説明

整形外科インプラントで使用する基体材料に多孔性コーティングを接合するための直接加圧

【課題】整形外科インプラントで使用する基体材料に多孔性コーティングを接合するための直接加圧を常時制御するための方法を提供する。
【解決手段】基体20とコーティングを含むインプラント24を準備する工程と、そのインプラントに圧力を印加する工程を含み、直圧は多孔性コーティング22と基体材料との界面に、接合過程での熱や空気圧条件の影響を受けない加圧機構を介して印加される。加圧機構によりインプラント上への圧力が維持され、接合過程を通じて常時制御される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、米国特許法119条(e)に基づいて、2007年2月9日に出願の米国仮特許出願第60/889043号「整形外科インプラントで使用する基体材料に多孔性コーティグを接合するための直接加圧」の便益を主張するものであり、その開示は参照により本願に全て明確に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は整形外科インプラント、より具体的には表面に付着させた多孔性コーティングを有する整形外科インプラントに関する。本発明は基体材料にコーティングを接合するための方法にも関する。更に具体的には、本発明は整形外科インプラントで使用する基体材料に多孔性コーティングを接合する際の直接的な加圧を制御するための方法に関する。
【0003】
整形外科インプラントは通常、その骨接触面上に金属基体と所望の厚さの多孔性構造とを含んでおり、この多孔性構造を介して骨の成長を促し、隣接する骨組織へのインプラントの取付けを増強している。プラズマ溶射法、焼結法、及び拡散接合を含む多様な方法が、多孔性表面を有する整形外科インプラントの製造に向けて開発されてきた。
【0004】
例えば股、膝、肘、肩、及び脊椎等用の整形外科インプラントは、骨の内方成長を可能とすることでインプラントを固定するための1つ以上の多孔性表面を含んでいてもよい。典型的には、多孔性材料を用意して、基体材料へと付着させる。基体材料に付着させる前に、多孔性コーティングを予備焼結又は拡散接合してもよい。次に、多孔性コーティングを基体に付着させ、様々な熱処理法により基体との間に金属結合を形成する。
【0005】
熱処理過程全体を通して基体と多孔性コーティングとを接触させ続けることで金属結合が形成される。基体と多孔性コーティングとの間の接触は、不活性でありインプラントと化学反応を起こさない高温材料から形成された固定器具によって維持することが可能である。加えて、金属結合を達成するのに必要な温度はかなり高いことから、部品の表面が化学的に変化しないように真空炉の使用を必要とする場合がある。基体と多孔性コーティングとの間を金属結合するために使用する熱処理工程は約14時間にもなり、複数回に亘って反復する必要がある場合がある。総サイクル時間が28時間を越えることもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、整形外科インプラントで使用する基体材料に多孔性コーティングを接合するための直接加圧を常時制御するための方法を提供する。直圧は多孔性コーティングと基体材料との界面に、接合過程での熱や空気圧条件の影響を受けない加圧機構を介して印加される。加圧機構によりインプラント上への圧力が維持され、接合過程を通して常時制御される。
【0007】
更に、本発明は金属結合を達成するのに必要な時間を大幅に削減する方法を提供する。外部手段により印加圧力を継続的に制御及びモニタしながら、慣用の熱処理法でインプラントを処理可能である。常時及び一貫した加圧制御により、基体、中間層、及び多孔性コーティング表面間で金属結合を形成するために必要なサイクル時間を短縮可能となる。
【0008】
その一形態において、本発明はコーティングを基体に接合して整形外科インプラントを形成するための方法を提供し、この方法は少なくとも基体とコーティングを含むインプラントを準備する工程と、そのインプラントに圧力を印加する工程と、前記印加した圧力を常時制御する工程と、前記印加工程中にインプラントを接合する工程を含む。
【0009】
その別の形態において、本発明はコーティングを基体に接合して整形外科インプラントを形成するための装置を提供し、装置は圧力をインプラントに印加するための加圧手段と、印加した圧力を制御するための制御手段と、前記制御手段で印加圧力を維持している間に基体とコーティングを接合するための接合手段とを含む。
【0010】
その更に別の形態において、本発明は整形外科コンポーネントを製造するためのシステムを提供し、システムは少なくとも第一層と第二層を含むインプラントと、前記インプラントがその内部に配置される炉と、前記炉と連動している圧力印加装置と、前記圧力印加装置と連動している制御装置を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ここで図2を参照するが、本開示の一実施形態による方法100はブロック102、104、106、108、110及び112によって表わされる幾つかの工程を含む。ブロック102は基体20(図1)を準備するための工程を表わす。例示的な実施形態において、基体20は例えば整形外科インプラントでよく使用されるチタン系又はコバルト系合金等の金属基体であってもよい。チタン系合金の例にはそれぞれASTM番号F−136又はF−1295のレーティングを有するTi−6Al−4V合金又はTi−6Al−7Nb合金が含まれる。コバルト系合金の例にはそれぞれASTM番号F−75又はF−1537を有する鋳造コバルト・クロム・モリブデン(CoCrMo)合金又は鍛造CoCrMo合金を含む。一実施形態において、基体20(図1)は例えば人工膝の寛骨臼カップや大腿骨コンポーネント等である整形外科インプラントのコンポーネントとして成形される。
【0012】
引き続き図2を参照するが、ブロック104は例えば多孔質金属層、薄層、パウダー、ビード及び/又はホイル等の多孔性コーティング22(図1)を準備する工程を表わしている。一実施形態において、多孔性コーティング22は多孔性タンタル構造を含む。多孔性コーティング22は市販の純チタン繊維金属であるTrabecular Metal(登録商標)又はCoCrMo繊維金属から形成することもできる。例示的な実施形態において、多孔性コーティング22は、例えば人工膝用の寛骨臼カップシェル又は大腿骨コンポーネント等である整形外科インプラントの骨接触面上での使用に適した形状に形成する。
【0013】
ブロック106は界面25で多孔性コーティング22と基体20を組み立てることでインプラント24(図1)を形成する工程を表す。この方法はブロック108とブロック110に続き、これらの工程はインプラント24を同時に拡散接合、つまりインプラント24を同時加熱しながら、インプラント24に直接的に加圧する同時工程を表している。
【0014】
焼結又は拡散接合により基体20と多孔性コーティング22との間に強力な金属結合を形成するためには、基体20と多孔性コーティング22とが界面25で十分に表面接触していなければならない。顕微鏡レベルでは、基体20の表面と多孔性コーティング22の表面のどちらも完全な輪郭を描いてはいないことから、なんらかの機構を用いて圧力を印加することで多孔性コーティング22と基体20とを十分に接触させ、界面25で接合する必要がある。
【0015】
ブロック108で、インプラント24、つまり多孔性コーティング22と基体20との間の界面25に圧力を印加する。真空チャンバ31内部の温度や空気圧条件に左右されないシステムを用いて圧力を制御することが有利であり、従ってシステムは全接合過程を通してインプラント24に印加される一定又は可変圧力を常時制御することが可能である。
【0016】
図1を参照するが、インプラント24はまず、真空炉30の真空チャンバ31内の支持構造体32上に載置される。真空炉30により拡散接合に向けた真空又は制御雰囲気状態が作られる。プレス又はラム34は真空炉30の壁部36を貫通して延び、インプラント24に突き当たることで、プレス34の衝撃表面35と多孔性コーティング22との間に物理的な表面接触が生じる。或いは、インプラント24は衝撃表面35が基体20の表面又は基体20と多孔性コーティング22の双方に直接的に接触するように位置させてもよい。別の実施形態においては補助固定器具(図示せず)を衝撃表面35とインプラント24との間で利用してもよい。補助固定器具はインプラント24に調和する、例えばインプラント24が寛骨臼シェルである場合は半球形状等に構成することができる。補助固定器具により、プレス34を使用しつつ、インプラント24の形状を問わず対応することが容易となる。
【0017】
加圧及び拡散接合中、インプラント24は支持構造体32によって支持される。プレス34による加圧中にインプラント24が動かないように、プレス34が加える力に等しいが逆方向の力が働くように支持構造体32を配置することが有利であり、これにより加圧効率が向上する。このため、後述するように、プレス34は拡散接合過程中、インプラント24の界面25に直接加圧を行うことが可能である。拡散接合過程全体を通して、圧力を常時制御することが有利である。例示的な実施形態において、インプラント24への印加圧力は、接合過程全体を通して、プレス34の衝撃表面35がインプラント24に与える負荷を10lbfから5000lbfへと上昇させることで常時制御する。一実施形態においては、炉30の真空チャンバ31が所望の温度に一旦達したら、接合又は加熱過程全体を通して、インプラント24に印加する圧力を制御して一定レベルに維持する。或いは、インプラント24に印加する圧力を可変制御、つまり接合過程中に圧力を上昇及び/又は低下させてもよい。圧力は複数方向に印加することもでき、例えば一方向の個別の方向からであっても及び/又は複数の方向からであってもよい。
【0018】
プレス34の衝撃表面35は、基体20、多孔性コーティング22、補助固定器具のいずれとも拡散接合過程中に結合又は相互作用しないようにと不活性材料から形成してもよい。一実施形態において、衝撃表面35及び/又は補助固定器具は、例えば、高温金属コンポーネント及び/又はグラファイトコンポーネント、高温セラミック、グラファイト、及び金属コンポーネントから形成してもよい。妥当な雰囲気制御下の真空炉を用いて製品統合性を維持してもよい。
【0019】
図2を再度参照するが、拡散接合過程はブロック108で表わされる加圧工程と同時に行われるブロック110で表わされる。拡散接合とは、熱と圧力のみを用いて原子結合を行う、材料を接合するための固状反応と定義される。接合過程全体を通して、真空炉30内の条件の影響を受けない外部システムを用いてインプラント24上に作用する圧力を制御してもよい。拡散接合は真空炉30内において完全真空、分圧、陽圧で実行してもよい。接合過程全体を通し、インプラント24の界面25に直接的に印加される圧力を制御することで、慣用の方法と比較すると短い製造サイクル時間及び低接合温度で多孔性コーティング22を基体20へと十分に接合することができ、有利である。更に、慣用の方法と比較すると、製造サイクルの数を減らすことができる。基体20と多孔性コーティング22の界面25での微細構造の制御性が結果的に向上することから、慣用のインプラントと比較するとインプラント24の機械特性及び疲労強度の制御性が向上する。
【0020】
拡散接合が完了した後、ブロック112で表わされる工程で、インプラント24に直接的に印加された圧力を解放する。続いてインプラント24を真空、分圧不活性ガス下で冷却しても、或いは陽圧でガスファン冷却/急冷してもよい。
【0021】
明細書全体を通して基体20と多孔性コーティング22を有すると記載してきたが、インプラント24は2つ以上の層、例えば基体20と多孔性コーティング22との間の中間層を含んでいてもよい。
【0022】
テストサンプル及び人工インプラントをこの方法により性能要件を満たすように製造した。サンプルは全て、その微細構造(基体、コーティング、及び結合界面)、組成、及びコーティング接着強度についての分析に供された。サンプルは、サイクル数の減少及びサイクル時間の短縮という利点が見込まれる拡散接合に必要な典型的な温度で処理した。
【0023】
本開示を例示のデザインを有するものとして説明してきたが、本開示は本開示の精神と範囲内において更に改変可能である。従って、本願は本開示のその主要原理に基づいた上での変更、使用、又は調節もその範囲に含むことを意図している。更に、本願は本願が係る分野における慣例又は慣行内にあり、かつ付随する請求項の限度内にある本開示からのこういった逸脱をその範囲内に含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本開示の上記及びその他の特徴及びこれらの特徴を獲得する方法は、添付の図面と共に本願の実施形態についての以下の記載を参照することでより明白かつより理解することができる。
【図1】本開示の一実施形態による方法で使用可能な装置の平面図である。
【図2】本開示の一実施形態による方法の概略図である。
【0025】
図面全体を通し、対応する参照符号は同じ部品を示す。ここで述べる例示は本開示の実施形態を図示するものであり、こういった例示は本発明の範囲をいかなる形でも制限するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基体とコーティングを含むインプラントを準備する工程と、
そのインプラントに圧力を印加する工程と、
前記印加した圧力を常時制御する工程と、
前記印加工程中にインプラントを接合する工程を含む、
コーティングを基体に接合して整形外科インプラントを形成するための方法。
【請求項2】
前記接合工程が拡散接合工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接合工程に続いて印加圧力を解放する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記制御工程が前記印加圧力を一定圧力に常時制御することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記制御工程が前記印加圧力を可変圧力に常時制御することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
コーティングが多孔性コーティングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記加圧工程がプレスを用いてインプラントに直圧を印加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
圧力をインプラントに印加するための加圧手段と、
印加した圧力を制御するための制御手段と、
前記制御手段で印加圧力を維持している間に基体とコーティングを接合するための接合手段とを含む、
基体にコーティングを接合して整形外科インプラントを形成するための装置。
【請求項9】
前記接合手段が拡散接合手段を含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記制御手段が印加圧力を実質的に一定レベルに制御する、請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記制御手段が印加圧力を可変レベルで制御する、請求項8に記載の装置。
【請求項12】
コーティングが多孔性コーティングを含む、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
少なくとも第一層と第二層を含むインプラントと、
前記インプラントがその内部に配置される炉と、
前記炉と連動している圧力印加装置と、
前記圧力印加装置と連動している制御装置を含む、
整形外科コンポーネントを製造するためのシステム。
【請求項14】
前記第一層が基体を含み、前記第二層がコーティングを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記第二層が多孔性コーティングを含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記圧力印加装置がプレスを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記炉内に配置され、その上に前記インプラントが少なくとも部分的に位置されるところの支持構造体を更に含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
前記インプラントが前記第一層と前記第二層との間の界面境界を規定する少なくとも1つの追加層を含んでいてもよい、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
前記界面境界が多孔性境界を含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記界面境界が中実境界を含む、請求項18に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−194463(P2008−194463A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20284(P2008−20284)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(508033498)ジマー テクノロジー インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】