放射線画像検出器
【課題】 硬X線やγ線等の放射線を高感度で検出することができ、位置分解能及び計数率特性に優れた、新規な放射線画像検出器を提供することを目的とする。
【解決手段】 入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、紫外線を電子に変換し、かかる電子をガス電子雪崩現象を利用して増幅し、検出するガス増幅型紫外線画像検出器とを組み合わせた放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶であることを特徴とする放射線画像検出器である。
【解決手段】 入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、紫外線を電子に変換し、かかる電子をガス電子雪崩現象を利用して増幅し、検出するガス増幅型紫外線画像検出器とを組み合わせた放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶であることを特徴とする放射線画像検出器である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な放射線画像検出器に関する。該放射線画像検出器は、陽電子断層撮影、X線CT等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野において好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
放射線利用技術は、陽電子断層撮影、X線CT等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野など多岐にわたり、現在も目覚しい発展を続けている。
【0003】
放射線画像検出器は、放射線利用技術の重要な位置を占める要素技術であって、放射線利用技術の発展に伴い、検出感度、放射線の入射位置に対する位置分解能、或いは計数率特性について、より高度な性能が求められている。また、放射線利用技術の普及に伴い、放射線画像検出器の低コスト化、及び有感領域の大面積化も求められている。
【0004】
上記放射線画像検出器に対する要求に応えるべく、ガス増幅型放射線画像検出器が開発された(非特許文献1参照)。かかるガス増幅型放射線画像検出器は、入射放射線がガス分子を電離して生成した電子を高電場下におけるガス電子雪崩現象によって増幅した後に多線式ワイヤー又は微細電極で検出するものであり、放射線の入射位置に対する位置分解能及び計数率特性に優れるという利点を有する。
【0005】
また、前記ガス増幅型放射線画像検出器の中でも、長期間安定に動作し、有感領域が大きな検出器を容易に且つ安価に製作することが可能なピクセル型電極を用いたガス増幅型放射線画像検出器が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
前記ガス増幅型放射線画像検出器は種々の利点を有するものの、硬X線やガンマ線のような高いエネルギーをもった光子に対しては、ガスの阻止能が乏しいため、これらの光子を検出対象とする場合には検出感度が低いという問題があった。
【0007】
かかる問題に鑑みて、本発明者らは既に、高いエネルギーをもった光子に対しても充分な阻止能を有するシンチレーターを用いて、入射した放射線を紫外線に変換し、該紫外線を位置分解能を有するガス増幅型検出器によって検出する方法を提案しており(特許文献2参照)、同様の方法によって放射線を検出する試みは、他者においてもなされている(非特許文献2参照)。
【0008】
また、本発明者らは既に、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーター、並びに光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されるガス増幅型紫外線画像検出器を具備してなる放射線画像検出器を提案している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3354551号公報
【特許文献2】国際公開第2008/099971号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2010/113682号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R. Fourme, “Position−sensitive gas detectors: MWPCs and their gifted descendants” Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A392, 1−11(1997).
【非特許文献2】P. Schotanus, et al., “Detection of LaF3:Nd3+ Scintillation Light in a Photosensitive Multiwire Chamber” Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A272, 913−916(1988).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、紫外線を電子に変換し、かかる電子を増幅して検出するガス増幅型紫外線画像検出器とを組み合わせて構成される放射線画像検出器であって、硬X線やγ線等の放射線を高感度で検出することが可能な放射線画像検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターについて種々検討を重ねた。その結果、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶をシンチレーターとして用いることによって、高い発光量が得られることを見出した。
【0013】
また、本発明者等は、前記LuF3結晶からなるシンチレーターより生じた紫外線を、ガス増幅型紫外線画像検出器を用いて検出することにより、放射線に対する検出効率を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明によれば、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーター、及びガス増幅型紫外線画像検出器を具備してなる放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶であることを特徴とする放射線画像検出器が提供される。
【0015】
上記放射線画像検出器の発明において、ガス増幅型紫外線画像検出器が、光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されることが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターの発光量が向上し、且つ、シンチレーターより生じる紫外線をガス増幅型紫外線画像検出器によって感度よく検出することができるので、位置分解能及び計数率特性に優れた放射線画像検出器を提供できる。また、本発明の放射線画像検出器は、有感領域を容易に大型化でき、かつ安価に製作できるため、医療、工業、及び保安等の分野において極めて価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図2】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図3】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図4】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図5】本図は、本発明で用いるガス電子増幅器の模式図である。
【図6】本図は、引上げ法による製造装置の概略図である。
【図7】本図は、実施例1で57Coを用いて得られた放射線画像である。
【図8】本図は、実施例1で241Amを用いて得られた放射線画像である。
【図9】本図は、実施例1及び比較例1で得られた波高分布である。
【図10】本図は、実施例2で57Coを用いて得られた放射線画像である。
【図11】本図は、実施例2で241Amを用いて得られた放射線画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔動作原理〕
本発明の放射線画像検出器は、次のような機構によって動作する。まず、入射した放射線をシンチレーターによって紫外線に変換する。次いで当該紫外線を光電変換物質または電離ポテンシャルの低い電離性ガスによって一次電子に変換する。当該一次電子を、高電場下におけるガス電子雪崩現象によって増幅し、該増幅された電子を多線式ワイヤー又は微細電極で検出する。検出された電子に基づく信号を外部回路で処理することにより、放射線の入射位置を特定することができ、放射線画像を得ることが可能となる。以下、本発明の放射線画像検出器についてより詳細に説明する。
【0019】
〔シンチレーター〕
本発明の放射線画像検出器は、シンチレーターとしてNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶(以下、LuFともいう)を用いることを最大の特徴とする。
【0020】
当該シンチレーターは、高い発光量で紫外線を生じ、且つ、その発光波長が200nm以下の真空紫外領域であるという特徴を有する。かかる真空紫外領域の紫外線を生じるシンチレーターを用いることによって、光電変換物質または電離性ガスにおける紫外線から電子への光電変換効率を高めることができる。
【0021】
また、当該シンチレーターは発光量が高いため、シンチレーターより生じた紫外線を後段のガス増幅型紫外線画像検出器で効率よく検出することができる。その結果、放射線に対する検出効率を飛躍的に向上することができ、放射線画像の取得に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0022】
本発明において、シンチレーターに含まれるNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素(以下、発光中心元素という)は、5d−4f遷移発光によって、真空紫外線を生じるため、本発明において好適に使用される。前記発光中心元素の中でも、Ndは発光寿命が短く、高速応答性を有するため特に好ましい。
【0023】
上記発光中心元素の含有量は、発光中心元素の種類によって異なるが、フッ化ルテチウムに対して、0.01〜20mol%の範囲とすることが好ましく、0.02〜10mol%の範囲とすることが特に好ましい。発光中心元素の含有量を0.01mol%以上、より好ましくは0.02mol%以上とすることによって、発光中心元素を介する発光の確率が高まり、したがって高い発光強度を得ることができる。また、発光中心元素の含有量を20mol%以下、より好ましくは10mol%以下とすることによって、濃度消光による発光の減退を避けることができる。
【0024】
本発明において、検出対象となる放射線は特に限定されず、X線、α線、β線、或いはγ線等の何れの放射線も検出可能であるが、本発明のシンチレーターは有効原子番号及び密度がそれぞれ約65〜66及び約8.3g/mlであって、従来公知のシンチレーターに比較して充分に大きいため、放射線の中でも、硬X線やγ線等の高エネルギーの光子を特に効率よく検出できる。
【0025】
なお、本発明において、有効原子番号とは、下式〔1〕で定義される指標であって、硬X線やγ線に対する阻止能に影響する。該有効原子番号が大きいほど、硬X線やγ線に対する阻止能が増大し、その結果、シンチレーターの硬X線やγ線に対する感度が向上する。
【0026】
有効原子番号=(ΣWiZi4)1/4 〔1〕
(式中、Wi及びZiは、それぞれシンチレーターを構成する元素のうちの
i番目の元素の質量分率及び原子番号を表す。)
シンチレーターの形状は、特に限定されないが、後出のガス増幅型紫外線画像検出器に対向する紫外線出射面(以下、単に紫外線出射面ともいう)を有し、当該紫外線出射面は光学研磨が施されていることが好ましい。かかる紫外線出射面を有することによって、シンチレーターで生じた紫外線を効率よくガス増幅型紫外線画像検出器に入射できる。
【0027】
紫外線出射面の形状は限定されず、一辺の長さが数mm〜数百mm角の四角形、直径が数mm〜数百mmの円形など、用途に応じた形状を適宜選択することができる。
【0028】
シンチレーターの放射線入射方向に対する厚さは、厚いほど放射線に対する吸収効率が向上するが、過剰に厚い場合にはシンチレーターで生じた紫外線がシンチレーター自身に吸収され紫外線が減弱するおそれがあり、また、シンチレーター内部での紫外線の拡がりによって位置分解能が低下するおそれがある。したがって、検出対象とする放射線の種類とエネルギーに応じて適切な厚さを選択することが好ましい。例えば、約100keVの硬X線を検出対象とする場合には、厚さが1mmのシンチレーターで約80%の吸収効率を達成できるため、1〜5mm程度の厚さとすることが好ましい。
【0029】
また、ガス増幅型紫外線画像検出器に対向しない面に、アルミニウム或いはテフロン(登録商標)等からなる紫外線反射膜を施すことは、シンチレーターで生じた紫外線の散逸を防止することができる点で好ましい。更にかかる紫外線反射膜が施されたシンチレーターを多数配列して用いることにより、放射線画像検出器の位置分解能を顕著に高めることができる。
【0030】
なお、LuFは、単結晶及び多結晶のいずれの形態でも良いが、放射線から紫外線への変換効率の観点から、単結晶を使用することが好ましい。
【0031】
当該LuFの単結晶の製造方法は、特に制限されないが、原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液よりLuF単結晶を成長せしめるにあたり、前記原料混合物にアルカリ金属フッ化物を添加する方法が好ましい。以下、かかるLuF単結晶の製造方法について説明する。
【0032】
フッ化ルテチウムは、その凝固点が約1180℃であって、該凝固点より低温の約950℃に相転移点を有する。したがって、フッ化ルテチウム、並びにNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素のフッ化物のみからなる原料融液よりLuF単結晶を成長せしめた場合、LuFが原料融液から結晶化した後、室温まで冷却する過程において六方晶型結晶構造から斜方晶型結晶構造へ相変態を起こし、結晶に無数のクラックが生じる。かかるクラックは結晶の透明性を著しく悪化させるため、シンチレーターとして使用することが困難となる。
【0033】
前記アルカリ金属フッ化物は、原料融液の凝固点を前記フッ化ルテチウムの相転移点以下に低下せしめるために添加されるものであって、かかるアルカリ金属フッ化物の添加によって、斜方晶型結晶構造のLuF単結晶を原料融液から直接成長せしめることができ、したがって相変態に起因するクラックの発生を回避することができる。
【0034】
なお、LuFの単結晶の製造方法において、前記アルカリ金属フッ化物の種類は特に限定されないが、フッ化リチウム(LiF)が最も好ましい。LiFは、原料融液の凝固点を低下せしめる効果が高く、また、LuF単結晶へ混入し難いため、LuFの単結晶の製造方法において好適に使用できる。
【0035】
また、前記アルカリ金属フッ化物の添加量は特に限定されないが、フッ化ルテチウムに対して25〜75mol%とすることが好ましく、30〜60mol%とすることが特に好ましい。前記アルカリ金属フッ化物の添加量を25mol%以上、より好ましくは30mol%以上とすることによって、原料融液の凝固点をフッ化ルテチウムの相転移点よりも充分に低温とすることができ、LuF単結晶のクラックを回避することができる。また、前記アルカリ金属フッ化物の添加量を75mol%以下、より好ましくは60mol%以下とすることによって、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができる。
【0036】
なお、前記原料融液よりLuF単結晶を成長せしめるにあたっては、LuF単結晶を引上げ法によって成長せしめることが好ましい。当該引上げ法によれば、直径が数10mmの大型のLuF3単結晶を安価に製造することが可能となる。
【0037】
さらに、当該引上げ法によってLuF単結晶を成長せしめる際の単結晶の成長速度を下式で表わされるvmax以下とすることが好ましい。
vmax=α・R1/2/d1/3
(ただし、αは0.0062であり、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、dは単結晶の平均直径(mm)を表わす。)
前記式中、αは経験的に求められた定数であって、mm4/3・min−1/2の次元を有する。
【0038】
なお、前記式より、vmaxは1分間あたりの単結晶が成長した長さ(mm/min)として得られるが、以下の説明では、当業者らにおいて一般的に用いられる結晶成長速度の単位である1時間あたりの単結晶が成長した長さ(mm/hr)に換算した値を用いる。
【0039】
前記引上げ法を用いた製造方法において、単結晶の成長速度が速い場合には、アルカリ金属フッ化物がLuF単結晶へ混入し、LuF単結晶が白濁するおそれがあるが、単結晶の成長速度を前記vmax以下とすることによって、かかるアルカリ金属フッ化物の混入によるLuF単結晶の白濁を回避することができる。なお、単結晶の成長速度の下限は特に制限されないが、製造の効率に鑑みて、0.1mm/hr以上とすることが好ましい。
【0040】
なお、前記したようにvmaxを定義する式は、本発明者らの検討によって経験的に求められた式であって、下記のように説明される。
【0041】
前記式中、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、LuF単結晶と原料融液の界面(以下、固液界面という)の近傍における原料融液の撹拌効果の指標である。固液界面の近傍では、LuF単結晶の成長に伴って余剰となったアルカリ金属フッ化物が原料融液中に濃縮されるが、当該Rを高めることによって、余剰となったアルカリ金属フッ化物を速やかに拡散することができ、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができる。
【0042】
なお、前記説明したようにRを高めるほどアルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができるが、当該Rを過剰に高めると、LuF単結晶の形状に歪みが生じ、当該歪みに起因するLuF単結晶の割れが生じるおそれがあるため、Rは20rpm以下とすることが好ましい。また、前記過剰なRに起因する単結晶の歪みは、単結晶の直径が大きいほど顕著となる傾向があるため、単結晶の直径が30mm以上の場合には、Rは15rpm以下とすることが好ましい。
【0043】
また、前記式中、dはLuF単結晶の平均直径(mm)を表わす。当該dが大きいほど、単結晶が単位長さ成長した際に余剰となって原料融液中に濃縮されるアルカリ金属フッ化物の量が増大する。したがって、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制するためには、dの増大に伴って単結晶の成長速度を減ずる必要がある。
【0044】
なお、LuFの単結晶の製造方法において、当該dは特に制限されないが、dが大きいほど単位時間当たりに製造される単結晶の体積が増加し、製造の効率が向上するため、10mm以上とすることが好ましい。
【0045】
以下、引上げ法によってLuF単結晶を製造する際の一般的な方法について、図1を用いて具体的に説明する。
【0046】
まず、所定量のフッ化ルテチウム、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素のフッ化物及びアルカリ金属フッ化物を混合してなる混合原料を、坩堝1に充填する。LuFの単結晶の製造方法において、原料の純度は特に限定されないが、99.99%以上とすることが好ましい。かかる原料を用いることにより、LuF3単結晶の純度を高めることができ、シンチレーターの発光強度等の特性が向上する。かかる原料は、粉末状あるいは粒状の原料を用いても良く、あらかじめ焼結或いは溶融固化させてから用いても良い。
【0047】
次いで、上記原料を充填した坩堝チャンバーを備えた育成装置内にセットする。真空排気装置を用いて、チャンバーの内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。このガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来するLuF単結晶の特性の低下を妨げることができる。
【0048】
上記ガス置換操作によっても除去できない水分による悪影響を避けるため、水分との反応性の高いスカベンジャーを用いて、水分を除去することが好ましい。かかるスカベンジャーとしては、四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを好適に用いることができる。なお、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0049】
ガス置換操作を行った後、ヒーターで原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料の融液に、引上げロッドの先端に設置した種結晶を接触せしめる。
【0050】
なお、LuFの単結晶の製造方法において、加熱方法は特に限定されず、例えば高周波コイルとヒーターによる誘導加熱方式、或いはカーボンヒーター等による抵抗加熱方式等を適宜用いることができる。
【0051】
次いで種結晶を回転させながら引き上げ、単結晶の育成を開始する。単結晶育成の開始直後は、一定の割合で単結晶の直径を拡大し、所望の直径に調整する。
【0052】
なお、単結晶の直径を拡大するにあたり、単結晶の転位密度の減少を目的として、一旦直径を縮小した後に拡大するネッキング操作を施すことが好ましい。
【0053】
単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後、一定の速度で単結晶を回転させながら、一定の引上げ速度で連続的に引き上げを続ける。前記原料融液に接触せしめて単結晶の育成を開始し、単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後の連続的に引き上げを続ける一連の操作において、原料融液に対する単結晶の回転数及び単結晶の平均直径が、それぞれ前記式中のR及びdであり、原料融液に対する単結晶の引上げ速度が結晶成長速度に相当する。LuFの単結晶の製造方法において、当該結晶成長速度を前記式で定義されるvmax以下とすることが肝要である。
【0054】
なお、かかる一連の操作においては、引き上げロッドの上部に設けたロードセル、及び該ロードセルからの信号をヒーター出力にフィードバックする回路からなる結晶径制御装置を用いることが好ましい。該結晶径制御装置によれば、所望の形状の単結晶を安定に製造することが容易となる。
【0055】
所定の長さまで引き上げた時点でヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって結晶を得ることができる。
【0056】
なお、前記LuF単結晶中の発光中心元素の含有量は、原料混合物に添加される発光中心元素のフッ化物の量を調整することにより、所望の値に調整することができる。LuF単結晶の製造の過程において、偏析が起こる場合があるが、かかる偏析が起こる場合においても、予め偏析係数を求めておき、当該偏析係数を加味して原料混合物に添加される発光中心元素のフッ化物の量を調整することにより、所望の量の発光中心元素を含有するLuF単結晶を得ることができる。
【0057】
LuFの単結晶の製造方法において、前記引上げ法を用いたLuF単結晶の製造に際して、フッ素原子の欠損あるいは熱歪等に起因する結晶欠陥を除去する目的で、結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。
【0058】
得られたLuF単結晶は、良好な加工性を有しており、所望の形状に加工して用いることが容易である。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いることができる。
【0059】
〔ガス増幅型紫外線画像検出器〕
本発明の放射線画像検出器が具備するガス増幅型紫外線画像検出器は、シンチレーターより生じた紫外線を一次電子に変換する光電変換部と該一次電子を増幅して検出する検出部により構成される。
【0060】
前記光電変換部は、紫外線が入射した際に外部光電効果によって電子を放出する光電変換物質、或いは、電離ポテンシャルが低く、紫外線の作用で電離して電子を放出する電離性ガス等を適宜選択して用いることができる。
【0061】
前記光電変換物質を具体的に例示すれば、ヨウ化セシウム(CsI)、テルル化セシウム(CsTe)などが挙げられる。一方、電離性ガスを具体的に例示すれば、テトラキスジメチルアミノエチレン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アセトン、及びベンゼン等が挙げられる。
【0062】
前記例示した光電変換部の中でも、紫外線を電子に変換する際の光電変換効率、及び化学的安定性の観点から、光電変換物質を用いることが好ましく、光電変換物質としてヨウ化セシウムを用いることが特に好ましい。
【0063】
一方、検出部としては、非特許文献1に記載のMulti−wire Proportional Chamber、Micro−Strip Gas Counter、Micro−Mesh−Gaseous Structure、Compteurs A TrousまたはMicro−Gap Chambers、或いは、特許文献1に記載のピクセル型電極等が好適に使用できる。中でもピクセル型電極は、長期間安定に動作し、有感領域が大きな検出器を容易に且つ安価に製作することが可能であるため、好ましい。さらに該ピクセル型電極とガス電子増幅器を併用することによって、増幅率が高く、且つ、動作の長期安定性に優れた検出部を構成することができ、特に好ましい。
【0064】
以下、本発明において好ましい態様である光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されるガス増幅型紫外線画像検出器について、図1を用いて具体的に説明する。まず、入射した放射線をシンチレーター1によって紫外線に変換する。次いで、生じた紫外線を光電変換物質2によって一次電子3に変換する。当該一次電子3を、高電場下におけるガス電子雪崩現象による増幅作用を利用したガス電子増幅器4で増幅し、二次電子5を得た後、二次電子5をピクセル型電極6でさらに増幅しながら検出する。
【0065】
光電変換物質は、紫外線から変換された一次電子を効率よく取り出すため、薄膜とすることが好ましい。また、後述するように紫外線入射窓の内面に形成するか、或いは、ガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成することが好ましい。
【0066】
次いで、上記光電変換物質より生じた一次電子をガス電子増幅器によって増幅する。当該ガス電子増幅器は、1997年にSauliによって開発され、Gas Electron Multiplier(GEM)として知られている。本発明において、当該ガス電子増幅器としては、例えば、特開2006−302844号公報、或いは特開2007−234485号公報に記載の技術が好適に使用できる。以下、本発明で使用するガス電子増幅器について、図5を用いて詳細に説明する。
【0067】
ガス電子増幅器は、樹脂製の板状絶縁層12とこの板状絶縁層の両面に被覆された平面状の金属層13とにより構成された板状多層体と、この板状多層体に設けられた、金属層の平面に垂直な内壁を有する貫通孔14により構成される。当該ガス電子増幅器においては、金属層に所定の印加電圧を印加し、貫通孔の内部に電界を発生させることにより、貫通孔構造の内部に侵入した一次電子が加速され、電子雪崩現象を生じて、位置情報を保持したまま、多数の二次電子へと増幅される。板状絶縁層の材質は、加工性及び機械的強度に鑑みて、ポリイミド或いは液晶高分子等であることが好ましい。
【0068】
板状絶縁層の厚さ(図5中のDi)が厚いほど、表面と裏面の金属層の間での放電を抑制することができるため、より高い印加電圧を印加して高い増幅率を得ることができる。しかし、極度に厚い場合には、貫通孔を設ける際の加工が困難となる。したがって、当該板状絶縁層の厚さは、50μm〜300μmとすることが好ましい。金属層の材質及び厚さ(図5中のDm)は特に制限されないが、例えば、材質を銅、アルミニウム、或いは金とし、厚さを5μm程度とした金属層が好適である。
【0069】
貫通孔の直径(図5中のd)は、特に制限されず、貫通孔の内部に生じる電界の強さと加工の容易さ等を考慮して、適宜選択される。かかる直径を具体的に例示すれば、一般に50〜100μmである。なお、貫通孔は、生成される電界の一様性を高めるため、板状多層体の全面に所定のピッチ(図5中のP)で設けることが好ましい。当該ピッチは、板状絶縁層の材質や厚さ、及び貫通孔の直径にもよるが、一般には貫通孔の直径の約2倍程度である。また、貫通孔を設ける際には、図5に示すように、正三角形を配列した配置とすることが好ましい。かかる配置とすることによって、板状多層体の面積に対する貫通孔の開口率を高めることができるため、高い増幅率を得ることができ、更に後述するイオンフィードバックを抑制することができる。
【0070】
ガス電子増幅器の動作において、印加電圧が高いほど高い増幅率が得られるが、印加電圧が極端に高い場合には、ガス電子増幅器の表裏の金属層の間で放電が生じて安定動作が困難となる。当該印加電圧の好適な範囲は、板状絶縁層の厚さによって異なるが、一般には200V〜1000Vであって、かかる印加電圧において得られる増幅率は、一般に数十〜数千である。
【0071】
ガス電子増幅器によって増幅された二次電子は、ピクセル型電極を用いてさらに増幅されて検出される。ピクセル型電極については、前記特許文献1に詳細に開示されているので、これに開示された技術に準じて作製すればよい。具体的には、ピクセル型電極は、両面基板の裏面に形成される陽極ストリップと、この陽極ストリップに植設されるとともに、その上端面が前記両面基板の表面に露出する円柱状陽極電極と、この円柱状陽極電極の上端面の回りに穴が形成されるストリップ状陰極電極とを具備している。陽極ストリップは200μm〜400μmの幅を有することが好ましく、さらに、陽極ストリップが400μm間隔で配置され、ストリップ状陰極電極には、一定間隔で直径200〜300μmの穴が形成され、円柱状陽極電極は直径40〜60μm、高さ50μm〜150μmの形状であることが特に好ましい。
【0072】
ピクセル型電極の円柱状陽極電極とストリップ状陰極電極の間に所定の印加電圧を印加することにより、円柱状陽極電極の近傍に強い電界が発生する。当該電界によって加速された二次電子は電子雪崩を生じ、増幅された後に円柱状陽極電極より検出される。この過程において陽イオン化したガス分子は、周囲のストリップ状陰極電極へ速やかにドリフトしていく。したがって、円柱状陽極電極とストリップ状陰極電極の両方に、電気回路上で観測可能な電荷が生じることになるので、陽極・陰極のどのストリップでこの増幅現象が起きたかを観測することで、入射粒子線の位置がわかる。信号の読み出し、及び2次元画像を得るための信号処理回路については、従来公知のものを制限なく用いることができる。
【0073】
ピクセル電極の印加電圧の好適な範囲は、検出ガスの種類によって異なるが、一般に400V〜800Vである。ピクセル型電極は、陽極としてピクセルを用いるので、高電界が作り易く増幅率が大きい。したがって、上記印加電圧において得られる増幅率は、数千から数万にも達する。また、ピクセル型電極は、陽イオン化したガス分子がドリフトする距離が極めて短いため、他のガス増幅型検出器に比較して不感時間が短く、約5×106count/(sec・mm2)を超える高い計数率特性を有する。さらに、ピクセル型電極は、プリント回路基板の作製技術を用いて製造することができるため、大面積のものを安価に提供できる。
【0074】
以下、前記光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極を用いて、ガス増幅型紫外線画像検出器を構成する際の好適な態様について、図1〜2を用いて詳細に説明する。
【0075】
シンチレーター1より生じた紫外線を入射するための開口部を有するチャンバー7内に、開口部に近い側から光電変換物質2、ガス電子増幅器4、及びピクセル型電極6が設置され、開口部は紫外線入射窓8で封止されている。この紫外線入射窓の材料としては、紫外線に対して高い透過性を有するフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、或いはフッ化カルシウム(CaF2)を用いることが好ましい。
【0076】
チャンバー内には、所定の検出ガスが充填されている。この検出ガスとしては、一般に希ガスとクエンチャーガスの組合せが使用される。希ガスとしては、例えばヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)等がある。また、クエンチャーガスとしては、例えば、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、四フッ化メタン(CF4)等が挙げられる。希ガス中へのクエンチャーガスの混合量は、5〜30%が好適である。
【0077】
なお、チャンバー内に検出ガスを充填する際のガス圧は、特に制限されないが、該ガス圧が低いほど、ガス増幅型紫外線画像検出器の増幅率を高めることができ、低電場でも所期の増幅率を得ることができるため、1atm以下とすることが好ましい。該ガス圧の下限は、特に制限されないが、0.05atm以上とすることが好ましく、0.2atm以上とすることが特に好ましい。該ガス圧を0.05atm以上とすることによって、検出部における放電による動作不良を回避することができ、また、増幅率の一様性を高めることができる。
【0078】
光電変換物質は、紫外線から変換された一次電子を効率よく取り出すため、薄膜とすることが好ましい。当該薄膜は、図1に示すように、紫外線入射窓の内面に形成するか、或いは図2に示すように、ガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成することが好ましい。光電変換物質の薄膜を紫外線入射窓の内面に形成する場合には、当該薄膜に電子を効率よく供給するため、且つ当該薄膜とガス電子増幅器との間に一様な電界を与えるため、薄膜の外周部に金属層からなる電極9を設けることが好ましい。光電変換物質の薄膜をガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成する場合には、ガス電子増幅器の金属層と光電変換物質との反応を避けるため、当該金属層の材質を金とすることが好ましい。さらに、板状絶縁層へ積層する際の容易さや製作コストに鑑みて、金属層を板状絶縁層に近い側から、銅、ニッケル及び金の順で積層された、多層の金属層とすることが最も好ましい。
【0079】
ガス電子増幅器及びピクセル型電極は、それぞれ紫外線入射窓に平行に設置される。ガス電子増幅器は、増幅率及び動作の安定性の観点から、複数枚使用して、同様に紫外線入射窓に平行に設置することが好ましく、2枚または3枚程度設置することが特に好ましい。複数枚のガス電子増幅器とピクセル型電極の各々で電子を増幅することによって、段階的に電子が増幅され、結果として得られる総合的な増幅率を大幅に高めることができる。また、複数枚のガス電子増幅器を用いることによって、イオンフィードバックを効果的に抑制することができ、動作の安定性を高めることができる。イオンフィードバックとは、電子雪崩現象で副次的に生成した陽イオン性のガス分子が蓄積され、電界を歪める現象であって、かかるイオンフィードバックが生じると、増幅率や計数率特性が不安定となり、動作の安定性に支障をきたす。
【0080】
紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器とのギャップ(図1中のG1)の長さ、各ガス電子増幅器間のギャップ(図1中のG2)の長さ、及び最後段のガス電子増幅器とピクセル型電極とのギャップ(図1中のG3)の長さは、短いほど計数率特性及び位置分解能が向上するが、極端に短い場合には互いが接しないように設置することが困難となる。したがって、当該G1、G2、及びG3の好適な長さは、ともに約1mm〜20mmである。
【0081】
上記G1、G2、及びG3に生じせしめる電界の大きさは、特に制限されず、所期の増幅率、イオンフィードバックの抑制効果、及び電荷の収集効率に鑑みて適宜選択することができる。当該電界の大きさの好ましい範囲を具体的に例示すれば、一般に0.3〜10kV/cmである。かかる電界の大きさとすることによって、高い増幅率と前記イオンフィードバックの抑制を同時に達成することができる。
【0082】
本発明者らの検討によれば、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極を組み合わせ、ガス電子増幅器及びピクセル型電極に印加する印加電圧を最適化することによって、ガス電子増幅器及びピクセル型電極による総合的な増幅率として1×105を超える増幅率を安定に得ることができ、シンチレーターから生じた微弱な紫外線によって画像を形成することが可能となる。
【0083】
〔放射線画像検出器〕
本発明の放射線画像検出器において、前記光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極には、それぞれ電圧を印加するための高圧電源が接続され、ピクセル型電極には信号の読み出し及び2次元画像を得るための信号処理回路が接続されている。なお、ピクセル型電極より信号を読み出し2次元画像を得る際に、アンガーロジックに基づくアンガー型信号処理回路を用いることによって、位置分解能を特に向上することができる。アンガーロジックとは、放射線の入射によって生じたシンチレーション光が、空間的な拡がりを以って検出された場合に、当該シンチレーション光の重心位置を求めることによって、放射線の入射位置を特定する手法である。
【0084】
当該アンガー型信号処理回路は、ピクセル型電極の各ピクセルでの信号の強度を読み出すための読み出し回路、個々の放射線の入射によって生じたシンチレーション光を弁別するための同時計数回路、及び各ピクセルから読み出された信号の強度からシンチレーション光の重心位置を求めるための重心演算回路より構成される。当該アンガー型信号処理回路においては、読み出し回路より得られた信号の内、単一の放射線の入射によって生じた信号のみを同時計数回路によって弁別する。次いで、かかる弁別された信号を対象とし、当該信号の強度についての荷重平均を、重心演算回路によって求めることにより、放射線の入射位置を特定する。かかるアンガー型信号処理回路によれば、位置分解能を約100μmまで向上することができる。
【0085】
以下、前記シンチレーター及びガス増幅型紫外線画像検出器を用いて、本発明の放射線画像検出器を構成する際の好適な態様について、図1〜4を用いて詳細に説明する。
【0086】
図1に示すように、シンチレーターの紫外線出射面以外の面に紫外線反射膜10を施し、シンチレーターの紫外線出射面とガス増幅型紫外線画像検出器の紫外線入射窓とを密接して設置し、好ましくは、紫外線出射面と紫外線入射窓の間にグリース11を充填する。グリースを充填することにより、シンチレーター内部より紫外線射出面に到達した紫外線を、紫外線射出面で反射させること無く外部に導出でき、ガス増幅型紫外線画像検出器への入射効率を高めることができる。当該グリースとしては、屈折率が高く、また紫外線に対する透明性が高いフッ素系グリースを用いることが好ましく、例えば、デュポン社製「クライトックス」等が好適に使用できる。
【0087】
シンチレーターの放射線入射方向に対する厚さが厚く、シンチレーター内での紫外線の拡がりによって位置分解能が低下する場合には、図3のように小さな紫外線出射面を有し、紫外線出射面以外の面に紫外線反射膜が施されたシンチレーターを多数配列することによって、紫外線の拡がりを抑えることができる。
【0088】
本発明の放射線画像検出器の別の態様として、図4に示すように、紫外線入射窓に替えて、シンチレーターによってチャンバーの開口部を封止してもよい。かかる態様により、紫外線入射窓における紫外線の拡がりに起因する位置分解能の低下を回避することができ、しかも、構造を簡素化することができるため、好ましい。
【0089】
なお、かかる態様において、本発明のLuFは特別の効果を発揮する。すなわち、当該態様においてはシンチレーターの表面に光電変換物質の薄膜が形成され、当該薄膜とガス電子増幅器との間に電界が形成される。かかる電界の形成の際に、前記薄膜に負の高電圧が印加される場合がある。本発明者らの検討によれば、シンチレーターとして、例えば非特許文献2に記載されているNdを含有するLaF3結晶を用いた場合、当該高電圧の印加によって結晶が破壊するという問題が生じた。一方で、LuFは高電圧を印加しても結晶が破壊することは無いため、かかる態様においても好適に用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0091】
実施例1
〈シンチレーターの製造及び発光特性の測定〉
本実施例において、Ndを含有するLuF3結晶を、図6に示す製造装置を用いて製造した。まず、フッ化ルテチウム 2850g、フッ化ネオジウム 12.3g及びフッ化リチウム 143g及びを混合してなる混合原料を、坩堝16に充填した。すなわち、本実施例では、単結晶の製造における原料混合物中にアルカリ金属フッ化物としてLiFを45mol%添加した。なお、上記各原料の純度は99.99%以上の原料を用いた
次いで、上記原料を充填した坩堝16、ヒーター17、断熱材18、及びステージ19を図6に示すようにセットした。なお、坩堝16、ヒーター17、断熱材18、及びステージ19は、高純度カーボン製のものを使用した。
【0092】
真空排気装置を用いて、チャンバー20の内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、四フッ化メタン−アルゴン混合ガスをチャンバー内に大気圧まで導入し、ガス置換を行った。
【0093】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル21、及びヒーター17による誘導加熱によって原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料の融液に、引上げロッド22の先端に設置した種結晶を接触せしめた。
【0094】
次いで種結晶を回転させながら引き上げ、単結晶の育成を開始した。単結晶育成の開始直後に、一旦直径を縮小した後に拡大するネッキング操作を施し、その後一定の割合で単結晶の直径を拡大し、所定の直径に調整した。単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後、一定の速度で単結晶を回転させながら、一定の引上げ速度で連続的に引き上げを続けた。
【0095】
なお、本実施例において、原料融液に対する単結晶の回転数(R)及び単結晶の平均直径(d)は、それぞれ15rpm及び30mmとした。かかるR及びdから計算される前記vmaxは0.46mm/hrであるため、本実施例では結晶成長速度をvmax以下である0.4mm/hrとした。
【0096】
なお、かかる一連の操作は、引き上げロッドの上部に設けたロードセル、及び該ロードセルからの信号をヒーター出力にフィードバックする回路からなる結晶径制御装置を用いて行った。
【0097】
所定の直径の単結晶を長さ 40mmまで引き上げた時点でヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって、白濁やクラックの無い透明な単結晶を得た。
【0098】
得られた単結晶の一部を粉砕して粉末にし、粉末X線回折測定に供した。粉末X線回折法によって得られた回折パターンを解析した結果から、本実施例の単結晶はいずれもフッ化ルテチウム型の結晶のみからなることが分かった。
【0099】
また、前記単結晶の一部を用いてアルカリ溶融法によって溶液を調製し、誘導結合プラズマ質量分析法を用いてNdの含有量を測定した結果、本実施例のLuF単結晶のNdの含有量はいずれもフッ化ルテチウムに対して0.05mol%であった。
【0100】
当該LuF単結晶を、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって切断した後、全面に光学研磨を施して、10mm×10mm×1mmの形状のシンチレーターとした。当該シンチレーターの10mm×10mmの一面を紫外線出射面として用いた。
【0101】
このシンチレーターについて、入射した放射線を変換して出射される紫外線の波長を以下の方法によって測定した。
【0102】
タングステンをターゲットとする封入式X線管球を用いて、X線をシンチレーターに照射した。なお、封入式X線管球よりX線を発生させる際の管電圧及び管電流はそれぞれ60kV及び40mAとした。シンチレーターの紫外線出射面より生じた紫外線を集光ミラーで集光し、分光器にて単色化し、各波長の強度を記録してシンチレーターより生じた紫外線のスペクトルを得た。測定の結果、本実施例のシンチレーターは、入射した放射線を波長が178nmの真空紫外線に変換することが確認された。
【0103】
〈ガス増幅型紫外線画像検出器の作製〉
本発明の放射線画像検出器の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を以下の方法によって作製した。
【0104】
図1に示すように、開口部を有するチャンバー内に、開口部に近い側から2枚のガス電子増幅器、及びピクセル型電極をそれぞれ平行に設置し、開口部を紫外線入射窓で封止した。紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器との距離は10mm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器との距離は2mm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極との距離は2mmとした。
【0105】
ガス電子増幅器は、ポリイミド製の板状絶縁層の両側に、金属層として5μmの厚さで銅を蒸着して板状多層体とし、当該板状多層体の全面に、直径が70μmの円柱状の貫通孔を、140μmのピッチで、正三角形を配列した配置にて設けたものを用いた。なお、初段のガス電子増幅器及び後段のガス電子増幅器の板状絶縁層の厚さは、それぞれ100μm及び50μmとした。
【0106】
ピクセル型電極は、厚さが100μmのポリイミド基板を用い、当該基板の裏面に幅が300μmの陽極ストリップを設け、この陽極ストリップに植設され、基板の表面に露出する円柱状陽極電極を400μm間隔で配置し、この円柱状陽極電極の上端面の回りに直径が260μmの穴が形成されたストリップ状陰極電極を設けたものを用いた。円柱状陽極電極の直径は、基板内に埋設された部分を50μmとし、基板の表面に露出した部分を70μmとした。円柱状陽極電極の高さは110μmとし、上端部10μmが表面に露出した構造とした。
【0107】
紫外線入射窓には、直径が54mm、厚さが3mmのMgF2を用い、当該紫外線入射窓の内面には光電変換物質としてヨウ化セシウムの薄膜を設け、さらに当該ヨウ化セシウム薄膜の外周部にニッケル層からなる電極を設けた。ヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極、初段のガス電子増幅器の両面、後段のガス電子増幅器の両面、及びピクセル型電極の陽極電極と陰極電極には、印加電圧を印加するための高圧電源を接続し、ピクセル型電極の陽極電極と陰極電極には、信号の読み出し及び2次元画像を得るための信号処理回路を接続した。
【0108】
前記チャンバー内に検出ガスとして、10%のC2H6を混合したArを充填し、本発明の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を得た。なお、チャンバー内に検出ガスを充填する際のガス圧は、1atmとした。
【0109】
当該ガス増幅型紫外線画像検出器において、ヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極に−1350Vを印加し、初段のガス電子増幅器及び後段のガス電子増幅器のそれぞれについて、両面の金属層間に400V及び300Vを印加し、ピクセル型電極の陽極電極と陰極電極との間に400Vを印加した。なお、紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器の間の電界が0.25kV/cm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器の間の電界が1.0kV/cm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極の間の電界が3.0kV/cmとなるように印加電圧を調整した。
【0110】
上記印加電圧下において、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極によって得られる総合的な増幅率は2.0×105に達し、かかる高い増幅率においても、ガス電子増幅器の表裏での放電やピクセル型電極における放電は生じず、長期間安定に動作することが確認された。
【0111】
〈放射線画像検出器の作製と評価〉
上述の方法で作製したシンチレーターの紫外線出射面と、ガス増幅型紫外線画像検出器の紫外線入射窓とを図1に示すように密接して設置し、本発明の放射線画像検出器を得た。なお、前記紫外線出射面と紫外線入射窓の間にはフッ素系グリースとしてデュポン社製「クライトックス」を充填した。
【0112】
放射線画像検出器の性能を評価するため、7.7×105Bqの放射能を有する57Co同位体及び8×103Bqの放射能を有する241Am同位体を放射線源とし、該放射線源より生じる放射線に対する放射線画像検出器の応答を評価した。なお、前記同位体は、それぞれ122keVのγ線及び5.5MeVのα線を発する放射線源である。放射線源をシンチレーターに近接して設置し、放射線源より生じる放射線をシンチレーター近接面に照射した。ピクセル型電極に接続された信号処理回路を用いて、ピクセル型電極の各陽極電極から出力される信号を取得し、2次元画像を構成した。なお、当該2次元画像を取得する際の測定時間は、それぞれ61秒及び136秒とした。
【0113】
57Co及び241Amを放射線源として得られた画像をそれぞれ図7及び8に示す。なお、各図中の破線部は、放射線を入射した位置を示す。図7及び8に示すように、放射線の入射位置を画像としてとらえることができ、本発明の放射線画像検出器が充分な感度と優れた位置分解能を有することが確認された。
【0114】
また、57Coを放射線源として以下の方法により波高分布測定を行った。まず、放射線が入射した事象毎に、ピクセル型電極の各陽極電極で検出された電荷量を積分し、総電荷量を求めた。次いで、当該総電荷量をガス電子増幅器とピクセル型電極によって得られる総合的な増幅率(2.0×105)で除することによって、一次電子数を算出した。当該一次電子数を生じた事象の頻度をヒストグラム化することによって、波高分布を得た。得られた波高分布を図9に示す。当該波高分布において、一次電子数が1以上の計数が、放射線画像を取得する際の有効な事象の数を表わす。
【0115】
比較例1
シンチレーターとして、Ndを含有するLuF3結晶に替えて、Ndを含有するLaF3結晶を用いる以外は、実施例1と同様にして放射線画像検出器を作製した。
【0116】
該放射線画像検出器の性能を評価するため、実施例1と同様にして、57Co及び241Amを放射線源に用いて2次元画像の取得を試みた。なお、当該2次元画像を取得する際の測定時間は、実施例1と同様にそれぞれ61秒及び136秒とした。その結果、本比較例のNdを含有するLaF3結晶は、実施例1のNdを含有するLuF3結晶に比較して発光量が小さいため、本比較例の放射線画像検出器から出力される信号の計数率が低く、前記測定時間においては放射線の入射位置を示す画像は得られなかった。
【0117】
また、57Coを放射線源とし、実施例1と同様にして波高分布測定を行った。得られた波高分布を図9に示す。図9より、発光量の高いLuFを用いることによって、得られる一次電子数が増大し、結果として放射線画像を取得する際の有効な事象の数を大幅に増大できることが分かる。
【0118】
実施例2
〈シンチレーターの作製〉
本実施例において、シンチレーターは実施例1と同様のシンチレーターを用いた。
【0119】
〈ガス増幅型紫外線画像検出器の作製〉
本発明の放射線画像検出器の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を以下の方法によって作製した。
【0120】
図2に示すように、開口部を有するチャンバー内に、開口部に近い側から2枚のガス電
子増幅器、及びピクセル型電極をそれぞれ平行に設置し、開口部を紫外線入射窓で封止した。紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器との距離は10mm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器との距離は2mm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極との距離は2mmとした。
【0121】
ガス電子増幅器は、実施例1と同様のものを用いた。なお、図2に示すように、初段のガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面には、光電変換物質としてヨウ化セシウムの薄膜を設けた。
【0122】
ピクセル型電極は、実施例1と同様のものを用い、紫外線入射窓には、直径が54mm、厚さが3mmのMgF2を用いた。
【0123】
前記チャンバー内に検出ガスとして、10%のC2H6を混合したArを充填し、本発明の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を得た。なお、チャンバー内に検出ガスを充填する際のガス圧は、1atmとした。
【0124】
当該ガス増幅型紫外線画像検出器において、実施例1におけるヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極に替えて、図2に示すように紫外線入射窓の外周部に銅リング12を設けた。当該銅リング、2枚のガス電子増幅器及びピクセル型電極のそれぞれについて、実施例1と同様にして電圧を印加した。
【0125】
上記印加電圧下において、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極によって得られる総合的な増幅率は2.0×105に達し、かかる高い増幅率においても、ガス電子増幅器の表裏での放電やピクセル型電極における放電は生じず、長期間安定に動作することが確認された。
【0126】
〈放射線画像検出器の作製と評価〉
実施例1と同様にして、本発明の放射線画像検出器を作製し、該放射線画像検出器の性能を評価するため、実施例1と同様にして、57Co及び241Amを放射線源に用いて2次元画像の取得を試みた。なお、当該2次元画像を取得する際の測定時間は、それぞれ68秒及び139秒とした。
【0127】
57Co及び241Amを放射線源として得られた画像をそれぞれ図10及び11に示す。なお、各図中の破線部は、放射線を入射した位置を示す。図10及び11に示すように、放射線の入射位置を画像としてとらえることができ、本発明の放射線画像検出器が充分な感度と優れた位置分解能を有することが確認された。
【0128】
比較例2
シンチレーターとして、Ndを含有するLuF3結晶に替えて、Ndを含有するLaF3結晶を用いる以外は、実施例2と同様にして放射線画像検出器を作製した。
【0129】
該放射線画像検出器の性能を評価するため、実施例2と同様にして、57Co及び241Amを放射線源に用いて2次元画像の取得を試みた。なお、当該2次元画像を取得する際の測定時間は、実施例2と同様にそれぞれ68秒及び139秒とした。その結果、本比較例のNdを含有するLaF3結晶は、実施例2のNdを含有するLuF3結晶に比較して発光量が小さいため、本比較例の放射線画像検出器から出力される信号の計数率が低く、前記測定時間においては放射線の入射位置を示す画像は得られなかった。
【0130】
実施例1及び2、並びに比較例1及び2で得られた放射線画像検出器について、57Co同位体及び241Am同位体を放射線源とし、シンチレーター近傍に設置した該放射線源より生じる放射線をシンチレーターに照射した際の計数率を表1に示す。該計数率は単位時間当たりに放射線を検出した回数であって、放射線に対する検出効率を表わす。表1より、本発明の放射線画像検出器によれば、計数率すなわち放射線に対する検出効率を格段に高めることができ、放射線画像を短時間で取得できることが分かる。
【0131】
【表1】
【符号の説明】
【0132】
1 シンチレーター
2 光電変換物質
3 一次電子
4 ガス電子増幅器
5 二次電子
6 ピクセル型電極
7 チャンバー
8 紫外線入射窓
9 電極
10 紫外線反射膜
11 グリース
12 銅リング
13 板状絶縁層
14 金属層
15 貫通孔
16 坩堝
17 ヒーター
18 断熱材
19 ステージ
20 チャンバー
21 高周波コイル
22 引上げロッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な放射線画像検出器に関する。該放射線画像検出器は、陽電子断層撮影、X線CT等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野において好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
放射線利用技術は、陽電子断層撮影、X線CT等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野など多岐にわたり、現在も目覚しい発展を続けている。
【0003】
放射線画像検出器は、放射線利用技術の重要な位置を占める要素技術であって、放射線利用技術の発展に伴い、検出感度、放射線の入射位置に対する位置分解能、或いは計数率特性について、より高度な性能が求められている。また、放射線利用技術の普及に伴い、放射線画像検出器の低コスト化、及び有感領域の大面積化も求められている。
【0004】
上記放射線画像検出器に対する要求に応えるべく、ガス増幅型放射線画像検出器が開発された(非特許文献1参照)。かかるガス増幅型放射線画像検出器は、入射放射線がガス分子を電離して生成した電子を高電場下におけるガス電子雪崩現象によって増幅した後に多線式ワイヤー又は微細電極で検出するものであり、放射線の入射位置に対する位置分解能及び計数率特性に優れるという利点を有する。
【0005】
また、前記ガス増幅型放射線画像検出器の中でも、長期間安定に動作し、有感領域が大きな検出器を容易に且つ安価に製作することが可能なピクセル型電極を用いたガス増幅型放射線画像検出器が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
前記ガス増幅型放射線画像検出器は種々の利点を有するものの、硬X線やガンマ線のような高いエネルギーをもった光子に対しては、ガスの阻止能が乏しいため、これらの光子を検出対象とする場合には検出感度が低いという問題があった。
【0007】
かかる問題に鑑みて、本発明者らは既に、高いエネルギーをもった光子に対しても充分な阻止能を有するシンチレーターを用いて、入射した放射線を紫外線に変換し、該紫外線を位置分解能を有するガス増幅型検出器によって検出する方法を提案しており(特許文献2参照)、同様の方法によって放射線を検出する試みは、他者においてもなされている(非特許文献2参照)。
【0008】
また、本発明者らは既に、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーター、並びに光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されるガス増幅型紫外線画像検出器を具備してなる放射線画像検出器を提案している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3354551号公報
【特許文献2】国際公開第2008/099971号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2010/113682号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R. Fourme, “Position−sensitive gas detectors: MWPCs and their gifted descendants” Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A392, 1−11(1997).
【非特許文献2】P. Schotanus, et al., “Detection of LaF3:Nd3+ Scintillation Light in a Photosensitive Multiwire Chamber” Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A272, 913−916(1988).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、紫外線を電子に変換し、かかる電子を増幅して検出するガス増幅型紫外線画像検出器とを組み合わせて構成される放射線画像検出器であって、硬X線やγ線等の放射線を高感度で検出することが可能な放射線画像検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターについて種々検討を重ねた。その結果、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶をシンチレーターとして用いることによって、高い発光量が得られることを見出した。
【0013】
また、本発明者等は、前記LuF3結晶からなるシンチレーターより生じた紫外線を、ガス増幅型紫外線画像検出器を用いて検出することにより、放射線に対する検出効率を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明によれば、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーター、及びガス増幅型紫外線画像検出器を具備してなる放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶であることを特徴とする放射線画像検出器が提供される。
【0015】
上記放射線画像検出器の発明において、ガス増幅型紫外線画像検出器が、光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されることが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターの発光量が向上し、且つ、シンチレーターより生じる紫外線をガス増幅型紫外線画像検出器によって感度よく検出することができるので、位置分解能及び計数率特性に優れた放射線画像検出器を提供できる。また、本発明の放射線画像検出器は、有感領域を容易に大型化でき、かつ安価に製作できるため、医療、工業、及び保安等の分野において極めて価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図2】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図3】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図4】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図5】本図は、本発明で用いるガス電子増幅器の模式図である。
【図6】本図は、引上げ法による製造装置の概略図である。
【図7】本図は、実施例1で57Coを用いて得られた放射線画像である。
【図8】本図は、実施例1で241Amを用いて得られた放射線画像である。
【図9】本図は、実施例1及び比較例1で得られた波高分布である。
【図10】本図は、実施例2で57Coを用いて得られた放射線画像である。
【図11】本図は、実施例2で241Amを用いて得られた放射線画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔動作原理〕
本発明の放射線画像検出器は、次のような機構によって動作する。まず、入射した放射線をシンチレーターによって紫外線に変換する。次いで当該紫外線を光電変換物質または電離ポテンシャルの低い電離性ガスによって一次電子に変換する。当該一次電子を、高電場下におけるガス電子雪崩現象によって増幅し、該増幅された電子を多線式ワイヤー又は微細電極で検出する。検出された電子に基づく信号を外部回路で処理することにより、放射線の入射位置を特定することができ、放射線画像を得ることが可能となる。以下、本発明の放射線画像検出器についてより詳細に説明する。
【0019】
〔シンチレーター〕
本発明の放射線画像検出器は、シンチレーターとしてNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶(以下、LuFともいう)を用いることを最大の特徴とする。
【0020】
当該シンチレーターは、高い発光量で紫外線を生じ、且つ、その発光波長が200nm以下の真空紫外領域であるという特徴を有する。かかる真空紫外領域の紫外線を生じるシンチレーターを用いることによって、光電変換物質または電離性ガスにおける紫外線から電子への光電変換効率を高めることができる。
【0021】
また、当該シンチレーターは発光量が高いため、シンチレーターより生じた紫外線を後段のガス増幅型紫外線画像検出器で効率よく検出することができる。その結果、放射線に対する検出効率を飛躍的に向上することができ、放射線画像の取得に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0022】
本発明において、シンチレーターに含まれるNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素(以下、発光中心元素という)は、5d−4f遷移発光によって、真空紫外線を生じるため、本発明において好適に使用される。前記発光中心元素の中でも、Ndは発光寿命が短く、高速応答性を有するため特に好ましい。
【0023】
上記発光中心元素の含有量は、発光中心元素の種類によって異なるが、フッ化ルテチウムに対して、0.01〜20mol%の範囲とすることが好ましく、0.02〜10mol%の範囲とすることが特に好ましい。発光中心元素の含有量を0.01mol%以上、より好ましくは0.02mol%以上とすることによって、発光中心元素を介する発光の確率が高まり、したがって高い発光強度を得ることができる。また、発光中心元素の含有量を20mol%以下、より好ましくは10mol%以下とすることによって、濃度消光による発光の減退を避けることができる。
【0024】
本発明において、検出対象となる放射線は特に限定されず、X線、α線、β線、或いはγ線等の何れの放射線も検出可能であるが、本発明のシンチレーターは有効原子番号及び密度がそれぞれ約65〜66及び約8.3g/mlであって、従来公知のシンチレーターに比較して充分に大きいため、放射線の中でも、硬X線やγ線等の高エネルギーの光子を特に効率よく検出できる。
【0025】
なお、本発明において、有効原子番号とは、下式〔1〕で定義される指標であって、硬X線やγ線に対する阻止能に影響する。該有効原子番号が大きいほど、硬X線やγ線に対する阻止能が増大し、その結果、シンチレーターの硬X線やγ線に対する感度が向上する。
【0026】
有効原子番号=(ΣWiZi4)1/4 〔1〕
(式中、Wi及びZiは、それぞれシンチレーターを構成する元素のうちの
i番目の元素の質量分率及び原子番号を表す。)
シンチレーターの形状は、特に限定されないが、後出のガス増幅型紫外線画像検出器に対向する紫外線出射面(以下、単に紫外線出射面ともいう)を有し、当該紫外線出射面は光学研磨が施されていることが好ましい。かかる紫外線出射面を有することによって、シンチレーターで生じた紫外線を効率よくガス増幅型紫外線画像検出器に入射できる。
【0027】
紫外線出射面の形状は限定されず、一辺の長さが数mm〜数百mm角の四角形、直径が数mm〜数百mmの円形など、用途に応じた形状を適宜選択することができる。
【0028】
シンチレーターの放射線入射方向に対する厚さは、厚いほど放射線に対する吸収効率が向上するが、過剰に厚い場合にはシンチレーターで生じた紫外線がシンチレーター自身に吸収され紫外線が減弱するおそれがあり、また、シンチレーター内部での紫外線の拡がりによって位置分解能が低下するおそれがある。したがって、検出対象とする放射線の種類とエネルギーに応じて適切な厚さを選択することが好ましい。例えば、約100keVの硬X線を検出対象とする場合には、厚さが1mmのシンチレーターで約80%の吸収効率を達成できるため、1〜5mm程度の厚さとすることが好ましい。
【0029】
また、ガス増幅型紫外線画像検出器に対向しない面に、アルミニウム或いはテフロン(登録商標)等からなる紫外線反射膜を施すことは、シンチレーターで生じた紫外線の散逸を防止することができる点で好ましい。更にかかる紫外線反射膜が施されたシンチレーターを多数配列して用いることにより、放射線画像検出器の位置分解能を顕著に高めることができる。
【0030】
なお、LuFは、単結晶及び多結晶のいずれの形態でも良いが、放射線から紫外線への変換効率の観点から、単結晶を使用することが好ましい。
【0031】
当該LuFの単結晶の製造方法は、特に制限されないが、原料混合物を溶融して原料融液とし、該原料融液よりLuF単結晶を成長せしめるにあたり、前記原料混合物にアルカリ金属フッ化物を添加する方法が好ましい。以下、かかるLuF単結晶の製造方法について説明する。
【0032】
フッ化ルテチウムは、その凝固点が約1180℃であって、該凝固点より低温の約950℃に相転移点を有する。したがって、フッ化ルテチウム、並びにNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素のフッ化物のみからなる原料融液よりLuF単結晶を成長せしめた場合、LuFが原料融液から結晶化した後、室温まで冷却する過程において六方晶型結晶構造から斜方晶型結晶構造へ相変態を起こし、結晶に無数のクラックが生じる。かかるクラックは結晶の透明性を著しく悪化させるため、シンチレーターとして使用することが困難となる。
【0033】
前記アルカリ金属フッ化物は、原料融液の凝固点を前記フッ化ルテチウムの相転移点以下に低下せしめるために添加されるものであって、かかるアルカリ金属フッ化物の添加によって、斜方晶型結晶構造のLuF単結晶を原料融液から直接成長せしめることができ、したがって相変態に起因するクラックの発生を回避することができる。
【0034】
なお、LuFの単結晶の製造方法において、前記アルカリ金属フッ化物の種類は特に限定されないが、フッ化リチウム(LiF)が最も好ましい。LiFは、原料融液の凝固点を低下せしめる効果が高く、また、LuF単結晶へ混入し難いため、LuFの単結晶の製造方法において好適に使用できる。
【0035】
また、前記アルカリ金属フッ化物の添加量は特に限定されないが、フッ化ルテチウムに対して25〜75mol%とすることが好ましく、30〜60mol%とすることが特に好ましい。前記アルカリ金属フッ化物の添加量を25mol%以上、より好ましくは30mol%以上とすることによって、原料融液の凝固点をフッ化ルテチウムの相転移点よりも充分に低温とすることができ、LuF単結晶のクラックを回避することができる。また、前記アルカリ金属フッ化物の添加量を75mol%以下、より好ましくは60mol%以下とすることによって、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができる。
【0036】
なお、前記原料融液よりLuF単結晶を成長せしめるにあたっては、LuF単結晶を引上げ法によって成長せしめることが好ましい。当該引上げ法によれば、直径が数10mmの大型のLuF3単結晶を安価に製造することが可能となる。
【0037】
さらに、当該引上げ法によってLuF単結晶を成長せしめる際の単結晶の成長速度を下式で表わされるvmax以下とすることが好ましい。
vmax=α・R1/2/d1/3
(ただし、αは0.0062であり、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、dは単結晶の平均直径(mm)を表わす。)
前記式中、αは経験的に求められた定数であって、mm4/3・min−1/2の次元を有する。
【0038】
なお、前記式より、vmaxは1分間あたりの単結晶が成長した長さ(mm/min)として得られるが、以下の説明では、当業者らにおいて一般的に用いられる結晶成長速度の単位である1時間あたりの単結晶が成長した長さ(mm/hr)に換算した値を用いる。
【0039】
前記引上げ法を用いた製造方法において、単結晶の成長速度が速い場合には、アルカリ金属フッ化物がLuF単結晶へ混入し、LuF単結晶が白濁するおそれがあるが、単結晶の成長速度を前記vmax以下とすることによって、かかるアルカリ金属フッ化物の混入によるLuF単結晶の白濁を回避することができる。なお、単結晶の成長速度の下限は特に制限されないが、製造の効率に鑑みて、0.1mm/hr以上とすることが好ましい。
【0040】
なお、前記したようにvmaxを定義する式は、本発明者らの検討によって経験的に求められた式であって、下記のように説明される。
【0041】
前記式中、Rは原料融液に対する単結晶の回転数(rpm)を表わし、LuF単結晶と原料融液の界面(以下、固液界面という)の近傍における原料融液の撹拌効果の指標である。固液界面の近傍では、LuF単結晶の成長に伴って余剰となったアルカリ金属フッ化物が原料融液中に濃縮されるが、当該Rを高めることによって、余剰となったアルカリ金属フッ化物を速やかに拡散することができ、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができる。
【0042】
なお、前記説明したようにRを高めるほどアルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制することができるが、当該Rを過剰に高めると、LuF単結晶の形状に歪みが生じ、当該歪みに起因するLuF単結晶の割れが生じるおそれがあるため、Rは20rpm以下とすることが好ましい。また、前記過剰なRに起因する単結晶の歪みは、単結晶の直径が大きいほど顕著となる傾向があるため、単結晶の直径が30mm以上の場合には、Rは15rpm以下とすることが好ましい。
【0043】
また、前記式中、dはLuF単結晶の平均直径(mm)を表わす。当該dが大きいほど、単結晶が単位長さ成長した際に余剰となって原料融液中に濃縮されるアルカリ金属フッ化物の量が増大する。したがって、アルカリ金属フッ化物のLuF単結晶への混入を抑制するためには、dの増大に伴って単結晶の成長速度を減ずる必要がある。
【0044】
なお、LuFの単結晶の製造方法において、当該dは特に制限されないが、dが大きいほど単位時間当たりに製造される単結晶の体積が増加し、製造の効率が向上するため、10mm以上とすることが好ましい。
【0045】
以下、引上げ法によってLuF単結晶を製造する際の一般的な方法について、図1を用いて具体的に説明する。
【0046】
まず、所定量のフッ化ルテチウム、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素のフッ化物及びアルカリ金属フッ化物を混合してなる混合原料を、坩堝1に充填する。LuFの単結晶の製造方法において、原料の純度は特に限定されないが、99.99%以上とすることが好ましい。かかる原料を用いることにより、LuF3単結晶の純度を高めることができ、シンチレーターの発光強度等の特性が向上する。かかる原料は、粉末状あるいは粒状の原料を用いても良く、あらかじめ焼結或いは溶融固化させてから用いても良い。
【0047】
次いで、上記原料を充填した坩堝チャンバーを備えた育成装置内にセットする。真空排気装置を用いて、チャンバーの内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入してガス置換を行う。ガス置換後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。このガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来するLuF単結晶の特性の低下を妨げることができる。
【0048】
上記ガス置換操作によっても除去できない水分による悪影響を避けるため、水分との反応性の高いスカベンジャーを用いて、水分を除去することが好ましい。かかるスカベンジャーとしては、四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを好適に用いることができる。なお、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0049】
ガス置換操作を行った後、ヒーターで原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料の融液に、引上げロッドの先端に設置した種結晶を接触せしめる。
【0050】
なお、LuFの単結晶の製造方法において、加熱方法は特に限定されず、例えば高周波コイルとヒーターによる誘導加熱方式、或いはカーボンヒーター等による抵抗加熱方式等を適宜用いることができる。
【0051】
次いで種結晶を回転させながら引き上げ、単結晶の育成を開始する。単結晶育成の開始直後は、一定の割合で単結晶の直径を拡大し、所望の直径に調整する。
【0052】
なお、単結晶の直径を拡大するにあたり、単結晶の転位密度の減少を目的として、一旦直径を縮小した後に拡大するネッキング操作を施すことが好ましい。
【0053】
単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後、一定の速度で単結晶を回転させながら、一定の引上げ速度で連続的に引き上げを続ける。前記原料融液に接触せしめて単結晶の育成を開始し、単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後の連続的に引き上げを続ける一連の操作において、原料融液に対する単結晶の回転数及び単結晶の平均直径が、それぞれ前記式中のR及びdであり、原料融液に対する単結晶の引上げ速度が結晶成長速度に相当する。LuFの単結晶の製造方法において、当該結晶成長速度を前記式で定義されるvmax以下とすることが肝要である。
【0054】
なお、かかる一連の操作においては、引き上げロッドの上部に設けたロードセル、及び該ロードセルからの信号をヒーター出力にフィードバックする回路からなる結晶径制御装置を用いることが好ましい。該結晶径制御装置によれば、所望の形状の単結晶を安定に製造することが容易となる。
【0055】
所定の長さまで引き上げた時点でヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって結晶を得ることができる。
【0056】
なお、前記LuF単結晶中の発光中心元素の含有量は、原料混合物に添加される発光中心元素のフッ化物の量を調整することにより、所望の値に調整することができる。LuF単結晶の製造の過程において、偏析が起こる場合があるが、かかる偏析が起こる場合においても、予め偏析係数を求めておき、当該偏析係数を加味して原料混合物に添加される発光中心元素のフッ化物の量を調整することにより、所望の量の発光中心元素を含有するLuF単結晶を得ることができる。
【0057】
LuFの単結晶の製造方法において、前記引上げ法を用いたLuF単結晶の製造に際して、フッ素原子の欠損あるいは熱歪等に起因する結晶欠陥を除去する目的で、結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。
【0058】
得られたLuF単結晶は、良好な加工性を有しており、所望の形状に加工して用いることが容易である。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いることができる。
【0059】
〔ガス増幅型紫外線画像検出器〕
本発明の放射線画像検出器が具備するガス増幅型紫外線画像検出器は、シンチレーターより生じた紫外線を一次電子に変換する光電変換部と該一次電子を増幅して検出する検出部により構成される。
【0060】
前記光電変換部は、紫外線が入射した際に外部光電効果によって電子を放出する光電変換物質、或いは、電離ポテンシャルが低く、紫外線の作用で電離して電子を放出する電離性ガス等を適宜選択して用いることができる。
【0061】
前記光電変換物質を具体的に例示すれば、ヨウ化セシウム(CsI)、テルル化セシウム(CsTe)などが挙げられる。一方、電離性ガスを具体的に例示すれば、テトラキスジメチルアミノエチレン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アセトン、及びベンゼン等が挙げられる。
【0062】
前記例示した光電変換部の中でも、紫外線を電子に変換する際の光電変換効率、及び化学的安定性の観点から、光電変換物質を用いることが好ましく、光電変換物質としてヨウ化セシウムを用いることが特に好ましい。
【0063】
一方、検出部としては、非特許文献1に記載のMulti−wire Proportional Chamber、Micro−Strip Gas Counter、Micro−Mesh−Gaseous Structure、Compteurs A TrousまたはMicro−Gap Chambers、或いは、特許文献1に記載のピクセル型電極等が好適に使用できる。中でもピクセル型電極は、長期間安定に動作し、有感領域が大きな検出器を容易に且つ安価に製作することが可能であるため、好ましい。さらに該ピクセル型電極とガス電子増幅器を併用することによって、増幅率が高く、且つ、動作の長期安定性に優れた検出部を構成することができ、特に好ましい。
【0064】
以下、本発明において好ましい態様である光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されるガス増幅型紫外線画像検出器について、図1を用いて具体的に説明する。まず、入射した放射線をシンチレーター1によって紫外線に変換する。次いで、生じた紫外線を光電変換物質2によって一次電子3に変換する。当該一次電子3を、高電場下におけるガス電子雪崩現象による増幅作用を利用したガス電子増幅器4で増幅し、二次電子5を得た後、二次電子5をピクセル型電極6でさらに増幅しながら検出する。
【0065】
光電変換物質は、紫外線から変換された一次電子を効率よく取り出すため、薄膜とすることが好ましい。また、後述するように紫外線入射窓の内面に形成するか、或いは、ガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成することが好ましい。
【0066】
次いで、上記光電変換物質より生じた一次電子をガス電子増幅器によって増幅する。当該ガス電子増幅器は、1997年にSauliによって開発され、Gas Electron Multiplier(GEM)として知られている。本発明において、当該ガス電子増幅器としては、例えば、特開2006−302844号公報、或いは特開2007−234485号公報に記載の技術が好適に使用できる。以下、本発明で使用するガス電子増幅器について、図5を用いて詳細に説明する。
【0067】
ガス電子増幅器は、樹脂製の板状絶縁層12とこの板状絶縁層の両面に被覆された平面状の金属層13とにより構成された板状多層体と、この板状多層体に設けられた、金属層の平面に垂直な内壁を有する貫通孔14により構成される。当該ガス電子増幅器においては、金属層に所定の印加電圧を印加し、貫通孔の内部に電界を発生させることにより、貫通孔構造の内部に侵入した一次電子が加速され、電子雪崩現象を生じて、位置情報を保持したまま、多数の二次電子へと増幅される。板状絶縁層の材質は、加工性及び機械的強度に鑑みて、ポリイミド或いは液晶高分子等であることが好ましい。
【0068】
板状絶縁層の厚さ(図5中のDi)が厚いほど、表面と裏面の金属層の間での放電を抑制することができるため、より高い印加電圧を印加して高い増幅率を得ることができる。しかし、極度に厚い場合には、貫通孔を設ける際の加工が困難となる。したがって、当該板状絶縁層の厚さは、50μm〜300μmとすることが好ましい。金属層の材質及び厚さ(図5中のDm)は特に制限されないが、例えば、材質を銅、アルミニウム、或いは金とし、厚さを5μm程度とした金属層が好適である。
【0069】
貫通孔の直径(図5中のd)は、特に制限されず、貫通孔の内部に生じる電界の強さと加工の容易さ等を考慮して、適宜選択される。かかる直径を具体的に例示すれば、一般に50〜100μmである。なお、貫通孔は、生成される電界の一様性を高めるため、板状多層体の全面に所定のピッチ(図5中のP)で設けることが好ましい。当該ピッチは、板状絶縁層の材質や厚さ、及び貫通孔の直径にもよるが、一般には貫通孔の直径の約2倍程度である。また、貫通孔を設ける際には、図5に示すように、正三角形を配列した配置とすることが好ましい。かかる配置とすることによって、板状多層体の面積に対する貫通孔の開口率を高めることができるため、高い増幅率を得ることができ、更に後述するイオンフィードバックを抑制することができる。
【0070】
ガス電子増幅器の動作において、印加電圧が高いほど高い増幅率が得られるが、印加電圧が極端に高い場合には、ガス電子増幅器の表裏の金属層の間で放電が生じて安定動作が困難となる。当該印加電圧の好適な範囲は、板状絶縁層の厚さによって異なるが、一般には200V〜1000Vであって、かかる印加電圧において得られる増幅率は、一般に数十〜数千である。
【0071】
ガス電子増幅器によって増幅された二次電子は、ピクセル型電極を用いてさらに増幅されて検出される。ピクセル型電極については、前記特許文献1に詳細に開示されているので、これに開示された技術に準じて作製すればよい。具体的には、ピクセル型電極は、両面基板の裏面に形成される陽極ストリップと、この陽極ストリップに植設されるとともに、その上端面が前記両面基板の表面に露出する円柱状陽極電極と、この円柱状陽極電極の上端面の回りに穴が形成されるストリップ状陰極電極とを具備している。陽極ストリップは200μm〜400μmの幅を有することが好ましく、さらに、陽極ストリップが400μm間隔で配置され、ストリップ状陰極電極には、一定間隔で直径200〜300μmの穴が形成され、円柱状陽極電極は直径40〜60μm、高さ50μm〜150μmの形状であることが特に好ましい。
【0072】
ピクセル型電極の円柱状陽極電極とストリップ状陰極電極の間に所定の印加電圧を印加することにより、円柱状陽極電極の近傍に強い電界が発生する。当該電界によって加速された二次電子は電子雪崩を生じ、増幅された後に円柱状陽極電極より検出される。この過程において陽イオン化したガス分子は、周囲のストリップ状陰極電極へ速やかにドリフトしていく。したがって、円柱状陽極電極とストリップ状陰極電極の両方に、電気回路上で観測可能な電荷が生じることになるので、陽極・陰極のどのストリップでこの増幅現象が起きたかを観測することで、入射粒子線の位置がわかる。信号の読み出し、及び2次元画像を得るための信号処理回路については、従来公知のものを制限なく用いることができる。
【0073】
ピクセル電極の印加電圧の好適な範囲は、検出ガスの種類によって異なるが、一般に400V〜800Vである。ピクセル型電極は、陽極としてピクセルを用いるので、高電界が作り易く増幅率が大きい。したがって、上記印加電圧において得られる増幅率は、数千から数万にも達する。また、ピクセル型電極は、陽イオン化したガス分子がドリフトする距離が極めて短いため、他のガス増幅型検出器に比較して不感時間が短く、約5×106count/(sec・mm2)を超える高い計数率特性を有する。さらに、ピクセル型電極は、プリント回路基板の作製技術を用いて製造することができるため、大面積のものを安価に提供できる。
【0074】
以下、前記光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極を用いて、ガス増幅型紫外線画像検出器を構成する際の好適な態様について、図1〜2を用いて詳細に説明する。
【0075】
シンチレーター1より生じた紫外線を入射するための開口部を有するチャンバー7内に、開口部に近い側から光電変換物質2、ガス電子増幅器4、及びピクセル型電極6が設置され、開口部は紫外線入射窓8で封止されている。この紫外線入射窓の材料としては、紫外線に対して高い透過性を有するフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、或いはフッ化カルシウム(CaF2)を用いることが好ましい。
【0076】
チャンバー内には、所定の検出ガスが充填されている。この検出ガスとしては、一般に希ガスとクエンチャーガスの組合せが使用される。希ガスとしては、例えばヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)等がある。また、クエンチャーガスとしては、例えば、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、四フッ化メタン(CF4)等が挙げられる。希ガス中へのクエンチャーガスの混合量は、5〜30%が好適である。
【0077】
なお、チャンバー内に検出ガスを充填する際のガス圧は、特に制限されないが、該ガス圧が低いほど、ガス増幅型紫外線画像検出器の増幅率を高めることができ、低電場でも所期の増幅率を得ることができるため、1atm以下とすることが好ましい。該ガス圧の下限は、特に制限されないが、0.05atm以上とすることが好ましく、0.2atm以上とすることが特に好ましい。該ガス圧を0.05atm以上とすることによって、検出部における放電による動作不良を回避することができ、また、増幅率の一様性を高めることができる。
【0078】
光電変換物質は、紫外線から変換された一次電子を効率よく取り出すため、薄膜とすることが好ましい。当該薄膜は、図1に示すように、紫外線入射窓の内面に形成するか、或いは図2に示すように、ガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成することが好ましい。光電変換物質の薄膜を紫外線入射窓の内面に形成する場合には、当該薄膜に電子を効率よく供給するため、且つ当該薄膜とガス電子増幅器との間に一様な電界を与えるため、薄膜の外周部に金属層からなる電極9を設けることが好ましい。光電変換物質の薄膜をガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成する場合には、ガス電子増幅器の金属層と光電変換物質との反応を避けるため、当該金属層の材質を金とすることが好ましい。さらに、板状絶縁層へ積層する際の容易さや製作コストに鑑みて、金属層を板状絶縁層に近い側から、銅、ニッケル及び金の順で積層された、多層の金属層とすることが最も好ましい。
【0079】
ガス電子増幅器及びピクセル型電極は、それぞれ紫外線入射窓に平行に設置される。ガス電子増幅器は、増幅率及び動作の安定性の観点から、複数枚使用して、同様に紫外線入射窓に平行に設置することが好ましく、2枚または3枚程度設置することが特に好ましい。複数枚のガス電子増幅器とピクセル型電極の各々で電子を増幅することによって、段階的に電子が増幅され、結果として得られる総合的な増幅率を大幅に高めることができる。また、複数枚のガス電子増幅器を用いることによって、イオンフィードバックを効果的に抑制することができ、動作の安定性を高めることができる。イオンフィードバックとは、電子雪崩現象で副次的に生成した陽イオン性のガス分子が蓄積され、電界を歪める現象であって、かかるイオンフィードバックが生じると、増幅率や計数率特性が不安定となり、動作の安定性に支障をきたす。
【0080】
紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器とのギャップ(図1中のG1)の長さ、各ガス電子増幅器間のギャップ(図1中のG2)の長さ、及び最後段のガス電子増幅器とピクセル型電極とのギャップ(図1中のG3)の長さは、短いほど計数率特性及び位置分解能が向上するが、極端に短い場合には互いが接しないように設置することが困難となる。したがって、当該G1、G2、及びG3の好適な長さは、ともに約1mm〜20mmである。
【0081】
上記G1、G2、及びG3に生じせしめる電界の大きさは、特に制限されず、所期の増幅率、イオンフィードバックの抑制効果、及び電荷の収集効率に鑑みて適宜選択することができる。当該電界の大きさの好ましい範囲を具体的に例示すれば、一般に0.3〜10kV/cmである。かかる電界の大きさとすることによって、高い増幅率と前記イオンフィードバックの抑制を同時に達成することができる。
【0082】
本発明者らの検討によれば、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極を組み合わせ、ガス電子増幅器及びピクセル型電極に印加する印加電圧を最適化することによって、ガス電子増幅器及びピクセル型電極による総合的な増幅率として1×105を超える増幅率を安定に得ることができ、シンチレーターから生じた微弱な紫外線によって画像を形成することが可能となる。
【0083】
〔放射線画像検出器〕
本発明の放射線画像検出器において、前記光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極には、それぞれ電圧を印加するための高圧電源が接続され、ピクセル型電極には信号の読み出し及び2次元画像を得るための信号処理回路が接続されている。なお、ピクセル型電極より信号を読み出し2次元画像を得る際に、アンガーロジックに基づくアンガー型信号処理回路を用いることによって、位置分解能を特に向上することができる。アンガーロジックとは、放射線の入射によって生じたシンチレーション光が、空間的な拡がりを以って検出された場合に、当該シンチレーション光の重心位置を求めることによって、放射線の入射位置を特定する手法である。
【0084】
当該アンガー型信号処理回路は、ピクセル型電極の各ピクセルでの信号の強度を読み出すための読み出し回路、個々の放射線の入射によって生じたシンチレーション光を弁別するための同時計数回路、及び各ピクセルから読み出された信号の強度からシンチレーション光の重心位置を求めるための重心演算回路より構成される。当該アンガー型信号処理回路においては、読み出し回路より得られた信号の内、単一の放射線の入射によって生じた信号のみを同時計数回路によって弁別する。次いで、かかる弁別された信号を対象とし、当該信号の強度についての荷重平均を、重心演算回路によって求めることにより、放射線の入射位置を特定する。かかるアンガー型信号処理回路によれば、位置分解能を約100μmまで向上することができる。
【0085】
以下、前記シンチレーター及びガス増幅型紫外線画像検出器を用いて、本発明の放射線画像検出器を構成する際の好適な態様について、図1〜4を用いて詳細に説明する。
【0086】
図1に示すように、シンチレーターの紫外線出射面以外の面に紫外線反射膜10を施し、シンチレーターの紫外線出射面とガス増幅型紫外線画像検出器の紫外線入射窓とを密接して設置し、好ましくは、紫外線出射面と紫外線入射窓の間にグリース11を充填する。グリースを充填することにより、シンチレーター内部より紫外線射出面に到達した紫外線を、紫外線射出面で反射させること無く外部に導出でき、ガス増幅型紫外線画像検出器への入射効率を高めることができる。当該グリースとしては、屈折率が高く、また紫外線に対する透明性が高いフッ素系グリースを用いることが好ましく、例えば、デュポン社製「クライトックス」等が好適に使用できる。
【0087】
シンチレーターの放射線入射方向に対する厚さが厚く、シンチレーター内での紫外線の拡がりによって位置分解能が低下する場合には、図3のように小さな紫外線出射面を有し、紫外線出射面以外の面に紫外線反射膜が施されたシンチレーターを多数配列することによって、紫外線の拡がりを抑えることができる。
【0088】
本発明の放射線画像検出器の別の態様として、図4に示すように、紫外線入射窓に替えて、シンチレーターによってチャンバーの開口部を封止してもよい。かかる態様により、紫外線入射窓における紫外線の拡がりに起因する位置分解能の低下を回避することができ、しかも、構造を簡素化することができるため、好ましい。
【0089】
なお、かかる態様において、本発明のLuFは特別の効果を発揮する。すなわち、当該態様においてはシンチレーターの表面に光電変換物質の薄膜が形成され、当該薄膜とガス電子増幅器との間に電界が形成される。かかる電界の形成の際に、前記薄膜に負の高電圧が印加される場合がある。本発明者らの検討によれば、シンチレーターとして、例えば非特許文献2に記載されているNdを含有するLaF3結晶を用いた場合、当該高電圧の印加によって結晶が破壊するという問題が生じた。一方で、LuFは高電圧を印加しても結晶が破壊することは無いため、かかる態様においても好適に用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0091】
実施例1
〈シンチレーターの製造及び発光特性の測定〉
本実施例において、Ndを含有するLuF3結晶を、図6に示す製造装置を用いて製造した。まず、フッ化ルテチウム 2850g、フッ化ネオジウム 12.3g及びフッ化リチウム 143g及びを混合してなる混合原料を、坩堝16に充填した。すなわち、本実施例では、単結晶の製造における原料混合物中にアルカリ金属フッ化物としてLiFを45mol%添加した。なお、上記各原料の純度は99.99%以上の原料を用いた
次いで、上記原料を充填した坩堝16、ヒーター17、断熱材18、及びステージ19を図6に示すようにセットした。なお、坩堝16、ヒーター17、断熱材18、及びステージ19は、高純度カーボン製のものを使用した。
【0092】
真空排気装置を用いて、チャンバー20の内部を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、四フッ化メタン−アルゴン混合ガスをチャンバー内に大気圧まで導入し、ガス置換を行った。
【0093】
ガス置換操作を行った後、高周波コイル21、及びヒーター17による誘導加熱によって原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料の融液に、引上げロッド22の先端に設置した種結晶を接触せしめた。
【0094】
次いで種結晶を回転させながら引き上げ、単結晶の育成を開始した。単結晶育成の開始直後に、一旦直径を縮小した後に拡大するネッキング操作を施し、その後一定の割合で単結晶の直径を拡大し、所定の直径に調整した。単結晶の直径を所定の値まで拡大せしめた後、一定の速度で単結晶を回転させながら、一定の引上げ速度で連続的に引き上げを続けた。
【0095】
なお、本実施例において、原料融液に対する単結晶の回転数(R)及び単結晶の平均直径(d)は、それぞれ15rpm及び30mmとした。かかるR及びdから計算される前記vmaxは0.46mm/hrであるため、本実施例では結晶成長速度をvmax以下である0.4mm/hrとした。
【0096】
なお、かかる一連の操作は、引き上げロッドの上部に設けたロードセル、及び該ロードセルからの信号をヒーター出力にフィードバックする回路からなる結晶径制御装置を用いて行った。
【0097】
所定の直径の単結晶を長さ 40mmまで引き上げた時点でヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって、白濁やクラックの無い透明な単結晶を得た。
【0098】
得られた単結晶の一部を粉砕して粉末にし、粉末X線回折測定に供した。粉末X線回折法によって得られた回折パターンを解析した結果から、本実施例の単結晶はいずれもフッ化ルテチウム型の結晶のみからなることが分かった。
【0099】
また、前記単結晶の一部を用いてアルカリ溶融法によって溶液を調製し、誘導結合プラズマ質量分析法を用いてNdの含有量を測定した結果、本実施例のLuF単結晶のNdの含有量はいずれもフッ化ルテチウムに対して0.05mol%であった。
【0100】
当該LuF単結晶を、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって切断した後、全面に光学研磨を施して、10mm×10mm×1mmの形状のシンチレーターとした。当該シンチレーターの10mm×10mmの一面を紫外線出射面として用いた。
【0101】
このシンチレーターについて、入射した放射線を変換して出射される紫外線の波長を以下の方法によって測定した。
【0102】
タングステンをターゲットとする封入式X線管球を用いて、X線をシンチレーターに照射した。なお、封入式X線管球よりX線を発生させる際の管電圧及び管電流はそれぞれ60kV及び40mAとした。シンチレーターの紫外線出射面より生じた紫外線を集光ミラーで集光し、分光器にて単色化し、各波長の強度を記録してシンチレーターより生じた紫外線のスペクトルを得た。測定の結果、本実施例のシンチレーターは、入射した放射線を波長が178nmの真空紫外線に変換することが確認された。
【0103】
〈ガス増幅型紫外線画像検出器の作製〉
本発明の放射線画像検出器の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を以下の方法によって作製した。
【0104】
図1に示すように、開口部を有するチャンバー内に、開口部に近い側から2枚のガス電子増幅器、及びピクセル型電極をそれぞれ平行に設置し、開口部を紫外線入射窓で封止した。紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器との距離は10mm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器との距離は2mm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極との距離は2mmとした。
【0105】
ガス電子増幅器は、ポリイミド製の板状絶縁層の両側に、金属層として5μmの厚さで銅を蒸着して板状多層体とし、当該板状多層体の全面に、直径が70μmの円柱状の貫通孔を、140μmのピッチで、正三角形を配列した配置にて設けたものを用いた。なお、初段のガス電子増幅器及び後段のガス電子増幅器の板状絶縁層の厚さは、それぞれ100μm及び50μmとした。
【0106】
ピクセル型電極は、厚さが100μmのポリイミド基板を用い、当該基板の裏面に幅が300μmの陽極ストリップを設け、この陽極ストリップに植設され、基板の表面に露出する円柱状陽極電極を400μm間隔で配置し、この円柱状陽極電極の上端面の回りに直径が260μmの穴が形成されたストリップ状陰極電極を設けたものを用いた。円柱状陽極電極の直径は、基板内に埋設された部分を50μmとし、基板の表面に露出した部分を70μmとした。円柱状陽極電極の高さは110μmとし、上端部10μmが表面に露出した構造とした。
【0107】
紫外線入射窓には、直径が54mm、厚さが3mmのMgF2を用い、当該紫外線入射窓の内面には光電変換物質としてヨウ化セシウムの薄膜を設け、さらに当該ヨウ化セシウム薄膜の外周部にニッケル層からなる電極を設けた。ヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極、初段のガス電子増幅器の両面、後段のガス電子増幅器の両面、及びピクセル型電極の陽極電極と陰極電極には、印加電圧を印加するための高圧電源を接続し、ピクセル型電極の陽極電極と陰極電極には、信号の読み出し及び2次元画像を得るための信号処理回路を接続した。
【0108】
前記チャンバー内に検出ガスとして、10%のC2H6を混合したArを充填し、本発明の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を得た。なお、チャンバー内に検出ガスを充填する際のガス圧は、1atmとした。
【0109】
当該ガス増幅型紫外線画像検出器において、ヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極に−1350Vを印加し、初段のガス電子増幅器及び後段のガス電子増幅器のそれぞれについて、両面の金属層間に400V及び300Vを印加し、ピクセル型電極の陽極電極と陰極電極との間に400Vを印加した。なお、紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器の間の電界が0.25kV/cm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器の間の電界が1.0kV/cm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極の間の電界が3.0kV/cmとなるように印加電圧を調整した。
【0110】
上記印加電圧下において、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極によって得られる総合的な増幅率は2.0×105に達し、かかる高い増幅率においても、ガス電子増幅器の表裏での放電やピクセル型電極における放電は生じず、長期間安定に動作することが確認された。
【0111】
〈放射線画像検出器の作製と評価〉
上述の方法で作製したシンチレーターの紫外線出射面と、ガス増幅型紫外線画像検出器の紫外線入射窓とを図1に示すように密接して設置し、本発明の放射線画像検出器を得た。なお、前記紫外線出射面と紫外線入射窓の間にはフッ素系グリースとしてデュポン社製「クライトックス」を充填した。
【0112】
放射線画像検出器の性能を評価するため、7.7×105Bqの放射能を有する57Co同位体及び8×103Bqの放射能を有する241Am同位体を放射線源とし、該放射線源より生じる放射線に対する放射線画像検出器の応答を評価した。なお、前記同位体は、それぞれ122keVのγ線及び5.5MeVのα線を発する放射線源である。放射線源をシンチレーターに近接して設置し、放射線源より生じる放射線をシンチレーター近接面に照射した。ピクセル型電極に接続された信号処理回路を用いて、ピクセル型電極の各陽極電極から出力される信号を取得し、2次元画像を構成した。なお、当該2次元画像を取得する際の測定時間は、それぞれ61秒及び136秒とした。
【0113】
57Co及び241Amを放射線源として得られた画像をそれぞれ図7及び8に示す。なお、各図中の破線部は、放射線を入射した位置を示す。図7及び8に示すように、放射線の入射位置を画像としてとらえることができ、本発明の放射線画像検出器が充分な感度と優れた位置分解能を有することが確認された。
【0114】
また、57Coを放射線源として以下の方法により波高分布測定を行った。まず、放射線が入射した事象毎に、ピクセル型電極の各陽極電極で検出された電荷量を積分し、総電荷量を求めた。次いで、当該総電荷量をガス電子増幅器とピクセル型電極によって得られる総合的な増幅率(2.0×105)で除することによって、一次電子数を算出した。当該一次電子数を生じた事象の頻度をヒストグラム化することによって、波高分布を得た。得られた波高分布を図9に示す。当該波高分布において、一次電子数が1以上の計数が、放射線画像を取得する際の有効な事象の数を表わす。
【0115】
比較例1
シンチレーターとして、Ndを含有するLuF3結晶に替えて、Ndを含有するLaF3結晶を用いる以外は、実施例1と同様にして放射線画像検出器を作製した。
【0116】
該放射線画像検出器の性能を評価するため、実施例1と同様にして、57Co及び241Amを放射線源に用いて2次元画像の取得を試みた。なお、当該2次元画像を取得する際の測定時間は、実施例1と同様にそれぞれ61秒及び136秒とした。その結果、本比較例のNdを含有するLaF3結晶は、実施例1のNdを含有するLuF3結晶に比較して発光量が小さいため、本比較例の放射線画像検出器から出力される信号の計数率が低く、前記測定時間においては放射線の入射位置を示す画像は得られなかった。
【0117】
また、57Coを放射線源とし、実施例1と同様にして波高分布測定を行った。得られた波高分布を図9に示す。図9より、発光量の高いLuFを用いることによって、得られる一次電子数が増大し、結果として放射線画像を取得する際の有効な事象の数を大幅に増大できることが分かる。
【0118】
実施例2
〈シンチレーターの作製〉
本実施例において、シンチレーターは実施例1と同様のシンチレーターを用いた。
【0119】
〈ガス増幅型紫外線画像検出器の作製〉
本発明の放射線画像検出器の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を以下の方法によって作製した。
【0120】
図2に示すように、開口部を有するチャンバー内に、開口部に近い側から2枚のガス電
子増幅器、及びピクセル型電極をそれぞれ平行に設置し、開口部を紫外線入射窓で封止した。紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器との距離は10mm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器との距離は2mm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極との距離は2mmとした。
【0121】
ガス電子増幅器は、実施例1と同様のものを用いた。なお、図2に示すように、初段のガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面には、光電変換物質としてヨウ化セシウムの薄膜を設けた。
【0122】
ピクセル型電極は、実施例1と同様のものを用い、紫外線入射窓には、直径が54mm、厚さが3mmのMgF2を用いた。
【0123】
前記チャンバー内に検出ガスとして、10%のC2H6を混合したArを充填し、本発明の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を得た。なお、チャンバー内に検出ガスを充填する際のガス圧は、1atmとした。
【0124】
当該ガス増幅型紫外線画像検出器において、実施例1におけるヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極に替えて、図2に示すように紫外線入射窓の外周部に銅リング12を設けた。当該銅リング、2枚のガス電子増幅器及びピクセル型電極のそれぞれについて、実施例1と同様にして電圧を印加した。
【0125】
上記印加電圧下において、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極によって得られる総合的な増幅率は2.0×105に達し、かかる高い増幅率においても、ガス電子増幅器の表裏での放電やピクセル型電極における放電は生じず、長期間安定に動作することが確認された。
【0126】
〈放射線画像検出器の作製と評価〉
実施例1と同様にして、本発明の放射線画像検出器を作製し、該放射線画像検出器の性能を評価するため、実施例1と同様にして、57Co及び241Amを放射線源に用いて2次元画像の取得を試みた。なお、当該2次元画像を取得する際の測定時間は、それぞれ68秒及び139秒とした。
【0127】
57Co及び241Amを放射線源として得られた画像をそれぞれ図10及び11に示す。なお、各図中の破線部は、放射線を入射した位置を示す。図10及び11に示すように、放射線の入射位置を画像としてとらえることができ、本発明の放射線画像検出器が充分な感度と優れた位置分解能を有することが確認された。
【0128】
比較例2
シンチレーターとして、Ndを含有するLuF3結晶に替えて、Ndを含有するLaF3結晶を用いる以外は、実施例2と同様にして放射線画像検出器を作製した。
【0129】
該放射線画像検出器の性能を評価するため、実施例2と同様にして、57Co及び241Amを放射線源に用いて2次元画像の取得を試みた。なお、当該2次元画像を取得する際の測定時間は、実施例2と同様にそれぞれ68秒及び139秒とした。その結果、本比較例のNdを含有するLaF3結晶は、実施例2のNdを含有するLuF3結晶に比較して発光量が小さいため、本比較例の放射線画像検出器から出力される信号の計数率が低く、前記測定時間においては放射線の入射位置を示す画像は得られなかった。
【0130】
実施例1及び2、並びに比較例1及び2で得られた放射線画像検出器について、57Co同位体及び241Am同位体を放射線源とし、シンチレーター近傍に設置した該放射線源より生じる放射線をシンチレーターに照射した際の計数率を表1に示す。該計数率は単位時間当たりに放射線を検出した回数であって、放射線に対する検出効率を表わす。表1より、本発明の放射線画像検出器によれば、計数率すなわち放射線に対する検出効率を格段に高めることができ、放射線画像を短時間で取得できることが分かる。
【0131】
【表1】
【符号の説明】
【0132】
1 シンチレーター
2 光電変換物質
3 一次電子
4 ガス電子増幅器
5 二次電子
6 ピクセル型電極
7 チャンバー
8 紫外線入射窓
9 電極
10 紫外線反射膜
11 グリース
12 銅リング
13 板状絶縁層
14 金属層
15 貫通孔
16 坩堝
17 ヒーター
18 断熱材
19 ステージ
20 チャンバー
21 高周波コイル
22 引上げロッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーター、及びガス増幅型紫外線画像検出器を具備してなる放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶であることを特徴とする放射線画像検出器。
【請求項2】
ガス増幅型紫外線画像検出器が、光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像検出器。
【請求項3】
光電変換物質が、ヨウ化セシウムまたはテルル化セシウムであることを特徴とする請求項2に記載の放射線画像検出器。
【請求項4】
ガス電子増幅器が、2枚又は3枚存在することを特徴とする請求項2又は3に記載の放射線画像検出器。
【請求項1】
入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーター、及びガス増幅型紫外線画像検出器を具備してなる放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLuF3結晶であることを特徴とする放射線画像検出器。
【請求項2】
ガス増幅型紫外線画像検出器が、光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像検出器。
【請求項3】
光電変換物質が、ヨウ化セシウムまたはテルル化セシウムであることを特徴とする請求項2に記載の放射線画像検出器。
【請求項4】
ガス電子増幅器が、2枚又は3枚存在することを特徴とする請求項2又は3に記載の放射線画像検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−185025(P2012−185025A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48002(P2011−48002)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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