説明

放電加工用電極

【課題】放電加工用電極における機械加工の限界を作業者に認識させることが可能な放電加工用電極を得る。
【解決手段】放電加工用電極部10は、ホルダ30に金属ネジ40により固定されている。放電加工用電極部10のホルダ固定部10bには、金属ネジ40が挿通可能なネジ穴11が形成されている。放電加工用電極部10の外側面の一部には、ネジ穴11の底面11aより奥に離れたネジ穴11の底面11a近傍の位置に、一直線上の溝12が形成されている。溝12は、ネジ穴11の底面11aに対して、ホルダ固定部10bから放電加工部11bに向かう方向における放電加工部11b側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工に用いられる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工用電極は放電加工装置に取り付けるためのホルダにネジで固定されるので、ホルダ固定用のネジ穴が形成される。また、放電加工用電極のネジ穴が形成された部位と反対側に位置する被加工品を放電加工するための放電加工部は、非加工物を加工するための所望の形状に機械加工される。このような放電加工用電極には、下記特許文献1に開示されたカーボン複合材料や金属材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004‐209610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、予めネジ穴が形成されている放電加工用電極において放電加工部を所望の形状に機械加工する際には、ネジ穴が放電加工用電極の内部に向けて形成されているため、作業者が目視によりネジ穴の底面(放電加工用電極におけるネジ穴の最深部)の位置を認識することが困難であり、特に、ホルダに固定された放電加工用電極においては認識することができない。そのため、機械加工がネジ穴に及ぶことがあり、ネジ穴が露出してしまい所望の形状とならない。また、ネジ穴には金属ネジなどが挿し込まれている場合には、機械加工用の工具と金属ネジとが接触し、機械加工用の工具や放電加工用電極自体が破損することがある。さらに、機械加工用の工具及び放電加工用電極の破損片が飛散することにより、作業者が受傷することがある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、放電加工用電極の機械加工の限界を作業者に認識させ、事故を防止することが可能な放電加工用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の放電加工用電極は、ネジによりホルダに固定される放電加工電極部を有する放電加工用電極であり、前記放電加工用電極部は、前記ネジが挿通されるネジ穴と、前記ネジ穴の底面より奥に離れた前記ネジ穴の底面近傍且つ前記放電加工用電極部の外面に形成された目印と、を備えている。
また、本発明の放電加工用電極は、放電加工部と、ホルダ固定部とを有する放電加工用電極部を備えた放電加工用電極であって、前記放電加工用電極部は、前記ホルダ固定部に形成されているホルダ固定用のネジ穴と、放電加工用電極の外面に形成された目印と、を有し、前記目印は、前記ネジ穴の底面に対して、ホルダ固定部から放電加工部に向かう方向における放電加工部側にある。
さらに、本発明の放電加工用電極は、さらにホルダを備え、前記放電加工用電極部が、前記ホルダにネジにより固定されていることが好ましい。
【0007】
本発明によると、放電加工用電極に形成された目印により、電極の機械加工の限界位置を作業者に認識させることが可能となる。これにより、電極の機械加工がネジ穴に至ることを防ぐことができるため、ネジ穴の露出による形状不良、並びに、ネジ穴にネジが差し込まれている場合のネジと機械加工用工具との接触による機械加工用工具及び放電加工用電極の破損を防ぐことが可能となる。そして、放電加工用電極の形状不良や破損を防止することができるため、電極の加工のコスト及び加工時間を従来よりも低減させることができる。さらに、機械加工用工具や放電加工用電極の破損による破損片の飛散がなくなるため、作業者の安全を確保することができる。
【0008】
また、本発明において、前記放電加工用電極部が、黒鉛からなることが好ましい。これによると、放電加工用電極の加工が容易となるため、電極の加工のコスト及び加工時間をさらに低減させることができる。また、黒鉛は金属等に比べて軽量であることから、放電加工時の取り扱いが容易である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の放電加工用電極によると、電極に形成された目印により、放電加工用電極の機械加工の限界位置を作業者に認識させることが可能となるため、電極の加工がネジ穴に至ることを防ぐことができる。これにより、ネジ穴の露出、並びに、機械加工用工具及び電極の破損を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態によるホルダに固定されている放電加工用電極の外観斜視図であり、(b)は、図1に示す放電加工用電極の分解斜視図である。
【図2】図1に示す放電加工用電極部の側面図であり、(a)は、図1に示す溝が形成された側面(外面)であり、(b)は、(a)に示す側面に隣接する側面である。
【図3】放電加工用電極部に溝を形成する方法の一部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
(放電加工用電極)
図1に示すように、放電加工用電極100は、放電加工用電極部10がホルダ30に固定されているものである。具体的には、放電加工用電極部10はホルダ30に複数の金属ネジ40により固定されている。放電加工用電極100は、図示しない放電加工装置に取り付けられる。
【0013】
放電加工用電極部10は、放電加工部10aとホルダ固定部10bとを有する。放電加工用電極部10は、黒鉛からなり、略直方体状である。図1(a)における放電加工用電極部10の下端部(放電加工部10a)は、放電加工用電極部10の被加工品を放電加工する部位であり、被加工品に対する放電加工形状に合わせて所望の形状に機械加工される。図1(b)に示すように、放電加工用電極部10のホルダ30に固定される上端部(ホルダ固定部10b)には、放電加工用電極部10の内部に向けて6つのネジ穴11が形成されている。このホルダ固定部10bは放電加工用電極部10における放電加工部10aと対向する面である。6つのネジ穴11の深さは、略同じ深さである。また、放電加工用電極部10の放電加工部およびホルダ固定部に対する側面(外面)の少なくとも1面には、放電加工用電極部10の長辺方向に直交する方向へ延在した、直線状の溝(目印)12が形成されている。
【0014】
図2(a),(b)に示すように、溝12は、放電加工用電極部10の長辺方向に関して、ネジ穴11の底面11aより放電加工部10a側(図2において、放電加工用電極部10の被加工品を放電加工する下端側)に位置する。言い換えれば、溝12は、ネジ穴の底面11aに対して、ホルダ固定部10bから放電加工部10aに向かって放電加工部10a側に形成されている。溝12が、ネジ穴11の底面11aよりネジ穴11の開口に近い位置(ホルダ固定部10bに近い位置)に形成されている場合、放電加工用電極部10の下端(放電加工部10a)を所望の形状に機械加工する際に、ネジ穴11の底面11aの位置を作業者に認識させることができず、ネジ穴11が露出する可能性がある。このため、溝12を、ネジ穴11の底面11aに対して放電加工部10a側に形成することが好ましい。具体的には、溝12は、ネジ穴11の底面11aから放電加工部10a側に0mm以上ずれていることが好ましく、5mm以上ずれていることが好ましい。また、ネジ穴11の底面11aから放電加工部10a側に離れすぎるとその分だけ機械加工できる放電加工に使用できる部位が減り、効率が悪くなるため、溝12は、ネジ穴の底面11aから放電加工部10aに向かって10mm以下の位置に形成することが好ましい。また、溝12の深さ及び幅は、作業員が溝12を目視可能な深さ及び幅であれば、限定されない。
【0015】
また、溝12は、放電加工用電極部10の長辺方向に関して、ネジ穴11の底面11a近傍に位置している。ここで、「ネジ穴11の底面11a近傍」とは、放電加工用電極部10の長辺方向に関して、ネジ穴11の底面11aより奥に少し離れた位置(図2において、ネジ穴11の底面11aより放電加工部10aに近い位置)を示す。
【0016】
(放電加工用電極部の製造方法)
以下に、放電加工用電極部10の製造方法の一例を説明する。天然黒鉛粉末、人工黒鉛粉末、又はこれらを組み合わせた黒鉛粉末と、黒鉛化可能なバインダー(タールピッチ、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂等の有機系材料など)とを混練して混合物を得た後、プレスにより混合物を所定形状に成形し、ブロック状の黒鉛材を得る。その後、ブロック状の黒鉛材を、図2に示すような略直方体状の電極に切断する。そして、ホルダ30へ固定される電極の端部に、6個のネジ穴11を形成する。
【0017】
なお、放電加工用電極部10の材料として、天然黒鉛粉末及び人工黒鉛粉末の代わりに、黒鉛化可能な骨材、例えば、コークス粉末又は樹脂の炭化物等を用いてもよい。黒鉛化可能な骨材を用いた場合、黒鉛化可能な骨材とバインダーとの混合物を所定形状に成形した後、必要に応じて成形体を約2600度以上、好ましくは3000度以上で熱処理して炭化物を黒鉛化する(黒鉛化処理)。また、上記成形体の代わりに、市販の黒鉛ブロックを用いてもよい。
【0018】
次に、放電加工用電極部10にエンドミル50を用いて溝12を形成する。図3に示すように、ネジ穴11が形成された複数の放電加工用電極部10を、ネジ穴11の開口(放電加工用電極部10のホルダ30へ固定される一端)がそれぞれ一平面上に並ぶように、隣接して並べる。これにより、放電加工用電極部10の一側面がそれぞれ一平面上に隣接して並ぶ。そして、エンドミル50の刃先を放電加工用電極部10の該一側面に接触させながら、エンドミル50を、隣接する放電加工用電極部10側へ向けて動かし、放電加工用電極部10の該一側面に一直線状の溝12を形成する。ここで、溝12がネジ穴11の底面11aよりも放電加工部10a側に位置するように、溝12を放電加工用電極部10に形成する。エンドミル50は、例えば、刃の先端の直径が1mmであるものが用いられる。また、溝12の深さは、例えば、約1mmとする。
【0019】
そして、放電加工用電極部10のネジ穴11と反対側に位置する被加工品を放電加工する部位を、研削盤及び電気加工機等を用いて、放電加工用の所望の電極形状に機械加工する。放電加工に使用した放電加工用電極部10において、機械加工できる部位が残っており再使用するときは、放電加工に使用された機械加工された部位を切断等して廃棄し、機械加工されていない部位を放電加工部として新たに所望の形状に機械加工する。このとき、機械加工が溝12よりネジ穴11の開口に近い位置へ及ばないようにする。機械加工が溝12を越えてネジ穴11に至った場合、ネジ穴11が露出したり、機械加工用工具とネジ穴11に挿通された金属ネジ40とが接触し、機械加工用工具及び放電加工用電極部10が破損したりするためである。
【0020】
(ホルダ)
図1に示すように、ホルダ30は、金属製の放電加工用電極部10の上部を保持可能なものである。ホルダ30には、厚み方向に貫通した6個のネジ穴31が形成されている。6個のネジ穴31は、放電加工用電極部10をホルダ30に取り付けたときに、放電加工用電極部10に形成された6個のネジ穴11とそれぞれ対応する位置に形成されている。
【0021】
放電加工用電極部10をホルダ30に固定するときは、図1に示すように、放電加工用電極部10のネジ穴11とホルダ30のネジ穴31とが連通するように、放電加工用電極部10をホルダ30へ取付け、連通したネジ穴11,31へ、ホルダ30側から金属ネジ40を挿通しネジ止めすることにより、放電加工用電極部10をホルダ30へ固定する。
【0022】
以上に述べたように、本実施の形態の放電加工用電極部10によると以下の効果を奏する。放電加工用電極部10の側面(外面)に形成された溝12により、電極の機械加工の限界位置を作業者に認識させることが可能となる。これにより、放電加工用電極部10の所望の形状への機械加工がネジ穴11へ至ることを防ぐことができるため、ネジ穴11の露出による形状不良、並びに、ネジ穴11に金属ネジ40が差し込まれている場合の金属ネジ40と機械加工用工具との接触による機械加工用工具及び放電加工用電極部10の破損を防ぐことが可能となる。そして、放電加工用電極部10の形状不良や破損を防止することができるため、放電加工用電極部10の加工のコスト及び加工時間を従来よりも低減させることができる。さらに、機械加工用工具や放電加工用電極部10の破損による破損片の飛散がなくなるため、作業者の安全を確保することができる。
【0023】
また、放電加工用電極部10が黒鉛からなるため、放電加工用電極部10の加工が容易となる。これにより、放電加工用電極部10の加工のコスト及び加工時間をさらに低減させることができる。また、黒鉛は、金属等に比べて軽量であることから、放電加工時の取り扱いが容易である。
【0024】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、本実施の形態における放電加工用電極部10は黒鉛からなるが、放電加工用電極部10の材料は、黒鉛に限られず、金属を含む炭素材料であったり、金属材料であったりしてもよい。また、放電加工用電極部10の形状は、直方体状のものに限られず、円筒状などとしてもよい。さらに、上述の実施形態においては、放電加工用電極部10をホルダ30に固定する固定部材として金属ネジ40を用いたが、金属ネジ40の代わりに、例えば、金属ボルトを用いてもよい。
【0025】
また、ネジ穴11の数、深さ及び位置は、上述の実施の形態に示したものに限られない。例えば、複数のネジ穴の深さがそれぞれ異なっていてもよい。この場合、放電加工用電極には、ネジ穴の深さが最も深いネジ穴の底面近傍に目印を形成することが好ましい。ここで、「ネジ穴の深さが最も深いネジ穴の底面近傍」は、ネジ穴の深さが最も深いネジ穴の底面より奥に少し離れた位置を示す。言い換えれば、ネジ穴の深さが最も深いネジ穴の底面を基準にして、放電加工部側を指す。
【0026】
さらに、本実施の形態においては、目印として、放電加工用電極部10に途切れなく直線状の溝12を形成したが、放電加工用電極部10に部分的(点や、点線等)に溝12を形成してもよい。また、目印は、溝12に限られず、白墨、インクやペンキなどを用いた目印であってもよい。
【0027】
そして、本実施形態では、放電加工用電極部がホルダに固定されたものを放電加工用電極と呼んでいるが、放電加工用電極部だけを放電加工用電極と呼ぶことがある。
【符号の説明】
【0028】
10 放電加工用電極部
10a 放電加工部
10b ホルダ固定部
11,31 ネジ穴
12 溝(目印)
11a 底面
30 ホルダ
40 金属ネジ
100 放電加工用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジによりホルダに固定される放電加工電極部を有する放電加工用電極であり、
前記放電加工用電極部は、
前記ネジが挿通されるネジ穴と、
前記ネジ穴の底面より奥に離れた前記ネジ穴の底面近傍且つ前記放電加工用電極部の外面に形成された目印と、
を備えていることを特徴とする放電加工用電極。
【請求項2】
放電加工部と、ホルダ固定部とを有する放電加工用電極部を備えた放電加工用電極であって、
前記放電加工用電極部は、
前記ホルダ固定部に形成されているホルダ固定用のネジ穴と、
前記放電加工用電極の外面に形成された目印と、
を有し、
前記目印は、前記ネジ穴の底面に対して、前記ホルダ固定部から前記放電加工部に向かう方向における前記放電加工部側にあることを特徴とする放電加工用電極。
【請求項3】
前記放電加工用電極部が、黒鉛からなることを特徴とする請求項1または2に記載の放電加工用電極。
【請求項4】
さらにホルダを備え、前記放電加工用電極部が、前記ホルダにネジにより固定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の放電加工用電極。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−255448(P2011−255448A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131046(P2010−131046)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】