説明

断熱キャスタブル耐火物

【課題】 高強度を達成でき、かつ高強度の達成にあたって断熱性が犠牲となりにくい断熱キャスタブル耐火物を提供する。
【解決手段】 本発明の断熱キャスタブル耐火物は、粒径1mm以上の粗粒域に、CaO・6Alを主成分とした多孔質な断熱性骨材が該粗粒域100質量%に占める割合で65質量%以上配合され、粒径75μm未満の微粒域には、アルミナ質原料及びアルミナセメントが該微粒域100質量%に占める割合で合計65質量%以上配合され、かつ該微粒域の化学成分構成がCaO/Alの質量比=0.03〜0.13なる条件を満たす耐火性粉体組成物と、この耐火性粉体組成物100質量%に対する外掛けで30〜50質量%の量の施工水とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CaO・6Al(以下、CA6という。)を主成分とした多孔質な断熱性骨材(以下、CA6骨材という。)を含む断熱キャスタブル耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼片加熱炉や均熱炉のスキッドパイプのように耐火性のみならず断熱性も要求される部位に、断熱キャスタブル耐火物が用いられている。断熱キャスタブル耐火物としては、セラミックファイバーを使用したものが主流であったが、1997年12月施行のEU法においてセラミックファイバーが発癌性物質に分類されたことに伴い、目下、セラミックファイバーレスの断熱キャスタブル耐火物の開発が進められている。
【0003】
非特許文献1及び2に示されるように、かかる状況の中、断熱キャスタブル耐火物にCA6骨材を用いることが検討されている。CA6骨材は、嵩比重が0.65〜0.7g/cm程度、内部の平均気孔径が3〜4μm程度であることから、セラミックファイバーに匹敵する高断熱性を達成でき、また主成分が融点約1830℃のCA6であるため高耐火性も達成できる。なお、非特許文献1及び2は、CA6骨材を用いた断熱キャスタブル耐火物の具体的な構成については開示していない。
【0004】
非特許文献3は、CA6骨材としてのアルマティス社製SLA−92、及びアルミナセメントとしてのアルマティス社製CA−25Rよりなる耐火性粉体組成物と、施工水とを含んでなる断熱キャスタブル耐火物を開示している(非特許文献3のTab.1の例16/1参照)。CA6骨材は、粒径3mm以上6mm未満、粒径1mm以上3mm未満、及び粒径1mm未満の各粒度を含むように粒度調整されている。
【0005】
特許文献1は、実施例として、CA6骨材としてのアルマティス社製SLA−92、及び水硬性アルミナよりなる耐火性粉体組成物と、この耐火性粉体組成物100質量%に対する外掛けで75質量%の量の施工水とを含んでなる断熱キャスタブル耐火物を開示している(特許文献1の表2及び表3の実施例1〜7参照)。CA6骨材は、粒径6mm以上10mm未満、粒径3mm以上6mm未満、粒径1mm以上3mm未満、及び粒径1mm未満の各粒度を含むように粒度調整されている。
【0006】
特許文献1はまた、好ましくない比較例として、CA6骨材としてのアルマティス社製SLA−92を65質量%、水硬性アルミナを17.5質量%、及びアルミナセメントを17.5質量%よりなる耐火性粉体組成物と、この耐火性粉体組成物100質量%に対する外掛けで75質量%の量の施工水とを含んでなる断熱キャスタブル耐火物を開示している(特許文献1の表2の比較例4参照)。CA6骨材の粒度構成は、上記実施例の場合と同じである。
【非特許文献1】坂本ら、「微細多孔質骨材を用いた高耐火性断熱キャスタブル」、セラミックデータブック2002、Vol.30、p153〜155
【非特許文献2】八尋ら、「湿式吹付け施工用断熱キャスタブル耐火物」、耐火物、59〔8〕、2007年、p424〜429
【非特許文献3】van Garsel,et al、「Long Term High Temperature Stability of Microporous Calcium Hexaluminate Based Insulating Materials」、UNITECR'99、p181〜186
【特許文献1】特開2002−179471号公報(表2参照)
【特許文献2】特開平10−194849号公報(段落0003参照)
【特許文献3】特公平7−35308号公報(第2頁右欄第1〜4行参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
断熱キャスタブル耐火物に対しても、他の不定形耐火物と同様、施工後に充分な強度を有することが求められる。強度が不充分であると、断熱キャスタブル耐火物の施工体に剥離や崩壊が生じやすくなる。
【0008】
本願発明者らは鋭意研究の結果、粒径1mm以上の粗粒域にCA6骨材を配合する条件下で、マトリックスにCA6が晶出されるようにすると、断熱キャスタブル耐火物の強度を飛躍的に改善しうることを見出した。このメカニズムは厳密には明らかでないが、粗粒域のCA6骨材の周囲に、同じCA6が晶出することで、CA6骨材とマトリックスとの組織の一体性ないし連続性が改善され、両者の結合力が高まることによると考えられる。
【0009】
特許文献2及び3に開示されるように、不定形耐火物の技術分野において、マトリックスにCA6を晶出させる技術自体は公知である。しかし、その目的はCA6の晶出に伴う残存膨張性を付与するためであり、かかる目的は粗粒域の構成とは無関係に、マトリックスにCA6が晶出することで達成される。粗粒域を構成する粒子(以下、粗粒という。)とマトリックスとの結合力を高めるために、粗粒にCA6骨材を用いる条件下で、マトリックスにもCA6を晶出させるという技術思想は知られていない。
【0010】
非特許文献3の断熱キャスタブル耐火物は、粗粒域にCA6骨材を配合しているが、マトリックスとなる粒径75μm未満の微粒域がCA6骨材及びアルミナセメントよりなるため、粗粒とマトリックスとの結合力を高めることができない。即ち、微粉として微粒域に配合されたCA6骨材は、粗粒とマトリックスとの結合力の向上に寄与しにくい。CA6骨材とアルミナセメントとから、新たなCA6が晶出しうるが、非特許文献3のように、微粒域がCA6骨材及びアルミナセメントよりなる場合は、組織中のCaOとAlとの濃度差が小さいためか、上記新たなCA6も殆ど晶出されず、粗粒とマトリックスとの結合力を高めることができない。
【0011】
特許文献1の実施例による断熱キャスタブル耐火物は、粗粒域にCA6骨材を配合しているが、アルミナセメントを含まないことが特徴であり、CaO源が存在しないため、マトリックスにCA6を晶出させることができない。このため、粗粒とマトリックスとの一体性ないし結合力を高めることができない。
【0012】
特許文献1の比較例による断熱キャスタブル耐火物は、粗粒域にCA6骨材を配合しており、微粒域にはアルミナセメント及び水硬性アルミナを配合している。この断熱キャスタブル耐火物では、マトリックスにCA6を晶出しうるが、施工水の添加量が75質量%と多いため、仮にマトリックスにCA6が晶出されたとしても、それによる強度改善の効果をいかんなく発揮できない。
【0013】
一般に、施工水の添加量を減らせば強度が高まることは自明であるが、断熱キャスタブル耐火物の技術分野においては、意図的に多量の施工水を用いることで施工体の気孔率を高め、これによって断熱性を確保しようという基本思想がある。このため、断熱キャスタブル耐火物においては、あえて断熱性を犠牲にして施工水の添加量を減じてみようという試みが行われ難い。
【0014】
本発明の目的は、高強度を達成でき、かつ高強度の達成にあたって断熱性が犠牲となりにくい断熱キャスタブル耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一観点によれば、粒径1mm以上の粗粒域に、CA6骨材が該粗粒域100質量%に占める割合で65質量%以上配合され、粒径75μm未満の微粒域には、アルミナ質原料及びアルミナセメントが該微粒域100質量%に占める割合で合計65質量%以上配合され、かつ該微粒域の化学成分構成がCaO/Alの質量比=0.03〜0.13なる条件を満たす耐火性粉体組成物と、この耐火性粉体組成物100質量%に対する外掛けで30〜50質量%の量の施工水とを含む断熱キャスタブル耐火物が提供される。
【発明の効果】
【0016】
断熱キャスタブル耐火物の加熱乾燥時又は使用時の温度下において、微粒域のアルミナセメントに由来するAl及びCaOと、同じく微粒域のアルミナ質原料に由来するAlとからマトリックスにCA6が晶出する。微粒域の殆どをアルミナ質原料及びアルミナセメントで構成し、かつそれら二者の質量比を0.03〜0.13としたことにより、多くのCA6を晶出できる。これにより、粗粒域の殆どをCA6骨材で構成したことと相まって高強度を達成できる。これは、粗粒のCA6骨材の周囲のマトリックスに、同じCA6が晶出することにより、粗粒とマトリックスとの組織の連続性が改善され、両者の結合力が高まるためと考えられる。
【0017】
CA6の結晶は針状に成長し、その針状の結晶間に気孔が生成されるため、断熱キャスタブル耐火物の気孔率が向上する。このため、施工水の添加量を30〜50質量%に制限したにも関らず、断熱性が犠牲となりにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明する。断熱キャスタブル耐火物は、耐火性粉体組成物と施工水とを含んで構成される。
【0019】
耐火性粉体組成物は、粒径1mm以上の粗粒域と、粒径75μm以上1mm未満の中粒域と、粒径75μm未満の微粒域とを有する。本明細書において、粒子の粒径がd以上とは、その粒子がJIS‐Z8801に規定する目開きdの標準篩上に残ることを意味し、粒子の粒径がd未満とは、その粒子が同篩を通過することを意味する。
【0020】
粗粒域及び中粒域は、各々65質量%以上、好ましくは95質量%以上が、CA6骨材で構成される。CA6骨材は、嵩比重が0.65〜0.7g/cm程度、内部の平均気孔径が10μm以下、具体的には3〜4μm程度、見かけ気孔率が60質量%以上、具体的には75%程度であることから、セラミックファイバーに匹敵する高断熱性を達成でき、また主成分が融点約1830℃のCA6であるため高耐火性も達成できる。
【0021】
なお、粗粒域及び中粒域には、CA6骨材の他にも、例えば、中空アルミナ、マグネシアクリンカー、シャモット、バーミキュライト、パーライト、軽石、断熱れんが屑、カイヤナイト等のシリマナイト族鉱物、ムライトといった慣用の材料を配合してもよい。
【0022】
但し、断熱キャスタブル耐火物の過焼結及び耐火性の低下を防止し、かつ耐スケール性の低下を防止するためには、耐火性粉体組成物に占めるSiO含有量は0.5質量%未満であることが好ましい。このため、粗粒域及び中粒域は、そのすべてがCA6骨材よりなることが最も好ましい。
【0023】
微粒域は、粗粒域及び中粒域を構成する粗い粒子間の隙間を埋めて、粗い粒子同士を結合させるマトリックスを構成するもので、その65質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上が、アルミナ質原料及びアルミナセメントによって構成される。
【0024】
アルミナ質原料としては、例えば、仮焼アルミナ、電融アルミナ、焼結アルミナ、水硬性アルミナ、ボーキサイト、ダイアスポア等が挙げられる。
【0025】
アルミナセメントとしては、特に限定されないが、CaO含有量が少ないものほど耐火性を向上できるため好ましい。具体的には、CaO含有量が26質量%未満の低CaOセメントが好ましい。また、アルミナセメントの配合量は、耐火性粉体組成物100質量%に占める割合で、35質量%以下であることが好ましい。
【0026】
なお、微粒域には、アルミナ質原料及びアルミナセメント以外にも、例えば、CA6骨材、シリカフラワー、ムライト、チタニア、ジルコン、スピネルといった公知の材料を配合してもよい。但し、上述のように、耐火性粉体組成物に占めるSiO含有量を抑える観点から、シリカフラワー等のシリカ質原料は配合しないことが好ましい。
【0027】
断熱キャスタブル耐火物の加熱乾燥時の温度(例えば、1200℃程度)又は、加熱乾燥後の使用時の温度(1200〜1400℃)において、微粒域のアルミナセメントに由来するAl及びCaOと、同じく微粒域のアルミナ質原料に由来するAlとからマトリックスにCA6が晶出する。これにより、粗粒にCA6骨材を用いたことと相まって、高強度を達成できる。
【0028】
これは、粗粒のCA6骨材の周囲のマトリックスに、同じCA6が晶出することで、粗粒とマトリックスとの組織の連続性が改善され、両者の結合力が高まったためと考えられる。即ち、粗粒とマトリックスとの組織の連続性が改善されたことにより、例えば、両者の界面を亀裂が伸展すること等を防止できる。粗粒とマトリックスとの組織の連続性を改善する効果を高めるためには、マトリックスにできるだけ多くのCA6が晶出することが好ましい。
【0029】
図1は、CaO及びAlの2成分系状態図を示す。CA6におけるCaO/Alの質量比は理論値で約0.08である。そこで、微粒域におけるCaO/Al質量比を、0.08を中心として±0.05の幅をもたせた0.03〜0.13の範囲(図1の斜線で示す領域)とすると、この範囲を外れる場合よりも多くのCA6を生成できる。
【0030】
但し、CaO/Al質量比が0.08を超えると、CA6と共にCaO・2Al(以下、CA2という。)も生成される。CA2は、CA6よりも融点が低く、高温で液相となることに起因して、施工体の収縮又は亀裂を招くため、CA2の生成はできるだけ抑えた方がよい。このため、微粒域におけるCaO/Al質量比は、0.08以下であることが好ましい。
【0031】
微粒域を構成する粒子の中でも、粒径の小さなものほどCA6の生成反応に寄与しやすい。そこで、微粒域を、その65〜95質量%が粒径45μm未満のものよりなるような構成とすることにより、一層マトリックスにCA6が晶出しやすくなり、上述した強度改善の効果を高めることができる。
【0032】
なお、粒径75μm以上の粒度域にも、アルミナセメント又はアルミナ質原料を配合してもよいが、粒径75μm以上の粒子は、CA6の晶出に殆ど寄与しない。
【0033】
断熱キャスタブル耐火物は、耐火性粉体組成物とは別に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、増粘剤、界面活性剤、硬化時間調整剤、及び爆裂防止剤等が挙げられる。
【0034】
分散剤としては、例えば、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属ポリリン酸塩、ポリカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、及び芳香族スルホン酸塩等から選択される一種以上を用いることができる。
【0035】
界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ソーダ類脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリカルボン酸塩、及び洗剤等から選択される一種以上を用いることができる。
【0036】
増粘剤としては、例えば、山芋澱粉、タロ芋澱粉、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、サンザンガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、ウェランガム、アラビヤゴム、及びアルギン酸ソーダ等から選択される一種以上を用いることができる。
【0037】
硬化時間調整剤には、硬化促進剤と硬化遅延剤とがあり、硬化促進剤としては、例えば、消石灰、塩化カルシウム、アルミン酸ソーダ、及び炭酸リチウム等から選択される一種以上を用いることができ、硬化遅延剤としては、例えば、ホウ酸、クエン酸、炭酸ソーダ、及び砂糖等から選択される一種以上を用いることができる。
【0038】
爆裂防止剤としては、例えば、スサやビニロン繊維等の有機繊維、及び金属粉から選択される一種以上を用いることができる。
【0039】
施工水の添加量は、耐火性粉体組成物100質量%に対する外掛けで30〜50質量%に制限する。施工水の添加量が50質量%を超えると、断熱キャスタブル耐火物の施工体が多孔質になりすぎるため、CA6の晶出による強度改善の効果をいかんなく発揮できない。但し、施工水の添加量が30質量%未満であると、断熱キャスタブル耐火物の作業性及び断熱性が著しく低下するため好ましくない。両者の兼ね合いを考慮すると、施工水の添加量は30〜40質量%であることが好ましい。
【0040】
なお、マトリックスにおいてCA6の結晶は針状に成長し、この成長に伴ってCA6の針状結晶間に気孔が確保されるため、施工水の添加量を50質量%以下に抑えても断熱性が犠牲となりにくい。
【0041】
ところで、CA6骨材は、外部に通じる開放気孔を有するため、施工水を吸収する。CA6骨材に吸収された施工水は作業性(流動性)には寄与しないので、その分、所望の作業性を得るための施工水が増加する。そこで、CA6骨材を予め撥水処理しておくと、CA6骨材が施工水を吸収しにくくなるため、施工水の添加量を30〜50質量%に抑えても作業性が低下することを防止できる。
【0042】
作業性の低下を防止する効果を確実に得るためには、粗粒域を構成するCA6骨材100質量%のうちの50質量%以上を撥水処理しておくことが好ましい。また、中粒域にもCA6骨材を配合する場合は、その50質量%以上を撥水処理しておくことが好ましい。但し、微粒域を構成する粒子を撥水処理すると、かえって作業性が悪化する場合があるので、撥水処理は、粗粒域及び/又は中粒域に対して行うことが好ましい。
【0043】
ここで撥水処理とは、撥水性又は遮水性をもつ処理剤によって対象物を被覆又は含浸処理することをいう。処理剤としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エチレン樹脂、ウレタン系又はエポキシ系等の各種塗料、フェノール樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂又はポリエチレン等が挙げられる。なお、撥水処理の手法自体は、例えば特開2005−314193号公報等に開示されており、公知であるため詳細な説明は省略する。
【0044】
以上説明した断熱キャスタブル耐火物は、例えば、流し込み、ポンプ圧送、湿式吹付け、乾式吹付け、又はこて塗り等の方法により施工される。なお、吹付け施工の場合には、被施工面からのだれ落ち防止のために、例えば、ケイ酸塩、アルミン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の急結剤が使用される。
【実施例】
【0045】
表1に、実施例による断熱キャスタブル耐火物の構成と評価結果とを示す。
【0046】
表1で、粗粒域及び中粒域のCA6骨材には、アルマティス社製「SLA−92」を撥水処理したものを用いた。撥水処理は、シリコーン樹脂をエタノールに溶解したエマルジョンに、CA6骨材を浸漬し、引き上げた後110℃で24時間乾燥させることにより行った。また、アルミナセメントには、CaO含有量18質量%の電気化学工業社製「スーパーハイアルミナセメント」を用いた。
【0047】
実施例1〜6はいずれも、粗粒域のすべてが撥水処理されたCA6骨材で構成され、かつ微粒域の70質量%以上がアルミナ質原料(仮焼アルミナと電融アルミナ)及びアルミナセメントで構成されてなる。なお、粗粒域の最大粒径は6mmとした。微粒域は、その80〜90質量%が粒径45μm未満のものよりなる。
【0048】
表1で、評価は次の要領で行った。各例の断熱キャスタブル耐火物を40mm×40mm×160mmの形状に流し込み成形したものを110℃で24時間乾燥させて乾燥成形体を得、得られた乾燥成形体を1500℃で3時間焼成して焼成体を得た。この焼成体を測定対象として、圧縮強さ、見掛け気孔率、及び焼成前後での線変化率を測定した。見掛け気孔率は、断熱性を評価する指標であり、この値が大きいほど断熱性が良好であることを示す。
【0049】
【表1】

【0050】
図2は、表1に記載のCaO/Al質量比と圧縮強度との関係をプロットしたグラフである。CaO/Al質量比=0.08付近に、圧縮強度のピークが存在することが分かる。これは、図1を参照して説明したように、CaO/Al質量比=0.08のときにCA6の晶出量が最も多くなることと関係する。即ち、マトリックスにCA6が多く晶出すると、その分、粗粒域及び中粒域のCA6骨材とマトリックスとの組織の連続性を高めることができ、この結果、圧縮強度が改善されたものと考えられる。なお、図示しないが、曲げ強度についても、図2と同様の形状のグラフが得られた。
【0051】
図3は、表1に記載のCaO/Al質量比と見掛け気孔率との関係をプロットしたグラフである。CaO/Al質量比=0.08以上の領域においては、CaO/Al質量比が0.08に近づくほど見掛け気孔率が高まる。つまり、CA6の生成量が多くなるほど見掛け気孔率が高まる。これは、CA6の結晶が針状に成長することから、CA6の針状結晶間に気孔が確保されることによると考えられる。このように、CA6の生成に伴って見掛け気孔率が向上するため、高強度の達成にあたって断熱性が犠牲となりにくい。
【0052】
また、表1に示すように、実施例1〜5においては、線変化率がプラスの値となった。このことから、実施例1〜5の断熱キャスタブル耐火物では、収縮に起因する亀裂の発生を防止できる。実施例6については、線変化率がマイナスの値となったが、その絶対値が小さいため、実施例1〜5と同様、収縮に起因する亀裂の発生を防止できる。
【0053】
このように、マトリックスにCA6を晶出させる場合、断熱性の低下を抑えつつ高強度を達成できる効果のみならず、CA6の生成に伴う残存膨張性を施工体に付与できるという相乗効果も得ることができる。
【0054】
表2は、比較例による断熱キャスタブル耐火物の構成と評価結果とを示す。表2で、CA6骨材及びアルミナセメントには表1の実施例と同じものを用いた。
【0055】
【表2】

【0056】
比較例1は、表1の実施例3をベースとして、粗粒域のCA6骨材を中空アルミナに置き換えたものである。粗粒域が中空アルミナよりなるため、たとえマトリックスにCA6が晶出されたとしても、粗粒とマトリックスとの一体性ないし結合力を改善する効果を得ることができない。このため、比較例1は、実施例3に比べて圧縮強度が劣る。
【0057】
比較例2は、表1の実施例3をベースとして、微粒域のアルミナ質原料をCA6骨材に置き換えたものである。比較例2の圧縮強度が実施例3に劣ることから、粗粒とマトリックスとの結合力を高めるためには、マトリックス中のCA6は微粉として添加されたものではだめで、断熱キャスタブル耐火物の加熱乾燥時又は実使用時に晶出したものであることが必要であるといえる。
【0058】
即ち、微粉として微粒域に配合されたCA6骨材は、粗粒とマトリックスとの結合力の向上に寄与しにくい。CA6骨材とアルミナセメントとから新たなCA6が晶出しうるが、比較例2のように微粒域がCA6骨材及びアルミナセメントよりなる場合は、組織中のCaOとAlとの濃度差が小さいためか、上記新たなCA6も殆ど晶出されず、粗粒とマトリックスとの結合力を高めることができないと考えられる。
【0059】
比較例3は、微粒域に占めるアルミナ質原料及びアルミナセメントの合量が58質量%と本発明規定の65質量%を下回る。このため、粗粒との結合力を高めるのに充分な量のCA6(CA6骨材から生成される上記新たなCA6を含む)をマトリックスに晶出できず、圧縮強度に劣る。
【0060】
比較例4は、微粒域のCaO/Al質量比が0.01と本発明規定の下限値0.03を下回る。この場合、マトリックスにおけるCA6の晶出量が不充分となるため、強度改善の効果が得られず、圧縮強度に劣る。
【0061】
比較例5は、微粒域のCaO/Al質量比が0.2と本発明規定の上限値0.13を上回る。この場合、マトリックスにおいてはCA6よりもCA2が生成されやすくなるため、強度改善の効果を得ることができない。また、CA2は融点が低く高温で液相になることに起因して、比較例5は加熱時に収縮する特性を示す。即ち、線変化率がマイナスの値であり、かつその絶対値が大きい。このような場合、施工体に亀裂が発生する懸念がある。
【0062】
比較例6は、表1の実施例3をベースとして、施工水の添加量を本発明規定の上限値50質量%を上回る60質量%に増やしたものである。施工水の添加量が多すぎるため施工体が多孔質となりすぎ、CA6が生成されたとしても、それによる強度改善の効果がいかんなく発揮されない。即ち、圧縮強度が小さい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の断熱キャスタブル耐火物は、例えば、鋼片加熱炉や均熱炉のスキッドパイプ又はそれを支えるサポートパイプ等を被覆する断熱材に好ましく利用することができる。また、本発明の断熱キャスタブル耐火物は、例えば、高炉出銑樋の樋カバー、タンディッシュカバー、転炉や取鍋等の各種工業炉又は溶融金属容器の蓋の他、工業炉の内張りの背面材等としても広く利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】CaO及びAlの2成分系状態図である。
【図2】CaO/Al質量比と圧縮強さとの関係を示すグラフである。
【図3】CaO/Al質量比と見掛け気孔率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径1mm以上の粗粒域に、CaO・6Alを主成分とした多孔質な断熱性骨材が該粗粒域100質量%に占める割合で65質量%以上配合され、粒径75μm未満の微粒域には、アルミナ質原料及びアルミナセメントが該微粒域100質量%に占める割合で合計65質量%以上配合され、かつ該微粒域の化学成分構成がCaO/Alの質量比=0.03〜0.13なる条件を満たす耐火性粉体組成物と、この耐火性粉体組成物100質量%に対する外掛けで30〜50質量%の量の施工水とを含んでなる断熱キャスタブル耐火物。
【請求項2】
前記粗粒域を構成する前記断熱性骨材100質量%のうちの50質量%以上が、撥水処理されてなる請求項1に記載の断熱キャスタブル耐火物。
【請求項3】
粒径75μm以上1mm未満の中粒域にも、前記断熱性骨材が該中粒域100質量%に占める割合で65質量%以上配合されてなる請求項1又は2に記載の断熱キャスタブル耐火物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−203090(P2009−203090A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44519(P2008−44519)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】