説明

新交通システム

【課題】システム評価のパラメータであるHeadwayを短縮することが可能な新交通システムを提供する。
【解決手段】変電設備の各々に、担当する送電エリアの電車線に流れる電流値を計測し、その計測結果を電力監視制御装置に送信する電流計測器を備え、電力監視制御装置によって送電エリア毎の電流値計測結果を電力情報として運行管理装置に送信する。そして、運行管理装置によって送電エリア毎の電流値計測結果を、それぞれに対応する送電エリア内に存在する車両に送信し、前記車両の各々は、運行管理装置から受信した自車両が存在する送電エリアにおける電流値の計測結果に基づいて、同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断し、他の車両の加速が終了したと判断した場合に自車両の発進制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新交通システムに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、新交通システムとは、人口の比較的密集した都市空間において鉄道とバスとの中間の輸送力を持つ公共交通機関として開発されたものであり、近年では大規模空港内における旅客移動手段としても利用されている。このような新交通システムは、専用の軌道をゴムタイヤで支持された車両が案内軌条(ガイドレール)にガイドされて走行する方式を採用しているため、快適性・低公害性・安全性に優れた輸送システムとして注目されている(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
従来の新交通システムでは、中央司令所に設置された運行管理装置によって、各駅での車両発車タイミングを一定時間ずらして同時発車させないように運行管理を行うことにより、各車両の同時加速による電力消費量の増大を抑制していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−335505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術のように、各駅での車両発車タイミングを一定時間ずらして同時発車させないように運行管理を行う場合、全車両の内、最も加速時間の長い車両に合わせて発車タイミングを遅らせる必要があり、システム評価のパラメータであるHeadway(車両通過の時間間隔)が延びるという問題があった。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、システム評価のパラメータであるHeadwayを短縮することが可能な新交通システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る新交通システムは、中央司令所に設置された運行管理装置と、前記運行管理装置によって運行状況を管理される複数の車両と、前記車両の電車線に電力を供給するために軌道上に設定された複数の送電エリア毎に設置された変電設備と、前記変電設備を監視制御する電力監視制御装置とを備える新交通システムであって、前記変電設備の各々は、担当する送電エリアの電車線に流れる電流値を計測し、その計測結果を前記電力監視制御装置に送信する電流計測器を備え、前記電力監視制御装置は、前記電流計測器の各々から受信した送電エリア毎の電流値の計測結果を電力情報として前記運行管理装置に送信し、前記運行管理装置は、前記電力監視制御装置から受信した前記送電エリア毎の電流値の計測結果を、それぞれに対応する送電エリア内に存在する車両に送信し、前記車両の各々は、前記運行管理装置から受信した自車両が存在する送電エリアにおける電流値の計測結果に基づいて、同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断し、前記他の車両の加速が終了したと判断した場合に自車両の発進制御を行う車両制御装置を備えることを特徴とする。
また、本発明に係る新交通システムにおいて、前記車両制御装置は、前記自車両が存在する送電エリアにおける電流値の計測結果を微分処理して当該電流値が下降状態にあるか否か、または定常状態にあるか否かを判断することにより、前記同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る新交通システムによれば、送電エリア毎の電車線の電流値の計測結果をその送電エリア内に存在する各車両に提供し、同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断して各車両の発車タイミングのインタロックを取ることにより無駄な車両発車待ち時間を減らすことができ、その結果、システム評価のパラメータであるHeadwayを短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る新交通システムの構成概略図である。
【図2】本実施形態の新交通システムで使用される車両1の構成概略図である。
【図3】車両1の機能ブロック構成図である。
【図4】本実施形態の新交通システムに設けられた変電設備10の担当する送電エリアにおける電車線電流値の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る新交通システムの構成概略図である。この図1に示すように、本実施形態に係る新交通システムは、例えば大規模空港内或いは市街地等に敷設された軌道W上を自動走行する車両1、2と、各駅A、Bに設置された駅装置3と、駅間の軌道W上に沿って設定された複数の閉塞区間毎に設置された位置検出用地上子4、地上無線アンテナ5及び地上無線機6と、駅間に設置された地上ATP(Automatic Train Protection)装置7と、中央司令所Cに設置された運行管理装置8とを備えている。
【0011】
駅装置3は、駅軌道上の車両定点域停止位置に配置された駅地上子3aと、駅ATO(Automatic Train Operation)装置3b及び駅管理装置3cとから構成されている。また、運行管理装置8は、手動操作盤8a、運行表示盤8b及びATS(Automatic Train Supervision)装置8cから構成されている。上記の駅ATO装置3b、駅管理装置3c、地上無線機6及び地上ATP装置7などのウェイサイド装置と、センター装置であるATS装置8cとは光ファイバを用いて構築された光ネットワークNWを介して通信可能に接続されている。
【0012】
さらに、本実施形態に係る新交通システムは、各車両1、2に電力を安定供給するためにSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)システムによって構築された電力設備を備えている。このような電力設備は、軌道Wに沿って設置された電車線CLと、軌道W上に設定された複数の送電エリア毎に設置されていると共に低圧配電線LLから受電した低圧電力を各車両1、2に必要な電力に変換して電車線CLに送電する変電設備10、11と、高圧配電線HLから受電した高圧電力を低圧電力に変換して低圧配電線LLに送電する受電設備12と、各変電設備10、11及び受電設備12による電力送電を監視制御する電力監視制御装置13とから構成されている。
【0013】
電力監視制御装置13と、各変電設備10、11及び受電設備12とは例えば光ファイバによる光ネットワーク或いはLAN(Local Area Network)等によって通信可能に接続されている。また、電力監視制御装置13と運行管理装置8(ATS装置8c)とは光ネットワークNWを介して通信可能に接続されている。
【0014】
各変電設備10、11は、それぞれの担当する送電エリアの電車線CLに流れる電流値を計測し、その計測結果(以下、電車線電流値と称す)を電力監視制御装置13に送信する電流計測器10a、10bを備えている。本実施形態では、変電設備10が担当する送電エリア内に駅A、Bが存在すると共に2台の車両1、2が走行しているものとする。
また、電力監視制御装置13は、各変電設備10、11及び受電設備12による電力送電を監視制御すると共に、電流計測器10a、10bの各々から受信した送電エリア毎の電車線電流値を電力情報として運行管理装置8(ATS装置8c)に送信する。
【0015】
なお、図1では説明の都合上、軌道W上に2台の車両1、2が存在している状況を図示しているが、編成数はこれに限定されるものではない。また、1編成中の車両数も1台に限定されるものではなく、複数台の車両を連結して1編成としても良い。駅数も2つに限らない。
【0016】
車両1、2は、駅停車中においては駅地上子3aを介して駅ATO装置3bと通信可能であり、駅ATO装置3bからの指示に応じて車両ドアの開閉動作や出発動作を自動で行う。また、これら車両1、2は、走行中に位置検出用地上子4から受信した位置信号を基に絶対位置を認識し、以降は車体に設置されたエンコーダを用いて絶対位置を起点とする走行距離を積算することで現在位置を算出する位置決め機能を備えている。
【0017】
また、これら車両1、2は、走行中においては地上無線アンテナ5及び地上無線機6を介して地上ATP装置7と通信可能であり、上述した現在位置の算出結果を地上ATP装置7に報告(送信)する一方、地上ATP装置7から現在位置の算出結果を基に閉塞区間毎に指示される制限速度を超過しないように自動運転を行う。
【0018】
また、これら車両1、2は、地上無線アンテナ5及び地上無線機6を介して中央司令所CのATS装置8cとも通信可能であり、車両情報(現在位置や走行速度、異常発生履歴など)をATS装置8cに報告する一方、緊急時にはATS装置8cからの遠隔操作指令に従って走行する。
【0019】
さらに、これら車両1、2は、駅停車中において地上無線アンテナ5及び地上無線機6を介してATS装置8cから受信した、自車両が存在する送電エリアにおける電車線電流値に基づいて、同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断し、他の車両の加速が終了したと判断した場合に自車両の発進制御を行う機能を備えている。
なお、このような各車両1、2の詳細な構成については後述する。
【0020】
駅装置3において、駅地上子3aは、駅停車中の車両1、2と通信するために駅軌道上の車両定点域停止位置に配置された有電源地上子であり、例えば誘導ループコイルなどによって構成されている。駅ATO装置3bは、駅地上子3aを介して車両1、2と通信可能であると共に、光ネットワークNWを介して中央司令所CのATS装置8cと通信可能であり、ATS装置8cからの指示に応じて車両1、2の車両ドア及び駅ホームドアの連動開閉制御、車両1、2の出発制御など駅内における車両1、2の自動運転に必要な制御を行う一方、車両1、2のブレーキ状態や車両ドア及び駅ホームドアの開閉状態などをATS装置8cに報告する。
【0021】
駅管理装置3cは、光ネットワークNWを介して中央司令所CのATS装置8cと通信可能であり、ATS装置8cからの指示に応じて駅ホーム及び駅構内の放送装置や案内表示装置、監視カメラ等の制御、自動発券機や自動改札機の管理など駅業務に必要な各種装置の制御・管理を行う装置であり、これら各種装置の状況や監視カメラによる監視映像などを駅情報としてATS装置8cに報告する。
【0022】
位置検出用地上子4は、車両1、2の絶対位置を検出するために、駅間の軌道W上における閉塞区間毎に設置された無電源地上子であり、例えば誘導ループコイルなどによって構成されている。この位置検出用地上子4は、車両1、2がその上を走行する際に誘導方式による通信によって絶対位置を示す位置信号を車両1、2に送信する。
【0023】
地上無線アンテナ5は、走行中の車両1、2と通信を行うために、閉塞区間毎に設置されたアンテナである。地上無線機6は、地上無線アンテナ5を介して車両1、2から受信した無線信号に周波数変換処理、復調処理及び復号化処理を施すことにより地上ATP装置7及びATS装置8cで処理可能な受信データを生成し、この受信データを光ネットワークNWを介して地上ATP装置7またはATS装置8cに送信する。つまり、この受信データが現在位置を示すデータであれば地上ATP装置7に送信され、車両情報を示すデータであればATS装置8cに送信される。
【0024】
また、この地上無線機6は、光ネットワークNWを介して地上ATP装置7及びATS装置8cから入力される送信データ(地上ATP装置7であれば制限速度、ATS装置8cであれば遠隔操作指令や電車線電流値)に符号化処理、変調処理及び周波数変換処理を施すことで送信用の無線信号を生成し、この無線信号を地上無線アンテナ5を介して車両1、2に送信する。
【0025】
地上ATP装置7は、地上無線アンテナ5、地上無線機6及び光ネットワークNWを介して車両1、2と通信可能であり、車両1、2から報告される現在位置と、先行車両の位置情報及び各閉塞区間の軌道情報(カーブや勾配の状態など)に基づいて現在位置に対応する閉塞区間における制限速度を決定し、その決定した制限速度を地上無線機6を介して車両1、2に送信する。
【0026】
運行管理装置8において、手動操作盤8aは、緊急時に車両1、2を手動によって遠隔操作するための操作盤であり、管理者による操作に応じた操作信号をATS装置8cに出力する。運行表示盤8bは、ATS装置8cの制御によって各車両1、2の運行状況や各駅A、Bの状況、電力設備の電力情報(各送電エリアにおける電車線電流値)などを表示する表示装置である。
【0027】
ATS装置8cは、予め設定された運行ダイヤに基づいて各車両1、2の運行及び各駅A、Bの業務を統括的に管理・監視する装置であり、光ネットワークNWを介して得られる各車両1、2の車両情報や各駅A、Bの駅情報、電力設備の電力情報(各送電エリアにおける電車線電流値)を基に各車両1、2の運行状況や各駅A、Bの状況、電力情報を運行表示盤8bに表示させる一方、緊急時には必要に応じて手動操作盤8aから入力される操作信号を遠隔操作指令として車両1、2に送信する。
【0028】
また、このATS装置8cは、駅停車中の車両1、2に対して、これら車両1、2が存在する送電エリアに対応する電車線電流値を送信する。つまり、例えば車両1が駅Aに停車中であり、車両2が駅Bに停車中である場合、ATS装置8cは、変電設備10の担当する送電エリア内に車両1、2が存在するため、変電設備10の電流計測器10aから得られる電車線電流値を車両1、2に送信する。
【0029】
続いて、図2及び図3を参照して車両1、2の構成について詳細に説明する。なお、車両1、2の構成は同一なので、以下では車両1を代表的に用いて説明する。図2は、車両1の概略構成図であり、図2(a)は軌道W上を走行する車両1の正面図、図2(b)は車両1の台車の構造を説明するための概略平面図である。
【0030】
これら図2(a)及び(b)に示すように、車両1は、乗客を収容するための本体部である車体20と、4輪のゴムタイヤ21に支持された台車22とを備えている。台車22には集電装置23及び後述の走行装置34(駆動モータ34a、駆動インバータ34b、速度検出器34c、エンコーダ34d、ブレーキ装置34e:図2では駆動モータ34aのみ図示)が設置されており、車両1は、軌道Wの側壁に沿って設置された電車線CLから電力(例えば3相交流電力)供給を受けて走行するようになっている。
【0031】
また、台車22には、ゴムタイヤ21の操舵手段として、前輪側及び後輪側の2箇所に案内バー25が取り付けられている。案内バー25の両側には案内輪26が取り付けられており、軌道側壁に設けられたガイドレール27に案内輪26をガイドさせて走行することにより、軌道Wのカーブに追従して曲がることができるようになっている。
【0032】
また、案内バー25には、案内輪26の下方に分岐案内輪28が取り付けられている。この分岐案内輪28は、軌道Wの分岐部横に設置された電気転轍機の可動案内板(図示略)にフックして車両1を所望の方向に分岐させるものであり、直進するときには電気転轍機の直進側の可動案内板がせり出してきて車両1の進路を直進方向に維持し、分岐するときには分岐側の可動案内板がせり出してきて車両1の進路を分岐方向に変更するようになっている。なお、図2(a)に示すように、駅間の軌道W上の中央には位置検出用地上子4が配置されている。
【0033】
図3は、車両1の機能ブロック構成図である。この図3に示すように、車両1は、下部アンテナ30、トランスポンダ31、車上無線アンテナ32、車上無線機33、走行装置34、ドア制御装置35、ドア開閉装置36、案内表示装置37、録音放送装置38及び車両制御装置39を備えている。
【0034】
下部アンテナ30は、軌道W上に配置された各地上子(駅地上子3a、位置検出用地上子4)と誘導方式による通信を行うためのアンテナであり、車両1の前端下部に配置されている。トランスポンダ31は、下部アンテナ30を介して各地上子から受信した信号を車両制御装置39で処理可能な受信データに変換して車両制御装置39に出力する。また、このトランスポンダ31は、車両制御装置39から入力される送信データを地上子(この場合、駅地上子3aのみ)で受信可能な送信信号に変換し、この送信信号を下部アンテナ30を介して送信する。
【0035】
車上無線アンテナ32は、図1に示す地上無線アンテナ5を介して地上無線機6と無線通信を行うためのアンテナである。車上無線機33は、車上無線アンテナ32を介して受信した無線信号に周波数変換処理、復調処理及び復号化処理を施すことにより車両制御装置39で処理可能な受信データ(例えば制限速度や遠隔操作指令、電車線電流値を示すデータ)を生成し、この受信データを車両制御装置39に出力する。また、この車上無線機33は、車両制御装置39から入力される送信データ(例えば現在位置や車両情報を示すデータ)に符号化処理、変調処理及び周波数変換処理を施すことで送信用の無線信号を生成し、この無線信号を車上無線アンテナ32を介して地上無線アンテナ5に送信する。
【0036】
走行装置34は、駆動モータ34a、駆動インバータ34b、速度検出器34c、エンコーダ34d及びブレーキ装置34eから概略構成されている。駆動モータ34aは、例えば3相交流誘導機であり、駆動インバータ34bから供給される3相交流電力によって回転することで後輪側のゴムタイヤ21を回転駆動する。駆動インバータ34bは、例えば回生ブレーキ機能を有するVVVFインバータであり、車両制御装置39の制御によって車両1を所定の速度で走行させるための3相交流電力を生成して駆動モータ34aに供給する。
【0037】
速度検出器34cは、車両1の走行速度を検出し、その検出結果を示す速度信号を車両制御装置39に出力する。エンコーダ34dは、駆動モータ34a或いはゴムタイヤ21の回転軸に取り付けられており、回転軸の回転に応じたパルス信号を車両制御装置39に出力する。ブレーキ装置34eは、例えば空気ブレーキであり、車両制御装置39の制御によってブレーキ動作を行う。
【0038】
ドア制御装置35は、車両制御装置39による制御に応じて、ドア開閉装置36によるドアの開閉、案内表示装置37による案内表示、及び録音放送装置38による車内放送の連動制御を行う。ドア開閉装置36は、ドア制御装置35の制御によってドアの開閉を行う。案内表示装置37は、ドア制御装置35の制御によってドア開閉時における案内用画面を表示する。録音放送装置38は、ドア制御装置35の制御によってドア開閉時における車内放送を行う。
【0039】
車両制御装置39は、トランスポンダ31及び車上無線機33から入力される受信データ(例えば制限速度や遠隔操作指令、電車線電流値を示すデータ)と、速度検出器34cから入力される速度信号と、エンコーダ34dから入力されるパルス信号とに基づいて車両1の走行、減速、停止、車両ドアの開閉など自動運転に必要な各種制御を行う装置であり、車上ATO装置39a及び車上ATP装置39bを備えている。
【0040】
車上ATO装置39aは、駅停車中においてはトランスポンダ21を介して駅ATO装置3bから受けた指示に応じてドア制御装置35を制御することで、車両ドアの開閉、案内表示及び車内放送を制御すると共に、走行装置34を制御することで車両1の出発制御を行う。また、この車上ATO装置31aは、走行中においては速度検出器34cから入力される速度信号から現在の走行速度を把握し、この走行速度が車上ATP装置39bから通知される制限速度を超過しないように走行装置34を制御することで自動運転を行う。
さらに、この車上ATO装置39aは、緊急時には車上無線機33を介してATS装置8cから受信した遠隔操作指令に従って走行装置34を制御する。
【0041】
また、この車上ATO装置39aは、走行中において位置検出用地上子4上を通過した際にトランスポンダ31を介して位置検出用地上子4から受信した位置信号を基に車両1の絶対位置を認識し、以降はエンコーダ26dから入力されるパルス信号を基に絶対位置を起点とする走行距離を積算することで現在位置を算出する位置決め機能を備えている。なお、この位置決め機能には、位置検出用地上子4を通過する毎に得られる絶対位置を基に現在位置を補正することで、エンコーダによる走行距離の積算誤差をリセットする機能もある。
【0042】
さらに、この車上ATO装置39aは、駅停車中において車上無線機33を介してATS装置8cから受信した、自車両が存在する送電エリアにおける電車線電流値に基づいて、同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断し、他の車両の加速が終了したと判断した場合に自車両の発進制御を行う。具体的には、車上ATO装置39aは、自車両が存在する送電エリアにおける電車線電流値を微分処理して当該電車線電流値が下降状態にあるか否か、または定常状態にあるか否かを判断することにより、同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断する。
【0043】
車上ATP装置39bは、現在位置の算出結果を車上無線機33を介して地上ATP装置7に送信する一方、地上ATP装置7からその現在位置に対応する閉塞区間毎に指示される制限速度を車上ATO装置39aに通知する。
また、このような車両制御装置39は、車上無線機33を介して車両情報(現在位置や走行速度、異常発生履歴など)をATS装置8cに送信する機能も有する。
【0044】
以下、図4を参照して、上記の車上ATO装置39aによる電車線電流値に基づく発進制御の詳細について説明する。なお、以下では、例えば車両1が駅Aに停車中であり、車両2が駅Bに停車中である場合を仮定して説明する。この場合、ATS装置8cは、変電設備10の担当する送電エリア内に車両1、2が存在するため、変電設備10の電流計測器10aから得られる電車線電流値を車両1、2に送信する。
【0045】
図4は、変電設備10の担当する送電エリアにおける電車線電流値の時間変化を示している。図4において、例えば時刻t1が車両1、2の発車時刻だと仮定する。この時刻t1において、ATS装置8cは、車両1、2の同時発車を避けるために、まず、駅Bの駅ATO装置3bを介して車両2の車上ATO装置39aに対して発車指令を送信する。車両2の車上ATO装置39aは、上記のように発車指令を受けると走行装置24を制御して自動発進する。
【0046】
そして、車両2は、時刻t1に駅Bを発車すると車上ATO装置39aによる自動運転によって目標速度まで加速を始める。このような車両2の加速中において、車両1、2が存在する送電エリア、つまり変電設備10の担当する送電エリアにおける電車線電流値は、図4に示すように加速による電力消費量の増大に伴って上昇する。そして、車両2の走行速度が目標速度に到達すると、車両2の車上ATO装置39aは加速運転から定速運転に移行する。この時、電車線電流値は加速が収束するにつれて下降していき、完全に定速運転に移行すると一定の値(定常状態)に保持される。
【0047】
つまり、駅Aに停車中の車両1は、上記のような電車線電流値が下降状態にあるか否か、または定常状態にあるか否かを判断することにより、同じ送電エリア内に存在する他の車両(この場合、車両2)の加速が終了したか否かを判断することができる。具体的には、車両1の車上ATO装置39aは、ATS装置8cから受信した電車線電流値を微分処理し、その微分処理によって得られる電車線電流値の微分値を基に電車線電流値が下降状態にあるか否か、または定常状態にあるか否かを判断することにより、同じ送電エリア内に存在する車両2の加速が終了したか否かを判断する。
【0048】
このように、車両1の車上ATO装置39aは、同じ送電エリア内に存在する車両2の加速が終了したことを判断すると、例えば電車線電流値が定常状態にある時刻t2に走行装置24を制御して自動発進する。この時刻t2以降、電車線電流値は図4に示すように、車両1の走行状況(加速、定速走行)に応じて上昇→下降→定常状態へと変化する。なお、図4では、電車線電流値が定常状態にある時刻t2に車両1を発車する場合を例示したが、電車線電流値が下降し始めた時刻から車両2の加速が終了したと判断できるため、その時刻以降の車両発車可能期間中に所望のタイミングで発車させるようにしても良い。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る新交通システムによれば、送電エリア毎の電車線電流値をその送電エリア内に存在する各車両に提供し、同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断して各車両の発車タイミングのインタロックを取ることにより無駄な車両発車待ち時間を減らすことができ、その結果、システム評価のパラメータであるHeadwayを短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
1、2…車両、3…駅装置、3a…駅地上子、3b…駅ATO装置、3c…駅管理装置、4…位置検出用地上子、5…地上無線アンテナ、6…地上無線機、7…地上ATP装置、8…運行管理装置、8a…手動操作盤、8b…運行表示盤、8c…ATS装置、10、11…変電設備、12…受電設備、13…電力監視制御装置、30…下部アンテナ、31…トランスポンダ、32…車上無線アンテナ、33…車上無線機、34…走行装置、35…ドア制御装置、36…ドア開閉装置、37…案内表示装置、38…録音放送装置、39…車両制御装置、39a…車上ATO装置、39b…車上ATP装置、A、B…駅、C…中央司令所、NW…光ネットワーク、W…軌道、CL…電車線、LL…低圧配電線、HL…高圧配電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央司令所に設置された運行管理装置と、前記運行管理装置によって運行状況を管理される複数の車両と、前記車両の電車線に電力を供給するために軌道上に設定された複数の送電エリア毎に設置された変電設備と、前記変電設備を監視制御する電力監視制御装置とを備える新交通システムであって、
前記変電設備の各々は、担当する送電エリアの電車線に流れる電流値を計測し、その計測結果を前記電力監視制御装置に送信する電流計測器を備え、
前記電力監視制御装置は、前記電流計測器の各々から受信した送電エリア毎の電流値の計測結果を電力情報として前記運行管理装置に送信し、
前記運行管理装置は、前記電力監視制御装置から受信した前記送電エリア毎の電流値の計測結果を、それぞれに対応する送電エリア内に存在する車両に送信し、
前記車両の各々は、前記運行管理装置から受信した自車両が存在する送電エリアにおける電流値の計測結果に基づいて、同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断し、前記他の車両の加速が終了したと判断した場合に自車両の発進制御を行う車両制御装置を備える、
ことを特徴とする新交通システム。
【請求項2】
前記車両制御装置は、前記自車両が存在する送電エリアにおける電流値の計測結果を微分処理して当該電流値が下降状態にあるか否か、または定常状態にあるか否かを判断することにより、前記同じ送電エリア内に存在する他の車両の加速が終了したか否かを判断することを特徴とする請求項1記載の新交通システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−254041(P2010−254041A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104280(P2009−104280)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】