説明

整流子研磨装置、整流子研磨方法および整流子研磨部材

【課題】整流子の外周面を短時間で研磨することができる技術を提供する。
【解決手段】整流子研磨部材240は、本体部241に間隔をあけた状態で設けられている第1の支持ローラー242および第2の支持ローラー243によって支持されているサンドペーパー244を有しており、取付部材210に移動可能に取り付けられる。そして、整流子150を覆うカバーに取付部材210を取り付けた状態で、サンドペーパー244の研磨面244aを整流子150の外周面(整流子片152の外周面152a)に当接させる。この時、サンドペーパー244は、サンドペーパー244を挟んで研磨面244aと整流子150の外周面との当接箇所と対向する箇所では第1の支持ローラー242および第2の支持ローラー243がサンドペーパー244に当接しないように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の整流子の外周面を研磨する整流子研磨技術に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道に沿って走行する鉄道車両の車輪を駆動する駆動用電動機(「主電動機」と呼ばれている)として、整流子と刷子を有する直流電動機が用いられている。整流子は、回転子とともに回転し、外周側に、周方向に沿って複数の整流子片が設けられている。刷子は、各整流子片の外周面によって形成される整流子の外周面に摺動接触するように設けられている。このような直流電動機では、刷子と整流子の外周面との摺動接触により刷子や整流子の外周面が摩耗し、整流不良が発生するため、刷子や整流子の外周面の摩耗に対する保守が必要である。ここで、刷子の交換は容易に行うことができるが、整流子の交換は容易に行うことができない。このため、定期的あるいは整流子の外周面の摩耗を検出した時に、整流子の外周面を研磨している。
従来、整流子の外周面を研磨する整流子研磨方法として、回転している整流子の外周面に砥石を当接させる(押し付ける)ことにより、整流子の外周面が真円形状となるように研磨する整流子研磨方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−353653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている整流子研磨方法では、堅い砥石を整流子の外周面に当接させることで整流子の外周面を真円形状に研磨するため、研磨時間が長い。また、砥石の摩耗粉が発生するため、研磨後に摩耗粉を除去するのに時間がかかる。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、整流子の外周面を短時間で研磨することができる整流子研磨技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの発明は、複数の整流子片が周方向に沿って配置されている整流子の外周面を研磨する整流子研磨装置に関する。
本発明の整流子研磨装置は、整流子を回転させる整流子回転装置と、整流子研磨部材を備えている。整流子研磨部材は、本体部と、整流子の外周面を研磨する研磨布紙と、研磨布紙を支持する第1および第2の支持部材を有している。第1および第2の支持部材は、本体部に、間隔をあけた状態で設けられている。そして、整流子研磨部材は、研磨布紙を挟んで研磨面と整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所では、研磨布紙と第1の支持部材および第2の支持部材が当接しないように配置される。
「整流子の外周面」は、刷子が摺動接触する部分を表し、周方向に沿って配置されている複数の整流子片の外周面によって形成される。
「研磨布紙」は、紙や布等の基材に砥粒(研磨素材)が接着剤によって接着されており、砥粒が配置されている研磨面を整流子の外周面に沿って配置可能な柔軟性を有しているシート状部材である。研磨布紙としては、典型的には、サンドペーパーが用いられる。なお、一方側にのみ研磨面を有する研磨布紙あるいは両側に研磨面を有する研磨布紙を用いることができる。両側に研磨面を有する研磨布紙を用いる場合には、整流子の外周面と当接する研磨面が、本発明の「整流子の外周円を研磨する研磨面」に対応する。
第1及び第2の支持部材は、一体に形成されていてもよいし、別体に形成されていてもよい。また、第1および第2の支持部材は、本体部と一体に形成されていてもよい。典型的には、研磨布紙は、第1および第2の支持部材に跨って配置される。この時、整流子の外周面と当接する部分(当たり面)の変更作業(リフレッシュ作業)を容易に行うことができるように、第1及び第2の部材としてローラーを用いるのが好ましい。なお、支持部材の数は3以上であってもよい。2以上の支持部材を用いる場合には、いずれかの隣接する2つの支持部材が本発明の「第1の支持部材」および「第2の支持部材」に対応する。
「整流子回転装置」は、整流子を回転させることができればよく、整流子を直接回転させるものであってもよいし、整流子を間接的に回転させるものであってもよい。例えば、鉄道車両の場合には、駆動電動機の回転軸と連結されている車輪を回転させる車輪回転装置を用いることができる。
研磨布紙は、研磨面が整流子の外周面と面接触するように配置するのが好ましいが、線接触するように配置してもよい。
本発明では、研磨布紙を引っ張ることで研磨面を整流子の外周面に当接させることにより、整流子の外周面を、従来技術のように真円形状に研磨するのではなく、周方向に沿って滑らかな起伏形状に研磨する。すなわち、整流子の外周面の偏芯量(外周面に外接する外接円と外周面に内接する内接円の間隔)を「0」にするのではなく、低減(改善)する。このように、整流子の外周面の偏芯量が低減するように整流子の外周面を研磨した場合でも、整流不良の発生を防止することができる。
なお、本発明の整流子研磨装置を用いて整流子の外周面の偏芯量が低減するように(「0」にするのではなく)整流子の外周面を研磨する場合には、整流子片の材質等に応じて、研磨布紙の粒度や整流子の周速度等が適切な範囲内に設定される。
本発明では、整流子の外周面を真円形状に研磨する必要がないため、短時間で整流子の外周面を研磨することができる。また、研磨布紙を用いて研磨するため、砥石を用いて研磨する場合に比べて安価であり、さらに、研磨後の清掃時間が短い。
【0006】
本発明の整流子研磨装置の他の形態では、第1の支持部材と第2の支持部材は、整流子の外周面の周方向に沿って離れた位置に配置される。典型的には、研磨布紙の研磨面が整流子の外周面に当接している領域において、研磨布紙の縁部が整流子の外周面の縁部と平行(略平行を含む)になるように、第1の支持部材と第2の支持部材が配置される。
本形態では、研磨布紙を効率よく使用することができる。
【0007】
通常、整流子を覆うカバーが設けられている。例えば、電動機の固定子と整流子を覆うカバーが設けられている。
本発明の整流子研磨装置の異なる他の形態では、整流子を覆うカバーに着脱自在に取り付けられる取付部材を備えている。そして、整流子研磨部材は、移動案内部により、取付部材に対して移動可能に設けられている。整流子研磨部材の移動方向は、取付部材がカバーに取り付けられた状態において、研磨布紙の研磨面が整流子の外周面に当接する方向および整流子の外周面から離間する方向、典型的には、整流子の回転中心を通る方向(径方向)に設定される。整流子研磨部材を取付部材に対して所定方向に移動させる移動案内部としては、リニアスライダ等の種々の移動案内部を用いることができる。典型的には、整流子を覆うカバーに、整流子の外周面と対向する箇所に開口が形成され、通常時には、開口が形成されている箇所に蓋部材が取り付けられ、整流子の外周面を研磨する時には、蓋部材が取り外されて取付部材が取り付けられる。
本形態では、整流子研磨部材を、研磨布紙の研磨面が整流子の外周面に当接する位置に容易に配置することができる。
【0008】
本発明の整流子研磨装置のさらに異なる他の形態では、研磨布紙の研磨面を周方向に隣接する整流子片の間に押し込むように作用する弾性力を研磨布紙に印加する弾性力印加部材を備えている。
弾性力印加部材は、典型的には、整流子の軸方向に直角な断面でみて、整流子の回転中心を通る線に沿って(径方向に沿って)移動可能に設けられている押圧部材と、押圧部材を整流子の回転中心方向に移動させる弾性力を発生するバネ等の弾性力発生部材により構成される。押圧部材の先端側(研磨布紙と当接する側)は、周方向に隣接する整流子片の間に挿入可能な形状を有している。
研磨布紙の、弾性力印加部材によって弾性力が印加されている箇所が整流子片の間に位置すると、弾性力印加部材により発生している弾性力によって研磨面が整流子片の間に挿入される。これにより、整流子片の外周面の周方向両端部に面取り部が形成され、整流子片の外周面の周方向両端部にバリが発生するのを防止することができる。
本形態では、研磨布紙によって整流子の外周面が研磨される際に整流子片の外周面の周方向両端部にバリが発生するのを防止することができる。これにより、整流子片の外周面の周方向両端部のバリによる整流不良の発生を防止することができる。
【0009】
他の発明は、鉄道車両用の整流子研磨装置に関する。
鉄道車両は、軌道に沿って転動する車輪と、車輪を駆動する駆動電動機を備えている。電動機は、整流子を有している。
本発明の鉄道車両用の整流子研磨装置は、車輪移動装置と、車輪回転装置と、整流子研磨部材を備えている。
車輪移動装置は、車輪が軌道と当接している当接位置と車輪が軌道と当接してない非当接位置(車輪が浮いた状態)の間で車輪を移動させる。車輪移動装置としては、例えば、車輪を軌道に対して上下方向に移動させる車輪昇降装置(ジャッキ)、典型的には、車輪を回転可能に支持している軸箱を軌道に対して上下方向に昇降させる車輪昇降装置が用いられる。
車輪回転装置は、車輪移動装置によって車輪が非当接位置に移動されている状態で、車輪を回転させる。車輪は駆動電動機の回転軸に連結されているため、車輪回転装置によって車輪を回転させることによって、駆動電動機の回転軸および整流子が回転する。
整流子研磨部材としては、前述した整流子研磨部材と同様の構成のものを用いることができる。
本発明では、鉄道車両の駆動電動機の整流子の外周面を短時間で研磨することができる。また、研磨布紙を用いて整流子の外周面を研磨しているため、砥石を用いて整流子の外周面を研磨する場合に比べて安価であり、さらに、研磨後の清掃時間が短い。
【0010】
異なる他の発明は、複数の整流子片が周方向に沿って配置されている整流子の外周面を研磨する整流子研磨方法に関する。
本発明の整流子研磨方法は、整流子を回転させるとともに、研磨面を有し、間隔をあけて配置されている第1および第2の支持部材によって支持されている研磨布紙を、研磨布紙を挟んで研磨面と整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所では研磨布紙と第1および第2の支持部材が当接しないように配置する。
研磨布紙としては、前述した研磨布紙が用いられる。
本発明では、前述した整流子研磨装置と同様に、整流子の外周面を短時間で研磨することができ、また、砥石を用いて研磨する場合に比べて安価であり、さらに、研磨後の清掃時間が短い。
【0011】
さらに異なる他の発明は、複数の整流子片が周方向に沿って配置されている整流子を研磨する際に用いられる整流子研磨部材に関する。
本発明の整流子研磨部材は、本体部と、研磨面を有する研磨布紙と、研磨布紙を支持する第1および第2の支持部材を備えている。第1および第2の支持部材は、本体部に間隔をあけた状態で設けられている。
「研磨布紙」は、紙や布等の基材に砥粒(研磨素材)が接着剤によって接着されており、砥粒が配置されている研磨面を整流子の外周面に沿って配置可能な柔軟性を有しているシート状部材である。研磨布紙としては、典型的には、サンドペーパーが用いられる。研磨布紙は、好適には、第1および第2の支持部材の間に跨るように配置される。なお、研磨面の異なる部分で整流子の外周面を研磨することができるように、研磨布紙を移動可能に取り付けるのが好ましい。例えば、第1および第2の支持部材として、研磨布紙の移動を容易にするローラーを用いる。
そして、整流子研磨部材は、研磨布紙を挟んで研磨面と整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所では、研磨布紙と第1および第2の支持部材が当接しないように配置される。
本発明では、構成が簡単であり、整流子の外周面を短時間で研磨することができる。また、研磨布紙を用いて整流子の外周面を研磨するため、砥石を用いて整流子の外周面を研磨する場合に比べて安価であり、研磨後の清掃時間が短く、交換も容易である。
なお、本発明の整流子研磨部材は、整流子を囲むカバーに、カバーに対して移動可能に取り付けて使用するのが好ましい。この場合、整流子研磨部材を、研磨布紙の研磨面が整流子の外周面に当接する位置に容易に配置することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の整流子研磨装置、整流子研磨方法および整流子研磨部材を用いることにより、整流子の外周面を、短時間で整流不良を防止することができるように研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の整流子研磨装置の一実施の形態の概略構成図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】本発明の整流子研磨装置の一実施の形態の整流子研磨動作を説明する図である。
【図4】摩耗状態の整流子の外周面を測定した図の一例である。
【図5】従来の整流子研磨装置を用いて研磨した後の整流子の外周面を測定した図の一例である。
【図6】本発明の整流子研磨装置の一実施の形態を用いて研磨した後の整流子の外周面を測定した図の一例である。
【図7】本発明の整流子研磨装置の他の実施の形態の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下では、本発明の整流子研磨装置を、鉄道車両の駆動電動機(主電動機)の整流子の外周面を研磨する鉄道車両用の整流子研磨装置として構成した場合について説明する。
本発明の整流子研磨装置の一実施の形態(鉄道車両用の整流子研磨装置)が図1、図2に示されている。図1は、本実施の形態の整流子研磨装置の概略構成図であり、図2は、図1の要部拡大図である。
【0015】
軌道(レール)10に沿って走行する鉄道車両100は、車体(図示省略)、台車(図示省略)等を有している。車体は、バネ等の弾性部材によって台車に取り付けられている。また、台車は、台車枠(図示省略)、車輪110、車軸120、軸箱130、駆動電動機(主電動機)140、駆動力伝達部160等を有している。左右の車輪110は、車軸120によって連結され、輪軸を構成している。軸箱130には、車軸110を回転可能に支持する軸受等が設けられているとともに、バネ等の弾性部材によって台車枠に取り付けられている。駆動力伝達部160は、駆動電動機140の回転軸を車軸120に連結して駆動力を車軸120に伝達するものであり、歯車やギヤ等により構成される。なお、駆動力伝達部160は、駆動電動機140の回転軸を車輪110に連結し、駆動力を車輪110に伝達するものであってもよい。
車輪10は、フランジ111と、フランジ111より外側方向に傾斜している踏面112を有している。鉄道車両100は、車輪10の踏面112が軌道10の上面に当接した状態で、軌道10に沿って走行する。
駆動電動機140は、固定子(図示省略)、固定子に対して回転可能に支持されている回転軸(図示省略)、回転軸に設けられた回転子(図示省略)、回転子とともに回転する整流子150(図2参照)、カバー141等を有している。回転軸は、駆動力伝達部160を介して車軸120に連結されている。本実施の形態では、カバー141は、円筒形状を有し、駆動電動機140の固定子および整流子150を覆っている。
整流子150は、図2に示されているように、基部151、複数の整流子片152を有している。整流子片152は、基部151の外周側に、周方向に沿って間隔をあけて(互いに絶縁された状態で)配置されている。基部151は、絶縁特性を有する材料により形成され、整流子片152は、導電性を有する材料により形成される。整流子片152の外周面152aによって、刷子が摺動接触する整流子150の外周面が形成されている。整流子片152の形状、数や配置態様等は適宜変更可能である。整流子片152の外周面152aが、本発明の「整流子の外周面」に対応する。
なお、固定子側には、整流子150の外周面(整流子片152の外周面152a)に摺動接触する刷子(図示省略)が設けられている。
刷子や整流子等を有する駆動電動機140の構成や動作は、公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0016】
前述したように、特許文献1に開示されている従来技術は、整流子の外周面を真円形状に研磨するものであるため、整流子の外周面を研磨するのに長時間を要する。
本発明は、整流子の外周面の偏芯量(整流子の外周面に外接する外接円と整流子の外周面に内接する内接円との間隔)に着目し、従来技術のように整流子の外周面を真円形状(偏芯量=「0」)に研磨するのでなく、偏芯量を低減することによって、整流子の外周面の摩耗による整流不良の発生を防止している。具体的には、研磨材として柔軟性を有する研磨布紙を用いるとともに、間隔をあけて配置されている第1の支持部材と第2の支持部材によって研磨布紙を支持し、研磨布紙を挟んで研磨面と整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所(反対側の箇所)に第1の支持部材および第2の支持部材が当接しないように研磨布紙を配置することにより、整流子の外周面を周方向に沿って滑らかに変化する起伏形状に研磨している。すなわち、本発明は、研磨布紙を引っ張ることで研磨布紙の研磨面を整流子の外周面に当接させる(押し付ける)ことにより、整流子の外周面を周方向に沿って滑らかに変化する起伏形状に研磨している。
「研磨布紙」は、紙や布等の基材に砥粒(研磨素材)が接着剤によって接着されており、砥粒が配置されている研磨面を整流子の外周面に沿って配置可能な柔軟性を有しているシート状部材である。研磨布紙としては、典型的には、サンドペーパーが用いられる。
なお、研磨布紙を挟んで研磨面と整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所(反対側の箇所)に第1の支持部材あるいは第2の支持部材が当接するように研磨布紙を配置した場合には、研磨材として砥石を用いた場合と同様に、堅い第1の支持部材および第2の支持部材によって研磨布紙が整流子の外周面に押し付けられるため、整流子の外周面を真円形状に研磨することはできるが、整流子の外周面を周方向に沿って滑らかに変化する起伏形状に研磨することは困難である。
本発明では、従来技術のように、整流子の外周面を真円形状に研磨する必要がないため、整流子の外周面を短時間に研磨することができる。また、研磨材として研磨布紙を用いているため、研磨材として砥石を用いた場合に比べて、安価であり、研磨後の清掃時間も短い。なお、本発明を用いて整流子の外周面を研磨した場合でも、整流子の外周面の摩耗による整流不良を防止することができた。
以下で説明する実施の形態では、第1の支持部材と第2の支持部材(研磨布紙)は、研磨布紙を挟んで研磨面と整流子の外周面との当接箇所と反対側の箇所に第1および第2の支持部材が当接しないように配置される。
【0017】
本発明の整流子研磨装置の一実施の形態は、車輪昇降装置220、車輪回転装置230、整流子研磨部材240、取付部材260等により構成されている。
【0018】
車輪昇降装置220は、車軸110を回転可能に支持する軸箱130を、軌道10に対して上下方向に昇降(移動)させる。すなわち、車輪110を、車輪110が軌道10と当接する当接位置(図1で破線で示されている位置)と車輪110が軌道10と当接していない非当接位置(図1で実線で示されている位置)の間で移動させる。車輪昇降装置220としては、油圧式、空気式、電気式等の種々の構成のものを用いることができる。車輪昇降装置220によって車輪110が軌道10に対して上方向に上昇する(車輪が非当接位置に移動する)と、車輪110と軌道10との当接状態が解除され(車輪110が浮き)、外力によって車輪110を回転させることが可能となる。
車輪昇降装置220が本発明の「車輪移動装置」に対応する。
【0019】
車輪回転装置230は、車輪110が浮いている状態(車輪110が非当接位置に移動している状態)で車輪110を回転させる。本実施の形態では、車輪回転装置230は、電動機等の駆動源と、駆動源の駆動力によって回転する駆動ローラー231を有している。駆動ローラー231は、駆動ローラー231と車輪110との間の摩擦力によって車輪110を回転させることができる材料、例えば硬質ウレタンにより形成される。車輪110が浮いている状態で、駆動ローラー231の外周面を車輪110の踏面112に当接させて駆動ローラー231を回転させると、駆動ローラー231と車輪110との間の摩擦力によって車輪110が回転し、駆動電動機140の回転軸および整流子150が回転する。
車輪回転装置230が本発明の「整流子回転装置」に対応する。
【0020】
整流子研磨部材240は、整流子150の外周面(整流子片152の外周面152a)を研磨する。
整流子研磨部材240は、図2に示されているように、本体部241、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243、サンドペーパー244、把持部(ハンドル)248等を有している。
第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243は、好適には同じ半径の外周面を有し、間隔をあけた状態で本体部241に回転可能に設けられている。本実施の形態では、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243は、回転中心線(軸線)が平行(略平行を含む)となるように、本体部241に回転可能に設けられている。
サンドペーパー244は、紙や布等の基材に砥粒(研磨素材)が接着剤によって接着されており、砥粒が配置されている研磨面を整流子150の外周面に沿って配置可能な柔軟性を有している。サンドペーパー244としては、公知の種々のサンドペーパーを用いることができる。サンドペーパー244の幅(軸方向に沿った長さ)は、好適には、整流子150の外周面の軸方向の長さ以上に設定される。
サンドペーパー244は、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243により支持されている。本実施の形態では、長尺状のサンドペーパー244が、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に跨って配置された状態で、両端側が固定手段によって本体部241に固定されている。固定手段は、固定プレート245、本体部241に設けられている固定部246、固定ネジ247により構成されている。サンドペーパー244を本体部241に固定する際には、サンドペーパー244を第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に跨るように配置した状態で、両端側を本体部241と固定プレート245の間に挟み、固定プレート245と固定部246を固定ネジ247によって締め付ける。この時、整流子150の外周面を研磨する研磨面244aと反対側の面(支持面)244bが第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の外周面に当接するようにサンドペーパー244を配置する。両側に研磨面を有するサンドペーパー244を用いる場合には、一方側の研磨面を整流子150の外周面を研磨する研磨面とし、他方側の研磨面を支持面とする。本実施の形態では、サンドペーパー244の研磨面244aのうち、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間の部分が、整流子150の外周面を研磨する部分(当たり部)として用いられる。サンドペーパー244の両端側を本体部241に固定する固定手段としては、他の種々の固定手段を用いることができる。
サンドペーパー244が本発明の「研磨布紙」に対応し、サンドペーパー244の研磨面244aが本発明の「整流子の外周面を研磨する研磨面」に対応し、サンドペーパー244の支持面244bが本発明の「支持面」に対応する。また、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の一方が本発明の「第1の支持部材」に対応し、他方が本発明の「第2の支持部材」に対応する。
【0021】
本実施の形態の整流子研磨装置の整流子研磨部材240を用いて整流子150の外周面を研磨する動作を図3に示す。なお、図3は、整流子150の軸方向に直角な方向から見た図である。
本実施の形態の整流子研磨装置では、第1の支持ローラー242および第2の支持ローラー243によりサンドペーパー244を整流子150の外周面に直接押し付けることよって研磨面224aを整流子150の外周面に当接させているのではなく、サンドペーパー244の研磨面244aのうち、第1の支持ローラー242および第2の支持ローラー243の間の部分を整流子150の外周面に押し付けることによって(サンドペーパー244を長手方向両側に引っ張ることによって)研磨面244aを整流子150の外周面に当接させている。
すなわち、図3に示されているように、支持面224bと第1の支持ローラー242との当接箇所r1とサンドペーパー244を挟んで対向する(反対側の)箇所では研磨面224aと整流子150の外周面が当接しないようにサンドペーパー244(第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243)が配置される。同様に、支持面224bと第2の支持ローラー243との当接箇所r2とサンドペーパー244を挟んで対向する(反対側の)箇所では研磨面224aと整流子150の外周面が当接しないようにサンドペーパー244(第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243)が配置される。この時、サンドペーパー244の研磨面244aは、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間の当接領域249(当接箇所s1とs2の間の当接領域)において整流子150の外周面に当接する。
なお、図3において、当接箇所r1は、サンドペーパー244の支持面244bと第1の支持ローラー242との当接箇所のうち、第2の支持ローラー243側(長手方向に沿って第2の支持ローラー243側)の当接箇所を示している。当接箇所r2は、サンドペーパー244の支持面244bと第2の支持ローラー243との当接箇所のうち、第1の支持ローラー243側(長手方向に沿って第1のローラー242側)の当接箇所を示している。また、当接箇所s1は、当接領域249内のサンドペーパー244の研磨面244aと整流子150の外周面との当接箇所のうち、第1の支持ローラー242側(周方向に沿って第1の支持ローラー242側)の当接箇所を示している。当接箇所s2は、当接領域249内のサンドペーパー244の研磨面244aと整流子150の外周面との当接箇所のうち、第2の支持ローラー243側(周方向に沿って第2の支持ローラー243側)の当接箇所を示している。本実施の形態の整流子研磨装置を用いて整流子150の外周面を研磨する際には、整流子150の回転中心Pと当接領域249の周方向両側の当接箇所s1およびs2を結ぶ線S1およびS2で囲まれる領域は、整流子150の回転中心Pと当接箇所r1およびr2を結ぶ線R1およびR2で囲まれる領域に含まれる。
【0022】
ここで、サンドペーパー244の研磨面244aを整流子150の外周面に斜めに当接させると(例えば、第1の支持ローラー242の回転中心P1と第2の支持ローラー243の回転中心P2を結ぶ線tが、第1の支持ローラー242の回転中心P1と第2の支持ローラー243の回転中心P2との中心P3と整流子150の回転中心Pを結ぶ線uに対して傾斜していると)、その傾斜角度に応じて整流子150の外周面が研磨され、整流子150の外周面の偏芯量を効果的に低減することができない。
このため、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に配置されているサンドペーパー244の研磨面244aが整流子150の外周面に平行(略平行を含む)に当接するように第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243を配置するのが好ましい。具体的には、図3に示されているように、第1の支持ローラー242の回転中心P1と第2の支持ローラー243の回転中心P2を結ぶ線t(あるいは、研磨面224aが整流子150の外周面に当接していない状態において、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に支持されているサンドペーパー244の研磨面244aの長手方向)が、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間の中心P3(あるいは第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に支持されているサンドペーパー244の研磨面244aの長手方向の中心W)と整流子150の回転中心Pを結ぶ線uに直交(略直交を含む)するように配置するのが好ましい。
第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243をこのように配置する方法としては、例えば、線tが線uに直交(略直交を含む)している状態で、中心P3(あるいは長手方向中心W)が線uに沿って移動するように整流子研磨部材240(第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243)を移動させる方法を用いることができる。
例えば、整流子研磨部材240を移動させる移動装置を用いることが考えられる。しかしながら、このような移動装置は高価である。
【0023】
そこで、本実施の形態では、整流子研磨部材240を安価に簡単に移動させることができるようにするために取付部材260が設けられている。
駆動電動機140のカバー141には、整流子150の外周面に対向する箇所に、周方向に沿って開口が形成されている。例えば、円筒形状のカバー141が用いられる場合には、カバー141の外周面に沿って円弧形状の開口が形成される。通常時には、この開口は蓋部材(図示省略)によって塞がれており、整流子の保守・点検作業時には、蓋部材が取り外される。
本実施の形態の取付部材260は、ケース141の、開口が形成されている箇所に着脱自在に取り付けられる。取付部材260および蓋部材をケース141に着脱自在に取り付ける取付方法としては、公知の種々の取付方法を用いることができる。例えば、周方向に沿った一方側に、ケース141に設けられている被係止部に係止可能な係止部を設け、他方側をネジ等によってケース141に固定する方法、周方向に沿った両側をネジ等によってケース141に固定する方法等を用いることができる。
取付部材260の形状は、ケース141に形成されている開口の形状に応じて設定される。本実施の形態では、図2に示されているように、軸方向(整流子150の軸方向)に直角な断面が、ケース141の外周面に対応する円弧形状を有し、ケース141に形成されている開口の内周形状に対応する外周形状(例えば、ケース141に形成されている開口の内周形状と略等しい外周形状)を有している。なお、図3では、取付部材260をケース141に着脱自在に取り付ける取付手段が図示されていない。
【0024】
取付部材260は、周方向中央に開口261が形成されているとともに、周方向に沿って開口261の両側に開口262、263が形成されている。開口261は、整流子研磨部材240を外周面側(整流子150と反対側)から内周面側(整流子150側)に通すためのものである。開口261は、少なくとも整流子研磨部材240の先端側(第1の支持ローラー242および第2の支持ローラー243)を通すことができる形状に形成される。開口262、263は、サンドペーパー244の研磨面244aと整流子150の外周面との当接状態や整流子150の外周面の研磨状態等を観察するためのものである。
【0025】
また、整流子研磨部材240を、サンドペーパー244の研磨面244aが整流子150の外周面に当接する(押し付けられる)方向および整流子150の外周面との当接状態が解除される(整流子150の外周面から離間する)方向に移動させる移動案内部が設けられている。本実施の形態では、取付部材260の外周面側に枠部材264が設けられ、枠部材264に移動案内部265が設けられている。
ここで、本実施の形態では、図2および図3に示されているように、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243は、整流子150の外周面の周方向に沿って離れた位置に(第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に配置されているサンドペーパー244の研磨面244aが整流子の外周面に当接している領域において、研磨面244aの縁部が整流子150の外周面の縁部と平行(略平行を含む)になるように)配置される。そして、サンドペーパー244は、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に跨って配置された状態で、両端側が本体部241の周方向に沿った両側で固定される。このため、移動案内部265は、サンドペーパー244との干渉を避けるために本体部241の軸方向両側に設けられている。
移動案内部265としては、公知の種々の移動案内部を用いることができる。例えば、枠部材264(取付部材260)側と本体部241(整流子研磨部材240)側のいずれか一方に設けられている部材により構成される移動案内部あるいは両方に設けられている部材により構成される移動案内部等を用いることができる。本実施の形態では、移動案内部265としてリニアスライダが用いられている。
なお、移動案内部265は、取付部材260がケース141に取り付けられている状態において、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に支持されているサンドペーパー244の研磨面244aが整流子150の外周面に当接する方向および整流子150の外周面から離間する方向(整流子150の回転中心Pを通る線に沿った径方向)に移動するよう構成される。好適には、前述したように、第1の支持ローラー242の回転中心P1と第2の支持ローラー243の回転中心P2を結ぶ線t(あるいは、研磨面224aが整流子150の外周面に当接していない状態において、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に支持されているサンドペーパー244の研磨面244aの長手方向)が、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間の中心P3(あるいは第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に支持されているサンドペーパー244の研磨面244aの長手方向の中心W)と整流子150の回転中心Pを結ぶ線uに直交(略直交を含む)している状態で、中心P3(あるいは中心W)が線uに沿って移動するように構成される(図3参照)。なお、移動案内部265による整流子研磨部材240の移動を規制するストッパを設けるのが好ましい。
本実施の形態では、取付部材260をケース141に取り付けた状態で、作業員が把持部(ハンドル)248を掴み、図2に示されている矢印の方向に力を加えるだけで、整流子研磨部材240が移動案内部265により案内されて移動し、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に支持されているサンドペーパー244の研磨面244aを所望の状態で整流子150の外周面に当接させることができる。なお、本実施の形態では、整流子研磨部材240の移動量の調整は作業員が行う。例えば、作業員は、把持部248を掴んでいる手に加わる反力に基づいて移動量を調整し、あるいは、開口262、263を介して研磨面244aと整流子150の外周面との当接状態を確認しながら移動量を調整する。
【0026】
次に、本実施の形態の整流子研磨装置を用いて鉄道車両100の駆動電動機140の整流子150の外周面を研磨する動作を説明する。鉄道車両100の駆動電動機140の整流子150の外周面を研磨する作業は、鉄道車両100を車輪昇降装置220等が設けられている作業場所に移送して行われる。なお、以下で説明する各作業の順番は、適宜変更可能である。
【0027】
(サンドペーパーの取り付け)
サンドペーパー244を、整流子研磨部材240の第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に跨るように配置する。この時、サンドペーパー244の一方側の端部を引っ張ることによって、サンドペーパー244の研磨面244aの所望の部分が第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に配置されるように設定する。そして、サンドペーパー244の両端側を、固定プレート245、固定部246、固定ネジ247からなる固定手段を用いて本体部241に固定する。
(取付部材の取り付け)
ケース141に取り付けられている蓋部材を取り外し、整流子研磨部材240が移動案内部265により移動可能に支持されている取付部材260をケース141に取り付ける(蓋部材を取付部材260に交換する)。
(車輪の上昇)
車輪昇降装置220により軸箱130をレール10に対して上方向に上昇させ、車輪110がレール10と当接していない非当接位置に車輪110を移動させる(車輪110を浮かせる)。この時、車輪110のフランジ111がレール10の上面より上昇しないようにするのが好ましい。
(車輪の回転)
車輪110が浮いている状態で、車輪回転装置230を、駆動ローラー231の外周面が車輪110の踏面112に当接するように配置する。そして、車輪回転装置230を作動させ、駆動ローラー231を介して車輪110を回転させる。車輪110が回転すると、車輪110に車軸120、駆動力伝達装置160を介して連結されている駆動電動機140の回転軸および整流子150が回転する。
(サンドペーパーによる研磨)
整流子研磨部材240の把持部248を掴んで押し、整流子研磨部材240を取付部材260の外周面側(整流子150と反対側)から内周面側(整流子150側)の方向に移動させて、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に配置されているサンドペーパー244の研磨面244aを整流子150の外周面に当接させる(押し付ける)。整流子研磨部材240の移動は、移動案内部265によって案内される。なお、この時、サンドペーパー244を挟んで支持面244bと第1の支持ローラー232との当接箇所および支持面244bと第2の支持ローラー243との当接箇所と対向する箇所で研磨面244aが整流子150の外周面が当接しないように整流子研磨部材240の移動量を調整する。
(研磨終了)
整流子150の外周面の研磨が終了すると、把持部248を引っ張り、整流子研磨部材240を取付部材260の内周側から外周側の方向(研磨面244aが整流子150の外周面から離間する方向)に移動させる。次に、車輪回転装置230を停止させ、車輪110の回転を停止させる。次に、車輪昇降装置220により軸箱130を下降させ、車輪110がレール10と当接する当接位置(図1に破線で示されている位置)に車輪110を移動させる。そして、取付部材260をケース141から取り外し、蓋部材をケース141に取り付ける(取付部材260を蓋部材に交換する)。
【0028】
以上により、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に配置されているサンドペーパー244の研磨面244aによって、整流子150の外周面が研磨される。
本実施の形態では、サンドペーパー244を挟んで研磨面244aと整流子150の外周面との当接箇所と対向する箇所(反対側の箇所)に第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243が当接しないように配置されているため、従来技術のように整流子150の外周面を真円形状(偏芯量が「0」)に研磨することはできない。しかしながら、整流子150の外周面を周方向に沿ってなめらかに変化する起伏形状に研磨することができ、整流子150の外周面の偏芯量を低減することができる。
これを図4〜図6を参照して説明する。図4は、摩耗状態の整流子150の外周面を測定した図の一例である。図5は、図4に示されている整流子150の外周面を、従来の整流子研磨装置を用いて研磨した後の整流子の外周面を測定した図の一例である。図6は、図4に示されている整流子150の外周面を、本実施の形態の整流子研磨装置を用いて研磨した後の整流子の外周面を測定した図の一例である。
なお、図4〜6において、[M]は、整流子150の外周側に測定装置を配置し、測定装置と整流子150の外周との距離を周方向に沿って測定した波形である。波形[M]の外周側の先端は、整流子片152の外周面152aと測定装置との距離を表し、波形[M]の内周側の先端は、本体部151の外周面と測定装置との距離を表している。また、[N]は、波形[M]の外周側の先端の包絡線であり、整流子片152の外周面152a(整流子150の外周面)の周方向に沿った形状を表している。また、[C]は、包絡線[N]に外接する外接円であり、[D]は、包絡線[N]に内接する内接円である。外接円[C]と内接円[D]の間隔が整流子150の外周面(整流子片152の外周面152a)の偏芯量を表している。この偏芯量が大きいと、整流不良が発生する。
【0029】
図4に示されている形状(波形M1、包絡線N1、外接円C1、内接円D1)を有する整流子150の外周面を従来の整流子研磨装置を用いて研磨すると、整流子150の外周面は、図5に示されている形状(波形M2、包絡線N2)に研磨される。従来の整流子研磨装置を用いて研磨した場合には、整流子150の外周面が真円形状に研磨されるため、波形M2の外周側の先端の包絡線N2は円形形状となる。すなわち、包絡線N2に外接する外接円および内接する内接円は、同じ半径を有する。この場合、整流子150の外周面の偏芯量は「0」である。
一方、図4に示されている形状(波形M1、包絡線N1、外接円C1、内接円D1)を有する整流子150の外周面を本実施の形態の整流子研磨装置を用いて研磨すると、整流子150の外周面は、図6に示されている形状(波形M3、包絡線N3、外接円C3、内接円D3)に研磨される。本実施の形態の整流子研磨装置を用いて研磨した場合には、整流子150の外周面は真円形状に研磨されないため、波形M3の外周側の先端の包絡線N3は円形形状にならない。このため、包絡線N3に外接する外接円C3と包絡線N3に内接する内接円D3は、異なる半径を有している。しかしながら、本実施の形態の整流子研磨装置を用いて整流子150の外周面を研磨した場合の整流子150の外周面の偏芯量(図6に示されている外接円C3と内接円D3の間隔)は、研磨前の整流子150の外周面の偏芯量(図4に示されている外接円C1と内接円D1の間隔)に比べて十分に低減されている。すなわち、整流子150の外周面の偏芯量は改善されている。
そして、図6に示されている形状の外周面を有する整流子150を用いて試験を行ったところ、整流不良の発生を十分に防止することができることが判明した。
【0030】
以上のように、本実施の形態の整流子研磨装置を用いることにより、整流子の外周面を真円形状に研磨する従来の整流子研磨装置に比べて、短時間で、整流不良の発生を防止することができる形状に研磨することができる。また、研磨材としてサンドペーパーを用いているため、砥石を用いた場合に比べて、安価であり、摩耗粉の発生も少ない。
なお、研磨材としてサンドペーパーを用いた場合、サンドペーパーの研磨面の同じ部分を用いて整流子の外周面を研磨し続けると(同じ当たり面を使用し続けると)、当たり面の砥粒が剥れ、サンドペーパーの粒度が細かくなる。サンドペーパーの粒度が細かくなると、整流子の外周面が鏡面化し、チャタリングの要因となる。このため、サンドペーパーの当たり面を適宜切り替える(リフレッシュする)必要がある。
本実施の形態では、サンドペーパー244の両端側の固定を解除し、サンドペーパー244の一方側あるいは他方側を引っ張ってサンドペーパー244の研磨面244aの所望の部分を第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に配置することにより、当たり面のリフレッシュを容易に行うことができる。
【0031】
本実施の形態の整流子研磨装置を用いて整流子150の外周面を研磨する際におけるサンドペーパー244の粒度や整流子150の外周面の周速度(車輪110の回転速度)等についても実験を行った。
その結果、サンドペーパーの粒度は、小さすぎても大きすぎてもても効果が低く、適切な範囲の粒度を有するサンドペーパーを使用することで効果的な研磨を行うことができることが判明した。サンドペーパーの粒度の適切な範囲は、整流子片152の材質や整流子150の外周面の周速度等に応じて定まる。
また、整流子150の外周面の周速度(整流子150の外周面がサンドペーパー244の研磨面244aと当接する速度)に関しても、遅すぎても早すぎても効果が低く、適切な範囲の周速度に設定することで効果的な研磨を行うことができることが判明した。整流子150の外周面の周速度(車輪110あるいは整流子150の回転速度)の適切な範囲は、整流子片152の材料やサンドペーパー244の粒度等に応じて定まる。
【0032】
前述した実施の形態では、サンドペーパー244によって整流子片152の外周面152aを周方向に沿って研磨している。このため、整流子片152の外周面152aの周方向両端部にバリが発生し、バリに起因する整流不良が発生するおそれがある。整流子片152の外周面152aの周方向両端部にバリが発生するのを防止することができる本発明の整流子研磨装置の他の実施の形態を、図7を参照して説明する。本実施の形態では、整流子片152の外周面152aの周方向端部にバリが発生するのを防止する方法として、整流子片152の外周面152aの周方向両端部に面取り部を形成する方法を用いている。
本実施の形態では、図7に示されているように、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の間に配置されているサンドペーパー244の研磨面244aを周方向に隣接する整流子片152の間に挿入する弾性力を印加する弾性力印加部材250が設けられている。
弾性力印加部材250は、サンドペーパー244の支持面244bを押圧する押圧部材251と、押圧部材251を整流子片152の外周面152aから整流子150の回転中心P方向(整流子150の径方向)に移動させる弾性力を発生するバネ等の弾性力発生部材(図示省略)により構成されている。
押圧部材251の先端部(支持面244bに当接している先端部)は、周方向に隣接する整流子片152の間に挿入可能な形状を有している。また、押圧部材251の先端部をサンドペーパー244の支持面244bに当接させる箇所は適宜設定可能であるが、本実施の形態では、第1の支持ローラー242と第2の支持ローラー243の中央に設定している。
本実施の形態では、周方向に隣接する整流子片152の間の部分が、押圧部材251の先端部が当接しているサンドペーパー244の箇所に到来すると、弾性力発生部材の弾性力により付勢されている押圧部材251によって、サンドペーパー244の研磨面244aの、押圧部材251と対向する部分244cが整流子片152の間に挿入される。これにより、整流子片152の外周面152aの周方向両端部152bがサンドペーパー244の研磨面244aにより研磨され、面取り部152cが形成される。したがって、整流子片152の外周面152aの周方向両端部にバリが発生するのを防止することができる。
【0033】
本発明は、実施の形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
整流子の外周面を研磨する整流子研磨装置について説明したが、本発明は、整流子の外周面を研磨する整流子研磨方法あるいは整流子の外周面を研磨する際に用いられる整流子研磨部材として構成することもできる。
整流子の外周面を研磨する研磨材としてサンドペーパーを用いた場合について説明したが、研磨材としては、サンドペーパーに限定されず、研磨面が整流子の外周面に沿って変形可能な柔軟性を有している種々の構成の研磨布紙を用いることができる。
サンドペーパー(研磨布紙)を第1の支持ローラーと第2の支持ローラー(第1の支持部材と第2の支持部材)によって支持したが、サンドペーパーを支持する支持部材は、サンドペーパーを支持することができればよく、ローラーに限定されない。また、3以上の支持部材によってサンドペーパーを支持してもよい。この場合には、3以上の支持部材のうちのいずれかの隣接する2つの支持部材が、「第1の支持部材」と「第2の支持部材」に対応する。
サンドペーパー(研磨布紙)を支持する第1の支持ローラーと第2の支持ローラー(第1の支持部材と第2の支持部材)を整流子の外周面の周方向に沿ってはなれた位置に配置したが、第1の支持部材と第2の支持部材は、第1の支持部材と第2の支持部材の間に配置されている研磨布紙の研磨面を整流子の外周面に当接させることができる種々の位置に配置することができる。例えば、整流子の外周面の周方向と交差する方向(例えば、整流子の軸線に平行な方向)にはなれた位置に配置することもできる。
整流子を回転させる整流子回転装置を車輪昇降装置と車輪回転装置により構成したが、整流子回転装置の構成は種々変更可能である。例えば、車輪昇降装置に代えて、軌道の間に配置されているローラーを有する車輪支持装置を設け、ローラー上で車輪を回転させている状態で整流子の外周面を研磨してもよい。あるいは、車輪昇降装置と車輪回転装置を省略し、駆動電動機を駆動している状態(鉄道車両の場合には、軌道に沿って車両を移動させている状態)で整流子の外周面を研磨してもよい。
鉄道車両の駆動電動機の整流子の外周面を研磨する鉄道車両用の整流子研磨装置について説明したが、本発明は、種々の用途に用いられている電動機の整流子を研磨する整流子研磨装置として構成することができる。
整流子を覆うカバーに、整流子研磨部材が移動案内部により移動可能に支持されている取付部材を取り付け、手動で整流子研磨部材を移動させることで研磨布紙の研磨面を整流子の外周面に当接させたが、研磨布紙の研磨面を整流子の外周面に当接させる方法は適宜変更可能である。例えば、整流子研磨部材を移動させる移動装置を設け、整流子研磨部材を自動で移動させるように構成することができる。あるいは、整流子研磨部材を移動可能に支持する支持装置を設け、駆動装置あるいは手動で整流子研磨部材を移動させる方法を用いることができる。
本発明は、直流電動機の整流子に限定されず、種々の型式の回転機の整流子を研磨する際に用いることができる。
実施の形態で説明した各構成は単独で用いることもできるし、適宜選択した複数を組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0034】
10 軌道(レール)
100 鉄道車両
110 車輪
111 フランジ
112 踏面
120 車軸
130 軸箱
140 駆動電動機(主電動機)
141 カバー
150 整流子
151 基部
152 整流子片
152a 外周面
160 駆動力伝達部
220 車輪昇降装置
230 車輪回転装置
231 駆動ローラー
240 整流子研磨部材
241 本体部
242、243 支持ローラー
244 サンドペーパー(研磨布紙)
244a 研磨面
244b 支持面
245 固定プレート
246 固定部
247 固定ネジ
248 把持部(ハンドル)
250 外力印加部材
251 押圧部材
260 取付部材
261、262、263 開口
264 枠部材
265 移動案内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の整流子片が周方向に沿って配置されている整流子の外周面を研磨する整流子研磨装置であって、
前記整流子を回転させる整流子回転装置と、
整流子研磨部材を備え、
前記整流子研磨部材は、
本体部と、
研磨面を有する研磨布紙と、
前記本体部に間隔をあけた状態で設けられ、前記研磨布紙を支持する第1の支持部材および第2の支持部材を有しており、
前記整流子研磨部材は、前記研磨布紙を挟んで前記研磨面と前記整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所では、前記研磨布紙と前記第1の支持部材および前記第2の支持部材が当接しないように配置されることを特徴とする整流子研磨装置。
【請求項2】
請求項1に記載の整流子研磨装置であって、
前記第1の支持部材と前記第2の支持部材は、前記整流子の外周面の周方向に沿って離れた位置に配置されることを特徴とする整流子研磨装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の整流子研磨装置であって、
前記整流子を覆うカバーが設けられており、
前記カバーに着脱自在に取り付けられる取付部材を備え、
前記整流子研磨部材は、前記取付部材が前記カバーに取り付けられている状態において前記研磨面が前記整流子の外周面に当接する方向および前記整流子の外周面から離間する方向に移動可能に前記取付部材に支持されていることを特徴とする整流子研磨装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の整流子研磨装置であって、
前記研磨面を周方向に隣接する前記整流子片の間に押し込むように作用する弾性力を前記研磨布紙に印加する弾性力印加部材を備えていることを特徴とする整流子研磨装置。
【請求項5】
軌道に沿って転動する車輪と、整流子を有し、前記車輪を駆動する駆動電動機を備える鉄道車両の前記整流子の外周面を研磨する鉄道車両用の整流子研磨装置であって、
前記車輪が前記軌道と当接している当接位置と前記車輪が前記軌道と当接してない非当接位置の間で前記車輪を移動させる車輪移動装置と、
前記車輪を回転させる車輪回転装置と、
整流子研磨部材を備え、
前記整流子研磨部材は、
本体部と、
研磨面を有する研磨布紙と、
前記本体部に間隔をあけた状態で取り付けられ、前記研磨布紙を支持する第1の支持部材および第2の支持部材を有しており、
前記整流子研磨部材は、前記研磨布紙を挟んで前記研磨面と前記整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所では、前記研磨布紙と前記第1の支持部材および前記第2の支持部材が当接しないように配置されることを特徴とする鉄道車両用の整流子研磨装置。
【請求項6】
複数の整流子片が周方向に沿って配置されている整流子の外周面を研磨する整流子研磨方法であって、
前記整流子を回転させるとともに、研磨面を有し、間隔をあけて配置されている第1の支持部材と第2の支持部材によって支持されている研磨布紙を、前記研磨布紙を挟んで前記研磨面と前記整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所では、前記研磨布紙と前記第1の支持部材および前記第2の支持部材が当接しないように配置することを特徴とする整流子研磨方法。
【請求項7】
複数の整流子片が周方向に沿って配置されている整流子の外周面を研磨する際に用いられる整流子研磨部材であって、
本体部と、
研磨面を有する研磨布紙と、
前記本体部に間隔をあけた状態で取り付けられ、前記研磨布紙を支持する第1の支持部材および第2の支持部材を備えており、
前記整流子研磨部材は、前記研磨布紙を挟んで前記研磨面と前記整流子の外周面との当接箇所と対向する箇所では、前記研磨布紙と前記第1の支持部材および前記第2の支持部材が当接しないように配置されることを特徴とする整流子研磨部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−62983(P2013−62983A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200881(P2011−200881)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(391016299)名古屋鉄道株式会社 (4)
【出願人】(511224276)株式会社ニートレックス (2)
【Fターム(参考)】