説明

断熱性発泡紙製容器の製造方法

【課題】発泡樹脂層の外面に文字、図形等のデザインを印刷した場合であっても、発泡面全体が平滑で綺麗な発泡面を形成することができる断熱性発泡紙製容器の製造方法を提供する。
【解決手段】原紙の片面には高融点の熱可塑性合成樹脂層を、他方の面には外側に印刷層を有する低融点の熱可塑性合成樹脂層を設けた基材紙により、印刷層が外側となるように上下開口の筒状胴部材を成型し、前記胴部材に底部材を一体化して容器本体とし、容器本体を加熱して低融点の熱可塑性合成樹脂層を発泡させることにより容器外側面に断熱層を形成する断熱性発泡紙製容器の製造方法であり、前記印刷層が、前記低融点の熱可塑性合成樹脂層の表面に白インキを下地として印刷した後、当該白インキ層の表面の少なくとも一部に色インキを印刷することにより形成され、前記白インキ層の厚さを調整することにより、前記印刷層を有する合成樹脂層の発泡を調整し平滑な発泡面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器外側面に平滑な発泡断熱層を有する断熱性発泡紙製容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
容器外側面に発泡樹脂による断熱層を設けた紙製容器が、昨今、飲料や即席カップ麺の容器として使用されている。当該発泡断熱容器に関する先行技術としては、胴部を構成する原紙の外側面に直接印刷が施され、その外側を発泡樹脂により被覆したもの(特許文献1)、あるいは発泡樹脂の外面に印刷が施されたもの(特許文献2〜5)がある。
【0003】
しかしながら、特許文献1による発明は、容器胴部を構成する原紙の外側面に直接印刷が施され、その上に発泡樹脂層が形成されているため、発泡樹脂層が印刷面を被覆することとなり、印刷面が不明瞭で美観性に劣っていた。
【0004】
また、特許文献2は、容器口縁部下部やバーコード印刷部分等の特定の部位における合成樹脂の発泡を積極的に抑制するために、当該部位に特定の合成樹脂含有量を有するインキを使用して印刷することにより、当該印刷部分の発泡を抑制する技術を開示している。
【0005】
特許文献3は、容器本体外側面の合成樹脂層に印刷する印刷層の厚さを変化させることにより、合成樹脂層の発泡を制御し、凹凸状の装飾的外観を有する発泡面を形成する技術を開示しているが、印刷層の層厚の調整だけで熱可塑性合成樹脂の発泡を制御しているため、所望とする印刷デザインの色調、明暗、濃淡等が出ず、デザイン上の制約を受けてしまう問題がある。
【0006】
特許文献4および5は、容器本体外側面に印刷するインキとして、合成樹脂の発泡に同調するという特殊なインキを使用することにより、平滑な印刷発泡面を形成する技術を開示している。
【0007】
本出願人は、前記容器外側面に合成樹脂による発泡断熱層を設けた紙製容器において、発泡断熱層外面に平滑な印刷層を形成する技術について鋭意研究を行った。なお、合成樹脂による平滑な発泡断熱層を形成する技術として、前記特許文献4,5の発明があるが、当該発明技術では発泡に同調するという特殊なインキを使用しなければならず、通常の印刷に使用するインキでは、使用するインキの種類によって発泡後の印刷面に外観上わずかな凹凸が形成される場合があった。
【特許文献1】特開平7−232774号公報
【特許文献2】特開平9−95368号公報
【特許文献3】特開平10−34690号公報
【特許文献4】特開平11−189279号公報
【特許文献5】特開2001−270571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述の通り、容器外側面に合成樹脂による発泡断熱層を設けた紙製容器において、通常のインキを用いて発泡樹脂層の外面に文字、図形等のデザインを印刷した場合であっても、発泡面全体が平滑で綺麗な発泡面を形成することができる断熱性発泡紙製容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく印刷に使用する各色インキ毎の発泡に対する影響について鋭意研究した結果、通常のグラビア印刷に使用されるインキは次の様な特徴を有するとの知見を得た。
(1)合成樹脂表面にインキを塗布すると塗布した部分は樹脂の発泡を抑制する。
(2)インキは顔料、合成樹脂、溶剤を主剤とし、各インキ毎の顔料と合成樹脂それぞれの組成とその含有量により発泡抑制度合いが異なる。
(3)各インキ毎に、印刷層の厚さを厚くすればするほど発泡抑制度合いは高くなる。
(4)合成樹脂表面に下地として白インキを塗布することにより、発泡後の合成樹脂自体の有する色をマスクし白色の外観上綺麗な発泡面を形成することができる。また色インキの下地として白インキを使用すると色インキの発色性に優れる。
(5)下地として塗布される白インキ層の厚さを調整することにより、当該部分の合成樹脂層の発泡度合いを調整することができる。
(6)色インキを塗布した部分の発泡抑制力に応じて白インキ層の厚さを調整することにより、当該部分の合成樹脂層の発泡を調整し、印刷面全体として平滑な発泡面を形成することができる。
【0010】
すなわち、本発明は、原紙の片面には高融点の熱可塑性合成樹脂層を、他方の面には外側に印刷層を有する低融点の熱可塑性合成樹脂層を設けた基材紙により、前記印刷層が外側となるように上下開口の筒状胴部材を成型し、前記胴部材に底部材を一体化して容器本体とし、容器本体を加熱して低融点の熱可塑性合成樹脂層を発泡させることにより容器外側面に断熱層を形成する断熱性発泡紙製容器の製造方法であり、前記印刷層が、前記低融点の熱可塑性合成樹脂層の表面に白インキを下地として印刷した後、当該白インキ層の表面の少なくとも一部に色インキを印刷することにより形成され、前記白インキ層の厚さを調整することにより、前記印刷層を有する合成樹脂層の発泡を調整し平滑な発泡面を形成することを特徴とする断熱性発泡紙製容器の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、色インキによる印刷部分の発泡抑制力に応じて白インキ層の厚さを調整することにより、前記印刷層を有する合成樹脂層の発泡を調整し平滑な発泡面を形成することを特徴とする断熱性発泡紙製容器の製造方法である。
【0012】
以上、本発明によると、容器外側面に合成樹脂による発泡断熱層を設けた紙製容器において、通常のインキを用いて発泡樹脂層の外面に文字、図形等のデザインを印刷した場合であっても、発泡面全体が平滑で綺麗な発泡面を形成することができる断熱性発泡紙製容器を製造することができる。
【0013】
また、色インキ層の発泡抑制力に応じて、白インキ層の層厚を調整することにより、熱可塑性合成樹脂層の発泡の度合いを調整しているので、前記熱可塑性合成樹脂層(発泡層)を、印刷層が形成された部分において均一に発泡させることができる。これにより、通常の白インキおよび色インキを用いながらも、発泡層(発泡した前記熱可塑性合成樹脂層)の表面を平滑な面とすることができる。
【0014】
また、白インキ層の層厚のみを調整するので、色インキは、その成分や厚さを変える必要がない。したがって、所望とする印刷デザインの色調や明暗等に従って決定される各色インキ成分や層厚を調整することなく、色インキを印刷デザインのために自由に使用することができる。その結果、デザイン上の制約を受けることなく所望の綺麗な印刷デザインを得ることができる。
【0015】
さらに、白インキが下地として塗布されているので、色インキの発色性が優れたものになる。このように、発泡層の表面を平滑化することで、印刷層に滑らかな印象を付与すると共に、印刷層を発色性に優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の断熱性発泡紙製容器の製造方法によれば、通常のインキを用いながらも、印刷デザインからなる印刷層が形成される断熱性発泡層の表面を平滑化することができる。しかも、デザイン上の制約を受けることなく所望の綺麗な印刷デザインを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る断熱性発泡紙製容器は、容器胴部材と底部材とから構成される。本発明における断熱性発泡紙製容器の製造方法は、基材紙製造工程と、印刷工程と、容器本体成型工程と、加熱発泡工程とで構成される。
【0019】
(1)基材紙製造工程
原紙の片面に高融点の熱可塑性合成樹脂を、他方の面に低融点の熱可塑性合成樹脂を押し出しラミネート等の方法により積層し、基材紙を製造する。本実施形態において用いられる原紙と熱可塑性合成樹脂は、従来公知のものが使用できるが、容器の強度、合成樹脂層の発泡による断熱性、製造適性を考慮して適宜採用される。原紙としては、坪量が150〜450g/m、水分含量が5〜9%であるものが製造上好ましい。高融点の熱可塑性合成樹脂としては、密度0.93〜0.95g/cm、融点130〜135℃、MFR(Melt Flow Rate)4〜8g/10分の中密度または高密度ポリエチレンが好ましい。一方、低融点の熱可塑性合成樹脂としては、密度0.91〜0.92g/cm、融点105〜110℃、MFR8〜15g/10分の低密度ポリエチレンが好ましい。これら熱可塑性合成樹脂を押し出しラミネートにより、高融点の熱可塑性合成樹脂を厚さ15〜50μm、低融点の熱可塑性合成樹脂を厚さ30〜140μmにて、それぞれ原紙の両面に積層する。
【0020】
(2)印刷工程
前記基材紙の低融点の熱可塑性合成樹脂層の表面に下地として白インキを印刷し、次いで、文字、図形等のデザインとして、色インキを用いて各色の印刷をグラビア印刷により行う。
【0021】
前記印刷に使用する白インキおよび色インキは、顔料、合成樹脂、溶剤を主剤とする、合成樹脂フィルムへの印刷に使用される通常のものであれば特に限定されない。なお、インキ組成中の合成樹脂については、発泡性を考慮すると、ウレタン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド系樹脂、硝化綿系樹脂を単独または2種類以上を混合して使用することが望ましい。また、使用される溶剤としては、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、酢酸プロピル、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサン、メチルイソブチルケトン、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレンなどがあり、これらを混合して用いる。
【0022】
白インキによる印刷層の厚さは、グラビア印刷に使用される版の深度を調整することにより行うことができる。版深度の調整はグラビア印刷の製版工程で行うことができるが、版の調子再現性に優れる彫刻法が好ましい。その他、グラビア印刷により白インキを部分的に重ねて印刷することにより調整することもできる。
【0023】
白インキの厚さは、色インキ印刷部分の発泡抑制度合いに応じて、発泡抑制度合いの強い部分の下地は薄く、弱い部分の下地はそれよりも厚くすることにより調整するとともに、且つ当該色インキ塗布部分と色インキ非塗布部分での発泡度合いが均一となるように適宜調整する。前記の如く白インキの厚さを調整することにより印刷全面が平滑な発泡面を形成する。通常、白インキのみが塗布される部分の版深度は20〜40μm、色インキを塗布する部分は20μm以下の範囲で調整することにより、外観が綺麗で、充分な断熱効果を有する発泡層を形成することができる。白インキのみが塗布される部分が20μm以下の場合、発泡層にテカリが見られるため外観上好ましくない。一方、色インキが塗布される部分の白インキは版深度20μm以下であっても色インキの影響で発泡層のテカリが抑えられることにより、20μm以下であってもよく、発泡度合いを調整することができる。
【0024】
(3)容器本体成型工程
上記基材紙を容器本体胴部の形状のブランク板に打抜き加工し、通常の紙容器成型機を用いて、印刷を施した低融点の合成樹脂層が外側となるように、底部から上方に向かうに従って外拡する形状を有する上下開口の筒状胴部材を成型し、前記胴部材に底部材を一体化してカップ状の容器本体とする。
【0025】
(4)加熱発泡工程
前記印刷を施した成型容器を加熱することにより、低融点の熱可塑性合成樹脂層を発泡させる。加熱発泡工程における加熱温度および加熱時間は、使用する原紙の水分含量、使用する熱可塑性合成樹脂の成分、融点、密度、および印刷したインキの厚さに応じて、容器内面の高融点の合成樹脂層が発泡せず、外側面の低融点の合成樹脂層のみが発泡する範囲で適宜設定する。通常、加熱温度は100℃〜200℃であり、加熱時間は20秒〜720秒(12分)である。加熱手段は、熱風、電熱、電子線など任意の手段を採用することができ、またオーブン等を用いてもよい。コンベヤによる搬送手段を備えたトンネル内で熱風または電熱などによって加熱すれば安価に大量生産できる。
【0026】
本発明を実施例に基づいて、具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の開示に基づいて限定的に解釈されるべきではない。
(実施例1)
原紙(坪量320g/m、水分含量8%)の片面に低密度ポリエチレン(密度0.92g/cm、融点106℃、MFR14g/10分)を厚さ70μmで押出しラミネートし、原紙の反対面には中密度ポリエチレン(密度0.94g/cm、融点133℃、MFR7g/10分)を厚さ40μmで押出しラミネートし基材紙とした。この低融点のポリエチレンフィルム面の表面に下地として最初に白色のインキを印刷し、次いで、文字、図形等のデザインとして、黄色、赤色、緑色の各色の色インキで印刷し乾燥させた。印刷はグラビア印刷で行い、1色印刷毎にインキを乾燥させた。乾燥後、この基材紙から容器胴部材用のブランクを打抜き、別の原紙から底部材用のブランクを打抜き、常用のカップ成型機により成型し容器本体とした。
【0027】
なお、前記白インキの版の版深度としては、白インキ層のみとなる部分を35μmとし、前記黄、赤、緑の色インキ層の下に下地として印刷される白インキ層の版の版深度は、10μmとした。また前記黄、赤、緑の色インキ層の版の版深度は40μmとし、本発明容器とした。
【0028】
一方、下地として印刷される白インキ層の版の版深度を色インキ層の下地部分を含めて全面均一に25μmとしたものを比較対照容器とした。
【0029】
本発明容器および比較対照容器を、オーブンに入れ、120℃で5分間加熱し発泡させた後、冷風により室温まで冷却した。
【0030】
それぞれの容器において、発泡後の印刷発泡面の外観を視覚観察により評価したところ、本発明容器は比較対照容器と比べて、外観上殆ど凹凸を認識できない平滑で綺麗な発泡面を呈するものであった。
【0031】
以上説明した、本実施形態に係る断熱性発泡紙製容器の製造方法では、色インキ層の発泡抑制力に応じて、白インキ層の層厚を調整することにより、低融点の熱可塑性合成樹脂層の発泡の度合いを調整しているので、前記熱可塑性合成樹脂層を、印刷層が形成された部分において均一に発泡させることができる。これにより、通常の白インキおよび色インキを用いながらも、発泡層(発泡した前記熱可塑性合成樹脂層)の表面を平滑な面とすることができる。
【0032】
また、白インキ層の層厚のみを調整するので、色インキは、その成分や厚さを変える必要がない。したがって、所望とする印刷デザインの色調や明暗等に従って決定される色インキの成分や厚さを調整することなく、色インキを印刷デザインのために自由に使用することができる。その結果、デザイン上の制約を受けることなく所望の印刷デザインを得ることができる。
【0033】
さらに、白インキが下地として塗布されているので、色インキの発色性が優れたものになる。このように、発泡層の表面を平滑化することで、印刷層に滑らかな印象を付与すると共に、印刷層を発色性に優れたものとすることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の片面には高融点の熱可塑性合成樹脂層を、他方の面には外側に印刷層を有する低融点の熱可塑性合成樹脂層を設けた基材紙により、前記印刷層が外側となるように上下開口の筒状胴部材を成型し、前記胴部材に底部材を一体化して容器本体とし、容器本体を加熱して低融点の熱可塑性合成樹脂層を発泡させることにより容器外側面に断熱層を形成する断熱性発泡紙製容器の製造方法であり、
前記印刷層が、前記低融点の熱可塑性合成樹脂層の表面に白インキを下地として印刷した後、当該白インキ層の表面の少なくとも一部に色インキを印刷することにより形成され、前記白インキ層の厚さを調整することにより、前記印刷層を有する合成樹脂層の発泡を調整し平滑な発泡面を形成することを特徴とする断熱性発泡紙製容器の製造方法。
【請求項2】
色インキによる印刷部分の発泡抑制力に応じて白インキ層の厚さを調整することにより、前記印刷層を有する合成樹脂層の発泡を調整し平滑な発泡面を形成することを特徴とする請求項1に記載の断熱性発泡紙製容器の製造方法。




【公開番号】特開2009−83934(P2009−83934A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232833(P2008−232833)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000226976)日清食品ホールディングス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】