説明

放電ランプ

【課題】 電極の内部に形成された密閉空間に、電極よりも融点の低い金属よりなる伝熱体が封入されてなる電極を備える放電ランプにおいて、放電ランプの点灯時に、電極の先端部の温度上昇を抑制することができるものでありながら、電極が破損することを防止することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、発光管の内部に一対の電極が対向して配置され、前記一対の電極のうちの少なくとも一方の電極は、その内部に形成された密閉空間内に、電極を構成する金属の融点より低い融点を有する金属よりなる伝熱体が封入された放電ランプにおいて、
前記伝熱体に、293K(ケルビン)において以下の関係1及び関係2を満たす物性を有する、伝熱体とは別体の金属粒子を含有したことを特徴とする。
(関係1) 前記伝熱体の熱膨張係数に比して前記金属粒子の熱膨張係数が小さい
(関係2) 前記伝熱体の密度に比して前記金属粒子の密度が大きい

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電ランプに関し、特に、半導体ウェハ、液晶基板、プリント基板、カラーフィルタなどの露光用光源、或いは、映画館などのスクリーンに対し映像を投影するための画像投影用光源として使用される放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ等の製造工程においては、中心波長365nmの紫外線を放射するショートアーク型放電ランプが使用されている。このような放電ランプにおいては、製造工程におけるスループットを向上させるために、半導体ウェハ等の被処理体への露光を迅速に行うことが必要とされていることから、波長365nmの紫外線の出力を高くすることが要求されている。
【0003】
放電ランプから放射される紫外線の出力を上げると、放電ランプの電子衝突を受ける側の電極の先端部の温度が極めて高い状態になって電極の先端部が溶融して変形することにより、放電アークが不安定になったり、また、電極を構成する物質が蒸発した発光管の内壁面に付着することにより発光管の外方へ照射される紫外線の出力が低下する、という不具合の発生が予測される。従来は、このような不具合の発生を防止するため、電極の内部に冷却水の水路を設けて、放電ランプと別に設けた水冷機構により、電極の内部に冷却水を循環させて電極の先端部の温度上昇を抑制する、所謂水冷式の放電ランプが、特許文献1に開示されている。
【0004】
その一方で、水冷機構を設けることなく電極の先端部の温度上昇を抑制することのできる放電ランプが特許文献2に開示されている。特許文献2に開示された放電ランプは、発光管の内部に一対の電極が対向して配置され、少なくとも一方の電極が、内部に密閉空間が形成された電極本体の内部に、電極本体を構成する金属の融点よりも低い融点を有する金属からなる伝熱体が封入された構成を備えている。同文献に開示される放電ランプによれば、点灯時に溶融した伝熱体が電極本体の内部に形成された密閉空間内で対流することにより、電極の先端部で発生した熱を溶融した伝熱体を介して電極の後端部方向へ効率良く輸送することができるため、電極の先端部の温度上昇を抑制することができる、とされている。
【0005】
【特許文献1】特許第3075094号
【特許文献2】特開2004−6246号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示される放電ランプにおいては、放電ランプの点灯時に電子衝突を受ける側の電極が破損して、電極本体から漏れ出した伝熱体が発光管の内壁に付着することによって、発光管の外方へ放射される紫外線の出力が低下する、という問題があった。このような問題が発生する原因は、例えば次のように考えられる。
【0007】
すなわち、放電ランプの点灯時に電極の先端部が高温状態になると、電極本体と伝熱体とがそれぞれ熱膨張するが、電極本体の熱膨張係数に比して伝熱体の熱膨張係数が高いことによって、電極本体よりも伝熱体の方が大きく膨張して電極の内壁に対して負荷がかかり、電極がこの負荷に耐えられなくなって破損したものと考えられる。
例えば、特許文献2に開示されているように、W(タングステン)からなる電極の内部にAg(銀)からなる伝熱体が封入されている場合においては、293KでのAgの熱膨張係数は18.9×10−6/Kであり、同温度でのWの熱膨張係数は4.3×10−6/Kであることから、電極の熱膨張に比して伝熱体の熱膨張が過大になることによって電極が破損するものと考えられる。
【0008】
このような問題は、例えば、電極の肉厚を大きくして電極の機械的強度を高くすることによって解決することができると考えられる。ところが、そのようにした場合には、電極の体積に占める伝熱体の体積の割合を減らさざるを得ないため、伝熱体の対流による熱輸送効果が低いものとなって、電極の先端部の温度上昇を十分に抑制することができない、という問題がある。
【0009】
以上から、本発明は、電極の内部に形成された密閉空間に、電極よりも融点の低い金属よりなる伝熱体が封入されてなる電極を備える放電ランプにおいて、放電ランプの点灯時に、電極の先端部の温度上昇を抑制することができるものでありながら、電極が破損することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、発光管の内部に一対の電極が対向して配置され、前記一対の電極のうちの少なくとも一方の電極は、その内部に形成された密閉空間内に、電極を構成する金属の融点より低い融点を有する金属よりなる伝熱体が封入された放電ランプにおいて、
前記伝熱体に、293K(ケルビン)において以下の関係1及び関係2を満たす物性を有する、伝熱体とは別体の金属粒子を含有したことを特徴とする。
(関係1) 前記伝熱体の熱膨張係数に比して前記金属粒子の熱膨張係数が小さい
(関係2) 前記伝熱体の密度に比して前記金属粒子の密度が大きい
【0011】
さらに、前記金属粒子は、前記伝熱体と反応して合金を形成する金属を除く金属からなることを特徴とする。
【0012】
さらに、前記伝熱体と前記金属粒子の組合せが、以下の組合せ1ないし組合せ3のうちの何れかに該当することを特徴とする。
(組合せ1)
前記伝熱体がAg(銀)、Cu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)、Sn(錫)及びPb(鉛)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がW(タングステン)、Ta(タンタル)及びRe(レニウム)のうち何れか一種又は二種以上を含む粒子である。
(組合せ2)
前記伝熱体がCu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)及びSn(錫)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がW(タングステン)、Ta(タンタル)、Re(レニウム)及びMo(モリブデン)のうち何れか一種又は二種以上を含む粒子である。
(組合せ3)
前記伝熱体がAg(銀)、Cu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)、Sn(錫)、Pb(鉛)及びAu(金)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がRe(レニウム)を含む粒子である。
【0013】
さらに、前記放電ランプは、その管軸が垂直方向に配置して点灯される放電ランプであって、前記一方の電極は鉛直方向の上側に配置されることを特徴とする。
【0014】
さらにまた、本発明は、発光管の内部に一対の電極が対向して配置され、少なくとも一方の電極は、基端側に開口を有する有底筒状の基体部と、この基体部の内部空間内に嵌入される蓋部とにより形成される密閉空間内に、前記基体部を構成する金属の融点よりも低い融点を有する金属よりなる伝熱体が封入された放電ランプの製造方法において、少なくとも以下の工程を備えたことを特徴とする。
(工程1)
前記基体部の内部空間内に前記伝熱体を導入する工程
(工程2)
前記基体部の内部空間内に前記伝熱体とは別体の金属粒子を導入する工程
(工程3)
前記工程1及び工程2の後に、前記基体部の内部空間内に前記蓋部を嵌入する工程
(工程4)
前記工程3の後に、前記基体部と前記蓋部とを溶接する工程
【発明の効果】
【0015】
本発明の放電ランプにおいては、密閉空間を有する電極の内部に電極を構成する金属よりも融点の低い金属からなる伝熱体が封入されているので、放電ランプの点灯時に溶融した伝熱体の対流によって、電極の先端部の熱を電極の後端部方向へ輸送することができるため、電極の先端部の温度上昇を抑制することができる。
【0016】
しかも、伝熱体に伝熱体とは別体の金属粒子が含まれており、伝熱体と金属粒子は以下の関係1及び2に示す物性を有しているので、放電ランプの点灯時において、伝熱体の熱膨張量が少なくなり、電極の内壁に加わる負荷が小さくなるので、電極の破損を防止することができる。尚、以下の関係1及び2の「熱膨張係数」及び「密度」は、293K(ケルビン)における数値である。
(関係1) 伝熱体の熱膨張係数に比して金属粒子の熱膨張係数が小さい
(関係2) 伝熱体の密度に比して金属粒子の密度が大きい
【0017】
関係1を満たす必要があるのは、次の理由による。伝熱体に伝熱体とは別体の金属粒子が含まれていることにより、放電ランプの点灯時に、伝熱体の熱膨張が金属粒子によって負荷が低減されると考えられる。ただし、伝熱体の熱膨張係数に比して金属粒子の熱膨張係数が大きいと、伝熱体の熱膨張による負荷を低減するどころか伝熱体以上に金属粒子が熱膨張することになるので、却って、電極の内壁に対する負荷が大きくなって、電極の破損を助長すると考えられるからである。
【0018】
関係2を満たす必要があるのは、次の理由による。伝熱体は、伝熱体を備える電極がその先端部に近付くにつれて次第に高温となることに伴って、電極先端部に近付くにつれて次第に高温となる。そのため、電極の先端部寄りの伝熱体ほど熱膨張量が大きいので、放電ランプの点灯時に金属粒子が電極の底面に沈んでいることが望ましい。従って、放電ランプの点灯時に、金属粒子が伝熱体の融液中に沈んで電極の底面(電極先端部の内面)に位置するようにするため、伝熱体の密度に比して金属粒子の密度を高くすることが必要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の放電ランプの全体の構成を示す正面図である。
発光管10は、石英ガラスからなり、略球状の発光部11の両端にロッド状の封止部12が一体に連続して形成されている。この発光部11内には、各々金属製の陽極14および陰極16よりなる一対の電極が互いに対向するよう配置されている。陽極14,陰極16の各々から伸びる電極芯棒17が、封止部12において保持されると共に、当該封止部12内において気密に設けられた金属箔(不図示)を介して外部リード棒または外部端子に接続され、これに外部電源が接続される。発光部11内には、所定量の水銀、キセノン、アルゴンなどの発光物質や始動用ガスが封入されている。
【0020】
このような放電ランプは、外部電源より電力が供給されることにより、陽極14と陰極16との間でアーク放電が生じて発光するものである。図1の例に示す放電ランプにおいては、陽極14が鉛直方向上方側、陰極16が鉛直方向下方側となる姿勢で配置され、すなわち、発光部11の管軸が、地面に対して垂直方向に支持されて点灯される、垂直点灯型のものである。
【0021】
図2は、陽極14の拡大断面図である。陽極14は、陰極16と対向する先端部14Aが鉛直方向下方に位置する状態で示されている。陽極14は、基体部20と蓋部40とが嵌合されて溶接されることにより形成された密閉空間Cの内部に伝熱体Dが封入されて構成されている。伝熱体Dは、密閉空間C内に満杯に封入されるよりも、多少の空隙を介在させて封入すると効果的である。
【0022】
基体部20は、基端部(陽極14の先端部14Aと反対の端部)の端面に開口21を有する内部空間22が形成された有底円筒状であって、当該基端部に径方向外方に突出する基体部側フランジ部24が形成されている。この基体部側フランジ部24は、径方向に伸びる基体部側平坦面23と、この基体部側平坦面23の外周縁に連続し、先端方向に向かうに従って径方向内方に伸びる基体部側斜面26とを有している。基体部20の内部空間22側の底部22Aには、放電ランプの点灯時に溶融した伝熱体Dがスムーズに対流するよう丸みが形成されている。
この基体部側フランジ部24は、基体部20の基端部に接近した位置に周方向に伸びる環状溝25が形成されており、当該環状溝25が当該基体部側斜面26によって形成されている。そして、基体部側フランジ部24の外径は、基体部20の外径より小さいものとされている。これにより、基体部20と蓋部40の溶接後においても、基体部20の外径より大径となる箇所が形成されることがなく、放電ランプの組み立て時において、基体部20の外径よりも内径の大きいガラス管を使用する必要がない。従って、設計変更の必要もなく、従来の封体を利用できるという利点がある。
【0023】
蓋部40は、全体が円錐台状の蓋部本体41と、この蓋部本体41の底面の中央から突出するよう一体に形成された円柱状の嵌入部42とよりなる。この蓋部本体41は、基体部側フランジ部24と同一の外径を有する蓋部側フランジ部44を有している。この蓋部側フランジ部44は、径方向外方に伸びる蓋部側平坦面43と、この蓋部側平坦面43の外周縁に連続し、基端方向に向かうに従って径方向内方に伸びる円環状の蓋部側斜面46とを有する円錐台形状とされている。そして、嵌入部42は、蓋部側平坦面43から先端方向に突出する状態で形成され、基体部20の内部空間22の内径に適合する外径を有している。
【0024】
そして、基体部20の内部空間22内に蓋部40の嵌入部42が嵌入され、基体部側フランジ部24の基体部側平坦面23に蓋部側フランジ部44の蓋部側平坦面43が当接されて密接され、その状態で重なりあった基体部側フランジ部24の外周縁部と蓋部側フランジ部44の外周縁部とが溶接されて環状の溶接部Yが形成されている。
【0025】
密閉空間C内には、希ガスが所定の圧力となるよう封入されている。具体的には、密閉空間Cの内容積に対して伝熱体Dが50%以上封入されている場合には、希ガスが1気圧以上封入され、これにより、伝熱体Dと密閉空間Cの内表面との界面において気泡の発生が防止される。一方、密閉空間Cの内容積に対して伝熱体Dの封入量が少ない場合には、密閉空間C内を大気圧よりも低い圧力状態とすることにより、伝熱体Dの沸騰を促進させ、沸騰伝達による熱輸送効果を期待することができる。
【0026】
陽極14は、何れも高融点を有する金属からなり、具体的には、タングステン、レニウム、タンタルなど、融点が約3000℃以上の金属からなるものである。これらの中でも特にタングステンが好ましい。同様に、陰極16を構成する物質もタングステンであることが好ましい。一方、伝熱体Dは、電極を構成する金属に比較して、点灯時における融点が低い金属からなり、具体的に電極がタングステンにより構成されている場合には、Ag(銀)、Cu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)、Sn(錫)、Pb(鉛)、Au(金)などが用いられる。
【0027】
このような本発明に係る陽極14には、伝熱体Dの他に、伝熱体Dとは別体である金属粒子Mが封入されている。金属粒子Mは、上記の関係1、2を満たすよう伝熱体Dとの関係を考慮して選択する必要があり、例えば、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Re(レニウム)及びMo(モリブデン)を用いることができる。表1は、伝熱体Dと金属粒子Mの物性を示す。表1に示す熱膨張係数及び密度は、293Kにおける値である。
【0028】
【表1】

【0029】
詳細は後述する実験結果に示しているが、例えば、伝熱体Dと金属粒子Mの組合せは以下のようになる。
(組合せ1)
前記伝熱体がAg(銀)、Cu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)、Sn(錫)及びPb(鉛)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がW(タングステン)、Ta(タンタル)及びRe(レニウム)のうち何れか一種又は二種以上を含む粒子である。
(組合せ2)
前記伝熱体がCu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)及びSn(錫)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がW(タングステン)、Ta(タンタル)、Re(レニウム)及びMo(モリブデン)のうち何れか一種又は二種以上を含む粒子である。
(組合せ3)
前記伝熱体がAg(銀)、Cu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)、Sn(錫)、Pb(鉛)及びAu(金)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がRe(レニウム)を含む粒子である。
【0030】
例えば、陽極14の密閉空間Cには、伝熱体Dと共にWの粒子を封入することもできるし、また、伝熱体Dと共にWの粒子とTaの粒子を封入することもできる。
【0031】
金属粒子Mは、放電ランプの点灯時、消灯時に係らずとけずに粒状であることが好ましい。また、金属粒子Mは、陽極14や伝熱体Dと反応して合金を形成しない金属であることが望ましい。ただし、放電ランプの点灯時に粒形状を維持することができるのであれば、陽極14や伝熱体Dと多少は反応するものであっても良い。
仮に、金属粒子Mが粒形状を維持することができないと、放電ランプの点灯時に伝熱体Dの熱膨張による負荷を低減できず、また、陽極14と金属粒子Mとが反応することによって電極の割れ、脆化などが生じて電極性能を損なう虞があるからである。
【0032】
このような本発明に係る陽極14は、例えば以下の工程を経て製造される。
(工程1)
基体部20の内部空間22内に伝熱体Dを導入する。
(工程2)
基体部20の内部空間22内に金属粒子Mを導入する。
(工程3)
工程1及び2の後に、基体部側平坦面23上に蓋部側平坦面43を当接した状態になるよう、基体部20の内部空間22に対し開口21から蓋部40の嵌入部42を嵌入させる。
(工程4)
工程3の後に、互いに隣接する基体部側フランジ部24および蓋部側フランジ部44の外周縁部分をその全周にわたって溶接することで溶接部Yを形成する。
【0033】
以上のような本発明の放電ランプによれば、密閉空間を有する電極の内部に電極を構成する金属よりも融点の低い金属からなる伝熱体が封入されているので、放電ランプの点灯時に溶融した伝熱体の対流によって、電極の先端部の熱を電極の後端部方向へ輸送することができるため、電極の先端部の温度上昇を抑制することができる。
しかも、陽極14の内部に、伝熱体Dと伝熱体Dとは別体の金属粒子Mとが封入され、伝熱体Dと金属粒子Mとが上記した関係1及び関係2を満たすよう選択されていることから、次の理由により、放電ランプの点灯時に陽極14が破損することを確実に防止することができると考えられる。
【0034】
図3に示すように、一定の体積の空間X内に、(A)密閉空間C内に伝熱体Dと金属粒子Mとが封入されている場合、(B)密閉空間C内に伝熱体Dのみが封入されている場合とを比較して検討する。同一体積の空間Xにおける熱膨張量を検討すると、(A)の場合には、金属粒子が含まれている分だけ、(B)の場合と比較して相対的に熱膨張量が小さくなる。従って、本発明の放電ランプのように、密閉空間C内に伝熱体Dの他に金属粒子Mを封入することにより、密閉空間C内に伝熱体Dのみを封入した場合と比較して、同一体積の空間における熱膨張量が小さくなるために、陽極14の内壁に対する負荷を小さくすることができるので、陽極14の破損を防止することができる。
【0035】
〔実験1〕
以下に本発明の効果を確認するために行った実験1について説明する。図1及び図2に示す構成に従い、以下の設計によって実験用ランプを7種類作製した。実験1は、伝熱体DがAgであり、金属粒子MがW、Ta、Re、Fe、Hf及びBの何れかであるか或いは金属粒子Mを備えていない。
<放電ランプ>
発光部11の内容積:1830cm
封入水銀量:28.2mg/cm
立上り電流:180A
陽極14の全長:55mm
陽極14の外径:30mm
陽極14(基体部20)の肉厚:4mm
密閉空間Cの体積に対する伝熱体Dの体積の割合:60%
密閉空間Cの体積に対する金属粒子Mの体積の割合:10%
【0036】
このような7種類の実験用ランプのそれぞれについて、立上り電流180Aで点灯駆動させたときに陽極14が破損するかどうかを目視によって確認する実験を行った。その実験結果を表2に示す。表2において、『○』は破損無しを、『×』は破損有りを示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示す実験結果より、以下の事実が判明した。
金属粒子MがW、Ta及びReであるランプAg−2、Ag−3及びAg−4は、点灯試験を10回繰り返したが陽極14が破損しなかった。
金属粒子Mが入っていないランプAg−1は、伝熱体Dの熱膨張に陽極14が耐えることが出来ずに陽極14が破損した。
金属粒子MがFe、Hf及びBであるランプAg−5、Ag−6及びAg−7は、陽極14が破損した。
【0039】
実験1の7種類の実験用ランプについて、点灯試験後の陽極14内の伝熱体D中に金属粒子Mがどういう形状で存在しているか、それぞれの陽極を切断して調査を行った。
ランプAg−2、Ag−3及びAg−4は、W、Ta及びRe粒が陽極14の底部22Aに沈んでいた。少量は、伝熱体Dの上方側にも分布していた。W、Ta及びRe粒は、ランプが消灯するとほとんどが電極先端に沈んだものと推測する。
ランプAg−6は、Hf粒が陽極14の底部22Aに沈んでいた。少量は、伝熱体Dの上方側にも分布していた。Hf粒は、ランプが消灯するとほとんどが陽極14の先端部14Aに沈んだものと推測する。
ランプAg−5、Ag−7は、Fe、B粒が伝熱体Dの上方側で粒形状を維持していた。しかし、多少の金属粒は伝熱体Dの内部に分布が見られた。
【0040】
この実験1の結果より、以下のことが推測される。
ランプAg−2、Ag−3及びAg−4は、表1に示すようにW、Ta及びReの密度がそれぞれAgの密度よりも大きいので、Agの融液中において陽極14の底部22A付近にW、Ta及びReの粒子が沈んでいたと考えられる。しかも、表1に示すように、W、Ta及びReの熱膨張係数がそれぞれAgの熱膨張係数よりも小さいために、W、Ta及びReの粒子によってAgの熱膨張による負荷が低減されることにより、陽極14(基体部20)の内壁に対する負荷が低減されて陽極14が破損しなかったと考えられる。
ランプAg−1は、金属粒子を備えていないので、Agの熱膨張に陽極14が耐えることができずに陽極14が破損したものと考えられる。
ランプAg−6は、表1に示すように、Hfの熱膨張係数がAgの熱膨張係数よりも大きいことにより、Agの熱膨張による負荷を低減することができずに陽極14が破損したと考えられる。
ランプAg−5、Ag−7は、表1に示すように、Fe、Bの密度がAgの密度よりも小さいために、陽極14の底部22A付近にFe、Bが存在しなかったと考えられる。従って、Fe、Bの粒子によってAgの熱膨張による負荷を低減することができずに、陽極14が破損したものと考えられる。
【0041】
以上の実験1の結果より、伝熱体DがAgである場合には、金属粒子MとしてW、Ta、及びReを用いることができることが判明した。
【0042】
〔実験2〕
実験2では、伝熱体DがCuであり、金属粒子MがW、Ta、Re、Mo、Hf及びNbの何れかであるか或いは金属粒子Mを入れていない陽極14を備え、実験1と同様の設計・仕様を有する7種類の実験用ランプを作製した。この7種類の実験用ランプについて実験1と同様にして実験を行った。その結果を表3に示す。表3において、『○』は破損無しを、『×』は破損有りを示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示す実験結果より、以下の事実が判明した。
金属粒子MがW、Ta、Re、MoであるランプCu−2、Cu−3、Cu−4、Cu−5は、点灯試験を10回繰り返したが陽極14が破損しなかった。
金属粒子Mが入っていないランプCu−1は、陽極14が破損した。
金属粒子MがHf、NbであるランプCu−6、Cu−7は、陽極14が破損した。
【0045】
実験2の7種類の実験用ランプについて、点灯試験後の陽極内の伝熱体中に金属粒がどういう形状で存在しているか、それぞれの陽極を切断して調査を行った。
ランプCu−2、Cu−3、Cu−4、Cu−5は、W、Ta、Re、Moの粒子が陽極14の底部22Aの付近に沈んでいた。これらの粒子のうちの少量は、伝熱体Dの上方側にも分布していた。これらの金属粒子は、ランプが消灯するとほとんどが陽極14の底部22Aの付近に沈んだものと推測する。
ランプCu−6は、Hfの粒子が陽極14の底部14の付近に沈んでいた。これらの粒子のうちの少量は、伝熱体Dの上方側にも分布していた。これらの金属粒子は、ランプが消灯するとほとんどが陽極14の底部22Aの付近に沈んだものと推測する。
ランプCu−7は、Nbの粒子が伝熱体Dの上方側で粒形状を維持していた。しかし、多少のNbの粒子は伝熱体Dの内部に分布が見られ、陽極14の底部22Aの付近にNbの粒子が殆ど沈んでいなかった。
【0046】
この実験2の結果より、以下のことが推測される。
ランプCu−2、Cu−3、Cu−4、Cu−5は、表1に示すようにW、Ta、Re、Moの密度がCuの密度よりも大きいので、ランプの点灯時にCuの融液中において陽極14の底部22Aの付近にW、Ta、Re及びMoの粒子が沈んでいたと考えられる。しかも、表1に示すようにW、Ta、Re、Moの熱膨張係数がCuの熱膨張係数よりも小さいため、W、Ta、Re、Moの粒子によってCuの熱膨張による負荷が低減されることにより、陽極14の内壁に対する負荷が低減されて、陽極14が破損しなかったと考えられる。
ランプCu−1は、金属粒子を備えていないので、Cuの熱膨張に陽極14が耐えることができずに陽極14が破損したものと考えられる。
ランプCu−6は、表1に示すようにHfの熱膨張係数がCuの熱膨張係数よりも大きいことにより、Cuの熱膨張による負荷を低減することができずに、陽極14が破損したと考えられる。
ランプCu−7は、表1に示すようにNbの密度がCuの密度よりも小さいために、陽極14の底部22Aの付近にNbが存在しなかったと考えられる。従って、Cuの熱膨張をNbによって十分に負荷を低減することができずに、陽極14が破損したと考えられる。
【0047】
以上の実験2の結果より、伝熱体DがCuである場合には、金属粒子MとしてW、Ta、Re及びMoを用いることができることが判明した。
【0048】
〔実験3〕
実験3では、伝熱体DがInであり、金属粒子MがW、Ta、Re、Mo及びHfの何れかであるか或いは金属粒子Mを入れていない陽極14を備え、実験1と同様の設計・仕様を有する6種類の実験用ランプを作製した。この6種類の実験用ランプについて実験1と同様にして実験を行った。その結果を表4に示す。表4において、『○』は破損無しを、『×』は破損有りを示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4に示す実験結果より、以下の事実が判明した。
金属粒子MがW、Ta、Re、MoであるランプIn−2、In−3、In−4、In−5は、点灯試験を10回繰り返したが陽極14が破損しなかった。
金属粒子Mが入っていないランプIn−1は、陽極14が破損した。
金属粒子MがHfであるランプIn−6は、陽極14が破損した。
【0051】
実験3の6種類の実験用ランプについて、点灯試験後の陽極内の伝熱体中に金属粒がどういう形状で存在しているか、それぞれの陽極を切断して調査を行った。
ランプIn−2、In−3、In−4、In−5は、W、Ta、Re、Moの粒子が陽極14の底部22Aの付近に沈んでいた。これらの粒子のうちの少量は、伝熱体Dの上方側にも分布していた。これらの金属粒子は、ランプが消灯するとほとんどが陽極14の底部22Aの付近に沈んだものと推測する。
ランプIn−6は、Hfの粒子が陽極14の底部22Aの付近に沈んでいた。これらの粒子のうちの少量は、伝熱体Dの上方側にも分布していた。これらの金属粒子は、ランプが消灯するとほとんどが陽極14の底部22Aの付近に沈んだものと推測する。
【0052】
この実験3の結果より、以下のことが推測される。
ランプIn−2、In−3、In−4、In−5は、表1に示すようにW、Ta、Re、Moの密度がInの密度よりも大きいので、ランプの点灯時にInの融液中において陽極14の底部22Aの付近にW、Ta、Re及びMoの粒子が沈んでいたと考えられる。しかも、表1に示すようにW、Ta、Re、Moの熱膨張係数がInの熱膨張係数よりも小さいため、W、Ta、Re、Moの粒子によってInの熱膨張による負荷が低減されることにより、陽極14の内壁に対する負荷が低減されて、陽極14が破損しなかったと考えられる。
ランプIn−1は、金属粒子を備えていないので、Inの熱膨張に陽極14が耐えることができずに陽極14が破損したものと考えられる。
ランプIn−6は、表1に示すようにHfの熱膨張係数がInの熱膨張係数よりも大きいことにより、Inの熱膨張による負荷を低減することができずに、陽極14が破損したと考えられる。
【0053】
以上の実験3の結果より、伝熱体DがInである場合には、金属粒子MとしてW、Ta、Re及びMoを用いることができることが判明した。
【0054】
以上の実験1ないし実験3の結果を統括して検討すると、(関係1)伝熱体Dの熱膨張係数に比して金属粒子Mの熱膨張係数が小さい、(関係2)伝熱体Dの密度に比して金属粒子Mの密度が大きい、という2つの関係を満たすよう伝熱体Dと金属粒子Mとを選択することによって、陽極14の破損を防止することができると考えられる。このような実験結果を踏まえると、以下の表5に示すような伝熱体Dと金属粒子Mとの組合せを備える陽極14においても、破損を防止することができると推測される。
【0055】
【表5】

【0056】
さらに検討すると、上記の実験1〜3より、伝熱体がAgである場合には表2の判定よりW、Ta及びReの金属粒子を用いることができ、また、伝熱体がCu、Inである場合には表3、4の判定からW、Ta、Re及びMoの金属粒子を用いることができることが判明している。
このことから、例えば、Ag、Cuを混合した金属よりなる伝熱体に、W、Ta及びReのうち何れかの金属粒子を混ぜた場合であっても、(関係1)伝熱体の熱膨張係数に比して金属粒子の熱膨張係数が小さく、(関係2)伝熱体の密度に比して金属粒子の密度が大きいという条件を逸脱することはないので、陽極の破損を防止するという効果を期待することができると考えられる。また、主成分がAg、副成分がCuである伝熱体に、主成分がW、副成分がTaである金属粒子を混ぜた場合であっても、同様に関係1、2に大きな影響を与えないであろうから、陽極の破損を防止するという効果を期待することができると考えられる。従って、関係1及び関係2を逸脱しない範囲で、一種又は二種以上の金属よりなる伝熱体に一種又は二種以上の粒子よりなる金属粒子を混ぜることもできる。さらには、一種又は二種以上の金属よりなる伝熱体に対して当該金属以外の微量の不純物を添加した場合であっても、関係1、2を逸脱しない範囲においては、陽極の破損を防止するという本発明の効果を期待することができると考えられる。
【0057】
なお、本発明の電極構造は、陽極を鉛直方向の上方側に配置し、陰極を鉛直方向の下方側に配置する放電ランプ以外にも適用することができる。要は、電極の内部に形成された密閉空間内に伝熱体と金属粒子とが封入された陰極を鉛直方向の上方側に配置し、陽極を鉛直方向の下方側に配置することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の放電ランプの全体の構成を示す正面図である。
【図2】陽極14の拡大断面図である。
【図3】本発明の効果を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0059】
10 発光管
11 発光部
12 封止部
14 陽極
16 陰極
17 電極芯棒
20 基体部
21 開口
22 内部空間
22A 底部
23 基体部側平坦面
24 基体部側フランジ部
25 環状溝
26 基体部側斜面
40 蓋部
41 蓋部本体
42 嵌入部
43 蓋部側平坦面
44 蓋部側フランジ部
C 密閉空間
D 伝熱体
M 金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管の内部に一対の電極が対向して配置され、
前記一対の電極のうちの少なくとも一方の電極は、その内部に形成された密閉空間内に、電極を構成する金属の融点より低い融点を有する金属よりなる伝熱体が封入された放電ランプにおいて、
前記伝熱体に、293K(ケルビン)において以下の関係1及び関係2を満たす物性を有する、伝熱体とは別体の金属粒子を含有したことを特徴とする放電ランプ。
(関係1) 前記伝熱体の熱膨張係数に比して前記金属粒子の熱膨張係数が小さい
(関係2) 前記伝熱体の密度に比して前記金属粒子の密度が大きい
【請求項2】
前記金属粒子は、前記伝熱体と反応して合金を形成する金属を除く金属からなることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記伝熱体と前記金属粒子の組合せが、以下の組合せ1ないし組合せ3のうちの何れかに該当することを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
(組合せ1)
前記伝熱体がAg(銀)、Cu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)、Sn(錫)及びPb(鉛)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がW(タングステン)、Ta(タンタル)及びRe(レニウム)のうち何れか一種又は二種以上を含む粒子である。
(組合せ2)
前記伝熱体がCu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)及びSn(錫)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がW(タングステン)、Ta(タンタル)、Re(レニウム)及びMo(モリブデン)のうち何れか一種又は二種以上を含む粒子である。
(組合せ3)
前記伝熱体がAg(銀)、Cu(銅)、In(インジウム)、Zn(亜鉛)、Sn(錫)、Pb(鉛)及びAu(金)のうち何れか一種又は二種以上を含む金属であり、前記金属粒子がRe(レニウム)を含む粒子である。
【請求項4】
前記放電ランプは、その管軸が垂直方向に配置して点灯される放電ランプであって、前記一方の電極は鉛直方向の上側に配置されることを特徴とする請求項1〜3に記載の放電ランプ。
【請求項5】
発光管の内部に一対の電極が対向して配置され、
少なくとも一方の電極は、基端側に開口を有する有底筒状の基体部と、この基体部の内部空間内に嵌入される蓋部とにより形成される密閉空間内に、前記基体部を構成する金属の融点よりも低い融点を有する金属よりなる伝熱体が封入された放電ランプの製造方法において、少なくとも以下の工程を備えたことを特徴とする。
(工程1)
前記基体部の内部空間内に前記伝熱体を導入する工程
(工程2)
前記基体部の内部空間内に前記伝熱体とは別体の金属粒子を導入する工程
(工程3)
前記工程1及び工程2の後に、前記基体部の内部空間内に前記蓋部を嵌入する工程
(工程4)
前記工程3の後に、前記基体部と前記蓋部とを溶接する工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−152046(P2009−152046A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328692(P2007−328692)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】