説明

放電ランプとその成形方法

【課題】 ガラスバルブ部分でのクラックの発生を極力抑止して放電ランプの寿命を伸ばしながらも、構造を簡潔にし、製造工程を少なくし、廉価に製造できるようにすることにある。
【解決手段】 直線円筒形状の封体ガラス2の開口端を電極棒4を貫通させた封止体3で封着する放電ランプであって、熱膨張係数が低く、高硬質ガラス製である石英ガラス製の封体ガラス2の端面と、この封体ガラス2よりも熱膨張係数の高いタングステン製の電極棒4とほぼ同等の熱膨張係数を有し且つ硬質ガラス製であるホウケイ酸ガラス製の封止体3の端面とを、圧着した状態でこの圧着部分に超短光パルス幅のレーザーであるフェムト秒レーザーを照射して接合したことを特徴とする構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張によるクラックの生じない強度に優れた放電ランプとその成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、放電ランプは直線円筒形状の封体ガラスの両端部内に電極を配した構成で、両電極間の放電により発光させるものである。放電ランプは、発光効率を高めるため高温度になり、従って封体ガラスは、発光時の耐熱性を考慮して、軟化点が高く且つ高硬質である例えば石英ガラスが使用され、一方、電極及びこれを保持する電極棒は主として例えばタングステンが使用され、電極を封体ガラスの所定内位置に配した状態で封体ガラスの端部を溶融封着するものである。
【0003】
処が、金属で最も熱膨張係数が低いとされるタングステンであっても、その係数は44×10−7であり、熱膨張係数が低い石英ガラスの熱膨張係数の5〜7×10−7と比較すると極端な差がある。従って、上記のように石英ガラス製の封体ガラスの端部を、電極棒を貫通させた状態で溶融封着する構成であると、特に発光時の高温、或いはその冷却により応力が発生し、タングステン製の電極棒近傍の封着部分に於ける石英ガラスにクラックが生じて、気密性が損なわれる不都合があった。
【0004】
そこで、電極棒が貫通する部分である封着部分を、タングステンの熱膨張係数に近い係数である40×10−7程度のホウケイ酸ガラスを使用することが考えられた。即ち、先ず、ホウケイ酸ガラス製の円筒体の端面を石英ガラス製の封体ガラスの端面に熱溶着させ、次いでタングステン製の電極棒を同じくホウケイ酸ガラス製のビードガラス内に貫通封着した組合せ物を、円筒体内に熱溶着させて一体化し、封止体を構成するのである。
【0005】
この構成であれば、電極棒と封止体の熱膨張係数が近いので、電極棒近傍の封止体であるホウケイ酸ガラス部分に応力が発生することはなく、クラックが生じることはない。しかしながらこの構成では新たなる問題として、石英ガラスである封体ガラスと封止体であるホウケイ酸ガラスとの接合部に於いて前記と同様のクラックが生じる。上記したように、石英ガラスとホウケイ酸ガラスとの間には熱膨張係数に極端な差があり、凝固速度が異なるからである。
【特許文献1】特開2002−190275号公報
【特許文献1】実開昭58−85754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来例は、熱膨張係数に極端な差のあるガラス同士を接合するための手段を開示するものであり、具体的には、石英ガラスと、石英よりも熱膨張係数の大きなガラス(例えばホウケイ酸ガラス)との間に、熱膨張係数が少しずつ異なるガラス(中間ガラス)を何種類か挟んで介在させて、熱膨張係数の差による歪みを緩和させようとするものである。
【0007】
しかしながらこの中間ガラスはリング状であるので、特許文献1のように積層状としても、或いは特許文献2のように軸方向に配列しても、大型化してしまうことは避けられず、工程に手間がかかり、コストが嵩み、それでもなおクラック発生の根本的解決にならない欠点があった。
【0008】
よって本発明は、上述した従来技術の欠点、不都合、不満を解消するべく開発されたもので、ガラスバルブ部分でのクラックの発生を極力抑止して放電ランプの寿命を伸ばしながらも、構造を簡潔にし、製造工程を少なくし、廉価に製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の放電ランプは、直線円筒形状の封体ガラスの開口端を電極棒を貫通させた封止体で封着する放電ランプであって、熱膨張係数が低く、高硬質ガラス製である封体ガラスの端面と、この封体ガラスよりも熱膨張係数の高い前記した電極棒とほぼ同等の熱膨張係数を有し且つ硬質ガラス製である封止体の端面とを、圧着した状態でこの圧着部分に超短光パルスレーザーを照射して接合したことを特徴とする構成である。
【0010】
この場合、封体ガラスを石英ガラス、電極棒をタングステン、封止体をホウケイ酸ガラスで成形したことを特徴とする。
【0011】
また、請求項1、2に記載の放電ランプの成形方法は、直線円筒形状の封体ガラスの端面と、この封体ガラスと同径の円筒体の端面とを、圧着した状態でこの圧着部分に超短光パルスレーザーを照射して接合し、前記した円筒体と同材料のビードガラス内に電極棒を貫通封着した組合せ物を、前記した円筒体内に嵌め込んでビードガラスを溶融一体化させ、円筒体とビードガラスとで封止体を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上述した構成にあって、先ず、封止体を構成する硬質ガラスは、貫通封着される電極棒と熱膨張係数がほぼ等しいので一体化し易く、電極棒を貫通封着する成形後に封止体に応力が発生することはなく、従ってクラックが生じることはない。
【0013】
また、高硬質ガラス製である封体ガラスと封止体の硬質ガラスとは熱膨張係数に著しい差があるが、両者の端面同士を圧着させて隙間のない状態で超短光パルスレーザーを照射することにより、完全な接合が達成され、クラックが生じることがない。
【0014】
即ち、両者の圧着部分に超短光パルスレーザーを集光照射して走査すると、集光点近傍はレーザー光のパワー密度が極めて高くなるので、多光子吸収によりプラズマが発生する。このプラズマによる局所的な熱発生の反応で、溶解と再凝固による接合が達成されるのである。ここでの溶解から再凝固まではマイクロ秒単位であるため、封体ガラスと封止体への熱的影響は少なく、両者の熱膨張係数が異なっていても完全な接合が行われ、クラックが生じることはない。
【0015】
従って、両者の接合に際して中間ガラス等の他の部材を必要とせず、構造を簡潔にして小型化が図れ、製造工程が簡略化できて廉価に製造でき、クラックの発生を極力抑止して寿命を伸ばすことができる等、多くの優れた作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の放電ランプ1は、直線円筒形状の封体ガラス2の開口端に封止体3を密封接合した構成で、封止体3には電極棒4が貫通封着され、封体ガラス2内の電極棒4先端には電極5が装着されている。
【0017】
封体ガラス2は、発光効率を向上させるために高温度になることに鑑み、また機械的強度を確保するため、軟化点の高い高硬質ガラスである石英ガラスが用いられる。周知のように、石英ガラスは熱膨張係数が低い。
【0018】
封止体3は、ホウケイ酸ガラス製の円筒体3aと、タングステン製の電極棒4が貫通封着した同じくホウケイ酸ガラス製のビードガラス3bとで構成される。電極棒4の材料であるタングステンは金属では最も熱膨張係数が低いが、石英ガラスと比較すれば著しく高い。但し、ホウケイ酸ガラスは電極棒4にほぼ近い熱膨張係数であるので、ホウケイ酸ガラス製のビードガラス3bに電極棒4を溶融封止しても電極棒4近傍のビードガラス3b部分に応力が発生することはなく、クラックが生じることはない。
【0019】
そこで封体ガラス2の開口端面と円筒体3aの開口端面とを圧着して接合し、ビードガラス3b内に電極棒4を貫通封着した組合せ物を円筒体3a内に嵌め込んでビードガラス3bを溶融させ、一体化した円筒体3aとビードガラス3bとで封止体3を形成して、放電ランプ1を構成するのである。
【0020】
次に、封体ガラス2の開口端面と円筒体3aの開口端面とを圧着して接合するための超短光パルスを発信するレーザーとしては、フェムト秒レーザーが使用される。フェムト秒レーザーは超短パルス幅と超強電場という特徴を有し、レーザーのエネルギーが材料の熱拡散速度に較べて充分に早く照射部に集中して注入することができるため、熱の影響が少ないとされており、従って石英ガラスとホウケイ酸ガラスとに熱膨張を発生させることがない。それ故、両者の熱膨張係数に著しい相違があっても、応力が発生することはなく、クラックも生じないのである。
【実施例1】
【0021】
本発明の放電ランプ1の成形工程は、先ず、図2(a)で示すように、直線円筒形状である石英ガラス製の封体ガラス2の両開口端面に、封体ガラス2と同径のホウケイ酸ガラス製の円筒体3aの端面を夫々圧着し、上記のようにフェムト秒レーザーで接合する。圧着部分に集光照射するフェムト秒レーザーは、図1の図示A方向からビームを走査するものであり、封体ガラス2と円筒体3aの一体物を軸回転させることにより両者の接合を達成する。円筒体3aの一方は短筒であり、他方は長筒である。
【0022】
また、フェムト秒レーザーの具体例としては、例えば、チタン・サファイアレーザー、クロム・フォルステライトレーザー、エキシマーレーザー等が考えられる。
【0023】
一方、同じく図2(a)で示すように、タングステン製の電極棒4にホウケイ酸ガラス製のビードガラス3bを巻回溶融して陽極用の組合せ物を予め成形する。そして、一方の短筒形状の円筒体3a内にこの陽極用の組合せ物を嵌め込み、円筒体3aとビードガラス3bとを加熱溶融させて一体にし、封止体3を形成する(図2(b))。
【0024】
また、予め電極5を装着したタングステン製の電極棒4にホウケイ酸ガラス製のビードガラス3bを巻回溶融した陰極用の組合せ物を、図2(b)で示すように予め成形しておき、この陰極用の組合せ物を長筒形状の円筒体3aの開口端から電極5が封体ガラス2の端部内に位置するように挿入し、内部を真空にし、次いで所定の希ガスを封入して長筒形状の円筒体3aの開口端を加熱溶融させて封止し、更に円筒体3aと陰極用の組合せ物のビードガラス3bとを加熱溶融させて円筒体3aと一体にし、封止体3を形成する(図2(c))。
【0025】
図2(d)では、残余の長筒形状の円筒体3aを封止体3部分で切離して処分ガラス3a’とし、完成品たる放電ランプ1を得る。
【0026】
尚、放電ランプ1の内部に封入される希ガスとしては、例えばキセノンガス等であり、電極5は、例えば、タンタル、ニオブ、タングステン等の何れかによって成形される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る放電ランプの一部を示す断面図である。
【図2】本発明に係る放電ランプの成形工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 放電ランプ
2 封体ガラス
3 封止体
3a 円筒体
3b ビードガラス
4 電極棒
5 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線円筒形状の封体ガラス(2)の開口端を電極棒(4)を貫通させた封止体(3)で封着する放電ランプであって、熱膨張係数が低く、高硬質ガラス製である封体ガラス(2)の端面と、該封体ガラス(2)よりも熱膨張係数の高い前記電極棒(4)とほぼ同等の熱膨張係数を有し且つ硬質ガラス製である封止体(3)の端面とを、圧着した状態で該圧着部分に超短光パルスレーザーを照射して接合したことを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
封体ガラス(2)を石英ガラス、電極棒(4)をタングステン、封止体(3)をホウケイ酸ガラスで成形したことを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
請求項1、2に記載の放電ランプの成形方法であって、直線円筒形状の封体ガラス(2)の端面と、該封体ガラス(2)と同径の円筒体(3a)の端面とを、圧着した状態で該圧着部分に超短光パルスレーザーを照射して接合し、前記円筒体(3a)と同材料のビードガラス(3b)内に電極棒(4)を貫通封着した組合せ物を、前記円筒体(3a)内に嵌め込んでビードガラス(3b)を溶融一体化させ、円筒体(3a)とビードガラス(3b)とで封止体(3)を形成することを特徴とする放電ランプの成形方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−59764(P2008−59764A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231556(P2006−231556)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(504369672)新光和株式会社 (3)
【Fターム(参考)】