説明

放射線透視像を用いた移動量測定装置

【課題】 外部から視認できない物体等の移動量を、放射線を用いて計測するに当たり、放射線の空間強度分布の時間的変化や、放射線検出器の感度むら並びに歪みがあっても、常に高い精度で移動量を計測することのできる放射線を用いた移動量測定装置を提供する。
【解決手段】 規定時間経過前後の被測定物の放射線透視像から、それぞれ移動量測定方向に沿ったラインプロファイルPn(y),Pn−1(y)を作成し、これらのラインプロファイルの差分値の絶対値があらかじめ設定されている値以上の領域のみを比較して被測定物Wの移動量を算出することで、放射線の空間強度分布や放射線検出器の感度むら等の影響を除外し、正確な移動量の算出を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線をはじめとする放射線を被測定物に照射して得られる放射線透過像を用いて被測定物の移動量を求める、放射線透視データを用いた移動量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体やマークの移動量を計測する方法として、その物体やマークをカメラで撮影し、その刻々の光学像(外観像)において、物体やマークの移動方向に沿ったラインプロファイルを求め、その各ラインプロファイルどうしを対象としたパターンマッチング等の画像処理によって、物体やマークの刻々の移動量を求める方法が知られている(例えば特許文献1参照。)
【0003】
ところで、外部から視認できない物体の移動や、物体内部の構造物の内部移動などを観察する場合、上記のような光学像を用いた移動計測を行うことができない。
【0004】
物体の内部構造等を非破壊のもとに観察する方法としては、物体にX線をはじめとする放射線を照射し、物体を透過した放射線を検出器で検出して得られる放射線透視像を用いる方法が多用されている(例えば特許文献2参照)。
そこで、外部から視認できない物体の移動や、物体内部の構造物の内部移動などを観察するに当たっては、このような放射線透視像を刻々と撮影して、前記したラインプロファイルを用いた画像処理を適用することが考えられる。
【特許文献1】特開平11−295042号公報
【特許文献2】特開2003−185600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した放射線透視像にラインプロファイルを用いた移動量計測技法を組み合わせた方法によると、放射線源からの放射線の空間強度分布の時間的変化、あるいは放射線検出器の感度むらや歪みの影響を受けて、計測精度が低下する場合があった。
【0006】
本発明の課題は、被測定物の放射線透視像の経時的変化から、その被測定物の移動量を求める装置において、放射線強度の時間的変化や、検出器の感度むらや歪みがあっても、常に高い精度のもとに被測定物の移動量を求めることのできる、放射線透視像を用いた移動量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の放射線透視像を用いた移動量測定装置は、被測定物を挟んで放射線源と放射線検出器を対向配置し、その放射線検出器の出力に基づく被測定物の放射線透視像の経時的変化から、被測定物の移動量を求める移動量測定装置であって、規定時間経過前後の被測定物の各放射線透視像から、それぞれ被測定物の移動方向に沿ったラインプロファイルを作成し、その2種のラインプロファイルを用いて被測定物の上記規定時間における移動量を算出する演算手段を備え、その演算手段は、上記2種のラインプロファイルの差分値を算出し、その差分値の絶対値があらかじめ設定された値以上の領域のみを比較して被測定物の移動量を算出することによって特徴づけられる。
【0008】
本発明は、移動量の計測誤差の原因となる放射線源からの放射線の分布の時間的な変化や、規定時間経過前後、つまり移動前後のラインプロファイルに含まれる放射線の強度分布の時間的変化や、検出器の感度むらおよび歪みの影響を除外したうえで、移動量を算出することによって課題を解決しようとするものである。
【0009】
すなわち、放射線の強度分布の時間的変化は一般に緩やかなものであり、また、放射線検出器の感度むら並びに歪みについても、空間的に緩やかなものである。従って、移動前後の放射線透視像から求めた2種のラインプロファイルの差分値を算出し、その差分値の絶対値があらかじめ設定された値以上の領域のみを比較して、例えばパターンマッチング等の処理を施すことにより、放射線の強度分布の時間的変化や検出器の感度むら並びに歪みの影響を殆ど除外することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部から視認できない物体や、物体の内部構造の移動量を、放射線を用いて、その強度分布の時間的変化や放射線検出器の感度むら並びに歪みの影響を受けることなく、常に高い精度で計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図であり、機械的構成を表す模式図とシステム構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0012】
X線源1とX線検出器2が対向配置されており、これらの間に被測定物Wが配置されている。X線検出器2は、X線源1からのX線光軸Lの方向(x方向)に直交するy−z平面に広がりを持つ2次元の検出器である。被測定物Wは、例えば筒体Waの内部に位置して外部から視認できない状態であり、その被測定物Wのy方向への移動を観察するものとする。
【0013】
X線検出器2の出力は画像データ取込回路3を介してパーソナルコンピュータ4に取り込まれる。パーソナルコンピュータ4では、X線検出器2からの画素データを取り込んで表示器5に被測定物WのX線透視像を表示するとともに、以下に示す手順により、その画素データを用いて被測定物Wのy方向への移動量を求める。
【0014】
図2は被測定物Wのy方向への移動量を求める際のパーソナルコンピュータ4の動作を表すフローチャートである。なお、この例では、時間Tごとの被測定物Wの移動量を逐次求める場合の例を示している。
【0015】
X線検出器2からの画素データを取り込み、そのy方向およびz方向に画素がマトリクス状に並んだフレームデータにおいて、z方向にデータを積算してy方向に沿ったラインプロファイルPn(y)を作成する。この動作を時間Tが経過するごとに実行する。
【0016】
そして、2回目以降の画素データの取り込み時には、今回の画素データから作成したラインプロファイルPn(y)と、前回の画素データから作成したラインプロファイルPn−1(y)との差分値の絶対値Aを求める。すなわち、yをy方向の画素ナンバー(y=1,2,・・・)とすると、各yについて、
A(y)=|Pn(y)−Pn−1(y)| ・・(1)
を算出する。そして、その差分値の絶対値Aの平均値Bを算出する。
【0017】
次に、各差分値の絶対値A(y)と平均値Bを比較し、A(y)がB以上の部分のみを有効データとして、その部分のラインプロファイルPn(y)とPn−1(y)を用いたパターンマッチングにより、被測定物Wのy方向への移動量を算出する。具体的には、ラインプロファイルPn−1に対してラインプロファイルPnをy方向に画素単位でシフトした状態で、各yの値において両者の差を算出し、その差の積算値が最小となるシフト量εをもって移動量とする。つまり、
Corr(ε)=|Pn−1(y)−Pn(y−ε)| ・・(2)
で表される差の積算値Corr(ε)が最小となるεを求め、その値εをシフト量と決定する。図4にそのグラフを示す。
【0018】
以上の本発明の実施の形態によると、X線源1からのX線の空間強度分布が時間的に変化したり、あるいはX線検出器2の感度むら並びに歪みが存在していても、上記したような有効データを設定して、その有効データのみを用いたパターンマッチングを行うことによって、その影響を可及的に少なくすることができる。その結果、常に高い精度で被測定物Wの移動量を計測することが可能となる。
【0019】
なお、以上の実施の形態においては、ラインプロファイルPnとPn−1の差分値の絶対値に基づいて有効データを抽出するに当たり、その境界を差分値の絶対値の平均値としたが、本発明はこれに限定されることなく、他の値、例えばその平均値の90%等、を境界とすることもできることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図とシステム構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における移動量の計算手順を表すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における有効データの決定の仕方を表すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態における移動量の算出手法の例を表すグラフである。
【符号の説明】
【0021】
1 X線源
2 X線検出器
3 画像データ取込回路
4 パーソナルコンピュータ
5 表示器
W 被測定物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物を挟んで放射線源と放射線検出器を対向配置し、その放射線検出器の出力に基づく被測定物の放射線透視像の経時的変化から、被測定物の移動量を求める移動量測定装置であって、
規定時間経過前後の被測定物の各放射線透視像から、それぞれ被測定物の移動方向に沿ったラインプロファイルを作成し、その2種のラインプロファイルを用いて被測定物の上記規定時間における移動量を算出する演算手段を備え、その演算手段は、上記2種のラインプロファイルの差分値を算出し、その差分値の絶対値があらかじめ設定された値以上の領域のみを比較して被測定物の移動量を算出することを特徴とする放射線透視像を用いた移動量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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