説明

断熱材とその成形装置

【課題】 厚み方向の他に幅方向または長さ方向に伸縮可能な断熱材を提供する。
【解決手段】 断熱材1は、厚さ方向だけでなく幅方向または長さ方向にも収縮できるので、充填したい空間13の幅に合わせて圧縮して挿入することができ、圧縮状態を解除すると断熱材が幅方向に膨張し、壁内寸法に適応して隙間を封隙することができ断熱効果を発揮する。また断熱材1は厚み方向の伸縮もあるため、空間13の厚さよりも若干厚めの製品を空間に入れることで、内装材を膨らますことなく密着させることができ更に高い断熱効果を発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスウールまたはロックウール等の無機繊維をマット状に成形してなる断熱材と、この断熱材を成形する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な無機繊維断熱材の製造方法は、高速回転する円筒状回転体内に溶融ガラスを供給し、回転体の側面に形成された小孔から遠心力で紡糸した一次繊維をエア流によって下方に引き伸ばして目標繊維径を有する二次繊維とし、この二次繊維が空中を飛行している間にフェノール樹脂等の接着剤を二次繊維に噴霧し、この二次繊維をキャタピラー状の下部コンベア上に堆積させ、この堆積した二次繊維を下流側の乾燥炉まで搬送し、所定寸法に切断してマット状の断熱材を得るようにしている。
【0003】
上記の断熱材を住宅の外壁や間仕切壁に充填することで、断熱効果を発揮するようにしている。しかしながら、上記した製法からくる特性として、断熱材は厚み方向に容易に伸縮するが、幅方向あるいは長さ方向には伸縮しにくい。
【0004】
このため、図6に示すように、外壁100、内壁101、左右の縦胴縁102,102間に形成される空間に断熱材103を充填する場合、断熱材103の幅が空間の幅よりも短いと、(a)に示すように充填後に隙間が残ってしまい断熱効果に悪影響を及ぼす。また、断熱材103の幅が空間の幅よりも長いと、(b)に示すように充填することができない。
【0005】
上記の不利を解消すべく、特許文献1〜3が提案されている。
特許文献1には、図5(a)に示す搬送方向に繊維配向を持つ長いグラスウール堆積集合体200を、(b)に示すように、カッターで搬送方向に沿って所定の幅に切断して縦切断細長断熱体201とし、次いで(c)に示すように、縦切断細長断熱体201を90°反転させてから被覆フィルム202でカバーすることにより幅方向に伸縮性を持たせたグラスウール断熱材203とする提案がなされている。
【0006】
また特許文献2には、圧縮状態の連続気泡発泡体または繊維集成体の表面にポリエチレンフィルムを被覆してなる積層体をプレス法あるいはロール法によって収縮率60%程度で圧縮し、真空ポンプなどで脱気したものを、充填しようとする空間に挿入施工し、施工後に前記フィルムを開封することにより積層体が空気を吸収して1.4倍に膨張して未充填空間を埋めるようにした方法が提案されている。
【0007】
また特許文献3には、無機繊維マットの圧縮を第1コンベアと第2コンベアの2段階で行なうことにより、樹脂フィルムに内在する空気を排出しやすくすると同時に短辺方向の樹脂フィルム同士の接着を容易にして適度に圧縮し、建築物の柱の間や隙間に充填した後、表皮材に孔を空けて表皮材に空気を入れ、復元させる断熱材の施工方法が提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−181963号公報
【特許文献2】特開平09−011378号公報
【特許文献3】特開2003−287191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示される断熱材にあっては、図5(d)に示すように、幅方向には伸縮するため、図6で説明したような従来の不利は解消できる。しかしながら、製作に手間がかかりコストアップになってしまう。また、厚み方向の伸縮がないため、厚めの製品を空間に充填すると内装材を内側から膨らませてしまう不利がある。
【0010】
また、特許文献2にあっては連続気泡発泡体として、ウレタン樹脂を原料とするため、無機繊維に比較して大幅にコストアップになってしまう。
【0011】
更に、特許文献3は、コンベアベルトで移動しながら圧縮と前記被覆加工を行うものであり、復元方向が厚み方向のみであるので、前記と同様の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明は、無機繊維が厚み方向に積層されてマット状に成形された断熱材に対し、成形時に無機繊維を圧縮することで形成される波形状の方向が厚み方向と幅方向の中間または厚み方向と長さ方向の中間を向くようにした。このような構成とすることで、厚み方向の他に幅方向または長さ方向に伸縮可能となる。
【0013】
ここで、波形状とは、2次元状に展開されるグラスウールの層が積層されて乾燥炉に搬送される際に、搬送方向に圧縮されることで、前記積層体が厚み方向に角度をもった3次元状に配列され、この3次元状に配列されることで搬送方向に沿って形成される模様を指す。つまり搬送方向を長さ方向とすれば幅方向には波形状は形成されない。そして、波形状の方向とは波形をなす模様の頂点と左右の底部の中間点とを結んだ方向をいう。
【0014】
また上記の断熱材を成形する装置として、上流側で紡糸された無機繊維を下流側の乾燥炉まで搬送する下部コンベア群と上部コンベア群を備え、上部コンベア群は乾燥炉に向かって下部コンベア群との間隔が徐々に狭くなるように下部コンベア群に対して相対的に傾斜して配置され、更に下部コンベア群及び上部コンベア群を構成するコンベアは下流側のコンベアの搬送速度が上流側のコンベアの搬送速度よりも遅くなるように設定された装置を本願で提案する。
【0015】
上記の成形装置にあっては、下部コンベア群を構成するコンベアのうち最も上流側のコンベアの速度V1と、乾燥炉に設けられる乾燥炉コンベアの速度V9との比(V1/V9)を1.4〜2.5の範囲に設定し、且つ前記搬送コンベアの最終段出口の間隔を基準として、前記最終段出口に続く上下の乾燥炉コンベア間隔の比率を1/1.5〜1.0の範囲に設定することが所望の特性の断熱材を得る上で好ましい。
【0016】
また、無機繊維としてガラス繊維を用いる場合には、12〜24kg/mの密度を持つものが好ましい。これにより、高い断熱効果が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の断熱材は、厚さ方向だけでなく、幅方向または長さ方向にも収縮できるので、充填したい空間の幅に合わせて圧縮して挿入することができ、圧縮状態を解除すると断熱材が幅方向に膨張し、壁内寸法に適応して隙間を封隙することができ断熱効果を発揮する。
また、本発明の断熱材は厚み方向の伸縮もあるため、空間の厚さよりも若干厚めの製品を空間に入れることで、内装材を膨らますことなく密着させることができ更に高い断熱効果を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本願発明の実施例について図に基づいて説明する。図1(a)は本発明に係る断熱材の圧縮前の状態を示す斜視図、(b)は本発明に係る断熱材の圧縮後の状態を示す斜視図であり、マット状をなす断熱材1はガラス繊維2を積層して構成される。ガラス繊維2は厚み方向だけでなく長さ方向にも重なるように成形され、その結果、側面に波形状の模様が形成されている。
【0019】
側面の波形状の方向、即ち、波形をなす模様の頂点と左右の底部の中間点とを結んだ方向は厚み方向と長さ方向の中間を向いており、その結果、図1(b)に示すように、断熱材1は厚み方向のみならず長さ方向に対して伸縮しやすい構造になっている。
【0020】
図2は本発明の断熱材を圧縮した状態で外壁と内壁の間に挿入した状態の断面図であり、外壁10、内壁11、左右の胴縁12,12の内側には空間13が設けられ、この空間13内に本発明に係る断熱材1が幅方向に圧縮された状態でセットされている。
【0021】
そして、圧縮された状態でセットされた断熱材1の圧縮状態を解除すると、図3に示すように、断熱材1は幅方向に膨張して、外壁10と内壁11との間に形成された空間13に充填される。
【0022】
図4は、本発明の断熱材の成形装置の側面図であり、成形装置は上流側で紡糸されたガラス繊維2を下流側の乾燥炉30まで搬送する下部コンベア群31と上部コンベア群32を備え、下部コンベア群31は複数のコンベア31a,31b,31c,31dを連接して構成され、上部コンベア群32は複数のコンベア32b,32c,32dを連接して構成される。そして、上部コンベア群32は乾燥炉30に向かって下部コンベア群31との間隔が徐々に狭くなるように下部コンベア群に対して相対的に傾斜して配置され、更に乾燥炉30の入口にはコンベアローラ33,34が配置されている。
【0023】
下部コンベア群31及び上部コンベア群32を構成するコンベアは全て単独で速度調整が可能とされ、本実施例にあっては、下流側のコンベアの搬送速度が上流側のコンベアの搬送速度よりも遅くなるように設定されている。即ち、コンベア31aの速度をV1,コンベア32bの速度をV2,コンベア31bの速度をV3,コンベア32cの速度をV4,コンベア31cの速度をV5,コンベア32dの速度をV6,コンベア31dの速度をV7,コンベアローラ33の速度をV8,コンベアローラ34の速度をV9とした場合、以下に述べるように速度が設定される。
【0024】
先ず下部搬送コンベア31aの移動速度V1と下部搬送コンベア31bの移動速度V3は、
V1×0.95≦V3≦V1×1.05
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0025】
また、上部搬送コンベア32bの移動速度V2は、下部搬送コンベア31bの移動速度V3に対して、
V3×0.6≦V2≦V3
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0026】
更に、ガラス繊維断熱材(原綿)の高さをH1とし、上部搬送コンベア32bの入口部と下部搬送コンベア31bの入口部との距離をH2とすると、
H1×0.4<H2<H1×1.2
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0027】
コンベア31b,32bにて搬送されたガラス繊維断熱材(原綿)は、更に圧縮コンベア対31c,32cによって長手方向に第1回目の圧縮を受ける。ここで、下側に位置する圧縮コンベア31cの移動速度V5は、前段の圧縮コンベア31bの移動速度V3及び次段の圧縮コンベア31dの移動速度V7と相関が高く、
V7×1.05≦V5≦V3×0.95
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0028】
また、上側に位置する圧縮コンベア32cの移動速度V4は、圧縮コンベア31cの移動速度V5に対して、
V5×0.6≦V4≦V5
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0029】
ここで、上部圧縮コンベア32bの入口部と下部圧縮コンベア31bの入口部の距離H2に対し、前記上部搬送コンベア32bの出口部と下部搬送コンベア31bの出口部の距離をH3とすると、
H3≦H2
の範囲であり、かつ上部圧縮コンベア32cの入口部と下部圧縮コンベア31cの入口部の距離をH4とすると、
H3≦H4
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0030】
コンベア対31b、32bとコンベア対31c、32cによって第1回目の長手方向圧縮を受けたガラス繊維断熱材(原綿)は、更にコンベア対31c、32cとコンベア対31d、32dによって第2回目の長手方向圧縮を受ける。ここで、下側に位置する圧縮コンベア31dの移動速度V7は、次段の乾燥炉コンベアローラ34の移動速度V9と相関が高く、
V9×0.95≦V7≦V9×1.05
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0031】
また、上側に位置する圧縮コンベア32dの移動速度V6は、圧縮コンベア31dの移動速度V7に対して、
V7×0.6≦V6≦V7
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0032】
ここで、上部圧縮コンベア32dの入口部と下部圧縮コンベア31dの入口部の距離をH6とし、前記上部搬送コンベア32cの出口部と下部搬送コンベア31cの出口部の距離をH5とすると、
H5≦H6
の範囲であり、かつ上部圧縮コンベア32dの出口部と下部圧縮コンベア31dの出口部の距離をH7とすると、
H6>H7
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0033】
上部圧縮コンベア32dと下部圧縮コンベア31dによって第2回目の圧縮を受けたガラス繊維断熱材(原綿)は、更に上部乾燥炉コンベア33と下部乾燥炉コンベア34によって乾燥炉へと搬送される。ここで、下側に位置する下部乾燥炉コンベア34の移動速度V9は、前記搬送コンベア31aの移動速度V1と相関が高く、
V1×0.40≦V9≦V1×0.70 (S1)
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。
【0034】
また、上側に位置する上部乾燥炉コンベア33の移動速度V8は、上記乾燥炉コンベア34の移動速度V9と同じ移動速度とした。
【0035】
ここで、上部乾燥炉コンベア33の入口部と下部圧縮コンベア34の入口部の距離をH8とし、前記上部搬送コンベア6の出口部と下部搬送コンベア7の出口部の距離をH7とすると、
H8×1.0≦H7≦H8×1.5
の範囲であればライン進行方向における柔軟性と断熱特性が良好であった。つまり、上記の関係は、最終段の搬送コンベアの出口距離が乾燥炉の入口距離に較べて1.0倍から1.5倍の範囲に設定すれば良いことを示している。これを逆に言えば、乾燥炉の入口距離は、最終段の搬送コンベアの出口に較べて1.0から1/1.5の範囲であれば良いことを意味する。
【0036】
以上のデーターの中で、クリンピング率(V1/V9の比率)は前記V9とV7の関係式S1の全体をV1で割ると、
0.40≦V9/V1≦0.70
となり、この各項の逆数をとると、
1.4≦V1/V9≦2.5
となるので、クリンピング率は1.4から2.5が適切な範囲と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)は本発明に係る断熱材の圧縮前の状態を示す斜視図(b)は本発明に係る断熱材の圧縮後の状態を示す斜視図
【図2】本発明の断熱材を圧縮した状態で外壁と内壁の間に挿入した状態の断面図
【図3】図2の状態から断熱材の圧縮状態を開放した状態の断面図
【図4】本発明に係る断熱材の成形装置の側面図
【図5】(a)〜(d)は従来の断熱材の構造を説明した図
【図6】(a)及び(b)は従来の断熱材の問題点を説明した図
【符号の説明】
【0038】
1…断熱材、2…ガラス繊維、10…外壁、11…内壁、12…胴縁、13…空間、30…乾燥炉、31…下部コンベア群、32…上部コンベア群、31a,31b,31c,31d…下部コンベア群を構成するコンベア、32b,32c,32d…上部コンベア群を構成するコンベア、33,34…コンベアローラ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維が厚み方向に積層されてマット状に成形された断熱材において、成形時に無機繊維を圧縮することで形成される波形状の方向が厚み方向と幅方向の中間または厚み方向と長さ方向の中間を向くことで、厚み方向の他に幅方向または長さ方向に伸縮可能となっていることを特徴とする断熱材。
【請求項2】
無機繊維を厚み方向に積層してマット状に成形する断熱材の成形装置であって、この成形装置は上流側で紡糸された無機繊維を下流側の乾燥炉まで搬送する下部コンベア群と上部コンベア群を備え、上部コンベア群は乾燥炉に向かって下部コンベア群との間隔が徐々に狭くなるように下部コンベア群に対して相対的に傾斜して配置され、更に下部コンベア群及び上部コンベア群を構成するコンベアは下流側のコンベアの搬送速度が上流側のコンベアの搬送速度よりも遅くなるように設定されていることを特徴とする断熱材の成形装置。
【請求項3】
請求項2に記載の断熱材の成形装置において、前記下部コンベア群を構成するコンベアのうち最も上流側のコンベアの速度V1と、乾燥炉に設けられる乾燥炉コンベアの速度V9との比(V1/V9)を1.4〜2.5の範囲に設定し、且つ前記搬送コンベアの最終段出口の間隔を基準として、前記最終段出口に続く上下の乾燥炉コンベア間隔の比率を1/1.5〜1.0の範囲に設定したことを特徴とする断熱材の成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−284803(P2007−284803A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110174(P2006−110174)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(390032090)株式会社マグ (27)
【Fターム(参考)】