説明

断面変動係数が低いセルロースマルチフィラメントの製造方法

本発明は、断面が極めて均一なセルロース繊維に関し、より詳しくは、断面変動係数(Coefficient of Variation of section diameter:CV(%))が低いセルロース繊維に関する。具体的に、N−メチルモルホリン−N−オキシド(以下、「NMMO」という)にセルロース粉末を溶解させて製造したマルチフィラメントを構成するモノフィラメントの断面変動係数が2.5以下となるセルロース繊維に関する。
本発明によれば、i)セルロース粉末はNMMO溶液に均一に分散、膨潤、および溶解して放射原液を製造するステップ、ii)放射原液を放射ノズルを介して空気層に放射するステップ、およびiii)空気層に放射された放射原液を凝固浴で凝固させるステップを含むライオセルマルチフィラメント工法で製造されることが特徴である。特に、前記凝固浴で凝固させるステップにおいて、凝固係数=TD’/T、およびTD’=T+T−90で表示される凝固係数が0.8〜1.3の範囲に調節され、このとき、Tは放射溶液の温度、Tは空気層に付与される冷却空気の温度、Tは凝固浴の温度をそれぞれ示すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面が極めて均一なセルロース繊維に関し、より詳しくは、断面変動係数(Coefficient of Variation of section diameter:CV(%))が低いセルロース繊維に関する。具体的に、N−メチルモルホリン−N−オキシド(以下、「NMMO」という)にセルロース粉末を溶解させて製造したマルチフィラメントを構成するモノフィラメントの断面変動係数が2.5以下となるセルロース繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ライオセル繊維は、NMMOにセルロースを溶解させた放射原液から製造された繊維であり、優れた吸湿性、乾燥強度、湿潤強度、およびモジュラスを有する。また、製造工程過程において有害物質が発生せず、ビスコースレーヨンとは違って親環境的な繊維として認識されている。このようなライオセル繊維は、レーヨンを代替してタイヤコードとして用いることができるが、タイヤコード素材として高強力を発現するためには、マルチフィラメントを構成するモノフィラメントの断面直径の均一性が必須となる。このような均一性は、モノフィラメントの断面変動係数で表示することができる。
【0003】
ライオセル繊維の製造方法と関連した先行技術を詳察すれば、特許文献1には、断面変動率が6.5%以上となるライオセル繊維について開示されている。しかしながら、特許文献1に開示された発明は、断面変動率を高めることを目的とする。さらに実施形態で開示されているように、強度が0.7〜5.0g/dの値を有しているため、産業用繊維、特にタイヤコード用繊維には適さない。
【0004】
他の先行技術である特許文献2の発明は、繊維の長手方向による断面変動率が6〜17CV%となり、繊維間の断面変動率が10〜22CV%となるライオセル繊維について開示している。しかしながら、提示された断面変動率値は、繊維の長手方向および繊維間に対するすべての値がタイヤコード用ライオセル繊維として用いるには適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2001/86043号公報
【特許文献2】US6,773,648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような公知のライオセル繊維の断面変動率を改善するために、工程内の空気層における温度と凝固浴の温度を調節して、タイヤコード用マルチフィラメントを構成するモノフィラメントの断面変動係数を2.5以下に改善する方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、空気層における冷却空気の温度と凝固浴の温度を調節し、タイヤコード用マルチフィラメントを構成するモノフィラメントの断面変動係数を2.5以下に調節して、高強力のタイヤコード用ディップコードとして用いることができるライオセル繊維を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るライオセル繊維は、凝固係数の制御によってタイヤコード用ディップコードとしての使用に適した物性を有することができる。ライオセル繊維の断面変動係数は、タイヤコードの耐疲労度を決定する重要な因子の1つとなる。本発明によって、断面変動係数は、凝固係数の調節によって必要な範囲に制限することができる。これにより、本発明は、タイヤコード用ディップコードとして適切に用いることができるライオセルマルチフィラメントを製造することができるという利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ライオセル繊維の製造工程そのものは公知されているが、それぞれの工程条件に応じて互いに異なる物性を有したライオセル繊維が製造されるようになる。特に、放射ノズルにおける放射圧力、オリフィスの直径およびオリフィスの個数、放射速度、空気層での冷却空気の温度および風速、凝固浴の温度および濃度、巻取り速度などは、ライオセル繊維の物性を決定する重要な媒介変数となる。本発明に係るライオセル繊維は、工程過程において工程条件が制御されて製造され、これにしたがってタイヤコードに適した物性を有するようになる。
【0010】
製造されたライオセル繊維の物性は、提示された因子またはその他の因子によって独立的に影響を受けるのではなく、全体的に互いに関連性を持ちながら影響を受けるようになる。本発明は、このような因子が関連性を有するように制御されることを特徴とする。
製造されたライオセル繊維の均一性に影響を及ぼす要因は、空気層で冷却される条件と凝固する条件とに分けることができる。したがって、条件因子は、空気層での冷却空気の温度と凝固浴の温度の関数である凝固係数で表現することができ、凝固係数は下記のような式で表示される。
【0011】
凝固係数=TD’/T=0.8〜1.3
(TD’=T+T−90)
前記した式において、Tは放射溶液の温度、Tは空気層に付与される冷却空気の温度、Tは凝固浴の温度をそれぞれ示す。
【0012】
本発明に係るライオセル繊維の製造過程において、凝固係数は0.8〜1.3となるように調節される。このような凝固係数の調節によって冷却された放射溶液の温度と凝固浴の温度が類似した範囲に調節され、さらに凝固浴に入った放射溶液に含まれたNMMOが凝固浴内部に最大限ゆっくりと拡散する。そして、このような緩和した拡散速度によって、モノフィラメントの均一性が向上するようになる。このような緩和した拡散速度のために凝固係数は0.8〜1.3範囲に調節され、これによって断面変動率が低いライオセル繊維が製造される過程を下記で説明する。
【0013】
ライオセル繊維の製造のための原料として、重合度が800〜1200であり、α−セルロース含有量が93%以上となるソフトウッドパルプが粉砕機を用いて平均直径が500μmである粉末形態に粉砕される。そして、水の含有量が10〜20wt%となるNMMO溶液が準備される。さらに、準備されたパルプ粉末とNMMO溶液は、圧縮機に同時に注入される。この後、90〜110℃の温度に維持された圧縮機で、セルロース粉末はNMMO溶液に均一に分散、膨潤、および溶解した後、90〜110℃の放射ラインを介して放射ノズルに移送されながら放射原液となる。そして、放射原液は、放射ノズルを介して放射されながらフィラメント糸となる。
【0014】
本発明に係るライオセル繊維の製造過程において、放射ノズルの直径は80〜130mmとすることができる。放射ノズルの直径が決定されれば、オリフィスの個数およびオリフィスの直径に対する長さ比が決定されるようになる。オリフィスの個数は800〜1200個、オリフィスの直径は800〜2000μm、オリフィスの長さは直径に対する長さ比が2〜5となるようにそれぞれ選択される。放射原液は空気層に放射される。空気層で放射原液を延伸させるために、冷却および固化が行われる。このために低い温度の空気が付与されるようになり、空気の温度は0℃〜25℃に調節されるようになる。
【0015】
空気層で冷却および固化された原液は、凝固浴において一定の濃度および温度の凝固溶液内で凝固しながらフィラメント糸となる。本発明に係るライオセル繊維は、このような凝固過程において凝固係数が予め決定された値を有するように制御され、これによって必要な物性を有することができるようになる。
条件因子は、空気層で冷却空気の温度と凝固浴の温度の関数である凝固係数で表現することができ、凝固係数は下記のような式で表示される。
【0016】
凝固係数=TD’/T、TD’=T+T−90
前記した式において、Tは放射溶液の温度、Tは空気層に付与される冷却空気の温度、Tは凝固浴の温度をそれぞれ示す。本発明に係る製造方法において、凝固係数は0.8〜1.3とすることができる。
【0017】
凝固係数の調節のために、凝固浴の濃度は、NMMOの濃度が5〜20wt%となるように調節される。凝固係数が0.8〜1.3である場合、放射原液の温度と凝固浴の温度がほぼ類似し、放射原液に存在するNMMOが凝固浴に拡散する速度が最大限低くなり、これによって均一な凝固が誘導されるようになる。したがって、マルチフィラメントを構成するモノフィラメントの断面が極めて均一になり、高強力を発現することができる。
【0018】
上記で説明した方法によって製造されたライオセル繊維は、生コードを経てディップコードとして製造される。生コードは、2本のライオセル繊維に適当な数の下撚および
上撚を加えて製造される。適切には、下撚の数/上撚の数は300/300TPM〜500/500TPMとすることができるが、上撚および下撚の数を必ずしも同じにする必要はない。下撚および上撚を加えて製造された生コードは、ディッピング液に浸漬される。この後、生コードに樹脂層が付着されれば、タイヤ用ディップコードとなる。
【0019】
本発明に係るタイヤコード用ライオセル繊維は、全体繊度が800〜3300デニール(denier)となり、それぞれのフィラメントの繊度は0.5〜2.0デニール(denier)となる。本発明によって凝固係数を0.8〜1.3に調節して製造されたライオセル繊維の物性は、下記のとおりである。
1)マルチフィラメントの強度 6.4〜8.3g/d
2)切断伸度 5.7〜7.1%
3)モノフィラメントの断面変動係数 2.5%以下
【0020】
本発明に係るライオセル繊維によって製造されたディップコードの物性は、下記のとおりである。
1)強度 4〜6g/d
2)切断伸度 5〜10%
3)耐疲労度 70〜100%
【実施例】
【0021】
以下、具体的な実施例および比較例を提示して本発明の構成および効果をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をより明確に理解させるためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0022】
実施例および比較例において、ライオセルマルチフィラメントの物性は、下記のような方法によって評価した。
【0023】
(イ)強度(g/d)および切断伸度(%)
マルチフィラメントを107℃で2時間乾燥した後に、インストロン社の低速伸張型引張試験機で測定した。測定は、マルチフィラメントに80tpm(80回twist/m)の撚りを付加した後、試料長250mm、引張速度300m/minの条件下で行われた。
【0024】
(ロ)断面変動係数CV(%)
顕微鏡を用いてマルチフィラメントのモノフィラメントそれぞれの面積を求めて断面変動係数(Coefficient of Variation)を計算した。この値は変量が分散する程度を示すものであり、標準偏差を平均値で割った値を意味する。
凝固係数に応じて製造された多様なライオセル繊維の物性を表1で提示した。
【0025】
(ハ)耐疲労度(%)
タイヤコードの疲労試験に通常的に用いられるGoodrich Disc Fatigue Testerを用いて疲労試験を行った後、残余強力を測定して耐疲労度を比較した。疲労試験は、120℃、2500RPM、圧縮10%および18%の条件下で行われ、疲労試験後、テトラクロロエチレン液に24時間浸漬してゴムを膨潤させた後、ゴムとコードを分離して残余強力を測定した。残余強力の測定は、107℃で2時間乾燥させた後、通常の引張強度試験機を用いて(イ)の方法によって測定した。
【0026】
(実施例)
実施例1
重合度(DPw)が1,200(α−セルロース含有量;97%)であるパルプ粉末と共にNMMO.1H0、没食子酸プロピル(propyl gallate)0.01wt%を用いて濃度11.5%のセルロース溶液を製造した。直径が100mmであり、オリフィス数がそれぞれ1000である放射ノズルを用い、オリフィス直径は150μmを用いた。このとき、オリフィス直径と長さの比(L/D)はすべて4であるノズルを用いた。放射ノズル(head temp.;100℃)から吐出された溶液は、空気層(air gap)距離50mmを通過する時点に温度5℃の冷却空気を5m/secの風速で付与し、最終フィラメント繊度が1,000デニールとなるように吐出量と放射速度を調節して放射した。このとき、凝固液の温度は15℃とし、凝固係数が1となるようにした。凝固浴の濃度は水80%、NMMO20%に調整し、この後に水洗および乾燥過程を経て巻き取ってフィラメント原糸を得た。得られたフィラメントの物性を表1に示した。
【0027】
実施例2および3
実施例1と同じ製造方法によってライオセルマルチフィラメントを製造した。ただし、空気層で冷却空気の温度を10℃および15℃にそれぞれ調節して付与し、凝固係数が1となるように凝固浴の温度を20℃および25℃にそれぞれ調節した。得られたフィラメントの物性を表1に示した。
【0028】
実施例4〜6
実施例1と同じ製造方法によってライオセルマルチフィラメントを製造した。ただし、最終フィラメント繊度が1,500デニールとなるように吐出量と放射速度を調節して放射した。このとき、凝固液の温度は、凝固係数が1となるようにした。得られたフィラメントの物性を表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
(比較例)
比較例1および2
実施例1と同じ製造方法を介してライオセルマルチフィラメントを製造した。ただし、凝固係数を0.75と1.33となるように、凝固浴の温度を20℃および15℃にそれぞれ調節した。得られたフィラメントの物性を表2に示した。
【0031】
比較例3および4
実施例3および4と同じ製造方法によってライオセルマルチフィラメントを製造した。ただし、凝固係数が2.5および2.0となるようにし、凝固浴の温度を10℃および15℃にそれぞれ調節して放射した。得られたフィラメントの物性を表2に示した。
【0032】
【表2】

【0033】
表1を参照すれば、凝固係数が1に調節される場合、断面変動率が減少するということが分かる。これに比べて、凝固係数が1から逸脱する場合、表2に示したように断面変動係数がそれぞれ2.7、2.9となり、モノフィラメント面積の不均一性が増加した。このとき、マルチフィラメントの強度低下はもちろん、断面変動係数が増加してモノフィラメントの均一性が低下したことが分かる。実施例1〜6は、凝固係数を1に調節して得られたライオセルマルチフィラメントの断面変動率を提示したものである。実際に凝固係数が0.8〜1に調節されれば、断面変動率が2.5以下となるライオセルマルチフィラメントが得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース粉末を、NMMO溶液に均一に分散、膨潤、および溶解して放射原液を製造するステップ;放射原液を放射ノズルを介して空気層に放射するステップ;および空気層に放射された放射原液を凝固浴で凝固させるステップを含むライオセルマルチフィラメントを製造する方法であって、
前記凝固浴で凝固させるステップは、凝固係数=TD’/T、およびTD’=T+T−90で表示される凝固係数が0.8〜1.3の範囲に調節され、前記において、Tは放射溶液の温度、Tは空気層に付与される冷却空気の温度、Tは凝固浴の温度をそれぞれ示すことを特徴とするライオセルマルチフィラメントの製造方法。
【請求項2】
前記凝固係数は、1となることを特徴とする、請求項1に記載のライオセルマルチフィラメントの製造方法。
【請求項3】
凝固浴の温度は、15〜25℃となることを特徴とする、請求項1に記載のライオセルマルチフィラメントの製造方法。
【請求項4】
ライオセルマルチフィラメントの繊度は、800〜3300デニールとなることを特徴とする、請求項1に記載のライオセルマルチフィラメントの製造方法。
【請求項5】
、T、TD’、およびTは、それぞれ100〜110℃、5〜15℃、15〜35℃、15〜35℃となることを特徴とする、請求項1に記載のライオセルマルチフィラメントの製造方法。
【請求項6】
請求項1の方法で製造され、下記のような物性を有することを特徴とするタイヤディップコード用ライオセルマルチフィラメント:
全体繊度 800〜3300デニール;
それぞれのフィラメントの繊度 0.5〜2.0デニール(denier);
強度 6.4〜8.3g/d、
切断伸度 5.7〜7.1%、
モノフィラメントの断面変動係数 2.5%以下。

【公表番号】特表2010−513739(P2010−513739A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542633(P2009−542633)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006410
【国際公開番号】WO2008/082092
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(501434948)ヒョスン・コーポレーション (18)
【氏名又は名称原語表記】HYOSUNG CORPORATION
【Fターム(参考)】