新種微生物、セレンオキシアニオン吸着剤およびセレンオキシアニオンの除去方法
【課題】セレンオキシアニオンの吸着能に優れる新種微生物、該微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤および該微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法を提供する。
【解決手段】クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)が属する種に属する微生物;18SrDNAの塩基配列が特定塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレンオキシアニオン吸着能を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物;クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414);かかる微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤;かかる微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法。
【解決手段】クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)が属する種に属する微生物;18SrDNAの塩基配列が特定塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレンオキシアニオン吸着能を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物;クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414);かかる微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤;かかる微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新種微生物、該微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤および該微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、半導体材料や感光性材料として有用であることが知られているほか、ガラスの着色剤、脱色剤としても利用されるなど、産業界において利用価値の高い元素である。
その一方で、微量のセレンは人体にとって必須元素であるが、必要量以上に摂取すると毒性を示すことが知られている。そこで、水質汚濁および土壌汚染を防止するために、環境基準の指定項目となっている。
このような中、上記のような産業界においては、工場排水中にセレンが混入する可能性があり、また、セレンは石炭中にも微量含まれていることから、火力発電所等の排水にも混入する可能性があるため、このような排水中のセレンの除去は重要な課題となっている。
【0003】
工場排水中などで問題となるセレンは、セレン(6価)の化合物であるセレン酸(H2SeO4)またはその塩、セレン(4価)の化合物である亜セレン酸(H2SeO3)またはその塩である。通常これらセレン酸化合物は、工場排水などの水溶液中では、セレン酸イオン(SeO42−)の形態で、ごく一部は亜セレン酸(SeO32−)イオンの形態で、すなわち、セレンオキシアニオンとして存在していると考えられる。
【0004】
ところで、自然界の微生物には、これらセレンオキシアニオンを吸着するものがあることが知られている(特許文献1参照)。具体的には、特定の微生物を液体中においてセレンオキシアニオンと共存させることにより、該微生物はその細胞表面に存在する多糖類や脂質などの細胞外高分子にセレンオキシアニオンを吸着させるのである。この現象はバイオアドソープション(バイオソープション)として知られている。この現象を利用することで、液体中からセレンオキシアニオンを除去することができると考えられ、その他のアニオン種の除去への利用も期待されている。
このように微生物を利用して、セレン酸化合物を排水中から除去する方法は、環境負荷も少なく優れた方法であると言える。
【特許文献1】特表平7−506006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1をはじめとする、従来のバイオアドソープションを利用したセレンオキシアニオンの除去については、実用的な方法がまだ確立されていないのが現状である。
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、セレンオキシアニオンの吸着能に優れる新種微生物、該微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤および該微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)が属する種に属する微生物である。
請求項2に記載の発明は、18SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレンオキシアニオン吸着能を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物である。
請求項3に記載の発明は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤である。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、試料中のセレンオキシアニオンを効率的に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
なお、以下において、「クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)」のことを「JPCCY0075」と略記することがある。
また、本発明においては、「セレン(6価)オキシアニオン」とは「セレン酸イオン(SeO42−)」のことを指し、「セレン(4価)オキシアニオン」とは「亜セレン酸(SeO32−)イオン」のこと指す。そして、「セレンオキシアニオン」とは、「セレン(6価)オキシアニオンおよび/またはセレン(4価)オキシアニオン」のことを指す。
【0009】
<JPCCY0075の獲得>
下記手順で分離培地を作製した。
分離培地:酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、人工海水37g、クロラムフェニコール0.3g、ストレプトマイシン0.15g、アンピシリン0.1g、粉末寒天12gを純水1Lに添加し、121℃で10分間滅菌処理した後、適量を滅菌済み平板に分取して、寒天平板を作製した。
次いで、西表島の仲間川にあるマングローブ林より採取した泥(汽水域の表層泥)を生理食塩水で100倍希釈して平板に塗布して植菌し、25℃でインキュベーションを行なった。植菌後3日目に確認できたコロニーを滅菌済み爪楊枝で釣菌し、新たな酵母培地に植菌し、生育を繰り返すことで単菌化を行い、JPCCY0075を獲得した。
【0010】
<JPCCY0075の同定>
JPCCY0075の同定は、株式会社テクノスルガに委託して実施した。そして取得した検体を用いて、形態的性質、培養的性質、生理学的性質を確認し、18SrDNAの塩基配列の同定を行った。
【0011】
[形態的性質、培養的性質、生理学的性質]
(試験方法)
以下の方法で形態観察、生化学性状試験を行った。
1.培養条件
以下の条件で培養した菌株を供試菌体とした。
(1)培地;
・2%Malt extract液体培地(Kurtzman,1998)(Becton Dickinson,MD,USA)
・Yeast extract−Malt extract(YM)平板培地(Becton Dickinson,MD,USA)
・ポテトデキストロース寒天培地(PDA平板培地)「ダイゴ」(日本製薬、東京)
・2%Malt extract平板培地(Kurtzman,1998)
・1/5Malt extract平板培地(Kurtzman,1998)
(2)培養温度;25℃
(3)培養期間;2日間〜1月間
2.形態観察
以下を用いて、巨視的観察(コロニー観察)および微視的観察(形態性状観察)を行った。
(1)顕微鏡;光学顕微鏡BX50F4(オリンパス、東京)(微分干渉観察)
(2)マウント波;滅菌蒸留水
3.生化学性状試験
以下の2項目について試験を行い、方法はYarrow(1998)に準拠した。
(1)ジアゾニウム・ブルーB(DBB)反応
(2)尿素の加水分解試験(ウレアーゼ活性)
【0012】
(試験結果)
結果を以下に示す。
(1)巨視的観察(コロニー観察)
YM平板培地、PDA平板培地および1/5MA平板培地上で25℃・培養7日間、YM平板培地で25℃・培養30日間において、コロニーは以下の性状を示した。あわせて撮影した画像を図1に示す。
(A)YM平板培地(25℃・培養7日間)
・周縁の形状 全縁
・隆起状態 扁平でわずかに中央突起形
・表面の形状 平滑
・光沢および性状 光沢あり、湿性
・色調 クリーム色
(B)PDA平板培地(25℃・培養7日間)
・周縁の形状 全縁
・隆起状態 扁平でわずかに半レンズ形
・表面の形状 平滑
・光沢および性状 光沢あり、湿性
・色調 クリーム色
(C)1/5MA平板培地(25℃・培養7日間)
・周縁の形状 乱糸状
・隆起状態 扁平
・表面の形状 平滑
・光沢および性状 中央部は光沢あり、湿性
・色調 クリーム色
(D)YM平板培地(25℃・培養30日間)
・周縁の形状 全縁
・隆起状態 扁平な中央突起形
・表面の形状 平滑、環紋状
・光沢および性状 光沢あり、バター様、湿性
・色調 黄色味を帯びたクリーム色
【0013】
(2)微視的観察(形態性状観察)
2%Malt extract液体培地で25℃・培養開始5日目に、栄養細胞は(3〜7)×(2.8〜3.5)μmの倒洋梨形、球形から楕円形などを含む多形性を示し、増殖は極出芽によることが確認された。この時の撮影画像を図2に示す。
YM平板培地においても動揺の特徴を示した。この時の撮影画像を図3に示す。
1/5MA平板培地においては、25℃・培養開始4日目に、栄養細胞は多形性を示したが、球形のものが多数観察された。この時の撮影画像を図4に示す。
YM平板培地で25℃・培養開始6〜10日目に、菌糸および偽菌糸が確認された。この時の撮影画像を図5に示す。
1/5MA平板培地においては、25℃・培養開始4日目に、ラケット形の細胞が繋がった菌糸が確認された。この時の撮影画像を図6に示す。
また、培養1ヶ月を経過した平板で有性生殖器官の形成は認められなかった。
【0014】
(3)生化学性状試験
ジアゾニウム・ブルーB(DBB)反応と尿素の加水分解試験(ウレアーゼ活性)を行った結果、いずれも陽性を示した。
【0015】
(4)考察
JPCCY0075は、クリーム色から黄色味を帯びた、周縁部が全縁から乱糸状のコロニーを形成し、その栄養細胞は多形性で、極出芽により増殖し、菌糸および偽菌糸を形成し、有性生殖器官の形成は認められなかった。これらの形態的特徴は、「The Yeasts, a taxonomic study,第4版,Kurtzman and Fell,1998」や「Yeasts,第3版,Barnett et al.,2000」に記載されているクリプトコッカス(Cryptococcus)属(以下、クリプトコッカス属と略記する)の特徴と一致していた。
また、ジアゾニウム・ブルーB(DBB)反応は、子のう菌系酵母で陰性(淡黄色か無色)、担子菌系酵母で陽性(赤色)を示し、尿素の加水分解試験(ウレアーゼ活性)は、子のう菌系酵母のほとんどで陰性、担子菌系酵母で陽性を示すことがすでに報告されており(Yarrow,1998)、JPCCY0075は、ジアゾニウム・ブルーB(DBB)反応と尿素の加水分解試験(ウレアーゼ活性)でいずれも陽性を示したことから、JPCCY0075は、担子菌系酵母であると判断された。
【0016】
(試験方法)
以下に示す項目について、生理性状試験を行った。
試験方法は、Barnett et al.,(2000)およびKurtzman and Fell(1998)に準拠し、培養は温度耐性試験を除き25℃で行った。糖類発酵性試験、炭素源資化性試験、各種耐性試験においては、4週間まで培養し、生育の有無を確認した。
試験項目;糖類発酵性試験、炭素源資化性試験、窒素源資化性試験、ビタミン要求性試験、温度耐性試験(30℃および35℃)、薬剤耐性試験
【0017】
(試験結果)
結果を表1〜5に示す。表1〜5中の符号は以下の意味を有する。
+・・・反応が陽性
−・・・反応が陰性
W・・・反応が弱い陽性(weak)
S・・・試験開始後に2週間から3週間以上かけて徐々に陽性反応が認められた(slow)
L・・・試験開始2週間以降に急速に陽性反応が認められた(latent)
なお、糖類発酵性培地における培養では、皮膜(ring)と沈殿(sediment)を生じた。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
【表3】
【0021】
【表4】
【0022】
【表5】
【0023】
(考察)
JPCCY0075の生理性状を、「The Yeasts, a taxonomic study,第4版,Kurtzman and Fell,1998」に記載されているクリプトコッカス(Cryptococcus)属の特徴と比較した。その結果、表1〜5に示すように、JPCCY0075は、ウレアーゼ活性およびジアゾニウム・ブルーB(DBB)によるコロニーの呈色を示し、糖類発酵性を示さず、これらの特徴はクリプトコッカス属の特徴と一致した。
また、クリプトコッカス属の公知種の中では、クリプトコッカス ポゾリカス(Cryptococcus podzolicus)に類似した特徴を示したが、JPCCY0075が可溶性デンプンの資化性、リビトールの培養開始4週目の急速な資化性、30℃での生育性、10%NaCl/5%グルコース培地での緩やかな生育性を示し、ビタミン欠乏培地での生育性が弱かった点において、クリプトコッカス ポゾリカス(Cryptococcus podzolicus)とは相違が認められた。
以上より、JPCCY0075は、クリプトコッカス属に属する新種であると判断された。
【0024】
(塩基配列)
JPCCY0075の18SrDNAを、公知の方法により同定した結果、配列番号1に示す塩基配列を有することが確認された。
【0025】
本発明のJPCCY0075は、平成19年9月25日付けで受託番号NITE P−414として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託されている。
【0026】
<新種微生物>
本発明の微生物は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株である。そして本発明は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株が属する種に属する微生物、および18SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレンオキシアニオン吸着能を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物を包含する。このような微生物は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株と同種の微生物であると考えられる。
【0027】
本発明の微生物は、セレンオキシアニオンを、可逆的または不可逆的に捕捉するものであり、「セレンオキシアニオン吸着能」とは、このような捕捉する能力のことを指す。
本発明の微生物がセレンオキシアニオン吸着能を有するのは、該微生物の細胞表層に存在する多糖類や脂質等の細胞外高分子にセレンオキシアニオンが捕捉されたり、細胞内にセレンオキシアニオンが取り込まれたりすることによるものと推測される。
また、本発明の微生物は、セレンオキシアニオン以外のイオン種を高濃度で含有する試料中においても、セレンオキシアニオンを吸着できる。特に、陰イオンの存在下においてもセレンオキシアニオンを吸着でき、セレンオキシアニオンを選択的に吸着する能力が高い。
【0028】
本発明の微生物は、前記分離培地で分離後、生育用培地で前培養および本培養を行ってから用いるのが好ましい。生育用培地は、酵母エキス、グルコース、ペプトン等の生育に好適な成分を含有するものであれば良く、液体培地および固体培地のいずれでも良いが、液体培地が好ましい。液体培地を用いる場合には、振とう培養または撹拌培養することが好ましく、振とう培養することがより好ましい。
培養に用いる培地は、例えば、100〜130℃で5〜15分間滅菌処理することが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲において、培地にはその他の成分を含有させても良い。
培地のpH、培養温度、培養時間、微生物の植菌量等の培養条件は、目的に応じて適宜調整できるが、概ね以下の通りである。
培地のpHは、例えば、生育用の液体培地であれば、2.0〜8.0であることが好ましく、3.5〜7.5であることがより好ましい。
培養温度は、15〜38℃であることが好ましく、20〜30℃であることがより好ましい。
培養時間は、生育状況に応じて適宜選択すれば良いが、通常20時間以上であることが好ましく、30時間以上であることがより好ましい。
試料へ添加する前の培養時における微生物の植菌量は特に限定されない。
【0029】
<セレンオキシアニオン吸着剤>
本発明のセレンオキシアニオン吸着剤は、上記本発明の微生物を有効成分として含有するものである。そして、含有される本発明の微生物は、一種単独でも良いし、二種以上でも良い。二種以上である場合には、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0030】
セレンオキシアニオン吸着剤としては、例えば、本発明の微生物を培養して得られた培養液をそのまま用いても良いし、該培養液をろ過して得られるろ過物を用いても良く、該ろ過物を乾燥して用いても良い。または、培養後の本発明の微生物を精製処理したものを用いても良い。乾燥する場合には、送風乾燥、凍結乾燥等、公知の方法で乾燥すれば良い。
このように、本発明のセレンオキシアニオン吸着剤においては、生存状態の微生物(生菌)だけでなく、本発明の微生物を乾燥処理したもの(乾燥菌体)や精製処理したものを用いることもでき、有効成分である微生物の生死は問わない。
【0031】
セレンオキシアニオン吸着剤には、必要に応じて本発明の効果を妨げない範囲で、各種添加剤を添加しても良い。さらに本発明の微生物を、例えば、寒天、ゲランガムなどの天然物高分子ゲル;アクリルアミド;紫外線硬化樹脂などの高分子樹脂;炭素繊維、中空子膜、不織布などの繊維;などに固定化して用いても良い。固定化は内包、表面固定のいずれでも良い。
【0032】
セレンオキシアニオン吸着剤中における本発明の微生物の含有量は、特に限定されるものではなく、添加対象である試料の形態、該試料中のセレンオキシアニオンの含有量、セレンオキシアニオン吸着剤の形態等に応じて適宜選択し得る。通常は、本発明の微生物の含有量が多いほど、セレンオキシアニオンの吸着力が高くなる点で好ましい。
【0033】
<セレンオキシアニオンの除去方法>
本発明のセレンオキシアニオンの除去方法は、上記本発明の微生物を用いるものである。
本発明の微生物はセレンオキシアニオン吸着能を有するので、セレンオキシアニオンを含有する試料に該微生物を添加することで、試料中のセレンオキシアニオンが該微生物に吸着される。この後、セレンオキシアニオンが吸着された前記微生物を試料から分離すれば、試料中からセレンオキシアニオンを除去できる。
【0034】
ここで試料とは、セレンオキシアニオンを含有するものであれば特に限定されず、具体的には、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水等が例示できる。なかでも水分含有率の高いものが好適である。
試料中に、セレン(6価)の化合物であるセレン酸(H2SeO4)やその塩、あるいはセレン(4価)の化合物である亜セレン酸(H2SeO4)やその塩(以下、これらをセレン酸化合物と略記する)が存在すると、その一部は水共存下において遊離状態のセレンオキシアニオンとなり、本発明の微生物に吸着される。そして、試料中における遊離状態のセレンオキシアニオンの量が低下すると、残存しているセレン酸化合物の一部がさらに遊離状態のセレンオキシアニオンとなり、同様に本発明の微生物に吸着されると推測され、試料中における遊離状態のセレン酸化合物の量も低減できる。
【0035】
試料に微生物を添加する際は、本発明のセレンオキシアニオン吸着剤を添加すれば良い。
前記微生物の添加量は、特に限定されるものではなく、添加対象である試料の形態、該試料のセレンオキシアニオンの含有量、セレンオキシアニオン吸着剤の形態等に応じて適宜選択し得る。例えば、10ppm以下のセレンオキシアニオンを含有する水溶液に、生菌を添加する場合には、添加後の微生物の濃度(細胞濃度)が1.0×107〜1.0×1011cells/mLとなるように添加することが好ましく、乾燥菌体を添加する場合には、添加後の微生物の濃度が1〜100mg/mLとなるように添加することが好ましい。
【0036】
添加する前記微生物は、セレンオキシアニオン吸着剤の説明で述べたように、生存状態および非生存状態のいずれでも良い。ただし、非生存状態である場合には、例えば細胞構造、特に細胞表層構造が著しく損なわれていないものが好ましく、このようなものとしては、先に述べた微生物を乾燥処理したもの、特に凍結乾燥処理したものが例示できる。
【0037】
生存状態の微生物を添加する場合には、添加後の試料中において該微生物が増殖できるように試料の組成を調整することが好ましい。そのためには、先に述べた微生物の獲得条件や培養条件を参考に、試料の組成を調整すれば良く、例えば、本発明の微生物の生育に好適な前記成分を試料に適宜添加したものを培地とし、それ以外は先に述べた培養条件を参考に培養すると良い。このような方法は、セレンオキシアニオンの除去対象が、例えば、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水等であっても適用できる。
【0038】
前記微生物を添加後は、試料を混合することが好ましい。前記微生物を試料中に均一に分散させることにより、セレンオキシアニオンの吸着効率を高めることができる。試料の混合方法は、振とう、撹拌等の公知の方法から任意に選択できるが、振とうが好ましい。
微生物添加後の試料の温度、混合方法、混合時間等の各種条件は、適宜目的に応じて選択すれば良い。例えば、水溶液中のセレンオキシアニオンを除去する場合には、微生物が生存状態にあるか非生存状態にあるかを問わず、該微生物を培地で培養する際と同様の条件を適用できる。
【0039】
セレンオキシアニオンが吸着された前記微生物を試料から分離する方法は、吸着時の試料の状態に応じて、公知の固液分離の手法から任意に選択できる。具体的には、例えば、フィルターを用いてろ過しても良いし、遠心分離機を用いて固液分離しても良い。固液分離前には適宜必要に応じて、希釈や洗浄等の前処理を行っても良い。
【実施例】
【0040】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
<JPCCY0075の生菌を用いた純水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間、150rpmで振とう培養後、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の生菌を回収した。
【0042】
(純水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去)
高純度のセレン酸ナトリウムを純水に混合して、セレン(6価)オキシアニオンの最終濃度を2.1ppmに調整した後、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLに、回収したJPCCY0075の菌体を細胞数が2.9×109cells、1.4×1010cells、2.3×1010cells、2.9×1010cellsとなるようにそれぞれ混合し、24時間振とうしながらインキュベーションした。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(6価)オキシアニオンの測定に供した。
【0043】
(測定結果)
測定結果を図7に示す。図7に示すグラフの縦軸は上清のセレン(6価)オキシアニオンの濃度を示す。図7から明らかなように、セレン(6価)オキシアニオンの除去量は、細胞数が増加するに従って増加することが確認され、2.3×1010cells以上の細胞数において、セレン(6価)オキシアニオンの濃度が0.1ppm以下となった。このことから、JPCCY0075の生菌により、吸着によってセレン(6価)オキシアニオンを除去できることが確認された。
【0044】
[実施例2]
<JPCCY0075の乾燥菌体を用いた純水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間培養後、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の菌体を全量回収した。次いで、回収した菌体を−80℃で凍結保存した後、凍結乾燥機にて乾燥し、乳鉢ですり潰して乾燥菌体とした。
【0045】
(純水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去)
高純度のセレン酸ナトリウムを純水に混合して、セレン(6価)オキシアニオンの最終濃度を2.1ppmに調整した後、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLを、前記乾燥菌体0.1g、0.3g、0.5gにそれぞれ混合し、L字型試験管に全量を移して、振とう器で24時間振とう培養を行った。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(6価)オキシアニオンの測定に供した。
【0046】
(測定結果)
測定結果を図8に示す。図8に示すグラフの縦軸は上清のセレン(6価)オキシアニオンの濃度を示す。図8から明らかなように、乾燥菌体を用いた場合でも、溶液中のセレン酸濃度が減少することが確認され、乾燥菌体添加量が最も多い0.5gの時に、約1.3ppmのセレン(6価)オキシアニオンが除去された。このことから、JPCCY0075の乾燥菌体により、吸着によってセレン(6価)オキシアニオンを除去できることが確認された。
【0047】
[実施例3]
<JPCCY0075の生菌を用いた実排水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去(1)>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間培養後、測定に必要な分量を分取して、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の生菌を回収した。
【0048】
(実排水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去)
高純度のセレン酸ナトリウムを発電所硝化槽排水に混合して、セレン(6価)オキシアニオンの最終濃度を2.3ppmに調整し、さらに5N塩酸でpHを4に調整してから、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLを、回収したJPCCY0075の菌体2.0×109cells、6.0×109cells、1.0×1010cells、1.6×1010cells、2.0×1010cellsにそれぞれ混合し、L字型試験管に全量を移して、振とう器で24時間振とう培養を行った。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(6価)オキシアニオンの測定に供した。
【0049】
(測定結果)
測定結果を図9に示す。図9に示すグラフの縦軸は上清のセレン(6価)オキシアニオンの濃度を示す。図9から明らかなように、セレン(6価)オキシアニオンは、実排水中でも除去できることが確認され、1.6×1010cellsの細胞数において最も除去効果が高く、セレン(6価)オキシアニオンの濃度が1.7ppmとなり、セレン(6価)オキシアニオンの除去量は0.5mgであった。純水中の場合よりも除去量が少ないが、除去を多段階で行い、除去処理の回数を増やすことで、実排水中のセレン(6価)オキシアニオンも全量除去することが可能である。
また、使用した硝化槽排水中には、カルシウムイオンが1500ppm程度、塩化物イオンが4000ppm程度、ナトリウムイオンが2500ppm程度、硫酸イオンが1500ppm程度それぞれ含有されるが、このように、その他のイオン種を高濃度で含有し、しかも陰イオンである塩化物イオン、硫酸イオン共存下においても、セレンオキシアニオンを除去できることが確認された。
【0050】
[実施例4]
<JPCCY0075の生菌を用いた純水中のセレン(4価)オキシアニオンの除去>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間、150rpmで振とう培養後、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の生菌を回収した。
【0051】
(純水中のセレン(4価)オキシアニオンの除去)
高純度の亜セレン酸ナトリウムを純水に混合して、セレン(4価)オキシアニオンの最終濃度を1.6ppmに調整した後、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLに、回収したJPCCY0075の菌体を2.0×109cells、1.0×1010cells、1.6×1010cells、2.0×1010cellsとなるようにそれぞれ混合し、24時間振とうしながらインキュベーションした。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(4価)オキシアニオンの測定に供した。
【0052】
(測定結果)
測定結果を図10に示す。図10に示すグラフの縦軸は上清のセレン(4価)オキシアニオンの濃度を示す。図10から明らかなように、2.0×109cellsの細胞数で1.5ppm以上のセレン(4価)オキシアニオンが除去されており、それ以上の細胞数においても、セレン(4価)オキシアニオンの濃度は0.1ppm以下となっていた。このことから、JPCCY0075の生菌により、吸着によってセレン(4価)オキシアニオンを効率的に除去できることが確認された。
【0053】
[実施例5]
<JPCCY0075の生菌を用いた実排水中のセレン(4価)オキシアニオンの除去>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で釣菌して植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間培養後、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の生菌を回収した。
【0054】
(実排水中のセレン(4価)オキシアニオンの除去)
高純度の亜セレン酸ナトリウムを発電所硝化槽排水に混合して、セレン(4価)オキシアニオンの最終濃度を2.2ppmに調整し、さらに5N塩酸でpHを4に調整してから、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLに、回収したJPCCY0075の菌体を2.0×109cells、1.0×1010cells、1.6×1010cells、2.0×1010cellsとなるようにそれぞれ混合し、24時間振とうしながらインキュベーションした。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(4価)オキシアニオンの測定に供した。
【0055】
(測定結果)
測定結果を図11に示す。図11に示すグラフの縦軸は上清のセレン(4価)オキシアニオンの濃度を示す。図11から明らかなように、実排水中でも、2.0×109cellsの細胞数で2.1ppmのセレン(4価)オキシアニオンを除去できることが確認された。それ以上の細胞数においても、セレン(4価)オキシアニオンの濃度は0.1ppm以下になることが確認された。このことから、JPCCY0075の生菌により、吸着によってセレン(4価)オキシアニオンを純水中の場合と同等レベルで除去できることが示された。
また、使用した硝化槽排水は実施例3で使用したものと同じであり、したがって、セレンオキシアニオン以外のイオン種を高濃度で含有し、しかも陰イオン共存下においても、セレンオキシアニオンを除去できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、排水、土壌および汚泥中などのセレン酸化合物の除去に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】JPCCY0075のコロニーの撮影画像であり、(a)はYM平板培地(25℃・培養7日間)、(b)はPDA平板培地(25℃・培養7日間)、(c)は1/5MA平板培地(25℃・培養7日間)、(d)YM平板培地(25℃・培養30日間)でそれぞれ培養した時のコロニーの撮影画像である。
【図2】2%Malt extract液体培地(25℃・培養5日間)上の栄養細胞の撮影画像(1500倍)である。
【図3】YM平板培地(25℃・培養4日間)上の栄養細胞の撮影画像(1500倍)である。
【図4】1/5MA平板培地(25℃・培養4日間)上の栄養細胞の撮影画像(1500倍)である。
【図5】YM平板培地上の栄養細胞の撮影画像であり、(a)は25℃・培養10日間の撮影画像(600倍)、(b)は25℃・培養4日間の撮影画像(1500倍)である。
【図6】1/5MA平板培地(25℃・培養4日間)上の菌糸の撮影画像(1500倍)である。
【図7】実施例1におけるセレン(6価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【図8】実施例2におけるセレン(6価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【図9】実施例3におけるセレン(6価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【図10】実施例4におけるセレン(4価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【図11】実施例5におけるセレン(4価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新種微生物、該微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤および該微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、半導体材料や感光性材料として有用であることが知られているほか、ガラスの着色剤、脱色剤としても利用されるなど、産業界において利用価値の高い元素である。
その一方で、微量のセレンは人体にとって必須元素であるが、必要量以上に摂取すると毒性を示すことが知られている。そこで、水質汚濁および土壌汚染を防止するために、環境基準の指定項目となっている。
このような中、上記のような産業界においては、工場排水中にセレンが混入する可能性があり、また、セレンは石炭中にも微量含まれていることから、火力発電所等の排水にも混入する可能性があるため、このような排水中のセレンの除去は重要な課題となっている。
【0003】
工場排水中などで問題となるセレンは、セレン(6価)の化合物であるセレン酸(H2SeO4)またはその塩、セレン(4価)の化合物である亜セレン酸(H2SeO3)またはその塩である。通常これらセレン酸化合物は、工場排水などの水溶液中では、セレン酸イオン(SeO42−)の形態で、ごく一部は亜セレン酸(SeO32−)イオンの形態で、すなわち、セレンオキシアニオンとして存在していると考えられる。
【0004】
ところで、自然界の微生物には、これらセレンオキシアニオンを吸着するものがあることが知られている(特許文献1参照)。具体的には、特定の微生物を液体中においてセレンオキシアニオンと共存させることにより、該微生物はその細胞表面に存在する多糖類や脂質などの細胞外高分子にセレンオキシアニオンを吸着させるのである。この現象はバイオアドソープション(バイオソープション)として知られている。この現象を利用することで、液体中からセレンオキシアニオンを除去することができると考えられ、その他のアニオン種の除去への利用も期待されている。
このように微生物を利用して、セレン酸化合物を排水中から除去する方法は、環境負荷も少なく優れた方法であると言える。
【特許文献1】特表平7−506006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1をはじめとする、従来のバイオアドソープションを利用したセレンオキシアニオンの除去については、実用的な方法がまだ確立されていないのが現状である。
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、セレンオキシアニオンの吸着能に優れる新種微生物、該微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤および該微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)が属する種に属する微生物である。
請求項2に記載の発明は、18SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレンオキシアニオン吸着能を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物である。
請求項3に記載の発明は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)である。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤である。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、試料中のセレンオキシアニオンを効率的に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
なお、以下において、「クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)」のことを「JPCCY0075」と略記することがある。
また、本発明においては、「セレン(6価)オキシアニオン」とは「セレン酸イオン(SeO42−)」のことを指し、「セレン(4価)オキシアニオン」とは「亜セレン酸(SeO32−)イオン」のこと指す。そして、「セレンオキシアニオン」とは、「セレン(6価)オキシアニオンおよび/またはセレン(4価)オキシアニオン」のことを指す。
【0009】
<JPCCY0075の獲得>
下記手順で分離培地を作製した。
分離培地:酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、人工海水37g、クロラムフェニコール0.3g、ストレプトマイシン0.15g、アンピシリン0.1g、粉末寒天12gを純水1Lに添加し、121℃で10分間滅菌処理した後、適量を滅菌済み平板に分取して、寒天平板を作製した。
次いで、西表島の仲間川にあるマングローブ林より採取した泥(汽水域の表層泥)を生理食塩水で100倍希釈して平板に塗布して植菌し、25℃でインキュベーションを行なった。植菌後3日目に確認できたコロニーを滅菌済み爪楊枝で釣菌し、新たな酵母培地に植菌し、生育を繰り返すことで単菌化を行い、JPCCY0075を獲得した。
【0010】
<JPCCY0075の同定>
JPCCY0075の同定は、株式会社テクノスルガに委託して実施した。そして取得した検体を用いて、形態的性質、培養的性質、生理学的性質を確認し、18SrDNAの塩基配列の同定を行った。
【0011】
[形態的性質、培養的性質、生理学的性質]
(試験方法)
以下の方法で形態観察、生化学性状試験を行った。
1.培養条件
以下の条件で培養した菌株を供試菌体とした。
(1)培地;
・2%Malt extract液体培地(Kurtzman,1998)(Becton Dickinson,MD,USA)
・Yeast extract−Malt extract(YM)平板培地(Becton Dickinson,MD,USA)
・ポテトデキストロース寒天培地(PDA平板培地)「ダイゴ」(日本製薬、東京)
・2%Malt extract平板培地(Kurtzman,1998)
・1/5Malt extract平板培地(Kurtzman,1998)
(2)培養温度;25℃
(3)培養期間;2日間〜1月間
2.形態観察
以下を用いて、巨視的観察(コロニー観察)および微視的観察(形態性状観察)を行った。
(1)顕微鏡;光学顕微鏡BX50F4(オリンパス、東京)(微分干渉観察)
(2)マウント波;滅菌蒸留水
3.生化学性状試験
以下の2項目について試験を行い、方法はYarrow(1998)に準拠した。
(1)ジアゾニウム・ブルーB(DBB)反応
(2)尿素の加水分解試験(ウレアーゼ活性)
【0012】
(試験結果)
結果を以下に示す。
(1)巨視的観察(コロニー観察)
YM平板培地、PDA平板培地および1/5MA平板培地上で25℃・培養7日間、YM平板培地で25℃・培養30日間において、コロニーは以下の性状を示した。あわせて撮影した画像を図1に示す。
(A)YM平板培地(25℃・培養7日間)
・周縁の形状 全縁
・隆起状態 扁平でわずかに中央突起形
・表面の形状 平滑
・光沢および性状 光沢あり、湿性
・色調 クリーム色
(B)PDA平板培地(25℃・培養7日間)
・周縁の形状 全縁
・隆起状態 扁平でわずかに半レンズ形
・表面の形状 平滑
・光沢および性状 光沢あり、湿性
・色調 クリーム色
(C)1/5MA平板培地(25℃・培養7日間)
・周縁の形状 乱糸状
・隆起状態 扁平
・表面の形状 平滑
・光沢および性状 中央部は光沢あり、湿性
・色調 クリーム色
(D)YM平板培地(25℃・培養30日間)
・周縁の形状 全縁
・隆起状態 扁平な中央突起形
・表面の形状 平滑、環紋状
・光沢および性状 光沢あり、バター様、湿性
・色調 黄色味を帯びたクリーム色
【0013】
(2)微視的観察(形態性状観察)
2%Malt extract液体培地で25℃・培養開始5日目に、栄養細胞は(3〜7)×(2.8〜3.5)μmの倒洋梨形、球形から楕円形などを含む多形性を示し、増殖は極出芽によることが確認された。この時の撮影画像を図2に示す。
YM平板培地においても動揺の特徴を示した。この時の撮影画像を図3に示す。
1/5MA平板培地においては、25℃・培養開始4日目に、栄養細胞は多形性を示したが、球形のものが多数観察された。この時の撮影画像を図4に示す。
YM平板培地で25℃・培養開始6〜10日目に、菌糸および偽菌糸が確認された。この時の撮影画像を図5に示す。
1/5MA平板培地においては、25℃・培養開始4日目に、ラケット形の細胞が繋がった菌糸が確認された。この時の撮影画像を図6に示す。
また、培養1ヶ月を経過した平板で有性生殖器官の形成は認められなかった。
【0014】
(3)生化学性状試験
ジアゾニウム・ブルーB(DBB)反応と尿素の加水分解試験(ウレアーゼ活性)を行った結果、いずれも陽性を示した。
【0015】
(4)考察
JPCCY0075は、クリーム色から黄色味を帯びた、周縁部が全縁から乱糸状のコロニーを形成し、その栄養細胞は多形性で、極出芽により増殖し、菌糸および偽菌糸を形成し、有性生殖器官の形成は認められなかった。これらの形態的特徴は、「The Yeasts, a taxonomic study,第4版,Kurtzman and Fell,1998」や「Yeasts,第3版,Barnett et al.,2000」に記載されているクリプトコッカス(Cryptococcus)属(以下、クリプトコッカス属と略記する)の特徴と一致していた。
また、ジアゾニウム・ブルーB(DBB)反応は、子のう菌系酵母で陰性(淡黄色か無色)、担子菌系酵母で陽性(赤色)を示し、尿素の加水分解試験(ウレアーゼ活性)は、子のう菌系酵母のほとんどで陰性、担子菌系酵母で陽性を示すことがすでに報告されており(Yarrow,1998)、JPCCY0075は、ジアゾニウム・ブルーB(DBB)反応と尿素の加水分解試験(ウレアーゼ活性)でいずれも陽性を示したことから、JPCCY0075は、担子菌系酵母であると判断された。
【0016】
(試験方法)
以下に示す項目について、生理性状試験を行った。
試験方法は、Barnett et al.,(2000)およびKurtzman and Fell(1998)に準拠し、培養は温度耐性試験を除き25℃で行った。糖類発酵性試験、炭素源資化性試験、各種耐性試験においては、4週間まで培養し、生育の有無を確認した。
試験項目;糖類発酵性試験、炭素源資化性試験、窒素源資化性試験、ビタミン要求性試験、温度耐性試験(30℃および35℃)、薬剤耐性試験
【0017】
(試験結果)
結果を表1〜5に示す。表1〜5中の符号は以下の意味を有する。
+・・・反応が陽性
−・・・反応が陰性
W・・・反応が弱い陽性(weak)
S・・・試験開始後に2週間から3週間以上かけて徐々に陽性反応が認められた(slow)
L・・・試験開始2週間以降に急速に陽性反応が認められた(latent)
なお、糖類発酵性培地における培養では、皮膜(ring)と沈殿(sediment)を生じた。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
【表3】
【0021】
【表4】
【0022】
【表5】
【0023】
(考察)
JPCCY0075の生理性状を、「The Yeasts, a taxonomic study,第4版,Kurtzman and Fell,1998」に記載されているクリプトコッカス(Cryptococcus)属の特徴と比較した。その結果、表1〜5に示すように、JPCCY0075は、ウレアーゼ活性およびジアゾニウム・ブルーB(DBB)によるコロニーの呈色を示し、糖類発酵性を示さず、これらの特徴はクリプトコッカス属の特徴と一致した。
また、クリプトコッカス属の公知種の中では、クリプトコッカス ポゾリカス(Cryptococcus podzolicus)に類似した特徴を示したが、JPCCY0075が可溶性デンプンの資化性、リビトールの培養開始4週目の急速な資化性、30℃での生育性、10%NaCl/5%グルコース培地での緩やかな生育性を示し、ビタミン欠乏培地での生育性が弱かった点において、クリプトコッカス ポゾリカス(Cryptococcus podzolicus)とは相違が認められた。
以上より、JPCCY0075は、クリプトコッカス属に属する新種であると判断された。
【0024】
(塩基配列)
JPCCY0075の18SrDNAを、公知の方法により同定した結果、配列番号1に示す塩基配列を有することが確認された。
【0025】
本発明のJPCCY0075は、平成19年9月25日付けで受託番号NITE P−414として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託されている。
【0026】
<新種微生物>
本発明の微生物は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株である。そして本発明は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株が属する種に属する微生物、および18SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレンオキシアニオン吸着能を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物を包含する。このような微生物は、クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株と同種の微生物であると考えられる。
【0027】
本発明の微生物は、セレンオキシアニオンを、可逆的または不可逆的に捕捉するものであり、「セレンオキシアニオン吸着能」とは、このような捕捉する能力のことを指す。
本発明の微生物がセレンオキシアニオン吸着能を有するのは、該微生物の細胞表層に存在する多糖類や脂質等の細胞外高分子にセレンオキシアニオンが捕捉されたり、細胞内にセレンオキシアニオンが取り込まれたりすることによるものと推測される。
また、本発明の微生物は、セレンオキシアニオン以外のイオン種を高濃度で含有する試料中においても、セレンオキシアニオンを吸着できる。特に、陰イオンの存在下においてもセレンオキシアニオンを吸着でき、セレンオキシアニオンを選択的に吸着する能力が高い。
【0028】
本発明の微生物は、前記分離培地で分離後、生育用培地で前培養および本培養を行ってから用いるのが好ましい。生育用培地は、酵母エキス、グルコース、ペプトン等の生育に好適な成分を含有するものであれば良く、液体培地および固体培地のいずれでも良いが、液体培地が好ましい。液体培地を用いる場合には、振とう培養または撹拌培養することが好ましく、振とう培養することがより好ましい。
培養に用いる培地は、例えば、100〜130℃で5〜15分間滅菌処理することが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲において、培地にはその他の成分を含有させても良い。
培地のpH、培養温度、培養時間、微生物の植菌量等の培養条件は、目的に応じて適宜調整できるが、概ね以下の通りである。
培地のpHは、例えば、生育用の液体培地であれば、2.0〜8.0であることが好ましく、3.5〜7.5であることがより好ましい。
培養温度は、15〜38℃であることが好ましく、20〜30℃であることがより好ましい。
培養時間は、生育状況に応じて適宜選択すれば良いが、通常20時間以上であることが好ましく、30時間以上であることがより好ましい。
試料へ添加する前の培養時における微生物の植菌量は特に限定されない。
【0029】
<セレンオキシアニオン吸着剤>
本発明のセレンオキシアニオン吸着剤は、上記本発明の微生物を有効成分として含有するものである。そして、含有される本発明の微生物は、一種単独でも良いし、二種以上でも良い。二種以上である場合には、その組み合わせおよび比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0030】
セレンオキシアニオン吸着剤としては、例えば、本発明の微生物を培養して得られた培養液をそのまま用いても良いし、該培養液をろ過して得られるろ過物を用いても良く、該ろ過物を乾燥して用いても良い。または、培養後の本発明の微生物を精製処理したものを用いても良い。乾燥する場合には、送風乾燥、凍結乾燥等、公知の方法で乾燥すれば良い。
このように、本発明のセレンオキシアニオン吸着剤においては、生存状態の微生物(生菌)だけでなく、本発明の微生物を乾燥処理したもの(乾燥菌体)や精製処理したものを用いることもでき、有効成分である微生物の生死は問わない。
【0031】
セレンオキシアニオン吸着剤には、必要に応じて本発明の効果を妨げない範囲で、各種添加剤を添加しても良い。さらに本発明の微生物を、例えば、寒天、ゲランガムなどの天然物高分子ゲル;アクリルアミド;紫外線硬化樹脂などの高分子樹脂;炭素繊維、中空子膜、不織布などの繊維;などに固定化して用いても良い。固定化は内包、表面固定のいずれでも良い。
【0032】
セレンオキシアニオン吸着剤中における本発明の微生物の含有量は、特に限定されるものではなく、添加対象である試料の形態、該試料中のセレンオキシアニオンの含有量、セレンオキシアニオン吸着剤の形態等に応じて適宜選択し得る。通常は、本発明の微生物の含有量が多いほど、セレンオキシアニオンの吸着力が高くなる点で好ましい。
【0033】
<セレンオキシアニオンの除去方法>
本発明のセレンオキシアニオンの除去方法は、上記本発明の微生物を用いるものである。
本発明の微生物はセレンオキシアニオン吸着能を有するので、セレンオキシアニオンを含有する試料に該微生物を添加することで、試料中のセレンオキシアニオンが該微生物に吸着される。この後、セレンオキシアニオンが吸着された前記微生物を試料から分離すれば、試料中からセレンオキシアニオンを除去できる。
【0034】
ここで試料とは、セレンオキシアニオンを含有するものであれば特に限定されず、具体的には、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水等が例示できる。なかでも水分含有率の高いものが好適である。
試料中に、セレン(6価)の化合物であるセレン酸(H2SeO4)やその塩、あるいはセレン(4価)の化合物である亜セレン酸(H2SeO4)やその塩(以下、これらをセレン酸化合物と略記する)が存在すると、その一部は水共存下において遊離状態のセレンオキシアニオンとなり、本発明の微生物に吸着される。そして、試料中における遊離状態のセレンオキシアニオンの量が低下すると、残存しているセレン酸化合物の一部がさらに遊離状態のセレンオキシアニオンとなり、同様に本発明の微生物に吸着されると推測され、試料中における遊離状態のセレン酸化合物の量も低減できる。
【0035】
試料に微生物を添加する際は、本発明のセレンオキシアニオン吸着剤を添加すれば良い。
前記微生物の添加量は、特に限定されるものではなく、添加対象である試料の形態、該試料のセレンオキシアニオンの含有量、セレンオキシアニオン吸着剤の形態等に応じて適宜選択し得る。例えば、10ppm以下のセレンオキシアニオンを含有する水溶液に、生菌を添加する場合には、添加後の微生物の濃度(細胞濃度)が1.0×107〜1.0×1011cells/mLとなるように添加することが好ましく、乾燥菌体を添加する場合には、添加後の微生物の濃度が1〜100mg/mLとなるように添加することが好ましい。
【0036】
添加する前記微生物は、セレンオキシアニオン吸着剤の説明で述べたように、生存状態および非生存状態のいずれでも良い。ただし、非生存状態である場合には、例えば細胞構造、特に細胞表層構造が著しく損なわれていないものが好ましく、このようなものとしては、先に述べた微生物を乾燥処理したもの、特に凍結乾燥処理したものが例示できる。
【0037】
生存状態の微生物を添加する場合には、添加後の試料中において該微生物が増殖できるように試料の組成を調整することが好ましい。そのためには、先に述べた微生物の獲得条件や培養条件を参考に、試料の組成を調整すれば良く、例えば、本発明の微生物の生育に好適な前記成分を試料に適宜添加したものを培地とし、それ以外は先に述べた培養条件を参考に培養すると良い。このような方法は、セレンオキシアニオンの除去対象が、例えば、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水等であっても適用できる。
【0038】
前記微生物を添加後は、試料を混合することが好ましい。前記微生物を試料中に均一に分散させることにより、セレンオキシアニオンの吸着効率を高めることができる。試料の混合方法は、振とう、撹拌等の公知の方法から任意に選択できるが、振とうが好ましい。
微生物添加後の試料の温度、混合方法、混合時間等の各種条件は、適宜目的に応じて選択すれば良い。例えば、水溶液中のセレンオキシアニオンを除去する場合には、微生物が生存状態にあるか非生存状態にあるかを問わず、該微生物を培地で培養する際と同様の条件を適用できる。
【0039】
セレンオキシアニオンが吸着された前記微生物を試料から分離する方法は、吸着時の試料の状態に応じて、公知の固液分離の手法から任意に選択できる。具体的には、例えば、フィルターを用いてろ過しても良いし、遠心分離機を用いて固液分離しても良い。固液分離前には適宜必要に応じて、希釈や洗浄等の前処理を行っても良い。
【実施例】
【0040】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
<JPCCY0075の生菌を用いた純水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間、150rpmで振とう培養後、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の生菌を回収した。
【0042】
(純水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去)
高純度のセレン酸ナトリウムを純水に混合して、セレン(6価)オキシアニオンの最終濃度を2.1ppmに調整した後、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLに、回収したJPCCY0075の菌体を細胞数が2.9×109cells、1.4×1010cells、2.3×1010cells、2.9×1010cellsとなるようにそれぞれ混合し、24時間振とうしながらインキュベーションした。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(6価)オキシアニオンの測定に供した。
【0043】
(測定結果)
測定結果を図7に示す。図7に示すグラフの縦軸は上清のセレン(6価)オキシアニオンの濃度を示す。図7から明らかなように、セレン(6価)オキシアニオンの除去量は、細胞数が増加するに従って増加することが確認され、2.3×1010cells以上の細胞数において、セレン(6価)オキシアニオンの濃度が0.1ppm以下となった。このことから、JPCCY0075の生菌により、吸着によってセレン(6価)オキシアニオンを除去できることが確認された。
【0044】
[実施例2]
<JPCCY0075の乾燥菌体を用いた純水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間培養後、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の菌体を全量回収した。次いで、回収した菌体を−80℃で凍結保存した後、凍結乾燥機にて乾燥し、乳鉢ですり潰して乾燥菌体とした。
【0045】
(純水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去)
高純度のセレン酸ナトリウムを純水に混合して、セレン(6価)オキシアニオンの最終濃度を2.1ppmに調整した後、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLを、前記乾燥菌体0.1g、0.3g、0.5gにそれぞれ混合し、L字型試験管に全量を移して、振とう器で24時間振とう培養を行った。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(6価)オキシアニオンの測定に供した。
【0046】
(測定結果)
測定結果を図8に示す。図8に示すグラフの縦軸は上清のセレン(6価)オキシアニオンの濃度を示す。図8から明らかなように、乾燥菌体を用いた場合でも、溶液中のセレン酸濃度が減少することが確認され、乾燥菌体添加量が最も多い0.5gの時に、約1.3ppmのセレン(6価)オキシアニオンが除去された。このことから、JPCCY0075の乾燥菌体により、吸着によってセレン(6価)オキシアニオンを除去できることが確認された。
【0047】
[実施例3]
<JPCCY0075の生菌を用いた実排水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去(1)>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間培養後、測定に必要な分量を分取して、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の生菌を回収した。
【0048】
(実排水中のセレン(6価)オキシアニオンの除去)
高純度のセレン酸ナトリウムを発電所硝化槽排水に混合して、セレン(6価)オキシアニオンの最終濃度を2.3ppmに調整し、さらに5N塩酸でpHを4に調整してから、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLを、回収したJPCCY0075の菌体2.0×109cells、6.0×109cells、1.0×1010cells、1.6×1010cells、2.0×1010cellsにそれぞれ混合し、L字型試験管に全量を移して、振とう器で24時間振とう培養を行った。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(6価)オキシアニオンの測定に供した。
【0049】
(測定結果)
測定結果を図9に示す。図9に示すグラフの縦軸は上清のセレン(6価)オキシアニオンの濃度を示す。図9から明らかなように、セレン(6価)オキシアニオンは、実排水中でも除去できることが確認され、1.6×1010cellsの細胞数において最も除去効果が高く、セレン(6価)オキシアニオンの濃度が1.7ppmとなり、セレン(6価)オキシアニオンの除去量は0.5mgであった。純水中の場合よりも除去量が少ないが、除去を多段階で行い、除去処理の回数を増やすことで、実排水中のセレン(6価)オキシアニオンも全量除去することが可能である。
また、使用した硝化槽排水中には、カルシウムイオンが1500ppm程度、塩化物イオンが4000ppm程度、ナトリウムイオンが2500ppm程度、硫酸イオンが1500ppm程度それぞれ含有されるが、このように、その他のイオン種を高濃度で含有し、しかも陰イオンである塩化物イオン、硫酸イオン共存下においても、セレンオキシアニオンを除去できることが確認された。
【0050】
[実施例4]
<JPCCY0075の生菌を用いた純水中のセレン(4価)オキシアニオンの除去>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間、150rpmで振とう培養後、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の生菌を回収した。
【0051】
(純水中のセレン(4価)オキシアニオンの除去)
高純度の亜セレン酸ナトリウムを純水に混合して、セレン(4価)オキシアニオンの最終濃度を1.6ppmに調整した後、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLに、回収したJPCCY0075の菌体を2.0×109cells、1.0×1010cells、1.6×1010cells、2.0×1010cellsとなるようにそれぞれ混合し、24時間振とうしながらインキュベーションした。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(4価)オキシアニオンの測定に供した。
【0052】
(測定結果)
測定結果を図10に示す。図10に示すグラフの縦軸は上清のセレン(4価)オキシアニオンの濃度を示す。図10から明らかなように、2.0×109cellsの細胞数で1.5ppm以上のセレン(4価)オキシアニオンが除去されており、それ以上の細胞数においても、セレン(4価)オキシアニオンの濃度は0.1ppm以下となっていた。このことから、JPCCY0075の生菌により、吸着によってセレン(4価)オキシアニオンを効率的に除去できることが確認された。
【0053】
[実施例5]
<JPCCY0075の生菌を用いた実排水中のセレン(4価)オキシアニオンの除去>
(菌体の調製)
酵母エキス5g、グルコース20g、ペプトン10g、純水1Lからなる生育用酵母培地10mLをL字型試験管に分注し、獲得したJPCCY0075を白金線で釣菌して植菌し、25℃で2日間、前培養を行った。次いで、生育用酵母培地250mLを分注した1L三角フラスコに、得られた前培養液5mLを分注して植菌した。そして、25℃で2日間培養後、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、JPCCY0075の生菌を回収した。
【0054】
(実排水中のセレン(4価)オキシアニオンの除去)
高純度の亜セレン酸ナトリウムを発電所硝化槽排水に混合して、セレン(4価)オキシアニオンの最終濃度を2.2ppmに調整し、さらに5N塩酸でpHを4に調整してから、フィルター滅菌した。次いで、得られた滅菌液10mLに、回収したJPCCY0075の菌体を2.0×109cells、1.0×1010cells、1.6×1010cells、2.0×1010cellsとなるようにそれぞれ混合し、24時間振とうしながらインキュベーションした。24時間後に、遠心分離機を用いて8000rpm、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体全量を回収すると共に、さらに上清をフィルターでろ過して硝酸を添加後、原子吸光によるセレン(4価)オキシアニオンの測定に供した。
【0055】
(測定結果)
測定結果を図11に示す。図11に示すグラフの縦軸は上清のセレン(4価)オキシアニオンの濃度を示す。図11から明らかなように、実排水中でも、2.0×109cellsの細胞数で2.1ppmのセレン(4価)オキシアニオンを除去できることが確認された。それ以上の細胞数においても、セレン(4価)オキシアニオンの濃度は0.1ppm以下になることが確認された。このことから、JPCCY0075の生菌により、吸着によってセレン(4価)オキシアニオンを純水中の場合と同等レベルで除去できることが示された。
また、使用した硝化槽排水は実施例3で使用したものと同じであり、したがって、セレンオキシアニオン以外のイオン種を高濃度で含有し、しかも陰イオン共存下においても、セレンオキシアニオンを除去できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、排水、土壌および汚泥中などのセレン酸化合物の除去に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】JPCCY0075のコロニーの撮影画像であり、(a)はYM平板培地(25℃・培養7日間)、(b)はPDA平板培地(25℃・培養7日間)、(c)は1/5MA平板培地(25℃・培養7日間)、(d)YM平板培地(25℃・培養30日間)でそれぞれ培養した時のコロニーの撮影画像である。
【図2】2%Malt extract液体培地(25℃・培養5日間)上の栄養細胞の撮影画像(1500倍)である。
【図3】YM平板培地(25℃・培養4日間)上の栄養細胞の撮影画像(1500倍)である。
【図4】1/5MA平板培地(25℃・培養4日間)上の栄養細胞の撮影画像(1500倍)である。
【図5】YM平板培地上の栄養細胞の撮影画像であり、(a)は25℃・培養10日間の撮影画像(600倍)、(b)は25℃・培養4日間の撮影画像(1500倍)である。
【図6】1/5MA平板培地(25℃・培養4日間)上の菌糸の撮影画像(1500倍)である。
【図7】実施例1におけるセレン(6価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【図8】実施例2におけるセレン(6価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【図9】実施例3におけるセレン(6価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【図10】実施例4におけるセレン(4価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【図11】実施例5におけるセレン(4価)オキシアニオンの除去活性を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)が属する種に属する微生物。
【請求項2】
18SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレンオキシアニオン吸着能を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物。
【請求項3】
クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法。
【請求項1】
クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)が属する種に属する微生物。
【請求項2】
18SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレンオキシアニオン吸着能を有するクリプトコッカス(Cryptococcus)属に属する微生物。
【請求項3】
クリプトコッカス(Cryptococcus)属JPCCY0075株(NITE P−414)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を有効成分とするセレンオキシアニオン吸着剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を用いるセレンオキシアニオンの除去方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−112228(P2009−112228A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287716(P2007−287716)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】
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