説明

新規なヒアルロン酸および/またはその塩、ならびにこれを用いた食品組成物および経口医薬品組成物、ならびに該ヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する経口用皮膚改善剤または経口用皮膚含水量増加剤

【課題】 新規なヒアルロン酸および/またはその塩、ならびにこれを用いた食品組成物および経口医薬品組成物、ならびに該ヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する経口用皮膚改善剤および経口用皮膚含水量増加剤を提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量が1,000以上5,000未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口摂取することによって皮膚の含水量を増し、皮膚を改善する作用を有する、新規なヒアルロン酸および/またはその塩、ならびにこれを用いた食品組成物および経口医薬品組成物、ならびに該ヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する経口用皮膚改善剤または経口用皮膚含水量増加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸(平均分子量:50万〜200万)は生体内の多くの組織(例えば皮下組織、眼球、関節)に多く存在するムコ多糖類であり、その高い保湿機能により、例えば化粧料の成分として広く利用されてきた。また、ヒアルロン酸を経口摂取することにより、生体本来の持つヒアルロン酸含量の低下を補い、皮膚の保湿、弾力性、および柔軟性を改善する効果が認められているため(例えば、特開2002−356432号公報)、ヒアルロン酸およびその塩は様々な食品に添加されている。
【0003】
しかしながら、平均分子量が1万以下のような低分子ヒアルロン酸を経口摂取することにより、皮膚にどのような効果が出るかについては、これまで検討されていなかった。
【特許文献1】特開2002−356432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、経口摂取により皮膚の含水量を増加し、皮膚を改善する効果を有する、新規なヒアルロン酸および/またはその塩、ならびにこれを用いた食品組成物および経口医薬品組成物、ならびに該ヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する経口用皮膚改善剤または経口用皮膚含水量増加剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、低分子ヒアルロン酸について鋭意研究を重ねた結果、特定の平均分子量と分子量分布とを示すヒアルロン酸および/またはその塩を経口摂取するならば、意外にも、皮膚の含水量が増加し皮膚を改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)平均分子量が1,000以上5,000未満である、ヒアルロン酸および/またはその塩、
(2)分子量分布が、分子量1,000以上の成分の割合が40質量%以上であり、かつ、分子量5,000以上の成分の割合が40質量%以下である、(1)のヒアルロン酸および/またはその塩、
(3)分子量分布が、分子量1,000未満の成分の割合が20質量%以上である、(1)または(2)のヒアルロン酸および/またはその塩、
(4)前記ヒアルロン酸および/またはその塩の0.1g/mL水溶液(10mL)に、0.5g/mLの塩化セチルピリジニウム水溶液(0.05g)を添加して得られた液の吸光度(A660)が0.1Abs以下である、(1)乃至(3)のいずれかのヒアルロン酸および/またはその塩、
(5)酸性水溶液中でヒアルロン酸および/またはその塩を加水分解することにより得られる、(1)乃至(4)のいずれかのヒアルロン酸および/またはその塩、
(6)(1)乃至(5)のいずれかのヒアルロン酸および/またはその塩を含有する食品組成物、
(7)(1)乃至(5)のいずれかのヒアルロン酸および/またはその塩を含有する経口医薬品組成物、
(8)(1)乃至(5)のいずれかのヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する経口用皮膚改善剤、
(9)(1)乃至(5)のいずれかのヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する経口用皮膚含水量増加剤、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のヒアルロン酸および/またはその塩によれば、経口摂取を行うことにより、皮膚の含水量が増し、皮膚の水分量を高め、皮膚を瑞々しい状態にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態に係るヒアルロン酸および/またはその塩を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0009】
本発明のヒアルロン酸および/またはその塩は、平均分子量が1,000以上5,000未満である。
【0010】
ここで、「ヒアルロン酸」とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。また、「ヒアルロン酸の塩」としては、特に限定されないが、食品または医薬品として許容しうる塩であることが好ましく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0011】
本発明のヒアルロン酸またはその塩の平均分子量は、1,000以上5,000未満である。また、皮膚の含水量を増加する効果の優位性の点で、1,000以上3,000以下が好ましく、1,000以上2,000以下であるのがより好ましい。ヒアルロン酸またはその塩の平均分子量が前記値より大きいと、当該ヒアルロン酸および/またはその塩の経口摂取による皮膚の含水量の増加効果が小さいためである。ヒアルロン酸またはその塩の平均分子量が前記値より小さいと、当該ヒアルロン酸および/またはその塩の調製のための分解工程に長時間を要し、経済的でない。
【0012】
本発明に使用するヒアルロン酸および/またはその塩は、その分子量分布において、分子量1,000以上の成分の割合が40%以上であり、かつ、分子量5,000以上の成分の割合が40%以下であって、好ましくは、分子量1,000未満の成分の割合が20%以上である。また、皮膚の含水量を増加する効果の優位性の点で、分子量1,000未満の成分の割合が30%以上であり、かつ、分子量5,000以上の成分の割合が20%以下であることがより好ましく、分子量1,000未満の成分の割合が40%以上であり、かつ、分子量5,000以上の成分の割合が10%以下であることがさらに好ましい。このような分子量分布のヒアルロン酸および/またはその塩を使用することにより、特に経口摂取した場合に、皮膚の含水量を効果的に増加させることができる。
【0013】
本発明で規定される平均分子量および分子量分布の測定方法について説明する。
【0014】
本発明で規定される平均分子量および分子量分布は、ゲル濾過カラムを用いてヒアルロン酸および/またはその塩を液体クロマトグラフィー分析することにより得られる。ヒアルロン酸および/またはその塩は、反復構造単位(N−アセチル−D−グルコサミンおよびD−グルクロン酸)の数によって異なる分子量を有する複数の成分の混合物である。したがって、ゲル濾過カラムを用いてヒアルロン酸および/またはその塩の水溶液について液体クロマトグラフィー分析を行うことにより、ヒアルロン酸および/またはその塩を構成する成分を分子サイズにより分離することができる。
【0015】
本発明におけるヒアルロン酸および/またはその塩の平均分子量および分子量分布は、HPLC分析装置(商品名「アライアンスPDAシステム」、日本ウォーターズ株式会社製)にゲル濾過カラム(商品名「Diol−120」、株式会社ワイエムシイ製)を接続して、ヒアルロン酸および/またはその塩の0.1%(w/v)水溶液を分析サンプルとして、この分析サンプルを液体クロマトグラフィー分析することにより測定することができる。
【0016】
液体クロマトグラフィー分析の条件は以下の通りとする。
カラム温度:40℃
流速:1mL/分
ヒアルロン酸および/またはその塩の0.1%(w/v)水溶液の注入量:20μL
移動相:0.003mol/L リン酸バッファー(0.15mol/L NaCl含有、pH7.0)
紫外線検出器:λ=210nmで測定
本発明に係るゲル濾過カラムを用いた液体クロマトグラフィーでは、保持時間が長いものほど低分子である。保持時間の長い順に、N−アセチルグルコサミン、D−グルクロン酸、ヒアルロン酸(二糖:繰り返し構造単位1つ)、ヒアルロン酸(四糖:繰り返し構造単位2つ)、ヒアルロン酸(六糖:繰り返し構造単位3つ)、ヒアルロン酸(八糖:繰り返し構造単位4つ)・・・のピークが得られる。
【0017】
一例として、図1に示すクロマトグラムから得られた各分子量成分の繰り返し単位数および保持時間の関係を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明で規定される平均分子量は、所定の分子量に対応する保持時間によりピークを分割することにより、所定の分子量を有する成分の割合を求めることによって算出される。また、各ピークが示す分子量は、分子量が既知のヒアルロン酸および/またはその塩の最小構成単位(二糖)について同様の方法で液体クロマトグラフィー分析して得られたクロマトグラム中のピークと照会することにより同定される。所定の分子量と、所定の分子量を有する成分の割合(面積%)の積を、各ピークごとに算出し、全てのピークについての積の和を求めることにより、平均分子量を求めることができる。
【0020】
本発明で規定される分子量分布は、所定の分子量(1,000または5,000)に対応する保持時間によりピークを分割することにより、所定の分子量範囲にある成分の割合を求める。
【0021】
例えば、分子量1,000以上の成分の割合は、分子量1,000に対応する保持時間以前の成分の吸収面積を全吸収面積で除すことにより求めることができる。同様に、分子量5,000以上の成分の割合は、分子量5,000に対応する保持時間以前の成分の吸収面積を全吸収面積で除すことにより求めることができる。
【0022】
本発明のヒアルロン酸および/またはその塩は、塩化セチルピリジニウム(CPC)と結合することによる沈殿や濁りを生じないことを特徴とする。CPC沈殿法は、ムコ多糖類の確認試験として用いられている試験方法である。ヒアルロン酸に代表されるムコ多糖類は、CPC等の四級アンモニウム塩と結合して沈殿を起こすことが知られている。本発明においては、CPC沈殿法で得られた液を、本発明の低分子ヒアルロン酸および/またはその塩の特徴を評価するための指標の一つとして用いることができる。
【0023】
本実施形態に係るヒアルロン酸および/またはその塩は、上記低分子ヒアルロン酸および/またはその塩の0.1mg/mL水溶液(10mL)に、0.5g/mLのCPC水溶液(0.05g)を添加して得られた液の吸光度(A660)が0.1Abs以下であることが好ましい。すなわち、吸光度(A660)は、波長660nmの光に対する吸光度であり、液の「濁り」を同定するための指標として広く用いられている。
【0024】
ここで、本実施形態に係るヒアルロン酸および/またはその塩は、その分子量および分子量分布の特性により、上記混合液を調製した場合、沈殿を形成せず、白濁も生じない。すなわち、上記吸光度の値は、本実施形態に係るヒアルロン酸および/またはその塩の特徴を示す指標となる。
【0025】
本発明で用いる上記ヒアルロン酸および/またはその塩の代表的な製造方法を以下に述べる。なお、本発明で用いるヒアルロン酸および/またはその塩の製造方法は、これに限定するものではない。
【0026】
上記ヒアルロン酸および/またはその塩の原料であるヒアルロン酸および/またはその塩(以下、「原料ヒアルロン酸およびその塩」ともいう)は一般に、鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生物組織、あるいはストレプトコッカス属の微生物等のヒアルロン酸生産微生物を培養して得られる培養液等を原料として、これらの原料から抽出(さらに必要に応じて精製)して得られるものである。例えば、鶏冠より抽出される原料ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量は通常200万から800万である。
【0027】
上記ヒアルロン酸および/またはその塩の低分子化は、酸やアルカリ、酵素等によって、上記原料ヒアルロン酸および/またはその塩を加水分解することにより行うことができ、特に酸性水溶液中で加水分解を行うことが好ましい。酸性水溶液中でヒアルロン酸および/またはその塩の加水分解を行うことにより、経済的に、褐変のないヒアルロン酸および/またはその塩を得ることができる。ここで、加水分解中に、攪拌速度や攪拌時間を調整することにより、低分子化の度合いを調整することができる。また、上述の加水分解工程を加熱条件下で行うことにより、目的の分子量まで安定に低分子化することができる。例えば、原料ヒアルロン酸および/またはその塩を、酸やアルカリ、酵素等を含む水溶液中に攪拌しながら添加し、得られた水溶液を加熱することができる。あるいは、酸やアルカリ、酵素等を含む水溶液を予め加熱し、これに原料ヒアルロン酸および/またはその塩を添加し、温度を保持してもよい。
【0028】
上記製造方法において、加水分解を行うために使用する酸としては、塩酸や硫酸、酸性陽イオン交換樹脂等が挙げられる。アルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が挙げられる。酵素としては、ヒアルロニダーゼ等が挙げられる。
【0029】
上記製造方法において、酸性水溶液中でヒアルロン酸および/またはその塩を加水分解する場合、好ましくはpHを0.6以下、より好ましくは0.4以下とすることにより、特に効率的に加水分解を行うことができ、他の方法に対して短時間で本発明のヒアルロン酸および/またはその塩を得ることができる。
【0030】
上記製造方法において、酸性水溶液は、水および酸を含む液体に、ヒアルロン酸および/またはその塩を溶解した液をいう。酸性水溶液中に含まれるその他の成分は特に限定されないが、例えば液体であって、水に溶解する性質を有し、かつ、医薬品または食品の製造工程において使用できるものが好ましい。例えば、アルコール系媒体(例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなど)、ケトン系媒体(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等を挙げることができ、これらを単独または組み合わせて使用することができる。
【0031】
なお、上記ヒアルロン酸からヒアルロン酸の塩へと変換する方法、ならびに上記ヒアルロン酸の塩からヒアルロン酸へと変換する方法は、特に限定されるわけではない。上記ヒアルロン酸からヒアルロン酸の塩へと変換する方法としては、例えば、アルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アンモニウム等の水溶液)を用いて処理する方法が挙げられる。また、上記ヒアルロン酸の塩からヒアルロン酸へと変換する方法としては、例えば、酸水溶液(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の水溶液)を用いて処理する方法や、酸性陽イオン交換樹脂を用いる方法が挙げられる。
【0032】
本発明の一実施形態に係る食品組成物は、上記ヒアルロン酸および/またはその塩を含有する。上記食品組成物の態様は特に限定されないが、例えば、ガム、キャンディー、グミキャンディー、トローチ様食品、ゼリー飲料、米飯加工食品、製パン類、レトルト缶詰、冷凍食品、惣菜、乾燥食品、マヨネーズ等調味料、飲料、菓子、デザート類、サプリメント類等の一般食品全般、生理機能を表現することを許可された特定保健用食品全般が挙げられる。上記食品組成物が上記ヒアルロン酸および/またはその塩を含有することにより、上記食品組成物を経口摂取することによって、皮膚の含水量を増加する効果を発揮することができる。
【0033】
本発明の一実施形態に係る食品組成物中に配合する上記ヒアルロン酸および/またはその塩は、0.001〜50%程度が好ましく、0.005〜30%程度がより好ましい。ヒアルロン酸および/またはその塩の配合量が、前記範囲より多くなると、ヒアルロン酸および/またはその塩の風味が強くなり、食品組成物本来のおいしさが損なわれるおそれがあるため、好ましくない。一方、前記範囲より少なくなると、ヒアルロン酸および/またはその塩の皮膚含水量増加効果が現れにくく、商品価値が低くなるため好ましくない。
【0034】
本発明の一実施形態に係る経口医薬品組成物は、上記ヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する。上記経口医薬品組成物の態様は特に限定されないが、内服剤等が挙げられ、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、トローチ剤、内服液剤、シロップ剤、チュアブル剤、乳剤等が挙げられる。上記経口医薬品組成物が上記ヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有することにより、上記経口医薬品組成物を経口摂取することによって、皮膚の含水量を増加し、皮膚を瑞々しい状態に改善する効果を発揮することができる。
【0035】
本発明の経口用皮膚改善剤または経口用皮膚含水量増加剤の摂取量は、ヒアルロン酸および/またはその塩として、10〜2,000mg/日が好ましく、50〜500mg/日がより好ましい。上記ヒアルロン酸の摂取量が前記範囲より多くなると、皮膚の含水量を効果的に増加させる摂取量を超える場合があり、経済的でない。一方、前記範囲より少なくなると、ヒアルロン酸および/またはその塩が有する、皮膚の含水量の増加効果や皮膚改善効果が現れにくく、商品価値が低くなるため好ましくない。
【0036】
本発明の経口用皮膚改善剤ならびに経口用皮膚含水量増加剤は、上記ヒアルロン酸および/またはその塩をそのまま経口用皮膚改善剤または経口用皮膚含水量増加剤として用いるのが好ましいが、精製水等の溶媒、デキストリン等の賦形剤あるいは他の食品または医薬品として許容される原料を添加してもよい。その際、上記ヒアルロン酸および/またはその塩の含有量は、食品または医薬品への配合量や配合し易さを考慮し、0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。
【0037】
以下、本発明で用いる平均分子量1,000以上5,000未満であるヒアルロン酸および/またはその塩について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0038】
〔調製例1〕
本調製例では、原料として、鶏冠より抽出、精製したヒアルロン酸ナトリウム(以下「HANa」ともいう)微粉末を準備した。この原料HANaの平均分子量は約210万、純度97%であった。
【0039】
まず、攪拌機およびジャケットを装備した500L容タンクに、蒸留水200Lを満たし、35%塩酸を18kg加えてpHを0.3に調整した。攪拌しながら液温が70℃となるよう加熱し、達温後、攪拌しながら、準備した原料HANa微粉末11.5kgをタンクに投入した。液温を70℃に維持するよう加熱を行いながら、原料HANa微粉末を溶解した。
【0040】
次に、7時間攪拌してからヒアルロン酸溶液を冷却し、酸性水溶液中での分解反応を停止した。得られたヒアルロン酸溶液を、20%水酸化ナトリウム水溶液でpH7に中和した。
【0041】
次いで、中和した溶液を脱塩処理した後、スプレードライを行い、白色微粉末のヒアルロン酸ナトリウム7.5kg(収率約65%)を得た。このヒアルロン酸ナトリウムは、平均分子量が1,100であり、分子量分布において、分子量1,000以上の成分の割合が47%でかつ分子量5,000以上の成分の割合が0%であった。また、分子量1,000未満の成分の割合が53%であった。また、得られたヒアルロン酸ナトリウムの0.1g/mL水溶液(10mL)に、0.5mg/mLの塩化セチルピリジニウム水溶液(0.05g)を添加して得られた液の吸光度(A660)は0.01Absであった。
【0042】
〔試験例1〕
本試験例においては、本発明のヒアルロン酸ナトリウムをマウスに経口投与して、皮膚への効果を調べた。
【0043】
マウスは雄のC57BL/6N系マウス(SPF)6週齢を使用した(日本チャールズリバー株式会社より購入)。なお、マウスは搬入後6日間訓化させてから試験に用いた。
【0044】
試料は以下の3種類を使用した。
試料1:上記調製例1で得られたヒアルロン酸ナトリウム(平均分子量1,100)
試料2:ヒアルロン酸(平均分子量30,000)
試料3:蒸留水(対照)
なお、試料2は市販品を用い、分子量は動粘度を測定し、常法に従い求めた。
【0045】
訓化後のマウスの体重を測定し、それを指標に以下の3群に分けた。
試料群1:試料1を200mg/kg/日経口摂取する群 5匹
試料群2:試料2を200mg/kg/日経口摂取する群 5匹
試料群3:蒸留水(対照)を経口摂取する群 5匹
【0046】
まず、試料1、2を1.1g/Lとなるように蒸留水に溶解し、この試料水溶液を各試料群に対して、1日あたり3mL(ヒアルロン酸として200mg/kg/日)を経口投与した。試料群3には、蒸留水を1日あたり3mL経口投与した。14日間の投与試験後、マウスを開腹して後大動脈から採血し、採血後に安楽死せしめた。次いで、マウス背部の皮膚全層を採取し、生検トレパン(先端径φ8mm)を使用して、皮膚全層を同一の大きさとなるよう、マウス1匹あたり2箇所を採取した(単位面積:100.5mm)。
【0047】
得られた皮膚全層サンプルについて、皮膚の厚さ、皮膚の湿重量、皮膚乾燥重量、皮膚水分重量、皮膚中ヒアルロン酸濃度を測定した。皮膚の厚さは、マイクロメータを使用して測定した。皮膚乾燥重量は、皮膚湿重量を測定後、皮膚を凍結乾燥し、皮膚水分重量および皮膚乾燥重量を測定した。皮膚中のヒアルロン酸濃度は、皮膚をホモジナイズしてから蛋白質分解酵素処理を行い、ヒアルロン酸を抽出し、濾過した後、ヒアルロン酸結合性蛋白質(HABP)を用いたマイクロタイターアッセイ法にて測定した。
【0048】
得られた血液は、1時間放置後に3,000rpmで15分間遠心分離を行い、血清を採取した。これを限外濾過した後、蛋白質分解酵素で処理し、濾過した後、ヒアルロン酸結合性蛋白質(HABP)を用いたマイクロタイターアッセイ法にて血清中のヒアルロン酸濃度を測定した。
【0049】
それぞれの試料群について、測定結果の平均値を算出した。試料群1〜3の実測値、および試料群3の平均値を100としたときの試料群1、2の平均値を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2より、試料群1のマウスは、試料群2、3のマウスに比べ、血清中のヒアルロン酸濃度はほぼ同等である一方、皮膚中ヒアルロン酸濃度、皮膚の厚さ、皮膚湿重量、皮膚乾燥重量、皮膚水分重量が増加していた。したがって、試料1のヒアルロン酸ナトリウムの経口摂取を行うことにより、皮膚重量や皮膚中の水分重量、皮膚の厚さを効果的に増加することがわかった。
【0052】
〔調製例2〕
調製例1と同様の方法にて、HANaを酸性水溶液中で加水分解を行い、反応開始から2時間攪拌後に冷却することにより、分解反応を停止した。次いで、ヒアルロン酸溶液をフリーズドライし、得られたヒアルロン酸含有乾燥物を500L容タンクに戻した。そこへ80%含水エタノールを200L加え、塩酸除去の目的で攪拌を15分間行った。ここで、80%含水エタノールは、エタノールを80%含有し、水を20%含有するものである。15分間攪拌後に静置した後、上澄みの含水エタノールをデカンテーションにより除去し、残留物を得た。塩酸の残留がなくなるまでこの操作を繰り返した。
【0053】
塩酸除去後の残留物について、遠心分離を行うことにより含水エタノールをさらに除去した後、真空乾燥機を用いて常温、シリカゲル存在下、減圧下で12時間乾燥した。以上の工程により、白色微粉末のヒアルロン酸7.9kg(収率約69%)を得た。このヒアルロン酸は、平均分子量が4,600であり、分子量分布において、分子量1,000以上の成分の割合が94%であって、分子量5,000以上の成分の割合が37%であり、また、分子量1,000未満の成分が6%であった。また、得られたヒアルロン酸の0.1g/mL水溶液(10mL)に、0.5g/mLの塩化セチルピリジニウム水溶液(0.05g)を添加して得られた液の吸光度(A660)は0.06Absであった。
【0054】
〔試験例2〕
調製例1で得られたヒアルロン酸ナトリウムを使用して、下記の配合のゼリー飲料を製した。得られたゼリー飲料の風味・食感は良好であった。
<配合割合>
調製例1のヒアルロン酸ナトリウム 0.05%
洋梨果汁(濃縮還元) 10.0%
ブドウ糖果糖液糖 8.0%
甘味料 0.1%
酸味料 0.3%
ゲル化剤 0.7%
洋梨香料 0.1%
精製水 残量
――――――――――――――――――――――――
100%
【0055】
〔試験例3〕
調製例2で得られたヒアルロン酸を使用して、下記の配合の清涼飲料を製した。得られた清涼飲料の風味は良好であった。
<配合割合>
調製例2のヒアルロン酸 0.1%
ブドウ糖果糖液糖 12.0%
酸味料 0.2%
甘味料 0.1%
アスコルビン酸 0.1%
グレープフルーツ香料 0.1%
精製水 残量
――――――――――――――――――――――――
100%
【0056】
〔試験例4〕
調製例1で得られたヒアルロン酸ナトリウムを使用して、下記の配合の分離液状調味料を製した。得られた分離液状調味料の風味は良好であった。
<配合割合>
調製例1のヒアルロン酸ナトリウム 0.5%
サラダ油 35%
食酢(酸度4%) 22%
レモン果汁 10%
ブドウ糖果糖液糖 5%
食塩 3%
砂糖 2%
グルタミン酸ソーダ 0.2%
香辛料 0.1%
キサンタンガム 0.05%
清水 残量
――――――――――――――――――――――――
100%
【0057】
〔試験例6〕
調製例2で得られたヒアルロン酸を使用して、内容物が下記の配合であるソフトカプセルを製した。
<配合割合>
調製例2のヒアルロン酸 20%
オリーブ油 50%
ミツロウ 10%
中鎖脂肪酸トリグリセリド 10%
乳化剤 10%
――――――――――――――――――――――――
100%
【0058】
〔試験例6〕
調製例1で得られたヒアルロン酸ナトリウムを使用して、下記の配合の散剤(顆粒剤)を製した。
<配合割合>
調製例1のヒアルロン酸ナトリウム 10%
乳糖 60%
トウモロコシデンプン 25%
ヒプロメロース 5%
――――――――――――――――――――――――
100%
【0059】
〔試験例7〕
調製例2で得られたヒアルロン酸を使用して、下記の配合の錠剤を製した。
<配合割合>
調製例2のヒアルロン酸 15%
ヒアルロン酸(分子量100万) 10%
乳糖 24%
結晶セルロース 20%
トウモロコシデンプン 15%
デキストリン 10%
乳化剤 5%
二酸化ケイ素 1%
――――――――――――――――――――――――
100%
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、調製例1で得られたヒアルロン酸ナトリウムのクロマトグラムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が1,000以上5,000未満である、ヒアルロン酸および/またはその塩。
【請求項2】
分子量分布が、分子量1,000以上の成分の割合が40質量%以上であり、かつ、分子量5,000以上の成分の割合が40質量%以下である、請求項1記載のヒアルロン酸および/またはその塩。
【請求項3】
分子量分布が、分子量1,000未満の成分の割合が20質量%以上である、請求項1または2記載のヒアルロン酸および/またはその塩。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸および/またはその塩の0.1g/mL水溶液(10mL)に、0.5g/mLの塩化セチルピリジニウム水溶液(0.05g)を添加して得られた液の吸光度(A660)が0.1Abs以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載のヒアルロン酸および/またはその塩。
【請求項5】
酸性水溶液中でヒアルロン酸および/またはその塩を加水分解することにより得られる、請求項1乃至4のいずれかに記載のヒアルロン酸および/またはその塩。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のヒアルロン酸および/またはその塩を含有する食品組成物。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載のヒアルロン酸および/またはその塩を含有する経口医薬品組成物。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載のヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する経口用皮膚改善剤。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載のヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する経口用皮膚含水量増加剤。


【図1】
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【公開番号】特開2009−51877(P2009−51877A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217467(P2007−217467)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】