説明

断熱構造

【課題】 従来の断熱構造よりも大きな断熱構造とすることなく、簡単且つ安価に形成することのできる断熱構造を提供する。
【解決手段】 本発明は、低温部を区画する内区画(断熱内管21)と、内区画の外周側を区画する外区画(断熱外管22)との間に断熱材30を配置してなる断熱構造である。ここで、断熱材30は、シート状に形成した袋状部材の内部に芯材を充填し、そして、袋状部材の内部を真空にした構造を有し、且つ、低温部に、超電導体(ケーブルコア10)が配置されている。そして、この断熱材30の熱伝導率が、0.0030W/(m・K)以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒によって冷却された超電導体の断熱構造に関する。特に、本発明は、超電導ケーブルのような長尺材に適用する場合であっても、断熱空間を長時間かけて真空引きする必要のない断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超電導材料を積極的に利用して電気機器の性能を大幅に向上させる試みがなされている。特に、電力線に超電導材料を使用した超電導ケーブルは、常電導材料を使用したケーブルと同容量の電力を送電するときにケーブルの径を大幅に小さくすることができる。
【0003】
しかし、現在、常温で超電導状態にある超電導材料は存在しないため、超電導材料(超電導体)を使用した電気機器(超電導機器)は、超電導転移温度以下の極低温に冷却する必要がある。従って、超電導モータや超電導ケーブルなどの超電導機器は、超電導体を配置した低温部を断熱構造により断熱して、極低温を維持する、すなわち、超電導状態を維持するようにして運転しなければならない。
【0004】
一般に超電導機器を断熱する場合、断熱構造は、超電導体(または、超電導体を具える機器)を内区画・外区画により二重に区画して、内区画の内部に超電導体が配置されるように形成するとともに、内外区画間を真空引きすることで構成されている。このような断熱構造として、代表的には超電導ケーブルにおける断熱構造が挙げられる(特許文献1)。
【0005】
図6は、3心のケーブルコア10を有する超電導ケーブル1の概略断面図である。超電導ケーブル1は、ケーブルコア10を断熱管20の内管21内に収納した構成である。コア10は、中心から順にフォーマ11、超電導導体層12、絶縁層13、超電導シールド層14、保護層15により構成されている。一方、断熱管20は、断熱内管21と断熱外管22からなる二重管であり、この断熱管20のうちコア10が配置される内管21内を冷媒16が流通することで、コア10全体が冷却される。
【0006】
従来の断熱構造において、断熱管20を構成する内管21と外管22との間には、例えば、スーパーインシュレーションなどの断熱材(図示せず)が配置され、且つ、その内管21と外管22との間は真空引きされている。このような構造により、この断熱管20を境にして熱の出入が抑制され、コア10が極低温に維持される。
【0007】
【特許文献1】特開2005−100777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記のような断熱構造は、断熱構造を形成する二重の区画部材のうち、外区画が損傷して内外区画間の真空が破られるなどして、急激に断熱性能が低下することがあった。また、長尺の内・外区画間を真空引きする場合、この二重の区画の間を真空引きする作業に非常に時間がかかった。特に、超電導ケーブルなどの長尺の断熱管を真空引きする場合、ケーブルコアを取り囲む断熱内管と断熱外管との間をケーブルの全長に亘って真空引きしなければならず、この真空引き作業に真空ポンプを使用しても、数ヶ月の時間を要していた。また、真空引き作業の間、真空ポンプを駆動し続けるために、電気代が非常にかかっていた。
【0009】
一方、真空引きすることなく超電導ケーブルの断熱内管と外管との間に断熱材を配置した場合、例えば、ポリウレタンフォームを断熱材として配置した場合、厚さ約50mmのポリウレタンフォームで内管の外周を覆っても所望の断熱性能を達成できない。しかも、超電導ケーブルの断熱内管の外周に上記のような厚さの断熱材を配置した場合、超電導ケーブルの外径が非常に大きくなる。このように超電導ケーブルの外径が大きくなると、ケーブルを曲げることが困難になり、ケーブルを配置する際の自由度が低下したり、通常の常電導の電力ケーブルに比べて外径を小さくすることができるという超電導ケーブルの利点を失ったりする。
【0010】
そこで、本発明の主目的は、従来の断熱構造よりも大きな断熱構造とすることなく、簡単且つ安価に形成することのできる断熱構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱伝導率を限定するとともに、複数の小さな真空領域に区切られた断熱材を使用して断熱構造を形成することにより上記の目的を達成する。
【0012】
本発明は、低温部を区画する内区画と、内区画の外周側を区画する外区画との間に断熱材を配置してなる断熱構造である。ここで、低温部には超電導体が配置されており、断熱材は、シート状に形成した袋状部材を複数つなぎ合わせて形成されている。そして、各袋状部材は、その内部に芯材が充填され、且つ、真空引きされた構造を有し、前記断熱材の熱伝導率は、0.0030W/(m・K)以下であることを特徴とする。
【0013】
断熱構造は、低温部を内区画・外区画により二重に区画して構成される。これら内・外区画は、超電導体を具える機器の形態に応じて適宜選択すれば良い。例えば、超電導ケーブルでは内・外区画ともにステンレス製のコルゲート管が好適に利用できる。その他、外区画はステンレスラミネートテープなどの区画性の高いテープを巻回することで形成しても良い。いずれにしても、熱・気体・液体などの出入を制限し、断熱材を機械的に補強することができるように形成することが好ましい。
【0014】
低温部に配置される超電導体としては、超電導ケーブルのケーブルコアや超電導コイル、超電導マグネット、超電導モータのコイルなどが挙げられ、これら超電導体は、液体窒素や液体水素などの冷媒で極低温に冷却されている。
【0015】
そして、断熱材は、芯材を充填した袋状部材を複数つなぎ合わせて形成されており、各袋状部材の内部を真空引きしてある。このような断熱材の熱伝導率が、0.0030W/(m・K)以下になるようにすると、超電導体を冷却する低温部に適用する断熱材として十分な性能を発揮する。好ましくは、断熱材の熱伝導率は0.0025W/(m・K)以下である。より好ましくは、断熱材の熱伝導率は0.0020W/(m・K)以下である。
【0016】
断熱材を構成する袋状部材は、プラスチック層に金属層をラミネートした構造を有することが好ましい。プラスチック層は、袋状部材の内部を真空引きしたときの圧力や物理的外力により損傷しにくい材料で形成すると良い。例えば、フッ素系樹脂などが挙げられるが、これらに限定されない。また、金属層は、輻射線を反射するために設けられており、例えば、アルミニウムなどが好適に利用できる。上記のようなプラスチック層と金属層は交互に複数積層しても良いし、種類の異なるプラスチックを複数層積層したプラスチック層に金属層をラミネートしても良い。
【0017】
袋状部材に充填される芯材は、袋状部材の内部を真空にしたときに袋状部材の形態を保持するために充填されている。ここで、芯材は、繊維状であっても、シリカなどの粉末状であっても良い。繊維状のものを使用する場合は、繊維を層状に配向して袋状部材の厚さ方向に熱が伝導することを抑制したり、繊維長を一定範囲に規定して芯材の強度を確保しつつ繊維間の熱の伝達経路が分断されるようにすることが好ましい。
【0018】
断熱材を構成する袋状部材の大きさは、特に限定されない。好ましくは、袋状部材の内部を短時間で真空引きすることができる程度の大きさに形成する。このような大きさに形成すると、内区画全体を覆うことができない場合があるが、このような問題は、内区画全体を覆うように複数の袋状部材をつなぎ合わせて配置し、各袋状部材の端部を重なるように配置することで解決できる。また、上記の問題は、袋状部材をつなぎ合わせて形成した長尺材を内区画の外周に螺旋状に巻回することでも解決することができる。特に、長尺材を螺旋状に巻回する方法は、超電導ケーブルなど、長尺な内・外区画を有する断熱構造において、好適に利用することができる。また、長尺材を螺旋状に巻回すると、巻き始めと巻き終わりの2箇所を固定するだけでも長尺材を内区画に十分保持することができる。そして、長尺材を内区画に螺旋状に巻回するときは、あるターンとそのターンに隣接するターンの一部が重なる重ね巻きにより形成すると内区画が露出する可能性が低く好ましいが、後述するように長尺材を多層に巻回するのであれば、あるターンの側縁とそのターンに隣接するターンの側縁が一致する突合わせ巻きでも良いし、あるターンの側縁とそのターンに隣接するターンの側縁との間に間隔が設けられているピッチ巻きでもかまわない。いずれの巻回方法を選択するにしても、内区画の外周を余すところ無く覆うように形成する。
【0019】
袋状部材をつなぎ合わせるときは、袋状部材の真空領域が重なるようにしても良いし、真空領域が重ならないようにしてもかまわない。袋状部材の真空領域が重なるように袋状部材をつなぎ合わせると、即ち、ある袋状部材と隣接する袋状部材が重なるように形成すると、つなぎ合わせた袋状部材の厚さ方向に常に真空領域が存在することになるので、袋状部材をつなぎ合わせた断熱材の断熱性能が良い。一方、袋状部材の真空領域が重ならないように形成する場合、即ち、複数の袋状部材をつき合わせて、この突き合わせ部分を直接接合したり、突き合わせ部分の間をシート状の部材で橋渡しするように接合したりする場合、接合した部分が関節のように屈曲するので、袋状部材をつなぎ合わせて形成した断熱材を内区画の形状に合わせて曲げやすくなる。上記の接合方法に加えて、特に、袋状部材をつなぎ合わせて長尺材にするときに、袋状部材が長辺と短辺を有する長方形ならば長辺同士または短辺同士を接合すると、長尺材の幅方向に凹凸が形成されないので、長尺材を内区画に配置しやすくなる。
【0020】
上記のように形成した断熱材、特に、長尺材を内区画に巻回するときは、複数層になるように行なうことが好ましい。すでに述べたように長尺材は単位寸法を有する単位断熱部材(内部に芯材を充填し、真空引きした一つの袋状部材)をつなぎ合わせて形成しているので、このつなぎ合わせた部分の断熱性能が低下して断熱の弱点となる場合がある。そこで、長尺材を複数層に亘って巻回すると、ある層における断熱部材同士のつなぎ目を他の層(特に、隣接する層)の断熱部材が覆うように配置することが可能になり、つなぎ目の断熱性能の低下を補うことができる。また、長尺材を螺旋に巻回したときに隣接する長尺材のターンの境目も、前述のつなぎ目と同様に断熱の弱点となり得るが、前述したつなぎ目の断熱性能の低下を補う場合と同様に、ある層における長尺材のターンの境目を他の層の断熱部材が覆うようにすることで断熱性能の低下を補うことができる。このように、ある層におけるつなぎ目や境目を他の層(特に、隣接する層)の断熱部材が覆うようにすると、断熱構造の断熱性能が向上する。具体的には、ある層における隣接する長尺材をまたぐように次の層の長尺材を配置したり、ある層における断熱部材のつなぎ目と、この層に隣接する層における断熱部材のつなぎ目がずれるように断熱部材を配置したりする。上記のように、長尺材の巻回を複数層に亘って行なうことにより、高い断熱性能を有する断熱構造とすることができるだけでなく、長尺材の巻回が、突合せ巻きか重ね巻きかピッチ巻きかを問わない構成とすることができる。
【0021】
長尺材を多層に巻回する場合の巻回方法は、全ての層において螺旋のピッチが同一であっても良いし、各層によって螺旋のピッチが異なっていても良い。例えば、巻回方向が同じでピッチが異なるようにしたり、巻回方向を異なるようにしたりする。いずれの巻回方法を選択するにしても前述のように境目やつなぎ目による断熱の弱点を補強するような構成とする。
【0022】
ここで、超電導ケーブルの断熱管のように長尺の区画部材を有する場合は、その外周に長尺材を螺旋に巻回すれば良いが、例えば、立方状の区画部材の場合、長尺材を螺旋に巻回すると、周方向に連続する4面を覆うことができるが、残りの2面を覆うことができない。そこで、立方状の区画部材を断熱する場合は、断熱材を区画部材の形状に合わせた展開図のように形成すると、区画部材に断熱材を無駄なく、且つ、簡単に配置することができる。もちろん、断熱材を展開図のように形成する方法は、立方状の区画部材に限定されず、多面体状の区画部材にも適用できる。ところで、立方状の区画部材を断熱する場合、長尺材を使用することもできる。具体的には、立方状の区画部材の周方向に連続する4面に長尺材を螺旋に巻回するとともに、残りの2面の形状に合わせた別の断熱部材を配置する。また、他の巻回方法として、2つの長尺材を用意して、この2つの長尺材の巻回軸がねじれの関係になるように巻回して、立方状の区画部材の全体を覆うようにしても良い。上記のように複数の長尺材をねじれの関係になるように巻回する方法は、立方状以外の多面体状の区画部材に関しても適用できる。
【0023】
その他、断熱構造は、以下に示すような構成を単独で、あるいは組み合わせて具えることで、その断熱性能を向上させることができる。
【0024】
[1] 袋状部材の金属層の少なくとも一部を分断する
袋状部材の金属層を分断する構成としては、主として、以下に示す2つの構成が挙げられる。1つ目の構成は、金属層における渦電流の発生を抑制するための構成である。区画部材に巻回する断熱部材は、金属層をラミネートした構造であることはすでに述べたが、例えば、交流が流れる超電導体を有する超電導機器の近傍に金属が存在すると、金属の表面に渦電流が発生する。渦電流が発生すると、この渦電流が原因で発生する磁場が超電導体の磁場を乱したり、金属が発熱して低温部の温度を上昇させたりするなどの問題が生じる。このような渦電流の発生を抑制する構成として、例えば、袋状部材の一面において、プラスチック層にラミネートする金属層を部分的に分断するように形成する。渦電流は、金属層において磁束を打ち消すように同心状に発生するため、渦電流が同心状に広がらないように金属層を分断すると良い。具体的には、プラスチック層上に存在する金属層を縞状に分断することや、レンガ壁の目地パターンのように分断することが挙げられる。また、袋状部材の表面と裏面で金属層の分断のパターンを異ならせることが好ましい。例えば、金属層を縞状にする場合は、この縞が表面と裏面で交差するようにしたり、表面において金属層が設けられていない部分に対応する裏面の部分に金属層を設けたりする。このように構成すれば、袋状部材の一方の面からの縞状の金属層の隙間を通り抜けて入射する輻射線の大部分を、他方の面の金属層で反射することができる。即ち、袋状部材を通り抜ける輻射線を減らすことができる。ここで、長尺材を多層に巻回して断熱構造を形成する場合は、各層において縞状の金属層がずれるように配置することで、断熱構造の外部から入射する輻射線を、多層に巻回した層のうちの少なくとも一層において反射させるようにしても良い。
【0025】
袋状部材の金属層を分断するための2つ目の構成は、袋状部材の表面と裏面とで熱の伝達を抑制するための構成である。即ち、表面と裏面との境界部分を分断して、表面と裏面の金属層が接続しないようにする。このようになすことで、例えば、ある層の表面が外区画側に、裏面が内区画側に配置されている場合、渦電流などにより外区画側である表面に発生した熱が裏面(即ち、低温部のある内区画側)に伝達することを防止することができる。
【0026】
上述したような袋状部材を分断する2つの構成は、組み合わせて用いることができる。例えば、袋状部材の表面と裏面とで金属層の分断のパターンを異ならせるときに、表面と裏面の金属層が接続しないようにすると、金属層において渦電流が発生することを抑制することができるだけでなく、渦電流などにより金属層に発生した熱や外区画側から伝達してきた熱の伝達経路を分断することができる。
【0027】
[2] 金属層で発生した熱が内区画に伝達しないようにする
袋状部材に金属層があると、この金属層で輻射線を反射することができるが、金属層の熱伝導率が高いために、渦電流により金属層に発生した熱が内区画に伝達しやすい。そこで、この金属層に発生した熱が内区画に伝達しないように、袋状部材における内区画に接触する部分には金属層がラミネートされていない箇所を設けることが好ましい。例えば、袋状部材の一方の面に金属層をラミネートし、他方の面には金属層をラミネートしないようにする。内区画に当接する袋状部材の一方の面に金属層がないことで、この一方の面において、渦電流の発生源がないため渦電流に起因する熱が発生しないばかりか、袋状部材の他方の面の金属層において発生した熱が袋状部材の一方の面に伝達し難くなる。上記のような構成として、例えば、袋状部材をつなぎ合わせて長尺材とし、この長尺材を多層に巻回して断熱構造を形成する場合には、内区画に当接する第一層のみ金属層がラミネートされていないものを使用したりする。もちろん、第一層以外の層において金属層をラミネートされていない部分を設けてもかまわない。金属層がラミネートされていない層を複数設けた場合、外層側の金属層で発生した熱が内層側に伝わる経路を分断することができるので好ましい。その他、長尺材の最外層の外区画に当接する面において金属層がラミネートされていない部分を設けることで、断熱構造の外部から外区画に伝達された熱が長尺材の金属層に伝達することを抑制してもかまわない。
【0028】
[3] 断熱材の外周側空間と内周側空間との間で流体の流通を抑制する
本発明断熱構造では、内・外区画間を真空引きすることはないので、断熱材の内周側空間と外周側空間に存在する空気が流通することがある。このとき、熱の交換が起こって(主に、シート状断熱材の外周側の空気から内周側の空気に熱が伝わる)、低温部の温度が上昇する可能性がある。そこで、少なくとも内区画と断熱材との間に流通防止剤を配置することが好ましい。例えば、断熱材を内区画の外周に一層配置するときは、単位断熱部材の接合部分に流通防止材を配置する。もちろん、内区画に接触する断熱材の面全体、即ち、内区画の外周面全体に流通防止材を配置してもかまわない。また、長尺材を複数層になるように巻回して断熱構造を形成する場合は、内区画の外周面全体とともに、各層の間にも流通防止材を配置するようにするとより確実に流体の流通を防止することができる。上記の流通防止剤としては、例えば、発泡樹脂や・通常の樹脂一般・ワックス・グリースなどが使用できるがこれらに限定されない。特に、流通防止剤としては、発泡ポリウレタンなどの気泡を有する発泡樹脂が断熱性能の点で好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の構成によれば、簡単且つ安価に形成することのできる断熱構造とすることができる。特に、超電導ケーブルなどの長尺な二重の区画部材を具えた断熱構造において、この長尺な空間を長時間かけて真空引きすることなく所定の断熱性能を発揮することができる。
【0030】
また、本発明の構造を超電導ケーブルの断熱構造に適用した場合、真空引きした従来の断熱構造を有する超電導ケーブルの外径と同等かそれ以下の外径を有する超電導ケーブルとすることができる。
【0031】
さらに、断熱材が複数の小さな単位断熱部材から形成され、この単位断熱部材毎に真空領域が形成されているため、外力などにより一部の単位断熱部材が損傷して真空状態を維持することができなくなっても、損傷していない単位断熱部材により断熱材全体の断熱性能が大幅に低下することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
<実施例1>
以下、超電導ケーブルの断熱構造を例に挙げて本発明の実施例を説明する。まず初めに、本例の超電導ケーブルの全体構造を図1に基づいて説明し、次に、各構成部材を図2〜4に基づいて説明する。
【0033】
図1は、3心のケーブルコア10を有する本例の超電導ケーブルを示す概略断面図である。超電導ケーブル1は、ケーブルコア10を断熱管20の内管21内に収納した構成である。そして、断熱管20の外周には防食層17を設けた。前述のコア10は、中心から順にフォーマ11、超電導導体層12、絶縁層13、超電導シールド層14、保護層15により構成した。一方、断熱管20は、内管21と外管22からなる二重管であり、この断熱管20のうち、コア10が配置される内管21内に冷媒16を流通させてコア10全体を冷却した。
【0034】
ケーブルコア10を収納する断熱管20は、内管21と外管22とからなるSUSコルゲート二重管により構成し、この二重管の間に複数の袋状部材をつなぎ合わせてなる長尺材を多層に巻回して形成した断熱材30を設けた。また、断熱材30の外周にはステンレスラミネートテープを巻回して補強部40を形成し、断熱材30の形状を維持するとともに、外部からの因子により断熱材30が損傷しないように補強した。
【0035】
長尺材は、単位寸法を有する複数のシート状断熱部材をつなぎ合わせることにより形成した。図2(A)は、長尺材の上面を、図2(B)は、長尺材の側面を示す図である。各断熱部材32は、その側端部同士を接合することにより長尺材31に形成した。側端部同士を接合してつなぎ目32aを形成することで、断熱部材32を長尺材31に形成したときに、このつなぎ目32aで折り曲げ易くなるので長尺材31を断熱内管に巻回しやすくなる。ここで、断熱部材32同士のつなぎ目32aにおいては、図2(B)に示すように断熱部材32が薄く、つなぎ目32a以外の箇所と比較して断熱性能が低いが、このような問題は後述するように長尺材31を多層に巻回することや、各断熱部材32を接合するときに、その端部が重なるように形成することで解決できる。
【0036】
本例においては、シート状断熱部材32として、市販のシート状断熱部材を使用した。このシート状断熱部材32は、厚さ1mmの袋状の部材であり、その熱伝導率は、0.0020W/(m・K)である。このような熱伝導率を有するシート状断熱部材32を使用して、従来の超電導ケーブルに使用されていた断熱構造と同様の断熱性能を有する断熱構造を形成するには、断熱内管の外周から厚さ方向に16mmのシート状断熱部材32があれば良い。ここで、後述するシート状断熱部材32のつなぎ目や境目における断熱性能の低下を考慮して、シート状断熱部材32は、厚さ方向に16層になるように巻回した。
【0037】
シート状断熱部材32は、袋状部材の内部に繊維状の芯材を充填して構成される。また、シート状断熱部材32は、図3(A)〜(B)に示すように、プラスチック層320に金属層(アルミニウム層)331,332をラミネートした構成である。一方、繊維状の芯材は、シート状断熱部材32の厚さ方向に平行な配向性を有し、且つ、各繊維の長さが所定の長さの範囲内にある。そして、シート状断熱部材32の内部は、真空引きされており、これらの構成により、このシート状断熱部材32は、0.0020W/(m・K)の熱伝導率を達成している。
【0038】
シート状断熱部材32に設けられるアルミニウム層331,332は、縞状に分断されている。このようになすことにより、渦電流経路を短くすることができるので、この渦電流による熱の発生を抑制することができる。また、アルミニウム層331,332はシート状断熱部材32の表面(図3(A)の縦縞と横縞を参照)と裏面(図3(B)を参照)とで互いに直交するように分断されている。このようになすことにより、袋状部材の表面と裏面とでアルミニウム層331と332が接続することがないので(図3(C)を参照)、一方のアルミニウム層331と他方のアルミニウム層332との間で熱が伝導することを防止することができる。また、一方の面(表面または裏面)を透過した輻射線の大部分を他方の面(裏面または表面)により反射することができる。その他、図4(A)〜(C)に示すように、表面において金属層が設けられていない部分に対応する裏面の部分に金属層を設けるようにしても良い。この場合も図4(C)に示すように表面の金属層331と裏面の金属層332が接続しないようにすると良い。
【0039】
以上、説明した長尺材31を超電導ケーブルコア10を収納する断熱内管21の外周に合計16層となるよう螺旋状に巻回した(図1を参照:但し、図1では一部の層のみを示す)。長尺材31は、図5(A)に示すように、断熱内管の外周に突合せ巻きした。図5(A)は、断熱内管の外周に第1層を巻回した状態の一部を、図5(B)は、第1層の外周にさらに第2層を巻回した状態の一部を示す概略図である。このとき、第1層100における袋状部材31のつなぎ目110や長尺材31のターンの境目120が、極力、第2層200のつなぎ目210や境目220と重ならないようにした。どうしてもつなぎ目や境目が重なってしまう箇所(図5(B)の交点150)が生じた場合は、図示しない第3層においてこの交点150を断熱部材32が覆うようにすれば良い。また、第3層と第4層においても同様につなぎ目や境目が重ならないようにしたり、交点150を断熱部材32が覆うようにする。上記のように、一の層とその層に隣接する他の層との間で生じる交点と、他の層とその他の層に隣接する別の層との間で生じる交点とがずれるように配置することで断熱材の性能を大幅に向上させることができる。
【0040】
そして、断熱内管と長尺材の最内層との間、前記長尺材の各層の間、前記長尺材の最外層と後述するステンレスラミネートテープとの間に発泡ポリウレタンを充填した。このようになすことにより、巻回した長尺材の外周側に存在する空気が断熱内管の外周表面に触れることをなくすることができるので、常温の空気による熱伝達を防止することができる。
【0041】
長尺材を断熱内管に巻回した後に断熱外管の内部に配置する方法は、代表的には2種類ある。1つは、断熱内管に長尺材を巻回したものをその径よりも大きな内径を有する断熱外管の内部に挿入する方法である。もう1つは、断熱内管に長尺材を巻回したものに金属板を巻きつけて、この金属板を円筒状に形成し、さらに、円筒状を維持するように溶接作業を行なって、波付け加工などを施す方法である。挿入する方法では、断熱外管の突出部などが長尺材の外周を損傷したりしないように、金属板を巻きつけて溶接する方法では、溶接作業により長尺材が溶けてしまったりしないように長尺材の外周を保護することが好ましい。本例においては、長尺材の最外周にはステンレスラミネートテープを巻回し、次いで、断熱外管に挿入する方法を選択したが、このような組み合わせに限定されない。なお、断熱外管を設けることなくステンレスラミネートテープの巻回する回数を多くして機械強度を向上させ、断熱外管の代わりとしても良い。この場合、もちろん、ステンレスラミネートテープの外周を防食層で覆うことが好ましい。
【0042】
以上、説明したように構成した超電導ケーブルにおける断熱構造によれば、断熱内管と断熱外管との間の長尺な空間を真空引きすることなく所望の断熱性能を得ることができる。
【0043】
<変形例1−1>
本変形例では、超電導ケーブルの断熱内管に巻回する長尺材の層のうち、断熱内管に当接する層の長尺材において、長尺材の断熱内管に当接する長尺材の面に金属層を設けていない。上記の構成以外は、実施例1と同様であるため、共通する構成の説明は省略する。
【0044】
本例において使用する単位断熱部材は、実施例1(図3を参照)のものと同じであるが、この単位断熱部材をつなぎ合わせて形成される長尺材を断熱内管に巻回するときに、断熱内管に当接する長尺材の部分に金属層を設けないようにした。具体的には、図5に示すように、断熱内管に当接する第1層100の裏面(即ち、断熱内管に当接する長尺材の面)全体に金属層が設けられていないようにする。このようになすことにより、断熱内管に当接する部分(裏面)に金属層がないために、この断熱内管に当接する長尺材の部分において渦電流により熱が発生することをなくすることができる。また、第1層100の表面(断熱内管に当接しない長尺材の面)で発生した渦電流による熱が、第1層100の裏面に伝達し難くすることができる。
【0045】
<試験例>
本試験例では、単位長さの超電導ケーブルを使用して、3つの異なる断熱構造を有する模擬構造体を作製し、各模擬構造体の断熱性能を比較した。断熱性能は、時間の経過に伴う超電導ケーブルコアを冷却する液体冷媒の温度変化により評価した。
【0046】
模擬構造体として、以下に示すような超電導ケーブルの模擬構造体を作製した。各模擬構造体における断熱内管と断熱外管は同一のものを使用した。
[1] 従来の断熱構造
図6に示すように、超電導ケーブルコアを断熱内管および断熱外管で覆って、内・外管の間にスーパーインシュレーションを配置した従来の断熱構造。この断熱構造においては、内・外管の間を真空引きした。
[2] 本発明の断熱構造
図1に示すように、超電導ケーブルコアを断熱内管および断熱外管で覆って、内・外管の間に上述の熱伝導率0.0020W/(m・K)のシート状断熱部材をつなぎ合わせて形成した長尺材を16層になるように巻回した実施例1の断熱構造。この断熱構造においては、内・外管の間を真空引きしていない。
[3] 参考用の断熱構造
超電導ケーブルコアを断熱内管および断熱外管で覆って、内・外管の間に熱伝導率0.0045W/(m・K)のシート状断熱部材をつなぎ合わせて形成した長尺材を16層になるように巻回した断熱構造。このシート状断熱部材は、[2]のシート状断熱部材と同じ構成で熱伝導率のグレードが異なる市販品である。この断熱構造においては、内・外管の間を真空引きしていない。
上記各模擬構造体において断熱内管の内部に70Kの液体窒素を充填して、34.5kV-800Aの送電を行なった。試験の間、液体窒素の再冷却は行なわず冷媒の流通のみを行い、液体窒素の温度が所定の温度(74K)に達した時点で送電を停止した。そして、各断熱構造において、時間の経過に伴う液体窒素の温度をX-Y平面にプロットし、その傾きを比較することで断熱性能を評価した。
【0047】
本試験の結果、実施例1の構成を有する断熱構造([2]の断熱構造)は、断熱内管と断熱外管との間を真空引きせずに複数の袋状部材からなる長尺材を配置しただけであるにも関わらず従来の断熱構造([1]の断熱構造)と同等の断熱性能を示した。一方、[3]の断熱構造では断熱材の厚さが足らず、従来の断熱構造および実施例1の断熱構造と比較して短時間で送電を停止しなければならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明断熱構造は、超電導体を内部に配置した低温部を断熱する断熱構造に好適に利用することができる。特に、超電導ケーブルの断熱構造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、実施例1に記載の超電導ケーブルの断熱構造を示す概略図である。
【図2】図2は、実施例1に記載の長尺材の模式図であり、(A)は長尺材の上面図を、(B)は長尺材の側面図を示す。
【図3】図3は、実施例1に記載のシート状断熱部材の模式図であり、(A)はシート状断熱材の表面を、(B)はシート状断熱材の裏面を、(C)はシート状断熱材の側面を示す。
【図4】図4は、実施例1に記載の他のシート状断熱部材の模式図であり、(A)はシート状断熱材の表面を、(B)はシート状断熱材の裏面を、(C)はシート状断熱材の側面を示す。
【図5】図5は、実施例1に記載の長尺材を超電導ケーブルの断熱内管に巻回した部分概略図であり、(A)は第1層を巻回した状態を、(B)は第1層の上に第2層を巻回した状態を示す。
【図6】図6は、従来の超電導ケーブルの断熱構造を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 超電導ケーブル
10 ケーブルコア 11 フォーマ 12 超電導導体層 13 絶縁層
14 超電導シールド層 15 保護層 16 冷媒 17 防食層
20 断熱管 21 断熱内管 22 断熱外管
30 断熱材 31 長尺材 40 補強部
32 断熱部材 320 プラスチック層 331,332 金属層 32a つなぎ目
100 第1層 110 つなぎ目 120 境目
200 第2層 210 つなぎ目 220 境目
150 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温部を区画する内区画と、内区画の外周側を区画する外区画との間に断熱材を配置してなる断熱構造であって、
前記低温部に超電導体が配置され、
前記断熱材は、シート状に形成した袋状部材を複数つなぎ合わせて形成され、
各袋状部材は、その内部に芯材が充填され、且つ、真空引きされた構造を有し、
この断熱材の熱伝導率が、0.0030W/(m・K)以下であることを特徴とする断熱構造。
【請求項2】
前記断熱材は、複数の袋状部材をつなぎ合わせた長尺材であり、この長尺材を内区画の外周側に螺旋状に巻回してなることを特徴とする請求項1に記載の断熱構造。
【請求項3】
前記長尺材は、内区画の外周側に複数層巻回されており、且つ、ある層において隣接する長尺材のターンの境目をまたぐように次の層の長尺材が配置されてなることを特徴とする請求項2に記載の断熱構造。
【請求項4】
前記長尺材は、内区画の外周側に複数層巻回されており、且つ、ある層における袋状部材のつなぎ目と、この層に隣接する層における袋状部材のつなぎ目とがずれるように配置されてなることを特徴とする請求項2に記載の断熱構造。
【請求項5】
前記超電導体は、超電導ケーブルに用いられる超電導層であることを特徴とする請求項1に記載の断熱構造。
【請求項6】
前記袋状部材は、プラスチック層に金属層をラミネートした構造を有し、この金属層は、少なくとも一部が分断されていることを特徴とする請求項1に記載の断熱構造。
【請求項7】
前記袋状部材は、プラスチック層に金属層をラミネートした構造を有し、袋状部材のうち、内区画に接触する部分には金属層がラミネートされていないことを特徴とする請求項1に記載の断熱構造。
【請求項8】
前記断熱材の外周側空間と内周側空間との間で流体の流通を防止するために、少なくとも内区画と断熱材との間に流通防止剤を配置したことを特徴とする請求項1に記載の断熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−87755(P2007−87755A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274733(P2005−274733)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】