説明

敗血症治療のための組み換え活性化ヒトタンパク質Cを生成する方法

本発明は、活性化タンパク質C生成の組み換え法に関する。本発明は、組み換え活性化ヒトタンパク質Cの構築、形質転換、発現、精製、および生成方法に関する。目的の遺伝子に関連した制御要素を含むDNA構築物が、開示される。目的の核酸配列はコドン最適化され、適切な哺乳類の宿主細胞における発現が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化タンパク質C生成の組み換え法に関する。本発明は、組み換え活性化ヒトタンパク質Cの構築、形質転換、発現、精製、および生成方法に関する。目的の遺伝子に関連した制御要素を含むDNA構築物が、開示される。目的の核酸配列はコドン最適化され、適切な哺乳類の宿主細胞における発現が可能になる。
【背景技術】
【0002】
Xigris(ドロトレコギンα)は、ヒト活性化タンパク質C(Human Activated Protein C )の組み換え体である。これは、ヒト血漿由来活性化タンパク質Cと同じアミノ酸配列があるセリンプロテアーゼである。活性化タンパク質Cは感染に対する全身性反応の重要な修飾因子であり、抗血栓、線維素溶解促進、および抗炎症特性を有する。(活性化)ドロトレコギンαは分子量およそ55kDの糖タンパク質である。タンパク質Cの前駆体型は、(成熟タンパク質には存在しない)プレプロリーダーペプチド、9個のGla残基のγ−カルボキシグルタミン酸(Gla)領域、短いらせん疎水性アミノ酸スタック、2つの表皮性成長因子(EGF)様領域、軽鎖および重鎖間の結合ペプチド、活性化ペプチド、およびその中で触媒三つ組み残基(Catalytic triad)がHis−211、Asp−257、およびSer−360に位置するトリプシン様SP領域を含有する。EGF領域の主な機能は、タンパク質−タンパク質間またはタンパク質−細胞間相互作用を提供することである。EGFモチーフ中に存在する残基はまた、異なる活性化因子および基質と機能的に反応することが示された。さらに連結らせん(Connecting helix)は、神経保護の役割を果たすことが想定される、EGF−I領域へのカルシウムイオン結合の配位に関与する残基を有する。
【0003】
翻訳後修飾は、ジペプチドLys−156−Arg−157を除去し、その結果一本鎖形態がジスルフィド結合によって二本鎖分子結合に転換する。酵素前駆体PCの80%はこの形態である。またアミノ末端のGla領域中のグルタミン酸残基のカルボキシル化と、EGF−I領域中のAsp残基のヒドロキシル化およびグリコシル化は、その他の翻訳後現象である。RhAPCおよびヒト血漿由来APCは、同一のグリコシル化部位を有するが、グリコシル化構造中にはいくつかの差異が存在する。ヒトAPCは4つのアスパラギン結合N−グリコシル化部位を有する。ヒトAPCはその他の血漿タンパク質と比べて、5倍多いシアル酸を有する。
【0004】
ヒトAPCは、4つのアスパラギン結合N−グリコシル化部位を有する。ヒトAPCはその他の血漿タンパク質と比べて、5倍多いフコースおよび2倍多いシアル酸を有する。活性化タンパク質Cは、第Va因子および第VIIIa因子を阻害することで作用する。生体外データは、活性化タンパク質Cがプラスミノーゲン活性化因子阻害物質−1(PAI−1)を阻害して、活性化トロンビン−活性化可能な線維素溶解阻害物質の産生を制限するその能力を通じて、間接的な線維素溶解促進性活性を有することを示唆する。さらに生体外データは、活性化タンパク質Cが、単球によるヒト腫瘍壊死因子生成の阻害、白血球のセレクチンへの接着阻害、および毛細血管内皮細胞におけるトロンビン誘導性炎症性反応の制限によって、抗炎症効果を発揮するかもしれないことを示唆する。
【0005】
より高等な真核生物系における、組み換えタンパク質発現のためのいくつかの方法について述べる。CHO−K1、HEK293(およびそれらの変異型)の細胞発現系は、今や哺乳類タンパク質発現のための、一般的に好まれる主要な系として確立されている。概要を述べる手順は、組み換えヒトドロトレコギンαをコードする新規合成核酸配列を、発現に適切な哺乳類宿主中に形質移入するのに適する。
【0006】
以下で概要を述べる手順は、生物活性の、組み換え可溶性組み換え活性化ヒトタンパク質Cの生成に適する。本プロトコルは、タンパク質を発酵培地中に分泌する、不活性ヒトタンパク質C酵素原の相補的DNAを有する確立されたヒト細胞系を利用する。ヒトタンパク質Cは、αトロンビン、トリプシン、ラッセルクサリヘビ蛇毒X因子活性化因子またはトロンビンとトロンボモジュリンとの混合物による切断によって酵素的に活性化されて、活性化タンパク質Cが得られ、引き続いて精製される。しかしこれらの活性化手順は、汚染のリスクおよびより高い生産コストを伴う。本研究は、細胞結合型プロテアーゼの組み込みによって、活性化タンパク質Cの組み換え細胞からの直接の生成を目指す。
【0007】
このようなプロテアーゼは細胞質または細胞小器官中、または細胞膜中に位置することができ、分泌中にまたは分泌直後にタンパク質を切断できる。したがって真核生物宿主細胞、すなわちHEK293からの分泌時に直接組み換え活性化タンパク質Cを生成する戦略が用いられている。
【0008】
組み換え酵素は、高い死亡リスクを有する、重度の敗血症(すなわち急性臓器不全と関連する敗血症)の成人患者の死亡率低下における使用に適応される。
【0009】
配列一覧
配列番号1:活性化タンパク質Cのヌクレオチド配列
配列番号2:活性化タンパク質Cのコドン最適化された配列
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
目的の遺伝子発現を可能にする、目的の遺伝子と関連する制御要素を含むDNA構築物が開示される。本発明のさらに別の態様は、哺乳類細胞中での新規合成核酸の発現を可能にする、前記核酸のコドン最適化である。コドン最適化配列は、発現に適切な哺乳類細胞系中に形質転換される。
【実施例】
【0011】
実施例I:
(活性化)組み換えヒトタンパク質C発現のための哺乳類発現ベクターの設計は、4つのN結合グリコシル化部位に対応するために改変され、市販されるベクター(例えばインビトロジェン社(Invitrogen)のpcDNAまたはBDバイオサイエンス社(BD Biosciences)のpIRES)に基づき、以下の特性を含む。
(a)天然シグナルペプチドを含むヒトタンパク質CのcDNA挿入のための複数クローニング部位。
(b)発現ベクターの設計はまた、蛍光支援細胞選別を使用した、高度に発現する形質移入体の迅速なスクリーニングを可能にする、非依存性(バイシストロニック)IRESを介在して共発現した緑色蛍光タンパク質にも対応する。
【0012】
融合構築物の合成:
新規アプローチ:
rhAPC cDNA構築物のコード領域合成に関する新規アプローチが探求されて、使用される特定の哺乳類細胞に関するより良いコドン最適化を確実にした。合成cDNA構築物の設計はまた、以下の特性を含む。
○効率的な翻訳を確実にする、コザック共通配列(GCCACC)とそれに続く開始コドン(ATG)
○所望の発現ベクター中にクローニングするためのcDNAの5’および3’末端の適切な制限部位
【0013】
ヒト活性化タンパク質Cを配列するヌクレオチドは、配列番号1で表されている。rhAPCのコードDNA配列中のコドンは、コドン最適化過程の一部として改変され、CHO K1およびHEK 293などの哺乳類細胞系における最適の組み換えタンパク質発現を確実にする。コドン最適化核酸配列は、配列番号2で記載される。
【0014】
核酸配列の最適化配列は、配列番号2で記載される。
【0015】
コドン最適化後のドロトレコギンαまたはXigrisをコードするDNAヌクレオチド配列の非最適化およびコドン最適化バージョンのペアワイズ(Pair−wise)配列比較を図1に示す。
【0016】
実施例2:
ドロトレコギンα(DROT)cDNAのpcDNA3.1D/V5−HIS哺乳類細胞特異的発現ベクター中へのサブクローニング
上記に示すように、自動化DNA配列決定による、新規合成cDNA分子(DROTおよびDROT−Opt)の信頼性の検証に引き続いて、DROTを哺乳類細胞特異的発現ベクターpcDNA3.1D/V5−His中にサブクローニングして、形質移入の用意ができた構築物を発生させた。使用手順の詳細を下に示す。
【0017】
A.試薬および酵素:
1.キアゲン(QIAGEN)ゲル抽出キットおよびPCR精製キット
2.インビトロジェンpcDNA3.1D/V5−HisベクターDNA
【0018】
【表1】

【0019】
B.ベクターおよび挿入断片の制限消化:
手順
以下のDNAサンプルおよび制限酵素を使用した。
【表2】

【0020】
制限酵素消化反応:
【表3】

【0021】
反応を混合し、遠沈して37℃で2時間インキュベートした。制限消化をアガロースゲル電気泳動法によって分析した。予期された消化パターンが見られた。約1400bpの遺伝子断片フォールアウト(fall out)(反応2)、およびベクターでは約5.5kbのベクター骨格断片(反応1)が見られた。キアゲンゲル抽出キットを使用したゲル抽出により、約1400bpのDROT挿入断片、および約5.5kbの消化済ベクターpcDNA3.1D/V5−His断片を精製した。1μlの精製挿入断片およびベクター断片を1%アガロースゲル上でチェックした。
【0022】
ゲル精製され制限消化されたDROTのcDNAおよびpcDNA3.1D/V5−Hisの断片を図2に示す。
【0023】
実施例3.
C.pcDNA3.1D/V5−His骨格とDROT cDNAとのライゲーション:
消化され精製されたベクターおよび挿入断片断片のDNA濃度を推定し(上の図7参照)、ライゲーションを次のとおり設定した。
【表4】

【0024】
反応を穏やかに撹拌し、遠沈して室温で2〜3時間インキュベートした。DH10コンピテント細胞をライゲーション反応で形質転換した。
【0025】
アンピシリンを含有するLB寒天プレート上に得られたコロニーを選別して、単離プラスミドDNAの制限消化分析によって確認した。
【0026】
実施例4:
D.pcDNA3.1DROT−/V5−His/Xigrisの推定上のクローンの制限消化分析
アンピシリンを含有するLB寒天プレート上に得られたコロニーから、プラスミドDNAを個別に精製し、単離されたプラスミドDNAの制限消化分析によって、所望のcDNA挿入断片の存在を確認した。AVC1PpcDNA3.1D/v5−His/Xigrisの推定上のクローンの制限消化分析を図に示す。
【0027】
下の図9に示すように、pcDNA3.1−DROT−D/V5−His/Xigrisを含有するいくつかの推定上のクローンの制限消化後に得られた結果に従って、所望の制限パターンを示すクローンのいくつかをAVCIP−Xigris cDNAを内的に切断して可変サイズ断片を発生させる制限酵素を使用した、さらなる制限消化分析のために選択した。
【0028】
pcDNA3.1−DROT cDNAを内的に切断する酵素を使用したAVCiPpcDNA3,iD/V5−His/Xigrisクローンの制限消化分析
制限地図分析のために選択されたほとんどのpcDNA3.1−DROT D/V5−His/Xigrisクローンは、既知の内的制限部位の出現率に基づいて予期された断片サイズを生じたので、これらのクローンをDNA配列決定分析によってさらに確認した。
【0029】
実施例5:
新規合成cDNA分子の信頼性の検証
商業サービス提供元から供給された新規合成cDNA分子の信頼性の検証は、自動化DNA配列決定によって行われた。
【0030】
E.選択されたpcDNA3.1−DROT D/V5−His/XigrisクローンのDNA配列決定による確認
制限地図分析の結果として選択されたpcDNA3.1−DROT D/V5−His/Xigrisクローンを自動化DNA配列決定によってさらに確認した。
【0031】
【表5】

【0032】
pcDNA3.1−DROT D/V5−His/Xigrisクローンはテンプレート配列との同一性を示した。
【0033】
DROTのマップを図8に図示する。組み換え発現構築物は新規合成pcDNA3.1−を使用して作られた。
【0034】
実施例6
rhAPC融合構築物の維持および増殖:
rhAPCをコードするcDNA構築物の維持および増殖は、インビトロジェン社のトップ10(Top 10)などの標準細菌細胞系中で行った。
【0035】
実施例7.
5.HEK293細胞における組み換えタンパク質の一過性/安定発現および上清の生成:
a)rhAPC構築物の一過性/安定発現は、FDAが産業上の利用のために認可する主要な哺乳類細胞系である、剪断ヒトアデノウィルスタイプ5(AD5)DNAで形質転換されたヒト胎生期腎細胞(HEK293)を使用して行った。一過性発現は、構築物発現をチェックして、少量の組み換えタンパク質を迅速に得るのに有用である。
【0036】
b)代案としては、個々のクローンを得る必要なしに、迅速に、高度発現を示す多数の細胞の選択を可能にするプロトコルである。引き続いて標準的手順を使用して、所望のrhAPCタンパク質の安定した高度の発現を示すHEK293細胞が開発された。
【0037】
FDA規定に従って、手順全体を通じて、血清含有培地とは対照的に、シグマ・アルドリッチ社(Sigma Aldrich)の化学合成培地を使用した、改善された培養技術が使用された。
【0038】
実施例8.
精製手順の最適化:
上述の推奨される機能性/結合アッセイに従った、再現可能な生物活性の確立に引き続いて、収率を最大化するように、精製手順を最適化する努力がなされる。
【0039】
したがって精製工程は、以下の下流過程を含んでなる。
a.通常および接線流濾過手順を使用した初期浄化および濃縮。
b.限外濾過/透析濾過(接線流濾過に基づく)。
c.クロモステップ(Chromostep)−I:活性化タンパク質C重鎖上の活性化部位に対するモノクローナル抗体、またはヒトタンパク質C軽鎖のγカルボキシグルタミン酸領域に対するカルシウム依存抗体を使用した親和クロマトグラフィー。
d.クロモステップ−II:EMDフラクトゲル(fractogel)を使用した陰イオン交換クロマトグラフィー。
e.クロモステップ−III:DNAおよび宿主細胞タンパク質の除去のためのセルファインサルフェート(cellufine sulfate)などの通過ベースの陰イオン交換体。
f.ウイルス除去および無菌濾過。
g.内毒素除去。
h.定式化(Formulation)。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ドロトレコギンαまたはXigrisをコードするDNAヌクレオチド配列の非最適化およびコドン最適化バージョンのペアワイズ配列比較である。
【図2】DROT cDNA、およびpcDNA3.1D/V5−Hisのゲル精製された制限消化断片である。
【図3】AVCIPpcDNA3.1D/V5−His/Xigrisの推定上のクローンの制限消化分析である。
【図4】pcDNA3.1−DROT cDNAを内的に切断する酵素を使用した、AVCIPpcDNA3.1D/V5−His/Xigrisクローンの制限消化分析である。
【図5】新規合成されたpcDNA3.1−DROT(syntheticXigris)と確立されたXigris遺伝子配列との配列比較である。
【図6】新規合成されたpcDNA3.1−DROT−Opt(synthetic_Xigris−Opt)と、確立されたXigris−Opt遺伝子配列との配列比較である。
【図7】pcDNA3.1DROT−/V5−His/Xigris cDNAクローン#4と確立されたXigris遺伝子配列との配列比較である。
【図8】pcDNA3.1−DROT−D/V5−His/Xigrisの構築図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細胞を、配列番号2の核酸配列でコードされるタンパク質をコードする合成DNA配列で形質転換する工程と、
前記生成物を前記宿主細胞またはその生育培地から単離する工程と、
を含む、生体内で生物学的に活性な活性化ヒトタンパク質C生成物を調製する方法。
【請求項2】
前記活性化ヒトタンパク質Cをコードするコドン最適化核酸配列が配列番号3で記載される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記宿主細胞が哺乳類細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記宿主細胞が好ましくはHEK293株から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
宿主細胞を図8のベクター構築物で形質転換する工程と、
前記生成物を前記宿主細胞またはその生育培地から単離する工程と、
を含む、生体内で生物学的に活性なヒト組み換え活性化タンパク質C生成物を調製する方法。
【請求項6】
前記ベクターが哺乳類細胞特異的発現ベクターであり、最も好ましくは図8で記載されるベクターである、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−502118(P2009−502118A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512944(P2008−512944)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001359
【国際公開番号】WO2006/126070
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(502309513)アベスタゲン リミテッド (6)
【Fターム(参考)】