説明

斜杭の斜角測定装置、斜角測定方法及び杭の貫入方法

【課題】斜杭の傾斜角を容易に管理できる斜角測定装置及び斜角測定方法、並びに傾斜角を容易に管理しながら斜杭を貫入できる杭の貫入方法を提供する。
【解決手段】杭を地面に対して傾斜した姿勢で貫入する際に、該杭の傾斜角を測定する斜角測定装置であって、望遠鏡と、該望遠鏡を支持する支持部材と、該支持部材を載置する基台と、望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、杭の外側線と鉛直方向とが成す角を測定する測定手段と、を有することを特徴とする斜角測定装置、該斜角測定装置を用いた斜角測定方法、及び該斜角測定装置を用いた杭の貫入方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木、建築用の基礎部材として杭を地面に対して傾斜した姿勢で貫入する際に用いる、杭の斜角測定装置、該装置を用いた斜角測定方法、及び該測定方法を用いた杭の貫入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木、建築用の基礎部材として杭を地盤に貫入する場合において、垂直に貫入する杭を直杭といい、地面に対して傾斜した姿勢で貫入する杭を斜杭という。斜杭は直杭に比べて水平方向に加わる力に対して有効に機能し、杭頭部の水平方向の変位を小さくすることが可能である。そのため、今後、斜杭は耐震設計上、好適に用いられる傾向にある。
【0003】
上記のような斜杭に関する技術として、例えば特許文献1には、螺旋状の羽根付杭の回転埋設方法であって、羽根付杭を所望の埋設角度に傾斜させる傾斜工程と、羽根付杭の埋設方向を確認しつつ前記羽根付杭を地盤に埋設する埋設工程と、を有することを特徴とする羽根付杭の回転埋設方法が開示されている。また、特許文献1には、羽根付杭の埋設方向を確認する具体的な方法として、羽根付杭の周囲の地面において、所望の埋設方向と平行に設置された棒状部材を基準に行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−37839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
斜杭を地盤に貫入する際、該斜杭の傾斜角を管理することが重要となる。しかしながら、上記特許文献1に開示されている方法では、棒状部材を所定の貫入方向と平行に設置するには手間が掛かるという問題があった。また、斜杭を貫入することにより、その周囲の地盤が変位するため、棒状部材は斜杭の貫入位置からかなり離れた位置に設置する必要がある。この場合、離れた位置にある棒状部材を見ながら斜杭の貫入方向を管理することは非常に困難である。さらに、棒状部材を自立させて設置するには、地盤に対してある程度深く貫入する必要がある。この場合、手作業での設置は困難であり、重機等が必要となるため、施工が煩雑となる。
【0006】
斜杭を地盤に貫入する際に該斜杭の傾斜角を管理するためのその他の方法としては、斜杭の外周面に傾斜計を当てて斜杭の傾斜角を確認する方法も考えられる。しかしながら、このような方法では、計測する際に斜杭の貫入施工を中断する必要があり、作業性が悪かった。また、斜杭の内周面にガイド管を沿わせて設置し、該ガイド管の中に傾斜計を挿入して計測する方法も考えられる。しかしながら、このような方法では、上記の方法と同様に、計測時に斜杭の貫入施工を中断しなければならず作業性が悪いという問題や、杭を継ぎ足す際にガイド管の接続作業が伴うため、施工が煩雑となるという問題もあった。
【0007】
そこで本発明は、斜杭の傾斜角(杭の貫入角度や、杭を縦継ぎする場合の角度等)を容易に管理することができる斜角測定装置及び斜角測定方法、並びに傾斜角を容易に管理しながら斜杭を貫入できる杭の貫入方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0009】
第1の本発明は、杭(20)を地面(30)に対して傾斜した姿勢で貫入する際に、該杭の傾斜角を測定する斜角測定装置であって、望遠鏡(1)と、該望遠鏡を支持する支持部材(2)と、該支持部材を載置する基台(3)と、望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、杭の外側線(21)と鉛直方向とが成す角を測定する測定手段と、を有することを特徴とする斜角測定装置(10、10’)により、前記課題を解決する。
【0010】
本発明において、「杭の傾斜角」とは、杭の外側線と鉛直方向とが成す角を意味する。なお、「杭の外側線」とは杭を正面視したときの該杭と周囲との境界線を意味する。
【0011】
第1の本発明の斜角測定装置(10)において、測定手段が、水平面に対する角度が0度以上15度以下の範囲の任意の角度で基台(3)を傾斜させ、基準線または基準印を杭の外側線(21)に合わせることができる傾斜手段を含むことが好ましい。
【0012】
第1の本発明の斜角測定装置(10)において、基準調整手段及び傾斜手段が、基台(3)の下部に備えられた、基台の水平面に対する傾斜方向及び傾斜角度を調整する角度調整ネジ(4a、4b、4c)であることが好ましい。角度調整ネジは、代表的には、従来のトランシットに備わっている整準ネジを可動範囲の大きなものとして、基準調整手段としての機能とともに、傾斜手段の機能も具備させるものである。角度調整ネジ(整準ネジ)は、代表的には、平面視において三角形の各頂点の位置に備えられており、これを利用して、基台の水平出し並びに所定の傾斜方向及び傾斜角度の調整を行う。
【0013】
第1の本発明の斜角測定装置(10)において、基準調整手段及び/又は傾斜手段を複数備え、各基準調整手段及び/又は各傾斜手段により調整される基台と水平面との成す角度が重畳可能になっていてもよい。例えば、基準調整手段としての機能と傾斜手段としての機能とを1つの角度調整ネジ(整準ネジ)に兼備させるのではなく、基準調整手段としての機能を有する整準ネジと傾斜手段としての機能を有する角度調整ネジとを別々に設けてもよい。このような構造とすれば、1つの角度調整ネジが基準調整手段としての機能と傾斜手段としての機能とを兼備する場合と比較して、部品数が増えて装置構成としては複雑になるものの、それぞれの整準ネジや角度調整ネジは可動範囲の小さいものでよく、その結果、それぞれのネジとして精度のよいものを使用しうる。
【0014】
第1の本発明の斜角測定装置(10’)において、測定手段が、基台(3)を水平にして望遠鏡のファインダーから見たときに、鉛直方向に対して所定の角度で傾いて見える基準線または基準印を含むことが好ましい。
【0015】
ここに、「鉛直方向に対して所定の角度で傾いて見える基準線または基準印」とは、後に詳細に説明するように、鉛直方向に対する傾斜角が固定された基準線または基準印でもよく、鉛直方向に対する傾斜角を適宜変更できる基準線または基準印でもよい。
【0016】
第2の本発明は、杭(20)を地面に対して傾斜した姿勢で貫入する際に、該杭の傾斜角を測定する斜角測定方法であって、望遠鏡(1)と、該望遠鏡を支持する支持部材(2)と、該支持部材を載置する基台(3)と、望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、杭の外側線(21)と鉛直方向とが成す角を測定する測定手段と、を有する斜角測定装置(10、10’)を用いて、杭の傾斜角を測定することを特徴とする斜角測定方法により、前記課題を解決する。
【0017】
第2の本発明の斜角測定方法において、杭(20)の軸心を含む鉛直面と望遠鏡(1)の光軸とが直交するように斜角測定装置(10)を配置し、基準調整手段によって望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、基台(3)を傾けて、基準線または基準印と杭の外側線(21)とを合わせて杭の傾斜角を測定することが好ましい。また、この方法の場合、望遠鏡を回動させて、傾斜した杭(20)の外側線(21)と望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印とを合わせることによって、杭全体の傾きを測定することが好ましい。
【0018】
第2の本発明の斜角測定方法において、杭(20)の軸心を含む鉛直面と望遠鏡(1)の光軸とが直交するように斜角測定装置(10’)を配置し、基準調整手段によって望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、鉛直方向に対して所定の角度で傾斜した他の基準線または基準印と杭の外側線(21)を合わせることで、杭の傾斜角を測定することも好ましい。
【0019】
ここに、「所定の角度で傾斜した他の基準線または基準印」とは、鉛直方向の基準線又は基準印とは別に、傾斜角が固定された基準線または基準印でもよく、傾斜角を適宜変更できる基準線または基準印でもよい。
【0020】
第3の本発明は、地面に対して所定の角度で傾斜した姿勢の杭を貫入する、杭の貫入方法であって、望遠鏡と、該望遠鏡を支持する支持部材と、該支持部材を載置する基台と、望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、基台を水平面に対して任意の角度で傾斜させられる傾斜手段と、を有する斜角測定装置を用い、杭の軸心を含む鉛直面と望遠鏡の光軸とが直交するように斜角測定装置を配置し、基準調整手段によって望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、傾斜手段によって、杭の軸心を含む鉛直面に平行な面内の方向に基台を所定の角度傾け、基準線または基準印に杭の外側線を合わせながら杭を地面に貫入する、杭の貫入方法により、前記課題を解決する。
【0021】
ここに、「基台を所定の角度傾け」とは、貫入する杭について予定されている傾斜角と同じ角度だけ、水平方向に対して基台を傾けることを意味する。
【0022】
第4の本発明は、地面に対して所定の角度で傾斜した姿勢の杭を貫入する、杭の貫入方法であって、望遠鏡と、該望遠鏡を支持する支持部材と、該支持部材を載置する基台と、望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、基台を水平にして望遠鏡のファインダーから見たときに、鉛直方向に対して所定の角度で傾いて見える基準線または基準印と、を有する斜角測定装置を用い、杭の軸心を含む鉛直面と望遠鏡の光軸とが直交するように斜角測定装置を配置し、基準調整手段によって望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、所定の角度で傾いて見える基準線または基準印に杭の外側線を合わせながら杭を地面に貫入する、杭の貫入方法により、前記課題を解決する。
【0023】
ここに、「所定の角度で傾いて見える基準線または基準印に杭の外側線を合わせ」とは、貫入する杭について予定されている傾斜角と同じ角度だけ鉛直方向に対して傾斜した基準線または基準印に、杭の外側線を合わることを意味する。
【発明の効果】
【0024】
第1の本発明によれば、容易に且つ正確に斜杭の傾斜角を管理できる斜角測定装置を提供することができる。また、第2の本発明によれば、容易に且つ正確に斜杭の傾斜角を管理できる斜角測定方法を提供することができる。さらに、第3及び第4の本発明によれば、容易に且つ正確に傾斜角を管理しながら斜杭を貫入できる杭の貫入方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は、第1実施形態にかかる本発明の斜角測定装置を概略的に示す正面図である。(b)は、(a)に示した斜角測定装置を概略的に示す側面図である。
【図2】図1に示したII−II矢視断面を概略的に示す図である。
【図3】1つの実施形態にかかる本発明の斜角測定方法を説明する図である。
【図4】基台を傾斜させた姿勢の斜角測定装置を概略的に示す正面図である。
【図5】変形例にかかる本発明の斜角測定装置を概略的に示す正面図である。
【図6】(a)は、第2実施形態にかかる本発明の斜角測定装置を概略的に示す正面図である。(b)は、(a)に示した斜角測定装置に備えられる望遠鏡のファインダーから見た基準線を概略的に示す図である。
【図7】他の実施形態にかかる本発明の斜角測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0027】
本発明の斜角測定装置は、杭を地面に対して傾斜した姿勢で貫入する際に、該杭の傾斜角を測定する装置である。本発明の斜角測定装置は、望遠鏡と、該望遠鏡を支持する支持部材と、該支持部材を載置する基台と、望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、杭の外側線と鉛直方向とが成す角を測定する測定手段とを備えている。このような本発明の斜角測定装置は、貫入する杭の傾斜角度を調整する場合や、縦継ぎする杭の傾斜角度を調整する場合等に用いることができる。
【0028】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態にかかる本発明の斜角測定装置10を概略的に示す図である。図1(a)は、斜角測定装置10の正面図であり、図1(b)は、図1(a)に示した矢印xの方向から見た斜角測定装置10の側面図である。図2は、図1に示したII−II矢視断面を概略的に示す図である。以下、図1、図2及び適宜示す図を参照しつつ、斜角測定装置10について説明する。
【0029】
図1に示すように、斜角測定装置10は、望遠鏡1と、望遠鏡1を支持する支持部材2と、支持部材2を載置する基台3と、角度調整ネジ4a、4b、4cと、これらを頭部5に載置する三脚6とを備えている。角度調整ネジ4a、4b、4cは、望遠鏡1のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段としての機能と、基台3を傾斜させることができる傾斜手段としての機能とを兼備している。本実施形態の場合、3つの角度調整ネジ4a、4b、4cは、図2に示すように、平面視において三角形の各頂点の位置に備えられている。なお、斜角測定装置10に備えられる、杭の外側線と鉛直方向とが成す角を測定する測定手段は、後に説明するように、角度調整ネジ4a、4b、4cと基台3の水平面に対する傾斜角を測定できる角度計(不図示)とによって構成されている。当該角度計としては、例えば、市販の小型のデジタル角度計を挙げることができる。
【0030】
望遠鏡1としては、従来のトランシットに備えられるものと同様のものを用いることができる。すなわち、基台3を水平にした場合、望遠鏡1のファインダーからは水平方向と鉛直方向の基準線または基準印が見える。支持部材2としては、従来のトランシットに備えられるものと同様のものを用いることができる。すなわち、望遠鏡1は、支持部材2によって、図1(b)に示した矢印yの方向に回動可能に支持されている。基台3、及び三脚6も従来のトランシットに備えられるものと同様のものを用いることができきる。
【0031】
角度調整ネジ4a、4b、4cは、基台3の下部に備えられており、基台3の水平出し及び水平面に対して傾斜させることができる。具体的には、角度調整ネジ4a、4b、4cはそれぞれ基台3の高さを調整する機能を有しており、角度調整ネジ4a、4b、4cのうちいずれかをまたは組み合わせて回すことによって、基台3の水平出し及び水平面に対する傾斜角及び傾斜方向を調整することができる。
【0032】
従来のトランシットに備えられる整準ネジによる基準調整範囲は、通常、5度程度である。一方、斜角測定装置10に備えられる角度調整ネジ4a、4b、4cは、従来の整準ネジよりも可動範囲が広いものとして、水平面に対して0度以上15度以下の範囲の任意の角度で基台3を傾斜させることができるようにする。当該角度範囲は特に限定されないが、上限が5度未満であれば、実際に斜杭を貫入する際の斜杭の傾斜角を測定できない場合がある。一方、杭の傾斜角を15度以上にして貫入することは想定し難いため、当該角度範囲の上限は15度程度で良いと考えられる。なお、角度調整ネジ4a、4b、4cは前述のように、基台3の水平出しにも用いる。基台3の水平出しを行うには、通常、基台3を5度程度の範囲で傾斜させられるようにすることが好ましい。したがって、角度調整ネジ4a、4b、4cによる基台3の角度調整範囲は、トータルで20度程度とすることが好ましい。
【0033】
また、斜角測定装置10の場合、後に説明するように、杭の傾斜角を測定するには、基台3の水平面に対する角度を知ることが重要となる。よって、斜角測定装置10は、基台3と水平面との成す角度を測定する角度計を備えている。当該角度計は、基台3と水平面との成す角度を測定できるものであれば特に限定されない。例えば、市販の小型のデジタル角度計を基台3に設置することによって、基台3と水平面との成す角度を測定できる。
【0034】
次に、斜角測定装置10を用いた本発明の斜角測定方法について説明しながら、斜角測定装置10に備えられる測定手段について具体的に説明する。
【0035】
図3は、斜角測定装置10を用いた本発明の斜角測定方法を説明する図である。図3(a)は、斜角測定装置10で斜杭20の傾斜角を測定する際の、斜角測定装置10と斜杭20との位置関係を概略的に示す上面図である。図3(b)は、斜角測定装置10で斜杭20の傾斜角を測定する際の、斜角測定装置10と斜杭20とを概略的に示す正面図である。なお、図3(b)において斜杭20は破線で示している。図4は、基台3を傾斜させた姿勢の斜角測定装置10を概略的に示す正面図である。
【0036】
斜角測定装置10を用いて杭20の傾斜角を測定するには、まず、図3(a)に示すように、杭20の軸心を含む鉛直面(直線vで示した。以下、「鉛直面v」という。)と望遠鏡1の光軸(一点鎖線a)とが直交するように斜角測定装置10を配置する。その後、従来のトランシットと同様に、角度調整ネジ4a、4b、4cを調整して望遠鏡1のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせ、杭20の傾斜角を測定するための基準を明確にする。これにより、基台3は実質的に水平面となっているので、基台3に設置された角度計をリセットする。
【0037】
次に、基台3を鉛直面vに平行な面内の方向に傾けて、望遠鏡1のファインダーから見える基準線または基準印と杭20の外側線21とを合わせて杭20の傾斜角を測定する。このとき、図4に示すように、角度調整ネジ4a、4b、4cによって基台3を水平面に対して傾斜させる。望遠鏡1として従来のトランシットに備えられるものと同様のものを用いる場合、基台3を水平にしたときに、望遠鏡1のファインダーからは、鉛直方向に記された基準線または基準印を見ることができる。当該基準線または基準印が杭20の傾斜方向に平行な方向に傾斜するように基台3を傾斜させることによって、当該基準線または基準印と杭20の外側線21とを合わせることができる。このとき、基台3と水平面との成す角度θが杭20の傾斜角と等しくなる。よって、基台3の水平面に対する角度を基台3に設置された角度計から読み取ることによって、杭20の傾斜角を測定できる。このように、本実施形態では、角度調整ネジ4a、4b、4c、及び基台3と水平面との成す角度を測定する角度計が測定手段を構成する。
【0038】
また、上記のようにして斜角測定装置10を用いて杭20の傾斜角を測定する場合、望遠鏡1を回動させて、傾斜した杭20の外側線21と望遠鏡1のファインダーから見える基準線または基準印との位置を確認することによって、杭20全体の傾きを測定することができる。
【0039】
このように斜角測定装置10によれば、容易且つ正確に杭20の斜角を測定することができる。したがって、斜角測定装置10によれば、杭20の傾斜角を正確に管理しながら貫入することが容易である。すなわち、上述したように斜角測定装置10を配置し、角度調整ネジ4a、4b、4cによって望遠鏡1のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、角度調整ネジ4a、4b、4cによって、杭20の軸心を含む鉛直面vに平行な面内の方向に基台3を所定の角度傾けて、基準線または基準印に杭20の外側線21を合わせながら杭20を地面に貫入することにより、杭20を予定していた傾斜角で貫入することが容易になる。また、斜角測定装置10は、以下に説明するようにして用いることもできる。地面に対して所定の角度で傾斜した姿勢で貫入される杭20の傾斜角が本来傾斜すべき角度(予定していた傾斜角)からずれていた場合、まず、上記のようにして基台3を傾斜させ、基準線または基準印を杭20の本来傾斜すべき角度に傾斜させる。そして、当該基準線又は基準印に杭20の外側線21を合わせるように杭20の傾斜角度を調整しながら杭20を貫入することによって、杭20の傾斜角を修正して貫入することができる。
【0040】
なお、これまでの本発明の説明では、基台3が3つの角度調整ネジ4a、4b、4cによって傾けられる形態について説明したが、本発明は当該形態に限定されず、基台3を水平面に対して任意の角度に傾けられるのであれば、角度調整ネジの数及び設置位置は適宜変更可能である。
【0041】
例えば、図5に変形例にかかる本発明の斜角測定装置50の正面図を示す。図5において、図1(a)と同様の構成のものには同符号を付している。斜角測定装置50は、上下2段に角度調整ネジ54a、54b、54c、55a、55b、55cを備えている(角度調整ネジ54c、55cは不図示。上段及び下段のそれぞれにおいて、斜角測定装置10の角度調整ネジ4a、4b、4cのように、三角形の各頂点の位置に角度調整ネジが備えられた構造とする。)。このような構造にすることによって、例えば、下段の角度調整ネジ55a、55b、55cには基準調整手段としての機能(従来のトランシットに備えられる整準ネジと同様の機能)を備えさせて、上段の角度調整ネジ54a、54b、54cには傾斜手段としての機能(従来のトランシットに備えられる整準ネジより大きな範囲で基台3の傾斜角を調整できる機能)を備えさせることができる。このような構造とすれば、部品数が増えて装置構成としては複雑になるものの、それぞれのネジの可動範囲を小さくすることができるので、それぞれのネジとして精度のよいものを使用しうる。
【0042】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態にかかる本発明の斜角測定装置について説明する。図6(a)は、第2実施形態にかかる本発明の斜角測定装置10’を概略的に示す正面図である。図6(a)において、図1(a)に示したものと同様の構成のものには、同符号を付している。図6(b)は、斜角測定装置10’に備えられる望遠鏡1’のファインダーから見た基準線40〜47を概略的に示す図である。
【0043】
図6(a)に示した斜角測定装置10’は、望遠鏡1’、及び基準調整手段としての機能を有する整準ネジ14a、14b、14c(整準ネジ14cは不図示。整準ネジ14a、14b、14cは、斜角測定装置10の角度調整ネジ4a、4b、4cと同様の位置に備えられている。)以外を上記斜角測定装置10と同様とすることができる。また、整準ネジ14a、14b、14cは、従来のトランシットに備えられているものと同様とすることができる。よって、以下の斜角測定装置10’の説明では、望遠鏡1’について主に説明する。
【0044】
望遠鏡1’は、基台3を水平にした場合に、ファインダーから図6(b)に示したように見える複数の基準線40〜47を有している。このうち、水平方向の基準線40及び鉛直方向の基準線41は、通常、従来のトランシットにも備えられている。望遠鏡1’には、さらに所定の角度で傾斜した基準線42〜47が備えられている。例えば、基準線42、43は鉛直方向に対して15度傾いている線とし、基準線44、45は鉛直方向に対して10度傾いている線とし、基準線46、47は鉛直方向に対して5度傾いている線とすることができる。ただし、このような傾斜した基準線の傾斜角及び本数は特に限定されず、適宜必要な数を必要な傾斜角で備えさせることができる。また、図6(b)には角度が固定された基準線42〜47を例示したが、本発明はかかる形態に限定されず、任意の角度で傾けることができる基準線が備えられていてもよい。
【0045】
上記のような傾斜した基準線を設ける方法としては、水平方向及び鉛直方向の基準線40、41が描かれた窓に傾斜した基準線42〜47を併記したり、水平方向及び鉛直方向の基準線40、41が描かれた窓とは別に傾斜角調整可能な窓(フィルター)を設けて、この窓に傾斜角を適宜変えられる基準線42〜47を描いたりする方法が考えられる。
【0046】
次に、斜角測定装置10’を用いた本発明の斜角測定方法について説明しながら、斜角測定装置10’に備えられる測定手段について具体的に説明する。
【0047】
図7は、斜角測定装置10’で斜杭20の傾斜角を測定する際の、斜角測定装置10’と斜杭20とを概略的に示す正面図である。なお、図7において斜杭20は破線で示している。
【0048】
斜角測定装置10’を用いて杭20の傾斜角を測定するには、まず、斜角測定装置10と同様に、鉛直面vと望遠鏡1’の光軸とが直交するように斜角測定装置10’を配置する(図3(a)参照)。その後、整準ネジ14a、14b、14cによって望遠鏡1’のファインダーから見える基準線41を鉛直方向に合わせ、杭20の傾斜角を測定するための基準を明確にする。
【0049】
次に、望遠鏡1’のファインダーから見える基準線42〜47のいずれかと杭20の外側線21とを合わせることによって、杭20の傾斜角を測定する。すなわち、どの基準線と杭20の外側線21とが合わさったかによって、杭20の傾斜角を測定することができる。
【0050】
なお、上述したように、望遠鏡1’のファインダーから見える基準線は、任意の角度で傾けられるものであってもよい。この場合、当該基準線を何度傾けたときに杭20の外側線21と当該基準線とが合わさったかによって、杭20の傾斜角を測定することができる。
【0051】
さらに、第1の実施形態において説明したような、基台3を傾斜させその傾斜角度を計測できる機構も具備し、該機構と所定の角度で傾いた基準線42〜47とを併用してもよい。これにより、基準線42〜47の角度を連続的に変化させることが可能であり、また、基台3の傾斜手段(前述の角度調整ネジ4a、4b、4cが例示される。)による角度調整範囲が小さいものでよくなる。
【0052】
上記のように、斜角測定装置10’では、所定の角度で傾けることができる基準線または基準印、若しくは所定の角度で傾いた基準線または基準印と、それらの基準線または基準印と鉛直方向との成す角を知る手段が、測定手段を構成している。
【0053】
このように斜角測定装置10’によれば、容易且つ正確に杭20の斜角を測定することができる。したがって、斜角測定装置10’によれば、杭20の傾斜角を正確に管理しながら貫入することが容易である。すなわち、上述したように斜角測定装置10’を配置し、角度調整ネジ14a、14b、14cによって望遠鏡1’のファインダーから見える基準線41を鉛直方向に合わせた後、所定の角度で傾斜した他の基準線(基準線42〜47のいずれか)に杭20の外側線21を合わせながら杭20を地面に貫入することにより、杭20を予定していた傾斜角で貫入することが容易になる。また、斜角測定装置10’は、以下に説明するようにして用いることもできる。地面に対して所定の角度で傾斜した姿勢で貫入される杭20の傾斜角が本来傾斜すべき角度(予定していた傾斜角)からずれている場合、杭20の本来傾斜すべき角度と同一の角度で傾斜した基準線(基準線42〜47のいずれか)、若しくは杭20の本来傾斜すべき角度と同一の角度に傾斜させた基準線(基準線42〜47のいずれか)に杭20の外側線21を合わせるように杭20の傾斜角を調整しながら杭20を貫入することによって、杭20の傾斜角を修正して貫入することができる。
【0054】
以上、現時点において実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う斜角測定装置、斜角測定方法、及び杭の貫入方法も本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0055】
1、1’ 望遠鏡
2 支持部材
3 基台
4a、4b、4c 角度調整ネジ(整準ネジ)
5 頭部
6 三脚
10、10’ 斜角測定装置
20 杭
21 外側線
30 地面
40、41、42、43、44、45、46、47 基準線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭を地面に対して傾斜した姿勢で貫入する際に、該杭の傾斜角を測定する斜角測定装置であって、
望遠鏡と、該望遠鏡を支持する支持部材と、該支持部材を載置する基台と、前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、前記杭の外側線と鉛直方向とが成す角を測定する測定手段と、を有することを特徴とする斜角測定装置。
【請求項2】
前記測定手段が、水平面に対する角度が0度以上15度以下の範囲の任意の角度で前記基台を傾斜させ、前記基準線または基準印を前記杭の外側線に合わせることができる傾斜手段を含む、請求項1に記載の斜角測定装置。
【請求項3】
前記基準調整手段及び傾斜手段が、前記基台の下部に備えられた、前記基台の水平面に対する傾斜方向及び傾斜角度を調整する角度調整ネジである、請求項2に記載の斜角測定装置。
【請求項4】
前記角度調整ネジが3つ備えられており、
前記3つの角度調整ネジは、平面視において三角形の各頂点の位置に備えられている、請求項3に記載の斜角測定装置。
【請求項5】
前記基準調整手段及び/又は前記傾斜手段を複数備え、各前記基準調整手段及び/又は各前記傾斜手段により調整される前記基台と水平面との成す角度が重畳可能である、請求項2〜4のいずれかに記載の斜角測定装置。
【請求項6】
前記測定手段が、前記基台を水平にして前記望遠鏡のファインダーから見たときに、鉛直方向に対して所定の角度で傾いて見える基準線または基準印を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の斜角測定装置。
【請求項7】
杭を地面に対して傾斜した姿勢で貫入する際に、該杭の傾斜角を測定する斜角測定方法であって、
望遠鏡と、該望遠鏡を支持する支持部材と、該支持部材を載置する基台と、前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、前記杭の外側線と鉛直方向とが成す角を測定する測定手段と、を有する斜角測定装置を用いて、前記杭の傾斜角を測定することを特徴とする斜角測定方法。
【請求項8】
前記杭の軸心を含む鉛直面と前記望遠鏡の光軸とが直交するように前記斜角測定装置を配置し、
前記基準調整手段によって前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、
前記杭の軸心を含む鉛直面に平行な面内の方向に前記基台を傾けて、前記基準線または基準印と前記杭の外側線とを合わせて前記杭の傾斜角を測定する、請求項7に記載の斜角測定方法。
【請求項9】
前記望遠鏡を回動させて、傾斜した前記杭の外側線と前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印とを合わせることによって、前記杭全体の傾きを測定する請求項8に記載の斜角測定方法。
【請求項10】
前記杭の軸心を含む鉛直面と前記望遠鏡の光軸とが直交するように前記斜角測定装置を配置し、
前記基準調整手段によって前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、
鉛直方向に対して所定の角度で傾斜した他の基準線または基準印と前記杭の外側線とを合わせることで、前記杭の傾斜角を測定する、請求項7に記載の斜角測定方法。
【請求項11】
地面に対して所定の角度で傾斜した姿勢の杭を貫入する、杭の貫入方法であって、
望遠鏡と、該望遠鏡を支持する支持部材と、該支持部材を載置する基台と、前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、前記基台を水平面に対して任意の角度で傾斜させられる傾斜手段と、を有する斜角測定装置を用い、
前記杭の軸心を含む鉛直面と前記望遠鏡の光軸とが直交するように前記斜角測定装置を配置し、
前記基準調整手段によって前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、
前記傾斜手段によって、前記杭の軸心を含む鉛直面に平行な面内の方向に前記基台を所定の角度傾け、前記基準線または基準印に前記杭の外側線を合わせながら前記杭を地面に貫入する、杭の貫入方法。
【請求項12】
地面に対して所定の角度で傾斜した姿勢の杭を貫入する、杭の貫入方法であって、
望遠鏡と、該望遠鏡を支持する支持部材と、該支持部材を載置する基台と、前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせる基準調整手段と、前記基台を水平にして前記望遠鏡のファインダーから見たときに、鉛直方向に対して所定の角度で傾いて見える基準線または基準印と、を有する斜角測定装置を用い、
前記杭の軸心を含む鉛直面と前記望遠鏡の光軸とが直交するように前記斜角測定装置を配置し、
前記基準調整手段によって前記望遠鏡のファインダーから見える基準線または基準印を鉛直方向に合わせた後、
前記所定の角度で傾いて見える基準線または基準印に前記杭の外側線を合わせながら前記杭を地面に貫入する、杭の貫入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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