説明

放熱性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形品

【課題】放熱性に優れ、且つ、成形加工性及び耐衝撃性のバランスに優れ、更には電磁波シールド性にも優れた放熱性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形品を提供する。
【解決手段】本発明の放熱性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(ABS・PC等)、及び、外径15〜100nmの炭素繊維部と、多数本の該炭素繊維部を接合する接合部とを備え、3次元ネットワーク構造を有する炭素繊維構造体、を含有し、炭素繊維構造体の含有量は、熱可塑性樹脂を100質量部とした場合に、1〜80質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と、特定の構造を有する炭素繊維構造体とを含有する放熱性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形品に関し、更に詳しくは、放熱性に優れ、且つ、成形加工性及び耐衝撃性のバランスに優れ、更には電磁波シールド性にも優れた放熱性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI等の半導体素子の集積密度増大と高速化、そして電子部品の高密度実装化に伴い、これら半導体素子や電子部品等からの発熱が増大し、その放熱対策が大きな課題となっている。また、例えば、携帯電話やモバイルパソコン等のように、製品の小型軽量化及び形状の複雑化が進んでおり、成形加工性及び耐衝撃性に優れた成形材料が求められている。更に、周辺機器への電波障害や誤動作を誘発する恐れのある電子部品から発生する電磁波の対策も大きな課題となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、PBT、PEEK等の熱可塑性樹脂と、窒化アルミニウム等の無機繊維及び無機粉末とを含む高熱伝導性樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、特定のブロック共重合体又は水素添加ブロック共重合体と、ゴム用軟化剤と、水酸化マグネシウム等の熱伝導材とを含む樹脂組成物が開示されている。更に、特許文献3には、マトリックス樹脂に、窒化アルミニウム焼結体粉末等からなるフィラーが分散するとともに、融点が500℃以下の低融点金属又は共晶合金によって網目状に形成された金属網を介して、上記フィラーが相互に連続的に溶着されてなる高熱伝導性複合体が開示されている。
【0004】
また、他の熱伝導性を付与する材料として、炭素系フィラーが提案されている。炭素系フィラーの配合により高い熱伝導率を得るためには、フィラーの微細化、アスペクト比の増加、比表面積の増加等が有効であることが明らかになっている。例えば、繊維状フィラーの繊維径を小さくして比表面積を大きくした炭素繊維(特許文献4)、比表面積の非常に大きなカーボンブラックやカーボンナノチューブ(中空炭素フィブリル)等が知られている。
【0005】
更に、特許文献5には、複合材料用フィラーとして好ましい特性を有し、少ない添加量で、マトリックス樹脂の特性を損なわずに電気的特性、機械的特性、熱的特性等の物理特性を改善できる新規な炭素繊維構造体を含む複合材料が開示されている。
【0006】
しかしながら、金属繊維や金属粉末、無機繊維や無機粉末等を含有する樹脂組成物は、成形加工性及び耐衝撃性が不十分となる場合があった。また、環境安定性が不十分となる場合もあり、製品の腐食の原因となる可能性があった。更に、成形機等に対する電気的障害、摺動性の悪化や、成形機のスクリューを摩耗させる等の原因となる恐れがあった。
また、炭素系フィラーを配合する樹脂組成物の熱伝導率を高くするために、マトリックス樹脂に対する炭素系フィラーの配合割合を高くすると、炭素系フィラーの小さな嵩密度と強い凝集力により、樹脂中に均一に分散させることが困難になり、成形加工性、耐衝撃性及び表面外観が低下する恐れがあった。
一方、特許文献5の樹脂組成物は、特定の構造を有する炭素繊維構造体を配合することにより、マトリックス樹脂に対して少ない配合量で高い熱伝導率を得ることを可能にしている。しかしながら、成形加工性及び耐衝撃性のバランスが十分ではなく、その使用範囲が限定されていた。
【0007】
【特許文献1】特開平8−283456号公報
【特許文献2】特開2001−106865号公報
【特許文献3】特開平6−196884号公報
【特許文献4】特開平8−27279号公報
【特許文献5】特開2006−265315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、放熱性に優れ、且つ、成形加工性及び耐衝撃性のバランスに優れ、更には電磁波シールド性にも優れた放熱性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂と、特定の構造を有する炭素繊維構造体とを配合することにより、放熱性に優れ、且つ、成形加工性及び耐衝撃性のバランスに優れ、更には電磁波シールド性にも優れた放熱性樹脂組成物及びその製造方法並びに成形品を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下に示される。
1.〔A〕熱可塑性樹脂、及び、〔B〕外径15〜100nmの炭素繊維部と、多数本の該炭素繊維部を接合する接合部とを備え、3次元ネットワーク構造を有する炭素繊維構造体、を含有し、上記炭素繊維構造体〔B〕の含有量は、上記熱可塑性樹脂〔A〕を100質量部とした場合に、1〜80質量部であることを特徴とする放熱性樹脂組成物。
2.上記熱可塑性樹脂〔A〕が、ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b1)を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂、又は、該ゴム強化ビニル系樹脂と、ビニル系単量体(b2)の(共)重合体とからなる混合物、であるゴム強化樹脂、及び、ポリカーボネート樹脂を含有し、且つ、該ゴム強化樹脂及び該ポリカーボネート樹脂の含有割合が、これらの含有量の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜80質量%及び80〜20質量%である上記1に記載の放熱性樹脂組成物。
3.上記ポリカーボネート樹脂50〜95質量%及び上記炭素繊維構造体〔B〕50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)からなる混合物又は混練物と、上記ゴム強化樹脂とが溶融混練されてなり、上記ポリカーボネート樹脂及び上記ゴム強化樹脂の合計を100質量部とした場合に、上記炭素繊維構造体〔B〕の含有量が1〜80質量部である上記2に記載の放熱性樹脂組成物。
4.更に、難燃剤を含有し、該難燃剤の含有量が、上記熱可塑性樹脂〔A〕を100質量部とした場合に、1〜30質量部である上記1乃至3のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物。
5.熱伝導率が3W/(m・K)以上である上記1乃至4のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物。
6.シャルピー衝撃強さが5kJ/m以上であり、且つ、メルトマスフローレートが5g/10分以上である上記1乃至5のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物。
7.100MHzの周波数における電磁波シールド性が30dB以上である上記1乃至6のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物。
8.上記1に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法であって、上記熱可塑性樹脂〔A〕の一部と、上記炭素繊維構造体〔B〕の少なくとも一部とを溶融混練する第1混合工程と、上記第1混合工程により得られた混練物と、上記熱可塑性樹脂〔A〕の残部と、上記炭素繊維構造体〔B〕の残部とを、溶融混練する第2混合工程と、を備えることを特徴とする放熱性樹脂組成物の製造方法。
9.上記第1混合工程において、上記炭素繊維構造体〔B〕を全量使用し、上記熱可塑性樹脂〔A〕及び上記炭素繊維構造体〔B〕の使用割合が、それぞれ、50〜95質量%及び50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)であり、且つ、上記第2混合工程において、上記第1混合工程により得られた混練物と、上記熱可塑性樹脂〔A〕の残部と、を溶融混練する上記8に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法。
10.上記2に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法であって、上記ポリカーボネート樹脂と、上記炭素繊維構造体〔B〕の少なくとも一部とを溶融混練する第1混合工程と、上記第1混合工程により得られた混練物と、上記ゴム強化樹脂と、上記炭素繊維構造体〔B〕の残部と、を溶融混練する第2混合工程と、を備えることを特徴とする放熱性樹脂組成物の製造方法。
11.上記第1混合工程において、上記炭素繊維構造体〔B〕を全量使用し、上記ポリカーボネート樹脂及び上記炭素繊維構造体〔B〕の使用割合が、それぞれ、50〜95質量%及び50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)であり、且つ、上記第2混合工程において、上記第1混合工程により得られた混練物と、上記ゴム強化樹脂と、を溶融混練する上記10に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法。
12.上記1乃至7のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の放熱性樹脂組成物によれば、熱可塑性樹脂〔A〕、及び、特定構造を有する炭素繊維構造体〔B〕、を含有することから、放熱性に優れ、且つ、成形加工性及び耐衝撃性のバランスに優れ、更には電磁波シールド性にも優れる。
上記熱可塑性樹脂〔A〕が、ゴム強化樹脂、及び、ポリカーボネート樹脂を含有する場合には、特に、成形加工性、放熱性及び耐衝撃性に優れる。また、これらの樹脂を特定の混練方法に供して製造された放熱性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂〔A〕及び炭素繊維構造体〔B〕の相溶性に優れるため、特に、成形加工性及び放熱性に優れる。
【0012】
本発明の放熱性樹脂組成物の製造方法によれば、放熱性に優れ、且つ、成形加工性及び耐衝撃性のバランスに優れ、更には電磁波シールド性にも優れた放熱性樹脂組成物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0014】
1.放熱性樹脂組成物及びその製造方法
本発明の放熱性樹脂組成物は、〔A〕熱可塑性樹脂(以下、「成分〔A〕」ともいう。)、及び、〔B〕外径15〜100nmの炭素繊維部と、多数本の該炭素繊維部を接合する接合部とを備え、3次元ネットワーク構造を有する炭素繊維構造体(以下、「成分〔B〕」ともいう。)、を含有し、上記成分〔B〕の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合に、1〜80質量部であることを特徴とする。
【0015】
1−1.成分〔A〕
この成分〔A〕は、熱可塑性を有する重合体であれば、特に限定されず、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体等のスチレン系(共)重合体;ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂等のゴム強化樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等の、炭素数2〜10のα−オレフィンの少なくとも1種からなるα−オレフィン(共)重合体並びにその変性重合体(塩素化ポリエチレン等)、環状オレフィン共重合体等のオレフィン系樹脂;アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のエチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体等のアクリル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,12等のポリアミド系樹脂(PA);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール樹脂(POM);ポリカーボネート樹脂(PC);ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂;ウレタン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;ポリビニルブチラール;フェノキシ樹脂;感光性樹脂;生分解性プラスチック等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、ゴム強化樹脂及びポリカーボネート樹脂の組み合わせが好ましい。
【0016】
1−1−1.ゴム強化樹脂
このゴム強化樹脂は、ゴム質重合体(以下、「ゴム質重合体(a)」という。)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b1)を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂(以下、「ゴム強化ビニル系樹脂(A1)」という。)、又は、このゴム強化ビニル系樹脂(A1)と、ビニル系単量体(b2)の(共)重合体(以下、「(共)重合体(A2)」という。)とからなる混合物、である。
【0017】
上記ゴム質重合体(a)は、室温でゴム質であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよいが、ジエン系重合体(ジエン系ゴム質重合体)及び非ジエン系重合体(非ジエン系ゴム質重合体)が好ましい。更に、上記ゴム質重合体(a)は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
上記ジエン系重合体(ジエン系ゴム質重合体)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体ゴム;天然ゴム等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%未満。)されたものであってもよい。上記ジエン系重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
また、上記非ジエン系重合体(非ジエン系ゴム質重合体)としては、エチレン単位と、炭素数3以上のα−オレフィンからなる単位を含むエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム;ウレタン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は50%以上。)されたものであってもよい。上記非ジエン系重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記ゴム質重合体(a)として、ジエン系重合体を用いた場合に得られるゴム強化ビニル系樹脂(A1)は、ジエン系ゴム強化ビニル系樹脂であり、一般に、「ABS樹脂」といわれている。また、上記ゴム質重合体(a)として、エチレン・α−オレフィン及び/又はエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体を用いた場合に得られるゴム強化ビニル系樹脂(A1)は、一般に、「AES樹脂」といわれている。更に、上記ゴム質重合体(a)として、アクリル系ゴムを用いた場合に得られるゴム強化ビニル系樹脂(A1)は、アクリル系ゴム強化ビニル系樹脂であり、一般に、「ASA樹脂」といわれている。
【0021】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いる上記ゴム質重合体(a)の形状は、特に限定されないが、粒子状である場合、その重量平均粒子径は、好ましくは50〜3,000nm、より好ましくは100〜2,000nm、更に好ましくは120〜800nmである。重量平均粒子径が50nm未満であると、本発明の放熱性樹脂組成物及びそれを含む成形品の耐衝撃性が劣る傾向にあり、3,000nmを超えると、成形品の表面外観性が劣る傾向にある。尚、上記重量平均粒子径は、レーザー回折法、光散乱法等により測定することができる。
【0022】
上記ゴム質重合体(a)が粒子状である場合、重量平均粒子径が上記範囲内にある限り、例えば、特開昭61−233010号公報、特開昭59−93701号公報、特開昭56−167704号公報等に記載されている公知の方法により肥大化したものを用いることもできる。
【0023】
上記ゴム質重合体(a)を製造する方法としては、平均粒子径の調整等を考慮し、乳化重合が好ましい。この場合、平均粒子径は、乳化剤の種類及びその使用量、開始剤の種類及びその使用量、重合時間、重合温度、攪拌条件等の製造条件を選択することにより調整することができる。また、上記平均粒子径(粒子径分布)の他の調整方法としては、異なる粒子径を有する上記ゴム質重合体(a)の2種以上をブレンドする方法でもよい。
【0024】
上記ビニル系ゴム質重合体(A1)の形成に用いる上記ビニル系単量体(b1)は、芳香族ビニル化合物を含む。このビニル系単量体(b1)は、芳香族ビニル化合物のみであってよいし、この芳香族ビニル化合物と、例えば、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、酸無水物等の芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物との組合せであってもよい。上記の芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
従って、上記ビニル系単量体(b1)としては、芳香族ビニル化合物の1種以上からなる単量体(x)、又は、芳香族ビニル化合物の1種以上、及び、この芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物の1種以上を組み合わせた単量体(y)を用いることができる。
【0025】
上記芳香族ビニル化合物としては、少なくとも1つのビニル結合と、少なくとも1つの芳香族環を有する化合物であれば、特に限定されず、その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0026】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0027】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。
【0028】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、マレイミド系化合物からなる単位を導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸を共重合し、その後イミド化する方法でもよい。
【0029】
上記酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、上記化合物以外に、必要に応じ、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、アミド基、カルボキシル基、オキサゾリン基等の官能基を有するビニル系化合物を用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシスチレン、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、N,N−ジエチル−p−アミノメチルスチレン、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルアミド、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記ビニル系単量体(b1)としては、芳香族ビニル化合物の1種以上、及び、この芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物の1種以上の組み合わせ、即ち、上記単量体(y)を用いることが好ましく、この場合の芳香族ビニル化合物と、それ以外の化合物との質量割合は、これらの合計を100質量%とした場合、通常、(2〜95)質量%/(98〜5)質量%、好ましくは(10〜90)質量%/(90〜10)質量%である。上記芳香族ビニル化合物の割合が少なすぎると、成形加工性が劣る傾向にあり、多すぎると、得られる成形品の耐薬品性、耐熱性等が十分でない場合がある。
【0032】
上記単量体(y)としては、好ましくは、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の組合せ(以下、「単量体(y1)」という。)、並びに、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物((メタ)アクリル酸エステル化合物等)の組合せ(以下、「単量体(y2)」という。)である。シアン化ビニル化合物を用いることにより、耐薬品性及び耐熱性等の物性バランスが向上する。
【0033】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)は、上記ゴム質重合体(a)の存在下に、上記ビニル系単量体(b1)を重合して得られたものであり、以下に例示される。
[1]上記ビニル系単量体(b1)として上記単量体(x)のみを用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂の1種以上。
[2]上記ビニル系単量体(b1)として上記単量体(y1)のみを用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂の1種以上。
[3]上記ビニル系単量体(b1)として上記単量体(y2)のみを用いて得られたゴム強化ビニル系樹脂の1種以上。
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)としては、上記態様[2]及び[3]が好ましい。また、これらの態様[1]、[2]及び[3]のうちの2種又は3種の組合せであってもよい。
【0034】
尚、前述のように、上記ゴム強化樹脂は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のみであってよいし、このゴム強化ビニル系樹脂(A1)と、ビニル系単量体(b2)の(共)重合体(以下、「(共)重合体(A2)」という。)とからなる混合物であってもよい。
この(共)重合体(A2)の形成に用いるビニル系単量体(b2)は、上記ビニル系単量体(b1)として例示した化合物を用いることができる。従って、上記(共)重合体(A2)は、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いた上記ビニル系単量体(b1)と全く同じ組成の成分を重合して得られる重合体であってもよいし、異なる組成で同じ種類の単量体を重合して得られる重合体であってもよいし、更には、異なる組成で異なる種類の単量体を重合して得られる重合体であってもよい。これらの各重合体が2種以上含まれるものであってもよい。
【0035】
上記(共)重合体(A2)は、ビニル系単量体(b2)の重合によって得られた単独重合体又は共重合体であり、以下に例示される。尚、各化合物は、上記のように、ゴム強化ビニル系樹脂(a1)の形成に用いられる化合物を適用でき、好ましい化合物も同様である。
[4]芳香族ビニル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。
[5](メタ)アクリル酸エステル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。
[6]芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
[7]芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
[8]芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
[9]芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物を除く他の化合物とを重合して得られた共重合体の1種以上。
上記態様の(共)重合体は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
上記(共)重合体(A2)としては、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、スチレン・メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル・スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体等が挙げられる。
【0037】
次に、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)及び上記(共)重合体(A2)の製造方法について説明する。
【0038】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)は、上記ゴム質重合体(a)の存在下に、上記ビニル系単量体(b1)を重合することにより製造することができる。重合方法としては、乳化重合、溶液重合、塊状重合、及び、塊状−懸濁重合が好ましい。
【0039】
尚、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の製造の際には、ゴム質重合体(a)及び上記ビニル系単量体(b1)は、反応系において、上記ゴム質重合体(a)全量の存在下に、上記ビニル系単量体(b1)を一括添加して重合を開始してよいし、分割して又は連続的に添加しながら重合を行ってもよい。また、上記ゴム質重合体(a)の一部存在下、又は、非存在下に、上記ビニル系単量体(b1)を一括添加して重合を開始してよいし、分割して又は連続的に添加してもよい。このとき、上記ゴム質重合体(a)の残部は、反応の途中で、一括して、分割して又は連続的に添加してもよい。
【0040】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)を100質量部製造する場合、上記ゴム質重合体(a)の使用量は、通常、5〜80質量部、好ましくは10〜70質量部、更に好ましくは15〜60質量部である。また、上記ビニル系単量体(b1)の使用量は、上記ゴム質重合体(a)100質量部に対し、通常、25〜1,900質量部、好ましくは60〜560質量部である。
【0041】
乳化重合によりゴム強化ビニル系樹脂(A1)を製造する場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。
【0042】
上記重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記重合開始剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b1)全量に対し、通常、0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜0.7質量%である。
尚、上記重合開始剤は、反応系に一括して、又は、連続的に添加することができる。
【0043】
上記連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記連鎖移動剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b1)全量に対し、通常、0.05〜2.0質量%である。
尚、上記連鎖移動剤は、反応系に一括して、又は、連続的に添加することができる。
【0044】
上記乳化剤としては、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;高級脂肪族カルボン酸塩、脂肪族リン酸塩等が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル型化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記乳化剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b1)全量に対し、通常、0.3〜5.0質量%である。
【0045】
乳化重合は、ビニル系単量体(b1)、重合開始剤等の種類に応じ、公知の条件で行うことができる。この乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、重合体成分を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸等が用いられる。
尚、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)を2種以上含有するゴム強化樹脂とする場合には、各ラテックスから樹脂を単離した後、混合してもよいが、他の方法として、各樹脂をそれぞれ含むラテックスの混合物を凝固する等の方法がある。
【0046】
溶液重合、塊状重合及び塊状−懸濁重合による上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の製造方法は、公知の方法を適用することができる。
【0047】
上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のグラフト率は、通常、10〜200質量%、好ましくは15〜150質量%、より好ましくは20〜100質量%である。グラフト率が10質量%未満では、本発明の放熱性樹脂組成物を含む成形品の表面外観及び耐衝撃性が低下することがある。一方、グラフト率が200%を超えると、成形加工性が低下することがある。
【0048】
ここで、グラフト率とは、上記ゴム強化ビニル系樹脂〔a1〕1グラム中の上記ゴム質重合体(a)をxグラム、該ゴム強化ビニル系樹脂〔a1〕1グラムをアセトンに溶解させた際の不溶分をyグラムとしたときに、下記式により求められる値である。但し、該ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムである場合には、アセトンの代わりにアセトニトリルを用いる。
グラフト率(質量%)={(y−x)/x}×100
【0049】
また、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)のアセトン(但し、上記ゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを用いる。)に可溶な成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、通常、0.1〜1.0dl/g、好ましくは0.2〜0.9dl/g、より好ましくは0.3〜0.7dl/gである。この極限粘度[η]が上記範囲内であると、成形加工性に優れ、得られる成形品の耐衝撃性にも優れる。
【0050】
尚、上記のグラフト率及び極限粘度[η]は、上記ゴム強化ビニル系樹脂〔a1〕を製造する際に用いる、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には重合時間、重合温度等を調整することにより、容易に制御することができる。
【0051】
上記(共)重合体(A2)は、上記ゴム強化ビニル系樹脂〔a1〕の製造に適用される重合開始剤等を用いて、ビニル系単量体(b2)を重合することにより製造することができる。重合方法は、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等が好適であり、これらの重合方法を組み合わせて用いてもよい。上記(共)重合体(A2)は、重合開始剤を用いる方法であってよいし、重合開始剤を用いない熱重合法であってもよく、また、この組み合わせを採用してもよい。
【0052】
上記(共)重合体(A2)のアセトンに可溶な成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、通常、0.1〜1.0dl/g、好ましくは0.15〜0.7dl/gである。この極限粘度[η]が上記範囲内であると、成形加工性に優れ、得られる成形品の耐衝撃性にも優れる。尚、上記(共)重合体(A2)の極限粘度[η]は、上記ゴム強化ビニル系樹脂〔a1〕の場合と同様、製造条件を調整することにより制御することができる。
【0053】
上記ゴム強化樹脂のアセトン(但し、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の形成に用いたゴム質重合体(a)がアクリル系ゴムである場合には、アセトニトリルを用いる。)に可溶な成分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、通常、0.1〜0.8dl/g、好ましくは0.15〜0.7dl/gである。この極限粘度[η]が上記範囲内であると、成形加工性及び耐衝撃性の物性バランスに優れる。
【0054】
上記成分〔A〕が上記ゴム強化樹脂を含み、このゴム強化樹脂が、上記ゴム強化ビニル系樹脂(A1)である場合、並びに、上記ゴム強化ビニル系樹脂〔a1〕及び上記(共)重合体(A2)の混合物からなる場合、のいずれにおいても、本発明の放熱性樹脂組成物中の上記ゴム質重合体(a)の含有量は、通常、1〜50質量%、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは3〜35質量%、特に好ましくは5〜35質量%である。このゴム質重合体(a)の含有量が上記範囲内にあれば、成形加工性に優れ、本発明の放熱性樹脂組成物を含む成形品は、耐衝撃性、表面外観、剛性及び耐熱性に優れる。
【0055】
上記成分〔A〕として、上記ゴム強化樹脂〔A1〕を用いる場合は、ゴム強化ビニル系樹脂(A1)の種類を選択することによって、多様な組成物とすることができる。
【0056】
1−1−2.ポリカーボネート樹脂
このポリカーボネート樹脂は、主鎖にカーボネート結合を有するものであれば、特に限定されず、芳香族ポリカーボネートでもよいし、脂肪族ポリカーボネートでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。本発明においては、成形加工性、耐衝撃性、耐熱性の観点から、芳香族ポリカーボネートが好ましい。尚、上記ポリカーボネート樹脂は、末端が、R−CO−基、R’−O−CO−基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。このポリカーボネート樹脂は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
上記芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを溶融によりエステル交換(エステル交換反応)して得られたもの、ホスゲンを用いた界面重縮合法により得られたもの、ピリジンとホスゲンとの反応生成物を用いたピリジン法により得られたもの等を用いることができる。
【0058】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(p−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
上記芳香族ヒドロキシ化合物のうち、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。尚、この化合物において、炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。また、ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。従って、上記化合物としては、ビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのうち、特にビスフェノールAが好ましい。
【0060】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
上記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常、15,000〜40,000、好ましくは17,000〜30,000、更に好ましくは18,000〜28,000である。尚、上記ポリカーボネート樹脂は、全体としての粘度平均分子量が上記範囲にあるものであれば、異なる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
上記ポリカーボネート樹脂は、上記ゴム強化樹脂、又は、上記ゴム強化樹脂の調製に用いられる上記(共)重合体(A2)、例えば、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・α−メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・メタクリル酸メチル共重合体等と組み合わせて、上記成分〔A〕として用いることができる。このときのゴム強化樹脂としては、上記ゴム質重合体(a)としてジエン系重合体を用いてなるゴム強化ビニル系樹脂(ジエン系ゴム強化ビニル系樹脂)を含むことが好ましい。
【0063】
上記成分〔A〕が、上記ゴム強化樹脂及び上記ポリカーボネート樹脂を含有する場合の含有割合は、これらの合計を100質量%とした場合、それぞれ、好ましくは20〜80質量%及び80〜20質量%であり、より好ましくは20〜75質量%及び80〜25質量%、更に好ましくは25〜75質量%及び75〜25質量%、特に好ましくは35〜75質量%及び65〜25質量%である。この含有割合が上記範囲にあれば、成形加工性に優れ、放熱性及び耐衝撃性に優れた成形品を得ることができる。
【0064】
1−2.成分〔B〕
この成分〔B〕は、外径15〜100nmの炭素繊維部と、多数本の炭素繊維部を接合する接合部とを備え、3次元ネットワーク構造を有するものである。この成分〔B〕は、SEM又はTEMを用いて観察することにより、以下に示す特定の構造を確認することができる。
【0065】
上記成分〔B〕は、上記接合部を基に微細な炭素繊維部が複数延出した、嵩高く且つ安定な構造体である。従って、上記成分〔A〕とともに用いて、本発明の放熱性樹脂組成物を製造すると、この成分〔B〕の炭素繊維部が切断等されることなく、3次元ネットワーク構造を維持したまま、マトリックス中に分散される。また、上記成分〔A〕に対する上記成分〔B〕の含有割合が少量であっても、マトリックス中に、均一な広がりをもって配置することができる。
本発明の放熱性樹脂組成物において、上記成分〔B〕が隣り合って存在すると、全体に良好な熱伝導パスが形成されるので、熱伝導性が向上し、結果として放熱性も向上する。また、機械的特性及び電気的特性に関しても、成分〔B〕を均一に配することができるため、特性向上が図れるものとなる。
【0066】
上記成分〔B〕を構成する炭素繊維部の断面形状は、好ましくは多角形である。また、長さ(上記接合部からの長さ)は、特に限定されず、通常、2〜50μmである。更に、外径は15〜100nmであり、好ましくは20〜70nmである。この外径が上記範囲にあれば、成形加工性及び耐衝撃性に優れる。尚、上記外径が15nm未満であると、炭素繊維部の断面が多角形状とならず、一方、炭素繊維部の物性上、直径が小さいほど単位量あたりの本数が増えるとともに、炭素繊維部の軸方向への長さも長くなり、高い導電性が得られるため、100nmを超える外径を有することは、樹脂等のマトリックスへ改質剤、添加剤として配される炭素繊維構造体として適当でない。尚、上記外径の範囲で筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、即ち多層であるものは曲がりにくく、弾性、即ち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、炭素繊維構造体が一旦圧縮された後においても、樹脂等のマトリックスに配された後において、疎な構造を採りやすくなる。上記成分〔B〕を、例えば、2400℃以上の温度でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり、真密度が1.89g/cmから2.1g/cmに増加するとともに、炭素繊維部の軸直交断面が多角形状となることから、この構造の炭素繊維部は、積層方向、及び、炭素繊維部を構成する筒状のグラフェンシートの方向の両方において、緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性が向上する。
【0067】
上記炭素繊維部は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように、炭素繊維部の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、マトリックス中において、炭素繊維部に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、マトリックス中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
【0068】
また、複数の炭素繊維部どうしを接合する、上記接合部は、好ましくは、上記炭素繊維部の外径より長い径(接合部から張り出した炭素繊維部を除いた物体としたときの径)を有する部分である。上記構成であれば、上記成分〔A〕とともに本発明の放熱性樹脂組成物を製造した場合に、ある程度の剪断力が加わっても、3次元ネットワークを保持したままマトリックス中に分散させることができる。
【0069】
上記成分〔B〕の円相当平均径(面積基準)は、好ましくは50〜100μmである。ここで、面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体をSEM等により撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェアを用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
【0070】
上記成分〔B〕は、以下の方法により製造することができる。
先ず、触媒の存在下、トルエン、キシレン等の炭化水素等、エタノール等のアルコール等の有機化合物原料をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、「中間体」という)を製造し、その後、更に高温熱処理することにより、上記成分〔B〕を製造することができる。
【0071】
上記中間体の製造に用いる触媒としては、鉄、コバルト、モリブデン等の遷移金属;フェロセン、酢酸の金属塩等の遷移金属化合物と、硫黄、又は、チオフェン、硫化鉄等の硫黄化合物とからなる混合物が挙げられる。
また、上記有機化合物原料としては、分解温度の異なる少なくとも2種以上の有機化合物を用いることが好ましい。
CVD法を行う場合の雰囲気ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガス、水素ガス等が挙げられる。
【0072】
上記中間体は、公知のCVD装置を用い、有機化合物原料及び触媒の混合物を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1,300℃の温度で熱分解することにより得られる。即ち、この熱分解により、外径が15〜100nmの繊維状体が、触媒を核として成長した粒状体に結合した、疎な3次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数含まれる、数cmから数十センチの大きさの集合体が合成される。この集合体は、その他、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分及び触媒を含んでいる。
【0073】
その後、上記集合体から、これら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、更に高温で熱処理される。
例えば、上記集合体を、800〜1,200℃の温度で加熱して、未反応原料、タール分等の揮発成分を除去し、2,400〜3,000℃の温度でアニール処理することによって、繊維状体に含まれる触媒を蒸発及び除去するとともに、所期の炭素繊維構造体が製造される。即ち、このアニール処理により、炭素原子からなるパッチ状のシート片が、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成し、上記成分〔B〕の炭素繊維部を構成する。また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを備えることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維構造体を得ることができる。尚、解砕処理の代わりに、粉砕処理を行ってもよい。更に、上記炭素繊維構造体を複数有する集合体を、使いやすい形、大きさ、嵩密度に造粒する処理を行ってもよい。反応時に形成された上記構造を有効に活用するために、嵩密度が低い状態(極力繊維が伸びきった状態で且つ空隙率が大きい状態)で、アニール処理すると更に樹脂への導電性付与に効果的である。
以上から、上記の製造方法により得られた上記成分〔B〕は、微細な炭素繊維部どうしが単に接合部に結合しているものではなく、接合部において相互に強固に結合している。
【0074】
本発明の放熱性樹脂組成物において、上記成分〔B〕の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合に、1〜80質量部であり、好ましくは2〜70質量部、より好ましくは5〜65質量部である。上記成分〔B〕の含有量が少なすぎると、熱伝導性及び電磁波シールド性が十分でない場合がある。一方、多すぎると、生産性、成形加工性及び成形品の表面外観性が低下する場合がある。
【0075】
本発明の放熱性樹脂組成物として好ましい組成物の一例は、上記成分〔A〕がゴム強化樹脂及びポリカーボネート樹脂を含むものであって、上記ポリカーボネート樹脂50〜95質量%及び上記成分〔B〕50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)からなる混合物又は混練物(溶融混練物)と、上記ゴム強化樹脂とが溶融混練されてなり、上記ポリカーボネート樹脂及び上記ゴム強化樹脂の合計を100質量部とした場合に、上記成分〔B〕の含有量が1〜80質量部、好ましくは2〜70質量部、より好ましくは5〜65質量部である組成物である。この方法による場合、特に、上記ポリカーボネート樹脂及び上記成分〔B〕からなる混練物(溶融混練物)を用いることが好ましく、製造方法の詳細は、後述される。
【0076】
1−3.添加剤
本発明の放熱性樹脂組成物は、目的、用途等に応じ、添加剤を含有したものとすることができる。この添加剤としては、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、老化防止剤、可塑剤、滑剤、抗菌剤、着色剤等が挙げられる。
【0077】
充填剤としては、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、極微細活性化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、カオリンクレー、焼結クレー、パイロフィライトクレー、シラン処理クレー、合成ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、カオリン、セリサイト、タルク、微粉タルク、ウォラスナイト、ゼオライト、ゾノトライト、アスベスト、PMF(Processed Mineral Fiber)、胡粉、セピオライト、チタン酸カリウム、エレスタダイト、石膏繊維、ガラスバルン、シリカバルン、ハイドロタルサイト、フライアシュバルン、シラスバルン、カーボン系バルン、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記充填剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合、通常、1〜30質量部、好ましくは2〜25質量部、より好ましくは2〜20質量部である。
【0078】
熱安定剤としては、ホスファイト類、ヒンダードフェノール類、チオエーテル類が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記熱安定剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合、通常、0.01〜5質量部である。
【0079】
酸化防止剤としては、ホスファイト類、ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、ヒンダードフェノール類、硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記酸化防止剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合、通常、0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜3質量部、より好ましくは0.1〜2質量部である。
【0080】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸エステル類、金属錯塩類等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の紫外線吸収剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合、通常、0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0081】
難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
上記有機系難燃剤としては、臭素化エポキシ系樹脂、臭素化アルキルトリアジン化合物、臭素化ビスフェノール系エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、臭素化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化架橋ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールシアヌレート樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びそのオリゴマー等のハロゲン系難燃剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、これらを各種置換基で変性した化合物、各種の縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素及び窒素元素を含むホスファゼン誘導体等のリン系難燃剤;ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
上記無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム系、モリブデン系、スズ酸亜鉛、グアニジン塩、シリコーン系、ホスファゼン系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
上記反応系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモフェノールグリシジルエーテル、臭素化芳香族トリアジン、トリブロモフェノール、テトラブロモフタレート、テトラクロロ無水フタル酸、ジブロモネオペンチルグリコール、ポリ(ペンタブロモベンジルポリアクリレート)、クロレンド酸(ヘット酸)、無水クロレンド酸(無水ヘット酸)、臭素化フェノールグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
上記難燃剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合、通常、1〜30質量部、好ましくは3〜25質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
【0086】
本発明の放熱性樹脂組成物に難燃剤を含有させる場合には、難燃助剤を用いることが好ましい。この難燃助剤としては、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酒石酸アンチモン等のアンチモン化合物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ、酸化鉄等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、難燃性を改良するために、シリコーンオイルを配合することができる。
【0087】
老化防止剤としては、ナフチルアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物、p−フェニレンジアミン系化合物、キノリン系化合物、ヒドロキノン誘導体系化合物、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、トリスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、チオビスフェノール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、亜リン酸エステル系化合物、イミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸ニッケル塩系化合物、リン酸系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記老化防止剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合、通常、0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0088】
可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ブチルオクチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類;ジメチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソブチルセバゲート、ジブチルセバゲート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバゲート、ジイソオクチルセバゲート等の脂肪酸エステル類;トリメリット酸イソデシルエステル、トリメリット酸オクチルエステル、トリメリット酸n−オクチルエステル、トリメリット酸イソノニルエステル等のトリメリット酸エステル類;ジ−(2−エチルヘキシル)フマレート、ジエチレングリコールモノオレート、グリセリルモノリシノレート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、エポキシ化大豆油、ポリエーテルエステル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記可塑剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合、通常、0.5〜20質量部、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0089】
上記滑剤としては、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂、パラフィン、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪族アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、金属石鹸、シリコーン、変性シリコーン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記滑剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合に、通常、0.1〜5質量部である。
【0090】
抗菌剤としては、銀系ゼオライト、銀−亜鉛系ゼオライト等のゼオライト系抗菌剤、錯体化銀−シリカゲル等のシリカゲル系抗菌剤、ガラス系抗菌剤、リン酸カルシウム系抗菌剤、リン酸ジルコニウム系抗菌剤、銀−ケイ酸アルミン酸マグネシウム等のケイ酸塩系抗菌剤、酸化チタン系抗菌剤、セラミック系抗菌剤、ウィスカー系抗菌剤等の無機系抗菌剤;ホルムアルデヒド放出剤、ハロゲン化芳香族化合物、ロードプロパギル誘導体、イオシアナト化合物、イソチアゾリノン誘導体、トリハロメチルチオ化合物、第四アンモニウム塩、ビグアニド化合物、アルデヒド類、フェノール類、ピリジンオキシド、カルバニリド、ジフェニルエーテル、カルボン酸、有機金属化合物等の有機系抗菌剤;無機・有機ハイブリッド抗菌剤;天然抗菌剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記抗菌剤の含有量は、上記成分〔A〕を100質量部とした場合、通常、0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0091】
上記着色剤としては、有機染料、無機顔料、有機顔料等が挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
1−4.放熱性樹脂組成物の製造方法
本発明の放熱性樹脂組成物の製造方法(以下、「本発明の第1製造方法」という。)は、上記熱可塑性樹脂〔A〕100質量部に対して、上記炭素繊維構造体〔B〕の含有量が1〜80質量部である放熱性樹脂組成物を製造する方法であって、上記熱可塑性樹脂〔A〕の一部と、上記炭素繊維構造体〔B〕の少なくとも一部とを溶融混練する第1混合工程(以下、「第1混合工程(I)」という。)と、この第1混合工程(I)により得られた混練物(以下、「混練物(I)」という。)と、上記熱可塑性樹脂〔A〕の残部と、上記炭素繊維構造体〔B〕の残部とを、溶融混練する第2混合工程(以下、「第2混合工程(I)」という。)と、を備えることを特徴とする。
本発明の第1製造方法において、添加剤を用いる場合は、第1混合工程(I)及び第2混合工程(I)のいずれで用いてもよく、両方で用いてもよい。
【0093】
上記第1混合工程(I)において溶融混練する原料は、上記成分〔A〕の一部と、上記成分〔B〕の少なくとも一部とを含む。
上記成分〔B〕の使用量は、一部であってよいし、全量であってもよい。上記第1混合工程(I)において用いる成分〔B〕の使用量は、放熱性樹脂組成物に含有させる上記成分〔B〕の全量を100質量%として、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%である。上記成分〔B〕の使用量が多いほど、第2混合工程後に得られる樹脂組成物の放熱性に優れる。
また、上記成分〔A〕の使用量については、放熱性樹脂組成物に含有させる上記成分〔A〕として、1種のみ用いる場合、及び、2種以上を用いる場合、のいずれにおいても、上記成分〔A〕を全量用いるのではなく、その一部を使用する。その割合は、放熱性樹脂組成物に含有させる上記成分〔B〕の使用量によって選択される。上記第1混合工程(I)における溶融混練を効率よく進めるために、上記の成分〔A〕及び〔B〕の使用割合は、上記第1混合工程(I)で用いられる成分〔A〕100質量部に対して、通常、上記成分〔B〕が5〜100質量部の範囲に入るように選択される。
混練方法は、原料を、押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等により混練する方法等とすることができる。混練条件に関し、原料の投入方法は、特に限定されず、各成分を一括配合した後、混練機に供給してよいし、多段配合等分割して混練機に供給してもよい。また、混練温度は、上記成分〔A〕の種類、上記の成分〔A〕及び〔B〕の配合割合等により、適宜、選択される。
【0094】
次に、上記第2混合工程(I)において溶融混練する原料は、上記第1混合工程(I)により得られた混練物(I)と、上記成分〔A〕の残部と、上記成分〔B〕の残部とを含む。尚、上記第1混合工程(I)において、放熱性樹脂組成物に含有させる全量の上記成分〔B〕が用いられた場合には、上記原料は、上記混練物(I)と、上記成分〔A〕の残部とを含む。混練方法及び条件は、上記第1混合工程(I)と同様とすることができる。
【0095】
上記のように、本発明の第1製造方法において、第1混合工程(I)及び第2混合工程(I)を備えることにより、上記成分〔B〕の分散性に優れた放熱性樹脂組成物を製造することができ、放熱性、耐衝撃性、成形加工性、電磁波シールド性、生産性及びハンドリング性が更に優れた成形品を得ることができる。
尚、本発明の第1製造方法において、上記成分〔A〕として、2種以上の熱可塑性樹脂を用いる場合には、同一の樹脂は、上記の第1混合工程(I)及び第2混合工程(I)の両方に分割して使用するのではなく、いずれか一方の混合工程に全量を使用することが好ましい。但し、上記成分〔A〕に含まれる複数の樹脂の構成割合に差がある場合、例えば、2種の樹脂(第1樹脂及び第2樹脂)を用い、これらの構成割合が1:9等の場合には、上記方法に限定されない。
また、本発明の第1製造方法の上記第1混合工程(I)においては、上記成分〔B〕に対して相溶性の高い熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂等を用いることが特に好ましい。
【0096】
本発明の第1製造方法において、好ましくは、上記第1混合工程(I)として、上記成分〔B〕を全量使用し、上記成分〔A〕及び上記成分〔B〕の使用割合を、それぞれ、50〜95質量%及び50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)として溶融混練し、上記第2混合工程(I)として、上記第1混合工程(I)により得られた混練物(I)と、上記成分〔A〕の残部と、を溶融混練する方法である。
この方法をより具体的に例示すると、上記第1混合工程(I)において、上記成分〔B〕を全量使用し、上記成分〔A〕50〜95質量%(好ましくは60〜95質量%、より好ましくは65〜90質量%)及び上記成分〔B〕5〜50質量%(好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜35質量%)(但し、これらの合計は100質量%である。)を溶融混練し、ペレット、マスターバッチ等の混練物(I)とした後、上記第2混合工程(I)において、この混練物(I)100質量部と、残部である上記成分〔A〕0.1〜4,950質量部(好ましくは0.1〜4,000質量部、より好ましくは0.1〜3,000質量部)とを溶融混練する方法である。上記第1混合工程(I)において、上記成分〔B〕の含有量が5質量%未満では、放熱性樹脂組成物の熱伝導率及び電磁波シールド性が十分に得られない場合がある。一方、50質量%を超えると、混練物(I)の製造が困難になる場合がある。また、上記第2混合工程(I)においては、最終的に、上記成分〔A〕の全量100質量部に対して、上記成分〔B〕の含有量が1〜80質量部である組成物となるように、上記成分〔A〕の使用量が選択されるが、上記混練物(I)100質量部に対する上記成分〔A〕の使用量が少なすぎる場合、成形加工性及び耐衝撃性が十分でない場合がある。一方、多すぎると、放熱性樹脂組成物の熱伝導率及び電磁波シールド性が十分に得られない場合がある。
【0097】
他の本発明の放熱性樹脂組成物の製造方法(以下、「本発明の第2製造方法」という。)は、上記のゴム強化樹脂及びポリカーボネート樹脂を所定割合で含む熱可塑性樹脂〔A〕100質量部に対して、上記炭素繊維構造体〔B〕の含有量が1〜80質量部である放熱性樹脂組成物を製造する方法であって、上記ポリカーボネート樹脂と、上記炭素繊維構造体〔B〕の少なくとも一部とを溶融混練する第1混合工程(以下、「第1混合工程(II)」という。)と、この第1混合工程(II)により得られた混練物(以下、「混練物(II)」という。)と、上記ゴム強化樹脂と、上記炭素繊維構造体〔B〕の残部と、を溶融混練する第2混合工程(以下、「第2混合工程(II)」という。)と、を備えることを特徴とする。
本発明の第2製造方法において、添加剤を用いる場合は、第1混合工程(II)及び第2混合工程(II)のいずれで用いてもよく、両方で用いてもよい。
【0098】
本発明の第2製造方法において、上記成分〔A〕として用いるゴム強化樹脂及びポリカーボネート樹脂の使用割合は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜80質量%及び80〜20質量%、好ましくは20〜75質量%及び80〜25質量%、より好ましくは25〜75質量%及び75〜25質量%である。
【0099】
上記第1混合工程(II)において溶融混練する原料は、上記ポリカーボネート樹脂と、上記成分〔B〕の少なくとも一部とを含む。
上記成分〔B〕の使用量は、一部であってよいし、全量であってもよい。上記第1混合工程(II)において用いる成分〔B〕の使用量は、放熱性樹脂組成物に含有させる上記成分〔B〕の全量を100質量%として、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%である。上記成分〔B〕の使用量が多いほど、樹脂組成物の放熱性に優れる。
また、上記ポリカーボネート樹脂については、通常、全量使用されるが、特に、上記第2混合工程(II)において用いるゴム強化樹脂の使用量よりも過剰の場合には、一部のポリカーボネート樹脂を上記第2混合工程(II)において用いてもよい。即ち、上記第1混合工程(II)における溶融混練を効率よく進めるために、上記ポリカーボネート樹脂及び上記成分〔B〕の使用割合は、第1混合工程(II)で用いられる上記ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常、上記成分〔B〕が5〜100質量部の範囲に入るように選択される。
上記第1混合工程(II)の混練方法は、上記第1混合工程(I)と同様とすることができる。また、混練温度は、通常、240〜320℃、好ましくは260〜300℃である。
【0100】
次に、上記第2混合工程(II)において溶融混練する原料は、上記第1混合工程(II)により得られた混練物(II)と、上記ゴム強化樹脂とを含む。尚、上記のように、上記第1混合工程(II)において、上記ポリカーボネート樹脂を全量使用しなかった場合は、その残部を含む。混練方法は、上記第1混合工程(II)と同様とすることができる。また、混練温度は、通常、230〜280℃、好ましくは240〜260℃である。
【0101】
本発明の第2製造方法によれば、上記成分〔A〕が上記ゴム強化樹脂及び上記ポリカーボネート樹脂である態様において、第1混合工程(II)及び第2混合工程(II)を備えることにより、上記成分〔B〕の分散性に優れた放熱性樹脂組成物を製造することができ、放熱性、耐衝撃性、成形加工性、電磁波シールド性、生産性及びハンドリング性が更に優れた成形品を得ることができる。特に、上記成分〔B〕及び上記ポリカーボネート樹脂の間の相溶性に優れると考えられるため、第2混合工程(II)における溶融混練を円滑に進めることができ、放熱性に優れた樹脂組成物を製造することができる。
【0102】
本発明の第2製造方法において、好ましくは、上記第1混合工程(II)として、上記成分〔B〕を全量使用し、上記ポリカーボネート樹脂及び上記成分〔B〕の使用割合を、それぞれ、50〜95質量%及び50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)として溶融混練し、上記第2混合工程(II)として、上記第1混合工程(II)により得られた混練物と、上記ゴム強化樹脂と、を溶融混練する方法である。
この方法をより具体的に例示すると、上記第1混合工程(I)において、上記成分〔B〕を全量使用し、上記ポリカーボネート樹脂50〜95質量%(好ましくは60〜95質量%、より好ましくは65〜90質量%)及び上記成分〔B〕5〜50質量%(好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜35質量%)(但し、これらの合計は100質量%である。)を溶融混練し、ペレット、マスターバッチ等の混練物(II)とした後、上記第2混合工程(II)において、この混練物(II)100質量部と、上記ゴム強化樹脂0.1〜4,950質量部(好ましくは0.1〜4,000質量部、より好ましくは0.1〜3,000質量部)とを溶融混練する方法である。上記第1混合工程(II)において、上記成分〔B〕の含有量が5質量%未満では、放熱性樹脂組成物の熱伝導率及び電磁波シールド性が十分に得られない場合がある。一方、50質量%を超えると、混練物(II)の製造が困難になる場合がある。また、上記第2混合工程(II)においては、上記ポリカーボネート樹脂及びゴム強化樹脂の合計量100質量部に対して、上記成分〔B〕の含有量が1〜80質量部である組成物となるように、上記ゴム強化樹脂の使用量が選択されるが、上記混練物(II)100質量部に対する上記ゴム強化樹脂の使用量が少なすぎる場合、成形加工性及び耐衝撃性が十分でない場合がある。一方、多すぎると、放熱性樹脂組成物の熱伝導率及び電磁波シールド性が十分に得られない場合がある。
【0103】
1−5.放熱性樹脂組成物の性質
本発明の放熱性樹脂組成物の熱伝導性は、上記成分〔A〕のみに比して優れて高く、下記実施例に示す方法により得られる熱伝導率の好ましい下限値は1W/(m・K)であり、より好ましくは2.5W/(m・K)、更に好ましくは3W/(m・K)である。また、好ましい上限値は100W/(m・K)であり、より好ましくは50W/(m・K)である。この熱伝導率が小さすぎると、十分な放熱性が得られず、例えば、熱源から発生する熱の移動速度が遅くなり、熱源付近の冷却が進みにくくなる場合がある。
【0104】
本発明の放熱性樹脂組成物のシャルピー衝撃強さは、好ましくは3.5kJ/m以上、より好ましくは5kJ/m以上、更に好ましくは6kJ/m以上である。このシャルピー衝撃強さが小さすぎると、耐衝撃性が不十分となり、衝撃強度が要求される用途への展開が制限される場合がある。
【0105】
本発明の放熱性樹脂組成物のメルトマスフローレートは、好ましくは4g/10分以上、より好ましくは5g/10分以上、更に好ましくは6g/10分以上である。このメルトマスフローレートが小さすぎると、流動性が十分ではなく、成形加工性が低下し、使用する製品形状の自由度が制限される場合がある。
【0106】
更に、本発明の放熱性樹脂組成物は、電磁波シールド性にも優れ、100MHzにおける電磁波シールド性は、好ましくは25dB以上、より好ましくは30dB以上、更に好ましくは30〜60dB、特に好ましくは30〜55dBである。
【0107】
本発明の放熱性樹脂組成物において、熱伝導率が3W/(m・K)以上であり、シャルピー衝撃強さが5kJ/m以上であり、メルトマスフローレートが5g/10分以上である性能を備えることで、放熱性、成形加工性及び耐衝撃性のバランスを高度に発揮する成形品を得ることができる。このような成形品を与える組成物の構成の一例としては、ゴム強化樹脂及びポリカーボネート樹脂を含む上記成分〔A〕と、上記成分〔B〕とを含有し、且つ、ゴム強化樹脂及びポリカーボネート樹脂の含有割合が、それぞれ、好ましくは25〜75質量%及び75〜25質量%、特に好ましくは35〜75質量%及び65〜25質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)の態様である。
【0108】
2.成形品
本発明の成形品は、上記本発明の放熱性樹脂組成物又はその構成成分を、射出成形装置、シート押出成形装置、異形押出成形装置、中空成形装置、圧縮成形装置、真空成形装置、発泡成形装置、ブロー成形装置、射出圧縮成形装置、ガスアシスト成形装置、ウォーターアシスト成形装置等公知の成形装置で加工することにより製造することができる。即ち、本発明の成形品は、上記本発明の放熱性樹脂組成物を含む。
【0109】
上記成形装置を用いる場合、成形温度及び金型温度は、上記成分〔A〕の種類、上記の成分〔A〕及び〔B〕の含有割合等によって選択される。上記成分〔A〕がゴム強化樹脂及びポリカーボネート樹脂を含有する場合には、成形時のシリンダー温度は、通常、230〜280℃、好ましくは240〜260℃である。また、金型温度は、通常、50〜80℃である。尚、成形品が大型である場合には、一般に、シリンダー温度を、上記温度より高めに設定して製造される。
【0110】
本発明の成形品は、上記本発明の放熱性樹脂組成物又は他の熱可塑性樹脂組成物(ABS樹脂、オレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等を含む組成物)からなる部材が、表面等に配設されたものとすることができる。このような物品は、2色成形を含む多色成形装置等を用いて製造することができる。また、アルミニウム、銅等の金属製部材と一体化した物品とすることもできる。
【0111】
本発明の成形品は、目的、用途等に応じて、任意の場所に、貫通孔、溝、凹部等を備えてもよい。薄肉部を備える場合には、その厚さは、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上である。
【0112】
上記放熱性樹脂組成物は、成形加工性、衝撃強度、熱伝導性及び電磁波シールド性に優れ、熱及び電磁波の発生源となる電子部品を内蔵するパーソナルコンピュータ、携帯電話等のハウジング、電子部品を実装する基板、放熱及び電磁波シールド性が要求されるパネル、CPUのヒートシンク、放熱フィン、ファン、パッキン等の材料として好適である。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない、尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0114】
1.原料成分
放熱性樹脂組成物の製造に用いた原料成分を以下に示す。
【0115】
1−1.成分〔A〕
(1)ジエン系ゴム強化ビニル系樹脂(A−1)
ジエン系ゴム質重合体として、重量平均分子量280nm及びトルエン不溶分80%のポリブタジエンゴム粒子を含むラテックスの存在下に、スチレン及びアクリロニトリルを乳化重合して得られた、ポリブタジエンゴムの含有量が41.5%、スチレン単位量が43.5%、及び、アクリロニトリル単位量が15%であるジエン系ゴム強化ビニル系樹脂を用いた。このジエン系ゴム強化ビニル系樹脂のグラフト率は55%であり、アセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は0.45dl/gである。
【0116】
(2)アクリロニトリル・スチレン樹脂(A−2)
スチレン単位量が74.5%、及び、アクリロニトリル単位量が25.5%である共重合体を用いた。極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は0.60dl/gである。
【0117】
(3)ポリカーボネート樹脂(A−3)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「NOVAREX 7022PJ」(商品名)を用いた。GPCによる粘度平均分子量は22,000である。
【0118】
(4)ABS樹脂(A−4)
テクノポリマー社製の「テクノABS 330」(商品名)を用いた。
【0119】
1−2.成分〔B〕
ナノカーボンテクノロジーズ社製の炭素繊維構造体「MWNT(Malti Wall Carbon)」(商品名)を用いた。炭素繊維部の外径は20〜60nm、円相当平均径(面積基準)は数〜数十μmである。
【0120】
1−3.直線状炭素繊維(C−1)
比較例のために、昭和電工社製の気相法炭素繊維「VGCF」(商品名)を用いた。平均繊維径は150nm、平均繊維長は10μmである。
【0121】
1−4.マスターバッチ
(1)MB−1
上記ポリカーボネート樹脂(A−3)80%と、上記成分〔B〕20%とを、280℃で溶融混練して得られたマスターバッチを用いた。
【0122】
(2)MB−2
上記ABS樹脂(A−4)85%と、上記成分〔B〕15%とを、260℃で溶融混練して得られたマスターバッチを用いた。
【0123】
1−5.添加剤
(1)難燃剤(FR)
大八化学社製の芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤「PX−200」(商品名)を用いた。
(2)酸化防止剤(AO−1)
アデカ社製のホスファイト系酸化防止剤「アデカスタブPEP−36」(商品名)を用いた。
(3)酸化防止剤(AO−2)
アデカ社製のヒンダードフェノール系酸化防止剤「アデカスタブAO−60」(商品名)を用いた。
【0124】
2.放熱性樹脂組成物の評価項目
(1)熱伝導率
放熱性樹脂組成物からなるペレットを用い、その溶融物を、直径10mm及び長さ50mmの円柱形のキャビティ空間を有する金型(金型温度;50〜80℃)の、下面中心に位置するゲートから射出成形し、直径10mm及び長さ50mmの円柱体を作製した。その後、長さ方向のほぼ中央部において、厚さが1.5mmの円板となるように切り出し、これを試験片(直径10mm及び厚さ1.5mm)とした。放熱性樹脂組成物の流動方向の熱伝導率を測定するために、この試験片における上面及び下面の各表面にプローブを当て、アルバック理工社製のレーザーフラッシュ法熱定数測定装置「TR−7000R型)を用い、室温(25℃)における熱伝導率を測定した。測定値の単位は、W/(m・K)である。
【0125】
(2)シャルピー衝撃強さ
試験片を、JSW社製の射出成形機「J−100E型」を用いて作製し、ISO179に準じて、下記条件でシャルピー衝撃強さ(Edgewise Impact、ノッチ付き)を測定した。測定値の単位は、kJ/mである。
試験片タイプ ; Type 1
ノッチタイプ ; Type A
荷重 ; 2J
温度 ; 室温
【0126】
(3)表面固有抵抗
試験片(直径100mm×厚さ2mmの円板)を、東芝機械社製の射出成形機「IS25EP型」を用いて作製し、JIS K6911−1995に準じて測定した。尚、抵抗値は、その値により、表1に示す各測定器を使い分けて測定した。抵抗値の単位は、Ωである。
【0127】
【表1】

【0128】
(4)引張伸び
試験片を、JSW社製の射出成形機「J−100E型」を用いて作製し、ISO527に準じ、島津製作所製の精密万能試験機「オートグラフAG5000E型」を用いて測定した。測定値の単位は、%(歪み)である。
【0129】
(5)メルトマスフローレート
ISO1133に準じ、測定温度240℃、荷重98Nの条件で測定した。測定値の単位は、g/10分である。
【0130】
(6)熱変形温度
試験片を、JSW社製の射出成形機「J−100E型」を用いて作製し、ISO75に準じ、荷重1.80MPaの条件で測定した。測定値の単位は、℃である。
【0131】
(7)電磁波シールド性
アドバンテスト社製のスペクトラムアナライザ「R3361A型」、及び、「TR1730A型」を用い、100MHzの周波数における電磁波の反射性を測定し、電磁波シールド性を評価した。測定値の単位は、dBである。試験片は、長さ150mm×幅150mm×厚さ3mmの平板型キャビティを有する金型を用い、射出成形により作製した。
尚、一般に、電磁波シールド効果とは、入射電磁波エネルギーをどの程度減衰させることができるかの指標であり、目安は、以下の通りである。
0〜10dB;電磁波シールド効果はほとんどない。
10〜30dB;電磁波シールド効果として最低限度。
30〜60dB;電磁波シールド効果は平均レベル。
60〜90dB;電磁波シールド効果がかなりあり。
90dB以上 ;電磁波シールド効果として最高級。
【0132】
(8)熱籠もり試験
温度25℃の部屋に、対流の影響を防止するため、高さ1m、幅1mのアクリル樹脂製カバーを設置し、その中心部に、図1に示すような、ポリカーボネート(PC)製枠部材(符号1)で構成された枠体の4面(底面、天面、両側面)に評価に供する平板(符号2)(150mm×150mm×3mm)を装入して、立方体の箱を形成した。尚、この箱の前後2面はPC製の壁面にて構成されている。そして、箱の底面の中心にシリコンゴムヒーター(符号3)(100mm×100mm×1.7mm)を設置し、シリコンゴムヒーター(符号3)に電圧40V(32W)で通電し、60分後、図1における各測定点(T1;シリコンゴムヒーターの表面、T2;底面の裏側で、側面より10mm離れた位置、T3;天面内側から75.0mm下方で、側面より10mm離れた位置)の温度を測定した。
この熱籠もり試験において、T2が高く、T1及びT3が低いほど、放熱性が良好である。樹脂の熱伝導率が高ければ、ヒーターから発生した熱を伝導しやすいため、T2の温度が上昇しやすい。また、外部への放熱性に優れるほど、箱内における熱籠もりが生じにくく、T3の温度は低くなる。更に、樹脂の熱伝導率が高く、放熱性に優れるほど、ヒーターから発生する熱は奪われやすくなるため、T1の温度は低下しやすい。
【0133】
3.放熱性樹脂組成物の製造及び評価
実施例1〜9及び比較例1〜3
表2及び表3の原料成分を、ヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機を用いて溶融混練(シリンダー温度240〜280℃)した。次いで、ペレット化し、放熱性樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、各種評価を行い、その結果を表2及び表3に併記した。
【0134】
【表2】

【0135】
【表3】

【0136】
表3より、比較例1は、成分〔B〕を含有しない例であり、熱伝導率が低く、熱籠もり試験結果も十分でなく、放熱性に劣っていた。比較例2は、成分〔B〕の含有量が、成分〔A〕100部に対し、0.5部と少ない例であり、熱伝導率が低く、熱籠もり試験結果も十分でなく、放熱性に劣っていた。比較例3は、成分〔B〕の代わりに直線状炭素繊維(C−1)を用いた例であり、熱伝導率が低く、熱籠もり試験結果も十分でなく、放熱性に劣っていた。また、流動性にも劣っていた。
【0137】
一方、表2より、実施例1〜3、5及び7〜9は、熱伝導率に優れ、熱籠もり試験結果も良好なことから放熱性に優れていた。更に、成形加工性及び耐衝撃性のバランス、電磁波シールド性に優れていた。特に実施例1及び2は、放熱性、成形加工性及び耐衝撃性のバランスが高度に発揮されていた。
また、実施例2及び実施例5は、いずれも、成分〔B〕の含有量が13.6%である例であり、ポリカーボネート樹脂(PC)を含むマスターバッチを用いた実施例2のほうが、ABS樹脂を含むマスターバッチを用いた実施例5よりも熱伝導性に優れることが分かる。これは、成分〔B〕の相溶性が、ABS系樹脂におけるよりもポリカーボネート樹脂におけるほうが高いためと推測される。
難燃剤を配合した実施例7は、難燃性V−0を達成した。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の放熱性樹脂組成物は、成形加工性及び耐衝撃性のバランスに優れることから、適用する製品の形状の自由度が高い。また、金属材料よりも放熱性に優れ、電磁波シールド性にも優れた成形品とすることができる。従って、ハウジング、基板、パネル、ヒートシンク、加熱フィン、ファン、パッキン等として用いることができる。これらの部材は、回路基板、チップ、サーマルヘッド、モーター等の電子部品;テレビ、ラジオ、カメラ、ビデオカメラ、オーディオ、ビデオ、照明具等の電子機器等に好適であり、電子部品等から熱を外部に逃がすためのハウジング、ヒートシンク及びファン;オーディオバックパネル;液晶、プラズマテレビ等の表示板固定部材等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】熱籠もり試験装置の縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0140】
1:ポリカーボネート(PC)製枠部材
2:評価に供する平板
3:シリコンゴムヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕熱可塑性樹脂、及び、〔B〕外径15〜100nmの炭素繊維部と、多数本の該炭素繊維部を接合する接合部とを備え、3次元ネットワーク構造を有する炭素繊維構造体、を含有し、
上記炭素繊維構造体〔B〕の含有量は、上記熱可塑性樹脂〔A〕を100質量部とした場合に、1〜80質量部であることを特徴とする放熱性樹脂組成物。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂〔A〕が、ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b1)を重合して得られたゴム強化ビニル系樹脂、又は、該ゴム強化ビニル系樹脂と、ビニル系単量体(b2)の(共)重合体とからなる混合物、であるゴム強化樹脂、及び、ポリカーボネート樹脂を含有し、且つ、該ゴム強化樹脂及び該ポリカーボネート樹脂の含有割合が、これらの含有量の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、20〜80質量%及び80〜20質量%である請求項1に記載の放熱性樹脂組成物。
【請求項3】
上記ポリカーボネート樹脂50〜95質量%及び上記炭素繊維構造体〔B〕50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)からなる混合物又は混練物と、上記ゴム強化樹脂とが溶融混練されてなり、上記ポリカーボネート樹脂及び上記ゴム強化樹脂の合計を100質量部とした場合に、上記炭素繊維構造体〔B〕の含有量が1〜80質量部である請求項2に記載の放熱性樹脂組成物。
【請求項4】
更に、難燃剤を含有し、該難燃剤の含有量が、上記熱可塑性樹脂〔A〕を100質量部とした場合に、1〜30質量部である請求項1乃至3のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物。
【請求項5】
熱伝導率が3W/(m・K)以上である請求項1乃至4のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物。
【請求項6】
シャルピー衝撃強さが5kJ/m以上であり、且つ、メルトマスフローレートが5g/10分以上である請求項1乃至5のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物。
【請求項7】
100MHzの周波数における電磁波シールド性が30dB以上である請求項1乃至6のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法であって、
上記熱可塑性樹脂〔A〕の一部と、上記炭素繊維構造体〔B〕の少なくとも一部とを溶融混練する第1混合工程と、
上記第1混合工程により得られた混練物と、上記熱可塑性樹脂〔A〕の残部と、上記炭素繊維構造体〔B〕の残部とを、溶融混練する第2混合工程と、
を備えることを特徴とする放熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
上記第1混合工程において、上記炭素繊維構造体〔B〕を全量使用し、上記熱可塑性樹脂〔A〕及び上記炭素繊維構造体〔B〕の使用割合が、それぞれ、50〜95質量%及び50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)であり、且つ、
上記第2混合工程において、上記第1混合工程により得られた混練物と、上記熱可塑性樹脂〔A〕の残部と、を溶融混練する請求項8に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法であって、
上記ポリカーボネート樹脂と、上記炭素繊維構造体〔B〕の少なくとも一部とを溶融混練する第1混合工程と、
上記第1混合工程により得られた混練物と、上記ゴム強化樹脂と、上記炭素繊維構造体〔B〕の残部と、を溶融混練する第2混合工程と、
を備えることを特徴とする放熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
上記第1混合工程において、上記炭素繊維構造体〔B〕を全量使用し、上記ポリカーボネート樹脂及び上記炭素繊維構造体〔B〕の使用割合が、それぞれ、50〜95質量%及び50〜5質量%(但し、これらの合計は100質量%である。)であり、且つ、
上記第2混合工程において、上記第1混合工程により得られた混練物と、上記ゴム強化樹脂と、を溶融混練する請求項10に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至7のいずれかに記載の放熱性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−127552(P2008−127552A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317749(P2006−317749)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】