説明

散気装置

【課題】酸素溶解効率が高く、圧力損失が小さく、且つ、曝気停止中の汚水の逆流を防止することができる散気装置を提供する。
【解決手段】散気面に使用されるメッシュクロス1は、線径が10〜100μmのポリアリレート製のモノフィラメント糸を用いて、100〜1000メッシュで織り上げ、開口の寸法を5〜200μmとしたクロスにより構成される。好ましくは、メッシュクロスを二層により構成する。その場合、背面側に配置される第一層11は、線径が10〜100μmの糸を用いて、100〜1000メッシュで織り上げ、開口の寸法を5〜200μmとしたクロスにより構成される。その上に積層される第二層12は、第一層の繊維と単位断面積あたりの強度が同じ繊維からなり線径が30〜200μmの糸を用いて、10〜200メッシュで織り上げ、開口寸法を50〜800μmとしたクロスにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水や産業排水等の有機性排水を活性汚泥処理する際に、曝気槽内に酸素を供給するための散気装置に係る。
【背景技術】
【0002】
下水や産業排水等の有機性排水を活性汚泥処理する際、曝気槽内に酸素を供給するために散気装置が使用される。散気装置では、セラミックやプラスチックの微粒子を高温で板状または円筒状に焼結した多孔質体が広く使用されている。
【0003】
散気装置では、曝気ブロワの動力を低減することが重要な課題となる。特に、圧力損失をあまり増大させない条件下のもと、発生気泡をより小さくすることで気液の接触面積を増大させ、酸素溶解効率を向上させることが要求される。そのためには、散気面の開口をより小さくする必要性がある。
【0004】
セラミックやプラスチックの微粒子の多孔質焼結体において、散気面の開口を小さくするためには、より小さい粒径を使用して焼結を行うことになる。しかし、その場合には、焼結体の気孔径も小さくなるので、曝気空気中のダストや曝気停止時に逆流する有機性汚泥によって気孔が閉塞され、圧力損失が増大する。従って、気孔径を小さくすることには限界がある。
【0005】
また、セラミック焼結体は、曲げ強度が小さいので、外力や空気圧力によって割れないようにするためには、その厚さを10〜40mm程度とする必要がある。セラミック焼結体の中で、ダストや汚泥が気孔に蓄積されるのに伴い、閉塞が進行し、圧力損失が次第に増大する。ここで、ブロワの吐出圧力に上限があるので、圧力損失を下げるためには散気エレメントを適宜洗浄しなければならない。しかし、重量が大であるので、吊り上げが困難であり、曝気槽を空にしなければメインテナンスができない。更に、セラミック焼結体は割れ易いので、1枚当たりの散気面積を小さくせざるを得ず、そのために設置枚数が多くなり、コストを押し上げる。
【0006】
なお、曝気停止の際に有機性排水が逆流して散気エレメントを閉塞させる問題は致命的であり、一般的には、常時連続曝気をせざるを得ない。従って、セラミック焼結体を使用した散気装置には運転管理上の問題もあった。
【0007】
近年、上記問題の解決を図るべく、ゴム製のメンブレンを用いた散気装置が開発され、実用化されている。これは、ゴムの薄膜にスリットを切り込んだものを使用する装置で、曝気時にはゴムが膨らむことによりスリットが開いて気泡を発生させ、曝気停止時にはスリットが閉じて汚水の逆流を防止するものである。このように、ゴム製のメンブレンを用いることによって、散気エレメントが閉塞する問題が解決される。なお、ゴムの材質としては、EMDMゴムを使用したものと、更に強度のあるウレタンゴムを使用したものがある。
【0008】
ただし、ゴム製のメンブレンの場合には、長期間の使用によってゴムの収縮性が低下する。その場合、スリットの開閉機能が不十分になって、曝気停止時にもスリットが半開きき状態となるので、その開口にダストや汚泥が付着して圧力損失を増大させることがある。一方、ゴムが経年変化で劣化することによりスリットに亀裂が進行すると、発生する気泡が大きくなり、酸素溶解効率が下がる。従って、5年毎程度にゴムの薄膜の交換をする必要がある。
【0009】
なお、気泡径を小さくするためにスリットを小さくすると、スリットを開口するための空気の供給圧力を大きくせざるを得ず、酸素溶解効率が向上して供給空気量が減少しても供給圧力が高くなるので曝気動力は相殺される。
【0010】
特開2001−334288号公報には、濾布を使用した散気装置が開示されている。同公報において、上記のようなゴム製のメンブレンは高価で長期間の使用で劣化が起きやすいとされており、その代わりに、脱水機などで用いられている比較的安価で強度が強い濾布を使用することが提案されている。濾布は、長期間使用しても破断や閉塞の問題が少なく、散気装置の運転コストを下げることができる。
【0011】
しかしながら、濾布を使用する場合には、小さい気泡を発生させるための構造の開発、汚水の逆流防止対策、及び曝気時の圧力による濾布繊維の伸張に伴う劣化防止対策などについて、解決すべき課題が多く残されている。
【特許文献1】特開2001−334288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上のような従来の散気装置の問題点に鑑み成されたもので、本発明の目的は、酸素溶解効率を確保すべく、散気エレメントの圧力損失をあまり増大させることなく微細な気泡をさせることが可能で、且つ、散気エレメントの閉塞の主原因である曝気停止中の汚水の逆流を防止することが可能な散気装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の散気装置は、
散気面に、繊維を平織、綾織、斜文織またはシュス織りにて織ったメッシュクロスを使用した散気装置であって、
前記メッシュクロスは、線径が10〜100μmのポリアリレート製のモノフィラメントの糸を用いて、100〜1000メッシュ(インチ間の糸の本数)で織り上げ、開口の寸法を5〜200μmとしたクロスにより構成されることを特徴とする。
【0014】
本発明の散気装置によれば、散気面に、上記のような条件で製造されたメッシュクロスを使用することにより、径が1mm程度の気泡を発生させることができる。これによって、酸素溶解効率を向上させることができる。更に、曝気停止時には、メッシュの間に形成された水膜の表面張力によって、汚水の逆流を防止することができる。
【0015】
好ましくは、前記メッシュクロスは、背面側に配置された第一層と、その上に積層された第二層とを備え、
第一層は、線径が10〜100μmの糸を用いて、100〜1000メッシュで織り上げ、開口の寸法を5〜200μmとしたクロスにより構成され、
第二層は、第一層の繊維と単位断面積あたりの強度が同等の繊維からなり線径が30〜200μmの糸を用いて、10〜200メッシュで織り上げ、開口寸法を50〜800μmとしたクロスにより構成される。
【0016】
ここで、第一層は、目の細かい気泡発生用兼逆流防止用のメッシュクロスである。この第一層は比較的細い糸で織られているので、破損し易く、また、互いに隣接する開口の間の距離が小さく、気泡が重合して大きな気泡となり易い。従って、第一層の上を、単位断面積あたりの強度が同等の糸で織られ、且つ比較的開口寸法の大きな第二層で覆うことによって、気泡のサイズ及び発生密度を維持したまま、その伸張を防止することができる。また、このような第二層は、気泡の重合を防止する役割も果たす。
【0017】
その場合、好ましくは、前記第一層と前記第二層を圧着により一体化する。
【0018】
好ましくは、前記メッシュクロスを0.1N/cm以上の張力を与えてフレームに取り付ける。このように、前記メッシュクロスを曝気時の圧力よりはるかに大きい引張りをかけた状態でフレームに取り付けることによって、曝気中でのメッシュクロスの伸長を抑えることができる。これによって、曝気の有無に関わらず繊維の内力がほぼ一定に保たれ、繰り返し応力による劣化が防止される。
なお、張力の上限値は、30N/cm程度である。
【0019】
好ましくは、前記フレームに取り付けられたメッシュクロスを箱状のホルダーの上面に配置する。
【0020】
好ましくは、前記ホルダーの内部または前記ホルダーへの空気供給管の接合部に、ダスト捕捉粒径が1〜300μmのフィルタを挿入する。このように、フィルタを挿入することにより、供給空気中のダストを捕捉してメッシュクロスの目詰まりを防止し、長期間の連続使用を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の散気装置によれば、径が1mm程度の気泡を発生させることによって、酸素溶解効率を向上させるとともに曝気に要する動力を低減させることができる。更に、曝気停止時には、メッシュの間に形成された水膜の表面張力によって、汚水の逆流を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、発生気泡を小さくすることで酸素溶解効率を大きくすること、散気エレメントの圧力損失を増大させないこと、汚水の逆流を防止し間欠曝気を可能とすることを目指してなされたものである。このような状態を実現するため、本発明の散気装置では、散気面に線径が10〜100μmの繊維を平織りまたは綾織りにて100〜1000メッシュ(インチ間の糸の本数)にて織ったメッシュクロスが使用される。このメッシュクロスは、5〜200μmの微細な開口を有するものとなる。繊維は、モノフィラメント(単繊維)でもマルチフィラメント(複数繊維)でもよいが、強度が高くメッシュ数の大きい小さな開口を製織により実現することできる繊維として、例えば、ポリアリレート製のモノフィラメントがある。
【0023】
小さい気泡を発生させるために最適なものは400メッシュで、その場合、製織可能な線径は30μm程度であり、開口は30μm程度となる。このようなメッシュクロスは、開口が小さいため、表面張力により汚水が逆流しないので、曝気停止時の逆流防止機能を備えている。これより大きいメッシュとすると、圧力損失が大きくなり、ブロワの動力が増えるので総合的な動力効率が下がるため得策ではない。
【0024】
但し、このようなメッシュクロスを単独で散気エレメントに用いると、曝気空気の圧力が高い場合には、図1(a)(b)に示すように、メッシュクロス1の繊維が伸張する。そのため、連続的な発泡ではなく脈動状態で気泡の発生が間欠的になることがある。また、細い繊維を用いているので,互いに隣接する開口の間の距離が小さく、使用される条件によれば、図2に示すように、発生した気泡2が重合して大きな気泡が発生することがある。
【0025】
そこで、上記のような散気用(気泡発生と汚水逆流防止機能を兼ねる)のメッシュクロス11(第一層)の伸張防止と気泡の重合防止のために、その上に、図3に示すように、同等の強度がある繊維を使用してメッシュを粗くしたメッシュクロス(第二層)を重ねて、二層またはそれ以上の複層構造とする。この上層のメッシュクロス12は、線径が30〜200μmものを10〜200メッシュにて織ったもので、その場合、開口は50〜800μmとなる。繊維の材質として、例えば、高強度で低伸度であるポリアリレートのモノフィラメントがある。
【0026】
また、圧着により一体化した複層構造のメッシュクロスは、厚さが1,000μm以下と薄いため、メッシュクロスの開口にダストや汚泥が蓄積されにくい。仮に、曝気停止時に汚泥3やダストがメッシュクロス11の開口を塞いでも、曝気を開始すれば、図4(a)(b)に示すように、曝気の空気によって容易にフラッシングされる。従って、汚泥の閉塞による圧力損失の増大がない。
【0027】
図5に、メッシュクロス11、12をフレーム13に取り付けることによって構成される散気エレメント14の例を示す。この例では、二層のメッシュクロスが使用され、このメッシュクロスは、曝気の空気による圧力で繊維が伸びることがないように、引張りを掛けた状態でフレームに取り付けられる。このように、予め引張りを与えておくことによって、曝気時の繊維の伸張が抑えられ、伸縮の繰り返しに伴う繊維の劣化が防止される。
【0028】
また、必要に応じて、供給空気中に含まれるダストによるメッシュクロスの開口の閉塞を防止するため、図6に示すように、散気エレメントのメッシュクロスの上流側に、ダスト捕捉用のフィルタ15を設置することもできる。
【0029】
図7(a)に示すように、フィルタがない状態では、空気中のダストがメッシュクロスの下層11に付着して、閉塞を起こすことがある。図7(b)に示すように、フィルタ15を設置することにより、空気中のダスト5がフィルタ15に捕捉され、メッシュクロスの閉塞を防ぎ、圧損の増大を防止することができる。なお、好ましくは、フィルタ15には、空隙率の大きい不織布など使用し、ダストの捕集粒径を1〜300μm程度とする。
【0030】
フィルタ15は、メインテナンス時に交換すれば良く、セラミック製の散気エレメントの場合に問題となる薬品洗浄等が不要であり、管理が比較的容易である。
【0031】
図8に、フィルタの配置の他の例を示す。この例では、散気エレメント14(メッシュクロス11、12をフレーム13に取り付けたもの)が箱状のホルダー16の上面に取り付けられる。ホルダー16の端部近傍には供給空気管17が接続される。ダスト捕捉用のフィルタ18は、供給空気管17とホルダー16の接続部に設けられたポケットの中に収納される。
【0032】
表1に、本発明に基づく二層タイプのメッシュクロスを用いた散気装置について、その酸素溶解効率及び圧力損失を測定した結果を示す。なお、この表には、比較のため、従来の焼結体を用いた散気装置についての試験結果も併せて示してある。
【表1】

【0033】
表2に、本発明に基づく二層タイプのメッシュクロスを用いた散気装置を、実際に下水処理場で使用して、通気抵抗の増加の程度を観察した結果を示す。なお、この表には、比較のため、従来の焼結体を用いた散気装置についての試験結果も併せて示してある。
【表2】

【0034】
表1から分かるように、本発明に基づく散気装置の酸素溶解効率は、従来の散気装置と比べて、約1.3倍高くなる。また、初期の圧損は、4.50MPaと、従来の装置より若干高いが、長期間の使用に伴う圧損の加率は従来の装置と比べて非常に小さい。従って、現場で使用する場合の平均的な圧損に関しては、従来の装置と比べて遜色無いと言える。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】メッシュクロスに曝気用の空気の圧力が作用したときの、メッシュクロスの変形の様子を示す模式図、(a)は曝気停止時、(b)は曝気時の状態を表わす。
【図2】メッシュクロスを通過した気泡が合体する様子を示す模式図。
【図3】二層タイプのメッシュクロスの構造を示す模式図。
【図4】メッシュクロスに汚泥が付着した状態、及びそれらをフランシングで取り除く様子を示す模式図、(a)は前者を表わし、(b)は後者を表わす。
【図5】フレームにメッシュクロスを取り付けることにより構成される散気エレメントの構造を示す模式図。
【図6】メッシュクロスの上流側にフィルタを配置した状態を示す模式図。
【図7】(a)は供給空気中のダストによってメッシュクロスが閉塞した状態を示す模式図、(b)は供給空気中のダストをフィルタによって捕捉した状態を示す模式図。
【図8】供給空気管の接続部にフィルタが収納された散気装置の概要を示す模式図。
【符号の説明】
【0036】
1・・・メッシュクロス、
2・・・気泡、
3・・・汚泥、
5・・・ダスト、
11・・・メッシュクロス(第一層)、
12・・・メッシュクロス(第二層)、
13・・・フレーム、
14・・・散気エレメント、
15・・・フィルタ、
16・・・ホルダー、
17・・・供給空気配管、
18・・・フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散気面に、繊維を平織、綾織、斜文織またはシュス織りにて織ったメッシュクロスを使用した散気装置であって、
前記メッシュクロスは、線径が10〜100μmのポリアリレート製のモノフィラメントの糸を用いて、100〜1000メッシュで織り上げ、開口の寸法を5〜200μmとしたクロスにより構成されることを特徴とする散気装置。
【請求項2】
散気面に、繊維を平織、綾織、斜文織またはシュス織りにて織ったメッシュクロスを使用した散気装置であって、
前記メッシュクロスは、背面側に配置された第一層と、その上に積層された第二層とを備え、
第一層は、線径が10〜100μmの糸を用いて、100〜1000メッシュで織り上げ、開口の寸法を5〜200μmとしたクロスにより構成され、
第二層は、第一層の繊維と単位断面積あたりの強度が同等の繊維からなり線径が30〜200μmの糸を用いて、10〜200メッシュで織り上げ、開口寸法を50〜800μmとしたクロスにより構成されること、
を特徴とする散気装置。
【請求項3】
前記第一層に使用される糸は、ポリアリレート製のモノフィラメントであり、
前記第二層に使用される糸は、ポリアリレート製のモノフィラメントである、
ことを特徴とする請求項2に記載の散気装置。
【請求項4】
前記第一層と前記第二層を圧着により一体化したことを特徴とする請求項2に記載の散気装置。
【請求項5】
前記メッシュクロスを0.1N/cm以上の張力を与えてフレームに取り付けたことを特徴とする請求項4に記載の散気装置。
【請求項6】
前記フレームに取り付けられたメッシュクロスを箱状のホルダーの上面に配置したことを特徴とする請求項5に記載の散気装置。
【請求項7】
前記ホルダーの内部、または前記ホルダーへ空気を供給する配管と前記ホルダーとの接合部に、ダスト捕捉粒径が1〜300μmのフィルタを挿入したことを特徴とする請求項6に記載の散気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−326524(P2006−326524A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155632(P2005−155632)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(391018341)NBC株式会社 (59)
【Fターム(参考)】