説明

放電灯用電極およびその製造方法、ならびに放電灯

【課題】折れにくく、長寿命な放電灯用電極を提供する。
【解決手段】陰極を製造する際には、陰極ヘッド部2と陰極ステム部4とを別々に熱処理した後、組み立てる。陽極を製造する際には、陽極ヘッド部3と陽極ステム部5とを別々に熱処理した後、組み立てる。陰極ステム部4および陽極ステム部5は1600℃以下で熱処理することで折れにくくし、陰極ヘッド部2および陽極ヘッド部3は1600℃以上で熱処理することで長寿命化を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、液晶、プリント配線などの露光に使用されるショートアーク型放電灯に関し、特に、折れにくく、長寿命な電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶、プリント配線などの露光に使用されるショートアーク型放電灯は年々高照度化が求められ、また入力電力の増加に伴い大型化している。そして、ショートアーク型放電灯の大型化により、使用する電極も大型化している。さらに、ショートアーク型放電灯は長寿命化も求められているが、長寿命化のためには電極を高温で熱処理する必要がある。以下に、従来の放電灯の例をあげる。
【0003】
特許文献1に開示された「金属蒸気放電灯」は、格別な加工を施すことなく光束維持率および発光効率を向上させるものである。バルブに封装された電極における電極軸は少なくとも先端部を二次再結晶させてある。電極軸の少なくとも先端部を二次再結晶させたので、この部分の結晶粒子が大きくなり、飛散し難くなってバルブの黒化を防止し、光束維持率が向上する。また、結晶粒子が大きくなるから熱伝導性が良くなり、アークスポットにより加熱される電極軸先端の熱を電極コイルに効果的に伝えることができ、このため電極コイルからの輻射熱で電極背部の最冷部温度を高くすることができ、よって蒸気圧が高くなり、発光効率が向上する。
【特許文献1】特開平05-283039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電極を高温で熱処理すると、電極の素材の一つであるタングステンの再結晶化が進み、折れ強度が弱くなり、電極のステム部が折れやすくなるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであって、折れにくく、長寿命な放電灯用電極およびそれを備えた放電灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明では、放電灯用電極を、それぞれ別々に再結晶温度より高い温度で熱処理されたヘッド部と再結晶温度以下の温度で熱処理されたステム部とからなり、ヘッド部はステム部より外径が大きく、ヘッド部の後方にステム部を接続した構成とした。また、放電灯用電極の製造方法を、ヘッド部を再結晶化温度より高い温度で熱処理する工程と、ステム部を再結晶化温度以下の温度で熱処理する工程と、ヘッド部の後方にステム部を接続する工程とを有する方法とした。また、陰極ヘッド部と該陰極ヘッド部より外径が小さい陰極ステム部とからなる陰極と、陽極ヘッド部と該陽極ヘッド部より外径が小さい陽極ステム部とからなる陽極とを備えた放電灯を、陰極または陽極の少なくとも一方は、ヘッド部は再結晶温度より高い温度でステム部は再結晶温度以下の温度で別々に熱処理された後、ヘッド部の後方にステム部を接続することにより組み立てられたものとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放電灯用電極のヘッド部とステム部とを別々に熱処理した後に組み立てることにより、放電灯用電極を折れにくい長寿命なものにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1と図2を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
図1は本発明の実施の形態のショートアーク型放電灯の内部構造を示す部分断面図である。図1に示すように、この放電灯は、発光管1、第1口金7、および第2口金8を備えている。
【0010】
発光管1は、略球状あるいは楕円球状に形成された発光部と、その両側に管状に形成された一対の封止部6とを有する。発光部の内部では陰極ヘッド部2と陽極ヘッド部3が対向している。陰極ヘッド部2の後方には陰極ステム部4が接続され、陽極ヘッド部3の後方には陽極ステム部5が接続されている。陰極ヘッド部2と陰極ステム部4により陰極が構成され、陽極ヘッド部3と陽極ステム部5により陽極が構成される。
【0011】
一方の封止部6の外側には第1口金7が固定され、反対側の封止部6の外側には第2口金8が固定されている。そして、発光管1の内部(以下、発光管内部という)21には熱伝導率の高い希ガスが封入されている。
【0012】
次に、図1を参照して、本実施の形態のショートアーク型放電灯の詳細仕様を説明する。発光管1は、例えば外径70mmのオゾンフリー石英管製である。陰極ヘッド部2は、例えば重量比約2%のトリウムを含むタングステン製であり、その径は約10mmである。そして、陽極ヘッド部3と対向する先端は鋭角に形成され、陽極ヘッド部3の先端部と約4.5mmの間隔で対向する。陽極ヘッド部3は例えばタングステン製であり、その径は約20mmであり、陰極ヘッド部2と対向する先端は曲面を形成している。陰極ステム部4、陽極ステム部5は、それぞれ陰極ヘッド部2、陽極ヘッド部3と同一材料からなる。発光管内部21には30mg/cm3 の水銀と約50kPaのアルゴンガスが封入されている。希ガスの種類および圧力は本発明の本質とは無関係であるが、1つの実施例として示した。
【0013】
図2は本発明の実施の形態における陰極および陽極の製造工程を示す図である。図2(a)に示すように、陰極を製造する際には、陰極ヘッド部2と陰極ステム部4とを別々に熱処理した後、組み立てる。また、図2(b)に示すように、陽極を製造する際には、陽極ヘッド部3と陽極ステム部5とを別々に熱処理した後、組み立てる。なお、ここでは陰極と陽極の双方について、それぞれのヘッド部とステム部を別々に熱処理したが、陰極または陽極の一方のみ別々に熱処理しても良い。
【0014】
次に、熱処理の具体例、および電極ステム部の折れ強度実験の結果を説明する。まず、電極の熱処理温度による電極ステム部の折れ強度実験の結果を説明する。この実験では、電極ヘッド部とステム部とを組み上げた状態で熱処理を行い、ショートアーク型放電灯として製造した後にその落下試験を行い、電極ステム部の折れ強度を比較した。この実験結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
この表1からも明らかなように、電極熱処理温度が1600℃以下でないとタングステンの再結晶化により折れやすくなることが分かる。しかし、ショートアーク型放電灯の長寿命化のためには、より高温で電極を熱処理することが望ましく、1600℃以下の熱処理では、長寿命化が難しい。
【0017】
前述の実験から、折れやすい電極ステム部を1600℃以下で熱処理し、電極ヘッド部の熱処理温度を変えた場合の、電極ステム部の折れ強度実験を行った。この実験では、電極ヘッド部とステム部を別々に熱処理した後にヘッド部とステム部を組み立てた。そして、組立後の電極を用いてショートアーク型放電灯を製造した後にその落下試験を行い、電極ステム部の折れ強度を比較した。この実験結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
この表2からも明らかなように、陽極または陰極の、ヘッド部とステム部を別々に熱処理した後にヘッド部とステム部を組み立てることにより、電極ステム部のタングステンの結晶化を抑えることができるので、 電極ステム部が折れない。さらに、陽極また陰極のヘッド部とステム部を別々に熱処理するので、ショートアーク型放電灯の寿命に影響する電極ヘッド部は、より高温で熱処理できるので、長寿命化が実現できる。表2に示したランプの寿命評価結果を表3に示す。
【0020】
【表3】

【0021】
この表3からも明らかなように、陽極または陰極の、ヘッド部とステム部を別々に熱処理した後にヘッド部とステム部を組み立てることにより、電極ステム部のタングステンの再結晶化を抑えることができるので、電極ステム部が折れない。さらに、陽極または陰極の、ヘッド部とステム部を別々に熱処理するので、ショートアーク型放電灯の寿命に影響する電極ヘッド部は、より高温で熱処理できるので、長寿命化が実現できることが確認できた。
【0022】
したがって、ショートアーク型放電灯において、陽極または陰極の、ヘッド部とステム部を別々に熱処理した後にヘッド部とステム部を組み立てれば、陽極または陰極が折れにくく、長寿命なショートアーク型放電灯を提供できることが容易に理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態のショートアーク型放電灯の内部構造を示す部分断面図、
【図2】本発明の実施の形態における陰極および陽極の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 発光管
2 陰極ヘッド部
3 陽極ヘッド部
4 陰極ステム部
5 陽極ステム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ別々に再結晶温度より高い温度で熱処理されたヘッド部と再結晶温度以下の温度で熱処理されたステム部とからなり、前記ヘッド部は前記ステム部より外径が大きく、前記ヘッド部の後方に前記ステム部を接続したことを特徴とする放電灯用電極。
【請求項2】
ヘッド部を再結晶化温度より高い温度で熱処理する工程と、ステム部を再結晶化温度以下の温度で熱処理する工程と、前記ヘッド部の後方に前記ステム部を接続する工程とを有することを特徴とする放電灯用電極の製造方法。
【請求項3】
陰極ヘッド部と該陰極ヘッド部より外径が小さい陰極ステム部とからなる陰極と、陽極ヘッド部と該陽極ヘッド部より外径が小さい陽極ステム部とからなる陽極とを備えた放電灯であって、前記陰極または陽極の少なくとも一方は、前記ヘッド部は再結晶温度より高い温度で前記ステム部は再結晶温度以下の温度で別々に熱処理された後、前記ヘッド部の後方に前記ステム部を接続することにより組み立てられたものであることを特徴とする放電灯。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−262938(P2008−262938A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205646(P2008−205646)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【分割の表示】特願2000−274856(P2000−274856)の分割
【原出願日】平成12年9月11日(2000.9.11)
【出願人】(000128496)株式会社オーク製作所 (175)
【Fターム(参考)】