説明

断熱ユニットの支持構造

【課題】傾斜屋根の断熱を容易にすると共に断熱効果の優れた断熱ユニットの支持構造を提供する。
【解決手段】断熱ユニットの支持構造として、傾斜屋根に複数敷設される屋根材と略同形状の基材部から上方へ突出する支持部を有し屋根の流れ方向及び左右方向に所定間隔で屋根上に敷設される支持屋根材12と、支持屋根材12の支持部に所定方向へ摺動可能に支持されると共に固定部を有した下固定金具14と、下固定金具14の摺動方向に対して直角方向に配置されると共に固定部に固定され、少なくとも上面に所定の締結具24を長手方向へスライド可能に保持する長尺状の支持桟16と、支持桟16に板状の断熱ユニット10を、屋根材の上面と断熱ユニット10の下面との間に所定量の隙間が形成されるように支持桟16に保持された締結具24を介して固定する上固定金具18とを具備させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜屋根に取付けられる緑化ユニットや遮熱ユニット等を含む断熱ユニットの支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、屋根上からの熱が建物へ伝わるのを抑制するための断熱ユニットとして、植物が育生可能なマット状の緑化基材を有した緑化ユニットが知られている。この断熱ユニット(緑化ユニット)を、建物等の傾斜した屋根に支持する構造としては、例えば、屋根材として瓦が敷設された屋根に金網を敷いた上で、緑化基材としてコケ培地マットを針金等で金網に固定したもの(特許文献1)、或いは、屋根材に所定間隔で留め具を取付けると共に、その留め具に断面形状がL字形状の植生マット固定具を所定間隔で固定し、植生マット固定具の間に緑化基材としての植生マットを敷設すると共に植生マットの上面側にワイヤを張設したもの(特許文献2)等が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−185104号公報
【特許文献2】特開2006−025689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の支持構造では、屋根の傾斜により雨等の水を屋根材に沿って流すことができるものの、屋根材と緑化基材とが略接触した状態となっているので、屋根材と緑化基材との間に水分が残り易くなると共に、屋根材と緑化基材との間で換気が行われ難くなり、緑化基材よりも下側の湿気が高くなる。そのため、屋根材として瓦やスレート等を用いた屋根では、瓦等の屋根材同士の隙間から湿気が屋根材と野地板との間に浸入してその間の雰囲気が高湿度の状態となり、温度変化等によって屋根材と野地板との間で結露が発生する。そして、湿気や発生した結露等によって、屋根材が傷んだり、野地板や垂木等が腐蝕したり、雨漏りの原因となったりしてしまう問題があった。
【0005】
また、緑化基材に根が延びる植物を育生した場合、植物の根が屋根材と野地板との間へ入り込んでしまい、上述と同様の問題が発生する他に、植物の根が屋根材や野地板を侵食して屋根材等の耐久性を低下させてしまう問題がある。
【0006】
更に、従来の支持構造では、屋根材の表面に接するように緑化基材を支持しているので、緑化基材から屋根材へ、或いは、屋根材から緑化基材へ熱が伝わり易く、断熱ユニットによる断熱効果が充分に得られない問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記の実情に鑑み、傾斜屋根の断熱を容易にすると共に断熱効果の優れた断熱ユニットの支持構造の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る断熱ユニットの支持構造は、「傾斜屋根に複数敷設される屋根材と略同形状の基材部、及び該基材部から上方へ突出する支持部を有し、屋根の流れ方向及び左右方向に所定間隔で屋根上に敷設される支持屋根材と、該支持屋根材の前記支持部に所定方向へ摺動可能に支持されると共に、固定部を有した下固定金具と、該下固定金具の摺動方向に対して直角方向に配置されると共に前記固定部に固定され、少なくとも上面に所定の締結具を長手方向へスライド可能に保持する長尺状の支持桟と、該支持桟に板状の断熱ユニットを、前記屋根材の上面と断熱ユニットの下面との間に所定量の隙間が形成されるように、前記支持桟に保持された前記締結具を介して固定する上固定金具とを具備する」ことを特徴とする。
【0009】
ここで、支持屋根材としては、「瓦に支持部を備えたもの(例えば、支持瓦)」、「スレートに支持部を備えたもの」、等が挙げられる。また、支持屋根材の支持部は、基材部に対して一体的に形成されたものであっても良いし、基材部とは別体に形成されたものであっても良い。
【0010】
また、下固定金具としては、「支持部に対する固定部分に長孔が形成され、その長孔により摺動可能とされたもの」、「複数の金具が組合されることで摺動可能とされたもの」、等が挙げられる。
【0011】
また、支持桟としては、「上面にのみ締結具をスライド保持可能な溝を有したもの」、「上面及び左右の側面に締結具をスライド保持可能な溝を有したもの」、等が挙げられる。なお、支持桟の断面外形形状は、矩形状が望ましいがその他の多角形状としても良い。
【0012】
更に、断熱ユニットとは、熱伝導率の低い部材により断熱するものだけでなく、植物を用いたものや、熱を吸収(例えば、気化熱として)したり反射させたりして遮熱するもの等を含むものであり、断熱ユニットとしては、「保水性を有する基材を備えたもの」、「タイルやレンガ等からなるもの」、「断熱パネルを有したもの」、「表面にアルミ層を有した遮熱パネルを備えたもの(遮熱ユニット)」、「マット状の緑化基材と、緑化基材を収容可能なトレーと、緑化基材の表面側に配置されトレーと協働して緑化基材を狭持する表面部材とを備えた緑化ユニット」とすることができ、トレー及び表面部材は、桝目が適宜大きさとされた網状の部材を用いることが望ましい。また、断熱ユニットとしての緑化ユニットに用いる植物としては、「苔類」、「草類」、「低花木類」、等が挙げられる。なお、植物としては、乾燥に強い苔類を用いることが望ましく、これにより、草類と比較して大きく成長しないので、草刈等を行う必要がないと共に、枯れ難く枯れても空気中の水分等により容易に再生するので、緑化ユニット(断熱ユニット)のメンテナンスを簡単なものとすることができる。
【0013】
ところで、断熱ユニットとして緑化ユニットを用いた場合は、上述した通りの問題が発生するが、断熱ユニットとして断熱機能や遮熱機能を有したパネルを備えたものとした場合でも、断熱ユニットと屋根材との間の隙間が狭いと、通気性が悪くなって湿気が高くなり、上述と同様の問題が発生することとなる。
【0014】
本発明によると、傾斜した屋根に対して断熱ユニットを、屋根材との間で所定量の隙間が形成されるように支持する構造としているので、断熱ユニットと屋根材との間で通気性を確保することができ、断熱ユニットよりも下側の湿気が高くなるのを防止することができる。従って、屋根材と野地板との間で結露が発生するのを防止することができ、湿気や結露等によって、屋根材が傷んだり、野地板や垂木等が腐蝕したり、雨漏りの原因となったりしてしまうのを防止することができる。
【0015】
また、断熱ユニットと屋根材との間に隙間を形成するようにしているので、断熱ユニットとしての緑化ユニットに根が延びる植物を用いても、その隙間を介して断熱ユニットから下側へ延びだした根を確認することができ、根が屋根材と野地板との間へ入り込まないように断熱ユニットをメンテナンスして、植物の根が屋根材や野地板を侵食して屋根材等の耐久性が低下するのを防止することができる。また、断熱ユニットとしての緑化ユニットと屋根材との間の隙間を介して断熱ユニットから下側へ延びだす根を確認することができるので、断熱ユニットにおける植物の育生状態を確認し易くすることができる。
【0016】
更に、断熱ユニットと屋根材との間に隙間を形成するようにしているので、断熱ユニットから屋根材へ、或いは、屋根材から断熱ユニットへ熱を伝わり難くすることができ、建物の小屋裏における夏場の温度上昇や、冬場の温度降下等を抑制することが可能となり、冷暖房に係るコストを低減させることができる。また、断熱ユニットと屋根材との間に隙間を確保しているので、断熱ユニットの裏面を確認することができ、メンテナンスの時期を確認することができる。
【0017】
また、断熱ユニットを、支持桟を介して屋根材と略同形状の支持屋根材により支持するようにしているので、既存の傾斜屋根に対して、部分的に屋根材を支持屋根材と交換すれば屋根上に支持桟を固定することができるようになり、簡単な作業で傾斜屋根へ断熱ユニットを設置することができると共に、断熱ユニットの設置に係るコストを低減させることができる。
【0018】
更に、支持屋根材の支持部に摺動可能に支持される下固定金具に対し、その摺動方向に対して直角方向に支持桟を配置固定するようにしているので、支持屋根材が真直ぐ屋根上に敷設されてなくても、下固定金具を摺動させて支持桟を真直ぐ固定することができる。
【0019】
また、支持桟の上面にボルト等の締結具を長手方向へスライド可能に保持させると共に、その締結具を介して上固定金具によって断熱ユニットを支持桟へ固定するようにしているので、締結具を適宜位置へスライドさせることで、断熱ユニットを最適な位置で固定することができる。
【0020】
なお、断熱ユニットと屋根材との間に隙間が形成されるように断熱ユニットを支持しているので、蓋然的に、断熱ユニットの上面を屋根材の上面から所定の高さとすることができる。従って、屋根上に太陽電池モジュールを設置すると共に、屋根上の残りの部分に断熱ユニットを設置した場合に、太陽電池モジュールと断熱ユニットの上面を略同じ高さとすることができ、屋根上の見栄えを良くすることができる。
【0021】
また、支持桟の配置する方向(延びる方向)としては、屋根の流れ方向としても良いし、屋根の左右方向としても良いし、支持桟を井桁状に組んでも良い。なお、支持桟を屋根の流れ方向へ延びるように配置した場合、屋根上に設置支持された断熱ユニットと屋根材との間が、上側(棟側)と下側(軒側)が開放された状態となり、より通気性を良くすることができると共に、建物の外側(下側)から断熱ユニットと屋根材との間の隙間が見易くなり、メンテナンス等の際の作業性を良くすることができる。
【0022】
更に、断熱ユニットを、支持桟を介して屋根上に支持するようにしているので、各断熱ユニットを夫々独立して支持することが可能となり、各断熱ユニットを支持桟に夫々独立して支持させることで、メンテナンス等の際に断熱ユニットを個別に脱着することができ、メンテナンス性を高めることができる。
【0023】
本発明に係る断熱ユニットの支持構造は、上記の構成に加えて、「前記屋根材の上面と断熱ユニットの下面との間の所定量の隙間は、10mm〜120mmの範囲内とされている」ことを特徴とする。
【0024】
ここで、屋根材の上面と断熱ユニットの下面との間の隙間を、10mm〜120mmの範囲内としているのは、10mmよりも隙間が小さいと、屋根材と断熱ユニットとの間の通気性が悪くなり、上述した湿気等の問題が発生するためである。また、120mmよりも隙間が大きいと、台風等により飛散の虞があるためである。
【0025】
本発明によると、屋根材の上面と断熱ユニットの下面との間の隙間を、10mm〜120mmの範囲内としているので、屋根材と断熱ユニットの間の通気性を確実に確保することができ、上述した作用効果を確実に奏することができる。
【0026】
本発明に係る断熱ユニットの支持構造は、上記の構成に加えて、「前記支持屋根材は、前記屋根材に対して荷重を伝達させないように屋根の構造部材に固定されている」ことを特徴とする。
【0027】
本発明によると、断熱ユニットを屋根上に支持する支持屋根材を、屋根材に対して荷重を伝達させないように屋根の構造部材に固定しているので、断熱ユニットからの荷重が他の屋根材にかかって、他の屋根材が破損するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
上記のように、本発明によると、傾斜屋根の断熱を容易にすると共に断熱効果の優れた断熱ユニットの支持構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態である断熱ユニットの支持構造について、図1乃至図6に基いて詳細に説明する。図1は、本発明の断熱ユニットの支持構造を瓦屋根に適用した状態を示す斜視図である。図2(a)は図1に示す断熱ユニットの支持構造を軒側から見た断面図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。図3(a)は図1に示す断熱ユニットの支持構造を側面から見た断面図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。図4は、図1の断熱ユニットの支持構造を分解して示す斜視図である。また、図5は、図1における支持屋根材と下固定金具との関係を示す斜視図であり、図6は図1における支持桟を示す斜視図である。
【0030】
本実施形態における断熱ユニットの支持構造は、図示するように、瓦からなる屋根材1が複数敷設された傾斜屋根に、緑化ユニットからなる断熱ユニット10を支持する構造であり、屋根の流れ方向及び左右方向に所定間隔で屋根上に敷設される支持屋根材12と、支持屋根材12に支持される下固定金具14と、下固定金具14に固定される支持桟16と、支持桟16に断熱ユニット10を固定する上固定金具18とを主に備えている。
【0031】
まず、本例における断熱ユニット10が設置される屋根の構造は、一般的な住宅等の瓦屋根の構造と同様であり、垂木の上面に固定された野地板2の上面に、流れ方向に対して所定間隔に桟木3が固定された上で、屋根材1の後端が桟木3に載置されると共に係止され、屋根材1の前端が軒側に配置された屋根材1上に載置されている。なお、図示は省略するが、野地板2の上面には防水シートが配置されている。
【0032】
本例の断熱ユニット10は、植物を育生可能な緑化ユニットとされており、マット状の緑化基材10aと、緑化基材10aを収容可能なトレー10bと、緑化基材10aの表面側に配置されトレー10bと協働して緑化基材10aを狭持する表面部材10cとを備えている。この緑化ユニット10における緑化基材10aは、所定の繊維を用いた不織布や、所定の繊維糸を編成した編成体等からなる植生マットに、植物として苔類(例えば、砂苔)を介装したものである。また、トレー10bは、図4に示すように、金属線材を網状に形成した上で、外周端を上方へ立上らせて緑化基材10aを収容できるような籠のように容器状に形成したものである。更に、表面部材10cは、トレー10bと同様の金属線材を網状に形成したものである。なお、図示は省略するが、トレー10bと緑化基材10a及び表面部材10cとは、適宜の固定具により固定されている。
【0033】
この断熱ユニット10は、植物として苔類を用いており、空気中の水分だけでも充分に成長することができると共に、肥料等の栄養分を必要としないので、水や肥料を定期的に供給する必要がない。また、他の植物のように大きく成長しないので、刈り込み等をする必要がない。なお、乾燥した場合は、緑色を呈さずに枯れたように見えるが、雨等により水分が供給されると、再び緑色となり死滅することがない。従って、本例の断熱ユニット10では、メンテナンスに係る手間を簡略化することができ、維持費を低くすることができる。また、苔類を用いることで、他の植物のように緑化基材10aに流れ易い土壌を用いる必要がないので、傾斜屋根に問題なく用いることができ、傾斜屋根を良好に緑化することができる。
【0034】
また、本例の支持屋根材12は、図5に拡大して示すように、屋根材1と略同形状の基材部12aと、基材部12aから上方へ突出する支持部12bとを有している。また、支持屋根材12は、支持部12bよりも前側で基材部12aの下面から下方へ突出する脚部12cと、基材部12aの上面に突出し貫通孔を有したボス部12dとを更に有している。この支持屋根材12は、図3に示すように、脚部12cが楔部材4及び補強板5を介して野地板2に載置されるようになっていると共に、支持屋根材12の前端が軒側の屋根材1の上面との間で隙間が形成されるようになっており、支持屋根材12の荷重が他の屋根材1にかからないようになっている。なお、楔部材4により、脚部12cとの設置高さを調節することができるようになっている。また、この支持屋根材12は、ボス部12dの貫通孔を介して固定ねじ6により野地板2に固定されている。
【0035】
本例の支持屋根材12は、基材部12aと支持部12bとが一体的に形成されており、支持部12bに、図5に示すように、下固定金具14を固定するための貫通孔12eが形成されている。なお、支持屋根材12の基材部12aと支持部12bを、別体としても良い。また、本例では、支持屋根材12としてJ形のものを示したが、F形やS形の形状のものとしても良い。更に、屋根材1や支持屋根材12としては、陶器瓦、いぶし瓦、セメント瓦、スレート、等としても良い。
【0036】
更に、本例の下固定金具14は、所定厚さの金属板を屈曲形成したものであり、図5に示すように、支持屋根材12の支持部12b上に載置されるベース部14aと、ベース部14aの前端及び後端から下方へ延出し左右方向へ延びた長孔14bを有した取付部14cと、ベース部14aの左右両端から上方へ延出し上下方向へ延びた長孔14dを有した固定部14eとを備えている。この下固定金具14は、ベース部14aを支持部12b上に載置した状態で、所定の固定ボルト20を、取付部14cの長孔14b及び支持部12bの貫通孔12eを挿通させた上で、固定ボルト20に固定ナット22を螺合することで支持屋根材12に取付固定することができるようになっている。また、下固定金具14は、取付部14cの長孔14bにより、支持屋根材12の支持部12bに対して左右方向へ摺動することができるようになっている。更に、下固定金具14は、固定部14eの間に支持桟16が挿入可能とされていると共に、固定部14eの長孔14dを介して支持桟16を固定することができるようになっている。
【0037】
また、本例の支持桟16は、断面の外形形状が略矩形状とされ所定の金属からなる長尺状の押出型材とされ、上面に長手方向へ延びるT溝16aと、左右の側面に長手方向へ延びる十字溝16bとを備えている。この支持桟16におけるT溝16aは、挿入された締結具24としての根角ボルトや六角ボルト等の頭部を回転不能な状態で保持すると共に、締結具24を長手方向へスライド可能に保持することができるようになっている。なお、本例では、締結具24として根角ボルトを用いている。また、支持桟16における十字溝16bは、挿入された六角ナット26を回転不能な状態で保持すると共に、長手方向へスライド可能に保持することができるようになっている。なお、本例では、図6に示すように、十字溝16b内へ挿入される六角ナット26には、把持片26aが備えられており、支持桟16を下固定金具14の固定部14eと固定する際に、把持片26aを操作することで固定部14eの長孔14dに対して六角ナット26の位置合せを簡単に行うことができるようになっている。
【0038】
更に、本例の上固定金具18は、略中央に貫通孔を有した平板状の金属部材とされている。なお、上固定金具18の端部には、緑化ユニット10におけるトレー10bを形成する金属線材を係止可能な係止爪18aを備えている。
【0039】
本例における断熱ユニット10の支持構造は、上述したような支持屋根材12の支持部12b及び支持桟16を用いて断熱ユニット10支持することで、屋根材1の上面と断熱ユニット10の下面との間に所定量の隙間が形成されるようになっており、この隙間の存在により、断熱ユニット10の上面からの熱を屋根側(建物側)へ伝え難くすると共に、屋根材1と断熱ユニット10との間の通気性を確保することができるようになっている。なお、本例では、屋根材1の上面と断熱ユニット10の下面との間の隙間が、10mm〜120mmの範囲内となるように、支持部12b及び支持桟16の高さが適宜選択されている。
【0040】
次に、傾斜屋根に対する断熱ユニット10の施工方法について説明する。まず、複数の屋根材1に対して支持屋根材12を、屋根の流れ方向及び左右方向に対して所定間隔で屋根に設置する。この際に、支持屋根材12の後端を桟木3に載置すると共に、脚部12cを、楔部材4等を介して野地板2に載置する。この際に、楔部材4の前後位置を調節することで、支持屋根材12の高さを調節して、支持屋根材12の前端が軒側の屋根材1と接触しないようにする。そして、支持屋根材12を載置したら、そのボス部12dの貫通孔を通して上側から固定ねじ6を野地板2へねじ込んで、支持屋根材12を野地板2に固定する。なお、既存の屋根に断熱ユニット10を設置する場合は、支持屋根材12を載置する位置の屋根材1を外して支持屋根材12と交換する。
【0041】
続いて、支持屋根材12の支持部12bに下固定金具14を、固定ボルト20及び固定ナット22を用いて支持させる。この際に、固定ナット22を緩めに螺合させ、下固定金具14が長孔14bの分だけ左右方向へ摺動できるようにしておく。支持屋根材12に下固定金具14を支持させたら、流れ方向に沿って配置された支持屋根材12に支持された下固定金具14のベース部14aに、支持桟16を載置する。なお、支持桟16を載置する際に、各支持屋根材12が流れ方向に対して真直ぐ敷設されていなくても、支持屋根材12に支持された下固定金具14が、長孔14bの分だけ左右方向へ摺動することができるので、下固定金具14を適宜位置へ摺動させて、各下固定金具14のベース部14a上に支持桟16を確実に載置させることができるようになっている。
【0042】
そして、最も下側(軒側)に位置した下固定金具14では、支持桟16における固定部14eの長孔14dと対応する位置に、支持桟16を貫通する貫通孔を穿設した上で、一方の固定部14eの外側から支持桟16を貫通して他方の固定部14eへ抜けるように長ボルト28(図4を参照)を挿通し、その長ボルト28にナット30を螺合して支持桟16を固定する。一方、その他の下固定金具14では、支持桟16の端部から十字溝16b内に挿入した六角ナット26を、固定部14eの長孔14dと対応するようにスライドさせ、その六角ナット26に対して固定部14eの外側から短ボルト32(図4を参照)を螺合して支持桟16を固定する。流れ方向に並んだ各下固定金具14に対して支持桟16を固定したら、各下固定金具14と支持屋根材12とを固定する固定ボルト20及び固定ナット22を締め付けて、支持屋根材12に対して下固定金具14を完全に固定する。
【0043】
このようにして、すべての支持桟16を屋根上に固定したら、次に、各支持桟16のT溝16aに、所定数の締結具24をスライド保持させる。そして、支持桟16の上面から締結具24のねじ部分が上方へ突出した状態で、支持桟16の上面に断熱ユニット10のトレー10bを載置する。そして、トレー10bの上側から、締結具24に対して上固定金具18の貫通孔を貫通させた上で、締結ナット34を螺合し、支持桟16上にトレー10bを固定する。支持桟16にトレー10bを固定したら、トレー10bに緑化基材10aを載置した上で表面部材10cを載置し、表面部材10c及び緑化基材10aを、図示しない固定具によりトレー10bに固定することで、屋根材1と断熱ユニット10との間に所定量の隙間が形成された状態で、傾斜屋根への断熱ユニット10の設置が完了する。
【0044】
このように、本実施形態における断熱ユニットの支持構造によると、傾斜した屋根に対して断熱ユニット10を、屋根材1との間で所定量の隙間が形成されるように支持する構造としているので、断熱ユニット10と屋根材1との間で通気性を確保することができ、断熱ユニット10よりも下側の湿気が高くなるのを防止することができる。従って、屋根材1と野地板2との間で結露が発生するのを防止することができ、湿気や結露等によって、屋根材1が傷んだり、野地板2や垂木等が腐蝕したり、雨漏りの原因となったりしてしまうのを防止することができる。
【0045】
また、断熱ユニット10と屋根材1との間に隙間を形成するようにしているので、断熱ユニット10から屋根材1へ、或いは、屋根材1から断熱ユニット10へ熱を伝わり難くすることができ、建物の小屋裏における夏場の温度上昇や、冬場の温度降下等を抑制することが可能となり、冷暖房に係るコストを低減させることができる。
【0046】
また、断熱ユニット10を、支持桟16を介して屋根材1と略同形状の支持屋根材12により支持するようにしているので、既存の傾斜屋根に対して、部分的に屋根材1を支持屋根材12と交換すれば屋根上に支持桟16を固定することができるようになり、簡単な作業で傾斜屋根へ断熱ユニット10を設置することができると共に、断熱ユニット10の設置に係るコストを低減させることができる。
【0047】
更に、支持屋根材12の支持部12bに摺動可能に支持される下固定金具14に対し、その摺動方向に対して直角方向に支持桟16を配置固定するようにしているので、支持屋根材12が真直ぐ屋根上に敷設されてなくても、下固定金具14を摺動させて支持桟16を真直ぐ固定することができる。
【0048】
また、支持桟16の上面にボルト等の締結具24を長手方向へスライド可能に保持させると共に、その締結具24を介して上固定金具18によって断熱ユニット10を支持桟16へ固定するようにしているので、締結具24を適宜位置へスライドさせることで、断熱ユニット10を最適な位置で固定することができる。
【0049】
更に、支持桟16を屋根の流れ方向へ延びるように配置しているので、屋根上に設置支持された断熱ユニット10と屋根材1との間が、上側(棟側)と下側(軒側)が開放された状態となり、通気性を良くすることができると共に、建物の外側(下側)から断熱ユニット10と屋根材1との間の隙間が見易くなり、メンテナンス等の際の作業性を良くすることができる。また、各断熱ユニット10を支持桟16に夫々独立して支持させるようにしているので、メンテナンス等の際に断熱ユニット10を個別に脱着することができ、メンテナンス性を高めることができる。更に、屋根の流れ方向へ延びる支持桟16のみで断熱ユニット10を支持するようにしているので、支持桟16を井桁状に組んで支持するようにした場合と比較して、部品点数を少なくすることができ、支持構造に係るコストを低減させることができる。
【0050】
また、屋根材1の上面と断熱ユニット10の下面との間の隙間を、10mm〜120mmの範囲内としているので、屋根材1と断熱ユニット10の間の通気性を確実に確保することができると共に台風等により飛散の虞を抑制することができ、上述した作用効果を確実に奏することができる。
【0051】
更に、断熱ユニット10を屋根上に支持する支持屋根材12を、他の屋根材1に対して荷重を伝達させないように屋根の野地板2に固定しているので、断熱ユニット10からの荷重が他の屋根材1にかかって、他の屋根材1が破損するのを防止することができる。
【0052】
また、断熱ユニット10としての緑化ユニットの植物として、乾燥に強い苔類を用いているので、草類と比較して大きく成長しないので、草刈等を行う必要がないと共に、枯れ難く枯れても空気中の水分等により容易に再生するので、断熱ユニット10のメンテナンスを簡単なものとすることができる。
【0053】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良および設計の変更が可能である。
【0054】
すなわち、本実施形態では、支持桟16の上面に断熱ユニット10におけるトレー10bの底面を載置して支持するものを示したが、例えば、図7に示すように、断熱ユニット10におけるトレー10bに、側壁上端から外方へ延出する延出部10dを形成し、その延出部10dを支持桟16の上面に載置して、上固定金具18によりトレー10bを固定するようにしても良い。なお、図7の例では、支持桟16の高さが、上述の例よりも高く構成されており、屋根材1の上面と断熱ユニット10の下面との間に所定量の隙間を形成することができるようになっている。また、図中、上述の支持構造と同様の構成については、同一の符号を付すと共に説明を省略する。この例においても、上述と同様の作用効果を奏することができる。
【0055】
また、本実施形態では、断熱ユニット10におけるトレー10bを、支持桟16と上固定金具18とで狭持するように固定するものを示したが、例えば、図8に示すような、上固定金具40を用いて断熱ユニット10を支持桟16に固定するようにしても良い。この図8の例の上固定金具40は、支持桟16の上面に載置されると共に、締結具24を介して支持桟16に固定される平板状のベース部40aと、ベース部40aの左右両端から下方へ垂下する垂下部40bと、垂下部40bの下端からベース部40aと略平行に外方へ延出し断熱ユニット10におけるトレー10bの下面を支持可能な支持部40cとを備えている。この上固定金具40は、図示は省略するが、支持部40において適宜の方法によりトレー10bを固定することができるようになっている。なお、図中、上述の支持構造と同様の構成については、同一の符号を付すと共に説明を省略する。この例においても、上述と同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
更に、本実施形態では、断熱ユニット10として苔類を用いた緑化ユニットを示したが、苔類以外の植物を用いても良く、上述と同様の作用効果を奏することができる。また、断熱ユニット10と屋根材1との間に隙間を形成しているので、断熱ユニット10に根が延びる植物を用いても、その隙間を介して断熱ユニット10から下側へ延びだした根を確認することができ、根が屋根材1と野地板2との間へ入り込まないように断熱ユニット10をメンテナンスして、植物の根が屋根材1や野地板2を侵食して屋根材1等の耐久性が低下するのを防止することができる。また、断熱ユニット10と屋根材1との間の隙間を介して断熱ユニット10から下側へ延びだす根を確認することができるので、断熱ユニット10における植物の育生状態を確認し易くすることができる。
【0057】
また、本実施形態では、屋根上に断熱ユニット10のみを支持するものを示したが、図9に示すように、支持桟16に太陽電池モジュール45を支持させると共に、太陽電池モジュール45の周りに断熱ユニット10を配置して支持桟16に支持させるようにしても良い。なお、この場合、断熱ユニット10と太陽電池モジュール45の上面が略同じ高さとなるように支持することが望ましく、これにより、上述した作用効果の他に、屋根上の見栄えを良くすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、支持桟16を流れ方向へ延びるように配置したものを示したが、図10及び図11に示すように、支持桟16を屋根の左右方向へ延びるように配置するようにしても良い。この例では、支持屋根材12の支持部12bに支持される下固定金具50が、支持部12bに固定されるコ字形状の下金具51と、下金具51に固定されると共に支持桟16を屋根の左右方向(横方向)へ固定可能な上金具52とで構成されている。これら下金具51と上金具52は、図示するように、ボルト53とナット54によって締結されている。この下固定金具50における上金具52は、図10(b)に示すように、矩形状のベース部52aと、ベース部52aの対向する二辺から上方へ立上り支持桟16の下面を載置可能とされた載置片52bと、載置片52bとは異なるベース部52aの対向する二辺から載置片52bよりも上方へ立上る支持片52cとを備えており、支持片52cには上下方向へ延びた長孔52dが形成されている。この下固定金具50は、上金具52の載置片52b上に支持桟16を載置すると共に、支持片52cの長孔52dを介して上述の下固定金具14と同様に六角ナット26及び短ボルトによって支持桟16を固定することができるようになっている。なお、図10及び図11中、上述の支持構造と同様の構成については、同一の符号を付すと共に説明を省略する。この例においても、上述と同様の作用効果を奏することができる。
【0059】
更に、本実施形態では、支持桟16を一方向のみに延びるように配置したものを示したが、図12に示すように、支持桟16として、屋根の流れ方向に配置される縦桟60と、屋根の左右方向へ配置される横桟61とで井桁状に組んだ上で、断熱ユニット10を支持するようにしても良く、これによっても上述と同様の作用効果を奏することができると共に、屋根上への断熱ユニット10取付強度をより高くすることができる。
【0060】
また、本実施形態では、屋根材1を支持屋根材12と交換することで断熱ユニット10を支持するようにしているが、屋根材1の形状や寸法等によっては支持屋根材12と交換することができない場合があり、その場合は、図13に示すように、野地板2に固定される支持金具70を用いて断熱ユニット10を支持するようにしても良い。なお、この例の下固定金具14は、取付部14cが一方のみに形成されたものである。また、図中、上述の支持構造と同様の構成については、同一の符号を付すと共に説明を省略する。更に、図中、符号71は、支持金具70の取付け高さを調整するためのスペーサである。この例においても、上述と同様の作用効果を奏することができる他に、より多様な屋根に断熱ユニット10を設置することができる。
【0061】
更に、本実施形態では、断熱ユニット10として緑化ユニットを用いたものを示したが、保水性を有する基材を備えた断熱ユニット、タイルやレンガ等を備えた断熱ユニット、多孔質部材等からなる断熱パネルを備えた断熱ユニット、アルミ膜等の反射シートを有した遮熱パネルを備えた断熱ユニット、等としても良く、上述と同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の断熱ユニットの支持構造を瓦屋根に適用した状態を示す斜視図である。
【図2】(a)は図1に示す断熱ユニットの支持構造を軒側から見た断面図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図3】(a)は図1に示す断熱ユニットの支持構造を側面から見た断面図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図4】図1の断熱ユニットの支持構造を分解して示す斜視図である。
【図5】図1における支持屋根材と下固定金具との関係を示す斜視図である。
【図6】図1における支持桟を示す斜視図である。
【図7】異なる実施形態の要部を軒側から見ると共に拡大して示す断面図である。
【図8】更に異なる実施形態の要部を軒側から見ると共に拡大して示す断面図である。
【図9】異なる実施形態を概略で示す分解斜視図である。
【図10】(a)は図1の例における支持桟を屋根の左右方向へ配置して側面から見た断面図であり、(b)は(a)における下固定金具の一部を示す斜視図である。
【図11】図10の支持構造を分解して示す斜視図である。
【図12】支持桟を井桁状に組んだ例を示す分解斜視図である。
【図13】野地板に支持金具を固定した例を側面から示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 屋根材
2 野地板
10 断熱ユニット
12 支持屋根材
12a 基材部
12b 支持部
12c 脚部
14 下固定金具
14b 長孔
14e 固定部
16 支持桟
16a T溝
16b 十字溝
18 上固定金具
24 締結具
34 締結ナット
40 上固定金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜屋根に複数敷設される屋根材と略同形状の基材部、及び該基材部から上方へ突出する支持部を有し、屋根の流れ方向及び左右方向に所定間隔で屋根上に敷設される支持屋根材と、
該支持屋根材の前記支持部に所定方向へ摺動可能に支持されると共に、固定部を有した下固定金具と、
該下固定金具の摺動方向に対して直角方向に配置されると共に前記固定部に固定され、少なくとも上面に所定の締結具を長手方向へスライド可能に保持する長尺状の支持桟と、
該支持桟に板状の断熱ユニットを、前記屋根材の上面と断熱ユニットの下面との間に所定量の隙間が形成されるように、前記支持桟に保持された前記締結具を介して固定する上固定金具と
を具備することを特徴とする断熱ユニットの支持構造。
【請求項2】
前記屋根材の上面と断熱ユニットの下面との間の所定量の隙間は、10mm〜80mmの範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の断熱ユニットの支持構造。
【請求項3】
前記支持屋根材は、前記屋根材に対して荷重を伝達させないように屋根の構造部材に固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の断熱ユニットの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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