説明

斜板式可変容量型ピストンポンプ

【課題】斜板受け部材の凹曲面に対する斜板の凸曲面の摺動の潤滑性を向上させること、および、劣化した潤滑油の斜板受け部材上での滞留を防止することの両立を、大型化を抑えつつ実現できる斜板式可変容量型ピストンポンプを提供すること。
【解決手段】湾曲して凹曲面32aを形成する低摩擦性の斜板受け部材32と、ケーシング2内に充填された潤滑油を利用して斜板受け部材32と斜板11の凸曲面21との間に潤滑油の油膜を形成する油膜形成手段とを備え、油膜形成手段は、斜板受け部材32の凹曲面32aの周方向に交差する方向に斜板受け部材32を貫通した孔34と、クレイドル部材22に形成されてこのクレイドル部材22の外部から潤滑油を導入し斜板受け部材32の凹曲面32a側とは反対側から孔34に潤滑油を導く油路としての溝35,36とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半円形に膨らんだ凸曲面を有する斜板と、その凸曲面が摺動可能に配置される凹曲面を有するクレイドル部材とを備え、クレイドル部材には耐摩耗性かつ低摩擦性の部材であって凹曲面を覆う斜板受け部材が装着された斜板式可変容量型ピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
斜板式可変容量型ピストンポンプは、ケーシングと、このケーシングに対し回転可能に設けられたドライブシャフトと、ケーシング内でドライブシャフトと一体的に回転可能に結合して設けられ、そのドライブシャフトの周方向に並んだ複数のシリンダボアを有するシリンダブロックと、複数のシリンダボアのそれぞれに摺動可能に挿入されたピストンと、これら複数のピストンの頭部に設けられたシューと、ドライブシャフトに貫通された状態でシューと常時接して位置し、シリンダブロックの回転運動をシリンダボアに対するピストンの往復運動に変換する斜板と、ドライブシャフトの軸心に対する斜板の傾角を可変に保持してピストンの押し退け容積を調整可能にする可変容量機構部とを備える。
【0003】
可変容量機構部としてはクレイドル式が採用されたものがある。この可変容量機構部は、斜板におけるシューとの摺接面に対する反対側の面に形成されドライブシャフトの軸方向に半円形に膨らんだ凸曲面と、ドライブシャフトにおける軸方向に半円形に湾曲した凹曲面を形成し、この凹曲面により凸曲面を摺動可能に受け止める低摩擦性の斜板受け部材と、この斜板受部材が装着される凹部を有し、ドライブシャフトに貫通されて位置するクレイドル部材と、斜板受け部材と斜板の凸曲面との間に潤滑油の油膜を形成する油膜形成手段とを備える。その油膜形成手段としては特許文献1,2に開示されているものがある。
【0004】
特許文献1に開示されている油膜形成手段は、斜板受け部材としてのスラストブッシュに設けられた複数の小孔である。これらの小孔にはケーシング内に充填された潤滑油が入り込んで溜まる。そして、スラストブッシュに対する斜板の凸曲面の摺動に伴い潤滑油が小孔からスラストブッシュ上に広がり、この結果、油膜が形成される。しかし、小孔には潤滑油が長期間滞留しやすいので、小孔に潤滑油が長期間滞留して劣化し、その後も劣化した潤滑油が小孔に滞留し続けるという問題がある。
【0005】
特許文献2に開示されている油膜形成手段は、斜板受け部材としてのクレイドル受の斜板側の面に設けられた複数の油溝である。これらの油溝にはケーシング内に充填された潤滑油が入り込んで溜まる。そして、クレイドル受に対する斜板の凸曲面の摺動に伴い潤滑油が油溝からクレイドル受上に広がり、この結果、油膜が形成される。また、油溝の両端はクレイドル受の縁に位置するので、潤滑油は油溝の端を通じて油溝の内外を流通する。これによって潤滑油が油溝内に長期間滞留しない。つまり、特許文献2に開示されている油膜形成手段においては、特許文献1に開示されている油膜形成手段の場合のような問題、すなわち油溝に潤滑油が長期間滞留して劣化し、その後も劣化した潤滑油が滞留し続けるという問題は生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】登録実用新案2584135号公報
【特許文献2】登録実用新案2559510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、特許文献2に開示されている油膜形成手段は、クレイドル受(斜板受け部材)に設けられた複数の油溝である。これら複数の油溝が設けられたクレイドル受において、斜板の凸曲面からクレイドル受の凹曲面に与えられる接触面圧は、その凹曲面から油溝を除いた面に対して凸曲面から与えられる圧力である。その接触面圧が低いほど、斜板受け部材の凹曲面に対する斜板の凸曲面の摺動の潤滑性を向上することができるが、その接触面圧を低くするには、斜板の凸曲面の面積と、斜板受け部材の凹曲面の面積と、斜板受け部材が装着される凹部における内側の受圧面積とを広げる必要がある。このことは斜板式可変容量型ピストンポンプを大型化させることになるため、最近の斜板式可変容量型ピストンポンプに対する小型化の要望にそぐわず、好ましくない。
【0008】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、斜板受け部材の凹曲面に対する斜板の凸曲面の摺動の潤滑性を向上させること、および、劣化した潤滑油の斜板受け部材上での滞留を防止することの両立を、大型化を抑えつつ実現できる斜板式可変容量型ピストンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するために本発明に係る斜板式可変容量型ピストンポンプは次のように構成されている。
【0010】
〔1〕 本発明に係る斜板式可変容量型ピストンポンプは、ケーシングと、このケーシングに対し回転可能に設けられたドライブシャフトと、前記ケーシング内でドライブシャフトと一体的に回転可能に結合して設けられ、そのドライブシャフトの周方向に並んだ複数のシリンダボアを有するシリンダブロックと、前記複数のシリンダボアのそれぞれに摺動可能に挿入されたピストンと、これら複数のピストンの頭部に設けられたシューと、前記ドライブシャフトに貫通された状態で前記シューと常時接して位置し、前記シリンダブロックの回転運動を前記シリンダボアに対する前記ピストンの往復運動に変換する斜板と、前記ドライブシャフトの軸心に対する斜板の傾角を可変に保持して前記ピストンの押し退け容積を調整可能にする可変容量機構部とを備え、前記可変容量機構部は、前記斜板における前記シューとの摺接面に対する反対側の面に形成され前記ドライブシャフトの軸方向に半円形に膨らんだ凸曲面と、前記ドライブシャフトにおける軸方向に半円形に湾曲した凹曲面を形成し、この凹曲面により前記凸曲面を摺動可能に受け止める低摩擦性の斜板受け部材と、この斜板受部材が装着される凹部を有し、前記ドライブシャフトに貫通されて位置するクレイドル部材と、前記ケーシング内に充填された潤滑油を利用して前記斜板受け部材と前記斜板の前記凸曲面との間に油膜を形成する油膜形成手段とを備える斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、前記油膜形成手段は、前記凹曲面上で開口し前記斜板受け部材を貫通して設けられた孔と、前記クレイドル部材に形成されてこのクレイドル部材の外部から前記潤滑油を導入し、前記斜板受け部材における前記斜板との摺接面側とは反対側から前記孔に前記潤滑油を導く油路とを備えることを特徴とする。
【0011】
この「〔1〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプの摩擦低減手段において、油膜形成手段の油路は、ケーシング内に充填された潤滑油を導入し、斜板受け部材の斜板側とは反対側から孔に潤滑油を導く。これにより孔内に潤滑油が充填される。そして、斜板の凸曲面が斜板受け部材の凹曲面に対して摺動することに伴い、潤滑油が孔から出て斜板受け部材の凹曲面上に広がって油膜を形成する。この油膜によって斜板を斜板受け部材の凹曲面に沿って潤滑に揺動させることができる。このようにして「〔1〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプは、斜板受け部材の凹曲面と斜板の凸曲面との間の潤滑性を向上させることができる。
【0012】
また、「〔1〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、斜板受け部材の孔に充填された潤滑油が孔から出て斜板受け部材の凹曲面上に広がる際、孔には油路から新たに潤滑油が流入する。これによって、孔に潤滑油が長期間滞留して劣化し、その後も劣化した潤滑油が孔に滞留し続ける、という事態の発生を防止できる。つまり、劣化した潤滑油の斜板受け部材上での滞留を防止できる。
【0013】
また、「〔1〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、ケーシング内に充填された潤滑油を、クレイドル部材の油路を通じて斜板受け部材の孔に導くようになっている。つまり、斜板受け部材が孔によって潤滑油を留める機能を持ち、クレイドル部材が油路によって斜板受け部材の孔内の潤滑油を流通させる機能を持つ。これによって、特許文献2に開示されている油膜形成手段のように、斜板受け部材に潤滑油を留める機能とその潤滑油を流通させる機能との両方を持たせる油溝を採用する場合よりも、斜板式可変容量型ピストンポンプの大型化を抑えることができる。
【0014】
これらのことから「〔1〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプによれば、斜板受け部材の凹曲面に対する斜板の凸曲面の摺動の潤滑性を向上させること、および、劣化した潤滑油の斜板受け部材上での滞留を防止することの両立を、大型化を抑えつつ実現できる。
【0015】
〔2〕 本発明に係る斜板式可変容量型ピストンポンプは、「〔1〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、前記油路は前記凹部に形成された溝から成り、この溝両端は前記凹部の縁に設けられたことを特徴とする。
【0016】
この「〔2〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、クレイドル部材の凹部の縁に位置する溝の端から溝内に、ケーシング内に充填された潤滑油が導入される。その潤滑油は溝を通じて斜板受け部材の孔に導かれ、孔内に充填される。そして、斜板の凸曲面が斜板受け部材の凹曲面に対して摺動することに伴い、潤滑油が孔から出て斜板受け部材の凹曲面上に広がって油膜を形成する。この油膜によって斜板を斜板受け部材の凹曲面に沿って潤滑に揺動させることができる。
【0017】
また、「〔2〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、斜板受け部材の孔に充填された潤滑油が孔から出て斜板受け部材の凹曲面上に広がる際、孔には溝から新たに潤滑油が流入する。これによって、孔に潤滑油が長期間滞留して劣化し、その後も劣化した潤滑油が孔に滞留し続ける、という事態の発生を防止できる。つまり、劣化した潤滑油の斜板受け部材上での滞留を防止できる。
【0018】
また、「〔2〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、ケーシング内に充填された潤滑油を、クレイドル部材の凹部の溝を通じて斜板受け部材の孔に導くようになっている。つまり、斜板受け部材が孔によって潤滑油を留める機能を持ち、クレイドル部材が溝によって斜板受け部材の孔内の潤滑油を流通させる機能を持つ。溝を設けるためにクレイドル部材の寸法を大きくする必要はない。したがって、特許文献2に開示されている油膜形成手段のように、斜板受け部材に潤滑油を留める機能とその潤滑油を流通させる機能との両方を持たせる油溝を採用する場合よりも、斜板式可変容量型ピストンポンプの大型化を抑えることができる。
【0019】
〔3〕 本発明に係る斜板式可変容量型ピストンポンプは、「〔1〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、前記油路は、前記ドライブシャフトの軸方向に交差する方向に前記クレイドル部材を貫通する管路と、前記クレイドル部材に設けられ前記管路から延びて前記凹部の底部において前記斜板受け部材の前記孔に向かって開口する連絡通路とを備えることを特徴とする。
【0020】
この「〔3〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、管路の端から管路内に、ケーシング内に充填された潤滑油が導入される。その潤滑油は管路から連絡通路を通じて斜板受け部材の孔に導かれ、孔に充填される。そして、斜板の凸曲面が斜板受け部材の凹曲面に対して摺動することに伴い、潤滑油が孔から出て斜板受け部材の凹曲面上に広がって油膜を形成する。この油膜によって斜板を斜板受け部材の凹曲面に沿って潤滑に揺動させることができる。
【0021】
また、「〔3〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、斜板受け部材の孔に充填された潤滑油が孔から出て斜板受け部材の凹曲面上に広がる際、孔には管路から連絡通路を通じて新たに潤滑油が流入する。これによって、孔に潤滑油が長期間滞留して劣化し、その後も劣化した潤滑油が孔に滞留し続ける、という事態の発生を防止できる。つまり、劣化した潤滑油の斜板受け部材上での滞留を防止できる。
【0022】
また、「〔3〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、ケーシング内に充填された潤滑油を、クレイドル部材の管路および連絡通路を通じて斜板受け部材の孔に導くようになっている。つまり、斜板受け部材が孔によって潤滑油を留める機能を持ち、クレイドル部材が管路および連絡通路によって斜板受け部材の孔内の潤滑油を流通させる機能を持つ。管路および連絡通路を設けるためにクレイドル部材の寸法を大きくする必要はない。したがって、特許文献2に開示されている油膜形成手段のように、斜板受け部材に潤滑油を留める機能とその潤滑油を流通させる機能との両方を持たせる油溝を採用する場合よりも、斜板式可変容量型ピストンポンプの大型化を抑えることができる。
【0023】
〔4〕 本発明に係る斜板式可変容量型ピストンポンプは、「〔2〕」または「〔3〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、前記斜板受け部材は前記凹部側に突出した円筒部を有し、この円筒部は前記溝に嵌め込まれることによって前記凹部に対する前記斜板受け部材の移動を規制し、前記斜板受け部材の前記孔は、前記円筒部の内周面に囲まれて成る孔であることを特徴とする。
【0024】
この「〔4〕」に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、斜板受け部材の円筒部はバーリング加工等により斜板受け部材に設けることができるものである。つまり、斜板受け部材の孔と、クレイドル部材の凹部に対する斜板受け部材の移動を規制するための突起部とを、同じ加工工程で設けることができる。また、クレイドル部材の凹部に対する斜板受け部材の移動を規制するための部品が不要になるので、斜板式可変容量型ピストンポンプの部品点数を削減できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る斜板式可変容量型ピストンポンプによれば、前述のように、斜板受け部材の凹曲面に対する斜板の凸曲面の摺動の潤滑性を向上させること、および、劣化した潤滑油の斜板受け部材上での滞留を防止することの両立を、大型化を抑えつつ実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプの断面図である。
【図2】図1に示した斜板式可変容量型ピストンポンプに備えられる斜板受け部材とクレイドル部材の組品の分解斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプの一対のクレイドル部のうちの一方を示す斜視図である。
【図4】図3に示した斜板受け部材とクレイドル部材の組品の分解斜視図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る斜板受け部材およびクレイドル部材の断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る斜板受け部材およびクレイドル部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1〜第4実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプを説明する。
【0028】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプを、図1,図2を用いて説明する。
【0029】
図1に示すように、第1実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプ1は、ケーシング2と、このケーシング2に対し回転可能に設けられたドライブシャフト6と、ケーシング2内でドライブシャフト6と一体的に回転可能に結合して設けられ、そのドライブシャフト6の周方向に並んだ複数のポンプ用シリンダボア8を有するシリンダブロック7と、複数のシリンダブロック7のそれぞれに摺動可能に挿入されたピストン9と、これら複数のピストン9の頭部に設けられたシュー10と、ドライブシャフト6に貫通された状態でシュー10と常時接して位置し、シリンダブロック7の回転運動をポンプ用シリンダボア8に対するピストン9の往復運動に変換する斜板11と、ドライブシャフト6の軸心に対する斜板11の傾角を可変に保持してピストン9の押し退け容積を調整可能にする可変容量機構部20とを備える。
【0030】
ケーシング2は、シリンダブロック7を収容する凹状の空間4を形成しているケーシング本体3と、その凹状の空間4に蓋をする蓋部材5とを備える。ドライブシャフト6は、凹状の空間4の底部に設けられた転がり軸受12と、蓋部材5に設けられた転がり軸受13とによって、ケーシング2に対して回転可能に支持されている。凹状の空間4の底部には、円弧状に吸入ポート(図示していない)と排出ポート(図示していない)が形成された弁板16が配置され、ケーシング本体3に対して固定されている。
【0031】
シュー10はピストン9の頭部に揺動可能に設けられている。複数のピストン9のそれぞれに設けられたシュー10の全てに対し、円環状のリテーナ14が1個装着されている。このリテーナ14の内周面は球面状に形成されている。リテーナ14の内周側には、球面状の外周面を有する球面ブッシュ15が位置し、リテーナ14の内周面が球面ブッシュ15の外周面に摺動可能に接している。球面ブッシュ15はその内周側でドライブシャフト6に結合し、ドライブシャフト6と一体的に回転するようになっている。これらによって、斜板11の揺動に連動して、ピストン9の頭部でシュー10が揺動するようになっている。
【0032】
可変容量機構部20はクレイドル式であり、斜板11におけるシュー10との摺接面に対する反対側の面に形成されドライブシャフト6の軸方向に半円形に膨らんだ凸曲面21と、ドライブシャフト6の軸方向に半円形に湾曲して凹曲面32aを形成し、この凹曲面32aで凸曲面21を摺動可能に受け止める低摩擦性の斜板受け部材32と、この斜板受部材32が装着される凹部23を有し、ドライブシャフト6に貫通されて位置するクレイドル部材22と、ケーシング2内に充填された潤滑油を利用して斜板受け部材32と斜板11の凸曲面21との間に油膜を形成する油膜形成手段(詳細は後述する)とを備える。斜板受け部材32は、凹部23に対して移動しないようピン(図示省略)によってクレイドル部材22に取り付けられている。
【0033】
ケーシング2には、一対のサーボピストン28,29がシリンダブロック7を挟んだ位置に設けられている。一対のサーボピストン28,29はケーシング2に形成されたサーボ用シリンダボア30,31に摺動可能に挿入されている。サーボピストン28,29のそれぞれの頭部は斜板11に接している。サーボ用シリンダボア30からのサーボピストン28の突出量と、サーボ用シリンダボア31からのサーボピストン29の突出量とによって、ドライブシャフト6の軸心に対する斜板11の傾角が決定されるようになっている。
【0034】
油膜形成手段は、図2に示すように、凹曲面32a上で開口し、その凹曲32aの周方向に交差する方向に斜板受け部材32を貫通した複数の孔34と、クレイドル部材22に形成されてこのクレイドル部材22の外部から潤滑油を導入し、斜板受け部材32の凹曲面32a側とは反対側から孔34に潤滑油を導く油路としての溝35,36とから構成されている。
【0035】
複数の孔34は、凹曲面32aの中央部を含む範囲内で分散して位置する。これは、斜板11から斜板受け部材32に付与される接触面圧が凹曲面32aの中央部に集中するので、その中央部に重点的に油膜が形成されるようにするためである。
【0036】
溝35,36はクレイドル部材22の凹部23に形成されている。溝35は凹部23の周方向に延びて形成されている。凹部23の周方向の一方の縁24には溝35の一端が設けられ、凹部23の他方の縁25には溝35の他端が設けられている。溝36は凹部23の軸方向に延びて形成されている。凹部23の軸方向の一方の縁26には溝36の一端が設けられ、凹部23の他方の縁27には溝36の他端が設けられている。溝35,36は複数設けられ、凹部23上に格子状に位置する。
【0037】
このように構成された第1実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプ1においては、クレイドル部材22の凹部23の縁24,25に位置する溝35の端から溝35内に、また、クレイドル部材22の凹部23の縁26,27に位置する溝36の端から溝36内に、ケーシング2内に充填された潤滑油が導入される。その潤滑油は溝35,36を通じて斜板受け部材32の孔34に導かれ、孔34内に充填される。そして、斜板11の凸曲面21が斜板受け部材32に対して摺動することに伴い、潤滑油が孔34から出て斜板受け部材32の凹曲面32a上に広がって油膜を形成する。この油膜によって斜板11を斜板受け部材32の凹曲面32aに沿って潤滑に揺動させることができる。
【0038】
また、斜板受け部材32の孔34に充填された潤滑油が孔34から出て斜板受け部材32の凹曲面32a上に広がる際、孔34には溝35,36から新たに潤滑油が流入する。これによって、孔34に潤滑油が長期間滞留して劣化し、その後も劣化した潤滑油が孔34に滞留し続ける、という事態の発生を防止できる。つまり、劣化した潤滑油の斜板受け部材32上での滞留を防止できる。
【0039】
また、ケーシング2内に充填された潤滑油を、クレイドル部材22の凹部23の溝35,36を通じて斜板受け部材32の孔34に導くようになっている。つまり、斜板受け部材32が孔34によって潤滑油を留める機能を持ち、クレイドル部材22が溝35,36によって斜板受け部材32の孔34内の潤滑油を流通させる機能を持つ。これによって、特許文献2に開示されている油膜形成手段のように、斜板受け部材32に潤滑油を留める機能とその潤滑油を流通させる機能との両方を持たせる油溝を採用する場合よりも、斜板式可変容量型ピストンポンプの大型化を抑えることができる。
【0040】
第1実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプによれば、斜板受け部材32の凹曲面32aに対する斜板11の凸曲面21の摺動の潤滑性を向上させること、および、劣化した潤滑油の斜板受け部材32上での滞留を防止することの両立を、大型化を抑えつつ実現できる。
【0041】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプを、図3,図4を用いて説明する。これら図3,図4において図1,図2に示したものと同等ものについては、図1,図2に付した符号と同じ符号を付して説明を省略する。
【0042】
図3,図4に示すように、第2実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、斜板受け部材32はクレイドル部材22の凹部23側に突出した複数の円筒部40を有する。これらの円筒部40は溝35または溝36に嵌め込まれることによって、クレイドル部材22の凹部23に対する斜板受け部材32の移動を規制するものである。斜板受け部材32の孔34は、円筒部40の内周面に囲まれて成る孔である。クレイドル部材22の凹部23側への円筒部40の突出寸法は、溝35,36の深さ寸法よりも短く設定されて、溝35,36から孔34への潤滑油の流入が可能になっている。
【0043】
このように構成された第2実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、斜板受け部材32の円筒部40はバーリング加工等により斜板受け部材32に設けることができるものである。つまり、斜板受け部材32の孔34と、溝35,36に嵌め込まれクレイドル部材22の凹部23に対する斜板受け部材32の移動を規制する突起部とを、同じ加工工程で設けることができる。また、凹部23に対する斜板受け部材32の移動を規制するための部品(前述のピン)が不要になるので、斜板式可変容量型ピストンポンプの部品点数を削減できる。
【0044】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプを、図5を用いて説明する。この図5において図1,図2に示したものと同等ものについては、図1,図2に付した符号と同じ符号を付して説明を省略する。
【0045】
図5に示すように、第3実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプは、クレイドル部材22に形成されてこのクレイドル部材22の外部から潤滑油を導入し斜板受け部材32の凹曲面32a側とは反対側から孔34に潤滑油を導く油路として、管路50と連絡通路51とを備える。管路50は、ドライブシャフト6の軸方向に交差する方向にクレイドル部材22を貫通するものである。連絡通路51は、クレイドル部材22に設けられ管路50から延びて凹部23において斜板受け部材32の孔34に向かって開口するものである。
【0046】
このように構成された第3実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプにおいては、管路50の端から管路50内に、ケーシング2内に充填された潤滑油が導入される。その滑油は管路50から連絡通路51を通じて斜板受け部材32の孔34に導かれ、孔34に充填される。そして、斜板11の凸曲面21が斜板受け部材32の凹曲面32aに対して摺動することに伴い、潤滑油が孔34から出て斜板受け部材32の凹曲面32a上に広がって油膜を形成する。この油膜によって斜板11をクレイドル部材22の凹曲面23に沿って潤滑に揺動させることができる。
【0047】
また、斜板受け部材32の孔34に充填された潤滑油が孔34から出て斜板受け部材32の斜板11側の面上に広がる際、孔34には管路50から連絡通路51を通じて新たに潤滑油が流入する。これによって、孔34に潤滑油が長期間滞留して劣化し、その後も劣化した潤滑油が孔に滞留し続ける、という事態の発生を防止できる。つまり、劣化した潤滑油の斜板受け部材32上での滞留を防止できる。
【0048】
また、ケーシング2内に充填された潤滑油を、クレイドル部材22の管路50および連絡通路51を通じて斜板受け部材32の孔34に導くようになっている。つまり、斜板受け部材32が孔34によって潤滑油を留める機能を持ち、クレイドル部材22が管路50および連絡通路51によって斜板受け部材32の孔34内の潤滑油を流通させる機能を持つ。これによって、特許文献2に開示されている油膜形成手段のように、斜板受け部材32に潤滑油を留める機能とその潤滑油を流通させる機能との両方を持たせる油溝を採用する場合よりも、斜板式可変容量型ピストンポンプの大型化を抑えることができる。
【0049】
これらのことから、第3実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプによれば、クレイドル部材22の凹曲面23を覆う斜板受け部材32の凹曲面32aに対する斜板11の凸曲面21の摺動の潤滑性を向上させること、および、劣化した潤滑油の斜板受け部材32上での滞留を防止することの両立を、大型化を抑えつつ実現できる。
【0050】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプを、図6を用いて説明する。この図6において図5に示したものと同等ものについては、図5に付した符号と同じ符号を付して説明を省略する。
【0051】
図6に示すように、第4実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプは、第3実施形態における3つの孔34および連絡通路51の替わりに、その孔34よりも径寸法の大きな孔60および連絡通路62を1個を備える。また、斜板受け部材32はクレイドル部材22の凹部23側に突出した円筒部61を有する。この円筒部61は連絡通路62に嵌め込まれることによってクレイドル部材22の凹部23に対する斜板受け部材32の移動を規制するものである。斜板受け部材32の孔60は、円筒部61の内周面に囲まれて成る孔である。
【0052】
第4実施形態に係る斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、斜板受け部材32の円筒部61はバーリング加工等により斜板受け部材32に設けることができるものである。つまり、斜板受け部材32の孔60と、連絡通路62に嵌め込まれクレイドル部材22の凹部23に対する斜板受け部材32の移動を規制する突起部とを、同じ加工工程で設けることができる。また、クレイドル部材22の凹部23に対する斜板受け部材32の移動を規制するための部品(前述のピン)が不要になるので、斜板式可変容量型ピストンポンプの部品点数を削減できる。
【符号の説明】
【0053】
1 斜板式可変容量型ピストンポンプ
2 ケーシング
3 ケーシング本体
4 空間
5 蓋部材
6 ドライブシャフト
7 シリンダブロック
8 ポンプ用シリンダボア
9 ピストン
10 シュー
11 斜板
12,13 転がり軸受
14 リテーナ
15 球面ブッシュ
20 可変容量機構部
21 凸曲面
22 クレイドル部材
23 凹部
24〜27 縁
28,29 サーボピストン
30,31 サーボ用シリンダボア
32 斜板受け部材
32a 凹曲面
34 孔
35,36 溝
40 円筒部
50 管路
51 連絡通路
60 孔
61 円筒部
62 連絡通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、このケーシングに対し回転可能に設けられたドライブシャフトと、前記ケーシング内でドライブシャフトと一体的に回転可能に結合して設けられ、そのドライブシャフトの周方向に並んだ複数のシリンダボアを有するシリンダブロックと、前記複数のシリンダボアのそれぞれに摺動可能に挿入されたピストンと、これら複数のピストンの頭部に設けられたシューと、前記ドライブシャフトに貫通された状態で前記シューと常時接して位置し、前記シリンダブロックの回転運動を前記シリンダボアに対する前記ピストンの往復運動に変換する斜板と、前記ドライブシャフトの軸心に対する斜板の傾角を可変に保持して前記ピストンの押し退け容積を調整可能にする可変容量機構部とを備え、
前記可変容量機構部は、前記斜板における前記シューとの摺接面に対する反対側の面に形成され前記ドライブシャフトの軸方向に半円形に膨らんだ凸曲面と、前記ドライブシャフトにおける軸方向に半円形に湾曲した凹曲面を形成し、この凹曲面により前記凸曲面を摺動可能に受け止める低摩擦性の斜板受け部材と、この斜板受部材が装着される凹部を有し、前記ドライブシャフトに貫通されて位置するクレイドル部材と、前記ケーシング内に充填された潤滑油を利用して前記斜板受け部材と前記斜板の前記凸曲面との間に油膜を形成する油膜形成手段とを備える斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、
前記油膜形成手段は、前記凹曲面上で開口し前記斜板受け部材を貫通して設けられた孔と、前記クレイドル部材に形成されてこのクレイドル部材の外部から前記潤滑油を導入し、前記斜板受け部材における前記斜板との摺接面側とは反対側から前記孔に前記潤滑油を導く油路とを備える
ことを特徴とする斜板式可変容量型ピストンポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、
前記油路は前記凹部に形成された溝から成り、この溝両端は前記凹部の縁に設けられた
ことを特徴とする斜板式可変容量型ピストンポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、
前記油路は、前記ドライブシャフトの軸方向に交差する方向に前記クレイドル部材を貫通する管路と、前記クレイドル部材に設けられ前記管路から延びて前記凹部の底部において前記斜板受け部材の前記孔に向かって開口する連絡通路とを備える
ことを特徴とする斜板式可変容量型ピストンポンプ。
【請求項4】
請求項2または3に記載の斜板式可変容量型ピストンポンプにおいて、
前記斜板受け部材は前記凹部側に突出した円筒部を有し、この円筒部は前記溝に嵌め込まれることによって前記凹部に対する前記斜板受け部材の移動を規制し、
前記斜板受け部材の前記孔は、前記円筒部の内周面に囲まれて成る孔であることを特徴とする斜板式可変容量型ピストンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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