
特許文献1は、散乱線除去グリッドに関するものであるが、X線透過性を有する支持基板に陽極酸化によって穴を形成し、この穴の中に金等のX線吸収性を有する材質を充填してグリッドを形成する手法が開示されている。陽極酸化とは、対象となる材料の表面を陽極として、主に強酸中で水の電気分解により酸化させる処理であり、微細で高いアスペクト比を有する穴を形成することができるので、X線位相イメージング用のグリッドの製造に用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−194462号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C. David, et al., Applied Physics Letters, Vol.81, No.17, 2002年10月,3287頁
【非特許文献2】Hector Canabal, et al., Applied Optics, Vol.37, No.26, 1998年9月,6227頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
支持基板に陽極酸化によって形成した穴に金等のX線吸収材を充填するには、例えば、電解メッキによって穴内に金を析出させる手法や、金インク等の流動性を有するX線吸収材を穴内に流し込む手法が考えられる。しかし、微細で高アスペクト比を有する穴にX線吸収材を充填するのは難しいため、穴内にボイド等の欠陥が発生しやすくなり、グリッド性能が低下してしまう。
【0010】
本発明は、X線吸収部内にボイド等の欠陥が無いグリッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の放射線画像撮影用グリッドは、放射線吸収性を有する基板からなり、基板に領域設定された複数の放射線吸収部と、基板の放射線吸収部以外の領域に設けられた複数の穴からなる複数の放射線透過部とを備えている。
【0012】
穴は、基板の厚み方向に沿って設けられていることが好ましく、より好ましくは、穴が基板を貫通しているとよい。また、基板は、放射性吸収性を有する金属からなり、放射線透過部を構成する領域が酸化されていることが好ましい。
【0013】
穴は、重なり合わないように配置されており、穴の周囲がそれぞれ連結されているのが好ましい。また、穴は、放射線の焦点に向かって収束するように設けられていてもよい。
【0014】
本発明の放射線画像撮影用グリッドの製造方法は、放射線吸収性を有する基板に領域設定された複数の放射線吸収部の両面に、第1及び第2の絶縁層をそれぞれ形成する工程と、基板の放射線吸収部以外の領域の一方の面に複数の凹部を形成する工程と、基板を酸性溶液中に浸漬し、基板の凹部が形成された面に対向配置された電極と基板の凹部が形成された面と反対側の面との間に電圧を印加し、凹部を陽極酸化させて複数の穴を形成する工程とを含んでいる。
【0015】
基板の凹部が形成される面に設けられた第1の絶縁層に対し、基板の凹部が形成される面と反対側の面に設けられた第2の絶縁層は、形成位置がずらされていてもよい。
【0016】
本発明の放射線画像撮影システムは、放射線を透過する部分と吸収する部分とからなるグリッド構造が周期的に配置され、放射線源から照射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1のグリッドと、第1の周期パターンに対して位相が異なる少なくとも1つの相対位置で第1の周期パターン像に強度変調を与える強度変調手段と、強度変調手段により相対位置で生成された第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器と、放射線画像検出器により検出された少なくとも1つの第2の周期パターン像に基づいて、位相情報を画像化する演算処理手段とを備えた放射線画像撮影システムであって、第1のグリッドに上記放射線画像撮影用グリッドを用いたものである。
【0017】
強度変調手段は、第1の周期パターンを透過する部分と吸収する部分とからなるグリッド構造が周期的に配置された第2のグリッドと、第1及び第2のグリッドのいずれか一方を、第1及び第2のグリッドのグリッド構造の周期方向に所定のピッチで移動させる走査手段とからなり、走査手段により移動される各位置が相対位置に対応する放射線画像撮影システムの場合には、第2のグリッドに上記放射線画像撮影用グリッドを用いてもよい。
【0018】
また、放射線源と第1のグリッドとの間に配置され、放射線源から照射された放射線を部分的に遮蔽して多数の線光源とする第3のグリッドを有する放射線画像撮影システムの場合には、第3のグリッドに上記放射線画像撮影用グリッドを用いてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の放射線画像撮影用グリッドによれば、放射線吸収部は、放射線吸収性を有する基板の一部によって構成されるので、ボイド等の欠陥による影響を受けることがなく、高い放射線吸収性を得ることができる。また、放射線透過部は、基板に形成された複数の穴からなるので高い放射線透過性を得ることができる。放射線透過部を酸化させた場合、更に放射線透過性を向上させることができる。また、穴の周囲は連結されているので、穴を設けることによるグリッドの極端な強度低下は生じない。更に、穴は、放射線の焦点に向かって収束するように設けることもできるので、コーンビーム状の放射線のケラレを小さくすることができる。
【0020】
本発明の放射線画像撮影用グリッドの製造方法によれば、穴の形成に陽極酸化を用いているので、微細で高アスペクト比を有する穴を精度よく形成することができる。また、第1及び第2の絶縁層の位置をずらすことにより穴が形成される方向を制御できるので、放射線の焦点に向かって収束された穴も容易に形成することができる。本発明のグリッドを用いる放射線画像撮影システムによれば、放射線吸収性の高い放射線吸収部と、放射線透過性の高い放射線透過部とを備えたグリッドを使用するので、高画質な位相コントラスト画像を撮影することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のX線画像撮影システムの構成を模式的に示す概略図である。
【図2】第2のグリッドの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】グリッド基板に絶縁層を設けた状態を示す断面図である。
【図4】グリッド基板に凹部を形成した状態を示す断面図である。
【図5】グリッド基板に穴を形成する工程を示す説明図である。
【図6】穴が形成されたグリッド基板の状態を示す断面図である。
【図7】グリッド基板に支持基板を接合した状態を示す断面図である。
【図8】グリッド基板の研磨により穴を貫通させた状態を示す断面図である。
【図9】グリッド基板に傾斜された穴を形成する工程を示す断面図である。
【図10】傾斜された穴を有するグリッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すように、X線画像撮影システム10は、X線照射方向であるz方向に沿って配置されたX線源11、線源グリッド12、第1のグリッド13、第2のグリッド14、及びX線画像検出器15を備えている。X線源11は、例えば、回転陽極型のX線管と、X線の照射野を制限するコリメータとを有し、被検体Hにコーンビーム状のX線を放射する。X線画像検出器15は、例えば、半導体回路を用いたフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)であり、第2のグリッド14の背後に配置されている。X線画像検出器15には、X線画像検出器15により検出された画像データから位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部16が接続されている。
【0023】
線源グリッド12、第1のグリッド13及び第2のグリッド14は、X線を吸収する吸収型グリッドであり、z方向においてX線源11に対向配置されている。線源グリッド12と第1のグリッド13との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。また、第1のグリッド13と第2のグリッド14との距離は、最小のタルボ干渉距離以下とされている。すなわち、本実施形態のX線画像撮影システム10は、タルボ干渉効果を用いず、X線を投影することによって位相コントラスト画像を撮影する。
【0024】
第2のグリッド14及び走査機構18は、本発明の強度変調手段を構成する。走査機構18は、位相コントラスト画像の撮影時に、第2のグリッド14の格子ピッチを等分割(例えば、5分割)した走査ピッチで、格子ピッチ方向(x方向)に並進移動させる機構である。
【0025】
第2のグリッド14を例にして、グリッドの構造を説明する。図2(A)は、第2のグリッド14をX線画像検出器15側から見た正面図であり、同図(B)は同図(A)のA−A断面図である。第2のグリッド14は、グリッドとして機能するグリッド基板20と、グリッド基板20のX線源11側の面に接合された支持基板21とから構成されている。
【0026】
グリッド基板20は、z方向に直交する面内でy方向に延伸された複数のX線吸収部24及びX線透過部25を備えている。X線吸収部24及びX線透過部25は、z方向及びy方向に直交するx方向に沿って交互に配列されており、縞状のグリッドを構成している。X線吸収部24及びX線透過部25は、X線源11から照射されたX線をそれぞれ吸収(遮蔽)及び透過することにより、縞状の画像を形成する。
【0027】
グリッド基板20は、例えばタングステンやモリブデン等のX線吸収性を有する金属からなる。X線吸収部24は、グリッド基板20に対しy方向に延伸された領域が設定されることにより設けられている。X線透過部25は、グリッド基板20のX線吸収部24の間に設定された領域にそれぞれ設けられた複数の穴27から構成されている。穴27は、グリッド基板20の厚み方向に沿って形成され、かつグリッド基板20を貫通している。複数の穴27は、グリッドの極端な強度低下を防止し、かつ放射線透過性を向上させるため、互いに重なり合わないようにできるだけ近接して配置されているとともに、穴27の周囲がそれぞれ連結されている。また、X線透過部25の領域は、穴27を形成する際に酸化されているので、X線吸収部24よりものX線透過性が高くなっている。
【0028】
X線吸収部24の幅W2及びピッチP2は、線源グリッド12と第1のグリッド13との間の距離、第1のグリッド13と第2のグリッド14との間の距離、及び第1のグリッド13のX線吸収部のピッチ等によって決まるが、幅W2はおよそ2〜20μm、ピッチP2は4〜40μm程度である。また、X線吸収部24のz方向の厚みT2は、高いX線吸収性を得るには厚いほどよいが、X線源11から放射されるコーンビーム状のX線のケラレを考慮して、例えば100〜200μm程度となっている。本実施形態では、例えば、幅W2が2.5μm、ピッチP2が5μm、厚みT2が100μmであり、X線吸収部24のアスペクト比は40である。
【0029】
支持基板21は、グリッド基板20を補強するための基板であり、グリッド基板20を支持可能な強度と、高いX線透過性とを有する材質により構成されている。支持基板21の材質には、例えば、ガラス、カーボン、アクリル、アルミ、チタン等が用いられる。なお、グリッド基板20のみで十分な剛性が得られるのであれば、支持基板21は省略してもよい。
【0030】
次に、第2のグリッド14の製造方法について説明する。図3に示すように、最初の工程では、グリッド基板20のX線吸収部24の両面に、例えばSiOやSi等からなる絶縁層29が形成される。絶縁層29は、例えば、一般的なフォトリソグラフィ技術を用いてX線透過部25の領域上の両面にレジストマスクを形成し、このレジストマスクを利用し、X線吸収部24の両面に絶縁材料をスパッタや蒸着等によって成膜し、その後にレジストマスクを除去することにより形成される。なお、グリッド基板20の両面に絶縁層29を形成するのは、グリッド基板20の上面にのみ絶縁層29を設けた場合、2点鎖線で示すように、絶縁層29のエッジ部分に形成される穴27aが斜めになるので、これを防止するためである。
【0031】
図4に示すように、次の工程では、グリッド基板20のX線透過部25となる領域の一方の面に金型31が押し当てられ、複数の凹部32が形成される。この凹部32は、後述する陽極酸化を用いてグリッド基板20に穴27を形成する際に、穴27の形成位置を規定する。なお、凹部32は、後述する陽極酸化を用いて形成してもよいし、フォトリソグラフィによるパターン形成とウエットエッチングとを用いて形成してもよい。
【0032】
図5に示すように、凹部32が設けられたグリッド基板20は、酸性溶液(例えば、本実施形態ではシュウ酸溶液)が満たされた酸化槽34内に浸漬され、凹部32が形成されている面に対面するように電極35が配置される。そして、電極35と、グリッド基板20の他方の面との間に電圧が印加されることにより、凹部32に沿ってグリッド基板20が陽極酸化される。これにより、図6に示すように、穴27を含む酸化膜36がグリッド基板20に形成される。このように、穴27の形成に陽極酸化を用いるので、微細で高アスペクト比を有する穴を精度よく形成することができ、高精度でX線透過性の高いX線透過部25を得ることができる。
【0033】
なお、穴27の大きさは電圧に依存し、深さは処理時間によって制御することができる。例えば、0.5Molのシュウ酸溶液を使用し、室温15°Cの環境下で40Vの電圧を電極35とグリッド基板20との間に加えたとき、穴27の径は約100nmとなる。なお、穴径は、最大数百マイクロ程度まで形成可能である。なお、陽極酸化に関する詳しい説明は、特許文献1を参照されたい。
【0034】
図7に示すように、次の工程では、グリッド基板20から絶縁層29が除去され、グリッド基板20の穴27が形成された面に支持基板21が接着剤等によって接合される。次いで、図8に示すように、グリッド基板20の支持基板21が接合された面と反対側の面がCMP装置等によって研磨される。これにより、グリッド基板20の穴27が貫通された状態となり、第2のグリッド14が完成する。なお、グリッド基板20に穴27が貫通するまで陽極酸化を行なってもよいし、酸性溶液によるウエットエッチングあるいはプラズマによるドライエッチングを用いてもよい。
【0035】
線源グリッド12及び第1のグリッド13は、第2のグリッド14と同様に、グリッド基板及び支持基板から構成されている。線源グリッド12及び第1のグリッド13のグリッド基板は、第2のグリッド14のグリッド基板20と同様に、y方向に延伸されx方向に沿って交互に配列されたX線吸収部及びX線透過部を備えており、X線透過部は複数の穴により構成されている。このように、線源グリッド12及び第1のグリッド13は、各小グリッドのX線吸収部及びX線透過部のy方向の幅及びピッチと、z方向の厚さ等が異なる以外は第2のグリッド14とほぼ同様の構成であるため、詳しい説明は省略する。また、線源グリッド12及び第1のグリッド13は、第2のグリッド14と同様に製造されるため、詳しい説明は省略する。
【0036】
次に、X線画像撮影システム10の作用について説明する。X線源11から放射されたX線は、線源グリッド12のX線吸収部によって部分的に遮蔽されることにより、x方向に関する実効的な焦点サイズが縮小され、x方向に多数の線光源(分散光源)が形成される。線源グリッド12により形成された多数の線光源のX線は、被検体Hを通過することにより位相差が生じ、このX線が第1のグリッド13を通過することにより、被検体Hの屈折率と透過光路長とから決定される被検体Hの透過位相情報を反映した縞画像(第1の周期パターン像)が形成される。各線光源の縞画像は、第2のグリッド14に投影され、第2のグリッド14の位置で一致する(重なり合う)ので、X線強度を低下させずに、位相コントラスト画像の画質を向上させることができる。
【0037】
縞画像は、第2のグリッド14により強度変調される。強度変調された縞画像(第2の周期パターン像)は、例えば、縞走査法により検出される。縞走査法とは、第1のグリッド13に対し、第2のグリッド14を走査機構18によって、X線焦点を中心として格子面に沿った方向に格子ピッチを等分割(例えば、5分割)した走査ピッチで並進移動させながら、X線源11から被検体HにX線を照射して複数回の撮影を行なってX線画像検出器15により検出し、位相コントラスト画像生成部16により、X線画像検出器15の各画素の画素データの位相のズレ量(被検体Hがある場合とない場合とでの位相のズレ量)から位相微分像(被検体で屈折したX線の角度分布に対応)を取得する方法である。位相コントラスト画像生成部16により、位相微分像を上記の縞走査方向に沿って積分することにより、被検体Hの位相コントラスト画像を得ることができる。
【0038】
以上で説明したように、本実施形態の線源グリッド12、第1のグリッド13及び第2のグリッド14は、X線吸収部24がX線吸収性を有するグリッド基板20からなるので、ボイド等の欠陥が生じることがない。また、X線透過部25は、グリッド基板20に対し陽極酸化により形成された複数の穴27からなるので高いX線透過性を有する。これにより、本実施形態の線源グリッド12、第1のグリッド13及び第2のグリッド14を用いたX線画像撮影システム10では、位相コントラスト画像の画質を向上させることができる。
【0039】
上記実施形態では、グリッド基板20の両面に対面するように絶縁層29を設けることにより、グリッド基板20を厚み方向に沿って真っ直ぐに貫通する穴27を設けたが、図9に示すように、グリッド基板20の上面の第1絶縁層38に対する下面の第2絶縁層39の位置をずらすことにより、図10に示す第2のグリッド40のように、グリッド基板20の厚み方向に対して斜めに穴41を形成してもよい。これによれば、複数の穴41からなるX線透過部42は、X線源11のX線が発生されるX線焦点11aに対して収束するようにグリッド面内で傾けられるので、X線源11から照射されたコーンビーム状のX線のケラレを少なくすることができる。
【0040】
また、上記実施形態では、一方向に延伸されかつ延伸方向に直交する配列方向に沿って交互に配置されたX線吸収部及びX線透過部を有する縞状の一次元グリッドを例に説明したが、本発明は、X線吸収部及びX線透過部が2方向に配列された二次元グリッドにも適用が可能である。さらに、上記実施形態では、被検体HをX線源と第1のグリッドとの間に配置しているが、被検体Hを第1のグリッドと第2のグリッドとの間に配置した場合にも同様に位相コントラスト画像の生成が可能である。また、線源グリッドを備えたX線画像撮影システムについて説明したが、本発明は、線源グリッドを使用しないX線画像撮影システムにも適用可能である。また、上記各実施形態は、矛盾しない範囲で相互に組み合わせることが可能である。
【0041】
上記実施形態は、第1及び第2のグリッドを、そのX線透過部を通過したX線を線形的に投影するように構成しているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、第1及び第2のグリッドでX線を回折することにより、いわゆるタルボ干渉効果が生じる構成(国際公開WO2004/058070号公報等に記載の構成)としてもよい。この場合には、第1及び第2のグリッド間の距離をタルボ干渉距離に設定する必要がある。また、第1のグリッドの種類を、吸収型グリッドではなく、比較的アスペクト比が低い位相型グリッドにすることも可能である。
【0042】
また、上記実施形態では、第2のグリッドにより強度変調された縞画像を縞走査法によって検出して位相コントラスト画像を生成しているが、1回の撮影によって位相コントラスト画像を生成するX線画像撮影システムも知られている。例えば、国際公開WO2010/050483号公報に記載されているX線画像撮影システムでは、第1及び第2のグリッドにより生成されたモアレをX線画像検出器により検出し、この検出されたモアレの強度分布をフーリエ変換することによって空間周波数スペクトルを取得し、この空間周波数スペクトルからキャリア周波数に対応したスペクトルを分離して逆フーリエ変換を行なうことにより微分位相像を得ている。このようなX線画像撮影システムの第1及び第2のグリッドの少なくとも一方に、本発明のグリッドを用いてもよい。
【0043】
また、1回の撮影により位相コントラスト画像を生成するX線画像撮影システムには、強度変調手段として、第2のグリッドの代わりに、X線を電荷に変換する変換層と、変換層により生成された電荷を収集する電荷収集電極とを備えた直接変換型のX線画像検出器を用いたものがある。このX線画像撮影システムは、例えば、各画素の電荷収集電極が、第1のグリッドで形成された縞画像の周期パターンとほぼ一致する周期で配列された線状電極を互いに電気的に接続してなる線状電極群が、互いに位相が異なるように配置されたものであり、各線状電極群を個別に制御して電荷を収集することにより、1度の撮影により複数の縞画像を取得し、この複数の縞画像に基づいて位相コントラスト画像を生成している(特開2009−133823号公報等に記載の構成)。このようなX線画像撮影システムの第1のグリッドに、本発明のグリッドを用いてもよい。
【0044】
また、1回の撮影により位相コントラスト画像を生成する別のX線画像撮影システムとして、第1及び第2のグリッドを、X線吸収部及びX線透過部の延伸方向が相対的に所定の角度だけ傾くように配置し、この傾きにより上記延伸方向に生じるモアレ周期の区間を分割して撮影することにより、第1及び第2のグリッドの相対位置が異なる複数の縞画像を取得し、これらの複数の縞画像から位相コントラスト画像を生成することも可能である。このようなX線画像撮影システムの第1及び第2のグリッドの少なくとも一方に、本発明のグリッドを用いてもよい。
【0045】
また、光読取型のX線画像検出器を用いることにより、第2のグリッドを省略したX線画像撮影システムが考えられる。このシステムでは、第1のグリッドによって形成された周期パターン像を透過する第1の電極層と、第1の電極層を透過した周期パターン像の照射を受けて電荷を発生する光導電層と、光導電層において発生した電荷を蓄積する電荷蓄積層と、読取光を透過する線状電極が多数配列された第2の電極層とがこの順に積層され、読取光によって走査されることによって各線状電極に対応する画素毎の画像信号が読み出される光読取型のX線画像検出器を強度変調手段として用いており、電荷蓄積層を線状電極の配列ピッチよりも細かいピッチで格子状に形成することにより、電荷蓄積層を第2のグリッドとして機能させることができる。このようなX線画像撮影システムの第1のグリッドに、本発明のグリッドを用いてもよい。
【0046】
以上で説明した実施形態は、医療診断用の放射線画像撮影システムのほか、工業用や、非破壊検査等のその他の放射線撮影システムに適用することが可能である。また、本発明は、X線撮影において散乱線を除去する散乱線除去用グリッドにも適用可能である。更に、本発明は、放射線として、X線以外にガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 X線画像撮影システム
11 X線源
12 線源グリッド
13 第1のグリッド
14 第2のグリッド
15 X線画像検出器
18 走査機構
20 グリッド基板
21 支持基板
24 X線吸収部
25 X線透過部
27 穴
29 絶縁層
32 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線吸収性を有する基板からなり、
前記基板に領域設定された複数の放射線吸収部と、
前記基板の前記放射線吸収部以外の領域に設けられた複数の穴からなる複数の放射線透過部と、
を備えたことを特徴とする放射線画像撮影用グリッド。
【請求項2】
前記穴は、前記基板の厚み方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1記載の放射線画像撮影用グリッド。
【請求項3】
前記穴は、前記基板を貫通していることを特徴とする請求項2記載の放射線画像撮影用グリッド。
【請求項4】
前記基板は、放射性吸収性を有する金属からなり、前記放射線透過部を構成する領域が酸化されていることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の放射線画像撮影用グリッド。
【請求項5】
前記穴は、重なり合わないように配置されており、前記穴の周囲がそれぞれ連結されていることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の放射線画像撮影用グリッド。
【請求項6】
前記穴は、放射線の焦点に向かって収束するように設けられていることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の放射線画像撮影用グリッド。
【請求項7】
放射線吸収性を有する基板に領域設定された複数の放射線吸収部の両面に、第1及び第2の絶縁層をそれぞれ形成する工程と、
前記基板の前記放射線吸収部以外の領域の一方の面に複数の凹部を形成する工程と、
前記基板を酸性溶液中に浸漬し、前記基板の前記凹部が形成された面に対向配置された電極と、前記基板の前記凹部が形成された面と反対側の面との間に電圧を印加し、前記凹部を陽極酸化させて複数の穴を形成する工程と、
を含むことを特徴とする放射線画像撮影用グリッドの製造方法。
【請求項8】
前記基板の前記凹部が形成される面に設けられた第1の絶縁層に対し、前記基板の前記凹部が形成される面と反対側の面に設けられた第2の絶縁層は、形成位置がずらされていることを特徴とする請求項7記載の放射線画像撮影用グリッドの製造方法。
【請求項9】
放射線を透過する部分と吸収する部分とからなるグリッド構造が周期的に配置され、放射線源から照射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を形成する第1のグリッドと、前記第1の周期パターンに対して位相が異なる少なくとも1つの相対位置で前記第1の周期パターン像に強度変調を与える強度変調手段と、前記強度変調手段により前記相対位置で生成された第2の周期パターン像を検出する放射線画像検出器と、前記放射線画像検出器により検出された少なくとも1つの前記第2の周期パターン像に基づいて、位相情報を画像化する演算処理手段と、を備えた放射線画像撮影システムであって、
前記第1のグリッドに、請求項1〜6いずれかに記載の放射線画像撮影用グリッドを用いたことを特徴とする放射線画像撮影システム。
【請求項10】
前記強度変調手段は、前記第1の周期パターンを透過する部分と吸収する部分とからなるグリッド構造が周期的に配置された第2のグリッドと、前記第1及び第2のグリッドのいずれか一方を、前記第1及び第2のグリッドのグリッド構造の周期方向に所定のピッチで移動させる走査手段とからなり、前記走査手段により移動される各位置が前記相対位置に対応する放射線画像撮影システムであって、
前記第2のグリッドに、請求項1〜6いずれか記載の放射線画像撮影用グリッドを用いたことを特徴とする請求項9記載の放射線画像撮影システム。
【請求項11】
前記放射線源と前記第1のグリッドとの間に配置され、前記放射線源から照射された放射線を部分的に遮蔽して多数の線光源とする第3のグリッドを有し、前記第3のグリッドに、請求項1〜6いずれか記載の放射線画像撮影用グリッドを用いたことを特徴とする請求項9または10記載の放射線画像撮影システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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