説明

放散構造

【課題】採光機能や換気機能を有する放散用の開口を設けた建物の放散構造について提案する。
【解決手段】建物内部での爆発発生時に、爆発の圧を建物外部へ放散するための放散構造として、建物の壁に形成した放散用開口10に開口枠15を設け、該開口枠15の左右一側に固定窓11を設けるとともに、左右他側に外開き窓12を設け、固定窓及び外開き窓より室内側に形成したレール14を摺動可能な引き戸13を設けた。固定窓11及び引き戸13の面材を透明板状材であって爆発の圧を受けて破れる樹脂素材で構成し、外開き窓12の面材を透明板状材であって爆発の圧を受けても破れることのない素材で構成した。また、外開き窓12の窓障子12aを内窓枠20に磁力を利用した係止部材24・25にて係止させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス等の爆発性ガスを扱う施設等の建物における爆発時の爆風を放散させる放散構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、爆発事故が発生する可能性のある建物の構造的な爆発対策として、建物の壁面等に他の部分と比して強度の著しく低い部材を設け、爆風で強度の低い部材を破壊して爆発の圧力を建物外部に拡散させ、爆発の威力を低減させる建物の構造が知られている。
例えば、屋根材に強度の低い材質ものを用いて屋根壁を形成し、爆風にて屋根壁を破壊するものや、一部の壁材に強度の低い材質のものを用いて、爆風にて壁を破壊するもの等がある。
【0003】
これらの爆発対策は、その建物において爆発事故が発生する頻度が低いことを前提としており、爆発事故後に容易に建物を復旧できるような構造とはされていない。すなわち、爆発事故が発生したのち、多大な費用と時間を費やして建物の修復を行わねばならなかった。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の技術では、建物に放散用の開口を設け、該開口にドア枠を備えて、ヒンジを介して建物の外側に開閉するドアを設け、ドアをフランス落としにてドア枠に固定するようにしている。この構成では、爆発発生時にドアが爆風を受けると、フランス落としのロッドが折れ、ドアが建物の外側に向かって開いて、放散用の開口を開放して爆発の圧力を逃すようにしている。よって、爆発発生後に、フランス落としのロッドを交換すれば修復が済み、簡易且つ安価に建物を修復させることができる。
【特許文献1】特開平11−280281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の技術では、外壁面積が小さい建物に適用させる場合には、通常はドアにより塞がれる放散用の開口を優先的に設置すれば、採光や換気のための窓を十分に確保することが難しいという課題がある。
これは、放散用の開口に備えられているドアは、透明な素材でできていたり、或いは、換気のための開閉機構を備えていたりするものでないことに因る。すなわち、放散用の開口に、採光機能や換気機能を備えることによって、上記課題の解決を図ることができる。そこで、本発明では、採光機能や換気機能を有する放散用の開口を設けた建物の放散構造について提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、建物内部での爆発発生時に、爆発の圧を建物外部へ放散するための放散構造において、建物の壁に形成した放散用開口に開口枠を設け、該開口枠に固定窓と外開き窓とを設け、該開口枠において固定窓及び外開き窓より室内側に引き戸を摺動可能に設けるものである。
【0008】
請求項2においては、前記固定窓及び引き戸の面材を、透明板状材であって爆発の圧を受けて破れる樹脂素材で構成し、前記外開き窓を、開閉可能な透明板状材であって、爆発の圧を受けると外側へ向って開く窓障子で構成するものである。
【0009】
請求項3においては、前記外開き窓の窓障子の閉じた状態を磁力にて保持させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、建物内部において爆発が発生したときには、外開き窓が開いて開口を形成して、放散用開口を開口することができる。そして、外開き窓を開くことによって放散用開口に換気機能を備えることができる。また、引き戸を外開き窓に重複するように移動させれば、台風等の強風時に外開き窓が開いても室内への風雨の侵入を防止することができる。
【0012】
請求項2においては、放散用開口に採光機能を備えることができる。建物内部において爆発が発生したときには、固定窓及び引き戸が破れて開口を形成し、外開き窓が開いて開口を形成して、放散用開口を開口することができる。また、外開き窓を開いて換気を行うこともできる。
【0013】
請求項3においては、爆発が発生しない通常時には窓障子が閉じた状態を保持しつつ、外開き窓の窓障子が爆風による圧を受けると容易に係合部材の係合が外れて、外開き窓を開くことができる。また、磁力を利用したものとすることで、爆風による圧を受けて係合が解除される係合部材を簡易に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施例に係る放散構造を備えた開口の構成を示す平面図、図2(a)(b)は放散構造を備えた開口の構成の別形態を示す平面図、図3は放散構造を備えた開口を室内側から見た図、図4は放散構造を備えた開口を室内側から見た図、図5は外開き窓の構成を示す側面断面図、図6は片引き戸と固定窓と外開き窓との位置関係を説明する図である。
【0015】
水素ガス等の爆発性ガスを扱う施設における爆発時の爆風を放散させる放散窓構造の改良に関する。
本発明に係る放散構造では、建物の壁に、爆発発生時に爆風を建物外部へ放散させる放散用開口を設け、該放散用開口に、爆風を受けて外開きする放散用窓と、爆風を受けて破れる放散用窓とを備えることを特徴とする。
【0016】
建物の外壁部分には放散用開口10が設けられ、該放散用開口10に開口枠15が嵌設されている。
放散用開口10の、左右方向一側には固定窓(嵌め殺し窓)11が設けられ、左右方向他側には外開き窓12が設けられる。そして、固定窓11と外開き窓12との内側に、片引き戸13が設けられる。固定窓11と外開き窓12は、放散用窓として形成されている。
なお、本実施例において、固定窓11と外開き窓12とは左右に配置されているが、上下に配置することもできる。
【0017】
固定窓11と外開き窓12とは、同一直線上に配置することも、また、複数列に平行に配置することもできる。
前者の場合、図1に示す如く、放散用開口10に設けられた開口枠15において、屋外側に固定窓11と外開き窓12とが左右に配置され、室内側に片引き戸13が設けられる。開口枠15には、片引き戸13が摺動するレール14が形成され、片引き戸13はこのレール14上を摺動自在とされる。
また、後者の場合、図2(a)(b)に示す如く、放散用開口10に設けられた開口枠15において、室内側に片引き戸13が設けられ、該片引き戸13の屋外側に、固定窓11と外開き窓12とがそれぞれ設けられる。この場合、図2(a)に示す如く、固定窓11を屋外側、外開き窓12を室内側とすることも、図2(b)に示す如く、外開き窓12を屋外側、固定窓11を室内側とすることもできる。そして、開口枠15には上下にレール14が形成され、片引き戸13はこのレール14上を摺動自在とされる。
【0018】
図3及び図4にも示す如く、前記固定窓11は、放散用開口10内左右方向一側において設けられている。固定窓11の障子枠26は放散用開口10に設けられた開口枠15に固定されており、該障子枠26に面材として透明板27が嵌設されている。
【0019】
前記外開き窓12は、図5にも示す如く、放散用開口10内における上記固定窓11の左右反対側において、上下方向に二つ設けられている。放散用開口10は、固定窓11と外開き窓12とで、その全開口面積を閉塞することができる。
放散用開口10に設けられた開口枠15内に、上下方向に二つの開口を形成する窓内枠20が形成されており、該窓内枠20には、二枚の窓障子12a・12aが外開き可能に嵌設される。
各外開き窓12の窓障子12aは、障子枠21と、該障子枠21に嵌められた面材としての透明板22とで構成される。障子枠21の上框が窓内枠20の上辺にヒンジ23・23を介して枢支されており、これにより、窓障子12aはその上框を軸として建物の外側に向かって開くことができる。
【0020】
また、外開き窓12の窓障子12aを構成する障子枠21の下框と、窓内枠20の下辺にはそれぞれ係止部材24・25が設けられており、該係止部材24・25によって、窓内枠20の下辺に窓障子12aの下框が係止される。
なお、係止部材24・25は磁着式部材にて構成される。例えば、係止部材24・25の一方が磁石にて、他方が鉄板等の吸磁部材にて構成される。また、係止部材24・25の両方を磁石にて構成することも可能である。
係止部材24・25を、磁力を利用したものとすることで、爆風による圧を受けて係合が解除される係合部材を複雑な構造のものとすることなく、簡易且つ安価に製造することができる。
【0021】
そして、前記外開き窓12の窓障子12aを構成する透明板22は、アクリル板としたり、強化ガラス板としたり、合わせガラスとしたりすることができる。すなわち、透明板として、爆発が発生したときにその爆風の圧を受けても破れることのない強度を有するものが採用される。
【0022】
上述の如く、上框がヒンジ23にて支承され、下框が係止部材24・25で係止された、外開き窓12の窓障子12aは、建物の内部で爆発が発生したときにその爆風の圧を受けると、係止部材24・25による係止が解除され、窓障子12aは建物の外側に向かって開く。
【0023】
前記片引き戸13は、放散用開口10に設けられた開口枠15に形成されたレール14上に嵌め込まれている。レール14は開口枠15の左右幅に亘って形成されており、また、片引き戸13と外開き窓12の左右幅は略等しい大きさとされている。
前記片引き戸13は、戸枠28と、該戸枠28に嵌められた面材としての透明板29とで構成される。
そして、レール14上を摺動する片引き戸13は、固定窓11と重なった状態から、外開き窓12が重なった状態まで移動することができる。従って、外開き窓12の室内側に、片引き戸13を移動させれば、ちょうど、これらを重ね合わせることができる。
【0024】
前記固定窓11の窓障子11aを構成する透明板27と、片引き戸13を構成する透明板29は、いずれも樹脂製であって、透過性を有する材料で構成されている。透明板27・29は、風圧程度の圧によっては破れることなく、爆風程度の圧を受けて破れる強度を備えた樹脂材料が採用される。
なお、透明板27・29の材料として樹脂を採用することによって、爆発が発生して固定窓11の窓障子11aや、片引き戸13が破れたときに、飛散する破片の軽量化を図るようにしている。
【0025】
上述の放散用開口10において、図1及び図3示す如く、固定窓11と片引き戸13とを重ね合わせた状態とすると、放散用開口10の片側には外開き窓12、他側には、固定窓11と片引き戸13とが存在することになる。
このとき、外開き窓12を開いて、放散用開口10を通じて建物内外の通気を行うことができる。
そして、建物内で爆発が発生すると、固定窓11の窓障子11a及び片引き戸13はその爆風の圧を受けて破れ、その結果、開口を形成し爆発の圧を建物外部へ放散させる。また、外開き窓12は、爆風の圧を受けて建物外側へ開き、開口を形成し爆発の圧を建物外部へ放散させる。
【0026】
また、図4及び図6(a)に示す如く、固定窓11と片引き戸13とを重ね合わせた状態から、片引き戸13をレール14を摺動させて移動し、図6(b)に示す如く、外開き窓12と片引き戸13とを重ね合わせた状態とすると、放散用開口10の片側には外開き窓12と片引き戸13、他側には固定窓11が存在することになる。
この場合、台風のように、爆風よりも弱いが外開き窓12を開閉させる可能性のある非常事態となったときに、例え外開き窓12の係止部材24・25の係止が外れて窓が開いても、該外開き窓12の室内側に片引き戸13が存在するので、建物内部への風雨の侵入を防止することができる。
【0027】
上述の放散用開口10に形成される固定窓11、外開き窓12、片引き戸13はいずれもその大部分の面積に透明部材が採用されて、光を透過することができ、放散用開口10からの採光を確保することができる。しかも、建物内部で爆発等が発生したときには、固定窓11と片引き戸13は破れて放散用窓として機能し、外開き窓12は開いて放散用窓として機能して、爆発の圧を外部へ放散する放散用開口10を形成することができる。
【0028】
また、放散用開口10に形成される外開き窓12は、開閉可能であり、窓を開くことによって、放散用開口10を通じて建物内外の通気・換気を行うことができる。もちろん、外開き窓12を開いた状態においても、該外開き窓12は建物内部で爆発等が発生したときには放散用窓として機能し、爆発の圧を外部へ放散する放散用開口10を形成することができる。
【0029】
このように、放散用開口10を、不透明な板状部材で閉塞するのではなく、窓に近い形態のものとし、開口を閉塞するために透明の部材を採用し、且つ、開閉可能な構造とすることで、放散用開口10に採光機能や換気機能を備えている。
【0030】
なお、開口枠15にレールを形成して、固定窓11の窓障子11aを該レール上を摺動可能に設け、引き戸のように形成することもできる。
また、開口枠15にレールを形成して、外開き窓12の窓内枠20を該レール上を摺動可能に設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例に係る放散構造を備えた開口の構成を示す平面図。
【図2】放散構造を備えた開口の構成の別形態を示す平面図。
【図3】放散構造を備えた開口を室内側から見た図。
【図4】放散構造を備えた開口を室内側から見た図。
【図5】外開き窓の構成を示す側面断面図。
【図6】片引き戸と固定窓と外開き窓との位置関係を説明する図。
【符号の説明】
【0032】
10 放散用開口
11 固定窓
12 外開き窓
13 片引き戸
14 レール
15 開口枠
24・25 係止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内部での爆発発生時に、爆発の圧を建物外部へ放散するための放散構造において、
建物の壁に形成した放散用開口に開口枠を設け、
該開口枠に固定窓と外開き窓とを設け、
該開口枠において固定窓及び外開き窓より室内側に引き戸を摺動可能に設ける、
ことを特徴とする放散構造。
【請求項2】
前記固定窓及び引き戸の面材を、透明板状材であって爆発の圧を受けて破れる樹脂素材で構成し、
前記外開き窓を、開閉可能な透明板状材であって、爆発の圧を受けると外側へ向って開く窓障子で構成する、
請求項1に記載の放散構造。
【請求項3】
前記外開き窓の窓障子の閉じた状態を磁力にて保持させる、
請求項1又は請求項2に記載の放散構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−45866(P2006−45866A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227243(P2004−227243)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】