説明

斜板式ピストンポンプ・モータ

【課題】 生産性を向上させながら斜板と斜板支持台の摺動面の耐摩耗性および耐焼付き性を高める。
【解決手段】 回転軸5と共に回転するシリンダブロック9に複数のピストン10が周方向に配設され、各ピストン10の先端部10aが斜板12の滑面26aに案内されることでピストン10が往復運動され、斜板12はその凸面32が斜板支持台4の凹面22に摺動自在に支承されることで回転軸線Lに対して傾転可能となる斜板式ピストンポンプ・モータ1であって、斜板支持台4の凹面21、22はレーザ光で部分的に焼入れされた焼入れ部21a、22aを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板が回転軸に対して傾転可能なように斜板支持台に支承されている斜板式ピストンポンプ・モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にクレイドル型の斜板式ピストンポンプは、斜板の背面を円弧状に突出させていると共に、ケーシング若しくは斜板支持台には円弧状の支承面が形成されて前記斜板の円弧状の背面を支持しており、該支承面に潤滑油を導いて斜板を傾動させることにより、斜板の回転軸に対する傾転角度が変化して、作動油の吐出量が調節されるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、このタイプのピストンポンプは、ケーシング内に配置されたシリンダブロックにピストンを周方向に複数備え、回転軸の回転に伴ってシリンダブロックが回転すると、ピストンはその先端部が斜板に沿って案内されながら往復運動して作動油が吸入/吐出される。その際、斜板の傾転角度を大きくすればピストンのストロークが大きくなって吐出量が増大する一方、傾転角度を小さくすればピストンのストロークが小さくなって吐出量が減少するようになっている。
【0003】
このような斜板式ピストンポンプでは、シリンダブロック内にピストンが退いて作動油を吐出させる際に作動油が各ピストンに与える反力が斜板に作用するため、斜板と斜板支持台との間の面圧が非常に高くなる。そうすると、斜板と斜板支持台との界面にある潤滑油膜が切れやすくなるため、斜板と斜板支持台の摺動面には耐焼付き性および耐摩耗性が要求されることとなる。そこで従来は、鋳鉄からなる斜板や斜板支持台に窒素を侵入拡散して表面を硬化させるガス軟窒化処理を施すことにより、耐焼付き性および耐摩耗性を付与している。
(なお、ピストンポンプは回転軸への駆動力が入力となって作動油がピストンで吸入/吐出されるが、ピストンモータも圧油の流入/流出が入力となって回転軸の駆動力が出力されるだけで基本的な構造はピストンポンプと同じであるため、本願明細書では以下、ピストンポンプ・モータと呼ぶことにする。)
【特許文献1】特開平11−50951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、斜板および斜板支持台への耐焼付き性および耐摩耗性の付与は、摺動面についてのみ行えばよいにも関わらず、ガス軟窒化により表面処理を行う場合には、処理の都合から部品全体をガス軟窒化することとなり、量産のためには大型設備が必要となる。また、ガス軟窒化では部品全体が高温(約570℃)に加熱されるため、加熱変形を起こさないよう処理前に歪取りの焼鈍を行う必要も生じる。また、ガス軟窒化では作業性を考慮して数量をまとめてバッチ処理するため、生産リードタイムが長くなってしまう問題もある。さらに、ガス軟窒化の際には部品表面がきれいに清浄されていないと処理が安定しないため、部品の前洗浄処理が必要となる。
【0005】
そこで、本発明は、生産性を向上させながら摺動面の耐焼付き性および耐摩耗性を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る斜板式ピストンポンプ・モータは、回転軸と共に回転するシリンダブロックに複数のピストンが周方向に配設され、前記各ピストンの先端部が斜板の滑面に沿って案内されることで前記ピストンが往復運動され、前記斜板は回転軸に対して傾転可能なように斜板支持台に支承されている斜板式ピストンポンプ・モータであって、前記斜板支持台あるいは前記斜板のいずれか一方の摺動面は、レーザ光で部分的に焼入れされた焼入れ部を有していることを特徴とする。
【0007】
このようにすると、レーザ光の高指向性を利用して部分的に形成された焼入れ部が熱膨張で凸状となることで、非焼入れ部との間で凹凸が形成されてなじみ性および摺動特性が向上し、耐焼付き性が高められる。かつ、斜板支持台あるいは斜板の摺動面のみをレーザ光で焼入れすればよく、小さい設備でクリーンに短時間で耐摩耗性を付与することができる。さらに、硬化深さの浅い部分焼入れであるため加熱変形を起こしにくく、仕上げ加工を省くことができる。また、レーザ焼入れによれば、大気中で処理可能であり冷却液も使用せずに済む。さらに、焼入れ表面はレーザ光の吸収率が一定であればよいので、ガス軟窒化の場合のように部品表面の清浄度にあまり気を使う必要もなくなる。以上より、ピストンポンプ・モータの生産ラインにのせてインライン処理を行うことが可能となり、生産性を大幅に向上させながらも斜板支持台あるいは斜板の摺動面の耐焼付き性および耐摩耗性を高めることができる。
【0008】
前記焼入れ部は、縞状に形成されていてもよい。このようにすると、レーザ光による熱膨張で凸状となる焼入れ部が間隔をあけて複数形成されるので、斜板と斜板支持台との間の面圧が効果的に分散されて、なじみ易くなり耐焼付き性が向上する。
【0009】
前記焼入れ部の各ラインは、前記斜板の前記斜板支持台に対する摺動方向に直交する方向に形成されていてもよい。このようにすると、斜板が傾転されて斜板支持台に対して摺動する際に、焼入れ部のある面と摺動する相手側の面には、焼入れ部と非焼入れ部とが交互に入れ替りながら接することとなり、耐焼付き性が更に向上する。
【0010】
前記焼入れ部は、複数のスポット状に形成されていてもよい。このようにすると、斜板と斜板支持台とは点接触することとなるため、斜板と斜板支持台との間の面圧が効果的に分散されてなじみ易くなり、耐焼付き性が向上する。なお、スポットの形状は円形状や長円形状などであるとよい。
【0011】
前記焼入れされた摺動面には、前記焼入れ部および非焼入れ部を囲繞するように更に焼入れ部が形成されていてもよい。このようにすると、斜板と斜板支持台との間の界面に設けられた潤滑油が、囲繞する焼入れ部の内側に形成される凹部である非焼入れ部に閉じ込められることで、非焼入れ部が油膜保持の効果を発揮し、斜板と斜板支持台の界面で油膜切れが発生するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、斜板支持台あるいは前記斜板のいずれか一方の摺動面をレーザ光で部分焼入れすることで、ピストンポンプ・モータの生産性を大幅に向上させながらも、斜板支持台あるいは斜板の摺動面の耐焼付き性および耐摩耗性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0014】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係るクレイドル型斜板式ピストンポンプ・モータ1の断面図である。図1に示すように、斜板式ピストンポンプ・モータ1は、略筒状のケーシング本体2と、このケーシング本体2の右側の開口を閉鎖して吐出路3aおよび吸入路(図示せず)を有するバルブカバー3と、このケーシング本体2の左側の開口を閉鎖する斜板支持台4とを備えている。ケーシング本体2内には、バルブカバー3および斜板支持台4に軸受6、7を介して回転自在に軸支される回転軸5が左右方向に設けられ、斜板支持台4に内嵌された軸受7の外側には押え材8が取り付けられている。回転軸5にはシリンダブロック9がスプライン結合されて回転軸5と共に一体的に回転される。シリンダブロック9には回転軸5の回転軸線Lを中心として周方向に等間隔をあけて複数のピストン室9aが凹設されている。各ピストン室9aはそれぞれ回転軸線Lに平行であり、往復運動するピストン10がそれぞれ収納されている。
【0015】
ピストン室9aから突出する各ピストン10の先端部10aは球状で、それぞれシュー13の嵌合凹部13aに回動自在に装着されている。また、シリンダブロック9の左側の先端にはシュー13の受け座11が外嵌されている。シュー13の嵌合凹部13aと反対側の当接面13bには斜板12が対面配置され、シュー13にシリンダブロック9側から押え板14を嵌め込むことでシュー13が斜板12側に押し付けられている。斜板12は、シュー13の当接面13bに臨む平坦な滑面26aを有し、シリンダブロック9が回転するとシュー13は滑面26aに沿って案内されて回転し、ピストン10が回転軸線L方向に往復運動する。斜板12の滑面26aの反対側の面には円弧状の凸面32が設けられており、その凸面32が斜板支持台4の円弧状の凹面22に摺動自在に支承されている。
【0016】
ケーシング本体2の上方には、大径シリンダ室2aと小径シリンダ室2bとが同軸上の左右に対向して設けられ、傾転調節用ピストン15の大径部15aが大径シリンダ室2aに収容されていると共に、小径部15bが小径シリンダ室2bに収容されている。傾転調節用ピストン15の中央部には連結部材16が貫通固定され、連結部材16の下端側の球状部16aが斜板12の上部の凹部28aに回動自在に嵌合されている。そして、小径シリンダ室2bに常圧が供給された状態で、レギュレータ(図示せず)により大径シリンダ部2aに供給する圧力を増減させ、傾転調節用ピストン15を左右にスライドさせることで、斜板支持台4の凹面22に対して斜板12の凸面32が摺動方向Xに摺動されて回転軸線Lに対する斜板12の傾転角度αが変化する構成となっている。
【0017】
バルブカバー3の内面側にはシリンダブロック9に摺動するバルブプレート25が取り付けられている。バルブプレート25には吐出ポート25aと吸入ポート25bが形成され、シリンダブロック9の角度位置に応じて、シリンダブロック9のシリンダ室9aに連通する油通路9bが吐出ポート25aあるいは吸入ポート25bに連通される。バルブカバー3には、バルブプレート25の吐出ポート25aに連通して外側面に開口する吐出路3aが形成されていると共に、吸入ポート25bに連通して外側面に開口する吸入路(図示せず)が形成されている。バルブカバー3には吐出路3aから分岐するバイパス流路3bが形成されて、ケーシング本体2に形成された中継流路2bと連通し、この中継流路2bが後述する斜板支持台4の油補給路24に連通している。
【0018】
図2(a)は斜板式ピストンポンプ・モータ1の斜板支持台4の平面図、(b)はA−A線断面図である。図2(a)(b)に示すように、斜板支持台4は、例えば鋳鉄からなり、そのプレート部17の中心に回転軸5が挿通される挿通孔18が設けられていると共に外周側の所定位置にボルト孔17aが設けられている。このプレート部17の挿通孔18の両側には、一対の摺動受部19、20が突設されており、摺動受部19、20の斜板12との対向面は円弧状の凹面21、22(摺動面)となっている。凹面21、22には、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、固体レーザあるいは半導体レーザ等のレーザ照射装置(図示せず)を利用して摺動方向に直交する方向にレーザ光が縞状に照射されることで、焼入れ部21a、22aが縞状に形成されている。これにより、焼入れ部21a、22aが組織変態による膨張で凸状となり、非焼入れ部21b、22bとの間で凹凸が形成されている。また、凹面21、22には、後述する斜板12の凸面31、32の溝部33、34に臨んで開口する圧油供給口21c、22cが設けられている。この圧油供給口21c、22cは斜板支持台4の内部に形成された油補給路23、24を介してプレート部17の下側で開口する油導入口17b、17cに連通している。油導入口17b、17cは、ケーシング本体2の中継流路2bと連通し、凹面21、22に油が潤滑油として供給される。
【0019】
図3(a)は斜板式ピストンポンプ・モータ1の斜板12の平面図、(b)はB−B線断面図である。図3(a)(b)に示すように、斜板12は、例えば窒素を侵入拡散して表面を硬化させるガス軟窒化処理を行った鋳鉄からなり、シュー13を案内する滑面26aを有する斜板本体26と、この斜板本体26の長手方向に垂直な幅方向両端部に設けられる一対の摺動押当部29、30とを備えている。斜板本体26の中心には回転軸5が挿通される挿通孔27が設けられている。摺動押当部29、30の斜板支持台4の凹面21、22との対向面は、円弧状の平滑な凸面となっており、幅方向の中央で摺動方向に油膜保持用の溝部33、34が凹設されている。
【0020】
前記した斜板式ピストンポンプ・モータ1の動作は、図1に示すように、回転軸5が回転駆動されると、回転軸5と共にシリンダブロック9が回転し、下方に移動するピストン10は斜板12に案内されてピストン室9aから引き出され、ピストン室9a内に作動油が吸入される一方、上方に移動するピストン10は斜板12に案内されてピストン室9aに押し込まれ、ピストン室9a内の作動油が吐出される。その際、斜板12の凸面31、32を潤滑油を介して斜板支持台4の凹面21、22に沿って摺動させて斜板12の傾転角度αを調節することによって、ピストン10のストローク量が変更され、吐出量が調節可能となっている。
【0021】
以上の構成とすれば、レーザ光を利用して縞状に設けられた焼入れ部21a、22aが組織変態による膨張で凸状となることで、非焼入れ部21b、22bとの間で凹凸を形成して摺動特性が向上し、耐焼付き性が高められる。その際、焼入れ部21a、22aは摺動方向に直交する方向の縞状に形成されているので、摺動時の斜板12の凸面31、32には焼入れ部21a、22aと非焼入れ部21b、22bとが交互に入れ替りながら接することとなり、斜板12と斜板支持台4との間の面圧が効果的に分散されてなじみ易くなり耐焼付き性が向上する。かつ、斜板支持台4の凹面21、22のみをレーザ光で焼入れすればよいので、小規模な設備で短時間にクリーンに摺動部分の耐摩耗性を高めることができる。また、硬化深さの浅い部分焼入れであるため、加熱変形を起こしにくく仕上げ加工を省くことができる。また、焼入れ表面はレーザ光の吸収率が一定であればよいので、ガス軟窒化の場合のように部品表面の清浄度にあまり気を使う必要もなくなる。したがって、ピストンポンプ・モータ1の生産ラインにのせてインライン処理を行うことが可能となり、生産性を大幅に向上させながらも斜板支持台4の耐焼付き性および耐摩耗性を高めることができる。
【0022】
なお、本実施形態は回転軸5の回転駆動力が入力となってピストン10による作動油の吸入/吐出が出力となる斜板式ピストンポンプとして動作説明したが、圧油のシリンダ室9aへの流入/流出が入力となって回転軸5の回転が出力となる斜板式ピストンモータとして用いてもよい。
【0023】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。図4は第2実施形態の斜板支持台40の平面図である。第1実施形態との相違点は、斜板支持台40の凹面43、44の焼入れ部43a、44aのパターン形状を変えている点である。
【0024】
図4に示すように、本実施形態の斜板支持台40は、プレート部17の挿通孔18の両側に一対の摺動受部41、42が突設されており、摺動受部41、42の円弧状の凹面43、44(摺動面)に、レーザ光がパターン照射されて焼入れ部43a、44aが形成されている。焼入れ部43a、44aは、摺動方向に直交する方向(幅方向)の縞状に形成されていると共に、凹面43、44の外周に沿って前記縞状部分を囲繞するように形成されている。このように焼入れ部43a、44aをパターン形成することで、非焼入れ部43b、44bは焼入れ部43a、44aにより囲まれて縞状に形成される。即ち、非焼入れ部43a、44aの各ラインは、互いに間隔をあけて摺動方向に直交する方向に形成されている。
【0025】
以上の構成とすると、斜板12の凸面31、32と斜板支持台40の凹面43、44との間の界面にある潤滑油が凹部となる非焼入れ部43b、44bに閉じ込められ、非焼入れ部43b、44bが油膜保持の効果を発揮し、油膜の破壊が抑制されて耐焼付け性が向上する。なお、他の構成は第1実施形態と同様であるため同一符号を付して説明を省略する。
【0026】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。図5(a)は第3実施形態の斜板50の平面図、(b)はC−C線断面図である。第1実施形態との相違点は、斜板50側にレーザ焼入れを行っている点である。
【0027】
図5(a)(b)に示すように、斜板50は、斜板本体26の挿通孔27の両側に設けた一対の摺動押当部51、52の円弧状の凸面53、54(摺動面)に、レーザ光が摺動方向に直交する方向(幅方向)の縞状に照射されて焼入れ部53a、54aが縞状に形成されている。こうすることで、焼入れ部53a、54aは熱膨張で凸状となり、非焼入れ部53b、54bとの間で凹凸が形成される。斜板支持台は、窒素を侵入拡散して表面を硬化させるガス軟窒化処理を行った鋳鉄であり、摺動受部の円弧状の凹面が平滑面である点以外は第1実施形態と同様である。
【0028】
以上の構成とすると、第1実施形態と同様に、生産性を大幅に向上させながらもピストンポンプ・モータの斜板50の耐焼付き性および耐摩耗性を高めることができる。なお、他の構成は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0029】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明する。図6は第4実施形態の斜板60の平面図である。第3実施形態との相違点は、斜板60の凸面63、64の焼入れ部63a、64aのパターン形状を変えている点である。
【0030】
図6に示すように、斜板60は、挿通孔27の両側に設けた一対の摺動押当部61、62の円弧状の凸面63、64(摺動面)に、レーザ光がパターン照射されて焼入れ部63a、64aが形成されている。焼入れ部63a、64aは、摺動方向に直交する方向(幅方向)の縞状に形成されていると共に、凸面63、64の外周に沿って前記縞状部分を囲繞するように形成されている。このように焼入れ部63a、64aをパターン形成することで、非焼入れ部63b、64bが焼入れ部63a、64aにより囲まれて縞状に形成される。即ち、非焼入れ部63b、64bの各ラインは、互いに間隔をあけて摺動方向に直交する方向に形成されている。
【0031】
以上の構成とすると、斜板60の凸面61、62と斜板支持台の凹面との間の界面にある潤滑油が凹部となる非焼入れ部63b、64bに閉じ込められ、非焼入れ部63b、64bが油膜保持の効果を発揮し、油膜の破壊が抑制されて耐焼付け性が向上する。なお、他の構成は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0032】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について説明する。図7は第5実施形態の斜板支持台70の平面図である。第1実施形態との相違点は、斜板支持台70の凹面73、74の焼入れ部73a、74aのパターン形状を変えている点である。
【0033】
図7に示すように、本実施形態の斜板支持台70は、プレート部17の挿通孔18の両側に一対の摺動受部71、72が突設されており、摺動受部71、72の円弧状の凹面73、74(摺動面)に、レーザ光がパターン照射されて焼入れ部73a、74aが形成されている。焼入れ部73a、74aは、摺動方向とそれに直交する方向に等間隔に配置された複数のスポット状(斑点状)に形成されている。
【0034】
以上の構成とすると、レーザ光を利用して斑点状に設けられた焼入れ部73a、74aが組織変態による膨張で凸状となることで、非焼入れ部73b、74bとの間で凹凸を形成して摺動特性が向上し、耐焼付き性が高められる。なお、他の構成は第1実施形態と同様であるため同一符号を付して説明を省略する。また、本実施形態は斜板支持台について例示しているが、斜板の摺動面に同様のパターン焼入れを形成してもよい。さらに、本実施形態では、焼入れ部73a、74aを円形状としているが、短い長円形状などにしてもよい。
【0035】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態について説明する。図8は第6実施形態の斜板支持台80の平面図である。第5実施形態との相違点は、斜板支持台80の凹面83、84の焼入れ部83a、84aのパターン形状を変えている点である。
【0036】
図8に示すように、本実施形態の斜板支持台80は、プレート部17の挿通孔18の両側に一対の摺動受部81、82が突設されており、摺動受部81、82の円弧状の凹面83、84(摺動面)に、レーザ光がパターン照射されて焼入れ部83a、84aが形成されている。焼入れ部83a、84aは、摺動方向とそれに直交する方向に等間隔に配置された複数のスポット状(斑点状)に形成されていると共に、凹面83、84の外周に沿って前記斑点状部分を囲繞するように線状の焼入れ部83d、84dが形成されている。
【0037】
以上の構成とすると、斜板支持台80の凹面83、84の界面にある潤滑油が凹部となる非焼入れ部83b、84bに閉じ込められ、非焼入れ部83b、84bが油膜保持の効果を発揮し、油膜の破壊が抑制されて耐焼付け性が向上する。なお、他の構成は第1実施形態と同様であるため同一符号を付して説明を省略する。また、本実施形態は斜板支持台について例示しているが、斜板の摺動面に同様なパターン焼入れを形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明に係るクレイドル型斜板式ピストンポンプ・モータは、生産性を大幅に向上させながら斜板支持台と斜板の摺動面の耐焼付き性および耐摩耗性を高めることができる優れた効果を有し、このような斜板式ピストンポンプや斜板式ピストンモータ等に適用するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態に係るクレイドル型斜板式ピストンポンプ・モータの断面図である。
【図2】(a)は図1に示すクレイドル型斜板式ピストンポンプ・モータの斜板支持台の平面図、(b)はA−A線断面図である。
【図3】(a)は図1に示すクレイドル型斜板式ピストンポンプ・モータの斜板の平面図、(b)はB−B線断面図である。
【図4】第2実施形態の斜板支持台の平面図である。
【図5】(a)は第3実施形態の斜板の平面図、(b)はC−C線断面図である。
【図6】第4実施形態の斜板の平面図である。
【図7】第5実施形態の斜板支持台の平面図である。
【図8】第6実施形態の斜板支持台の平面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 斜板式ピストンポンプ・モータ
2 ケーシング本体
3a 吐出路
4 斜板支持台
5 回転軸
9 シリンダブロック
10 ピストン
12 斜板
13 シュー
15 傾転調節用ピストン
19、20 摺動受部
21、22 凹面(摺動面)
21a、22a 焼入れ部
21b、22b 非焼入れ部
21c、22c 圧油供給口
29、30 摺動押当部
31、32 凸面(摺動面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と共に回転するシリンダブロックに複数のピストンが周方向に配設され、前記各ピストンの先端部が斜板の滑面に沿って案内されることで前記ピストンが往復運動され、前記斜板は回転軸に対して傾転可能なように斜板支持台に支承されている斜板式ピストンポンプ・モータであって、
前記斜板支持台あるいは前記斜板のいずれか一方の摺動面は、レーザ光で部分的に焼入れされた焼入れ部を有していることを特徴とする斜板式ピストンポンプ・モータ。
【請求項2】
前記焼入れ部は、縞状に形成されている請求項1に記載の斜板式ピストンポンプ・モータ。
【請求項3】
前記焼入れ部の各ラインは、前記斜板の前記斜板支持台に対する摺動方向に直交する方向に形成されている請求項2に記載の斜板式ピストンポンプ・モータ。
【請求項4】
前記焼入れ部は、複数のスポット状に形成されている請求項1に記載の斜板式ピストンポンプ・モータ。
【請求項5】
前記焼入れされた摺動面には、前記焼入れ部および非焼入れ部を囲繞するように更に焼入れ部が形成されている請求項1乃至4のいずれかに記載の斜板式ピストンポンプ・モータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−92707(P2007−92707A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286051(P2005−286051)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(592216188)株式会社カワサキプレシジョンマシナリ (67)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】