説明

整備管理システム

【課題】 有寿命品を有する整備対象システムの整備において、有寿命品の個体差による性能ばらつきがあっても、故障直前まで使用できる整備管理システムを実現する。
【解決手段】 整備対象システム1のBIT(Built−In Test)で得られた時間データ及び使用時間をシステム内の制御部6のメモリ7に記録し、そのデータを整備器材2に転送し、計算機9の部品性能劣化判定手段において、構成品内部の摺動部材の摩耗による性能劣化予測を行い、この性能劣化予測の精度向上のために整備対象システム1の塔載母機で取得された高度、大気温度、大気速度及び加速度等のデータで補正を実施して、真の部品寿命を予測することにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有寿命品を有する電子機器を対象にした整備管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有寿命品を有する電子機器の整備では、運用前に実施する事前整備または運用後に実施する事後整備において、システムの機能性能の確認を実施し、異常がある場合は所定の整備を実施する。例えば、有寿命品の性能劣化による異常を検出した際は、部品交換等の整備を行う。
【0003】
このような整備管理システムでは、整備対象システムが有寿命品の性能劣化により所要性能を満足出来なくなる前に、所定の通算運用時間や回数が経過した部品を整備において無条件に交換したり、前記交換による無駄を減らすために温度、湿度、振動、衝撃及び気圧等の各環境条件を環境センサでデータを収集し、この環境データと平均故障間隔時間であるMTBFデータとから故障予知を行うことにより有寿命品を故障直前まで使用するような整備管理システムが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−97814号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際の有寿命品の故障間隔は温度、湿度、振動、衝撃及び気圧等の各環境条件に依存するだけでなく、複雑な部品では個々の製品の性能ばらつきによる寿命の分布が生ずるため、有寿命品の故障間隔の個体差を無視し得ないという問題がある。
【0006】
この発明は、このような問題にかんがみ、有寿命品の整備にあたって、個々の部品の性能ばらつきがあっても、故障直前まで使用できる整備管理システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の整備管理システムは、BIT(Built−In Test)で得られた有寿命品の性能劣化に係る使用履歴に対するデータ列を記録する制御部内のメモリと、上記制御部内のメモリに記録された有寿命品の使用履歴に対するデータ列を整備器材と送受信するI/F部と、から成る整備対象システムと、定期点検時に、上記整備対象システム接続され、上記整備対象システムと送受信するI/F部から供給され、上記整備対象システムの動作時の有寿命品の使用履歴に対するデータ列を記録する計算機部内のメモリと、上記計算機部内のメモリに記録された有寿命品の使用履歴に対するデータ列に基づき、予め登録された部品毎の使用限界から、有寿命品の交換時期を判定する部品性能劣化判定手段とから成る整備器材とを具備するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、整備対象システムからBITで得られたデータを送受信して、上記整備対象システムの動作時のデータに基づき有寿命品の交換時期を計算し部品性能劣化を判定することによって、有寿命品の整備にあたって、個々の部品の性能ばらつきがあっても、故障直前まで使用できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による整備管理システムの構成を示すブロック図であり、1は整備対象システム、2は整備対象システム1の整備に使用する整備器材、3は整備対象システム1を構成するセンサ部、4はセンサ部3の内部に搭載される赤外線検出器クーラ、5はセンサ部3のジンバル摺動部位に設置され気密を保つロータリーシール、6はセンサ部3を制御する制御部、7はセンサ部3及び制御部6の動作時のデータを記録するメモリ、8は整備器材と接続するI/F部、9は整備器材2を構成する計算機部、10は整備対象システム1と接続するI/F部、11は整備対象システム1から供給された動作時のデータを記録するメモリ、12はメモリ11のデータに基づき、整備対象システム1の使用時間に対する赤外線検知器クーラ4及びロータリーシール5の各部品の使用限界値を有し、それを用いて有寿命品の交換時期を計算する部品性能劣化判定手段である。

【0010】
次に、赤外線撮像装置に適用した例で、整備管理システムの動作について説明する。
この発明は、特に有寿命品を有する電子機器の整備のように部品寿命診断が有効なシステムに対する整備管理システムであり、この発明の赤外線撮像装置における有寿命品は、センサ部3のジンバル摺動部位に設置され気密を保つロータリーシール5とセンサ部3の内部に搭載される赤外線検出器クーラ4である。
【0011】
赤外線検知器クーラ4は、内部の摺動部材の摩耗により、クールダウンタイムの性能が劣化して、赤外線検知器クーラ4が一定温度まで冷却されるまでの所要時間が少しずつ延びていくので、この時間を計測し、その変化に注目すれば、整備目的に有効である。
【0012】
ロータリーシール5は、ジンバル摺動部の摺動部材の摩耗により、所定のジンバル摺動部の所定の位置までの所要回転移動時間が少しずつ延びていくので、この時間を計測し、その変化に注目すれば、整備目的に有効である。
【0013】
整備対象システム1の電源投入後のパワーオンBIT(Built−In Test)で得られた赤外線検知器クーラ4のクールダウンタイムの時間データ、ロータリーシール5の回転移動時間及び整備対象システム1の使用時間を制御部6内のメモリ7に記憶する。
クールダウンタイムの時間データは、センサ部3において、赤外線検知器クーラ4の温度が電源投入してから、所定の温度まで冷却されるまでの時間を、測定している。
【0014】
整備対象システム1が使用開始してからの累積時間で表される使用時のデータと、各動作時のクールダウンタイムの時間データを各制御部6内のメモリ7に記憶する。
よって、一定期間の間に、メモリ7には、整備対象システム1の動作毎の使用時のデータとクールダウンタイムの時間データ列が記憶されることになる。
【0015】
整備対象システム1が基地に帰還した場合で、定期点検時期、例えば、1ヶ月に1度程度で実施する際に行うものであるが、整備対象システム1に整備器材2を接続して、整備対象システム1の使用時間を制御部6内のメモリ7に記憶されたデータを計算機部9内のメモリ11に転送し蓄積する。
メモリ11のデータを用いて部品性能劣化判定手段12により、赤外線検知器クーラ4の寿命予測を行う。
【0016】
図2は、整備対象システムに使用されるで部品の個体差により性能ばらつきがある場合の使用時間に対する性能劣化の寿命曲線を説明する図であり、13は性能劣化が急な部品の実寿命曲線A、14は性能劣化が緩やかな部品の実寿命曲線B、15は性能劣化が平均的な部品の実寿命曲線Cである。
図2の△、○、□は、例えば、整備対象システムの運用毎に当該システムの使用時間に対する部品のクールダウンタイムを示している。
【0017】
ここで、部品とは整備対象システムで使用される赤外線検知器クーラ4の個体差が存在する部品を表しており、赤外線検知器クーラ4の個体差により、性能劣化が急な部品の実寿命曲線A13、性能劣化が緩やかな部品の実寿命曲線B14、性能劣化が平均的な部品の実寿命曲線C15で表現される。
また、ロータリーシール5の個体差についても同様である。
【0018】
整備器材2側の整備器材2における部品性能劣化判定手段12によって、赤外線検知器クーラ4の寿命予測を実施する。
【0019】
寿命予測は、整備対象システム1のメモリ11に記憶された実データを用いてなされるため、部品の個体差による性能ばらつきがあっても、個体毎の寿命曲線A13、寿命曲線B14及び寿命曲線C15のそれぞれに対する予測寿命A、B及びCを部品性能劣化判定手段12で実データにより計算し、部品使用限界に達するまでの時間を求めることで、システム性能を満足し得る限界まで見極められ、整備対象システム1を故障が予測される時期の直前まで使用することが可能となる。
【0020】
また、ロータリーシール5は、摺動面の接触面積が摩耗により広がるために、使用時間に対して、センサ部3のジンバル摺動部位の摩擦トルクが大きくなる。
整備対象システム1の電源投入後のダイナミックBIT(Built−In Test)で得られたジンバルの角度指令に対する指向時間データ及び使用時間を制御器6内のメモリ7に記録する。
このデータを整備対象システム1に整備器材2を接続した際に、計算機部9内のメモリ11に転送し蓄積する。
【0021】
メモリ11のデータを用いて部品性能劣化判定手段12により、ロータリーシール5の寿命予測を行うので、赤外線検知器クーラ4の寿命予測と同様にシステム性能を満足し得る限界まで見極められ、整備対象システム1を故障直前まで整備することなし使用することが可能となるという効果がある。
【0022】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施形態2を示す整備管理システムのブロック図であり、16は整備対象システム1が塔載される搭載母機、17は部品寿命に関連する母機側で検出する高度、大気温度、大気速度及び加速度等のデータを整備対象システム1に供給するI/F部であり、1〜12は図1と全く同一のものである。
【0023】
次に動作に関して説明する。
実施の形態2では、実施の形態1に部品寿命に関連する高度、大気温度、大気速度及び加速度等のデータを搭載母機16から取り込むI/F部17を設置したものである。
【0024】
整備対象システム1の動作時のデータ及び使用時間とともに部品寿命に関連する母機側で検出するデータを制御部6のメモリ7に記録し、I/F部17を介して入手された搭載母機16において測定された高度、大気温度、大気速度及び加速度等のデータを制御部6のメモリ7に記録する。
【0025】
このデータを整備対象システム1に整備器材2を接続した際に、計算機部9内のメモリ11に転送し蓄積する。
メモリ11のデータを用いて部品性能劣化判定手段12により、赤外線検知器クーラ4及びロータリーシール5の寿命予測を行う。
【0026】
部品性能劣化判定手段12は、赤外線検知器クーラ4及びロータリーシール5等の有寿命品の部品毎のデータで得られる寿命曲線へ、搭載母機16から得られた高度、大気温度、大気速度及び加速度等の使用時の環境条件の経緯を表すデータで補正をかけた後の補正寿命曲線から寿命予測を行うものである。
【0027】
図4は、母機側で検出するデータを用いた有寿命部品の寿命曲線の補正を説明する図であり、18は整備対象システム1の取得データのみで得られる寿命曲線、19は搭載母機16で取得した高度、大気温度、大気速度及び加速度等のデータから前記寿命曲線18に補正を実施した補正寿命曲線である。
【0028】
整備対象システム1が使用された環境条件を表ている母機側で検出する高度、大気温度、大気速度及び加速度等によっては、整備対象システム1の動作時のデータの値が悪化して取得されるため、この悪化分を部品性能劣化判定手段12において補正するものである。
【0029】
赤外線検知器クーラ4及びロータリーシール5等の有寿命品の部品毎のデータについて、搭載母機16で取得した高度、大気温度、大気速度及び加速度等のデータから、整備対象システム1の取得データのみで得られる寿命曲線18に補正を実施した補正寿命曲線19から、寿命予測を行うものである。
図4において、寿命曲線18における部品仕様限界までの予測寿命に比べ、補正寿命曲線19における部品使用限界までの補正予測寿命が延びていることを表している。
【0030】
寿命予測は、整備対象システム1のメモリ11に記憶された実データから得られる寿命曲線18について、搭載母機16で取得した高度、大気温度、大気速度及び加速度等のデータから整備対象システム1の使用環境条件の影響を考慮して補正をかけたのが補正寿命曲線19である。
【0031】
補正を実施する時までは、補正前の寿命曲線18上に、図4の○でプロットされるように、使用時間の経過と共に上昇してくるが、使用環境条件の影響を考慮して補正を実施した後には、補正寿命曲線19の図4の●でプロットされる曲線の寿命曲線に移動することになり、補正前の寿命曲線18における部品使用限界までの時間が、補正寿命曲線19における部品使用限界までの時間が長くなり、整備対象システム1を故障が予測される時期の直前まで使用することが可能となる。
【0032】
寿命曲線18は高度、大気温度、大気速度及び加速度等の使用環境条件が各々の標準の環境条件下で整備対象システム1が使用された場合に得られるものであり、補正寿命曲線19は、寿命曲線18で得られたデータに、実際に整備対象システム1が使用された使用環境条件を搭載母機16で測定して転送されたデータを使用して補正をかけるものである。
【0033】
この補正は部品毎に、高度、大気温度、大気速度及び加速度等の各種の要素から決定されるものであるが、例えば速度が相違していた場合とすると、速度をマッハ1で飛行することを標準としており、実使用ではマッハ0.5で飛行したことを想定すると、部品がクールダウンタイムの場合は部品性能は(1/0.5)に比例した値になるというように、対象にする部品と、その寿命性能に対する要素毎に理論的に計算や、実験データから統計的に決定されるものである。
【0034】
整備対象システム1の動作時のデータの値が悪化して取得されるため、この悪化分を部品性能劣化判定手段12において補正することにより、さらにシステム性能を満足し得る限界まで見極められ、整備対象システム1を故障直前まで整備することなしに使用可能になるという効果がある。
【0035】
実施の形態3.
図5は、この発明の実施形態3を示す整備管理システムのブロック図であり、20は整備対象システム1のデータの授受を行うICカードI/F部、21は整備対象システム1のICカード、22は整備器材2のICカードI/F部であり、1〜7、9、11、12は図1と全く同一のものである。
【0036】
次に動作に関して説明する。
実施の形態3では、実施の形態1のデータの送受を行うI/F部8及びI/F部10をICカード21に置き換えたものであり、データの送受以外の基本的な動作は同等である。
【0037】
ICカード21を用いた場合、整備対象システム1を整備器材2の近傍に持ってくる必要がないという効果がある。
【0038】
実施の形態4.
図6は、この発明の実施形態4を示す整備管理システムのブロック図であり、23は整備対象システム1のデータの授受を行う送受信部、24は整備対象システムのANT部、25は整備器材のANT部、26は整備器材2の送受信部であり、1〜7、9、11、12は図1と全く同一のものである。
【0039】
次に動作に関して説明する。
実施の形態4では、実施の形態1のデータの送受を行うI/F部8及びI/F部10を送受信部23及び26、並びに無線で送受信するためのアンテナを設置したANT部24及び25に置き換えたものであり、基本的な動作は実施の形態1と同等である。
【0040】
無線によるデータ送受の場合、整備対象システムを整備器材に接続する必要がなく、近傍に持ってくるだけで済むという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の実施の形態1を示す整備管理システムのブロック図である。
【図2】個体差により性能ばらつきがある場合の寿命曲線を説明する図である。
【図3】この発明の実施の形態2を示す整備管理システムのブロック図である。
【図4】母機側で検出するデータを用いた寿命曲線の補正を説明する図である。
【図5】この発明の実施の形態3を示す整備管理システムのブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態4を示す整備管理システムのブロック図である。
【符号の説明】
【0042】
1 整備対象システム、 2 整備器材、 3 センサ部、 4 赤外線検知器クーラ、 5 ロータリーシール、 6 制御部 、 7 メモリ、 8 I/F部、 9 計算機部、 10 I/F部、 11 メモリ、 12 部品性能劣化判定手段、 13 実寿命曲線A、 14 実寿命曲線B、 15 実寿命曲線C、 16 搭載母機、 17 I/F部、 18 寿命曲線、 19 補正寿命曲線、 20 ICカードI/F部、 21 ICカード、 22 ICカードI/F部、 23 送受信部、 24 ANT部、 25 ANT部、 26 送受信部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BIT(Built−In Test)で得られた有寿命品の性能劣化に係る使用履歴に対するデータ列を記録する制御部内のメモリと、
上記制御部内のメモリに記録された有寿命品の使用履歴に対するデータ列を整備器材と送受信するI/F部と、
から成る整備対象システムと、
定期点検時に、上記整備対象システム接続され、上記整備対象システムと送受信するI/F部から供給され、上記整備対象システムの動作時の有寿命品の使用履歴に対するデータ列を記録する計算機部内のメモリと、
上記計算機部内のメモリに記録された有寿命品の使用履歴に対するデータ列に基づき、予め登録された部品毎の使用限界から、有寿命品の交換時期を判定する部品性能劣化判定手段と、
から成る整備器材と、
を具備することを特徴とする整備管理システム。
【請求項2】
上記整備対象システムとして、
搭載母機で取得された高度、大気温度、大気速度及び加速度のデータを送受信するI/F部を有することを特徴とする請求項1記載の整備管理システム。
【請求項3】
上記整備対象システムのI/F部及び上記整備器材のI/F部として、
上記整備対象システム及び上記整備器材に搭載されて、ICカードを媒介としてデータの授受を行うICカードI/F部を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の整備管理システム。
【請求項4】
上記整備対象システムのI/F部及び上記整備器材のI/F部として、
上記整備対象システム及び上記整備器材に搭載されて、無線でデータの授受を行う送受信部及びアンテナを具備することを特徴とする請求項1または請求項2記載の整備管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−284432(P2006−284432A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106176(P2005−106176)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】