説明

放射能測定装置および放射能測定方法

【課題】測定対象物の大きさが変化しても、精度よく放射能を測定できるようにする。
【解決手段】放射能測定装置は、測定対象物1の表面に沿って変形して、その表面の少なくとも一部に接触する中空の中空部材2と、中空部材2の内部のイオン発生室5に気体を流入させる気体輸送手段61と、イオン発生室5の気体が電離して発生したイオンの量を計測するイオン収集手段51を備える。イオン収集手段51で計測したイオン電流から測定対象物1の放射能を求める。中空部材2の内部に、リング状の中空空間保持手段を配置して、イオン発生室5がつぶれないようにしてもよい。複数のイオン発生室を備えて複数種類の放射線の放射能を独立して求めることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置および放射能測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料サイクル関連施設で蓄積された放射性廃棄物のクリアランス検認の際に、廃棄物を個々にサーベイする測定方法では時間が掛かり過ぎる。また、多様な形態、形状を持つ廃棄物は、α線の飛程が短いため、表に露出していない箇所や狭い箇所などが測定できない。
【0003】
このため、放射線によって電離して発生したイオンを、空気流によって廃棄物内からも剥離・輸送して収集し、電流あるいは電荷を検出し放射能を評価するする装置が開発されている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
この放射線測定装置は、測定対象物を収納する測定室と、測定室内で発生したイオンの量を計測する手段を有している。計測されたオンの量に基づいて、測定対象物の放射能が求められる。
【特許文献1】特開2004−239762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測定対象物である放射性廃棄物の形状が変化する場合、一般に、測定室の寸法は最大の測定対象物が収納できるように決められて製作されている。しかし、この測定室で小さな寸法の測定対象を測定すると、測定室内に測定対象以外の広い空間ができる。この空間の気体が宇宙線により電離されて、生成したイオンが妨害するため、測定精度が悪化する。
【0006】
そこで、本発明は、測定対象物の大きさが変化しても、精度よく放射能を測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置において、前記測定対象物の表面に沿って変形して前記測定対象物の表面の少なくとも一部に接触する中空の中空部材と、前記中空部材の内部に気体を流入させる気体輸送手段と、前記中空部材の内部の気体が電離して発生したイオンの量を計測するイオン計測手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置において、気体が流入する流入口および気体が流出する排出口を備えた、前記測定対象物を収納する測定室と、前記流入口から前記測定室に気体を流入させ、その気体を前記排出口から排出する気体輸送手段と、前記測定室の内部に配置され、前記測定対象物の近傍の気体を吸引できる気体吸引口と、前記気体吸引口から吸引された気体に含まれるイオンの量を計測するイオン計測手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置において、気体が流入する流入口および気体が流出する排出口を備えた、前記測定対象物を収納する測定室と、前記流入口から前記測定室に気体を流入させ、その気体を前記排出口から排出する気体輸送手段と、前記測定室の内部の気体が電離して発生したイオンの量を計測するイオン計測手段と、前記測定対象物の一部の表面から放出される放射線を遮る遮蔽手段と、前記遮蔽手段を前記測定対象物の表面に沿って移動させる遮蔽移動手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、貫通部を備えた測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置において、前記貫通部の開口である流入口から気体を流入させ、その気体をその貫通部の他の開口である排出口から排出する気体輸送手段と、気体が通過可能で、その気体に含まれるイオンの少なくとも一部を除去する気体浄化手段と、前記気体浄化手段を通過した気体のみが前記流入口に到達するように仕切り、その気体浄化手段とその流入口とが所定の距離以上離れるように保持する気体経路と、前記排出口から排出される気体に含まれるイオンの量を計測するイオン計測手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、測定対象物の放射能を測定する放射能測定方法において、中空の中空部材を、前記測定対象物の表面に沿って変形させて前記測定対象物の表面の少なくとも一部に接触させる工程と、前記中空部材の内部に気体を流入させる工程と、前記中空部材の内部の気体が電離して発生したイオンの量を計測する工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、測定対象物の放射能を測定する放射能測定方法において、前記測定対象物を収納する測定室に気体を流入させ、その気体をその測定室から排出する工程と、前記測定室の内部で、前記測定対象物の近傍の気体を吸引する工程と、前記測定対象物の近傍で吸引された気体に含まれるイオンの量を計測する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、測定対象物の放射能を測定する放射能測定方法において、前記測定対象物を収納する測定室に気体を流入させ、その気体をその測定室から排出する工程と、前記測定室の内部の気体が電離して発生したイオンの量を計測する工程と、前記測定対象物の一部の表面から放出される放射線を遮る工程と、前記測定対象物の表面から放出される放射線を遮る位置を、その測定対象物の表面に沿って移動させる工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、貫通部を備えた測定対象物の放射能を測定する放射能測定方法において、前記貫通部の開口である流入口から所定の距離以上はなれた位置で、気体に含まれるイオンの少なくとも一部を除去するイオン除去工程と、イオン除去工程でイオンの少なくとも一部が除去された気体を、前記貫通部の開口である流入口から気体を流入させ、その気体をその貫通部の他の開口である排出口から排出する工程と、前記排出口から排出される気体に含まれるイオンの量を計測する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定対象物の大きさが変化しても、精度よく放射能を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る放射能測定装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【0018】
この放射能測定装置は、その内部が外気と遮断されたイオン発生室5となる中空部材2を有している。中空部材2は、たとえばビニル系、マイラ系、シリコン系などの物質でできていて、自由に変形可能である。また、中空部材2の素材としては、気体を通過し難く、柔軟性があり、無色透明のものが好ましい。
【0019】
中空部材2には、イオン発生室5に空気などの気体を流入させる気体輸送手段61が、気体導入経路31を介して接続されている。また、中空部材2には、イオン発生室5から排出される気体を受け取り、その気体からイオンを収集するイオン収集手段51が、気体排出経路41を介して接続されている。
【0020】
次に、この放射能測定装置によって、放射線源が付着した測定対象物1の放射能を測定する方法を説明する。
【0021】
図2は、第1の実施の形態の放射能測定装置による測定対象物1の放射能を測定する際の断面図である。
【0022】
測定対象1の放射能を測定する際には、中空部材2を測定対象物1の外表面を包むように配置する。イオン発生室5には、気体輸送手段61によって気体が流入するため、中空部材2の表面は、広い面積で測定対象物1の表面に密着する。イオン発生室5に流入した気体は、気体排出経路41を介してイオン収集手段51に排出される。イオン発生室5に気体を連続的あるいは断続的に流入すれば、イオン発生室5を所定の大きさに保つことができる。
【0023】
気体輸送手段61によって、イオン発生室5に流入した気体の一部は、測定対象物1から放出された放射線によって電離され、放射能の強度に応じてイオン対が発生する。この電流と、予め求めておいた電流から放射能への換算係数を用いて、測定対象物1の放射能を求めることができる。
【0024】
図3は、第1の実施の形態の放射能測定装置による凹部を有する測定対象物1の放射能を測定する際の断面図である。
【0025】
凹部を有する測定対象物1の放射能を測定する場合には、測定対象物1の凹部に中空部材2を押し付けるように密着させることが可能であり、図2に示す場合と同様に、測定対象物1の放射能を測定することが可能である。
【0026】
なお、測定対象物1の凹部以外の部分から放出される放射線が無視できない場合には、測定対象物1の凹部以外にも中空部材2を密着させてイオンを測定することにより、測定対象物1の全体の放射能を求めることができる。
【0027】
また、イオン発生室5の気体を、α線の飛程内に存在させるようにすることで、イオン発生室5で発生した気体のイオンは、その電離能力の違いからα線の電離作用によるものが支配的となって、β線やγ線による電離影響を無視できるようになる。このため、測定精度が向上する。
【0028】
α線などの荷電粒子の阻止能Sは、次式によって求められる。
【0029】
S=(4πz/mv)×Nρ×(Z/A) (式1)
ここで、zは粒子の電荷(esu)、eは電子の電荷(esu)、mは電子の静止質量(g)、vは荷電粒子の速度(cm/sec)、Nは1モル中の分子の総数、ρは物質の密度、Zは物質元素の原子番号、Aは物質元素の原子量である。
【0030】
Z/Aは軽い元素ではほぼ一定であると考えられるため、阻止能Sは物質の密度ρに比例していると近似することができる。たとえば測定対象物1から放出されるα線のエネルギーが、約5.5MeVないし8MeVである場合、水の密度(1.0g/cm)に近いビニルなどを用いると、α粒子の飛程は約48μmないし87μmとなる。なお、中空部材2と測定対象物1との間は、ほぼ密着状態になるため、この間の気体の密度は無視できる。
【0031】
したがって、中空部材2の密度のみをコントロールすることによって、容易に、必要なエネルギーのα線を透過させることができる。たとえば、一般に市販されているポリ袋などの厚みは約50μmであり、中空部材2として用いることができる。
【0032】
また、たとえばイオン発生室5に導入する気体が空気の場合には、α線など放射線の電離作用により生じた小さな空気イオンは、埃や塵などのエアロゾル粒子に付着して大きなイオンである帯電粒子を形成する。このため小さな空気イオンが消滅してしまい、測定効率が低下してしまう。
【0033】
そこで、中空部材2に、あらかじめ静電気による帯電を防止する静電防止処理をしておくと中空部材2の内面同士の密着や、埃や塵の引き寄せを抑制することができ、埃や塵が多い場所などでは、中空部材2に対する帯電防止処理は特に有効である。
【0034】
また、この放射能測定装置から気体導入経路を削除して、イオン発生室5に気体を導入し、排出できる気体輸送手段をイオン収集手段51に取り付けてもよい。この場合には、気体排出経路31を介してイオン発生室5に気体を導入し、所定の時間が経過した後にイオン発生室5から気体を吸引して、イオン収集手段51によってイオンの量を測定することにより、測定対象物1の放射能を求めることもできる。
【0035】
このように本実施の形態によれば、測定対象物の大きさが変化しても、α線によるイオン対を効率よく生成させ、また、宇宙線やβ線、γ線によるイオン対の生成を抑制することもできるため、測定精度が向上する。
【0036】
[第2の実施の形態]
図4は、本発明に係る第2の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。なお、図4は、この放射能測定装置によって測定対象物1の放射能を測定するときの状態を示している。
【0037】
本実施の形態の放射能測定装置は、第1の実施の形態の放射能測定装置の中空部材の内部に中空空間保持手段10を導入したものである。
【0038】
中空空間保持手段10は、中空部材2の内部のイオン発生室5の空間領域を保持するための、たとえばリング状のものである。この中空空間保持手段10によって、中空部材2はつぶれることがない。このため、測定対象物1から放出される放射線は、イオン発生室5の内部の空間を所定の長さ以上に横切ることとなる。なお、図4において、中空空間保持手段10は、5個のリングで構成されているが、5個に限定されるものではなく、中空部材2の大きさなどに応じて、適宜増減してもよい。
【0039】
本実施の形態によれば、本装置は中空部材の中空空間の間隔を保持する手段を備えているので、空間の長さを一定に保つことができ、イオン発生室5の形状の変動による生成するイオンの変動を減少することができる。このため、測定対象物の大きさが変化しても、精度よくイオン収集し、放射能の測定精度が向上する。
【0040】
[第3の実施の形態]
図5は、本発明に係る第3の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【0041】
本実施の形態の放射能測定装置は、3層のイオン発生室7,8,9を有する3層中空部材6を有している。3層のイオン発生室7,8,9は、測定対象物1と最も近い側から一層目のイオン発生室7、2層目のイオン発生室8、および、3層目のイオン発生室9をと呼ぶ。
【0042】
1層目ないし3層目のイオン発生室は、それぞれ、気体導入経路32,33,34を介して気体輸送手段62,63,64に接続されている。また、1層目ないし3層目のイオン発生室は、それぞれ、気体排出経路42,43,44を介してイオン収集手段52,53,54に接続されている。
【0043】
測定対象物1からのα線、β線およびγ線の3種の放射線をそれぞれ独立して、測定する場合には、たとえば、1層目および2層目のイオン発生室7,8の間の仕切りの厚さを変化させることによって、1層目のイオン発生室7と2層目のイオン発生室8の間を、β線およびγ線は透過し、α線が透過しないようにする。また、たとえば、2層目および3層目のイオン発生室8,9の間の仕切りの厚さを変化させることによって、2層目のイオン発生室8と3層目のイオン発生室9の間は、γ線は透過し、β線は透過しないようにする。
【0044】
このような放射能測定装置では、1層目のイオン発生室7ではα線、β線、γ線の電離作用によってイオンが生じ、2層目のイオン発生室8ではα線を除くβ線とγ線よる電離作用によってイオンが生じ、3層目のイオン発生室9では、γ線による電離作用によってイオンが生じる。
【0045】
3層目のイオン発生室9で発生したイオンの量を測定することにより、測定対象物1のγ線の放射能を求めることができる。また、2層目のイオン発生室8で発生したイオンの量を測定し、測定対象物1のγ線の放射能の影響を減ずることにより、測定対象物1のβ線の放射能を求めることができる。さらに、1層目のイオン発生室7で発生したイオンの量を測定し、測定対象物1のβ線およびγ線の放射能の影響を減ずることにより、測定対象物1のα線の放射能を求めることができる。測定対象物1のα線、β線およびγ線の放射能から、総放射能を求めることができる。
【0046】
なお、第1の実施の形態の中空部材を3つ重ねて3層中空部材6と置き換えてもよい。3つを重ねた中空部材2を用いる場合には、たとえば内側は小さい中空部材、外側には大きい中空部材など、大きさの異なる中空部材を用いると、曲げた状態などを作りやすい。また、あらかじめ包む順番を番号や色として明記しておくことで誤使用が防止できる。
【0047】
本実施の形態によれば、イオン発生室を3層に分離することで、放射線によって生成されたイオン対の中からα線、β線、γ線によって生成されたイオン対をそれぞれ求めることができ、測定対象物のα線、β線およびγ線のそれぞれの放射能を求めることができる。
【0048】
なお、ここでは、放射線の種類はα線、β線およびγ線を例として説明したが、エネルギーが異なるγ線を別々に測定することなども可能である。また、本実施の形態の放射能測定装置は、3つのイオン発生室を有しているが、測定対象の放射線に応じて、適宜増減してもよい。
【0049】
このように、測定対象物の大きさが変化しても、放射線の種類ごとの放射能を精度よく測定できる。
【0050】
[第4の実施の形態]
図6は、本発明に係る第4の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【0051】
本実施の形態の放射能測定装置は、気体の流入口71および排出口72を備えた測定室11を有している。流入口71には気体浄化手段13が取り付けられている。また、排出口72には、気体輸送経路14を介して気体輸送手段15が取り付けられている。気体輸送手段15にも気体浄化手段13が取り付けられている。
【0052】
測定室11の内部の気体は、気体輸送手段15によって外部に排出される。また、これに伴って、流入口71から外部の気体が測定室11に流入する。測定室11に流入する気体中に含まれるイオンは、流入口71に取り付けられた気体浄化手段13によって捕捉され、測定室11への流入が抑制される。また、測定室11から排出される気体に含まれる汚染物質などは、気体輸送手段15に取り付けられた気体浄化手段13によって除去されて、測定室11の外部への汚染物質の拡散が抑制される。
【0053】
また、この放射能測定装置は、測定室11の内部に、気体吸引口16を有している。気体吸引口16は、気体吸引口移動手段19によって、測定室11の内部に配置された測定対象物1の表面に沿って移動できるようになっている。また、気体吸引口16は、自在気体経路18、および、測定室11に固定された気体経路17を介してイオン収集手段4に接続されている。自在気体経路18は、気体吸引口16の位置の移動に伴って自由に経路を変化できるものであって、たとえばフレキシブルチューブである。
【0054】
イオン収集手段4には、気体輸送手段15が取り付けられていて、気体吸引口16から気体を吸引し、イオン収集手段4に輸送できるようになっている。また、イオン収集手段4には、その電極に電圧を印加する電源20と、収集したイオンを電流として測定する電流測定手段21が接続されている。電流測定手段21は、たとえばエレクトロメータである。電流測定手段21には、測定した電流から測定対象物1の放射能を算出するデータ処理手段22が接続されている。
【0055】
測定対象物1から放出される放射線の電離作用により生成された測定室11の内部のイオンは、イオン収集手段4の内部の電界によって収集される。
【0056】
測定室11の内部の気体は、大気中に存在する自然放射性物質のラドンや、宇宙線などにより電離され、イオンが生成される。このため、測定室11の内部には、測定対象物1から放出される放射線によって生成されたイオンのほかに、ラドンや宇宙線によって生成されたイオンが存在する。
【0057】
しかし、この放射線測定装置では、測定室11の内部の気体は気体輸送手段15によって、測定室11の外に排出されている。また、測定室11の外部から、気体浄化手段13によりイオンが除かれた気体が測定室11の内部に供給されている。このため、宇宙線やラドンにより生成した、測定精度に悪影響を及ぼすイオンの大部分は、イオン収集手段4を経ないで測定室11の外に輸送される。このため、これらのイオンがイオン収集手段に到達する量は少ない。
【0058】
一方、気体吸引口16の近傍では、気体吸引口16の近傍の測定対象物1から放出される放射線によって、気体が電離されイオンが生成している。そこで、気体吸引口16を測定対象物1の測定すべき位置に移動し、その近傍の気体を吸引し、自在気体経路18を経てイオン収集手段4でイオンを収集し、電流測定収集手段21で電流として測定する。
【0059】
データ処理手段22には、前もって定めた電流値から放射能への換算定数を格納しておき、この換算定数と測定した電流値から、測定すべき位置の放射能を求めることができる。そして、前もって求めた測定対象がない状態での電流値を減算すれば、正味の放射能を求めることができる。
【0060】
このように、本実施の形態の放射能測定装置は、測定対象物の大きさが変化しても、宇宙線や自然界に存在するラドンによって発生するイオンの影響を低減して、測定対象物1の放射能を精度よく測定することができる。
【0061】
また、複数の気体吸引口16を、測定対象物1の表面全体にわたって配置して、それぞれの位置の気体を吸引して電流を測定するようにしてもよい。この場合、これらの結果から、測定対象物1のそれぞれの位置の放射能を測定し、積算して測定対象物1の全放射能をもとめることができる。
【0062】
また、測定対象物1が気体吸引口16に比べて小さい場合には、気体吸引口16を移動させることなく、測定対象物1の全放射能を測定することができる。
【0063】
気体吸引口16を移動する代わりに、測定対象物1を3次元に自由に移動できる3次元移動手段を測定室11の内部に配置してもよい。この3次元移動手段により、測定対象物1の測定すべき位置を気体吸引口16の近傍に移動して、測定すべき位置の放射能を求めてもよい。
【0064】
[第5の実施の形態]
図7は、本発明に係る第5の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【0065】
本実施の形態の放射能測定装置は、気体の流入口71および排出口72を備えた測定室11を有している。流入口71には気体浄化手段13が取り付けられている。また、排出口72には、イオン収集手段4が取り付けられている。イオン収集手段4には、気体輸送経路14を介して気体輸送手段15が取り付けられている。気体輸送手段15にも気体浄化手段13が取り付けられている。
【0066】
測定室11の内部の気体は、気体輸送手段15によって外部に排出される。また、これに伴って、流入口71から外部の気体が測定室11に流入する。測定室11に流入する気体中に含まれるイオンは、流入口71に取り付けられた気体浄化手段13によって捕捉され、測定室11への流入が抑制される。また、測定室11から排出される気体に含まれる汚染物質などは、気体輸送手段15に取り付けられた気体浄化手段13によって除去されて、測定室11の外部への汚染物質の拡散が抑制される。
【0067】
イオン収集手段4には、その電極に電圧を印加する電源20と、収集したイオンを電流として測定する電流測定手段21が接続されている。電流測定手段21には、測定した電流から測定対象物1の放射能を算出するデータ処理手段22が接続されている。
【0068】
測定対象物1から放出される放射線の電離作用により生成された測定室11の内部のイオンは、イオン収集手段4によって収集され、その量が計測される。
【0069】
測定室11の内部には、測定対象物1から放出される放射線を遮蔽する遮蔽手段23が配設されている。この遮蔽手段23は、遮蔽移動手段24に取り付けられていて、測定対象物1の全範囲にわたって移動できるようになっている。
【0070】
放射線遮蔽手段23を測定対象物1から離れた位置に配置し、測定対象物1から放出される放射線を遮蔽しない状態で、イオン収集手段4で収集したイオンの電流値に基づいて求めた放射能は、測定対象物1の全体の放射能になる。ここで、算出された放射能は、バックグラウンド電流の影響も含まれる。
【0071】
放射線遮蔽手段23を測定対象物1の近傍に配置して、測定対象物1から放出される放射線の一部を遮蔽した状態で、イオン収集手段4で収集したイオンを測定した電流値に基づいて求めた放射能は、放射線遮蔽手段23によって放射線が遮蔽された領域以外の測定対象物1の放射能になる。ここで、算出された放射能は、バックグラウンド電流の影響も含まれる。
【0072】
そこで、測定対象物1の全体の放射能から、放射線遮蔽手段23によって放射線が遮蔽された領域以外の測定対象物1の放射能を減ずることにより、放射線遮蔽手段23によって放射線が遮蔽された領域における放射能を求めることができる。この放射能は、バックグラウンド電流の影響が排除されたものになり、放射能の測定精度が向上する。
【0073】
同様に、放射線遮蔽手段23によって放射線を遮蔽する領域を、測定対象物1の全体にわたって移動させて、それぞれの領域の放射能を求めることができる。このようにして、測定対象物1の放射能分布を求めることができる。また、それぞれの領域の放射能の和を取ることによって、測定対象物1の全体の放射能を求めることもできる。
【0074】
このように、本実施の形態の放射能測定装置は、測定対象物の大きさが変化しても、精度よく放射能を求めることができる。
【0075】
[第6の実施の形態]
図8は、本発明に係る第6の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【0076】
本実施の形態の放射能測定装置は、配管などのような、貫通部25を備えた測定対象物1の放射能を測定するものである。
【0077】
この放射能測定装置は、測定対象物1の貫通部25の一方の開口82を覆う気体経路81を有している。この気体経路81には、気体浄化手段13が取り付けられていて、気体浄化手段13を通過した気体のみが、貫通部25に流入するようになっている。
【0078】
また、この放射能測定装置は、測定対象物1の貫通部25の他方の開口83に接続されたイオン収集装置4を有している。イオン収集装置4には、気体輸送経路14を介して気体輸送手段15が接続されている。気体輸送手段15にも、気体浄化手段13が取り付けられている。
【0079】
イオン収集手段4には、その電極に電圧を印加する電源20と、収集したイオンを電流として測定する電流測定手段21が接続されている。電流測定手段21には、測定した電流から測定対象物1の放射能を算出するデータ処理手段22が接続されている。
【0080】
測定対象物1から放出される放射線の電離作用により貫通部25で発生したイオンは、イオン収集手段4によって収集される。イオン収集手段4で収集したイオンを測定した電流値に基づいて、測定対象物1の放射能が求められる。
【0081】
このような放射能測定装置では、気体浄化手段13が帯電した浄化手段の場合でも、測定対象物1と気体浄化手段13の間には気体経路81が設けられているので、貫通部25は気体浄化手段13から気体経路81の長さ程度離れている。このように貫通部25が気体浄化手段13から離れているため、貫通部25で生成されたイオンが受ける気体浄化手段13の電場の影響が小さく、精度よくイオンを収集することができる。このため、放射能の測定精度が向上する。
【0082】
このように、本実施の形態の放射能測定装置は、測定対象物の内部でイオンを発生させるために、測定対象物の大きさが変化しても、精度よく放射能を求めることができる。
【0083】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の各実施の形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の放射能測定装置による測定対象物の放射能を測定する際の断面図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態の放射能測定装置による凹部を有する測定対象物の放射能を測定する際の断面図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図5】本発明に係る第3の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図6】本発明に係る第4の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図7】本発明に係る第5の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【図8】本発明に係る第6の実施の形態の放射能測定装置の断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1…測定対象、2,6…中空部材、5,7,8,9…イオン発生室、7…1層目のイオン発生室、8…2層目のイオン発生室、9…3層目のイオン発生室、10…中空空間保持手段、11…測定室、13…気体浄化手段、14…気体輸送経路、15…気体輸送手段、16…気体吸引口、17…気体経路、18…自在気体経路、19…気体吸引口移動手段、20…電源、21…電流測定手段、22…データ処理手段、23…遮蔽手段、24…遮蔽移動手段、31,32,33,34…気体導入経路、41,42,43,44…気体排出経路、51,52,53,54…イオン収集手段、61,62,63,64…気体輸送手段、81…気体経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置において、
前記測定対象物の表面に沿って変形して前記測定対象物の表面の少なくとも一部に接触する中空の中空部材と、
前記中空部材の内部に気体を流入させる気体輸送手段と、
前記中空部材の内部の気体が電離して発生したイオンの量を計測するイオン計測手段と、
を有することを特徴とする放射能測定装置。
【請求項2】
前記中空部材の内部を2つ以上の独立した空間に仕切り、前記測定対象物から放出される放射線の一部を透過させない仕切手段を有し、
前記イオン計測手段は、前記中空部材の内部の独立した空間ごとに、発生したイオンの量を計測するものである、
ことを特徴とする請求項1記載の放射能測定装置。
【請求項3】
前記中空部材は、帯電防止処理が施されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の放射能測定装置。
【請求項4】
前記中空部材の内部に配置されて、その中空部材の中空の領域がつぶれないように保持する中空空間保持手段を有する請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の放射能測定装置。
【請求項5】
測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置において、
気体が流入する流入口および気体が流出する排出口を備えた、前記測定対象物を収納する測定室と、
前記流入口から前記測定室に気体を流入させ、その気体を前記排出口から排出する気体輸送手段と、
前記測定室の内部に配置され、前記測定対象物の近傍の気体を吸引できる気体吸引口と、
前記気体吸引口から吸引された気体に含まれるイオンの量を計測するイオン計測手段と、
を有することを特徴とする放射能測定装置。
【請求項6】
前記気体吸引口を前記測定対象物の表面に沿って移動させる気体吸引口移動手段を有することを特徴とする請求項5記載の放射能測定装置。
【請求項7】
前記測定室の内部で、前記測定対象物を移動させる測定対象物移動手段を有することを特徴とする請求項5記載の放射能測定装置。
【請求項8】
前記流入口から流入する気体に含まれるイオンを捕捉するイオン補足手段を有することを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか1項記載の放射能測定装置。
【請求項9】
測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置において、
気体が流入する流入口および気体が流出する排出口を備えた、前記測定対象物を収納する測定室と、
前記流入口から前記測定室に気体を流入させ、その気体を前記排出口から排出する気体輸送手段と、
前記測定室の内部の気体が電離して発生したイオンの量を計測するイオン計測手段と、
前記測定対象物の一部の表面から放出される放射線を遮る遮蔽手段と、
前記遮蔽手段を前記測定対象物の表面に沿って移動させる遮蔽移動手段と、
を有することを特徴とする放射能測定装置。
【請求項10】
複数の位置に前記遮蔽手段が配置されたときの、それぞれの前記遮蔽手段の位置に対応する前記イオン計測手段で計測されたイオンの量に基づいて、前記測定対象物の放射能分布を算出するデータ処理手段、を有することを特徴とする請求項9記載の放射能測定装置。
【請求項11】
貫通部を備えた測定対象物の放射能を測定する放射能測定装置において、
前記貫通部の開口である流入口から気体を流入させ、その気体をその貫通部の他の開口である排出口から排出する気体輸送手段と、
気体が通過可能で、その気体に含まれるイオンの少なくとも一部を除去する気体浄化手段と、
前記気体浄化手段を通過した気体のみが前記流入口に到達するように仕切り、その気体浄化手段とその流入口とが所定の距離以上離れるように保持する気体経路と、
前記排出口から排出される気体に含まれるイオンの量を計測するイオン計測手段と、
を有することを特徴とする放射能測定装置。
【請求項12】
測定対象物の放射能を測定する放射能測定方法において、
中空の中空部材を、前記測定対象物の表面に沿って変形させて前記測定対象物の表面の少なくとも一部に接触させる工程と、
前記中空部材の内部に気体を流入させる工程と、
前記中空部材の内部の気体が電離して発生したイオンの量を計測する工程と、
を有することを特徴とする放射能測定方法。
【請求項13】
測定対象物の放射能を測定する放射能測定方法において、
前記測定対象物を収納する測定室に気体を流入させ、その気体をその測定室から排出する工程と、
前記測定室の内部で、前記測定対象物の近傍の気体を吸引する工程と、
前記測定対象物の近傍で吸引された気体に含まれるイオンの量を計測する工程と、
を有することを特徴とする放射能測定方法。
【請求項14】
測定対象物の放射能を測定する放射能測定方法において、
前記測定対象物を収納する測定室に気体を流入させ、その気体をその測定室から排出する工程と、
前記測定室の内部の気体が電離して発生したイオンの量を計測する工程と、
前記測定対象物の一部の表面から放出される放射線を遮る工程と、
前記測定対象物の表面から放出される放射線を遮る位置を、その測定対象物の表面に沿って移動させる工程と、
を有することを特徴とする放射能測定方法。
【請求項15】
貫通部を備えた測定対象物の放射能を測定する放射能測定方法において、
前記貫通部の開口である流入口から所定の距離以上はなれた位置で、気体に含まれるイオンの少なくとも一部を除去するイオン除去工程と、
イオン除去工程でイオンの少なくとも一部が除去された気体を、前記貫通部の開口である流入口から気体を流入させ、その気体をその貫通部の他の開口である排出口から排出する工程と、
前記排出口から排出される気体に含まれるイオンの量を計測する工程と、
を有することを特徴とする放射能測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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