説明

放電加工方法

【課題】危険物を使用せず加工精度および加工効率が向上する放電加工方法を提供する。
【解決手段】工具電極11と工作物2との間に介在する含水加工液12は、水分が3質量%以上40質量%以下、導電率が100μS/cm以下、40℃における動粘度が0.5mm2/s以上30mm2/s以下である。工具電極11と工作物2との間に、含水加工液12を介在させた状態でパルス電圧を印加する。パルス電圧に同期してパルス電圧より高い電圧値の重畳電圧を印加し、工具電極11と工作物2との間に100V以上2000V以下の加工電圧を印加し、放電加工する。高電圧重畳回路15から流れる電流は、加工に影響がない小さい電流値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水加工液を用い重畳電圧を印加して放電加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性媒体内で電極と導電性の被加工物との間に放電し、被加工物を高精度に加工する放電加工方法が知られている。この放電加工方法で利用する絶縁性媒体として、電極消耗率が小さい油性放電加工液を用いる方法が工業的に広く利用されている。
一方、油性放電加工液を用いる場合では、火災発生の危険性があることから、火災発生防止のための設備が別途必要となる。このことから、含水放電加工液を用いる方法も知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
ところで、放電加工で仕上加工をする場合、加工精度を上げるために工具電極と被加工物との極間を比較的に狭く設定する必要がある。
しかしながら、極間を狭くした場合、放電加工で生じた加工屑や加工油の熱分解生成物などの影響などにより、安定した放電加工が困難となる。このため、放電加工で仕上げ加工する場合、加工速度を速くすることが難しい。
【0004】
ところで、放電加工の極間における平均電圧は、以下の式(1)から求められる。
{(放電遅れ時間×開放電圧)+(パルス幅×放電電圧)+(休止時間×0V)}/
(放電遅れ時間+パルス幅+休止時間) …(1)
ここで、パルス間の電圧を印加しない時間を休止時間、電圧を印加しているが極間に電流が流れていない時間を放電遅れ時間、この時、極間にかかる電圧を開放電圧、絶縁破壊が生じた後の放電中の開放電圧よりも低い電圧を放電電圧という。
【0005】
この式(1)から、同一の加工条件(同一のパルス幅と休止時間)における極間の平均電圧は、開放電圧と、放電遅れ時間に影響されることが分かる。すなわち、極間の平均電圧を上げるためには、開放電圧が同じであれば放電遅れ時間を長くする必要がある。このため、放電遅れ時間を長くするには、極間を広げればよい。
一方、放電遅れ時間が長くなると、放電頻度が低下して加工速度が遅くなる。このため、加工速度を向上するために放電頻度を増大させる必要がある。
このことから、高電圧を重畳して極間に印加して放電頻度を増大させることで極間を広げても加工速度を向上できると考えられる。このような高電圧を重畳して放電加工する方法として、各種方法が知られている(例えば、特許文献3−5参照)。
【0006】
具体的には、特許文献3に記載の方法は、放電部位で発生するプラズマを消沈させ、次の放電が他の位置で発生して、加工を広く分散させるべく、加工電圧に同期して、工具電極に局所的にパルス状の高電界を重畳する。
また、特許文献4に記載の方法は、放電加工液として金属または半金属の粉末物質を混入したものを用いる。そして、極間に主電源回路から加工電流を供給して高電圧を発生させるとともに、重畳回路を構成する補助電源にて高電圧を印加する。
そして、特許文献5に記載の方法は、パルス電圧発生部から放電パルスを発生させ、高一定傾斜で電圧が上昇するパルスを電圧重畳部で放電パルスに同期させ、極間に印加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−77414号公報
【特許文献2】特開平5−86393号公報
【特許文献3】特開平7−256516号公報
【特許文献4】特開平7−24636号公報
【特許文献5】特開2002−36030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、極間を広く設定することで、加工屑が飛散しやすくなり、また放電時に発生するガスが放電位置から逃げやすくなるので、アーク放電などの異常放電状態を防ぐことができ、また、開放電圧も安定するため、サーボ電圧と平均電圧とのばらつきが生じにくくなり、安定した加工が得られる。一方、上記式(1)に示すように、放電遅れ時間が長くなり、放電頻度が低下して加工速度の向上が望めないおそれがある。
また、極間を広く設定すると、被加工物の表面における単発放電痕が小さくなり、また放電痕の深さが浅くなる可能性がある。このことは、重畳電圧を印加して仕上げ加工しても加工面の表面粗さに悪影響を及ぼすことなく、加工速度が向上する可能性がある。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みて発明者が鋭意研究してなされたもので、加工精度および加工効率の向上が得られる放電加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の放電加工方法は、工具電極と被加工物との間に、含水加工液を介在させた状態でパルス電圧を印加し、前記被加工物を放電加工する放電加工方法であって、前記含水加工液として、水分が3質量%以上40質量%以下で含有され、導電率が100μS/cm以下、40℃における動粘度が0.5mm2/s以上30mm2/s以下のものが用いられ、前記パルス電圧に同期して前記工具電極と前記被加工物との間に前記パルス電圧より高い電圧値の重畳電圧を印加することで、前記工具電極と前記被加工物との間に100V以上2000V以下の加工電圧を印加することを特徴とする。
本発明では、水分が3質量%以上40質量%以下で含有され、導電率が100μS/cm以下、40℃における動粘度が0.5mm2/s以上30mm2/s以下の含水加工液が介在する工具電極と被加工物との間に、パルス電圧およびこのパルス電圧に同期してパルス電圧より高い電圧の重畳電圧を印加することで、工具電極と被加工物との間に100V以上2000V以下の加工電圧を印加する。
このことにより、工具電極と被加工物との極間を広く設定でき、放電加工時に生じる加工屑が飛散しやすくなり、また放電時に発生するガスが放電位置から逃げやすくなって、異常放電が発生し難くなり、安定して放電加工できる。また、水分を3質量%以上40質量%以下で含有するため、放電による引火は生じず、設備を比較的に簡易にできるとともに、取り扱いやすい粘度で放電加工操作が容易となり、油性の加工油より高い導電性となり、放電頻度を増大でき、加工速度を向上できる。したがって、仕上げ加工も可能な良好な加工精度で、効率よく放電加工できる。
【0011】
本発明では、前記含水加工液の水分は、8質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
この発明では、水分が8質量%以上30質量%以下の含水加工液を用いることで、放電による引火を防止できるとともに、粘性が大きくなり過ぎず、放電加工操作が容易となり、加工精度を向上できる。
【0012】
本発明では、前記含水加工液の導電率は、50μS/cm以下であることが好ましい。
この発明では、導電率が50μS/cm以下の含水加工液を用いるため、工具電極や被加工物が腐蝕することを防止でき、工具電極の寿命をより向上できるとともに、より良好に仕上げ加工できる。
【0013】
本発明では、前記含水加工液の40℃における動粘度は、1mm2/s以上20mm2/s以下であることが好ましい。
本発明では、40℃における動粘度が1mm2/s以上20mm2/s以下の含水加工液を用いるため、揮発による組成変化を防止でき、安定して放電加工ができるとともに、工具電極と被加工物との間から加工屑や加工液の熱分解生成物などを迅速に排出させることができ、安定した放電が得られ、良好な加工精度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における放電加工機を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[放電加工機の構成]
以下、本発明の放電加工方法を実施する放電加工機の構成を、図面を参照して説明する。
図1において、放電加工機1は、工具電極11と被加工物である工作物2との間に、含水加工液12を介在させた状態でパルス電圧を印加し、工作物2を放電加工する装置である。
放電加工機1は、工具電極11と、パルス電圧を発生させる放電加工機電源13と、電流センサー14と、重畳電圧を発生させる高電圧重畳回路15と、含水加工液12を貯留する貯留タンク16と、工作物2を載置固定する加工テーブル17と、工具電極11を保持する図示しない保持部などを備えている。なお、電流センサー14は、必ずしも必要としない。
【0016】
放電加工機電源13は、例えば開放電圧の100Vのパルス電圧をパルス状に出力する。放電加工機電源13としては、各種高周波電源回路を備えた装置が利用できる。
この放電加工機電源13の正極には、逆流阻止のためのダイオードD1を介して工作物2が接続される。また、放電加工機電源13の負極には、電流センサー14および逆流阻止のためのダイオードD2の直列回路を介して、工具電極11が接続される。
工具電極11は、例えば銅などの導電材料により、加工形状に応じて所定の形状に形成されている。この工具電極11は、工作物2に対して相対的に移動可能に、図示しない保持部に保持される。すなわち、工具電極11は、XYZ軸方向の移動が可能で極間を制御するためのサーボ機構が備え付けられた保持部に取り付けられている。
電流センサー14としては、放電加工機電源13、ダイオードD1、工作物2、工具電極11、およびダイオードD2の閉回路に流れる電流を測定可能ないずれのセンサーを利用できる。
【0017】
高電圧重畳回路15は、放電加工機電源13のパルス電圧に同期して、工具電極11および工作物2間の極間に重畳電圧を印加する。
この高電圧重畳回路15の正極は、逆流阻止のためのダイオードD3を介して工作物2が接続される。高電圧重畳回路15の負極は、電流センサー14と放電加工機電源13との接続点に接続される。すなわち、高電圧重畳回路15の負極は、電流センサー14およびダイオードD2の直列回路を介して工具電極11に接続される。
高電圧重畳回路15の制御回路は、放電加工機電源13に接続され、放電加工機電源13のパルス電圧を印加する同期信号を検出する。すなわち、高電圧重畳回路15は、放電加工機電源13のパルス電圧のオンオフを制御するゲート信号を検出し、パルス電圧に同期して重畳電圧を極間に印加する。
なお、高電圧重畳回路15は、重畳電圧を印加する際、放電加工に及ぼす影響を防止するため、例えば700Ω以上の比較的に大きな抵抗を備え、放電時に高電圧重畳回路15から流れる電流値が0.03A以下の小さい電流値となるように回路構成されている。
【0018】
貯留タンク16は、含水加工液12を貯留可能に構成されている。この貯留タンク16内には、加工テーブル17が配設されている。
含水加工液12は、詳細は後述するが、水分が油の中に微粒子として分散している。
【0019】
[含水加工液の組成]
次に、含水加工液12の組成について説明する。
含水加工液12は、水分が3質量%以上40質量%以下で含有され、導電率が100μS/cm以下、40℃における動粘度が0.5mm2/s以上30mm2/s以下に調製されている。
具体的には、含水加工液12は、基油と、界面活性剤と、水とを含んでいる。
【0020】
基油としては、鉱油や合成油を単独もしくは組み合わせて利用できる。
鉱油としては、パラフィン系油、ナフテン系油などを用いることができる。
合成油としては、炭化水素系合成油、エステル系合成油、ポリグリコール系合成油、ポリフェニルエーテル系合成油、シリコーン系合成油などを用いることができる。ここで、エステル系合成油としては、二塩基酸エステル、シリケートエステル、リン酸エステル、ネオペンチルポリオールエステルなどを用いることができる。
【0021】
界面活性剤としては、イオン性界面活性剤や、非イオン性界面活性剤が用いられる。
イオン性界面活性剤としては、アニオン型、カチオン型、両性型のいずれの界面活性剤を用いることができる。具体的には、炭素数7〜40個のカルボン酸、炭素数7〜30個の脂肪酸、該脂肪酸のダイマー酸、炭素数2〜36個のジカルボン酸、該ジカルボン酸の金属塩またはアルカノールアミン塩、ナフテン酸の金属塩、アルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アミン塩、アンモニウム塩、アミノ酸類などが、1種もしくは複数組み合わせて用いられる。
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(n=5)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(n=5)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=10)ベヘニルエーテル、ポリオキシエチレン(n=10)デセシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=10)コレステリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=8)グリセリルモノイソステアレート、モノイソステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレン(n=10)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(n=10)オクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=30)グリセリルトリイソステアレート、ジイソステアリン酸デカグリセリル、ポリオキシエチレン(n=10)モノイソステアレート、ポリオキシエチレン(n=10)モノオレエート、ポリオキシエチレン(n=15)イソステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=20)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(n=20)モノオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(n=10)デシルペンタデシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=6)モノイソステアレート、ポリオキシエチレン(n=6)モノオレエート、ポリオキシエチレン(n=5)オレイルエーテル、ポリオキシエチレン(n=10)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(n=30)硬化ヒマシ油トリイソステアレート、モノステアリン酸ジグリセリル、ポリオキシエチレン(n=5)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(n=6)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=5)ヘキシルデシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=5)イソステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(n=8)ジラウレート、ポリオキシエチレン(n=5)モノステアレート、ポリオキシエチレン(n=12)ジイソステアレート、ポリオキシエチレン(n=12)ジオレエート、ポリオキシエチレン(n=20)グリセリルトリイソステアレート、ポリオキシエチレン(n=20)グリセリルトリオレエート、ポリオキシエチレン(n=20)硬化ヒマシ油モノイソステアレート、ポリオキシエチレン(n=40)テトラオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレン(n=8)ジイソステアレート、ポリオキシエチレン(n=8)ジオレエート、ポリオキシエチレン(n=3)グリセリルモノイソステアレート、モノイソステアリン酸グリセリンなどが、1種若しくは複数組み合わせて用いられる。
【0022】
水は、精製された蒸留水が好ましいが、発明の目的を阻害しない限り、微量の不純物を含むものであってもよく、水道水を用いることもできる。
ここで、含水加工液12は、水分が3質量%以上40質量%以下、好ましくは8質量%以上30質量%以下、特に好ましくは10質量%以上20質量%以下で含有されたものである。水分が3質量%より少なくなると、引火性が高くなり、危険物に該当してしまう。一方、水分が40質量%より多くなると、粘度が高くなって、加工間隙からの加工屑排出が困難になり、加工が不安定になる。
【0023】
また、含水加工液12は、導電率が100μS/cm以下、好ましくは50μS/cm以下、特に好ましくは30μS/cm以下である。
導電率が高い場合、加工中に電極や工作物を腐食させる恐れがあるため、導電率を上記範囲とする。
【0024】
さらに、含水加工液12は、40℃における動粘度が0.5mm2/s以上30mm2/s以下、好ましくは1mm2/s以上20mm2/s以下、特に好ましくは2mm2/s以上15mm2/s以下である。
40℃における動粘度を上記範囲にすることで、皮膚のかぶれや悪臭などを抑制でき、取扱が容易となるとともに、揮発による組成変化を防止でき安定した放電加工を提供できる。さらに、工具電極11と工作物2との間から放電加工により生じた加工屑を迅速に排出させることができ、安定した放電が得られ、良好な加工精度が得られる。また、含水加工液12をフィルター濾過して加工屑を除去する際に、フィルターの通油性の低下を抑制でき、含水加工液12の再利用ための処理が容易にできる。
【0025】
そして、含水加工液12は、本発明の効果を損なわない範囲で、金属不活性化剤、防錆剤、消泡剤、酸化防止剤などを適宜含有したものを用いることができる。
【0026】
[放電加工方法]
次に、上記放電加工機1を用いた放電加工方法を説明する。
放電加工に際して、工作物2を加工テーブル17に載置固定し、工作物2に放電加工機電源13および高電圧重畳回路15を接続する。そして、貯留タンク16の含水加工液12内に、加工テーブル17とともに、工作物2を浸漬する。また、加工する形状に対応した工具電極11を保持部に保持させ、工具電極11に放電加工機電源13および高電圧重畳回路15を接続し、図1の回路構成を構築する。
保持部により工具電極11を工作物2の表面加工位置に近接させ、放電加工機電源13からパルス電圧を工具電極11および工作物2間の極間に印加する。さらに、パルス電圧に同期して、高電圧重畳回路15からパルス電圧より高い電圧値の重畳電圧を極間に印加する。このことにより、極間に100V以上2000V以下の放電加工のための加工電圧を印加する。高電圧重畳回路15から流れる電流は、加工に影響がない小さい電流値、例えば0.03A以下とする。
この加工電圧の印加により、極間で放電が生じて工作物2を放電加工する。
【0027】
[実施形態の作用効果]
上述したように、上記実施形態では、水分が3質量%以上40質量%以下で含有され、導電率が100μS/cm以下、40℃における動粘度が0.5mm2/s以上30mm2/s以下の含水加工液12が介在する工具電極11と工作物2との間に、パルス電圧およびこのパルス電圧に同期してパルス電圧より高い電圧の重畳電圧を印加して、工具電極11と工作物2との間に100V以上2000V以下の加工電圧を印加する。
このことにより、工具電極11と工作物2との極間を広く設定でき、放電加工時に生じる加工屑や加工液の熱分解生成物などが飛散しやすくなり、また放電時に発生するガスが放電位置から逃げやすくなって、アーク放電などの異常放電を防ぐことができ、また開放電圧も安定するため、平均電圧がばらつきにくくなり、安定して放電加工できる。また、水分を3質量%以上40質量%以下で含有するため、放電による引火は生じず、設備を比較的に簡易にできるとともに、取り扱いやすい粘度で放電加工操作が容易となり、油性の加工油より高い導電性となり、放電頻度を増大でき、加工速度を向上できる。したがって、本実施形態によれば、仕上加工も可能な良好な加工精度で、効率よく放電加工できる。
【実施例】
【0028】
次に、上記放電加工機1を用いて各種放電加工条件で放電加工を実施した結果について説明する。
【0029】
[実施例1]
(含水加工液について)
含水加工液として、出光興産株式会社製のK)セミクールHKカイ(商品名)を用いた。
鉱物油に界面活性剤が添加され、水を12重量%含む加工液である。
【0030】
含水加工液は、JIS K2283に準拠して測定した40℃における動粘度が8.271mm2/sであった。
25℃における導電率は、0.03μS/cmであった。導電率の測定は、東亜ディーケーケー株式会社製 EC METER CM−25R(商品名)を用いて実施した。
引火点は、JIS K2265に準拠して測定した結果、測定不能であった。
【0031】
(放電加工)
放電加工機として、株式会社ソディック社製(商品名:AQ−35LR)を用いた。
工具電極として、直径8mmのものを用いた。
放電加工機電源から印加するパルス電圧である開放電圧は、200Vでそれぞれ実施した。なお、放電電流は、3Aとした。また、パルス幅は5μ秒、パルス間の休止時間は10μ秒とした。
工作物には、縦寸法が50mm、横寸法が19mm、厚さ寸法が6mm、表面粗さRaが0.1μmの炭素鋼S45Cを用いた。
加工時間は30分とした。
放電加工時の加工速度を測定するとともに、工具電極消耗率を測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0032】
[実施例2]
実施例1における開放電圧を300Vとした以外は、実施例1と同様に放電加工を実施した。
この実施例2における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表1に示す。
【0033】
[実施例3]
実施例1における工具電極として、直径16mmのものを用いた以外は、実施例1と同様に放電加工を実施した。
この実施例3における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表1に示す。
【0034】
[実施例4]
実施例2における工具電極として、直径16mmのものを用いた以外は、実施例2と同様に放電加工を実施した。
この実施例4における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表1に示す。
【0035】
[比較例1]
実施例1における開放電圧を90Vとして重畳電圧は印加せずに実施した(すなわち加工電圧が90V)以外は、実施例1と同様に放電加工を実施した。
この比較例1における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表2に示す。
【0036】
[比較例2]
比較例1の含水加工液に代えて油性加工液(株式会社ソディック社製 商品名:バイトル2)を用いた以外は、比較例1と同様に放電加工を実施した。
なお、油性加工液の性状は、含水加工液の特性の測定と同様に測定した結果、水分が0質量%、40℃における動粘度が1.878mm2/秒、25℃における導電率が0.01μ秒/cm未満、引火点が81℃であった。
この比較例2における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表2に示す。
【0037】
[比較例3]
実施例1の含水加工液に代えて油性加工液(株式会社ソディック社製 商品名:バイトル2)を用いた以外は、実施例1と同様に放電加工を実施した。
この比較例3における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表2に示す。
【0038】
[比較例4]
実施例2の含水加工液に代えて油性加工液(株式会社ソディック社製 商品名:バイトル2)を用いた以外は、実施例2と同様に放電加工を実施した。
この比較例4における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表2に示す。
【0039】
[比較例5]
比較例1における工具電極として、直径16mmのものを用いた以外は、比較例1と同様に放電加工を実施した。
この比較例5における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表2に示す。
【0040】
[比較例6]
比較例2における工具電極として、直径16mmのものを用いた以外は、比較例2と同様に放電加工を実施した。
この比較例6における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表2に示す。
【0041】
[比較例7]
実施例3の含水加工液に代えて油性加工液(株式会社ソディック社製 商品名:バイトル2)を用いた以外は、実施例3と同様に放電加工を実施した。
この比較例7における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表2に示す。
【0042】
[比較例8]
実施例4の含水加工液に代えて油性加工液(株式会社ソディック社製 商品名:バイトル2)を用いた以外は、実施例4と同様に放電加工を実施した。
この比較例8における加工速度と、工具電極消耗率との結果を、表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
上記表1および表2に示すように、実施例1〜4と、比較例3,4,7,8との結果から、本発明の含水加工液を用いることで、加工速度を速くでき、効率よく放電加工できるとともに、工具電極の消耗率が低く抑えられ、長期間安定した放電加工を提供できることがわかる。
また、実施例1および比較例2、実施例3および比較例5との結果から、本実施例における重畳電圧を印加することにより、加工速度を速くでき、工具電極の消耗率も低く抑えられることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、工具電極と被加工物との間に、含水加工液を介在させた状態でパルス電圧を印加するとともに、パルス電圧に同期して重畳電圧を印加し、放電加工する方法で、特に仕上加工が要求される加工精度と、速い加工速度が要求される場合に好適である。
【符号の説明】
【0047】
2…被加工物である工作物
11…工具電極
12…含水加工液
13…放電加工機電源
15…高電圧重畳回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具電極と被加工物との間に、含水加工液を介在させた状態でパルス電圧を印加し、前記被加工物を放電加工する放電加工方法であって、
前記含水加工液として、水分が3質量%以上40質量%以下で含有され、導電率が100μS/cm以下、40℃における動粘度が0.5mm2/s以上30mm2/s以下のものが用いられ、
前記パルス電圧に同期して前記工具電極と前記被加工物との間に前記パルス電圧より高い電圧値の重畳電圧を印加することで、前記工具電極と前記被加工物との間に100V以上2000V以下の加工電圧を印加する
ことを特徴とする放電加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放電加工方法において、
前記含水加工液の水分は、8質量%以上30質量%以下である
ことを特徴とする放電加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放電加工方法において、
前記含水加工液の導電率は、50μS/cm以下である
ことを特徴とする放電加工方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3までのいずれか一項に記載の放電加工方法において、
前記含水加工液の40℃における動粘度は、1mm2/s以上20mm2/s以下である
ことを特徴とする放電加工方法。

【図1】
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