説明

斜板式ピストンポンプ

【課題】 回転シリンダの回転によって吐出側の作動液に圧力が立つことで回転シリンダを吸込側に押し付けようとするラジアル方向の押圧力が発生しても、これを打ち消す働きをさせることで、回転シリンダの回転軸を軸支えするベアリングにかかる負荷を軽減する構成とし作動信頼性を高めた斜板式ピストンポンプを提供する。
【解決手段】 前記回転シリンダ3の外周側面と向き合うハウジング2の内周側面のうち、吐出口側には吐出液用溝25が形成され、吸込液側には吸込液用溝27が形成されるとともに、前記吐出液用溝25と相対する位置にはカウンタ液用溝28が形成されており、前記吐出液用溝25からカウンタ液用溝28に作動液の一部が返送される構成の斜板式ピストンポンプとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板式ピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ポンプは、作動油に圧力を加え、油圧回路に作動油を送り出すものであり、モータやエンジンなどを動力源とした回転運動で油圧回路に作動油を吐出して油圧力を発生させる。油圧ポンプは、工作機械や建設機械、プレス機や射出成形機等の広範囲な用途で用いられている。
【0003】
斜板式ピストンポンプ(アキシャルピストンポンプ)は、斜板に連結されたピストンの往復運動で作動液(作動油)に圧力を与えて送液するポンプであり、一定の圧力のもとで流量ゼロから最大値までをポンプ自身が調整することができる。一般的な構造としては、ハウジング内に配された回転シリンダがモータなどによってその回転軸で回転すると、回転シリンダに内蔵された複数のピストンがハウジング内に配された斜板の傾斜角度に比例したストロークで回転軸と平行に往復運動し、これらピストンのストロークによって回転シリンダ内の油室が容積変化してポンプ作用が働く。斜板式ピストンポンプは、前記斜板の傾斜角度を調整することによって回転シリンダ1回転あたりの吐出量を調節することができることから、可変容量形ピストンポンプの一種でもある。
【0004】
斜板式ピストンポンプの構造は、その作動液の出入口(吸込口と吐出口)の配置によって、大きく2種類に分類される。すなわち、回転シリンダの後方にその回転軸と平行する位置で作動液の出入口(吸込口と吐出口)が隣り合って間隔をあけて配されており、弁板を介して回転シリンダの回転によって吸込みと吐き出しを行なう構造(第1の構造とする)と、回転シリンダの回転軸と交差する位置で作動液の出入口(吸込口と吐出口)が回転軸をはさんで配されており、直接的に回転シリンダの回転によって吸込みと吐き出しを行なう構造(第2の構造とする)とがある。市販されている斜板式ピストンポンプの大半は第1の構造が採用されている。
【0005】
従来、回転シリンダの回転軸と交差する位置で作動液の出入口(吸込口と吐出口)が回転軸をはさんで配されており、直接的に回転シリンダの回転によって吸込みと吐き出しを行なう(第2の)構造の斜板式ピストンポンプは、市場ではあまり知られていないが、例えば特許文献1が文献公知となっている。
【0006】
特許文献1には、第1ポンプ部と第2ポンプ部とを有し、これら第1ポンプ部及び第2ポンプ部の各々において、回転シリンダ内に複数のシリンダが形成されており、該シリンダのそれぞれの内部にはピストンが収容されており、前記回転シリンダに対し相対的に回転せしめられる斜板及び弁手段を有し、前記斜板のカム面は前記相対的回転の際に前記各シリンダに対応する部分と該シリンダとの間の距離が該シリンダの軸方向に関し変化する様に形成されており、前記複数のシリンダは前記回転シリンダ内において前記相対的回転の回転中心の周囲において該回転中心の方向を向いて配置されており、前記各ピストンを前記斜板のカム面の方へと付勢する付勢手段を有し、前記第1ポンプ部及び第2ポンプ部の前記相対的回転の回転中心は合致しており、該回転中心に沿い前記第1ポンプ部及び第2ポンプ部に共用される回転軸を有し、前記第1ポンプ部の弁手段及び前記第2ポンプ部の弁手段は共用されていて流体吸入経路及び流体吐出経路が形成されており、前記第1ポンプ部及び第2ポンプ部の各シリンダが前記相対的回転に際し前記流体吸入経路及び流体吐出経路と交互に連通せしめられる様に該流体吸入経路及び流体吐出経路が配置されており、前記第1ポンプ部の斜板及び前記第2ポンプ部の斜板のうちの少なくとも一方は前記相対的回転の回転中心の周りで前記弁手段に対し相対的に回動可能な様に取付けられており、該斜板の回動を操作する回動操作手段を有し、前記回転軸は前記弁手段及び前記第1ポンプ部の斜板及び前記第2ポンプ部の斜板に対し相対回転可能な様に取付けられており、前記第1ポンプ部の回転シリンダ及び前記第2ポンプ部の回転シリンダは前記回転軸に取付けられており、前記相対的回転の回転中心の周りで前記弁手段に対し相対的に回動可能な様に取付けられた斜板は前記回転軸に対し相対的回動可能とされている、ことを特徴とする、斜板式ピストンポンプ(その請求項6)が記載されている。また、流体吸入溝及び流体吐出溝をケーシング胴体部の内面にそれぞれ周方向に半周近くにわたって形成し、これらに対応する軸方向位置において、回転シリンダには各シリンダの第1及び第2のピストン間の領域と連通せる流体流通孔が形成されており、そして、上記流体吸入溝及び流体吐出溝には、ケーシング胴体部を貫通して、それぞれ流体吸入管及び流体吐出管が接続されている(その段落0043)との記述がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−254177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の回転シリンダの回転軸の中心線と交差する位置で作動液の出入口が形成されている構成の斜板式ピストンポンプでは、その回転シリンダの回転軸が偏心したり、その回転シリンダがねじれ方向で揺れて回転してハウジングの内壁に衝突したり、異常音が発生することがないように、ハウジング内に配された対のベアリングにて軸支えされている。それで、そのようなピストンポンプでは、回転シリンダの回転によって吐出側の作動液に圧力が立つと(つまり、吐出側の作動液が高圧になると)回転シリンダを吸込側に押し付けようとするラジアル方向の押圧力が発生し、回転シリンダを軸支えするベアリングに負荷がかかることが判明した。つまり、このラジアル方向の押圧力に耐えられるだけの堅牢で大きなベアリングを配さないと、高圧を発生させることが困難であることが判明した。また、これらベアリングにかかる過大な負荷によって回転ロスや製品寿命の低下等を招く虞があり、上記ラジアル方向の押圧力が回転シリンダを軸支えするベアリングに負荷としてかかることで、騒音や振動の原因となる。しかしながら、特許文献1には、上記ラジアル方向の押圧力が回転シリンダを軸支えするベアリングに負荷としてかかることに対する問題を解決する構成とはなっておらず、これらの問題点とその解決方法を示唆する記述もない。
【0009】
上述の問題点に鑑みて、本発明の目的は、回転シリンダの回転軸の中心線と交差する位置で作動液の出入口が形成されている構成の斜板式ピストンポンプにおいて、回転シリンダの回転によって吐出側の作動液に圧力が立つことで回転シリンダを吸込側に押し付けようとするラジアル方向の押圧力が発生しても、これを打ち消す働きをさせることで、回転シリンダを軸支えするベアリングにかかる負荷を軽減する構成とし作動信頼性を高めた斜板式ピストンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の斜板式ピストンポンプは、駆動手段によって回転シリンダがその回転軸で回転すると、回転シリンダに内蔵された複数のピストンがハウジング内に配された斜板の傾斜角度に比例したストロークで回転軸と平行に往復運動し、これらピストンの往復運動によってハウジングの吸込口から吸込まれた作動液が圧送されハウジングの吐出口から吐出される構成であって、前記回転シリンダの外周側面と近接して向き合う前記ハウジングの内周側面のうち、吐出口側には吐出液用溝が形成され、吸込口側には吸込液用溝が形成されるとともに、前記吐出液用溝と相対する位置にはカウンタ液用溝が形成されており、前記吐出液用溝からカウンタ液用溝に作動液の一部が返送される構成としたことを特徴とする。
【0011】
本発明では、前記回転シリンダの外周側面と近接して向き合う前記ハウジングの内周側面のうち、前記吐出液用溝と相対する位置にカウンタ液用溝を形成し、前記吐出液用溝からカウンタ液用溝に作動液の一部を返送する構成としている。本発明の構成によれば、回転シリンダの回転によって吐出側の作動液に圧力が立つことで回転シリンダを吸込側に押し付けようとするラジアル方向の押圧力が発生しても、前記吐出液用溝からカウンタ液用溝に作動液の一部が返送されることで、この返送された作動液が前記ラジアル方向の押圧力を打ち消す働きをし、回転シリンダを軸支えするベアリングにかかる負荷を大幅に軽減することが可能となる。本発明により、製品寿命が飛躍的に長くなり、騒音や振動も低減される。また、前記ベアリングの小型化を図ることができ、複数個の前記ベアリングで軸支えする際には、そのベアリングの個数を減らすこともできる。そしてまた、前記ベアリングには、高荷重に耐え得る円筒コロ軸受に比べてその負荷能力が小さいとされる一般的な深溝玉軸受を採用することができる。その深溝玉軸受は、静音性に優れているので、騒音を低減させる。
【0012】
前記吐出液用溝から前記カウンタ液用溝に作動液の一部を返送する配管としては、前記ハウジングの外側にチューブやパイプ等の管体が配されている構成や、前記ハウジングの内側に管路が形成されている構成が挙げられる。
【0013】
前記カウンタ液用溝と前記吸込液用溝との位置関係を具体的に示すと、前記カウンタ液用溝が前記吸込液用溝の片側に間隔をあけて形成されている構成、前記カウンタ液用溝が前記吸込液用溝の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成、前記吸込液用溝が前記カウンタ液用溝の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成が挙げられる。
【0014】
本発明は、前記カウンタ液用溝が前記吸込液用溝の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成、又は前記吸込液用溝が前記カウンタ液用溝の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成のいずれかとしたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、前記カウンタ液用溝が前記吸込液用溝の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成や前記吸込液用溝が前記カウンタ液用溝の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成とすることで、返送された作動液が前記ラジアル方向の押圧力をバランスよく打ち消すこととなる。前記吐出液用溝と前記吸込液用溝が同一円周上に配されており、前記カウンタ液用溝が前記吸込液用溝の両側に同じ間隔をあけてそれぞれ形成されている構成又は前記吸込液用溝が前記カウンタ液用溝の両側に同じ間隔をあけてそれぞれ形成されている構成とすることで、返送された作動液が前記ラジアル方向の押圧力を打ち消す際に前記回転シリンダの軸心が傾斜する虞がなく、より安定した回転をすることとなる。
【0016】
前記カウンタ液用溝に供給された作動液面の面圧や前記吐出液用溝に供給された作動液面の面圧と比較すると、前記吸込液用溝に供給された作動液面の面圧は、無視し得る程度に小さい。このため、前記カウンタ液用溝に供給された作動液面の面圧と前記吐出液用溝に供給された作動液面の面圧とが等しくなるように設定することで、返送された作動液が前記ラジアル方向の押圧力を完全に打ち消すこととなる。
【0017】
本発明は、前記カウンタ液用溝に供給された作動液面の面積と前記吐出液用溝に供給された作動液面の面積とが等しく設定されていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、前記カウンタ液用溝に供給された作動液面の面積(符号S2とする)と、前記吐出液用溝に供給された作動液面の面積(符号S1とする)とが等しく設定されていることで(S1=S2)、前記吐出液用溝の作動液からの押圧力(符号F1とする)を前記カウンタ液用溝の作動液からの押圧力(符号F2とする)にて完全に打ち消すことも可能となり(F1−F2=0)、前記回転シリンダを軸支えするベアリングにかかる負荷を極めて小さくすることができる。前記カウンタ液用溝と前記吸込液用溝の数は異ならせてもよいが、前記押圧力F1と前記押圧力F2とのバランスを取り易くする観点からは、前記カウンタ液用溝と前記吸込液用溝が同じ数だけ形成されることが好ましい。ここで、前記カウンタ液用溝に供給された作動液面の面積S2と、前記吐出液用溝に供給された作動液面の面積S1とが等しいとは、厳密に一致させなければならないということではなく、概ね一致していれば等しいとみなしている(S1/S2=0.9〜1.1)。面積S1及び面積S2は、大きくなるほど作動液の流量を大きくすることが容易となる。
【0019】
前記カウンタ液用溝、前記吸込液用溝及び前記吐出液用溝の深さについては、特に制限はないが、作動液が均一に満たされる程度の深さであれば、浅い溝でも支障ない。前記作動液の材質は、一般的な油圧ポンプに使用される鉱物系作動油のみならず、水‐グリコール系の作動液としてもよい。
【0020】
本発明は、前記吐出液用溝の周方向の長さと前記カウンタ液用溝の周方向の長さとが等しく設定されていることが好ましい。本発明によれば、前記吐出液用溝の周方向の長さ(符号L1とする)と前記カウンタ液用溝の周方向の長さ(符号L2とする)とが等しく設定されることで、前記吐出液用溝の作動液からの押圧力(符号F1とする)を前記カウンタ液用溝の作動液からの押圧力(符号F2とする)にてバランスよく打ち消すことができる。ここで、前記吐出液用溝の周方向の長さL1と前記カウンタ液用溝の周方向の長さL2とが等しく設定されるとは、厳密に一致させなければならないということではなく、概ね一致していれば等しく設定されたとみなしている(L1/L2=0.9〜1.1)。前記吐出液用溝の周方向の長さL1及び前記カウンタ液用溝の周方向の長さL2は、長くなるほどバランスがよくなるが、前記吐出液用溝と前記カウンタ液用溝とは所定間隔が必要であり、より具体的には、中心点(前記回転シリンダの回転軸の中心線と作動液の出入口の中心線との交点)を対称点として前記吐出液用溝の上下の端と前記カウンタ液用溝の上下の端とを結んだときの角度が110度から130度の範囲がより好ましく、最適値は約120度である。
【0021】
本発明は、前記回転シリンダ内には前記ピストンがそれぞれ対向して配されており、かつ、前記回転シリンダの外周側面と近接して向き合う前記ハウジングの内周側面の両側には前記回転シリンダを軸支えするためのベアリングが配されていることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、前記回転シリンダ内に前記ピストンがそれぞれ対向して配されている構成とすることで、作動液の単位時間当たりの送液量を2倍に増大させることができる。また、対向するピストン同士が互いに近づく方向又は互いに離れる方向に同期して動作するので、ピストン単体の動作によって生じる振動が互いに打ち消され、騒音等が低減される。そして、前記回転シリンダの外周側面と近接して向き合う前記ハウジングの内周側面の両側に前記回転シリンダを軸支えするためのベアリングが配されている構成とすることで、正確な位置で前記回転シリンダの外周側面と前記ハウジングの内周側面とを近接させて向き合わせるので、前記回転シリンダを高速回転させて高圧を発生させても安定した動作をさせることができる。前記回転シリンダを軸支えするためのベアリングの配置としては、前記斜板と斜板との間の位置が好ましい。前記ハウジングの全長を短くしてコンパクトな構成の斜板式ピストンポンプとすることができるからである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、回転シリンダの回転によって吐出側の作動液に圧力が立つことで回転シリンダを吸込側に押し付けようとするラジアル方向の押圧力が発生しても、前記吐出液用溝からカウンタ液用溝に作動液の一部を返送することで、この返送された作動液が前記ラジアル方向の押圧力を打ち消す働きをし、回転シリンダを軸支えするベアリングにかかる負荷を大幅に軽減することが可能となる。そして、本発明の配置構成によって、前記吐出液用溝の作動液からの押圧力と前記カウンタ液用溝の作動液からの押圧力との圧力バランスが取り易くなり、前記回転シリンダを高速回転させることで高圧を発生させた状態においても安定した動作をさせることができる。その結果、製品寿命が飛躍的に長くなり、騒音や振動も低減される構造の斜板式ピストンポンプが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態の斜板式ピストンポンプの外観を示す斜視図である。
【図2】上記実施形態の斜板式ピストンポンプを側面から見た断面図である。
【図3】上記実施形態の斜板式ピストンポンプを正面から見た断面図であり、(a)はQ1−Q1線断面図であり、(b)はQ2−Q2線断面図である。
【図4】上記実施形態のハウジングの内周側面を示す断面図であり、(a)は吐出液側の断面図であり、(b)は吸込液側の断面図である。
【図5】上記実施形態の回転シリンダ本体の外観を示す斜視図である。
【図6】上記実施形態の回転シリンダ本体の外観を示す斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の斜板式ピストンポンプを側面から見た断面図である。
【図8】上記実施形態の斜板式ピストンポンプを正面から見た断面図であり、(a)はQ2−Q2線断面図であり、(b)はQ1−Q1線断面図である。
【図9】上記実施形態のハウジングの内周側面を示す断面図であり、(a)は吐出液側の断面図であり、(b)は吸込液側の断面図である。
【図10】上記実施形態のハウジングの外観を示す斜視図である。
【図11】上記実施形態の回転シリンダ本体の外観を示す斜視図である。
【図12】本発明の実施形態の回転シリンダと斜板との関係を示す図である。
【図13】油圧システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
【0026】
(油圧システム)
図13は、一般的な油圧システムを例示する図である。モータ9が回ってポンプ1を動作させると、タンク120内の作動油100が吸込管221から吸込まれ、吸込口22から吸込まれた作動液100が圧送され吐出口21に接続された吐出管211から油圧シリンダ110内に吐出され、この油圧力によって油圧シリンダ110が前進する。この油圧システムは、工作機械や建設機械、プレス機や射出成形機等の広範囲な用途で適用される。作動液100の材質は、一般的な油圧ポンプに使用される鉱物系作動油のみならず、水‐グリコール系の作動液としてもよい。本発明の実施形態の斜板式ピストンポンプ1は、このような油圧システムに適用される。
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の斜板式ピストンポンプの外観を示す斜視図である。図2は、本実施形態の斜板式ピストンポンプを側面から見た断面図である。本実施形態の斜板式ピストンポンプ1は、駆動手段としての電動モータ9と、ハウジング2と、ハウジング2に内蔵された回転シリンダ3と、ハウジング2に内蔵された斜板55とを備える。モータ9の駆動軸91と回転シリンダ3の回転軸31とはカップリング92で連結されている(図2)。
【0028】
図6は、回転シリンダ3本体の外観を示す斜視図である。回転シリンダ3本体は、円柱形状を呈し、回転軸31の中心線であるP1−P1線を中心とした回転対称で、複数のピストン収納穴35(丸穴35)が等間隔でP1−P1線と平行に形成されており、回転シリンダ3本体の最も外周の側面300にはP1−P1線を中心とした回転対称で、作動液100(作動油100)の出入口33(丸穴33)が等間隔でP1−P1線に向かって形成されており、これらピストン収納穴35と作動油の出入口33とがそれぞれ一対一で挿通している(図2を参照)。
図12は、回転シリンダ3と斜板55との関係を示す図である。前記ピストン収納穴35には、それぞれピストン51が収納されており、ピストン51は中空となっており、スプリング52が内蔵されている。ピストン51の頭部は、球面状の自在継手になっており、スリッパ56(シュー56)が付いている。スプリング52はピストン51の頭部を押しており、その継手を介してピストン51の頭部が常に斜板55に接している。この構成によって、前記モータ9にて回転シリンダ3がその回転軸31で回転すると、回転シリンダ3に内蔵された複数のピストン51がハウジング2内に配された斜板55の傾斜角度に比例したストロークで回転軸の中心線P1−P1線と平行に往復運動し、これらピストン51の往復運動によってハウジング2の吸込口22から吸込まれた作動液100が圧送されハウジング2の吐出口21から吐出されることとなる。図2では、Q1−Q1線が、前記吸込口22と吐出口21の中心線と直交している。
【0029】
図5は、ハウジング2本体の外観を示す斜視図である。ハウジング2本体は、円筒形状を呈し、回転シリンダ3を内蔵するために中空となっており、前後に蓋体28,29が固定される。前記回転シリンダ3の外周側面300と向き合うハウジング2の内周側面200のうち、吐出口21の側には吐出液用溝25が形成されており、吸込口22の側には吸込液用溝27が形成されている。詳細は後述するが、図5に示す例では、カウンタ液用溝28,28が前記吸込液用溝27の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成となっている。
【0030】
本実施形態では、図2に示すように、前記P1−P1線とQ1−Q1線との交点を対称点として、ピストン51がそれぞれ対向して配されるとともに、斜板55が向き合って配されており、作動液100の単位時間当たりの送液量を2倍に増大させる構成となっている。そして、前記回転シリンダ3の外周側面300と近接して向き合うハウジング2の内周側面200の両側には、回転シリンダ3を軸支えするためのベアリング44,44が配されている構成となっている。本実施形態によれば、正確な位置で回転シリンダ3の外周側面300とハウジング2の内周側面200とを近接させて向き合わせるため、回転シリンダ3を高速回転させて高圧を発生させても安定した動作をさせることができる。回転シリンダ3を軸支えするためのベアリング44,44は、前記斜板55と斜板55との間の位置となっており、これは、ハウジング2の全長を短くしてコンパクトな構成とするためでもある。本実施形態では、ベアリング44,44には、市販の軸受が適用される。より具体的には、例えば、円筒コロ軸受とすることで、より高荷重に耐え得る構成となり、また、例えば、深溝玉軸受とすることで、騒音をより低減させる構成となる。なお、ベアリング44,44は、上記以外の市販の軸受としてもよいし、カスタム仕様の軸受とすることもできる。ここで、符号8はドレイン口であり、回転シリンダ3の外周側面300とハウジング2の内周側面200との隙間から僅かに漏れた作動液がドレイン管81を通じて外部に排出される(図1、図2)。
【0031】
図3は本実施形態の斜板式ピストンポンプ1を正面から見た断面図であり、図3(a)は図2のQ1−Q1線の位置から正面視した断面図であり、図3(b)は図2のQ2−Q2線の位置から正面視した断面図である。図4は本実施形態のハウジング2の内周側面を示す断面図であり、図4(a)は吐出液側の断面図であり、図4(b)は吸込液側の断面図である。吐出液用溝25と吸込液用溝27とは同一円周線上で向かい合って配されている。吐出液用溝25と吸込液用溝27のそれぞれの長手方向の中心線上にQ1−Q1線が位置しており、カウンタ液用溝28の長手方向の中心線上にQ2−Q2線が位置している。前記回転シリンダ3の外周側面300と向き合う前記ハウジング2の内周側面200のうち、吐出口21の側には吐出液用溝25が形成され、吸込口22の側には吸込液用溝27並びにカウンタ液溝28が形成されている。図3に示す例では、返送管700がハウジング2の外側に配されている。そして、吐出液用溝25と返送口7とが接続され、返送口7から返送管700を通じてカウンタ受口6へと接続され、カウンタ受口6とカウンタ液用溝28とが接続されている。ここで、前記配管700の配管経路に液圧ゲージを取り付ける構成とすれば、カウンタ液用溝28にかかる液圧を確認することが容易であり、さらには前記液圧ゲージに加えて液圧制御弁などの調整弁を取り付ける構成とすれば、カウンタ液用溝28にかかる液圧を微調整することも可能となる。
【0032】
本実施形態のように、回転シリンダ3の回転軸31の中心線P1−P1線と交差する位置で作動液100の出入口33が形成されている構成の斜板式ピストンポンプでは、回転シリンダ3の回転によって吐吐出液用溝25の側の作動液に圧力が立つと回転シリンダ3を吸込側に押し付けようとするラジアル方向の押圧力(符号F1とする)が発生し、回転シリンダ3を軸支えするベアリング44,44に負荷がかかる。このため、本実施形態では、回転シリンダ3の外周側面300と近接して向き合うハウジング2の内周側面200のうち、吐出液用溝25と相対する位置にカウンタ液用溝28を形成し、吐出液用溝25からカウンタ液用溝28に作動液100の一部を返送する構成としている。本実施形態によれば、回転シリンダ3の回転によって吐出液用溝25の側の作動液に圧力が立つことで回転シリンダ3を吸込側に押し付けようとするラジアル方向の押圧力F1が発生しても、吐出液用溝25からカウンタ液用溝28に作動液の一部が返送されることで、この返送された作動液が前記ラジアル方向の押圧力F1を打ち消す方向の押圧力(符号F2とする)として作用し(図3(a)(b)を参照)、回転シリンダ3を軸支えするベアリング44,44にかかる負荷を大幅に軽減する。
【0033】
図4に示す例では、前記吐出液用溝25の周方向の長さL1と前記カウンタ液用溝28の周方向の長さL2とが等しく設定されている。そして、符号L2は前記吸込液用溝27の周方向の長さでもあり、吸込液用溝27の周方向の長さとカウンタ液用溝28の周方向の長さが等しく設定されている。
【0034】
本実施形態によれば、吐出液用溝25の周方向の長さL1とカウンタ液用溝28の周方向の長さL2とが等しく設定されることで、吐出液用溝25の作動液からの押圧力F1をカウンタ液用溝28の作動液からの押圧力F2にてバランスよく打ち消すことができる。ここでは、長さL1と長さL2とが、概ね一致していれば等しく設定されたとみなしており、すなわち、L1/L2=0.9〜1.1に設定される。長さL1及び長さL2は、長くなるほどバランスがよくなるが、吐出液用溝25とカウンタ液用溝28とは所定間隔が必要であり、より具体的には、中心点、すなわち、図2に示すP1−P1線とQ1−Q1線との交点を対称点として、前記吐出液用溝25の上下の端と前記カウンタ液用溝28の上下の端とを結んだときの交点が前記対称点とほぼ一致し、そのときの角度θ1,θ2がそれぞれ110度から130度の範囲となることが好ましく、前記角度θ1,θ2がそれぞれ120度となることがより好ましい。
【0035】
前記カウンタ液用溝28に供給された作動液面の面圧や前記吐出液用溝25に供給された作動液面の面圧と比較すると、前記吸込液用溝27に供給された作動液面の面圧は、無視し得る程度に小さい。このため、前記カウンタ液用溝28に供給された作動液面の面圧と前記吐出液用溝25に供給された作動液面の面圧とが等しくなるように設定することで、返送された作動液が前記ラジアル方向の押圧力を完全に打ち消すこととなる。そこで、本実施形態では、前記カウンタ液用溝28,28に供給された作動液面の面積(符号S2とする)と前記吐出液用溝25に供給された作動液面の面積(符号S1とする)が等しく設定されている。
図4に示す例では、吐出液用溝25の作動液面の面積S1と、吐出液用溝25の作動液面の面積S1と、複数のカウンタ液用溝28の作動液面の面積S21,S22の総和面積S2とが等しく設定される(S1=S2=S21+S22)。
【0036】
本実施形態によれば、前記吐出液用溝25に供給された作動液面の面積S1と前記カウンタ液用溝25に供給された作動液面の面積S2とが等しく設定されていることで、吐出液用溝25の作動液からの押圧力F1をカウンタ液用溝28の作動液からの押圧力F2にて完全に打ち消すことも可能となり(F1−F2=0)、前記回転シリンダ3を軸支えするベアリング44,44にかかる負荷を極めて小さくすることができる。ここでは、面積S1と面積S2とが、概ね一致していれば等しく設定されたとみなしており、すなわち、S1/S2=0.9〜1.1に設定される。なお、カウンタ液用溝28、吸込液用溝27及び吐出液用溝28の深さについては、特に制限はないが、作動液100が均一に満たされる程度の深さであれば、浅い溝でも支障ない。
【0037】
(第2の実施の形態)
図7は、本実施形態の斜板式ピストンポンプを側面から見た断面図である。ここで、同一の符号は同じ機能を表しており、その説明を適宜省略する。
【0038】
図11は、回転シリンダ3本体の外観を示す斜視図である。回転シリンダ3本体は、円柱形状を呈し、回転軸31の中心線であるP1−P1線を中心とした回転対称で、複数のピストン収納穴35(丸穴35)が等間隔でP1−P1線と平行に形成されており、回転シリンダ3本体の最も外周の側面300にはP1−P1線を中心とした回転対称で、作動液100(作動油100)の出入口33(丸穴33)が等間隔でP1−P1線に向かって形成されており、かつ、作動油100の出入口33が2列並んで形成されており、これらピストン収納穴35と作動油の出入口33とがそれぞれ一対一で挿通している(図7を参照)。前記第1の実施形態と同様に、回転シリンダ3がその回転軸31で回転すると、回転シリンダ3に内蔵された複数のピストン51がハウジング2内に配された斜板55の傾斜角度に比例したストロークで回転軸の中心線P1−P1線と平行に往復運動し、これらピストン51の往復運動によってハウジング2の吸込口22から吸込まれた作動液100が圧送されハウジング2の吐出口21から吐出されることとなる。図7では、Q2−Q2線が、前記吸込口22と吐出口21の中心線と直交している。
【0039】
図10は、ハウジング2本体の外観を示す斜視図である。前記回転シリンダ3の外周側面300と向き合うハウジング2の内周側面200のうち、吐出口21の側には吐出液用溝25,25が形成されており、吸込口22の側には吸込液用溝27、27が形成されている。詳細は後述するが、図10に示す例では、吸込液用溝27,27がカウンタ液用溝28の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成となっている。
【0040】
本実施形態では、図7に示すように、前記P1−P1線とQ1−Q1線との交点を対称点として、ピストン51がそれぞれ対向して配されるとともに、斜板55が向き合って配されている構成となっている。
【0041】
図8は本実施形態の斜板式ピストンポンプ1を正面から見た断面図であり、図8(a)は図7のQ2−Q2線の位置から正面視した断面図であり、図8(b)は図7のQ1−Q1線の位置から正面視した断面図である。図9は本実施形態のハウジング2の内周側面を示す断面図であり、図9(a)は吐出液側の断面図であり、図9(b)は吸込液側の断面図である。2つの吐出液用溝25,25と吸込液用溝27,27とはそれぞれ同一円周線上で向かい合って配されている。吐出液用溝25と吸込液用溝27のそれぞれ長手方向の中心線の中間となる線上にQ1−Q1線が位置しており、カウンタ液用溝28の長手方向の中心線上にQ1−Q1線が位置している。
図8は返送路700がハウジング2の内側に形成されている例であり、吐出液用溝25と返送路700とカウンタ液用溝28とが接続されている。図8に示す例では、返送路700を形成するのに必要な数の直線状の穴をハウジング2に設け、ハウジング2側の開口部に栓790を取り付けて、返送路700を形成している。ここで、これらの栓790のうちいずれかの個所に液圧ゲージを取り付ける構成とすれば、カウンタ液用溝28にかかる液圧を確認することが容易であり、さらには前記液圧ゲージに加えて液圧制御弁などの調整弁を取り付ける構成とすれば、カウンタ液用溝28にかかる液圧を微調整することも可能となる。なお、ハウジング2の内側に返送路700を形成する構成は前記実施例に限定されず、適宜各種形状や各種方法で返送路700を形成することが可能である。
【0042】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、前記回転シリンダ3内にはピストン51がそれぞれ対向して配されている(2組が内蔵されている)としたが、1組のピストン51が内蔵されている構成とする場合もある。この構成とすることで、斜板式ピストンポンプ1をさらに小型化することができる。
例えば、上述の実施形態では、吐出液用溝25と吸込液用溝27とが同一円周線上で向かい合って配されているとしたが、回転シリンダ3の内部構造を工夫することで、吐出液用溝25とカウンタ液用溝28とが同一円周線上で向かい合って配されている構成とすることも可能となる。
さらには、既知の油圧モータと同様の方法にて、モータ9を備えずに、吸込口22から圧油を入れてその油圧エネルギーによって回転シリンダ3を回転させることで、油圧モータとして利用することも可能である。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1 斜板式ピストンポンプ、
2 ハウジング、
21 吐出口、
22 吸込口、
25 吐出液用溝、
27 吸込液用溝、
28 カウンタ液用溝、
3 回転シリンダ、
44,45 ベアリング、
51 ピストン、
52 スプリング、
55 斜板、
6,61,62 カウンタ受口、
7,71,72 返送口、
700,711,721 返送管(返送路)、
8 ドレイン口、
9 駆動手段(モータ)
100 作動液(作動油)、
110 油圧シリンダ、
120 タンク、
F1 吐出液用溝の作動液からの押圧力、
F2 カウンタ液用溝の作動液からの押圧力、
L1 吐出液用溝の周方向の長さ、
L2 カウンタ液用溝の周方向の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動手段によって回転シリンダがその回転軸で回転すると、回転シリンダに内蔵された複数のピストンがハウジング内に配された斜板の傾斜角度に比例したストロークで回転軸と平行に往復運動し、これらピストンの往復運動によってハウジングの吸込口から吸込まれた作動液が圧送されハウジングの吐出口から吐出される構成であって、前記回転シリンダの外周側面と近接して向き合う前記ハウジングの内周側面のうち、吐出口側には吐出液用溝が形成され、吸込口側には吸込液用溝が形成されるとともに、前記吐出液用溝と相対する位置にはカウンタ液用溝が形成されており、前記吐出液用溝からカウンタ液用溝に作動液の一部が返送される構成としたことを特徴とする斜板式ピストンポンプ。
【請求項2】
前記カウンタ液用溝が前記吸込液用溝の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成、又は前記吸込液用溝が前記カウンタ液用溝の両側に間隔をあけてそれぞれ形成されている構成のいずれかとしたことを特徴とする請求項1記載の斜板式ピストンポンプ。
【請求項3】
前記カウンタ液用溝に供給された作動液面の面積と前記吐出液用溝に供給された作動液面の面積とが等しくなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の斜板式ピストンポンプ。
【請求項4】
前記吐出液用溝の周方向の長さと前記カウンタ液用溝の周方向の長さとが等しく設定されていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の斜板式ピストンポンプ。
【請求項5】
前記回転シリンダ内には前記ピストンがそれぞれ対向して配されており、かつ、前記回転シリンダの外周側面と近接して向き合う前記ハウジングの内周側面の両側には前記回転シリンダを軸支えするためのベアリングが配されていることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか一項に記載の斜板式ピストンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−167653(P2012−167653A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31396(P2011−31396)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(301056270)株式会社ソディックプラステック (35)
【Fターム(参考)】