説明

文書への秘密情報埋込方法、文書からの秘密情報抽出方法、およびそのプログラム

【課題】ワープソフトで作成された定型文書に秘密情報を埋め込む方法、当該秘密情報を抽出する方法、およびそのプログラムを提供する。
【解決手段】 本発明の文書への秘密情報埋込方法20は、コンピュータ102に用意されたワープロソフト10で定型文書11を作成し、かつ当該コンピュータまたは他のコンピュータで定型文書11を読み取るときに用いられ、当該コンピュータで、ワープロソフトを用いて作成した定型文書11内に含まれる文字に対してその文字表示属性に変化を加える、例えば回転、上下方向、左右方向等の移動変化を加えることにより、定型文書に秘密情報を埋め込む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーソナルコンピュータ等でワープロソフト等を用いて文書を作成するとき当該文書に含まれる文字の表示属性等に変化させて文書へ秘密情報を埋め込む方法、文書から秘密情報を抽出する方法、およびそのプラグラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、パーソナルコンピュータ等では、文書作成用のワープロソフトが用意され、利用者は必要な文書を当該ワープロソフトで作成している。当該ワープロソフトで作成された文書は、本来的に、文書作成者の意図に基づくいわゆる定型文書である。ここで「定型文書」は「文字に変化が加えられていない文書」であると定義する。文書によって伝えるべき事項は、文字によって書かれた文章の内容に基づいて表現されている。通常的に、ワープロソフトで作成された文書は、文書としてプリントアウトして紙資料として用いられたり、文章データとして記憶媒体を介して他者に提供されたり、あるいは文章データとしてネットワークを経由して他者のコンピュータに伝送されたりする。
【0003】
パーソナルコンピュータでのワープロソフトによって作成される定型文書では、文書に記載される各頁での文字や文章形式等の書式は、それぞれ、用意された範囲内で任意に設定することができる。しかし、文書作成の上での文書の各頁に表記される文字等は、形式的に一定であって、意図的に飾りを入れない限り特別に変化はないものである。
【0004】
他方、本願発明に関連する従来技術として、例えばインターネットを経由して他の人に知られたくない文書データ等を送る場合において、暗号化する技術が知られている(特許文献1等)。暗号化技術は、作成した上記の定型文書に記載される文章そのものを暗号化する技術である。
【特許文献1】特開2007−27749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常的なワープロソフト等で作成された定型文書において、文書により一般的に伝えたい情報の他に、秘密情報を別のルートで埋め込むことが望ましい。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、ワープソフトで作成された定型文書に秘密情報を埋め込む方法、当該秘密情報を抽出する方法、およびそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る文書への秘密情報埋込方法、文書からの秘密情報抽出方法、およびそのプログラムは、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0008】
本発明に係る文書への秘密情報埋込方法は、コンピュータに用意された文書作成ソフトウェアで定型文書を作成し、かつ当該コンピュータまたは他のコンピュータで定型文書を読み取るときに用いられ、当該コンピュータで、文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書内に含まれる文字に対してその文字表示属性に変化を加えることにより、定型文書に秘密情報を埋め込むことで特徴づけられる。
【0009】
上記の文書への秘密情報埋込方法において、上記の文字表示属性の変化は、好ましくは、正規の定位置から左回りまたは右回りで回転させる変化、正規の定位置から上下方向、左右方向、または斜め方向にずらす変化、あるいは、文字の全部または一部の形状を変える変化である。
【0010】
また本発明に係る文書への秘密情報埋込方法は、文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書を用意するステップと、入力部を介して秘密情報を入力させるステップと、秘密情報をコードに変換するステップと、秘密情報のコードを2値符号に変換するステップと、2値符号を構成する1と0を定型文書内に含まれる複数の文字の各々に割り当てるステップと、定型文書内に含まれる複数の文字の各々の文字表示属性を、2値符号を構成する1と0のそれぞれに対応して変化させるステップと、から成ることで特徴づけられる。
【0011】
上記の文書への秘密情報埋込方法において、2値符号の代わりに、3値符号または4値符号(一般的には多値符号)を用いることができる。この場合には、秘密情報のコードを3値符号または4値符号に変換するステップと、3値符号または4値符号のそれぞれで、3値符号または4値符号を構成する要素符号を定型文書内に含まれる複数の文字の各々に割り当てるステップと、定型文書内に含まれる複数の文字の各々の文字表示属性を、3値符号または4値符号を構成する要素符号のそれぞれに対応して変化させるステップとを有する。
【0012】
また本発明に係る文書への秘密情報埋込方法は、コンピュータに用意された文書作成ソフトウェアで定型文書を作成し、かつコンピュータまたは他のコンピュータで定型文書を読み取るときに用いられ、コンピュータで、文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書の文章全体に対して表記内容の一部を変更することにより、定型文書に秘密情報を埋め込むことで特徴づけられる。表記内容の一部の変更は、句読点の種別の変更、または数字種別の変更である。
【0013】
本発明に係る文書からの秘密情報抽出方法は、文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書であって、その中に含まれる文字に対してその文字表示属性に変化を加えることにより、または文章全体に対して表記内容の一部を変更することにより、秘密情報が埋め込まれた定型文書から、光学的読取り装置により秘密情報が含まれない定型文書を取り出すステップと、取り出された定型文書と、秘密情報が埋め込まれた定型文書とを比較し、秘密情報に係る変化情報または変更情報を抽出するステップと、抽出した変化情報または変更情報から秘密情報を再生するステップと、から成ることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る文書への秘密情報埋込プログラムは、コンピュータに、文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書を用意する機能と、入力部を介して秘密情報を入力させる機能と、入力した秘密情報をコードに変換する機能と、秘密情報の前記コードを2値符号に変換する機能と、2値符号を構成する1と0を定型文書内に含まれる複数の文字の各々に割り当てる機能と、定型文書内に含まれる複数の文字の各々の文字表示属性を、2値符号を構成する1と0のそれぞれに対応して変化させる機能と、を実現させる。
【0015】
本発明に係る文書からの秘密情報抽出プログラムは、コンピュータに、文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書であって、その中に含まれる文字に対してその文字表示属性に変化を加えることにより、または文章全体に対して表記内容の一部を変更することにより、秘密情報が埋め込まれた定型文書から、光学的読取り装置により秘密情報が含まれない定型文書を取り出す機能と、取り出された定型文書と、秘密情報が埋め込まれた定型文書とを比較し、秘密情報に係る変化情報または変更情報を抽出する機能と、抽出した変化情報または変更情報から秘密情報を再生する機能と、を実現させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、パーソナルコンピュータ等のコンピュータで文書作成ソフトウェアと共に秘密情報埋め込みソフトウェアを設け、文書作成ソフトウェアで作成作成された定型文書の各文字等に対して秘密情報埋め込むソフトウェアを起動し秘密情報を入力するだけ秘密情報を埋め込むようにしたため、通常的な定型文書に、他の不特定な人には認識できない秘密情報を埋め込むことができる。
また本発明によれば、例えば受信側コンピュータで秘密情報を抽出するソフトウェアを用意して、送信側コンピュータから送られてきた、秘密情報が埋め込まれた文書から定型文書と共に秘密情報を抽出するように構成したため、特定の人に秘密情報を送ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る文書への秘密情報埋込方法、および当該文書からの秘密情報抽出方法が実施されるシステムの全体構成を示す図であり、かつ処理の流れも併せて示している。図2は、秘密情報を埋め込むソフトウェア20での処理の流れを示す。図3は送信側コンピュータでのソフトウェアのセット状態を示す。
【0019】
図1で、11は定型文書を指す。定型文書は、パーソナルコンピュータ等に用意されたワープロソフト(文書作成ソフトウェア)10で作られた文書であり、通常的な文書であって、前述した定義で明らかな通り「文字に変化が加えられていない文書」である。ブロック形式で表現された定型文書11は、文書を作る文字データの集合体を意味している。12は、定型文書11の内容に関連する、あるいは無関係の秘密情報を指している。この秘密情報12は、基本的に定型文書11の本来の内容として表記されるものではなく、表記された文書内容に含まれる文字の変化またはそれに類似するもしくは関連するものの変化・変更として与えられる。文書内容に含まれる文字の変化としては、当該文字の表示属性の変化である。また文書内容に含まれる、文字に類似するまたは関連するものの変化・変更としては、例えば、文書の文章全体に対して表記内容の一部を変更である。
【0020】
上記の定型文書11と秘密情報12を基礎にして、これらの定型文書11と秘密情報12に対して本発明に係るシステムは構築される。当該システムは、定型文書11の中に秘密情報12を埋め込む機能を有し、かつ秘密情報12が埋め込まれた文書13の中から秘密情報12を抽出する機能を有している。そこで、本発明に係るシステムは、大きく分けると、秘密情報12を定型文書11の中に埋め込む前段の埋め込みソフトウェア20の部分と、秘密情報12が埋め込まれた文書13の中から当該秘密情報12を抽出する後段の抽出ソフトウェア30の部分とから構成されている。ソフトウェアの実行の段階としては、埋め込みソフトウェア20が先に実行され、その後、抽出ソフトウェア30が実行される。
【0021】
埋め込みソフトウェア20と抽出ソフトウェア30は、好ましくは、埋め込みソフトウェア20を送信側のコンピュータ101に用意し、かつ抽出ソフトウェア30を受信側のコンピュータに用意するように構成する。この構成の場合には、或る者が送信側コンピュータにセットされたワープロソフト10を使用して定型文書11を作りながら併せて予め定められたルール(手法)に従って秘密情報12を当該定型文書11の中に埋め込み、文書13を完成させる。秘密情報12を定型文書11に埋め込むときには、埋め込みソフトウェア20を送信側コンピュータで起動させ、例えば、当該コンピュータのディスプレイに表示された秘密情報入力画面に秘密情報を入力する。図1でブロック20Aは、秘密情報12を入力するための入力部を指している。秘密情報12が埋め込まれた文書13は、好ましくは、インターネット等のネットワークまたは通信網41を経由して受信側のコンピュータ102に送信される。受信側のコンピュータ102では、他の者が、一見、本来的には定型文書11であって、かつ秘密情報12が埋め込まれた文書13に対して上記の予め定められたルール(手法)を施し、本来的な定型文書11と共に、文書13から秘密情報12を抽出する。こうして、送信側コンピュータ101と受信側コンピュータ102との間では、定型文書11を送受すると共に、当該定型文書11の中に埋め込まれた秘密情報12の送受も併せて行うことが可能となる。
【0022】
また、埋め込みソフトウェア20と抽出ソフトウェア30は、1台のコンピュータに用意して構成することもできる。この場合には、例えば、主に、不特定な一般的な人には通常的に見える定型文書11が、特定な人には、秘密情報12が埋め込まれた文書であると認識し得るように利用される。
【0023】
図1および図2を参照して上記の埋め込みソフトウェア20の内容と処理の流れを説明する。埋め込むソフトウェア20に基づく処理では、最初に任意の定型文書11が通常的なワープロソフト10を利用して作成され、用意される(ステップS11)。次に、作成された定型文書11に対して秘密情報12の埋め込みを行うか否かが判定される(ステップS12)。判定ステップS12でYESの場合には秘密情報12を作成(用意)・取得し(ステップS13)、NOの場合には終了する。秘密情報12を取得した後に、予め用意されている変調アルゴリズム21を用いて、定型文書11の文字の表示属性を秘密情報12によって変調するという変調処理22が実行される(ステップS14)。変調処理22では、定型文書11に含まれる文字の表示属性に対して、秘密情報12の内容が反映された変化を与える処理が行われる。変調アルゴリズム21は、定型文書11の中の各文字に何らかの変化を加える方法を規定したものである。定型文書11に含まれる文字の表示属性に変化を与えることにより、定型文書11の中に秘密情報が埋め込まれる。こうして秘密情報12が埋め込まれた文書13が作成される(ステップS15)。これにより定型文書11への秘密情報12の埋め込みが終了する。
【0024】
埋め込みソフトウェア20による変調に係る実際の実施態様では、図3に示すごとく、パーソナルコンピュータ51等で、そのメモリ52にワープロソフト(文書作成ソフトウェア)10と秘密情報に係る埋め込みソフトウェア20とを用意しておく。定型文書11に秘密情報12を埋め込むときには、パーソナルコンピュータ51において、そのディスプレイ53上に最初に埋め込みソフトウェア20を起動する。次にワープロソフト10を起動して定型文書11を表示する。次に、起動された埋め込みソフトウェア20の入力画面に秘密情報12に係る文字を入力する。その結果、入力された文字情報に従って、表示された定型文書11に関して文字コード、制御コードに変化が与えられ、文字等に対して変化が加えられる。これにより定型文書11に秘密情報12が埋め込まれる。秘密情報12が埋め込まれた文書13は再び保存される。
【0025】
ここで、定型文書11に含まれる文字の表示属性の例、および変調アルゴリズム21による変化の与え方の例について説明する。
【0026】
定型文書11に含まれる文字の「表示属性」とは、コンピュータのディスプレイ上にて定型文書11の文書情報が頁に表示される状態において文書情報を構成する各文字の表示の態様を意味する。従って、文字の表示属性の変化とは、文字の表示の態様の変化を意味する。
【0027】
文字の表示属性の変化の例としては、第1に、文字の位置を正規の位置(定位置)から上下方向、左右方向、または斜め方向にずらすという変化である。第2に、文字の姿勢を正規の姿勢から左回りまたは右回りで回転させるという変化である。第3に、文字の全部または一部の形状を変えるという変化である。文字の全部を変える変化としては、文字の太さ、大きさ、長平、斜め体等である。文字の一部の形状を変える変化としては、文字が漢字の場合において、辺、つくり、はね、しんにゅう、点を変化させることである。以上の変化を与えることは、文字種やフォントに拘わらず行うことができる。手書き文字の字体を元に生成したフォントを用いた文書の場合に適用することができる。
【0028】
定型文書11に対する他の変化の与え方としては、前述した通り、文書内容に含まれる、文字に類似するまたは関連するものの変化・変更が可能であり、例えば、定型文書11の文章全体に対して表記内容の一部を変更することもできる。表記内容の一部の変更の例としては、句読点の種別の変更、または数字種別の変更である。
【0029】
定型文書11に対する変化の与え方としては2つの方法が考えられる。第1の方法は、埋め込む情報量は少ないが、見た目で分からない微小変化を加える方法であり、第2の方法は、埋め込む情報量は多いが、見た目で分かる変化を加える方法である。見た目で分からない微小変化を加える方法の方が秘密情報の秘匿性は高くなる。
【0030】
定型文書11に対する変調(変調処理22)、すなわち変化の与え方としては、前述した各種の文字表示属性の変化、または表記内容の一部の変更を用いて、あるいはこれらを適宜に組み合わせて行うことが可能である。
【0031】
定型文書11に埋め込まれる秘密情報12としては、一般的に伝えたい情報の他に、特に利用されやすい、当該定型文書11の属性、例えば作成部門、作成者、文書に関する権限、作成年月日、更新年月日等がある。
また文書の内容に関する概要数字の部分の正確な数字も秘密情報となる。
さらに文書内のすべて、または1部の文字を暗号化した部分に対する暗号鍵や秘密鍵も秘密情報となる。
【0032】
上記のごとくして秘密情報の埋め込みソフトウェア20によって作成された文書13は、PDF形式の文書として、または画像情報形式(例えばJPEG形式やBitMap形式)の文書として受信先に配信されることになる。
【0033】
次に、図1を参照して、上記の抽出ソフトウェア30の内容と処理の流れを説明する。抽出ソフトウェア30に基づく処理では、最初に秘密情報12が埋め込まれた文書13が受信され、または当該文書13を取得する(処理ブロック31)。文書13は、PDF形式または他の画像情報形式で与えられる。次に、当該文書13からまず定型文書11をOCR等の読取り機能を利用して取り出す(処理ブロック32)。定型文書11に加えられた微小な変化はOCR機能では読み取ることができないので、定型文書11を取り出すことができる。次に、秘密情報が埋め込まれた文書13と、定型文書11とを対比し、文字に関する変化情報を取り出す(処理ブロック33)。取り出した変化情報を用い、かつ別途に用意された復調アルゴリズム34を用いて、変化情報を解読するための復調処理35を行い、文書13に埋め込まれた秘密情報12を取り出す(処理ブロック35)。
【0034】
上記の秘密情報の抽出ソフトウェア30において、復調処理35で読取りエラーによる符号誤りが発生する可能性があるので、誤り訂正符号を用いて復調処理35での符号誤りの改善を行うことができる。またパリティチェックやCRC符号を利用して誤り検出を行うように構成することもできる。また復調アルゴリズム34は、変調アルゴリズム21に対して逆変換のアルゴリズムになっている。
【0035】
次に変調アルゴリズム21に基づく文字表示属性の変化の実施例について詳述する。
【実施例1】
【0036】
図4〜図6を参照して第1の実施例を説明する。図4は、例えば「字」という文字コードの例を示す。この文字コードは例えばUSCのコードでは“5B57”となる。「USC」の文字コードは、「(1) JIS X 0208(1990) to Unicode, Table version 0.9, 8 March 1994 (2)Unihan database, Table version 1.1, 15 March 2002」に基づいている。さらに上記の“5B57”を2値符号で表すと、図4に示すごとく全体として“0101101101010111”と表現される。
【0037】
ここで前述の定型文書11の文章を「文書に秘密情報を埋め込む方法です」とする。この定型文書に2値符号を埋め込む変調アルゴリズム21として“定位置より左回転は「1」、右回転は「0」”と設定する。回転量は反時計回り(左回転)よる1回転を360°とすると、+1°が「左回転」、−1°が「右回転」と定義する。上記の定型文書、「文書に秘密情報を埋め込む方法です」に対して、秘密情報に係る埋め込みソフトウェア20を起動して変調を実施する。その結果、定型文書である「文書に秘密情報を埋め込む方法です」の各文字には、図5に示すごとく、回転方向によって変調処理が施される。これにより、「字」という文字が埋め込みソフトウェア20によって、定型文書の中に埋め込まれたことになる。
【0038】
図6に第1の実施例に基づく変調処理22の全体的イメージを示す。また図7に変調アルゴリズムに係るフローチャートを示す。
【0039】
第1の実施例によれば、定型文書である「文書に秘密情報を埋め込む方法です」に「字」という漢字61を秘密情報として埋め込む処理が実行される。まずワープロソフト10を用いて定型文書である例えば「文書に秘密情報を埋め込む方法です」を用意する(ステップS21)。次に、埋め込みソフトウェア20を起動してその入力部に秘密情報である「字」を入力する(ステップS22)。「字」は、前述した通り、USCコードでは“5B57”62と表記され、さらに“0101101101010111”63という2値符号で表現される。従って次には、秘密情報である「字」をコード(“5B57”)に変換し(ステップS23)、さらにその後、当該コードを2値符号(“0101101101010111”)に変換する(ステップS24)。
【0040】
「字」という漢字61を、定型文書である「文書に秘密情報を埋め込む方法です」64に埋め込むときに適用される変調アルゴリズム21は、定型文書の各文字を、その定位置の文字中心で回転させ、上記の2値符号の0と1のそれぞれに対応して例えば右回転(右:359°)と左回転(左:1°)を割り当てていく(符号65で示した状態)。この処理は、図7のフローチャートではステップS25で示される。図6の符号66で示した部分では左端の「文」が359°の回転状態で、右端の「す」が1°の回転状態で示されている。こうして、変換67(ステップS26)、すなわち上記の変調処理22が行われ、「字」61という文字が秘密情報として埋め込まれた文書68が作成される。
【0041】
上記のごとく、秘密情報に係る埋め込みソフトウェア20で変調処理22を受け、秘密情報12が埋め込まれた文書13が完成される。この文書13は、例えばPDF文書等として相手方に送信される(通信処理41)。
【0042】
受信側のパーソナルコンピュータ102等では、抽出ソフトウェア30を起動して、このソフトウェアが備えるOCR機能に基づき受信したPDF文書から定型文書に取り出す。取り出した定型文書と、秘密情報が埋め込まれた文書とを照合することによって(処理ブロック33)、定型文書の各文字に加えられた変化を抽出する。この実施例1の場合には「右回転」または「左回転」であるので、それぞれに1,0の2値情報を与えて取り出す。この実施例1では、“5B57”というコードを表す2値情報を取り出すことができる。抽出した2値情報を文字コード表と照合することにより、復調処理が行われ、「字」61という秘密情報を取り出すことができる。
【実施例2】
【0043】
図8と図9を参照して第2の実施例を説明する。この実施例では、図8に示すごとく、例えば「契」という文字71について、左回転を“1”(図8の(A))、定位置を“0”(図8の(B))とする方法を採用して、秘密情報を埋め込んでいる。この実施例2では、上記の実施例1と比較すると変化率を小さくするという観点で、左回転のみを採用している。さらに図9に示すごとく示された定型文書の「業務委託に関する基本契約大日本神戸様」という記載72に関して、各文字の表示の態様について左回転(“1”)、定位置(“0”)の表示を施して秘密情報を埋め込んでいる。この定型文書を16進数で表現すると、図9に記載された通り、「BE52」となる。「BE52」は、S−JISの文字コードによれば、「山」という字になる。すなわち「山」という秘密情報が、定型文書である「業務委託に関する基本契約大日本神戸様」72に埋め込まれている。なおこの定型文書において、「す」と「日」という文字には1を付しているが、これはパリティチェックのためのビットである。
【実施例3】
【0044】
図10は、第3の実施例に基づく変調処理22の全体的イメージを示し、図6と同様な図である。この第3の実施例によれば、定型文書である「文書に秘密情報を埋め込む方法です」に「字」という漢字61を秘密情報として埋め込む。この実施例では、各文字に対して定位置からの上下の移動として変化を与える。「字」は、前述した通り、USCコードでは“5B57”62と表記され、さらに“0101101101010111”63という2値符号で表現される。「字」という漢字61を、定型文書である「文書に秘密情報を埋め込む方法です」64に埋め込むときに適用される変調アルゴリズム21は、定型文書の各文字を、姿勢を保ったまま、その定位置の文字中心から1ドット分上下に移動させ、上記の2値符号のそれぞれに対応して上昇(0に対応する上:1ドット分上)と下降(1に対応する下:1ドット分下)を割り当てていく(符号81で示した状態)。図10の符号82の部分では左端の「文」が1ドット上へ移動した状態で、右端の「す」が1ドット下に移動した状態で示されている。こうして、変換67、すなわち変調処理が行われ、「字」という文字が秘密情報として埋め込まれた文書68が作成される。
【実施例4】
【0045】
図11は、第4の実施例に基づく変調処理22の全体的イメージを示し、図6と同様な図である。この第4の実施例によれば、定型文書である「文書に秘密情報を埋め込む方法です」に「字」という漢字61を秘密情報として埋め込む。この実施例では、各文字に対して定位置からの左右の移動として変化を与える。「字」は、前述した通り、USCコードでは“5B57”62と表記され、さらに“0101101101010111”63という2値符号で表現される。「字」という漢字61を、定型文書である「文書に秘密情報を埋め込む方法です」64に埋め込むときに適用される変調アルゴリズム21は、定型文書の各文字を、姿勢を保ったまま、その定位置の文字中心から1ドット分左右に移動させ、上記の2値符号のそれぞれに対応して左方(0に対応する左:1ドット分左)と右方(1に対応する右:1ドット分右)を割り当てていく(符号91で示した状態)。図11の符号92の部分では左端の「文」が1ドット左へ移動した状態で、右端の「す」が1ドット右に移動した状態で示されている。こうして、変換67、すなわち変調処理が行われ、「字」という文字が秘密情報として埋め込まれた文書68が作成される。
【0046】
前述の実施形態および実施例の説明ではもっぱら2値符号を利用した変調の例を説明した。しかし、本発明による埋め込みのための変調等は2値符号を利用することのみに限定されず、一般的に2値よりも多い多値符号を利用して変調することも可能である。多値符号を利用する変調では、例えば、文字属性表示変化において、3値符号(+1,0,−1)を用いる場合には、正規の定位置から右回転が+1、定位置が0、定位置から左回転−1というように設定することができる。さらに文字属性表示変化において4値符号(00,01,10,11)を用いる場合には、例えば、「正規の定位置から右回転+1°が00」、「正規の定位置から右回転+2°が01」、「正規の定位置から左回転+1°が10」、「正規の定位置から左回転+2°が11」というように設定することができる。
【0047】
さらに、以上のごとき定型文書に秘密情報を埋め込む方法によれば、次のような応用が可能になる。
【0048】
第1に、PDF文書が、文字データに変換されたか否かをチェックすることができる。まず、予め適宜な秘密情報が埋め込まれた文字データ文書を準備し、これをPDF文書に変換する。当該PDF文書の受け取り先で、OCRや文字読み取りソフトを用いて文字データに変換した場合、OCR等では文字に加えられた微小変化が読みとれないため、定型文書となり、秘密情報が抜け落ちることになる。
このため、PDF形式の文書から文字データ文書への変換が行われた否かのチェックを行うことができ、秘密情報の抽出を行うことができなくなる。
【0049】
第2に、文書の改竄チェックに応用することができる。秘密文書が埋め込まれた文書に何らかの改竄を行った場合には、改竄した文字部分は定型文書の文字となる。
この場合、改竄した文字には微小変化を与えられていないため、改竄があったか否かを検出することが可能となる。
【0050】
以上の実施形態で説明された構成および配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る定型文書に秘密情報を埋め込む方法等は、本来の定型文書に必要な情報を特定な者に秘密状態で提供するデータ伝送方法等に利用される
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る文書への秘密情報を埋め込む方法、および当該文書からの秘密情報を抽出する方法が実施されるシステムの全体構成を示す図である。
【図2】定型文書に秘密情報を埋め込むソフトウェアでの処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】文書へ秘密情報を埋め込むソフトウェアが実行されるパーソナルコンピュータの環境を示す図である。
【図4】第1の実施例に係る秘密情報の一例を表す文字コードと2値符号の例を示す図である。
【図5】第1の実施例に係る定型文書の例と、定型文書の各文字に変化を与える例を示す図である。
【図6】第1の実施例に係る変調処理の流れを示す図である。
【図7】第1の実施例に係る変調処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施例に係る変調処理の変化の与え方を示す図である。
【図9】第2の実施例に係る変調処理の流れを示す図である。
【図10】第3の実施例に係る変調処理の流れを示す図である。
【図11】第4の実施例に係る変調処理の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 ワープロソフト(文書作成ソフトウェア)
11 定型文書
12 秘密情報
13 秘密情報が埋め込まれた文書
20 埋め込みソフトウェア
21 変調アルゴリズム
22 変調
30 抽出ソフトウェア
34 復調アルゴリズム
35 復調

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに用意された文書作成ソフトウェアで定型文書を作成し、かつ前記コンピュータまたは他のコンピュータで前記定型文書を読み取るときに用いられ、
前記コンピュータで、前記文書作成ソフトウェアを用いて作成した前記定型文書内に含まれる文字に対してその文字表示属性に変化を加えることにより、前記定型文書に秘密情報を埋め込むことを特徴とする文書への秘密情報埋込方法。
【請求項2】
前記文字表示属性の変化は、正規の定位置から左回りまたは右回りで回転させる変化であることを特徴とする請求項1記載の文書への秘密情報埋込方法。
【請求項3】
前記文字表示属性の変化は、正規の定位置から上下方向、左右方向、または斜め方向にずらす変化であることを特徴とする請求項1記載の文書への秘密情報埋込方法。
【請求項4】
前記文字表示属性の変化は、前記文字の全部または一部の形状を変える変化であることを特徴とする請求項1記載の文書への秘密情報埋込方法。
【請求項5】
文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書を用意するステップと、
入力部を介して秘密情報を入力させるステップと、
前記秘密情報をコードに変換するステップと、
前記秘密情報の前記コードを2値符号に変換するステップと、
前記2値符号を構成する1と0を前記定型文書内に含まれる複数の文字の各々に割り当てるステップと、
前記定型文書内に含まれる複数の文字の各々の文字表示属性を、前記2値符号を構成する1と0のそれぞれに対応して変化させるステップと、
から成ることを特徴とする文書への秘密情報埋込方法。
【請求項6】
前記文字表示属性の変化で、前記2値符号の1と0は、正規の定位置からの左回り回転または右回り回転に対応させることを特徴とする請求項5記載の文書への秘密情報埋込方法。
【請求項7】
前記文字表示属性の変化で、前記2値符号の1と0は、正規の定位置からの上方向移動または下方向移動に対応させることを特徴とする請求項5記載の文書への秘密情報埋込方法。
【請求項8】
前記文字表示属性の変化で、前記2値符号の1と0は、正規の定位置からの左方向移動または右方向移動に対応させることを特徴とする請求項5記載の文書への秘密情報埋込方法。
【請求項9】
前記2値符号の代わりに3値符号または4値符号を用い、
前記秘密情報の前記コードを前記の3値符号または4値符号に変換するステップと、
前記の3値符号または4値符号のそれぞれで、前記の3値符号または4値符号を構成する要素符号を前記定型文書内に含まれる複数の文字の各々に割り当てるステップと、
前記定型文書内に含まれる複数の文字の各々の文字表示属性を、前記の3値符号または4値符号を構成する要素符号のそれぞれに対応して変化させるステップと、
を有することを特徴とする請求項5記載の文書への秘密情報埋込方法。
【請求項10】
コンピュータに用意された文書作成ソフトウェアで定型文書を作成し、かつ前記コンピュータまたは他のコンピュータで前記定型文書を読み取るときに用いられ、
前記コンピュータで、前記文書作成ソフトウェアを用いて作成した前記定型文書の文章全体に対して表記内容の一部を変更することにより、前記定型文書に秘密情報を埋め込むことを特徴とする文書への秘密情報埋込方法。
【請求項11】
前記表記内容の一部の変更は、句読点の種別の変更、または数字種別の変更であることを特徴とする請求項9記載の文書への秘密情報埋込方法。
【請求項12】
文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書であって、その中に含まれる文字に対してその文字表示属性に変化を加えることにより、または文章全体に対して表記内容の一部を変更することにより、秘密情報が埋め込まれた前記定型文書から、光学的読取り装置により前記秘密情報が含まれない前記定型文書を取り出すステップと、
取り出された前記定型文書と、前記秘密情報が埋め込まれた前記定型文書とを比較し、前記秘密情報に係る変化情報または変更情報を抽出するステップと、
抽出した前記変化情報または変更情報から前記秘密情報を再生するステップと、
から成ることを特徴とする文書からの秘密情報抽出方法。
【請求項13】
再生した前記秘密情報と、参照となる元の秘密情報とを比較し、前記文書の改竄の有無を判定するステップとを有することを特徴とする請求項11記載の文書からの秘密情報抽出方法。
【請求項14】
コンピュータに、
文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書を用意する機能と、
入力部を介して秘密情報を入力させる機能と、
入力した前記秘密情報をコードに変換する機能と、
前記秘密情報の前記コードを2値符号に変換する機能と、
前記2値符号を構成する1と0を前記定型文書内に含まれる複数の文字の各々に割り当てる機能と、
前記定型文書内に含まれる複数の文字の各々の文字表示属性を、前記2値符号を構成する1と0のそれぞれに対応して変化させる機能と、
を実現させるための文書への秘密情報埋込プログラム。
【請求項15】
コンピュータに、
文書作成ソフトウェアを用いて作成した定型文書であって、その中に含まれる文字に対してその文字表示属性に変化を加えることにより、または文章全体に対して表記内容の一部を変更することにより、秘密情報が埋め込まれた前記定型文書から、光学的読取り装置により前記秘密情報が含まれない前記定型文書を取り出す機能と、
取り出された前記定型文書と、前記秘密情報が埋め込まれた前記定型文書とを比較し、前記秘密情報に係る変化情報または変更情報を抽出する機能と、
抽出した前記変化情報または変更情報から前記秘密情報を再生する機能と、
を実現させるための文書からの秘密情報抽出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−199294(P2009−199294A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39793(P2008−39793)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(508055146)プリンシパル株式会社 (1)
【出願人】(508053810)
【Fターム(参考)】